説明

骨髄抑制状態の評価方法

本発明は、患者の骨髄よく星状体を評価するためのキットおよび方法を提供する。これらの方法およびキットは、骨髄抑制療法の有用な手段を提供する。骨髄抑制イオンの代わりにある種のサイトカインの閾値を確立することによって、または正常レベルを用いて患者の骨髄の状態を評価することによって、治療方法を最適化して、骨髄毒性を減少させ、有効線量を最大にすることができる。更に、本発明は、患者に投与する骨髄抑制剤または免疫モジュレーターの線量を調節する目的で用いることができ、これによって患者由来の試料中の造血サイトカインのレベルを、線量を投与する前および/または後に、正常レベルと比較するキットおよび方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【関連出願情報】
【0001】
本出願は2000年1月14日出願の出願第09/0482,730号の一部継続出願であり、これは1999年1月29日出願の出願第60/118,071号の非仮出願であり、上記出願明細書の内容は、その開示の一部として本明細書に引用されている。
【政府基金の声明】
【0002】
この研究は、the National Institutes of HealthからのUnited States Public Health Service助成金R01 CA49995(RDB)によって一部支持された。
【発明の背景】
【0003】
化学療法および放射線免疫療法は、いずれもその用量を限定する骨髄抑制を誘発する。実際に、化学療法によって誘発される骨髄抑制は、最もよく見られる用量を限定し、致命的にさえなり得る癌治療の合併症である。Maxwell et al., Semin. Oncol. Nurs. 8: 113-123 (1992); Blijham, Anticancer Drugs 4: 527-533 (1993)。薬剤によって誘発される造血毒性は、癌患者の高用量化学療法を制限する一般的な原因であり(Boesen et al., Biotherapy 6: 291-302 (1993))、高用量化学療法は、骨髄移植(BMT)、自己幹細胞輸液、および造血増殖因子による治療と併用してしか行うことができない。
【0004】
抗癌骨髄抑制療法の後の回復期中に、造血前駆細胞は有糸分裂活性になり、骨髄区画を満たし、末梢白血球(pWBC)および血小板(PLT)が正常化した後も過剰増殖性のままである。この段階では、前駆細胞は一層放射線および化学感受性である。この期間中に追加の細胞毒性療法を患者に行うと、毒性は一層強くなると思われる。
【0005】
骨髄抑制療法の一般的モデルとして、全身放射線照射後の造血幹細胞および前駆細胞の急性損傷および回復も、徹底的に検討されてきた。Testaet al., Anticancer Res. 5: 101-110 (1985); Sado et al., Int. J. Radiat Biol 53: 177-187 (1988); Meijne et al., Exp. Hematol. 19: 617-623 (1991)。外部ビーム照射により、造血幹細胞が長期損傷し、これは治療の3−6ヶ月後にも最適下限レベルではあるが有糸分裂活性な造血前駆細胞(CFU−S)の存在を示している。Lorimore et al., Int. J. Radiat Biol 57: 385-393 (1990); Lord et al., Int. J. Radat. Biol. 59: 211-218 (1991)。末梢血は正常細胞数を含んではいるが、大腿部および脾臓のCFU−S(脾コロニー形成単位)、CFU−GM(顆粒球−単球コロニー形成単位)およびBFU−E(赤芽球バースト形成単位)の持続的涸渇が起きる可能性がある。Grande et al., Int. J. Radiat. Biol. 59: 59-67 (1993)。支持ストローマの著しい減少も報告されている。Tavassoli et al., Exp. Hemato. 10: 435-443 (1992)。放射線暴露の後、回復は亜致死細胞損傷の修復および生き残っている部分による代償的細胞増加によって進行する。Hall in RADIOBIOLOGY FOR THE RADIOBIOLOGIST (Harper & Row 1978); Jones et al., Radiation Res. 128 : 256- 266 (1991)。
【0006】
正常な白血球(WBC;>4000/mm)および血小板(PLT;>100,000/mm)数は、反復骨髄抑制治療に対する患者の耐性を示す通常のマーカーである。しかしながら、前臨床および臨床結果から、末梢での数は完全な骨髄抑制からの回復を予測するための信頼性ある代用物とはならないことが示唆されている。WBCおよびPLT数は正常と思われても、原子幹細胞および前駆細胞画分は以前の骨髄抑制療法から完全には回復していない。
【0007】
他の細胞毒性治療では、幹細胞および前駆細胞は速やかに増殖しているが、一層重篤な骨髄毒性を生じ、死に至らしめる可能性さえある。この問題の一つの解決法は、骨髄(BM)穿刺液を集め、長期培養系を用いて高増殖能CFC(HPP−CFC)または長期培養始原細胞(LTC−IC)を定量することである。Eaves et al., Tiss. Culture Meth. 13: 55-62 (1991); McNiece et al., Blood 75: 609-612 (1989)。この方法は必要な情報を提供することができるが、このような分析法を行うには3−6週間を要するので、臨床的には有用ではない。
【0008】
造血の際には、多能性幹細胞は複数の系統で分化し、増殖する。この過程は、「初期」および「後期」造血サイトカインの許容影響下で進行する。Lowry et al., J. Cell Biochem. 58: 410-415 (1995)。「初期」刺激因子としては、SCF、FLT−3−L、IL−1、IL−3、IL−6、およびIL−11が挙げられる。これらの正の調節因子の他に、造血は抑制性サイトカインによっても制御される。骨髄造血の負の調節は、幾つかの抑制性サイトカイン、特にMIP−1α(Cooper et al., Expt. Hematol. 22: 186-193 (1994); Dunlop et al., Blood 79: 2221-2225 (1992))、TGF 3 (Jacobsen et al., Blood 78: 2239-2247 (1991); Maze et al., J. Immunol. 149: 1004-1009 (1992))、およびTNFα(Mayani et al., Eur. J. Haematol. 49: 225-233 (1992))を介して起こる。
【0009】
これまでは、細胞毒性治療後の時間の関数としてのこれらの抑制性ペプチドの経時変化は、定量化されていない。しかしながら、放射線照射、化学療法、失血、感染症、炎症のような緊張条件下では、刺激増殖因子および抑制性増殖因子はいずれも細胞適合過程において主要な役割を果たしていることが知られている。Cannistra et al., Semin. Hematol. 25: 173-188 (1988)。ストレス下では、幹細胞画分の静止CFU−S成分は活性細胞サイクリングに誘導され、正常な骨髄細胞性が修復されると大部分はG期に戻る。Becker et al., Blood 26: 296-304 (1965)。
【0010】
最近の文献は、骨髄再生を監視する非侵襲的方法が臨床的にかなり有利なとされた、幾つかの重要な領域を明らかにしている。例えば、高用量養生法の安全性および費用効率を改良するため、骨髄破壊的療法後の骨髄の回復を促進するために造血細胞支持体(サイトカイン)が用いられている。この方法により末梢血での数は早期に回復するが、骨髄の増殖状態は知られていないままであり、極めて活発で感受性状態にある可能性がある。
【0011】
もう一つの関連例は、骨髄抑制または骨髄破壊的療法後の同種または自己BMT、または更に最近では末梢幹細胞移植(SCT)の使用に関する。これらの条件下では、造血は、骨髄前駆細胞、特に赤芽球および巨核球型の数年間の長期で重篤な欠損を特徴とするが、末梢WBCおよびPLTは数週間で比較的正常なレベルに到達している。従って、良好な移植は、WBCまたはPLTの正常化によっては測定することができず、別の種類のマーカー、恐らくは正常な骨髄ストローマ機能と関連したものが必要である。Domensch et al., Blood 85: 3320-3327 (1995)。BMTまたはSCTを用いるときには、「真の」骨髄回復を決定するには、更なる情報が求められる。Talmadge et al., Bone Marrow Transplant. 19(2): 161-172 (1997)。
【0012】
更に、骨髄回復の非侵襲的方法が有用である別の領域は、白血球除去法の計画に対するものである。患者毎の骨髄回復に対するばらつきはG−CSF幹細胞起動後には極めて変化しやすいので、この処置の最良の時間を予測することは困難である。骨髄毒性の最下点および回復の1以上のマーカーの同定により、SCT技術が進歩する。Shpall et al., Cancer Treat. Res. 77: 143-157 (1997)。
【0013】
ある研究者は、同種または自己BMTの後、内在性G−CSFレベルの上昇が先行し、骨髄移植と相関することを示した。Cairo et al., Blood 79 (7): 1869-1873 (1992)。更に、急性細菌感染症にかかっている患者では、骨髄造血の速度が増大した需要に適合しなければならず、G−CSFは増加したが、GM−CSFは増加しなかった。Selig et al., Blood 79: 1869-1873 (1995)。他の研究は、再構成に関与する幹細胞のサブセットはGM−CSF、IL−3、IL−6、およびSCFによって制御されることを示した。Wagemaker et al., Stem Cells 13: 165-171 (1995)。他の報告では、骨髄抑制症状出現の際に1個以上のサイトカインを定量した。Sallerfors et al., Br. J. Hematol. 78: 343-351 (1991) ; Baiocchi et al., Cancer Research 51: 1 297-1303 (1996); Chen et al., Jap. J. Clin. Oncol. 26: 18-23 (1996)。しかしながら、これまでは、骨髄抑制後の回復期については慎重に研究を行った者はなく、また重篤な毒性なしに再投与する能力との相関はない。比較的新しいストローマ細胞によって産生した正の刺激サイトカインFLT−3−L(Brasel et al., Blood 88: 2004-2012 (1996); Lisovsky et al., Blood 88 (10): 3987-97 (1996))は、今日まで構成的または誘導造血に関して全く検討されていない。所定用量のRAITに応答する骨髄毒性の大きさを予測することができれば、患者に特異的な投薬を行うことができる。赤色骨髄(red marrow)によって吸収された用量は、RAIT治療を受けた患者の造血毒性を余り予測し得るものではなかった。DeNardo GL、DeNardo SJ, Macey DJ, Shen S, Kroger LA.「モデルとして131I−Lym−1を用いる放射線免疫療法に対する二次的な放射線骨髄毒性の概説」Cancer. 1994; 73: 1038-1048。Juweid ME, Zhang C, Blumenthal RD, Hajjar G, Sharkey RM, Goldenberg DM.「131Iで標識した抗癌胎児性抗原モノクローナル抗体による放射線免疫療法後の血液学的毒性の予測」J Nucl Med. 1999; 40: 1609-1616。
【0014】
赤色骨髄用量の計算のための一層患者に特異的なモデルが提供されるので用量−毒性の関係が改良されると思われるが、非ミエロアブレーティブ(myeloablative)放射線免疫療法(RAIT)前に治療を受けた患者の耐性を画定するには一層の検討が求められる。従って、患者の骨髄の予備を一層正確に反映し、RAITの活性処方をそれに応じて調節することができる方法を確立することが求められている。
【0015】
上記研究(Blumenthal RD, Lew W, Juweid M, Alisauskas R, Ying Z, Goldenberg DM.「血漿FLT3−Lレベルは骨髄抑制療法からの骨髄回復を予測する」Cancer. 2000; 88: 333-343)では、検討を行った患者個体群の13%が骨髄線量によって予測されたよりもかなり低い毒性を受け、同じ個体群の15%が予測されたよりかなり大きな毒性を受けたことが示された。これらの患者の多くは、RAITを受ける前に外部ビーム放射線療法および/または化学療法の複数治療を受けていた。前の細胞毒性療法からの長期造血損傷が患者の骨髄を一層「脆く」しており、従って、RAIT線量に対して放射線感受性が高くなると仮定した。他の腫瘍産生サイトカインも骨髄細胞の増殖速度に影響する重要な因子であり、これによってRAITからの放射線に対するそれらの応答に影響を及ぼすこともある。R.D. Blumenthal, A. Reising, E. Leon, and D.M. Goldenberg.「同系膵臓腫瘍系由来の腫瘍産生サイトカインによる骨髄増殖および化学感受性の調節」American Society of Hematology Annual Meeting Abstracts, 2001; #946。
【0016】
FLT3−Lは初期造血に関与する増殖因子であり、膜貫通および可溶性形態で発現し、骨髄、脾臓および末梢血で造血骨髄およびリンパ球系幹/前駆細胞(CFU−GMおよびCFU−GEMM)の増殖およびコロニー形成を刺激/補助刺激する。Lisovsky M, Braun SE, Ge Y, et al.「ヒト骨髄ストローマ細胞によるFlt3−リガンド産生」Leukemia. 1996; 10: 1012-1018。Brasel K, McKenna HJ, Morrissey PJ, et al.「マウスにおけるflt3−リガンドのイン・ビボでの血液学的効果」Blood. 1996; 88: 2004-2012。Papayannopoulou T, Nakamoto B, Andrews RG, et al.「霊長類における造血前駆細胞の流動化に対するflt3/flk2−リガンドのイン・ビボ効果および顆粒球コロニー刺激因子による強力な相乗的増加」Blood. 1997 ; 90: 620-629。FLT3−Lは、単独ではコロニー刺激活性が弱いが、他のコロニー刺激因子(CSFs)と組み合わせるとコロニーの数および大きさに対して付加的あるいは付加的以上の活性を有する。更に、RAITの所定の骨髄線量に対して予測したよりかなり低い毒性を受けているかなり大きな数の患者に対して予測マーカーを確立することが求められ続けている。
【0017】
従って、当該技術分野では、改良法、およびそれらの方法を実行し、上記の不完全な治療法に関して骨髄抑制の回復を予測するキットが求められている。このような方法を用いて、治療を最適にし、医師に治療、特に再治療の適当な時期、を通知することによって毒性作用を回避し、治療効果を最大にすることができる。このような方法が提供されるならば、当該技術分野は新たな最適化した治療方法を有することとなる。
【発明の概要】
【0018】
従って、本発明の目的は、患者の骨髄の状態を評価するためのキットおよび方法を提供することである。特に、キットおよび方法を用いて、患者の骨髄抑制治療、例えば化学療法または放射線療法を管理することによって、患者由来の試料における造血サイトカインのレベルを閾値レベルまたは正常レベル(例えば、正常患者で予想されるレベル)と比較することができる。患者の造血サイトカインを用いて、療法を行う前または療法を行った後に治療を管理することができる。例えば、患者の造血サイトカインレベルを用いて骨髄抑制剤の用量を調節することができる。
【0019】
また、患者に投与する骨髄抑制剤の用量を調節する方法も開示され、この方法は、患者由来の試料中の少なくとも1種類の造血サイトカインのレベルを測定し、この造血サイトカインのレベルを正常レベルと比較することを包む。この方法で測定することができる適当な造血サイトカインとしては、SCF、FLT3−L、IL−1、IL−3、IL−6、IL−11、IL−21、MIP−1α、TGF−α、TGF−β、G−CSF、またはGM−CSFが挙げられる。特に、FLT3−L、TNF−α、またはTGF−βが適当であり、とりわけFLT3−Lが適当である。造血サイトカインのレベルは当該技術分野で知られている方法によって測定することができ、この方法は造血サイトカインを、この造血サイトカインと特異的に結合する抗体または抗体断片と結合させることを含むことがある。試料は、任意の適当な組織または体液を含むことができ、特に試料は血漿または血液から採取することができる。
【0020】
この方法では、造血サイトカインレベルが正常レベルに比較して減少しているときには骨髄抑制剤の用量を増し、または造血サイトカインレベルが正常レベルに比較して増加しているときには減らしてよい。あるいは、造血サイトカインレベルが正常レベルに比較して増加しているときには用量を増し、または造血サイトカインレベルが正常レベルに比較して減少しているときには用量を減らしてよい。
【0021】
この方法は、骨髄抑制剤を患者に投与することを含むこともできる。骨髄抑制剤を患者に投与する場合には、骨髄抑制剤を患者に投与する前、した後、または前および後の両方の時点で造血サイトカインのレベルを測定するものである。
【0022】
特に、キットおよび方法を用いて骨髄毒性用量を計算することができる。例えば、骨髄毒性線量の計算値は、患者の全血の蓄積活性および予備治療トレーサーを投与した後の患者の全身の蓄積活性を測定することによって決定することができる。予備治療トレーサーは、典型的には骨髄抑制剤を投与する約1−約2週間前に投与される。
【0023】
この方法は、当該技術分野で周知の幾つかの方法から造血サイトカインの「正常レベル」を決定しようとするものである。一態様では、正常レベルは、正常患者(例えば、骨髄抑制されていないおよび骨髄抑制治療を受けたことがない他の点では健康な患者)の造血サイトカインのレベルを測定することによって決定することができる。あるいは、正常レベルは参照物質から得ることができる。一態様では造血サイトカインの正常レベルは約40pg/ml−約85pg/mlであり、特に約80pg/mlである。好ましい造血サイトカインはFLT3−Lである。
【0024】
また、骨髄抑制剤を患者に投与する前または後に、患者に投与する免疫モジュレーターの用量を決定する方法であって、患者由来の試料における少なくとも1個の造血サイトカインのレベルを測定し、この造血サイトカインのレベルを正常レベルと比較することを含む方法も開示される。造血サイトカインレベルが正常レベルに比較して減少しているときには用量を増し、または造血サイトカインレベルが正常レベルに比較して増加しているときには用量を減らすことができる。あるいは、造血サイトカインレベルが正常レベルに比較して増加しているときには用量を増し、または造血サイトカインレベルが正常レベルに比較して減少しているときには用量を減らすことができる。特定の例では、骨髄抑制剤を投与する前、後、または前および後の両方の時点で免疫モジュレーター投与する。免疫モジュレーターとしては、治療目的での投与に適する任意のサイトカインを挙げることができ、特に造血増殖または細胞増殖因子を刺激するサイトカインが適当であることがある(例えば、IL−1、IL−2、IL−3、IL−6、IL−10、IL−12、IL−18、IL−21、インターフェロン−α、インターフェロン−β、インターフェロン−γ、G−CSF、GM−CSF、トロンボポエチン、およびエリスロポエチン)。とりわけ、G−CSF、GM−CSF、トロンボポエチン、またはエリスロポエチンが、治療用投与(例えば、この方法で考えられる増殖を刺激するため)に所望な因子である可能性がある。
【0025】
この方法では、骨髄抑制剤としては、化学療法剤、放射線療法剤、または両方が挙げられる。放射線療法剤としては、放射線免疫療法剤が挙げられる。
【0026】
キットおよび方法を用いて、患者の骨髄抑制状態を評価し、または骨髄回復を検出することもできる。これらのキットおよび方法には、患者試料の少なくとも1種類のサイトカインの量を閾値レベルと比較し、これによって患者の骨髄抑制状態を測定しまたは骨髄回復を検出することが必要である。一態様では、サイトカインに特異的な試薬は、SCF、FLT3−L、IL−1、IL−3、IL−6、IL−11、IL−21、MIP−1α、TGF−α、TGF−β、G−CSF、またはGM−CSFに特異的であり、この試薬は抗体または抗体断片を含んでなることができる。これらの目的によれば、本発明は、少なくとも1種類の造血サイトカインに特異的な検出試薬を含むキット(またはを用いる方法)を提供する。この試薬は、サイトカインの閾値レベルであって、骨髄抑制状態と相関するものを検出するために適合させることができる。一態様では、サイトカインに特異的な試薬は、SCF、FLT3−L、IL−1、IL−3、IL−6、IL−11、IL−21、MIP−1α、TGF−α、TGF−β、G−CSF、またはGM−CSFに特異的であり、この試薬は抗体または抗体断片を含んでなることができる。この試薬を用いて、患者の造血サイトカインレベルを測定し、および/または正常レベル(例えば、他の点では健康でありおよび/または骨髄抑制されていない患者のレベル)と比較することができる。
【0027】
本発明のもう一つの目的は、骨髄抑制剤を用いるときの癌または任意の疾患を治療する改良法を提供することである。更にこの目的に対して、患者に化学療法剤または放射線療法剤のような抗癌または他の細胞毒性剤の有効量を投与し、少なくとも1種類の造血サイトカインのレベルを閾値レベルまたは正常レベル(例えば、正常な患者のレベル)と比較する方法が提供される。一態様では、サイトカインは、SCF、FLT3−L、IL−1、IL−3、IL−6、IL−11、IL−21、MIP−1α、TGF−α、TGF−β、G−CSF、またはGM−CSFである。一態様では、この方法は、閾値レベルまたは正常レベルを用いて治療を管理することを伴う。例えば、閾値に近いかまたは越えるときには、閾値にそれ以上近づかないかまたは超過しなくなるまで治療を中止または減少し、または治療を正常レベルと比較した患者の造血サイトカインレベルに基づいて調節する。
【発明の詳細な説明】
【0028】
A.定義
本明細書で用いられる「骨髄抑制」とは、1以上の造血成分の抑制を表し、これはこの工程の産物である1以上の細胞型の異常なレベルで現れる。造血および造血細胞の特徴の総説については、「臨床免疫学: 原理と実際(CLINICAL IMMUNOLOGY: PRINCIPLES AND Practice)」, 第1巻,第2章,15−24頁(Lewis and Harriman 監修 Mosby-Year Book, Inc. 1996)を参照されたい。上記頁の内容は、その開示の一部として本明細書に引用されている。一般的レベルでは、それは白血球(WBC)および/または血小板数の減少を表す。これはまた、一層特異的なレベルでは、造血から生じる下記の細胞の1以上の抑制を表す:B−細胞、T−細胞、ナチュラルキラー細胞、樹状細胞、マクロファージ、好中球、好酸球、好塩基球、マスト細胞および血小板。従って、これに反して、「骨髄回復」は骨髄抑制の反対語である。
【0029】
本明細書で用いられる「骨髄抑制剤」とは、化学療法剤および放射線療法剤などの任意の造血成分を抑制する任意の薬剤である。
【0030】
本明細書で用いられる「刺激性サイトカイン」とは、1以上の分化の段階で造血を促進するものである。刺激性サイトカインとしては、SCF、FLT−3−L、IL−1、IL−3、IL−6、IL−11、IL−21、および当業者に知られている他のものが挙げられる。
【0031】
本明細書で用いられる「抑制性サイトカイン」とは、1以上の造血の段階に負の効果を有する。典型的な抑制性サイトカインとしては、MlP−1α、TGFβ3、TNFα、および当該技術分野で知られている他のものが挙げられる。
【0032】
本明細書で用いられる「造血サイトカイン」は、「刺激性サイトカイン」および「抑制性サイトカイン」を両方とも包含することができる。
【0033】
本明細書で用いられる「免疫モジュレーター」としては、IL−1、IL−2、IL−3、IL−6、IL−10、IL−12、IL−18、IL−21、インターフェロン−α、インターフェロン−β、インターフェロン−γ、G−CSF、GM−CSF、トロンボポエチン、およびエリスロポエチンが挙げられる。
【0034】
本明細書で一般的意味で用いられる「抗体」という用語は、文脈によって指摘しない限り、「抗体断片」および抗体下位断片が発現する特異抗原に結合する能力を保持している遺伝子工学処理を再度行った抗体下位断片の他の形態が挙げられる。
【0035】
本明細書で用いられる「患者」という用語は、治療を必要とするヒトまたは動物を意味する。「患者」は「被験者」と同義的に使用される。
【0036】
本明細書で用いられる「試料」とは、血漿、血液、または患者由来の任意の他の組織を挙げることができる。
【0037】
B.本発明の原理
本発明は、被験者が骨髄抑制を受けた後に(例えば、放射線、細胞毒性化学療法のような化学療法、または他の手段の後に)様々な抑制性および刺激性サイトカインを監視することによって骨髄回復を予測する機能に関する。本発明者らは、ある種のサイトカインの閾値を、健康管理専門家の骨髄抑制療法の使用の指針として用いることができることを見出した。特に、これらの閾値レベルは、患者がこのような療法に耐えられるかどうかを示唆するマーカーを提供する。これは、細胞減少療法の監視に一般的に応用され、被験者の閾値レベルを用いて、患者がある線量の骨髄抑制剤から十分に回復して別の増加線量に耐えられるかどうかを決定する。
【0038】
本発明の方法で監視されるサイトカインレベルには、いわゆる「初期」の刺激性サイトカインおよび抑制性サイトカインが挙げられる。これらの方法およびキットで用いるため、骨髄抑制回復と相関するサイトカイン(またはそれらの組合せ)の統計学的に有意な閾値レベルを確かめることができる。当業者であればこのような統計分析には精通しており、実施例で下記に示されるようにこのような閾値レベルを容易に確かめることができる。
【0039】
広義には、閾値レベルは正常なボランティアで見出されるレベル(すなわち、正常レベル)であり、骨髄抑制に関するあらゆる偏差はその状態を示している。特に、閾値レベルは、特異性[(真の負)/(真の負+総個体数)]、確度[(真の正+真の負)/(総個体数)]、および感受性[(真の正)/(真の正+偽の負)]が最大になるように設定されるべきである。しかしながら、当業者は、特異性、確度または感受性を高くすると他のものが低くなる可能性があるので、このような最大化はある種の犠牲を表すことが多いことが分かるであろう。創意に富む方法の中には、約65%より大きな特異性、確度および感受性を生じるものがあるが、好ましい方法の中には、少なくとも約75%の特異性、確度および感受性を生じるものがある。
【0040】
「初期」刺激因子としては、SCF、FLT−3−L、IL−1、IL−3、IL−6、IL−11、およびIL−21が挙げられるが、これらに限定されない。これらの因子は、骨髄回復の初期段階に関与していると思われる。従って、それらが存在するときには、損傷は最悪となる。従って、統計的に有意な閾値を確かめて、これを越えるときには、継続治療をしないように忠告をするかまたは線量を減少するようにする。
【0041】
対照的に、抑制性サイトカインは、骨髄抑制回復が実質的に完了して工程が停止しているときに存在すると思われる。従って、これらのサイトカインの閾値レベルは最低限レベルを表し、それを下回るときには、治療を減少しまたは停止すべきである。典型的な抑制性サイトカインとしては、MIP−1α、TGFβ3、およびTNFαが挙げられる。
【0042】
本発明は、骨髄回復の予測における傾向の有用性に関するものである。例えば、血漿サイトカインの絶対量は、サイトカインがそのピークに達したときからの期間と連結させる必要があると思われる。例えば、下記の実施例で見られるように、FLT3−Lに対する値は100pg/mlを下回る値から400pg/mlを上回る値までの範囲であるので、正常範囲内または少し上のFLT3−Lの読みを数日後に再度評価して、血漿FLT3−Lが上昇傾向であるか、または上昇した後にベースラインレベルにまで戻るかどうかを決定する必要がある。FLT3−Lレベルが正常に戻り且つ数週間正常ベースラインレベルを維持している患者は、骨髄抑制症状発現およびFLT3−L上昇から数日前に回復した患者よりも高線量に耐えることができると考えられる。これにより、測定したサイトカインのいずれとも厳密には相関しない低毒性群が説明される。
【0043】
C.本発明によるキット
本発明によるキットは、典型的には少なくとも1種類のサイトカインに特異的な検出試薬を含んでなる。幾つかのキットは、少なくとも2種類のサイトカインに特異的な検出試薬を含む。ほとんどの場合に、それぞれの試薬はサイトカインの閾値レベルの検出に適合し、これは患者の骨髄抑制状態と相関している。一態様では、本発明は、患者の骨髄抑制状態を評価するキットに関するものであり、これは医師が最適治療法を選択するようにするのに有用である。それらは、例えば、骨髄抑制治療の観察、骨髄刺激性治療の効力の観察、および骨髄抑制疾患からの回復の観察に応用することができる。
【0044】
本発明のキットの幾つかの態様は、適当な試験基剤と関連して検出試薬を含む。適当な基剤としては、「ディップスティック(dipsticks)」、試験ストリップ、マイクロタイタープレート、顕微鏡スライドなどが挙げられる。本発明のキットは、一般的には下記の方法を実行し、そのような状況を考慮しながら説明する。
【0045】
1.サイトカインに特異的な検出試薬
キットのサイトカインに特異的な検出試薬は、一般的に目的とするサイトカインを、幾つかの場合には定量的に、特異的に検出することができる。典型的には、この試薬はサイトカインに特異的に結合することができ、直接または間接的に検出可能となる。例えば、試薬は抗体でよく、放射性核種、酵素または蛍光タグのような検出可能な標識を含んでなることができる。標識は、例えば、酵素免疫測定法(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)などの通常の免疫分析法を用いて検出することができる。適当な方法は「分子生物学の最新の方法(CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY)」,第11章(Ausubel et al.監修,John Wiley & Sons, Inc. 1997)に見出すことができ、その内容は、その開示の一部として本明細書に引用されている。
【0046】
抗体は、特異的に結合し且つ容易に産生することができるため、検出試薬のサイトカイン結合力を付与する手段と考えられる。抗体としては、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体(mAb)、ヒト化またはキメラ抗体、一本鎖Fv(scFv)断片、Fab断片、F(ab’)断片、Fab発現ライブラリーによって産生される断片、エピトープ結合断片などの一本鎖抗体、および上記のいずれかの多価形態が挙げられるが、これらに限定されない。
【0047】
一般に、ポリクローナルおよびモノクローナル抗体、並びに所望な抗体を産生することができるハイブリドーマの調製技術は当該技術分野で周知である(Campbell,「モノクローナル抗体技術:生化学および分子生物学における実験室手法(MONOCLONAL ANTIBODY TECHNOLOGY: LABORATORY TECHNIQUES IN BIOCHEMISTRY AND MOLECULAR BIOLOGY)」, (Elsevier Science Publishers 1984); St. Groth et al., J. ImmunoL Methods 35: 1-21 (1980); Kohler and Milstein, Nature 256: 495-497 (1975))、トリオーマ(trioma)技術、ヒトB−細胞ハイブリドーマ技術(Kozbor et al., Immunology Today 4: 72 (1983); Cole et al.,「モノクローナル抗体および癌治療(MONOCLONAL ANTIBODIES AND CANCER THERAPY)」,Alan R. Liss, Inc. (1985), 77-96頁)。抗原に対する抗血清の親和性は、例えばFisher著「臨床免疫学便覧(MANUAL OF CLINICAL IMMUNOLOGY)」,第2版,42章(Rose and Friedman監修,Amer. Soc. For Microbiology 1980)に記載の競合結合曲線を作成することによって決定することができる。
【0048】
抗体断片は、パラトープを包含し且つ目的のサイトカインを結合することができる抗体の任意の部分を含む。抗体断片は、具体的にはF(ab’)、Fab、Fab’、およびFv断片を包含する。これらは、任意のクラスの抗体から生成することができるが、典型的にはIgGまたはIgMから作製される。それらは通常の組換えDNA技術によって、または古典的方法を用いてパパインまたはペプシンによるタンパク質分解的消化によって作製することができる。「免疫学の最新の方法(CURRENT PROTOCOLS IN IMMUNOLOGY)」,第2章,(Coligan et al.監修,John Wiley & Sons 1991-92)を参照されたい。
【0049】
F(ab’)断片は典型的には約110kDa(IgG)または約150kDa(IgM)であり、ヒンジで(複数の)ジスルフィド結合によって連結した2個の抗原結合領域を含む。Fcの総てではなくとも実質的に総ては、これらの断片にはない。Fab’断片は典型的には約55kDa(IgG)または約75kDa(IgM)であり、例えば、F(ab’)断片の(複数の)ジスルフィド結合を還元することによって形成することができる。生成する(複数の)遊離のスルフヒドリル基を用いて、Fab’断片を局在化シグナルのような他の分子に好都合に接合することができる。
【0050】
Fab断片は一価であり、通常は約50kDa(任意の供給源由来)である。Fab断片は、抗体の抗原結合部分の軽(L)および重(H)鎖、可変(それぞれ、VおよびV)および定常(それぞれ、C)領域を含む。HおよびL部分は、1個以上の分子内ジスルフィド結合によって連結されている。
【0051】
Fv断片は典型的には約25kDa(供給源に無関係)であり、軽および重鎖の可変領域(それぞれ、VおよびV)を含む。通常、VおよびV鎖は非共有結合的相互作用のみによって保持されており、従って、容易に解離する。しかしながら、それらは大きさが小さいという利点を有し、且つより大きなFab断片と同じ結合特性を保持している。従って、グルタルアルデヒド(または他の化学架橋剤)、分子間ジスルフィド結合(システインの組込みによる)、およびペプチドリンカーなどを用いるVおよびV鎖を架橋する方法が開発されてきた。生成するFvは、従って、一本鎖(すなわち、scFv)である。
【0052】
抗体は、一本鎖抗体および断片も包含する(米国特許第4,946,778号明細書; Bird, Science 242: 423-426 (1988); Huston et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85: 5879-5883 (1988);およびWard et al., Nature 334: 544-546 (1989))。一本鎖抗体は、Fv領域の重および軽鎖断片をアミノ酸ブリッジを介して連結することによって形成され、一本鎖FV(scFv)を生じる。
【0053】
幾つかの典型的なキットは少なくとも1種類のサイトカイン特異的であって、すなわちFLT3−L、TNF−α、またはTGF−βに特異的な試薬を含む。本発明の一態様では、この試薬は酵素に結合した抗体または抗体断片を含んでなる。
【0054】
2.閾値を検出するための試薬の改良
本発明によるキットにより、患者の骨髄抑制状態と相関するサイトカインの特異的閾値を検出する。このような閾値およびその決定を、以下に詳細に説明する。便宜上、サイトカインに特異的な(複数の)検出試薬を改良して、ある種の閾値またはレベルを検出するのが有利である。この方法では、「Yes」または「No」の答を提供することができ、患者が骨髄抑制状態にあるかまたはないか(例えば、患者の造血サイトカインレベルが正常レベルまたは値からはずれている場合)を一般に示している。従って、例えば、比色法による検出を用いることができ、これによって、カラーの存在が、骨髄抑制状態と相関する閾値レベルに到達していることを示している。
【0055】
典型的には、様々な分析法(例えば、ELISA、RIA、RT−PCRなど)の試薬は、閾値より低い(複数の)ターゲットサイトカインのレベルを検出することができ、すなわち、それらは、求められるより高い感受性を有する。当業者であれば、当面の系の感受性を減少させて、所定の閾値レベルでシグナルを提供する方法を十分に認識されるであろう。特に有用なキットとしては、患者が骨髄抑制が十分に回復して、更なる細胞毒性療法に耐えるかどうかについての「Yes」または「No」の答を提供することができる試薬系を包含する。
【0056】
3.本発明によるキットの使用
キットを個人使用から商業規模での使用に改良して、個々の臨床医師、臨床研究センター、および商業的診断実験室の便宜を図ることができる。例えば、個人の臨床設定では、「ディップスティック」型配置が好都合なことがある。一態様では、サイトカイン特異的な検出試薬を、ディップスティックに応用することができる。従って、患者試料をディップスティック関連試薬に接触させることによって、キットを用いることができる。次に、検出試薬を、通常の比色法などを用いて可視化することができる。当然のことであるが、別の配置では、試料をディップスティックと接触させた後にサイトカイン特異的な検出試薬の適用が求められることがあり、正確な配置は選択の問題である。
【0057】
より大きな実験室に適するもう一つの例では、キットをマイクロタイタープレート(例えば、96穴プレート)で実行することができる。同じ試薬配置を用いて、検出試料をプレートに供給しておくかまたは試料をプレートに入れた後に加える。いずれにせよ、マイクロタイタープレートに高処理量リーダーを用いることができれば、極めて多数の試料をこの方法で自動的に処理することができる。また、特異的な配置はデザイン選択の問題である。
【0058】
D.発明による方法
本発明は、患者の骨髄抑制状態を評価する一般的方法を提供する。基本的方法は、少なくとも1種類のサイトカインの量を閾値レベルと比較することを含んでなる。次に、患者の骨髄抑制状態を、その閾値と比較して測定する。上記で説明したように、観察されたサイトカインは、初期刺激性または抑制性サイトカイン、またはそれらの組合せであることができる。一態様では、この方法は少なくともFTL3−Lのレベルの観察を伴う。
【0059】
血漿試料を本発明の方法で用いるときには、測定される量が骨髄細胞産生の関数であり、末梢血細胞または腫瘍細胞産生の関数ではないことを確かめるのが望ましい。幸運なことには、末梢血細胞は、単独ではほとんどのサイトカインを産生することができない。実際に、健康な患者の末梢血由来の逆転写RNAのPCR増幅では、TGFβ、MIP−1αおよびIL−1βが発現されたが、SCF、IL−6、G−CSF、GM−CSF、IL−1αは発現しなかったことが明らかになった。Cluitmans et al., Ann. Hemato. 75 (1-2): 27-31 (1997)。更に、腫瘍によって産生されるサイトカインは、骨髄によって産生されるサイトカインを混乱させることがある。TGFβおよびTNFαなどの幾つかのサイトカインは、卵巣、子宮頸部および子宮内膜癌患者由来の血液試料で上昇する。Chopra et al., J. Cancer Res. Clin. Oncol. 123: 167-172 (1997); Chopra et al., Cancer J. Sci. Am. 2: 279-285 (1996); Chopra et al., Cancer Investigation 16(3): 152-159 (1998).しかしながら、これが総ての癌の種類について真実であるかどうか、またはFLT3−L、SCFまたはMIP−1αが腫瘍によって産生されるという証拠があるということについては示唆されていない。当業者であれば、骨髄由来の産生について試験および制御の方法を容易に理解されるであろう。
【0060】
本発明の方法は、骨髄抑制を誘発し、または患者がイオン化放射線に暴露されてきた従来の療法と共に用いることができる。従って、閾値レベルに近づいたりまたはこれを越える場合には、治療は一般的には中止しまたは減少させる。次に、患者を再試験し、この試験が閾値に近づかずまたはこれを超過しないことを示しているときには、治療を再開することができる。一方、患者が治療を受けており、且つ本発明の試験が閾値に近づかずまたはこれを超過しなかったことを示しているときには、次の治療線量を安全に投与することができる。この方法では、投薬法は常時観察、線量および頻度増加によって設定することができ、閾値レベルに近づくかまたはこれを越えたときには、この時点で線量を減少または中止することができる。これに関して、サイトカインレベルが閾値数の少なくとも約15%以内であり、好ましくは少なくとも約10%以内であるときには、閾値レベルに近づく。
【0061】
本発明による方法での監視のための好ましいサイトカインとしては、FLT3−L、TNF−αおよびTGF−βが挙げられる。FLT3−Lは初期刺激性サイトカインであるので、関連閾値は最大である。一方、TNF−αおよびTGF−βは抑制性サイトカインであるので、関連閾値は最小である。典型的な閾値レベルとしては、FTL3−Lについては少なくとも約135pg/ml血漿、TNF−αについては多くとも約0.5pg/ml血漿、およびTGF−βについては多くとも約15pg/ml血漿が挙げられる。また、重要なのはこれらの絶対的閾値だけではないのであり、当業者であれば、特に複数日(1−3)の経時的に観察するときには、これらの閾値に対する傾向が予測において有意であることを認識されるであろう。
【0062】
本発明の一態様は、治療が必要な患者への有効量の抗癌剤の投与、および治療、特に線量を設定するための本発明の骨髄回復観察手法の使用を伴う癌の治療方法に関する。従って、サイトカインレベルを、抗癌剤の最初の投与前または後に開始して、治療中に時々評価することができる。
【0063】
従来の抗癌剤としては、化学療法および放射線に基づく療法が挙げられる。化学療法剤としては、アルキル化剤、代謝拮抗剤、様々な天然生成物(例えば、ビンカアルカロイド、エピポドフィロトキシン、抗生物質、およびアミノ酸涸渇酵素)、およびタキサンが挙げられる。特定のクラスの薬剤としては、ナイトロジェンマスタード、アルキルスルホネート、ニトロソウレア、トリアゼン、葉酸類似体、ピリミジン類似体、プリン類似体、白金複合体、副腎皮質抑制剤が挙げられる。幾つかの典型的な化合物としては、アクチノマイシン、シクロホスファミド、クロラムブシル、CPT−11、メトトレキセート、フルオロウラシル、シタラビン、チオグアニン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、マイトマイシン、シスプラチン、ヒドロキシウレア、タキソール、およびオギザリプラチンなどの白金化合物が挙げられる。適当な化学療法剤は、「レミントンの薬科学(REMINGTON'S PHARMACEUTICAL SCIENCES)」,第19版(Mack Publishing Co. 1995)、および「グッドマンとギルマンの治療薬の薬理学的基礎(GOODMAN AND GILMAN'S THE PHARMACOLOGICAL BASIS OF THERAPEUTICS)」,第7版(MacMillan Publishing Co. 1985)、並びにこれらの出版物の改訂版に記載されており、これらの出版物の内容は、その開示の一部として本明細書に引用されている。他の適当な化学療法剤、例えば実験的薬剤は、当業者に知られている。これらの薬剤に対する既知の投薬法は、本発明の骨髄抑制の評価方法を用いて最適にすることができる。
【0064】
本発明は、患者の骨髄の状態を評価する方法であって、患者由来の試料中の少なくとも1種類の造血サイトカインの量を閾値レベルまたは正常レベルと比較することによって、患者の骨髄の状態を測定することを含んでなる、方法を提供する。本発明の一態様では、患者は骨髄抑制状態である。好ましくは、造血サイトカインは、FLT3−L、TNF−αおよびTGF−βである。
【0065】
もう一つの態様では、本発明は、患者の骨髄回復を評価する方法であって、患者が骨髄抑制療法の連続的治療を受けている間の患者の骨髄の状態を反復評価することを含んでなる方法を提供する。
【0066】
本発明は、更に患者に投与された骨髄毒性線量を予測する方法も提供する。好ましくは、患者の血液または血漿中のFLT3−Lレベルを決定し、骨髄放射線量の計算値を患者の血漿または血液レベルに従って調節する。本発明の一態様では、患者のFLT3−Lの血漿または血液レベルを測定する前に、患者に化学療法(例えば、細胞毒性化学療法)および/または放射線療法を行う。本発明の一態様では、このような放射線療法としては、放射線免疫療法によって投与されるイオン化放射線が挙げられる。
【0067】
患者のFLT3−Lレベルは少なくとも1回測定することができるが、FLT3−Lレベルの追加測定は、FLT3−Lレベルが上昇しているかまたはそのピークから下降過程にあるかを予測するためのものとも考えられる。好ましくは、FLT3−L血漿または血液レベルは、可能性のある骨髄抑制療法の前に少なくとも1回および後に1回測定する。
【0068】
また、注目されるように、本発明は、患者のFLT3−Lのような造血サイトカインのレベルを測定することによって、例えば患者のFLT3−L対正常患者のレベルまたは骨髄に送られる骨髄抑制治療の線量を調節するための正常患者での予測レベルの比を用いることによって、患者の骨髄に投与される骨髄抑制治療の線量を決定し調節する方法を提供する。本発明の一態様では、骨髄抑制治療は細胞毒性化学療法または放射線免疫療法であり、この方法を用いて骨髄抑制剤の線量を調節することができる。
【0069】
特に、骨髄放射線線量は、開示された方法によって決定して調節することができる。骨髄放射線線量は、様々な方法によって決定することができる。具体的には、患者の治療前に行われる予備治療トレーサー検討法を用いて、赤色骨髄放射線線量を決定することができる。好ましくは、予備治療トレーサー検討法は、治療の1−2週間前に行うことができる。具体的には、患者に診断用抗体活性輸液を投与した後、血液に蓄積した活性濃度および全身に蓄積した活性を決定することができる。好ましくは、血液に蓄積した活性濃度は、較正したガンマーウェルカウンターで全血の試料を計数して、抗体活性輸液の終了後の様々な時点の血液活性濃度を得ることによって決定される。これらの時間−活性濃度曲線を分析して、分布および消去(elimination)期の傾きおよびそれらのそれぞれの切片を決定することができる。好ましくは、非線形最小二乗曲線に適合するアルゴリズムを用いて、曲線を適合させる。次に、これらの曲線を積分して、血液に蓄積した活性濃度を得ることができる。全身に蓄積した活性を決定することもできる。好ましくは、全身に蓄積した活性は、投与後の複数の時点で得た全身ガンマーカメラのカウント数または携帯型放射線プローブのカウント数を用いて決定することができる。血液に蓄積した活性濃度および全身に蓄積した活性を決定する別の方法は当業者には容易に明らかになるものであり、本発明に包含される。
【0070】
次に、上記の方法によって決定した骨髄放射線線量を用いて治療活性処方を決定し、これによって線量を患者の造血サイトカインレベルに従って調節することができる。本発明の一態様では、正常な造血サイトカインレベルは、約40pg/ml−約85pg/mlであり、特にこのレベルは約80pg/mlであることができる。好ましくは、サイトカインはFLT3−Lである。
【0071】
別の方法を用いて、シンチレーションカメラ画像に基づく分析法(Siegel JA, Lee RA, Pawlyk DA, Horowitz JA, Sharkey RM, Goldenberg DM.「放射線免疫療法における骨髄線量測定法のための仙骨シンチグラフィー(Sacral scintigraphy for bone marrow dosimetry in radioimmunotherapy)」. Nucl Med Biol. 1989; 16: 553-559)、区分モデル化法(Loh A, Sgouros G, O'Donoghue JA, et al.「心臓細胞癌患者のヨウ素-131-G250抗体の薬物動態モデル(Pharmacokinetic model of iodine-131-G250 antibody in renal cell carcinoma patients)」. J Nucl Med. 1998; 39: 484-489)、または赤色骨髄細胞外液画分の患者に特異的な推計値を提供するための磁気共鳴分光光度法の使用(Ballon D, Jakubowski A, Gabrilove J, et al. 「容量局在化プロトンNMR分光光度法を用いる骨髄細胞性のイン・ビボ測定(In vivo measurements ofbone marrow cellularity using volume-localized proton NMR spectroscopy)」.Magnetic Reson Med. 1991; 19: 85-95)から赤色骨髄蓄積活性の決定などの赤色骨髄の生物学的動態を特徴づけることができる。
【0072】
本発明は、骨髄抑制療法のような治療の前および/または後に患者に投与する免疫モジュレーターの容量を決定する方法もまた提供する。この態様では、患者由来の試料中の造血サイトカインのレベルを、正常レベルと比較する。次に、この比較を用いて、骨髄抑制剤の投与による治療の前または後の治療を導くことができる。
【実施例】
【0073】
例1
この例では、本発明の実施に有用な方法を提供する。
【0074】
患者個体群および患者血液の収集
Institutional Review Board-approved Garden State Cancer Center臨床放射線免疫療法(“RAIT”)試験に登録された固形腫瘍患者は、様々な薬剤(例えば、ドキソルビシン、メトトレキセート、トポテカン、シクロヘキシルクロロエチルニトロソウレア(CCNU)、マイトマイシンなど)および以前の治療から1−24ヶ月の様々な期間を用いて、複数サイクルの以前の化学療法を受けた。Juweid et al., Cancer 80: 2749-2753 (1997)。患者血液(3ml)を放射線免疫療法の予定日にクエン酸塩−試験管に集め、完全血液カウント数(CBCs)を測定して、pWBCおよびPLTカウント数を確認した。血液をRAIT後3−7日毎に集め、最大損失率、およびWBCsおよびPLTsの毒性等級を決定した。
【0075】
血漿サイトカインイムノアッセイ
患者血液試料中の血漿FLT3−L、SCF、およびTGF−βを、R & D Quantikineイムノアッセイキット(Minneapolis, MN)によって測定した。これらの分析法には、定量的サンドイッチ−酵素イムノアッセイを用いている。570nmの光学濃度(OD)を450nmのODから差し引いて、プレートの不完全さを補正する。それぞれの試料について平均2回の読みを、線形標準曲線から読み取る。TNFαおよびMIP−1αをCYTImmune Sciencesの競合的酵素イムノアッセイキット(College Park, MD)によって分析し、ODと濃度の間に反比例関係を得た。このキットは、増幅カラー生成系であって、アルカリホスファターゼ反応により、レドサイクリング反応(redo cycling reaction)を開始して着色した(ホルマザン)赤色生成物を生成する補助因子が提供される系を用いている。ODを492nmで読み取った。総てのアッセイキットは高感受性であり、特異的であり、任意の他のネズミまたはヒトサイトカインとは有意な交差反応性を示さない。
【0076】
赤色骨髄線量測定法
赤色骨髄線量は、総ての患者で血液クリアランスデーターに基づき、全身活性からの寄与を考慮して血液中の蓄積活性から推定した。骨髄/血液活性濃度比が0.36のものを用いたが、これはthe American Association of Physicists in Medicineの線量測定担当のグループが推奨するものと一致している。Siegel et al., Antibody Immunoconj. Radiopharm. 3: 213-233 (1990); Fisher et al., Cancer 73: 905-911 (1994); Sgouros et al., J. Nucl. Med. 34: 689-694 (1993)。補正した血液活性濃度には、常に平均的成人の骨髄のグラム数での重量である1,500を掛けた。次に、cGyにおける平均線量をMIRD計画に従って全血活性からの寄与を考慮して得た。Loevinger et al., Soc. Nucl. Med. (1976); Cloutieret al., J. Nucl. Med. 14: 53-55 (1973)。
【0077】
毒性評価
骨髄毒性を、the National Cancer Institute(NCI)の毒性基準に従って等級付けした。治療線量を投与された総ての患者を、血液学的毒性について毎週CBCsを観察することによって追跡した。等級2の血小板減少症または白血球減少症が発現した場合には、週2回の測定を行い、等級3または4の血小板減少症または白血球減少症の場合には、最下点が決定されるまで1日おきに測定した。患者の血液カウント数を、完全な血液学的回復が確認されるまで追跡した。
【0078】
統計学的分析
分散の単一因子分析(F−検定)を、正常ボランティア、化学療法を受けたことのない癌患者、および所定のRM線量について正常レベル、予想より低いレベル、または予想より高いレベルの骨髄抑制の癌患者での血清サイトカイン測定について行った。単一マーカーまたは血清サイトカインマーカーの組合せが骨髄抑制応答を予測する能力を、下記の式、すなわち感受性=[TP/(TP+FN)];特異性=[TN/(TN+FP)];および確度=[(TP+TN)/(TP+TN+FN+FP)],(式中、TP=真の正;TN=真の負;FP=偽の正;およびFN=偽の負)を用いて決定した。
【0079】
真の正では、刺激サイトカインが上昇するか、および/または抑制性サイトカインが正常より低く、患者は高毒性を受ける。真の負は、刺激性サイトカインおよび/または抑制性サイトカインが正常であり、毒性は正常限界内であることを意味する。偽の正は、刺激性サイトカインが上昇し、および/または 抑制性サイトカインレベル正常値より低いことを意味するが、毒性の大きさは予想範囲内であるかまたはそれ以下である。偽の負は、刺激性および/または抑制性サイトカインは正常限界内であることを意味するが、毒性は高く、予想することができない。検定の効率を表すのに有用な代替の臨床的方法は、診断試験の挙動を特徴付ける尤度比である。正の尤度比(LR+)は、(1−特異性)に対する感受性の比として定義される。これが1を越えると、正の診断に有利な可能性が増加し、またこれが1に近づくと、試験は不確定となる。負の尤度比(LR−)は、特異性に対する(1−感受性)として定義される。Simel et al., J. Clin. Epidemiol. 44: 763-770 (1991)。
【0080】
例2
この例では、所定のサイトカインの統計学的に有意な閾値レベルを確かめる方法を説明する。
【0081】
74名の固形腫瘍患者を、最初の99名の患者から骨髄転移の診られる総ての患者および初期WBCまたはPLT数が異常に高い(>10,000WBC/mmまたは>550,000PLT/mm)総ての患者を除くことによって選択した。総ての患者は化学療法に抗療性であり、本発明者らの研究センターの臨床RAIT試験に参加した。治療線量から得られるRM線量を、それぞれの患者について計算した。WBCおよびPLT毒性は、最下点で、初期カウントからの損失率(上欄)としてまたは毒性等級(下欄)として決定し、結果をRM線量に対してプロットした(図1)。患者の大部分(損失率については74名中52−56名、および毒性等級については74名中40−44名)RM線量と毒性との間で良好に画定した直線関係に一致した(O)。
【0082】
しかしながら、幾人かの患者(8−13名)は、それらのRM線量(△)を仮定すれば、予想より低い毒性を示し、他の患者(9−15名)は他のほとんどの患者よりずっと大きな毒性を受けた(●)。損失率を用いると、線形パターンに適合しなかった5名だけがWBCおよびPLTの両方についてはずれ、2名は両方について過度の毒性をまた3名は両方について予想より低い毒性を受けた。13名はPLT毒性は過度であり、WBC毒性は正常であり、5名はWBC毒性は過度であり、PLT毒性は正常であった。毒性等級を基準として用いると、7名の患者は予想値からはずれ、2名は過度のWBCおよびPLT毒性を有し、5名は両方とも予想より低い毒性であった。他の8名の患者は過度のPLT毒性を有し、WBC毒性は正常であり、7名は過度のWBC毒性を有したが、PLT毒性は正常であった(表1A)。
【0083】
WBCまたはPLTの過度の毒性によって線量が限定されるので、一つの範疇であってもはずれた総ての患者は過度の毒性を予測するマーカーの利用できることにより有利になる。過度のPLT毒性を有する患者(15名は過度の損失率、10名は過度の等級)の中、9名は両方とも上昇し、1名だけが過度の等級を有したが、正常損失率であり、5名は損失率が過度であったが、正常等級毒性であった。過度のWBC毒性を有する患者(9名は過度の損失率および11名は過度の等級毒性)の中、5名は測定したいずれのパラメーターについても高く、6名は等級毒性については高かったが、損失率は正常であり、3名は損失率が高かったが、正常等級毒性であった(表1B)。患者がRAITの日に高い初期WBCおよび/またはPLTカウント数(正常範囲の上端)を示すときには、高損失率を受けるが合理的な等級毒性であると思われる。WBCおよび/またはPLTカウント数がRAITの日に正常範囲の下端から始まるときには、患者は高等級毒性を受けるが高損失率を受けない可能性がある。
【0084】
【表1】

【0085】
上記の患者から、39名の患者を選択して、「正常」のWBCおよびPLT毒性(N=14)を示す第一群、低い毒性(N=13)を示す第二群、および「高い」WBCまたはPLT毒性(N=12)を示す第三群の3つのサブグループに選別した。表2に示されるように、3群は同様なRM線量を投与された(それぞれ、139±28対190±32対141±51 cGy)。3群総ては、同様な初期WBC(第一群では6,000±2,000/mm であるのに対して、後者の2群では8,000±2,000/mm)および初期PLT数(それぞれ、280,000±112,000/mm対233,000±84,000/mm対203,000±65,000/mm)であった。過度の毒性として表される群は、有意に高いPLT損失(正常毒性群での54±20%に対して81±11%;p<0.001)およびPLT毒性等級(1±1に対して3±1;p<0.001)を示した。この群は、WBC毒性等級(1±1に対して2±1;p<0.05)も高かった。
【0086】
【表2】

【0087】
本発明者らは、骨髄回復に対する統計学的相関について患者血漿中の5個のサイトカインを試験した(図2)。表3は、試験を行ったサイトカインおよび用いた分析法の特徴を示す。
【0088】
【表3】

【0089】
SCFは、検討した総ての群において同様であり、未治療ボランティアでの1138±183pg/mlおよび以前に化学療法を受けていない癌患者での1060±217pg/mlと比較して正常、低および高毒性群について1498±136pg/ml対1311±119pg/ml対1177±102pg/mlであった。SCFでの結果とは対照的に、他の刺激性サイトカインFLT3−Lは、正常または低毒性の患者(それぞれ、81±11pg/mlおよび79±12pg/ml)または未治療ボランティア(52±6pg/ml)と比較して、過度の毒性群では有意な上昇を示した(235±29pg/ml;p<0.001)。
【0090】
意外なことには、抑制性サイトカインの減少が過度の毒性群に存在することが仮定されたが、代わりに血漿TNFαが過度の毒性群で高くなった。しかしながら、これは、患者間でのばらつきが著しいので(正常毒性患者での1.50±0.33pg/mlまたは未治療ボランティアでの1.80±0.54pg/mlと比較して、2.62±1.03)、他の群と有意差はなかった。血漿TGFβも、有意差はなかった(過度の毒性群28.1±4.9pg/mlおよび正常毒性群での38.1±7.5)。血漿MIP1αは、過度の毒性群では有意に低かった(正常毒性群での5.08±0.91pg/mlおよび未治療ボランティア群での5.10±1.80と比較して2.23±1.09pg/ml;p<0.05)。しかしながら、低毒性群でも、血漿MIP1αは減少した(2.47±0.68pg/ml;p<0.05)。
【0091】
評価を行った5つの血漿サイトカインの中で、FLT3−LがRM線量の関数として予想毒性に関して最も有益であった。更に、患者データーを正常、低または高毒性による患者データーを選別する代わりにRM線量から独立して毒性等級(<等級3または≧等級3)に従って選別すると、FLT3−Lの重要性は更に強くなる(図3)。39名の患者の中、27名は<等級3のPLT毒性であり、12名は≧等級3のPLC毒性であった(数字は、WBC毒性については、それぞれ28および11名である)。これらの群についてのRM線量は同様であった。PLT毒性<等級3についての血漿FLT3−L(平均値±SEM)は84.4±8.8pg/mlであり、PLT毒性≧等級3については220.6±35.7pg/mlであった(p<0.001)。同様な傾向はWBC毒性について見られたが、統計学的に有意ではなかった。
【0092】
FLT3単独または高毒性を予測するため他の血漿サイトカイン測定と組み合わせたものの有用性を、表4に示す。刺激性サイトカインレベルを最大正常限界より上に設定し、抑制性サイトカインレベルを最小正常限界より下に設定し、いずれも表3に記載されている。結果を感受性、特異性、および確度として表し、後者の測定値により個体群全体から真の正および真の負のいずれを同定することもできる。評価を行った全部で7個の順列の中、高FLT3−Lレベル(>135pg/ml)のみが、感受性について0.83の最高値を得た(片側では95%、信頼区間は0.66−1)。同様に、確度は0.85であり、特異性は0.89(95%信頼区間は0.79−1)であると推定される。高FLT3−Lレベルを低TNFαまたは低MIP1αと組み合わせることによって、特異性は最大となるが、感受性(それぞれ、0.10または0.56)および確度(それぞれ、0.29および0.25)は劇的に減少した。あるいは、FLT−3の閾値を170pg/mlに調節すると、感受性は減少するが(0.62)特異性は増加し(1.0)、FLT3−Lカットオフ135pg/mlと比較して確度に有意な変化は見られなかった。従って、FLT3−Lについての閾値セットにより、感受性または特異性が高くなるかどうかが決定される。低めのFLT3−L閾値135pg/mlを用いることによって、正および負の尤度比は、診断試験としてFLT3−Lの予測可能性を表す手段として計算することができる。正の尤度比推定値は、7.5であり、95%信頼区間は2.5−22.5である。負の尤度比は0.19であり、95%信頼区間は0.05−0.67である。
【0093】
【表4】

【0094】
造血過程は、初期および後期刺激性および抑制性サイトカインの影響下で進行する(Cannistra et al., Semin. Hemato. 25: 173-188 (1988); Whetton et al., Biochem. Biophys. Acta. 989: 111-132 (1994))。このデーターは、1種類以上のこれらの増殖因子の産生における変化を測定することによって、以前の細胞毒性療法後に回復がいつ起きるかを予測することができることを示している。
【0095】
要するに、これらのデーターは、血漿FLT3−Lレベルが12名の患者の10名において過度の血小板毒性(平均値=225±106pg/ml)が見られ、27名の他の患者の3名のみで偽の正となった(平均値=80±41pg/ml)ことを示している。血漿FLT3−L>135pg/mlは感受性が83%となり、追加の細胞毒性療法から過度の毒性の予測ではそれぞれ85%および89%の特異性および確度となった。正の尤度比は7.5(95%信頼区間:2.5−22.5)であり、負の尤度比は0.19(95%信頼区間:0.05−0.67)である。
【0096】
従って、以前に化学療法を受けた患者で上昇した血漿FLT3−Lは、骨髄画分の回復段階の予測尺度である。FLT3−Lは、追加の細胞毒性療法を行うときには、≧等級3の血小板減少症を受けることになる見込みを画定すると思われる。骨髄活性を知ることによって、線量限定する毒性として骨髄抑制を有する任意の細胞毒性剤を投与するための最も早い可能な時間を確認することによって、一層積極的な治療を行うことができる。
【0097】
例3 FLT3−L比による赤色骨髄線量の調節
131I−RAIT(活性範囲:2.1−8.9GBq)を投与した後、赤色骨髄放射線線量を、30名の患者(20名の男性および10名の女性、いずれも骨髄または骨への侵襲なし、18名は以前に化学療法を受けた)について決定した。放射線線量の推定値を、男性および女性、および男性のみの質量と、S値を用いる2種類の線量測定モデルについて赤色骨髄の蓄積活性および赤色骨髄対血液活性濃度比決定の2種類の異なる方法を用いて計算した。最下点での最高血小板毒性等級(PTG)、血小板数減少率(PPD)、および血小板最下点数(PN)を測定した。FLT3−Lレベル(pg/ml)を治療前にイムノアッセイによって決定し、正常FLT3−Lレベルは80pg/mlと仮定した。患者のサイトカインレベルが正常レベルを越えるときには、赤色骨髄放射線線量(cGy)を患者のFLT3−Lレベルについて調節した。骨髄線量およびFLT3−Lで調節した骨髄線量をPTG、PPD、PN、および1/PNに相関させた。投与活性、単位体重当たりの投与活性、および全身放射線線量も、これらの血液学的毒性尺度と相関させた。
【0098】
総ての赤色骨髄線量の計算法は、血液学的毒性尺度と本質的に同じ相関を生じた。投与活性、単位体重当たりの投与活性、全身放射線線量、または赤色骨髄放射線線量と、PTG、PPD、PNおよび1/PNの間には、相関はほとんど見られなかった。様々な毒性の予測因子を患者のFLT3−Lレベルについて調整すると、総ての相関は大幅に向上した。観察された最高の相関は、赤色骨髄線量または全身線量と1/PNとの間であった(r=0.86)。≧等級3の毒性を予測するために未調整赤色骨髄線量を用いると、8個は真の正であったが、13は偽の正の症例であり、9個は真の負であった。しかしながら、FLT3−Lで調整した赤色骨髄線量を用いると、8個は真の正であったが、2個だけが偽の正であり、20個は真の負であった。
【0099】
FLT3−Lで調整した赤色骨髄放射線線量は、血液学的毒性の相関を向上させた。従って、RAIT前のFLT3−L血漿レベルの上昇は、骨髄の放射線感受性を示しており、赤色骨髄放射線線量のみより毒性を良好に予測でき、投与活性の調節によりより良い治療計画を得ることができ、且つ毒性を最小限にすることができる。
【0100】
材料および方法
患者および抗体
研究所の再審査会議で承認されたGarden State Cancer Center臨床放射線免疫療法(RAIT)試験に参加した30名の患者(20名の男性および10名の女性)を、この研究に用いた。いずれの患者も、骨髄または骨への転移は知らなかった。患者に、131Iで標識した抗癌胎児性抗原(CEA)NP4(IgGまたはF(ab’))または抗−CEA MN−14(IgGまたはF(ab)、Immunomedics, Inc.製,Morris Plains, NJ)によるRAITを行い(Juweid ME, Zhang C, Blumenthal RD, Hajjar G, Sharkey RM, Goldenberg DM,「131Iで標識した抗癌胎児性抗原モノクローナル抗体による放射線免疫療法後の血液学的毒性の予測(Prediction of hematologic toxicity after with 131I-labeled anticarcinoembryonic antigen monoclonal antibodies)」.J Nucl Med. 1999; 40: 1609-1616)、CEAを産生する癌の治療の目的での投与活性の範囲は2.1−8.9GBqであった。治療活性処方は、2.8GBqの固定活性、患者の体表面積に基づく活性、または処方した赤色骨髄放射線線量を送るための治療の1−2週間前に行った予備治療トレーサーでの検討によって決定した活性であった。総ての輸液は15〜30分間にわたって静脈内投与し、総ての患者にルゴール液または過飽和ヨウ化カリウム溶液および過塩素酸カリウムを前投与して、放射性ヨウ素の甲状腺または胃からの摂取を減少させた。これらの標識したモノクローナル抗体は、特に赤色骨髄で交差反応性抗原に結合しないことが知られている(Sharkey RM, Goldenberg DM, Goldenberg H, et al. 「癌胎児性抗原に対するネズミモノクローナル抗体:ヒトでの免疫学的、薬物動態およびターゲッティング特性(Murine monoclonal antibodies against carcinoembryonic antigen: immunological, pharmacokinetic and targeting properties in humans)」. Cancer Res. 1990; 50: 2823-2831, Hansen HJ, Goldenberg DM, Newman E, Grebenau R, Sharkey RM.「癌胎児性抗原に対する第二世代のモノクローナル抗体の特性決定(Characterization of second generation monoclonal antibodies against carcinoembryonic antigen)」.Cancer. 1993; 71: 3478-3485, Sharkey RM, Goldenberg DM, Murthy S, et al.「高親和性の抗癌胎児性抗原に特異的なネズミモノクローナル抗体MN−14を用いる腫瘍ターゲッティングの臨床的評価(Clinical evaluation of tumor targeting with a high affinity anticarcinoembryonic-antigen-specific, murine monoclonal antibody, MN-14)」.Cancer. 1993; 71: 2081-2096)。12名の患者は化学療法を受けた経験がなく、残りは様々な薬剤および以前の治療から1−24ヶ月の様々な期間を用いて、複数サイクルの以前の化学療法を受けた。
【0101】
血液および全身薬物動態
血液に蓄積した活性濃度を較正したガンマーウェルカウンターで全血の試料を計数することによって決定し、抗体活性輸液の終了後の様々な時点での血液活性濃度を得た。3−8個の血液試料を最初の24時間にわたって収集した後、試料採取を引き続く2−7日にわたって毎日行った。これらの時間−活性濃度曲線を非線形最小二乗曲線に適合するアルゴリズムを用いて分析し、分布(α)および消去(β)期の傾きおよびそれらのそれぞれの切片(AおよびB)を決定した。次に、一相性または二相性のこれらの曲線を積分して、血液に蓄積した活性濃度を得た。全身に蓄積した活性は、投与後の複数の時点で得た全身ガンマーカメラのカウント数または携帯型放射線プローブのカウント数を用いて決定した。
【0102】
血漿サイトカインのイムノアッセイ
RAITの当日に、総ての患者で血液試料を採取した。更に、血液試料を、5名の正常なボランティアから採取した。これらの血液試料中の血漿FLT3−Lを、R & D Quantikine イムノアッセイキット(Minneapolis, MN)を用いて定量的サンドイッチ酵素イムノアッセイによって測定した。試料を2回ずつ測定し、結果を線形標準曲線から読み取った。アッセイキットは感度が高く(7pg/ml)特異的であり、任意の他のネズミまたはヒトサイトカインとは有意な交差反応性を示さなかった。ボランティアの試料採取の目的は、正常FLT3−Lレベルを決定することであった。
【0103】
毒性評価
骨髄毒性を、Radiation Therapy Oncology Group (RTOG)の基準に従って等級付けした。131Iモノクローナル抗体の治療投与を受けた総ての患者を、完全な末梢血細胞カウントを毎週観察することによって血液学的毒性について追跡した。RAITの前に患者血液を採取して、ベースライン末梢白血球(WBC)および血小板(PLT)カウント数を確認した。等級2以上の血小板減少症または白血球減少症が発現したときには、最下点が決定されるまで測定を一層頻繁に行った。血液学的回復が完全に確認されるまで、患者血液のカウント数を追跡した。血小板減少症はRAITについて用量規定因子であることが多いので、血小板毒性等級(PTG)、血小板減少率(PPD)および血小板最下点(PN)をこの検討での毒性の尺度として用いた。更に、1/PNを決定した。
【0104】
赤色骨髄での線量測定
赤色骨髄放射線線量を、全血の蓄積活性の測定値および全身の蓄積活性の測定値に基づいて総ての患者で推定した。これらの2成分のそれぞれの赤色骨髄線量の推定値に対する相対的寄与は、全身対血液の蓄積活性の比によって変化する(Siegel JA, Stabin MG, and Sparks RB.「全身および赤色骨髄での線量推定値(Total body and red marrow dose estimates)」.J Nucl Med. 2002;公表のため受理済)。他の識別可能な供給源器官の寄与も包含することができたが(Siegel JA, Wessels BW, Watson EE, et al.「骨髄線量測定法および放射線免疫療法の毒性(Bone marrow dosimetry and toxicity forradioimmunotherapy)」. Antibody Immunoconj Radiopharm. 1990; 3: 213-233)、それらの赤色骨髄線量に対する予想される寄与は5%以下の程度と推定された。従って、これらの患者は骨髄または骨の疾患ではなく、彼らが投与された放射線免疫療法剤はいかなる血液、骨髄、または骨要素にも結合しないので、2成分方程式(Bigler RE, Zanzonico PB, Leonard R, et al.「モノクローナル抗体療法のための骨髄線量測定法(Bone marrow dosimetry for monoclonal antibody therapy)」:Schlafke-Stelson AT, Watson EE監修.Fourth International Radiopharmaceutical Dosimetry Symposium. Oak Ridge: Oak Ridge Associated Universities; 1986: 535-544)を用いて赤色骨髄に吸収された線量を決定した。式1
【0105】
【数1】

(式中、DRMは赤色骨髄線量推定値であり、ARMは赤色骨髄での蓄積活性であり、ARBは赤色骨髄値ARMを全身値ATBから差し引くことによって得た身体の残りの部分に蓄積した活性であり、S(RM←RM)は赤色骨髄対赤色骨髄でのS値であり、S(RM←RB)は身体の残りの部分対赤色骨髄でのS値である)
によれば、第一の成分は、循環血活性により赤色骨髄の細胞外液体空間内に分布した活性と関連した赤色骨髄線量寄与分を反映しており、第二成分は身体の残りの活性に関連した吸収線量寄与分を反映している。ほとんどの研究者は、式1で必要とされたS値について、2種類の線量測定モデル、すなわちMIRD 11(20)またはMIRDOSE 3(Stabin MG.「MIRDOSE:核医学における内部線量評価に用いるパーソナルコンピューターソフトウェア(MIRDOSE: personal computer software for use in internal dose assessment in nuclear medicine)」.J Nucl Med. 1996; 37: 538-546)の1つを用いてきた。従って、S値とそれらの関連質量の両方の組を用いて、赤色骨髄線量の結果を比較した。更に、MIRDOSE 3は明確に女性に対するS値を提供し、従って、追加の赤色骨髄線量の比較は、男性および女性対男性のみの質量およびS値を用いて行った。モデル質量は、患者体重について、モデルの全身質量で割った患者の全身質量を掛けることによって常に調整し、総てのS値はこの質量関係の逆関数を用いて調整した(光子を吸収した画分は重量と直線的に比例しないので、131IについてのS値の線形質量に基づくスケーリングは厳密には正しくないが、この近似法は適当な結果を与える)。成人男性モデルの赤色骨髄質量はMIRD 11およびMIRDOSE 3についてそれぞれ1.5kgおよび1.12kgであり、成人男性モデルの全身質量はMIRD 11およびMIRDOSE 3についてそれぞれ69.88kgおよび73.7kgである。女性については、MIRDOSE 3での赤色骨髄モデル質量は1.05kgであり、モデル全身質量は58kgである。身体の残りの部分対赤色骨髄S値は、患者の全身重量によってモデルS値および質量を調整する患者に特異的な方法を用いることによるだけでなく、検討を行った患者では骨活性摂取は見られないので、この項に対する骨成分(すなわち、柱および皮質)の寄与が明確に差し引かれたことによって決定された点に留意すべきである(Stabin MG, Siegel JA, Sparks RB, Eckerman KF, Breitz HB.「全身活性からの赤色骨髄吸収線量の寄与:MIRD法の補正(Contribution to red marrow absorbed dose from total body activity: a correction to the MIRD method. J Nucl Med. 2001; 42: 492-498)。
【0106】
式1の赤色骨髄に蓄積した活性 ARMを、2つの方法
【0107】
【数2】

(式中、[A]血液は、血液活性濃度−時間曲線の分析から得た血液に蓄積した活性濃度であり、mRM,モデルはそれぞれの線量測定モデルの赤色骨髄質量であり、mTB,患者は患者の全身質量であり、mTB,モデルはそれぞれのモデルの全身質量であり、Te,血液は血液活性濃度−時間曲線の分析から得た血液に有効なハーフタイムである(血液活性濃度−時間曲線が二相性であるときには、Te,血液はΣ(Te,血液に置換され、但し、fはi番目の指数成分の活性濃度画分であり、(Te,血液はi番目の指数成分の有効ハーフタイムである))
を用いて決定した。赤色骨髄および血液質量は患者体重の関数として同様に変化すると考えられるので、式3の質量比の値は固定値であると考えられる。最後に、
CFは骨髄対血液活性濃度比についての補正因子である。本来、補正因子CFは統一して(1)設定されたが、この値が控えめすぎることを示した(23−26)。CFは、現在では0.2−0.4(2)の固定値または0.19/(1−ヘマトクリット値)の値が割り当てられている(Sgouros G.「放射線免疫療法の骨髄線量測定:理論的考察(Bone marrow dosimetry for radioimmunotherapy: theoretical considerations)」.J Nucl Med. 1993; 34: 689-694, Siegel JA, Lee RA, Pawlyk DA, Horowitz JA, Sharkey RM, Goldenberg DM.「放射線免疫療法における骨髄線量測定のための仙骨シンチグラフィー(Sacral scintigraphy for bone marrow dosimetry in radioimmunotherapy)」. Nucl Med Biol. 1989; 16: 553-559, Siegel JA, Pawlyk DA, Lee RA, et al.「131Iで標識した抗癌胎児性抗原モノクローナル抗体についての腫瘍、赤色骨髄および器官線量測定(Tumor, red marrow, and organ dosimetry for 131I-labeled anti-carcinoembryonic antigen monoclonal antibody)」. Cancer Res. 1990; 50 (suppl): 1039s-1042s, Siegel JA, Lee RA, Horowitz JA, et al.「骨髄線量測定:骨髄対血液活性濃度比[抄録](Bone marrow dosimetry: marrow-to-blood activity concentration ratio [abstract])」.J Nucl Med. 1990; 31: 788)。この分析については、赤色骨髄放射線線量を比較するために0.3のCF固定値および0.19/(1−ヘマトクリット値)の値を用いて決定したCFの2つの方法を用いた。
【0108】
総ての赤色骨髄放射線線量(cGy)は、患者のサイトカインレベルが正常値を越えたときに、患者のFLT3−Lレベルについて調整した。骨髄線量およびFLT3−Lで調整した骨髄線量を、PTG、PPD、PNおよび1/PNに対して相関させた。更に、投与活性、単位体重当たりの投与活性、および全身線量(ATBに質量を調製した全身対全身S値を掛けたもの)を、血液学的毒性のこれらの尺度に相関させた。
【0109】
結果
FLT3−Lレベルは、ボランティアでは52±14pg/mlであると決定されたので、FLT3−Lの正常値を80pg/ml(平均値+2SD)であると考えた。患者のサイトカインレベルが80pg/mlを越えたときには、赤色骨髄放射線線量(cGy)を患者のFLT3−Lレベルについて調整した(FLT3−Lレベル/80)。総ての赤色骨髄線量計算組織では、様々な血液学的毒性の尺度と本質的に同じ相関を生じた(表5)。
【0110】
MIRD 11およびMIRDOSE 3 S値および質量の使用では、同様な相関を生じた。
【0111】
男性のみのパラメーターの使用では、男性および女性モデルパラメーターの使用と同様の相関を生じた。
【0112】
赤色骨髄に蓄積した活性測定の2つの方法(式2および3)の使用では、同様な線量−毒性相関を得た。
【0113】
一定の赤色骨髄対血液活性濃度比(CF=0.3)では、一層患者に特異的なCF測定の使用と同様の結果を得た。
【0114】
1/血小板最下点の使用では、血小板等級、血小板の減少率、または血小板最下点の使用よりも良好な相関を生じた。
【0115】
【表5】

【0116】
毒性の総ての予測因子(投与活性、単位体重当たりの投与活性、全身線量、および赤色骨髄線量)を患者のFLT3−Lレベルの実測値について調整したところ、未調整時より強い相関を生じた。
【0117】
調整した赤色骨髄および全身線量は、血液学的毒性の尺度として1/Pnを用いるときには、調整した投与活性(GBq)または単位体重当たりの調整した投与活性(GBq/kg)より良好な相関を生じた。
【0118】
PN対放射線線量についての相関係数は、指数関数を用いて決定し、他の総ての相関は直線回帰を用いて決定した。PNとFLT3−Lで調整した毒性の予測量の比較を図4に示し、1/PNとFLT3−Lで調整した毒性の予測量の比較を図5に示す。
【0119】
投与活性とPTG、PPD、PNおよび1/PNの相関(それぞれ、r=0.05、0.15、0.03および0.21)、および単位体重当たりの投与活性とこれらの毒性尺度の相関(それぞれ、r=0.28、0.33、0.18および0.04)は、劣っていた。同様な不十分な相関は、赤色骨髄放射線線量とPTG、PPD、PNおよび1/PN(それぞれ、r= 0.28、0.15、0.22および0.20)との間に見られた。FLT3−Lで調整した骨髄線量とPTG、PPD、PNおよび1/PNの相関は、投与活性と単位体重当たりの投与活性の相関と同様に大幅に向上した(それぞれ、r=0.70、0.48、0.76および0.86)。MIRDOSE 3線量測定モデルのみを用いるFLT3−Lで調整した全身線量とPTG、PPD、PNおよび1/PNとの相関は、それぞれ0.68、0.46、0.75および0.86であった。
【0120】
8名の患者だけが、PTG 3または4であった。FLT3−Lについて調整したRM線量とこれらの患者の1/PNでは、相関係数が0.85となった。FLT3−Lで調整したTB線量、投与活性および単位体重当たりの投与活性と1/PNとは、相関係数がそれぞれ0.81、0.14および0.60となった。他の22名の患者は血小板毒性等級が0−2であり、これらの患者についての調整したRM線量と1/PNでは、相関係数が0.18となった。調整したTB線量、投与活性および単位体重当たりの投与活性と1/PNでは、相関係数がそれぞれ0.33、0.42および0.27となった。
【0121】
男性のMIRDOSE 3モデル、式3、および0.3のCFを用いて、FLT3−Lで調整した赤色骨髄線量を、感受性、特異性、確度、正の予測値(PPV)、および負の予測値(NPV)を決定することによって、等級3以上の毒性の予測因子としてのFLT3−Lで調整した単位体重当たりの投与活性および未調整の赤色骨髄線量と比較した。調整した赤色骨髄線量について閾値200 cGyを用いたところ、8名が真の正であり、0名が偽の負であり、2名が偽の正であり、20名が真の負であり、感受性、特異性、確度、PPV、およびNPVはそれぞれ100%、90.9%、93.3%、80%、および100%となった。血液学的毒性等級が3以上の患者数は低かったが(n=8)、等級が3以上の毒性を発現しなかった患者が22名であり、これらの患者には20名の真の負を除き、偽の負はいなかった。赤色骨髄線量についての閾値100cGyを単独で用いると、8名は真の正であり、0名は偽の負であり、13名は偽の正であり、9名は真の負であり、感受性、特異性、確度、PPV、およびNPVはそれぞれ100%、40.9%、56.7%、38.1%、および100%となった。体重当たりの調整した活性について閾値74MBq/kgを用いると、8名は真の正であり、0名は偽の負であり、6名は偽の正であり、16名は真の負であり、感受性、特異性、確度、PPV、およびNPVはそれぞれ100%、72.7%、80%、57.1%、および100%となった。
【0122】
線量−毒性についての相関は、血液学的毒性の尺度としてのFLT3−Lについて調整した放射線線量および血小板最下点の逆関数の間で0.86程度であった。この後者のパラメーターとの相関は、他の総ての血液学的毒性の尺度(血小板毒性等級、血小板減少率、および血小板最下点)と比較してずっと高く、相関係数は約0.5−0.8の範囲からほぼ0.9まで一挙に上昇した。1/PNを用いることによって、PN−血液学的毒性予測因子曲線を予想された形状の線量−応答曲線に変換すると思われる(すなわち、低線量で限定された毒性が観察された後、線量を高くすると、毒性が非線形的に増加する)。古典的なS字状曲線は観察されなかったが、線量レベルの計算値がこの形状を確立するほど十分高くないことによるものと思われる。従って、1/PNと毒性の様々な予測因子の線形相関は他の毒性尺度よりずっと強い相関を生じると予想するのが合理的である。
【0123】
この限定された患者個体数では、血液中で長いまたは短い有効ハーフタイムを有する患者の相関では、明らかな相違は見られなかった。これにより、全身線量のFLT3−L調整および単位体重当たりの投与活性が毒性測定値並びに赤色骨髄吸収線量と相関した理由が説明される(投与活性を伴う相関は大して良好ではなかった)。患者を骨髄毒性の重篤度について(すなわち、等級3または4の血小板毒性とPTGが0−2の患者とに)分離したところ、赤色骨髄および全身線量はいずれも、投与活性および単位体重当たりの投与活性より強い相関を生じた。更に、FLT3−Lで調整した赤色骨髄線量は、単位体重当たりの調整活性および赤色骨髄線量単独と比較して高い特異性、確度および正の予測値を生じた。更に、FLT3−L−で調整した赤色骨髄線量を血液学的毒性の予測因子として用いるときには、偽の負の患者はおらず、毒性等級が3未満の22名の患者の20名は真の負であった。
【0124】
患者は骨髄および/または骨に転移しておらず、一つの補足説明はあるものの投与した放射線標識したモノクローナル抗体は血液、骨髄または骨成分に結合しないので、この研究における血液に基づく赤色骨髄線量測定法は正当なものである。化学療法から回復してきている患者は、骨髄が過剰増殖性であり、放射性抗体の摂取が増加する(Juweid M, Sharkey RM, Siegel JA, Behr T, Goldenberg DM.「非ホジキンリンパ腫および散在性骨髄摂取を有する放射線免疫療法患者における仙骨シンチグラフィーによる赤色骨髄線量の評価(Estimates of red marrow dose by sacral scintigraphy in radioimmunotherapy patients having non-Hodgkin's lymphoma and diffuse bone marrow uptake)」.Cancer Res. 1995; 55 (suppl): 5827s-5831s)。このような関与が存在するときには、赤色骨髄線量測定法によりこれを考慮する必要がある。このような患者では、画像に基づいた赤色骨髄線量評価が骨髄毒性を一層良好に予測する目的で示されている(Juweid M, Sharkey RM, Siegel JA, Behr T, Goldenberg DM.「非ホジキンリンパ腫および散在性骨髄摂取を有する放射線免疫療法患者における仙骨シンチグラフィーによる赤色骨髄線量の評価(Estimates of red marrow dose by sacral scintigraphy in radioimmunotherapy patients having non-Hodgkin's lymphoma and diffuse bone marrow uptake)」.Cancer Res. 1995; 55 (suppl): 5827s-5831s, Macey DJ, DeNardo SJ, DeNardo GL.「放射線免疫療法における赤色骨髄に対する放射線の吸収線量の評価(Estimation of radiation absorbed doses to red marrow in radioimmunotherapy)」. Clin Nucl Med. 1995; 20: 117-125)。最近になり、画像に基づく赤色骨髄線量の推定値により、非骨髄ターゲッティング90Y抗体療法の毒性の予測が向上することも報告されている(Shen S, Meredith RF, Duan J, Brezovich IA, Robert F, Lobuglio AF.「非骨髄ターゲッティング90Y抗体療法のための画像形成線量の推定値を用いる骨髄毒性の予測の向上(Improved prediction of myelotoxicity using imaging dose estimate for non-marrow targeting 90Y-antibody therapy)」[抄録].J Nucl Med. 2001; 5 (suppl): 22P)。
【0125】
結論
FLT3−Lによって調整した赤色骨髄および全身放射線線量は、血液学的毒性との相関が向上する。調整した吸収線量は、投与活性および単位体重当たりの投与活性のようなより単純な経験的パラメーターの使用よりも強い線量−毒性相関を示した。RAIT前のFLT3−L血漿レベル上昇は、骨髄の放射線感受性が増加していることを示し、この測定を用いて赤色骨髄または全身放射線線量の計算値を調節することにより、放射線線量単独よりも有意に良好に毒性が予測され、投与活性を最適にすることによってより良い治療計画が得られ、毒性を最小限にすることができる。赤色骨髄によって吸収された線量推定値の改良法は、治療を更に一層最適にすることができる。更に、毒性に対する危険性が低いと確認された患者では、投与活性を増加させて、より大きな治療効果を上げることができる。
【0126】
上記の詳細な説明および実施例は単に例示のためのものであり、発明を制限するものではない。当業者であれば、本発明の範囲内にある他の態様であって、具体的には、例示されていないものがあることを直ちに理解されるであろう。上記および本明細書に引用された総ての参考文献の内容は、その開示の一部として本明細書に引用されている。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】様々な赤色骨髄線量のRAITを投与した76名の患者と(a)血小板(PLT)損失率;(b)WBC損失率、(c)PLT毒性度、および(d)WBC毒性度を示した分散図。総ての患者は、細胞毒性療法(RAIT)の時点で正常な初期pWBCおよびPLT数を有した。{○=通常の毒性;黒四角=予想より高い毒性;△=予想より低い毒性}。23名の患者は、2以上の既知の転移へBMが関係しており、または正常値より大きいpWBCs(>10,000/mm)またはPLTs(>5x10/mm)を有していたので、除外した。
【図2】5名の未治療ボランティア、通常程度の毒性群由来の14名の患者(図1の○)、予想より低い毒性の13名の患者(図1の△)、および予想より高い毒性の12名の患者(図1の黒四角)についてのSCF、FLT3−L、TNFα、TGFβおよびMIP−1α(平均値±SEM)に対する血漿サイトカインレベル。
【図3】毒性の等級によって選別した患者の血漿FLT3−Lレベル(平均値±SEM):<等級3の毒性の患者(27−28名)、および>等級3の毒性の患者(11−12名)。総ての群に対する平均RM線量は垂直バーの基部に示し、有意差(t検定)はバーの上部に示す。
【図4】血小板最下点(PN)とFLT3−L調節した毒性の予測量との比較。
【図5】1/血小板最下点(PN)とFLT3−L調節した毒性の予測量との比較。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者に投与する骨髄抑制剤の用量を調節する方法であって、
(a) 患者由来の試料における少なくとも1個の造血サイトカインのレベルを測定し、
(b) 造血サイトカインのレベルを正常レベルと比較する
ことを特徴とする、方法。
【請求項2】
レベルが正常レベルに比較して減少しているときには用量を増し、またはレベルが正常レベルに比較して増加しているときには用量を減らすことをさらに含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
レベルが正常レベルに比較して増加しているときには用量を増し、またはレベルが正常レベルに比較して減少しているときには用量を減らすことをさらに含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
骨髄抑制剤を患者に投与することをさらに含んでなる、請求項1−3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
用量が骨髄毒性用量の計算値である、請求項1−4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
骨髄毒性用量の計算値を、患者の全血の蓄積活性と、予備治療トレーサーの投与後の患者の全身の蓄積活性とを測定することによって決定する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
予備治療トレーサーを、骨髄抑制剤を投与する約1−約2週間前に患者に投与する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
造血サイトカインの正常レベルが約40pg/ml−約85pg/mlである、請求項1−7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
造血サイトカインの正常レベルが約80pg/mlである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
骨髄抑制剤を患者に投与する前に、造血サイトカインのレベルを測定することを含んでなる、請求項4に記載の方法。
【請求項11】
骨髄抑制剤を患者に投与した後に、造血サイトカインのレベルを測定することを含んでなる、請求項4に記載の方法。
【請求項12】
骨髄抑制剤を患者に投与する前およびした後に、造血サイトカインのレベルを測定することを含んでなる、請求項4に記載の方法。
【請求項13】
骨髄抑制剤を患者に投与する前およびした後に患者に投与する免疫モジュレーターの用量を決定する方法であって、
(a) 患者由来の試料中の少なくとも1種類の造血サイトカインのレベルを測定し、
(b) 造血サイトカインのレベルを正常レベルと比較する
ことを特徴とする、方法。
【請求項14】
レベルが正常レベルに比較して減少しているときには用量を増し、またはレベルが正常レベルに比較して増加しているときには用量を減らすことをさらに含んでなる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
レベルが正常レベルに比較して増加しているときには用量を増し、またはレベルが正常レベルに比較して減少しているときには用量を減らすことをさらに含んでなる、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
骨髄抑制剤を患者に投与することをさらに含んでなる、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
骨髄抑制剤を患者に投与する前に、造血サイトカインのレベルを測定することを含んでなる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
骨髄抑制剤を患者に投与した後に、造血サイトカインのレベルを測定することを含んでなる、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
骨髄抑制剤を患者に投与する前およびした後に、造血サイトカインのレベルを測定することを含んでなる、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
免疫モジュレーターを患者に投与することをも含んでなる、請求項13に記載の方法。
【請求項21】
免疫モジュレーターが、G−CSF、GM−CSF、トロンボポエチン、エリスロポエチン、またはそれらの混合物を含んでなるものである、請求項13−21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
骨髄抑制剤が、化学療法剤、放射線療法剤、または両方を含んでなるものである、請求項1−21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
放射線療法剤が放射線免疫療法剤を含んでなるものである、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
試料が血漿または血液を含んでなるものである、請求項1−23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
造血サイトカインが、SCF、FLT3−L、IL−1、IL−3、IL−6、IL−11、IL−21、MIP−1α、TGF−α、TGF−β、G−CSF、GM−CSF、またはそれらの混合物から選択されるものである、請求項1−24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
造血サイトカインが、FLT3−L、TNF−α、TGF−β、またはそれらの混合物から選択されるものである、請求項1−25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
造血サイトカインがFLT3−Lを含んでなる、請求項1−26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
患者由来の試料中の少なくとも1種類の造血サイトカインのレベルの測定が、試料を造血サイトカインに特異的に結合する抗体または抗体断片と接触させることを含んでなる、請求項1−27のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2006−501171(P2006−501171A)
【公表日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−513736(P2004−513736)
【出願日】平成15年6月13日(2003.6.13)
【国際出願番号】PCT/US2003/018601
【国際公開番号】WO2003/106967
【国際公開日】平成15年12月24日(2003.12.24)
【出願人】(500336351)センター・フォー・モレキュラー・メディシン・アンド・イムノロジー (2)
【Fターム(参考)】