説明

骨髄増殖性疾患に関する遺伝子変異を検出するためのプローブおよび該プローブを用いた遺伝子変異の検出方法

【課題】JAK2遺伝子変異を迅速かつ簡便に検出するための方法を提供する。
【解決手段】被検核酸と配列番号1または2で示されるプローブとをハイブリダイズさせ複合体を形成させ、連続的な温度上昇を行いながら該プローブを標識している蛍光色素の蛍光強度を測定することにより融解曲線分析を行い、温度変化に伴う前記蛍光強度の変動から前記被検核酸における前記変異の有無を決定する工程を含む、JAK2遺伝子の変異を検出する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、慢性骨髄増殖性疾患に関する遺伝子変異を検出するためのプローブ、ならびに、該プローブを用いた遺伝子変異の検出方法および遺伝子変異を検出するためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
慢性骨髄増殖性疾患(chronic myeloproliferative disorder;CMPD)は真性赤血球増加症(Polycythemia vera;PV)、本態性血小板血症(essential thrombocythemia;ET)、慢性骨髄性白血病(chronic myelogenous leukemia;CML)、原発性骨髄線維症(primary myelofibrosis;PMF)などの総称である。これらの疾患は造血幹細胞の異常により多系統の増殖がみられるクローン性疾患である。
【0003】
多くのCMPD患者からは、細胞質性非受容体型チロシンキナーゼ(JAK2)遺伝子の1849番目のグアニンがチミンに置換される変異(V617F変異、JAK2のアミノ酸配列の617位のバリンがフェニルアラニンに置換される変異)が検出されており、特にPV患者では95%以上からJAK2遺伝子変異が検出されている(非特許文献1、非特許文献2)。
【0004】
JAK2タンパク質中にはキナーゼドメイン(JH1ドメイン)とシュードキナーゼドメイン(JH2ドメイン)が存在する。JH1ドメインはキナーゼ活性を持ち、JH2ドメインはキナーゼ活性を抑制するため、通常、JAK2タンパク質のキナーゼ活性は抑制されている(非特許文献3)。JAK2の617位のアミノ酸はJH2ドメイン中に位置する(非特許文献4)。予想されるJAK2タンパク質の三次元構造の解析から、第618位およびその周辺のアミノ酸残基がJH1(キナーゼ)ドメインと相互作用しキナーゼ活性をブロックすることが示唆されている(非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5)。
【0005】
JamesらはJAK2のV617F変異とJAK2活性化との関係を実験的に調べた。その結果、V617F変異によってJAK2のキナーゼ活性の自動抑制が失われ、JAK2が活性化されていることがわかっている(非特許文献4)。
【0006】
JAK2変異の検出法としては、患者のJAK2遺伝子をPCRによって増幅し、シークエンスによって塩基配列を解読するという方法が挙げられる(非特許文献1)。しかしこの方法では解読に半日以上を要する。また、PCR産物をシークエンスに供する際に、指数関数的に増幅した増幅産物によるコンタミネーションが生じる可能性があり、このため誤診が発生するという懸念がある。
【0007】
他の方法として、アレル特異的PCR法や制限酵素断片長多型を利用した検出方法(RFLP法)が挙げられる(非特許文献6)。これらの方法ではシークエンス法よりは解析時間が短縮されるが、増幅産物を電気泳動で取り扱うという作業を含むため、依然として増幅産物によるコンタミネーションの可能性が残っている。
【0008】
これらの欠点を克服する検出方法としては蛍光色素で標識された核酸プローブを用いて融解曲線解析を行い、融解曲線解析の結果に基づいて変異を検出する方法が知られている(非特許文献7)。核酸プローブを用いた方法では一つの反応系の中に核酸プライマー、核酸プローブ、そして試薬類を全て混合した上で核酸増幅反応および核酸プローブのハイブリダイズを行う。そのため、増幅産物によるコンタミネーションの危険性を除去できる。しかし非特許文献7に記載の方法では蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)を用いて検出しているため、検出には2本の核酸プローブが必要であり、コストがかかるという欠点がある。
【0009】
上記検出方法の欠点を補う方法として、一本の核酸プローブを用いて融解曲線解析を行いJAK2変異を検出する方法も存在する(特許文献1)。特許文献1にはJAK2遺伝子の成熟mRNAにおける1849番目の塩基がチミンに変異した変異型JAK2遺伝子と完全に相補的な配列を有する核酸プローブがより好ましいという旨の記載がある。また、上記のような核酸プローブによる実施例も報告されている。この核酸プローブによる検出では、JAK2遺伝子の1849番目がチミンに変異しているか否かを判別することが可能である。
【0010】
しかしながら特許文献1の上記記載に従えば、該特許で推奨される核酸プローブではJAK2の第617位がフェニルアラニン以外のアミノ酸に変異した場合に、その変異型JAK2と野生型JAK2とを判別することができない。従って、JAK2の第617位変異を検出するという臨床上の課題が完全に解決されているとは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】WO2009/011297
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Levine R.L.et al.Cancer Res 7,387−397,2005
【非特許文献2】Kralovics R.et al.N Engl J Med 352,1179−1190,2005
【非特許文献3】Baxter EJ.et al.Lancet 365,1054−1061,2005
【非特許文献4】James C.et al.Nature 434,1144−1148,2005
【非特許文献5】Kaushansky Kenneth Blood 105,4187−4190,2005
【非特許文献6】Frantz C. et al. Am J Clin Pathol 128,865−874,2007
【非特許文献7】Lay M.et al.J Mol Diagn.8,330−334,2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上記従来のJAK2遺伝子変異検査における問題点を解決しようとするものであり、その目的はJAK2遺伝子の変異検出を迅速、正確、かつ安価に行うための方法及び試薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討した結果、JAK2遺伝子の変異しうる塩基およびその周辺の塩基配列に特異的に結合する1本の核酸プローブを用いることにより従来技術よりも正確にJAK2遺伝子の変異を検出できることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は以下のような構成からなる。
【0015】
[項1]
JAK2遺伝子の変異を検出するためのプローブであって、配列番号1または2のいずれかに示す塩基配列からなるプローブ。
[項2]
前記プローブが、標識物質で標識化された標識化プローブである、項1に記載のプローブ。
[項3]
前記標識化プローブが、蛍光色素による標識である、項2に記載のプローブ。
[項4]
JAK2遺伝子の変異を検出する方法であって、以下(1)〜(3)の工程を全て含む方法。
(1)被検核酸と項1〜3のいずれかに記載のプローブとをハイブリダイズさせ複合体を形成させる工程
(2)前記工程(1)のあとに、連続的な温度上昇を行いながら融解曲線分析を行う工程。
(3) 温度変化に伴う融解曲線の変動から、前記被検核酸における前記変異の有無を決定する工程
[項5]
工程(1)におけるプローブが、標識物質で標識化された標識化プローブであり、該プローブの標識強度を測定することにより融解曲線分析を行う、項4に記載の方法
[項6]
前記標識化プローブが、蛍光色素による標識であり、該プローブを標識している蛍光色素の蛍光強度を測定することにより、融解曲線分析を行う、項5に記載の方法。
[項7]
工程(1)における被検核酸が、プライマー対を用いて鋳型核酸から増幅された物である、項4〜6のいずれかに記載の方法。
[項8]
核酸増幅に、100塩基/秒以上のDNA合成速度を有し、かつ、5’エキソヌクレアーゼ活性を持たないDNAポリメラーゼを用いる、項7に記載の方法。
[項9]
前記プライマー対が、下記(F)のオリゴヌクレオチドからなるフォワードプライマーおよび下記(R)のオリゴヌクレオチドからなるリバースプライマーを含む一対のプライマーである、項7に記載の検出方法。
(F)塩基配列が配列番号3で示されるオリゴヌクレオチド
(R)塩基配列が配列番号4で示されるオリゴヌクレオチド
[項10]
核酸増幅法によりJAK2遺伝子を増幅するためのプライマー対であって、配列番号3、配列番号4のいずれかに示す塩基配列からなる核酸プライマー対。
[項11]
請求項4〜6のいずれかに記載のJAK2遺伝子の変異を検出する方法に用いるための変異検出キットであって、項1に記載のプローブを含む変異検出キット。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、JAK2遺伝子のV617F変異の検査を迅速、正確かつ簡便に行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1の結果を示す図である。
【図2】実施例2の結果を示す図である。
【図3】実施例3の結果を示す図である。
【図4】実施例4の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態の一つは、JAK2遺伝子の変異を検出するためのプローブであって、配列番号1または2のいずれかに示す塩基配列からなるプローブである。
【0019】
JAK2遺伝子の完全長配列(142751bp)は、例えば、NCBIアクセッションNo.NC_000009に登録されている。JAK2遺伝子のmRNA(5097bp)は、例えば、NCBIアクセッションNo.NM_004972に登録されており、この登録されている塩基配列の2343番目が、検出対象の塩基部位である。なお、NCBIアクセッションNo.NM_004972に登録されている塩基配列において、495番目〜3893番目の領域が成熟mRNA(CDS)配列であり、CDS内の1849番目が、検出目的の塩基部位である。
【0020】
本明細書において「JAK2遺伝子の1849位」とはJAK2遺伝子CDSの1849位を指す。
【0021】
NM_004972に登録されている塩基配列を配列番号5に示した。以下、JAK2遺伝子の1849位は配列番号5の2343位に等しい。
【0022】
配列番号1で示される本発明のプローブは、JAK2遺伝子の1849位を含む部分領域に相補的な配列で構成されており、なおかつ1849位が野生型の塩基であるグアニンである場合にセンス鎖と完全な相補鎖となるように設計されていて、センス鎖における変異を確認できる。配列番号2で示される本発明のプローブも、JAK2遺伝子の1849位を含む部分領域に相補的な配列で構成されており、JAK2遺伝子のアンチセンス鎖(逆鎖)に相補的であって、アンチセンス鎖における変異を確認できる。
従って検査対象のJAK2遺伝子が野生型である場合に、該核酸プローブは検査対象のJAK2遺伝子とより結合しやすく、また融解しにくい。
【0023】
上記の通り本発明プローブはJAK2遺伝子の1849位が野生型の塩基であるグアニンである場合に完全な相補鎖となるように設計されている。この塩基配列による利点として、第一に変異型JAK2遺伝子の核酸増幅を阻害しにくいことが挙げられる。
上記の通りJAK2遺伝子と結合する核酸プローブ存在下で核酸増幅を実施した場合に、該核酸プローブが試料のJAK2遺伝子またはその増幅産物と結合し核酸増幅を阻害しうる。該核酸プローブの塩基配列が変異型JAK2遺伝子と最も結合しやすい配列であった場合、該核酸プローブは変異型JAK2遺伝子の核酸増幅をより阻害しやすいため、JAK2遺伝子変異の検出には好ましくない。しかし、本発明の核酸プローブは野生型JAK2遺伝子と最も結合しやすい配列に設計されているため、変異型JAK2遺伝子の核酸増幅は比較的阻害しにくい。従って、JAK2遺伝子変異の検出にはより好ましい形態である。
【0024】
第二に本発明プローブは融解曲線解析によってJAK2遺伝子の塩基配列中に変異の有無があるかを識別することができる。
本発明プローブは野生型JAK2遺伝子と完全に相補的な塩基配列であるため、JAK2遺伝子の野生型と変異型とを識別することができ、該変異型は1849番目の塩基がグアニンからチミンになる変異には限定されない。従って本発明プローブではJAK2タンパク質のV617FのみならずV617W(JAK2のアミノ酸配列の617位のバリンがトリプトファンに置換される変異)、V617M(JAK2のアミノ酸配列の617位のバリンがメチオニンに置換される変異)など他の第617位変異についても迅速かつ簡便な検出が可能である。
【0025】
本発明のプローブは、配列番号1または2に示される核酸配列が好ましいが、JAK2遺伝子中の1849位を含む連続した10塩基以上30塩基以下の核酸配列またはこれに相補的な核酸配列であれば、特に限定されない。
【0026】
本発明のプローブは、標識物質で標識化された標識化プローブであってもよい。好ましくは、蛍光色素によって標識された核酸プローブ、さらに好ましくは、末端が蛍光色素によって標識された核酸プローブを使用できる。
【0027】
本発明のプローブは、標識物質で標識化されたプローブであることが好ましい。前記標識物質は、制限されないが、蛍光色素(蛍光団)があげられる。前記標識化プローブの具体例として、例えば、前記蛍光色素で標識され、単独で蛍光を示し且つハイブリッド形成により蛍光が減少(例えば、消光)するプローブが好ましい。このような現象は、一般に、蛍光消光現象と呼ばれる。この蛍光消光現象を利用したプローブとしては、中でも、一般的にグアニン消光プローブとよばれるものが好ましい。このようなプローブは、いわゆるQProbe(登録商標)として知られている。グアニン消光プローブとは、例えば、オリゴヌクレオチドの3’末端もしくは5’末端の塩基がシトシンとなるように設計し、その末端の塩基シトシンが相補的な塩基グアニンに近づくと発光が弱くなる蛍光色素で前記末端を標識化したプローブである。本発明のプローブにおいては、例えば、蛍光消光現象を示す蛍光色素を、前記オリゴヌクレオチドの3’末端のシトシンに結合させてもよいし、前記オリゴヌクレオチドの5’末端をシトシンに設計し、これに結合させてもよい。
【0028】
前記蛍光色素は、制限されないが、例えば、フルオレセイン、リン光体、ローダミン、ポリメチン色素誘導体等があげられ、市販の蛍光色素としては、例えば、BODIPY FL(商標名、モレキュラープローブ社製)、FluorePrime(商品名、アマシャムファルマシア社製)、Fluoredite(商品名、ミリポア社製)、FAM(ABI社製)、Cy3およびCy5(アマシャムファルマシア社製)、TAMRA(モレキュラープローブ社製)等があげられる。プローブの検出条件は、特に制限されず、使用する蛍光色素により適宜決定できるが、例えば、Pacific Blueは、検出波長450〜480nm、TAMRAは、検出波長585〜700nm、BODIPY FLは、検出波長515〜555nmで検出できる。このようなプローブを使用すれば、シグナルの変動により、ハイブリダイズと解離とを容易に確認することができる。
【0029】
本発明のプローブは、例えば、3’末端にリン酸基が付加されてもよい。後述するように、変異の有無を検出する被検核酸(標的核酸)は、PCR等の核酸増幅法によって調製することができ、この際、本発明のプローブを核酸増幅反応の反応系に共存させることができる。このような場合、プローブの3’末端にリン酸基を付加させておけば、プローブ自体が核酸増幅反応によって伸長することを十分に防止できる。また、3’末端に前述のような標識物質を付加することによっても、同様の効果が得られる。
【0030】
本発明のプローブは、前述のように、JAK2遺伝子の変異の検出に使用することができる。この変異の検出方法は、何ら制限されず、被検核酸と前記プローブとのハイブリダイズを利用する方法であればよい。
【0031】
本発明の実施形態の一つは、JAK2遺伝子の変異を検出する方法であって、以下(1)〜(3)の工程を全て含むことを特徴とする方法である。
(1)被検核酸と項1〜3のいずれかに記載のプローブとをハイブリダイズさせ複合体を形成させる工程
(2)前記工程(1)のあとに、連続的な温度上昇を行いながら融解曲線分析を行う工程。
(3) 温度変化に伴う融解曲線の変動から、前記被検核酸における前記変異の有無を決定する工程
【0032】
ここで、工程1におけるプローブは、特に限定されないが、標識物質で標識化された標識化プローブであることが好ましく、蛍光色素による標識であることがさらに好ましい。該プローブの標識強度を測定することにより融解曲線分析を行うことができる。標識が蛍光色素の場合は、蛍光強度を測定することにより融解曲線分析を行うことができる。
【0033】
本発明の変異検出方法によれば、配列番号1に示すJAK2遺伝子のexon12における73番目の塩基(k)の変異(g→t)を検出できる。
【0034】
本発明における被検核酸は、例えば、一本鎖でもよいし、二本鎖でもよい。二本鎖の場合は、例えば、被検核酸とプローブとをハイブリダイズさせてハイブリッド体を形成するために、加熱により前記二本鎖を一本鎖に解離させる工程を含むことが好ましい。
【0035】
前記被検核酸の種類としては、特に制限されないが、例えば、DNAや、トータルRNA、mRNA等のRNA等があげられる。また、前記被検核酸は、例えば、生体試料等の試料に含まれる核酸があげられる。前記試料中の核酸は、例えば、生体試料中に元来含まれている核酸でもよいが、例えば、変異検出の精度を向上できることから、前記生体試料中の核酸を鋳型として核酸増幅法により増幅させた増幅産物等があげられる。具体例としては、例えば、前記生体試料に元来含まれているDNAを鋳型として、核酸増幅法により増幅させた増幅産物や、前記生体試料に元来含まれているRNAから逆転写反応(RT−PCR)により生成させたcDNAを鋳型として、核酸増幅法により増幅させた増幅産物があげられる。これらの増幅産物を、本発明における被検核酸としてもよい。前記増幅産物の長さは、特に制限されないが、例えば、50〜1000塩基であり、好ましくは80〜200塩基である。
【0036】
前記生体試料としては、特に制限されないが、例えば、白血球細胞等の血球試料、全血試料等があげられる。なお、本発明において、試料の採取方法、DNAやRNA等の核酸の調製方法等は、制限されず、従来公知の方法が採用できる。
【0037】
本発明の方法で用いる融解曲線分析について説明する。例えば、二本鎖DNAを含む溶液を加熱していくと、260nmにおける吸光度が上昇する。これは、二本鎖DNAにおける両鎖間の水素結合が加熱によってほどけ、一本鎖DNAに解離(DNAの融解)することが原因である。そして、全ての二本鎖DNAが解離して一本鎖DNAになると、その吸光度は、加熱開始時の吸光度(二本鎖DNAのみの吸光度)の約1.5倍程度を示し、これによって融解が完了したと判断できる。
【0038】
本発明において、融解曲線分析を行うための温度変化に伴うシグナル変動の測定は、前述のような原理から、260nmの吸光度測定により行うこともできるが、本発明のプローブに付加した標識のシグナルを測定することが好ましい。このため、本発明のプローブとして、前述の標識化プローブを使用することが好ましい。
前記標識化プローブとしては、例えば、単独でシグナルを示し且つハイブリッド形成によりシグナルを示さない標識化プローブ、または、単独でシグナルを示さず且つハイブリッド形成によりシグナルを示す標識化プローブがあげられる。前者のプローブであれば、検出対象配列とハイブリッド(二本鎖)を形成している際にはシグナルを示さず、加熱によりプローブが遊離するとシグナルを示す。また、後者のプローブであれば、検出対象配列とハイブリッド(二本鎖)を形成することによってシグナルを示し、加熱によりプローブが遊離するとシグナルが減少(消失)する。したがって、この標識によるシグナルをシグナル特有の条件(吸光度等)で検出することによって、前記260nmの吸光度測定と同様に、融解の進行を把握することができる。標識化プローブにおける標識化物質は、例えば、前述のとおりである。
【0039】
前述のように、被検核酸が、鋳型核酸から核酸増幅法により増幅させた増幅産物である場合、前記工程(1)は、フォワードプライマーおよびリバースプライマーのプライマー対を用いて鋳型核酸から核酸を増幅する工程を含んでも良い。言い換えれば、前記工程(1)における被検核酸は、フォワードプライマーおよびリバースプライマーのプライマー対を用いて鋳型核酸から増幅された物であっても良い。
【0040】
前記プライマー対としては、JAK2遺伝子において本発明のプローブがハイブリダイズ可能な領域が増幅されればよく、特に制限されない。前記増幅領域は、例えば、前記プローブがハイブリダイズする領域のみでもよいし、前記ハイブリダイズ領域を含む領域であってもよい。
【0041】
具体的には、例えば、下記(F)のオリゴヌクレオチドからなるフォワードプライマーおよび下記(R)のオリゴヌクレオチドからなるリバースプライマーを含む一対のプライマーが例示できる。
(F)塩基配列が配列番号3で示されるオリゴヌクレオチド
(R)塩基配列が配列番号4で示されるオリゴヌクレオチド
【0042】
前記核酸増幅工程に用いられる具体的な核酸増幅方法としては特に限定されず、適宜公知の方法を用いることができる。例えば、PCR(Polymerase Chain Reaction)法、NASBA(Nucleic acid sequence based amplification)法、TMA(Transcription−mediated amplification)法、SDA(Strand Displacement Amplification)法等があげられるが、PCR法を用いることが好ましい。なお、これらの各方法において、増幅反応の条件は特に制限されず、従来公知の方法により行うことができる。
【0043】
核酸増幅にPCR法を用いる場合、DNAポリメラーゼには、α型DNAポリメラーゼを用いることが好ましい。その理由を以下に説明する。
【0044】
本発明プローブが含まれる反応系でJAK2遺伝子を増幅する場合、核酸増幅工程中に該核酸プローブが試料のJAK2遺伝子またはその増幅産物と結合しうる。核酸増幅工程中にJAK2遺伝子と結合した該核酸プローブは、核酸プライマーとDNAポリメラーゼによる核酸増幅反応を阻害する。
【0045】
Taq DNA PolymeraseなどPolI型のDNAポリメラーゼは5’→ 3’エキソヌクレアーゼ活性を持つことが知られている。この活性のため、核酸増幅反応中に鋳型となるJAK2遺伝子と結合した核酸がある場合、該結合核酸はエキソヌクレアーゼ活性によって分解されてしまう。このため、反応系中の該核酸プローブが減少し核酸検出工程に問題が生じる可能性がある。従って、PolI型DNAポリメラーゼを用いて本発明を実施することは好ましくない。
【0046】
他方、KOD DNA Polymerase(超好熱始原菌Thermococcus kodakaraensis KOD1由来)などα型のDNAポリメラーゼは5’→ 3’エキソヌクレアーゼ活性は持たず、3’→ 5’エキソヌクレアーゼ活性を持つ。従って、α型DNAポリメラーゼを用いれば上記問題を解決できるのみならず、3’→ 5’エキソヌクレアーゼ活性により核酸増幅工程において高い正確性が発揮される。
【0047】
通常、α型DNAポリメラーゼは3’→ 5’エキソヌクレアーゼ活性のため、核酸増幅速度はPolI型酵素と比較して低い傾向がある。しかし、KOD DNA Polymeraseはα型DNAポリメラーゼでありながらDNA合成活性が高く100塩基/秒以上のDNA合成速度を有し伸長効率が優れている。従って、本発明の実施にはα型DNAポリメラーゼの中でも、KOD DNA Polymerase(東洋紡績製、商標)を用いることが好ましい。
【0048】
さらに、α型DNAポリメラーゼを変異させて100塩基/秒以上のデオキシリボ核酸合成速度を達成させた変異型、あるいは、野生型および/または変異型の組み合わせにより当該性能を達成させたDNAポリメラーゼ組成物も、本発明の実施に適したDNAポリメラーゼとして用いることができる。
例えば、上記KOD DNA Polymerase以外に100塩基/秒以上のデオキシリボ核酸合成速度を有するDNAポリメラーゼとして、「KOD FX(東洋紡績製、登録商標)」、「KOD −Plus−(東洋紡績製、商標)」、「KOD Dash(東洋紡績製、登録商標)」、PrimeSTAR HS DNAポリメラーゼ(タカラバイオ製、登録商標)なども利用できる。
【0049】
本発明において、DNA合成活性とは鋳型DNAにアニールされたオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの3’−ヒドロキシル基にデオキシリボヌクレオシド5’−トリホスフェートのα−ホスフェートを共有結合せしめることにより、デオキシリボ核酸にデオキシリボヌクレオシド5’−モノホスフェートを鋳型依存的に導入する反応を触媒する活性をいう。
【0050】
その活性測定法は、酵素活性が高い場合には、保存緩衝液でサンプルを希釈して測定を行う。本発明では、下記A液25μl、B液およびC液各5μlおよび滅菌水10μlをエッペンドルフチューブに加えて攪拌混合した後、上記酵素液5μlを加えて75℃で10分間反応する。その後、氷冷し、E液50μl、D液100μlを加えて、攪拌後、さらに10分間氷冷する。この液をガラスフィルター(ワットマンGF/Cフィルター)で濾過し、D液及びエタノールで充分洗浄し、フィルターの放射活性を液体シンチレーションカウンター(パッカード社製)で計測し、鋳型DNAへのヌクレオチドの取り込みを測定する。酵素活性の1単位はこの条件下で30分あたり10nモルのヌクレオチドを酸不溶性画分に取り込む酵素量とする。
A: 40mM Tris−HCl(pH7.5)
16mM 塩化マグネシウム
15mM ジチオスレイトール
100μg/ml BSA
B: 2μg/μl 活性化仔牛胸腺DNA
C: 1.5mM dNTP(250cpm/pmol〔 3H〕dTTP)
D: 20% トリクロロ酢酸(2mMピロリン酸ナトリウム)
E: 1μg/μl キャリアーDNA
【0051】
本発明において、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性とは、DNAの3’末端領域を切除し、5’−モノヌクレオチドを遊離する活性をいう。
その活性測定法は、50μlの反応液(120mM Tris−HCl(pH8.8 at 25℃), 10mM KCl, 6mM 硫酸アンモニウム,1mM MgCl2, 0.1% Triton X−100, 0.001% BSA,5 μg トリチウムラベルされた大腸菌DNA)を1.5mlのエッペンチューブに分注し、DNAポリメラーゼを加える。75℃で10分間反応させた後、氷冷によって反応を停止し、次にキャリアーとして、0.1%のBSAを50μl加え、さらに10%のトリクロロ酢酸、2%ピロリン酸ナトリウム溶液を100μl加え混合する。氷上で15分放置した後、12,000回転で10分間遠心し沈殿を分離する。上清100μlの放射活性を液体シンチレーションカウンター(パッカード社製)で計測し、酸可溶性画分に遊離したヌクレオチド量を測定する。
【0052】
次に、本発明の変異検出方法について、本発明のプローブとして、蛍光色素で標識化された標識化プローブを使用する例をあげて説明する。なお、本発明の変異検出方法は、以下の説明によって何ら制限されることはない。
【0053】
まず、例えば全血からゲノムDNAを単離する。単離は、例えば、市販のゲノムDNA単離キットを用いて行うことができる。
次に、単離したゲノムDNAを含む試料に、標識化プローブとして、例えば、QProbeを添加する。
【0054】
前記プローブの添加のタイミングは、特に制限されず、例えば、後述する増幅反応前、増幅反応途中および増幅反応後のいずれに、増幅反応の反応系に添加してもよい。
中でも、増幅反応と、前記工程(2)とを連続的に行うことができるため、増幅反応前に添加することが好ましい。このように核酸増幅反応の前に前記プローブを添加する場合は、例えば、前述のように、その3’末端に、蛍光色素を付加したり、リン酸基を付加することが好ましい。
【0055】
前記プローブは、単離したゲノムDNAを含む液体試料に添加してもよいし、溶媒中でゲノムDNAと混合してもよい。前記溶媒としては、特に制限されず、例えば、Tris−HCl等の緩衝液、KCl、MgCl、MgSO、グリセロール等を含む溶媒、PCR反応液等、従来公知のものがあげられる。
【0056】
続いて、単離したゲノムDNAを鋳型として、PCR等の核酸増幅法によって、検出目的の塩基部位を含む配列を増幅させる。なお、PCR等の条件は、特に制限されず、従来公知の方法により行うことができる。
【0057】
PCRのプライマーの配列は、検出目的の塩基部位を含む配列を増幅できるものであれば特に制限されず、前述のように、目的の配列に応じて、従来公知の方法により適宜設計できる。プライマーの長さは、特に制限されず、一般的な長さ(例えば、10〜30mer)に設定できる。
【0058】
本発明の検出方法に使用するプライマーセットとしては、例えば、前述の本発明のプライマーセットがあげられる。なお、本発明のプライマーセットの用途は、本発明の検出方法には制限されず、また、本発明の検出方法に使用するプライマーセットも、本発明のプライマーセットには限定されない。
【0059】
次に、得られたPCR増幅産物の解離、および、解離により得られた一本鎖DNAと前記標識化プローブとのハイブリダイズを行う。これは、例えば、前記反応液の温度変化によって行うことができる。
【0060】
前記解離工程における加熱温度は、前記増幅産物が解離できる温度であれば特に制限されないが、例えば、85〜98℃である。加熱時間も特に制限されないが、通常、1秒〜10分であり、好ましくは1秒〜5分である。
【0061】
また、解離した一本鎖DNAと前記標識化プローブとのハイブリダイズは、例えば、前記解離工程の後、前記解離工程における加熱温度を降下させることによって行うことができる。温度条件としては、例えば、40〜50℃である。
【0062】
ハイブリダイズ工程の反応系(反応系)における各組成の体積や濃度は、特に制限されない。具体例としては、前記反応系において、DNAの濃度は、例えば、0.01〜1μmol/Lであり、好ましくは0.1〜0.5μmol/L、前記標識化プローブの濃度は、例えば、前記DNAに対する添加割合を満たす範囲が好ましく、例えば、0.001〜10μmol/Lであり、好ましくは0.001〜1μmol/Lである。
【0063】
そして、前記反応液の温度を変化させ、前記増幅産物と前記標識化プローブとのハイブリッド形成体の融解状態を示すシグナル値を測定する。具体的には、例えば、前記反応液(前記一本鎖DNAと前記標識化プローブとのハイブリッド形成体)を加熱し、温度上昇に伴うシグナル値の変動を測定する。前述のように、末端のC塩基が標識化されたプローブ(グアニン消光プローブ)を使用した場合、一本鎖DNAとハイブリダイズした状態では、蛍光が減少(または消光)し、解離した状態では、蛍光を発する。したがって、例えば、蛍光が減少(または消光)しているハイブリッド形成体を徐々に加熱し、温度上昇に伴う蛍光強度の増加を測定すればよい。
【0064】
蛍光強度の変動を測定する際の温度範囲は、特に制限されないが、例えば、開始温度が室温〜85℃であり、好ましくは25〜70℃であり、終了温度は、例えば、40〜105℃である。また、温度の上昇速度は、特に制限されないが、例えば、0.05〜20℃/秒であり、好ましくは0.08〜5℃/秒である。
【0065】
目的の塩基部位における遺伝子型(野生型、変異型など)の決定は、例えば、ハイブリッド形成時におけるシグナル変動を測定することによって行いうる。すなわち、前記プローブを含む反応液の温度を降下させてハイブリッド形成体を形成する際に、前記温度降下に伴うシグナル変動を測定する。
【0066】
具体例として、単独でシグナルを示し且つハイブリッド形成によりシグナルを示さない標識化プローブ(例えば、グアニン消光プローブ)を使用した場合、一本鎖DNAとプローブとが解離している状態では蛍光を発しているが、温度の降下によりハイブリッドを形成すると、前記蛍光が減少(または消光)する。したがって、例えば、前記反応液の温度を徐々に降下させて、温度下降に伴う蛍光強度の減少を測定すればよい。他方、単独でシグナルを示さず且つハイブリッド形成によりシグナルを示す標識化プローブを使用した場合、一本鎖DNAとプローブとが解離している状態では蛍光を発していないが、温度の降下によりハイブリッドを形成すると、蛍光を発するようになる。したがって、例えば、前記反応液の温度を徐々に降下させて、温度下降に伴う蛍光強度の増加を測定すればよい。
【0067】
また、本発明においては、目的の塩基部位における遺伝子型の決定のために、前記シグナルの変動を解析してTm(melting temperature)値として決定してもよい。
【実施例】
【0068】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0069】
〔実施例1:精製したヒトゲノムからのJAK2の検出〕
(1)試料の調製
既にJAK2の1849番目の塩基がGGであることが判明している精製されたヒトゲノム(HM)、1849番目の塩基がTTであることが判明している精製されたヒトゲノム(Hm)、そしてHMとHmを混合したヒトゲノム(HH)を試料とし、陰性コントロール(NC)として水を試料とした。
(2)核酸増幅および融解曲線解析
上記ヒトゲノム試料および陰性コントロールにそれぞれ下記試薬を添加して、下記条件によりJAK2遺伝子を検出した。核酸増幅および融解曲線解析には東洋紡績社製GENECUBE(登録商標)を使用した。
【0070】
試薬
以下の試薬を含む10μl溶液を調製した。
核酸プライマー(配列番号3) 1500nM
核酸プライマー(配列番号4) 300nM
核酸プローブ(配列番号1、3’末端をBODIPY−FL標識) 300nM
×10緩衝液 1μl
dNTP 0.2mM
MgSO 4mM
KOD plus DNA polymerase(東洋紡績製) 0.3U
試料 1μl
【0071】
核酸増幅および融解曲線解析
94℃・2分
(以上1サイクル)
97℃・1秒
60℃・3秒
63℃・5秒
(以上50サイクル)
94℃・30秒
39℃・30秒
39℃〜75℃(0.09℃/秒で温度上昇)
【0072】
結果
図1は、温度上昇にともなう蛍光強度の変化を、グラフの横軸を温度、縦軸を蛍光シグナルの微分値として解析結果を表した図である。図1より明らかなように、HMは約60℃、Hmは約50℃で単一のピークが検出されており、JAK2遺伝子の1849番目の塩基が明確に判別できる。また、HHはこれら二つのピークの両方が検出されており、1849番目がGであるゲノムとTであるゲノムとが混合された試料からは、野生型と変異型の両方の存在を検出することが可能であることを示している。
【0073】
〔実施例2:本発明の核酸プライマーと非特許文献7に記載の核酸プライマーの比較〕
(1)試料の調製
濃度既知の精製されたヒトゲノムを10mM Tris−HCl(pH7.5)で希釈して500コピー/μlまたは50コピー/μlに調製し、試料とした。陰性コントロール(NC)として水を試料とした。
(2)核酸増幅および融解曲線解析
上記ヒトゲノム試料および陰性コントロール(NC)にそれぞれ下記試薬を添加して、下記条件によりJAK2遺伝子を検出した。核酸増幅および融解曲線解析には東洋紡績社製GENECUBE(登録商標)を使用した。
【0074】
試薬
以下の試薬を含む10μl溶液を調製した。核酸プライマーは本発明に記載のプライマー(配列番号3、配列番号4)および非特許文献7に記載のプライマー(配列番号6、配列番号7)を使用した。
[試薬組成1]
核酸プライマー(配列番号3) 1500nM
核酸プライマー(配列番号4) 300nM
核酸プローブ(配列番号1、3’末端をBODIPY−FL標識) 300nM
×10緩衝液 1μl
dNTP 0.2mM
MgSO 4mM
KOD plus DNA polymerase(東洋紡績製) 0.3U
試料 1μl
[試薬組成2]
核酸プライマー(配列番号6) 1500nM
核酸プライマー(配列番号7) 300nM
核酸プローブ(配列番号1、3’末端をBODIPY−FL標識) 300nM
10× Buffer for KOD ―Plus― Ver.2(東洋紡績社製) 1μl
dNTP 0.2mM
MgSO 4mM
BSA 2μg
DMSO 0.75μl
KOD plus DNA polymerase(東洋紡績製) 0.3U
試料 1μl
【0075】
核酸増幅および融解曲線解析
94℃・2分
(以上1サイクル)
97℃・1秒
60℃・3秒
63℃・5秒
(以上50サイクル)
94℃・30秒
39℃・30秒
39℃〜75℃(0.09℃/秒で温度上昇)
【0076】
結果
図2は、温度上昇にともなう蛍光強度の変化を、グラフの横軸を温度、縦軸を蛍光シグナルの微分値として解析結果を表した図である。本発明の核酸プライマーを用いた試薬組成(試薬組成1)では、ヒトゲノム試料からのJAK2検出が行われた。しかし非特許文献7に記載のプライマーである、配列番号6および配列番号7で示される核酸プライマーを用いた試薬組成(試薬組成2)では、ヒトゲノム試料からのJAK2検出は不可能であった。
本実施例ではPCR中の核酸熱変性、アニーリング、伸長の各反応を非常に短時間で行っている。そのため核酸増幅および融解曲線解析が約30分で完了している。図2に示したとおり、本発明の核酸プライマーでは約30分でのJAK2遺伝子増幅および検出が可能だったが、非特許文献7に記載のプライマーでは同様の反応条件での短時間検出は不可能だった。従って、該核酸プライマーでは迅速な検出は困難であることが示唆される。
【0077】
〔比較例1:Taq DNA PolymeraseとKOD DNA Polymeraseの比較〕
(1)試料の調製
実施例2と同じ。
(2)核酸増幅および融解曲線解析
実施例2と同じ。
【0078】
試薬
以下の試薬を含む10μl溶液を調製した。
核酸プライマー(配列番号3) 1500nM
核酸プライマー(配列番号4) 300nM
核酸プローブ(配列番号1、3’末端をBODIPY−FL標識) 300nM
×10 rTaq DNA Polymerase Buffer(東洋紡績社製)1μl
dNTP 0.2mM
MgCl 4mM
BSA 2μg
DMSO 0.75μl
rTaq DNA Polymerase 0.3U
試料 1μl
【0079】
核酸増幅および融解曲線解析
実施例2と同じ。
【0080】
結果
本比較例は実施例2からDNAポリメラーゼをrTaq DNA Polymeraseに変更して行ったものであり、核酸増幅および融解曲線解析の条件は実施例2と同一である。本比較例の結果は図3で表される。rTaq DNA Polymeraseを使用した本比較例ではJAK2の検出はできなかった。
【0081】
〔実施例3:Taq DNA Polymeraseを用いたJAK2遺伝子の検出〕
(1)試料の調製
実施例2と同じ。
(2)核酸増幅および融解曲線解析
実施例2と同じ。
【0082】
試薬
以下の試薬を含む10μl溶液を調製した。
核酸プライマー(配列番号3) 1500nM
核酸プライマー(配列番号4) 300nM
核酸プローブ(配列番号1、3’末端をBODIPY−FL標識) 300nM
×10 rTaq DNA Polymerase Buffer(東洋紡績社製)1μl
dNTP 0.2mM
MgCl 1.5mM
DMSO 0.75μl
rTaq DNA Polymerase 0.3U
試料 1μl
【0083】
核酸増幅および融解曲線解析
94℃・2分
(以上1サイクル)
94℃・5秒
60℃・5秒
72℃・15秒
(以上50サイクル)
94℃・30秒
39℃・30秒
39℃〜75℃(0.09℃/秒で温度上昇)
【0084】
結果
本実施は比較例1から試薬組成および核酸増幅条件を変更したものである。DNAポリメラーゼは比較例1と同じくrTaq DNA Polymeraseを用いた。本実施例の結果は図4で表される。図3と図4の比較により試薬組成及び核酸増幅条件を変更することでrTaq DNA Polymeraseでも検出ピークが得られることがわかる。従って、本発明の核酸プライマーおよび核酸プローブを用いたJAK2遺伝子検出はDNAポリメラーゼの種類によって限定されるものではない。しかし一方で、実施例2と実施例3との比較から迅速な検出を行うにはrTaq DNA PolymeraseよりもKOD DNA Polymeraseの方がより好ましいことが示唆される。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明をJAK2遺伝子検査およびJAK2遺伝子検査試薬開発に適用することで、迅速、確実かつ簡便な慢性骨髄増殖性疾患関連遺伝子の変異検出を行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
JAK2遺伝子の変異を検出するためのプローブであって、配列番号1または2のいずれかに示す塩基配列からなるプローブ。
【請求項2】
前記プローブが、標識物質で標識化された標識化プローブである、請求項1に記載のプローブ。
【請求項3】
前記標識化プローブが、蛍光色素による標識である、請求項2に記載のプローブ。
【請求項4】
JAK2遺伝子の変異を検出する方法であって、以下(1)〜(3)の工程を全て含む方法。
(1)被検核酸と請求項1〜3のいずれかに記載のプローブとをハイブリダイズさせ複合体を形成させる工程
(2)前記工程(1)のあとに、連続的な温度上昇を行いながら融解曲線分析を行う工程。
(3) 温度変化に伴う融解曲線の変動から、前記被検核酸における前記変異の有無を決定する工程
【請求項5】
工程(1)におけるプローブが、標識物質で標識化された標識化プローブであり、該プローブの標識強度を測定することにより融解曲線分析を行う、請求項4に記載の方法
【請求項6】
前記標識化プローブが、蛍光色素による標識であり、該プローブを標識している蛍光色素の蛍光強度を測定することにより、融解曲線分析を行う、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
工程(1)における被検核酸が、プライマー対を用いて鋳型核酸から増幅された物である、請求項4〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
核酸増幅に、100塩基/秒以上のDNA合成速度を有し、かつ、5’エキソヌクレアーゼ活性を持たないDNAポリメラーゼを用いる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記プライマー対が、下記(F)のオリゴヌクレオチドからなるフォワードプライマーおよび下記(R)のオリゴヌクレオチドからなるリバースプライマーを含む一対のプライマーである、請求項7に記載の検出方法。
(F)塩基配列が配列番号3で示されるオリゴヌクレオチド
(R)塩基配列が配列番号4で示されるオリゴヌクレオチド
【請求項10】
核酸増幅法によりJAK2遺伝子を増幅するためのプライマー対であって、配列番号3、配列番号4のいずれかに示す塩基配列からなる核酸プライマー対。
【請求項11】
請求項4〜6のいずれかに記載のJAK2遺伝子の変異を検出する方法に用いるための変異検出キットであって、請求項1に記載のプローブを含む変異検出キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−17395(P2013−17395A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150764(P2011−150764)
【出願日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(000003160)東洋紡株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】