説明

骨内インプラント

【課題】ヒトまたは動物の骨に適用される骨内インプラントおよびその製造法の提供。
【解決手段】インプラントの表面がチタンまたはチタン合金で製造されており、前記インプラントは滑らかなまたは粗い表面テキスチャを有し、前記表面が少なくとも1つの選択された有機ホスホン酸化合物またはその薬学的に許容されるその塩もしくはエステルもしくはアミドで処理されている前記インプラント。さらに、前記インプラントの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトまたは動物の骨に適用される、チタンまたはチタン合金で製造された金属の骨内インプラントに関し、前記インプラントは、滑らかなまたは粗い表面テキスチャを有し、前記表面が、1つ以上のホスホン酸基[−P(O)(OH)2]、またはその誘導体であって、好ましくは薬学的に許容されるその塩またはエステルまたはアミド、を保有する少なくとも1つの選択された有機化合物で処理されている。このような化学的に改質された表面は骨結合強度を驚くほど増強することが示されている。本発明によるインプラントは、医療、より具体的には、整形外科における破損または疾患のある骨を置換または強化するために、および歯科における義歯を固定するために、および骨固定された補聴器の固定のために、補綴物として用いることができる。
【0002】
破損または疾患のある骨を置換または強化するための医療における補綴物として、または義歯として用いられるインプラントが知られている。これらのインプラントは、腐食しない材料で製造し、体による拒絶をもたらす免疫反応を生じることなく周囲組織と適合性でなければならない。以下、「表面」または「接触表面」という用語は、本発明に従う処理がまだされていないチタンまたはチタン合金のインプランの表面を指し、「改質された表面」という用語は、本発明に従う処理がされた表面を指す。
【0003】
スクリュー、プレート、釘、ピンおよび、人工補綴物としてヒトおよび動物の骨格構造へ特別に形成された部品の形状のインプラント装置が、失った構造部の永続的な置換または永続的な固定装置としての手段であることが知られている。インプラント装置が接触骨表面に永続的に付着されたままであるべきような場合には、優れた「骨結合」が必要である。
【0004】
かかるインプラント用にチタン金属またはチタン合金を用いることが一般的に知られている。注意深く製造すると、チタンインプラントはその表面の酸化物によって、骨再生に対して受動性のままであり、それ自体は炎症や軟組織発生または封入などの有害な反応を誘発することがないという意味で生体適合性を示す。インプラントと骨組織との間で得られる境界面は、通常、厚さ約100nm〜1μmのタンパク質層から成り、骨組織がインプラントと直接的な分子接触をすることを防ぐ。
【0005】
骨内インプラントの技術の現状は、異なるアプローチ、例えば(i)骨とインプラントとの機械的な結合を与えるインプラント表面の適切な粗さの生成、および/または(ii)インプラント表面のコーティング、例えば、治癒経過および骨とインプラントの親密な接触を改善するための人工的なヒドロキシアパタイトに基づいている。
【0006】
チタンインプラント上の高い表面粗さが骨組織におけるインプラントの機械的安定性を増大させることが知られている。機械的な表面処理はトポグラフィーを大幅に変化させるが、表面の化学的性質は実質的に変化しないままである。高い表面粗さを有するインプラントの不利な点は、純粋な機械的な固定が微動に対してきわめて感受性が高く、機械的な固定の劣化を引き起こしうること、またインプラントの骨結合時間が比較的長いことである。
【0007】
インプラントの表面を人工的なヒドロキシアパタイトでコーティングすることにより骨結合時間が減少する。しかし、荷重を受けるインプラントで長期安定性のあるヒドロキシアパタイトコーティングを得ることは、不可能ではないが、きわめて困難である。コーティングとインプラントとの間の境界面はしばしば崩壊し、またはコーティングは剥げて取れてしまう。
【0008】
米国特許第5,733,564号は、公知の製薬物質である選択されたビスフォスフォネート用いて、これらの化合物で補綴物またはインプラントのチタン金属表面をコーティングすることによって骨組織形成を促進することを開示している。
【0009】
現在、チタンまたはチタン合金の骨内インプラントの表面を、1つ以上のホスホン酸基、またはその誘導体、好ましくはそのエステル、アミドまたは塩、を保有する本明細書で以下に定義される少なくとも1つの選択された有機化合物で処理されている場合は、本明細書で以下に説明されるように、処理した表面は、処理しない表面に比べて骨結合強度の驚くほどの改善および骨結合時間の驚くほどの短縮を示し、ヒドロキシアパタイトコーティングを有する表面で知られる不都合な点がないことが明らかにされている。
【0010】
本発明は特許請求の範囲に定義されている。本発明は、具体的には、ヒトまたは動物の骨に適用される骨内インプラントであって、インプラントの表面がチタンまたはチタン合金で製造され、前記インプラントは、滑らかまたは粗い表面テキスチャを有し、前記表面が、一般式(I):
A−[P(O)(OH)2p (I)
(式中、AはA1またはA2を意味し、
1は、n個の炭素原子を有する直鎖状、分枝鎖状または環状の、飽和または不飽和の炭化水素残基の残基であり、前記残基はヒドロキシルおよび/またはカルボキシルによって置換され、および場合により1つ以上の酸素原子および/またはイオウ原子および/または窒素原子によってさらに中断されていてもよく、p個のホスホン酸基を保有し、ここで
nは1〜70、好ましくは1〜40、好ましくは1〜22の数であり、
nが1であり、かつpが2であるとき、Aは−CH2−であり;あるいは
nが1であるとき、pは3または4、好ましくは3であり、あるいは
nが2〜10であるとき、各ホスホン酸基またはホスホン酸エステル基が同じ分子内の異なる炭素原子に結合されているという条件で、pは2であり、あるいは
nが2〜10であるとき、pは3、4、5、または6;好ましくは3、4、または5、好ましくは3または4であり;あるいは
nが11〜70であるとき、pは2、3、4、5、または6;好ましくは2、3、4、または5;好ましくは2、3、または4であるか;あるいは、
AはA2を意味し、
2はアミノ酸の残基またはタンパク質もしくはポリペプチドのそれぞれのアミノ酸配列の残基、好ましくはトランスフォーミング成長因子ベータ(TGF−β)のスーパーファミリーの残基であり;あるいは特定の薬物分子の残基であり、ここで
各残基A2がp個のホスホン酸基を保有し、
2がアミノ酸の残基またはタンパク質もしくはポリペプチドのそれぞれのアミノ酸配列の残基であるとき、pは1〜6、好ましくは1、2、3、または4、好ましくは1、2、または3であり;あるいは
2は本来いかなるホスホン基も有さず、場合によりA1に対して示された定義に属する特定の薬物分子の残基であるとき、pは1、または3〜6、好ましくは1である)
に対応する少なくとも1つの有機化合物、または薬学的に許容される誘導体であって、好ましくはそのエステル、アミドまたは塩、で処理されていることを特徴とする。
【0011】
本発明はさらに、前記表面が少なくとも1つの式(I)の有機化合物、またはその誘導体であって、好ましくはそのエステル、アミドまたは塩、で処理されることを特徴とする本発明によるインプラントの製造方法に関する。
【0012】
本明細書に指定された、特に酸または塩としてのホスホン酸化合物は、インプラントの表面と共有結合を形成し、それにより著しくかつ予想外の程度に前記表面の骨結合特性を改善することが考えられる。しかし、本発明はこの説明に拘束されない。
【0013】
1は、式−(Cn2n+2-p)−[式中、nは1〜70、好ましくは1〜40、好ましくは1〜22を意味する]の飽和炭化水素の残基であることが好ましい。好ましくは、式(I)の化合物の遊離酸または塩の形態であり、薬学的に許容される塩が、好ましくはアルカリ塩、好ましくはナトリウム塩またはカリウム塩である。薬学的に許容されるエステルを用いる場合は、イソプロピルホスホン酸エステルまたはエチルホスホン酸エステルが好ましく、このようなエステルの例は、メチレンジホスホン酸テトライソプロピル、エタン−1,1,2−トリホスホン酸ヘキサエチル、ブタン−1,1,4−トリホスホン酸ヘキサイソプロピル、ペンタン−1,1,5−トリホスホン酸ヘキサイソプロピル、ペンタン−2,2,5−トリホスホン酸ヘキサイソプロピル、ヘキサン−2,2,6−トリホスホン酸ヘキサイソプロピル、プロパン−1,1,3,3−テトラホスホン酸オクタイソプロピル、ヘプタン−1,4,4,7−テトラホスホン酸オクタイソプロピル、ノナン−1,5,5,9−テトラホスホン酸オクタイソプロピルである。
【0014】
本発明により処理される骨内インプラントの金属表面は、骨内インプラントの製造に用いられることが公知のチタンまたはチタン合金で製造することができる。チタン合金は、チタンと、チタンとの合金を形成することが知られる他の金属、例えば、クロム、ニオブ、タンタル、バナジウム、ジルコニウム、アルミニウム、コバルト、ニッケル、および/またはステンレス鋼で製造することができる。インプラントを製造するためのこのようなチタン金属合金はそれ自体公知であり、例えば、Bremeら、Metals as biomaterials、1〜71ページ(1998)に記載されており、その内容を参照として本明細書に取り込む。
【0015】
本発明によるインプラントは、スクリュー、プレート、釘、ピン、および特別に形成された部品の形状であってよく、医療、より具体的には、整形外科における破損または疾患のある骨を置換または強化するために、および歯科における義歯を固定するために、および、骨固定された補聴器をヒトまたは動物の骨格構造に固定するために、補綴物として用いてもよい。体組織のそれぞれの骨に結合されるインプラントの表面域は、滑らかなまたは粗い表面テキスチャを有することができる。このような表面テキスチャは公知であり、例えば、表面を機械的に、および/または酸で、および/または電解的に、および/またはグロー放電プラズマで、および/またはプラズマ溶射で処理することによって、および/または電気加工によって得ることができる。このような材料および方法は、種々の文献、例えば、B.−O.Aronssonら、J.Biomed.Mater.Res.35(1997)、49ページ以降に記載されており、その内容を参照として本明細書に取り込む。
【0016】
Aが飽和炭化水素の残基である式(I)の化合物の例は、モノホスホン酸、例えばメタンホスホン酸、エタンホスホン酸、プロパンホスホン酸、またはポリホスホン酸、例えばメチレンジホスホン酸、エタン−1,2−ジホスホン酸、プロパン−1,3−ジホスホン酸、エタン−1,1,2−トリホスホン酸、プロパン−1,1,3−トリホスホン酸、ブタン−1,1,4−トリホスホン酸、ペンタン−1,1,5−トリホスホン酸、ペンタン−2,2,5−トリホスホン酸、ヘキサン−2,2,6−トリホスホン酸、ペンタン−1,1,5,5−テトラホスホン酸、ヘプタン−1,4,4,7−テトラホスホン酸、プロパン−1,1,3,3−テトラホスホン酸、またはノナン−1,5,5,9−テトラホスホン酸である。
【0017】
Aがタンパク質それぞれのポリペプチドの残基である式(I)の化合物の例は、例えば、A.B.Roberts、M.B.Sporn、Handbook of Experimental Pharmacology、95(1990)419〜472ページ、またはD.M.Kingsley、Genes and Development、8(1994)133〜146ページ、およびその中の引例において記載されているような、成長因子のスーパーファミリーの全メンバー、特にTGF−β1、TGF−β2、TGF−β3、TGF−β4、およびTGF−β5が含まれるトランスフォーミング成長因子ベータ(TGF−β)の形態の化合物であり、その場合、ぺプチド鎖がアルキルホスホン酸基、またはその誘導体であって、好ましくはそのエステル、アミドまたは塩、を含むように改変されている。この意味では、式(I)の化合物は、成長因子のスーパーファミリーのメンバー、好ましくはTGF−β1、TGF−β2、TGF−β3、TGF−β4、およびTGF−β5によって規定されたトランスフォーミング成長因子ベータ(TGF−β)を表し、ここでつねにぺプチド鎖が少なくとも1つのアルキルホスホン酸基、またはその誘導体であって、好ましくはそのエステル、アミドまたは塩、を含むように改変されている。
【0018】
Aが骨形態形成タンパク質(BMP)(TGFファミリーのサブファミリーである)の残基である式(I)の化合物の例は、例えば、J.M.Wozneyら、Science、242(1988)1582〜1534;A.J.Celesteら、Proc.Natl.Acad.Sci.米国87(1990)9843〜9847;E.Ozkaynakら、J.Biol.Chem.267(1992)25220〜25227;Takaoら、Biochem.Biophys.Res.Com.219(1996)656〜662;WO93/00432;WO94/26893;WO94/26892;WO95/16035およびその中の引例において見出されるBMP−2(BMP−2a)、BMP−3、BMP−4(BMP−2b)、BMP−5、BMP−6、BMP−7(OP−1)、BMP−8(OP−2)、BMP−9、BMP−10、BMP−11、BMP−12、BMP−13の化合物であり、この場合、ペプチド鎖がアルキルホスホン酸基、またはその誘導体であって、好ましくはそのエステル、アミドまたは塩、を含むように改変されている。これらの化合物を、参照として本明細書に取り込む。この意味では、式(I)の化合物は、骨形態形成タンパク質(BMP)、好ましくはBMP−2(BMP−2a)、BMP−3、BMP−4(BMP−2b)、BMP−5、BMP−6、BMP−7(OP−1)、BMP−8(OP−2)、BMP−9、BMP−10、BMP−11、BMP−12、BMP−13を表し、ここでペプチド鎖が少なくとも1つのアルキルホスホン酸基、またはその誘導体であって、好ましくはそのエステル、アミドまたは塩、を含むように改変されている。
【0019】
Aがアミノ酸の残基である式(I)の化合物の例は、例えば、O.Fabuletら、Phosphorus、Sulphur、Silicon and Related Elements、101、225〜234(1995)に記載された2−アミノ−4,4−ビス−(ジエトキシ−ホスホリル)−酪酸;例えば、I.G.Andronovaら、Russ.J.Gen.Chem.66、1068〜1071(1996)に記載された2−アミノ−5−(ジエトキシ−ホスホリル)−ペンタン酸;例えば、X.Y.Jiaoら、Synth.Commun.22、1179〜1186(1992)およびその中の引例に記載された2−アミノ−4−ホスホノ酪酸である。さらに別の例は、例えば、L.Stryer、Biochemistry、第3版(1988)、17〜22ページに記載された主要な20種のアミノ酸すべてであり、その場合、アミノ酸はアルキルホスホン酸基と類似の方法で改変されており、好ましくは、式(I)の化合物は主要な20種のアミノ酸、好ましくはアルギニン、グリシン、アスパラギン酸、アラニン、バリン、プロリン、セリン、スレオニン、システイン、またはリジンの1つであり、ここでそのアミノ酸は少なくとも1つのアルキルホスホン酸基、またはその誘導体であって、好ましくはそのエステル、アミドまたは塩、を含むように改変されている。これらの化合物を参照として本明細書に組み込む。
【0020】
Aがペプチドの残基である式(I)の化合物の例は、RGD含有ペプチド類、RGDSペプチド類、GRGDSペプチド類、RGDVペプチド類、RGDEペプチド類、および/またはRGDTペプチド類を含むが、これらに限定されない。このようなペプチド類は、例えば、Y.Hirano、J.Biomed.Materials Res.、25(1991)、1523〜1534ページまたはWO98/52619およびその中の引例に記載されている。本発明の範囲内には、細胞接着または細胞接着予防などの特定の生物活性を有することが知られている類似のペプチド類も含まれ、これらは上記したペプチド類と同様に調製される。この意味では、式(I)の化合物は、少なくとも1つのアルキルホスホン酸基、またはその誘導体であって、好ましくはそのエステル、アミドまたは塩、を含むように改変されているRGD含有ペプチド、好ましくはRGDSペプチド、GRGDSペプチド、RGDVペプチド、RGDEペプチド、および/またはRGDTペプチドである。
【0021】
式(I)の好ましい化合物は、上記定義の残基A2を含有するものであり、好ましくはアミノ酸の残基、またはタンパク質もしくはポリペプチドのそれぞれのアミノ酸配列の残基、好ましくはトランスフォーミング成長因子ベータ(TGF−β)のスーパーファミリーの残基、好ましくは骨形態形成タンパク質(BMP)である。
【0022】
本発明によるインプラントを製造するために、すなわち、インプラントの表面を式(I)の少なくとも1つの化合物またはこれらの化合物の混合物で処理するためにとるべき以下のステップが推奨される。まず、望ましくない分子それぞれの不純物を表面から除去するために、洗浄浴中でインプラントを洗浄する。最初に脱脂剤、例えばアルコール、クロロホルムなどの有機溶媒、および別の有機溶媒および/または水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウム系のアルカリ水溶液などの無機洗剤などでインプラントを処理することが好ましい。その後、インプラントを、好ましくは少なくとも15Mohmcmの伝導率抵抗を有する純水中好ましくは蒸留超純水中で注意深くリンスする。洗浄とリンスの後、インプラントを窒素ガス流または乾燥または熱気流で乾燥し、管理条件下に保管する。あるいは、脱脂後、表面を洗浄するためにインプラントをさらにグロー放電プラズマ中で処理することができる。次いで、インプラントの清浄な表面を式(I)の少なくとも1つの化合物またはそのエステルもしくは塩で、すなわち、少なくともかかる化合物の1つまたはかかる化合物の混合物で処理する。化合物または前記化合物の混合物を、ブラッシング、溶射、浸漬、またはグロー放電プラズマ補助蒸着を含む蒸発などの適切な手段によってインプラントの表面に導入する。ホスホン酸化合物またはそのエステルもしくは塩を、好ましくは極性溶媒中で溶解し、溶媒の重量に対して約1.0×10-5mol/10ml〜5×10-2mol/10ml、好ましくは約5×10-4mol/10ml〜2.0×10-2mol/10mlの濃度の溶液を得ることが好ましい。濃度は、インプラントの表面にa)単一分子層の一部または全体(1%〜100%、好ましくは50%〜100%)が形成されるようになることが好ましい。好ましい溶媒は蒸留純水である。インプラントを十分に長い時間、好ましくは数分〜数時間、溶液と接触させたまま放置する。その後、インプラントを純水で注意深くリンスし、プラスチックまたは金属の清浄なパッケージング材料、好ましくは排気され、または窒素などの不活性気体または本明細書に上記規定された純水などの不活性液体で充填された気密パッケージングで包装することが好ましい。前記純水は無機塩、好ましくは、アルカリ塩、例えば塩化アルカリ、硫酸塩、リン酸塩、ホスホン酸塩、好ましくはナトリウム塩および/またはカリウム塩、および/または式(I)の化合物またはそのエステルもしくは塩を、好ましくは蒸留水である溶媒の約1.0×10-5mol/10ml〜5×10-2mol/10ml、好ましくは約5×10-4mol/10ml〜2.0×10-2mol/10mlの濃度で含有することができる。
【0023】
分析的調査、例えば、X線光電子分光分析(XPS)またはNMRでは、式(I)のホスホン酸化合物をインプラントの表面に接触させると、即時吸収が起こることがわかっている。表面とホスホン酸化合物との間に強力な結合が形成され、化学的な表面の改質が得られる。本明細書に上記したいくつかの異なるポリホスホン酸類、塩類、エステル類、およびアミド類が合成された。本発明によるこれらの化合物で製造された歯科用インプラントは優れた結果を示した。
【0024】
pが3〜6、好ましくは3または4であり、nが4〜70、好ましくは4〜40、好ましくは4〜22である一般式(I)による化合物、その塩類またはエステル類またはアミド類は新規である。このような化合物の例は、ブタン−1,1,4−トリホスホン酸、ペンタン−1,1,5−トリホスホン酸、ペンタン−2,2,5−トリホスホン酸、ヘキサン−2,2,6−トリホスホン酸、ペンタン−1,1,5,5−テトラホスホン酸、ヘプタン−1,4,4,7−テトラホスホン酸、またはノナン−1,5,5,9−テトラホスホン酸である。
【0025】
ブタン−1,1,4−トリホスホン酸ヘキサイソプロピルおよびヘプタン−1,4,4,7−テトラホスホン酸オクタイソプロピルのそれぞれの化合物、これらの化合物の混合物は、アルカリ金属、好ましくはナトリウム、テトラ低級アルキルメチレンジホスホン酸エステル、好ましくはメチレンジホスホン酸テトライソプロピルが、活性水素原子を有しない有機溶媒、好ましくは乾燥ヘキサンまたはベンゼンまたはトルエンの存在下で、少なくとも化学量論的な量のジハロメタン、好ましくはジブロモメタンと反応して得られる。
【0026】
この反応は、一般に10〜48時間、好ましくは18〜36時間の時間内で反応が終了するまで、30℃〜125℃、好ましくは40℃〜110℃の範囲内の温度で行われることが好ましい。
【0027】
次いで、この反応生成物に、ジイソプロピル−3−ブロモプロパンと反応させたトリイソプロピルホスファイトの精製生成物を添加する。次いで、得られた化合物の混合物を、従来の方法、例えばカラムクロマトグラフィで分離することができる。
【0028】
類似の方法で、1,4−ジブロモブタンを過剰の範囲のモル比1:6〜1:0.5でトリイソプロピルホスファイトと反応させることによって、意外にも新しい化合物、ペンタン−1,1,5−トリホスホン酸ヘキサイソプロピルおよびノナン−1,5,5,9−テトラホスホン酸オクタイソプロピルが生成される。さらに、類似の方法で、当量の部のエタン−1,1−ジホスホン酸テトライソプロピルと3−ブロモプロピルホスホン酸ジイソプロピルとを反応させることによって、ペンタン−2,2,5−トリホスホン酸ヘキサイソプロピルおよびペンタン−2,2,6−トリホスホン酸ヘキサイソプロピルを得た。
【0029】
この方法はさらに、これらの生成物を、1〜12時間、好ましくは1〜6時間からなる時間、過剰のモルのHCl中でそれらを還流することによって類似の酸類を生成する加水分解によって特徴づけられる。次いで、化合物をP25で真空下に乾燥させることが好ましい。
【0030】
以下の実施例は、本発明を説明するが、これを限定することはない。
【0031】
実施例1(アルカンポリホスホン酸の合成)
米国特許第3,400,176号明細書、B.A.Arbusov.Pure Appl.Chem.9(1967)、307〜353ページ、およびその中の引例に従って、メチレンジホスホン酸を合成した。NMR(1H、31P、13C)、質量分光法による元素分析、およびその融点によって化合物を同定した。これらのデータすべては、O.T.Quimbyらの文献(J.of Organomet.Chem.13、199〜207(1968))と一致した。
【0032】
プロパン−1,1,3,3−テトラホスホン酸を、メチレンジホスホン酸テトライソプロピルから合成した。テトラホスホン酸溶液を真空下に濃縮し、真空下にP25で乾燥させた。1H、31P、および13CのNMRの結果(D2O)は、所定の文献データと一致した。
【0033】
類似の方法で、プロパン−1,3−ジホスホン酸、エタン−1,1,2−トリホスホン酸、ブタン−1,1,4−トリホスホン酸、ペンタン−1,1,5−トリホスホン酸、ペンタン−2,2,5−トリホスホン酸、ヘキサン−2,2,6−トリホスホン酸、ペンタン−1,1,5,5−テトラホスホン酸、ヘプタン−1,4,4,7−テトラホスホン酸、またはノナン−1,5,5,9−テトラホスホン酸を合成した。
【0034】
実施例2
A)1mmの厚さを有する直径14mmの円形プレートの形状のチタンで製造された試料を従来の方法で製造した。試料表面には標準的方法に従ってダイアモンドペーストでの機械的研磨によって滑らかな表面粗さを設けた。原子間力顕微鏡による表面粗さの測定値は、Srms値が400平方ミクロンの表面積上で約6nmであった。
【0035】
B)次いで、上記A)において製造したインプラントを(i)メチレンジホスホン酸[蒸留水10ml当たり1.5×10-3mol]、(ii)エタン−1,1,2−トリホスホン酸[蒸留水中、1.2×10-3mol/10ml]、(iii)プロパン−1,1,3,3−テトラホスホン酸[蒸留水中、6.2×10-4mol/10ml]、(iv)1−ヒドロキシエチリデンジホスホン酸[蒸留水中、1.4×10-3mol/10ml]の水溶液に入れ、室温下に15分間、放置した。次いで、インプラントを純水でリンスし、乾燥させた。
【0036】
製法B(i)、B(ii)、B(iii)、およびB(iv)に従って調製されたインプラントを、ラットの骨形成細胞である造骨細胞でプレーティングした。骨形成を(I)細胞増殖および(II)骨タンパク質合成として測定した。比較試験結果を非処理インプラントについて示した。各結果を表1に示す。類似の結果を、滑らかな表面および粗い表面の両方について、本明細書の上記のホスホン酸すべてについて得た。XPSおよびToF−SIMSによる分析は、分子(単)層がインプラント表面上およびチタン酸化物表面上に形成され、表面の粗さがこの挙動に影響しそうにないことを示した。
【0037】
【表1】

【0038】
この結果は、処理していないインプラントに比べて、本発明によるインプラントの骨形態形成の改善を示している。
【0039】
実施例3
グリシン分子のアミン末端をホスホン酸基の1つに結合することによって改変されているエタン−1,1,3−トリホスホン酸でインプラントを処理したことを除いて、実施例2を繰り返した。
【0040】
実施例4
GRGDS細胞結合ポリペプチドのアミン末端をホスホン酸基の1つに結合することによって改変されているエタン−1,1,3−トリホスホン酸でインプラントを処理したことを除いて、実施例2を繰り返した。
【0041】
実施例5
式(I)による化合物が、ヒト骨形態形成タンパク質2型(BMP−2)のアミン末端(メチオニン)をホスホン酸基の1つに結合することによって改変されているエタン−1,1,3−トリホスホン酸である点を除いて、実施例2を繰り返し、これは表1に示したのと類似の試験結果を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトまたは動物の骨に適用される骨内インプラントであって、インプラントの表面がチタンまたはチタン合金で製造され、前記インプラントが滑らかなまたは粗い表面テキスチャを有し、前記表面が、一般式(I):
A−[P(O)(OH)2p (I)
(式中、AはA1またはA2を意味し、
1は、n個の炭素原子を有する直鎖状、分枝鎖状または環状の、飽和または不飽和の炭化水素残基の残基であり、前記残基はヒドロキシルおよび/またはカルボキシルによって置換され、および場合により1つ以上の酸素原子および/またはイオウ原子および/または窒素原子によってさらに中断されていてもよく、p個のホスホン酸基を保有し、ここで
nは1〜70、好ましくは1〜40、好ましくは1〜22の数であり、
nが1であり、かつpが2であるとき、Aは−CH2−であり;あるいは
nが1であるとき、pは3または4、好ましくは3であり、あるいは
nが2〜10であるとき、各ホスホン酸基またはホスホン酸エステル基が同じ分子内の異なる炭素原子に結合されているという条件で、pは2であり、あるいは
nが2〜10であるとき、pは3、4、5、または6;好ましくは3、4、または5、好ましくは3または4であり;あるいは
nが11〜70であるとき、pは2、3、4、5、または6;好ましくは2、3、4、または5;好ましくは2、3、または4であるか;あるいは、
AはA2を意味し、
2は、アミノ酸の残基またはタンパク質もしくはポリペプチドのそれぞれのアミノ酸配列の残基、好ましくはトランスフォーミング成長因子ベータ(TGF−β)のスーパーファミリーの残基であり;あるいは特定の薬物分子の残基であり、ここで
各残基A2がp個のホスホン酸基を保有し、
2がアミノ酸の残基またはタンパク質もしくはポリペプチドのそれぞれのアミノ酸配列の残基であるとき、pは1〜6、好ましくは1、2、3、または4、好ましくは1、2、または3であり;あるいは
2は本来いかなるホスホン基も有さず、場合によりA1に対して示された定義に属する特定の薬物分子の残基であるとき、pは1または3〜6、好ましくは1である)
に対応する少なくとも1つの有機化合物、またはその薬学的に許容される誘導体であって、好ましくはそのエステル、アミドまたは塩、で処理されていることを特徴とする骨内インプラント。
【請求項2】
1が、式−(Cn2n+2-p)−[式中、nは1〜70、好ましくは1〜40、好ましくは1〜22を意味する]の飽和炭化水素の残基である、請求項1に記載のインプラント。
【請求項3】
薬学的に許容される塩がアルカリ塩、好ましくはナトリウム塩またはカリウム塩である、請求項1または2に記載のインプラント。
【請求項4】
薬学的に許容されるエステルが、ホスホン酸アルキルまたは酢酸エチルである、請求項1〜3のいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項5】
式(I)の化合物が、ポリホスホン酸、好ましくはメチレンジホスホン酸、エタン−1,2−ジホスホン酸、プロパン−1,3−ジホスホン酸、プロパン−1,3−ジホスホン酸、エタン−1,1,2−トリホスホン酸、ブタン−1,1,4−トリホスホン酸、ペンタン−1,1,5−トリホスホン酸、ペンタン−2,2,5−トリホスホン酸、ヘキサン−2,2,6−トリホスホン酸、ペンタン−1,1,5,5−テトラホスホン酸、ヘプタン−1,4,4,7−テトラホスホン酸、プロパン−1,1,3,3−テトラホスホン酸、および/もしくはノナン−1,5,5,9−テトラホスホン酸、またはそのエステルもしくは塩から選択されるポリホスホン酸である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項6】
式(I)の化合物がエステル、好ましくはメチレンジホスホン酸テトライソプロピル、エタン−1,1,2−トリホスホン酸ヘキサエチル、ブタン−1,1,4−トリホスホン酸ヘキサイソプロピル、ペンタン−1,1,5−トリホスホン酸ヘキサイソプロピル、ペンタン−2,2,5−トリホスホン酸ヘキサイソプロピル、ヘキサン−2,2,6−トリホスホン酸ヘキサイソプロピル、プロパン−1,1,3,3−テトラホスホン酸オクタイソプロピル、ヘプタン−1,4,4,7−テトラホスホン酸オクタイソプロピル、ノナン−1,5,5,9−テトラホスホン酸オクタイソプロピルである、請求項4に記載のインプラント。
【請求項7】
式(I)の化合物が、成長因子のスーパーファミリーのメンバーによって規定されたトランスフォーミング成長因子ベータ(TGF−β)、好ましくはTGF−β1、TGF−β2、TGF−β3、TGF−β4、およびTGF−β5であり、ここでつねにぺプチド鎖が少なくとも1つのアルキルホスホン酸基、またはその誘導体であって、好ましくはそのエステル、アミドまたは塩、を含むように改変されている、請求項1に記載のインプラント。
【請求項8】
式(I)の化合物が、骨形態形成タンパク質(BMP)、好ましくはBMP−2(BMP−2a)、BMP−3、BMP−4(BMP−2b)、BMP−5、BMP−6、BMP−7(OP−1)、BMP−8(OP−2)、BMP−9、BMP−10、BMP−11、BMP−12、BMP−13であり、ここでペプチド鎖が少なくとも1つのアルキルホスホン酸基、またはその誘導体であって、好ましくはそのエステル、アミドまたは塩、を含むように改変されている、請求項1に記載のインプラント。
【請求項9】
式(I)の化合物が、2−アミノ−4,4−ビス−(ジエトキシ−ホスホリル)−酪酸、2−アミノ−5−(ジエトキシ−ホスホリル)−ペンタン酸、および/または2−アミノ−4−ホスホノ酪酸である、請求項1に記載のインプラント。
【請求項10】
式(I)の化合物が、主要な20種のアミノ酸、好ましくはアルギニン、グリシン、アスパラギン酸、アラニン、バリン、プロリン、セリン、スレオニン、システイン、リジンの1つであり、そのアミノ酸が少なくとも1つのアルキルホスホン酸基、またはその誘導体であって、好ましくはそのエステル、アミドまたは塩、を含むように改変されている、請求項1に記載のインプラント。
【請求項11】
式(I)の化合物が、RGD含有ペプチド、好ましくは、少なくとも1つのアルキルホスホン酸基、またはその誘導体であって、好ましくはそのエステル、アミドまたは塩、を含むように改変されているRGDSペプチド、GRGDSペプチド、RGDVペプチド、RGDEペプチド、および/またはRGDTペプチドである、請求項1に記載のインプラント。
【請求項12】
前記表面が、少なくとも1つの式(I)の有機化合物またはその塩もしくはエステルまたはその混合物で処理されることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載のインプラントの製造方法。
【請求項13】
スクリュー、プレート、釘、ピン、および特別に形成された部品の形状のインプラントであって、医療、より具体的には、整形外科において破損または疾患のある骨を置換もしくは強化するために、および歯科において義歯を固定するために、または骨固定された補聴器をヒトまたは動物の骨格構造に固定するために、補綴物として用いることができる、請求項1〜12のいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項14】
前記インプラントが、プラスチックまたは金属のパッケージング材料、好ましくは場合により排気され、または不活性気体もしくは不活性液体で充填された気密パッケージングで包装されている、請求項13に記載のインプラント。
【請求項15】
前記パッケージングが、無機塩および/または式(I)の化合物またはその塩もしくはエステルを、好ましくは水の約1.0×10-5mol/10ml〜5×10-2mol/10ml、好ましくは約5×10-4mol/10ml〜2.0×10-2mol/10mlの濃度で含有する純水で充填されている、請求項14に記載のインプラント。
【請求項16】
pが3〜6、好ましくは3または4であり、nが4〜70、好ましくは4〜40、好ましくは4〜22である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の一般式(I)に記載の化合物、その塩またはエステル。
【請求項17】
ブタン−1,1,4−トリホスホン酸、ペンタン−1,1,5−トリホスホン酸、ペンタン−2,2,5−トリホスホン酸、ヘキサン−2,2,6−トリホスホン酸、ペンタン−1,1,5,5−テトラホスホン酸、ヘプタン−1,4,4,7−テトラホスホン酸、もしくはノナン−1,5,5,9−テトラホスホン酸、またはその塩もしくはエステルもしくはアミドである、請求項16に記載の化合物。
【請求項18】
対応するエステルを酸の存在下に加水分解することを特徴とする、請求項17に記載のそれらの酸の形態の化学化合物の製造方法。

【公開番号】特開2011−177526(P2011−177526A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−94950(P2011−94950)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【分割の表示】特願2002−542444(P2002−542444)の分割
【原出願日】平成13年11月19日(2001.11.19)
【出願人】(502151956)ユニヴェルシテ・ドゥ・ジュネーブ (5)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE GENEVE
【出願人】(503183293)ウペエフエル・エコル・ポリテクニック・フェデラル・ドゥ・ローザンヌ (11)
【氏名又は名称原語表記】EPFL ECOLE POLYTECHNIQUEFEDERALE DE LAUSANNE
【Fターム(参考)】