説明

骨実体モデルおよびその製作方法

【課題】専用の造形装置を必要とせず、実臨床で使用可能なほど安価で且つ簡便に製作された骨実体モデルおよびその製作方法を提供する。
【解決手段】CTスキャナまたはMRIスキャナで撮影されたスライス画像を読み込み、読み込んだ各スライス画像毎に骨実体モデルに必要な画像を抽出し、抽出された2次元画像を積層して3次元画像に変換し、3次元画像を3次元CADに適したデータに変換し、3次元CADデータに基づいてNC加工データを作成し、NC加工データにしたがってNC加工機により発泡合成樹脂を切削加工することによって骨実体モデルを製作することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CTスキャナやMRIスキャナで撮影されたスライス画像データに基づいて製作された骨実体モデル及びその製作方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
関節変形や外傷にともなう人工関節の手術数は、高齢化社会の到来に伴って年々増加しており、本邦における手術数は年間14万件に達している。
【0003】
人工関節の手術手技に熟達するには多くの手術を経験する以外にないが、手術経験が豊富に得られる医療施設は限られている。
【0004】
また、手術手技を向上させるには、システム化された手術トレーニングが必要になるが、本邦では海外で行われているような屍体を使用した手術トレーニングは認められていないため、実際の手術に参加する以外に手立てがないのが実情である。
【0005】
一方、医療における画像診断分野においては、3次元画像を用いた診断が次第に普及してきており、運動器の分野においてもその応用が進んでいる。
【0006】
3次元シミュレーションソフトによって術前計画を立て、実物大立体モデルを製作することによりイメージをリアルにとらえて手術のシミュレーションを行うことは、術者の技量が大きく影響するような手術になるほど有効である。
【0007】
ヘリカルCTスキャナやMRIスキャナで得られた画像データ利用して実物大立体モデルを製作する方法として、最近、ラピッド・プロットタイピング(Rapid Prototyping)と呼ばれる造形方法が利用されている。
【0008】
ラピッド・プロットタイピングは、本来、製品開発をする際に試作品の製作に要していた多大な時間とコストを削減することを目的として普及した試作品の造形方法であり、金型を必要とせずに、実物大立体モデルを直接、製作することができる。
【0009】
上記ラピッド・プロットタイピングには、光造形法、粉末造形法、シート積層法、押し出し法があり、光造形法は、紫外線で硬化する液体樹脂を利用し断面形状を積み重ねることにより、粉末造形法は、赤外線でナイロン樹脂等を溶かして固め断面形状を積み重ねることにより、シート積層法は、インクジェットプリンタのように複数の溶液をノズルから射出し断面形状を積み重ねることにより、また、押し出し法は、溶かした樹脂をノズルから押し出して断面形状を積み重ねることにより、それぞれ目的とする形状を製作することができる。
【0010】
また、上記粉末造形法を利用して医療用立体モデルを製作する方法も知られている。
【0011】
具体的には、ヘリカルCTスキャナやMRIスキャナで撮影されたスライス画像に基づいて、これを医療用立体モデル画像に加工し、この医療用立体モデル画像に基づいて、これを単位厚さ毎のスライス画として、単位厚さ毎に敷設された粉末材料上にレーザ描画し固形化することで医療用立体モデルを直接製造する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2002−40928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上記した従来の医療用立体モデルの製造方法では、医療用立体モデルの製作にあたり、専用の造形装置を導入しなければならず、さらに、製作過程において積層工程に5〜9時間、固化工程に24時間費やす必要がある。
【0014】
そのため、製作された医療用立体モデルは自ずと高価になり、広く普及していないのが実情である。
【0015】
本発明は以上のような従来の医療用立体モデルの製造方法における課題を考慮してなされたものであり、専用の造形装置を必要とせず、実臨床で使用可能なほど安価で且つ簡便に製作することができる骨実体モデルおよびその製作方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、CTスキャナまたはMRIスキャナで撮影されたスライス画像を読み込み、
読み込んだ各スライス画像毎に骨実体モデルに必要な画像を抽出し、
抽出された2次元画像を積層して3次元画像に変換し、
3次元画像を3次元CADに適したデータに変換し、
3次元CADデータに基づいてNC加工データを作成し、
上記NC加工データにしたがってNC加工機により発泡合成樹脂を切削加工することによって骨実体モデルを製作する骨実体モデルの製作方法である。
【0017】
本発明において、切削加工された発泡合成樹脂の表面に表面処理を施せば、骨実体モデル表面を疵つきから保護することができる。
【0018】
本発明において、上記発泡合成樹脂は、安価で汎用性のある発泡スチロールを使用することが好ましい。
【0019】
本発明の骨実体モデルは、上記した製作方法によって製造されたものであることを要旨とする。
【0020】
本発明における骨実体モデルとは、人体の骨格を形成している任意の骨の実物大モデルを意味しており、例えば下肢骨の骨実体モデルでは、下肢骨を構成している、大腿骨、脛骨、足の骨等の各部品が示される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、専用の造形装置を必要とせず、実臨床で使用可能なほど安価で且つ簡便に骨実体モデルを製作することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る骨実体モデルの製作過程で使用するスライス画像の説明図である。
【図2】骨実体モデルの骨部抽出処理を示す説明図である。
【図3】骨部抽出処理された2次元画像から変換された3次元画像を示す説明図である。
【図4】3次元画像データの欠損部を示す説明図である。
【図5】欠損部の孔埋め処理を示す説明図である。
【図6】画面上に表示された骨実体モデルを示す説明図である。
【図7】製作された骨実体モデルを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面に示した実施の形態に基づいて本発明を詳細に説明する。
【0024】
本発明の骨実体モデル製作方法は、CTスキャナまたはMRIスキャナで撮影された、医用デジタル画像と通信の標準規格、DICOM(Digital Imaging and Communications in Medicine)形式のスライス画像をコンピュータに読み込むステップと、読み込んだ各スライス画像毎に骨実体モデルに必要な画像を抽出するステップと、抽出された2次元画像を積層して3次元画像に変換するステップと、3次元画像を3次元CADに適したデータに変換するステップと、3次元CADデータに基づいてNC加工データを作成するステップと、NC加工データにしたがってNC加工機により発泡合成樹脂を切削加工するステップとから構成されている。
【0025】
以下、骨実体モデルを製作する各ステップについて詳しく説明する。
【0026】
1.読込みステップ
図1において、CTスキャナまたはMRIスキャナで撮影したスライス画像データD〜Dを、通信回線を通じてまたは記録媒体を受け取ることによって医療機関から入手し、パーソナルコンピュータの記憶装置またはパーソナルコンピュータに接続された外部記憶装置に取り込む。
【0027】
スライス画像データD〜Dの取り込みには、例えばLEXI社製のソフト、ZedViewを使用することができる。
【0028】
上記ZedViewは、CT、MRIスキャナで撮影した2次元スライス画像から3次元可視化が可能なソフトであり、3次元形状データを汎用データフォーマットSTL(またはDXF)データとして出力することができるものである。
【0029】
なお、図中、Dはひざ部分の断層写真を示しており、Aは脛骨の周辺部、Bは脛骨断面を示している。
【0030】
2.画像抽出ステップ
各スライス画像を記憶装置から読み出してモニタ画面上に表示させ、骨実体モデルに必要な画像を抽出するためにコントラストを調整し、次いで、マスキング機能を用いて骨部分を抽出し、骨以外の画像を削除する。
【0031】
次に、輝度の認識範囲を設定し、骨以外の部分に現れるノイズを削除する。
【0032】
その結果、図2に示すように、画像着色部分の境界に面Cが形成される。
【0033】
上記した抽出作業を、スライス間隔0.8mmピッチでは、例えばひざ部分については約220枚について、また、ひざ部分から踵部分までについては640枚についてそれぞれ実施する。
【0034】
3.3次元画像変換ステップ
骨部分が抽出された2次元画像をZ軸方向に積層することにより、3次元画像に変換する。
【0035】
図3は3次元画像変換処理によって得られた大腿骨、脛骨、腓骨の3次元画像を示している。
【0036】
4.CADデータ変換工程
3次元画像データ(STL形式)のポリゴン量を調整し、3次元CAD作業に適した容量に最適化する。
【0037】
3次元画像処理ソフトウエアでは、物体の面を三角形(ポリゴン)の集合として表現するため、そのままでは多大な処理時間が必要となる。そこで、ポリゴン量を減らして最適化を図る。
【0038】
具体的には、3次元画像データを、データ量の少ないIGS形式に変換する。それにより、3次元画像データは曲面を含んだ面によって表現される。
【0039】
また、この段階で3次元画像データに欠損部がある場合、後述するNC加工において加工工具がその欠損部に突っ込むといったトラブルが生じるためデータの修正を行う。
【0040】
具体的には、欠損部周縁の線分には方向性が存在せず、線のつながりが不明なため、欠損部の空間に架空の線を挿入する。
【0041】
その架空線の矛盾を調べ、平均値にて架空線を修正する。
【0042】
修正された架空線と既存の欠損部周縁との接続部分に三角形(ポリゴン)の図形を挿入する。
【0043】
図4は、欠損部Eに三角形Fが挿入された状態を示している。E′は欠損部周縁を示している。
【0044】
次に、作成された三角形の辺に沿って順次面を作成していく。
【0045】
図5は、面を作成し欠損部を埋めていく過程を示している。
【0046】
欠損部が面で埋められると、骨実体モデルを作成する必要部位を画面上で選定する。本実施形態では必要部位として脛骨を選定する。
【0047】
次いで、選定された脛骨について加工の向き、加工基準の設定、加工範囲(脛骨の上部とする)、加工順序を設定する。
【0048】
図6は、画面上に表示された脛骨の上部を示している。
【0049】
次いで、ワークサイズを決定し、加工工具を選定する。
【0050】
本発明ではワークの材料として発泡スチロールを使用するため、加工工具にほとんど負荷が加わらないという利点がある。
【0051】
また、発泡倍率15〜60倍(密度:60〜16kg/m)の発泡スチロールをワークとして使用すれば、加工時に割れを起こすことなく骨実体モデルを製作することができる。特に、発泡倍率15倍で成形された発泡スチロールは、複雑な形状を有する骨実体モデルを正確に加工するのに適している。
【0052】
なお、本実施形態では発泡スチロールを使用したが、これに限らず、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂を原料とした発泡合成樹脂を使用することもできる。
【0053】
また、フェノール樹脂、ポリ塩化ビニル、ユリア樹脂、シリコーン、ポリイミド、メラミン樹脂等も発泡化して用いることができる。
【0054】
5.NC加工データ作成工程
次いで、加工用パス(NC加工データ)を作成する。
【0055】
加工用パスを作成すると、画面上で切削状態をシミュレーションし、骨実体モデルの加工が想定通りに行われるかを検証する。
【0056】
シミュレーションによって検証が終わると、NCデータをNC加工機に転送し、加工指示書を作成する。
【0057】
6.切削工程
本実施形態における切削加工条件は以下の通りである。
a.荒加工
ボールエンドミル径 φ10〜30
回転数 4,000〜6,000rpm
送り速度 7,000〜9,000mm/分
b.仕上げ加工
ボールエンドミル径 φ6〜20
回転数 7,000〜9,000rpm
送り速度 3,000〜4,500mm/分
【0058】
従来の造形方法は、断面形状を一方向に積み重ねることによって目的とする形状を製作するため、平面的な造形には適しているものの、例えば脛骨のような縦長物体の造形には不向きである。また、オーバーハング部分があると造形することができないという欠点がある。
【0059】
これに対し、本発明の骨実体モデルの製作方法は、NC加工機による3軸加工が可能なため、縦長物体であってもワーク(発泡スチロールのブロック)を水平方向に配置することによって加工することが可能であり、また、オーバーハング部分があっても骨実体モデルを精度良く製作することができる。
【0060】
具体的には、脛骨画像を画面上で水平方向に配置し、脛骨の上部前半分については加工用パスをX軸方向(ワーク長手方向と直交する方向)およびZ軸方向(ワーク高さ方向)にセットしてNC加工機による切削を行う。
【0061】
切削によってワークから脛骨の前側上部が現れると、次に、加工用パスをY軸方向(ワーク長手方向)およびZ軸方向にセットして脛骨の前側を切削していく。上記加工は脛骨の前側半分を切削するために行われる。
【0062】
次に、ワークを天地逆にセットし、脛骨の上部の背面側について、加工用パスをX軸方向およびZ軸方向にセットして切削を行う。
【0063】
切削によってワークから脛骨の上部背面側が現れると、次に、加工用パスをY軸方向およびZ軸方向にセットして脛骨の背面側を切削していく。
【0064】
上記加工を実施することにより、図7に示すように、脛骨の骨実体モデルを製作することができる。
【0065】
上記骨実体モデルの切削に要した時間は約3時間であった。
【0066】
7.表面処理工程
発泡スチロールを切削することにより得られた骨実体モデルの表面に表面処理剤を刷毛で塗布する。上記表面処理剤としては、ポリ酢酸ビニル樹脂やポリエステル樹脂を使用することができる。
【0067】
表面処理剤を塗布した後、塗布面を乾燥させる。
【0068】
切削された発泡スチロールの表面に表面処理剤を塗布すれば、骨実体モデル表面を疵付きから保護することができる。
【0069】
また、表面処理剤に顔料を配合すれば、実物に近似した骨実体モデルを製作することもできる。
【符号の説明】
【0070】
A 脛骨の周辺部
B 脛骨断面
〜D スライス画像データ
E 欠損部
E′ 欠損部周縁
F 三角形

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CTスキャナまたはMRIスキャナで撮影されたスライス画像を読み込み、
読み込んだ各スライス画像毎に骨実体モデルに必要な画像を抽出し、
抽出された2次元画像を積層して3次元画像に変換し、
3次元画像を3次元CADに適したデータに変換し、
3次元CADデータに基づいてNC加工データを作成し、
上記NC加工データにしたがってNC加工機により発泡合成樹脂を切削加工することによって骨実体モデルを製作することを特徴とする骨実体モデルの製作方法。
【請求項2】
切削加工された発泡合成樹脂の表面に表面処理を施す請求項1に記載の骨実体モデルの製作方法。
【請求項3】
上記発泡合成樹脂が発泡スチロールからなる請求項1または2に記載の骨実体モデルの製作方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の製作方法によって製造された骨実体モデル。

【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−253009(P2011−253009A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126058(P2010−126058)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【出願人】(500409219)学校法人関西医科大学 (36)
【出願人】(310004600)株式会社坂本設計技術開発研究所 (1)
【Fターム(参考)】