説明

骨形成促進増強剤のスクリーニング方法

【課題】BMPの骨形成促進剤としての効果を向上させる優れた骨形成促進増強剤を提供することにある。また、新規な骨形成促進増強剤の探索を行うためのスクリーニング方法を提供することにある。
【解決手段】BMPを有効成分として含有する骨形成促進剤と同時投与又は逐次投与されるものであって、TGF−β選択的阻害作用を有する化合物を有効成分として含有する骨形成促進増強剤に関するものである。また、TGF−β阻害作用を指標とする、骨形成促進増強剤のスクリーニング方法に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TGF−β(transforming growth factor-β)選択的阻害作用を有する化合物を有効成分として含有する骨形成促進増強剤、及び、TGF−β阻害作用を指標とする、骨形成促進増強剤のスクリーニング方法に関する。

【背景技術】
【0002】
骨形成促進剤は、近年の社会の高齢化に伴い、所望されている医薬の一つであり、現在、臨床においてはBMP(bone morphogenetic protein)等が用いられている。しかしながら、BMPの骨形成作用には、なんらかの自己制御機構が働くため十分な治療効果が得られないという問題がある。その原因は明らかではないが、移植部位からのBMPの速やかな消失や負のフィードバック機構、内因性の阻害物質の存在が疑われている(例えば、非特許文献1〜2参照。)。
【0003】
BMPは、1965年にUristにより異所性の骨形成を誘導する因子として発見された(例えば、非特許文献3参照。)。その後、ヒトBMPのDNAクローニングが成功し(例えば、非特許文献4参照。)、遺伝子組換え型ヒトBMP(rhBMP)の製造が可能になったことから、より短時間で効率のよい骨欠損の修復を期待して臨床応用されるようになった。BMPは、TGF−βスーパーファミリーに属する分子の一つであり、軟骨形成、脂肪形成及び骨形成を促進し、間葉系前駆細胞からの筋形成を阻害すること等が知られている(例えば、非特許文献5〜7参照。)
【0004】
TGF−βは、線維組織の主たる構成細胞である線維芽細胞を始めとする各種細胞の増殖分化を調節し、かつ創傷の治癒に不可欠な細胞外マトリックスの産生沈着を調節する作用を有することが知られている。一方、TGF−βの骨に対する作用に関しては不明な点が多く、骨形成に促進的に働くとする報告(例えば、非特許文献8,9参照。)と抑制的に働くとする報告(例えば、非特許文献10,11参照。)がある。

【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第00/61576号パンフレット
【特許文献2】国際公開第00/172737号パンフレット
【特許文献3】国際公開第00/162756号パンフレット
【特許文献4】国際公開第02/55077号パンフレット
【特許文献5】国際公開第00/240467号パンフレット
【特許文献6】国際公開第02/40468号パンフレット
【特許文献7】国際公開第02/066462号パンフレット
【特許文献8】国際公開第02/062794号パンフレット
【特許文献9】国際公開第02/062787号パンフレット
【特許文献10】国際公開第02/062753号パンフレット
【特許文献11】国際公開第02/062776号パンフレット
【特許文献12】国際公開第02/062793号パンフレット
【特許文献13】国際公開第00/240476号パンフレット
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Takase Mら,「Biochem Biophys Res Commun.」(米国),Elsevier Science発行,1998,244,26-29
【非特許文献2】Valentin-Opran Aら,「Clin Orthop.」(米国),Lippincott Williams & Wilkins発行,2002,395,110-120
【非特許文献3】Urist MR,「Science」(米国),American Association for the Advancement of Science発行,1965,150,893
【非特許文献4】Wozney JMら,「Science」(米国),American Association for the Advancement of Science発行,1988,242,1528-1534
【非特許文献5】Katagiri Tら,「J.Cell Biol.」(米国),Rockefeller University Press発行,1994,127,1755-1766
【非特許文献6】Ahrens Mら,「DNA Cell Biol.」(米国),Mary Ann Liebert inc.publishers発行,1993,12,871-880
【非特許文献7】Asahina Iら,「Exp.Cell Res.」(米国),Elsevier Science発行,1996,222,38-47
【非特許文献8】Erlebacher Aら,「J. Cell. Biol.」(米国),Rockefeller University Press発行,1996,132,195-210
【非特許文献9】Alliston Tら,「EMBO J.」(英国),Oxford University Press発行,2001,20,2254-2272
【非特許文献10】Noda Mら,「Endocrinology」(米国),Endocrine Society発行,1989,124,2991-2994
【非特許文献11】Joyce MEら,「J.Cell.Biol.」(米国),Rockefeller University Press発行,1990,110,2195-2207
【非特許文献12】Cordeiro MF,「Current opinion in Molecular Therapeutics」(米国),BioMed Central Ltd発行,2003,5,199-203
【非特許文献13】学会「American Assoiatiuon for Cancer Research special conference in Cancer research The TGF-beta superfamily, January 15-19, 2003 La Jolla, CA」、講演要旨集No.B51
【非特許文献14】Kahari VMら,「J.Clin.Invest.」(米国),American Society for Clinical Investigation発行,1990,86,1489-1495
【非特許文献15】Boast Sら,「J.Biol.Chem.」(米国),American Society for Biochemistry and Molecular Biology発行,1990,265,13351-13356
【非特許文献16】Nakaoka Tら,「J Clin Invest.」(米国),American Society for Clinical Investigation発行,1987,100,2824-2832
【非特許文献17】Nakaoka Tら,「J Clin Invest.」(米国),American Society for Clinical Investigation発行,1987,100,2824-2832
【非特許文献18】Ebisawa Tら,「J Cell Sci.」(英国),the company of biologists Ltd発行,1999,112,3519-3527
【非特許文献19】Piek Eら,「J Cell Sci.」(英国),the company of biologists Ltd発行、1999,112,4557-4568
【非特許文献20】Tada Kら,「Genes Cells.」(英国),Blackwell Synergy発行,1999,4,731-741
【非特許文献21】Saitoh Mら,「J Biol Chem.」(米国),American Society for Biochemistry and Molecular Biology発行,1996,271,2769-2775
【非特許文献22】Imamura Tら,「Nature」(英国),nature publishing group発行,1997,389,622-626
【非特許文献23】Inman GJら,「Mol Cell.」(米国),American Society for Microbiology発行,2002,10,283-94
【非特許文献24】Fujii Mら,「Mol Biol Cell.」(米国),American Society for Cell Biology発行,1999,10,3801-3813
【非特許文献25】Korchynskyi Oら,「J Biol Chem.」(米国),American Society for Biochemistry and Molecular Biology発行,2002,277,4883-4891
【非特許文献26】Ishida Wら,「J Biol Chem.」(米国),American Society for Biochemistry and Molecular Biology発行,2000,275,6075-6079
【非特許文献27】Kusanagi Kら,「Mol Biol Cell.」(米国),American Society for Cell Biology発行,2000,11,555-565
【非特許文献28】Locklin RMら,「J Bone Miner Res.」(米国) ,American Society for Bone and Mineral Research発行,2001,16,2192-2204
【非特許文献29】Gyo Murakami, Tetsuro Watabe, Kunio Takaoka, Kohei Miyazono, and Takeshi Imamura,「Cooperative Inhibition of BMP Signaling by Smurf1 and Inhibitory Smads.」,MBC in Press,published April 4, 2003 as 10.1091/mbc.E02-07-0441
【非特許文献30】Inman GJら,「Mol Pharmacol.」(米国) ,The American Society for Pharmacology and Experimental Therapeutics発行,2002,62,65-74
【非特許文献31】Fujii Mら,「Mol Biol Cell.」(米国),American Society for Cell Biology発行,1999,10,3801-3813
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、BMPの骨形成促進剤としての効果を向上させる優れた骨形成促進増強剤を提供することにある。また、新規な骨形成促進増強剤の探索を行うためのスクリーニング方法を提供することにある。

【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは骨形成について鋭意検討したところ、TGF−β選択的阻害作用を有する化合物が、BMPの骨形成促進作用を増強することを見出し、本発明を完成した。
【0009】
本発明としては、例えば、以下のものを挙げることができる。
(1)BMPを有効成分として含有する骨形成促進剤と同時投与又は逐次投与されるものであって、TGF−β選択的阻害作用を有する化合物を有効成分として含有する骨形成促進増強剤、
(2)TGF−β選択的阻害作用を有する化合物が4-(4-ベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル-5-ピリジン-2-イル-1H-イミダゾール-2-イル)ベンズアミド(以下、化合物Aという。)である、前記(1)記載の骨形成促進増強剤、
(3)TGF−β阻害作用を指標とする、骨形成促進増強剤のスクリーニング方法、
(4)TGF−β阻害作用及びBMP阻害作用を指標とする、骨形成促進増強剤のスクリーニング方法。
【0010】
本発明において「TGF−β選択的阻害作用」とは、TGF−β刺激に基づくシグナル伝達を選択的に阻害することをいう。ここで「選択的」とは、BMP刺激に基づくシグナル伝達系よりも優位にTGF−β刺激に基づくシグナル伝達を阻害することをいう。該阻害作用の選択性は、用いる実験系、条件、等によって異なるが、3倍以上であることが好ましく、5倍以上であることがより好ましく、10倍以上であることが更に好ましい。
【0011】
より具体的には、BMPシグナル伝達に関わるタイプIIレセプター、タイプIレセプター(ALK2/3/6)に対する阻害作用、又は、Smad1/5/8のリン酸化抑制作用に比べて、TGF−βシグナル伝達に関わるタイプIIレセプター、タイプIレセプター(ALK5)に対する阻害作用、又は、Smad2/3に対するリン酸化抑制作用の方が優位であることをいう。
【0012】
TGF−βとBMPは共にTGF−βスーパーファミリーに属し、そのシグナル伝達機構も近似する。本発明において、TGF−β選択的阻害作用を有する化合物を含有する骨形成促進増強剤は、BMP刺激等に基づく骨形成促進作用を増強することによって薬効を示すものである。従って、TGF−β阻害作用も有しているが、同等のBMP阻害作用も有している化合物・薬剤は、本発明の目的を達成し得ない。
【0013】
本発明において「TGF−β選択的阻害作用を有する化合物」としては、該作用を有していれば、いかなる化学構造の化合物も本発明に含まれる。例えば、化合物Aを含む特許文献1記載の化合物はALK5を選択的に阻害する作用を有することが知られている。他に、トリアリールイミダゾール誘導体(例えば、特許文献2参照。)、ピリジニルイミダゾール誘導体(例えば、特許文献3参照。)、イミダゾールサイクリックアセタール誘導体(例えば、特許文献4参照。)、ベンズイミダゾール誘導体(例えば、特許文献5参照。)、ジアリールイミダゾール誘導体(例えば、特許文献6参照。)、ピラゾール誘導体(例えば、特許文献7〜9参照。)、チアゾール誘導体(例えば、特許文献10〜12参照。)、トリアゾール誘導体(例えば、特許文献13参照。)、抗TGF−β中和抗体(例えば、非特許文献12参照。)を挙げることができる。更に、学会発表された化合物(3−(ピリジン−2−イル)−4−(7−エトキシキノリン−4−イル)ピラゾール、3−(2−プロピルピリジン−6−イル)−4−(キノリン−4−イル)ピラゾール、3−(2−メチルピリジン−6−イル)−4−(7−エトキシキノリン−4−イル)ピラゾール、3−(ピリジン−2−イル)−4−(キノリン−4−イル)ピラゾール、3−(2−メチルピリジン−6−イル)−4−(6−トリフルオロメトキシキノリン−4−イル)ピラゾール、3−(2−メチルピリジン−6−イル)−4−(6−クロロキノリン−4−イル)ピラゾール、3−(2−メチルピリジン−6−イル)−4−(7−クロロキノリン−4−イル)ピラゾール、3−(3−エトキシフェニル)−4−(7−エトキシキノリン−4−イル)ピラゾール、5−ヒドロキシメチル−3−(ピリジン−2−イル)−4−(キノリン−4−イル)ピラゾール、5−(2−フェネチル)−3−(ピリジン−2−イル)−4−(キノリン−4−イル)ピラゾール、3−(3−トリフルオロメチルフェニル)−4−(キノリン−4−イル)ピラゾール、3−(3−ブロモフェニル)−4−(7−メチルキノリン−4−イル)ピラゾール、3−(2−メチルピリジン−6−イル)−4−(4−ヒドロキシフェニル)ピラゾール、5−メチル−3−(2−メチルピリジン−6−イル)−4−(4−フルオロフェニル)ピラゾール、3−(2−エチルピリジン−6−イル)−4−(4−フルオロフェニル)ピラゾール、3−(2−メチルピリジン−6−イル)−4−(4−フルオロフェニル)ピラゾール、3−(2−メチルピリジン−6−イル)−4−(2,4−ジクロロフェニル)ピラゾール、3−(2−メチルピリジン−6−イル)−4−(3,4−ジフルオロフェニル)ピラゾール、3−(ピリジン−2−イル)−4−(4−フルオロフェニル)ピラゾール)(例えば、非特許文献13参照。)も挙げられる。
【0014】
本発明において「BMP」とは、BMPの種々のサブタイプ、及び、それらの遺伝子組換えタンパク質を含む、BMPファミリーのタンパク質をいう。例えば、BMP−2/3/4/5/6/7/8、GDF(増殖分化因子:growth-differentiation factor)−5/6/7及びそれらの遺伝子組換えタンパク質等を例として挙げることができる。
【0015】
本発明において「骨形成促進剤」とは、骨芽細胞の分化・成熟等を促進し、骨細胞の形成を促進する薬剤をいい、例えば、rhBMP等のBMPを例に挙げることができる。また、「骨形成促進増強剤」とは、骨形成促進作用を増強する薬剤をいう。骨形成促進増強剤は、(1)歯周病の治療、(2)偽関節形成の確率が高い脛骨解放骨折、遷延治癒骨折、骨欠損の多い骨折、骨粗鬆症に伴う骨折、等の種々の骨折の治療や、(3)骨腫瘍摘出後の骨欠損の充填、脊椎固定術、特発性大腿骨頭壊死症など骨壊死部の骨再生、変形性膝関節症に対して行う高位脛骨骨切り術などの骨切り術に伴う骨接合術、顎関節症や咬合不全における骨形成術、頭蓋骨・顔面骨奇形における骨形成術、等の種々の手術に用いる薬剤として用いることができる。
【0016】
本発明において「TGF−β阻害作用を指標とする、骨形成促進増強剤のスクリーニング方法」とは、TGF−βシグナル伝達に関わるタイプIIレセプター、タイプIレセプター(ALK5)に対する阻害作用を調べる試験やSmad2/3のリン酸化阻害作用を調べる試験等、公知の方法は全て本発明にかかるスクリーニング方法に用いることができる。例えば、[3H]プロリンの細胞内取り込み量を指標としたTGF−β誘発コラーゲン産生を調べる方法(例えば、非特許文献14参照。)、タイプIプロコラーゲンα2鎖遺伝子のプロモーター領域とルシフェラーゼ遺伝子を連結させたキメラプラスミドを導入した細胞株を用いたレポーターアッセイ(例えば、非特許文献15参照。)、TGF−βの細胞増殖抑制作用をMv1Lu細胞でみる[3H]チミジン取り込みアッセイ(例えば、非特許文献16参照。)、TGF−βによる細胞増殖抑制を調べる方法(例えば、非特許文献17、18参照。)、NmuMG細胞の分化を調べる方法(例えば、非特許文献19参照。)、TGF−βレポーターを用いたルシフェラーゼアッセイ(例えば、非特許文献20参照。)、標的遺伝子PAI-1の発現を調べる方法(例えば、非特許文献21参照。)、クロスリンキング法によるレセプターへの結合を調べる方法(例えば、非特許文献22参照。)、抗リン酸化Smad2/3抗体を用いたウエスタンブロッティング(例えば、非特許文献23参照。)が知られているが、これらに限定されるものではない。
【0017】
これらのスクリーニング方法を用いることにより、TGF−β阻害作用を有する新規骨形成促進増強剤を探索することができる。
【0018】
さらに、これらのスクリーニング方法と、以下に説明するBMP阻害作用を指標とするスクリーニング方法と併用することにより、TGF−β阻害作用を有し、BMP阻害作用の少ない、より有用性の高い新規骨形成促進増強剤を探索することができる。
【0019】
本発明において「BMP阻害作用を指標とする、骨形成促進増強剤のスクリーニング方法」とは、BMPシグナル伝達に関わるタイプIIレセプター、タイプIレセプター(ALK2/3/6)に対する阻害作用を調べる試験やSmad1/5/8のリン酸化抑制作用を調べる試験等、公知の方法は全て本発明にかかるスクリーニング方法に用いることができる。例えば、間葉系前駆細胞(C2C12細胞など)の骨芽細胞への分化のアッセイ(例えば、非特許文献24参照。)、BMPのレポーター(ld-1-Luc)を用いたルシフェラーゼアッセイ(例えば、非特許文献25参照。)、BMPのレポーター(3GC-Luc)を用いたルシフェラーゼアッセイ(例えば、非特許文献26参照。)、BMPのレポーター(GCCG-Luc)を用いたルシフェラーゼアッセイ(例えば、非特許文献27参照。)、標的遺伝子(ld-1など)のmRNA発現量をリアルタイムPCRにより調べる方法(例えば、非特許文献28参照。)、Xenopusを用いた2次軸形成検定(例えば、非特許文献29参照。)、クロスリンキング法によるレセプターへの結合を調べる方法(例えば、非特許文献22参照。)、抗リン酸化Smad1/5/8抗体を用いたウエスタンブロッティング(例えば、非特許文献30参照。)が知られているが、これらに限定されるものではない。
【0020】
本発明にかかるスクリーニング方法の実験手法自体は公知であるが、骨形成促進増強剤の探索のためのスクリーニング方法として利用可能であることは、本発明者らが初めて見出した知見である。

【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第1図は、試験例1において、各C2C12細胞をアルカリホスファターゼ染色した写真の図である。左列はrhBMP−4を添加していない群、右列はrhBMP−4を添加した群である。また、上段は対照群、中段はDMSOを添加した群、下段は化合物Aを添加した群である。
【図2】第2図は、試験例1において、各C2C12細胞のアルカリアルカリホスファターゼ活性をグラフ化した図である。縦軸はアルカリアルカリホスファターゼ活性(nmol p-NP/min/mg protein)を表す。
【図3】第3図は、試験例2において、各ヒト間葉系前駆細胞のアルカリアルカリホスファターゼ活性をグラフ化した図である。縦軸はアルカリアルカリホスファターゼ活性(nmol p-NP/min/mg protein)を表す。
【図4】第4図は、試験例2において、ヒト間葉系前駆細胞をvon Kossa染色した写真の図である。左列はBMP−4を添加していない群、右列はBMP−4を添加した群である。また、上段は対照群、中段はDMSOを添加した群、下段は化合物Aを添加した群である。
【図5】第5図は、試験例2において、von Kossa染色したヒト間葉系前駆細胞をNIH image測定した結果をグラフ化した図である。
【図6】第6図は、試験例3において、各C2C12細胞のアルカリアルカリホスファターゼ活性をグラフ化した図である。縦軸はアルカリアルカリホスファターゼ活性(nmol p-NP/min/mg protein)を表す。
【図7】第7図は、試験例4において、各C2C12細胞をアルカリホスファターゼ染色した写真の図である。最左列はFBSを10%添加し、かつ、BMP−4を添加していない群、左から2、3、4、5列はそれぞれFBSを2.5、5、10、20%添加し、かつ、BMP−4を添加した群である。また、上段は対照群、中段はDMSOを添加した群、下段は化合物Aを添加した群である。
【図8】第8図は、試験例4において、各C2C12細胞のアルカリアルカリホスファターゼ活性をグラフ化した図である。縦軸はアルカリアルカリホスファターゼ活性(nmol p-NP/min/mg protein)を表す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
TGF−β選択的阻害作用を有する化合物の中で酸性基を有するものは、遊離の酸のまま薬剤として用いることができるが、公知の方法により医薬上許容しうる塩の形にして用いることもできる。このような塩としては、例えば、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、及び、カルシウムなどのアルカリ土類金属塩などを挙げることができる。
【0023】
TGF−β選択的阻害作用を有する化合物の中で塩基性基を有するものは、遊離の塩基のまま薬剤として用いることができるが、公知の方法により医薬上許容しうる塩の形にして用いることもできる。このような塩としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、燐酸などの鉱酸の塩、酢酸、クエン酸、酒石酸、マレイン酸、コハク酸、フマル酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸などの有機酸の塩を挙げることができる。
【0024】
TGF−β選択的阻害作用を有する化合物は、BMPと同時に投与、あるいは、逐次的に併用することができる。
【0025】
同時投与の場合、別個の薬剤として同時に投与することもでき、また、一つの製剤中に、TGF−β選択的阻害作用を有する化合物又はその医薬上許容しうる塩とBMPとを含有させることもできる。逐次的併用とは、TGF−β選択的阻害作用を有する化合物又はその医薬上許容しうる塩とBMPとを、一定の時間間隔をあけて投与することを意味する。本発明においてはいずれを先に投与してもよい。一定の時間間隔は、用いる骨形成促進剤や骨形成促進増強剤の動態等を考慮して決定することができる。
【0026】
本発明に係る薬物は、そのまま又は医薬上許容される無毒性かつ不活性の担体中に、例えば0.01〜99.5%、好ましくは 0.5〜90%を含有する医薬組成物として、人を含む動物に投与される。
【0027】
担体としては、固形、半固形又は液状の希釈剤、充填剤及びその他の処方用の助剤一種以上が用いられる。薬物は投与単位形態で投与することが望ましい。また、薬物は、静脈内投与、経口投与、組織内投与、局所投与(経皮投与等)又は経直腸的に投与することができるが、これらに限定されるものではない。これらの投与方法に適した剤型で投与されるのはもちろんである。
【0028】
骨形成促進増強剤としての用量は、疾患・傷害の性質と程度、年齢、体重などの患者の状態、投与経路などを考慮した上で設定することが望ましいが、通常は、成人に対して本発明に係る薬物の有効成分量として、1日あたり、0.1〜1000mg/ヒトの範囲、好ましくは 1〜500mg/ヒトの範囲が一般的である。
場合によっては、これ以下で足りるし、また逆にこれ以上の用量を必要とすることもある。また1日2〜4回に分割して投与することもできる。
【0029】
経口投与は固形又は液状の用量単位、例えば、末剤、散剤、錠剤、糖衣剤、カプセル剤、顆粒剤、懸濁剤、液剤、シロップ剤、ドロップ剤、舌下錠その他の剤型によって行うことができる。
【0030】
末剤は薬物を適当な細かさにすることにより製造される。散剤は薬物を適当な細かさと成し、ついで同様に細かくした医薬用担体、例えば澱粉、マンニトールのような可食性炭水化物その他と混合することにより製造される。必要に応じ風味剤、保存剤、分散剤、着色剤、香料その他のものを混じてもよい。
【0031】
カプセル剤は、まず上述のようにして粉末状となった末剤や散剤又は錠剤の項で述べるように顆粒化したものを、例えばゼラチンカプセルのようなカプセル外皮の中へ充填することにより製造される。滑沢剤や流動化剤、例えばコロイド状のシリカ、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、固形のポリエチレングリコールのようなものを粉末状態のものに混合し、然るのちに充填操作を行うこともできる。崩壊剤や可溶化剤、例えばカルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウムを添加すれば、カプセル剤が摂取されたときの医薬の有効性を改善することができる。
また、薬物の微粉末を植物油、ポリエチレングリコール、グリセリン、界面活性剤中に懸濁分散し、これをゼラチンシートで包んで軟カプセル剤とすることができる。錠剤は賦形剤を加えて粉末混合物を作り、顆粒化もしくはスラグ化し、ついで崩壊剤又は滑沢剤を加えたのち打錠することにより製造される。粉末混合物は、適当に粉末化された薬物を上述の希釈剤やベースと混合し、必要に応じ結合剤(例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールなど)、溶解遅延化剤(例えば、パラフィンなど)、再吸収剤(例えば、四級塩)や吸着剤(例えばベントナイト、カオリン、リン酸ジカルシウムなど)をも併用してもよい。粉末混合物は、まず結合剤、例えばシロップ、澱粉糊、アラビアゴム、セルロース溶液又は高分子物質溶液で湿らせ、攪拌混合し、これを乾燥、粉砕して顆粒とすることができる。このように粉末を顆粒化するかわりに、まず打錠機にかけたのち、得られる不完全な形態のスラグを破砕して顆粒にすることも可能である。
このようにして作られる顆粒は、滑沢剤としてステアリン酸、ステアリン酸塩、タルク、ミネラルオイルその他を添加することにより、互いに付着することを防ぐことができる。このように滑沢化された混合物をついで打錠する。こうして製造した素錠にフィルムコーティングや糖衣を施すことができる。
また薬物は、上述のように顆粒化やスラグ化の工程を経ることなく、流動性の不活性担体と混合したのちに直接打錠してもよい。シェラックの密閉被膜からなる透明又は半透明の保護被覆、糖や高分子材料の被覆、及び、ワックスよりなる磨上被覆の如きも用いうる。
【0032】
他の経口投与剤型、例えば溶液、シロップ、エリキシルなどもまたその一定量が薬物の一定量を含有するように用量単位形態にすることができる。シロップは、薬物を適当な香味水溶液に溶解して製造され、またエリキシルは非毒性のアルコール性担体を用いることにより製造される。懸濁剤は、薬物を非毒性担体中に分散させることにより処方される。可溶化剤や乳化剤(例えば、エトキシ化されたイソステアリルアルコール類、ポリオキシエチレンソルビトールエステル類)、保存剤、風味賦与剤(例えば、ペパミント油、サッカリン)その他もまた必要に応じ添加することができる。
【0033】
必要とあらば、経口投与のための用量単位処方はマイクロカプセル化してもよい。該処方はまた被覆をしたり、高分子・ワックス等中にうめこんだりすることにより作用時間の延長や持続放出をもたらすこともできる。
【0034】
組織内投与は、皮下・筋肉又は静脈内注射用としたところの液状用量単位形態、例えば溶液や懸濁剤の形態を用いることによって行うことができる。これらのものは、薬物の一定量を、注射の目的に適合する非毒性の液状担体、例えば水性や油性の媒体に懸濁し又は溶解し、ついで該懸濁液又は溶液を滅菌することにより製造される。注射液を等張にするために非毒性の塩や塩溶液を添加してもよい。更に、安定剤、保存剤、乳化剤のようなものを併用することもできる。
【0035】
また、BMPは、生分解性マトリクッスや多孔性粒子等の担体に吸着させた製剤として、治療部位へ移植して使用されているが、本発明に係る薬物を同一又は別の担体に吸着させて用いることもできる。
【0036】
直腸投与は、薬物を低融点の水に可溶又は不溶の固体、例えばポリエチレングリコール、カカオ脂、半合成の油脂(例えば、ウイテプゾール、登録商標)、高級エステル類(例えばパルミチン酸ミリスチルエステル)及びそれらの混合物に溶解又は懸濁させて製造した坐剤等を用いることによって行うことができる。

【実施例】
【0037】
以下に試験例及び製剤例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。

【0038】
試験例1
化合物Aを用いた骨形成促進増強作用(1)
C2C12細胞(American Type Culture Collection)を5%のウシ胎児血清(FBS)を含むダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)(対照)、0.01%ジメチルスルホキシド(DMSO)を加えた同培地(DMSO(0.01%))及び1μMの化合物Aを加えた同培地(化合物A(1μM))で、50ng/mlの遺伝子組換えヒトBMP−4(rhBMP−4)添加及び無添加で培養した。それぞれの細胞を9日間培養した後、アルカリホスファターゼ(ALP)染色キット#85-3R(Sigma社)により染色し、骨分化の進行度合いを調べた。ALP活性の定量的解析は、Fujiiらの方法(例えば、非特許文献31参照。)に従い、Sigma Fast p-nitrophenyl phosphate tablet setを用いて行った。各抽出物のタンパク質濃度は、ウシ血清アルブミンを標準物質としてDC protein assay(Bio-Rad)により測定した。
その結果を第1図及び第2図に示す。
第1図に示す通り、化合物Aは、単独ではC2C12細胞の骨分化促進作用は認められないが、rhBMP−4(50ng/ml)で誘導したC2C12細胞においては、rhBMP−4刺激による骨分化促進作用を増強した。
【0039】
試験例2
化合物Aを用いた骨形成促進増強作用(2)
ヒト間葉系前駆細胞(hMSCs)(Poietics)をITS supplement(Sigma)を含む無血清培地(対照)、0.01%DMSOを加えた同培地(DMSO(0.01%))及び1μMの化合物Aを加えた同培地(化合物A(1μM))で、50ng/mlのrhBMP−4添加あるいは無添加で培養した。ALP活性の定量的解析は、試験例1と同様の方法で行った。カルシウムの貯留は、von Kossa法により可視化し測定した。即ち、それぞれの細胞を3%グルタルアルデヒドを含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で固定化し、PBSおよび蒸留水で洗浄した。固定化された細胞は、光照射しながら60分間2.5%硝酸銀を作用させた後、洗浄し0.5%ハイドロキノンで2分間展開した。過剰の銀は5%チオ硫酸ナトリウム溶液で洗い流した。
その結果を第3図、第4図及び第5図に示す。
第3図、第4図及び第5図に示す通り、rhBMP−4により誘導されたALP活性及びカルシウム貯留の上昇が、化合物Aの添加により更に亢進された。このことからも、化合物AがrhBMP−4刺激による骨分化促進作用を増強することは明らかである。
上記試験例1及び2における骨分化促進増強作用が、化合物A独自の作用に基づくものではなく、TGF−βを選択的に阻害することにより生じる作用であることを明らかにすべく、以下の試験例3を行った。
【0040】
試験例3
抗TGF−β中和抗体を用いた骨形成促進増強作用
50ng/mlのrhBMP−4と10μg/mlの抗TGF−β1/2/3中和抗体を添加した培地、50ng/mlのrhBMP−4を添加した培地、10μg/mlの抗TGF−β1/2/3中和抗体を添加した培地および無添加の培地でC2C12細胞を9日間培養した。それぞれの細胞について試験例1と同様の方法でALP活性を測定した。
その結果を第6図に示す。
第6図に示す通り、抗TGF−β中和抗体(Ab)は、試験例1と同様、rhBMP−4刺激による骨分化促進作用を増強した。以上の結果より、TGF−βを阻害することによりBMPの骨分化促進作用が増強されることは明らかである。
【0041】
試験例4
骨形成促進増強作用における血清濃度の影響
C2C12細胞をFBS濃度2.5%、5%、10%、20%に調製した培地中に、1μMの化合物Aと50ng/mlのrhBMP−4を添加し9日間培養した。対照として化合物Aの代わりに0.01%DMSOあるいは無添加で培養した。それぞれの細胞より試験例1と同様の方法でALP活性を測定した。
その結果を第7図及び第8図に示す。
第7図及び第8図に示す通り、FBS濃度が高くなるにつれ、化合物Aによる骨分化促進増強作用が減弱された。この現象は、試験例1及び2で得られた知見より、FBSの濃度即ち血清中のTGF−βの濃度の上昇に伴い、骨分化促進増強作用が減弱されたと考えられる。このことからも、化合物Aが、TGF−βのシグナル伝達を選択的に阻害することにより、BMPによる骨形成促進作用を増強することは明らかである。
【0042】
製剤例1
錠剤(内服錠)
処方1錠80mg 中
化合物A 5.0mg
トウモロコシ澱粉 46.6mg
結晶セルロース 24.0mg
メチルセルロース 4.0mg
ステアリン酸マグネシウム 0.4mg
この割合の混合末を通常の方法により打錠成形し内服錠とする。
【0043】
製剤例2
錠剤(内服錠)
処方1錠80mg 中
化合物A 5.0mg
トウモロコシ澱粉 46.6mg
結晶セルロース 24.0mg
メチルセルロース 4.0mg
ステアリン酸マグネシウム 0.4mg
この割合の混合末を通常の方法により打錠成形し内服錠とする。

【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明にかかる骨形成促進増強剤は、BMPを含有する骨形成促進剤と同時投与、又は、併用投与することにより、骨分化促進作用を増強することから、臨床においてBMPを含有する骨形成促進剤を使用する場合のより良好な有用性が期待できる。また、新規な骨形成促進剤のスクリーニング方法を提供することにより、臨床において所望されている医薬の探索において有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
TGF−β阻害作用を指標とする、骨形成促進増強剤のスクリーニング方法。
【請求項2】
TGF−β阻害作用及びBMP阻害作用を指標とする、骨形成促進増強剤のスクリーニング方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−276615(P2010−276615A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185705(P2010−185705)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【分割の表示】特願2005−506849(P2005−506849)の分割
【原出願日】平成16年6月7日(2004.6.7)
【出願人】(000004156)日本新薬株式会社 (46)
【出願人】(000173588)財団法人癌研究会 (34)
【Fターム(参考)】