説明

骨粗鬆症予防または改善剤

【課題】食習慣があり安全である植物由来成分を有効成分として、副作用が少なく、長期投与可能な骨粗鬆症予防または改善剤を提供することを目的とする。
【解決手段】クズ(葛;Pueraria lobata)の葉自体またはその抽出物を有効成分として含有し、副作用が少なく長期投与可能である骨粗鬆症予防または改善剤、ならびにそれらを配合してなる飲食品などを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クズ(葛;Pueraria lobata)葉またはその抽出物を有効成分として含有することを特徴とする骨粗鬆症予防または改善剤、ならびにそれらを配合してなる飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の高齢化社会の重要な問題点として、骨粗鬆症の発生が挙げられる。骨粗鬆症は、骨強度の低下を特徴とし、骨折のリスクが増大しやすくなる骨格疾患と定義されている。遺伝的要因ばかりでなく環境要因(生活習慣)にも影響をうけることから、骨粗鬆症は生活習慣病の一つと考えられており、薬物療法以外に適切な運動や日常摂取する食品に留意して予防することが重要である。現在、骨鬆症治療薬として使用されているものとしては、ビスホスホネート製剤(アレンドレネート、リセドロネートなど)、選択的エストロゲン受容体モジュレータ(SERM)製剤(ラロキシフェン、タモキシフェンなど)、カルシトニン製剤、ビタミンD製剤およびカルシウム製剤などが挙げられる。しかし、これらの薬物療法は長期間の治療を要するのは事実であり、副作用の問題がある。例えば、骨粗鬆症治療の第一選択薬のビスホスホネート製剤は、服用方法が厳格なうえ、食道炎を誘発する恐れがあり、SERMの長期投与は、乳癌、子宮癌などの懸念もある。さらに、長期療法による医療コストの高騰も社会問題となっている。このような状況のため、生活習慣病等のように長期投与が必要な薬物療法をサポートするものとして、その予防効果があり、副作用が少なく安全性が高く、日常的に摂取可能な機能性食品が望まれている。
【0003】
近年、予防的な観点から、ヒトの健康状態や食品機能を科学的に研究する機能性食品、特にその有効成分の研究が盛んになされている。クズの根および多年生茎にはイソフラボノイドが多く含まれており、その骨粗鬆症予防・治療用途につて報告されている(特許文献1、2、非特許文献1)。クズ葉についても、特許公報にて、イソフラボノイド類が含まれていることが報告されているが、その含量はクズ根や多年生茎と比較すると遥かに少ない量しか含まれておらず、さらにクズ葉またはその抽出物に関する生理活性については、全く試験例が示されていない(特許文献2、3)。一方では、クズ葉抽出物のアンジオテンシン変換機能抑制作用も報告されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−95971号公報
【特許文献2】国際公開第2005/105125号パンフレット
【特許文献3】特開2005−143367号公報
【特許文献4】特公平7−100016号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】メタボリズム(Metabolism)、54巻、1536−41頁、2005年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
クズ葉は、各種のビタミン、ミネラルとともに葉緑素が豊富に含まれ貧血等の改善に効果があると言われ、また抗酸化作用や上記のごとくアンジオテンシン変換機能抑制作用も報告されているが、一方では、若葉は茹でたり炒めることで人間の食用としても利用されている。更に葉は、良質の植物性たんぱく質を多く含んでいるが、上記のごとくイソフラボン含量は非常に少ないことが報告されている。本発明は、クズ葉またはその抽出物の新たな機能性を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、クズ葉またはその抽出物は、イソフラボン含量が非常に少ないにも拘わらず、意外にも骨粗鬆症予防または改善作用を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)クズ(Pueraria lobata)葉またはその抽出物を有効成分として含有することを特徴とする骨粗鬆症予防または改善剤、
(2)クズ葉が細断物または粉末状物である(1)記載の剤、
(3)前記抽出物が抽出エキスあるいは粉末状物である(1)記載の剤、
(4)前記抽出物が、水、アルコール類、ケトン類、酢酸エステル類およびエーテル類からなる群より選択される1種以上の抽出溶媒を用いて調製されることを特徴とする(1)または(3)記載の剤、
(5)前記抽出溶媒が、水、エタノール、または水とエタノールとの混合溶媒である(4)記載の剤、
(6)クズ葉またはその抽出物の有効成分がフラボノール類であることを特徴とする(1)〜(5)いずれかに記載の剤、
(7)(1)〜(6)いずれかに記載の剤を配合してなる飲食品、
などを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、クズ葉またはその抽出物を有効成分として含有することを特徴とする骨粗鬆症予防または改善剤、ならびにそれらを配合してなる飲食品を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】クズ葉抽出物を90日間投与後のOVXマウス群およびshamマウス群、ならびにコントロール群の尿中デオキシピリジノリン(Dpd)量/クレアチニン(Cr)量比を示す。
【図2】クズ葉抽出物を90日間投与後のOVXマウス群およびshamマウス群、ならびにコントロール群の骨密度を示す。
【図3】クズ葉抽出物を90日間投与後のOVXマウス群およびshamマウス群、ならびにコントロール群の骨強度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下において、本発明を詳細に説明する。本発明において、クズ(葛;Pueraria lobata)の葉は、採取した葉を水洗し必要により乾燥したものを、細断または粉砕した細断物あるいは粉末状物のものが用いられる。本発明に用いられるクズ葉は、6月から11月の緑色状態のものが好ましく、さらに好ましくは9月から11月の緑色葉が用いられ、葉柄部分が含まれていてもよい。また、クズ葉抽出物としては、クズ葉の細断物あるいは粉末状物を水や有機溶媒、あるいはその混合物にて抽出したもの、あるいはその抽出液を濃縮して得られた濃縮物(エキス)、あるいはその濃縮物を真空乾燥、スプレー乾燥、凍結乾燥をして粉末化したものなどが用いられる。更には、クズ葉の抽出物を活性炭による脱色操作、異なる溶媒抽出操作やクロマトグラフィー操作等にて、精製されたクズ葉成分も用いられる。
【0012】
クズ葉の乾燥法としては、自然乾燥をはじめ、熱風乾燥法、凍結乾燥法、マイクロ波乾燥法ならびに遠赤外・近赤外乾燥法等が用いられる。
【0013】
細断あるいは粉砕は、破砕機、ミキサーをはじめとする任意の装置を用いた任意の方法ですることが出来る。また、破砕物は、ペースト、固体、粒状物、紛体、液体状(溶液、懸濁液など任意の状態を含む)など任意の形状であることができる。
【0014】
クズ葉からの有効成分抽出手段として、溶媒抽出法と超臨界抽出法が用いられる。超臨界抽出法としては、通常、超臨界状態の二酸化炭素を使用してクズ葉から抽出することができる。
【0015】
一方、溶媒抽出法に用いられる溶媒としては、水、ならびにアルコール類、ケトン類、酢酸エステル類およびエーテル類等の有機溶媒が用いられる。アルコール類としては、炭素数1〜4のアルコール類が好ましく、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールおよびイソブタノール等が好ましい。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトンが好ましく、酢酸エステル類としては、酢酸メチル、酢酸エチルが好ましく、エーテル類としては、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテルが好ましい。これら溶媒は、単独でも2種類以上を混合して用いても良い。特に水およびエタノールを単独あるいはこれらを任意の比率で混合した混合溶媒系が安全性の点で好ましい。
【0016】
抽出条件は任意に定めることができる。例えばクズ葉粉砕物を3〜100倍程度の抽出溶媒に常温又は加熱下に1〜24時間浸漬することにより抽出を行うことができる。抽出液は、ろ過または遠心分離により固形物を除去した後、そのまま使用しても良いが、公知の適当な方法で抽出溶媒を留去し、抽出エキスとして使用しても良く、または減圧乾燥あるいは凍結乾燥により粉末状物として得ることができる。さらに粉末状物は、炭化水素系溶媒、例えばヘキサン等にて洗浄後、乾燥しても良い。
【0017】
本発明の骨粗鬆症予防または改善作用を示すクズ葉の活性成分に関して、特に限定されないが、本発明者らは、クズ葉エタノール抽出物をカラムクロマトグラフィーにて分離精製したところ、活性成分の例としてルチン、ケルセチン3−O−ロビノビオサイドおよびロビニン等のフラボノール類が比較的多量含有されていることを見出され、一方、イソフラボノイドは、フラボノール類と比較して非常に少ない量しか含まれていないことが判明した。クズ葉抽出物の有効成分はフラボノール類に限定するものではないが、ルチンが骨吸収抑制作用を有することが報告されている(J Bone Miner Res. 15,2251−8 2000)Cell Tissue Res. 319,383−93(2005))。なお、フラボノール類とは、フラボノイドの一種で、ケルセチン、ケンフェロール、ミリセチンなど、およびそれらの配糖体である。
【0018】
本発明のクズ葉または抽出物は、そのままの形で摂取することは可能であるが、各種飲食品に添加して、即ち各種飲食品の素材として使用することができる。なお、各種飲食品に添加する場合、クズ葉をそのまま用いても良いが、細断あるいは粉末化したもの、ペースト状化したもの、ホモジナイズ化して不溶物をろ過したろ液、またはそのろ液を濃縮したもの等種々の形態のものが用いられる。かかる飲食品としては、例えば、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳酸飲料、アルコール飲料等の各種飲料(これらの飲料の濃縮原液及び調整用粉末を含む)、そば、うどん、素麺、はるさめ、中華麺、即席麺等の麺類、パン、クッキー、ケーキ、煎餅等の焼き菓子類、飴、キャンディー、ガム、チョコレート菓子類、プリン、ゼリー、アイスクリーム類等の冷菓類、かまぼこ、ハム、ソーセージ等の水産・畜産加工食品類、加工乳、発酵乳等の乳製品類、サラダ油、てんぷら油、マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、ドレッシング等の油脂及び油脂加工食品類、みそ、醤油、ソース、たれ等の調味料類、スープ、シチュー、サラダ、漬物類等の各種総菜類その他種々の形態の健康・栄養補助食品、錠剤、カプセル剤、ドリンク剤、トローチ形態の食品などが挙げられ、これらを製造するに当り通常用いられる補助的な原料や添加物と共に添加することができる。
【0019】
このような補助的な原料及び添加物としては、例えばブドウ糖、果糖、ショ糖、マルトース、ソルビトール、ステビオサイド、ルブソサイド、コーンシロップ、乳糖、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、L−アスコルビン酸、dl−α−トコフェロール、エリソルビン酸ナトリウム、グリセリン、プロピレングリコール、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、アラビアガム、カラギーナン、カゼイン、ゼラチン、ペクチン、寒天、ビタミンB類、ニコチン酸アミド、パントテン酸カルシウム、アミノ酸類、カルシウム塩類、色素、香料、保存剤などが挙げられる。
【0020】
このような飲食物におけるクズ葉自体またはその抽出物の添加量は、対象飲食物の種類に応じ、任意の範囲で添加すれば良く、通常対象飲食物に対して0.01〜10質量%であり、錠剤、カプセル形態の食物の場合は5〜100質量%の範囲で添加すれば良い。
【0021】
本発明のクズ葉またはその抽出物を飲食品として用いる場合の有効成分の摂取量は、その摂取形態、摂取方法、摂取目的および摂取するヒトの性別や年齢、体重、症状によって異なるが、成人1日当たり好ましくは0.5〜10000mg/kg体重(乾燥重量)、より好ましくは1〜5000mg/kg体重(乾燥重量)である。
【実施例】
【0022】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明する。本発明は以下の実施例によってなんら限定されるものではなく、本発明の属する技術分野における通常の変更を加えて実施することが出来ることは言うまでもない。
【0023】
実施例1
11月中旬に採集したクズ葉27kgを水洗後、水気を切って、4℃で予備冷却後、−80℃で凍結した。凍結したままの葉を荒く破砕し、得られた破砕物にエタノール135Lを加えて、25℃で48時間浸漬抽出した。不要物をろ去後、減圧濃縮乾固し、1.4kgのエタノール抽出物を得た。エタノール抽出物に水を加え、超音波をかけて懸濁した後、同量のヘキサンを加え液−液抽出を行った。得られた水層を凍結乾燥し、緑褐色粉末790gを得た。
【0024】
得られた緑褐色粉末を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて測定した結果、緑褐色粉末1gあたりルチン含量は40mgであり、ロビニン含量は26mg、ケルセチン 3−O−ロビノビオシド含量は13mgであった。なお、HPLCの測定条件は下記の通りであった。
【0025】
HPLCの測定条件:
機器:ウォーターズ社製HPLC;カラム:GLサイエンス株式会社製カラム、Inertsil ODS−3、4.6×250mm;展開溶媒:Solvent A:アセトニトリル、Solvent B:0.1%ギ酸;カラム温度:40℃;流速:0.8mL/min;グラジェント条件:0min:12%A、17min:20%A、47min:25%A、70min:100%A、85min:100%A、
以上の条件下で分析を行った。
【0026】
実施例2
(1)マウスの選択および群分け
11週齢の雌性ddYマウスに卵巣摘出手術(OVX)を実施した群、ならびに偽手術(sham)を実施した群を、それぞれ1週間の予備飼育後、一般状態に異常がみられなかったマウスを選択し、OVXおよびshamそれぞれを2群に分け、計4群に分けた。
【0027】
(2)試験方法および結果
飼料は固形飼料ラボMRストックを、水は水道水を、各々自由摂取させた。実施例1にて得られた粉末4.3g/kgを、投与液量10mL/kgにて、OVXおよびshamマウスにゾンデを用いて胃内強制経口投与を90日間実施した。コントロールとして同量の蒸留水を、OVXおよびshamマウス群にゾンデにて与えた。投与前、90日目に強制採尿して、デオキシピリジノリン(Dpd)の尿中含量を、体外診断用医薬品(オステオリンクスDPD;DSファーマバイオメディカル株式会社)を用いてELISA法で測定した。さらにクレアチニン(Cr)量を測定し、その量比を算出した。結果は、図1に示す。
【0028】
投与90日間後、ペントバルビタールナトリウム麻酔下腹部大動脈より全採血して安楽死させ、左右大腿骨を摘出した。摘出した大腿骨は、−80℃で保存後、海綿骨、皮質骨および全骨の密度、ならびに骨強度を、Computed Tomography(CT)法を用いて測定した。結果は、図2および図3に示す。
【0029】
図1に示すように、骨粗鬆症モデルマウス(OVXマウス)において、クズ葉抽出物摂取群は、骨吸収マーカーであるデオキシピリジノリンの上昇を抑制し、さらに図2および3から、骨密度および骨強度は、コントロール群と比較して有意に高いことば明白であった。このことから、クズ葉抽出物は、骨粗鬆症をはじめとする骨吸収性疾患の予防と改善に非常に効果的であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明により、食経験があり安全なクズ葉自体またはその水および/または有機溶媒抽出物を有効成分として含有することを特徴とする骨粗鬆症予防または改善剤、ならびにそれを配合してなる骨粗鬆症をはじめとする骨吸収性疾患の予防または改善のための機能性飲食品を提供することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クズ(Pueraria lobata)葉またはその抽出物を有効成分として含有することを特徴とする骨粗鬆症予防または改善剤。
【請求項2】
クズ葉が細断物または粉末状物である請求項1記載の剤。
【請求項3】
前記抽出物が抽出エキスあるいは粉末状物である請求項1記載の剤
【請求項4】
前記抽出物が、水、アルコール類、ケトン類、酢酸エステル類およびエーテル類からなる群より選択される1種以上の抽出溶媒を用いて調製されることを特徴とする請求項1または3記載の剤。
【請求項5】
前記抽出溶媒が、水、エタノール、または水とエタノールとの混合溶媒である請求項4記載の剤。
【請求項6】
クズ葉またはその抽出物の有効成分がフラボノール類であることを特徴とする請求項1〜5いずれか1項記載の剤。
【請求項7】
請求項1〜6いずれか1項記載の剤を配合してなる飲食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−57623(P2011−57623A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−209875(P2009−209875)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(306023336)財団法人奈良県中小企業支援センター (18)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【Fターム(参考)】