説明

骨形成用生体材料、該材料を含む注入用製剤、及び該材料を調製するためのキット、並びにこれらを用いる骨形成方法

本発明は、骨形成用生体材料として、a)ヒドロキシカルボン酸とポリエチレングリコールとの共重合体、b)ポリエチレングリコール、c)リン酸カルシウム、及びd)骨形成を促進する薬理学的活性物質を含有する組成物又はこれらを組合せ構成物として含むキットを提供するものである。本発明の組成物は骨形成所望部位への注入投与が可能であり、しかも生体内では容易に固化し、さらに生体内で骨の形成に必要な期間、骨形成を促進する薬理学的活性物質を放出しながら、それ自体は分解され、良好な骨形成を達成する骨形成用生体材料として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本出願は、参照によりここに援用されるところの、日本国特許出願番号2003−4890号からの優先権を請求する。
[技術分野]
本発明は、生体内所望部位に注入によって投与可能であり、且つ生体内で固化する物性をもつことを特徴とする、骨形成を促進する薬理学的活性剤を含有する骨形成用生体材料、該材料を含む注入用製剤、及び該材料を調製するためのキット、並びにこれらを用いる骨形成方法に関する。
【背景技術】
骨形成能を有する薬理学的活性剤として、rhBMP−2、rhBMP−7等の骨誘導因子(bone morphogenetic protein:以下BMPと略記する)、及びTGF−β、bFGF、PTH等が知られている。
中でも、BMPは、皮下組織又は筋組織内の未分化間葉系細胞に作用して、これを軟骨細胞又は骨芽細胞に分化させ、軟骨又は骨を形成させる活性タンパク質であり(後記非特許文献1〜3、及び特許文献1〜6参照)、ブロックやシート状の担体に担持されて骨形成が必要な部位に移植されることが知られている。しかしながら、ブロックやシート状の担体は、固体であるため、移植手術を要し、また骨欠損部の形状に合致する形状に整形する困難性が伴う。
一方、液状或いはペースト状の担体は、骨形成を必要とされる部位から流れ出し、不要な部位に骨形成の生じる恐れがあるため、流出を防止するシート等と併用することが必要であった。
ヒドロキシカルボン酸とポリエチレングリコールとの重合体を用いた生体材料としては以下があり、いずれも本願出願人の一によるものである。
(1)ヒドロキシカルボン酸とポリエチレングリコールとのブロック共重合体を、骨形成を促進する薬理学的活性剤の支持体(担体)として使用したことを特徴とする生体材料(1989年出願)(後記特許文献7参照)。この発明において開示された生体材料は、通常ペースト状であり、凍結状態で生体内に移植、或いはミキサーでホモジナイズ後に注射器で生体内に注入して移植される。
(2)(I)ヒドロキシカルボン酸の重合体若しくは共重合体と(II)ヒドロキシカルボン酸の重合体若しくは共重合体とポリエチレングリコールとのブロック共重合体と(III)骨形成を促進する薬理学的活性剤の組合せからなる生体材料(1989年出願)(後記特許文献8参照)。この発明において開示された生体材料は、製剤化後、成形器に充填し、ピストンにより加圧成形後に固体として目的部位に移植するというものであった。
(3)ヒドロキシカルボン酸、p−ジオキサノン、ポリエチレングリコールを主成分として調製した共重合体を、骨形成を促進する薬理学的活性剤の支持体(担体)として使う生体材料(1999年出願)(後記特許文献9参照)。この発明において開示された生体材料は、生体に対する親和性が高く生体内での徐放性及び分解性に優れたものであったが、凍結乾燥してペレット状で移植するというものであった。
一方、生体吸収性リン酸カルシウムセメントを用いたBMPを含む骨形成移植体に関する本願出願人の一による1996年出願の発明がある(後記特許文献10参照)。この発明において開示された材料は固化して生体内に移植されるものである。当該明細書には、ペースト状で生体内に注入可能で有る旨記載されるが、実際に注入した実施例は無い。当該セメントは固化する際に若干の発熱があること、また、固化後は、脆く崩れやすい性状を有することから、生体内で固化する際の安全性並びに形状維持の点で更に改善が求められるものであった。
これらの欠点を改善するために、骨形成所望部位に注入後容易に固化する新たな骨形成用生体材料が検討されてきたが、未だ臨床にて有用性が確認された生体材料の報告はない。
今なお、臨床操作性に優れ、更に生体内に安全に注入でき、速やかに固化し、その形状維持も良好で、且つ、新生骨形成能に優れた骨形成用生体材料の創製が切望されている。
【非特許文献1】 Biomedical Research,2(5)466−471(1981)
【非特許文献2】 Progress in Growth Factor Research,Vol.1,pp.267−280(1989)
【非特許文献3】 Abstract Sixth Interaction Symposium of the Protein Society,San Diego,CA(1992)
【特許文献1】特表平2−500241号公報
【特許文献2】特表平3−503649号公報
【特許文献3】特表平3−505098号公報
【特許文献4】国際公開第91/18098号パンフレット
【特許文献5】国際公開第92/05199号パンフレット
【特許文献6】国際公開第96/09229号パンフレット
【特許文献7】特公平6−22570号公報
【特許文献8】特許第2709516号公報
【特許文献9】特開2000−237297号公報
【特許文献10】特開平10−151188号公報
【発明の開示】
本発明は、骨形成用生体材料であって、臨床使用における便宜性を考慮した改良された材料を提供することを課題とする。つまり、当該材料が、生体許容温度の一定条件下で液状若しくはペースト状であり、骨形成所望部位へ安全に注入投与が可能であって、しかも生体内に注入後は安全かつ速やかに固化し、さらに生体内で骨の形成に必要な期間中、骨形成を促進する薬理学的活性物質を放出しながら、それ自体は分解され、良好な骨形成を達成する骨形成用生体材料を提供することを課題とする。
本発明者は、上記課題を解決のため、種々の素材の組合せを検討し、鋭意研究の結果、思いがけないことに既知材料同士の組合せであるが、臨床使用において、従前にない安全性、便宜性及び治療効果を発揮する組合せを見出し、本発明を完成した。つまり、本発明からなる材料は、生体内分解性のポリマーと生体吸収性リン酸カルシウムを組合せて、骨形成を促進する薬理学的活性物質の支持体(担体)として利用するものであって、生体許容温度下で液状(37℃における粘度がB型粘度計で回転速度20rpmの条件下で25,000mPa・s未満)若しくはペースト状(37℃における粘度がB型粘度計で回転速度20rpmの条件下で25,000〜1,000,000mPa・s)に調製されうるため骨形成所望部位への注入投与が安全に可能であり、しかも骨形成所望部位への注入後に安全かつ速やかな固化が達成され、そのうえ固化した形成体が生体と極めて親和性がよく、安定性にも優れ、生体内で徐々に吸収されて、結果として良好な骨形成効果を達成したものである。
本発明は、以下よりなる。
1. a)ヒドロキシカルボン酸とポリエチレングリコールとの共重合体、b)ポリエチレングリコール、c)リン酸カルシウム、及びd)骨形成を促進する薬理学的活性物質を含有することを特徴とする骨形成用生体材料。
2. a)の共重合体のヒドロキシカルボン酸が、乳酸及び/又はグリコール酸である前第1項に記載の骨形成用生体材料。
3. a)の共重合体の数平均分子量が、1,000〜30,000の範囲である前第1項に記載の骨形成用生体材料。
4. b)のポリエチレングリコールの数平均分子量が、150〜8,000の範囲である前第1項に記載の骨形成用生体材料。
5. c)のリン酸カルシウムが、リン酸三カルシウムである前第1項に記載の骨形成用生体材料。
6. d)の骨形成を促進する薬理学的活性物質が、骨誘導因子である前第1項に記載の骨形成用生体材料。
7. a)の共重合体中のヒドロキシカルボン酸とポリエチレングリコールとの割合が、ヒドロキシカルボン酸単位とエチレンオキシド単位のモル比として95:5〜25:75の範囲である前第1項に記載の骨形成用生体材料。
8. b)のポリエチレングリコールの含有量が、a)の共重合体に対する質量比で、1:0.1〜9.0の範囲である前第1項に記載の骨形成用生体材料。
9. c)のリン酸カルシウムの含有量が、a)の共重合体に対する質量比で、1:0.05〜1.0の範囲である前第1項に記載の骨形成用生体材料。
10. 前記骨形成用生体材料が液状又はペースト状である前第1〜9項の少なくともいずれか1項に記載の骨形成用生体材料。
11. 前第1〜9項の少なくともいずれか1項に記載の骨形成用生体材料を含む注入用製剤。
12. 前第1〜9項の少なくともいずれか1項に記載の液状又はペースト状の骨形成用生体材料を含む注入用製剤。
13. a)ヒドロキシカルボン酸とポリエチレングリコールとの共重合体、b)ポリエチレングリコール、c)リン酸カルシウム及びd)骨形成を促進する薬理学的活性物質を含有し、a)ヒドロキシカルボン酸とポリエチレングリコールとの共重合体とc)リン酸カルシウムが接触若しくは混合しない状態で包装することを特徴とする、前第1〜9項の少なくともいずれか1項に記載の骨形成用生体材料を調製するためのキット。
14. a)ヒドロキシカルボン酸とポリエチレングリコールとの共重合体、b)ポリエチレングリコール、c)リン酸カルシウム及びd)骨形成を促進する薬理学的活性物質を含有し、a)ヒドロキシカルボン酸とポリエチレングリコールとの共重合体とc)リン酸カルシウムが接触若しくは混合しない状態で包装することを特徴とする、前第1〜9項の少なくともいずれか1項に記載の液状又はペースト状の骨形成用生体材料を調製するためのキット。
15. 前第1〜9項の少なくともいずれか1項に記載の骨形成用生体材料を用いる骨形成方法。
16. 前第10〜14項のいずれか一に記載の骨形成用生体材料、注入用製剤又はキットを用いる骨形成方法。
17. a)ヒドロキシカルボン酸とポリエチレングリコールとの共重合体、b)ポリエチレングリコール、c)リン酸カルシウム、及びd)骨形成を促進する薬理学的活性物質を含有する骨形成用生体材料又はこれらの組合せ構成物であるキットであって、そのa)ヒドロキシカルボン酸とポリエチレングリコールとの共重合体、b)ポリエチレングリコール、及びc)リン酸カルシウムの配合比を調整することを特徴とする骨形成用生体材料の固化温度の調節方法。
更に本発明を詳細に説明する。
a)ヒドロキシカルボン酸とポリエチレングリコールとの共重合体
本発明の支持体(担体)の基本となる骨格は、ヒドロキシカルボン酸とポリエチレングリコールとを主成分として反応させた共重合体である。ヒドロキシカルボン酸とは、水酸基とカルボン酸基を同時に担持する化合物の総称であり、本発明で使用できるヒドロキシカルボン酸は重合化した場合に、生体内で経時的に分解性又は溶解性の性質をもつことが必須である。現在推奨される最適のヒドロキシカルボン酸としては、乳酸及びグリコール酸が例示される。このものは、各々単独で使用してもよいし、又は組合せて使用してもよい。特に好ましくは、乳酸とグリコール酸を併用することである。このヒドロキシカルボン酸とポリエチレングリコールとの共重合体の重合法は、特公平6−22570号公報、特許第2709516号公報又は特開2000−237297号公報に詳しく、それらの記載をそのまま援用可能である。
重合法は、特に上記方法が推奨されるが、一般的に汎用される手段によるものであってもよい。その製造法としては、例えば、触媒の存在下で1以上の水酸基を有するポリエチレングリコールとラクチドを反応させることにより共重合体を容易に製造することができる。得られる共重合体は、ヒドロキシカルボン酸単位、エチレンオキサイド単位を有する共重合体となる。反応時間は目的とする組成、分子量等によって異なり特段限定できないが、大略1〜20時間程度である。使用するポリエチレングリコールは、数平均分子量が概ね150〜20,000の範囲のものを使用する。この分子量が150以下であると、生体内に注入した場合の生体材料の強度と分解速度の制御が容易でなく、また分子量が20,000を超えると本発明の生体材料の特徴である注入投与が可能な流動性が得られないだけではなく、生体への悪影響が生じることから好ましくない。重合に使用する触媒は、2−エチルヘキサン酸スズ、ジラウリン酸ジブチルスズ、塩化第1スズ、塩化第2スズ、ジエチル亜鉛、塩基性炭酸亜鉛、チタニウムテトライソプロポキシド等が挙げられる。あるいはKricheldorf,H.R.らの報告(Macromol.Chem.,Suppl.,12,25−38(1985))に記載されている触媒を用いることも可能である。
別の共重合方法としては、例えば乳酸、グリコール酸を減圧下で直接脱水重縮合することにより重合体若しくは共重合体を得た後(湯原ら、工化、68(5),983(1965))、又は、ラクチド、グリコリドを開環重合して重合体若しくは共重合体を得た後に、ポリエチレングリコールとエステル化用触媒を添加し反応させることもできる。この場合のエステル化用触媒としては、リン酸、ベンゼンスルホン酸、酸型イオン交換樹脂等が使用できる。また、開環重合では原料を溶融状態下で重合させることも可能であるが、モノマーを溶解する溶媒中で行うこともできる。
これらの場合に使用する乳酸としてのモノマーは、D体、L体若しくはDL体のいずれであってもよく、又はこれらの混合物であってもよい。
共重合反応によって得られた共重合体の精製方法としては、共重合体をアセトン、クロロホルム等に溶解した後、エーテル、石油エーテル等を共重合体に対して6〜10容量倍加え析出させる方法、又は5℃程度の水の約10倍容量に分散させた後、これを加熱して析出させる方法等が採用できる。このような精製方法により、不純物である低分子量のポリマー、ホモポリマー、及び未反応のポリエチレングリコールを除去することができる。
本発明では、このようにして得られるヒドロキシカルボン酸とポリエチレングリコールとの共重合体の数平均分子量は、1,000〜30,000であり、より好ましくは4,000〜20,000、さらに好ましくは6,500〜13,000である。共重合体の分子量がこの範囲を逸脱し、1,000を下廻ると乳酸、グリコール酸のモノマー、オリゴマーを多含するため酸価が高くなり、生体組織への刺激性が強くなることが問題となり、又、共重合体の加水分解速度が大きくなることによって骨形成を促進する薬理学的活性物質の放出制御が困難となる。
逆に、分子量が30,000を上廻ると、後述の低分子量ポリエチレングリコールを用いても充分な流動性を確保することができず、本発明の効果を充分期待することができない。
本発明で得られる共重合体の組成は、ヒドロキシカルボン酸単位とエチレンオキシド単位のモル比として、95:5〜25:75、より好ましくは80:20〜40:60、さらに好ましくは70:30〜55:45である。この場合に、ヒドロキシカルボン酸単位に対しエチレンオキサイド単位のモル比が5を下廻ると、分解速度が著しく遅くなるとともに、共重合体の流動性が低下する。エチレンオキサイド単位が75を上廻ると、脆いヒドロゲルが形成され材料の強度が低下し、骨組織が再生するまでの期間、形状を維持することができないという問題が生じる。
本発明のヒドロキシカルボン酸とポリエチレングリコールとの共重合体の物性を著しく変化させない範囲において、他の成分材料を共重合体に付加させてもよい。例えば、この共重合体を製造する際に、p−ジオキサノン、トリメチレンカーボネート、ε−カプロラクトン等のラクトン類、あるいはエチレングリコール、グリセリン、シュークロース、ポリプロピレングリコール等の多官能性ポリオールも原料に加えて付加反応を行うことができる。
b)ポリエチレングリコール
本発明の特徴の一つは、上記の共重合体とは別に、さらに特定の低分子量ポリエチレングリコールを添加することである。使用するポリエチレングリコールの数平均分子量は150〜8,000、好ましくは300〜2,000、より好ましくは450〜750の範囲である。この低分子量ポリエチレングリコールの添加によって、本発明に係る生体材料は、注入投与を可能にする流動性が達成される。更に、生体内に本発明に係る生体材料が注入されると、低分子量ポリエチレングリコールは材料中から周囲組織へ速やかに拡散するため、残された生体材料は流動性を失い、a)の共重合体とc)のリン酸カルシウムの固化が促進される。
c)リン酸カルシウム
本発明においては、上記a)及びb)の組成に加えて、更に、リン酸カルシウムを添加する。骨形成を促進する薬理学的活性物質は当該リン酸カルシウムに良好に吸着され保持される。リン酸カルシウムを含有する製剤が生体内に注入されると、b)の低分子量ポリエチレングリコールの拡散に伴って、a)の共重合体とリン酸カルシウムが反応して速やかに固化する。本発明に係る生体材料が固化したものは、優れた強度と弾性を有しており、更に、生体内で薬理学的活性物質を徐々に放出しながら分解吸収されるため良好な骨形成を達成する。リン酸カルシウムとしては、好ましくはリン酸三カルシウムであり、例えばα−TCP又はβ−TCPが例示され、より好ましくはβ−TCPが挙げられる。リン酸カルシウムは、0.1μm〜500μm程度の粒子径を有するものが使用され、特に好ましくは100μm以下である。リン酸カルシウムの配合量は、必要とする強度と生体内に移植したときの生体吸収速度を考慮して、その粒子径及び混合比が調整される。
d)骨形成を促進する薬理学的活性物質
本発明の骨形成用生体材料の主成分は、骨形成を促進する薬理学的活性物質である。本発明で使用することができる骨形成を促進する薬理学的活性物質は、未分化の間葉系細胞に細胞外から作用し、その遺伝形質を軟骨細胞や骨芽細胞へと誘導(軟骨誘導、骨誘導)する作用を有する物質である。この物質としては、例えばDunn骨肉腫から分離、精製する方法により得ることができるBMP(例えば、前記非特許文献1参照)が知られている。また別に、BDGF(Bone derived growth factor:Canalis E.,Science,210,1021(1980))、CDF(Cartilage− derived factor:Anderson H.C.,Am.J.Pathol,44,507(1964))、SGF(Skeletal growth factor:Farley J.R.,Biochemistry,21,3508(1982))、OGF(Osteogenic factor:Amitani K..,Calcif.Tissue.Res.,17,139(1975))等が知られている。また、高岡邦夫ら著,整形・災害外科,26(10),1451(1983)においてもその抽出精製方法を開示している。これらの骨形成を促進する薬理学的活性物質は、何れも公知の方法で得ることができる。その他、人骨、牛骨、又は遺伝子組変えにより得られた骨形成を促進する薬理学的活性物質(TGF−β、bFGF、PTH等)も、本発明の生体材料の主成分として用いることができる。
特に、骨誘導因子(BMP)は、これまでの臨床上の効果の確認から最も推奨される。そして、免疫性等の臨床上の安全性及び品質の安定した材料を大量に入手することができる点で遺伝子組換え技術により製造されたヒトBMPが特に好ましい。例えば、ヒト骨誘導因子をコードする塩基配列を含む組換えDNAを含有する形質転換体(細胞又は微生物)を培養し、それら形質転換体によって産生された組換えヒト骨誘導因子を単離、精製して調製した組換えヒト骨誘導因子(rhBMP)である。これらの組換えヒト骨誘導因子(rhBMP)としては、例えば、rhBMP−2、rhBMP−3、rhBMP−4(rhBMP−2Bともいう)、rhBMP−5、rhBMP−6、rhBMP−7、rhBMP−8、rhBMP−9、これらrhBMPのヘテロダイマー、又はこれらの改変体若しくは一部欠損体を挙げることができる。これらのタンパク質は、単独で又は2種以上の混合物として用いることができる。好ましくはrhBMP−2である。
これらのrhBMPは、哺乳動物細胞(例えば、CHO細胞)、微生物(例えば、大腸菌)又は酵母細胞等で発現したものであることができる。既に大量生産法及び精製法が確立しているrhBMPとしてはrhBMP−2があるが、その他のrhBMPを同様に製造し、精製して用いることができる(例えば、前記非特許文献2)。既に知られている精製rhBMP−2は、分子量約30,000の二量体タンパク質である。それぞれの単量体は、Asn56残基にハイ・マンノース型の糖鎖を有している(例えば、前記非特許文献3参照)。
(骨形成用生体材料の使用割合)
本発明の生体材料は、上記a)〜d)の成分を適宜混合して調製される。b)の低分子量ポリエチレングリコールの使用量は、a)の共重合体に対する質量比で、1:0.1〜9.0の範囲、より好ましくは1:0.5〜1.5、さらに好ましくは1:0.8〜1.2の範囲である。b)の使用量を調整することにより本発明に係る生体材料の流動性を調整することができる。c)のリン酸カルシウムの使用量によって影響を受けるが、約40℃の温度条件下、概ねb)の低分子量ポリエチレングリコールの使用量が共重合体に対し質量比で約1:0.5以上では良好な流動性を有し注入が可能である。それ以下の使用量では粘度が高くなりペースト状の生体材料が得られる。c)のリン酸カルシウムの使用量は、a)の共重合体に対する質量比で、1:0.05〜1.0の範囲、より好ましくは1:0.1〜0.5の範囲である。
本発明の骨形成用生体材料において、材料1ml当りの骨形成を促進する薬理学的活性物質d)の使用量は、骨誘導作用を発現する濃度であればいずれでもよい。例えばBMP特にrhBMP−2を用いる場合は、通常は20μg以上、好ましくは50〜20,000μg、より好ましくは100〜1,000μgである。
本発明の骨形成用生体材料は、特に生体許容温度下で液状(37℃における粘度がB型粘度計で回転速度20rpmの条件下で25,000mPa・s未満)又はペースト状(37℃における粘度がB型粘度計で回転速度20rpmの条件下で25,000〜1,000,000mPa・s)であることに特徴を有し、原料を上記のように適宜選択使用することによって、容易に液状又はペースト状に調製することができる。
(その他の添加物)
本発明の骨形成用生体材料は、前記以外の所望成分を含有することができる。具体的には、安定化剤、保存剤、可溶化剤、pH調整剤、増粘剤等を挙げることができる。また、骨若しくは軟骨形成に有用な追加成分、例えばフィブロネクチン、オステオネクチン、又は非抗原性の不溶性骨マトリックス等を含むこともできる。これらの所望成分は、本発明骨形成用生体材料を製造する好適な段階で適宜好適な方法により使用することができる。これら付加成分の使用量は、得られる最終材料の物性〔約40℃で液状態又はペースト状であり、生体内で固化〕を保持する範囲で適宜調整される。
(骨形成用生体材料の調製及び最終製剤形態)
本発明の骨形成用生体材料は、支持体(担体)成分であるa)〜c)と骨形成を促進する薬理学的活性物d)を、適宜混合して製造できる。a)〜d)の各成分は、各成分を予め調製後、上記比率で混合し、医療上許容される汎用手段によって、各成分の物理学的性状に基づき均一化される。本発明の骨形成用生体材料は、以下のように任意の段階で調製して使用することが出来る。
(1)a)〜d)の各成分を適切な条件下で保存し、使用時に混合して調製する。
(2)a)とb)の混合物、c)、及びd)の3製剤を適切な条件下で保存し、使用時にこれらを混合して調製する。
(3)a)とb)の混合物と、d)を担持したc)との2製剤を適切な条件下で保存し、使用時にこれらを混合して調製する。
(4)a)、b)、及びd)を担持したc)の3製剤を適切な条件下で保存し、使用時にこれらを混合して調製する。
(5)全ての成分を混合した製剤を使用時まで適切な条件下で保存する。
(6)a)と、b)〜d)の混合物との2製剤を適切な条件下で保存し、使用時にこれらを混合して調製する。
(7)a)の分散液と、b)〜d)の混合物との2製剤を適切な条件下で保存し、使用時にこれらを混合して調製する。
プレフィルドシリンジ製剤等、全ての成分を混合後使用時まで適切な条件下で保存する場合は、a)の共重合体の加水分解が抑制され、d)の薬理活性が失活せず、更に固化が進行しない条件下、例えば密閉冷凍保存下等で保存することが必要である。
a)〜d)を混合して得られた本発明骨形成用生体材料において、温度条件はその流動性に影響し、たとえば温度約40℃の条件下では比較的高い流動性を有することから、これを注射器、注入器等に充填して注入剤とすることが容易である。一方、より低い温度条件下では粘性が高くなるため、約40℃で注入した後、約36℃の生体内温度下では流動性が低下する。本発明の生体材料は、調製温度条件を適宜設定することにより、流動性を微調整することができる。
本発明に係る生体材料は、数時間から数日静置する、生体材料に常温から40℃程度の生理食塩水若しくは蒸留水等を添加する、又は生体材料を前記水に浸漬する等の操作で短時間で固化する。これは、低分子量ポリエチレングリコールが、空気との界面に移行する又は水中に拡散すると共に、リン酸カルシウムに由来するカルシウムイオンに共重合体中のカルボニル基が配位することにより、固化が進行するためと考えられる。
本発明に係る生体材料のb)及び/又はc)の使用割合を調整することにより、ペースト状の材料とすることができる。また、流動性のある本発明に係る生体材料を数時間以上静置する、流動性のある本発明に係る生体材料に常温から40℃程度の生理食塩水若しくは蒸留水等を少量添加する、又は本発明に係る生体材料を前記水に浸漬することにより、一部固化させて所望の粘度を有するペースト状材料に調製することができる。これらのペースト状の本発明の生体材料は、骨欠損部位への埋込に適する。その他、インプラント周辺に充填し、又は所望の形状に成形して若しくは所望により更に静置或は水分添加により固体状にして、使用することもできる。
本発明の骨形成用生体材料は、調製後プレフィルドシリンジ製剤とすることもできるが、a)〜d)の成分を含む本発明骨形成用生体材料を調製するためのキットとして提供されることが好ましい。本発明キットにおいて、a)〜d)の各成分は、そのまま、或いは所望により混合され、製剤化され、適宜包装されるが、a)ヒドロキシカルボン酸とポリエチレングリコールとの共重合体とc)リン酸カルシウムが接触若しくは混合されると固化が進行するため、両成分は接触若しくは混合しない状態で包装される。
本発明キットの好ましい態様としては、以下の3つが例示される。
(1)a)ヒドロキシカルボン酸とポリエチレングリコールとの共重合体を含有する製剤、b)ポリエチレングリコールを含有する製剤、c)リン酸カルシウムを含有する製剤、及びd)骨形成を促進する薬理学的活性物質を含有する製剤の4製剤を含むことを特徴とするキット。
(2)a)ヒドロキシカルボン酸とポリエチレングリコールとの共重合体とb)ポリエチレングリコールを含有する製剤と、c)リン酸カルシウムを含有する製剤、及びd)骨形成を促進する薬理学的活性物質を含有する製剤の3製剤を含むことを特徴とするキット。
(3)a)ヒドロキシカルボン酸とポリエチレングリコールとの共重合体とb)ポリエチレングリコールを含有する製剤と、d)骨形成を促進する薬理学的活性物質を担持したc)リン酸カルシウムを含有する製剤の2製剤を含むことを特徴とするキット。
上記において、各製剤は、当該成分のみから構成されていてもよく、或いは所望の添加物を加えたものであってもよい。a)ヒドロキシカルボン酸とポリエチレングリコールとの共重合体を含有する製剤、b)ポリエチレングリコールを含有する製剤、及びa)ヒドロキシカルボン酸とポリエチレングリコールとの共重合体とb)ポリエチレングリコールを含有する製剤としては、液状若しくはペースト状の製剤が好ましく、プレフィルドシリンジ製剤がより好ましい。d)骨形成を促進する薬理学的活性物質を含有する製剤は、液状製剤若しくは凍結乾燥製剤が好ましい。凍結乾燥製剤は使用時に、適当な緩衝液、注射用水、生理食塩水等に溶解して適宜使用できる。d)骨形成を促進する薬理学的活性物質を担持したc)リン酸カルシウムは、活性物質を担持させたリン酸カルシウムを凍結乾燥した製剤が好ましい。
また、本発明の骨形成用生体材料又は該生体材料を調製するためのキットは、所望により各成分を混合させる前に、必要に応じて滅菌処理を施しても良い。滅菌方法は医療上許容される方法であればいずれでもよく、例えば、放射線滅菌、エチレンオキサイドガス滅菌、乾熱滅菌等が挙げられる。また、無菌的に各成分等を製剤化して、本発明の骨形成用生体材料を調製するためのキットとすることもできる。
本発明の骨形成用生体材料を含む製剤の好適な使用方法(骨形成方法)は、骨形成用生体材料を含む製剤を、常温で又は約40℃以下の温度で加温して、液状態にし、これを注入器により、骨形成所望部位に直接注入することによっておこなわれる。なお、本発明の骨形成用生体材料は、適応目的に応じて術前にペースト状又は固体状にしてから使用してもよい。例えば、人工関節、セラミック又は歯科用人工インプラントなどの生体材料の表面にペースト状の本発明に係る生体材料を塗布し、又は所望により固化させて、使用することも可能である。また、歯科領域において治療に使用される充填剤等のように、歯の空隙へのペースト状若しくは固体状の生体材料の充填、又は歯の表面への液状若しくはペースト状の本発明の生体材料の塗布といった使用法も可能である。さらに、ペースト状の本発明の生体材料を、所望の形状に成形後固化したものを、骨の欠損部位などに移植・留置することもできる。
かくして得られる、本発明の骨形成用生体材料は、注入可能な液状又は所望の堅さのペースト状に調製できる性状をもち、その結果、骨形成所望部位への埋入において、注入、塗布、埋込等適宜操作性のよい方法を可能とし、臨床上好ましい性質を有するものである。しかも、骨形成所望部位への注入投与後生体内で速やかに固化し、生体内で骨の形成に必要な期間中骨形成を促進する薬理学的活性物質を徐放的に放出し良好な骨形成を促し、それ自体はその後分解され、形成された骨と良好に置換する性状を有するものである。
発明の実施するための最良の形態
以下、実施例によって、本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
DL−ラクチド(東京化成製,試薬)200g、数平均分子量4,000のポリエチレングリコール(キシダ化学(株)製,試薬)75gを、内容積300mlの反応器に入れ、オクタン酸スズを0.027g添加した後、減圧下、160℃のオイルバス中で9時間反応させた。反応生成物をアセトン1lに加温溶解し、これに3倍量のジエチルエーテルを加えて生じた半透明の沈殿を分離し、70℃で減圧乾燥した。このようにして得たポリ乳酸−ポリエチレングリコール共重合体(以下PLA−PEGと略記する)をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって分子量を測定した結果、数平均分子量9,200であった。また、1H−NMRによりヒドロキシカルボン酸単位とエチレンオキサイド単位のモル比は63:37であった。
(骨形成用生体材料の調製)
前記で調製したPLA−PEG(ヒドロキシカルボン酸単位とエチレンオキサイド単位のモル比が63:37で、分子量9,200)と低分子量PEG(数平均分子量600,キシダ化学(株)製試薬)を、混合比 52.5:47.5(質量比)で恒温槽(40℃に調整)を用いて混合し、混合ポリマー1mlを40℃に加温した。3.52mg/mlのrhBMP−2(Genetics Institute製)を含む水溶液114μlを、あらかじめプラスチックカップに取り分けておいた100mgのβ−TCP(和光純薬製)に添加してよく混和した。その後、さらに上記加温しておいた混合ポリマー1mlを加えてよく混和し、18Gの注射針つきシリンジに吸引し、プレフィルドシリンジ製剤とした。得られた骨形成用生体材料の37℃における粘度は12,000mPa・s(B型粘度計,20rpm)であった。 比較例として、前記と同様のPLA−PEG(ヒドロキシカルボン酸単位とエチレンオキサイド単位のモル比が63:37で、分子量9,200)1mlに同量のrhBMP−2を担持させ、室温で固化させたブロック体を調製した。
【実施例2】
グリコール酸(東京化成製,試薬)を攪拌下、約180℃で脱水重縮合させて得たオリゴマーを、250℃で減圧蒸留することによりグリコリドを得た。このグリコリド75gとDL−ラクチド(東京化成製,試薬)100g及び数平均分子量4,000のポリエチレングリコール(キシダ化学(株)製,試薬)85gを、内容積300mlの反応器に入れ、オクタン酸スズを0.025g添加した後、減圧下、170℃のオイルバス中で7時間反応させた。反応生成物をクロロホルム1lに加温溶解し、これに3倍量のジエチルエーテルを加えて、生じた半透明の沈殿を分離し、70℃で減圧乾燥した。このようにして得た乳酸−グリコール酸−ポリエチレングリコール共重合体(以下PLGA−PEGと略記する)をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって分子量を測定した結果、数平均分子量15,000であった。また、1H−NMRにより乳酸、グリコール酸に由来するヒドロキシカルボン酸単位とエチレンオキサイド単位のモル比は60:40であった。
(骨形成用生体材料の調製)
前記で調製したPLGA−PEG(ヒドロキシカルボン酸単位とエチレンオキサイド単位のモル比が60:40で、分子量15,000)と低分子量PEG(数平均分子量600,キシダ化学(株)製試薬)を、混合比 45:55(質量比)で恒温槽(40℃に調整)を用いて混合し、混合ポリマー1mlを40℃に加温した。3.52mg/mlのrhBMP−2(Genetics Institute製)を含む水溶液114μlを、あらかじめプラスチックカップに取り分けておいた100mgのβ−TCP(和光純薬製)に添加してよく混和した。その後、さらに上記加温しておいた混合ポリマー1mlを加えてよく混和し、18Gの注射針つきシリンジに吸引し、プレフィルドシリンジ製剤とした。得られた骨形成用生体材料の37℃における粘度は17,000mPa・s(B型,粘度計,20rpm)であった。
(試験例)
以下に本発明の骨形成用生体材料の優れた効果を証明するための試験及び結果を示す。
移植試験例 1
(1)試験方法
4頭の雄性ビーグル成犬を用い、イソフルランによる全身吸入麻酔下で背側部の腰椎部分を中心に剃毛、消毒を行い、腰椎棘突起を中心線として左右におよそ5cm離れた位置で皮膚切開を行い、鈍性に皮下組織を剥離して移植するためのスペースを確保した。実施例1で調製した製剤を使い、この移植スペースにその全量を注入した。注入後約5分程放置してある程度硬化したことを確認した後、定法に従って閉創した。比較例であるPLA−PEGブロックも同様に移植スペースに留置し、定法に従って閉創した。なお、反体側にはrhBMP−2を含まない以外は実施例1と同様にして製造した担体のみを注入し同様に閉創した。
移植後8週目に移植物を摘出し、10%中性ホルマリンにて固定した後、軟X線撮影を行った。さらに摘出物を脱灰し、定法に従い脱灰パラフィン包埋切片を作製し、ヘマトキシリン・エオジン及びアザン染色を行って組織学的観察を行った。
(2)結果
移植後8週において、rhBMP−2を含まない担体のみを移植した群では、担体が吸収され摘出することはできず、軟X線撮影及び組織切片作製は実施できなかった。
i)軟X線写真による観察結果
本発明の骨形成用生体材料を移植したものは、石灰化・骨形成を示唆するX線不透過像が観察され、一部では骨梁構造が観察された。X線不透過像は生体材料移植時とほぼ同じ形態を維持していた。一方、比較例であるPLA−PEGブロックを移植したものでは石灰化・骨形成を示唆する所見は殆ど観察されなかった。
ii)組織観察による結果
本発明の骨形成用生体材料を移植したものでは、生体材料が吸収されその内部にも骨形成が観察された。形成された骨の組織学的観察は、形成された新生骨梁の周囲に活性化した骨芽細胞が認められ、骨形成が活発に行われている所見が確認された。一方、PLA−PEGブロックを移植したものは、担体周辺に殻状の石灰化・骨形成が観察されたのみで、担体の吸収はある程度進んでいたが担体内部はシストを形成し,石灰化・骨形成は全く観察されなかった。
移植試験例 2
(1)試験方法
4頭の雄性ビーグル成犬を用い、イソフルランによる全身吸入麻酔下で左脛骨に創外固定器具を装着後、脛骨中央部を露出し、2cm大の全層骨欠損を作製した。実施例1と同様に調製した製剤を使い、この移植スペースに注入し、定法に従って閉創した。注入後8週まで経時的に単純X線撮影を実施し,骨欠損部の骨形成状態を観察した。
(2)結果
単純X線では注入後3週より骨欠損部に石灰化・骨形成を示すX線不透過像が観察され,注入後8週まで経時的に不透過度が増加し,骨形成が進行していることが観察された。
【産業上の利用可能性】
本発明の骨形成用生体材料は、イヌにおける異所性骨形成モデル並びに同所性骨形成モデルにおいて、それぞれ良好な新生骨が誘導されることが確認された。本発明の生体材料は、生体内で速やかに骨形成を誘導し、しかも生体材料全体が新生骨に早期に置換し、材料の残存が無く、良好な骨組織を形成することができる。本発明の生体材料は、投与手段として注入法が可能であり、対象患者の身体的苦痛も副作用もなく適用可能である。またある程度本発明の生体材料が硬化した後に、対象表面に当該材料を塗布する手段なども適用可能である。これらのことは、本発明の生体材料は、臨床上、操作性及び成形性に優れており、骨折などの外傷、疾病又は先天性の異常等によって引き起こされた各種の骨の欠損を修復するために、当該分野に知られた方法で患部に適用することを可能にする。
本発明の生体材料は、生体内に移植された際に、生体分解性で生体適合性に優れており、自然に近い状態で骨の修復が可能になると考えられる。 本発明の生体材料は、以下に挙げるような幅広い利用が可能である;「骨折等の外傷、腫瘍若しくは炎症性の疾患、又は変性若しくは壊死性の骨疾患等の疾患による骨欠損の治療」、「脳外科、整形外科或いは口腔外科手術等の手術に伴う採骨等による骨若しくは軟骨の欠損部位の修復」、「各種骨折の治癒促進」、「人工関節、人工骨若しくは人工インプラント使用時の固着促進」、「脊椎固定促進」、「脚延長等における骨の補填」、「軟骨の再生」、「関節の再建」、「形成外科分野での骨の補填」、「歯科領域における人工歯根等の人工インプラント周囲での骨の形成」、「歯周炎、歯周病等により吸収された歯槽骨の再生若しくは再建、又はセメント質及び象牙質の修復」、「人工インプラント使用のための歯槽骨の増大」等。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)ヒドロキシカルボン酸とポリエチレングリコールとの共重合体、b)ポリエチレングリコール、c)リン酸カルシウム、及びd)骨形成を促進する薬理学的活性物質を含有することを特徴とする骨形成用生体材料。
【請求項2】
a)の共重合体のヒドロキシカルボン酸が、乳酸及び/又はグリコール酸である請求の範囲第1項に記載の骨形成用生体材料。
【請求項3】
a)の共重合体の数平均分子量が、1,000〜30,000の範囲である請求の範囲第1項に記載の骨形成用生体材料。
【請求項4】
b)のポリエチレングリコールの数平均分子量が、150〜8,000の範囲である請求の範囲第1項に記載の骨形成用生体材料。
【請求項5】
c)のリン酸カルシウムが、リン酸三カルシウムである請求の範囲第1項に記載の骨形成用生体材料。
【請求項6】
d)の骨形成を促進する薬理学的活性物質が、骨誘導因子である請求の範囲第1項に記載の骨形成用生体材料。
【請求項7】
a)の共重合体中のヒドロキシカルボン酸とポリエチレングリコールとの割合が、ヒドロキシカルボン酸単位とエチレンオキシド単位のモル比として95:5〜25:75の範囲である請求の範囲第1項に記載の骨形成用生体材料。
【請求項8】
b)のポリエチレングリコールの含有量が、a)の共重合体に対する質量比で、1:0.1〜9.0の範囲である請求の範囲第1項に記載の骨形成用生体材料。
【請求項9】
c)のリン酸カルシウムの含有量が、a)の共重合体に対する質量比で、1:0.05〜1.0の範囲である請求の範囲第1項に記載の骨形成用生体材料。
【請求項10】
前記骨形成用生体材料が液状又はペースト状である請求の範囲第1〜9項の少なくともいずれか1項に記載の骨形成用生体材料。
【請求項11】
請求の範囲第1〜9項の少なくともいずれか1項に記載の骨形成用生体材料を含む注入用製剤。
【請求項12】
請求の範囲第1〜9項の少なくともいずれか1項に記載の液状又はペースト状の骨形成用生体材料を含む注入用製剤。
【請求項13】
a)ヒドロキシカルボン酸とポリエチレングリコールとの共重合体、b)ポリエチレングリコール、c)リン酸カルシウム及びd)骨形成を促進する薬理学的活性物質を含有し、a)ヒドロキシカルボン酸とポリエチレングリコールとの共重合体とc)リン酸カルシウムが接触若しくは混合しない状態で包装することを特徴とする、請求の範囲第1〜9項の少なくともいずれか1項に記載の骨形成用生体材料を調製するためのキット。
【請求項14】
a)ヒドロキシカルボン酸とポリエチレングリコールとの共重合体、b)ポリエチレングリコール、c)リン酸カルシウム及びd)骨形成を促進する薬理学的活性物質を含有し、a)ヒドロキシカルボン酸とポリエチレングリコールとの共重合体とc)リン酸カルシウムが接触若しくは混合しない状態で包装することを特徴とする、請求の範囲第1〜9項の少なくともいずれか1項に記載の液状又はペースト状の骨形成用生体材料を調製するためのキット。
【請求項15】
請求の範囲第1〜9項の少なくともいずれか1項に記載の骨形成用生体材料を用いる骨形成方法。
【請求項16】
請求の範囲第10〜14項のいずれか一に記載の骨形成用生体材料、注入用製剤又はキットを用いる骨形成方法。
【請求項17】
a)ヒドロキシカルボン酸とポリエチレングリコールとの共重合体、b)ポリエチレングリコール、c)リン酸カルシウム、及びd)骨形成を促進する薬理学的活性物質を含有する骨形成用生体材料又はこれらの組合せ構成物であるキットであって、そのa)ヒドロキシカルボン酸とポリエチレングリコールとの共重合体、b)ポリエチレングリコール、及びc)リン酸カルシウムの配合比を調整することを特徴とする骨形成用生体材料の固化温度の調節方法。

【国際公開番号】WO2004/105825
【国際公開日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【発行日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−506443(P2005−506443)
【国際出願番号】PCT/JP2004/000103
【国際出願日】平成16年1月9日(2004.1.9)
【出願人】(000203656)多木化学株式会社 (58)
【出願人】(000006677)アステラス製薬株式会社 (274)
【Fターム(参考)】