説明

高い動作温度を維持しシェーリングを減らす金属および酸化物界面アセンブリ

放電ランプの電極アセンブリ(14)上の障壁層は、少なくとも無酸化材料のナノクラスター層(28)を備える。放電ランプ用の電極アセンブリは、電極アセンブリを形成するように箔が取り付けられた電極を備え、ナノクラスターの形態の無酸化材料層と別の無酸化材料層とを備える多層コーティングによって全体のコーティング厚さが最大で1500nmとなるようにコーティングされている。電極アセンブリと放電ランプ・エンベロープとの間の熱膨張不整合を減らす方法は、電極アセンブリを用意することと、アセンブリの表面上に、少なくとも無酸化材料のナノクラスター層を有するコーティングを堆積することと、その後に電極アセンブリ領域内のランプ・エンベロープにピンチングを施してピンチ領域を形成することを含む。このランプは高温で1000時間を超える長時間、動作することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は放電ランプに関する。本開示の特定の応用例として、高温で動作する高輝度の石英またはセラミック放電ランプに関するもの、ランプ内で、ランプの箔および/またはコイル・アセンブリ上に設けられた無酸化の障壁層を用いることに関するもの、および金属および/または非金属/半導体界面を示すデバイスに関するものがある。しかし本開示は、照明および関連する業界の全体に渡る広い応用例があることを理解されたい。
【背景技術】
【0002】
蛍光および他の放電ランプが当該技術分野で一般的に知られている。これらのランプは、ガラス管または光透過性のエンベロープ(通常、円形断面)を有している。このエンベロープには、ランプ電極、助燃充填ガス、および当該技術分野で知られる種々の水銀成分が収容されている。エンベロープは、両端において密閉封止されている場合がある。ランプ電極は1つまたは複数の基部(通常、エンベロープの端部に位置する)内に取り付けられている。これらの基部は、エンベロープを密閉する働きもする。電極は、連携してアーク放電を起こすように働き、非常に小さい直径のワイヤ(通常、タングステン)で形成されている。
【0003】
電極ピン・アセンブリは、それらの物理的構造および脆弱な性質によるものである。加えて、それらは付加的な応力を、ランプ製造中およびランプ動作中に、特に高温において受ける。これらの要因により、ランプの電極アセンブリは箔コネクタを備えていることが多い。箔コネクタは、脆弱な電極に対する物理的支持をもたらすとともに、電極の発熱の一部を吸収する働きもするため、電極動作温度が下がり、結果としてランプ寿命が延びる。
【0004】
脆弱な電極アセンブリに対する支持をもたらす別の手段として、ランプが示すことが多いのは、当該技術分野で一般的にランプの「ピンチ部分」と言われるものである。ランプのこの部分は、エンベロープのいずれかの端において基部のすぐ隣に配置され、エンベロープまたは管の直径が、電極の近くでガラスが「ピンチされている」場所で小さくなっていることで特徴づけられる。しかし、これによってランプ構造内の電極アセンブリの安定性は増すが、その反面、ガラス・エンベロープが電極ワイヤと直接接触してしまってその性能を損なうということに関する潜在的な問題が生じる。この問題を埋め合わせる方法の1つは、ピンチ領域において電極/箔アセンブリの周りにコイルを設けて、ガラス・エンベロープと電極アセンブリとの間の障壁として機能させることであった。
【0005】
前述した一般的な構成を有するランプでは、コイル/箔アセンブリを用いて、石英エンベロープと金属電極との間の熱膨張不整合によって生じる応力を小さくしている。一般的に、箔はモリブデン箔であるが、他の金属を用いる場合もある。たとえ電極アセンブリに金属箔を加えても、ランプは熱膨張不整合の問題を受け続ける。本開示の目的上、用語「箔」は、ランプの電源に電極を接続するために用いる任意の金属を指すことが意図されており、特に断らない限り、用語「箔」および「箔/コイル」またはそれらの任意の組み合わせは、電極用の支持体アセンブリを指す。
【0006】
実際には、箔を電極、たとえばタングステン電極に溶接するが、他の電極材料を用いる場合もある。溶接部の領域が、ピンチとして知られるランプの領域に配置されることは前述したとおりである。このように呼ばれる理由は、石英エンベロープが実際に、箔/電極接続部を支持する手段として共に「ピンチ」されるからである。溶接部をさらに、金属コイルを巻き付けるかまたは管に入れて、石英が電極に直接接触しないことを確実にするとともに、箔/電極溶接部の領域を安定させることもある。
【0007】
この箔/コイル・アセンブリは、電極に対する支持をもたらすことを意図したものであるが、複数の理由で破損する場合がある。たとえば、アセンブリの破損は、構造的に弱いことかまたはアセンブリ構成要素材料間に熱的不整合が絶えず存在することが原因で起こる場合がある。場合によっては、箔にクロムをコーティングしてランプ動作中の金属の酸化を減らすことによって、アセンブリの破損を回避する。過剰な発熱に起因する破損を減らすために用いる別の手段は、サンドブラスティング技術を用いて、エンベロープをつや消しにすることである。これによって、表面積が増えてピンチ温度が下がる。このように行なうことは、娯楽照明設備において用いられることが多い。なぜならば、このタイプの設備では、ランプ基部温度が400℃超になるからである。
【0008】
ランプの使用目的に関係なく、ほとんどのランプは、前述したランプのピンチ部分において少なくとも箔/コイル・アセンブリを備えている。石英は、多くのランプ・エンベロープを作るために用いられるが、酸化物材料であり、箔は一般的に金属(たとえばモリブデン)から形成される。そのため、石英と箔との間に本来的な熱的不整合が残る。熱的不整合は、2つの材料が非常に接近しているピンチ領域において強調される。これは、構造の応力点に関連するものである。応力点は、通常かまたは従来の動作条件の下では最終的にランプ破損に至るものであるが、高い動作温度条件の下では増幅されて早期ランプ破損を招く。たとえば、高温動作条件の下では、ランプのピンチ部分は500℃を超える温度を受ける場合がある。モリブデン箔は500℃付近で酸化する。そのため、動作の最初の400時間以内に、箔は、酸化によって生じる劣化を受けて、早期ランプ破損に至る。したがって、従来の箔/コイル電極支持を、延長してまたは長時間(平均して最大で1000〜2000動作時間)ランプを動作させる際に、用いることは、実行可能な選択肢ではない。
【0009】
当業者であれば分かるように、前述したことを考慮すると、ランプ技術には、早期ランプ破損も動作寿命の短縮も受けない高い動作温度のランプに関する部分が欠如したままである。対処すべき問題に必要となる解決方法は、ピンチ領域における金属箔と石英エンベロープとの間の熱的不整合をなくすだけでなく、高い動作温度での箔の早期酸化を回避する働きをすることによって、ランプの動作温度が500℃を超えていても、ランプ性能が1000時間を超えて長く存続できるようにする方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第2,697,130号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、放電ランプの電極アセンブリ上に設けられる障壁層であって、少なくとも無酸化材料のナノクラスター層を備える障壁層に関する。さらに、本発明は、放電ランプ用の電極アセンブリであって、電極アセンブリを形成するように箔が取り付けられた電極を備え、少なくとも厚さが1nm未満でありナノクラスターの形態の無酸化材料層と少なくとも別の無酸化材料層とを備える多層コーティングによって全体のコーティング厚さが最大で1500nmとなるようにコーティングされた電極アセンブリに関する。電極アセンブリと放電ランプ・エンベロープとの間の熱膨張不整合を減らす方法も提供される。本方法は、電極アセンブリを用意することと、アセンブリの表面上に、少なくとも無酸化材料のナノクラスター層を有するコーティングを堆積することと、その後に電極アセンブリ領域におけるランプ・エンベロープにピンチングを施してピンチ領域を形成することであって、このランプは高温で1000時間を超える長時間、動作することができる、形成することと、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】従来のランプ・アセンブリの図面である。
【図1a】別の従来ランプ・アセンブリの図面である。
【図2】本発明による箔ピンチ領域の図面である。
【図3】本発明による2つのコーティング層の界面構造の詳細を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、放電ランプのピンチ領域における箔/コイル上の堆積に対するコーティングに関する。より具体的には、本発明は、放電ランプのピンチ部分における石英エンベロープと箔/コイル支持アセンブリとの間の熱的不整合によって起きる問題をなくすコーティングに関する。加えて、コーティングによって、金属箔の酸化の進行を十分に小さくするかまたは妨げて、ランプの動作寿命を望ましい1000〜2000時間まで延ばすことができる。
【0014】
図1または図1aを参照して、代表的な放電ランプ10を示す。これは、当該技術分野で一般的に知られているものである。ランプ10は、ガラス管または光透過性のエンベロープ12を有する。エンベロープ12は、円形断面を有し、従来の電極14、充填ガス16、および当該技術分野で知られる水銀成分(図示せず)を備えている。管12は、両端において基部18によって密閉封止されている。電極14は、基部18内に取り付けられていて、従来のランプ電源(図示せず)から電力が印加されると電極14がアーク放電を維持するようになっている。基部18に隣接して、ランプは、「ピンチ」領域20を有するように構成されている。「ピンチ」領域20では、石英エンベロープ直径が小さくなっていて、電極アセンブリに対する支持をもたらすようになっている。図1aに、箔22が電極14に取り付けられている様子を示す。ガラス管12の内面のすべてのまたは任意の部分に、共通の譲受人に対する米国特許第1,602,444号明細書に開示されるタイプのうちの1つまたは複数のコーティング層(図示せず)、たとえば透過性の障壁コーティング層および/または反射性の障壁コーティング層をコーティングしても良い。当業者であれば分かるように、本発明は、本明細書ではこの従来のランプ構成を参照して説明しているが、ランプ・エンベロープと電極アセンブリとの間の熱的不整合に起因するランプ寿命の短縮を受ける可能性がある任意のランプ構造に対して応用例がある。
【0015】
図2に、本発明による放電ランプのピンチ領域20の拡大図を示す。これは、図1aに示すタイプのランプに対応する。図に示すように、箔22が電極14に接続されている。石英エンベロープ12は、このタイプのランプの中央部分を表わす領域24において幅が広くなっているが、電極/箔接続部の領域26において「ピンチされて」おり、石英が電極アセンブリに、本来設定され得る場合よりも近接している。すでに述べたように、ピンチ・デザインを用いて、電極アセンブリに対する物理的支持をもたらしている。
【0016】
本発明によるコーティングに関しては、本明細書において、「コーティング」、「層」、もしくは「障壁」、またはこれらの用語の任意の組み合わせであると交換可能に言っても良い。コーティングは、少なくとも金属(たとえばNi−Mo−Cr複合物、Re、Os、AuまたはPtなど)を含んでいる。本発明によるコーティングとして用いるためのこれらの金属および他の好適な金属は、高融点および短い拡散距離を特徴とする。用語「拡散距離」は、材料(ここではコーティング材料)の原子が、拡散する先の材料の原子によって捕捉される前に移動する距離を指す。規定した金属に加えて、コーティングは、ある酸化物を含んでいても良い。たとえば酸化チタン、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化アルミニウム、および複合物たとえばTiInO、SrTiO、LaSrTiO、CuAlSである。したがって、本発明によるコーティングは、少なくとも導電性金属または金属酸化物を含んでおり、それらの組み合わせを含んでいても良い。コーティングが導電性であるためにランプの動作を妨げないということは重要である。
【0017】
前述した金属および/または金属酸化物に加えて、コーティングにドープしてその性能をさらに高めても良い。ドーパントは、シリコン、ボロン、および炭素などの材料から選択しても良い。これらを、イオンとしてかまたは元素形態で、コーティングの堆積後に非常に高温でコーティング組成物内に拡散させることによって加えても良い。
【0018】
本発明のコーティングは複数の層を備えている。コーティングの第1の層は、少なくとも約4/5ナノメートルの厚さで堆積する。この堆積は、知られている任意の堆積技術によって行なっても良い。好ましくは、層の堆積は、少なくとも約400℃の温度で行なう。この温度で堆積すると、障壁層材料は、材料のナノクラスターの層を形成し、もっと低い温度(従来、約100℃)で堆積するとただの薄膜の性質であることと対照的である。このもっと低い温度で堆積した材料の薄層の場合には、コーティングの金属が金属箔内に少なくとも部分的に拡散することが起こる。しかし本発明によるもっと高い堆積温度の場合には、金属コーティング材料は、箔またはコイル材料内には拡散せず、むしろ超硬質ナノクラスターのコーティングとして堆積される。これは、いったん堆積されると、たとえ高温にさらされても、実質的に超硬質表面層として残るという事実によって特徴づけられる。
【0019】
図3に、コーティング後の箔を断面で示す。この図において、コーティングの第1の層28が、金属箔の表面上に、前述したナノクラスターの形態で存在するのが分かる。この図において、第2の層30が、前述した酸化物材料に対応する薄膜の形態で堆積されている。コーティングはさらに、ナノクラスター層と薄膜との間の界面32と、コーティングと石英エンベロープとの間の界面34とを示す。
【0020】
ナノクラスター・コーティング層に、たとえばAu、Ni、またはPtが含まれている場合には、スパッタリングによって堆積することができる。次にこの堆積プロセスに続いて、アニーリングを約400℃において、最大で約5時間行なう。コーティングを堆積およびアニールするのに必要な時間は、所望のコーティング厚さに依存する。堆積温度は、コーティングの金属含有量によって決まる。すなわち、融点の高い金属ほど堆積温度を高くする必要があり、そうでなければ堆積温度を低くするほど時間が長くなる。
【0021】
ナノクラスター・コーティング層が、たとえば亜鉛、酸化チタン、酸化インジウム、または硫化物もしくはホウ化物から形成される場合には、層の堆積を、従来の化学気相成長技術によって行なうことができる。一般的に、化学気相成長法は、高純度で高性能のコーティングを、コーティングすべき表面(この場合は箔アセンブリ)を1つまたは複数の揮発性コーティング前駆体に露出させることによって堆積させるものである。活性化およびプロセス条件は、化学反応を開始するために用いるプロセスのタイプに応じて変わる。たとえば、作動圧力CVDたとえば(これらに限定されないが)大気圧CVD、低圧CVDなど;蒸着CVDたとえば(これらに限定されないが)エアロゾルCVD、液体注入CVDなど;プラズマ励起CVD;原子層CVD;熱線CVD;有機金属CVD;などである。当業者であれば、基板およびコーティング含有量に応じて、望ましい技術をどのように適用するのかについて分かっている。
【0022】
本発明にはさらに、前述の酸化物層にドーパントを加えることが含まれる。酸化物材料に、たとえば、シリコン、ボロンまたは炭素の非常に薄い層をコーティングして、石英エンベロープと、石英エンベロープのもっとも近くに隣接するかまたは近接する材料との間の熱膨張不整合をさらに小さくしても良い。
【0023】
本明細書で説明したコーティングを構成するナノクラスターのサイズは変わっても良い。一般的に、クラスターは、コーティング層の厚さが増大するにつれて大きくなる。これは、クラスターが、コーティング厚さの増大に対して直線的に成長するという事実による。
【0024】
最初に堆積するナノクラスター・コーティング層の後に、厚さが約1500ナノメートルの2番目の層を堆積する。本発明によるコーティングのこの2番目の層は、最初の層の場合と同じ材料から形成しても良いし、別の金属組成から形成しても良い。たとえば、コーティング全体(最初および2番目または付加的な層を含む)は、たとえば、AuまたはNi−Mo−Cr、MoRe、MoOs、MoPtを含んでいても良い。成分の混合を含むコーティング(たとえばNi−Mo−Crコーティング)の場合、より良好な抵抗を応力に対して示す場合がある。これは、混合されたコーティングの方がより顆粒状となる可能性があるという事実による。単一成分のコーティングであっても、箔/電極アセンブリの酸化を阻むには十分であるが、応力に関する問題を、混合コーティング層ほど効率的には解決しない場合がある。
【0025】
前述したように、単一成分のコーティングであっても、この点に関しては十分に行なうが、成分の組み合わせを含むコーティングの方が良好な結果が得られる場合がある。あるいは、コーティングは、たとえば、最初の金ナノクラスター層を備え、それに続いて酸化インジウム/酸化亜鉛の2番目の層を備えていても良い。さらに、どちらかの層または両方の層に、たとえばシリコンをドープしても良い。さらに、酸化物含有材料をコーティングの第2の層として堆積することによって、コーティングが他の材料の結合により影響されやすくなるようにすることができることに注意されたい。例示を目的として、たとえば、金属(たとえば金)のナノクラスター層を堆積し、それに続いてTiInOを含む第2の層を堆積しても良い。しかし、この順序で層を設ける必要は必ずしもなく、層は任意の順番で堆積しても良い。すなわち、金属または酸化物/炭化物/窒化物を最初に設け、それに続いて残りを設けても良い。両方の層を同じ堆積技術を用いて堆積しても良いし、異なる堆積処理を用いても良い。
【0026】
さらに、最初の層はナノクラスター層として堆積することが好ましいが、2番目以降のコーティング層は、より厚いナノクラスター層としてかまたは前述したおおよその厚さの薄膜層として堆積しても良い。後者の薄膜構造を用いた場合でも、最初のナノクラスター層によって、金属コイル内へのコーティング金属の拡散に対する障壁が得られる。
【0027】
多層コーティング(本明細書で示したように、少なくとも最初の堆積層と2番目の堆積層とを含む)は、石英または他のランプ・エンベロープと電極/箔アセンブリとの間の熱的不整合の問題に対処するだけでなく、さらにモリブデン箔の酸化を低減する働きをする。コーティング層が金またはプラチナである場合、これらの金属は酸化しないため、いったんコーティングが堆積されたら、電極アセンブリの酸化破損によってランプ破損がもたらされる可能性はない。あるいはコーティング層が、たとえば、酸化亜鉛もしくは酸化インジウム、またはすでに酸化物状態にある他の任意の材料から構成されている場合であっても、さらなる酸化は可能ではないかまたはほんの取るに足らないものである。したがって、どちらの場合でも、本発明のナノクラスター・コーティング(少なくとも最初のナノクラスター層と2番目の層とを含む)を、ランプのピンチ領域における箔/コイル・アセンブリ上に堆積することによって、電極および箔/コイルが、酸化破損してランプ寿命の短縮に至ることから保護される。これは、特に高めの動作温度(平均して約500℃〜600℃)において重要である。この範囲の高温では、モリブデンの拡散および酸化が原因で、箔/電極アセンブリの酸化が起こる速度が速くなる。
【0028】
コーティングを堆積する前に、箔の表面をエッチングして、100nmを超える粗さを示すようにすることができる。このエッチング・プロセスを用いて、石英エンベロープに対する箔の順応性を高める。石英エンベロープがピンチ・プロセスを受けると、プロセスの温度が原因で、石英は柔らかくて粗くなる。これによって2つの問題が生じる。第1に、石英は今や、箔(滑らかである)とのシールを形成するために石英が用いられている領域において粗いため、良好なシール(電極アセンブリに対する酸素のアクセスを完全に抑制する)を形成することが難しい。第2の問題は、石英と箔とが熱的不整合を受けるために、ランプの使用中に起こる。好ましくは、箔は石英とともに膨張および収縮する。箔表面を粗くすることは、これらの問題を回避するのに役立つ1つの手段である。箔表面を粗くすると、石英がピンチ・プロセスの間に軟化および粗面化を受けたときに、箔および石英の粗面がある程度噛み合うことができるため、石英が拡張および収縮したときの石英に対する箔のシールおよび動きをより良好なものにすることができる。粗面化を、モリブデン箔上にシリカ粒子を堆積することによって引き起こすことができる。しかし箔表面を粗くしても、シールは酸素不浸透性ではない場合があり、箔は、材料間の熱的不整合が原因で同じ動きを示さない場合がある。本明細書におけるコーティングは、箔と石英との間のシールを強化することによっておよび滑りを強化することによって、これらの問題点に対処する。加えて、コーティング組成物のおかげで、たとえ酸素が電極アセンブリ領域内に漏れても、無酸化コーティングがあるために、箔が酸化する可能性はない。さらに、コーティング組成物によって箔と石英との間の熱的不整合が著しく減る。
【0029】
ナノクラスター・コーティング層によってさらなる優位性が得られる。コーティングは減衰バネとして機能しても良い。これは、石英エンベロープが、ランプ動作によって発生した熱を吸収し始めるときに起こる。ランプのピンチ領域内に沈積された熱の応力は、ナノクラスター・コーティングが無い従来のランプでは、他のタイプの破損もあるが、エンベロープの軟化または電極の酸化劣化をもたらす場合があるが、そうなる代わりに、ナノクラスター・コーティング層によって吸収される。コーティング層がこの熱エネルギーを吸収することによって、箔アセンブリが安定するか、または熱発生劣化の伝搬に関する減衰効果が得られるため、潜在的なランプ破損が失速することになる。
【0030】
任意的に、1つまたは複数の付加的な層を、コーティングを堆積する間に加えても良い。この付加的な層は、厚さが最大で約5nmであっても良い。付加した場合、この層は、石英に対するコーティング層のさらなる順応性を実現する働きをし、前述した酸化物のいずれかで形成することができるとともに、知られている任意の堆積技術によって堆積することができる。
【0031】
本開示によるコーティング構造を試験するために、従来のモリブデン箔/電極アセンブリを備えるランプに、10nmNi/Auナノクラスター層をコーティングし(スパッタリングによって堆積)、厚さとして200〜400nmを示すTiO/Si酸化物層を重ねてコーティングした。両方の層の堆積は、スパッタリング堆積プロセスを300〜400℃で行なうことを用いて実施した。モリブデン箔/電極アセンブリを、コーティングの堆積前に温度200℃にして、堆積後に約30分間、堆積チャンバを排気するまで、この温度に維持した。コーティングの堆積速度は2A/秒であった。堆積する間、均一だが粗いカバレージを確実にするために、基板を常に、30度を超える角度で回転させた。
【0032】
コーティング・プロセスが完了したらすぐに、比較試験を2つの仕方で行なった。第1の仕方はオーブン試験を伴うものであった。コーティング後のモリブデン箔/電極アセンブリと、同一の電極アセンブリだが未コーティング状態のものとを、開放空気オーブン内に配置して温度を600℃まで上げた。この温度では、動作温度の上昇を模擬しており、本明細書の開示により前述したようにコーティング後のモリブデン箔は、50時間を超える時間後も酸化劣化を示さなかった。比較として、未コーティングのモリブデン箔は、高温でたった2分後に破損した。破損は、未コーティング箔の酸化および亀裂によって目に見えて顕著であった。
【0033】
第2の試験では、箔に電力サイクリングを施した。具体的には、箔(コーティング後と未コーティング)に、28アンペア電力を施し、30周期/日の割合で箔を通して繰り返した。この試験方式は、実際のランプが700℃で300時間動作することに匹敵する。たった20サイクル後に、未コーティングの箔は破損して、印加電荷をもはや支えることはできなかった。コーティング後の箔は、対照的に、全試験時間を通して印加電荷を支え続け、試験時間の終わりにコーティング後の箔が示したのは、ほんのわずかでほとんど目に見えない兆候の劣化であった。調べてみると、未コーティングの箔は、ピンチ・プロセスの間にモリブデン−酸化物のエンベロープ界面で劣化を受けていたことが確認された。これは、応力集中部が存在することによって証明された。図3に、前述の応力集中部が明瞭に示されている。しかしコーティング後の電極アセンブリは、試験の50時間後に調べてみても、応力集中部の兆候は示さなかった。偏光器を用いて、試験箔のピンチ領域内に存在する応力特徴を光学的にマッピングしてみると、未コーティングの箔アセンブリが示す応力は、本開示によりコーティングされた箔アセンブリが受ける応力の2倍であることが判明した。
【0034】
前述の結果から推定して、本開示のコーティングがピンチ・プロセス中および動作時に箔アセンブリに及ぼすであろう効果を求めることができる。最初に、結果が示すところによれば、コーティングは、箔アセンブリに接着的に結合された状態に、600℃を超える動作温度において留まることができる。このことは、あるランプ応用例として、高温が熱エネルギーを蓄積するだけでなくランプを早期に破損させることもある応用例で用いる際には、重大なことである。この結論は、試験後に、コーティング後のアセンブリ上に割れの形成および酸化が無いことによって支持される。本明細書で説明したコーティングは、金属/セラミック系において熱的不整合が生じる可能性を示す任意の数の応用例で用いることに適していることが十分に予想される。
【0035】
本発明を、好ましい実施形態を参照して説明してきた。明らかに、前述の詳細な説明を読んで理解することによって、変更および修正が他のものに対して想起される。本発明をこのような変更および修正をすべて含むものと解釈すべきであることが意図されている。
【符号の説明】
【0036】
10 放電ランプ
12 エンベロープ
16 充填ガス
14 電極
18 基部
22 箔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電ランプの電極アセンブリ上に設けられる障壁層であって、少なくとも無酸化材料のナノクラスター層を備える障壁層。
【請求項2】
無酸化材料はNi−Mo−Cr複合材料である請求項1に記載の障壁層。
【請求項3】
無酸化材料は金属酸化物である請求項1に記載の障壁層。
【請求項4】
無酸化材料は、金、シリコン、プラチナ、レニウム、およびオスミウムからなる群から選択される材料である請求項1に記載の障壁層。
【請求項5】
無酸化材料は金属である請求項1に記載の障壁層。
【請求項6】
障壁層は2つ以上の層を備え、層のうちの少なくとも1つは無酸化の金属含有層である請求項1に記載の障壁層。
【請求項7】
障壁層は、ナノクラスターの形態の第1の層を備え、第2の層は酸化物層であり、コーティングの厚さは最大で1500nmである請求項6に記載の障壁層。
【請求項8】
障壁層は、TiO、ZO、InO、Al、TiInO、SrTiO、LaSrTiO、CuAlS、酸窒化物、ン窒化炭素物、硫化物、およびホウ化物から選択される第2の層を備える請求項7に記載の障壁層。
【請求項9】
1つまたは複数の付加的な無酸化材料層をさらに備える請求項7に記載の障壁層。
【請求項10】
放電ランプ用の電極アセンブリであって、電極アセンブリを形成するように箔が取り付けられた電極を備え、少なくとも厚さが4/5nm以上の無酸化材料層と少なくとも1つの付加的な無酸化材料層とを備える多層コーティングによって全体のコーティング厚さが最大で1500nmとなるようにコーティングされた電極アセンブリ。
【請求項11】
第1のコーティング層は金属であり、第2のコーティング層は酸化物である請求項10に記載の電極アセンブリ。
【請求項12】
第1のコーティング層はナノクラスターの形態で堆積される請求項10に記載の電極アセンブリ。
【請求項13】
無酸化材料は金属または金属酸化物である請求項10に記載の電極アセンブリ。
【請求項14】
コーティングの層は同じ材料を含む請求項10に記載の電極アセンブリ。
【請求項15】
第1のコーティング層は少なくとも400℃の温度において堆積される請求項10に記載の電極アセンブリ。
【請求項16】
電極アセンブリと放電ランプ・エンベロープとの間の熱膨張不整合を減らす方法であって、
電極アセンブリを用意することと、
電極アセンブリの表面上に、少なくとも無酸化材料のナノクラスター層を有するコーティングを堆積することと、
電極アセンブリ領域におけるランプ・エンベロープにピンチングを施してピンチ領域を形成することであって、放電ランプは高温で1000時間を超える長時間、持続動作を示す、形成することと、を含む方法。
【請求項17】
電極アセンブリは少なくとも電極および箔を備える請求項15に記載の方法。
【請求項18】
コーティングは、ナノクラスター層に加えて少なくとも第2の層を備える請求項15に記載の方法。
【請求項19】
コーティングのナノクラスター層は無酸化金属を含み、少なくとも1つの第2の層は酸化物組成を含む請求項17に記載の方法。
【請求項20】
放電ランプは、酸化または熱的不整合によるランプ破損を受けることなく600℃を超える温度で動作可能である請求項15に記載の方法。
【請求項21】
電極アセンブリを収容するエンベロープを備える放電ランプであって、電極アセンブリには、少なくとも1つのナノクラスター層を有する無酸化コーティングが設けられ、前記放電ランプは、600℃を超える温度で1000時間を超える時間、電極アセンブリの酸化または電極アセンブリとエンベロープとの間の熱的不整合によるランプ破損を受けることなく動作可能である放電ランプ。

【図1】
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【図1a】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−535401(P2010−535401A)
【公表日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−520018(P2010−520018)
【出願日】平成20年6月18日(2008.6.18)
【国際出願番号】PCT/US2008/067265
【国際公開番号】WO2009/017891
【国際公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】