説明

骨再生材料

【課題】骨新生を促進して骨治癒の早期化を図る。
【解決手段】βリン酸三カルシウム多孔体からなる微小顆粒を含み、骨欠損部に補填される補填体2と、該補填体2を保持するとともに、生体適合性を有し骨欠損部を閉塞可能な膜部材(骨膜を除く)3とを備える骨再生材料1を提供する。本発明によれば、骨膜以外の膜部材3によって骨欠損部が閉塞されているので、周辺組織に存在する骨新生に関与しない繊維性結合組織等が骨欠損部に移動することが防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨再生材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、リン酸カルシウムを主成分とし、骨欠損部に補填されて骨を新生する材料が知られている(例えば、特許文献1および2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−253558号公報
【特許文献2】特開2010−268722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1および2の場合、骨欠損部に補填されてから十分な量の骨が新生されて骨欠損部が治癒するまでに比較的長い期間を要する。そこで、骨治癒に要する期間のさらなる短縮が望まれている。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、骨新生を促進して骨治癒の早期化を図ることができる骨再生材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、βリン酸三カルシウム(β−TCP)多孔体からなる微小顆粒を含み、骨欠損部に補填される補填体と、該補填体を保持するとともに、生体適合性を有し前記骨欠損部を閉塞可能な膜部材(骨膜を除く)とを備える骨再生材料を提供する。
本発明によれば、骨欠損部に補填された補填体が時間の経過とともに新生骨に置換されることにより、骨欠損部を治癒させることができる。
【0006】
この場合に、骨膜以外の膜部材によって骨欠損部が閉塞されているので、周辺組織に存在する骨新生に関与しない繊維性結合組織等が骨欠損部に移動することが防止される。これにより、補填体における骨新生を促進して骨治癒の早期化を図ることができる。
【0007】
上記発明においては、前記補填体が、前記微小顆粒と、末梢血から抽出された有核細胞との混合物からなることとしてもよい。
このようにすることで、予め補填体に存在する十分な数の有核細胞によって骨新生をさらに促進することができる。
【0008】
また、上記発明においては、前記微小顆粒が、25〜75μmの粒径を有することとしてもよい。
このようにすることで、骨新生を担う細胞による骨新生の作用を活性化し骨新生をさらに促進することができる。
【0009】
また、上記発明においては、前記膜部材が、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ乳酸、ポリ乳酸とポリグリコール酸および/またはポリカプロラクトンとの混合物、もしくは、これらとコラーゲンとの複合体からなることとしてもよい。
このようにすることで、膜部材が骨欠損部周辺の組織に与える影響を低減することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、骨新生を促進して骨治癒の早期化を図ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る骨再生材料の全体構成図である。
【図2】本発明に係る骨再生材料を頭蓋骨に3週間移植した結果を示すHE染色画像である。
【図3】本発明に係るもう1つの骨再生材料を頭蓋骨に3週間移植した結果を示すHE染色画像である。
【図4】β−TCP多孔体の粒径500〜1500μmの顆粒からなる補填体を頭蓋骨に移植した結果を示すHE染色画像である。
【図5】頭蓋骨の骨欠損部に補填体を補填して骨膜によって閉塞した結果を示すHE染色画像である。
【図6】頭蓋骨の骨欠損部を空洞のままメンブレンによって閉塞した結果を示すHE染色画像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の一実施形態に係る骨再生材料1について図1を参照して説明する。
本実施形態に係る骨再生材料1は、β−TCP多孔体の微小顆粒と有核細胞との混合物からなる補填体2と、該補填体2を保持する膜部材3とを備えている。
【0013】
微小顆粒は、25〜75μmの粒径を有している。
有核細胞は、末梢血から遠心分離やフィルタなどによって抽出された細胞であり、骨新生に必要な骨芽細胞及び破骨細胞を含んでいる。有核細胞は、血液中の血清とともに細胞濃縮液として抽出される。
補填体2は、微小顆粒と細胞濃縮液とを混錬した後、補填されるべき骨欠損部の形状に応じた形状(図示する例では円筒状)に成形することにより製造することができる。
【0014】
膜部材3は、骨欠損部に対して十分に大きな寸法を有している。膜部材3は、生体適合性に優れた材料からなり骨膜以外のもの、すなわち、補填体2が補填される骨組織の生体反応を引き起こしにくいものが用いられる。膜部材3の材料としては、例えば、PTFEなどの合成高分子や、ポリ乳酸、ポリ乳酸とポリグリコール酸及び/またはポリカプロラクトンとの混合物、もしくは、これらとコラーゲン等の生体吸収性材料との複合体などが好ましい。補填体2は、例えば、生体接着剤などで接着されることにより膜部材3上に保持される。
【0015】
次に、このように構成された骨再生材料1の作用について説明する。
本実施形態に係る骨再生材料1は、骨欠損部に骨を新生するために使用される。まず、骨欠損部に補填体2を補填し、骨欠損部の開口を膜部材3によって閉塞する。その後、所定期間、骨再生材料1を骨欠損部に留置する。このときの所定の期間としては、数週間、例えば、3〜8週間程度が好ましい。
【0016】
骨欠損部内の補填体2においては、該補填体2に含まれる骨芽細胞および破骨細胞、並びに、骨欠損部と隣接する骨組織から移動してきた骨芽細胞および破骨細胞の作用によってβ−TCPが骨に置換されて新生骨が形成される。これにより骨欠損部を治癒させることができる。
【0017】
この場合に、本実施形態によれば、膜部材3によって骨欠損部が、該骨欠損部の周辺の骨組織以外の組織から隔離された状態となる。すなわち、骨新生に不要な繊維性結合組織等が周辺組織から補填体2に移動してきて、例えば、骨組織以外の組織が形成されるなどの意図しない生体反応が引き起こされることにより骨新生が阻害されることが防止される。また、β−TCP多孔体の微小顆粒が十分に小さい粒径を有し、さらに、補填体に含まれる血清によって、破骨細胞および骨芽細胞による骨新生の作用が活性化される。これにより、骨欠損部における骨新生が促進され、骨治癒の早期化を図ることができるという利点がある。
【実施例】
【0018】
次に、上述した実施形態の実施例について、図2〜図6を参照して以下に説明する。
本発明に係る骨再生材料をウサギの頭蓋骨に移植して骨再生材料の骨新生能を評価した。
【0019】
本実施例に係る骨再生材料の補填体として、粒径25〜75μmのβ−TCP多孔体の微小顆粒を生理食塩水で混錬したもの(補填体A)と、粒径25〜75μmのβ−TCP多孔体の微小顆粒をウサギから採取した血液で混錬したもの(補填体B)とを用いた。また、本実施例に係る膜部材として、ゴアテックス株式会社製のゴアテックス(登録商標)組織再生用(GTR)メンブレン(以下、メンブレンという。)を用いた。
【0020】
骨欠損部は、ウサギ(日本白色種、雄、12週齢)の頭蓋骨を外側からボーンカッターを使用して穿孔することにより形成した。骨欠損部の形状は、直径約8mm、深さ約1.5mmの円柱状とした。骨再生材料の移植は、骨欠損部に補填体A,Bを補填し、骨欠損部の外側の開口をメンブレンによって閉塞することにより行った。移植から3週間後、各骨欠損部を含む領域を頭蓋骨から採取し、病理切片を作成し、HE(ヘマトキシリン・エオシン)染色を施して観察した。図2および図3は、その観察結果を示す光学顕微鏡画像である。
【0021】
また、本実施例に係る骨再生材料に対する比較例として、粒径500〜1500μmのβ−TCP多孔体の顆粒を生理食塩水で混錬したものを補填体として補填してメンブレンで閉塞した場合と、補填体Aを補填し骨膜の切開部位を縫合することにより骨膜で骨欠損部を閉塞した場合と、骨欠損部を空洞のままメンブレンによって閉塞した場合とについても、同様に移植および観察を行った。図4〜図6は、その観察結果を示す光学顕微鏡画像である。
【0022】
図2は補填体Aを、図3は補填体Bを移植した結果を示す画像である。図中の符号Mはメンブレンを、符号Nは新生骨を、符号Sは頭蓋骨(母床骨)を示している。図2および図3において、補填体が移植された部位の全領域にわたって十分な密度で新生骨Nが確認され、その新生骨Nの量は図2よりも図3の方が約1.5倍多かった。すなわち、血液中に含まれる有核細胞および血清によって骨再生材料の骨新生能が向上することが示唆された。
【0023】
一方、比較例の結果である図4においては、新生骨Nが確認されたものの、その量は図2および図3に比べると大幅に少なく、骨に置換されずにそのまま残っているβ−TCP多孔体の顆粒Gが多く確認された。すなわち、本発明に係る補填体においては、β−TCP多孔体として粒径25〜75μmの微小顆粒を使用することにより、骨新生能が著しく向上することが示唆された。
【0024】
また、図5においては、骨膜Pとは反対側の領域には新生骨Nが確認されたものの、骨膜P側の領域には結合組織Cが生成され新生骨Nがほとんど確認されなかった。この結果から、本発明に係る膜部材としては、PTFEのように、移植先の組織において生体反応を引き起こしにくい材料が好ましいことが示唆された。
図6においては、新生骨Nが確認されたものの、図2および図3と比べるとその量は大幅に少なかった。
【0025】
以上のように、図2〜図6に示される結果から、本発明に係る骨再生材料はわずか3週間で十分な量の新生骨を形成可能であり、迅速な骨形成に適した構成であることが示された。
【符号の説明】
【0026】
1 骨再生材料
2 補填体
3 膜部材
G β−TCP多孔体の顆粒
M ゴアテックスGTRメンブレン
N 新生骨
P 骨膜
S 頭蓋骨

【特許請求の範囲】
【請求項1】
βリン酸三カルシウム多孔体からなる微小顆粒を含み、骨欠損部に補填される補填体と、
該補填体を保持するとともに、生体適合性を有し前記骨欠損部を閉塞可能な膜部材(骨膜を除く)とを備える骨再生材料。
【請求項2】
前記補填体が、前記微小顆粒と、末梢血から抽出された有核細胞との混合物からなる請求項1に記載の骨再生材料。
【請求項3】
前記微小顆粒が、25〜75μmの粒径を有する請求項1または請求項2に記載の骨再生材料。
【請求項4】
前記膜部材が、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ乳酸、ポリ乳酸とポリグリコール酸および/またはポリカプロラクトンとの混合物、もしくは、これらとコラーゲンとの複合体からなる請求項1から請求項3のいずれかに記載の骨再生材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−223444(P2012−223444A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95192(P2011−95192)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】