説明

骨梁解析装置

【課題】骨梁の状態を正確に定量できる骨梁解析装置を提供する。
【解決手段】従来装置によれば、単純撮影により取得される透過像を用いて骨梁解析を行っている。この様な解析は必ずしも正確な結果が取得できるわけではない。透過画像には骨梁同士が重なり合って不鮮明に写り込んでいるからである。そこで、本発明によれば、断層画像Dに対して骨梁解析が行われる。断層画像Dには網目状の骨梁が重ならずに鮮明に写り込んでいるので、骨梁解析による骨梁の定量はより正確なものとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体の骨梁を解析する骨梁解析装置に関し、特に被検体の放射線透過画像を取得して放射線透過画像の解析を行うことで骨梁解析を実行する骨梁解析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
骨梁とは、骨の内部の海綿質を構成する細長状の構造である。この骨梁が骨の内部で充実しているかを知ることで被検体Mの健康の診断や疾病の診断ができる。また、被検体Mの骨梁を解析すれば被検体Mの骨強度も知ることができる。
【0003】
従来の骨梁解析手法について説明する。従来の骨梁解析装置50は、図11に示すように、被検体Mを載置する天板52と、天板52の上側に設けられている放射線源53と、天板52の下側に設けられている検出器54とを備えている。骨梁解析を行うには、図11の様な装置を用いて、単純撮影を行い、取得された画像に骨梁解析が施される。単純撮影とは、被検体に対して一度だけ放射線を照射して透過画像を撮影する方法である。
【0004】
骨梁解析部62が行う骨梁の解析により、骨内部の骨梁の定量がされる。このときの数値が低いということは骨梁が少ないことを表しており、被検体Mの骨強度が低いことが分かる。
【0005】
また、CT装置により被検体の骨梁の3次元構造を取得して骨梁解析を行うという方法もある。すなわち、放射線源と検出器とを被検体を中心に同期的に1回転させながら断層画像を取得して、骨梁解析を実行する方法である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−192657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来方法には次のような問題点がある。
すなわち、従来の骨梁解析方法では、骨梁の定量を正確にできないという問題がある。
【0008】
従来の方法では、放射線を被検体に一度だけ照射して被検体像を取得する単純撮影をすることで骨梁解析をしている。実際の骨梁は、骨の内部において3次元網目状の海綿質を形成している。したがって、骨梁の構造をイメージングしようとして単純撮影を行うと、骨梁同士が重なり合って画像化されてしまう。すると、取得される透過画像には骨梁が不鮮明に写り込んでしまう。この様な画像を基に骨梁解析を実行したのでは骨梁の定量を正確に求めることができない。
【0009】
一方、放射線源および検出器が被検体の周りを一回転して断層画像を撮影するCT装置においては、取得される断層画像の解像度は単純撮影で取得される透過画像よりも劣ってしまううえ、被検体の被曝の範囲が広い。したがって、CT装置を用いて骨梁解析を実行しても骨梁の定量を正確かつ安全に求めることができない。
【0010】
CT装置の解像度が低い理由について説明する。CT装置に搭載される検出器には、散乱線成分を吸収する板状のコリメータが設けられている。このコリメータは、検出器における隣り合う検出素子の間に設けられる。このコリメータを備える必要性から検出器の検出素子のサイズを小さくすることができないのである。検出素子のサイズが大きいとそれだけCT装置によって生成される断層画像の画素サイズが大きくなるので断層画像の解像度が低下する。
【0011】
CT装置にとってコリメータは必要なものである。コリメータを省略し、散乱線成分が検出器に入射する構成とすると、CT装置は正確なCT値を算出することができず、鮮明な断層画像が取得できなくなるからである。
【0012】
本発明は、この様な事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、骨梁の状態を正確に定量できる骨梁解析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は上述の課題を解決するために次のような構成をとる。
すなわち、本発明に係る骨梁解析装置は、放射線を照射する放射線源と、被検体を透過した放射線を検出する検出手段と、放射線源を一方向に向けて移動させる放射線源移動手段と、放射線源移動手段を制御する放射線源移動制御手段と、検出手段の出力を基に画像を生成する画像生成手段と、放射線源を被検体に対して移動させながら連写された画像を基に断層画像を生成する画像再構成手段と、断層画像を基に骨梁の状態を定量するデータを算出する骨梁解析手段を備えることを特徴とするものである。
【0014】
[作用・効果]本発明によれば、より正確に骨梁の状態を定量化することができる。従来方法では、単純撮影により取得される透過像を用いて骨梁解析を行っている。この様な解析は必ずしも正確な結果が取得できるわけではない。透過画像には骨梁同士が重なり合って不鮮明に写り込んでいるからである。そこで、本発明によれば、断層画像に対して骨梁解析が行われる。断層画像には網目状の骨梁が重ならずに鮮明に写り込んでいるので、骨梁解析による骨梁の定量はより正確なものとなる。
【0015】
また、CT装置で取得した断層画像より骨梁解析をする従来方法と比べて、より放射線線量を抑制して正確な骨梁解析を行うことができる。したがって、本発明によれば、より安全な骨梁解析装置が提供できる。また、本発明による断層撮影装置は、単純撮影用の装置と同様に平面検出器を使用することができるので、CT装置と比べて解像度が高いものとなる。
【0016】
また、本発明によれば、CT装置と比べて被検体に対する放射線源および検出手段の位置を変更させることが容易である。CT装置は、放射線源および検出手段を格納するガントリが設けられており、放射線源および検出手段の移動はこのガントリにより制約を受けるからである。本発明によれば、CT装置と比べて断層画像に写り込む被検体の像の大きさを容易に調節することができる。
【0017】
また、上述の骨梁解析装置において、検出手段を放射線源の移動に同期して放射線源の移動方向と同じ方向または放射線源の移動方向とは逆方向に移動させる検出器移動手段と、検出器移動手段を制御する検出器移動制御手段とを備えればより望ましい。
【0018】
[作用・効果]上述の構成は、本発明の骨梁解析装置の具体的な構成を示すものとなっている。本発明は検出手段を放射線と同期して移動させる構成においても適応することができる。
【0019】
また、上述の骨梁解析装置において、骨梁解析手段が算出するデータは、断層画像のある範囲に写り込んだ骨梁の総延長である骨梁総延長を示す数値であればより望ましい。
【0020】
また、上述の骨梁解析装置において、骨梁解析手段が算出するデータは、断層画像のある関心領域内の骨梁の数である骨梁数を示す数値であればより望ましい。
【0021】
[作用・効果]上述の構成は、本発明の骨梁解析装置の具体的な構成を示すものとなっている。骨梁解析手段が算出するデータが骨梁の総延長である骨梁総延長、または骨梁の数である骨梁数であれば、これら数値が大きいほど被検体の骨強度は大きいものと予想することができる。
【0022】
また、上述の骨梁解析装置において、骨梁解析手段が算出するデータは、断層画像のある関心領域内の骨梁の長さの平均である平均骨梁長を示す数値であればより望ましい。
【0023】
[作用・効果]上述の構成は、本発明の骨梁解析装置の具体的な構成を示すものとなっている。骨梁解析手段が算出するデータが平均骨梁長であれば、被検体の骨の内部の性質を数値化して比較することができる。
【0024】
また、上述の骨梁解析装置において、骨梁解析手段が算出するデータは、断層画像をフラクタル次元解析することにより算出されるフラクタル次元数を示す数値であればより望ましい。
【0025】
[作用・効果]上述の構成は、本発明の骨梁解析装置の具体的な構成を示すものとなっている。骨梁解析手段が算出するデータがフラクタル次元数であれば、フラクタル次元数同士を比較することにより検査に係る骨の海綿質が健康な状態からどの程度離れているかを数値により知ることができる。
【0026】
また、上述の骨梁解析装置において、骨梁解析手段が算出するデータは、断層画像を周波数解析することにより算出される周波数成分の分布を示す数値であればより望ましい。
【0027】
[作用・効果]上述の構成は、本発明の骨梁解析装置の具体的な構成を示すものとなっている。骨梁解析手段が算出するデータが周波数成分の分布を示していれば、海綿質の稠密さを数値により知ることができる。
【発明の効果】
【0028】
従来方法によれば、単純撮影により取得される透過像を用いて骨梁解析を行っている。この様な解析は必ずしも正確な結果が取得できるわけではない。透過画像には骨梁同士が重なり合って不鮮明に写り込んでいるからである。また、CT装置による解析は解像度に優れているとは言えない。そこで、本発明によれば、単純撮影と同等の解像度を持つ断層画像に対して骨梁解析が行われる。断層画像には網目状の骨梁が重ならずに鮮明に写り込んでいるので、骨梁解析による骨梁の定量はより正確なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施例1に係る骨梁解析装置の構成を説明する機能ブロック図である。
【図2】実施例1に係る骨梁解析装置の撮影原理を説明する模式図である。
【図3】実施例1に係る骨梁解析部の動作を説明する模式図である。
【図4】実施例1に係る発明の効果を説明する相関図である。
【図5】実施例1に係る発明の効果を説明する模式図である。
【図6】実施例1に係る発明の効果を説明する模式図である。
【図7】実施例2に係る骨梁解析装置の撮影原理を説明する模式図である。
【図8】実施例2に係る骨梁解析装置の撮影原理を説明する模式図である。
【図9】実施例2に係る骨梁解析装置の撮影原理を説明する模式図である。
【図10】実施例2に係る骨梁解析装置の撮影原理を説明する模式図である。
【図11】従来の骨梁解析装置の構成を説明する模式図である。
【実施例1】
【0030】
次に、本発明に係る骨梁解析装置の実施例について図面を参照しながら説明する。なお、実施例におけるX線は、本発明の構成の放射線に相当する。なお、FPDは、フラットパネル型X線検出器(フラット・パネル・ディテクタ)の略である。
【0031】
図1は、実施例1に係る骨梁解析装置の構成を説明する機能ブロック図である。図1に示すように、実施例1に係る骨梁解析装置1は、X線断層撮影の対象である被検体Mを載置する天板2と、天板2の上部(天板2の1面側)に設けられた被検体Mに対してコーン状のX線ビームを照射するX線管3と、天板2の下部(天板の他面側)に設けられ、被検体Mの透過X線像を検出するFPD4と、コーン状のX線ビームの中心軸とFPD4の中心点とが常に一致する状態でX線管3とFPD4との各々を被検体Mの関心部位を挟んで互いに反対方向に同期移動させる同期移動機構7と、これを制御する同期移動制御部8と、FPD4のX線を検出するX線検出面を覆うように設けられた散乱X線を吸収するX線グリッド5とを備えている。この様に、天板2は、X線管3とFPD4とに挟まれる位置に配置されている。X線管3は、本発明の放射線源に相当し、FPD4は、本発明の放射線検出手段に相当する。
【0032】
同期移動機構7は、X線管3を被検体Mに対して体軸方向Aに移動させるX線管移動機構7aと、FPD4を被検体Mに対して体軸方向Aに移動させるFPD移動機構7bとを備えている。また、同期移動制御部8は、X線管移動機構7aを制御するX線管移動制御部8aとFPD移動機構7bを制御するFPD移動制御部8bとを備えている。X線管移動機構7aは、本発明の放射線源移動手段に相当し、X線管移動制御部8aは、本発明の放射線源移動制御手段に相当する。FPD移動機構7bは、本発明の検出器移動手段に相当し、FPD移動制御部8bは、本発明の検出器移動制御手段に相当する。
【0033】
X線管3は、X線管制御部6の制御にしたがってコーン状でパルス状のX線ビームを被検体Mに対して繰り返し照射する構成となっている。このX線管3には、X線ビームを角錐となっているコーン状にコリメートするコリメータが付属している。そして、このX線管3と、FPD4はX線透過画像を撮像する撮像系3,4を生成している。
【0034】
同期移動機構7は、X線管3とFPD4とを同期させて移動させる構成となっている。この同期移動機構7は、同期移動制御部8の制御にしたがって被検体Mの体軸方向Aに平行な直線軌道(天板2の長手方向)に沿ってX線管3を直進移動させる。このX線管3とFPD4との移動方向は、天板2の長手方向に一致している。しかも、検査中、X線管3の照射するコーン状のX線ビームは、常に被検体Mの関心部位に向かって照射されるようになっており、このX線照射角度は、X線管3の角度を変更することによって、たとえば初期角度−20°から最終角度20°まで変更される。この様なX線照射角度の変更は、X線管傾斜機構9が行う。X線管傾斜制御部10は、X線管傾斜機構9を制御する目的で設けられている。
【0035】
そして、さらに実施例1に係る骨梁解析装置1は、各制御部6,8,10を統括的に制御する主制御部25と、断層画像Dを表示する表示部27とを備えている。この主制御部25は、CPUによって構成され、各種のプログラムを実行することにより各制御部6,8,10,22および後述の各部11,12,13を実現している。記憶部23は、X線管3の制御に関わるパラメータなどの骨梁解析装置1の制御に関するデータの一切を記憶する。操作卓26は、術者の骨梁解析装置1に対する各操作を入力させるものである。
【0036】
また、同期移動機構7は、上述のX線管3の直進移動に同期して、天板2の下部に設けられたFPD4を被検体Mの体軸方向A(天板2の長手方向)に直進移動させる。そして、その移動方向は、X線管3の移動方向と反対方向となっている。つまり、X線管3が移動することによってX線管3の焦点の位置と照射方向が変化するコーン状のX線ビームは、常にFPD4のX線検出面の全面で受光される構成となっている。このように、一度の検査において、FPD4は、X線管3と互いに反対方向に同期して移動しながら、たとえば74枚の透過画像P0を取得するようになっている。具体的には、撮像系3,4は、実線の位置を初期位置として、破線で示した位置を介して、図1に示した一点鎖線で示す位置まで対向移動する。すなわち、X線管3とFPD4の位置を変化させながら複数のX線透過画像が撮影されることになる。ところで、コーン状のX線ビームは常にFPD4のX線検出面の全面で受光されるので、撮影中コーン状のX線ビームの中心軸は、常にFPD4の中心点と一致している。また、撮影中、FPD4の中心は、直進移動するが、この移動はX線管3の移動の反対方向となっている。つまり、体軸方向AにX線管3とFPD4とを同期的、かつ互いに反対方向に移動させる構成となっている。
【0037】
すなわち、同期移動機構7は、X線管3を天板2の長手方向における一端側に向けて移動させるのに同期してFPD4を天板2の長手方向における他端側に向けて移動させるような動作をする。
【0038】
また、FPD4の後段には、そこから出力される検出信号を基に透過画像P0を生成する画像生成部11が備えられており(図1参照),この画像生成部11の更に後段には、透過画像P0を合成して断層画像Dを生成する画像再構成部12とを備えている。画像生成部11は、本発明の画像生成手段に相当し、画像再構成部12は、本発明の画像再構成手段に相当する。
【0039】
続いて、実施例1に係る骨梁解析装置1の断層画像の取得原理について説明する。図2は、実施例1に係るX線撮影装置の断層画像の取得方法を説明する図である。例えば、天板2に平行な(鉛直方向に対して水平な)仮想平面(基準裁断面MA)について説明すると、図2に示すように、基準裁断面MAに位置する点P,Qが、常にFPD4のX線検出面の不動点p,qのそれぞれに投影されるように、X線管3によるコーン状のX線ビームBの照射方向に合わせてFPD4をX線管3の反対方向に同期移動させながら一連の透過画像P0が画像生成部11にて生成される。一連の透過画像P0には、被検体Mの投影像が位置を変えながら写り込んでいる。そして、この一連の透過画像P0を画像再構成部12にて再構成すれば、基準裁断面MAに位置する像(たとえば、不動点p,q)が集積され、X線断層画像としてイメージングされることになる。一方、基準裁断面MAに位置しない点Iは、FPD4における投影位置を変化させながら一連の被検体画像に点iとして写り込んでいる。この様な点iは、不動点p,qとは異なり、画像再構成部12でX線透過画像を重ね合わせる段階で像を結ばずにボケる。このように、一連の透過画像P0の重ね合わせを行うことにより、被検体Mの基準裁断面MAに位置する像のみが写り込んだX線断層画像が得られる。このように、透過画像P0を単純に重ね合わせると、基準裁断面MAにおける断層画像Dが得られる。
【0040】
さらに、画像再構成部12の設定を変更することにより、基準裁断面MAに水平な任意の裁断面においても、同様な断層画像を得ることができる。撮影中、FPD4において上記点iの投影位置は移動するが、投影前の点Iと基準裁断面MAとの離間距離が大きくなるにしたがって、この移動速度は増加する。これを利用して、取得された一連の被検体画像を所定のピッチで体軸方向Aにずらしながら再構成を行うようにすれば、基準裁断面MAに平行な裁断面における断層画像Dが得られる。このような一連の被検体画像の再構成は、画像再構成部12が行う。
【0041】
断層画像Dは、骨梁解析部13に送出される。骨梁解析部13は、断層画像Dに対して種々の解析を行って骨梁の定量を行う。このとき得られた各数値は、被検体Mの骨折リスクを予想するのに用いられる。以降、骨梁解析部13が行う骨梁の定量動作の各々について説明する。骨梁解析部13は、本発明の骨梁解析手段に相当する。
【0042】
<骨梁総延長・骨梁数・平均骨梁長の算出>
図3は、骨梁解析部13の動作を説明する模式図である。図3の左側は断層画像Dに写り込んだ被検体Mの骨の断層像を表している。骨梁解析部13は、骨の内部の海綿質の一部を解析範囲Rと認識する。解析範囲Rの設定は、術者が操作卓26を通じて行うようにしてもよいし、骨梁解析部13が骨の形状から海綿質の位置を推定して行うようにしてもよい。また、骨梁解析部13は、複数の断層画像Dを取得することで生成される3次元ボリュームデータに対して骨梁解析を行うようにしてもよい。
【0043】
図3の右側は解析範囲Rの拡大図を表している。解析範囲Rには、複数の骨梁の断層像が写り込んでいる。この骨梁は、網目状海綿質を形成している。骨梁解析部13は、解析範囲Rにおける骨梁の分岐点nを画像解析により取得し、この分岐点n同士をつなぐ線分Kを求める。骨梁解析部13は、これら線分Kの長さを合計する。これにより得られる数値が解析範囲Rにおける骨梁の総延長である骨梁総延長である。この骨梁総延長が長いほど解析範囲Rに多くの骨梁が存在していることになり、断層画像Dに写り込んだ骨は骨折のしにくいものであることが分かる。
【0044】
また、骨梁解析部13は、求めた線分Kの本数を計数する。これにより得られる数値が解析範囲Rにおける骨梁の数である骨梁数である。この骨梁数が多いほど解析範囲Rに多くの骨梁が存在していることになり、断層画像Dに写り込んだ骨は骨折のしにくいものであることが分かる。
【0045】
そして、骨梁解析部13は、骨梁総延長を骨梁数で除算する。これにより得られる数値が解析範囲Rにおける骨梁の長さの平均である平均骨梁長である。この平均骨梁長は、断層画像Dに写り込む骨の海綿質の特性を知る指標となる。すなわち、骨梁総延長が同じ骨であっても平均骨梁長が異なれば、骨に衝撃が与えられたときの力が骨内部に伝わる様子が異なる。平均骨梁長を求めるようにすれば、骨の物性の差異を数値により知ることができる。
【0046】
骨梁解析部13は断層画像D上における異なる解析範囲Rについて同様の動作をし、異なる解析領域Rごとに骨梁総延長・骨梁数・平均骨梁長を算出する。この様な動作をすることでより各数値を用いた骨折リスクの予想をより信頼性の高いものとすることができる。
【0047】
<フラクタル次元数の算出>
また、骨梁解析部13は、上述の数値以外にもフラクタル次元解析により断層画像Dからフラクタル次元数を算出することが可能である。フラクタル次元解析は、ある画像パターンを拡大していったときに拡大前の画像パターンに似た形状が拡大画像に現れる傾向をフラクタル次元数という数値によって表現するものである。
【0048】
フラクタル次元解析を断層画像Dに施せば、微細な構造が寄り集まって形成されている海綿質の全体的な傾向を示す数値(フラクタル次元数)が算出できる。従って、断層画像Dを基にフラクタル次元数を算出し、これと予め算出しておいた健康体の骨のフラクタル次元数とを比較することで、断層画像Dに写り込んだ骨の状態が健康状態からどの程度かけ離れているかを定量的に表すことができる。
【0049】
この様な解析の意義について説明する。視認により健康体の骨の海綿質と病態の海綿質とが異なることは確認することはできる。しかし、複数の海綿質同士を比較して、どちらがより健康状態に近いかを視認により判定することは難しい。フラクタル次元解析によれば、海綿質の微細構造の傾向を示した数値が取得できるので、海綿質の健康度をより定量的に知ることができる。
【0050】
骨梁解析部13は、断層画像Dの海綿質全域についてフラクタル解析を行い、断層画像Dごとに単一のフラクタル次元数を算出する。
【0051】
<周波数解析>
また、骨梁解析部13は、上述の数値以外にも周波数解析により断層画像Dから周波数成分の分布を算出することが可能である。断層画像Dに周波数解析を施すと、海綿質の各周波数成分の強度を示す数値が取得され、周波数と強度とが関係したスペクトルが生成される。このスペクトルを参照することで断層画像Dに写り込んだ海綿質の健康状態が分かる。すなわち、スペクトルの高周波成分が高い強度となっているとすると、それだけ海綿質が微細で骨梁の重合が稠密となっていることを示し、被検体Mの骨折リスクが小さいことを示す。骨梁解析部13は、断層画像Dの海綿質全域について周波数解析を行い、断層画像Dごとに単一のスペクトルを算出する。
【0052】
<本発明の効果>
次に、本発明の効果について説明する。本発明によれば、骨梁の状態をより正確に定量することができる。
【0053】
図4は、従来方法である単純撮影による骨梁解析法と本発明の方法とを比較したものである。図4における横軸は、CT装置で取得された海綿質の3Dデータを基に算出される骨梁が所定の空間を占める割合(BV/TV値)である。この値が0であるとすると、解析に係る空間には骨梁が全くないことになる。したがって、このBV/TV値が高いほど海綿質における骨梁がより稠密であることになる。BV/TV値は、CT装置に被検体Mを導入して、X線管とFPDとを被検体周りに1回転させながら複数回の撮影を行うことにより得られる断層画像から求められた値である。
【0054】
図4におけるプロットの各々は、海綿質のある部分におけるBV/TV値と骨梁総延長との関係を示している。各プロットの間で算出に用いた解析領域が異なっている。また、図4における白抜き四角で表したプロットのデータは、従来法によって得られた骨梁総延長を基にしている。すなわち、白抜きプロットの骨梁総延長は、被検体Mを単純撮影で単発の撮影をしたときに得られた透過像を解析して得られたものである。
【0055】
一方、図4における黒色ヤジリ型で表したプロットの骨梁総延長は、本発明の方法によって得られたものである。すなわち、黒色ヤジリ型のプロットのデータは、被検体Mを図1で説明した装置により断層撮影たときに得られた断層画像Dを解析して得られた骨梁総延長を基にしている。両方法の精度の比較のため、BV/TV値の算出方法は白抜きプロットおよび黒色ヤジリ型のプロットの間で統一されている。図4の破線は、従来法のプロット(白抜き四角)について一次近似を行った結果であり、実線は、本発明の方法のプロット(黒色ヤジリ型)について一次近似を行った結果である。
【0056】
図4を参照すれば分かるように従来方法で得られたデータのバラツキよりも本発明で得られたデータのバラツキの方が小さい。つまり、従来方法よりも本発明の方法の方がより正確に骨梁総延長を求めることができているということになる。
【0057】
単純撮影に係る従来の方法では、図5に示すように透過像P1上の解析領域Rに対して骨梁総延長解析が行われる。この解析領域Rには単純撮影により、骨bにおける図5の網掛けで示す3次元的な領域に含まれる骨梁の全てが重なり合って写り込んでいる。したがって、解析領域Rには骨梁が網目状に現れることがないので、骨梁総延長解析は困難なものとなる。
【0058】
これに比べて、断層画像撮影に係る本発明の方法では、図6に示すように、断層画像D上の解析領域Rに対して骨梁総延長解析が行われる。この解析領域Rには、海綿質の断面が写り込んでいるので海綿質における骨梁の網目構造が現れている。したがって、骨梁総延長解析は、容易となり、より正確な骨梁総延長が取得できる。なお、図5および図6の説明では骨梁総延長解析について説明したが、他の定量解析においても事情は同じである。
【0059】
<骨梁解析装置の動作>
次に、骨梁解析装置の動作について説明する。上述の骨梁解析装置では、生体の骨梁解析を行うものとする。本発明の骨梁解析装置で被検体Mの骨梁を解析するには、まず、被検体Mが天板2に載置される。術者が操作卓26を通じて断層画像取得の指示を与えると、X線管3およびFPD4は各移動機構7a,7bにより同期的かつ反対方向に移動されながら、74枚の透過画像P0が連写される。取得された透過画像P0は画像再構成部12に送出され、そこで断層画像Dが生成される。断層画像Dは、骨梁解析部13に送出される。
【0060】
骨梁解析部13は、断層画像Dに種々の骨梁解析を施して、結果を表示部27に送出する。表示部27に骨梁解析の結果を示す数値が表示されて骨梁解析装置の動作は終了となる。
【0061】
以上のように、本発明によれば、より正確に骨梁の状態を定量化することができる。従来の骨梁解析法では、単純撮影により取得される透過像を用いて骨梁解析を行っている。この様な解析は必ずしも正確な結果が取得できるわけではない。透過画像には骨梁同士が重なり合って不鮮明に写り込んでいるからである。そこで、本発明によれば、断層画像に対して骨梁解析が行われる。断層画像には網目状骨梁が重ならずに鮮明に写り込んでいるので、骨梁解析による骨梁の定量はより正確なものとなる。
【0062】
また、CT装置で取得した断層画像より骨梁解析をする従来方法と比べて、より放射線線量を抑制して正確な骨梁解析を行うことができる。したがって、本発明によれば、より安全な骨梁解析装置が提供できる。また、本発明による断層撮影装置は、単純撮影用の装置と同様に平面検出器を使用することができるので、CT装置と比べて解像度が高いものとなる。
【0063】
また、本発明によれば、CT装置と比べて被検体Mに対するX線管3およびFPD4の位置を変更させることが容易である。CT装置は、X線管およびFPDを格納するガントリが設けられており、X線管およびFPDの移動はこのガントリにより制約を受けるからである。本発明によれば、CT装置と比べて断層画像に写り込む被検体の像の大きさを容易に調節することができる。
【0064】
上述のように、骨梁解析部13が算出するデータが骨梁の総延長である骨梁総延長、または骨梁の数である骨梁数であれば、これら数値が大きいほど被検体Mの骨折リスクは小さいものと予想することができる。
【0065】
また、上述のように骨梁解析部13が算出するデータが平均骨梁長であれば、被検体Mの骨の内部の性質を数値化して比較することができる。
【0066】
そして、骨梁解析部13が算出するデータがフラクタル次元数であれば、フラクタル次元数同士を比較することにより検査に係る骨の海綿質が健康な状態からどの程度離れているかを数値により知ることができる。
【0067】
骨梁解析部13が算出するデータが周波数成分の分布を示していれば、海綿質の稠密さを数値により知ることができる。
【実施例2】
【0068】
続いて、実施例2に係る骨梁解析装置について説明する。実施例2の構成は、図7に示すように、X線管3とFPD4とが互いの位置関係を保った状態で被検体Mの体軸方向Aに移動されながら断層画像を撮影することができる構成である。すなわち、同期移動機構7は、X線管3を天板2の長手方向における一端側に向けて移動させるのに同期してFPD4を天板2の長手方向における一端側に向けて移動させるような動作をする。
【0069】
実施例2に係るX線撮影装置の構成は図1における機能ブロック図と同様である。図1に関して実施例2の構成が実施例1と異なる点は、FPD4がX線管3に追従して移動すること(図7参照),X線管3が傾斜しないことである。したがって、実施例2においては図1におけるX線管傾斜機構9,X線管傾斜制御部10は必ずしも必要とされない。
【0070】
実施例2に係る断層画像の撮影の原理について説明する。まず、図7に示すように撮像系3,4が相対位置を保った状態で被検体Mに対して移動しながら間歇的にX線を照射する。つまり一度の照射が終了する毎にX線管3は被検体Mの体軸方向Aに移動し、再びX線の照射を行う。こうして複数枚の透過画像が取得され、透過画像の加工画像(後述の長尺透過画像)がフィルタバックプロジェクション法により断層画像に再構成される。完成した断層画像は、被検体Mをある裁断面で裁断したときの断層像が写りこんだ画像となっている。
【0071】
断層画像を生成するには、異なる方向から被検体Mを透視したときの画像が必要となる。実施例2に係る骨梁解析装置は、得られた透過画像を分割してつなぎ合わせてこの画像を生成するようにしている。この動作について説明する。図8は、X線管3のX線を照射する焦点がd1の位置にあるときのFPD4の位置を表している。この撮影において、被検体Mの体軸方向AにおけるFPD4の1/5の幅だけX線管3およびFPD4が天板2に対してこの方向に移動する度に透過画像の撮影が行われるものとする。
【0072】
X線はX線管3から放射状に広がってFPD4に到達するので、生成された透過画像を被検体Mの体軸方向Aに5分割すると、FPD4に対するX線の入射角度は、矢印に示すように、その分割区の間で互いに異なっている。そのうちのあるの1つの方向kに注目する。この方向kに進んできたX線は、被検体Mの斜線の部分を通過してFPD4に写り込んでいるので、方向kのX線が入射したFPD4の分割区には、被検体Mの斜線部が写り込んでいる。透過画像において、この分割区に相当する部分を断片R1とする。
【0073】
図9は、X線管3のX線を照射する焦点がd1からFPD4の1/5の幅だけ移動したd2の位置にあるときのFPD4の位置を表している。X線管3とFPD4の位置関係は変化しないので、このときの撮影においてもFPD4には、方向kに進んできたX線が写り込んでいる分割区があるはずであり、方向kのX線が入射したFPD4の分割区には、被検体Mの斜線部が写り込んでいる。透過画像において、この分割区に相当する部分を断片R2とする。
【0074】
断片R1と断片R2とを比較すると、撮像系3,4に対する被検体Mの位置が異なるので、両断片R1,R2に写り込んでいる被検体Mの部分は互いに異なっている。X線管3をFPD4の1/5の幅だけずらすことにより、焦点d1〜d9において9回の撮影を行ったとして、そのときの方向kのX線が入射したFPD4の分割区における透過画像の各断片R1〜R9には、それぞれ異なる被検体Mの位置が写り込んでいる。そこで、図10に示すように透過画像の各断片R1〜R9をこの順に被検体Mの体軸方向Aにつなぎ合わせれば、ある方向kで被検体Mの全身にX線を照射したときに撮影される画像を得ることができる。この画像を長尺透過画像と呼ぶことにする。
【0075】
実施例2に係る骨梁解析装置は、画像再構成部12において方向k以外の方向についても長尺透過画像を生成する。そして、画像再構成部12は、被検体Mを投影した方向が異なる複数の長尺透過画像を基に被検体Mを所定の裁断位置で裁断したときの断層画像を生成するのである。
【0076】
実施例2に係る骨梁解析装置の動作は、実施例1における装置の動作と同様であるので説明を省略する。
【0077】
以上のように、実施例2の構成によれば、スロット撮影を仮想的に行うことにより取得された長尺画像を撮影しこれらから断層画像Dを撮影する構成となっている。この様な撮影を行うようにすれば、広範囲に亘って撮影された断層画像を取得できる放射線撮影装置を提供できる。
【0078】
本発明は、上述の構成に限られず、下記のように変形実施することができる。
【0079】
(1)上述の構成に加えて、図4に示したBV/TV値と骨梁総延長との関係を予め取得しておくことにより、骨梁解析部13が算出した骨梁総延長に対応するBV/TV値を取得する構成としてもよい。この様にすることで、断層画像撮影から3次元の骨梁構造を推定することができるようになる。
【0080】
(2)上述した実施例は、医用の装置であったが、本発明は、工業用や、原子力用の装置に適用することもできる。
【0081】
(3)上述した実施例のいうX線は、本発明における放射線の一例である。したがって、本発明は、X線以外の放射線にも適応できる。
【符号の説明】
【0082】
2 天板
3 X線管(放射線源)
4 FPD(検出手段)
7a X線管移動機構(放射線源移動手段)
7b FPD移動機構(検出器移動手段)
8a X線管移動制御部(放射線源移動制御手段)
8b FPD移動制御部(検出器移動制御手段)
11 画像生成部(画像生成手段)
12 画像再構成部(画像再構成手段)
13 骨梁解析部(骨梁解析手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線を照射する放射線源と、
被検体を透過した放射線を検出する検出手段と、
前記放射線源を一方向に向けて移動させる放射線源移動手段と、
前記放射線源移動手段を制御する放射線源移動制御手段と、
前記検出手段の出力を基に画像を生成する画像生成手段と、
前記放射線源を被検体に対して移動させながら連写された画像を基に断層画像を生成する画像再構成手段と、
前記断層画像を基に骨梁の状態を定量するデータを算出する骨梁解析手段を備えることを特徴とする骨梁解析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の骨梁解析装置において、
前記検出手段を前記放射線源の移動に同期して放射線源の移動方向と同じ方向または放射線源の移動方向とは逆方向に移動させる検出器移動手段と、
前記検出器移動手段を制御する検出器移動制御手段とを備えることを特徴とする骨梁解析装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の骨梁解析装置において、
前記骨梁解析手段が算出するデータは、断層画像のある関心領域内の骨梁の総延長である骨梁総延長を示す数値であることを特徴とする骨梁解析装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の骨梁解析装置において、
前記骨梁解析手段が算出するデータは、断層画像のある関心領域内の骨梁の数である骨梁数を示す数値であることを特徴とする骨梁解析装置。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の骨梁解析装置において、
前記骨梁解析手段が算出するデータは、断層画像のある関心領域内の骨梁の長さの平均である平均骨梁長を示す数値であることを特徴とする骨梁解析装置。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載の骨梁解析装置において、
前記骨梁解析手段が算出するデータは、断層画像をフラクタル次元解析することにより算出されるフラクタル次元数を示す数値であることを特徴とする骨梁解析装置。
【請求項7】
請求項1または請求項2に記載の骨梁解析装置において、
前記骨梁解析手段が算出するデータは、断層画像を周波数解析することにより算出される周波数成分の分布を示す数値であることを特徴とする骨梁解析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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