説明

骨髄指向性薬物送達物質およびその用途

本発明は、少なくとも1の微細な粒子を含む骨髄指向性薬剤送達物質であって、当該微細な粒子が当該粒子の表面においてアニオン性基を含む送達物質に関する。また、ここで明らかにされた当該物質の骨、軟骨、骨髄および関節の疾患の予防、治療または診断のための使用を開示する。また、対象における骨、軟骨、骨髄または関節の疾患を予防、治療または診断する方法であって、当該対象に薬学的に有効量の本発明の物質を投与することを含む方法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
技術分野
本発明は、薬学および臨床医薬の分野に係る。より具体的には、本発明は、骨、軟骨、骨髄および関節の疾患の診断、治療または予防のような広範な用途に用いることができる薬物送達物質に関する。
【0002】
背景技術
注入部位から離れている疾患部位を治療するために、溶液の形態で構成された薬物を静脈内投与することは、一般的である。しかし、静脈内投与に続いて、薬物は、対象の全身にわたって広がり、そのほとんどが、例えば尿を通じて、排泄される。したがって、患者は、疾患部位に治療レベルを用意するために、比較的多量の薬物投与を必要とし得る。多くの場合、過剰に多量の投与は薬物の副作用あるいは薬物の安全性に関する不確実性をもたらし得るので、要求される治療的投与量を投与することはできない可能性がある。すなわち、副作用の危険を減少させて、治療剤をより効率的に疾患部位に送達するための新規な方法および物質についての必要性が存在する。
【0003】
コロイド粒子(サイズ:直径として0.02〜5μm)は薬物送達物質として記述されてきている。しかしながら、その大部分は、哺乳動物に投与した場合、肝臓および脾臓の網内系に捕捉されるようになる。これが、効率的な薬物送達の主要な障害となっている。
【0004】
小胞体は、その内水相や二分子膜中に各種物質を担持できる薬物送達物質として記述されてきている。しかしながら、それらは、肝臓、脾臓の網内系内に捕捉されるようになることにより、血中から速やかに取り除かれる。そのため、小胞体の成分組成や粒径を調節し、あるいは小胞体の表面を修飾することによって、小胞体の血中滞留時間を延長させる研究がなされている。その結果、ポリエチレングリコール(PEG)鎖による小胞体の表面修飾が肝蔵、脾臓での網内系捕捉を減少させ上で有効であり、小胞体の血中滞留時間を延長させることが報告されている。
【0005】
PEG−小胞体の延長された血中滞留性は、特別な集積機構を利用しなくても、代謝活性部位(例えば、腫瘍)への薬物送達量を受動的に向上させることが報告されている。これは、静脈内投与された小胞体の生体組織への取込が競合的なプロセスであることを意味する。このことは、肝蔵および脾臓の網内系のより遅い捕捉速度により臓器および組織への取込みが増大するため、受動的薬物送達として知られている。受動的薬物送達は、部位指向特異性がなく、その結果、疾患の特定の部位への送達が非効率である。
【0006】
このため、対象における疾患の特定の部位に治療剤を能動的に指向させるための方法の特定に強い関心が存在する。例えば、カチオン性小胞体が細胞への遺伝子導入に利用できることが報告されている。これに関し、種々のタイプのカチオン性小胞体が提案されており、それらの遺伝子治療における適用の可能性が検討されている。カチオン性脂質を含む小胞体は、培養細胞等単純化されたモデル系では標的部位に充分に集積することが立証されているが、生体においてはそのような効果は確認されていない。いくつかの能動的薬物送達物質の表面は、生理活性を示すことがあるが、肝臓、脾臓の網内系中の捕捉が生体内での障害となっている。
【0007】
アニオン性小胞体に利用されてきたアニオン性リン脂質(例えば、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール)は、補体活性作用や血小板減少症を誘発することが知られている(Reihish et al., Thromb. Haemost., 60(3): 518-523, 1988; Levine et al., Ann. Intern. Med., 114(8): 664-666, 1991参照)。この免疫反応により感作されたアニオン性小胞体は、直ちに肝臓や脾臓の貪食細胞に捕捉され、骨にほとんど到達し得ない。
【0008】
ところで、リン酸化合物等の負荷電分子は、骨親和性を示すことが知られている。これは、静脈内投与後の、骨組織のヒドロキシアパタイト中に存在するカルシウムイオンの正電荷との、これら分子の相互作用によるものである。例えば、放射線標識を担持するリン酸化合物は、骨シンチグラフィーに利用されている。他方、リン酸残基を荷電基として有するアニオン性小胞体系は、そのほとんどが、肝臓および脾臓の網内系内での捕捉により、除去され、それらの骨髄指向性は報告されていない。例えば特開2004-203862号公報は、水酸基を有するシリル基で修飾されたリン脂質を含む、骨に親和性を有する小胞体を開示している。しかしながら、実際にその小胞体が骨組織において集積したことを立証する実施例は提示されていない。
【0009】
骨髄は造血器として重要な役割を担っており、骨髄炎、骨髄腫等の骨疾患は重篤な病態を引起す。骨髄は、外科的手術が1つの選択肢となる臓器ではないため、骨髄疾患は、主に、化学療法による等の治療を受ける。また、骨髄は薬物や放射線に対する感受性が高く、骨髄損傷が重大な副作用の原因となることが多い。従って、治療剤を効率的に骨または骨髄に送達する能力を有する薬物送達系に対し大いなる必要性が存在する。これらの治療剤は、化学療法や放射線療法の毒作用に対し特異的に保護するための骨髄保護剤であり得る。骨標的剤は、骨または骨髄の疾患の診断のための安全で効率的な診断剤としても使用できる。現在のところ、薬物を骨髄へ効率的に送達するための有効な手段は存在しない。現在の技術を用いる、骨髄への治療剤の投与は、しばしば、望まない副作用をもたらしており、治療の障害となっている。すなわち、最小限の副作用で、治療剤を骨髄に向けさせるより効果的な方法に対する必要性が存在する。
【0010】
発明の開示
本発明者らは、高い特異性をもって、治療剤を骨に指向させる能力を有する新規な薬物送達物質を確定した。これの剤は、また、骨における治療剤の蓄積をもたらす能力を有する。
【0011】
特に、本発明者らは、生理学的に不活性なアニオン性基、すなわち、従来使用されてきた生理学的に活性なリン酸残基を除くアニオン性基が、薬物送達物質の表面に担持されたとき、治療剤を骨または骨髄へ特異的に指向させる能力を有することを見いだした。カルボン酸残基を担持する小胞体を一例として取り上げ、本発明者らは、そのような小胞体が骨髄に対して高い親和性を示すことを立証した。これは、そのような小胞体を生体に静脈内投与し、生体内の臓器における小胞体の分布を定量的に解析し、かかる小胞体が骨髄への薬物送達物質として利用できることを見出したという事実に基づく。さらに、本発明者らは、この薬物送達物質表面のアニオン性基の効果を遮蔽しない適当量のポリエチレングリコール(PEG)鎖で送達物質の表面を修飾することにより、肝蔵への取込を抑制して、効率的に送達物質を骨髄に集積させることに成功した。
【0012】
本発明は、一般的に、表面上にアニオン性基を含む少なくとも1つの微粒子を含む骨髄指向性の薬物送達物質に向けられている。いくつかの態様において、微粒子は、約0.01nm〜5μmの直径を有する。具体的な態様において、微粒子は、0.02μm〜1μmの直径を有する。
【0013】
具体的な態様において、薬物送達物質は、複数の微粒子から構成される。微粒子は、単一の直径のものであっても、直径が異なるものであってもよい。好ましい態様において、微粒子は、0.02μm〜1μmの平均直径を有する。
【0014】
微粒子は、どのような構造または組成であってもよい。具体的な態様において、微粒子は、さらに、少なくとも1種の両親媒性化合物の分子の集合体を含むものとして定義される。例えば、両親媒性化合物は、アニオン性基をその親水部に含むことができる。
【0015】
微粒子は、固体粒子であってもなくてもよい。いくつかの態様において、微粒子は、小胞体を形成する分子の集合体から構成される。
【0016】
アニオン性基は、ここでは、負電荷を担う分子の一部をいうものと定義される。例えば、アニオン性基は、カルボン酸基であり得る。
【0017】
両親媒性化合物は、当業者に知られているどのような両親媒性化合物であってよい。いくつかの態様において、両親媒性化合物は、脂肪酸またはその塩である。例えば、両親媒性化合物は、式(1):
MOOC−(R1)p−R2
(ここで、Mは水素原子あるいは一価の陽イオンであり、R1はスペーサーであり、R2は疎水性基であり、pは0または1である)で示される化合物であり得る。あるいは、両親媒性化合物は、式(2):
MOOCR3−CO−HNCH(COOR4)CH2CH2COOR4
(ここで、Mは水素原子あるいは一価の陽イオンであり、R3は、−CH2CH2−または−CH(CH3)CH2−を表し、R4は、C12〜C22アルキル基を表す)で示される。
【0018】
微粒子は、さらに、水溶性ポリマーを含むものとして定義されてもされなくてもよい。例えば、水溶性ポリマーは、微粒子の表面に結合されうる。送達物質は、例えば、いくつかが水溶性ポリマーを含んでいるところの、微粒子の混合物を含む。さらなる態様において、すべての微粒子が水溶性ポリマーを含む。
【0019】
水溶性ポリマーは、当業者に知られているどのような水溶性ポリマーであってよい。例えば、いくつかの態様において、水溶性ポリマーは、ポリエチレングリコールである。
【0020】
1つの具体的な態様において、薬物送達物質は、1〜50モル%の、式(2):
MOOCR3−CO−HNCH(COOR4)CH2CH2COOR4
(ここで、Mは水素原子あるいは一価の陽イオンであり、R3は、−CH2CH2−または−CH(CH3)CH2−であり、R4は、C10〜C22アルキル基である)で示される両親媒性化合物、および0.5〜4.8モル%の、親水性部としてポリエチレングリコールを含む両親媒性化合物を含み、少なくとも1つの微粒子が、100〜500nmの平均粒径を有する。
【0021】
ある態様において、少なくとも1つの微粒子は、少なくとも1つの微粒子に結合された薬物を含む。用語「薬物」および「治療剤」は、この出願中で同義語として用いられており、対象における疾患または健康関連状態の診断、治療または予防に適用され得るいずれもの剤をいう。例えば、いくつかの態様において、薬物は、対象における骨、軟骨または骨髄の疾患の診断、治療または予防に適用され得る剤である。他の態様において、薬物は、対象における関節の疾患の診断、治療または予防に適用され得る剤である。特別の態様において、薬物は、対象における骨髄疾患の診断、治療または予防に適用され得る剤である。
【0022】
すなわち、例えば、本発明は、また、ここで説明する薬物送達物質のいずれかの、対象における骨、軟骨または骨髄の疾患の予防、治療または診断のための使用に一般的に向けられている。また、本発明は、一般に、ここで説明する薬物送達物質のいずれかの、対象における関節の疾患の予防、治療または診断のための使用に向けられている。対象は、どのような対象であってもよく、例えば、哺乳類または鳥類であり得る。好ましい態様において、対象は、ヒト対象である。
【0023】
薬物送達物質の投与量は、疾患を予防し、治療し、または診断する上で有益であると知られ、または推測されるいずれもの投与量であり得る。例えば、投与量は、対象の体重kgあたり0.1mg〜500mgの送達物質あるいはそれ以上であり得(ここで、送達物質は、粒子プラス粒子に結合した薬物を含む)、あるいは体重kgあたりより狭い範囲のmgであり得る。以下本明細書で詳細に検討するように、薬物の投与量は、複数の要因、例えば、投与経路、治療されるべき疾患、対象に特有の要因に依存する。繰り返しの投与は、必要であってもよく、または必要でなくてもよい。
【0024】
本発明は、また、一般に、対象に、薬学的に有効量の上に説明した薬物送達物質のいずれかを投与することを含む、対象における骨、軟骨または骨髄の疾患を予防し、治療し、または診断する方法に向けられている。本発明は、また、対象に、薬学的に有効量の上に説明した薬物送達物質のいずれかを投与することを含む、対象における関節の疾患を予防し、治療し、または診断する方法に向けられている。薬物送達物質の薬学的に有効量は、上に述べた送達物質の投与量のいずれでもあり得る。
【0025】
上に論じたように、対象は、哺乳類または鳥類のようないずれの対象であり得る。ある特別な態様において、対象はヒトである。例えば、ヒトは、骨髄、骨、軟骨または関節の疾患を有する患者であり得る。
【0026】
本発明は、また、一般的に、所定量の上で説明した薬物送達物質のいずれかと、封止された容器を含むキットに向けられている。
【0027】
本明細書において、薬物送達形成物質の重量は、薬物を全く担持することのない、送達物質を形成する物質の総重量である。
【0028】
本発明の1つの態様に関して論じたどのような限定も、本発明の他の態様に適用できることが特に企図されている。さらに、本発明のいずれもの組成物も、本発明のいずれもの方法に用いることができ、本発明のいずれもの法穂も、本発明のいずれもの組成物を製造し、あるいは利用するために用いることができる。
【0029】
請求項における用語「または」の使用は、択一のみであると明示的に指摘されない限り、あるいは択一が相互に排他的であるとされない限り、「および/または」を意味するために用いられている。もっとも、本開示は、択一のみ、および「および/または」に言及する定義を裏付けている。本出願全体において、用語「約」は、その値がその値を決定するために用いられている装置および/または方法の誤差の標準偏差を含むことを示している。
【0030】
本明細書で用いている単数表現は、他に明示的な指摘のない限り、1またはそれ以上を意味する。請求項に用いられている単数表現は、「含む」とともに用いられていつ場合、単数表現は、1または1を超えることを意味し得る。ここで用いられている「他」は、少なくとも第2のまたはそれ以上を意味し得る。
【0031】
以下の図面は、本明細書の部分を構成し、本発明のある種の側面をさらに明らかにするために含まれている。本発明は、これら図面の1つまたはそれ以上を、ここに提示する具体的な態様の詳細な説明と組み合わせて参照することにより、よりよく理解できる。
【0032】
発明を実施するための最良の形態
本発明は、一般的に、表面上にアニオン性基を含む少なくとも1つの微粒子を含む骨髄指向性の薬物送達物質に関する。
【0033】
A.微粒子および両親媒性化合物
1.微粒子
本発明による薬物を生体内に送達するための送達物質は、少なくとも1つのアニオン性基を表面に担持する指向性の担体(微粒子)を含む。微粒子は、表面に少なくとも1つのアニオン性基を担持する限り、どのような物質で構成されていてもよい。そのような物質の例には、油滴、脂肪乳剤、ポリマービーズ、ポリマーミセル、ポリマーゲル、蛋白質重合体、および両親媒性化合物により形成されるミセル、小胞体、繊維状集合体、平板状集合体等が含まれる。このような微粒子のサイズは、特に限定されるものでないが、通常は直径が20〜5000nm、好ましくは100〜1000nm、さらに好ましくは250±100nmである。粒子径が5000nmを越える微粒子の投与は、肺の毛細管閉塞を誘発するかもしれない。さらに、5000nmよりも大きな粒子は、肝臓または脾臓での網内系内に取り込まれ得、所期の効果が低下することもある。
【0034】
薬物送達物質表面に担持させるアニオン性基は、好ましくは、ホスファチジルグリセロール基、ホスファチジルセリン基およびホスファチジルイノシトール基を除くアニオン性基から選択される。ホスファチジルグリセロール基、ホスファチジルセリン基、ホスファチジルイノシトール基を含有する薬物送達物質は、骨指向性を発揮しない傾向にあり、従って骨内に集積しない。本発明に関して用いられるアニオン性基の具体的な例には、カルボン酸基、スルホン酸基および硫酸基が含まれる。
【0035】
アニオン性基を粒子表面に担持させるどのような方法も、本発明により企図されている。例えば、アニオン性基を粒子表面に担持させるために、エステル結合またはアミド結合のような共有結合、アニオン性基を有するポリマーの担体表面への物理的吸着、担体が両親媒性化合物の分子集合体である場合には、親水部にアニオン性基を有する両親媒性化合物の、分子集合体の成分としての含有を用いることができる。
【0036】
スルホン酸基を有する化合物の例には、スルホン酸基を有するアミノ酸であるタウリンが含まれる。タウリンは担体に化学的に結合させることができる。あるいは、タウリンを疎水性部に結合させて両親媒性化合物を生成させ、これを分子集合体に含有させることもできる。疎水性部としては、脂肪酸(例えば、以下に示すもの)を好適に使用することができる。
【0037】
硫酸基を有する化合物の例には、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デルマンタン硫酸、ケラチン硫酸、ヘパリン、およびこれらポリマーに疎水性基を結合させて生成したこれらポリマーの両親媒性誘導体が含まれる。
【0038】
2.両親媒性分子
ここで、両親媒性分子は、少なくとも1つの疎水性基と少なくとも1つの親水性基を有する分子をいうものと定義される。両親媒性分子は、例えば、ポリマー化合物、界面活性剤、脂質化合物のような、カルボン酸残基を含むことができる。好ましくは、カルボン酸残基は、所期の効果を効果的に生じさせるために、薬物送達物質の表面に配置され、この目的には、親水部にカルボン酸基を有する両親媒性化合物を用いることができる。
【0039】
本発明に用いられるカルボン酸残基を有する両親媒性化合物の例には、飽和直鎖脂肪酸、例えば、カプリル酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、マーガリン酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸およびメリシン酸が含まれる。他の例には、不飽和直鎖脂肪酸、例えば、トウハク酸、リンデル酸、ツズ酸、フィセトレン酸、パルミトレイン酸、ペトロセリン酸、エルカ酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、リノール酸、ネルボン酸、リノエライジン酸、リノレン酸、γ−リノレン酸、ビスホモ−γ−リノレン酸およびアラキドン酸が含まれる。それらの分岐鎖類似体も用いることができる。分岐脂肪酸の例には、イソ酸、例えば、イソラウリン酸、イソミリスチン酸、イソパルミチン酸、イソステアリン酸およびイソアラキジン酸、並びにアンテイソ酸、例えば9−メチルウンデカン酸、10−メチルドデカン酸、11−メチルトリデカン酸、12−メチルテトラデカン酸、13−メチルペンタデカン酸、14−メチルヘキサデカン酸、15−メチルヘプタデカン酸および16−メチルオクタデカン酸が含まれる。
【0040】
親水性基の先端にカルボン酸残基を有する親水性基を任意のスペーサーを介して疎水性基に結合した両親媒性化合物は、式(1):
MOOC−(R1)p−R2
(ここで、Mは水素原子あるいは一価の陽イオン、R1はスペーサー、R2は疎水性基、pは0または1である)で示すことができる。スペーサー(R1)はあっても(p=1)なくても(p=0)よい。しかしながら、カルボン酸残基が送達物質の他の成分として使用されている両親媒性化合物の親水基により遮蔽されるような場合は、骨指向性が低下するため、好ましくは、スペーサーが存在する。スペーサーの例には、−(CH2n−(nは1〜5の整数)、−(CH2CH2O)n−(nは1〜115の整数)および−CH2OCH2−が含まれる。疎水性基(R2)の例には、疎水性ペプチド、アルキル基、コレステロール等のステロール基、アミノ酸のジアシル誘導体が含まれる。親水性基は、親水性と疎水性のバランスや送達物質の他の成分として使用される両親媒性化合物との相溶性を考慮して選択される。一価の陽イオン(M)の例には、ナトリウムおよびカリウムのようなアルカリ金属が含まれる。
【0041】
ある態様において、両親媒性化合物は、脂質化合物である。カルボン酸基を有する脂質化合物の例には、グルタミン酸またはアスパラギン酸のようなアミノジカルボン酸をC12〜C22長鎖アルコールと反応させ、残るアミノ基をコハク酸、メチルコハク酸またはフマル酸のようなジカルボン酸と反応させて得られる脂質化合物が含まれる。好ましいカルボン酸含有脂質化合物は、式(2):
MOOCR3−CO−HNCH(COOR4)CH2CH2COOR4
(ここで、Mは水素原子あるいは一価の陽イオンであり、R3は、−CH2CH2−または−CH(CH3)CH2−を表し、R4は、C10〜C22アルキル基を表す)で示すことができる。一価の陽イオン(M)の例には、ナトリウムおよびカリウムのようなアルカリ金属が含まれる。これらカルボン酸含有脂質化合物は、例えば、ここに参照により具体的に組み込まれる米国特許第5,370,877号に記載されている方法により合成することができる。カルボン酸基を含有する両親媒性化合物の追加の例は、ここに参照により具体的に組み込まれるWO2003/018539に記載されている。しかしながら、カルボン酸基を有する両親媒性化合物は、上に記載されたものに限定されるものでない。
【0042】
3.小胞体
本発明のある態様において、微粒子は、小胞体を形成する、両親媒性分子の集合体を含む。本発明の小胞体は、上記負荷電基含有脂質化合物に加えて、中性脂質化合物を含むことが好ましい。全体的に負または正に荷電していないいずれもの脂質分子を中性脂質化合物として用いることができる。ホスファチジルコリン基を含有するリン脂質が好ましい。ホスファチジルコリン基を含有するリン脂質には、飽和リン脂質および不飽和リン脂質が含まれ、本発明ではいずれのものでも使用できる。また、これらの化合物のいずれもの組み合わせも用いることができる。飽和リン脂質の例には、合成および半合成リン脂質、および中性脂質またはそれらの誘導体、例えば100%に近い水添率の水添卵黄レシチン、水添大豆レシチン、並びにジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、およびジステアロイルホスファチジルコリンが含まれる。不飽和リン脂質の例には、卵黄レシチン、大豆レシチン、重合性基を有する重合性リン脂質、例えば、1,2−ビス(2,4−オクタデカジエノイル)−sn−グリセロ−3−ホスホコリンまたは1,2−ビス−(8,10,12オクタデカトリエノイル)−sn−グリセロ−3−ホスホコリンが含まれる。重合性リン脂質は、炭素数2〜24の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基、アシル基、非重合性アルケニル基もしくは非重合性アルケノイル基のような非重合性脂肪酸残基を含有していてもよい。
【0043】
本発明の小胞体を構成する膜形成材中の負荷電基含有脂質化合物の量は、1〜50モル%であることが好ましく、5〜20モル%であることがさらに好ましい。負荷電基含有脂質化合物の量が1モル%未満であると、負荷電基の効果が低減する。他方、負荷電基含有脂質化合物の量が50モル%を超えると、得られる小胞体膜が不安定となる場合があるので好ましくない。
【0044】
本発明の小胞体を構成する膜形成材は、小胞体膜の安定化剤としてコレステロール化合物を含有することができる。コレステロール化合物の例には、エルゴステロールおよびコレステロールが含まれる。コレステロールが好ましい。コレステロール化合物の量に特に制限はないが、安定な小胞体膜の生成に要されるように、好ましくは本発明の小胞体を形成する両親媒性化合物100モルに対して40〜100モルの比である。上記中性脂質化合物は、本発明の小胞体を形成する両親媒性化合物の量の99モル%以下を占めることができる。
【0045】
さらに、膜形成材にPEG修飾脂質化合物を含めることにより、得られる小胞体の骨髄選択性が向上する。脂質化合物を修飾するために脂質化合物に結合されるPEG鎖の重量平均分子量は、好ましくは1000ないし20000である。PEG鎖の末端はアセチル、メトキシ、カルボキシルおよび/またはヒドロキシル基によって構成され得る。PEGが結合する脂質化合物には、特に制限はない。そのようなPEG修飾リン脂質は、例えば、それぞれ参照によりここに具体的に組み込まれるWoodle およびLasic, Biochem. Biophys. Acta, 1113(2): 171-199, 1992およびWO2001/016211に記載されている。PEG修飾両親媒性化合物の含量はその分子量により異なる。しかしながら、PEG修飾両親媒性化合物は、好ましくは、小胞体を構成する両親媒性化合物の合計量に基づいて、0.1モル%〜10モル%の量で用いられる。PEG修飾両親媒性化合物の含量が少ない場合は、骨への送達物質の集積効率が肝蔵や脾臓の取込みにより低下する。他方、PEG修飾両親媒性化合物の含量が多い場合には、アニオン性基が遮蔽され、骨指向性が低下する。すなわち、特に、肝臓への取込みを低下させ、骨集積性を向上させるためには、PEG修飾両親媒性化合物は、小胞体を構成する両親媒性化合物の合計量の0.6モル%〜4.8モル%を構成することが好ましい。
【0046】
本発明の小胞体は、当該分野で既知のどのような方法によっても調製することができる。例えば、脂質混合物の粉末に水系溶媒を加えて水和、膨潤させ、ついでこれを、静置水和法により、ボルテックスミキサー、強制撹拌機、超音波照射機、ホモジナイザー、マイクロフルダイザーまたは高圧押出し機を用いることにより、凍結融解法により、有機溶媒注入法、界面活性剤除去法、逆相蒸発法、または有機溶媒小球蒸発法により、所望の小胞体とすることができる。通常、小胞体は調製条件により、多重層小胞体、一枚膜小胞体に分類されるが、本発明においてはいずれでもよい。本発明の小胞体は、通常は平均粒子径が50〜5000nm、好ましくは100〜1000nm、さらに好ましくは250±100nmであるが、直径はこれらに限定されるものではない。平均粒子径が5000nmを越える小胞体の投与は、肺の毛細管閉塞を誘発する恐れがある。他方、小胞体の平均粒径が1000nmを越えると、肝臓、脾臓での網内系取込みにより、本発明の上記効果が低下することもある。
【0047】
B.薬物
本発明の特別の側面において、少なくとも1つの微粒子は、微粒子に結合された薬物を含む。用語「薬物」および「治療剤」は、この出願中で同義語として用いられており、対象における疾患または健康関連状態の診断、治療または予防に適用され得るいずれもの剤をいう。本発明の薬物送達物質に担持される薬物は、骨、骨髄または関節疾患の予防、診断、治療、あるいは保護に好適なものから選択される、特に限定されるものでない。好ましくは、送達物質は、抗ウイルス剤、抗微生物剤、抗細菌剤、抗真菌剤、抗新生物剤、抗炎症剤、放射標識剤、放射線不透過化合物、蛍光化合物、色素化合物、核酸配列、抗癌剤、細胞増殖因子、造血因子(エリスロポエチン、G-CSF)および生理活性物質から選択される薬物を担持する。これらの薬物を担持させるために、担体および薬物の物性を考慮して好適な方法を用いることができる。例えば、薬物は、共有結合、あるいは水素結合、疎水性相互作用およびイオン結合のような二次的な相互作用を利用して担体に担持させることができる。担体が小胞体により構成される場合、担持方法は、小胞体の内水層に内包させる方法、小胞体膜の疎水性部に導入する方法、および小胞体表面に結合あるいは吸着させる方法の中から、担持される薬物の物性を考慮して、選択することができる。
【0048】
本請求した発明の送達物質による送達のためにどのような薬物または治療剤も企図されている。抗ウイルス薬剤の具体例には、オセルタミビルホスフェートおよびインジナビルスルフェートが含まれる。抗微生物剤には、シプロフロキサシン、デフォテタン(defotetan)およびアジスロマイシンのような抗細菌剤、アムホテリシンB、ナイスタチンおよびケトコナゾールのような抗真菌剤、並びにイソニアジド、ストレプトマイシンおよびリファンピンのようなアニチュバーキュラー(anitubercular)剤が含まれる。ビタミンD、カルシウム、PTH拮抗剤またはビスホスホネートのような、骨の成長を刺激し、または骨の消失から保護するための剤も企図されている。
【0049】
抗新生物剤も、本発明の送達物質による送達のための薬物として企図されている。本発明に従い、広範な化学療法剤を用いることができる。用語「化学療法」は、癌を治療するための薬剤の使用をいう。「化学療法剤」は、癌の治療において投与される化合物または組成物を意味するのに用いられる。これらの剤または薬物は、細胞内でのそれらの活性の様式、例えば、それらが細胞サイクルに影響を及ぼすかどうか、およびどの段階でかかる影響を及ぼすかにより分類される。あるいは、剤は、DNAを直接結合する、DNA中に挿入される、または核酸合成に影響を及ぼすことにより染色体および有糸分裂異常を誘起する能力に基づいて特徴付けられる。ほとんどの化学療法剤は、次のカテゴリー:アルキル化薬、代謝拮抗物質、抗腫瘍抗生物質、有糸分裂阻害剤、およびニトロソ尿素に分類される。
【0050】
化学療法剤の例には、チオテパおよびシクロスホスファミドのようなアルキル化薬;ブスルファン、インプロスルファンおよびピポスルファンのようなアルキルスルホネート;ベンゾドーパ、カルボコン、メツレドーパおよびウレドーパのようなアジリジン;アルトレタミン、トリエチレンアミン、トリエチレンホスホルアミド、トリエチレンチオホスホルアミドおよびトリメチロールアミン等のエチレンイミンおよびメチルアメラミン;アセトゲニン(特に、ブラタシンおよびブラタシノン);カンプトテシン(合成類似体トポテカンを含む);ブリオスタチン;カリスタチン;CC−1065(そのアドゼレシン、カルゼレシンおよびビゼレシン合成類似体を含む);クリプトフィシン(特に、クリプトフィシン1およびクリプトフィシン8);ドラスタチン;ドゥオカルマイシン(duocarumycin)(合成類似体、KW2189およびCB1−TM1を含む);エロイスロビン(eleutherobin);パンクラチスタチン;サルコジクチイン;スポンジスタチン;ナイトロジェンマスタード、例えば、クロラムブシル(chlorambucil)、クロルナファジン、クロフォスフェミド、エストラムスチン;イホスファミド、メクロルエタミン、塩酸メクロレタミンオキシド、メルファラン、ノベンビシン;フェネステリン、プレドニムスチン、トロホスファミド、ウラシルマスタード;ニトロスウレア、例えば、カルムスチン、クロロゾトシン、ホテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、およびラニンヌスチン(ranimnustine);抗生物質、例えば、エネジイン系抗生物質(例えば、カリケアミシン、特に、カリケアミシン・ガンマ1I、カリケアミシン・オメガI1;ダイネミシンAを含むダイネミシン;ビスホスフォネート、例えば、クロドロネート;エスペラマイシン;並びにネオカルジノスタチンクロモフォアおよび関連するクロモプロテイン・エンジイン・アンチバイオティック・クロモフォア、アクラシノマイシン、アクチノマイシン、オースラルナイシン(authrarnycin)、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カラビシン、カルミノマイシン、カルジノフィリン、クロモマイシニス(chromomycinis)、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン、6−ジアゾ−5−オキソ−L−ノルロイシン、ドキソルビシン(モルホリン−ドキソルビシン、シアノモルホリノ−ドキソルビシン、2−ピロリノ−ドキソルビシンおよびデオキシドキソルビシンを含む)、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン、マルセロマイシン、ミトマイシン、例えば、ミトマイシンC、マイクフェノリックアシッド、ノガラルナイシン(nogalarnycin)、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン、プロマイシン(puromycin)、クエラマイシン、ロドルビシン、ストレプトニグリンストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベンメックス、ジノスタチン、ゾルビシン;代謝拮抗剤、例えば、メソトレキセートおよび5−フルオロウラシル(5−FU);葉酸類似体、例えば、デノプテリン、メソトレキセート、プテロプテリン、トリメトレキサート;プリン類似体、例えば、フルダラビン、6−メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニン;ピリミジン類似体、例えば、アンシナビン、アザシチジン、6−アザウリジン、カルモフル、シナラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロキシウリジン;アンドロゲン、例えば、カルステロン(calusterone)、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトン;抗副腎、例えば、アミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタン;葉酸補給剤、例えば、葉酸;アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド;アミノレブリン酸;エニルラシン;アムサクリン;ベストラブシル(bestrabucil);ビサントレン;エダトラキサート;デフォファミン;デメコルシン;ジアジクオン;エルフォルミチン(elformithine);酢酸エリプチニウム;エポチロン;エトグルシド;ガリウムニトレート;ヒドロキシウレア;レンチナン;ロニダイニン;メイタンシノイズ、例えば、メイタンシンおよびアンサミトシン;ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダンモール(mopidanmol);ニトラエリン;ペントスタチン;フェナメット;ピラルビシン;ロソキサントロン;ポドフィルリニックアシデド(podophyllinic acid);2−エチルヒドラジン;プロカルバジン;PSK(ポリサッカライドコンプレックス);ラゾキサン;リゾキシン;ジゾフィラン;スピロゲルマニウム;テヌアゾニックアシッド(tenuazonic acid);トリアジクオン;2,2’−2”−トリクロロトリエチルアミン;トリコテシン(特に、T−2トキシン、ヴェルラクリンA、ロリジンAおよびアングイジン);ウレタン;ヴィンデシン;ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン;アラビノシド(「Ara−C」);シクロホスファミド;チオテパ;タキソイド、例えば、パクリタキセルおよびドキセタキセル;クロラムブシル;ゲムシタビン;6−チオグアニン;メルカプトプリン;メソトレキセート;白金錯体、例えば、シスプラチン、オキサルプラチンおよびカルボプラチン;ヴィンブラスチン;白金;エトポシド(VP−16);イホスファミド;ミトキサントロン;ビンクリスチン;ビノレルビン;ノバントロン;テニポシド;エダトレキサート;ダウノマイシン;アミノプテリン;キセローダ;イバンドロネート;イリノテカン(例えば、CPT−11);トポイソメラーゼ阻害剤RFS2000;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO);レチノイド、例えば、レチオニックアシッド;カペシタビン;および上記何れかの薬学的に許容される塩、酸または誘導体が含まれる。特別の態様において、化学療法剤は、以下からなる群から選択される;ドキソルビシン、トポイソメラーゼI阻害剤、例えば、トポテカンおよびイリノテカン、および分裂阻害剤、例えば、パクリタキセルおよびエトポシド、および代謝拮抗剤、例えば、メソトレキセート、およびモノクローナル抗体、例えば、リツキシマブ。
【0051】
赤血球生産の刺激因子もまた、送達のために企図されており、鉄、エポエチンアルファおよびフィルグラチンを含む。骨髄を、放射線および化学療法誘起損傷から保護するための剤も、企図され、アミフォスチン、天然抗酸化剤例えばビタミンeおよびクルクミンのようなフェノール含有天然生成物、並びにロイコボリンのようなメソトレキセートレスキュー剤を含む。
【0052】
薬物は、ペンテト酸カルシウム三ナトリウムのような、骨髄から重金属を除去するために用いられる剤であり得る。プレドニゾン、ヒドロコルチゾン、アスピリン、インドメタシン、セレコキシブおよびイブプロフェンのような抗炎症剤も、99mTc、111In、186Reおよび188Reのような放射標識剤と同様に、送達のために企図されている。ヨウ素含有CT造影剤のような放射線不透過化合物も、ガドペンテト酸ジメグルミンのようなMRI診断剤と同様に、送達のために企図されている。
【0053】
C.投与量および投与
語句「薬学的に効果的な」または「薬学的に許容され得る」は、必要に応じて、動物またはヒトに投与されたとき、拒絶反応、アレルギー性反応または他の有害な反応を生じない分子および組成物を指す。ここで用いている「薬学的製剤」には、あらゆる溶媒、分散剤、コーティング、抗細菌および抗真菌剤、等張および吸収遅延剤等が含まれる。薬学的に活性な物質に対するそのような媒体および剤は、当該分野でよく知られている。いずれかの通常の媒体または剤が活性成分と適合しない場合を除き、治療組成物におけるその使用が企図されている。補助的活性成分も、組成物に含めることができる。ヒトへの投与のためには、製剤は、バイオロジックス標準のFDA局により要求される無菌性、発熱性、一般の安全性および純度の基準を満たすべきである。
【0054】
治療または予防剤の有効量は、意図された目的、例えば骨疾患の治療に基づいて決定される。治療回数と投与量に従い投与される量は、治療されるべき対象、対象の状態および望まれる保護に依存する。本発明の送達物質の正確な量は、また、診療医の判断に依存し、各個人に特有のものであり得る。
【0055】
ある態様において、患者への送達物質の連続的供給を行うことが望ましい場合がある。局部投与には、繰り返しの適用が採用されるであろう。種々のアプローチのために、制限されているが一定量の治療剤を長期間にわたって提供する遅延放出製剤を用いることができる。ある場合には、対象の領域の連続還流が好ましい。投与は、骨腫瘍の外科的切除術の後のように術後的であり得る。
【0056】
本発明の送達物質の投与量および投与方法は、治療されるべき対象、および達成されるべき目的に依存して異なるので、特に限定されるものではない。例えば、小胞体は、静脈内、皮下、筋肉内、関節内または局部投与することができる。投与される送達物質(薬物を含む)の投与量は、対象における疾患の治療、予防または診断に有益であると知られ、または推測されるどのような薬学的有効量であってもよい。例えば、投与量は、0.1mg/kg体重〜500mg/kg体重、またはそれ以上であり得る。特別の態様において、投与量は、薬物送達物質中の薬物の存在を含んで薬物送達物質の総重量を基準として、0.1mg/kg対象体重〜500mg/kg対象体重である。投与量が0.1mg/kg未満の場合は、本発明の効果が得られない場合がある。他方、小胞体をより多量に投与した場合は、小胞体が骨組織中に取り込まれるのにより時間を要し、肝臓や脾臓への小胞体蓄積が増大する。
【0057】
D.予防され、治療され、または診断されるべき疾患
本発明の送達物質は、いずれもの疾患または健康関連状態の診断、治療または予防に利用することができる。例えば、本発明の特別の態様において、疾患は、骨髄、骨、軟骨または関節を冒す疾患である。
【0058】
例えば、本発明の送達物質は、骨形成促進剤、骨疾患予防または治療剤、骨折予防または治療剤、軟骨形成促進剤および軟骨疾患予防または治療剤、あるいは変形性関節症または慢性関節リウマチ等の軟骨疾患の予防または治療薬、骨折、脱臼および骨破損等の外傷、骨膜炎、結核性骨関節炎、梅毒性骨炎、ハンセン病による骨変化、放線菌症、ブラストマイコーシスおよびブルセローシス等の炎症性疾患、良性骨腫、骨軟骨腫、類骨骨腫、多発性軟骨性外骨腫、孤立性骨嚢腫、骨巨細胞腫、繊維性骨異常形成、骨組織球症X、傍肩性骨肉腫、骨肉腫、軟骨肉腫、骨繊維肉腫、ユーイング肉腫、多発性骨髄腫および癌の骨転移等の腫瘍、くる病、骨軟化症、壊血病、副甲状機能亢進症、ページェット病、脳下垂体機能異常、鉄欠乏性貧血、線維性骨炎、腎性骨異栄養症、骨粗鬆症、骨欠損および硬直性脊髄炎等の代謝性・内分泌疾患、または軟骨無形成症、鎖骨・頭蓋骨無形成症、変形性骨異形成、骨形成不全症、大理石骨病、頭蓋骨縫合早期閉鎖、歯突起形成不全、クリペル−フェーユ症候群、脊椎披裂、半椎、骨変形・変形脊椎症、側弯症およびペルテス病等の先天性骨系統疾患・奇形症候群の治療剤あるいは診断剤として用いることができる。
【0059】
本発明の送達物質は、また、骨髄炎症、骨髄性白血病、多発性骨髄腫、造血障害、鉄欠乏性貧血、悪性貧血、巨赤芽球、溶血性貧血、遺伝性球状赤血球症、鎌状赤血球性貧血および再生不良性貧血等の骨髄疾患の治療剤または診断剤の高効率送達のために、あるいは腎臓病に伴う貧血の改善薬として遺伝子組換えにより産生されるエリスロポエチン、制癌療法で使用される顆粒球減少症の治療薬物、並びに骨髄移植および後天性免疫不全症候群(AIDS)に適用されるコロニー刺激因子(CSF)を送達するために好適に用いることができる。骨髄性腫瘍の治療剤の例には、シタラビン、ダウノルビシン、イダルビシン、アクラルビシン、ミトキサントロン、エノシタビン、6−メルカプトプリン、チオグアニン、アザシチジン、アムサクリン、ステロイド、亜砒酸、ヒドロキシカルバミド、ハイドレア、サイトシンアラビノシド、アントラサイクリン系薬物、レチノイン酸、ビンカアルカロイド系薬物、プレドニン、L−アスパラギナーゼ、インターフェロン、メルファラン、ビンクリスチン、アドリアマイシン、エンドキサン、メソトレキセート、サリドマイド、エトポシド、シクロホスファミド、カルムスチン、デキサメタゾン、サイトカイン、インターフェロン製剤、ブスルファン、ヒドロキシウレア、メシル酸イマチニブ、プレドニゾロンおよびボルテゾミブが含まれる。
【0060】
本発明の送達物質は、ガンマ線放射またはポジトロン放射性同位元素を担持させた場合、骨または骨髄疾患の診断薬として使用されてもよい。本発明の送達物質はまた、骨または骨髄疾患を放射性核種治療のための治療学的放射性核種(オージェ電子、ベータ放射性またはアルファ粒子放射性)を担持させてもよい。更に、本発明の送達物質は、放射性不透過剤を担持させた場合には、X線およびX線コンピュータ断層撮影のための診断薬として使用されてもよい。本発明の送達物質は、超常磁性または常磁性薬剤を嘆じさせた場合には、磁気共鳴映像法のための診断薬として使用されてもよい。加えて、本発明の送達物質は、骨髄に効率高く遺伝子を輸送および導入することが可能であるため、当該送達物質は、例えば、薬物耐性遺伝子を骨髄に輸送し、抗がん剤を使用する治療のための補助療法において骨髄を保護することが可能である。 E.第二の療法
本発明のいくつかの側面において、本発明の物質は、疾患、例えば、骨、骨髄、軟骨または関節などの疾患の予防、診断または治療において適用される。当業者に公知の広い多様な治療法が、本発明の物質と組み合わせて使用されてもよい。そのような治療法の例は、放射線療法、化学療法、外科的療法、免疫療法、遺伝子療法、光線療法、寒冷療法、毒素学的療法、またはホルモン療法を含む。当業者は、このリストが、がんおよび他の過形成性の病変のために利用できる治療様式を網羅的に示すものではないことを知っているであろう。
【0061】
薬物の有効性を上昇するために、本発明の当該物質と疾患の治療において有効な他の薬剤と併用することが望ましい。これらの組成は、望ましい結果、例えば、骨髄に影響する疾病の治療などを達成するために併用される有効な量において提供されるだろう。この方法は、両方の薬剤を含む単一組成物または薬理学的な製剤を対象に対して投与することを、または2つの異なる組成物または製剤(ここで、1つの組成物は本発明の当該物質を含み、他方は第ニの薬剤を含む)を、同時に投与することを含んでよい。
【0062】
或いは、当該物質の投与は、分単位から週単位の範囲の間隔で他方の薬剤治療に先行してまたは続いてもよい。他の薬剤と本発明の当該物質が別々に投与される態様において、
有意な期間は、各々の送達時間の間に終了しなかったことは一般的に保証されるだろう。そのような例において、互いに約12から24時間以内、より好ましくは互いに約6から12時間以内に両方の薬剤が投与されることが企図される。しかしながら、いくつかの状況において、有意な治療のための期間が延期されること、それぞれの投与の間が数日(2、3、4、5、6または7日)から数週間(1、2、3、4、5、6、7または8週)が経過することが望ましくてもよい。
【0063】
本発明の当該物質の対象に対する投与は、薬学的作用薬の投与のための一般的なプロトコールに従うだろう。治療サイクルが必要に応じて繰り返されることも予想される。また、種々の標準的な治療、並びに外科的処置が、ここで示された記述された物質との組み合わせにおいて提供されることも考えられる。
【0064】
F.キット
本発明の薬物送達物質は、キットに組み込まれてもよい。当該キットは1以上の容器を含む。当該の容器は、一般的に少なくとも1のバイアル、バッグ、試験管、フラスコ、ビン、または他の容器を含み、それに対して構成要素が、好ましくは適切な一定分量で添加されてもよい。1以上の容器は、薬学的に有効量の本発明の薬物送達物質を含んでもよい。本発明のいくつかの態様において、当該薬物送達物質は1以上の薬物を含んでもよい。他の態様において、当該薬物は第一の容器に含まれ、当該薬物送達物質は第ニの容器に含まれ、それらは投与に先駆けて一緒にされ得る。
【0065】
1よりも多い構成要素が当該キットに含まれる場合には、当該キットはまた、一般的に、そこに更なる構成要素を別々に添加してもよい更なる容器を含むであろう。しかしながら、構成要素の種々の組み合わせが容器に含まれてもよい。本発明の当該キットは、また、典型的に、商業的販売のための密な制限に構成要素容器をパッケージングするための手段も含むだろう。そのようなパッケージングは、望ましい構成要素容器が保持される注射器またはブロー形成プラスチック容器を含んでよい。
【0066】

以下の例は、本発明のある態様を実例によって示すために含まれている。続く例において開示される技術は、本発明の実施において本発明者により発見された技術が良好に機能することを示すものであり、従って、その実施のためのいくつかの様式を構成するものであるとみなすことが可能であることが、当業者によって認識されるべきである。しかしながら、当業者は、本開示の知識において、特定の態様において多くの変更が行われることが可能であり、これらは、本発明の精神および範囲から逸脱することなしに同様または類似の結果が開示される、および同様または類似の結果が得られるということを正しく認識するべきである。
【0067】
例1:カルボン酸基含有小胞体
ジパルミトイルホスホコリンおよびコレステロールは、日本精化(株)(日本国大阪)から購入し、1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−[モノメトキシポリ(エチレングリコール)(5000)](PEG−DSPE)は、NOF社(日本国東京)から購入した。R3が−CH2CH2−を表し、R4がヘキサデシルを表す式(2)の化合物は、既報(宗ら、Biotecnol. Prog., 19:1547-1552, 2003)通りに合成した。グルタチオンは、シグマ(MO、セントルイス)から購入した。すべての小胞体の調製は、滅菌条件下で行った。ジパルミトイルホスホコリン(45.5モル%)、コレステロール(45.5モル%)およびカルボン酸基含有脂質化合物(R3が−CH2CH2−を表し、R4がヘキサデシルを表す式(2)の化合物;9.0モル%)をt−ブタノールに溶解させ、その混合物を凍結乾燥して混合脂質粉末を調製した。この粉末を水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液に分散させ、25℃で撹拌して、多重層小胞体の水分散体を得た。この分散体を液体窒素で凍結した後40℃で融解させた。この凍結融解サイクルを3回繰返して、小胞体の分散体を得た。この分散体を凍結乾燥して小胞体組成物を得た。グルタチオン溶液(30mM)を添加し、組成物を25℃で2時間撹拌した。得られた混合物を、EXTRUDER(登録商標)(日本国の日油リポソーム製)に加え、加圧(2MPa)しながら14℃で、それぞれ3.0μm、0.8μm、0.65μm、0.45μm、0.30μmおよび0.22μmの孔径のアセチルセルロースフィルター(日本国の富士写真フイルム製)を順次透過させ、それにより小胞体分散体を得た。未封入グルタチオンを、3回の超遠心分離工程(3×105g、各60分)により除去し、消泡体を生理食塩水に分散させた。
【0068】
PEGによる表面修飾は、PEG−DSPEの小胞体への自発的組み込みを用いて行った(宗ら、Bioconjug. Chem., 11:372-379, 2000)。この小胞体分散体にPEGリン脂質(PEG結合ジステアロイルホスホエタノールアミン(PEG−DSPE))の水性分散体を添加した。この混合物を、37℃で2時間静置し、遠心分離(300000g、1時間)して遊離PEG−DSPEを除去した。沈殿した小胞体を生理食塩水に分散させて、所望の小胞体分散体を調製した。表1に示すように、組み込まれたPEG−DSPEの量は、1H−NMRスペクトロスコピー(JEOL JNM−LA500)を用い、DPPCのコリンメチルプロトン(3.39ppm)に対するPEG−DSPEのメチレンプロトン(3.63ppm)のピーク面積比から決定し、得られた小胞体の直径は、コールターサブミクロン粒子分析器(N4SD、コールター、ハイアリーア、FL)を用いて決定し、平均粒径±標準偏差として表した。
【表1】

【0069】
例2:放射性標識物質を内包したカルボン酸基含有小胞体
放射性同位元素[テクネチウム−99m]過テクネチウム酸ナトリウム(99mTcO4;半減期6時間)の生理食塩中溶液を凍結乾燥したヘキサメチルプロピレンアミンオキシム(HMPAO)の市販キットに添加した、この溶液を例1のカルボン酸基含有小胞体分散体と混合した(Rudolph et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88:10976-10980, 1991; Phillips et atl., Nucl. Med. Biol., 19:539-547, 1992; Phillips et al., J. Parmacol. Exp. Ther., 288:665-670, 1999; Sou et al., J. Pharmacol. Exp. Ther., 312:702-709, 2005;米国特許第5143713号および第5158760号)。得られた混合物を1時間放置し、遊離99mTcO4をゲル濾過により除去し、それにより放射性標識物質を内包した小胞体分散体を得た。表2に示すように、放射性標物質の80%以上が小胞体に内包された。
【表2】

【0070】
例3:カルボン酸基含有小胞体投与後のシンチグラフィー
雄性ニュージーランド白色ウサギ(2〜3kg、各小胞体製剤あたりn=3〜4)をケタミン/キシラジン(いずれも、MO、セントジョゼフのフェニックス・サイエンティフィックから)混合物(それぞれ、50および10mg/kg体重(b.w.)の筋肉内投与により麻酔した。ウサギの一方の耳を静脈ラインでカテーテル化し、他方の耳を動脈ラインでカテーテル化した。例2で得た99mTc−小胞体分散体を1mL/分で静脈ライン中に注入し、血液紙料を動脈ラインから取り出した。各ウサギは、214.6〜377.4MBq(5.8〜10.2mCi)99mTc活性の合計投与と、15mg/kg体重の脂質を受けた。ウサギを、低エネルギー全目的コリメータを用いた、ピンナクル(Pinnacle)撮像コンピュータに接続されたピッカー(Picker)(クリーブランド、OH)大視野ガンマカメラ下で、仰臥位に置いた。
【0071】
投与から24時間後のガンマカメラ像(シンチグラム)を図1に示す。各シンチグラム上部にはPEG脂質の量(0、0.3、0.6、1.4および2.6モル%)が示されている。図1から、脊椎や大腿骨等の骨格が明瞭に可視化でき、0.6モル%以上のPEG脂質投与で特に顕著な骨選択性を確認することができる。図2は、カルボン酸基含有脂質小胞体(PEG脂質含量:2.6モル%)をウサギに投与してから24時間後のシンチグラム(全身像)を示す。図2からわかるように、上記指向性は全身にわたる骨を含んで確認された。
【0072】
例4:放射標識したカルボン酸基含有小胞体投与後の骨中集積率
例2で調製した放射標識した小胞体分散体を耳静脈よりウサギに投与(脂質投与量:15mg/kg体重)した。24時間時点でこの動物をすばやく犠牲にし、組織紙料を集め、秤量し、バイオ分布の計算のための同じシンチレーションウェルカウンター内で放射線量についてカウントした。骨の質量は、1つの大腿骨のそれの12倍であると見積もった(Deitz, Proc. Soc. Exp. Med., 57:60-62, 1944)。肝臓、脾臓および骨に集積した放射性物質の割合を計測した。結果を図3に示す。図3からわかるように、高い骨中の集積性が確認され、PEG脂質を0.6モル%以上導入した場合では、骨中のパーセント注入投与量(ID)が増大し、肝臓中のパーセントIDが低下する。なお、パーセントIDは、摘出臓器において測定された放射線量より、投与全量を100%としたときの百分率として算出した。
【0073】
例5:負荷電成分を含有しない小胞体
ジパルミトイルホスホコリン(50モル%)、コレステロール(50モル%)からなる小胞体組成物を例2におけるように放射標識した。得られた小胞体分散体をウサギに投与(脂質投与量:15mg/kg体重)した。投与24時間後に、肝臓、脾臓および骨に集積した放射性物質の量を計測し、骨選択性比を計算した。結果を表3Aに示す。表3Aに示すように、小胞体の大部分が肝臓と脾臓に集積したため、この小胞体製剤について骨選択比0.05は、極めて低い。
【0074】
例6:負荷電脂質を含有する小胞体
ジパルミトイルホスホコリン(45.5モル%)、コレステロール(45.5モル%)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(9.0モル%)からなる小胞体組成物を例2におけるように放射標識した。得られた小胞体分散体をウサギに投与(脂質投与量:15mg/kg体重)した。投与24時間後に、肝臓、脾臓および骨に集積した放射性物質の量を計測し、骨選択性比を計算した。結果を表3Aに示す。表3Aに示すように、小胞体の大部分が肝臓と脾臓に集積したため、この小胞体製剤についての骨選択比0.16は、極めて低い。
【表3A】

以下の表3Bは、例2の試料1〜5の骨選択性比を示す。
【表3B】

例7:放射標識したカルボン酸残基含有小胞体の分布の経時プロファイル
ジパルミトイルホスホコリン(45.5モル%)、コレステロール(45.5モル%)カルボン酸基含有脂質化合物(R1が−CH2CH2−を表し、R2がヘキサデシルを表す式(2)の化合物;9.0モル%)、およびPEG−DSPE(0.6モル%)からなるカルボン酸残基含有小胞体を例1に記載した方法に従って調製し、放射性同位元素[テクネチウム−99m]HMPAO(99mTc−HMPAO;半減期:6時間)による小胞体の標識化を例2に記載した方法に従って行った。この小胞体分散体を耳静脈よりウサギに投与(脂質投与量:15mg/kg体重)し、投与後6時間まで全身のガンマカメラ像(シンチグラム)を取った。1分のダイナミック64×64画素シンチグラフィー像を、99mTc−小胞体の注入後連続1.5時間にわたって獲得した。注入後種々の時間で静止画像も獲得した。画像解析を、核医薬分析ワークステーション(ピンナクルコンピュータ;メダシス、アナーバー、MI)を用いて行った。対象の領域を、全身、1つの大腿骨、肝臓および脾臓の画像の周りに描画した。放射線量のカウントを、各時間で減衰補正し、全身カウントのパーセンテージに変換した。補正は、注入直後に測定したパーセント注入投与量を用いて、各臓器の血液プール分担率について行った。図4Aおよび4Bは、投与後1.5時間(図4A)および6時間(図4B)のシンシンチグラムである。シンチグラムより算出した骨、肝蔵および脾臓における投与された小胞体の分布のプロファイルをシンチグラムから解析し、図5に示す。骨における小胞体分布率は投与後から上昇し、投与後6時間で68.55±3.31%(n=3)に達した。
【0075】
上記動物を6時間後にすばやく犠牲にし、組織試料を採取し、検量し、同様のシンチレーションウェルコンテナ内で生物分布の算出のために放射線量をカウントした。臓器当たりの%ID(分布率)、総血液体積、筋皮膚質量は、総体重の5.7%、45%および10%とそれぞれ測定された(Kozma et al.、Anatomy, physiology, and biochemistry of the rabbit, in the Biology of the Laboratory Rabbit, Weisbroth et al.(Eds.),50-69, Academic Press, NY, 1974;Kaplan and Timmons, The Rabbit: A Model for the Principles of Mammalian Physiology and Surgery, Academic Press, NY, 1979)。骨質量は1大腿骨の12倍であると測定された(Deitz,Proc.Soc.Exp.Med., 57:60-62, 1944)。IDパーセントは摘出された臓器において測定された放射線量から、総投与量を100%とした場合の百分率として算出した。図4に示される通り、投与された小胞体の69.74±0.86%(n=3)が骨において検出された。
【表4】

【0076】
例8:骨における小胞体の分布
例7の1つの大腿骨を粗く骨幹と骨端に分離し、骨幹を更に骨髄と骨格に分離した。各組織における放射線量をカウントした。図5に示すとおり、66.5±0.9%の放射線量が骨髄で検出され、これは、カルボン酸残基含有小胞体が特に骨髄への方向性を有することを意味する。
【表5】

【0077】
例9:小胞体ナノ粒子を用いた骨髄ターゲティングのインビボの顕微鏡的観察
初期の研究は、当該カルボン酸残基含有小胞体がナノ粒子担体として機能することを示し、並びにそれらの組織における顕微鏡的局在化を確認するために設計された。ジパルミトイルホスファチジルコリン(45.5モル%)、コレステロール(45.5モル%)およびカルボン酸基含有脂質化合物(式(2)において、Rが−CHCH−を表し、Rがヘキサデシル基を表す化合物;9.0モル%)およびPEG−DSPE(0.6モル%)を含み、内水相にテキサスレッド(TR)スルホニルクロライドに結合されたスーパーオキサイドジスムターゼ(SOD)(TR−SOD)を封じ込めること、および二分子膜に4,4−ジフルオロ−5−メチル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−ドデカン酸(C−BODIPY C12)を埋め込むことにより二重蛍光標識された当該カルボン酸残基含有小胞体は、変更された例1において記載した方法に従って調製した。SODは、和光純薬(Wako Pure Chemical Industries, Ltd., Osaka, Japan)から購入した。C−BODIPY C12およびTRスルホニルクロリドは、モレキュラー・プローブズ、Inc.(Molecular Probes, Inc., Eugene, OR)から購入した。SODへのTRスルホニルクロライドの結合は、以前に報告された方法(Lefevre et al., Bioconjug. Chem., 7(4):482-489, 1996)に従って行い、精製されたTR−SODを1モル%のC−BODIPY C12を含む混合脂質で被包し、直径が247±22nmの大きさの二重蛍光標識カルボン酸残基含有含有小胞体を得た。標識された小胞体を、i.v.注射により麻酔した雄性ニュージーランド白色ウサギ(2.5kg、脂質:体重kg当たり15mg)に投与した。注射の6時間後に大腿骨髄組織、肝臓および脾臓を取り出し、10%のホルマリン溶液で固定し、次に切片にスライスした。当該切片はスライドグラスに4℃で寒天で固定し、共焦点スキャニング顕微鏡(Olympus IX−70)で検査した。図6に示すとおり、当該骨髄切片は、TR−SODとC−BODIPY C12−標識カルボン酸残基含有小胞体の両方からの蛍光を有する。当該蛍光は局所的に集中し、より長い蛍光ドメインは、長軸に沿って30μmのサイズであった。脾臓の赤色髄における蛍光分布は高密度であり、これに対して肝臓においては低密度であった。この観察からの重要な知見は、膜プローブおよび被包性プローブからの蛍光は骨髄に共存することである。これらの画像は明瞭に、当該カルボン酸残基含有小胞体がナノ粒子担体として機能し、被包化された薬剤を骨髄組織に送達することを示す。透過型電子顕微鏡(TEM)観察を行い、高拡大率で骨髄組織を観察した。ジパルミトイルホスファチジルコリン(45.5モル%)、コレステロール(45.5モル%)およびカルボン酸基含有脂質化合物(式(2)において、Rが−CHCH−、Rがヘキサデキシル基である化合物;9.0モル%)およびPEG−DSPE(0.6モル%)を含むカルボン酸残基含有小胞体を、i.v.注射で麻酔した雄性ニュージーランド白色ウサギ(2.5kg)に投与した。当該ウサギに体重kg当たり15mgの脂質を与えた。コントロールのウサギには注射をしなかった。小胞体の注射の6時間後にウサギの左大腿骨から骨髄を採取し、2.5%のグルタルアルデヒド溶液で固定した。固定した骨髄を次に、0.1mol/Lのリン酸緩衝液(pH7.4)で洗浄し、2%のオスミン酸で4℃で2時間染色した。臓器を段階的にエタノールで脱水し、次にクエトール812(Quetol 812)を用いて60℃で28時間重合した。得られた試料をウルトラカット・S・ミクロトーム(Ultracut S microtome)を使用して切片にスライスした。スライスした試料を3%の酢酸ウラニル溶液で20分間染色し、サトー鉛溶液(Satho’s lead solution, 酢酸鉛、硝酸鉛およびクエン酸鉛)でクエン酸中で5分間処理し、洗浄し、乾燥した。その試料を、透過型電子顕微鏡(TEM、H−7500、日立、東京、日本国)で観察し、写真を撮った。TEM観察は、明瞭に骨髄におけるカルボン酸残基含有小胞体の位置を示した(図7A、図7B)。大量の数の小胞体がマクロファージのエンドソームおよびリソソームに捕捉されたが、細胞質および細胞核では小胞体は全く観察されなかった(図7B)。これらの小胞体の直径の平均は270nmであり、これは静脈内に投与したカルボン酸残基含有小胞体の本来の直径であった。エンドソームおよびリソソームに小胞体を含むいくつかの類似のマクロファージが観察され、これに対して、観察した切片における顆粒球白血球、赤芽球、および内皮細胞などの他の種類の細胞においては小胞体が全く観察されなかった。これらの顕微鏡局在化調査は、マクロファージが循環からの小胞体のクリアランスおよびそれらの骨髄による取り込みの原因である細胞成分であることを示す。
【0078】
例10:カルボン酸基含有小胞体への薬物の封入
ジパルミトイルホスホコリン(45.5モル%)、コレステロール(45.5モル%)、カルボン酸基含有脂質化合物(式(2)において、Rが−CHCH−を表し、R4がヘキサデシルを表す化合物)(8.4モル%)およびPEG−DSPE(0.6モル%)をt−ブタノールに溶解し、その混合物を凍結乾燥し、混合脂質粉末を調製した。当該粉末(0.8g)を200mMの硫酸アンモニウム溶液(20mL)に分散し、25℃で2時間攪拌した。結果として生じた混合物をEXTRUDER(登録商標)(日油リポソーム製、日本国)に加え、加圧(2MPa)しながら14℃で孔径がそれぞれ3.0μm、0.8μm、0.65μm、0.45μm、0.30μmおよび0.22μmのアセチルセルロースフィルター(富士写真フイルム製)を順次透過させて、それにより小胞体分散液を得た。この小胞体分散液を超遠心分離(3x10g、60分間)により、被包されなかった硫酸アンモニウムを除去し、小胞体を生理食塩水中に分散し、カルボン酸基含有小胞体(脂質濃度:40mg/mL、平均直径:245±84nm)を得た。アドリアマイシン溶液(アドレアマイシン濃度:17.2mM)を生理的食塩水(6.2mL)に市販のアドレアマイシン(62mg)を溶解することにより調製し、これを当該カルボン酸基含有小胞体分散液に添加し(40mg/mL、11.3mL)、次にこの混合物を55℃で10分間放置し、アドレアマイシンをカルボン酸基含有小胞体の内水相に封入した。封入されなかったアドレアマイシンは超遠心(3x10g、60分間)により取り除いた。紫外可視分光光度計(490nmの吸光度)による測定から、上澄みに回収された遊離しているアドレアマイシンは添加されたアドレアマイシンの3%であると算出され、添加されたアドレアマイシンの97%が小胞体の内水相に封入されたことが示された。沈殿した小胞体を生理的食塩水に分散させ、当該小胞体分散液をアセチルセルロースメンブランフィルター(孔径:0.45μm、アドバンテック製)を透過させて、アドレアマイシンを含有させたカルボン酸残基含有小胞体の所望の分散液(容量:13.2mL)を得た。
【0079】
ここにおいて開示および権利請求した全ての組成物および/または方法は本開示の知識の範囲で過度の実験なしで製造することおよび実施することが可能である。本発明の組成物および方法は、いくつかの態様によって記載されると同時に、本発明の概念、精神および範囲から逸脱することなしに、ここに記載された組成物および方法および方法の工程または連続する工程に変更を加えることが可能であることが当業者には明らかである。更に詳細には、化学的および生理学的共に関連のある薬剤をここで記載した薬剤の代わりとしてもよく、それによって同じまたは類似の結果が達成されるだろう。全てのそのような類似の置換および変更が、本願の特許請求の範囲により明らかにされたとおりの本発明の精神、範囲および概念の範囲内であると考えられるべきであることは当業者に明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】図1は、カルボン酸基含有小胞体の静脈内投与後のウサギのシンチグラムを示す。当該小胞体は、テクネチウム−99mを含み、種々の濃度のPEG脂質で表面修飾されている。
【図2】図2は、テクネチウム−99mを含むカルボン酸基含有小胞体の投与24時間後のウサギの全身のシンチグラムである(2.6モル%PEG脂質含有)。
【図3】図3は、PEGによるカルボン酸残基含有小胞体の表面修飾度と骨、肝臓、脾臓への当該小胞体の分布を示す。
【図4】図4Aおよび図4Bは、テクネチウム−99mを含むカルボン酸残基含有脂質を含む小胞体(0.6モル%PEG脂質含有)の投与後1.5時間および6時間後のシンチグラムを示す。図4A−投与後1.5時間;図4B−投与後6時間。
【図5】図5は、カルボン酸残基含有脂質を含む小胞体(0.6モル%PEG脂質含有)の骨、肝蔵、脾臓への分布プロフィールの時間による推移を示す。
【図6】図6Aおよび6Bは、担体としてカルボン酸基含有小胞体(0.6モル%PEG脂質含有)を使用した骨髄組織への蛍光送達の組織学的試験を例証する。図6A−直径がca10μmの二重蛍光標識大型多重膜カルボン酸基含有小胞体(0.6モル%PEG脂質含有)。この観察は、サブミクロンサイズについて行う前に共焦点顕微鏡の解像度の範囲内での構造の観察が可能であることを確認するために行った。この画像は、内水相に被包されたテキサスレッド−SODから生じる赤色蛍光と、二分子膜内に含まれるC−BODIPY C12から生じる緑色蛍光を示す。図6B−直径247±22nmの二重蛍光標識カルボン酸残基含有小胞体(0.6モル%PEG脂質含有)をi.v.注射した6時間後のウサギ(脂質:体重kg当たり15mg)から摘出した大腿骨骨髄(BM)、脾臓(S)および肝臓(L)の共焦点スキャニング画像。スケールバーは20μmを表す。
【図7】図7Aおよび7Bは、カルボン酸残基含有小胞体(0.6モル%PEG脂質含有)をi.v.注射した後6時間後のウサギ(脂質:体重1kg当たり15mg)から摘出した大腿骨隋切片の透過型電子顕微鏡写真を図示する。図7A−マクロファージおよび種々の骨髄細胞を含む骨髄組織を示す低倍率の顕微鏡写真。図7B−図7Aの枠で囲った領域の高倍率顕微鏡写真。本来の直径(平均270nm)の大量の数の小胞体がマクロファージのエンドソームまたはリソソームに捕捉されている。いくつかを矢印で示すが、これは図7Aと図7Bの同じ場所を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面上にアニオン性基を含む少なくとも1つの微粒子を含む骨髄指向性の薬物送達物質。
【請求項2】
前記微粒子が、0.02〜5μmの直径を有する請求項1に記載の薬物送達物質。
【請求項3】
0.02〜5μmの平均直径を有する複数の微粒子を含む請求項2に記載の薬物送達物質。
【請求項4】
前記少なくとも1つの微粒子が、アニオン性基を親水部に含む少なくとも1種の両親媒性化合物の分子の集合体から構成される請求項1〜3のいずれか1項に記載の薬物送達物質。
【請求項5】
前記分子の集合体が小胞体を形成している請求項4に記載の薬物送達物質。
【請求項6】
前記アニオン性基がカルボン酸基である請求項1ないし5のいずれか1項に記載の薬物送達物質。
【請求項7】
前記両親媒性化合物が、脂肪酸またはその塩である請求項6に記載の薬物送達物質。
【請求項8】
前記両親媒性化合物が、式(1):
MOOC−(R1)p−R2
(ここで、Mは水素原子あるいは一価の陽イオンであり、R1はスペーサーであり、R2は疎水性基であり、pは0または1である)で示される請求項7に記載の薬物送達物質。
【請求項9】
前記両親媒性化合物が、式(2):
MOOCR3−CO−HNCH(COOR4)CH2CH2COOR4
(ここで、Mは水素原子あるいは一価の陽イオンであり、R3は、−CH2CH2−または−CH(CH3)CH2−を表し、R4は、C12〜C22アルキル基を表す)で示される請求項6に記載の薬物送達物質。
【請求項10】
前記少なくとも1つの微粒子が、水溶性ポリマーを含む請求項1〜9のいずれか1項に記載の薬物送達物質。
【請求項11】
前記水溶性ポリマーが、前記少なくとも1つの微粒子の表面に結合されている請求項10に記載の薬物送達物質。
【請求項12】
前記水溶性ポリマーが、ポリエチレングリコールである請求項10に記載の薬物送達物質。
【請求項13】
前記薬物送達物質が、
a)1〜50モル%の、式(2):
MOOCR3−CO−HNCH(COOR4)CH2CH2COOR4
(ここで、Mは水素原子あるいは一価の陽イオンであり、R3は、−CH2CH2−または−CH(CH3)CH2−であり、R4は、C10〜C22アルキル基である)で示される両親媒性化合物、および
b)0.5〜4.8モル%の、親水性部としてポリエチレングリコールを含む両親媒性化合物
を含み、前記少なくとも1つの微粒子が、100〜500nmの平均粒径を有する請求項10〜12のいずれか1項に記載の薬物送達物質。
【請求項14】
前記少なくとも1つの微粒子が、該少なくとも1つの微粒子に結合された薬物を含む請求項1〜13のいずれか1項に記載の薬物送達物質。
【請求項15】
請求項14に記載の薬物送達物質の、対象における骨、軟骨または骨髄の疾患の予防、治療または診断のための使用。
【請求項16】
前記薬物送達物質が、体重kgあたり0.1〜500mgの量の投与形態にある請求項15に記載の使用。
【請求項17】
対象における骨髄の疾患の予防、治療または診断のための請求項15に記載の使用であって、前記薬物送達物質が、体重kgあたり0.1〜500mgの量の投与形態にある使用。
【請求項18】
対象における関節の疾患の予防、治療または診断のための、請求項14に記載の薬物送達物質の使用。
【請求項19】
前記薬物送達物質が、体重kgあたり0.1〜500mgの量の投与形態にある請求項18に記載の使用。
【請求項20】
前記対象が、ヒトである請求項15〜19のいずれか1項に記載の使用。
【請求項21】
対象に、薬学的に有効量の請求項1〜14のいずれか1項に記載の薬物送達物質を投与することを含む、対象における骨、軟骨または骨髄の疾患を予防し、治療し、または診断する方法。
【請求項22】
前記薬物送達物質の薬学的に有効量が、対象の体重kgあたり前記薬物送達物質0.1〜500mgである請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記対象が、骨髄の疾患を有する請求項21に記載の方法。
【請求項24】
対象に、薬学的に有効量の請求項1〜14のいずれか1項に記載の薬物送達物質を投与することを含む、対象における関節の疾患を予防し、治療し、または診断する方法。
【請求項25】
前記薬物送達物質の薬学的に有効量が、対象の体重kgあたり前記薬物送達物質0.1〜500mgである請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記対象が、ヒトである請求項21〜25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
所定量の請求項1〜14のいずれか1項に記載の薬物送達物質、および封止された容器を含むキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【公表番号】特表2008−542360(P2008−542360A)
【公表日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−514359(P2008−514359)
【出願日】平成18年6月5日(2006.6.5)
【国際出願番号】PCT/JP2006/311676
【国際公開番号】WO2006/132388
【国際公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【出願人】(505212212)ボード・オブ・リージェンツ, ジ・ユニバーシティー・オブ・テキサス・システム (1)
【Fターム(参考)】