説明

骨密度を増加させるための医薬組成物の製造

本発明は、治療すべき対象においてCART(コカインおよびアンフェタミン調節性転写産物)由来ペプチドの血清レベルの上昇を連続的にもたらすことにより骨密度を増加させるための医薬組成物の製造のための、ヒトCARTの生物活性を有するCART由来ペプチドの使用に関する。適切には、徐放製剤からの長期にわたる該CART由来ペプチドの徐放により、該CART由来ペプチドの血清レベルの上昇を連続的にもたらす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨密度(BMD)を増加させるための医薬組成物の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
骨密度の減少は例えば骨粗鬆症において生じる。骨粗鬆症は、確立され十分に定義づけされた疾患であり、欧州、日本および米国において7500万人以上を冒しており、欧州および米国だけでも毎年230万人以上の骨折を引き起こしている。
【0003】
低い骨密度および骨組織の微小構造の劣化は骨脆弱性の増加を招く。骨密度の減少は加齢と共に生じ、骨折率は年齢と共に著しく増加して、有意な罹患率および相当な死亡率を招く。
【0004】
骨粗鬆症は骨折を引き起こすだけでなく、高齢者において命を脅かしうる二次的合併症のために人を寝たきりにする。骨粗鬆症は背部痛および身長の短縮をも引き起こすため、該疾患およびそれに伴う骨折の予防は高齢者における健康、生活の質および自立性を維持するために不可欠である。
【0005】
骨粗鬆症は、女性において、男性の3倍多く見られる。これは1つには、女性が、より低い最大骨量を有するからであり、また、1つには、閉経時に生じるホルモン変化によるものである。エストロゲンは成人期の骨量の維持における重要な機能を有し、通常は50歳前後で、レベルが低下するにつれて骨減少が生じる。また、女性は男性より長生きであり、したがって、骨量における、より大きな減少を示す。
【0006】
骨粗鬆症自体は特異的症状を有さない。その主な帰結は骨折のリスクの増大である。骨粗鬆症性骨折は、健常者が通常は骨折しない状況で生じる骨折である。典型的な脆弱性骨折は脊柱、臀部および腰部において生じる。また、加齢に伴う落下のリスクの増大も骨折を招きうる。
【0007】
種々の薬物、例えば、乳癌の治療において使用されるものは骨減少を引き起こすことが公知である。骨密度は、無活動、例えば、就床安静によっても減少しうる。これらの場合の骨減少は、しばしば、可逆的である。
【0008】
骨密度を増加させるための新規療法、特に、骨粗鬆症および可逆的骨減少(例えば、薬物使用または無活動により生じるもの)の治療における使用のための骨密度を増加させるための新規療法を提供することが、本発明の目的である。
【0009】
コカインおよびアンフェタミン調節性転写産物(CART)は、中枢(視床下部、下垂体)、末梢および腸神経系において発現されるペプチド/神経伝達物質である。また、CARTは膵臓(内分泌細胞)、胃腸管(G細胞)および卵巣においても発現される。CARTは、摂食、薬物報酬(drug reward)、ストレスおよび心血管機能に関与していると考えられている。
【0010】
CARTは更に、骨吸収において或る役割を果たしていることが、Elefteriouら(Nature 434:514−520(2005))に記載されている。彼らは、レプチンを欠くマウス((ob/ob)マウス)またはその受容体を欠くマウス((db/db)マウス)を分析する際にCARTを特定した。これらの突然変異マウスは、表現型異常、例えば、肥満および不妊であること、ならびに低い交感神経緊張および高い骨量を有することにより特徴づけられた。CARTは主として視床下部で発現されるが、発現は、下垂体、膵臓および副腎においても観察されている。視床下部ニューロンにおける発現はレプチン注射により増強され、ob/obマウスにおいては存在しない。CARTノックアウトマウスは明白な表現型異常を有さないが、主として、低い骨量により特徴づけられる(〜50%減少したBV/TV(骨体積/組織体積))。
【0011】
CART発現はMc4R−/−マウスにおいても分析されている。Deok Ahnら(Endocrinology 147(7):3196−3202(2006))は、Mcr4の対立遺伝子を欠くヒトまたはマウスが、骨吸収パラメーターにおける減少、高い骨量ならびにCART血清レベルおよび/または視床下部発現における増加を示すことを開示した。また、CARTシグナリングが骨吸収の減少を引き起こすことが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Elefteriouら,Nature 434:514−520(2005)
【非特許文献2】Deok Ahnら,Endocrinology 147(7):3196−3202(2006)
【発明の概要】
【0013】
発明の概括
本発明につながった研究において、驚くべきことに、徐放系を用いるrCART55−102ペプチドでのマウスの処理がBMDおよび他の関連骨パラメーターの確固たる増加をもたらすことが見出された。ラットおよびマウスのようなげっ歯類は骨粗鬆症に関する十分に受け入れられている動物モデルであり、したがって、それらにおいて得られた結果はヒトの場合の推測に用いられうる。
【0014】
前記文献における研究は全て、CARTの視床下部CART発現における内因性増加に関するものである。本発明において、血清における外因性CARTの末梢性増加が骨密度の増加をもたらすことが示された。これは前記文献からは予想できなかったであろう。
【0015】
したがって、本発明は、骨量疾患の治療または予防および骨折修復のために骨密度を増加させるための医薬組成物の製造のための、ヒトCART(コカインおよびアンフェタミン調節性転写産物)の生物活性を有するCART由来ペプチドの使用であって、該治療が、治療すべき対象において該CART由来ペプチドの血清レベルの上昇を連続的にもたらすことを含む、使用に関する。
【0016】
詳細な説明
本発明は、治療すべき対象においてCART由来ペプチドの血清レベルの上昇を連続的に誘導することにより骨密度および/または骨量を増加させるための医薬組成物の製造のための、CART由来ペプチドの使用を提供する。
【0017】
CARTは、哺乳動物における摂食行動および体重調節の潜在的メディエーターとして大いに注目されている神経ペプチドである。ヒトCART遺伝子は、肥満に関する感受性遺伝子座であることが既に示されている遺伝子座である染色体5g13−14に位置づけられている。
【0018】
CARTは種の間で進化的に非常に良く保存されており(ラットとヒトとの間で95%のアミノ酸同一性)、該ペプチドのアミノ末端領域においては100%の同一性を有する。この領域は全ての生物活性CARTペプチドに存在し、あらゆる種において厳密に保存されている6個のシステイン残基を含有する。ジスルフィド結合の破壊は生物活性の喪失をもたらす。
【0019】
ラットの完全長プレプロCARTは129アミノ酸よりなる。完全長ヒトCARTは116アミノ酸を含む。シグナルペプチド(残基1−27)の非存在下では、ラットプロCARTは102残基(長形態)または89残基(短形態)を有する。現在までに、以下のような多数の生物活性CARTペプチドが記載されている:げっ歯類におけるCART55−102およびCART62−102ならびにヒトにおけるCART42−89およびCART49−89。
【0020】
CART前駆体の最も広範に研究されている産物はrCART55−102であり、これは一般にCARTと称される。rCART55−102の生物活性は、例えば運動活性、摂食および不安プレパルス(pre−pulse)抑制を含む種々の生物学的モデルに関して記載されている。より短い形態も生物活性を保有することが示されているが、詳細には記載されていない。図1には、ヒト、マウスおよびラットのタンパク質配列アライメントならびにCARTの構造が示されている。
【0021】
本発明の実施形態においては、コカインおよびアンフェタミン調節性転写産物(CART)由来ペプチドは完全長コカインおよびアンフェタミン調節性転写産物(CART)自体、特に、それぞれ129および116アミノ酸のラット、マウスまたはヒト形態である。完全長CARTは、組換え的に(Thim L.ら,FEBS Letters 428:263−268(1998);Couceroら,Protein expression and purification 32:185−193(2003))、またはペプチド合成(Couceroら,Protein expression and purification 32:185−193(2003);Dodsonら,Peptides for the New Millennium,Proceedings of the American Peptide Symposium,16th,Minneapolis,MN,United States,June 26−July 1,1999,Meeting Date 1999,136−137(2000))により得られうる。
【0022】
本出願においては、CARTなる語は、特に示さない限り、広義に用いられる。すなわち、それは、完全長CART、およびその変異体、例えば断片、類似体、誘導体または修飾体を含む。変異体は、例えば、1以上のアミノ酸が1以上の他のアミノ酸により置換されている又は1以上のアミノ酸が修飾されている若しくは欠失しているCART由来ペプチドまたはタンパク質である。変異CARTの生物活性を変化させないと考えられる適当なアミノ酸置換は、例えば、Dayhof,M.D.,Atlas of protein sequence and structure,Nat.Biomed.Res.Found.,Washington D.C,1978,vol.5,suppl.3に記載されている。関連アミノ酸間のアミノ酸置換または進化において頻繁に生じている置換としては、とりわけ、Ser/Ala、Ser/Gly、Asp/Gly、Arg/Lys、Asp/Asn、Ile/Valが挙げられる。この情報に基づき、LipmanおよびPearsonは、迅速かつ高感度なタンパク質比較のための及び相同ポリペプチド間の機能的類似性を決定するための方法を開発した(Science 227,1435−1441,1985)。
【0023】
あるいは、CART由来ペプチドは、完全長ヒトCARTの、またはヒトCARTの生物活性を有するラットもしくはマウスCARTの断片、類似体または誘導体である。断片、類似体または誘導体がヒトCARTの生物活性を尚も保有するかどうかを決定するために、細胞外シグナル関連キナーゼ(ERK)の刺激に対する該断片、類似体または誘導体の効果を下垂体由来細胞系AtT20もしくはGH3において(Lakatosら,Neuroscience Letters 384:198−202(2005))、またはウシ顆粒膜細胞(Senら,Molecular Endocrinology 22(12):2655−2676(2008))において試験することが可能である。
【0024】
ヒトCARTの生物活性を尚も有するためには、CART由来ペプチドでの処理は少なくとも、CART由来ペプチドの非存在下のビヒクルと比較して、それらの3つの細胞系のそれぞれにおいて、10μMの濃度においてP−ERK1/2の1.2倍の増加、好ましくは、1.5倍の増加、より好ましくは、0.1μMの濃度においてP−ERK1/2活性の2倍の増加を招くべきである。
【0025】
あるいは、CART由来ペプチドの生物活性は、実施例3およびSenら(Endocrinology 148(9):4400−4410(2007))に記載されているとおり、ウシ顆粒膜細胞においてFSH誘導性17β−エストラジオール(E2)産生を抑制するその能力に関して試験されうる。CART由来ペプチドでの処理は少なくとも、1μMのCART由来ペプチドの濃度においてFSH誘導性17β−エストラジオール産生の1.2倍の減少、好ましくは1.5倍の減少、より好ましくは2倍の減少、より一層好ましくは3倍の減少を招くべきである。最も好ましくは、CART由来ペプチドでの処理は、ビヒクルと比較して、1nMの濃度においてE2産生における1.5倍の減少を招く。
【0026】
本発明のCART活性が維持されているという最終的な証拠は、実施例1に記載されている実験を繰返すことにより得られうる。
【0027】
ラットCART断片は、望ましくは、少なくともアミノ酸55−102、61−102または62−102を含む。ヒトCART断片は、望ましくは、少なくともアミノ酸42−89、48−89および49−89を含む。そのようなCART断片のアミノ酸配列は以下のとおりである。
【0028】
ラットCART断片55−102
【0029】
【化1】

【0030】
ラットCART断片61−102
【0031】
【化2】

【0032】
ラットCART断片62−102
【0033】
【化3】

【0034】
ヒトCART断片42−89
【0035】
【化4】

【0036】
ヒトCART断片48−89
【0037】
【化5】

【0038】
ヒトCART断片49−89
【0039】
【化6】

【0040】
また、本発明の一部は、前記に挙げたペプチド配列に対して少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%、最も好ましくは少なくとも99%の同一性を示すCART由来ペプチドの使用である。本明細書中で用いる配列同一性の割合はCART由来ペプチドと参照配列との間の同一アミノ酸の数である。適当な参照配列はRefSeqペプチド:NP 004282.1(ヒト)、NP 001074962.1(マウスイソ型2)、NP 038760.3(マウスイソ型1)、NP 058806.1(ラット)である。これらの配列は、National Center for Biotechnology Information(NCBI)からの、対応する特徴および書誌的アノテーションを有するヌクレオチドおよびタンパク質配列の公開データベースであるRefSeqデータベースにおいて見出されうる。
【0041】
CART変異体の形態の代替的CART由来ペプチドは置換、修飾および/または欠失アミノ酸を有する。修飾は、好ましくは、ラットCARTにおけるシステイン残基68−86、74−94および88−101間ならびにヒトCARTにおけるシステイン残基55−73、61−81および75−88間のジスルフィド結合が無傷のまま維持されCARTの生物活性を妨げないような修飾である(図1を参照されたい)。
【0042】
本発明による骨密度の増加は、好ましくは、骨粗鬆症(女性における閉経後骨粗鬆症ならびに男性における特発性および原発性性機能低下性骨粗鬆症を含む)、グルココルチコイド誘導性骨粗鬆症、薬物誘導性骨減少(例えば、アロマターゼインヒビターおよびGnRH受容体モジュレーターの使用の結果としての又は神経性食欲不振症の結果としてのエストロゲン欠損症誘導性骨減少を含む)、非活動または不動誘導性骨減少、歯周炎誘導性骨減少、骨折(すなわち、骨折治癒)、閉経後女性における背部痛、骨形成不全症の治療または予防のためである。
【0043】
本発明による治療は、適切には、治療すべき対象においてCART由来ペプチドの血清レベルの上昇を連続的にもたらすことにより、特に、長期にわたるその徐放により行われる。
【0044】
CART由来ペプチドの徐放は、該ペプチドを徐放製剤中に含有させることにより達成されうる。ヒトにおける使用のためのそのような徐放製剤は当技術分野で公知であり、例えば、生分解性高分子マトリックスに基づくものである(Chan YPら,Expert Opin Drug Deliv.4(4):441−51(2007);Shimizu Tら,Biochem Biophys Res Commun.367(2):330−5(2008))。
【0045】
もう1つの製剤は、例えば、インプラントまたは膣リングである。インプラントおよび膣リングは当業者に公知であり、例えば、Power Jら,Cochrane Database Syst Rev.18(3):CD001326(2007);De Leede LGら,Contraception 34(6):589−602(1986);およびReddy KVら,Reproduction 128:117−126(2004)に記載されている。
【0046】
本明細書中で用いる「長期」は、1〜3ヶ月、好ましくは3〜6ヶ月、より好ましくは6〜12ヶ月、より一層好ましくは12〜24ヶ月を含む。
【0047】
骨密度の増加を達成するためには、CART由来ペプチドの血清レベルを、治療すべき対象において、CARTの内因性血清レベルと比較して少なくとも1.3倍、好ましくは少なくとも2倍、より好ましくは少なくとも3倍、そして5倍まで増加させる。1つの実施形態においては、CARTの血清レベルは30〜650pg/mlである。
【0048】
CARTの血清レベルを連続的に上昇させた場合に骨密度に対する治療効果が得られることが本発明において判明した。これは、血清におけるCART由来ペプチドの連続的放出により、またはCART由来ペプチドの消失を回避もしくは抑制することにより達成されうる。
【0049】
本明細書中で用いる「骨密度(BMD)の増加」は、DEXAスキャンにより測定した場合、プラセボ治療対象と比較して1.05倍、好ましくは1.3倍、より好ましくは1.5倍、より一層好ましくは2倍のBMD値の増加を含む。二重エネルギーX線吸収法(DEXA)は骨密度(BMD)の測定手段であり、最も広く使用されており最も詳細に研究されている骨密度測定技術である。
【0050】
本発明の使用のためのCART由来ペプチドは、典型的には、徐放製剤、特に徐放インプラントの形態で投与されうる。この形態では、毎月、数ヶ月ごと、または1もしくは2年ごとに、僅か1用量が要求されるに過ぎない。
【0051】
本発明は更に、コカインおよびアンフェタミン調節性転写産物(CART)由来ペプチドと適当な賦形剤とを含む医薬組成物に関する。該医薬組成物は、好ましくは、徐放製剤である。徐放製剤を製造する場合、徐放マトリックス、例えば生分解性高分子マトリックスおよび場合によっては通常の添加物の使用が想定される。一般に、CART由来ペプチドの機能を妨げない任意の医薬上許容される添加物が本発明において使用されうる。
【0052】
本発明のもう1つの態様における本発明は、CART由来ペプチドを含有するインプラントを提供する。もう1つの実施形態においては、本発明は、CART由来ペプチドを含有する膣リングに関する。該インプラントおよび膣リングは、適切には、徐放マトリックス中に含有されたCART由来ペプチドを含む。
【0053】
本発明は更に、治療すべき対象においてCART由来ペプチドの血清レベルの上昇を連続的にもたらすことを含む、骨密度を増加させるための方法に関する。本発明はまた、骨粗鬆症(女性における閉経後骨粗鬆症ならびに男性における特発性および原発性性機能低下性骨粗鬆症を含む)、グルココルチコイド誘導性骨粗鬆症、薬物誘導性骨減少(例えば、アロマターゼインヒビターおよびGnRH受容体モジュレーターの使用の結果としての又は神経性食欲不振症の結果としてのエストロゲン欠損症誘導性骨減少を含む)、非活動または不動誘導性骨減少、歯周炎誘導性骨減少、骨折(すなわち、骨折治癒)、閉経後女性における背部痛、骨形成不全症の治療または予防のための方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】ヒト、マウスおよびラットCARTのタンパク質アライメント。*はマウス、ラットおよびヒトCART配列の間の相同性を示す。ヒトCART42−89が太字で示されている。
【図2】対照マウスおよびrCART55−102徐放ペレットが移植されたマウスからのT=0、28および60日における遠位大腿の柱状(trabecular)骨密度(BMD)データ(P<0.05;**p<0.01;***p<0.001)。
【図3】rCART55−102徐放ペレットを有するマウスまたはrCART55−102ペプチドの毎日の注射で処理されたマウスのT=30日における遠位大腿の柱状骨密度。
【図4】ウシ顆粒膜細胞におけるFSH誘導性17β−エストラジオール(E2)産生のラットCART55−102誘導性抑制。
【0055】
以下の実施例において本発明を更に例示するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
【0056】
実施例
【実施例1】
【0057】
マウスにおける骨密度増加
徐放CART治療によるマウスにおける骨密度増加
この実験においては、3つの異なる濃度のCARTペプチドでマウスを処理した。該実験は、12週齢のC57Bl/6J雌マウスにおいて行い、4つの実験群(1群当たりn=5)よりなるものであった。最初のマウス群にプラセボ徐放ペレット(SX−999、60日間の徐放ペレット、Innovative Research of America,Sarasota,Florida)を投与した。残りの3つの群を、20μg、50μgまたは100μg(2×50μg)ラットCART 55−102ペプチド(rCART)(Phoenix Pharmaceuticals,Inc.Belmont,CA)を含有するSX−999徐放ペレットで処理した。マウスを注射麻酔薬(Hypnorm(VetaPharma,Leeds,UK)/Dormicum(Roche,Mijdrecht,The Netherlands))で鎮静させ、該ペレットを頚部に皮下移植した。
【0058】
骨構造および密度をインビボマイクロCT測定(Skyscan1076マイクロ−CTスキャナー,Skyscan,Kontich,Belgium)により遠位大腿骨においてT=0に測定した。スキャン(走査)は9μmの分解能で行った。柱状骨分析を、大腿骨の遠位成長板の150μm近位の2mmのスライス上で行った。第28日および第60日にインビボマイクロ−CT測定を繰返した。T=0、T=28およびT=60日におけるプラセボ群のBMD値を100%に設定し、20μg、50μgおよび100μg(2×50μg)CART処理群のBMD値をプラセボ群に対して相対的に計算した。値は個々のデータの平均+SDとして表されている。統計分析のために、標準的なスチューデントT検定(両側)において、処理群を対応時点のプラセボ群と比較した。P<0.05が有意とみなされた。
【0059】
結果を図2に示す。結果は、100μg CART群においてはプラセボ群と比較して28日後の柱状骨密度(BMD)における50〜60%の増加を示した。60日後、BMDは100μg CART群では更に増加し、50μg CART群でも有意に増加した。BMDは100μgおよび50μg群においてそれぞれ80%および40〜50%増加した。
【0060】
これらのデータは、徐放インプラント運搬による28日間にわたるCARTペプチドの連続的放出が、柱状BMDを50%増加させるのに十分なものであることを示している。これは骨粗鬆症の治療または予防における末梢投与CARTペプチドの可能性を示している。
【実施例2】
【0061】
CART徐放製剤と毎日のCART注射との比較
この実験においては、徐放製剤により骨密度を改善するためのCARTペプチドの有効性をCARTの毎日の注射と比較した。該実験は、12週齢のC57Bl/6J雌マウスにおいて行い、4つの実験群(1群当たりn=5)よりなるものであった。最初のマウス群において、2つのプラセボ徐放ペレット(SX−999、60日間の徐放ペレット、Innovative Research of America,Sarasota,Florida)を頚部に皮下移植した。第2の群において、50μg ラットCART 55−102(Phoenix Pharmaceuticals,Inc.Belmont,CA)をそれぞれ含有する2つのSX−999徐放ペレットを頚部に皮下移植した。残りの2つの群には、ビヒクル(0.9% NaCl)、または0.9% NaCl中の2μgのラットCART55−102ペプチドを毎日、皮下注射した。
【0062】
マウスを注射麻酔薬(Hypnorm(VetaPharma,Leeds,UK)/Dormicum(Roche,Mijdrecht,The Netherlands))で鎮静させ、インビボマイクロCT測定(Skyscan1076マイクロ−CTスキャナー,Skyscan,Kontich,Belgium)により遠位大腿骨においてT=0およびT=30日に骨密度を測定した。血清CARTレベルを測定するために、眼窩穿刺により血液を採取した。BMD(g/cm)を個々のデータの平均+SDとして表した。統計分析を、スチューデントT検定(両側)を用いて行った。P<0.05が有意とみなされた。
【0063】
結果を図3に示す。結果は、CART徐放ペレットで処理されたマウスが、30日後に、プラセボペレット群と比較して柱状骨密度(BMD)における50%の増加を示したことを示している。2μgのラットCART55−102の毎日の注射を受けた群はBMDの増加を示さなかった。これらのデータは、徐放インプラント運搬による30日間にわたるCART血清レベルの連続的上昇が柱状BMDを有意に増加させることを示している。
【実施例3】
【0064】
ウシ顆粒膜細胞におけるFSH誘導性17β−エストラジオール産生のCART誘導性抑制
近くの食肉処理場において筋肉倍加(double muscled)ウシからの卵巣を得、発情周期のランダムな段階における3〜5mmの卵胞から顆粒膜細胞を集めた。抗生物質(100 IU/ml ペニシリンおよび0.1mg/ml ストレプトマイシン(Invitrogen,Carlsbad,CA,USA))、10ng/mL インスリン(Schering−Plough,Oss,The Netherlands)、4ng/mL 亜セレン酸ナトリウム(Sigma Aldrich,St.Louis,MO,USA)、5μg/mL アポ−トランスフェリン(Sigma Aldrich,St.Louis,MO,USA)および10−7M アンドロステンジオン(Org 6,Schering−Plough,Oss,The Netherlands))で補足された培地(M505培地(Gibco Invitrogen,Carlsbad,CA,USA)内に卵胞を37℃で配置した。卵胞を針で破裂させ、該細胞を細胞濾過器(70μmのナイロン,Becton Dickinson,Bedford,USA)に通した。細胞を340×gで10分間遠心分離し、培地に再懸濁させた。0、10−6、10−7、10−8、10−9、10−10、10−11または10−12、M ラットCART55−102(Phoenix Pharmaceuticals Inc.,Belmont,CA,USA)と組合された0、20、100または300m単位のFSH(Org 32489,Schering−Plough,Oss,The Netherlands)の存在下、加湿雰囲気(5% CO、95% 空気)中、細胞(1ウェル当たり1×10個の生細胞)を96ウェルプレート内で37℃で7時間培養した。培地を48時間ごとに新しくした。7日後、17β−エストラジオールELISA(Diagnostic Systems Laboratories Inc.,Marburg,Germany)を用いて、該培地において17β−エストラジオールレベルを決定した。
【0065】
結果を図4に示す。該結果は、1μM CARTペプチドがウシ顆粒膜細胞のFSH誘導性17β−エストラジオール産生を100m単位のFSHの存在下で1.5倍、そして300m単位のFSHの存在下で3倍抑制しうることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨量疾患の治療または予防および骨折修復のために骨密度を増加させるための医薬組成物の製造のための、ヒトCART(コカインおよびアンフェタミン調節性転写産物)の生物活性を有するCART由来ペプチドの使用であって、該治療または予防が、治療すべき対象において該CART由来ペプチドの血清レベルの上昇を連続的にもたらすことを含む、使用。
【請求項2】
徐放製剤からの長期にわたる該CART由来ペプチドの徐放により該CART由来ペプチドの血清レベルの上昇を連続的にもたらす、請求項1記載の使用。
【請求項3】
該徐放製剤が、インプラント、特に皮下インプラントの形態、または膣リングの形態である、請求項2記載の使用。
【請求項4】
該徐放製剤が生分解性高分子マトリックスの形態である、請求項2〜3のいずれか1項記載の使用。
【請求項5】
該CART由来ペプチドの消失を回避または抑制することにより該CART由来ペプチドの血清レベルの上昇を連続的にもたらす、請求項1または2記載の使用。
【請求項6】
該コカインおよびアンフェタミン調節性転写産物(CART)由来ペプチドが、完全長コカインおよびアンフェタミン調節性転写産物、ラットCART55−102、ラットCART61−102、ラットCART62−102、ヒトCART42−89、ヒトCART48−89およびヒトCART49−89よりなる群から選ばれる、請求項1〜5のいずれか1項記載の使用。
【請求項7】
骨密度の増加が、骨粗鬆症、薬物誘導性骨減少、非活動または不動誘導性骨減少、歯周炎誘導性骨減少、骨折、閉経後女性における背部痛、骨形成不全症の治療または予防、特に、女性における閉経後骨粗鬆症、男性における特発性および原発性性機能低下性骨粗鬆症ならびにグルココルチコイド誘導性骨粗鬆症の治療または予防のためである、請求項1〜6のいずれか1項記載の使用。
【請求項8】
長期が、1〜3ヶ月、好ましくは3〜6ヶ月、より好ましくは6〜12ヶ月、より一層好ましくは12〜24ヶ月を含む、請求項2〜7のいずれか1項記載の使用。
【請求項9】
該CART由来ペプチドの血清レベルの上昇を、CARTの内因性血清レベルと比較して少なくとも1.3倍、好ましくは少なくとも2倍、より好ましくは少なくとも3倍、そして5倍まで増加させる、請求項1〜8のいずれか1項記載の使用。
【請求項10】
上昇した該CART由来ペプチドの血清レベルが30〜650pg/ml血清である、請求項1〜8のいずれか1項記載の使用。
【請求項11】
骨密度(BMD)の増加が、二重エネルギーX線吸収法(DEXA)により測定した場合、プラセボ治療対象と比較して1.05倍、好ましくは1.3倍、より好ましくは1.5倍、より一層好ましくは2倍のBMD値の増加を含む、請求項1〜10のいずれか1項記載の使用。
【請求項12】
ヒトCARTの生物活性を有するCART由来ペプチドと適当な賦形剤とを徐放製剤中に含む、骨量疾患の治療または予防のために並びに骨折修復のために骨密度を増加させるための医薬組成物。
【請求項13】
女性における閉経後骨粗鬆症の治療のための、ヒトCART42−89、ヒトCART48−89およびヒトCART49−89の1以上を含む、請求項12記載の医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−515363(P2011−515363A)
【公表日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−500199(P2011−500199)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【国際出願番号】PCT/EP2009/053149
【国際公開番号】WO2009/115525
【国際公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(398057282)ナームローゼ・フエンノートチヤツプ・オルガノン (93)
【Fターム(参考)】