説明

高い光触媒活性を示す酸化タングステン

【課題】より高い光触媒活性を示す酸化タングステンを提供する。
【解決手段】本発明の酸化タングステンは、略円柱状の棒状部と、複数の前記棒状部がその端部で結合している節部とを有し、前記棒状部と前記連結部とが一つの単結晶を構成する構造を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い光触媒活性を示す酸化タングステンに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体にバンドギャップ以上のエネルギーをもつ光を照射すると、価電子帯の電子が伝導帯に励起し、価電子帯に正孔、伝導帯に電子が生成する。これらはそれぞれ強い酸化力と還元力を有し、半導体に接触した分子種に酸化還元作用を及ぼす。このような作用を光触媒作用と呼び、この光触媒作用を示す物質は光触媒体と呼ばれている。かかる光触媒作用を利用することによって、大気中の有機物などを分解することができる。光触媒体による有機物の分解反応では、価電子帯に生成した正孔が直接有機物を酸化分解するか、正孔が水を酸化し、そこから生成する活性酸素種が有機物を酸化分解すると考えられており、さらに、それ以外にも、伝導帯に生成した電子が酸素を還元し、そこから生成する活性酸素種が有機物を酸化分解すると考えられる。
【0003】
可視光により光触媒作用を示す物質としては、酸化タングステンが知られている。
【0004】
酸化タングステンからなる光触媒体としては、例えばメタタングステン酸アンモニウムなどを空気中で焼成して得られるものが知られている(非特許文献1参照)。
【0005】
しかし、光触媒作用を示す酸化タングステンとしては、より高い光触媒活性を示すものが望まれている。
【0006】
【非特許文献1】Applied Catalysis A:General,210,2001,181-191.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明者らは、より高い光触媒活性を示す酸化タングステンを得るべく、鋭意検討した結果、本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は以下の構成からなる。
(1)柱状部と、複数の前記柱状部がその端部で結合している節部とを有し、前記柱状部と前記連結部とが一つの単結晶を構成する構造を有することを特徴とする酸化タングステン。
(2)上記(1)の酸化タングステンからなり、水銀圧入法で測定したときの累積細孔容積が1mL/g〜5mL/gであり、平均細孔半径が0.1μm〜0.3μmであり、窒素吸着法で測定したときのBET比表面積が5g/m〜40g/mである光触媒体。
(3)光触媒体と接触させた状態で光を照射することにより有機物を分解する方法であって、前記光触媒体として上記(2)に記載の光触媒体を用いる前記有機物の分解処理方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高い光触媒活性を示しうる光触媒体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の酸化タングステンは、柱状部と節部とを有する構造を有している。
柱状部は、径が一定の円柱状であってもよいし、中間部分から両端部に向けて径が次第に大きくなる形状であってもよい。また断面形状は通常、概ね円形であるが、扁平状であってもよい。柱状部の径は概ね20nm〜100nmであり、長さは概ね30nm〜200nm程度である。
【0011】
節部には、複数の柱状部がその端部で結合している。節部の径は通常、結合している棒状部の端部における径とほぼ等しいか、これより大きく、概ね30nm〜120nmである。節部において結合している複数の棒状部は通常、互いに対向しない方向から節部に結合している。
【0012】
かかる構造において、柱状部は通常、両端部でそれぞれ別個の節部と結合しており、柱状部と柱状部との間は、空隙となっている。また、複数の柱状部が結合した節部は、繰り返し現れる。
【0013】
柱状部と節部とは、一つの単結晶を構成している。本発明の酸化タングステンは、柱状部と節部とが一つの単結晶を構成しているので、例えば透過型電子顕微鏡(TEM)により柱状部およびこれが結合する節部を観察したときに、柱状部で観察される格子縞が、そのまま途切れることなく節部まで繋がっている。また、TEMにより、柱状部と節部とに、それぞれ電子線を照射し、電子線回折像を得ると、同じパターンの回折像を示す。
【0014】
本発明の酸化タングステンは、その一部において、上記構造を有していてもよいが、その全体が上記構造を有していることが好ましい。
【0015】
本発明の酸化タングステンは、柱状部がその端部で結合した構造を有しているがゆえに、大きな比表面積を有すると共に、柱状部と節部とが一つの単結晶を構成しているがゆえに、例えば柱状部の価電子帯に生じた正孔および伝導帯に生じた電子が消失することなく、それぞれ節部、さらには、この節部に結合した柱状部に容易に移動するので、高い光触媒活性を示すものと考えられる。
【0016】
本発明の光触媒体は、かかる酸化タングステンからなるものであり、水銀圧入法で測定したときの累積細孔容積が1〜5mL/gである。細孔容積が1mL/g未満であると、反応基質の吸着量が少なくなり、高い光触媒活性を得られないことになり、一方、5mL/gを超える場合、製造時に用いる細孔を形成する物質として一般に高価である球状の有機物粒子を大量に用いる必要があり、コストに見合うだけの効果が得られない。好ましくは、細孔容積の下限は1.5mL/g以上であり、上限は3mL/g以下である。
【0017】
この光触媒体は、水銀圧入法で測定したときの平均細孔半径が0.1〜0.3μmである。平均細孔半径が0.1μm未満の場合、反応基質の吸着量が少なくなり、高い光触媒活性が得られない。一方、平均細孔半径が0.3μmを超えると、酸化タングステン粒子の多孔質構造が崩れ、高い光触媒活性が得られない。好ましくは、平均細孔径の下限は0.12μm以上であり、上限は0.25μm以下である。
【0018】
さらに、本発明の酸化タングステン粒子のBET比表面積は、5〜40m2/gである。BET比表面積が5m2/g未満であると、反応基質の吸着量が少なくなり、高い光触媒活性が得られないことになり、一方、40m2/gを超える場合、酸化タングステン粒子径が小さくなりすぎ、結晶性が低下するため、高い光触媒活性が得られない。好ましくは、BET比表面積の下限は8m2/g以上であり、上限は25m2/g以下である。なお、本発明における酸化タングステン粒子のBET比表面積は、窒素吸着法により測定することができる。
【0019】
本発明の光触媒体は、有機物粒子に酸化タングステン前駆体化合物を溶解させた溶液を含浸させたのち、焼成する方法により製造することができる。有機物粒子は、乾燥したものを用いてもよいし、ある程度水分等で湿らせたコロイド状で用いてもよい。また、焼成する前に、溶媒と分離した固形物を、室温〜200℃の範囲で乾燥させることもできる。
【0020】
酸化タングステンの前駆体化合物としては、メタタングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸アンモニウム、タングステン酸(HWO)、塩化タングステン、タングステンアルコキシドなどを用いることができる。これらの中でも、水に容易に溶解する点で、メタタングステン酸アンモニウムを用いるのが好ましい。
【0021】
本発明の酸化タングステン粒子の製造方法においては、粒径が220nm〜600nmの有機物粒子を用いる。有機物粒子としては、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエステル、ポリイミド、エポキシ樹脂、胡桃などを用いることができるが、これらの中でもポリメタクリル酸メチルを用いるのが好ましい。
【0022】
本発明の酸化タングステン粒子の製造方法に用いられる溶媒は、酸化タングステンの前駆体化合物を溶解し、かつ有機物粒子を溶解しないものであれば、特に制限はないが、水やメタノール、エタノール、プロパノール等のアルコールを用いるのが好ましい。
【0023】
本発明の製造方法では、有機物粒子を焼成により除去する。通常、気流焼成炉、トンネル炉、回転炉などの焼成装置を用いて行うことができる。焼成温度は、通常400℃以上、好ましくは430℃以上で、かつ通常850℃以下、好ましくは800℃以下の範囲内で適宜設定すればよい。また、焼成時間は、焼成温度や焼成装置の種類等に応じて適宜設定すればよいが、通常、10分以上、好ましくは30分以上であり、かつ、30時間以内、好ましくは10時間以内である。焼成は、有機物粒子が焼失するのに十分な量の酸素を含む雰囲気中で行う。
【0024】
本発明の製造方法で得られた酸化タングステンに粉砕を施してもよい。この粉砕は焼成の前に行ってもよいし、焼成後に行ってもよい。ここで行う粉砕は、水などの液体を加えることなく乾燥状態で粉砕する乾式粉砕であってもよいし、水などの液体を加えて湿潤状態で粉砕する湿式粉砕であってもよい。乾式粉砕により粉砕するには、例えば、転動ミル、振動ボールミル、遊星ミルなどのボールミル、ピンミルなどの高速回転粉砕機、媒体攪拌ミル、ジェットミル等の粉砕装置を用いることができる。湿式粉砕により粉砕するには、例えば上記と同様のボールミル、高速回転粉砕機、媒体攪拌ミル等の粉砕装置を用いることができる。
【0025】
本発明の酸化タングステンには、金属成分を含有させることもできるが、その場合、金属成分は本発明の酸化タングステンの製造方法の中のどの段階で添加してもよい。例えば、酸化タングステンの前駆体化合物に予め所望の金属成分を担持させておいてもよいし、焼成して酸化タングステンを得た後に、引き続き、所望の金属成分を含む化合物を溶解させた水溶液中に含浸して担持させ、室温〜200℃、好ましくは60〜150℃で乾燥するようにしてもよい。また、金属成分を酸化タングステンに担持させる際には、必要に応じて、酸化タングステンと金属成分の前駆体をメタノール等を含む水中に分散し、そこに紫外光や可視光を照射することによって金属成分を担持させることもできる。
光照射を行うことにより、前駆体を金属成分に変換することができる。酸化タングステンの光励起可能な波長の光を照射した場合、光励起によって生成した電子によって前駆体が還元され、金属として酸化タングステン粒子の表面に担持される。
【0026】
かかる金属成分としては、例えばCu、Pt、Au、Pd、Ag、Fe、Nb、Ru、Ir、Rh、Coなどの金属、好ましくはCu、Pt、Au、Pdなどが挙げられる。また、これらの金属の酸化物および水酸化物も挙げられる。
【0027】
金属成分の前駆体とは、酸化タングステンの表面で金属に遷移しうる化合物である。かかる前駆体としては、例えば上記金属の硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、有機酸塩、炭酸塩、りん酸塩などが挙げられ、具体的には、例えばCuの前駆体としては、硝酸銅(Cu(NO3)2)、硫酸銅(Cu(SO4)2)、塩化銅(CuCl2、CuCl)、臭化銅(CuBr2,CuBr)、沃化銅(CuI)、沃素酸銅(CuI26)、塩化アンモニウム銅(Cu(NH4)2Cl4)、オキシ塩化銅(Cu2Cl(OH)3)、酢酸銅(CH3COOCu、(CH3COO)2Cu)、蟻酸銅((HCOO)2Cu)、炭酸銅(CuCO3)、蓚酸銅(CuC24)、クエン酸銅(Cu2647)、リン酸銅(CuPO4)などが挙げられる。Ptの前駆体としては、塩化白金(PtCl2、PtCl4)、臭化白金(PtBr2、PtBr4)、沃化白金(PtI2、PtI4)、塩化白金カリウム(K2(PtCl4))、ヘキサクロロ白金酸(H2PtCl6)、亜硫酸白金(H3Pt(SO3)2OH)、酸化白金(PtO2)、塩化テトラアンミン白金(Pt(NH3)4Cl2)、炭酸水素テトラアンミン白金(C21446Pt)、テトラアンミン白金リン酸水素(Pt(NH3)4HPO4)、水酸化テトラアンミン白金(Pt(NH3)4(OH)2)、硝酸テトラアンミン白金(Pt(NO3)2(NH3)4)、テトラアンミン白金テトラクロロ白金((Pt(NH3)4)(PtCl4))なども挙げられる。Auの前駆体としては、塩化金(AuCl)、臭化金(AuBr)、沃化金(AuI)、水酸化金(Au(OH)2)、テトラクロロ金酸(HAuCl4)、テトラクロロ金酸カリウム(KAuCl4)、テトラブロモ金酸カリウム(KAuBr4)、酸化金(Au23)などが挙げられる。また、Pdの前駆体としては、酢酸パラジウム((CH3COO)2Pd)、塩化パラジウム(PdCl2)、臭化パラジウム(PdBr2)、沃化パラジウム(PdI2)、水酸化パラジウム(Pd(OH)2)、硝酸パラジウム(Pd(NO3)2)、酸化パラジウム(PdO)、硫酸パラジウム(PdSO4)、テトラクロロパラジウム酸カリウム(K2(PdCl4))、テトラブロモパラジウム酸カリウム(K2(PdBr4))などがあげられる。
【0028】
これらの金属成分やその前駆体はそれぞれ単独で、または2種以上を組合せて用いられる。
【0029】
かかる金属成分またはその前駆体を用いる場合、その使用量は、金属原子換算で、酸化タングステン粒子の合計量100質量部に対して通常0.005質量部〜0.6質量部、好ましくは0.01質量部〜0.4質量部である。使用量が0.005質量部未満では、金属成分の使用による光触媒活性の向上が十分ではなく、0.6質量部を越えると、却って光触媒作用が不十分なものとなり易い。
【0030】
以上のようにして製造された酸化タングステンからなる光触媒体は、室内光の大部分を占める可視光線の照射によって高い触媒活性を示すので、屋内空間においても、反応基質に含まれる有害な有機物(例えば、大気中の悪臭物質、水中の有機溶剤、農薬、界面活性剤等)の分解除去を効率よく行うことができる。
【0031】
本発明の光触媒体を有機物の分解除去に適用する際には、そのまま用いることもできるが、必要に応じて、各種添加剤と混合したり、分散体(コーティング液)としたり、成形するなどして用いてもよい。
【0032】
光触媒体を各種添加剤と混合する場合、光触媒体の吸着性や光触媒活性をさらに向上させうる添加剤を選択するのが好ましい。そのような添加剤としては、例えば、非晶質シリカ、シリカゾル、水ガラス、オルガノポリシロキサンのような珪素化合物、非晶質アルミナ、アルミナゾル、水酸化アルミニウムのようなアルミニウム化合物、ゼオライト、カオリナイトのようなアルミノ珪酸塩、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウムおよび水酸化バリウムのようなアルカリ土類金属(水)酸化物、リン酸カルシウム、モレキュラーシーブ、活性炭、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Ga、In、Tl、Ge、Sn、Pb、Bi、La、Ceのような金属元素の水酸化物や、これらの金属元素の酸化物、有機ポリシロキサン化合物の重縮合物、リン酸塩、フッ素系ポリマー、シリコン系ポリマー、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂などが挙げられる。これら添加剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0033】
光触媒体を分散体として用いる場合には、本発明の製造方法で得られた酸化タングステンを水やアルコール等の有機溶媒中に分散させればよい。その際、酸化タングステンの分散性を向上させる目的で、必要に応じて分散剤を添加することができる。さらに、塗膜にしたときの基材との密着性を向上させる目的で、必要に応じて公知の無機系バインダーや有機系バインダーを添加することもできる。このような分散体(コーティング液)は、例えば、壁、壁紙、天井、窓ガラス、タイル、自動車内装部材など、可視光線を多く含む蛍光灯、ハロゲンランプ、キセノンランプ、発光ダイオード、太陽光線等を照射可能な場所に塗布される。
【0034】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、実施例および比較例における各物性の測定およびその光触媒活性の評価については、以下の方法で行った。
【0035】
1.酸化タングステンの粒子形状の観察
酸化タングステンの粒子形状の観察は、走査型電子顕微鏡(SEM、JSM−7400F、日本電子製)、および透過型電子顕微鏡(TEM、JEM−2000FX、日本電子製)を用いて行った。
【0036】
2.累積細孔容積および平均細孔半径
酸化タングステン粒子の累積細孔容積および平均細孔半径を、「オートポアIII9420」(MICROMERITICS社製)で、水銀圧入法によって測定した。
【0037】
3.BET比表面積
酸化タングステン粒子のBET比表面積を「NOVA1200e」(ユアサアイオニクス製)で窒素吸着法によって測定した。
【0038】
4.ポリメタクリル酸メチルの粒径測定
ポリメタクリル酸メチルの粒径は、「DLS−7000」(大塚電子製)で動的散乱法によって測定した。
【0039】
5.酢酸の分解反応(可視光照射下)
ガラス製容器(容量330mL)の底面に、粒子状の光触媒体50mgを15mm×15mmに広げ、ガラス容器内を合成空気で満たし、更に酢酸を14.7μmol注入した。1時間暗黒下で放置した後可視光照射を行い、光触媒作用によりアセトアルデヒドが分解し、その完全分解生成物である二酸化炭素の濃度をガスクロマトグラフィーで定量した。光源には紫外線カットフィルター(L−42、旭テクノグラス社製)を装着したキセノンランプ(300W、Cermax社製)を用いた。
【0040】
6.平均粒径260nmの球状ポリメタクリル酸メチルの合成
メタクリル酸メチルモノマー(和光純薬製,試薬特級)100mLと水400mLを、容量1Lの四口丸底フラスコに入れ、これに電気攪拌機、アルゴンガス供給ピペット、温度計を取り付け、オイルバス中で350rpmの攪拌速度で撹拌しながら約80℃に加熱し、温度が平衡に達した後、30分間アルゴンガスのバブリングを行った。開始剤として、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(和光純薬製,試薬1級)0.38gを溶解させた水3mLを加え、2時間反応させた。反応後、四口フラスコを室温で放冷し、平均粒径260nmの球状ポリメタクリル酸メチルを含むラテックスを得た。
【0041】
7.平均粒径490nmの球状ポリメタクリル酸メチルの合成
メタクリル酸メチルモノマー(和光純薬製,試薬特級)150mLと水350mLを、容量1Lの四口丸底フラスコに入れ、これに電気攪拌機、アルゴンガス供給ピペット、温度計を取り付け、オイルバス中350rpmの攪拌速度で撹拌しながら約70℃に加熱し、温度が平衡に達した後、30分間アルゴンガスのバブリングを行った。開始剤として、開始剤として、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(和光純薬製,試薬1級)0.38gを溶解させた水3mLを加え、6時間反応させた。反応後、四口フラスコを室温で放冷し、平均粒径490nmの球状ポリメタクリル酸メチルを含むラテックスを得た。
【0042】
実施例1
平均粒子径が260nmの球状のポリメタクリル酸メチルを含むラテックス100mLを、回転数2500rpmで2時間遠心分離で沈降させ、2日間自然乾燥させてコロイド結晶のテンプレートを得た。網ふるいを用いて、425μm〜2mmの粒子に分粒した後、メタタングステン酸アンモニウム(WOとして濃度50重量%の水溶液、日本無機化学工業製)とメタノールの混合溶液(酸化タングステンとして2.5mol/L)7.3mLを加え、3時間含浸した。その後、吸引ろ過により粒子を回収し、室温で一晩乾燥させた。得られた粉末を、空気中で毎分1℃で500℃まで昇温し、その後引き続きこの温度で5時間の焼成を行い、球状のポリメタクリル酸メチルを除去してBET比表面積が16m/gの酸化タングステン粒子を得た。
【0043】
得られた酸化タングステン粒子0.5gを水50mLに分散し、そこにPtが酸化タングステン粒子100重量部に対して0.5重量部となるように濃度0.019mol/Lのヘキサクロロ白金酸水溶液(HPtCl)を入れて、攪拌しながら可視光線を2時間照射した。光源には紫外線カットフィルター(「L−42」、旭テクノグラス社製)を装着したキセノンランプ(300W、Cermax社製)を用いた。その後上の酸化タングステン粒子の分散液にメタノール5mLを加えて、引き続き攪拌しながら上記と同様にして可視光線の照射を2時間行った。その後濾過、水洗浄、120℃で乾燥することにより、粒子状のPt担持酸化タングステン粒子を得た。
このPt担持酸化タングステン粒子を水銀圧入法で測定したときの累積細孔容積は2.48mL/gで、平均細孔半径は0.15μmであった。
【0044】
また、このPt担持酸化タングステン粒子をSEMで観察すると、図1に示すとおり多孔質構造を有することがわかった。さらにTEMで観察を行うと、図2に示すとおりの形状を有しており、電子線回折の結果、6つの測定スポットのうち、5点(1番〜5番)から同じパターンが観測され、また図3のTEM写真に示すとおり、湾曲形状の場所において、格子縞が途切れることなく観測された。ここから、この珊瑚状の形状をしているPt担持酸化タングステン粒子は、微粒子が連なったものではなく、この粒子自体が1つの単結晶から構成されていることがわかった。
【0045】
得られたPt担持酸化タングステン粒子を用いて、可視光照射下で酢酸の分解反応を行った。二酸化炭素の生成速度は19μmol/hであった。
【0046】
実施例2
平均粒子径が490nmの球状のポリメタクリル酸メチルを含むラテックス100mLを、回転数2500rpmで2時間遠心分離で沈降させ、2日間自然乾燥させてコロイド結晶のテンプレートを得た。網ふるいを用いて、425μm〜2mmの粒子に分粒した後、メタタングステン酸アンモニウム(WO3として濃度50重量%の水溶液、日本無機化学工業製)とメタノールの混合溶液(酸化タングステンとして2.5mol/L)7.3mLを加え、3時間含浸した。その後、吸引ろ過により粒子を回収し、室温で一晩乾燥させた。得られた粉末を、空気中で毎分1℃で500℃まで昇温し、その後引き続きこの温度で5時間の焼成を行い、球状のポリメタクリル酸メチルを除去してBET比表面積が9.2m/gの酸化タングステン粒子を得た。その後、この酸化タングステン粒子に実施例1と同様の方法でPtの担持を行い、粒子状のPt担持酸化タングステン粒子を得た。このPt担持酸化タングステン粒子を水銀圧入法で測定したときの累積細孔容積は2.05mL/gで、平均細孔半径は0.20μmであった。
【0047】
また、このPt担持酸化タングステン粒子をSEMで観察すると、図4に示すとおり多孔質構造であることがわかった。さらにTEMで観察を行うと、図5に示すとおりの形状を有しており、電子線回折の結果、5つの測定スポットの全てから同じパターンが観測されたことから、このPt担持酸化タングステン粒子は、微粒子が連なったものではなく、この粒子自体が1つの単結晶から構成されていることがわかった。
【0048】
得られたPt担持酸化タングステン粒子を用いて、可視光照射下で酢酸の分解反応を行った。二酸化炭素の生成速度は8.6μmol/hであった。
【0049】
比較例1
メタタングステン酸アンモニウム(WOとして濃度50重量%の水溶液、日本無機化学工業製)を90℃で一晩乾燥後、得られた粉末を乳鉢で粉砕し、乾燥粉末を得た。得られた粉末を、空気中で毎分1℃で500℃まで昇温し、その後引き続きこの温度で5時間の焼成を行い、BET比表面積が2.0m/gの酸化タングステン粒子を得た。その後この酸化タングステン粒子に実施例1と同様の方法でPtの担持を行い、粒子状のPt担持酸化タングステン粒子を得た。このPt担持酸化タングステン粒子を水銀圧入法で測定したときの累積細孔容積は0.17mL/gで、平均細孔半径は0.086μmであった。また、このPt担持酸化タングステン粒子をSEMで観察すると、図6に示すとおり多孔質構造は有していないことがわかった。さらにTEMで観察を行うと、図7に示すとおりの形状を有しており、電子線回折の結果、微粒子の凝集体であることがわかった。
【0050】
得られたPt担持酸化タングステン粒子を用いて、可視光照射下で酢酸の分解反応を行った。二酸化炭素の生成速度は3.4μmol/hであった。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】実施例1で得たPt担持酸化タングステン粒子のSEM写真である。
【図2】実施例1で得たPt担持酸化タングステン粒子のTEM写真である。
【図3】実施例1で得たPt担持酸化タングステン粒子のTEM写真である。
【図4】実施例2で得たPt担持酸化タングステン粒子のSEM写真である。
【図5】実施例2で得たPt担持酸化タングステン粒子のTEM写真である。
【図6】比較例1で得たPt担持酸化タングステン粒子のSEM写真である。
【図7】比較例1で得たPt担持酸化タングステン粒子のTEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱状部と、複数の前記柱状部がその端部で結合している節部とを有し、前記柱状部と前記連結部とが一つの単結晶を構成する構造を有することを特徴とする酸化タングステン。
【請求項2】
請求項1の酸化タングステンからなり、水銀圧入法で測定したときの累積細孔容積が1mL/g〜5mL/gであり、平均細孔半径が0.1μm〜0.3μmであり、窒素吸着法で測定したときのBET比表面積が5g/m2〜40g/m2である光触媒体
【請求項3】
光触媒体と接触させた状態で光を照射することにより有機物を分解する方法であって、前記光触媒体として請求項2記載の光触媒体を用いることを特徴とする前記有機物の分解処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−18503(P2010−18503A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−182396(P2008−182396)
【出願日】平成20年7月14日(2008.7.14)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】