説明

骨親和性インプラント

【課題】骨に挿入することができ、大幅に改善された骨統合特性を有する骨親和性インプラント及びその製造方法の提供。
【解決手段】本インプラントは、チタン又はチタン合金からなり、骨への埋め込みに適している。インプラントは、少なくとも気密かつ液密なカバーでシールされている、粗化され、ヒドロキシル化された親水性表面を設けられている。該カバーの内部には、好ましくは窒素、酸素及び/又は不活性ガスからなる雰囲気が設けられている、及び/又は、場合によっては添加物を含む精製水で少なくとも部分的に満たされているインプラント及びインプラントを製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨に挿入することができ、大幅に改善された骨統合特性を有する骨親和性インプラント及びその製造方法に関する。
【0002】
骨に挿入することができるインプラント、たとえば人工股関節もしくは膝関節又は人工歯を構築するために顎にねじ込まれるピンそのものは公知である。このようなインプラントは、ニオブ、タンタル又は他の組織適合性の金属添加物をも含むことができるチタン又はチタンベースの合金、たとえばチタン/ジルコニウム合金からなることが好ましい。このようなインプラントの主要特性は、その骨統合時間、すなわち、骨様物質がインプラント表面と永久的かつ十分に強く結合、すなわち統合するのに要する時間である。
【0003】
インプラントがどれほど強く骨に固定されているかは、機械的計測によって、すなわち、骨に固定されたインプラントを引くかねじるかして固定状態から外す、すなわち、インプラント表面とそれに結合した骨様物質との付着を断つのに必要である力(たとえば、引張り力、圧縮力、せん断力又はねじり力)を計測することによって測定することができる。そのような計測方法そのものは公知であり、たとえばBrunski, Clinical Materials, vol. 10, 1992, pp. 153-201に記載されている。計測により、平滑な表面構造を有するチタンインプラントは十分に骨に固定されないが、粗化された表面を有するインプラントは、骨−インプラント結合において引張り強さの点で顕著な改善を生むことがわかった。
【0004】
したがって、EP0388575は、まず、サンドブラスティングによってインプラント表面に巨視的粗さを形成し、次いで、酸浴での処理によってこれを微視的粗さで覆うことを発案している。たとえば、インプラント表面を、サンドブラスティングによって粗化したのち、エッチング剤、たとえばフッ化水素酸又は塩酸/硫酸混合物で処理することができる。そして、このようにして所定の粗さを付与された表面を水及び溶剤で洗浄し、滅菌処理に付す。
【0005】
EP0606566は、インプラント表面を、真空下、まず不活性プラズマガスで処理して表面を洗浄し、次いで、酸化性プラズマガス又は熱酸化及び他の該当する処理工程によって処理したのち、インプラントをガラスアンプル中にシールし、滅菌することを発案している。これらの工程すべては真空下で実施されることが好ましい。前記方法は表面酸化物を成長させる。清浄であっても、この表面は、すぐに汚染されるか、空気中で広く化学的に不活性化される。
【0006】
チタン及びチタンベースの合金の表面の化学的状態は複雑である。チタン金属の表面は空気及び水の中で自然酸化し、表面上、すなわち最外原子層で水と反応してヒドロキシル基を形成すると推測される。ヒドロキシル基を含むこの表面は、文献中で「ヒドロキシル化された」表面と呼ばれている。H. P. Boehm, Acidic and Basic Properties of Hydroxylated Metal Oxide Surfaces, Discussions Faraday Society, vol. 52, 1971, pp. 264-275を参照。たとえば化学的改質のせいでヒドロキシル基が自由に利用できない金属表面は、本発明に関して「ヒドロキシル化された」表面ではない。
【0007】
本発明に関して、金属インプラント表面は、体液にとって自由にアクセス可能であり、異物、たとえば疎水性作用を有する物質で覆われていないならば、「親水性」であるといわれる。たとえば、通常、非精製空気中には種々の易揮発性の炭化水素が存在する。これらがヒドロキシル化された親水性チタン金属表面によって薄層中に速やかに吸着されると、そのような表面はもはや親水性ではなくなる。同様に、そのようなヒドロキシル化された親水性表面は、表面上に存在するヒドロキシル基が、たとえば、空気中に存在する二酸化炭素又は洗浄工程によって導入される有機溶剤、たとえばメタノールもしくはアセトンと結びつき又は化学反応するならば、疎水性になる。
【0008】
今、チタン又はチタン合金のヒドロキシル化された親水性表面が、生物学的性質を有するか、生物学的に活性であることがわかった。この表面は、疑似生物学的活性であるということもできる。以下、「生物学的に活性」を使用する。驚くべきことに、たとえばインプラントの形態のそのような生物学的に活性な表面が、ヒドロキシル化状態及び/又は親水性ではない同等な表面よりも大幅に速やかに骨様物質と癒合して強い結合を形成することがわかった。さらに、そのような金属表面の生物学的活性が、二酸化炭素又は揮発性炭化水素の存在で、すなわち、たとえば乾燥工程での通常の空気との接触で、又はアルコールでの洗浄で、非常に速やかに失われることがわかった。また、前記ヒドロキシル化された親水性表面を以下に記す本発明にしたがって処理するならば、この表面の生物学的活性をおおむね変化のないまま維持できることがわかった。このようにして、インプラント表面の生物学的活性が埋め込みの時点まで維持される。
【0009】
本発明は請求の範囲で定義される。本発明は、特に、改善された骨統合特性又は改善された骨統合を有し、チタン又はチタン合金からなり、骨への埋め込みに適した骨親和性インプラントであって、粗化され、ヒドロキシル化された親水性表面、ひいては生物学的に活性な表面を有することを特徴とするインプラントに関する。
【0010】
この表面は、気密かつ液密なカバーでシールされることが好ましく、カバーの内部には、インプラント表面の生物学的活性を損なうおそれのある化合物は存在しない。
【0011】
好ましくは、カバーの内部は、場合によっては添加物を含む純水で少なくとも部分的に満たされており、存在する水の量は、粗化されたインプラント表面の加湿又は湿潤を保証するのに少なくとも十分である。カバー内部の残りの容積は、インプラント表面に対して不活性のガス、たとえば酸素、窒素、貴ガス又はそれらのガスの混合物で満たすことができる。
【0012】
本発明はさらに、本発明のインプラントを製造する方法に関する。
【0013】
本発明のインプラントは、ニオブ、タンタル又は他の組織適合性金属添加物をも含むことができる、好ましくはチタン合金、特に好ましくはチタン/ジルコニウム合金からなる。これらのインプラントは、人工股関節もしくは膝関節又は人工歯を構築するために顎にねじ込まれるピンとして使用されることが好ましい。このようなインプラント、それらの性質及びそれらを製造するために使用される金属材料そのものは公知であり、たとえばJ. Black, G. Hastings, Handbook of Biomaterials Properties, pages 135-200(Chapman & Hall出版、London, 1998)に記載されている。
【0014】
たとえば歯科用インプラントの骨への構造的及び機能的固定は通常、巨視的粗さ、たとえばスクリューねじもしくは表面の凹み及び/又は場合によっては微視的粗さを適用することによって達成される。微視的粗さは、プラズマ技術によるアディティブ法又は化学エッチングによるサブトラクティブ法によって表面に適用される。インプラントがどれほど強く骨に固定されているかは、本文の冒頭ですでに記載したように、機械的計測によって測定することができる。多数の研究が、骨へのインプラントの十分な固定がインプラント表面の性質、特に粗さに大きく依存することを示している。本発明の生物学的に活性なインプラント表面の使用がインプラント表面の物理的性質からおおむね独立していることは注目に値する。本発明によると、ヒドロキシル化された親水性表面の生物学的作用が実質的に物理的な表面粗さの作用に相乗的に加わり、その結果、骨統合が大幅に改善する。本発明にしたがって、物理的により大きな表面が生物学的に活性な表面の利用性を増す程度まで、二つの効果が連結される。本発明は、骨統合が、表面粗さそのものだけでなく、表面の化学的性質によっても決定的に影響されることを示す。
【0015】
(埋め込みに先立ち)臨床目的に使用されるインプラント表面のXPS(X線電子分光法)及びオージェ電子分光法(AES)による分析は、その表面が炭素で汚染されていることを示した。湿潤実験が、70°以上(≧70°)の水濡れ角、すなわち、疎水特性の撥水面を示した。他の研究は、そのような表面が生物学的に不活性であることを示した。驚くことに、たとえば酸エッチングの直後に得られるようなヒドロキシル化された親水性表面が、表面と接触する水滴が前進するときには50°未満(<50°)であり、水滴が後退しているときには20°未満(<20°)である水濡れ角を有し、注目しうる生物学的活性を有することがわかった。さらなる洗浄工程及び滅菌工程が省かれ、インプラント表面と空気との接触が回避されるならば、前記活性は実質的に維持される。
【0016】
本発明は、チタン又はチタン合金でできたインプラントの、骨統合に関する生物学的作用に基づく。前記インプラントは、ヒドロキシル化された親水性表面と、同時に、その粗さのおかげで、拡大された活性表面とを有する。この生物学的に活性な表面は、たとえば、機械加工及び構造化、ショットピーニング、サンドブラスティングならびにその後の化学的処理、たとえば酸を用いるエッチングによって、又は電気化学的(電解)処理によって、又はそのような処理の組み合わせによって調製することができる。
【0017】
本発明の表面は、たとえば、表面に所望の粗さ又は質感を提供し、すでにヒドロキシ化され、親水性であるならば、表面を得られた状態に維持するか、粗化され、処理された表面を別の処理工程でヒドロキシル化された親水性状態に転換することによって調製することができる。特に、インプラントは、インプラント表面をショットピーニングもしくはサンドブラスティングする、及び/又はプラズマ技術を使用してそれを粗化したのち、機械的に粗化された表面を電解法又は化学的方法によって処理して、ヒドロキシル化された親水性表面を形成することによって製造することができる。インプラントを、好ましくは無機酸又は無機酸の混合物、特に好ましくはフッ化水素酸、塩酸、硫酸、硝酸又はそのような酸の混合物でエッチングするか、表面を、重量比約1:1:5の塩酸、過酸化水素及び水で活性化する。好ましい手順は、
インプラントをショットピーニングしたのち、室温で希釈フッ化水素酸でエッチングすること、又は
インプラントを、たとえば、平均粒径0.1〜0.25mm又は0.25〜0.5mmの酸化アルミニウム粒子でサンドブラスティングしたのち、高温で塩酸/硫酸混合物で処理し、CO2を含まない純粋な蒸留水で洗浄すること、又は
インプラントを、粗粒子、たとえば上記で定義した粒子の混合物でサンドブラスティングしたのち、塩酸/硝酸混合物で処理し、CO2を含まない純粋な蒸留水で洗浄すること、又は
インプラントを、塩酸、過酸化水素及び水の重量比約1:1:5の混合物で処理し、CO2を含まない純粋な蒸留水で洗浄すること、又は
インプラントを、プラズマ技術によって粗化したのち、塩酸、過酸化水素及び水の重量比約1:1:5の混合物中でヒドロキシル化し、CO2を含まない純粋な蒸留水で洗浄すること、又は
場合によっては表面の機械的粗化ののち、インプラントを電解法によって処理したのち、CO2を含まない純粋な蒸留水で洗浄することである。
【0018】
どの場合であれ、本発明によると、インプラントは、さらなる後処理を受けない。すなわち、アルコール、アセトン又は他の有機溶剤で処理されない。特に、前記純水は、二酸化炭素又は炭化水素蒸気を含まず、特にアセトン及びアルコール、たとえばメタノールもしくはエタノールを含まない。しかし、以下に記す特殊な添加物を含むことができる。洗浄に使用される「純」水は、数回蒸留されたものであるか、逆浸透によって調製されたものであることが好ましい。水は、不活性雰囲気、すなわち減圧下、たとえば窒素又は貴ガス雰囲気中で調製されたものであることが好ましい。
【0019】
さらには、純水は、少なくとも2Mohm・cmの抵抗率(抵抗率>2Mohm・cm)及び最大で10ppb(≦10ppb)の全有機炭素含量(TOC)を有する。
【0020】
洗浄工程ののち、得られたインプラントを純水中に残し、密閉容器又はカバーに入れて貯蔵する。カバーの内部は、水に加えて、不活性ガス、たとえば窒素、酸素又は貴ガス、たとえばアルゴンを含むことができる。得られたインプラントは、場合によっては選択的な添加物を含む純水中で、気体及び液体、特に二酸化炭素に対して実質的に不透過性であるカバーの中に貯蔵されることが好ましく、カバーの内部には、インプラント表面の生物学的活性を損なうおそれのある化合物は存在しない。
【0021】
すでに述べたように、インプラント表面の生物学的活性を損なうおそれのある化合物の例は、メタノール、エタノール、アセトン及び関連するケトンならびに多数の他の有機化合物又は二酸化炭素である。
【0022】
これらの意味で、本発明はさらに、インプラント表面をショットピーニングもしくはサンドブラスティングする、及び/又はプラズマ技術を使用してそれを粗化することによって本発明のインプラントを製造する方法であって、
(i)機械的又はプラズマ技術によって粗化された表面をさらに電解又は化学エッチング法によって処理して、好ましくは無機酸又は無機酸の混合物、特に好ましくはフッ化水素酸、塩酸、硫酸、硝酸もしくはそのような酸の混合物又は重量比約1:1:5の塩酸、過酸化水素及び水で、ヒドロキシル化された親水性表面を形成し、
(ii)表面を、不活性雰囲気中、場合によっては添加物を含む純水で洗浄し、
(iii)さらなる処理を実施することなく、表面を、不活性雰囲気中、場合によっては添加物を含む純水の永久的存在下、好ましくは、気体及び液体に対して実質的に不透過性であるカバーに入れて貯蔵することを特徴とする方法に関する。
【0023】
メチルアルコールの悪影響は、たとえば、メチルアルコールが、表面上に位置するヒドロキシル基とで、以下の式:≡TiOH+CH3OH→≡TiOCH3+H2O(≡Tiは、金属表面上の金属イオンである)にしたがって縮合反応を受けるという事実によって説明することができる。たとえば二酸化炭素が水酸化物基と反応して炭酸水素塩錯体を形成すると、それがヒドロキシル基を不活性化する。有機カルボン酸とヒドロキシル基との反応も同様に説明することができる。そのうえ、両性特性を、表面を取り巻く電解質の酸性度の関数として、表面に帰すことができ、電解質中の酸と塩基反応性ヒドロキシルとの間又は電解質中のアニオンと酸化物の酸反応性ヒドロキシルとの間には相互作用がある。表面反応は、共有結合の形成、静電気効果及び/又は水素架橋の形成によって説明することができる。これに関して、インプラント表面上のヒドロキシル基が、生物学的活性の実際の担体であり、埋め込み後にそれらの基が接触し、反応する骨のミネラル及び有機骨様物質に直接作用すると推測される。
【0024】
しかし、本発明はこれらの説明に拘束されない。決定的な点は、特定の化合物が本発明のヒドロキシル化された親水性表面の生物学的活性に悪影響を及ぼし、生物学的体内物質に関してこの活性を減らすか完全になくすという事実である。当業者は、たとえばとりわけ以下に記すようにして、化合物が生物学的活性に悪影響を及ぼすかどうか、また、どの程度まで及ぼすのかを実験によって判断することができる。
【0025】
本発明のインプラント又は少なくともそのヒドロキシル化された親水性表面は、気密かつ液密なカバーでシールされることが好ましく、カバーの内部には、インプラント表面の生物学的活性を損なうおそれのある化合物は存在しない。気密かつ液密なカバーは、ガラス、金属、合成ポリマーもしくは他の気密かつ気密な材料又はそのような材料の組み合わせでできたヒートシール式アンプルであることが好ましい。金属は、薄いシートの形態であることが好ましく、それ自体公知の方法でポリマー材料及び金属シートならびにガラスを合わせて適当なパッケージを形成することも可能である。
【0026】
好ましくは、カバーの内部は、場合によっては添加物を含む純水で少なくとも部分的に満たされており、存在する水の量は、インプラント表面の加湿を保証するのに少なくとも十分である。驚くことに、本発明のインプラント表面を純水で湿らせることは、その化学的かつ生物学的に活性な状態を安定化させ、それを長期間、通常は埋め込みの時点まで維持することがわかった。また、適当な添加物によって表面の骨統合特性をさらに改善できることがわかった。これらに関して、たとえば、インプラント表面への細胞付着が改善され、骨へのインプラントの固定時間が短縮する。また、インプラント表面が、適当な添加物によって改善される骨親和特性を有するといってもよい。
【0027】
本発明にしたがって純水に含めることができる適当な添加物の例は、一価のアルカリ金属カチオン、たとえばNa+もしくはK+又はNa+もしくはK+の混合物ならびに無機塩、たとえば塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩素酸ナトリウムもしくはカリウム、硝酸ナトリウムもしくはカリウム、リン酸ナトリウムもしくはカリウム又はそのような塩の混合物の形態の適切なアニオンである。また、水溶性無機塩の形態の二価のカチオンを加えることも可能であり、適当なカチオンは、特に、塩化物の形態のMg2+、Ca2+、Sr2+及び/又はMn2+もしくはそれらの混合物であり、他の適当なアニオンは、前記カチオンと組み合わせて、モノオルトホスフェートアニオン及びジオルトホスフェートアニオン又はモノオルトホスホネートアニオン及びジオルトホスホネートアニオンを含むと理解されるホスフェート及びホスホネートアニオンである。
【0028】
好ましいカチオン及びアニオンは、特に適切な生理学的濃度で体液中にすでに存在するものであり、生理学的酸性度(pH)は、好ましくは4〜9、特に好ましくは6〜8の範囲にある。好ましいカチオンは、Na+、K+、Mg2+及びCa2+である。好ましいアニオンはCl-である。前記カチオン又はアニオンの合計量は、好ましくは約50meq/l〜250meq/l、特に好ましくは約100meq/l〜200meq/lの範囲であり、約150meq/lであることが好ましい。eq/lは、(式)当量であるか、式単位の原子量を原子価で割ったものに相当する。meq/lは、リットルあたりのミリ当量である。カバーが二価のカチオン、特にMg2+、Ca2+、Sr2+及び/又はMn2+を、それらだけで、又は上述した一価のカチオンと組み合わせて含むならば、存在する二価のカチオンの合計量は、1meq/l〜20meq/lの範囲にあることが好ましい。
【0029】
本発明による、インプラント表面の水による被覆は、ヒドロキシル化された親水性インプラント表面が、カバーから取り出されたとき、場合によっては選択的なカチオン及びアニオンを含む水による表面の水性被覆により、有害な浮遊物質の影響から一時的に保護されるというさらなる利点を有している。
【0030】
金属表面―この場合、表面の質感を設けられた粗化されたインプラント表面の有効面積―を計測する方法そのものは公知である。たとえば、P. W. Atkins, Physical Chemistry, Oxford University Press, 1994に詳細に記載されている電気化学的計測方法である。表面は、(a)電気泳動移動度を計測することによって、(b)酸塩基滴定によって表面電荷を計測することによって、(c)インピーダンス分光測定によって、又は(d)ボルタンメトリーによって、測定することができる。粗さ計測はまた、混成パラメータLrの自乗、すなわち断面長さ比の自乗として有効表面積を得るために使用することもできる。DIN4762は、パラメータLrを、計測距離に対する拡張二次元断面の長さの比と定義している。しかし、後者の計測の条件は、垂直方向及び水平方向の解像度が1μm未満であり、0.1μmのオーダでさえあることである。
【0031】
これらすべての計測方法の基準面は、平坦な研磨された金属面である。平坦な磨き面の計測値と比較した粗化面の計測値が、粗化面が平坦な磨き面よりもどれくらい大きいかを示す。骨細胞を用いたインビトロ研究及び本発明のインプラントに対するインビボ組織形態計測研究は、本発明のインプラントの骨親和特性が、粗化面が、比較用の平坦な磨き面の、好ましくは少なくとも1.5倍の大きさであり、特に好ましくは少なくとも2倍の大きさであるとき、特に良好であることを示唆する。粗化されたインプラント表面は、比較用の平坦な磨き面の、好ましくは少なくとも2〜12倍の大きさであり、特に好ましくは約2.5〜6倍の大きさである。
【0032】
本発明のインプラント表面の湿潤性又は親水特性は、液体(水)と乾燥金属基材面との接触角又は濡れ角を光学的方法によって計測することにより、それ自体公知の方法で測定することができる。本発明のインプラント表面の接触角の測定には、インプラント表面を純水で洗浄し、純粋な窒素又は純粋なアルゴン中で乾燥させる。1滴の純水を水平に整置した面に置く。たとえば中空の針を使用してさらなる水を加えて水滴表面を拡大させて「上」接触角を得、水を除いて表面と接触する水滴直径を減らして「下」接触角を得る。「上」接触角が50°未満(<50°)であり、「下」接触角が20°未満(<20°)であるとき、その表面は親水特性を有するといえる。
【0033】
研究室及び診療施設で加工するための、工業的に製造されるチタン及びチタン合金の表面は通常、実質的に炭素化合物ならびに極微量の窒素、カルシウム、硫黄、リン及びケイ素からなる不純物を含む。これらの不純物は、最外金属酸化物層で濃縮する。好ましくは、ヒドロキシル化された親水性インプラント表面は、分光分析法、たとえばXPSもしくはAES又はそれ自体公知である他の分光分析法による計測で最大20原子%の炭素を含む。
【0034】
以下の例が本発明を説明する。
【0035】
例1
直径4mm、長さ10mmのねじの形態の一般的な形の歯科用インプラントを製造した。円柱形の素材片を旋盤に載せて回転し、切削することによって材料を除くことにより、それ自体公知の方法で粗形状を得た。次いで、EP0388575にしたがって、骨に挿入する表面を平均粒径0.25〜0.5mmの粒子でサンドブラスティングすることにより、巨視的粗さを設けた。次いで、粗化面(巨視的粗さ)を、2:1:1のHCl:H2SO4:H2O比を有する水性塩酸/硫酸混合物により、80℃を超える温度で約5分間処理して、比較用の磨き面に対して、0.15M NaClを含む水性電解質中でのボルタンメトリーによる計測で3.6の粗化されたインプラント表面の比を得た(0.1モルNa2SO4電解質中でのインピーダンス分光測定による計測で3.9の比に相当)。このようにして形成したインプラントを純水で洗浄したのち、
a)純水を充填したガラスアンプル中に直接ヒートシールし、4週間後に開封し、埋め込むか、
b)150meq/lのNa+イオン、10meq/lのMg2+イオン及び対応する量のCl-アニオンを含む純水を充填したガラスアンプル中に直接ヒートシールし、4週間後に開封し、埋め込むか、
c)CO2を含む空気で乾燥させ、埋め込むか(比較実験)した。
【0036】
実験a)、b)及びc)で得たインプラントをミニブタの上顎に埋め込んだ。骨への固定を、ミニブタの上顎に埋め込まれたねじを緩めるのに要したトルクとして計測した。得られた結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
実験a)及びb)(本発明のインプラント)の結果は、表記した癒合時間で、対応するゆるめトルクが実験c)で要したトルクよりも顕著に大きいことを示す。
【0039】
例2
比較用の磨き面に対する粗化されたインプラント表面の比が1.9(0.1モルNa2SO4電解質中でのインピーダンス分光測定によって計測)であるインプラントを製造したことを除き、例1の実験b)及びc)を繰り返した。これは、インプラント表面を機械的手段のみ、すなわち旋盤に載せて回転することによって切削したのち、例1で示したようにエッチングすることによって実施した。得られたインプラントを純水で洗浄したのち、
d)150meq/lのNa+イオン、10meq/lのMg2+イオン及び対応する量のCl-アニオンを含む純水を充填したガラスアンプル中に直接ヒートシールし、4週間後に開封し、埋め込むか、
e)CO2を含む空気で乾燥させ、埋め込むか(比較実験)した。
【0040】
実験d)及びe)で得たインプラントをミニブタの上顎に埋め込んだ。骨への固定を、ミニブタの上顎に埋め込まれたねじを緩めるのに要したトルクとして計測した。得られた結果を表2に示す。
【0041】
【表2】

【0042】
実験d)(本発明のインプラント)の結果は、表記した癒合時間で、対応するゆるめトルクが実験c)で要したトルクよりも顕著に大きいことを示す。少なくとも35N・cmのゆるめトルクが歯科処置において上部構造の構築に不可欠であるとみなされると仮定するならば、本発明のインプラントは、最大で3週間後にこの数値を達成する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
改善された骨統合特性を有し、チタン又はチタン合金からなり、骨への埋め込みに適した骨親和性インプラントであって、粗化され、ヒドロキシル化された親水性表面を有し、ヒドロキシル化された親水性表面が、場合によっては選択的なカチオン及びアニオンを含む水による水性被覆を有することを特徴とするインプラント。
【請求項2】
少なくともインプラントのヒドロキシル化された親水性表面が気密かつ液密なカバーでシールされていることを特徴とする、請求項1記載のインプラント。
【請求項3】
チタン/ジルコニウム合金からなる、請求項1又は2記載のインプラント。
【請求項4】
ヒドロキシル化された親水性表面が、電解又は化学エッチング法によって得られたものである、請求項1〜3のいずれか1項記載のインプラント。
【請求項5】
ヒドロキシル化された親水性表面が、無機酸若しくは無機酸の混合物又は重量比1:1:5の塩酸、過酸化水素及び水での処理によって得られたものである、請求項4記載のインプラント。
【請求項6】
ヒドロキシル化された親水性表面が、フッ化水素酸、塩酸、硫酸、硝酸もしくはそれらの混合物での処理によって得られたものである、請求項5記載のインプラント。
【請求項7】
カバーの内部が、純水又は添加物を含む純水で少なくとも部分的に満たされており、存在する水の量が、粗化されたインプラント表面の湿潤を保証するのに少なくとも十分である、請求項2記載のインプラント。
【請求項8】
カバー内部の残りの容積が、二酸化炭素又は揮発性炭化水素の存在しないガスで満たされている、請求項7記載のインプラント。
【請求項9】
カバー内部の残りの容積が、酸素、窒素、貴ガス又はそれらのガスの混合物で満たされている、請求項8記載のインプラント。
【請求項10】
カバー内部の水が、少なくとも2Mohm・cmの抵抗率及び最大で10ppbの全有機炭素含量を有する、請求項2〜9のいずれか1項記載のインプラント。
【請求項11】
カバー内部の水が、一価のアルカリ金属カチオン及び/又は二価のカチオンを水溶性無機塩の形態で含む、請求項2〜10のいずれか1項記載のインプラント。
【請求項12】
カバー内部の水が、一価のアルカリ金属カチオンとしてNa+もしくはK+又はNa+とK+との混合物を、無機塩の形態の適切なアニオンとともに含む、請求項2〜11のいずれか1項記載のインプラント。
【請求項13】
カバー内部の水が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩素酸ナトリウムもしくはカリウム、硝酸ナトリウムもしくはカリウム、リン酸ナトリウムもしくはカリウム、ホスホン酸ナトリウムもしくはカリウム又はそれらの混合物を含む、請求項12記載のインプラント。
【請求項14】
カバー内部の水が、Mg2+、Ca2+、Sr2+もしくはMn2+又はそれらの混合物を、二価のカチオンとして塩化物の形態で含む、請求項2〜13のいずれか1項記載のインプラント。
【請求項15】
カバー内部の水が、Mg2+及び/又はCa2+を、二価のカチオンとして塩化物の形態で含む、請求項14記載のインプラント。
【請求項16】
カバー内部の水が、4〜9の範囲にある酸性度を有する、請求項2〜15のいずれか1項記載のインプラント。
【請求項17】
カバー内部の水が、6〜8の範囲にある酸性度を有する、請求項16記載のインプラント。
【請求項18】
カバー内部のカチオン又はアニオンの合計量が、約50meq/l〜250meq/lであり、存在する二価のカチオンの合計量が、1meq/l〜20meq/lである、請求項2〜17のいずれか1項記載のインプラント。
【請求項19】
カバー内部のカチオン又はアニオンの合計量が、約100meq/l〜200meq/lの範囲にある、請求項18記載のインプラント。
【請求項20】
カバー内部のカチオン又はアニオンの合計量が、約150meq/lである、請求項18又は19記載のインプラント。
【請求項21】
粗化されたインプラント表面の表面積が、平坦な磨き面の表面積の、少なくとも1.5倍の大きさである、請求項1〜20のいずれか1項記載のインプラント。
【請求項22】
粗化されたインプラント表面の表面積が、平坦な磨き面の表面積の、2〜12倍の大きさである、請求項21記載のインプラント。
【請求項23】
粗化されたインプラント表面の表面積が、平坦な磨き面の表面積の、少なくとも2.5〜6倍の大きさである、請求項21又は22記載のインプラント。
【請求項24】
ヒドロキシル化された親水性インプラント表面が最大で20原子%の炭素を含む、請求項1〜23のいずれか1項記載のインプラント。
【請求項25】
気密かつ液密なカバーが、ガラス、金属もしくは合成ポリマー又はそれらの材料の組み合わせでできたヒートシール式アンプルである、請求項2〜24のいずれか1項記載のインプラント。
【請求項26】
金属が、薄いシートの形態である、請求項25記載のインプラント。
【請求項27】
親水性インプラント表面の「上」接触角が50°未満であり、「下」接触角が20°未満である、請求項1〜26のいずれか1項記載のインプラント。
【請求項28】
インプラント表面をショットピーニング、サンドブラスティング及び/又はプラズマ技術を使用することによって粗化する、請求項1〜27のいずれか1項記載のインプラントの製造方法であって、
(i)機械的又はプラズマ技術によって粗化された表面をさらに電解又は化学エッチング法によって処理して、ヒドロキシル化された親水性表面を形成し、
(ii)表面を、不活性雰囲気中、純水又は添加物を含む純水で洗浄することを特徴とする方法。
【請求項29】
(ii)の後に、さらなる処理を実施することなく、表面を、不活性雰囲気中、純水又は添加物を含む純水の永久的存在下で貯蔵することを特徴とする、請求項28記載の方法。
【請求項30】
粗化された表面を、無機酸若しくは無機酸の混合物又は重量比1:1:5の塩酸、過酸化水素及び水で、処理することを特徴とする、請求項28又は29記載の方法。
【請求項31】
粗化された表面を、フッ化水素酸、塩酸、硫酸、硝酸もしくはそれらの混合物で、処理することを特徴とする、請求項28〜30記載の方法。

【公開番号】特開2012−254308(P2012−254308A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−167152(P2012−167152)
【出願日】平成24年7月27日(2012.7.27)
【分割の表示】特願2008−139118(P2008−139118)の分割
【原出願日】平成12年1月27日(2000.1.27)
【出願人】(505104836)シュトラウマン・ホールディング・アクチェンゲゼルシャフト (18)
【氏名又は名称原語表記】STRAUMANN HOLDING AG
【Fターム(参考)】