説明

骨粗鬆症感受性遺伝子、及び骨粗鬆症罹患リスクの測定方法

【課題】骨粗鬆症感受性遺伝子、骨粗鬆症の発症リスクを検出し判定する方法、及び骨粗鬆症発症リスクを有する者に投与することを特徴とする医薬を提供する。この検出方法に使用される骨粗鬆症罹患率診断マーカー、プローブ、プライマー並びに試薬キットの提供。
【解決手段】ヒト骨粗鬆症感受性遺伝子としてSMAD6遺伝子、TGFβR11及びSyntaxin18におけるイントロンに存在する遺伝子多型を提供する。これらの遺伝子多型を検出することで、骨粗鬆症の発症リスクを判定する。また、本方法により骨粗鬆症の発症リスクのある者を特定する手段を含む骨粗鬆症薬キットとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨密度の減少を含む疾患又は症状、例えば、骨粗鬆症の罹患リスクの測定方法に関する。より詳細には、ヒトゲノムDNAを含む試料から、骨粗鬆症罹患リスクに影響を及ぼす遺伝子多型を利用した骨粗鬆症の遺伝的要因の有無を判定する方法又は遺伝子マーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
高齢者の骨折とそれに伴う疼痛は、高齢者のADLならびにQOLを大きく損なう。高齢者の骨折は骨量が低下している群において高頻度に発症することが明らかにされてきた。そこで、骨量低下を有するヒトを骨粗鬆症と診断し骨折の予防のため、低骨量のヒト、骨粗鬆症患者やその予備群に対して骨量を維持、増加させる薬剤が開発され、服用されてきている。しかしながら、高齢者の骨折者数は未だ増加しており、これは罹患者の健康と健康長寿を損ない、それに伴う医療費も増加している。
【0003】
このことは、低骨量を早期に予知するマーカーが存在し、さらに早期に治療を行うことが重要であることを示唆するが、低骨量を早期に予知する信頼性の高いマーカーが未だ存在しない、若しくは、そのマーカーが極めて少ない。従来、遺伝子多型の同定に骨密度予測や骨粗鬆症のリスク判定のための発明として、下記のものが開示されている。
【0004】
例えば、ヒト組織非特異型アルカリホスファターゼ(TNSALP)遺伝子の遺伝子多型 が、TNSALPの基質親和性に影響を与えていることを実証すると共に、該遺伝子多型 を検出することにより、骨密度変化を予測することができることを見いだし、同時に、骨疾患、特にヒト女性の閉経後における原発性の骨粗鬆症 が発症する可能性を予測することが可能であることを見いだした発明がある(特許文献1)。
【特許文献1】骨密度予測方法および遺伝子多型分析用試薬キット(特開2006−61090)。
【0005】
その他には、ペルオキシソーム増殖因子−活性化受容体γ(PPARγ)における遺伝子多型、具体的には、ホモ接合体PPARγPro12アレル又はホモ接合体PPARγVN102「G」アレルの存在を検出するものがある。
【特許文献2】骨粗鬆症 と、PPARγ中の一塩基多型との相関関係(特開2006−14738)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の遺伝子多型による疾患罹患マーカーに関する発明は、他の遺伝子多型と比較することなく統計上有意であるものを骨密度が予測できる遺伝子として挙げている。そこで、本発明が解決しようとする課題は、ヒト染色体上に存在する偏りのない全ゲノムからのアプローチにより統計学上信頼度の高い遺伝子多型を抽出して、これらの遺伝子多型情報を利用した、骨密度の減少を含む疾患又は症状、例えば、骨粗鬆症の罹患リスクに関する信頼性の高い測定方法、骨粗鬆症の罹患診断マーカー、骨粗鬆症の罹患診断キット、及び特定の遺伝子型を有する患者を治療するため骨粗鬆症治療薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った。その結果、骨粗鬆症感受性遺伝子として、ヒトSMAD6遺伝子のイントロン1若しくはイントロン3、ヒトTGFβR1遺伝子のイントロン1、又はヒトSyntaxin18遺伝子のイントロン1に存在する遺伝子多型であることを見出した。これら遺伝子多型が、骨粗鬆症の罹患リスクを判定できる遺伝子マーカーとして、非常に有用であることを実証して、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0009】
ヒトSMAD6遺伝子、ヒトTGFβR1遺伝子、又はヒトSyntaxin18遺伝子のイントロン1のいずれかの遺伝子多型を同定することにより、骨粗鬆症罹患のリスクを判定する方法である。または、ヒトSMAD6遺伝子のイントロン1若しくはイントロン3、ヒトTGFβR1遺伝子のイントロン1、又はヒトSyntaxin18遺伝子のイントロン1の部分のいずれかの遺伝子多型を同定することにより、骨粗鬆症罹患のリスクを判定する方法である。
【0010】
また、下記の5からなる群から選択される少なくとも1つのポリヌクレオチドからなる骨粗鬆症の罹患診断マーカー:(1)ヒトSMAD6遺伝子のイントロン3に存在する遺伝子配列であって、第15染色体における位置が43923224番目のヌクレオチドを含む18〜300塩基からなるポリヌクレオチド。(2)ヒトSMAD6遺伝子のイントロン1に存在する遺伝子配列であって、第15染色体における位置が43885355番目のヌクレオチドを含む18〜300塩基からなるポリヌクレオチド。(3)ヒトTGFβR1遺伝子のイントロン1に存在する遺伝子配列であって、第9染色体における位置が72399935番目のヌクレオチドを含む18〜300塩基からなるポリヌクレオチド。(4)ヒトSyntaxin18遺伝子のイントロン1に存在する遺伝子配列であって、第4染色体における位置が4419807番目のヌクレオチドを含む18〜300塩基からなるポリヌクレオチド。(5)上記(1)〜(4)のポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドを提供するものである。
【0011】
ヒトSMAD6遺伝子のイントロン3に存在する遺伝子配列であって、第15染色体における位置が43923224番目の遺伝子多型と連鎖不平衡にある遺伝子多型部位を含む18〜300塩基からなるポリヌクレオチドからなる骨粗鬆症の罹患診断マーカー。
【0012】
ヒトSMAD6遺伝子のイントロン1に存在する遺伝子配列であって、第15染色体における位置が43885355番目、ヒトTGFβR1遺伝子のイントロン1に存在する遺伝子配列であって、第9染色体における位置が72399935番目、若しくは、ヒトSyntaxin18遺伝子のイントロン1に存在する遺伝子配列であって、第4染色体における位置が4419807番目の遺伝子多型と連鎖不平衡にある遺伝子多型部位を含む18〜300塩基からなるポリヌクレオチドからなる骨粗鬆症の罹患診断マーカー。
【0013】
配列番号1乃至4のいずれかに示す遺伝子配列を有し、いずれの配列においても塩基番号26の遺伝子多型を検出することにより骨粗鬆症の罹患リスクを判定することを特徴とする骨粗鬆症の罹患診断マーカー。
【0014】
配列番号1乃至4のいずれかに示す遺伝子配列を有し、いずれの配列においても塩基番号26の遺伝子多型を検出することにより骨粗鬆症の罹患リスクを判定することを特徴するものであって、下記のいずれかの遺伝子多型であれば骨粗鬆症の罹患率が高いと判定することを特徴とする診断マーカー。(1)配列番号1の塩基番号26の遺伝子多型が、Cである、又は、C/C、若しくはA/Cのペアである。(2)配列番号2の塩基番号26の遺伝子多型が、Gである、又は、A/G、若しくはG/Gのペアである。(3)配列番号3の塩基番号26の遺伝子多型が、C/C、C/T、若しくはA/Aのペアである。(4)配列番号4の塩基番号26の遺伝子多型が、G/Gのペアである。
【0015】
配列番号1乃至4のいずれかに示す遺伝子配列を有し、いずれの配列においても塩基番号26の遺伝子多型を検出することにより骨粗鬆症の罹患リスクを判定することを特徴するものであって、下記のいずれかの遺伝子多型であれば骨粗鬆症の罹患率が低いと判定することを特徴とする診断マーカー。(1)配列番号1の塩基番号26の遺伝子多型が、A/Aのペアである。(2)配列番号2の塩基番号26の遺伝子多型が、A/Aのペアである。(3)配列番号3の塩基番号26の遺伝子多型が、T/Tのペアである。(4)配列番号4の塩基番号26の遺伝子多型が、G/T、若しくはT/Tのペアである。なお、「G/Tのペアである」とは、母方由来若しくは父方由来のゲノムが、「G」又は「T」のSNPである場合を指す。
【0016】
前記いずれかのオリゴヌクレオチドが支持体に固定されたマイクロアレイ。
【0017】
前記オリゴヌクレオチド及び/又は前記記載のマイクロアレイを含む、骨粗鬆症罹患リスク判定キット。
【0018】
下記の遺伝子型を有する患者を治療するための、骨粗鬆症治療薬。(1)配列番号1の塩基番号26の遺伝子多型が、Cである、又は、C/C、若しくはA/Cのペアである。(2)配列番号2の塩基番号26の遺伝子多型が、Gである、又は、A/G、若しくはG/Gのペアである。(3)配列番号3の塩基番号26の遺伝子多型が、C/C、C/T、若しくはA/Aのペアである。(4)配列番号4の塩基番号26の遺伝子多型が、G/Gのペアである。
【0019】
下記の遺伝子型を有するヒトの骨粗鬆症を予防するための、骨粗鬆症予防剤。(1)配列番号1の塩基番号26の遺伝子多型が、Cである、又は、C/C、若しくはA/Cのペアである。(2)配列番号2の塩基番号26の遺伝子多型が、Gである、又は、A/G、若しくはG/Gのペアである。(3)配列番号3の塩基番号26の遺伝子多型が、C/C、C/T、若しくはA/Aのペアである。(4)配列番号4の塩基番号26の遺伝子多型が、G/Gのペアである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、骨密度の減少を含む疾患又は症状、例えば、骨粗鬆症の罹患リスクの遺伝的要因の有無を判定するにあたり、非常に簡便であり且つ信頼性の高い新規判定法を提供することができる。また、上記判定方法に用い得るオリゴヌクレオチド、マイクロアレイ及び診断キットを提供することもできる。また、特定の遺伝子多型を有する患者等を治療するための、骨粗鬆症治療薬を提供することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、実施形態は下記に限定されるものではない。
本発明は、骨密度の減少を含む疾患又は症状、例えば、骨粗鬆症の罹患リスクの遺伝的要因の有無を判定するための方法であり、本方法は、ヒトSMAD6遺伝子、ヒトTGFβR1遺伝子、及びヒトSyntaxin18遺伝子における遺伝子多型を見出し、これらの遺伝子多型に着目したものである。
【0022】
遺伝子多型の解析方法として、疾患群と非疾患群の遺伝子情報をそれぞれ大量に収集し、両群での遺伝子多型の頻度差を見る、関連解析がある。本発明者は、この関連解析を利用して、腰椎及び全身骨骨量との相関解析を行い、骨量を規定するいくつかの遺伝子多型を同定した。これらの遺伝子多型が、骨粗鬆症の罹患リスクの遺伝的要因の有無を判定するために有用であることを見出した。
【0023】
遺伝子多型とは、遺伝子配列中の特定の1塩基が他の塩基に置換することによる多型を意味する。インサーション/デレーション多型とは、1以上の塩基が欠失/挿入することによる多型を意味する。また、塩基配列の繰り返し数の異なることにより生じる多型(塩基繰り返し多型)には、繰り返す塩基数の違いによりマイクロサテライト多型(塩基数:2〜4塩基程度)とVNTR (variable number of tandem repeat)多型(繰り返し塩基:数〜数十塩基)があり、その繰り返し塩基数が個々人によって異なっている多型を意味する。
【0024】
ヌクレオチドは核酸を意味する。また、ポリヌクレオチドは、ヌクレオチドが複数結合したものであり、DNA及びRNAを含むものであり、いわゆるプライマー、プローブ、及びオリゴマー断片と同意味である。
【0025】
<遺伝子多型情報>
本発明の方法において好ましく利用できる遺伝子多型の情報を、下記の表1に例示列挙する(配列番号1〜4)。表1に示される多型情報は、一塩基多型(SNP)に関するものである。表1に示される遺伝子多型の中でも、配列番号1及び2の塩基配列中に示される多型が特に好ましい。また、表2は、rs755451と連鎖不平衡にある遺伝子多型を例示列挙している。表2にあるSNPは、すべて第15染色体にあり、染色体位置は、NW_925884.1における位置を示している。表中の、「遺伝子多型名」とは、ゲノム上の位置におけるSNP名であり、いずれも全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)のウェブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を用いて確認されるアクセッション番号で示している。染色体における位置とは、特定の染色体中の位置(NW_925884.1)を示している。表中の「配列」には51塩基からなる塩基配列が表示されており、その26番目にSNP部位を表示している。[G/T]とあるのは、「G」と「T」のSNPであることを示している。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
<遺伝子多型の検出法>
以下に、本発明の診断マーカーやマイクロアレイを利用した、遺伝子多型の検出法を例示する。なお、患者や被験者からの遺伝子サンプルの入手や調整方法については、実施例で後述する。
【0029】
(1) PCR法を用いた検出
本発明においては、PCR法を用いた検出することもできる。PCRにより被験サンプルを増幅するには、Fidelityの高いDNAポリメラーゼ等を用いることが好ましい。プライマーは、被験サンプル中の対象SNPを増幅できるようにプライマーの任意の位置に遺伝子多型が含まれるように設計し合成する。増幅反応終了後は、増幅産物の検出を行い、多型の有無を判定する。
【0030】
(2) 塩基配列決定法による検出
本発明においては、ジデオキシ法に基づく塩基配列決定法により本発明の多型を検出することもできる。塩基配列決定に用いるシークエンサーには、市販のABIシリーズ(アマシャムバイオサイエンス)等を用いることができる。
【0031】
(3) マイクロアレイによる検出
マイクロアレイは、支持体上にポリヌクレオチドプローブが固定されたものであり、DNAチップ、Gene チップ、マイクロチップ、ビーズアレイなどを含む。
【0032】
まず、被験者サンプルのDNAを単離し、必要な部分をPCRにより増幅し、蛍光レポーター基等により標識する。続いて、被験者サンプルのDNAを標識化されたDNAをアレイと共に、ハイブリダイゼーションさせるために、インキュベートする。次にこのアレイをスキャナーに差し込み、ハイブリダイゼーションパターンを検出する。ハイブリダイゼーションのデータは、プローブアレイに結合した蛍光レポーター基からの発光として採集する。標的配列と完全に一致したプローブは、標的配列と一致していない部分を有するものよりも強いシグナルを生じる。アレイ上の各プローブの配列及び位置は分かっているため、相補性によって、プローブアレイと反応させた標的ポリヌクレオチドの配列を決定することができる。
【0033】
(4) TaqMan PCR法による検出
TaqMan PCR法は、5′末端を蛍光物質(FAMなど)で、3′末端をクエンチャー物質(TAMRA など)で修飾したオリゴヌクレオチド(TaqManプローブ)をPCR反応系に加える方法である。まず、TaqManプローブが鋳型DNAとハイブリダイゼーションし、その後、PCRプライマーからの伸長反応が起こる。そうすると、Taq DNAポリメラーゼの5'ヌクレアーゼ活性により蛍光色素結合部分が切断されて、蛍光色素が遊離し、クエンチャーの影響を受けなくなり発色する。この蛍光を検出することで特定の多型(SNP等)を同定し、ゲノムタイプを判定することができる。TaqMan PCR法で用いるアレル特異的オリゴ(TaqManプローブという)は、前記遺伝子多型情報に基づいて設計することができる。
【0034】
(5) インベーダー法による検出
インベーダー法は、塩基配列の標的部位においてオリゴヌクレオチドによる特異的な構造を作り、その構造を酵素クリベース等が認識し、切断することを利用している。SNPを検出する部位の周辺において、2種類のオリゴヌクレオチド(以下、オリゴ)が重なり合った構造を作りながらハイブリダイズします。すなわち、標的部位において片方のオリゴ(インベーダーオリゴ)が、もう一方のオリゴの下に1塩基のみ侵入する。酵素クリベース等は、この侵入構造を認識し、はみ出した部位を切断し、フラップ断片を放出する。この放出されたフラップ断片を検出することで、多型を検出するができる。
【0035】
<骨粗鬆症罹患リスク判定キット>
本発明において、遺伝子多型(例えばSNP)部位を含む診断マーカーは、骨粗鬆症罹患リスク判定キットに含めることができる。
【0036】
本発明のキットは、本発明を実施するために必要な1種以上の成分を含むものである。例えば、本発明のキットは、酵素を保存若しくは供給するためのもの、遺伝子多型検出を実施するために必要な反応成分を含むことができる。そのような成分としては、限定されるものではないが、本発明のオリゴヌクレオチド、酵素緩衝液、dNTP、コントロール用試薬(例えば、組織サンプル、ポジティブ及びネガティブコントロール用標的オリゴヌクレオチドなど)、標識用又は検出用試薬、固相支持体、説明書などが挙げられる。
【0037】
本発明のキットは、上記オリゴヌクレオチドを支持体に固定したマイクロアレイとして提供することもできる。マイクロアレイは、支持体上に本発明のオリゴヌクレオチドが固定されたものであり、DNAチップ、Geneチップ、マイクロチップ、ビーズアレイなどを含む。当該マイクロアレイは、上記オリゴヌクレオチドと共に本発明のキットに含まれていてもよい。
【0038】
<遺伝子多型情報を利用した骨粗鬆症の薬物治療>
本発明の骨粗鬆症薬、若しくはそのキットに含まれる医薬、若しくは候補品として、(1)カルシウム製剤、(2)女性ホルモン製剤(エストロゲン)、(3)活性型ビタミンD3製剤、ED−71(4)ビタミンK2製剤、(5)ビスフォスネート剤(エチドロネート、アレンドロネート、リセドロネート、イバンドロネート、ミノドロン酸水和物)、(6)SERM(塩酸ラロキシフェン、ラソフォキシフェン、酢酸バセドキシフェン)、(7)カルシトニン製剤、(8)イプリフラボン、(9)蛋白同化ホルモン製剤(アンドロゲン、デカン酸ナンドロロン)、(10)ヒトPTH(1−34)(テリパラチド)皮下注射製剤、(11)抗RANKL抗体、デノスマブ(AMG162)、(12)ラネル酸ストロチウムなどが挙げられる。本発明では、骨粗鬆症の罹患リスクについて、遺伝子多型に関する情報を開示しているが、これを利用した医薬品等として提供してもよい。具体的には、医薬品のパッケージに用量・用法に当該遺伝子多型情報を記載することや、上記の骨粗鬆症罹患リスク判定キットをこれら医薬品とともに関連付けて、パッケージとすることが挙げられる。
【0039】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0040】
<腰椎及び全身骨骨量と相関のある遺伝子多型の同定>
本発明では、閉経後女性を対象として、ヒト遺伝子上に多数存在する一塩基置換遺伝子多型(SNP)のうち代表的な約5万個に対してGenotypingを行い、SNPと骨量との相関解析を行った。さらに、本解析により統計上有意であった、遺伝子多型に関しては対象者数を増やして、同様の検討を行った。
【0041】
まず、ヒトから採取した血液検体等から、フェノール法等を用いてゲノムDNAを精製する。その際、GFX Genomic Blood DNA Purification Kit等の市販のゲノムDNA抽出キットや装置を用いてもよい。次に、得られたゲノムDNAを鋳型として、TaqMan PCR法によりゲノムにおける遺伝子型を決定する。ゲノム上で遺伝子多型を含む領域を増幅できるPCRプライマーを1セットとゲノムDNAの一塩基変異に対応するTaqManプローブを2種類用意する。それぞれのTaqManプローブはゲノム上の遺伝子多型(A/B)を含む領域に相補的な配列を有している。これらのプライマーとTaqManプローブ、ゲノムDNAを混合し、PCRを行なうことで、2種類のSNPが検出する。この遺伝子多型の遺伝子型決定においてはゲノム上の各遺伝子型をTaqManプローブで識別して遺伝子多型を検出する事になるので、「A/Aのホモ」の場合はAという遺伝子多型を検出するTaqManプローブの蛍光のみが検出され、「A/Bのヘテロ」の場合はAとBの両方のSNPを検出する2種類のTaqManプローブの蛍光が検出されることになる。本方法により遺伝子型を決定する。
【0042】
本発明では、55―83歳の閉経後の女性253名の血液より、ゲノムDNAを抽出して、遺伝子多型を調べた。抽出したゲノムDNAは、上述のようにPCRで増幅して用いた。調べる対象となる遺伝子は、AFFYMETRIX社のGeneChipMapping100K Setに含まれる約5万個のSNPについて、同社GeneChipMappingAssay法を用いて決定した。腰椎及び全身骨骨量との相関解析を行い、骨量と関係する候補遺伝子を選択した。
【0043】
本発明において、二重エックス線吸収法(DXA)を用いて、全身骨骨量及び腰椎の骨量測定を行った。この測定法の特徴として、2種類の異なるエネルギーのX線を照射し、骨と軟部組織の吸収率の差による骨密度を測定する。本測定方法は、全身骨骨量、腰椎などいずれの部位でも高い精度で、5分−10分程度と迅速に測定でき、標準的な骨密度測定法である。測定値を体重と年齢で補正したZスコアとして表示する。
【実施例2】
【0044】
<ヒトSMAD6遺伝子のイントロン3に存在するSNP(rs755451)>
上記の解析方法により、日本人閉経後の女性253名の遺伝子上に多数存在する遺伝子多型のうち、約5万SNPにおけるGenotypeを決定した。その結果、ヒトSMAD6遺伝子のイントロン3に存在するSNP(rs755451)が全身骨骨量と有意に相関することが判明した(P=0.0002、図1(A))。各群間の有意差検定に関しては、スチューデントのt検定を行い、P値が0.05未満の場合を統計上有意とした。T検定は、2つの母集団がいずれも正規分布に従うと仮定した上での、平均が等しいかどうかの検定であるが、骨量はこれに従うものであるので、本検定を採用した。さらに、本解析で有意差が見出されたSNPについて、対象者数を703名まで増やし、相関解析を行った。その結果、当該SNPは、全身骨骨量と強い相関があることが判明した(図1(B))。表中のTotal BMDは、全身骨骨量を指し、値が高いほど骨量が多いことにあるが、個々人の体重及び身長の値で補正したものである。また、カッコ内は人数を指し、「AC+CC」とは、母方由来若しくは父方由来のゲノムが、「AC」又は「CC」のSNPである場合を指す。
【実施例3】
【0045】
<ヒトSMAD6遺伝子のイントロン1に存在するSNP(rs17264185)>
ヒトSMAD6遺伝子のイントロン1に存在するSNP(rs17264185)が全身骨骨量と有意に相関することが判明した(P=0.0002、図2)。
【実施例4】
【0046】
<ヒトTGFβR1遺伝子のイントロン1に存在するSNP(rs10512263)>
ヒトTGFβR1遺伝子のイントロン1に存在するSNP(rs10512263)が全身骨骨量(P=0.0154、図3(A))及び腰椎骨量(P=0.0091、図3(B))と有意に強い相関することが判明した。この結果を見ると、SNP(rs10512263)は、全身骨骨量に比して、腰椎骨量に強い相関があり、診断マーカーとしてより有効なものと思われる。なお、TGFβは、骨形成因子(bonemorphogenetic protein;BMP)に関連するものと考えられている。なお、TGFβR11遺伝子は骨代謝において重要な役割をはたす液性因子TGFβに対する受容体として働く。またSMAD6はTGFβからTGFβR11を介したシグナル伝達を調節する因子である。従って、両遺伝子は骨代謝において重要な機能をはたしていると推測される。
【実施例5】
【0047】
<ヒトSyntaxin18遺伝子のイントロン1に存在するSNP(rs689484)>
ヒトSyntaxin18遺伝子のイントロン1に存在するSNP(rs689484)が全身骨骨量(P=0.0014、図4)と有意に強い相関することが判明した。なお、TGFβは、骨形成因子(bonemorphogenetic protein;BMP)に関連するものと考えられている。また、syntaxin18は細胞の小胞体に存在し、細胞内物質の輸送などに関与する因子であることが明らかにされており、細胞機能における重要性が示唆されている。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】(A)SMAD6遺伝子のイントロン3に存在するSNP(rs755451)と全身骨骨量との相関を示すグラフ(237人での試験結果)。(B)SMAD6遺伝子のイントロン3に存在するSNP(rs755451)と全身骨骨量との相関を示すグラフ(703人での試験結果)。
【図2】SMAD6遺伝子のイントロン1に存在するSNP(rs17264185)と全身骨骨量との相関を示すグラフ(463人での試験結果)。
【図3】(A)TGFβR1遺伝子のイントロン1に存在するSNP(rs10512263)と全身骨骨量との相関を示すグラフ(711人での試験結果)。(B)TGFβR1遺伝子のイントロン1に存在するSNP(rs10512263)と腰椎骨量との相関を示すグラフ(703人での試験結果)。
【図4】Syntaxin18遺伝子のイントロン1に存在するSNP(rs689484)と全身骨骨量との相関を示すグラフ(552人での試験結果)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトSMAD6遺伝子、ヒトTGFβR1遺伝子、又はヒトSyntaxin18遺伝子のいずれかの遺伝子多型を同定することにより、骨粗鬆症罹患のリスクを判定する方法。
【請求項2】
ヒトSMAD6遺伝子のイントロン1若しくはイントロン3、ヒトTGFβR1遺伝子のイントロン1、又はヒトSyntaxin18遺伝子のイントロン1の部分のいずれかの遺伝子多型を同定することにより、骨粗鬆症罹患のリスクを判定する方法。
【請求項3】
下記の5からなる群から選択される少なくとも1つのポリヌクレオチドからなる骨粗鬆症の罹患診断マーカー:
(1)ヒトSMAD6遺伝子のイントロン3に存在する遺伝子配列であって、第15染色体における位置が43923224番目のヌクレオチドを含む18〜300塩基からなるポリヌクレオチド。
(2)ヒトSMAD6遺伝子のイントロン1に存在する遺伝子配列であって、第15染色体における位置が43885355番目のヌクレオチドを含む18〜300塩基からなるポリヌクレオチド。
(3)ヒトTGFβR1遺伝子のイントロン1に存在する遺伝子配列であって、第9染色体における位置が72399935番目のヌクレオチドを含む18〜300塩基からなるポリヌクレオチド。
(4)ヒトSyntaxin18遺伝子のイントロン1に存在する遺伝子配列であって、第4染色体における位置が4419807番目のヌクレオチドを含む18〜300塩基からなるポリヌクレオチド。
(5)上記(1)〜(4)のポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチド。
【請求項4】
ヒトSMAD6遺伝子のイントロン3に存在する遺伝子配列であって、第15染色体における位置が43923224番目の遺伝子多型と連鎖不平衡にある遺伝子多型部位を含む18〜300塩基からなるポリヌクレオチドからなる骨粗鬆症の罹患診断マーカー。
【請求項5】
ヒトSMAD6遺伝子のイントロン1に存在する遺伝子配列であって、第15染色体における位置が43885355番目、ヒトTGFβR1遺伝子のイントロン1に存在する遺伝子配列であって、第9染色体における位置が72399935番目、若しくは、ヒトSyntaxin18遺伝子のイントロン1に存在する遺伝子配列であって、第4染色体における位置が4419807番目の遺伝子多型と連鎖不平衡にある遺伝子多型部位を含む18〜300塩基からなるポリヌクレオチドからなる骨粗鬆症の罹患診断マーカー。
【請求項6】
配列番号1乃至4のいずれかに示す遺伝子配列を有し、いずれの配列においても塩基番号26の遺伝子多型を検出することにより骨粗鬆症の罹患リスクを判定することを特徴とする骨粗鬆症の罹患診断マーカー。
【請求項7】
配列番号1乃至4のいずれかに示す遺伝子配列を有し、いずれの配列においても塩基番号26の遺伝子多型を検出することにより骨粗鬆症の罹患リスクを判定することを特徴するものであって、下記のいずれかの遺伝子多型であれば骨粗鬆症の罹患率が高いと判定することを特徴とする骨粗鬆症の診断マーカー。
(1)配列番号1の塩基番号26の遺伝子多型が、Cである、又は、C/C、若しくはA/Cのペアである。
(2)配列番号2の塩基番号26の遺伝子多型が、Gである、又は、A/G、若しくはG/Gのペアである。
(3)配列番号3の塩基番号26の遺伝子多型が、C/C、C/T、若しくはA/Aのペアである。
(4)配列番号4の塩基番号26の遺伝子多型が、G/Gのペアである。
【請求項8】
配列番号1乃至4のいずれかに示す遺伝子配列を有し、いずれの配列においても塩基番号26の遺伝子多型を検出することにより骨粗鬆症の罹患リスクを判定することを特徴するものであって、下記のいずれかの遺伝子多型であれば骨粗鬆症の罹患率が低いと判定することを特徴とする骨粗鬆症の診断マーカー。
(1)配列番号1の塩基番号26の遺伝子多型が、A/Aのペアである。
(2)配列番号2の塩基番号26の遺伝子多型が、A/Aのペアである。
(3)配列番号3の塩基番号26の遺伝子多型が、T/Tのペアである。
(4)配列番号4の塩基番号26の遺伝子多型が、G/T、若しくはT/Tのペアである。
【請求項9】
請求項3乃至5に記載のいずれかのオリゴヌクレオチドが支持体に固定されたマイクロアレイ。
【請求項10】
請求項3乃至5に記載のオリゴヌクレオチド及び/又は請求項9に記載のマイクロアレイを含む、骨粗鬆症罹患リスク判定キット。
【請求項11】
下記の遺伝子型を有する患者を治療するための、骨粗鬆症治療薬。
(1)配列番号1の塩基番号26の遺伝子多型が、Cである、又は、C/C、若しくはA/Cのペアである。
(2)配列番号2の塩基番号26の遺伝子多型が、Gである、又は、A/G、若しくはG/Gのペアである。
(3)配列番号3の塩基番号26の遺伝子多型が、C/C、C/T、若しくはA/Aのペアである。
(4)配列番号4の塩基番号26の遺伝子多型が、G/Gのペアである。
【請求項12】
下記の遺伝子型を有するヒトの骨粗鬆症を予防するための、骨粗鬆症予防剤。
(1)配列番号1の塩基番号26の遺伝子多型が、Cである、又は、C/C、若しくはA/Cのペアである。
(2)配列番号2の塩基番号26の遺伝子多型が、Gである、又は、A/G、若しくはG/Gのペアである。
(3)配列番号3の塩基番号26の遺伝子多型が、C/C、C/T、若しくはA/Aのペアである。
(4)配列番号4の塩基番号26の遺伝子多型が、G/Gのペアである。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−301777(P2008−301777A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−153035(P2007−153035)
【出願日】平成19年6月8日(2007.6.8)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】