説明

骨密度増加剤及び抗更年期障害剤

【課題】新規な骨密度増加剤及び抗更年期障害剤を提供する。
【解決手段】杜仲葉乾燥物及び/又は杜仲葉抽出物を含有する骨密度増加剤及び抗更年期障害剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨密度増加剤及び抗更年期障害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
骨には、カルシウム、リン、マグネシウムなどで構成される骨量と、コラーゲン、リン酸マグネシウムなどで構成される骨質がある。骨量は、骨密度として一般にDEXA(二重エネルギーX線吸収測定法)で測定、評価される。
【0003】
骨密度は、一般的に20代でピークを迎え、その後徐々に低下していく傾向にあり、骨密度の低下による代表的な疾患として骨粗鬆症がある。骨は、常に形成と分解とを繰り返している器官であり、この一連のサイクルはリモデリングと呼ばれる。骨粗鬆症は、このリモデリングにおける分解が異常に進んだ状態である。骨粗鬆症では、大腿骨や脊椎骨などの網目部分に切断がみられることもあり、場合によっては周囲からの加重によりつぶれてしまうほど骨が弱くなっている。骨粗鬆症は、骨折を引き起こし、老年期では寝たきりの主要因であるなど生活の質を著しく損なわせる。
【0004】
骨密度は、老化によって低下するのみならず、ダイエット、運動不足、ハードなトレーニングによる負荷、妊娠、授乳、閉経などによっても低下する。特に女性の場合、閉経期、すなわち更年期になると、骨分解を抑制する作用を持つエストロゲンの分泌が急激に減少するため、これに伴い骨密度も急激に低下する。
【0005】
このため、年齢や性別を問わず、良好な骨密度を維持しておくことが重量であり、骨形成を維持、促進させるために必要なカルシウム、ビタミンD、ビタミンKなどの栄養成分を不足しないよう摂取することが推奨されている。また、骨形成の維持、促進を目的とする薬物として、ビスホスホネート製剤、選択的エストロゲン受容体モジュレーター、副甲状腺ホルモンなども開発されている。
【0006】
また、特に更年期には骨密度の低下をはじめ、様々な症状、いわゆる更年期障害を煩うことがあり、これは男女問わず生じ得る。個人差、性差により症状の差異はあるが、症状として、のぼせやほてりなどのホットフラッシュ、冷え、肩こりや腰痛などの痛み、疲労感、めまい、自律神経失調症様症状、動機、息切れ、耳鳴りなど多岐にわたり、更年期におけるエストロゲン分泌の減少も深く関与している。
【0007】
更年期障害を効果的に予防又は治療可能な物質として、エストロゲン様の作用を発揮することができる物質が挙げられる。例えば、これまでに、大豆に含まれるイソフラボンがエストロゲン様の作用を発揮することが知られている。しかしながら、更年期障害を効果的に予防乃至治療可能な手段の開発は現在においても強く求められている。
【0008】
一方、杜仲(Eucomica ulmoides oliver)は、中国中央部起源のトチュウ科トチュウ属の一科一属一種に分類される落葉性木本類であり、樹高が20mに達する喬木である。杜仲は一般にお茶と称するツバキ科の植物と比較してカフェインの量が少なく、また、その含有物も異なる。また、杜仲の葉及び樹皮には、引っ張ると裂け目から白く糸を引く成分が含まれており、これは温帯に分布する樹木では殆ど確認されていないトランス型高分子イソプレノイド「グッタペルカ」と称せられる物質である。
【0009】
杜仲葉は1980年代から飲料としての用途が普及している。一方、杜仲の樹皮は医薬品として取り扱われており、中国では高血圧症、腰痛、関節痛、腎臓病、肝臓病、ストレス、精力減退、利尿困難、物忘れなどに有効な漢方薬として利用されている。
【0010】
杜仲の葉と樹皮では含有成分が異なることが知られている。例えば、杜仲の葉にはイリドイド類が含まれているが樹皮には含まれておらず、一方で、樹皮にはリグナン類が含まれているが葉には含まれていない(非特許文献1、2、3及び4参照)。これまでに、杜仲の樹皮には骨密度低下の抑制効果があることが幾つか報告されており、その主な成分は、杜仲の樹皮にのみ存在するリグナン類のピノレジノール((+)-pinoresinol 4’4”-diglucoside)であることが知られている(非特許文献1及び5参照)。しかしながら、杜仲の葉については、骨密度の低下抑制に有用な成分に関する報告は未だなされていない。また同様に、杜仲の葉については、更年期障害の予防や治療に有効な成分に関する報告はなされていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】T. Deyama, International Symposium on Eucommia ulmoides, Vo. 1, No. 1, p. 21-27 (2007).
【非特許文献2】T. Nakamura et al., Natural Medicines, Vol. 51, No. 3, p. 275-277 (1997).
【非特許文献3】C. Takamura et al., J. Nat. Med., Vol. 61, p. 220-221, (2007)
【非特許文献4】C. Takamura et al., J. Nat. Med., Vol. 70, p. 1312-1316 (2007)
【非特許文献5】R. Zhang et al., Bone, Vo. 45, p. 553-559 (2009).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明は骨密度増加剤及び抗更年期障害剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねていたところ、杜仲葉抽出物に骨密度を有意に増加させる作用があることを見出した。また、本発明者らは、杜仲葉抽出物にエストロゲン様の作用があることを見出した。本発明は上記知見に基づきさらに検討を重ねた結果完成されたものであり、下記に掲げるものである。
(1)骨密度増加剤
項1−1.杜仲葉乾燥物及び/又は杜仲葉抽出物を含有する骨密度増加剤。
項1−2.イリドイド化合物を含有する骨密度増加剤。
項1−3.項1−1又は1−2に記載の骨密度増加剤、及び薬学的に許容される担体または添加剤を含有する、骨密度増加用の薬学的組成物。
(2)抗更年期障害剤
項2−1.杜仲葉乾燥物及び/又は杜仲葉抽出物を含有する抗更年期障害剤。
項2−2.イリドイド化合物を含有する抗更年期障害剤。
項2−3.項2−1又は項2−2に記載の抗更年期障害剤、及び薬学的に許容される担体または添加剤を含有する、抗更年期障害用の薬学的組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明の骨密度増加剤によれば、骨密度を有意に増加させることができる。また、本発明の骨密度増加剤は、このように骨密度を高めることができることから、骨密度の低下を抑制することができ、更には骨密度の低下そのものを防止することができる。
【0015】
このため、本発明の骨密度増加剤によれば、老化、ダイエット、運動不足、ハードなトレーニングによる負荷、妊娠、授乳、閉経など様々な要因による骨粗鬆症等の骨密度の低下に起因する疾患を予防、治療及び/又は改善することができる。また、本発明の骨密度増加剤によれば、このように骨密度の低下を抑制、防止できることから、骨密度を良好な状態に維持することができる。
【0016】
また、本発明の骨密度増加剤を有効成分として含有する薬学的組成物も、前記骨密度増加剤と同様の効果を発揮することができる。
【0017】
また、本発明の抗更年期障害剤は、エストロゲン様作用を備えている。このため、本発明の抗更年期障害剤によれば、骨粗鬆症などの骨密度の低下をはじめ、頻発月経、機能性出血などの月経異常、のぼせやほてりなどのホットフラッシュ、冷え、肩こりや腰痛などの痛み、疲労感、めまい、動機、息切れ、発汗異常などの自律神経失調症様症状、耳鳴り、膣炎、外陰掻痒症、性交障害、尿失禁等の泌尿生殖器の萎縮症状、更には動脈硬化、高血圧、狭心症、心筋梗塞、脳卒中などの心血管系疾患、アルツハイマー症や動脈硬化による認知症、不安感、憂鬱感などの精神神経症状など多岐にわたる更年期障害、特にエストロゲン分泌の減少が深く関与する更年期障害の予防、治療及び/又は改善が可能である。
【0018】
また、本発明の抗更年期障害剤を有効成分として含有する薬学的組成物も、前記抗更年期障害剤と同様の効果を発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1.骨密度増加剤
本発明の骨密度増加剤は、杜仲葉乾燥物及び/又は杜仲葉抽出物を含有することを特徴とする。
杜仲葉乾燥物
杜仲葉乾燥物は、好ましくは杜仲(Eucomica ulmoides oliver)の葉である杜仲葉を乾燥させる工程を経ることにより得ることができる。ここで乾燥は天日乾燥、遠赤外線照射、乾燥機(熱風乾燥、冷風乾燥、真空凍結乾燥)等の従来公知の方法に従って行うことができる。斯くして得られる杜仲葉乾燥物中の水分量は、制限されないが、通常12重量%以下であり、好ましくは8重量%以下、より好ましくは5重量%以下である。
【0020】
好ましくは、杜仲葉乾燥物は、上記乾燥工程に加えて、その前に杜仲葉を蒸す工程を経ることにより得ることができる。また、これらの工程に葉打ちや柔捻等の工程を組み合わせてもよい。このため、例えば杜仲葉乾燥物は、杜仲葉を蒸す工程、葉打ちする工程、柔捻する工程及び乾燥する工程を経て得ることができる。また、これらの工程に焙煎工程を組み合わせてもよい。
【0021】
杜仲葉には、イリドイド化合物が含まれていることが知られている。イリドイド化合物とは、1-イソプロピル-2,3-ジメチルシクロペンタンの骨格を有する化合物をいい、杜仲葉には、イリドイド化合物としてアスペルロシド、アスペルロシド酸、オークビン、オイコミシドA、オイコミシドB、オイコミシドC、オイコミオール、1-デオキシオイコミオール、エピオイコミオール、デアセチルアスペルロシド酸、スキャンデシド 10-O-アセテート、ゲニポシド酸が含まれていることが知られている(T. Nakamura et al., Natural Medicines 51(3), 275-277(1997);C.Takamura et al., J Nat Med (2007) 61:220-221;C.Takamura et al., J Nat Med (2007) 70:1312-1316等参照)。杜仲葉の主成分はイリドイド化合物であることから、骨密度増加の作用は、イリドイド化合物に由来する可能性が高いことが考えられる。アスペルロシド、アスペルロシド酸、オークビン、オイコミシドA、オイコミシドB及びオイコミシドC等のイリドイド化合物を多く含む杜仲葉乾燥物を調製する点で、焙煎工程を経ることなく杜仲葉乾燥物を得ることが好ましい。
【0022】
当該乾燥物は、未裁断のものであってもよく、裁断、粉砕処理されたものであっても良い。粉砕物は粗粉状及び細粉状のいずれの形状を有するものであってもよい。粉砕物は、例えば上記工程で得られた乾燥物を慣用の粉砕機(ジェットミル等)などに供して調製することができる。
杜仲葉抽出物
杜仲葉抽出物は、例えば、杜仲葉をそのまま若しくは乾燥し、さらに必要に応じてこれらを裁断若しくは粉砕した後、慣用の抽出方法(溶媒抽出、超臨界抽出など)に従って調製することができる。
【0023】
溶媒抽出を行う場合、使用する溶媒としては、例えば水(温水及び熱水を含む)、有機溶媒(メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール及びn−ブタノール等の炭素数1〜4の低級アルコール;プロピレングリコールや1,3−ブチレングリコール等の多価アルコール;アセトン等のケトン類;ジエチルエーテル、ジオキサン、アセトニトリル、酢酸エチルエステル等のエステル類;キシレン、ベンゼン、クロロホルム等)、またはこれらの混合物を挙げることができる。好ましくは水、低級アルコールまたはこれらの混合物であり、より好ましくは水(温水及び熱水を含む。好ましくは熱水)である。
【0024】
抽出方法は、杜仲葉抽出物が得られる限り制限されず、従来公知の方法であればよい。好ましくは、前述の通り、骨密度増加の作用は杜仲葉に含有されるイリドイド化合物に由来する可能性が高いと考えられることから、当該イリドイド化合物を抽出できる方法である。
【0025】
例えば、杜仲葉を水に浸漬させる方法が挙げられる。この際、必要に応じて攪拌してもよい。例えば、水を使用する場合、杜仲葉1重量部に対して、10〜800重量部、好ましくは100〜700重量部、より好ましくは200〜500重量部の割合になるように水の量を調整し、50〜100℃程度、好ましくは70〜90℃程度で、1〜60分、好ましくは5〜40分、より好ましくは10〜40分浸漬する方法が例示される。この温度及び時間の範囲内であれば、杜仲葉に含まれる成分、特にイリドイド化合物を効率よく抽出することができる。
【0026】
杜仲葉は制限されないが、好ましくは前述の杜仲葉乾燥物である。
【0027】
また、1度抽出に使用した杜仲葉を再度抽出に供してもよい。同じ葉を繰り返して抽出に供することで、葉に含まれる成分、特にイリドイド化合物をより多く抽出することができる。さらに、抽出物は1つの温度条件下で得られるものだけではなく、例えば、50〜60℃程度で低温抽出した杜仲葉抽出液と70〜100℃程度で高温抽出した杜仲葉抽出液とを混合することもできる。こうすることで、葉に含まれる複数の成分、特に複数のイリドイド化合物を含む杜仲葉抽出液を得ることができる。
【0028】
なお、水以外の溶媒を使用して抽出する場合は、上記条件を参考にして適宜設定することができる。
【0029】
杜仲葉抽出物は、上記抽出処理後、濾過や遠心分離等の定法の固液分離法により固形分を取り除くことにより取得、調製することができる。得られた抽出液はそのままの状態で使用することもできるが、その後濃縮したり、または乾燥処理(スプレードライ処理、凍結乾燥処理を含む)することもできる。また必要に応じて、乾燥後粉砕して粉末物として使用することもできる。
【0030】
また必要に応じて、得られた抽出物をさらに分画又は精製処理してもよい。分画又は精製処理は、杜仲葉抽出物中に含まれる成分、好ましくはイリドイド化合物を分画し、またその精製度を高める方法であればよく、定法に従って濾過処理またはイオン交換樹脂や活性炭カラム等を用いた吸脱着処理等を行うことができる。なお、かかる処理により、不純物に起因する色や臭いの除去(脱色や脱臭)をすることも可能になる。
【0031】
本発明の骨密度増加剤は、ヒトに投与(摂取)する場合、1日投与量中に、杜仲葉乾燥物の総量として乾燥重量換算で3〜420g程度、好ましくは3〜28g程度、より好ましくは3〜14g程度の割合で含むものである。また、本発明の骨密度増加剤は、1日投与量中に、杜仲葉抽出物の総量として乾燥重量換算で0.7〜7g程度、好ましくは0.7〜5g程度、より好ましくは0.7〜4g程度の割合で含むものである。
【0032】
また、本発明の骨密度増加剤は、1日投与量中に、イリドイド化合物の総量として5〜5000mg程度、好ましくは5〜330mg程度、より好ましくは5〜170mg程度の割合で含むものが好ましい。
【0033】
更に、好ましい実施態様として、本発明の骨密度増加剤は、1日投与量中に、アスペルロシドの総量として10〜300mg程度、好ましくは10〜150mg程度、より好ましくは10〜100mg程度の割合で含む。他の好ましい実施態様として、本発明の骨密度増加剤は、1日投与量中に、ゲニポシド酸の総量として50〜450mg程度、好ましくは50〜300mg程度、より好ましくは50〜150mg程度の割合で含む。
【0034】
1日あたりの投与量を、前述の範囲に設定することにより、一層効率よく骨密度の増加、骨密度の低下抑制及び/又は骨密度の低下防止を図ることができる。
【0035】
本発明の骨密度増加剤は、骨密度の増加、骨密度の低下抑制及び/又は骨密度の低下防止の必要がある患者に対して用いることができる。また、本発明の骨密度増加剤は、骨密度を良好な状態に維持しておくことを求める者に対して用いることができる。
【0036】
本発明の骨密度増加剤は、そのまま医薬品や医薬部外品(これらを総称して「薬学的組成物」という)として、また食品や特定保健用食品の有効成分として使用することもできるし、また当該骨密度増加剤を有効成分として含む医薬品や医薬部外品(薬学的組成物)を提供することもできる。以下に、当該骨密度増加剤を有効成分として含む薬学的組成物について説明する。
2.薬学的組成物
前記骨密度増加剤を有効成分として含む薬学的組成物は、前記骨密度増加剤を有効成分とし、骨密度の増加、骨密度の低下抑制及び/又は骨密度の低下防止を目的として用いられるものである。
【0037】
本発明が対象とする薬学的組成物は、その形態は特に制限されず、経口投与形態及び非経口投与形態(注射剤、点滴剤、点鼻剤、経皮吸収剤、坐剤など)のいずれもが含まれるが、好ましくは経口投与形態である。かかる経口投与形態としては、慣用の形態がいずれも含まれ、特に制限されないが、通常、液剤(シロップ等を含む)等の液状製剤(懸濁剤含む);及び錠剤、丸剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤(ソフトカプセルを含む)等の固形製剤が含まれる。
【0038】
本発明の薬学的組成物を固形剤の形態とする場合、例えば、錠剤の場合であれば、骨密度増加剤とともに用いる、薬学的に許容される担体として当該分野で従来公知のものを広く使用することができる。このような担体としては、例えば乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、ケイ酸等の賦形剤;水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドン、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、アルギン酸ナトリウム等の結合剤;乾燥デンプン、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、デンプン、クロスポビドン、ポビドン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等の崩壊剤;ステアリン、カカオバター、水素添加油等の崩壊抑制剤;第4級アンモニウム塩、ラウリル硫酸ナトリウム等の吸収促進剤;グリセリン等の保湿剤;デンプン、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸等の吸着剤;精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸末、ポリエチレングリコール等の滑沢剤等を使用できる。また、前記骨密度増加剤と薬学的に許容される担体を含有する組成物を、さらにゼラチン、プルラン、デンプン、アラビアガム、ヒプロメロース等を原料とする従来公知のカプセルに充填して、カプセル剤とすることができる。
【0039】
また、丸剤の形態とする場合も、薬学的に許容される担体として当該分野で従来公知のものを広く使用できる。その例としては、例えばブドウ糖、乳糖、デンプン、カカオ脂、硬化植物油、カオリン、タルク等の賦形剤、アラビアゴム末、トラガント末、ゼラチン、エタノール等の結合剤、ラミナラン、カンテン等の崩壊剤等を使用できる。
【0040】
上記以外に、添加剤として、例えば、薬学的に許容される界面活性剤、吸収促進剤、吸着剤、充填剤、防腐剤、安定剤、乳化剤、可溶化剤、浸透圧を調節する塩を、調製する形態に応じて適宜選択し使用することができる。
【0041】
本発明の薬学的組成物は、骨密度の増加、骨密度の低下抑制及び/又は骨密度の低下防止のために用いられる。このため、投与形態中に、これらの効果を発揮できる量の骨密度増加剤を含むことが好ましい。
【0042】
この限りにおいて特に制限されないが、具体的には、ヒトに投与(摂取)する場合、1日投与量中に、杜仲葉乾燥物の総量として乾燥重量換算で3〜420g程度、好ましくは3〜28g程度、より好ましくは3〜14g程度の割合で含むものである。また、本発明の薬学的組成物は、1日投与量中に、杜仲葉抽出物の総量として乾燥重量換算で0.7〜7g程度、好ましくは0.7〜5g程度、より好ましくは0.7〜4g程度の割合で含むものである。
【0043】
また、本発明の薬学的組成物は、1日投与量中に、イリドイド化合物の総量として5〜5000mg程度、好ましくは5〜330mg程度、より好ましくは5〜170mg程度の割合で含むものが好ましい。
【0044】
更に、好ましい実施態様として、本発明の薬学的組成物は、1日投与量中に、アスペルロシドの総量として10〜300mg程度、好ましくは10〜150mg程度、より好ましくは10〜100mg程度の割合で含む。他の好ましい実施態様として、本発明の薬学的組成物は、1日投与量中に、ゲニポシド酸の総量として50〜450mg程度、好ましくは50〜300mg程度、より好ましくは50〜150mg程度の割合で含む。
【0045】
本発明の薬学的組成物は、骨密度の増加、骨密度の低下抑制及び/又は骨密度の低下防止の必要がある患者に対して用いることができる。また、本発明の薬学的組成物は、骨密度を良好な状態に維持しておくことを求める者に対して用いることができる。
【0046】
これらの場合、本発明の薬学的組成物の投与方法は特に制限されず、1日1回または複数回、経口または非経口的に投与される。手間等の点から、好ましくは1日1回または2〜3回程度、経口的に投与する方法である。
【0047】
このような本発明の薬学的組成物によれば、骨密度を有意に増加させることができる。また、本発明の薬学的組成物によれば、このように骨密度を増加させることができることから、骨密度の低下を抑制することができ、更には骨密度の低下そのものを防止することができる。
【0048】
このため、本発明の薬学的組成物によれば、老化、ダイエット、運動不足、ハードなトレーニングによる負荷、妊娠、授乳、閉経など様々な要因による骨粗鬆症等の骨密度の低下に起因する疾患を予防、治療及び/又は改善することができる。また、本発明の薬学的組成物によれば、このように骨密度の低下を抑制、防止できることから、骨密度を良好な状態に維持することができる。
3.抗更年期障害剤
本発明の抗更年期障害剤は、杜仲葉乾燥物及び/又は杜仲葉抽出物を含有することを特徴とする。
杜仲葉乾燥物及び杜仲葉抽出物
本発明において抗更年期障害作用は、杜仲葉のエストロゲン様作用に起因する。また、前述の骨密度増加効果が認められた杜仲葉抽出物等においてエストロゲン様作用が認められている。このため、本発明の抗更年期障害剤を用いられる杜仲葉乾燥物及び/又は杜仲葉抽出物は、前述と同様にして得ることができる。
【0049】
本発明の抗更年期障害剤は、ヒトに投与(摂取)する場合、1日投与量中に、杜仲葉乾燥物の総量として乾燥重量換算で3〜420g程度、好ましくは3〜28g程度、より好ましくは3〜14g程度の割合で含むものである。また、本発明の抗更年期障害剤は、1日投与量中に、杜仲葉抽出物の総量として乾燥重量換算で0.7〜7g程度、好ましくは0.7〜5g程度、より好ましくは0.7〜4g程度の割合で含むものである。
【0050】
また、本発明の抗更年期障害剤は、1日投与量中に、イリドイド化合物の総量として5〜5000mg程度、好ましくは5〜330mg程度、より好ましくは5〜170mg程度の割合で含むものが好ましい。
【0051】
更に、好ましい実施態様として、本発明の抗更年期障害剤は、1日投与量中に、アスペルロシドの総量として10〜300mg程度、好ましくは10〜150mg程度、より好ましくは10〜100mg程度の割合で含む。他の好ましい実施態様として、本発明の抗更年期障害剤は、1日投与量中に、ゲニポシド酸の総量として50〜450mg程度、好ましくは50〜300mg程度、より好ましくは50〜150mg程度の割合で含む。
【0052】
1日あたりの投与量を、前述の範囲に設定することにより、一層効率よく更年期障害、特にエストロゲン分泌の減少が深く関与する更年期障害の予防、治療及び/又は改善を図ることができる。
【0053】
本発明の抗更年期障害剤は、更年期障害、特にエストロゲン分泌の減少が深く関与する更年期障害の予防、治療及び/又は改善の必要がある者(患者)に対して用いることができる。
【0054】
本発明の抗更年期障害剤は、そのまま医薬品や医薬部外品(これらを総称して「薬学的組成物」という)として、また食品や特定保健用食品の有効成分として使用することもできるし、また当該抗更年期障害剤を有効成分として含む医薬品や医薬部外品(薬学的組成物)を提供することもできる。以下に、当該抗更年期障害剤を有効成分として含む薬学的組成物について説明する。
4.薬学的組成物
前記抗更年期障害剤を有効成分として含む薬学的組成物は、前記抗更年期障害剤を有効成分とし、更年期障害、特にエストロゲン分泌の減少が深く関与する更年期障害の予防、治療及び/又は改善が可能である。
【0055】
本発明が対象とする薬学的組成物は、その形態は特に制限されず、経口投与形態及び非経口投与形態(注射剤、点滴剤、点鼻剤、経皮吸収剤、坐剤など)のいずれもが含まれるが、好ましくは経口投与形態である。かかる経口投与形態としては、慣用の形態がいずれも含まれ、特に制限されないが、通常、液剤(シロップ等を含む)等の液状製剤(懸濁剤含む);及び錠剤、丸剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤(ソフトカプセルを含む)等の固形製剤が含まれる。
【0056】
本発明の薬学的組成物に使用可能な、薬学的に許容される担体としては、当該分野で従来公知のものを広く使用することができ、前述と同様のものが例示される。
【0057】
本発明の薬学的組成物は、更年期障害、特にエストロゲン分泌の減少が深く関与する更年期障害の予防、治療及び/又は改善のために用いられる。このため、投与形態中に、これらの効果を発揮できる量の抗更年期障害剤を含むことが好ましい。
【0058】
この限りにおいて特に制限されないが、具体的には、ヒトに投与(摂取)する場合、1日投与量中に、杜仲葉乾燥物の総量として乾燥重量換算で3〜420g程度、好ましくは3〜28g程度、より好ましくは3〜14g程度の割合で含むものである。また、本発明の薬学的組成物は、1日投与量中に、杜仲葉抽出物の総量として乾燥重量換算で0.7〜7g程度、好ましくは0.7〜5g程度、より好ましくは0.7〜4g程度の割合で含むものである。
【0059】
また、本発明の薬学的組成物は、1日投与量中に、イリドイド化合物の総量として5〜5000mg程度、好ましくは5〜330mg程度、より好ましくは5〜170mg程度の割合で含むものが好ましい。
【0060】
更に、好ましい実施態様として、本発明の薬学的組成物は、1日投与量中に、アスペルロシドの総量として10〜300mg程度、好ましくは10〜150mg程度、より好ましくは10〜100mg程度の割合で含む。他の好ましい実施態様として、本発明の薬学的組成物は、1日投与量中に、ゲニポシド酸の総量として50〜450mg程度、好ましくは50〜300mg程度、より好ましくは50〜150mg程度の割合で含む。
【0061】
これらの場合、本発明の薬学的組成物の投与方法は特に制限されず、1日1回または複数回、経口または非経口的に投与される。手間等の点から、好ましくは1日1回または2〜3回程度、経口的に投与する方法である。
【0062】
本発明の薬学的組成物は、更年期障害、特にエストロゲン分泌の減少が深く関与する更年期障害の予防、治療及び/又は改善の必要がある者(患者)に対して用いることができる。
【0063】
このような本発明の薬学的組成物によれば、更年期障害、特にエストロゲン分泌の減少が深く関与する更年期障害の予防、治療及び/又は改善することができる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0065】
実施例1 骨密度増加確認試験
卵巣摘出(OVX)ラットに、被験物である杜仲葉抽出物(ELE)を与えることにより、骨密度に及ぼす杜仲葉抽出物の影響を調べた。
【0066】
(1)被験物の調製
(1−1)ELEの調製
(1−1−1)杜仲葉乾燥物の製造
杜仲葉乾燥物の製造は、特開平8−173110号公報の実施例2の記載に準じて行った。杜仲の生葉5kgを、日本茶製造用の送帯蒸機(宮村鉄工株式会社製の給葉機(地上型1500)及びネットコンベア(送帯式1000))により110℃で90秒間蒸熱した。具体的には、生葉を送帯蒸機の投入口から機内に投入し、コンベヤ上を移動する間に上下スチーム供給装置からスチームを当て、110℃で90秒間蒸熱した。次にこの蒸熱後の杜仲葉を、揉捻機を用いて30分間揉捻した後、得られた揉捻物を乾燥機を用いて80℃で水分量を5%以下に乾燥させた(以下、これを「杜仲葉乾燥物」という)。
【0067】
(1−1−2)ELEの調製
前記(1−1−1)の製造方法に従って調製した杜仲葉乾燥物を、炒葉機(IR−10SP型:寺田製作所)を用いて110℃で30分間焙煎し、焙煎杜仲葉乾燥物を得た。このうち1kgを90℃の熱水15kgに投入し、90℃で30分間抽出し、抽出物14kgを得た。その後、これを150メッシュのフィルターを用いて濾過し、濾液を5℃に冷却し一晩放置した。上澄み液を取り出し、減圧下50℃で濾液を濃縮し、1kgの濃縮液を得た。得られた濃縮液を、遠心分離器(クボタ株式会社製、KS8000)で回転速度1800rpmで遠心分離して沈殿物を除去し、得られた上澄み液を加熱殺菌(85℃、2時間)し、杜仲葉水抽出液を得た。これをスプレードライ法により乾燥し、ELE(300g)を得た。当該ELE1000mg中には、アスペルロシド20mg、ゲニポシド酸55mg、アスペルロシド酸0.5mg、デアセチルアスペルロシド酸0.3mg、スキャンデシド10−O−アセテート0.2mg、オークビン68mg、オイコミシA0.01mg、オイコミシB0.05mg、オイコミシC0.02mg含有されていた。
【0068】
(2)被験食の調製
ベースとなる餌として、精製飼料(MF オリエンタル酵母工業株式会社製)を普通食として使用した。当該普通食90重量部に、前述のELEを5重量部混合した後、カゼインを混合して100重量部とすることにより、被験食(ELE5%)を調製した。
【0069】
(3)試験方法
無作為に選択した卵巣摘出(OVX)のSD雌性ラット(4週齢、体重約136g)を各群10匹になるように2つの群(コントロール群、ELE5%投与群)に群分けした。各群のラットを7日間予備飼育した後、18週間普通食(コントロール)又は被験食(ELE5%)を投与した。全飼育期間中、ラットには普通食又は被験食を自由摂取させた。摂取後13週及び18週における骨密度を以下のようにして測定した。
【0070】
(4)骨密度の測定方法
二重エネルギーX線吸収測定法(Dual Energy X-ray Absorptiometry;DEXA)(DCS−600、アロカ株式会社製)を用いて、大腿骨(左右)及び脛骨(左右)の骨密度を測定し、その平均値を求めた。
【0071】
(5)測定結果
大腿骨及び頸骨の骨密度(mg/cm)を表1(13週後)及び表2(18週後)に示す。ここで、骨密度増加量(mg/cm)は、普通食を与えたコントロール群の骨密度を0とし、これに対するELE5%投与群の骨密度増加量を算出した。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
表1及び表2に示すように、ELE5%投与群では、コントロール群と比較して、骨密度の増加が観察された。このことから、杜仲葉抽出物には、骨密度増加作用があることが確認された。
【0075】
実施例の結果から、「CRCテキストブック 日本臨床薬理学会認定CRCのための研修ガイドライン」に基づき、ヒトへの投与量を換算した場合、ELEを1500〜2000mg/body/day投与することで、ヒトにおいても同様に骨密度増加作用が発揮されると考えられた。
【0076】
このことから、ELEは、骨密度の増加、骨密度の低下抑制、骨密度の低下防止等に有用であることが示された。
【0077】
実施例2 子宮重量増加確認試験
OVX雌性ラットに、被験物であるELEを与えることにより、子宮重量の増加に及ぼす杜仲葉抽出物の影響を調べた。
【0078】
(1)被験物の調製
実施例1と同様のELEを調製した。
【0079】
(2)被験食の調製
実施例1と同様にして、ELEを1.25重量%、2.5重量%及び5重量%含有する3種類の被験食(ELE1.25%、ELE2.5%、ELE5%)を調製した。
【0080】
(3)試験方法
OVXラット(4週齢、体重約136g)を各群10匹になるように5つの群(コントロール群、Estコントロール群、ELE1.25%投与群、ELE2.5%投与群、ELE5%投与群)に群分けし、各群のラットを7日間予備飼育した。
【0081】
その後、コントロール群とEstコントロール群には普通食を自由摂取させた。ここで、Estコントロール群には、17β−エストラジオール(和光純薬工業株式会社製)を10μg/kg体重で1週間当たり3回腹腔注射した。エストラジオールは、エストロゲンの中で最も生理活性の高い物質であり、Estコントロール群は、エストロゲン作用を示すポジティブコントロールとして使用した。
【0082】
ELE1.25%投与群、ELE2.5%投与群、ELE5%投与群には、それぞれ18週間、被験食(ELE1.25%、ELE2.5%、ELE5%)を自由摂取させた。
【0083】
各群それぞれ、摂取後18週における子宮重量を測定し、その平均値を求めた。
【0084】
(4)測定結果
ELE1.25%投与群、ELE2.5%投与群、ELE5%投与群及びコントロール群における体重当たりの子宮重量と子宮重量増加率を表3に示す。子宮重量増加率は、コントロール群の体重当たりの子宮重量を100%として算出した。
【0085】
【表3】

【0086】
表3から明らかなように、ELE投与群では、コントロール群と比較して子宮重量が増加した。また、ELEの投与量に比例して子宮増加率が向上した。このことから、ELEには子宮重量を増加させる作用があることが分かった。また、ELEの投与量が増えるにしたがって、Estコントロール群における子宮重量(0.73mg/g)との差が小さくなった。
【0087】
前述した通り、エストラジオールはエストロゲンの中で最も生理活性の高い物質であり、エストラジオールを摂取させたEstコントロール群においてみられる子宮重量の増加は、エストラジオール、すなわちエストロゲンによる作用に起因するものである。ここで、ELE投与群とEstコントロール群は、子宮重量の増加において同様の現象が見られ、このことからELEは、エストロゲン様作用を備えていることが分かった。
【0088】
したがって、ELEは、更年期障害、特にエストロゲンの分泌が低下することによる疾患の予防、治療、改善等に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
杜仲葉乾燥物及び/又は杜仲葉抽出物を含有する骨密度増加剤。
【請求項2】
請求項1に記載の骨密度増加剤、及び薬学的に許容される担体又は添加剤を含有する、骨密度増加用の薬学的組成物。
【請求項3】
杜仲葉乾燥物及び/又は杜仲葉抽出物を含有する抗更年期障害剤。
【請求項4】
請求項3に記載の抗更年期障害剤、及び薬学的に許容される担体又は添加剤を含有する、抗更年期障害用の薬学的組成物。

【公開番号】特開2012−77012(P2012−77012A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−221779(P2010−221779)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000186588)小林製薬株式会社 (518)
【Fターム(参考)】