説明

骨孔用プラグ部材

【課題】ACL再建術などの手術において、上記のような問題点を解決し、骨孔(例えば、関節鏡の孔)の空隙部分の骨再生を行う事で、骨孔を良好に塞ぐ部材を提供する。
【解決手段】リン酸カルシウム系材料からできており、気孔率50〜85%の多孔体であり、一方の底面が円柱の中心軸に対して30〜60度の角度をなしている円柱形状であるプラグ部材

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前十字靱帯再建術、骨生検などの骨孔を塞ぐ手術において、使用するプラグ部材に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトなどの動物の膝に激しく負荷がかかった場合に、前十字靱帯(ACL)が損傷することがある。損傷するケースは、スポーツや交通事故に多く、特にスポーツ時に多く見られる。バスケット、サッカー、ハンドボール、バレー、ラグビー、スノーボード、スキー等、トップスピードで走ったり、急にストップしたり、ジャンプ時、急な方向転換時等、膝の外側からの強い衝撃を受けた時などに受傷しやすい。
前十字靱帯損傷を受けた場合には、自然修復はほぼ不可能で、手術(ACL再建術)を行う必要がある。
前十字靱帯損傷を放置していると、関節内に血腫や腫脹が生じ、膝の安定性が低下し、半月板や関節包などを損傷してしまう危険性があり、膝が急にガクッと折れたり、様々な症状が現れる。靱帯損傷を長年放置しておくと、関節軟骨の損傷を引き起こし、膝組織の損傷が修復不可能な状態になり、膝関節が正常に働かなくなる変形性関節症に至ることもある。よって、なるべく早期にACL再建術を行なう必要がある。
【0003】
ACL再建術は、次のようにして行う。脛骨の内側側に孔を開ける。断裂した腱を再建する。なお、靭帯再建方法としては、膝蓋腱から腱を採取する、骨付き膝蓋腱移植法(BTB法(bone-patellar tendon-bone法)、膝蓋腱の一部を使用)と、膝の内側後方にある腱を採取する、STG法(半腱様筋腱(semitendinosus tendon)と、薄筋腱(gracilis tendon)を使用する)の2種類の方法がある。人工腱を使用するときもある。再建靭帯の両端に糸を取り付け、脛骨のほうから糸を骨孔に通し、大腿骨側から引っ張り、再建靭帯を骨孔に通す。糸が通った後、大腿骨側は、エンドボタンで固定する。膝の曲がり具合を確認しながら、再建した腱についている糸を引っ張り、どのくらいの引っ張り具合で脛骨の内側側に糸を固定するかを決定する。骨孔から糸を出して、スクリューと小さなプレートで糸を固定する。骨孔は、そのまま開けたまましておくと、血が流出するので、一般に、骨ロウを使用する。しかし、骨ロウは、術後の経過が良くなく、感染、腫れを引き起こし、腫瘍ができることもある。また、骨ロウが感染源となることも多く、一旦感染を生じると骨ロウを除去する必要がある。さらに骨ロウは骨の癒合を妨げる。そのため、現在は孔は開けたままで、血が流れたままというケースも多い。
例えば、特開2002−272756号公報は、再建靱帯頸骨側固定器具を開示している。この固定器具においても、骨孔は充分に塞がれていない。
【0004】
上記のように、ACL再建術は再建靭帯を脛骨、大腿骨に作成した骨孔に移植固定する方法で行う。しかし、骨孔内には再建靭帯で埋まらない空隙が生じている。骨孔内に空隙があることにより、以下の問題点があった。
【0005】
(1)骨孔内骨髄からの出血によって、皮下出血および疼痛、腫脹が生じ、感染のリスクが増大する。
(2)ACL再建術を行った後の腱の再断裂は5%〜10%と報告されており、2回目の再建術(再再建術)時に初回再建術の骨孔が問題になる。再再建術を行う場合は、症例により初回再建時の骨孔に、腸骨などより採取した自家骨を移植する手術を行い、骨癒合を得た後、2期的に再再建術を施行する必要があり、精神的、肉体的および経済的にも患者負担が大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−272756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ACL再建術などの手術において、上記のような問題点を解決し、骨孔(例えば、関節鏡の孔)の空隙部分の骨再生を行う事で、骨孔を良好に塞ぐ部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、リン酸カルシウム系材料からできており、気孔率50〜85%の多孔体であり、一方の底面が円柱の中心軸に対して30〜60度の角度をなしている円柱形状であるプラグ部材を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の部材によれば、次のような効果が得られる。
感染などの危険が低減される。手術後、骨に孔を開けたままであったり、また、生体組織と親和性の無い骨ロウで骨孔に蓋をした場合、皮下出血、それに伴う疼痛、腫脹、および感染のリスクが高い。本発明の部材は多孔体部分が50〜85%の気孔率であり、気孔間連通部が生体組織侵入可能な平均直径10〜100μmの連通部を介して繋がっているため、埋植後、骨の再生が可能であり、早期の骨再生を実現し、感染などのリスクおよび、出血によるリスク軽減が可能になり、治療費削減になる。
【0010】
ACL再手術の際に、2次的手術が無く、直ぐに再手術が出来る。ACL再建術後の再断裂は5〜10%と報告されており、再再建術時には、初回の手術の際に開けた孔から手術を行う。開けた孔に骨ができていないと、手術が出来ないので、骨ロウで蓋をしたり、また、開けっ放しにして手術を終了した場合には、腸骨(腰部分の骨)から健常骨を採取し、あいている孔の部分に埋めて、3ヶ月程度かけて骨の再生を待ち、その後やっと再再建術の手術を行う必要がある。本発明の部材を使用した場合、多孔体部分で骨再生が可能であるため、再再建術時に、上記のような2回手術を行うことなく、直ぐに初回の手術の際に開けた孔から再手術を行うことができ、結果的に治療費の削減、患者負担の低減になる。
【0011】
特に、プラグ部材が緻密体と多孔体の複合体である場合には、緻密体部において、しっかり止血を行ない、唯一骨再生の補助が認められている多孔体部において早期に骨組織が誘導され、骨再生を実現し、出血によるリスク軽減と再再建術時を一期的に行なうことが可能になり、治療費軽減にも有効である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1A】多孔体と緻密体の複合体であるプラグ部材を示す側面図である。
【図1B】緻密体と多孔体の複合体であるプラグ部材を示す正面図である。
【図2】多孔体のみからなるプラグ部材を示す側面図である。
【図3】全体的にテーパー型形状であるプラグ部材を示す側面図である。
【図4A】部分的にテーパー型形状であるプラグ部材を示す側面図である。
【図4B】部分的にテーパー型形状であるプラグ部材を示す背面図である。
【図5】プラグ部材が固定されている骨孔の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のプラグ部材は、リン酸カルシウム系材料(特に、リン酸カルシウム系材料の焼結体)からできており、特にハイドロキシアパタイトおよび/またはβ-TCP(βリン酸第三カルシウム)からできていることが好ましい。
多孔体の気孔率は、50〜85%、好ましくは65〜80%である。気孔率が50%を切ると、骨再生能力が著しく低下し、また気孔率が85%を超えると強度が著しく低下する。気孔率とは、気孔の容積が部材の体積に対して何%になるかを表した数値である。気孔間連通部における平均連通部径が10〜100μm、特に20〜60μmであることが好ましい。気孔の平均直径は、100〜300μm、特に150〜200μmであることが好ましい。気孔の平均連通部径や平均直径は、水銀圧入ポロシメーター法等によって測定することができる。
【0014】
緻密体の気孔率は、0〜20%、好ましくは0〜5%であることが好ましい。
プラグ部材は多孔体のみで構成されていてもよいが、多孔体と緻密体との複合体で形成されていることが好ましい。一般に、複合体において、傾斜している底面部分が緻密体からできている。
【0015】
プラグ部材において、一般に、円柱の長さは、15〜70mm、特に20〜40mm、円柱の底面直径は3〜20mm、特に4〜10mmである。複合体であるプラグ部材において、多孔体部分の長さは15mm〜70mmであり、緻密体部分の厚さは1mm〜4mm、特に1mm〜2mmであることが好ましい。円柱において、一方の底面が円柱の中心軸に対して30〜60度、好ましくは40〜50度、特に45度の角度をなしている。他方の底面が円柱の中心軸に対してほぼ直角である。複合体であるプラグ部材によれば、多孔体部分で骨再生が見られ、緻密体部分で強度を担いつつ、止血をすることが可能である。
プラグ部材の円柱の側面の全体または一部(例えば、側面の1/30〜1/2、例えば1/20〜1/4)は、他方の底面が小さくなるように、テーパーしていてよい。テーパー角は、1〜40度、例えば3〜30度である。他の底面の直径は、骨孔の直径よりも、1〜10mm、例えば2〜6mm小さくてよい。他の底面が骨孔よりも小さいので、テーパー型形状のプラグ部材は、骨孔への挿入が容易である。
【0016】
本発明のプラグ部材は次のようにして製造することができる。
プラグ部材は、リン酸カルシウム系材料の起泡状スラリーを焼結し、その焼結体を機械加工することで成形できる。
プラグ部材が複合体である場合に、緻密体部分と多孔体部分は接着層無く一体品として成形されることが望ましい。ハイドロキシアパタイトなどのリン酸カルシウム系材料の起泡状スラリーを型に配置し、リン酸カルシウム系材料の非起泡状スラリーを後に流し込み一体化させた後に乾燥させる。乾燥させた後、800〜1400℃、特に1200℃で焼成することによって、接着剤などのリン酸カルシウム形素材以外の成分を一切含まず、一体品に成形できる。
【0017】
本発明のプラグ部材の使用方法は次のとおりである。
1)ACL再建術の移植腱を骨孔に通し、大腿骨側を固定した後に、移植腱までの残った脛骨側骨孔長を専用デプスケージにて計測する。(骨孔の近位側の短いところを計測する)
2)計測した残った骨孔長に併せてプラグ部材を、メスなどを用いて切り目をいれ、切除する。
3)移植腱に連結した糸を引きながら、骨孔の近位側に長さを調整したプラグ部材を挿入する。プラグ部材は、固定剤などの必要なく、骨との接触によって骨孔に固定される。
【0018】
以下、添付図面を参照して、本発明を具体的に説明する。
図1Aは、多孔体と緻密体の複合体であるプラグ部材を示す側面図である。プラグ部材10は、多孔体11および緻密体12から形成されている。多孔体11と緻密体12とは、接着剤を用いることなく、一体型成型により接着層無く密着している。プラグ部材は、円柱状である。図1において、緻密体によって形成される底面は、一般に、平らであるが、底面は、骨の外形を考慮したどのような形状であってもよく、例えば中央部が外側に膨らむように湾曲していてもよい。
【0019】
図1Bは、緻密体と多孔体の複合体であるプラグ部材を示す正面図である。図1Bは、図1AにおいてVの方向から見た図である。プラグ部材は、円柱の斜めになった底面が、緻密体12からできている。
【0020】
図2は、多孔体のみからなるプラグ部材を示す側面図である。プラグ部材20は、多孔体21のみから形成されている。左側の底面は、円柱の中心軸22に対して、角度αをなしている。角度αは、30〜60度の範囲であってよい。他方(右側)の底面は、円柱の中心軸に対して、角度βをなしているが、この角度βは、70〜110度、例えば80〜100度、特に90度であってよい。
【0021】
図3は、全体的にテーパー型形状であるプラグ部材を示す側面図である。プラグ部材30は、多孔体31および緻密体32から形成されている。プラグ部材は多孔体31のみから形成されていてもよい。プラグ部材は、側面の全体にわたって、先に行くほど細くなるテーパー型形状をしている。(仮想円柱の側面とプラグ部材の側面が形成する)テーパー角γは、1〜15度、例えば3〜10度であってよい。底面33が骨孔よりも小さいので、このプラグ部材は、骨孔への挿入が容易である。
【0022】
図4Aは、部分的にテーパー型形状であるプラグ部材を示す側面図である。プラグ部材は多孔体のみからなる。プラグ部材40は、多孔体41および41’から形成されている。プラグ部材は多孔体および緻密体から形成されていてもよい。プラグ部材は、側面の一部分にわたって、先に行くほど細くなるテーパー型形状をしており、円錐台を形成している。(円柱の側面と円錐台の側面が形成する)テーパー角は、5〜40度、例えば10〜30度であってよい。多孔体41’は、プラグ部材の使用時に、骨孔に最初に挿入される部分である。多孔体41’は、円錐台形状をしており、小さくなった底面43を有する。底面43が骨孔よりも小さいので、このプラグ部材は、骨孔への挿入が容易である。
【0023】
図4Bは、部分的にテーパー型形状であるプラグ部材を示す背面図である。図4Bは、図4AにおいてVの方向から見た図である。多孔体41’は、円柱の底面よりも小さくなっているプラグ部材の底面43を有する。
【0024】
図5は、プラグ部材が固定されている骨孔の概略断面図である。脛骨51に設けられている骨孔52に移植腱53が挿入されている。プラグ部材50が骨孔52を塞ぐように骨孔52に固定されている。骨孔52の直径は、3〜20mm、通常、3〜10mmである。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明のプラグ部材は、前十字靱帯再建術、骨生検などの骨孔を塞ぐ必要のある手術において、好都合に使用できる。
【符号の説明】
【0026】
1,20,30,40,50 プラグ部材
11,21,31,41,41’ 多孔体
12,32 緻密体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸カルシウム系材料からできており、気孔率50〜85%の多孔体であり、一方の底面が円柱の中心軸に対して30〜60度の角度をなしている円柱形状であるプラグ部材。
【請求項2】
プラグ材料が多孔体のみからなる請求項1に記載のプラグ部材。
【請求項3】
プラグ材料が多孔体および緻密体との複合体からなる請求項1に記載のプラグ部材。
【請求項4】
緻密体の気孔率が0〜20%である請求項1に記載のプラグ部材。
【請求項5】
前十字靱帯再建術に使用する請求項1に記載のプラグ部材。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−223373(P2012−223373A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−93764(P2011−93764)
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【出願人】(500097119)株式会社エム・エム・ティー (7)
【Fターム(参考)】