説明

骨芽細胞分化マーカー、骨形成促進剤及び骨形成抑制剤

【課題】骨芽細胞分化マーカー、骨形成促進剤及び骨形成抑制剤を提供する。
【解決手段】GPR97遺伝子(Gタンパク質共役型受容体の一つ)の発現量を指標とする骨芽細胞分化を検出する方法、GPR97発現ベクターを有効成分とする骨形成促進剤、GPR97遺伝子を標的とするsiRNAを有効成分とする骨形成抑制剤及びGPR97遺伝子上流領域依存的な転写活性を指標とする骨形成促進剤又は骨形成抑制剤のスクリーニング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨芽細胞分化マーカー、骨形成促進剤及び骨形成抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
骨組織は、破骨細胞による骨吸収と骨芽細胞による骨形成により絶えず骨代謝され、リモデリング(再構築)されている。破骨細胞は石灰化した骨の破壊・吸収を行い、骨芽細胞はコラーゲン分泌や石灰化等の骨形成に関与する。この破骨細胞と骨芽細胞の働きのバランスが崩れることにより、骨代謝異常が発生すると考えられている。骨代謝の異常による疾患としては、骨粗鬆症、大理石骨病、骨硬化症、高カルシウム血症、骨ページェット病、腎性骨異栄養症、慢性関節リウマチ、変形性関節炎等が知られている。
【0003】
例えば、骨粗鬆症等の骨量が減少する疾患は、骨形成の促進、骨吸収の抑制、又はこれらのバランスの改善により治療できることが期待される。すなわち、骨形成は、間葉系幹細胞から骨形成を担う骨芽細胞への分化を促進すること、破骨細胞前駆細胞からの破骨細胞への分化を抑制すること等により促進されると期待される。また、大理石骨病等の骨量が増加する疾患は、骨形成の抑制、骨吸収の促進、又はこれらのバランスの改善により治療できることが期待される。すなわち、骨形成は、間葉系幹細胞から骨芽細胞への分化を抑制すること、破骨細胞前駆細胞からの破骨細胞への分化を促進すること、骨芽細胞の骨形成活性等の機能を抑制すること等により促進されると期待される。このような活性を有するホルモン、低分子物質、生理活性蛋白質等についての探索及び開発研究が、現在精力的に進められている。
【0004】
Gタンパク質共役型受容体(G protein coupled receptor,GPCR)は、7回膜貫通型ドメインを持ち、特定のリガンドが細胞外ドメインと結合すると細胞内のGタンパク質が活性化されてセカンドメッセンジャーがシグナルを伝達する。GPCRの活性を調節する生理活性物質は薬剤として病気の治療に使用されている例も多い。したがって、細胞内シグナル伝達の上流に位置するGPCRは、治療薬のターゲットとして有望である。
【0005】
骨代謝において重要な役割を担うGPCRとしては、副甲状腺ホルモン受容体(PTH1R)、カルシトニン受容体(Calcr)、プロスタグラジンE2受容体(PGE2受容体、EPs)、カルシウム受容体(CaSR)等が知られている。また、骨代謝に関与するGPCRを標的とする骨疾患の治療及び改善を図る医薬品として、エストロゲン、カルシトニン、PTH等が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2005/100987号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Yancopoulos,G.D et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1990)vol.87;p.5759−5763
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
GPR97は、1990年にマウスでpre−B細胞特異的に発現する遺伝子として報告されたオーファンGPCRである(非特許文献1)。GPR97のリガンド分子が報告されている(特許文献1)。しかしながら、GPR97が骨代謝に関与することは未だ報告されていない。
【0009】
骨芽細胞分化において機能的に重要な役割を担う分子としては、BMP等のサイトカインやRunx2、Osterix等の転写因子が知られている。したがって、骨芽細胞分化に必須な分子やこのような分子と機能的に関連する分子は、治療薬のターゲットとして有望である。しかしながら、Runx2等の骨芽細胞分化に必須な転写因子とGPCRとの機能的な関係については、副甲状腺ホルモン受容体及びPGE2受容体がRunx2の上流に位置するという報告以外にはなく、未知の部分が多く残されている。
【0010】
骨芽細胞分化において重要な役割を担う分子とGPCRとの機能的な関係を明らかにすることは、骨芽細胞分化の分子メカニズムの解明につながり、さらには、骨芽細胞分化と密接に関連した疾患のための医薬品開発に重要な手段を提供することにつながる。したがって、本発明は、骨芽細胞分化に必須の転写因子であるRunx2によって遺伝子発現が制御されるGPCRについて新たな知見を得て、この知見に基づいて骨芽細胞分化マーカー、骨形成促進剤及び骨形成抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意研究した結果、GPR97遺伝子の発現が骨芽細胞分化に必須の転写因子であるRunx2によって調節されていることを見出した。さらに、本発明者らは、GPR97遺伝子が骨芽細胞分化に関与することを見出した。かかる知見に基づき、本発明者らは本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、GPR97遺伝子の発現量を指標とする、骨芽細胞分化を検出する方法を提供する。本発明によれば、GPR97遺伝子の発現量の増加を指標として、骨芽細胞分化のステージ進行を検出することができる。すなわち、GPR97遺伝子を骨芽細胞分化のマーカーとして使用することができる。
【0013】
本発明は、GPR97発現ベクターを有効成分とする、骨形成促進剤を提供する。上記GPR97発現ベクターは、配列番号1又は3に記載の塩基配列を含有することが好ましく、また、上記GPR97発現ベクターは、配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含有することが好ましい。
【0014】
本発明者らの研究により、骨芽細胞分化にはGPR97遺伝子の発現亢進が関与しており、GPR97遺伝子の発現を阻害することにより骨芽細胞分化が抑制されることが明らかとなった。したがって、GPR97発現ベクターを有効成分とする薬剤により、骨芽細胞分化の促進効果、及び、骨形成促進効果が期待できる。
【0015】
また、本発明は、GPR97遺伝子を標的とするsiRNAを有効成分とする、骨形成抑制剤を提供する。本発明の骨形成抑制剤は、GPR97遺伝子を標的とするsiRNAが、下記(a)又は(b)のオリゴヌクレオチド対からなる二本鎖siRNAであることが好ましい。
(a)配列番号10に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド、及び、配列番号11に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド;
(b)配列番号12に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド、及び、配列番号13に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド。
【0016】
本発明によれば、GPR97遺伝子を機能阻害することにより、骨形成を担う骨芽細胞の分化を抑制することができる。したがって、骨形成を抑制することができる。
【0017】
本発明は、GPR97遺伝子の上流領域依存的な転写活性を指標とする、骨形成促進剤又は骨形成抑制剤のスクリーニング方法を提供する。また、本発明の骨形成促進剤又は骨形成抑制剤のスクリーニング方法は、(i)GPR97遺伝子の上流領域と、当該領域の3’末端側に接続したレポーター遺伝子と、を含むレポーターコンストラクトを間葉系幹細胞に遺伝子導入する工程と、(ii)上記間葉系幹細胞に骨芽細胞分化誘導刺激を与える工程と、(iii)上記間葉系幹細胞に試験化合物を投与する工程と、(iv)上記試験化合物の存在下及び非存在下におけるレポーター活性を検出する工程であって、上記レポーター活性が、GPR97遺伝子の上流領域依存的な転写活性を示す工程と、(v)上記試験化合物の存在下におけるレポーター活性が上記試験化合物の非存在下におけるレポーター活性と比べて亢進された場合に、当該試験化合物が骨形成促進剤であると判定する工程と、(vi)上記試験化合物の存在下におけるレポーター活性が上記試験化合物の非存在下におけるレポーター活性と比べて低減された場合に、当該試験化合物が骨形成抑制剤であると決定する工程と、を備えることを特徴とする。上記GPR97遺伝子の上流領域が、配列番号5に記載された塩基配列を含むことが好ましい。
【0018】
本発明は、GPR97遺伝子を機能阻害することにより、骨形成を担う骨芽細胞の分化が抑制されるという、本発明者らの新たな知見に基づくものである。また、GPR97遺伝子の上流領域を介し、骨芽細胞分化に必須の転写因子Runx2によってGPR97遺伝子の発現が調節されているという本発明者らが新たに見出した知見に基づき、GPR97遺伝子の上流領域依存的な転写活性をスクリーニングの指標とすることを可能としたものである。本発明のスクリーニング方法により、GPR97遺伝子の発現を促進的又は抑制的に制御する試験化合物を検索することにより、骨芽細胞分化を促進又は抑制する化合物、すなわち、骨形成を促進又は抑制する化合物を同定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】GPR97 mRNAの骨芽細胞分化における発現パターンを表すグラフ。(A)Osterix mRNAの発現量、及び、(B)GPR97 mRNAの発現量。
【図2】ルシフェラーゼアッセイによるGPR97プロモーター活性測定の結果を示すグラフ。レポーターベクターとして、(A)pGL4.10(ネガティブコントロール)、(B)GPR97pro_−5.7kベクター、(C)GPR97pro_−4.3kベクター、及び、(D)F2−Luc(ポジティブコントロール)を用い、Runx2の存在下又は非存在下におけるプロモーター活性を測定した。
【図3】siRNAを介したGPR97の機能阻害が骨芽細胞分化に与える影響を示すグラフ。(A)アルカリフォスファターゼ活性、(B)Osterix mRNAの発現量、及び、(C)GPR97 mRNAの発現量。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0021】
本発明で使用されるGPR97遺伝子(cDNA)は、配列番号1又は3で表わされる塩基配列と同一又は実質的に同一の塩基配列を含有する遺伝子である。本発明のGPR97遺伝子の具体例としては、配列番号1で表わされるマウス由来GPR97遺伝子(GenBankアクセッション番号:NM_173036)、又は、配列番号3で表わされるヒト由来GPR97遺伝子(GenBankアクセッション番号:NM_170776)である。配列番号1又は3で表わされる塩基配列と実質的に同一の塩基配列としては、例えば、配列番号1又は3で表わされる塩基配列と約85%以上、好ましくは約90%以上、より好ましくは約95%以上の相同性を有する塩基配列等が挙げられる。
【0022】
本発明で使用されるGPR97タンパク質は、配列番号2又は4で表わされるアミノ酸配列と同一又は実質的に同一のアミノ酸配列を含有するレセプタータンパク質である。本発明のGPR97タンパク質の具体例としては、配列番号2で表わされるマウス由来GPR97タンパク質(GenBankアクセッション番号:NP_766624)、又は、配列番号4で表わされるヒト由来GPR97タンパク質(GenBankアクセッション番号:NP_740746)である。配列番号2又は4で表わされるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列としては、例えば、配列番号2又は4で表わされるアミノ酸配列と約85%以上、好ましくは約90%以上、より好ましくは約95%以上の相同性を有するアミノ酸配列等が挙げられる。
【0023】
(骨芽細胞分化マーカー)
本実施形態に係る骨芽細胞分化を検出する方法は、GPR97遺伝子の発現量を指標とする。GPR97遺伝子を骨芽細胞分化マーカーとして用いるものであり、GPR97遺伝子の発現量の増加が、骨芽細胞分化のステージ進行と相関するという本発明の知見に基づき、骨芽細胞分化を検出する。GPR97遺伝子の発現量が対象と比べて有意に増加した場合に、骨芽細胞分化が誘導されていると判定することができる。
【0024】
ここで、遺伝子の発現量とは、遺伝子の転写産物であるmRNAの発現量及び/又はその翻訳産物であるタンパク質の発現量を指す。mRNAの発現量の測定は、当業者にとって公知の測定系を用いて行えばよく、具体的には、定量的RT−PCR法、定量的real−time RT−PCR法、定量的ノザンブロッティング法、定量的リボヌクレアーゼプロテクション法などが挙げられる。タンパク質の発現量の測定は、当業者にとって公知の測定系を用いて行えばよく、例えば、定量的ウエスタンブロッティング法、ELISA法などが挙げられる。コントロールとして、ハウスキーピング遺伝子であるGAPDHや、ベータアクチンなどのmRNA及び/又はタンパク質の発現量を用い、GPR97遺伝子等の目的の遺伝子の発現量を標準化することができる。
【0025】
GPR97 mRNAの発現量の測定に用いるプライマー及びプローブは、GPR97遺伝子を特異的に増幅できるものを用いることができ、当業者にとって周知の方法により設計することができる。GPR97 mRNAの発現量の測定に用いるプライマーとしては、配列番号6及び7で表される塩基配列を有するオリゴヌクレオチドからなるプライマーセット等が例示できるが、これらに限定されない。また、GPR97タンパク質の検出に用いる抗体、抗体断片等は当業者にとって周知の方法により調製することができる。利用可能な抗GPR97抗体としては、市販の抗体(GPR97(E−14)、sc−107583;GPR97(N−14)、sc−107586、santa cruz biotechnology社)等が好適に使用できるが、これらに限定されない。
【0026】
(骨形成促進剤)
本実施形態に係る骨形成促進剤は、GPR97発現ベクターを有効成分とする。GPR97発現ベクターは、配列番号1又は3に記載の塩基配列又は実質的に同一の塩基配列を含有する核酸を有することが好ましく、また、GPR97発現ベクターは、配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列又は実質的に同一のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含有する核酸を有することが好ましい。
【0027】
発現ベクターは、DNAまたはRNAウイルスをもとに作製できる。MoMLVベクター、ヘルペスウイルスベクター、アデノウイルスベクター、AAVベクター、HIVベクター、SIVベクター、センダイウイルスベクター等のいかなるウイルスベクターであっても良い。また、ウイルスベクターの構成タンパク質群のうち1つ以上を、異種ウイルスの構成タンパク質に置換する、もしくは、遺伝子情報を構成する塩基配列のうち一部を異種ウイルスの塩基配列に置換する、シュードタイプ型のウイルスベクターも本発明に使用できる。例えば、HIVの外皮タンパク質であるEnvタンパク質を、小水痘性口内炎ウイルス(Vesicularstomatitis Virus:VSV)の外皮タンパク質であるVSV−Gタンパク質に置換したシュードタイプウイルスベクターが挙げられる。さらに、治療効果を持つウイルスであれば、ヒト以外の宿主域を持つウイルスもウイルスベクターとして使用可能である。ウイルス以外のベクターとしてはリン酸カルシウムと核酸の複合体、リポソーム、カチオン脂質複合体、センダイウイルスリポソーム、ポリカチオンを主鎖とする高分子キャリアー等が使用可能である。
【0028】
さらに、ベクター中の遺伝子の発現のために用いられる発現カセットは、標的細胞内で遺伝子を発現させることができるものであれば、特に制限されることなく用いることができる。当業者はそのような発現カセットを容易に選択することができる。好ましくは、動物由来の細胞内で遺伝子発現が可能な発現カセットであり、より好ましくは、哺乳類由来の細胞内で遺伝子発現が可能な発現カセットであり、特に好ましくは、ヒト由来の細胞内で遺伝子発現が可能な発現カセットである。発現カセットに用いられる遺伝子プロモーターは、例えばアデノウイルス、サイトメガロウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、シミアンウイルス40、ラウス肉腫ウイルス、単純ヘルペスウイルス、マウス白血病ウイルス、シンビスウイルス、A型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、パピローマウイルス、ヒトT細胞白血病ウイルス、インフルエンザウイルス、日本脳炎ウイルス、JCウイルス、パルボウイルスB19、ポリオウイルス等のウイルス由来のプロモーター、アルブミン、SRα、熱ショック蛋白、エロンゲーション因子等の哺乳類由来のプロモーター、CAGプロモーター等のキメラ型プロモーター、テトラサイクリン、ステロイド等によって発現が誘導されるプロモーターを含む。
【0029】
好適な対象としては、ヒト及び非ヒト哺乳類が挙げられ、骨形成不全の対象又はその恐れのある対象の骨形成促進を意図した予防・治療に用いられる。検体(標的細胞)は、骨芽細胞への分化能を有する間葉系幹細胞であることが好ましい。
【0030】
(骨形成抑制剤)
本実施形態に係る骨形成抑制剤は、GPR97遺伝子を標的とするsiRNAを有効成分とする。骨形成抑制剤は、GPR97遺伝子を標的とするsiRNAが、下記(a)又は(b)のオリゴヌクレオチド対からなる二本鎖siRNAであることが好ましい。
(a)配列番号10に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド、及び、配列番号11に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド;
(b)配列番号12に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド、及び、配列番号13に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド。
【0031】
好適な対象としては、ヒト及び非ヒト哺乳類が挙げられ、骨形成不全の対象又はその恐れのある対象の骨形成抑制を意図した予防・治療に用いられる。検体(標的細胞)は、骨芽細胞への分化能を有する間葉系幹細胞であることが好ましい。
【0032】
ここで、siRNAとは、short interfering RNAの略称であり、人工的に化学合成されるかまたは生化学的に合成されたものか、あるいは生物体内で合成されたものか、あるいは約40塩基以上の二本鎖RNAが体内で分解されてできた10塩基対以上の二本鎖RNAを指す。siRNAの長さは、一般的には10〜30塩基、好ましくは約15〜25塩基、より好ましくは19〜23塩基程度である。siRNAとして、5'−リン酸、3'−OHの構造を有しており、3'末端は約2塩基突出しているオリゴヌクレオチド対を用いることができる。
【0033】
siRNAを細胞に投与すると、RNAi効果によりGPR97の発現を特異的に抑制することができる。すなわち、siRNAが細胞に導入されると、このsiRNAに特異的なタンパク質が結合して、RISC(RNA−induced−silencing−complex)が形成される。この複合体は、siRNAと同じ配列を有するmRNAを認識して結合し、RNaseIII様の酵素活性によってsiRNAの中央部でmRNAを切断する。上記のように、siRNAは、siRNAと相同な配列を有するmRNAを分解することにより、その標的となる遺伝子(本発明においては、GPR97遺伝子)の発現を抑制することができる。このような現象をRNA干渉(RNAi)という。RNAi現象は、線虫、昆虫、原虫、ヒドラ、植物、脊椎動物(哺乳動物を含む)において見られる現象である。
【0034】
また、別の実施形態においては、上記以外のGPR97に特異的なsiRNAを用いてもよい。さらに、上記siRNAを生成するようなshRNA(short hairpin RNA)、dsRNA(double strand RNA)又はそれらを発現できる発現ベクターを用いることができる。shRNA、dsRNAまたはそれらの発現ベクターを細胞に投与すると、細胞内でsiRNAが生成する。RNA発現ベクターのプロモーターには、U6RNAまたはH1RNAの転写系であるRNAポリメラーゼIII(PolIII)のプロモーターを用いることができる。
【0035】
さらに、別の実施形態においては、上記siRNAは、RNA、RNA:DNAハイブリッド、又は、修飾された核酸(RNA、DNA)であってもよい。修飾された核酸の具体例としては、核酸の硫黄誘導体やチオホスフェート誘導体、さらにはポリヌクレオチドアミドやオリゴヌクレオチドアミドの分解に抵抗性を有するもの等が挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0036】
本発明の骨形成促進剤及び骨形成抑制剤の製剤化にあたっては、常法に従い、必要に応じて薬学的に許容される担体を添加することができる。例えば、界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等が挙げられるが、これらに制限されず、その他常用の担体を適宜使用することができる。具体的には、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を挙げることができる。
【0037】
本発明の骨形成促進剤及び骨形成抑制剤の剤型の種類としては、例えば、経口剤として錠剤、粉末剤、丸剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、軟・硬カプセル剤、フィルムコーティング剤、ペレット剤、舌下剤、ペースト剤等、非経口剤として注射剤、坐剤、経皮剤、軟膏剤、硬膏剤、外用液剤等が挙げられ、当業者においては投与経路や投与対象等に応じた最適の剤型を選ぶことができる。有効成分としての上記骨形成促進剤及び骨形成抑制剤は、製剤中0.1から99.9重量%含有することができる。
【0038】
本発明の骨形成促進剤及び骨形成抑制剤の有効成分の投与量は、投与対象、対象臓器、症状、投与方法などにより差はあるが、経口投与の場合、一般的に例えば、患者(60kgとして)に対して一日につき約0.1mg〜1,000mg、好ましくは約1.0〜100mg、より好ましくは約1.0〜50mgである。非経口的に投与する場合は、その一回投与量は投与対象、対象臓器、症状、投与方法などによっても異なるが、例えば、注射剤の形では通常例えば、患者(60kgに対して)、一日につき約0.01から30mg程度、好ましくは約0.1から20mg程度、より好ましくは約0.1〜10mg程度を静脈注射により投与するのが好都合である。しかしながら、最終的には、剤型の種類、投与方法、患者の年齢や体重、患者の症状等を考慮して、医師の判断により適宜決定することができる。
【0039】
(骨形成促進剤又は骨形成抑制剤のスクリーニング方法)
本実施形態に係る骨形成促進剤又は骨形成抑制剤のスクリーニング方法は、GPR97遺伝子の上流領域依存的な転写活性を指標とする。また、本実施形態に係る骨形成抑制剤のスクリーニング方法は、遺伝子導入工程(i)、骨芽細胞分化誘導工程(ii)、試験化合物投与工程(iii)、レポーター活性検出工程(iv)、判定工程(v)及び(vi)を備えることを特徴とする。以下に、各工程について説明する。
【0040】
本実施形態に係るスクリーニング方法の遺伝子導入工程(i)は、レポーターコンストラクトを間葉系幹細胞に遺伝子導入する工程である。レポーターコンストラクトは、GPR97遺伝子の上流領域(プロモーター)と、当該上流領域の3’末端側に接続したレポーター遺伝子と、を含む。すなわち、レポーター遺伝子がGPR97遺伝子の上流領域(プロモーター)の制御下で発現し得るレポーターコンストラクトを用いることができる。GPR97遺伝子の上流領域は、GPR97遺伝子の上流領域−4.3kbp〜−5.7kbp(配列番号5に記載された塩基配列)を含むことが好ましく、例えば、GPR97遺伝子の転写開始点〜−5.7kbpの領域(配列番号8に記載された塩基配列)を用いることができる。また、GPR97遺伝子の上流領域−4.3kbp〜−5.7kbpを欠いた、GPR97遺伝子の転写開始点〜−4.3kbpの領域(配列番号9に記載された塩基配列)を、コントロールとして用いることができる。
【0041】
レポーター遺伝子としては、ルシフェラーゼ、GFP、β−ガラクトシダーゼ等の公知のレポータータンパク質をコードする遺伝子を用いることができる。遺伝子導入の方法としては、公知の方法、例えば、リポフェクション、エレクトロポレーション、超音波による導入、アデノウイルス等を用いることができる。
【0042】
間葉系幹細胞とは、骨芽細胞への分化能を有する細胞である。間葉系幹細胞の入手方法は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、個体の骨髄等から単離することにより得ることもできるし、又は、既にクローン化された間葉系幹細胞として各種機関から入手することもできる。このような既にクローン化された間葉系幹細胞としては、例えば、マウスの細胞として、マウスST2細胞、マウスNRG細胞等が挙げられる(それぞれ独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンター(BRC)から入手可能である)。
【0043】
骨芽細胞分化誘導工程(ii)は、工程(i)において遺伝子導入した間葉系幹細胞の骨芽細胞への分化を誘導する工程であり、具体的には、BMP2、BMP4等の骨芽細胞分化の誘導活性を有するサイトカインを培地中に投与する、又は、これらのサイトカインを含む培地により培地交換することにより間葉系幹細胞の骨芽細胞分化を誘導することができる。骨芽細胞分化誘導に要する期間は、用いる細胞や誘導の強度により変化し得るが、公知の骨芽細胞分化マーカー(Osterix、RUNX2、アルカリフォスファターゼ活性、オステオポンチン、オステオカルシン等)、又は、本発明のGPR97遺伝子の発現量を指標とした骨芽細胞分化の検出方法を用いることにより、適宜、骨芽細胞分化のステージや試験化合物の投与タイミングを決定することができる。
【0044】
試験化合物投与工程(iii)は、工程(ii)において骨芽細胞分化を誘導した間葉系幹細胞に試験化合物を投与する工程である。試験化合物としては、例えば、ペプチド、タンパク質、抗体、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液、血漿等が用いられ、これら化合物は新規な化合物であってもよいし、公知の化合物であってもよい。試験化合物は塩を形成していてもよく、試験化合物の塩としては、生理学的に許容される金属塩、アンモニウム塩、有機塩基との塩、無機酸との塩、有機酸との塩、塩基性または酸性アミノ酸との塩等が挙げられる。試験化合物の投与量、投与タイミング、投与期間等については、適宜、設定することができる。試験化合物の投与タイミングとしては、骨芽細胞分化誘導と同時、骨芽細胞分化誘導処理終了後、骨芽細胞分化誘導から数時間後〜数日後(1〜7日程度)であってもよい。また、次のレポーター活性検出工程(iv)の数時間前〜数日前(1〜3日程度)に試験化合物を投与することが好ましい。
【0045】
レポーター活性検出工程(iv)は、試験化合物の存在下及び非存在下におけるレポーター活性を検出する工程である。レポーター活性は、GPR97遺伝子の上流領域依存的な転写活性を示す。レポーター活性検出のタイミングとしては、GPR97遺伝子の発現が亢進している期間(試験化合物の非存在下)、例えば、骨芽細胞分化誘導から数1日後〜8日後とすることができる。
【0046】
判定工程(v)及び(vi)は、試験化合物の存在下及び非存在下におけるレポーター活性の変化に基づいて、試験化合物を評価する工程であり、(v)試験化合物の存在下におけるレポーター活性が前記試験化合物の非存在下におけるレポーター活性と比べて亢進された場合に、当該試験化合物が骨形成促進剤であると判定する工程と、(vi)上記試験化合物の存在下におけるレポーター活性が上記試験化合物の非存在下におけるレポーター活性と比べて低減された場合に、当該試験化合物が骨形成抑制剤であると決定する工程である。
【0047】
本発明のスクリーニング方法を用いて得られる化合物は、本発明のGPR97の発現量を変化させる作用を有する化合物であり、具体的には、GPR97遺伝子の発現を抑制的に制御する化合物は、骨芽細胞分化を抑制する化合物及び/又は骨形成を抑制する化合物である。GPR97遺伝子の発現を促進的に制御する化合物は、骨芽細胞分化を促進する化合物及び/又は骨形成を促進する化合物である。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
(実施例1:GPR97遺伝子上流配列におけるRunx2結合部位の同定)
マウス骨髄由来の間葉系幹細胞であるST2細胞を用いて、クロマチン免疫沈降法(ChIP)とDNA chipを組み合わせたChIP on chip解析により、骨芽細胞分化に必須の転写因子Runx2が結合する遺伝子領域を検索した。具体的には、以下の方法を用いた。
【0050】
BMP4処理による骨芽細胞分化誘導を開始してから6日目のST2細胞をPBSで3回洗浄した後、CELL lysis buffer(10mM Tris−HCl,pH7.5,10mM NaCl,0.5% NP−40)を加え、セルスクレイパーで細胞を回収した。オートピペッターで細胞をピッペティングした後、終濃度1%となるように37% HCHOを加え、室温10分間攪拌した。PBSで3回洗浄後、SDS lysis buffer(50mM Tris−HCl,pH8.0,10mM EDTA,1% SDS,protease inhibitor:50×complete(Roche#1873580))を加え、超音波でクロマチンを破壊した。遠心後、上清を回収し、ChIP Dilution Buffer(0.01% SDS,1.1% TritonX−100,1.2mM EDTA,16.7mM Tris−HCl,pH8.1,167mM NaCl)で10倍希釈した。
【0051】
得られたサンプルにproteinG−Sepharose beads(50% slurry)を加え、30分、4℃、プレインキュベーションした後、抗Runx2抗体(Anti−Runx2/Cbfa1,製品番号:D130−3,Medical&Biological Laboratories社)を結合させたproteinG−Sepharose beads(50% slurry)を加え、4℃で一晩インキュベーションした。ビーズをIP dilution bufferで1回、wash buffer1(0.1% SDS,1% TritonX−100,2mM EDTA,20mM Tris−HCl,pH8.1,150mM NaCl)で2回、wash buffer2(0.1%SDS,1%TritonX−100,2mM EDTA,20mM Tris−HCl,pH8.1,500mM NaCl)で2回、wash buffer3(0.25M LiCl,1% IGEPAL−CA630,1% デオキシコール酸ナトリウム塩,1mM EDTA,10mM Tris,pH8.1)で1回、TE bufferで1回洗浄した。その後、ビーズをElution Buffer(1% SDS,0.1M NaHCO,プロテアーゼ)に懸濁して、42℃、2時間のインキュベーション後、更に65℃で一晩インキュベーションした。サンプルを遠心後、上清のみ回収し、QIA quick PCR Purification Kit(GIAGEN)を用いてRunx2と共に免疫沈降したDNAを精製した。
【0052】
精製DNAの濃縮率を定量RT−PCR(ChIP−qPCR)で確認した。In vitro transcription法によりDNAを増幅し、affymetrix社のMouse Tiling 2.0R Array(品番:900852)へのハイブリダイゼーションに用いた。
【0053】
(結果)
上記のChIP on chip解析により、骨芽細胞方向への分化誘導を開始してから6日目のST2細胞において、GPR97遺伝子の上流−4.3kbp〜−5.7kbpの領域(配列番号5)にRunx2が結合することが判明した。
【0054】
(実施例2:GPR97 mRNAの骨芽細胞分化における発現解析)
次に、マウスGPR97 mRNAの骨芽細胞分化における発現レベルを以下の方法により調べた。mRNAの発現量の定量にはMx3000P(STRATAGENE社)を用いた。発現量定量用のプライマーセットとして、mGPR97_exon8_S:5’−acagactctcactcgcatct−3’(配列番号6)、及び、mGPR97_exon9_AS:5’−gagccatgtggatcttagg−3’(配列番号7)を使用した。これらのプライマーの配列はマウスGPR97 cDNA配列(配列番号1)をもとに設計した。
【0055】
鋳型cDNAとして、ST2細胞をBMP4処理有りで8日間培養し、0、1、2、4、6、8日目にRNeasy(QIAGEN社)を用いて抽出したRNAから合成したものを用いた。なお、コントロールとしてBMP4処理無しで培養したST2細胞を用いた。定量PCRの試薬はPower SYBR Green PCR Master Mix(Applied Biosystems社)を使用した。PCR反応液は以下の組成のものを用いた。反応条件は95℃で10分の後、95℃、30秒、55℃、1分、72℃、30秒のサイクルを40回繰り返して行った。
【0056】
<PCR反応液>
Power SYBRGreen PCR Master Mix
12.5μl
滅菌水 5μl
1μM each Primers 2.5μl
cDNA 5μl
total 25μl
【0057】
(結果)
結果を図1に示す。図1は、GPR97 mRNAの骨芽細胞分化における発現パターンを表すグラフである。GPR97 mRNAの発現量は、ST2細胞の骨芽細胞分化に伴い増加することが明らかとなった。したがって、骨芽細胞分化マーカーとしてGPR97遺伝子を使用できることが分かった。
【0058】
(実施例3:Runx2によるGPR97遺伝子上流を介した転写解析)
骨芽細胞分化に必須の転写因子Runx2が、GPR97の転写を活性化し得るか否かを調べるために、GPR97遺伝子上流配列を用いたプロモーター解析をpromegaのDual luciferase assay kitを使用して、以下の手法により行った。
【0059】
ルシフェラーゼレポーターベクターには、以下の4種類を用いて転写アッセイを行った。マウスGPR97遺伝子上流−5.7kbp(配列番号8)、又は−4.3kbp(配列番号9)をpGL4.10(promega社)にクローニングしたルシフェラーゼレポーターベクターを構築し、それぞれGPR97pro_−5.7kベクター及びGPR97pro_−4.3kベクターと命名した。ネガティブコントロールとしてpGL4.10ベクター、ポジティブコントロールとして、Runx2により転写活性化されることが知られているBone gamma−carboxyglutamic acid protein(Osteocalcin)遺伝子の上流領域436bp(配列番号14)をpGL4.10にクローニングしたベクター(F2−Luc)を用いた。また、内部標準としてウミシイタケルシフェラーゼ発現ベクターpGL4.74を使用した。発現ベクターとしては、ヒトRunx2蛋白質発現ベクター、ヒトPPARγ1発現ベクター、及び、ネガティブコントロールとして空の発現ベクター(pcDNA3.1、Invitrogen社)を用いた。
【0060】
CV1細胞への遺伝子導入
遺伝子導入の前日にアフリカミドリザル腎臓由来のCV1細胞を7×10細胞/wellずつ播種した。培地はDMEM(ナカライ)に10%FBSと1%ペニシリン/ストレプトマイシンを添加したものを用いた。種々の組み合わせのルシフェラーゼレポーターベクターと発現ベクターをCV1細胞に導入した。各プラスミドを100ng/μlに希釈し、各発現ベクターを0.4μgと各レポーターベクターを0.4μg、更にpGL4.74を0.04μgの割合で50μlのOPTI−MEM(Invitorgen)に添加した。この溶液に、50μlのOPTI−MEMに2μlのlipofectamine2000(promega社)を添加したものを等量混合して、室温で20分間インキュベートした後に、106μl/wellずつCV1細胞の培養液に添加し、遺伝子導入を行った。37℃、5%CO下で2晩培養した。
【0061】
ルシフェラーゼアッセイ
2晩培養した細胞をPBSで2回洗浄し、1×PBを100μl加え、室温で20分間インキュベートした。細胞溶解液20μlを96穴プレートへ移し、プレートリーダー(ARVO)でルシフェラーゼ活性を測定した。
【0062】
(結果)
結果を図2に示す。図2は、ルシフェラーゼアッセイによるGPR97プロモーター活性測定の結果を示すグラフである。実施例1にて示されたRunx2の結合領域(GPR97遺伝子の上流−4.3kbp〜−5.7kbpの領域:配列番号5)を含むGPR97上流−5.7kbpを介して、Runx2による転写活性化が観察された。一方、Runx2の結合領域を欠失させたGPR97遺伝子上流−4.3kbpを用いた場合には、Runx2による転写活性化は観察されなかった。したがって、GPR97遺伝子の上流−4.3kbp〜−5.7kbpのRunx2結合領域依存的に、Runx2による転写調節を受けていることが分かった。また、Runx2が活性化される骨芽細胞分化段階において、GPR97の発現が上昇するという実施例2の知見を考え併せると、GPR97が骨芽細胞分化においてRunx2による遺伝子発現制御を受けていることが強く示唆された。
【0063】
(実施例4:GPR97特異的なsiRNAを用いた機能阻害実験)
GPR97特異的なsiRNAを用いてGPR97の機能阻害が骨芽細胞分化に与える影響を以下の手法により評価した。GPR97に特異的な2種類のStealth select RNAi(Invitrogen社)を購入した。siRNAの配列は以下の通りである。
GPR97#52:5’−gggccugccuguucuuguaguuauu−3’(センス鎖、配列番号10)及び5’−aauaacuacaagaacaggcaggccc−3’(アンチセンス鎖、配列番号11)
GPR97#54:5’−gguuccagaaagagccugcucuuua−3’(センス鎖、配列番号12)及び5’−uaaagagcaggcucuuucuggaacc−3’(アンチセンス鎖、配列番号13)
なお、ネガティブコントロールとしてNegative Universal Control Stealth RNAi Med#2(Invitrogen社)を用いた。
【0064】
ST2細胞へのsiRNA導入
マウス骨髄由来のST2細胞にGPR97特異的なsiRNA(GPR97#52又はGPR97#54)を導入した。遺伝子導入直前にST2細胞を1×トリプシン処理し、2〜3×10細胞/mlに調製した。5μMに希釈したsiRNA 4.8μlをOPTI−MEMに添加した。次に、この溶液をlipofectamine2000 4μlを等量のOPTI−MEMに添加した溶液と混合し、室温で20分置いた後、新しい24穴プレートに添加し、その上から2〜3×10細胞/mlのST2細胞を1ml添加した。6時間後、細胞の培地を100ng/μlのBMP4を添加したRPMI1640/10%FBSに交換し、4日間培養した(骨芽細胞分化誘導)。4日後、ST2細胞からRNeasyを用いてRNAを抽出し、cDNAを合成してGPR97及びOsterixのqRT−PCRを行った。また、同時に骨形成の指標であるアルカリフォスファターゼ活性の測定も行った。
【0065】
アルカリフォスファターゼ活性測定
ST2細胞を10%中性緩衝ホルマリンで、室温、20分間固定し、更に、アセトン:エタノール(1:1)混合液(−20℃)を加え室温1分間固定した。その後、PBSで5回洗浄後、P−Nitrophenyl Phosphate Liquid Substrate System(SIGMA社)を添加し、遮光して室温で2分間インキュベートした。反応液を1.5mlチューブに移し、反応を停止させるために0.3N NaOHを加え、405nmの吸光度を測定した。
【0066】
(結果)
結果を図3に示す。図3は、siRNAを介したGPR97の機能阻害が骨芽細胞分化に与える影響を示すグラフである。ST2細胞にGPR97#52又はGPR97#54を導入し、GPR97遺伝子の発現を抑制した結果、骨芽細胞分化マーカー遺伝子であるOsterixの発現量が減少した。したがって、siRNAを介したGPR97の機能阻害により、骨芽細胞方向への分化が抑制されることが明らかとなった。このことは、GPR97が骨芽細胞分化に対して促進的に作用することを示唆している。またこの結果は、実施例2において得られた骨芽細胞分化マーカーとしてGPR97遺伝子を使用できるという知見を支持するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
GPR97遺伝子の発現量を指標とする、骨芽細胞分化を検出する方法。
【請求項2】
GPR97発現ベクターを有効成分とする、骨形成促進剤。
【請求項3】
前記GPR97発現ベクターが、配列番号1又は3に記載の塩基配列を含有する核酸を有する、請求項2に記載の骨形成促進剤。
【請求項4】
前記GPR97発現ベクターが、配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含有する核酸を有する、請求項2に記載の骨形成促進剤。
【請求項5】
GPR97遺伝子を標的とするsiRNAを有効成分とする、骨形成抑制剤。
【請求項6】
GPR97遺伝子を標的とするsiRNAが、下記(a)又は(b)のオリゴヌクレオチド対からなる二本鎖siRNAである請求項5に記載の骨形成抑制剤。
(a)配列番号10に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド、及び、配列番号11に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド;
(b)配列番号12に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド、及び、配列番号13に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド
【請求項7】
GPR97遺伝子上流領域依存的な転写活性を指標とする、骨形成促進剤又は骨形成抑制剤のスクリーニング方法。
【請求項8】
(i)GPR97遺伝子の上流領域と、当該上流領域の3’末端側に接続したレポーター遺伝子と、を含むレポーターコンストラクトを間葉系幹細胞に遺伝子導入する工程と、
(ii)前記間葉系幹細胞に骨芽細胞分化誘導刺激を与える工程と、
(iii)前記間葉系幹細胞に試験化合物を投与する工程と、
(iv)前記試験化合物の存在下及び非存在下におけるレポーター活性を検出する工程であって、前記レポーター活性が、GPR97遺伝子の上流領域依存的な転写活性を示す工程と、
(v)前記試験化合物の存在下におけるレポーター活性が前記試験化合物の非存在下におけるレポーター活性と比べて亢進された場合に、当該試験化合物が骨形成促進剤であると判定する工程と、
(vi)前記試験化合物の存在下におけるレポーター活性が前記試験化合物の非存在下におけるレポーター活性と比べて低減された場合に、当該試験化合物が骨形成抑制剤であると判定する工程と、
を備える、請求項7に記載のスクリーニング方法。
【請求項9】
GPR97遺伝子の上流領域が、配列番号5に記載された塩基配列を含む、請求項7又は8に記載のスクリーニング方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−213585(P2010−213585A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61208(P2009−61208)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(504013775)学校法人 埼玉医科大学 (39)
【Fターム(参考)】