説明

骨接合用スクリュー

【課題】 (1)骨頭の骨成長を抑制せず、(2)十分な固定強度を有して固定でき、(3)成長完了後の骨接合用スクリューの抜去が容易である骨接合用スクリューを提供する。
【解決手段】 本発明の骨接合用スクリューは、前記骨接合用スクリューの本体部は、本体基部と、本体中央部と、本体先端部とを有し、前記本体中央部の外周表面に螺旋状のネジ山からなる雄ネジが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨の内固定用の骨接合用スクリューに関する。
【背景技術】
【0002】
整形外科や耳鼻科、口腔外科において、骨折治療や、骨片固定には、骨接合用スクリューや髄内釘などの内固定用具が一般的に用いられている。従来これらの内固定用具は、頭部と軸部とを有する。一般にこれらの軸部の内固定用具は、二骨片を強く圧迫することで、骨片のずれを防止して、良好な骨治療を行う。例えば、軸部の先端もしくは全体にネジ部を設け、このネジ部を介してもしくはネジ部と頭部の間に骨折部を挟みこみ圧迫力を加えることにより、より強固に骨と骨片を固定するなどである。
【0003】
大腿骨などの長管骨は、骨幹とその両端の骨端との間に形成された成長軟骨帯の軟骨が骨組織に置換され縦方向に成長する。成長軟骨帯の消失により、長管骨の縦方向の成長は完了する。
【0004】
大腿骨頭の成長軟骨帯の障害として、大腿骨頭すべり症という股関節疾患が知られている。この疾患は、10〜15歳の成長期に発症する肥満・外傷・内分泌異常に関連するとされる股関節疾患である。大腿骨頭すべり症は、急性若しくは慢性の、成長軟骨帯のすべり(成長軟骨帯の破綻を伴う「ずれ」)による進行性の骨頭変形である。
【0005】
大腿骨頭すべり症の治療は、手術により行う。手術は、(1)骨頭のすべりの進行の予防と、(2)すべりが高度に進行した変形骨頭に対する矯正骨切り術である。骨頭のすべりの進行の予防には、上記従来の骨接合用スクリューを用いて、大腿骨と骨頭とを固定することが行われている。
【0006】
しかし、上記従来の骨接合用スクリューを用いて、大腿骨と骨頭とを固定すると、以下のような問題がある。
【0007】
(1)先端部にネジ山を有する骨接合用スクリューを、成長軟骨板を跨いで通して固定すると、骨頭の骨成長を抑制する可能性がある。
【0008】
(2)大腿骨頭すべり症では、骨端の骨萎縮が進行している。このため、先端部にネジ山を有する骨接合用スクリューを用いて固定すると固定強度が低下しているため、十分な固定ができない。
【0009】
(3)骨成長が完成すると、成長軟骨帯が消失する。これにより、すべりの進行がなくなる。この時点で、固定に用いた骨接合用スクリューを抜去する。しかし、成長軟骨帯が硬骨化し、大腿骨と骨頭部とが一体化している。このため、骨接合用スクリューの抜去が困難である。
【特許文献1】特開平10−277052号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
すなわち、本発明は、上記問題に鑑みなされたものであり、その目的は、(1)骨頭の骨成長を抑制せず、(2)十分な固定強度を有して固定でき、(3)成長完了後の骨接合用スクリューの抜去が容易である骨接合用スクリューを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討をした結果、以下の発明を完成した。すなわち、本発明は、以下のとおりである。
【0012】
本発明の骨接合用スクリューは、骨と骨とを接合する骨接合用スクリューであって、前記骨接合用スクリューの本体部は、本体基部と、本体中央部と、本体先端部とを有し、前記本体中央部の外周表面に螺旋状のネジ山からなる雄ネジが設けられている。
【0013】
なお、本明細書中で、本体中央部とは、骨と骨とを固定する場合に、骨接合用スクリューの固定元となる骨に存在する部分をいう。例えば、大腿骨骨幹端と骨端を固定する場合には、大腿骨骨幹端に骨接合スクリューの本体中央部が存在する。骨接合用スクリューの本体基部の一端に頭部が設けられている場合には、頭部が存在する側に存在する部分をいう。
【0014】
本発明では、本体中央部にネジ山を設ける。これにより、大腿骨骨幹端で骨接合用スクリューが固定される。一方、ネジ山が設けられていない本体先端部が、骨端に挿入される。したがって、本発明の骨接合用スクリューは、骨接合用スクリューのネジ山が成長軟骨帯を跨がない。この結果、骨頭の骨成長を抑制しない。
【0015】
また、本発明の骨接合用スクリューでは、雄ネジにより固定されるのは、骨萎縮が進行している骨端の部分ではなく、骨萎縮が進行していない大腿骨骨幹端である。この結果、十分な固定強度を有して固定化を行える。
【0016】
さらに、本発明の骨接合用スクリューでは、雄ネジにより固定される部分は、すでに成長が終了した部分である。一方、成長軟骨帯を貫通しているのは、ネジ山が設けられていない本体先端部である。したがって、成長軟骨帯が硬骨化した後であっても、骨接合用スクリューの抜去が容易である。
【0017】
また、本体基部の外周表面にも螺旋状のネジ山からなる雄ネジが設けられていてもよい。
【0018】
上記骨接合用スクリューは、先端部の最先端には、凸状歯部が形成されていると好ましい。これにより、骨接合用スクリューの骨内への挿入が容易となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、本発明では、本体中央部の外周表面に螺旋状のネジ山からなる雄ネジを設ける。これにより、(1)骨頭の骨成長を抑制せず、(2)十分な固定強度を有して固定でき、(3)成長完了後の骨接合用スクリューの抜去が容易である骨接合用スクリューを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、本発明を図面により詳細に説明する。
図1は、本発明の骨接合用スクリューの一例の概略を説明する図である。
【0021】
図1に示すように、本発明の骨接合用スクリュー1は、全体を円筒形状を基本に構成されている。本発明の骨接合用スクリュー1は、頭部2と本体部3とを有する。頭部2は、骨内に挿入した場合の係止部を構成する。頭部2に続いて、本体部3が構成される。本体部3は、頭部2に続く本体基部4と、本体基部4に続く本体中央部5と、本体中央部5に続く本体先端部6とから構成されている。本体中央部5の外周面には、螺旋状のネジ山からなる雄ネジ7が設けられている。本体先端部6は、最先端に向かって徐々に小径になるテーパ状の形状を有する。
【0022】
本発明の骨接合用スクリュー1を捩じ込む場合には、骨接合用スクリュー1を押圧して回転させながら、骨表面に本体先端部6を当接する。これにより、本体先端部6が骨内に捩じ込まれる。次いで、本体中央部5が骨内に捩じ込まれる。これにより、本体中央部5の外周面に設けられた螺旋状のネジ山からなる雄ネジ7の形状部分が削り取られる。この螺旋状のネジ山からなる雄ネジ7により、骨内で骨接合用スクリュー1の内固定を行う。
【0023】
本発明の骨接合用スクリュー1は、図2に示すように前記本体先端部6の最先端には、凸状歯部8を有していてもよい。この構成によると、本発明の骨接合用スクリューを骨に捩じ込む場合には、骨接合用スクリュー1を押圧して回転させながら凸状歯部8を当ることにより、まず、凸状歯部8が骨を削る。これにより、骨接合用スクリュー1の骨への食い込みを可能とする。なお、凸状歯部8は、実際には小さい螺旋状のネジ山を有する。しかし、骨接合用スクリュー1の固定後は、凸状歯部8は、骨の成長が完了している部分に置かれる。このため、骨接合用スクリュー1使用時に、骨の成長を阻害しにくい。また、凸状歯部8の外形は、本体先端部の外径より小さい。このため、骨接合用スクリュー1を抜去する際に、凸状歯部8に設けられた螺旋状のネジ山が骨に与える影響は小さい。
【0024】
この凸状歯部8に続き、本体先端部6が骨内に捩じ込まれる。次いで、本体中央部5が骨内に捩じ込まれる。このように、凸状歯部8を設けると、凸状歯部8を用いて開口した穴から本体を挿入するので、骨接合用スクリュー1の挿入を容易にすることができる。
【0025】
本発明の骨接合用スクリューでは、本体先端部6の捩じ込み、あるいは凸状歯部8を用いて開口した穴から本体を挿入する。そして、本体中央部5の外周面に設けられた雄ネジ7により、骨接合用スクリュー1を骨内に固定する。したがって、本体中央部5の外周面に設けられた雄ネジ7の外径は、本体先端部6の外形、あるいは凸状歯部8の外径より大きければよい。また、本体中央部5の外周面に設けられた雄ネジ7の外径と、本体先端部6の外形あるいは凸状歯部8の外径との差が余り大きいと、骨接合用スクリュー1の骨内への捩じ込みが困難となる。したがって、その差が余り大きくないほうが望ましい。本発明の骨接合用スクリューは、これらのことを考慮して、所定の固定強度が得られるように、各部分の外形の大きさ、本体中央部の外周面に設けられた螺旋状の雄ネジのピッチ、深さなどを決定すればよい。
【0026】
本発明の骨接合用スクリューにおいて、長手方向の長さは、通常の骨の内固定に用いられる骨接合用スクリューの長さであればよい。また、本体先端部6の長手方向の長さは、特に制限はなく、骨と骨とを固定する際に、成長軟骨層を跨ぐ程度の長さで、本体中央部5が成長軟骨層を跨がない程度の長さであればよい。また、ネジ固定をする本体中央部5の長手方向の長さは、特に制限はなく、固定する部位に要求される強度が得られる程度の長さであればよい。雄ネジのネジ山の高さ、ピッチも、固定する部位に要求される強度が得られる程度であれば任意の高さ、ピッチであればよい。
【0027】
本発明の骨接合用スクリューを構成する材料は、例えば、チタン合金などの金属、セラミックなどの無機材料、樹脂などの有機材料、アパタイト−コラーゲン複合体などの生体吸収性有機/無機複合材料などの医療用の材料であればよい。
【0028】
図3は、本発明の骨接合用スクリューの断面の概念を示す図である。図3に示すように、本発明の骨接合用スクリュー1には、軸内に空洞部9が設けられている。このように、空洞部9を設けることで、スクリューを刺し入れる際に、正確にかつ容易に刺し入れることができる。
【0029】
本体中央部5の外周面に設けられた螺旋状のネジ山からなる雄ネジ7に接する骨の部分は、本体中央部5と本体中央部の外周面に設けられた螺旋状のネジ山からなる雄ネジ7との隙間に嵌合する。また、螺旋状の雄ネジ7間の各ピッチにおいても骨が埋まる。すなわち、本体中央部5と本体中央部の外周面に設けられた螺旋状のネジ山からなる雄ネジ7の表面が全て骨と接触した状態になる。
【0030】
図4は、本発明の骨接合用スクリューを用いて、骨幹と骨端とを内固定した例を示す図である。骨接合用スクリュー1は、頭部2を骨幹の外部に露出した状態で、本体部3が骨幹内で嵌着しており、本体中央部5の外表面に設けられたネジ山7を介して固定されている。本体先端部6は、骨幹端11から成長軟骨板12を介し、骨端13を連通している。
【0031】
このように、本体先端部6は、成長軟骨層12や骨端13に挿入される。図4に示すように、この部分には、ネジ山が含まれない。これにより、例えば、成長軟骨層を介して骨幹と骨端とを内固定する場合においても、成長軟骨板を跨いで通す部分は、内固定用のネジ山を有さない。この結果、骨頭の骨成長を抑制しない。
【0032】
また、本発明では、本体中央部5の外周面に設けられた螺旋状のネジ山からなる雄ネジ7は、十分な固定強度が得られる骨の部分に接触して固定する。また、骨萎縮が進行している骨頭の部分には、雄ネジが存在しない。これにより、十分な固定強度を有する、内固定が可能となる。
【0033】
また、雄ネジにより固定される部分は、すでに成長が終了した骨の部分である(図4における骨幹端11)。一方、成長軟骨帯12を貫通しているのは、ネジ山が設けられていない本体先端部6である。したがって、成長軟骨帯12が硬骨化した後であっても、骨接合用スクリュー1の抜去が容易である。
【0034】
本発明の骨接合用スクリュー1は、本体基部4と本体先端部6とには雄ネジが設けられておらず、平滑である。骨頭部や大腿骨骨幹部においても、骨の成長が行われる。本体基部4と本体先端部6とを平滑にすることにより、骨の成長の妨害を少なくして固定することができる。
【0035】
本発明の骨接合用スクリュー1は、図5に示すように、頭部のないものであってもよい。この構造であれば、例えば大腿骨骨幹部が横方向に成長する(いわゆる骨が太くなる)場合において、横方向への成長を妨げないので、有効である。
【0036】
本発明の骨接合用スクリュー1は、図6に示すように、本体基部4まで、螺旋状のネジ山からなる雄ネジ7が設けられていてもよい。この構造によれば、より強固に骨を固定することができる。
【0037】
本発明の骨接合用スクリュー1は、図2の構成のものにおいて、頭部を設けないものや、本体基部4まで螺旋状のネジ山からなる雄ネジ7を設けるものも含まれる。
【0038】
上記したように、本発明の骨接合用スクリューは、大腿骨頭すべり症の治療に用いると好ましい。これ以外に、本発明の骨接合用スクリューは、成長軟骨帯を含む骨の内固定や、その他の整形外科的治療が要求される治療に用いることができる。例えば、膝関節の周囲の、すなわち大腿骨遠位端や脛骨近位端の成長軟骨を含む骨折の治療の使用することが可能である。
【実施例】
【0039】
以下本発明を詳細に説明するため実施例を挙げて説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0040】
大阪市立総合医療センター倫理委員会承諾のもと、大腿骨すべり症患者に対して成長軟骨帯を内固定する手術を行った。使用した骨接合用スクリューは、いずれもチタン−アルミニウム−バナジウム合金製のものを用いた。
【0041】
(実施例1)
図7は、本発明の骨接合用スクリューを用いて大腿骨すべり症患者に対して成長軟骨帯を内固定した状態を示すX線写真である。図7に示すように、本発明の骨接合用スクリューの本体中央部の雄ネジは、大腿骨骨幹部に存在している。大腿骨骨幹端、成長軟骨帯、骨頭には、表面が平滑な本体先端部6が挿入されている。したがって、本発明の骨接合用スクリューを用いた場合は、成長阻害への影響が少ないと考えられる。
【0042】
(実施例2)
図8は、本発明の骨接合用スクリューを用いて大腿骨すべり症患者に対して成長軟骨帯を内固定した別の状態を示すX線写真である。図8の例では、2本の骨接合用スクリューを用いて内固定している。図8に示すように、本発明の骨接合用スクリューの本体中央部の雄ネジは、大腿骨骨幹部に存在している。成長軟骨帯、骨頭には、雄ネジが挿入されていない。したがって、この場合においても、成長阻害への影響が少ないと考えられる。
【0043】
(比較例1)
図9は、従来の大腿骨すべり症患者用の骨接合用スクリューを用いて成長軟骨帯を内固定した状態を示すX線写真である。図9に示すように、従来の骨接合用スクリューの本体先端部の雄ネジは、大腿骨骨端に存在しているため固定力が弱い。したがって、従来の大腿骨頭すべり症患者用の骨接合用スクリューを用いた場合は、スクリューの移動が生じる可能性がある。

【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】図1は、本発明の骨接合用スクリューの一形態を説明する図である。
【図2】図2は、本発明の骨接合用スクリューの別の形態を説明する図である。
【図3】図3は、本発明の骨接合用スクリューの断面の概念を示す図である。
【図4】図4は、本発明の骨接合用スクリューを用いて、骨幹と骨端とを内固定した例を示す図である。
【図5】図5は、本発明の骨接合用スクリューの別の形態を説明する図である。
【図6】図6は、本発明の骨接合用スクリューの別の形態を説明する図である。
【図7】図7は、本発明の骨接合用スクリューを用いて大腿骨すべり症患者に対して成長軟骨帯を内固定した状態を示すX線写真である。
【図8】図8は、本発明の骨接合用スクリューを用いて大腿骨すべり症患者に対して成長軟骨帯を内固定した別の状態を示すX線写真である。
【図9】図9は、従来の大腿骨すべり症患者用の骨接合用スクリューを用いて成長軟骨帯を内固定した状態を示すX線写真である。
【符号の説明】
【0045】
1 骨接合用スクリュー
2 頭部
3 本体部
4 本体基部
5 本体中央部
6 本体先端部
7 雄ネジ
8 凸状歯部
9 空洞部
11 骨幹端
12 成長軟骨層
13 骨端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨と骨とを接合する骨接合用スクリューであって、
前記骨接合用スクリューの本体部は、本体基部と、本体中央部と、本体先端部とを有し、前記本体中央部の外周表面に螺旋状のネジ山からなる雄ネジが設けられている、骨接合用スクリュー。
【請求項2】
前記本体基部の外周表面にも螺旋状のネジ山からなる雄ネジが設けられている、請求項1に記載の骨接合用スクリュー。
【請求項3】
前記本体先端部の最先端には、凸状歯部が形成されている、請求項1または2に記載の骨接合用スクリュー。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−240442(P2009−240442A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−88885(P2008−88885)
【出願日】平成20年3月29日(2008.3.29)
【出願人】(506122327)公立大学法人大阪市立大学 (122)
【出願人】(592118103)メイラ株式会社 (19)
【Fターム(参考)】