説明

骨粗鬆症予防または改善剤

【課題】経口により骨重量の増加作用を有する骨粗鬆症予防または改善に効果を与える医薬品または機能性食品として有用な骨粗鬆症予防または改善剤を提供する。
【解決手段】麦類の成熟期前の緑葉の搾汁成分を有効成分として含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨粗鬆症予防または改善剤に関し、さらに詳しくは医薬品として用いられるほか、機能性食品などとしても用いられる骨粗鬆症予防または改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化社会の現代、ますます骨粗鬆症患者の増加が社会問題となっている。骨粗鬆症は遺伝的要因や長年の生活習慣により発症するが、特に閉経期以後の女性に多く見られ、骨の脆弱化による足腰の骨折は寝たきりの要因であり、高齢者の生活の質に大きく影響している。骨粗鬆症の発病要因は性ホルモンの低下、カルシウム摂取不足、運動不足、ビタミンD不足などによる骨量の減少である。
【0003】
そのため、骨粗鬆症の予防・改善は、カルシウムの摂取、運動、日光浴(ビタミンD
合成)などを行い骨量を高く維持することが重要であり、特にカルシウムの積極的な摂取が必要であることが報告がされている(非特許文献1)。
【0004】
これは、骨が生体内における最大のカルシウム貯蔵・調節器官であり、骨代謝におけるカルシウム代謝が骨量維持に重要な役割をはたしているからである。ところが、日本人のカルシウム摂取量は必要量に達していないのが現状である。このような状況下では摂取したカルシウムを有効に骨重量の増加につなげることがより重要となるので、少量のカルシウム摂取で体内に多くのカルシウムを吸収することができる組成物が提案されている(特許文献1)。
【0005】
また、骨粗鬆症の予防・改善・治療剤に関しては各種の組成物が提供されており、これらの組成物は骨代謝・骨重量・骨密度の改善、骨強度増強効果、および骨生成促進効果などを奏することが報告されている(特許文献1、2、3、4、5、6)。
【0006】
一方、麦類の成熟期前の緑葉の搾汁成分が多種多様な有用天然成分を豊富に含有することに基づいて、この搾汁成分をもとの青汁中の状態を保ったまま安定な粉末として取得することが、本発明者らにおいて開示され、麦類若葉粉末の製法が提案されている(特許文献7)。
【0007】
上記製法によれば、麦類の成熟期前の緑葉の機械的粉砕物から粗大固形分を分離除去して得られる青汁のpH6〜9に中和処理したものを噴霧乾燥または凍結乾燥することによって、麦類若葉の青汁成分の安定な粉末が得られるとしている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「脱アミド化大豆タンパク質を用いたカルシウム吸収効率の改善」(日本農芸化学会誌、2003年、vol. 77、p1110〜1112)
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−184459号公報
【特許文献2】特許第3909391号公報
【特許文献3】特許第4703118号公報
【特許文献4】特許第4111428号公報
【特許文献5】特許第4111429号公報
【特許文献6】特許第4178927号公報
【特許文献7】特公昭46−38548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らにおいて開示された上記製法から得られた麦類若葉粉末は、嗜好品を包含する食品類、保健薬、化粧品を包含する医薬品類など広い分野で有用であることが記載されているが、骨粗鬆症の予防または改善については開示されておらず、新たな機能性を提供することが求められていた。
【0011】
そこで、本発明は、天然の麦類若葉の搾汁成分を有効成分として、実質的に無毒性で安全性が高く、長期投与可能な骨粗鬆症予防または改善剤を提供することを課題とする。
【0012】
本発明者は、血糖低下作用、抗炎症作用、抗潰瘍作用、抗高コレステロール血症作用、抗血栓作用、血管保護作用、免疫賦活作用、コラーゲン産生促進作用および脂肪細胞分化抑制作用など大麦若葉の搾汁粉末の生理活性を研究してきたが、さらに詳細に研究を続け、大麦若葉の搾汁粉末の骨粗鬆症に対する生理的影響を検討した結果、骨重量の増加作用を見出し、本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、麦類の成熟期前の緑葉の搾汁成分を有効成分として含有するものとした。
【0014】
すなわち、本発明は、麦類の成熟期前の緑葉の搾汁成分を有効成分として含有し、骨重量の増加作用を有するものとした。
【発明の効果】
【0015】
本発明の骨粗鬆症予防または改善剤は、経口摂取により骨重量の増加作用の効果を与える医薬品、機能性食品などとして有用なものとなった。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の骨粗鬆症予防または改善剤に蒸留水を加えて青汁を作製し、卵巣摘出手術を施したラットに各用量で投与したときのラット左大腿骨の骨重量を示すグラフである。
【図2】ラット大腿骨の3次元断面像を示すX線写真であり、(a)は偽手術を施したラット、(b)は卵巣摘出手術を施したが本発明の骨粗鬆症予防または改善剤を投与しなかったラット(コントロール)、(c)は卵巣摘出手術を施し本発明の骨粗鬆症予防または改善剤を投与したラットである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の骨粗鬆症予防または改善剤について詳細に説明する。
【0018】
本発明の骨粗鬆症予防または改善剤における有効成分は、麦類の成熟期前の緑葉の搾汁成分であって、例えば以下の製法によって得ることができる。
【0019】
本発明において、上記搾汁成分としては、麦類の成熟期前の緑葉、好ましくは分げつ開始期から穂揃期までの麦類、例えば大麦、裸麦、エン麦、さらにはハト麦の緑葉(茎および葉を総称する)を、好ましくは機械的手段で、不当な熱変性を与えることなしに搾汁し、粗大固形分を除去して得られた青汁を使用することが可能である。
【0020】
なお、上記搾汁に先立って、麦類の成熟期前の緑葉を次亜塩素酸ソーダ等の殺菌剤で殺菌処理してから搾汁処理することもできる。
【0021】
さらに、上記で得られた青汁をpH5〜9程度に調節し、噴霧乾燥、凍結乾燥等の実質的な熱変性を与えない手段で粉末化した青汁粉末とすることもできる。
【0022】
本発明において有効成分として使用する麦類の成熟期前期の緑葉の搾汁成分とは、麦類の成熟期前期の緑葉を上記のように搾汁して得られる青汁、およびこの青汁を上記のようにさらに処理して得られる骨粗鬆症予防または改善剤を有するすべての処理成分をも包含する意味で用いられる。
【0023】
本発明の骨粗鬆症予防または改善剤は、所望により、各種の添加剤が配合されていてもよく、またその剤型も種々の剤型であってもよい。
【0024】
このような添加剤としては、噴霧乾燥もしくは冷凍乾燥に際して必要な添加物質のほかに、所定の剤型を形成するための調剤用の添加物質を挙げることができる。これらの添加物質としては、例えばアスコルビン酸、ビオチン、パントテン酸カルシウム、カロテン、塩化コリン、ナイアシン、塩化ピリドキシン、リボフラビン、パントテン酸ナトリウム、チアミン塩酸塩、トコフェロール、ビタミンA、ビタミンB12、ビタミンD等のビタミン類、メタリン酸ナトリウム、リン酸ナトリウム(第1、第2、第3塩)、ピロリン酸ナトリウム、三リン酸ナトリウム等のリン酸ナトリウム、ソルビン酸カルシウム、安息香酸、パラオキシ安息香酸メチル、安息香酸ナトリウム等の保存料、アラビヤガム、トラガント、アルギン酸ナトリウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、マンニット、ソルビトール、乳糖、可溶性澱粉、アミノ酸類、ブドウ糖、果糖、ショ糖、ハチミツ、脂肪酸エステル等を挙げることができる。
【0025】
本発明の骨粗鬆症予防または改善剤は、経口投与することができ、それぞれ任意の剤型に製剤化することができ、例えば散剤、顆粒、ペレットもしくは錠剤、コーティング剤、カプセル剤、液剤、シロップ剤等の経口投与に適した剤型に製剤化することができる。
【0026】
本発明の骨粗鬆症予防または改善剤の経口投与量は、患者の症状、性別、年齢、体重、医師の判断などに応じて広い範囲で考えることができるが、一応の目安として一般に、10mg〜3, 000mg/kg体重/日、好ましくは50mg〜1, 000mg/kg体重/日の範囲内を例示することができる。
【0027】
上記投与量は1日1回または数回に分けて投与することができる。経口投与する場合には、本発明の骨粗鬆症予防または改善剤は、以下に述べるとおり、実質的に無毒性で且つ副作用を伴わないので、上記範囲を超えて大量投与することもできる。
【0028】
本発明の骨粗鬆症予防または改善剤の有効成分である麦類の成熟期前の緑葉の搾汁成分、例えば大麦若葉を搾汁して得られた青汁粉末の急性毒性LD50値は、12, 000mg/kg(経口、マウス)と実質的に無毒であり、また、1, 000mg/kg連続投与(経口、ラット)の亜急性毒性試験の結果からも、毒性および副作用は実質的に認められない。したがって、本発明の成熟期前の緑葉の搾汁成分は、実用性のある骨粗鬆症予防または改善効果を有することと、実質的に無毒性で大量投与が可能であることの両者を兼備した骨粗鬆症予防または改善剤であることが判明した。
【0029】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0030】
〔実施例〕
(骨粗鬆症予防または改善剤の調製)
成熟期前の大麦若葉の緑葉の機械的粉砕物から粗大固形分を分離除去して得られた青汁を中和処理し噴霧乾燥を行なった大麦若葉の緑葉の搾汁噴霧乾燥粉末(大麦若葉末)を5kg調製した。
【0031】
(骨粗鬆症モデルラットの作製)
13週齢の雌性Wistar系ラット(静岡実験動物農業共同組合)を使用した。飼育は室温23±1℃、湿度60±10%、12時間ごとの明暗サイクルの環境下で、1.12%Ca含有の固形飼料(オリエンタル酵母工業株式会社)を自由摂取させた。1週間の馴化期間後、ペントバルビタールナトリウム30mg/kg麻酔下で卵巣摘出手術(Ovariectomy:OVX)を常法に従って行い骨粗鬆症モデルラットを作製した。
【0032】
骨粗鬆症モデルラットを1群5匹とし4群作製した。偽手術(sham)を施したラットは、骨粗鬆症モデルラットの対照群とした。
【0033】
(試験方法および結果)
骨粗鬆症モデルラットへの大麦若葉末の投与は、調製した大麦若葉末に蒸留水を加えて青汁を作製し、大麦若葉末の投与量が0mg/kg、50mg/kg、150mg/kg、500mg/kgになるように各群に胃ゾンデを用いて強制的に経口投与した。なお、大麦若葉末0mg/kg投与群(蒸留水のみの投与群)はコントロール群とした。また、sham群は経口投与を行なわなかった。経口投与は、手術の1週間後から1日1回、36週間にわたり行なった。体重・摂餌量・節水量の測定は1週間に1回行なった。
【0034】
採血は、試験開始36週後に頸静脈から行い血清を分離した後、血清の生化学検査(テスト−ワコー、和光純薬工業株式会社)を行なった。
【0035】
大腿骨・心臓・肝臓・腎臓・脾臓・子宮の摘出は、試験終了後ただちに、ラットをペントバルビタールナトリウム過剰投与により安楽死させて行なった。摘出した大腿骨は、付着した筋肉を剥離し乾燥後、骨重量を測定した。さらに、実験動物用マイクロX線CT装置RmCT(株式会社リガク)を用いて、大腿骨の骨断面を3次元撮影した。また、摘出した心臓・肝臓・腎臓・脾臓・子宮は、臓器重量の測定・組織染色(ヘマトキシリン・エオジン染色)を行なった。
【0036】
骨粗鬆症モデルラットにおける大麦若葉末の投与群は、コントロール群(蒸留水のみの投与群)と比較して骨重量の増加を示し、特に50mg/kg、150mg/kg投与群において有意に骨重量の増加を示した(図1参照)。
【0037】
図1のOVXは、大麦若葉末に蒸留水を加えて青汁を作製し、大麦若葉末を0mg/kg、50mg/kg、150mg/kg、500mg/kgの用量で、卵巣摘出手術を施したラットに投与したラット左大腿骨の骨重量を示す。なお、大麦若葉末0mg/kgの投与群はコントロール(Cont)である。Shamは、偽手術を施したラット左大腿骨の骨重量を示す。図1中の★★印(p<0.02)は危険率2%未満における有意差を示す。★★★印(p<0.01)は危険率1%未満における有意差を示す。グラフは平均値と標準偏差を表す。
【0038】
また、大麦若葉末の投与ラットとコントロールのラットの大腿骨断面を比較すると大麦若葉末投与ラットの骨基質の増加が観察された(図2参照)。
【0039】
図2のX線写真は、ラット大腿骨の3次元断面像を示す。Shamは偽手術を施したラット、OVXは卵巣摘出手術を施し大麦若葉末0mg/kg投与のラット(コントロール)、OVX+大麦若葉末は卵巣摘出手術を施し大麦若葉末150mg/kg投与のラットである。
【0040】
体重量・臓器重量の測定および血清の生化学検査の結果、卵巣摘出の影響により骨粗鬆症モデルラットは、体重量の増加、臓器重量の減少、血清ALP(アルカリホスファターゼ)活性の上昇、血清中のCa、アルブミン、総タンパク質の濃度低下を示した。骨粗鬆症モデルラットに大麦若葉末を投与すると、血清ALP活性は0mg/kg投与と比較して500mg/kg投与で有意に低下し、血清中のCa、アルブミン、総タンパク質の濃度は0mg/kg投与と比較して50mg/kg、150mg/kg、500mg/kg投与で上昇し特にアルブミン、総タンパク質の濃度は有意に上昇した(表1参照)。しかし、卵巣摘出の影響による体重量の増加、臓器重量の減少に変化はなかった。
【0041】
【表1】

【0042】
表1中のShamは偽手術を施したラットの血清の分析値、OVX(コントロール)は卵巣摘出手術を施し大麦若葉末0mg/kg投与のラットの血清の分析値、OVX+大麦若葉末は卵巣摘出手術を施し大麦若葉末50mg/kg、150mg/kg、500mg/kg投与のラットの血清の分析値である。表1中の★印(p<0.05)は危険率5%未満における有意差を、★★印(p<0.02)は危険率2%未満における有意差を、★★★印(p<0.01)は危険率1%未満における有意差を、★★★★印(p<0.001 )は危険率0.1%未満における有意差を示す。また、表1中の値は平均値±標準偏差を表す。
【0043】
ラットにおける骨形成パラメーターである血清ALP活性は、骨形成が活発になるとその活性が高くなるが、骨粗鬆症の改善に伴いほぼ正常レベルまで低下することが報告されている(Saleh and Saleh BMC Complementary and Altermative Medicin 2011年、Vol.11、No.10)。大麦若葉末150mg/kg、500mg/kg投与ラットの血清ALP活性が低下したのは、上記の骨重量と大腿骨断面像の結果を考慮すると、骨形成が大麦若葉末の投与期間中になされたため、36週間後の測定時にはすでに骨形成が減少していたと考えられる。また、大麦若葉末50mg/kg投与ラットの血清ALP活性が上昇したのは、骨形成の活性化が遅れたため、36週間後の測定時はまだ骨形成が増加していたと考えられる。一方、血清中のCa、アルブミン、総タンパク質の濃度上昇は、骨粗鬆症の状態が改善したことを示すと報告されている(家政学雑誌、1986年、Vol. 37(5)、p883〜839)。
【0044】
大麦若葉末投与により骨粗鬆症モデルラットの大腿骨重量が増加したのは、卵巣摘出手術による骨粗鬆症誘導を効果的に弱めたことにより、閉経後における骨粗鬆症の状態に移行するのを防御したからである。以上のことから、大麦若葉末は骨粗鬆症の予防と改善に効果的であることが示された。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
麦類の成熟期前の緑葉の搾汁成分を有効成分として含有することを特徴とする骨粗鬆症予防または改善剤。
【請求項2】
麦類の成熟期前の緑葉の搾汁成分を有効成分として含有し、骨重量の増加作用を有することを特徴とする骨粗鬆症予防または改善剤。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−63940(P2013−63940A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204470(P2011−204470)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(501028574)日本薬品開発株式会社 (9)
【Fターム(参考)】