説明

骨折治癒促進用組成物

【課題】骨折の早期治癒を促すための医薬組成物の提供。
【解決手段】ホスホジエステラーゼ(PDE)4阻害作用を有するPDE4阻害剤を有効成分とする骨折治癒促進用組成物。特に該PDE4阻害剤と生体内適合性かつ生体内分解性ポリマー(例えば乳酸等ヒドロキシ脂肪酸のポリエステル)とを含有する、マイクロスフェア製剤等の剤形の、局所投与用骨折治癒促進用組成物。該組成物は例えば高齢者、糖尿病患者、骨粗鬆症患者等における回復が困難な骨折の治癒に有用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨折治癒促進用組成物、さらに詳しくは、PDE4阻害剤を有効成分とする医薬組成物であって、好ましくは、PDE4阻害剤と生体内適合性かつ生体内分解性ポリマーとを含有し、特にマイクロスフェア製剤の形態にして、さらに好ましくはマイクロスフェア含有注射剤として、局所的に適用して骨折の治癒を促進することができる医薬組成物を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
骨折は骨組織の生理的連続性が部分的或いは完全に断たれた状態をいい、その発生機転により、(a)外力による骨折、(b)病的骨折、(c)疲労骨折に分類することができる。また、骨折の状態は骨折線(骨離断により生じた裂隙と接する骨端をたどった線)により、亀裂骨折、若木骨折、横骨折、斜骨折、螺旋骨折、分節骨折、粉砕骨折、剥離骨折、圧迫骨折、陥没骨折等に分類されている(医学大辞典18版第719〜720頁、南山堂発行)。
一般に、骨折の治癒には相当の期間を要し、治癒する迄の間、日常生活に支障をきたすこととなる。また、高齢化に伴い、病的骨折の1つである骨粗鬆症患者の骨折が著しく増大している。特に、大腿骨頚部の骨折は長期の入院が必要となり、長期入院による痴呆等を含む内科的合併症を発症する危険性が高く、大きな社会問題、経済的重要問題となりつつある。
【0003】
骨折の治癒過程は、大きく次の3期に分類されており(骨折治療学、2000年4月南江堂発行第29〜37頁および第46〜51頁)、骨折治癒において重要な修復期においては、骨形成および骨溶解(骨吸収)を繰り返す骨のリモデリングとは異なるメカニズムで治癒が進行すると考えられている。
(1)骨周囲の組織が損傷され、骨折間隙が血腫によって占拠された状態となり、骨折部位で炎症を生じる炎症期
(2)骨折間隙の血腫が除去され、肉芽組織となり、軟仮骨が形成され、これが骨形成機序によって、次第に硬仮骨に置き換わっていく過程(内軟骨骨化)と骨膜に存在する骨形成細胞により新生骨が形成される過程(線維性骨化)が並行して進行する修復期
(3)形成された新生骨が、長期間にわたって骨吸収と骨形成とが繰り返されて、変形が矯正され、骨欠陥部が補強される再造形期
また、再造形期においては、新生骨が形成されており、ある程度の強度を有するため、日常生活に支障をきたすことは少ないが、修復期は相当の期間を要すると共に、日常生活への制約が大きいため、この期間を短縮することが臨床的には重要である。
【0004】
従来、骨折治癒を促進する物質として、骨形成蛋白(BMP)、トランスフォーミング成長因子(TGF)等のペプチド性生理活性物質が知られており[プロシーディング・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス・オブ・ユー・エス・エイ(Proc. Natl. Acad. Sci. USA)、第87巻、第2220〜2224頁(1989年)]、また、特開平9−263545号には、特開平4−364179号記載の次式化合物を骨形成促進剤として使用し、これを乳酸−グリコール酸共重合体(PLGA)でマイクロカプセル化した局所投与用製剤が開示されている。
【化1】

【0005】
また、ボーン(Bone)第27巻、第6号、第811〜817頁(2000年)には、ホスホジエステラーゼ(PDE)阻害剤が細胞内のサイクリックAMP(cAMP)のレベルを上昇させることにより、骨量(bone mass)を向上させる可能性が検討され、一般的PDE阻害剤であるペントキシフィリン、選択的PDE4阻害剤であるロリプラムを、毎日、マウスに皮下注射することにより、背骨、大腿骨の骨密度上昇、骨皮質の肥厚が見られたことが記載されている。
しかしながら、上記研究では、あくまで、骨折以外の部位すなわちリモデリング過程での通常の骨形成部分における薬理作用について検討されているにすぎず、PDE4阻害剤の骨折治癒促進作用については全く記載されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明の開示
本発明は、骨折の早期治癒を促す、骨折治癒促進用の新しい医薬組成物を提供することを目的とする。本発明の他の目的は、骨折部位に局所的に適用することにより、薬効成分の全身的な作用の発現を抑え、所望の部位における骨折の治癒促進作用のみを効率よく発現し得る局所用組成物を提供することである。本発明のさらに他の目的は、局所に投与することにより薬効成分が徐々に放出され、1回の投与で長時間薬効を発揮し得る骨折治癒促進用徐放性デポ製剤を提供することである。
本発明者らは、各種化合物の薬理作用を研究するうちに、PDE4阻害作用を有する化合物が、骨折修復過程に作用することを知り、研究を重ねたところ、該PDE4阻害作用を有する化合物が骨折の治癒を促進し得ることを見出し、本発明を完成した。
すわわち、本発明は、PDE4阻害剤を有効成分とする骨折治癒促進用組成物を提供するものである。本発明は、特に、骨折部位に局所的に適用するのに適した製剤、特にデポ製剤の、骨折治癒促進用組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の骨折治癒促進用組成物は、骨折の治癒過程、とりわけ、その修復期において優れた効果を有し、骨折部位における軟仮骨形成、軟仮骨からの硬仮骨へ置き換わる過程である内軟骨骨化を促進して骨折の治癒を促進することができる。
本発明の医薬組成物は、PDE4阻害剤を有効成分とし、これに通常の医薬用賦形剤または希釈剤を配合して調製される。好ましい医薬組成物は、PDE4阻害剤と生体内適合性かつ生体内分解性ポリマーとを含有する徐放性の局所投与用の組成物である。該局所投与用組成物は、さらに、マイクロスフェア形態とすることが好ましく、そのマイクロスフェアは注射剤の形態とすることもできる。
【0008】
本発明の医薬組成物において、活性成分として用いられるPDE4阻害剤としては、PDE4阻害活性を有する化合物がすべて含まれ、例えば、特開平5−229987号、特開平9−59255号、特開平10−226685号、欧州公開No.158380、国際公開No.94/25437、米国特許No.5223504、国際公開No.95/4045、欧州公開No.497564、欧州公開No.569414、欧州公開No.623607、欧州公開No.163965、米国特許No.5605914、国際公開No.95/35282、国際公開No.96/215、米国特許No.5804588、米国特許No.5552438、国際公開No.93/9118、国際公開No.96/31485、欧州公開No.459505、国際公開No.97/22585、欧州公開No.738715、国際公開No.91/16314、国際公開No.96/218、国際公開No.97/18208、欧州公開No.158380、国際公開No.99/50270、欧州公開No.260817、国際公開No.98/11113、国際公開No.94/22852、欧州公開No.432856、米国特許No.4193926、国際公開No.98/13348、国際公開No.96/6843、特表2000−503678号(=国際公開No.98/14432)、特表2000−502724号(=国際公開No.98/9961)、特表2000−510105号(=国際公開No.97/40032)、特表2000−514804号(=国際公開No.98/2440)、特表2000−502350号(=国際公開No.97/23457)、特表2000−501741号(=国際公開No.97/2585)等に記載の化合物が挙げられる。
【0009】
本発明の骨折治癒促進用組成物に適したPDE4阻害剤は、トレンズ・イン・ファーマコロジカル・サイエンシーズ(Trends in Pharmacological Sciences)11巻150〜155頁の記載に従って分類したPDE1〜5のうち、PDE4に対して他のPDE(PDE1〜3および5)に対するよりもより強い阻害作用を有する選択的PDE4阻害剤が好ましく、PDE4に対する阻害作用が他のPDEに対するよりも10倍以上強いものが好ましい。より好ましいものは、他のPDEに対するよりも50倍以上、さらに好ましくは100倍以上の阻害作用を有するものである。
【0010】
好ましいPDE4阻害剤は、アドバンシーズ・イン・サイクリック・ヌクレオチド・リサーチ(Advances in Cyclic Nucleotide Research)10巻、69〜92頁[1979年レイベン・プレス(Raven Press)発行]記載の方法に準じて測定したPDE4阻害活性のIC50が0.1〜1000nM、好ましくは0.1〜100nMの化合物である。より好ましくは、IC50は100nM未満である。
【0011】
選択的PDE4阻害剤の具体例としては、下記構造で示される化合物番号(1)〜(57)の化合物またはその薬理的に許容し得る塩が挙げられる。
【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

【化12】

【化13】

【化14】

【化15】

【化16】

【化17】

【化18】

【化19】

【化20】

【化21】

【化22】

【化23】

【化24】

【化25】

【化26】

【化27】

【化28】

【化29】

【化30】

【0012】
PDE4阻害活性を有する化合物は、化学構造上から、次の(A)〜(D)に分けることが出来、それらのうちから適宜選択されるが、本発明におけるPDE4阻害剤としては、(A)および(B)の化合物が好ましく、(A)の化合物がとりわけ好ましい。
(A) ナフタレン骨格またはこれに類似する部分構造を有する化合物[例えば、化合物番号(1)、(2)、(38)、(47)、(52)〜(57)]、
(B) 3−シクロペンチルオキシ−4−メトキシフェニル構造またはこれに類似する部分構造を有する化合物[例えば、化合物番号(6)、(9)、(11)、(12)、(14)、(17)、(19)、(20)、(21)、(24)、(25)、(26)、(27)、(33)、(34)、(35)、(39)、(40)、(44)、(49)、(50)、(51)]、
(C) キサンチン骨格またはこれに類似する部分構造を有する化合物[例えば、化合物番号(5)、(7)、(28)、(29)、(30)、(31)、(32)、(36)、(37)、(41)、(43)、(46)]、および
(D) 上記(A)〜(C)以外の構造を有する化合物[例えば、化合物番号(3)、(4)、(8)、(10)、(13)、(15)、(16)、(18)、(22)、(23)、(42)、(45)、(48)]
【0013】
上記(A)の化合物としては、例えば、下記一般式(I)〜(III)で示される化合物およびそれらの薬理的に許容し得る塩を挙げることができる。
【化31】

(式中、RおよびRは同一または異なって、水素原子、水酸基、シクロ低級アルキルオキシ基、または置換基を有していてもよい低級アルコキシ基を表すか、或いは、互いに末端で結合して低級アルキレンジオキシ基を形成し、Rは置換基を有していてもよい含窒素複素6員環式基、−ORおよびORは同一または異なって、保護されていてもよい水酸基を表す)(特開平5−229987号)
【0014】
【化32】

(式中、R'およびR'は同一または異なって水素原子または保護されていてもよい水酸基を表し、R'およびR'のいずれか一方が、保護されていてもよい水酸基置換メチル基、他方が水素原子、低級アルキル基または保護されていてもよい水酸基置換メチル基であり、R'およびR'は同一または異なって、水素原子、置換されていてもよい低級アルキル基、置換されていてもよいフェニル基または保護されていてもよいアミノ基を表すか、あるいは互いに末端で結合して隣接する窒素原子とともに置換されていてもよい複素環式基を形成している)(特開平9−59255号)
【0015】
【化33】

(式中、Aは式:
【0016】
【化34】

から選ばれるいずれか1つの基[但し、R”およびR”は同一または異なって、水素原子または保護されていてもよいヒドロキシ基、R31は保護されていてもよいヒドロキシメチル基、R32は水素原子、低級アルキル基または保護されていてもよいヒドロキシメチル基、R33は置換基を有していてもよい低級アルキル基、R41は保護されていてもよいヒドロキシメチル基、R42は保護されていてもよいヒドロキシメチル基、点線は二重結合の存在または非存在を表す]を表し、R”およびR”は同一または異なって、水素原子または保護されていてもよいアミノ基を表すか、あるいは互いに末端で結合して隣接する窒素原子と共に置換されていてもよい複素環式基を形成している。)(特開平10−226685号)
【0017】
本発明の骨折治癒促進用組成物の有効成分であるPDE4阻害剤としては、(A)の化合物のうち、ナフタレン骨格またはイソキノリン骨格を有する化合物またはその薬理的に許容し得る塩がとりわけ好ましく、化合物番号(1)および(2)の化合物またはその薬理的に許容し得る塩がとりわけ好ましい。
PDE4阻害剤が全身的に作用した場合には、投与量によっては嘔吐や胃酸分泌を引き起こすこともあるため[セルラー・シグナリング(Cellular Signaling)9(3−4)227〜236頁(1997年)]、本発明の骨折治癒促進用組成物は骨折部位の近傍に、局所投与され、全身的な薬物の血中濃度を上昇させず、骨折部位での薬物濃度を維持するようにするのが望ましい。また、このような目的を達成するためには、徐放性とするのが望ましく、徐放性とすることにより、投与回数を少なくし、患者負担の軽減を図ることもできる。
【0018】
本発明の組成物の好ましい形態としては、局所投与で薬物を徐々に放出するデポ剤(例えばペレット製剤、ゲル製剤、マトリックス製剤、マイクロスフェア製剤、生体内適合性かつ生体内分解性ポリマーの水溶液に薬物を添加して徐放化した製剤、投与時には溶液であるが、生体内に投与されることによってゲルを形成するように設計された製剤、一般に整形外科の領域での使用が報告されている種々基剤に封入した製剤等)が挙げられる。
ペレット剤としては、例えば、末端カルボキシル基がアルコールによりエステル化された乳酸−グリコール酸共重合体微粒子と薬物とを圧縮成型して得られる長期徐放性製剤(特開2001−187749号)等を挙げることができる。
【0019】
ゲル製剤としては、例えば、ジャーナル・オブ・コントロールド・リリース(Journal of Controlled Release) 59 (1999) 77-86記載の、ポリエチレングリコールを化学的に結合させたヒアルロン酸と薬物とをリン酸緩衝液に溶解させたゲル製剤等を挙げることができる。
マトリックス製剤としては、例えば、コラーゲンの粒状物質中または繊維膜中に薬物を含浸した製剤、コラーゲンの粒状物質中または繊維膜の調製中に薬物を添加して含有させた製剤(特開平10−182499号、特開平6−305983号)等を挙げることが出来る。
【0020】
生体内適合性かつ生体内分解性ポリマーの水溶液に薬物を添加して徐放化した製剤としては、例えば、ヒアルロン酸ナトリウムの水溶液に薬物を添加して徐放化した製剤等が考えられる。
投与時には溶液であるが、生体内に投与されることによってゲルを形成するように設計された製剤としては、例えば、ジャーナル・オブ・コントロールド・リリース(Journal of Controlled Release)33 (1995) 237-243 記載の、乳酸−グリコール酸共重合体と薬物とをN−メチル−2−ピロリドンに溶解させた製剤、同 27 (1993) 139-147 記載の、乳酸−グリコール酸共重合体とポリエチレングリコールとのブロック共重合体等の低温では溶液状態で存在するが、体温ではゲルとなる高分子と薬物を含有する製剤を挙げることができる。
【0021】
一般に整形外科の領域で報告されている種々の基剤に封入した製剤としては、例えば、基剤(例えば、水難溶性の生体内適合性かつ生体内分解性ポリマー、ポリメチルメタクリレート、ヒドロキシアパタイト、トリカルシウムホスフェート等)と薬物とを混合して製造される製剤[バイオマテリアルズ(Biomaterials)21巻、2405−2412頁(2000年)、インターナショナル・ジャーナル・オブ・ファーマシューティクス(International Journal of Pharmaceutics)206巻1−12頁(2000年)]を挙げることができる。
【0022】
骨折治癒に要する期間における投与回数を少なくする上からは、局所投与により、有効量のPDE4阻害剤を障害を有する骨折部位に徐々に放出するものが好ましい。
デポ剤の内、注射剤の形で局所に投与し易いマイクロスフェアの場合、注射針を通過する粒径であるのが好ましく、粒子径が0.01〜150μm、とりわけ0.1〜100μmの範囲であるものが疾患部位への刺激を抑制できる点では好ましい。
【0023】
本発明のPDE4阻害剤を有効成分とする骨折治癒促進用組成物は、骨折部位の近傍に、局所的に投与することを考えれば、投与量を小さくするのが好ましく、組成物(例えばマイクロスフェア製剤)中のPDE4阻害剤の量は0.0001〜80重量%とするのが好ましく、さらに好ましくは0.001〜50重量%、さらに好ましくは0.01〜50重量%である。
有効成分としてのPDE4の投与量は、用いるPDE4阻害剤の種類、対象の体重、年齢、症状、適用部位等に応じて医師により適宜決定されるが、局所適用の場合、通常、疾患部位あたり1ng〜1gの範囲である。
【0024】
本発明の骨折治癒促進用組成物は、PDE4阻害剤と薬理的に許容される賦形剤または希釈剤とから、常法に従って調製されるが、好ましい組成物は、PDE4阻害剤と生体内適合性かつ生体内分解性ポリマーとを配合して調製される。
このうち、水難溶性の生体内適合性かつ生体内分解性ポリマーは、1gを溶解するのに、水(25℃)が1000ml以上必要となるような生体内適合性かつ生体内分解性ポリマーであり、具体的には、ヒドロキシ脂肪酸ポリエステルおよびその誘導体(例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリクエン酸、ポリリンゴ酸、ポリ−β−ヒドロキシ酪酸、ε−カプロラクトン開環重合体、乳酸−グリコール酸共重合体、2−ヒドロキシ酪酸−グリコール酸共重合体、ポリ乳酸とポリエチレングリコールとのブロック共重合体、ポリグリコール酸とポリエチレングリコールとのブロック共重合体、乳酸−グリコール酸共重合体とポリエチレングリコールとのブロック共重合体など)、α−シアノアクリル酸アルキルエステルのポリマー(例えば、ポリブチル−2−シアノアクリレートなど)、ポリアルキレンオキサレート(例えば、ポリトリメチレンオキサレート、ポリテトラメチレンオキサレートなど)、ポリオルソエステル、ポリカーボネート(例えば、ポリエチレンカーボネート、ポリエチレンプロピレンカーボネートなど)、ポリオルソカーボネート、ポリアミノ酸(例えば、ポリ−γ−L−アラニン、ポリ−γ−ベンジル−L−グルタミン酸、ポリ−γ−メチル−L−グルタミン酸など)、ヒアルロン酸エステルなどが挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。他の使用可能な生体内適合性かつ生体内分解性ポリマーとしては、ヒアルロン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸、コラーゲン、ゼラチン、フィブリン等が挙げられる。
【0025】
水難溶性の生体内適合性かつ生体内分解性ポリマーのうち、特に好ましいものはヒドロキシ脂肪酸のポリエステルである。それらは平均分子量が2000〜約800000の範囲内、より好ましくは2000〜約200000の範囲内のものが特に好適であり、平均分子量が5000〜50000の範囲のものが最も好適である。
また、上記ヒドロキシ脂肪酸のポリエステルのうち、更に好ましいのは、ポリ乳酸、乳酸−グリコール酸共重合体、2−ヒドロキシ酪酸−グリコール酸共重合体である。乳酸−グリコール酸共重合体における乳酸/グリコール酸のモル比は、好ましくは90/10〜30/70、より好ましくは80/20〜40/60であり、2−ヒドロキシ酪酸−グリコール酸共重合体における2−ヒドロキシ酪酸/グリコール酸のモル比は、好ましくは90/10〜30/70、より好ましくは80/20〜40/60である。
【0026】
前記PDE4阻害剤をデポ剤とするには、その形態に応じて、適宜製剤化することができ、必要に応じて、製剤化に先立ち、予めPDE4阻害剤を微粒子化してもよい。
PDE4阻害剤を微粒子化するには、慣用の微粒子製法を適宜使用することができ、ジェットミル粉砕、ハンマーミル粉砕、回転ボールミル粉砕、振動ボールミル粉砕、ビーズミル粉砕、シェーカーミル粉砕、ロッドミル粉砕、チューブミル粉砕等により、物理的に粉砕する粉砕法や、薬物を一旦溶媒に溶解後、pH調整、温度変化、溶媒組成の変更等を行って、晶析させ、遠心分離あるいは濾過等の方法で回収するいわゆる晶析法を採用することができる。
【0027】
本発明の医薬組成物の上記各種製剤を製造するには、PDE4阻害剤に合わせて、既知の製法を適宜適用することができる。
例えば、マイクロスフェア製剤を製造するには次の方法が用いられる。また、PDE4阻害剤が塩を形成しているために、マイクロスフェアへの取り込み率が悪い場合には、酸または塩基を用いて遊離の形に変換した後、マイクロスフェア化してもよい。
【0028】
(1)水中乾燥法:
沸点が水より低く水と非混和性である有機溶媒に水難溶性の生体内適合性かつ生体内分解性ポリマーを溶解させた溶液(水難溶性ポリマー溶液)に薬物を含有させ、かくして得られる有機相を水相中に分散してO/W型エマルションを調製後に、該有機溶媒を除去する方法であり、例えば、特公昭56−19324号、特開昭63−91325号、特開平8−151321号、ジャインらの文献(Kajeev Jainら、"Controlled Drug Delivery by Biodegradable Poly(Ester) Devices: Different Preparative Approaches", Drug Development and Industrial Pharmacy、24(8)巻、703−727頁、1998年)、特開昭60−100516号、特開昭62−201816号、特開平9−221417号、および特開平6−211648号に記載の方法と同様にして行われる。
【0029】
(2)相分離法:
水難溶性の生体内適合性かつ生体内分解性ポリマーの有機溶媒溶液に、薬物もしくは薬物水溶液を溶解・分散させ、これに硬化剤を撹拌下徐々に加え、析出固化させる方法であり、例えば特開昭60−67417号、米国特許第5503851号、米国特許第5000886号、Eur. J. Pharm. Biopharm. 42(1)巻、16〜24頁(1996年)および前記ジャインらの文献に記載の方法と同様にして行われる。
【0030】
(3)噴霧乾燥法:
水難溶性の生体内適合性かつ生体内分解性ポリマーの有機溶媒溶液に、薬物を溶解・分散させるか、または薬物水溶液を分散させ、これをスプレーノズルでスプレードライヤー(噴霧乾燥器)の乾燥室内へ噴霧し、きわめて短時間に噴霧液滴内の有機溶媒を揮発させる方法であり、例えば、特開平1−155942号、特開平5−194200号、特開平5−70363号、特開平8−151321号、特開平9−221417号、米国特許第5922253号、「Spray Drying Handbook」(John Wiley & Sons, New York 1984)、ディージィの文献[Partick B. Deasy、「Microcapsulation and Related Drug Processes」(Marcel Dekker, Inc.、New York 1984)]、および前記ジャインらの文献などに記載の方法と同様にして行われる。
【0031】
(4)溶媒拡散法:
薬物および水難溶解性の生体内適合性かつ生体内分解性ポリマーを溶解させた水混和性有機溶媒の溶液を、保護コロイド剤の水溶液に添加し、攪拌乳化して微粒子を得る方法であり、例えば、特開平5−58882号、特開平9−110678号、インターナショナル・ジャーナル・オブ・ファーマシューティクス(International Journal of Pharmaceutics)187巻、143〜152(1999)に記載の方法と同様にして行われる。
上記「水中乾燥法」では、有機相の形態によって調製法が異なるが、いずれも常法にしたがって行うことができる。該有機相の形態としては以下のものが含まれる。
【0032】
(a)水難溶性の生体内適合性かつ生体内分解性ポリマー溶液に、薬物が直接溶解もしくは分散されている有機相。これを水相中に分散するとO/W型エマルションとなる(特公昭56−19324号、特開昭63−91325号、特開平6−32732号、特開平8−151321号、特開平6−32732号、前記ジャインらの文献など)。
(b)水難溶性の生体内適合性かつ生体内分解性ポリマー溶液に、薬物水溶液が分散されているW/O型エマルションからなる有機相。そのW/O型エマルションを水相中に分散すると、(W/O)/W型エマルションとなる(特開昭60−100516号、特開昭62−201816号、特開平9−221417号、前記ジャインらの文献など)。
(c)2種以上の水難溶性の生体内適合性かつ生体内分解性ポリマーを用い、一方のポリマー溶液中に分散されている他方のポリマー溶液中に、薬物が溶解もしくは分散しているO/O型エマルションからなる有機相。そのO/O型エマルションを水相中に分散すると(O/O)/W型エマルションとなる(特開平6−211648号)。
【0033】
上記いずれの形態の有機相においても常法により、例えば、断続振盪法、プロペラ型またはタービン型撹拌機を用いる混和法、コロイドミル法、ホモジナイザーを用いる方法、超音波照射法などによって、エマルションを形成させる。
これらの方法において用いられる有機溶媒としては、ハロゲン化炭化水素系溶媒(塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロエタン、ジクロロエタン、トリクロロエタンなど)、脂肪酸エステル系溶媒(酢酸エチル、酢酸ブチルなど)、芳香族炭化水素系溶媒(ベンゼン)、脂肪族炭化水素(n−ヘキサン、n−ペンタン、シクロヘキサンなど)、ケトン系溶媒(メチルエチルケトンなど)、エーテル系溶媒(ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルイソブチルエーテルなど)が挙げられる。
【0034】
上記のエマルションを形成させる際、エマルションを安定化するために乳化剤、例えばアニオン性界面活性剤(オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム等)、非イオン性界面活性剤(ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル[Tween80、Tween60(日光ケミカルズ製)等]、ポリエチレンヒマシ油誘導体[HCO−60、HCO−50(日光ケミカルズ製)]、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、レシチン、ゼラチン等)を水相に添加してもよい。
また、PDE4阻害剤に加えて、他の成分を配合する場合は、上記O/W型エマルションを形成する際に、有機溶媒相にそれらを添加するのが好ましい。なお、薬効成分含量の高いマイクロスフェア製剤を得るためには、有機相の調製に際して薬効成分濃度を高くしておく必要があり、この場合、薬効成分の水相への流出を防ぐために、水相中に浸透圧調節剤を添加することもできる(日本特許第2608245号を参照)。
【0035】
上記のようにして得られるO/W型エマルションを水中乾燥法に付すことにより、エマルションに含まれる有機溶媒を除去してマイクロスフェアを製造する。
有機溶媒を除去するには、そのエマルション系を加温したり、減圧下に置くか、または気体を吹きつける方法などの慣用の方法が採用され、たとえば、開放系で溶媒を留去する方法(特公昭56−19324号、特開昭63−91325号、特開平8−151321号、特開平6−211648号)、閉鎖系で溶媒留去する方法(特開平9−221418号)などが採用され得る。また、多量の外水相を用いて溶媒を抽出・除去する方法(日本特許第2582186号)によっても行うことができる。
【0036】
また次の方法も、PDE4阻害剤の種類に応じて、適宜適用することができる。
薬物、生体内分解性ポリマーおよび水と混和する前記ポリマーの良溶媒(溶媒A:アセトン、テトラヒドロフラン等)を含む溶液を、溶媒Aと混和する前記ポリマーの貧溶媒(溶媒B:水、エタノール等)および溶媒Aと混和しない前記ポリマーの貧溶媒(溶媒C:グリセリン等)を含む均一混合液中に添加して乳化することにより、ポリマー溶液が分散相、均一混合液が連続相を形成するエマルションを調製し、分散相から溶媒Aを除去する方法(国際公開No.01/80835 )。
【0037】
水より沸点の低い有機溶媒(塩化メチレン、酢酸エチル等)および水難溶性ポリマーを含む有機相が水相に乳化したエマルションから水中乾燥法でマイクロスフェアを製造するにあたり、(1)気体分離膜(浸透気化膜、多孔性膜等)を備えた装置を用い、(2)水中乾燥に付されるエマルションを気体分離膜の一方の側に供給し、(3)気体分離膜の他方の側へエマルションに含まれる有機溶媒を留去する方法(国際公開No.01/83594)。
さらに、マイクロスフェアを水相中で有機溶媒の沸点以上に加温し(特開2000−239152号)、または高融点添加物でマイクロスフェアを覆った後、加温乾燥する(特開平9−221417号)ことにより、マイクロスフェアに残存する有機溶媒を除去することもできる。
【0038】
このようにして得られるマイクロスフェアは遠心分離、濾過或いは篩などで回収し、その表面に付着した水相添加物等を洗浄除去し、所望により、マイクロスフェア同士の凝集を防止するために糖あるいは糖アルコール、無機塩等、好ましくは、ラクトース、マンニトール、ソルビトールなどの凝集防止剤を添加した後、凍結乾燥に付す。この際、所望の粒子径のマイクロスフェアを得るために、篩にかけることが好ましく、特にマイクロスフェア製剤を注射剤として用いる場合に、通針性を向上させるために、例えば150μmまたはそれ以下の径で篩過を行うのが好ましい。
【0039】
「相分離法」によってマイクロスフェアを製造するためには、前記水中乾燥法で用いたものと同様の有機溶媒の他、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの両親媒性溶媒を使用することもできる。これらの有機溶媒を用いた水難溶性ポリマーの有機溶媒溶液にPDE4阻害剤および所望により他の成分、またはそれらの水溶液を加えて溶解または分散させ、有機相を形成させる。この有機相を上記有機溶媒と混和しない溶媒(分散媒)、たとえばシリコンオイル類、流動パラフィン、ゴマ油、大豆油、コーン油、綿実油、ココナッツ油、アマニ油などに撹拌下徐々に添加してO/O型エマルションを形成させる。所望により分散媒には界面活性剤を添加してもよい。このエマルションを冷却して水難溶性ポリマーを固化させる、もしくは加熱して有機相中の溶媒を蒸発させることで水難溶性ポリマーを固化させる。または攪拌下このエマルションに硬化剤、たとえばヘキサン、シクロヘキサン、メチルエチルケトン、オクタメチルシクロテトラシロキサン等を徐々に添加する、もしくは硬化剤にエマルションを徐々に添加することによって、水難溶性ポリマーを析出させることでマイクロスフェアを形成させる。
【0040】
このようにして形成されたマイクロスフェアは遠心分離、濾過あるいは篩などで回収し、その表面に付着した溶媒や添加剤をヘキサンや精製水などで洗浄除去し、所望により通風乾燥、減圧乾燥、凍結乾燥などに付す。あるいは前記水中乾燥法の場合と同様に、凝集防止剤などを添加した後、凍結乾燥に付す。
【0041】
なお、相分離法における内部有機相の形態としては以下のものが含まれる。
(a)水難溶性の生体内適合性かつ生体内分解性ポリマー溶液に、薬物が直接溶解もしくは分散されている有機相。
(b)水難溶性の生体内適合性かつ生体内分解性ポリマー溶液に、薬物水溶液が分散されているW/O型エマルションからなる有機相。
(c)2種以上の水難溶性の生体内適合性かつ生体内分解性ポリマーを用い、一方のポリマー溶液中に分散されている他方のポリマー溶液中に、薬物が溶解もしくは分散もしくは薬物溶液が分散しているO/O型エマルションからなる有機相。
【0042】
また「噴霧乾燥法」によってマイクロスフェアを製造するには、前記相分離法で用いたものと同様の有機溶媒を用い、これに水難溶性の生体内適合性かつ生体内分解性ポリマーを溶かし、その有機溶媒溶液に、PDE4阻害剤および所望により他の成分を溶解、分散させるか、またはそれら薬物の水溶液を分散させ、その分散液をスプレーノズルを通して噴霧乾燥器内に噴霧して有機溶媒を揮発させてマイクロスフェアを形成させる。
用いられる噴霧乾燥器は市販の製品、例えばパルビス・ミニ・スプレイ(Pulvis Mini Spray)GS31(ヤマト製)、ミニスプレードライヤー(柴田科学製)などがいずれも使用され得る。
【0043】
このようにして得られるマイクロスフェアは水中乾燥法で得られるものと同様に後処理に付されて所望のマイクロスフェア製剤が得られる。
「溶媒拡散法」において、水混和性有機溶媒としてはアセトン、メタノール、エタノール、これらの混合溶媒が挙げることができ、必要に応じて薬物を溶解し得る揮発性溶媒(塩化メチレン、クロロホルム)を加えてもよい。保護コロイド剤としてはポリビニルアルコールを挙げることが出来る。
【0044】
本発明のPDE4阻害剤を有効成分とする骨折治癒促進用組成物をマイクロスフェアの形で骨折部位の近傍に投与する場合には、局所的に投与するのが好ましく、局所への注射または埋め込みが好ましい。
マイクロスフェアを注射剤とするには、分散剤を含有する水溶液に本発明で得られるマイクロスフェアを、0.0001〜1000mg/ml、好ましくは0.0005〜800mg/ml、さらに好ましくは0.001〜500mg/mlの濃度となるように分散して調製することができる。
【0045】
用いられる分散剤としては、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(Tween80、Tween60(日光ケミカルズ製)など)、ポリエチレンヒマシ油(HCO−60、HCO−50(日光ケミカルズ製)など)等の非イオン界面活性剤、カルボキシメチルセルロースナトリウム等のセルロース系分散剤、アルギン酸ナトリウム、デキストラン、ヒアルロン酸ナトリウムが挙げられる。これらの分散剤は、マイクロスフェアの分散性を向上させ、薬効成分の溶出を安定化させる働きがあり、通常、0.01〜2重量%、好ましくは0.05〜1重量%で添加される。
上記注射剤には、適宜、保存剤(メチルパラベン、プロピルパラベン、ベンジルアルコール、クロロブタノール、ソルビン酸、ホウ酸、アミノ酸、ポリエチレングリコール類など)、等張化剤(塩化ナトリウム、グリセリン、ソルビトール、ブドウ糖、マンニトールなど)、pH調節剤(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、塩酸、リン酸、クエン酸、シュウ酸、炭酸、酢酸、アルギニン、リジンなど)、緩衝剤(リン酸水素ナトリウム、リン酸水素カリウムなど)が配合される。
【0046】
注射剤には、更に、必要に応じて、ステロイド系消炎鎮痛剤、非ステロイド系消炎鎮痛剤を溶解・分散してもよい。ステロイド系消炎鎮痛剤としては、例えば、デキサメタゾン、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニド、ハロプレドン、パラメタゾン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、ベタメタゾン等をあげることができる。また、非ステロイド系消炎鎮痛剤としては、イブプロフェン、ケトプロフェン、インドメタシン、ナプロキセン、ピロキシカム等を挙げることができる。
また、PDE4阻害剤を含有するマイクロスフェアの注射剤は、上記懸濁液のほか、用時調製用に、凝集防止剤およびマイクロスフェアを含有する固形製剤と分散剤および注射用蒸留水を組み合わせた注射剤キットとすることもできる。
【0047】
キットに使用する固形製剤は、凝集防止剤を含む水溶液にマイクロスフェアを懸濁後、凍結乾燥、減圧乾燥、噴霧乾燥等することにより、調製することができ、とりわけ、凍結乾燥で調製するのが好ましい。
固形製剤の製造に際しては、注射用蒸留水への再分散性を向上させるために、凝集防止剤(マンニトール、ソルビトール、ラクトース、ブドウ糖、キシリトール、マルトース、ガラクトース、シュクロース等)を含む水溶液に分散剤を添加することもでき、分散性のよい固形剤とすることもできる。必要に応じて、分散剤と共に、ステロイド系消炎鎮痛剤、非ステロイド系消炎鎮痛剤を組合せた注射用キットとすることも出来る。
【0048】
本発明のPDE4阻害剤を有効成分とする骨折治癒促進用組成物は、各種温血哺乳動物、例えば、ヒト、家畜動物(ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ)、愛玩動物(イヌ、ネコ)等に用いることができる。
本発明のPDE4阻害剤を有効成分とする骨折治癒促進用組成物の適応症としては、(a)外力による骨折、(b)病的骨折(骨粗鬆症に伴う骨折、骨軟化症に伴う骨折、悪性腫瘍に伴う骨折、多発性骨髄腫に伴う骨折、先天性骨形成不全に伴う骨折、骨嚢胞症に伴う骨折、化膿性骨髄炎に伴う骨折、大理石病に伴う骨折、栄養障害に伴う骨折)、(c)疲労骨折をあげることができる。また、本発明のPDE4阻害剤を有効成分とする骨折治癒促進組成物は、亀裂骨折、若木骨折、横骨折、斜骨折、螺旋骨折、分節骨折、粉砕骨折、剥離骨折、圧迫骨折、陥没骨折等の何れにも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】ウサギ肋軟骨細胞の培養における化合物番号(1)の軟骨細胞石灰化(カルシウム沈着)作用を示す写真の模写図である。
【図2】PDE4阻害剤(化合物番号(2))マイクロスフェアで処置したウサギにおける欠損橈骨の再生状況を示すグラフであり、上側の図は総骨面積(mm)、下側の図は骨強度指標(SSI:mm)と、化合物(2)の投与量との関係を示している。
【図3】PDE4阻害剤(化合物番号(2))マイクロスフェアで処置したラット腓骨骨折部位における、cAMP量の経時変化を示すグラフである。
【図4】正常ラットおよびSTZ誘発糖尿病ラットにおける腓骨の骨折部分におけるcAMP量の経時変化を示すグラフである。
【図5】実施例1−(4)、実施例2−(1)および実施例3−(1)のマイクロスフェアのインビトロでの溶出特性を示すグラフである。
【図6】化合物番号(1)を静脈内投与した場合の、血漿中濃度の経時変化を示すグラフである。データは平均値±標準偏差(例数:3)で示した。
【図7】実施例1−(5)、実施例2−(2)および実施例3−(2)で得られたマイクロスフェア分散液を皮下注射した場合の血漿中濃度の経時変化を示すグラフである。データは平均値±標準偏差(例数:5)で示した。
【図8】実施例2−(2)で得られたマイクロスフェア分散液を皮下注射した場合の製剤中に残存している化合物番号(1)の経時変化を示すグラフである。データは平均値±標準偏差(例数:5)で示した。
【図9】実施例6−(5)および実施例7−(2)で得られたマイクロスフェア分散液を皮下注射した場合の製剤中に残存している化合物番号(2)の経時変化を示すグラフである。データは平均値±標準偏差(例数:4)で示した。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0050】
つぎに、実験例、実施例および試験例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、以下の実施例等において用いる化合物番号は前記化学構造式で示した好ましいPDE4阻害剤の具体例の化合物番号を意味する。
実験例1(正常ラットにおける骨折治癒促進)
(予備飼育)
CD(SD)IGSラット(日本チャールズリバー;雄性;7週齢)を室温(23±2℃)、湿度(40〜70%内で維持)で7日間飼育した。飼育期間中、市販の餌(オリエンタルバイオ製;CE−2)を自由摂取させた。
(骨折治癒)
エーテル麻酔下で、上記ラットの左下肢部の毛を剃り、70%水性エタノールで消毒後、ハサミで腓骨を露出させ、爪切り用ハサミ(夏目製作所製;B−17)で腓骨を切断した。切断面をピンセットで合わせ、検体投与群(1群:20匹)には、それぞれ、化合物番号(1)0.1mgまたは0.5mgを含む実施例2−(1)で製造した薬物含有マイクロスフェアを切断部位周辺にスパーテルで置いた後、絹糸で縫合した。一方、検体非投与群(1群:20匹)には対照例1−(1)で製造した薬物非含有マイクロスフェアを同量ずつ切断部位周辺にスパーテルで置いた後、絹糸で縫合した。何れの群も縫合後、70%水性エタノールで消毒した。縫合後6週間後に、各群10匹づつエーテル麻酔下で開腹、放血により安楽死させ、腓骨を摘出した。
(実験結果)
(1)腓骨骨密度および骨塩量の測定
縫合後6週間後に摘出された腓骨を、DXA骨密度測定装置(Aloka製;DCS-600)を用いて骨折部位(走査幅1mm)の骨密度と骨塩量を測定した。
骨密度および骨塩量の測定結果はそれぞれ表1および表2に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

上記表1および表2に示すとおり、薬物含有マイクロスフェアを投与した群では、薬物量依存的に、骨折部位の骨密度および骨塩量が増加していることが判明した。
(2)腓骨体積測定
縫合後6週間後に摘出された腓骨の体積を、プレシスモメーター(室町機械製;TK−101)を用いて測定した。
骨体積の測定結果は表3に示す。
【0053】
【表3】

上記表3に示すとおり、薬物含有マイクロスフェアを投与した群では、薬物量依存的に、腓骨の骨体積が向上していることが判明した。
(3)腓骨強度測定
縫合後6週間後に摘出された腓骨を、骨強度測定装置(室町機械製;TK−252C)を用い、3点折曲げ試験により、骨強度の測定を行った。即ち、骨折面から左右4mmずつ離れた2点を支え、骨折面上部から3mm/分で圧力をかけ被験骨を破断させた。このとき被験骨を破断させるのに要した最大力を破断強度とした。また、被験骨を破断させるまでに費やされた総エネルギーを破断エネルギーとした。
破断エネルギーと破断強度の測定結果をそれぞれ表4および表5に示す。
【0054】
【表4】

【0055】
【表5】

上記表4および5に示すとおり、薬物含有マイクロスフェアを投与した群では、薬物量依存的に、骨折部位の骨強度が向上していることが判明した。
【0056】
実験例2(正常ラットにおける骨折治癒促進)
(予備飼育)
CD(SD)IGSラット(日本チャールズリバー;雄性;7週齢)を室温(23±2℃)、湿度(50±20%)で7日間飼育した。飼育期間中、市販の餌(オリエンタルバイオ製;CE−2)を自由摂取させた。
(骨折治癒)
エーテル麻酔下で、上記ラットの左下肢部の毛を剃り、70%水性エタノールで消毒後、ハサミで腓骨を露出させ、爪切り用ハサミ(夏目製作所製;B−17)で腓骨を切断した。切断面をピンセットで合わせ、検体投与群(1群:15匹)には、それぞれ、化合物番号(2)0.004mg、0.02mg、0.1mgまたは0.5mgを含む実施例7で製造したマイクロスフェアを切断部位周辺にスパーテルで置いた後、絹糸で縫合した。一方、検体非投与群(1群:15匹)には対照例2で製造した薬物非含有マイクロスフェアを同量ずつ切断部位周辺にスパーテルで置いた後、絹糸で縫合した。何れの群も縫合後、70%水性エタノールで消毒した。2週間後に各群5匹、4週間後に各群10匹づつエーテル麻酔下で開腹、放血により安楽死させ、腓骨を摘出した。
(実験結果)
(1)腓骨骨密度および骨塩量の測定
縫合後2週間後に摘出された腓骨を、DXA骨密度測定装置(Aloka製;DCS−600)を用いて骨折部位(走査幅1mm)の骨密度と骨塩量を測定した。
骨密度および骨塩量の測定結果をそれぞれ表6および表7に示す。
【0057】
【表6】

【0058】
【表7】

表6および表7に示すとおり、薬物含有マイクロスフェアを投与した群では、薬物量依存的に、骨折部位の骨密度および骨塩量が増加していることが判明した。
(2)腓骨体積測定
縫合後2週間後に摘出された腓骨の体積を、プレシスモメーター(室町機械製;TK-101)を用いて測定した。その骨体積の測定結果を表8に示すとおりである。
【0059】
【表8】

表8に示すとおり、薬物含有マイクロスフェアを投与した群では、薬物量依存的に、腓骨の骨体積が向上していることが判明した。
(3)腓骨強度測定
縫合後4週間後に摘出された腓骨を、骨強度測定装置(室町機械製;TK−252C)を用い、3点折曲げ試験により、骨強度の測定を行った。即ち、骨折面から左右4mmずつ離れた2点を支え、骨折面上部から3mm/分で圧力をかけ被験骨を破断させた。このとき被験骨を破断させるまでに費やされた総エネルギーを破断エネルギーとした。その破断エネルギーの測定結果を表9に示す。
【0060】
【表9】

表9に示すとおり、薬物含有マイクロスフェアを投与した群では、薬物量依存的に、骨折部位の骨強度が向上していることが判明した。
【0061】
実験例3(in vitro実験)
(肋軟骨細胞の単離)
NZ系ウサギ(北山ラベス;雄性;4週齢)から肋軟骨を摘出し、ハンク平衡塩溶液(Hank's balanced salt solution;カルシウムおよびマグネシウムなし;ライフテック社製、以下、HBSS)に浸した。肋軟骨を肋骨と共に1本ずつ切り取り、脂肪および筋肉を取り去った後、肋軟骨の成長軟骨層部分を切り取った。集めた成長軟骨層をメス(フェザー社製)で細かく刻み、ウサギ4羽分を1本の遠心管に集めた。遠心管にエチレンジアミンテトラ酢酸−4ナトリウム塩を0.1%の濃度に溶解したHBSS(pH7.2)40mlを添加して、成長軟骨層を懸濁し、37℃で20分間撹拌した。遠心管を遠心(1500rpm、10分)した後、上清を吸引除去し、遠心管中の沈殿物にトリプシンを0.2%の濃度に溶解したHBSS(pH7.2)40mlを加えて懸濁した後、37℃で1時間撹拌した。遠心管を遠心(1500rpm、10分)した後、上清を吸引除去し、HBSSで2回洗浄した後、100mlのコラーゲナーゼ(和光純薬製、034−10533)を0.1%の濃度に溶解したHBSS100mlに懸濁し、37℃で3時間撹拌した。遠心管の内容物をセルストレーナー(目開き:40μm)に通し、通過した内容物を遠心管4本に分け入れた。4本の遠心管に、それぞれ、培養液(α−MEM、ライフテック製)40mlを加えて、遠心(1500rpm、10分)した後、上清を吸引除去し、沈殿物をピペットマンで1本の遠心管に集めた。遠心管に同培養液40mlを加え、再度、遠心(1500rpm、10分)した。培養液を加えて遠心することによる洗浄操作を更に3回繰り返し、沈殿物に同培養液を添加して懸濁し、5ml程度の懸濁液として、細胞数をカウントした。
(肋軟骨細胞の培養)
上記肋軟骨細胞の懸濁液を1ウェル当たりの細胞数が5万個となるように24ウェルに分注した。翌日、各ウェルの培養液を上記培養液で交換し、分注後5日目の培地交換以降、検体含有培地として、下記表10に示した試験化合物を添加した培地(ビヒクルとしてジメチルスルホキシドを0.1%含有)でウェルの培養液を交換した。一方、検体非含有培地としては、試験化合物を含有しない(ビヒクルのみ含有)以外は全く同一の培地を用い、検体含有培地と同時期にウェルの培養液を交換した。この際、培養液には、アスコルビン酸リン酸エステルを0.2mMとなるように添加した。アルシアンブルー染色を行なう場合には、培養液交換は分注後5、7、9、12、14日目に行い、分注後16日目にアルシアンブルー染色を行なった。
(軟骨基質産生)
各ウェルの培養液を除いた後、パラホルムアルデヒドを4%の濃度に溶解した中性緩衝液1mlを添加し、室温で30分間放置することにより、細胞を固定した。その後、リン酸緩衝液(pH7.2)1mlで2回洗浄し、軟骨基質(プロテオグリカン)を選択的に着色するアルシアンブルーBGX(シグマ製;A3157)を0.1%の濃度に溶解した0.1M塩酸をフィルター濾過後、1ml/ウェルとなるように分注した。各ウェルに6M塩酸グアニジン水溶液0.5mlを加えてアルシアンブルーを溶解させ、620nmの吸光度を測定し、各ウェルの軟骨基質量(プロテオグリカン産生量)を推定し、各試験化合物における、ビヒクルを100としたプロテオグリカン産生率(%)を算出した。その結果を表10に示す。
【0062】
【表10】

【0063】
実験例4(in vitro実験)
他の化合物(化合物番号(52)〜(55)、対比上化合物番号(2)についても行った)について上記実験例3と全く同様にして軟骨基質(プロテオグリカン)産生量を測定した。その結果を表11に示す。
【0064】
【表11】

上記表10および表11に示すとおり、試験したPDE4阻害作用を有する化合物はいずれも軟骨基質(プロテオグリカン)産生促進効果を示し、特に化合物番号(1)、(2)、(52)および(53)は著しい基質産生促進作用が認められた。
【0065】
実験例5(軟骨細胞の石灰化)
前記実験例3において、試験化合物として化合物番号(1)(10−4M)を用いた以外、同様にして(肋軟骨細胞の単離)および(肋軟骨細胞の培養)処理を行ってウェルで培養した後、各ウェルの培養液を除き、ついで、ホルムアルデヒドを4%の濃度に溶解した中性緩衝液1mlを添加し、室温で30分間放置することにより、細胞を固定した。その後、リン酸緩衝液(pH7.2)1mlで2回洗浄し、石灰化した部分を選択的に着色する硝酸銀の5%水溶液を分注し、発色まで室温で放置した。各ウェルを蒸留水で洗浄後、5%チオ硫酸ナトリウム水溶液で反応を停止させ、蒸留水で洗浄後に写真撮影を行なった。また、細胞を1mlの100%エタノールで1時間固定した後、0.1%のアルザリンレッド(シグマ製)を溶解させたエタノール溶液で1時間染色し、さらに100%エタノールで2回洗浄した後に写真撮影を行なった。
その結果を図1に示す。図1からも明らかなように、PDE4阻害剤の化合物番号(1)を添加した培地で培養すると、培養4週目において、明らかに石灰沈着が認められ、カルシウム沈着増加作用を有することが確認された。
【0066】
実験例6(ウサギにおける欠損橈骨の再生)
(予備飼育)
日本白色ウサギ(雄性;11週;1群4羽)を室温(23±2℃)、湿度(55±15%)で7日間飼育した。飼育期間中、市販の餌(オリエンタルバイオサービス製;LRC4)を自由摂取させた。
(骨折治癒)
ペントバルビタールナトリウム麻酔下で、上記ウサギ右前腕の筋肉から橈骨を剥離し、骨膜をはがして、ボーンカッターで骨幹部を10mm切断し、除去した。実施例7−(1)で製造した化合物番号(2)のマイクロスフェア(化合物番号(2)を8μgまたは40μg含有)をゼラチンカプセル(カプスゲル社製 5号)に充填の上、対照例2で製造したマイクロスフェアを充填してゼラチンカプセルに充填したマイクロスフェア総量を15mgとした。ゼラチンカプセルを1個ずつ骨除去部に置き、骨膜をカプセルを覆うように整復し、縫合した。対照群には、対照例で製造したマイクロスフェアを同様にゼラチンカプセルに封入したものを与えた。筋肉、表皮も縫合し、消毒を行った。縫合後6週間後に、ウサギをペントバルビタールナトリウム麻酔下で放血により安楽死させ、右前腕骨を摘出した。
(実験結果)
摘出された右前腕骨について、肩側の骨折線上を近位端とし、近位端から5mm手首側を遠位端とした。遠位端について、pQCT(ノーランドストラテックス社製;XCT−960A)を用いて総骨面積(mm)、骨強度指標(SSI:mm)(Clinical Calcium vol. 10, 35-41, 2000)を測定した。
結果を図2に示す。図2から明らかに、本発明のPDE4阻害剤を含有するマイクロスフェア製剤による処置群では、総骨面積および骨強度指標のいずれに関しても、対照群に比較して向上している。この結果は、PDE4阻害剤の有効性を示すものである。
【0067】
実験例7(糖尿病ラットにおける骨折治癒促進)
(予備飼育)
CD(SD)IGSラット(日本チャールズリバー;雄性;7週齢)を室温(23±2℃)、湿度(55±15%)で7日間飼育した。飼育期間中、市販の餌(オリエンタルバイオサービス製;CRF−1)を自由摂取させた。
(糖尿病誘発)
上記ラットに、糖尿病を誘発するストレプトゾトシン(Sigma社製)を0.05M濃度になるように、クエン酸生理食塩緩衝液(pH4.5)に溶解した溶液を、ストレプトゾトシンが60mg/kgとなるように静脈内注射した。1週間後に尾先より採血し、血糖測定装置(モレキュラーデバイス社製、M−SPmax250)を用いて、血糖値を測定した。この測定結果を基に、群間の血糖値に有意な差が生じないように群分けを行った。平均血糖値は426.12〜428.23mg/dlであった。
(骨折治癒)
エーテル麻酔下で、上記ラットの左下肢部の毛を剃り、70%水性エタノールで消毒後、ハサミで腓骨を露出させ、爪切り用ハサミ(夏目製作所製;B−17)で腓骨を切断した。切断面をピンセットで合わせ、検体投与群(1群:12匹)には、それぞれ、化合物番号(2)0.03mgまたは0.1mgを含む実施例7−(1)で製造したマイクロスフェアを切断部位周辺にスパーテルで置いた後、絹糸で縫合した。一方、検体非投与群(1群:12匹)には対照例2で製造した薬物非含有マイクロスフェアを同量ずつ切断部位周辺にスパーテルで置いた後、絹糸で縫合した。何れの群も縫合後、70%水性エタノールで消毒した。縫合後6週間後に、エーテル麻酔下で開腹、放血により安楽死させ、腓骨を摘出した。
(実験結果)
腓骨塩量の測定
縫合後6週間後に摘出された腓骨のうち、8本をランダムに選び、DXA骨密度測定装置(Aloka製;DCS−600)を用いて骨折部位(走査幅1mm)の骨塩量を測定した。結果を
に示す。
【0068】
【表12】

表12に示すとおり、骨折の治癒が遅れるとされている糖尿病についても、動物モデルにおいて、PDE4阻害剤は、濃度依存的に骨塩量増加効果を示した。
腓骨強度測定
骨塩量測定に用いた腓骨を、骨強度測定装置(室町機械製;TK−252C)を用い、3点折曲げ試験により、骨強度の測定を行った。即ち、骨折面から左右4mmずつ離れた2点を支え、骨折面上部から3mm/分で圧力をかけ、被験骨を破断させた。このとき、被験骨を破断させるのに要した最大力を破断強度とした。また、被験骨を破断させるまでに費やされた総エネルギーを破断エネルギーとした。結果を表13に示す。
【0069】
【表13】

表13に示すとおり、骨折の治癒が遅れるとされている糖尿病についても、動物モデルにおいて、PPDE4阻害剤処置により破断強度および破断エネルギーが増加した。
(X線写真)
縫合後6週間後に摘出された腓骨4本をマイクロフォーカスX線拡大撮影システム(富士写真フイルム製;μFX−1000)にて撮影した(管電圧:25kV; 管電流:80μA; 20秒)。
検体非投与群では骨の切断部位の空隙が埋まっていなかったが、いずれの投与量であっても、検体投与群では骨の切断部位の空隙は埋まり、骨の盛り上がりが見られた。
【0070】
実験例8(ラットにおける骨折部位のcAMP量上昇)
(予備飼育)
CD(SD)IGSラット(日本チャールズリバー;雄性;7週齢)を室温(23±2℃)、湿度(55±15%)で7日間飼育した。飼育期間中、市販の餌(オリエンタルバイオサービス製;CRF−1)を自由摂取させた。
(骨折治癒)
エーテル麻酔下で、上記ラットの左下肢部の毛を剃り、70%水性エタノールで消毒後、ハサミで腓骨を露出させ、爪切り用ハサミ(夏目製作所製;B−17)で腓骨を切断した。切断面をピンセットで合わせ、検体投与群(1群:6匹)には、それぞれ、化合物番号(2)0.1mgを含む実施例7−(1)で製造したマイクロスフェアを切断部位周辺にスパーテルで置いた後、絹糸で縫合した。一方、検体非投与群(1群:6匹)には対照例2で製造した薬物非含有マイクロスフェアを同量ずつ切断部位周辺にスパーテルで置いた後、絹糸で縫合した。また、対照群(1群:6匹)では切断面をピンセットで合わせ、そのまま、絹糸で縫合した。何れの群も縫合後、70%水性エタノールで消毒した。縫合後0、3、7、14、28、42日後に、各群1匹ずつエーテル麻酔下で開腹、放血により安楽死させ、腓骨を摘出した。
(cAMP量の測定)
摘出した腓骨の骨折部分を1cmの長さに切断し、液体窒素で凍結保存した。切断によって得られた骨片を−80℃で粉砕し、粉砕物に6%トリクロロ酢酸300μlを添加して懸濁し、超音波攪拌を行った。懸濁液を遠心分離(12000rpm、15分)し、上清をエーテル抽出しトリクロロ酢酸を除去した後、75℃で5分処理することにより、上清からエーテルを除去した。こうして得られた上清のcAMP量をcAMP EIAシステム(Amasham Pharmacia Biotech製)で測定した。
(実験結果)
cAMP量の測定結果を図3に示す。図3に示すように、PDE4阻害剤非投与群(▲)および対照群(○)では、7日目をピークとしたcAMP量の穏やかな上昇が認められ、その後漸減した。これに対し、化合物番号(2)投与群(●)では、7日目をピークとした顕著なcAMP量の上昇が認められ、その後速やかに対照群のレベルに戻った。このことは、PDE4阻害剤により細胞内cAMPの分解が抑制され、骨折部位でcAMP量が上昇していることを示唆している。
【0071】
実験例9(糖尿病ラットにおける骨折部位のcAMP量上昇)
(予備飼育)
CD(SD)IGSラット(日本チャールズリバー;雄性;8週齢)を室温(23±2℃)、湿度(55±15%)で7日間飼育した。飼育期間中、市販の餌(オリエンタルバイオサービス製;CRF−1)を自由摂取させた。
(糖尿病誘発)
上記ラットに、糖尿病を誘発するストレプトゾトシン(STZ;Sigma社製)を0.05M濃度になるように、クエン酸生理食塩緩衝液(pH4.5)に溶解した溶液を、ストレプトゾトシンが60mg/kgとなるように静脈内注射した。1週間後に尾先より採血し、血糖測定装置(モレキュラーデバイス社製、M−SPmax250)を用いて、血糖値を測定した。この測定結果を基に、群間の血糖値に有意な差が生じないように群分けを行った。各群の平均血糖値は404.5〜410.00mg/dlであった。
(骨折治癒)
エーテル麻酔下で、上記糖尿病ラット(5群:各5匹)および無処置ラット(健常ラット、5群:各5匹)の左下肢部の毛を剃り、70%水性エタノールで消毒後、ハサミで腓骨を露出させ、爪切り用ハサミ(夏目製作所製;B−17)で腓骨を切断した。切断面をピンセットで合わせ、絹糸で縫合した。何れの群も縫合後、70%水性エタノールで消毒した。縫合後0、3、7、14、28日後に、糖尿病ラットおよび無処置ラットより1群5匹ずつエーテル麻酔下で開腹、放血により安楽死させ、腓骨を摘出した。
(cAMP量の測定)
摘出した腓骨の骨折部分を1cmの長さに切断し、液体窒素で凍結保存した。切断によって得られた骨片を−80℃で粉砕し、粉砕物に6%トリクロロ酢酸 300μlを添加して懸濁し、超音波攪拌を行った。懸濁液を遠心分離(12000rpm、15分)し、上清をエーテル抽出してトリクロロ酢酸を除去した後、75℃で5分処理することにより、上清からエーテルを除去した。こうして得られた上清のcAMP量をcAMP EIAシステム(Amasham Pharmacia Biotech製)で測定した。
(実験結果)
PDE4阻害剤で処置した、STZ処置群(糖尿病ラット(○))および無処置群(健常ラット(●))におけるcAMP量の測定結果(骨折部分におけるcAMP量の経時変化)を図4に示す。
【0072】
実施例1
(1)化合物番号(1)0.1gおよび乳酸−グリコール酸共重合体(乳酸/グリコール酸=50/50;平均分子量20000;PLGA5020:和光純薬製)1.9gに塩化メチレン4.0gを添加し、30分間振盪溶解することにより油相(O)を形成した。
(2)油相を0.5%ポリビニルアルコール(ポバールPVA−220C:クラレ製)水溶液8mlに加え、ホモジナイザー(Polytoron:Kinematica製)を用いて25℃で5分間乳化することにより、水相に油相が分散した乳化液(O/W)を製造した。
(3)この乳化液を精製水1000mlに添加し、スリーワンモーター(新東科学製)を用いて400rpmで攪拌しながら、25℃で3時間液中乾燥することにより塩化メチレンを除去した。
(4)生成するマイクロスフェア懸濁液から、目開き150μmのフィルターを通して凝集物を除去し、目開き20μmのフィルターで吸引ろ過することにより水相を除去した。得られたマイクロスフェアに少量の精製水を添加し、凍結乾燥することにより、マイクロスフェア1.6gを得た。
得られたマイクロスフェア10mgをアセトニトリル3mlに溶解し、0.5M塩化ナトリウム水溶液7mlを加えてミキサー(Touch mixer MT-51:Yamato製)にて攪拌後、2000rpmで5分遠心分離し、上清を分取した。上清の一部をFL−HPLC(カラム;Hypersil 5-ODS 直径4mm、長さ300mm:ジーエルサイエンス製、励起波長:315nm、蛍光波長:465nm)にかけ、別途作成した薬物溶液の検量線からこれに含まれる薬物量を測定し、これと上清量とからマイクロスフェア中の薬物含有量を算出した。その結果、薬物の含有量は4.21%であった。
また、得られたマイクロスフェアをポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(Tween80:日光ケミカルズ製)の希薄溶液に適量分散させ、粒度分布測定装置SALD−1100(島津製)にて粒度分布を測定し、平均粒子径を算出した。その結果、平均粒子径は57μmであった。
(5)上記(4)で得られたマイクロスフェアを、カルボキシメチルセルロースナトリウム(ニチリン化学工業製)を0.5%、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(Tween80:日光ケミカルズ製)を0.1%含む生理食塩水(分散媒)に2.5mg/mlの薬物割合となるように添加し、ミキサー(Touch mixer MT-51:Yamato製)にて、十分攪拌することにより、マイクロスフェア分散液を調製した。
【0073】
実施例2
(1)乳酸−グリコール酸共重合体(乳酸/グリコール酸=50/50;平均分子量20000;PLGA5020:和光純薬)0.57gと乳酸重合体(平均分子量20000;PLA0020:和光純薬製)1.33gを混合して用いること以外は、実施例1−(1)〜(4)と同様にして、マイクロスフェア1.6gを得た。
実施例1−(4)と同様にしてマイクロスフェア中の薬物含有量および平均粒子径を測定した。その結果、薬物含有量は3.70%、平均粒子径は47.7μmであった。
(2)上記(1)で得られたマイクロスフェアを実施例1−(5)と同様に処理してマイクロスフェア分散液(薬物割合:2.5mg/ml)を調製した。
【0074】
実施例3
(1)乳酸重合体(平均分子量20000;PLA0020:和光純薬製))を用いること以外は、実施例1−(1)〜(4)と同様にして、マイクロスフェア1.5gを得た。
実施例1−(4)と同様にしてマイクロスフェア中の薬物含有量および平均粒子径を測定した。その結果、薬物含有量は3.73%、平均粒子径は52.2μmであった。
(2)上記(1)で得られたマイクロスフェアを実施例1−(5)と同様に処理してマイクロスフェア分散液(薬物割合:2.5mg/ml)を調製した。
【0075】
実施例4
(1)化合物番号(1)0.2gおよび乳酸重合体(平均分子量20000;PLA0020:和光純薬製)0.3gに塩化メチレン1.0gを添加し、ミキサー(Touch mixer MT-51:Yamato製)にて十分攪拌、溶解することにより、油相(O)を形成した。
(2)油相を0.25%メチルセルロース(メトローズ:信越化学社製)水溶液4mlに加え、ホモジナイザー(Polytoron:Kinematica製)を用いて25℃で5分間乳化することにより、水相に油相が分散した乳化液(O/W)を製造した。
(3)この乳化液を精製水400mlに添加し、スリーワンモーター(新東科学製)を用いて400rpmで攪拌しながら、25℃で3時間液中乾燥することにより塩化メチレンを除去した。
(4)生成するマイクロスフェア懸濁液から、目開き150μmのフィルターを通して凝集物を除去し、目開き20μmのフィルターで吸引ろ過することにより水相を除去した。得られたマイクロスフェアに少量の精製水を添加して凍結乾燥することでマイクロスフェアを得た。実施例1−(4)と同様にしてマイクロスフェア中の薬物含有量および平均粒子径を測定した。その結果、薬物含有量は39.6%、平均粒子径は33.4μmであった。
【0076】
実施例5
(1)化合物番号(1)0.05gおよび乳酸−グリコール酸共重合体(乳酸/グリコール酸=50/50;平均分子量20000;R202H:ベーリンガーインゲルハイム社製)0.45gに塩化メチレン1.0gを添加し、ミキサー(Touch mixer MT-51:Yamato製)にて十分攪拌、溶解することにより、油相(O)を形成した。
(2)油相を0.5%ポリビニルアルコール(ゴセノールEG−40:日本合成化学工業製)水溶液40mlに加え、ホモジナイザー(Polytoron:Kinematica製)を用いて25℃で4分間乳化することにより、水相に油相が分散した乳化液(O/W)を製造した。
(3)この乳化液を予め400mlの精製水を入れた円筒状密閉容器(内径110mm;内容積1000ml)に注ぎ、スリーワンモーター(BL-600;HEIDON社製)に装着した直径50mmの4枚攪拌羽根(プロペラR型;HEIDON社製)により25℃、400rpmで攪拌すると同時に、容器内に挿入した円筒型シリコーンゴム製中空糸膜モジュール(永柳工業株式会社製)を用い、中空糸の内側に窒素ガスを通気して容器内から塩化メチレンを除去した。この際の窒素ガス通気速度は2L/分とした。この操作を1時間行った。
なお、円筒型シリコーンゴム製中空膜糸モジュールとしては、次の仕様を有するNAGASEP M60-1800円筒型を使用した。
円筒の直径 :100mm
円筒の長さ :120mm×120mm
中空糸膜の膜厚 :60μm
中空糸膜の内径 :200μm
中空糸膜の外径 :320μm
中空糸の本数 :1800
中空糸膜の有効膜面積:0.15m
(4)生成するマイクロスフェア懸濁液から、目開き150μmのフィルターを通して凝集物を除去し、目開き20μmのフィルターで吸引ろ過することにより水相を除去した。得られたマイクロスフェアに少量の精製水を添加して凍結乾燥することでマイクロスフェアを0.26g得た。実施例1−(4)と同様にしてマイクロスフェア中の薬物含有量および平均粒子径を測定した。その結果、薬物含有量は3.07%、平均粒子径は71.7μmであった。
【0077】
実施例6
(1)化合物番号(2)0.05gおよび乳酸−グリコール酸共重合体(乳酸/グリコール酸=50/50;平均分子量20000;RG502H:ベーリンガーインゲルハイム社製)0.45gに塩化メチレン2.5gを添加し、ミキサー(Touch mixer MT-51:Yamato製)にて十分攪拌、溶解することにより、油相(O)を形成した。
(2)油相を0.5%ポリビニルアルコール(ポバールPVA−220C:クラレ製)水溶液3mlに加え、ホモジナイザー(Polytoron:Kinematica製)を用いて22℃で5分間乳化することにより、水相に油相が分散した乳化液(O/W)を製造した。
(3)上記(1)および(2)の操作を5回繰り返し、得られた乳化液(5回分)を併せた上で、精製水1000mlに添加し、スリーワンモーター(新東科学製)を用いて400rpmで攪拌しながら、25℃で1時間30分、次いで40℃で1時間、25℃で30分間液中乾燥することにより塩化メチレンを除去した。
(4)生成するマイクロスフェア懸濁液から、目開き150μmのフィルターを通して凝集物を除去し、目開き20μmのフィルターで吸引ろ過することにより水相を除去した。得られたマイクロスフェアに少量の精製水を添加して凍結乾燥することでマイクロスフェア2.3gを採取した。
得られたマイクロスフェア10mgをアセトニトリル3mlに溶解し、0.5M塩化ナトリウム水溶液6mlを加えてミキサー(Touch mixer MT-51:Yamato製)にて攪拌後、2000rpmで5分遠心分離し、上清を分取した。上清の一部をUV−HPLC(カラム;Hypersil 5-ODS 直径4mm、長さ300mm:ジーエルサイエンス製、測定波長:240nm)にかけ、別途作成した薬物溶液の検量線からこれに含まれる薬物量を測定し、これと上清量とからマイクロスフェア中の薬物含有量を算出した。また、実施例1−(4)と同様にして平均粒子径を測定した。その結果、薬物含有量は9.9%、平均粒子径は26.4μmであった。
(5)上記(4)で得られたマイクロスフェアを実施例1−(5)と同様に処理してマイクロスフェア分散液(薬物割合:0.1mg/ml)を調製した。
【0078】
実施例7
(1)乳酸−グリコール酸共重合体(乳酸/グリコール酸=75/25;平均分子量20000;PLGA7520:和光純薬製)を用いること、ならびに塩化メチレンの添加量を2.0gとする以外は、実施例6−(1)〜(4)と同様にして、マイクロスフェア2.2gを得た。
実施例6−(4)と同様にしてマイクロスフェア中の薬物含有量および平均粒子径を測定した。その結果、薬物含有量は10.1%、平均粒子径は27.0μmであった。
(2)上記(1)で得られたマイクロスフェアを実施例6−(5)と同様に処理してマイクロスフェア分散液(薬物割合:0.1mg/ml)を調製した。
対照例1(実施例2の対照)
(1)乳酸−グリコール酸共重合体(乳酸/グリコール酸=50/50;平均分子量20000;PLGA5020:和光純薬)0.6gと乳酸重合体(平均分子量20000)1.4gに塩化メチレン4.0gを添加し、30分間振盪溶解することにより油相(O)を形成する。以下、実施例1−(1)〜(4)と同様にして、薬物を含まないマイクロスフェア1.7gを得た。
(2)プラセボ分散液の製造
上記(1)で得られたマイクロスフェアを実施例1−(5)と同様にして、マイクロスフェア分散液を調製した。
対照例2(実施例7の対照)
乳酸−グリコール酸共重合体(乳酸/グリコール酸=75/25;平均分子量20000;PLGA7520:和光純薬製)0.45gに塩化メチレン2.0gを添加し、ミキサー(Touch mixer MT-51:Yamato製)にて十分攪拌、溶解することにより、油相を形成した。以下、実施例6−(2)〜(4)と同様にして、薬物を含まないマイクロスフェア2.2gを得た。
【0079】
試験例1
試験管にマイクロスフェア10mgを入れ、0.05% Tween80含有リン酸緩衝液(pH7.4)の10mlを添加し、37℃の空気恒温庫中の回転培養機にて25rpmで攪拌した。攪拌開始時から一定時間後に、溶出液を遠心分離(2000rpm、5分)し、上清から9mlをサンプリングして、FL−HPLC(カラム;Hypersil 5-ODS 直径4mm、長さ300mm:ジーエルサイエンス製、励起波長:315nm、蛍光波長:465nm)にかけ、別途作成した薬物溶液の検量線からこれに含まれる薬物量を測定し、これとサンプリングの量とから薬物溶出量を算出した。
また、サンプリング後の試験管に、pH7.4リン酸緩衝液9mlを添加し、同様の条件で攪拌、サンプリングして薬物溶出量を算出する操作を経時的に繰り返した。
最終のサンプリング後、試験管から残りの溶出液を除去し、残存するマイクロスフェア中に含まれる薬物量を実施例1−(4)の方法で測定した。
この操作を実施例1、実施例2ならびに実施例3で得られたマイクロスフェアについて行った。その結果を図5に示す。
なお、溶出した薬物量とマイクロスフェアに残存した薬物量の合計を100%として、溶出率を算出した。
【0080】
試験例2
SD系雄性ラット(7週令、1群3匹、日本SLC)を12時間照明、室温:23±2℃、自由摂水・摂餌の条件下で1週間の馴化期間後、ポリエチレングリコール400(和光純薬社製)を10%含んだ生理食塩水に溶解した化合物番号(1)(1mg/ml)を1匹当たり0.5ml(総薬物投与量:0.5mg/ラット)の割合で大腿静脈から急速投与した。
薬物投与後、経時的にエーテル麻酔下で頚静脈よりヘパリンを添加した注射筒で血液を採取し遠心分離により血漿を得た。血漿0.1mlに内部標準溶液と1Mのリン酸水素2カリウム0.2mlを添加し、クロロホルム7.0mlを添加後、10分間振とう、5分間遠心分離して5mlの有機相を分取した。採取した有機相を窒素気流下、40℃で蒸発乾固し、移動相の0.5mlで再溶解後にFL−HPLC(カラム;Hypersil 5-ODS 直径4mm、長さ300mm:ジーエルサイエンス製、励起波長:315nm、蛍光波長:465nm)により血漿中濃度を測定した。その結果を図6に示す。
【0081】
試験例3
SD系雄性ラット(7週令、1群5匹、日本SLC)を12時間照明、室温:23±2℃、自由摂水・摂餌の条件下で1週間の馴化期間後、実施例1−(5)、実施例2−(2)、実施例3−(2)で得られたマイクロスフェア分散液を1匹当たり2ml(総薬物投与量:5mg/ラット)の割合で背部皮下に投与した。薬物投与後、経時的にエーテル麻酔下で頚静脈よりヘパリンを添加した注射筒で血液を採取し遠心分離により血漿を得た。血漿中の化合物濃度は試験例2と同様の方法で測定した。PDE4阻害剤をマイクロスフェア化することにより、PDE4阻害剤を1/10量しか含まない生理食塩水溶液を静脈注射した場合(試験例2)と比べても、PDE4阻害剤の最高血漿中濃度を1/25の1〜1/100に抑制することができた。その結果を図7に示す。
【0082】
試験例4
SD系雄性ラット(7週令、1群5匹、日本SLC)を12時間照明、室温:23±2℃、自由摂水・摂餌の条件下で1週間の馴化期間後、実施例2−(2)で得られたマイクロスフェア分散液を1匹当たり2ml(総薬物投与量:5mg/ラット)の割合で背部皮下に投与した。
薬物投与3、7、10、14、21、35日後、投与部位よりマイクロスフェアを回収した。回収したマイクロスフェアに内部標準物質を含有したアセトニトリル5mlを添加して、ホモジナイザー(Polytoron:Kinematica製)で溶解した。3000rpm、5分間遠心分離後の上清3mlを採取し、0.5M塩化ナトリウム水溶液7mlを加えてミキサー(Touch mixer MT-51:Yamato製)にて攪拌後、2000rpmで5分遠心分離し、上清を分取した。上清の一部をKCプレップオムニ13(片山化学社製)で濾過してFL−HPLC(カラム;Hypersil 5-ODS 直径4mm、長さ300mm:ジーエルサイエンス製、励起波長:315nm、蛍光波長:465nm)にかけ、別途作成した薬物溶液の検量線からこれに含まれる薬物量を測定し、これと上清量とからマイクロスフェア中の薬物残存量を算出した。その結果を図8に示す。
【0083】
試験例5
SD系雄性ラット(7週令、日本SLC)を12時間照明、室温:23±2℃、自由摂水・摂餌の条件下で1週間の馴化期間後、実施例6−(5)ならびに7−(2)で得られた化合物番号(2)含有マイクロスフェア分散液を1匹当たり1ml(総薬物投与量:0.1mg/ラット)の割合で背部皮下に投与した。
経時的に投与部位よりマイクロスフェアを回収し、アセトニトリル10mlを添加してホモジナイザー(Polytoron:Kinematica製)で溶解した。3000rpm、5分間遠心分離後の上清3mlを採取し、0.5M塩化ナトリウム水溶液6mlを加えてミキサー(Touch mixer MT-51:Yamato製)にて攪拌後、2000rpmで5分遠心分離し、上清を分取した。上清の一部をKCプレップオムニ13(片山化学社製)でろ過してUV−HPLC(カラム;Hypersil 5-ODS 直径4mm、長さ300mm:ジーエルサイエンス製、測定波長:240nm)にかけ、別途作成した薬物溶液の検量線からこれに含まれる薬物量を測定し、これと上清量とからマイクロスフェア中の薬物残存量を算出した。その結果を図9に示す。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の骨折治癒促進用組成物は、PDE4阻害剤を有効成分とし、特に、骨折部位に局所投与することにより、PDE4阻害剤の全身作用による副作用を伴うことなく、骨折治癒の修復期における内軟骨骨化を加速することにより、骨折の治癒を促進することができ、近年特に問題になっている高齢者や、糖尿病患者、骨粗鬆症患者における骨折の早期治癒を促し、寝たきりとなるのを防ぎ、安定した日常生活をもたらす効果を発揮する。また、PDE4阻害剤と生体内適合性かつ生体内分解性ポリマーを含有する組成物をデポ剤の形とし、特にマイクロスフェアの形態で注射剤として骨折部位に局所的に注射することにより持続的に効果を発揮することができ、さらに優れた効果が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化合物番号(9)、(11)、(21)、(27)、(44)、(52)、(53)、(54)または(55)またはその薬理的に許容し得る塩から選ばれる1種または2種以上のPDE4阻害剤を有効成分とし、PDE4阻害剤が骨折部位で徐々に放出されるように生体内適合性かつ生体内分解性ポリマーを含む局所投与用の骨折治癒促進用組成物。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【請求項2】
下記化合物番号(52)、(53)、(54)または(55)またはその薬理的に許容し得る塩から選ばれる1種または2種以上のPDE4阻害剤を有効成分とし、PDE4阻害剤が骨折部位で徐々に放出されるように生体内適合性かつ生体内分解性ポリマーを含む局所投与用の骨折治癒促進用組成物。
【化9】

【化10】

【化11】

【請求項3】
生体内適合性かつ生体内分解性ポリマーが水難溶性である請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
マイクロスフェア形態である請求項3記載の組成物。
【請求項5】
マイクロスフェアの粒子径が0.1〜150μmである請求項4記載の組成物。
【請求項6】
PDE4阻害剤の含量が0.0001〜80重量%である請求項5記載の組成物。
【請求項7】
水難溶性の生体内適合性かつ生体内分解性ポリマーがヒドロキシ脂肪酸のポリエステルである請求項3〜6のいずれか1項記載の組成物。
【請求項8】
水難溶性の生体内適合性かつ生体内分解性ポリマーがポリ乳酸、乳酸−グリコール酸共重合体、および2−ヒドロキシ酪酸−グリコール酸共重合体から選ばれる1種または2種以上である請求項7記載の組成物。
【請求項9】
水難溶性の生体内適合性かつ生体内分解性ポリマーが平均分子量2000〜800000を有する請求項7または8記載の組成物。
【請求項10】
分散剤を含有する水溶液に、マイクロスフェアを0.0001〜1000mg/mlとなるように懸濁したマイクロスフェア含有注射剤である請求項9記載の組成物。
【請求項11】
下記化合物番号(9)、(11)、(21)、(27)、(44)、(52)、(53)、(54)または(55)またはその薬理的に許容しうる塩から選ばれる1種または2種以上のPDE4阻害剤を有効成分とする骨折治癒促進用組成物。
【化12】

【化13】

【化14】

【化15】

【化16】

【化17】

【化18】

【化19】

【請求項12】
下記化合物番号(52)、(53)、(54)または(55)またはその薬理的に許容しうる塩から選ばれる1種または2種以上のPDE4阻害剤を有効成分とする骨折治癒促進用組成物。
【化20】

【化21】

【化22】

【請求項13】
局所投与用である請求項11または12記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−155849(P2010−155849A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−32734(P2010−32734)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【分割の表示】特願2002−591037(P2002−591037)の分割
【原出願日】平成14年5月22日(2002.5.22)
【出願人】(000002956)田辺三菱製薬株式会社 (225)
【Fターム(参考)】