説明

高い屈折率の硬化物を与えるポリオルガノシロキサン組成物

【課題】 光学的レンズとして充分な硬さと高い屈折率を有し、LED用および光学レンズ用に適した硬化物を与える硬化性ポリオルガノシロキサン組成物;およびLED用および光学レンズ用に適した硬化物を提供する。
【解決手段】 (A)平均単位式: (CSiO(4-a-b-c)/2(式中、Rは、アルケニル基を表し;aは、a,b,cの合計に対して25〜95%であり;a,b,cの合計が、Si原子1個当たり1.0〜1.9個の範囲である)で示されるフェニル基含有ポリオルガノシロキサン;(B)(1)分子中にSiO4/2単位およびR(CHSiO1/2単位(式中、Rは特定のアラルキル基、水素原子またはメチル基を表す)を含むアラルキル基含有ポリオルガノハイドロジェンシロキサン;および必要に応じてアラルキル基を含まない同様のポリアルキルハイドロジェンシロキサンからなる架橋剤;および(C)白金族金属化合物を含む、高い屈折率の硬化物を与えるポリオルガノシロキサン組成物;ならびにその硬化物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、付加反応によって硬化するポリオルガノシロキサン組成物に関し、特に、硬化して、高い屈折率を示し、発光ダイオード(以下、LEDという)の封止剤、レンズなどの光学的用途に適した硬化物を与えるポリオルガノシロキサン組成物に関する。また、本発明は、このようなポリオルガノシロキサン組成物を硬化させて得られる硬化物、特に光学用およびLED用に好適な硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーン樹脂およびシリコーンゴムは、その中間の物性を示すポリマーを含め、耐熱性、耐寒性、電気絶縁性などに加えて、透明なものが得られるため、各種の光学用途に用いられている。特に、LEDの封止、保護、レンズなどの用途に、硬化して、高い硬さを有し、透明な硬化物を与えるポリオルガノシロキサン組成物が有用である。特許文献1には、ケイ素原子に結合したアルケニル基を有する分岐状シロキサンを、ポリオルガノハイドロジェンシロキサンで架橋して得られる樹脂状硬化物が、LEDの保護、接着、波長変更・調整、レンズに用いられることが開示されている。また、特許文献2には、ケイ素原子に結合した1価の炭化水素基の80%以上がメチル基であり、アルケニル基を有するベースポリマーを、ポリオルガノハイドロジェンシロキサンで架橋して得られる樹脂状硬化物が、同様の用途に用いられることが開示されている。
【0003】
また、LED以外においても、透明性とともに耐熱性と耐衝撃性を必要とする光学的レンズとしても、このような硬化物は有用である。特許文献3には、ケイ素原子に結合した1価の炭化水素基の20%以上がフェニル基であり、アルケニル基を有するベースポリマーを、ポリオルガノハイドロジェンシロキサンで架橋して得られる樹脂状硬化物が、電気・電子をはじめ各種分野の用途に用いられることが開示されている。
【0004】
このような光学用硬化物、特にレンズは、屈折率が高い材料を用いると、レンズを薄くすることが可能になるなど設計の自由度が大きいので、例えば1.45以上、好ましくは1.50以上の屈折率を有する硬化物が求められている。このような高い屈折率を得るためには、ベースポリマーのフェニル基含有率を、ケイ素原子に結合した有機基中の25モル%以上にする必要がある。このような高いフェニル基含有率を有するポリオルガノシロキサンは、架橋剤として用いられる通常のポリオルガノハイドロジェンシロキサンとの相溶性がないので、均質で透明な硬化物を得るのに必要な相溶性を得るには、それに組み合わせる架橋剤も、特許文献3の実施例に見られるように、高いフェニル基含有率を必要とする。
【0005】
しかしながら、硬化物に必要な硬さを与えるために架橋密度を上げる目的で、分岐状シロキサン骨格を有するポリオルガノハイドロジェンシロキサンを架橋剤として用いようとすると、高いフェニル基含有量の分岐状ポリオルガノハイドロジェンシロキサンは、合成および精製が煩雑である。
【0006】
【特許文献1】特開2004−186168号公報
【特許文献2】特開2004−221308号公報
【特許文献3】特開平11−001619号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、光学レンズとして充分な硬さと高い屈折率を有し、LED用および光学レンズ用に適した硬化物を与える硬化性ポリオルガノシロキサン組成物を提供することである。本発明のもう一つの目的は、上記の特性を有し、LED用および光学レンズ用に適した硬化物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決するために研究を重ねた結果、ベースポリマーとして多量のフェニル基を有するアルケニル基含有ポリオルガノシロキサンを用い、架橋剤の少なくとも一部として、アラルキル基を有するポリオルガノハイドロジェンシロキサンを用いて、付加反応によって硬化させることにより、その課題を達成しうることを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、(A)平均単位式:
(CSiO(4-a-b-c)/2
(式中、
は、基中に不飽和炭素−炭素結合を含まない非置換または置換の1価の脂肪族炭化水素基を表し;
は、アルケニル基を表し;
aは、a,b,cの合計に対して25〜95%であり;b+cは、a,b,cの合計に対して5〜75%で、そのうちcは、a,b,cの合計に対して10%以下であり;a,b,cの合計が、Si原子1個当たり1.0〜1.9個の範囲である)
で示され、1分子当たり平均3個以上のRを有するフェニル基含有ポリオルガノシロキサン;
(B)(1)分子中にSiO4/2単位およびR(CHSiO1/2単位
(式中、Rは、2−フェニルエチル、2−フェニルプロピルおよび3−フェニルプロピルからなる群より選ばれるアラルキル基、水素原子またはメチル基を表す)
を含み、場合によってはSiO4/2単位1個に対して10個までのR(CH)SiO単位を含んでもよく、Rのうちアラルキル基を分子中に少なくとも1個、およびケイ素原子に直接結合した水素原子を分子中に少なくとも1個有するアラルキル基含有ポリオルガノハイドロジェンシロキサン;および必要に応じて
(2)分子中にSiO4/2単位およびR(CHSiO1/2単位
(式中、Rは、水素原子またはメチル基を表す)
を含み、場合によってはSiO4/2単位1個に対して10個までのR(CH)SiO単位を含んでもよく、ケイ素原子に結合した水素原子を分子中に少なくとも1個有するポリアルキルハイドロジェンシロキサン
からなり、ケイ素原子に直接結合した水素原子を(B)1分子当たり平均3個以上有するポリオルガノハイドロジェンシロキサン、
(B)として、(A)に存在するR1個に対するケイ素原子に結合した水素原子の数が0.5〜1.5個になる量であり、そのうち(1)の量が、そのアラルキル基が(B)を構成する全シロキサン単位に対して0.03〜0.33個になる量;ならびに
(C)白金族金属化合物 白金系金属原子を、(A)に対して0.1〜1,000重量ppm含有する量
を含む硬化性ポリオルガノシロキサン組成物に関する。
【0010】
また、本発明は、上記の硬化性ポリオルガノシロキサン組成物を、硬化させて得られる光学用硬化物に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、架橋剤に多量のフェニル基が存在しなくても、架橋剤の少なくとも一部に存在する少量のアラルキル基の作用により、ベースポリマーと架橋剤との相溶性に優れ、両者を含む原料混合液が分離することなく、LIM成形のような射出成形などにより、安定した品質で成形品が得られる。硬化物は、光学用レンズとして充分な硬さと、透明性および高い屈折率を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、(A)ベースポリマー、(B)架橋剤および(C)硬化触媒を含み、(A)のアルケニル基と(B)のケイ素−水素結合との間の付加反応(ヒドロシリル化反応)によって硬化して、硬化物を与える。
【0013】
(A)ベースポリマーは、平均単位式:
(CSiO(4-a-b-c)/2
(式中、R、R、a、bおよびcは、前述のとおりである)で示され、分子中に平均3個以上のRを有する、常温で液状または固体のフェニル基含有ポリオルガノシロキサンでである。(A)成分は、ケイ素原子の結合した有機基の數、すなわちa,b,cの合計のケイ素原子に対する比(以下、R/Siという)が、1.0〜1.9、好ましくは1.1〜1.7の範囲の、分岐シロキサン骨格を有するポリオルガノシロキサンである。R/Siが1.0未満のものは合成しにくく、また硬化物が脆い。一方、R/Siが1.9を越えると、架橋密度が減少し、充分な硬さの硬化物が得られない。
【0014】
フェニル基の數aは、合成が容易なことから、フェニル基が存在する各シロキサン単位について、1または2が好ましい。aは、(A)成分全体として、ケイ素原子の結合した有機基、すなわちa,b,cの合計に対して、25〜95%、好ましくは35〜90%である。aが25%未満では、充分な屈折率が得られず、95%を越えると合成しにくく、また立体障害のために充分な硬さが得られない。
【0015】
しては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、デシル、ドデシルのようなアルキル基;シクロヘキシルのようなシクロアルキル基;クロロメチル、2−シアノエチル、3,3,3−トリフルオロプロピルのような置換炭化水素基が例示される。これらのうち、合成が容易であって、機械的強度および硬化前の流動性などの特性のバランスが優れていることから、メチル基が最も好ましい。
【0016】
としては、ビニル、アリル、3−ブテニル、5−ヘキセニルなどが例示され、合成が容易で、また硬化前の組成物の流動性や、硬化後の組成物の耐熱性を損ねないという点から、ビニル基が最も好ましい。Rが存在する個々のシロキサン単位におけるcは、合成が容易なことから、1が好ましい。
【0017】
b+cは、(A)成分全体としてa,b,cの合計に対して5〜75%、好ましくは65%以下である。b+cが5%未満では、合成しにくく、また充分な硬さが得られない。一方、75%を越えると、充分な屈折率が得られない。そのうちcは、(A)成分全体としてa,b,cの合計に対して10%以下であり、かつ1分子当たり平均3個以上である。cが10%を越えると、架橋密度が上がりすぎて、硬化物がもろくなる。また1分子当たり平均3個未満では、硬化して充分な硬さの硬化物を与えることができない。(A)成分は、液状、半固体または固体であるが、取扱いが容易なことから、液状であることが好ましい。
【0018】
(A)成分は、硬化物を形成した後に化学的に安定で、耐熱性を保持することから、ケイ素原子に結合したヒドロキシル基やアルコキシ基のようなケイ素官能基が存在しないことが好ましい。このようなケイ素官能基が存在しない(A)成分は、個々のシロキサン単位の対応するオルガノクロロシラン類を共加水分解・縮合させて得られるポリオルガノシロキサンを、水酸化カリウム、カリウムシラノレートのようなアルカリ性物質によって処理し、さらに必要に応じてヘキサメチルジシラザン、1,1−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザンのようなシリル化剤で処理して、製造することができる。ここで、1,1−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザンを用いることが、この処理で導入されたビニル基が架橋密度の向上に寄与するので好ましい。
【0019】
(B)架橋剤は、分子中にSi−H結合を有するポリオルガノハイドロジェンシロキサンであって、該Si−H結合と(A)ベースポリマーのアルケニル基との間のヒドロシリル化反応によって硬化物を与える。(B)は、いずれも4官能性のSiO4/2単位を有する分岐状ポリオルガノハイドロジェンシロキサンであり、(1)アラルキル基含有オルガノハイドロジェンシロキサンのみを用いるか、(1)と(2)アラルキルを含まないポリアルキルハイドロジェンシロキサンとの混合物として用いることができる。なお、以下のシロキサン単位において、ケイ素原子の間に存在する酸素原子は、両シロキサン単位に共有されるものとして表し、シロキサン単位を下記の略号で示す。
Q:SiO4/2単位;
M’:R(CHSiO1/2単位とR(CHSiO1/2単位の総称
D’:R(CH)SiO単位とR(CH)SiO単位の総称
【0020】
(1)成分においてQ単位と組み合わされるR(CHSiO1/2単位、および場合によって追加的に用いられるR(CH)SiO単位(式中、Rは前述のとおりである)において、Rのうちのアラルキル基は、分子中に多量のフェニル基を有する(A)成分を(B)成分と相溶させるために、前述の特定範囲のアラルキル基から選ばれ、合成が容易で、不安定な副生物を形成せず、(1)成分として取り扱いが容易で、かつ(A)成分および(2)成分に対して優れた相溶性が得られることから、2−フェニルプロピルが好ましい。
【0021】
上記のRのうちアラルキル基以外の基は、水素原子かメチル基である。(2)成分においてQ単位と組み合わされるR(CHSiO1/2単位、および場合によって追加的に用いられるR(CH)SiO単位(式中、Rは前述のとおりである)のRは、上記のSi−H結合を構成する水素原子とアルキル基からなる。アルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチルなどが例示され、直鎖状でも分岐状でもよく、1種でも、2種以上の混成でもよい。(2)の粘度を過度に上げることなく、また硬化物に耐熱性をはじめとするシロキサンの特徴をバランスよく付与するために、アルキル基はメチル基が最も好ましい。
【0022】
(B)成分は、Q単位とM’単位からなり、場合によってはD’単位を含む分岐状ポリオルガノハイドロジェンシロキサンである。D’単位が過度に多いと樹脂状の硬化物が得られないので、D’/Q比は10以下であり、5以下が好ましい。Si−H結合は、M’単位に存在する方がD’単位に存在するよりも反応性が高いので、R(CH)SiO単位として多量のアラルキル基を導入する場合を除き、特に高い硬さを求められるときは、(B)成分は、Q単位とM’単位からなることがさらに好ましい。その場合、高い架橋密度を与えながら、取扱いやすい適切な粘度を有することから、M’/Q比は、1.5〜2.2がより好ましく、1.8〜2.1がさらに好ましい。典型的には、M’またはM’10のように、4〜5個のQ単位が環状シロキサン骨格を形成し、各Q単位に2個のM’単位が結合しているものが、特に好ましい。
【0023】
(B)成分は、(1)単独か、これと(2)との混合物である。(1)は、それ自体が架橋剤であると共に、これも架橋剤である(2)との混合物として用いられる場合は、(2)を(A)成分を相溶化させる可溶化剤としても寄与する。硬化物に充分な硬さを与えるためには、(1)と(2)を併用することが好ましい。
【0024】
(1)成分は、Rの一部として分子中に少なくとも1個のアラルキル基を有する。(1)成分の1分子当たりのアラルキル基の數は、下記のケイ素原子に直接結合した水素原子の數を満足する限り任意であり、平均1.0〜6.0が好ましく、1.5〜5.0がさらに好ましい。
【0025】
(B)成分中のM’単位またはD’単位、好ましくはM’単位に含まれる、ケイ素原子に直接結合した水素原子の數は、(B)成分全体として、平均1分子当たり3個以上である。平均3個未満では、必要な硬さの硬化物を得るために充分な架橋密度が得られない。
【0026】
(B)成分の量は、(A)に存在するR1個に対するケイ素原子に結合した水素原子の数の比(H/Vi)が0.5〜1.5になる量である。H/Viが0.5未満では充分な物理的性質を有する硬化物が得られず、1,5を越えると、硬化物中に残存するSi−H結合が多くなり、加熱により重縮合反応が生じ、もろくなるために、耐熱性が悪くなる。
【0027】
(B)成分のうち(1)の量は、そのアラルキル基が、(B)を構成する全シロキサン単位に対して0.03〜0.33個、好ましくは0.04〜0.15個になる量である。この量が0.03個未満では、作業性と配合精度を考慮して、(A)成分と(B)成分を含む予備混合物を、(A)成分と(C)成分を含む予備混合物とを、相互の重量比が1:1になるように調製する場合に、(A)成分と(B)成分との予備混合物において、両成分の相溶性が得られず、そのため、均質で、均一な光学特性を与える硬化物が得られない。一方、0.33個を越えると、充分な硬さを有する硬化物が得られない。
【0028】
本発明で用いられる(C)成分の白金系触媒は、(A)成分のアルケニル基と(B)成分のヒドロシリル基との間の付加反応を促進させるための触媒である。白金族金属化合物としては、白金、ロジウム、パラジウムのような白金族金属原子の化合物が用いられ、塩化白金酸、塩化白金酸とアルコールの反応生成物、白金−オレフィン錯体、白金−ビニルシロキサン錯体、白金−ケトン錯体、白金−ホスフィン錯体のような白金化合物;ロジウム−ホスフィン錯体、ロジウム−スルフィド錯体のようなロジウム化合物;パラジウム−ホスフィン錯体のようなパラジウム化合物などが例示される。これらのうち、(A)成分への溶解性がよく、触媒活性が良好な点から、白金−ビニルシロキサン錯体が好ましい。
【0029】
(C)成分の配合量は、優れた硬化速度が得られることから、(A)成分に対して、白金族金属原子換算で通常0.1〜1,000重量ppmであり、好ましくは0.5〜200重量ppmである。
【0030】
本発明の組成物に、硬化前の段階で適度の流動性を与え、硬化物にその用途に応じて要求される高い機械的強度を付与するために、硬化物の透明性などの特徴を損なわない範囲で、微粉末の無機質充填剤を添加してもよい。このような無機質充填剤としては、煙霧質シリカ、アークシリカのような乾式微粉末シリカが例示され、煙霧質シリカが好ましい。また、透明性を上げるために、このようなシリカの表面を、ヘキサメチルジシラザン、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザンのようなシラザン化合物;オクタメチルシクロテトラシロキサンのようなポリオルガノシロキサンなどで処理して用いることが好ましい。これらの充填剤の添加量は、組成物の使用目的を損なわないかぎり限定されない。
【0031】
さらに、本発明の組成物には、硬化物の硬さや透明性などの本発明の目的を損なわないかぎり、必要に応じて、3−メチル−1−ブチン−3−オール、3−メチル−1−ペンチン−3−オール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、1−エチニル−1−シクロヘキサノールのようなアセチレン化合物、1,3,5,7−テトラビニル−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンのような、環ケイ素原子にビニル基が結合したビニル基含有環状シロキサンなどの硬化遅延剤;セリウム化合物のような無色の耐熱性向上剤;屈折率を(A)成分に合わせたフェニル基含有直鎖状ポリオルガノシロキサンのような、(A)成分の希釈剤など、各種の添加剤を配合してもよい。また用途によっては、本発明の組成物を、トルエン、キシレンのような有機溶媒に溶解ないし分散させて用いてもよい。
【0032】
(A)成分は、たとえば所望の組成のシロキサン単位比(モル比)に相当するモル比のオルガノクロロシランを、トルエン、キシレンのような有機溶媒に溶解させて、溶液を調製する。反応を制御するために、一部のオルガノクロロシランをあらかじめアルコキシ化してもよい。これを常温で、または加熱して水と反応させる。メタノールやイソプロパノールのようなアルコールを水相に存在させてもよい。共加水分解と縮合が進行して、ポリオルガノシロキサン溶液を形成する。得られたポリオルガノシロキサンには、通常、ヒドロキシル基やアルコキシ基のようなケイ素官能基が存在するが、微量の水酸化カリウムで処理し、さらに必要に応じてヘキサメチルジシラザンのようなシリル化剤で処理することにより、これらのケイ素官能基を除去することが好ましい。得られたポリオルガノポリシロキサンは、溶液のまま次工程に用いてもよく、シロキサン自体が液状の場合は、減圧で溶媒を留去してもよい。
【0033】
(B)成分のうち(2)は、たとえば、SiO4/2単位源となるテトラアルコキシシランまたはその低分子部分縮合物に、他のシロキサン単位に相当するオルガノクロロシランおよび/またはオルガノハイドロジェンクロロシランを混合し、必要に応じてトルエン、キシレンのような有機溶媒の溶液にして水と反応させ、共加水分解と縮合によりポリオルガノシロキサン溶液とし、ついで溶媒が存在するときはそれを留去することにより、得ることができる。(1)は、(2)の製造方法と同様にして、クロロシラン類の一部としてアラルキル基含有クロロシランを用いて得ることができる。あるいは、前述のようにして得られた(2)のSi−H結合に、白金系触媒の存在下で、スチレンまたはスチレン誘導体のようなエチレン性不飽和基含有芳香族化合物をヒドロシリル化させて、得ることもできる。
【0034】
本発明の組成物は、(A)〜(C)成分、およびさらに必要に応じて配合される他の成分を、万能混練機、ニーダーなどの混合手段によって均一に混練して調製することができる。なお、(A)成分として固体ないし半固体の樹脂状物を、取扱いを容易にするために、トルエン、キシレンなどの炭化水素溶液として配合することがある。その場合、(A)成分を、(B)成分を含む上記の溶液と混合し、ついで減圧加熱により溶媒を留去して、(A)成分と(B)成分の溶液として、組成物の調製に供することができる。また、安定に長期間貯蔵するために、(B)成分と(C)成分を別途の容器に保存し、たとえば(A)成分の一部および(C)成分を含む予備混合物と、(A)成分の残部および(B)成分を含む予備混合物を、それぞれ別の容器に保存しておき、使用直前に混合し、減圧で脱泡して使用に供してもよい。
【0035】
本発明のポリオルガノシロキサン組成物を、使用すべき部位に注入、滴下、流延、注型、容器からの押出しなどの方法により、またはトランスファー成形や射出成形による一体成形によって、LEDのような対象物と組み合わせ、室温で放置または加熱して硬化させることにより、硬化物を得ることができる。
【0036】
本発明による光学的硬化物は、通常1.45以上、好ましくは1.50以上の屈折率を示し、JIS K6253のタイプAデュロメータによる硬さが通常50以上、好ましくはタイプDデュロメータによる硬さが20以上、さらに好ましくは同25以上の硬度を有し、機械的強度があり、表面に傷がつきにくく、またゴミなどが付着しにくい。したがって、これを成形し、必要に応じてさらに加工することにより、各種の光学的用途、特に発光ダイオード用および光学レンズ用に用いることができる。
【0037】
たとえば、本発明の硬化性組成物を、LEDを搭載した基板に、LEDを封止するように、かつ気泡が残らないように、注型などの方法で送り込み、硬化させて、LEDを内包したレンズの成形品を作製することができる。また、あらかじめ各種の方法で成形したレンズをLED部品にセットし、LEDをそこに嵌め込むか、接着剤で固定することもできる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例および比較例によって、本発明をさらに詳細に説明する。これらの例において、部は重量部、組成の%は重量%を示し、粘度は23℃における粘度を示す。本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0039】
以下、シロキサン単位を、次のような記号で示す。
単位: (CH33SiO1/2
H 単位: (CH32HSiO1/2
s 単位: (CH32[CH3(C65)CH2CH2]SiO1/2
v 単位: (CH32(CH2=CH)SiO1/2
単位: −(CH3) 2SiO−
ff単位: −(C65) 2SiO−
v 単位: −(CH3)(CH2=CH)SiO−
f 単位: (C65)SiO3/2(3官能性)
単位: SiO4/2(4官能性)
【0040】
実施例および比較例にベースポリマーとして用いるA−1、および架橋剤として用いるB−1〜B−4を、下記の合成例1〜3のように調製した。
【0041】
合成例1 ベースポリマーA−1
組成式(シロキサン組成の相対モル比を)DDv12ff54f33になるような配合比で、相当するオルガノクロロシラン類のキシレン溶液を調製した。これを撹拌機、滴下装置、加熱・冷却装置および減圧装置を備えた反応容器の、撹拌中の過剰の水に滴下して共加水分解し、縮合させた。有機相に残存する塩化水素を炭酸ナトリウム溶液で中和し、ついで食塩水で3回洗浄し、静置して有機相を硫酸ナトリウムによって脱水し、ポリオルガノシロキサンの50%キシレン溶液を得た。これに水酸化カリウム100ppmを加えて、140℃に4時間加熱し、ついで中和した。さらに、室温でヘキサメチルジシラザンにより処理して、ケイ素原子に結合した残存ヒドロキシル基をM単位に転換させ、キシレンおよび低沸点分を140℃/667Pa{5mmHg}で留去して、粘度500Pa・s{50万cP}の分岐状ポリメチルビニルフェニルシロキサンA−1を調製した。A−1の組成が、シリル化反応で導入された若干のM単位を除いて相対モル比DDv12ff54f33に該当することを、29Si NMRによって確認した。
【0042】
合成例2 架橋剤B−1
トルエン520部、テトラエトキシシラン879部およびジメチルクロロシラン832部を仕込み、均一に溶解させた。これを、撹拌機、滴下装置、加熱・冷却装置および減圧装置を備えた反応容器に撹拌中の過剰の水に滴下して、副生した塩酸の溶解熱を冷却により除去しつつ、室温で共加水分解と縮合を行った。得られた有機相を、洗浄水が中性を示すまで水で洗浄し、脱水した後、トルエンと副生したテトラメチルジシロキサンを100℃/667Pa{5mmHg}で留去して、液状のポリメチルハイドロジェンシロキサンを調製した。GPCによる平均分子量は800(理論値:776)であり、これとアルカリ滴定によるSi−H結合の分析結果から、得られたシロキサンが近似的にMH84で示されるポリメチルハイドロジェンシロキサンB−1であることを確認した。
【0043】
合成例3 架橋剤B−2〜B−4
α−メチルスチレンの付加モル数を変化させて、B−1への付加を3回行った。すなわち、撹拌機、加熱装置および減圧装置を備えた反応容器に、それぞれの実験につきB−1を194部とり、トルエン194部に溶解させた。5重量%の白金を担持したアルミナ・白金触媒を3.88部加え、ついで撹拌しながらα−メチルスチレン44.2部(B−2)、88.5部(B−2)または147.5部(B−4)を加えた。容器の内容を100℃に加熱し、系から試料を採取してガスクロマトグラフィーによりα−メチルスチレンのピークの消失を確認するまで、反応を続けた。ついで触媒をろ別し、トルエンを100℃/667Pa{5mmHg}で留去して、付加生成物を得た。アルカリ滴定によるSi−H結合の分析結果、および1H NMRによるベンゼン環の定量の結果から、付加反応は定量的に進行し、MH841モルに対して1.5モル(B−2),3モル(B−3)および5モル(B−4)のα−メチルスチレンが付加し、生成物は、所望量のMs単位を含む(MH/MS84で示されるアルケニル基含有ポリオルガノハイドロジェンシロキサンであることを確認した。
【0044】
実施例および比較例に、触媒として、下記の白金−ビニルシロキサン錯体を用いた。
C−1:塩化白金酸をDv4で示される環状シロキサンと加熱して調製され、白金含有量が2重量%である錯体。
また、硬化遅延剤として、1−エチニル−1−シクロヘキサノールを用いた。組成表では、ECHと略記する。
【0045】
実施例1〜4、比較例1,2
万能混練機を用いて、表1に示す配合比で、(A)ベースポリマーの一部および(C)触媒からなる主剤部、ならびに(A)ベースポリマーの残部、(B)架橋剤および硬化遅延剤を含む硬化剤部を、それぞれ調製した。なお、主剤部と硬化剤部がほぼ重量比で1:1になるように、(A)ベースポリマーの配分を行った。主剤部と硬化剤部を混合し、脱泡して、厚さ6mmのシート状に注型し、150℃のオーブン中で1時間加熱して硬化させ、無色透明で、若干の伸びを有する樹脂状の硬化物が得られた。
【0046】
未硬化の状態と硬化物との評価を、次のようにして行った。
(1)相溶性: 硬化剤部を調製後、23℃に72時間放置して、その間に分離せずに
安定な系を保つかどうかを観察した。
(2)屈折率: 組成物の23℃における屈折率を、ATAGO社のアッベ屈折計によって測定した。
(3)硬さ:シートを23℃で24時間放置した後、JIS K6253により、タイプAデュロメータおよびタイプDデュロメータによって硬さを測定した。
その結果は、表1に示すとおりであった。
【0047】
【表1】

【0048】
(B)成分として(2)アラルキル基非含有オルガノハイドロジェンシロキサンのみを用い、(1)アラルキル基含有オルガノハイドロジェンシロキサンを用いなかった比較例1の組成物は、うち硬化剤部を調製して1時間以内に、(A)成分と(B)成分の分離を生じ、良好な硬化物を得るに至らなかった。また、(B)成分中のアラルキル基の含有量が少ない比較例2の組成物の硬化剤部も、状態の安定性が充分ではなかった。それに対して、本発明による硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、硬化剤部が安定に均一性を保ち、優れた硬さと透明性を有する硬化物を与えた。そのうち、(B)成分として(1)のみを用いた実施例1の組成物よりも、少量の(1)と多量の(2)を併用した実施例(2)〜(4)の組成物の方が、より硬い硬化物を与えた。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の硬化性ポリオルガノシロキサン組成物およびその硬化物は、特に硬化物の高い屈折率および硬さを生かして、透明性とともに耐熱性と耐衝撃性を必要とする各種の光学的レンズとして有用である。また、LEDの封止、保護、レンズなどに有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)平均単位式:
(CSiO(4-a-b-c)/2
(式中、
は、基中に不飽和炭素−炭素結合を含まない非置換または置換の1価の脂肪族炭化水素基を表し;
は、アルケニル基を表し;
aは、a,b,cの合計に対して25〜95%であり;b+cは、a,b,cの合計に対して5〜75%で、そのうちcは、a,b,cの合計に対して10%以下であり;a,b,cの合計が、Si原子1個当たり1.0〜1.9個の範囲である)
で示され、1分子当たり平均3個以上のRを有するフェニル基含有ポリオルガノシロキサン;
(B)(1)分子中にSiO4/2単位およびR(CHSiO1/2単位
(式中、Rは、2−フェニルエチル、2−フェニルプロピルおよび3−フェニルプロピルからなる群より選ばれるアラルキル基、水素原子またはメチル基を表す)
を含み、場合によってはSiO4/2単位1個に対して10個までのR(CH)SiO単位を含んでもよく、Rのうちアラルキル基を分子中に少なくとも1個、およびケイ素原子に直接結合した水素原子を分子中に少なくとも1個有するアラルキル基含有ポリオルガノハイドロジェンシロキサン;および必要に応じて
(2)分子中にSiO4/2単位およびR(CHSiO1/2単位
(式中、Rは、水素原子またはアルキル基を表す)
を含み、場合によってはSiO4/2単位1個に対して10個までのR(CH)SiO単位を含んでもよく、ケイ素原子に直接結合した水素原子を分子中に少なくとも1個有するポリアルキルハイドロジェンシロキサン
からなり、ケイ素原子に直接結合した水素原子を(B)1分子当たり平均3個以上有するポリオルガノハイドロジェンシロキサン、
(B)として、(A)に存在するR1個に対するケイ素原子に結合した水素原子の数が0.5〜1.5個になる量であり、そのうち(1)の量が、そのアラルキル基が(B)を構成する全シロキサン単位に対して0.03〜0.33個になる量;ならびに
(C)白金族金属化合物 白金系金属原子を、(A)に対して0.1〜1,000重量ppm含有する量
を含む、高い屈折率の硬化物を与えるポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項2】
が、メチル基である、請求項1記載のポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項3】
が、ビニル基である、請求項1または2記載のポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項4】
のうちアラルキル基が、2−フェニルプロピルである、請求項1〜3のいずれか一項記載のポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項5】
のうちアルキル基が、メチル基である、請求項1〜4のいずれか一項記載のポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項6】
(B)が、SiO4/2単位ならびにR(CHSiO1/2単位および必要に応じてR(CHSiO1/2単位からなる、請求項1〜5のいずれか一項記載のポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項7】
(C)が、白金−ビニルシロキサン錯体である、請求項1〜6のいずれか一項記載のポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項記載のポリオルガノシロキサン組成物を、硬化させて得られる硬化物。
【請求項9】
屈折率が1.45以上である、請求項8記載の硬化物。
【請求項10】
JIS A6253のタイプAデュロメータによる硬さが50以上である、請求項8または9記載の硬化物。
【請求項11】
光学レンズ用である、請求項8〜10のいずれか一項記載の硬化物。
【請求項12】
発光ダイオード用である、請求項8〜11のいずれか一項記載の硬化物。

【公開番号】特開2006−335845(P2006−335845A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−161213(P2005−161213)
【出願日】平成17年6月1日(2005.6.1)
【出願人】(000221111)ジーイー東芝シリコーン株式会社 (257)
【Fターム(参考)】