説明

高い接着性を有するポリイミドフィルムおよびその製造方法

【課題】 本発明は、前駆体溶液の高い貯蔵安定性を有し、かつ高価な表面処理なしで高い接着性を発現する非熱可塑性ポリイミドフィルムを提供することにある。
【解決手段】
ポリイミドの構造を規定し、かつその平均複屈折率を特定の値以下に抑えるようにポリイミドフィルムを設計することにより、前駆体溶液の高い貯蔵安定性、高い接着性、特にはポリイミド系接着剤との高い密着性が発現する。特には接着性向上の為の表面処理を施さなくとも高い接着性を発現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前駆体溶液の高い貯蔵安定性を有し、接着剤との高い密着性、特には熱可塑性ポリイミドとの高い密着性を示し、2層CCLに好適に使用することができる非熱可塑性ポリイミドフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロニクス製品の軽量化、小型化、高密度化にともない、各種プリント基板の需要が伸びているが、中でも、フレキシブル積層板(フレキシブルプリント配線板(FPC)等とも称する)の需要が特に伸びている。フレキシブル積層板は、絶縁性フィルム上に金属箔からなる回路が形成された構造を有している。
【0003】
上記フレキシブル積層板は、一般に、各種絶縁材料により形成され、柔軟性を有する絶縁性フィルムを基板とし、この基板の表面に、各種接着材料を介して金属箔を加熱・圧着することにより貼りあわせる方法により製造される。上記絶縁性フィルムとしては、ポリイミドフィルム等が好ましく用いられている。上記接着材料としては、エポキシ系、アクリル系等の熱硬化性接着剤が一般的に用いられている(これら熱硬化性接着剤を用いたFPCを以下、三層FPCともいう)。
【0004】
熱硬化性接着剤は比較的低温での接着が可能であるという利点がある。しかし今後、耐熱性、屈曲性、電気的信頼性といった要求特性が厳しくなるに従い、熱硬化性接着剤を用いた三層FPCでは対応が困難になると考えられる。これに対し、絶縁性フィルムに直接金属層を設けたり、接着層に熱可塑性ポリイミドを使用したFPC(以下、二層FPCともいう)が提案されている。この二層FPCは、三層FPCより優れた特性を有し、今後需要が伸びていくことが期待される。
【0005】
しかしながら一般にポリイミドフィルムは熱可塑性ポリイミドとの接着性が低く、高い接着性を得るためにはプラズマ処理やコロナ処理などの表面粗化処理やカップリング剤や特定の金属成分を含有させるなどの処理が必要であり、コストが高くなったり、フィルムの特性が低下したりするという問題を有している。(特許文献1〜3)
また、近年熱的寸法安定性、吸水特性、機械特性の改善が望まれているが、例えばパラフェニレンジアミンとピロメリット酸二無水物により剛直な非熱可塑性ポリイミドのブロック成分を含有させることによりこれら特性を達成しているが、これらはポリイミド前駆体溶液の貯蔵安定性が悪く、分子量制御などを行って貯蔵安定性を改善しない限り安定的に工業生産することは困難であった。(特許文献4、5)
一方、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、フェニレンジアミン、ビスアミノフェノキシフェニルプロパンからなる4成分共重合ポリアミド酸から製造されたポリイミドフィルムが開示されている。(特許文献5)しかし、ここで用いられているポリイミドフィルムは、TAB用テープに好適なフィルムの諸特性をバランスさせることを目的としており、さらに複屈折率を規定することにより、接着剤を介して金属箔と積層した場合の密着性をも改善できることについては、一切言及されていない。また、本発明の非熱可塑性ポリイミドフィルムであって、かつ、複屈折率が0.14よりも大きいフィルムとは異なるフィルムである。
【特許文献1】特開平5−222219号公報
【特許文献2】特開平6−32926号公報
【特許文献3】特開平11−158276号公報
【特許文献4】特開2000−80178号公報
【特許文献5】特開2000−119521号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、接着剤との密着性、特にはポリイミド系接着剤との密着性を有するポリイミドフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題に鑑み鋭意検討した結果、ポリイミドの構造を規定し、かつその平均複屈折率を特定の値以下に抑えるようにポリイミドフィルムを設計することにより、接着剤との密着性、特にはポリイミド系接着剤との高い密着性を有するポリイミドフィルムが得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち本発明は、ジアミン成分として2,2−ビスアミノフェノキシフェニルプロパンおよびパラフェニレンジアミン、酸二無水物成分としてピロメリット酸二無水物および3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を必須成分として含むポリイミドフィルムであって、弾性率が5〜10GPa、100〜200℃における平均線膨張係数が5〜15ppm、平均複屈折率が0.14未満であることを特徴とするポリイミドフィルムに関する。
【0009】
また本発明は、平均複屈折率が0.13未満であることを特徴とする前記ポリイミドフィルムに関する。
【0010】
またさらに本発明はジアミン成分としてオキシジアニリンを含むことを特徴とする前記ポリイミドフィルムに関する。
【0011】
さらに本発明はジアミン成分を基準として10〜50mol%の2,2−ビスアミノフェノキシフェニルプロパン、30〜60mol%のパラフェニレンジアミン、10〜30mol%のオキシジアニリンを用いることを特徴とする前記ポリイミドフィルムに関する。
【0012】
さらに本発明はオキシジアニリンが4,4’−オキシジアニリンであることを特徴とする前記ポリイミドフィルムに関する。
【0013】
さらに本発明は酸二無水物成分を基準として60〜95mol%のピロメリット酸二無水物、5〜40mol%の3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を用いることを特徴とする前記ポリイミドフィルムに関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明により得られたポリイミドフィルムは、例えばフレキシブル金属張積層板を製造した場合の、金属箔とポリイミドフィルムとの接着性を改善することができる。
具体的には、高い密着性を実現することにより高密度実装に伴う配線パターンの微細化に対応することができる。また特に、接着剤として熱可塑性ポリイミドを用いた場合の低い密着性を改善できるため、半田の無鉛化に伴うリフロー温度の上昇にも対応することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のポリイミドフィルムは、組成とフィルムの平均複屈折率を規定し、かつ非熱可塑性とすることによって、その組成例えば金属箔とポリイミドフィルムを接着剤を介して張り合わせた場合の密着性が優れたものとなっている。本発明の実施の一形態について、以下に説明する。
【0016】
(ポリイミドフィルムの組成)
本発明においては、ポリイミドフィルムの組成が規定されている。ポリイミドフィルムを製造する際に用いられるモノマーについて説明する。
ジアミン成分は、本発明においては、2,2-ビスアミノフェノキシフェニルプロパン、パラフェニレンジアミンを必須成分として用いることによって優れた密着性を発現させることができる。一般的な傾向としてパラフェニレンジアミン使用量を大きくすると、後述する弾性率が上昇・線膨張係数が低下・複屈折率が上昇し、2,2-ビスアミノフェノキシフェニルプロパンの使用量を大きくすると弾性率が低下・線膨張係数が上昇・複屈折率が低下・吸水率が低下・接着性が向上する。ここに、さらにオキシジアニリンを併用するとさらに接着性が向上する傾向にあるため、オキシジアニリンをも用いることが好ましい。この場合、線膨張係数、複屈折率のバランスのとりやすさという観点からジアミン成分を基準として10〜50mol%の2,2−ビスアミノフェノキシフェニルプロパン、30〜60mol%のパラフェニレンジアミン、10〜30mol%のオキシジアニリンを用いることが好ましい。
【0017】
オキシジアニリンとしては4,4’−オキシジアニリン、3,4’−オキシジアニリン、3,3’−オキシジアニリン、2,4’−オキシジアニリンなどがあるが、これらの中で4,4’−オキシジアニリンを用いると、上記課題が解決しやすい傾向にあるため好ましい。
【0018】
酸成分としてはピロメリット酸二無水物および3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を必須成分として用いることで優れた密着性を発現させることができる。。これらの好ましい使用割合はピロメリット酸二無水物が60〜95mol%、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が5〜40mol%である。これら酸二無水物の使用割合がこの範囲を外れると接着強度が低下したり、線膨張係数が大きくなりすぎたりする傾向にある。
【0019】
(平均複屈折率)
本発明のポリイミドフィルムは、平均複屈折率が0.14未満であることが重要である。これにより、優れた密着性を発現させることができる。平均複屈折率がこの範囲を上回ると接着強度が小さくなる、もしくはプレッシャークッカー後の接着強度が極端に小さくなってしまい、高い信頼性を要求される2層CCL用途に適さなくなる。従って、上記組成を用い、平均複屈折率が0.14未満となるようにポリイミドフィルムの設計をすればよい。本発明の平均複屈折率は、2×2cmに切り出したフィルム片をクロスニコル下で偏光顕微鏡により消光角を決定し、直行する2方向の複屈折率の平均値(すなわち複屈折率の最大値と最小値の平均値)として求めることができる。なお、本発明で言う複屈折率とは膜面内の方向の屈折率と厚み方向の屈折率の差である。より高い密着性を発現するという点から、平均複屈折率が0.13未満であることが好ましい。
【0020】
(ポリイミドフィルムの物性)
本発明のポリイミドフィルムは、組成・複屈折率の規定に加えて、非熱可塑性であることが重要である。非熱可塑性であるとは、フィルムを450〜500℃程度に加熱した際に熔融し、フィルムの形状を保持しているものを指す。従って、上記組成を用い、非熱可塑性となるようにポリイミドフィルムの設計をすればよい。
【0021】
さらに、本発明のポリイミドフィルムは、その弾性率が、5〜10GPaであることが好ましく、さらには6〜9GPaが好ましい。弾性率がこの範囲を下回ると2層CCLに適用した場合に寸法安定性が悪くなる傾向にあり、この範囲を上回るとフィルムの可撓性が悪くなりCCLの屈曲特性が低下する傾向にある。
【0022】
また本発明のポリイミドフィルムの平均線膨張係数は5〜15ppm、特には7〜13ppmが好ましい。平均線膨張係数の値がこの範囲を外れると、2層CCLにした場合の寸法安定性が悪くなる傾向にある。
【0023】
(ポリイミドフィルムの製造)
本発明に用いられるポリイミドフィルムはポリアミド酸を前駆体として用いて製造される。ポリアミド酸の製造方法としては公知のあらゆる方法を用いることができ、通常、芳香族酸二無水物と芳香族ジアミンを、実質的等モル量を有機溶媒中に溶解させて、得られたポリアミド酸有機溶媒溶液を、制御された温度条件下で、上記酸二無水物とジアミンの重合が完了するまで攪拌することによって製造される。これらのポリアミド酸溶液は通常5〜35wt%、好ましくは10〜30wt%の濃度で得られる。この範囲の濃度である場合に適当な分子量と溶液粘度を得る。
【0024】
重合方法としてはあらゆる公知の方法およびそれらを組み合わせた方法を用いることができる。ポリアミド酸の重合における重合方法の特徴はそのモノマーの添加順序にあり、このモノマー添加順序を制御することにより得られるポリイミドの諸物性を制御することができる。従い、本発明においてポリアミド酸の重合にはいかなるモノマーの添加方法を用いても良い。代表的な重合方法として次のような方法が挙げられる。すなわち、
1)芳香族ジアミンを有機極性溶媒中に溶解し、これと実質的に等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物を反応させて重合する方法。
2)芳香族テトラカルボン酸二無水物とこれに対し過小モル量の芳香族ジアミン化合物とを有機極性溶媒中で反応させ、両末端に酸無水物基を有するプレポリマーを得る。続いて、全工程において芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物が実質的に等モルとなるように芳香族ジアミン化合物を用いて重合させる方法。
3)芳香族テトラカルボン酸二無水物とこれに対し過剰モル量の芳香族ジアミン化合物とを有機極性溶媒中で反応させ、両末端にアミノ基を有するプレポリマーを得る。続いてここに芳香族ジアミン化合物を追加添加後、全工程において芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物が実質的に等モルとなるように芳香族テトラカルボン酸二無水物を用いて重合する方法。
4)芳香族テトラカルボン酸二無水物を有機極性溶媒中に溶解及び/または分散させた後、実質的に等モルとなるように芳香族ジアミン化合物を用いて重合させる方法。
5)実質的に等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンの混合物を有機極性溶媒中で反応させて重合する方法。
などのような方法である。これら方法を単独で用いても良いし、部分的に組み合わせて用いることもできる。
【0025】
これらポリアミック酸溶液からポリイミドフィルムを製造する方法については従来公知の方法を用いることができる。この方法には熱イミド化法と化学イミド化法が挙げられ、どちらの方法を用いてフィルムを製造してもかまわないが、化学イミド化法によるイミド化の方が本発明に好適に用いられる諸特性を有したポリイミドフィルムを得やすい傾向にある。
【0026】
また、本発明において特に好ましいポリイミドフィルムの製造工程は、
a) 有機溶剤中で芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸二無水物を反応させてポリアミック酸溶液を得る工程、
b)上記ポリアミック酸溶液を含む製膜ドープを支持体上に流延する工程、
c)支持体上で加熱した後、支持体からゲルフィルムを引き剥がす工程、
d)更に加熱して、残ったアミック酸をイミド化し、かつ乾燥させる工程、
を含むことが好ましい。
【0027】
上記工程において無水酢酸等の酸無水物に代表される脱水剤と、イソキノリン、β−ピコリン、ピリジン等の第三級アミン類等に代表されるイミド化触媒とを含む硬化剤を用いても良い。
【0028】
以下本発明の好ましい一形態、化学イミド法を一例にとり、ポリイミドフィルムの製造工程を説明する。ただし、本発明は以下の例により限定されるものではなく、製膜条件や加熱条件は、ポリアミド酸の種類、フィルムの厚さ等により、変動し得る。
【0029】
例えば、脱水剤及びイミド化触媒を低温でポリアミド酸溶液中に混合して製膜ドープを得る。引き続いてこの製膜ドープをガラス板、アルミ箔、エンドレスステンレスベルト、ステンレスドラムなどの支持体上にフィルム状にキャストし、支持体上で80℃〜200℃、好ましくは100℃〜180℃の温度領域で加熱することで脱水剤及びイミド化触媒を活性化することによって部分的に硬化及び/または乾燥した後、支持体から剥離してポリアミック酸フィルム(以下、ゲルフィルムという)を得る。
ゲルフィルムは、ポリアミド酸からポリイミドへの硬化の中間段階にあり、自己支持性を有し、式(1)
(A−B)×100/B・・・・(1)
式(1)中
A,Bは以下のものを表す。
A:ゲルフィルムの重量
B:ゲルフィルムを450℃で20分間加熱した後の重量
から算出される揮発分含量は5〜500重量%の範囲、好ましくは5〜200重量%、より好ましくは5〜150重量%の範囲にある。この範囲のフィルムを用いることが好適であり、焼成過程でフィルム破断、乾燥ムラによるフィルムの色調ムラ、特性ばらつき等の不具合が起こることがある。
脱水剤の好ましい量は、ポリアミド酸中のアミド酸ユニット1モルに対して、0.5〜5モル、好ましくは1.0〜4モルである。
また、イミド化触媒の好ましい量はポリアミド酸中のアミド酸ユニット1モルに対して、0.05〜3モル、好ましくは0.2〜2モルである。
脱水剤及びイミド化触媒が上記範囲を下回ると化学的イミド化が不十分で、焼成途中で破断したり、機械的強度が低下したりすることがある。また、これらの量が上記範囲を上回ると、イミド化の進行が早くなりすぎ、フィルム状にキャストすることが困難となることがあるため好ましくない。
【0030】
前記ゲルフィルムの端部を固定して硬化時の収縮を回避して乾燥し、水、残留溶媒、残存転化剤及び触媒を除去し、そして残ったアミド酸を完全にイミド化して、本発明のポリイミドフィルムが得られる。
【0031】
この時、最終的に400〜650℃の温度で5〜400秒加熱するのが好ましい。この温度より高い及び/または時間が長いと、フィルムの熱劣化が起こり問題が生じることがある。逆にこの温度より低い及び/または時間が短いと所定の効果が発現しないことがある。
【0032】
また、フィルム中に残留している内部応力を緩和させるためにフィルムを搬送するに必要最低限の張力下において加熱処理をすることもできる。この加熱処理はフィルム製造工程において行ってもよいし、また、別途この工程を設けても良い。加熱条件はフィルムの特性や用いる装置に応じて変動するため一概に決定することはできないが、一般的には200℃以上500℃以下、好ましくは250℃以上500℃以下、特に好ましくは300℃以上450℃以下の温度で、1〜300秒、好ましくは2〜250秒、特に好ましくは5〜200秒程度の熱処理により内部応力を緩和することができる。
【0033】
また、ゲルフィルムの固定前後でフィルムを延伸することもできる。この時、このましい揮発分含有量は100〜500重量%、好ましくは150〜500重量%である。揮発分含有量がこの範囲を下回ると延伸しにくくなる傾向にあり、この範囲を上回るとフィルムの自己支持性が悪く、延伸操作そのものが困難になる傾向にある。
【0034】
延伸は、差動ロールを用いる方法、テンターの固定間隔を広げていく方法等公知のいかなる方法を用いてもよい。
【0035】
またさらに本発明のポリイミドフィルムの平均複屈折率は、0.14以下、好ましくは0.13以下である。本発明においてポリイミドフィルムの平均複屈折率を制御する方法としてはいかなる方法を用いてもよいが、例えば以下のような方法により複屈折率を制御することが可能である。
1)用いるモノマーの配合比を種々変更する(パラフェニレンジジアミンを多く2,2-ビス(アミノフェノキシフェニル)プロパンを少なく)すると大きくなり、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を増やすと小さくなる傾向にある)
2)重合時にモノマーの添加順序を変更する(パラフェニレンジアミンとピロメリット酸二無水物が選択的に反応するような添加順序を選ぶと大きくなり、2,2-ビス(アミノフェノキシフェニル)プロパンと3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が選択的に反応するような添加順序を選ぶと小さくなる傾向にある)
3)製膜条件を変更する(揮発分含有量を低くし、加熱工程の第一段階目の温度を低く設定すると小さくなる傾向にある)
4)脱水剤、イミド化触媒の量を種々変更する(脱水剤及び/又はイミド化触媒の量を少なくすると小さくなる傾向にある)
5)製膜時に延伸操作を行う(延伸倍率を大きくすると大きくなり、逆に収縮するような操作をすると小さくなる傾向にある)
6)上記の方法を適宜組み合わせる
ポリイミド前駆体(以下ポリアミド酸という)を合成するための好ましい溶媒は、ポリアミド酸を溶解する溶媒であればいかなるものも用いることができるが、アミド系溶媒すなわちN,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどであり、N,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドが特に好ましく用い得る。
【0036】
また、摺動性、熱伝導性、導電性、耐コロナ性、ループスティフネス等のフィルムの諸特性を改善する目的でフィラーを添加することもできる。フィラーとしてはいかなるものを用いても良いが、好ましい例としてはシリカ、酸化チタン、アルミナ、窒化珪素、窒化ホウ素、リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、雲母などが挙げられる。
【0037】
フィラーの粒子径は改質すべきフィルム特性と添加するフィラーの種類によって決定されるため、特に限定されるものではないが、一般的には平均粒径が0.05〜100μm、好ましくは0.1〜75μm、更に好ましくは0.1〜50μm、特に好ましくは0.1〜25μmである。粒子径がこの範囲を下回ると改質効果が現れにくくなり、この範囲を上回ると表面性を大きく損なったり、機械的特性が大きく低下したりする可能性がある。また、フィラーの添加部数についても改質すべきフィルム特性やフィラー粒子径などにより決定されるため特に限定されるものではない。一般的にフィラーの添加量はポリイミド100重量部に対して0.01〜100重量部、好ましくは0.01〜90重量部、更に好ましくは0.02〜80重量部である。フィラー添加量がこの範囲を下回るとフィラーによる改質効果が現れにくく、この範囲を上回るとフィルムの機械的特性が大きく損なわれる可能性がある。フィラーの添加は、
1.重合前または途中に重合反応液に添加する方法
2.重合完了後、3本ロールなどを用いてフィラーを混錬する方法
3.フィラーを含む分散液を用意し、これをポリアミド酸有機溶媒溶液に混合する方法
などいかなる方法を用いてもよいが、フィラーを含む分散液をポリアミド酸溶液に混合する方法、特に製膜直前に混合する方法が製造ラインのフィラーによる汚染が最も少なくすむため、好ましい。フィラーを含む分散液を用意する場合、ポリアミド酸の重合溶媒と同じ溶媒を用いるのが好ましい。また、フィラーを良好に分散させ、また分散状態を安定化させるために分散剤、増粘剤等をフィルム物性に影響を及ぼさない範囲内で用いることもできる。
【0038】
以上のようにして得られた本発明のポリイミドフィルムは、例えば接着剤を介して金属箔を積層した場合の常態における密着性に優れるだけでなく、PCT試験後の密着性も優れたものとなっている。特に、ポリイミド系接着材との密着性を良好なものとすることができるが、本発明のポリイミドフィルムは、ポリイミド系接着剤以外の接着剤も使用することができ、また、金属を直接設けて用いてもよい。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0040】
なお、合成例、実施例及び比較例における平均複屈折率、弾性率、線膨張係数、接着性評価法は次の通りである。
(平均複屈折率)
2×2cmに切り出したフィルム片をクロスニコル下で偏光顕微鏡(日本光学社製OPTIPHOT・POL)により消光角を決定し、直行する2方向の複屈折率の平均値(すなわち複屈折率の最大値と最小値の平均値)として求めた。なお、本発明で言う複屈折率とは膜面内の方向の屈折率と厚み方向の屈折率の差である。
【0041】
複屈折率の測定は偏光板付接眼鏡を備えた屈折計(株式会社アタゴ製、4T型)を用いてNaランプを光源として測定した。
(接着性評価)
前処理としてポリイミドフィルムをコロナ密度200W・min/m2で表面処理した。
【0042】
参考例1で得られたポリアミド酸溶液を固形分濃度10重量%になるまでDMFで希釈した後、表面処理したポリイミドフィルムの両面に、熱可塑性ポリイミド層(接着層)の最終片面厚みが4μmとなるようにポリアミド酸を塗布した後、140℃で1分間加熱を行った。続いて、雰囲気温度390℃の遠赤外線ヒーター炉の中を20秒間通して加熱イミド化を行って、耐熱性接着フィルムを得た。得られた接着フィルムの両側に18μm圧延銅箔(BHY−22B−T,ジャパンエナジー社製)を、さらに銅箔の両側に保護材料(アピカル125NPI;鐘淵化学工業株式会社製)を用いて、ラミネート温度360℃、ラミネート圧力196N/cm(20kgf/cm)、ラミネート速度1.5m/分の条件で熱ラミネートを行い、FCCLを作製した。このFCCLからJIS C6471の「6.5 引きはがし強さ」に従って、サンプルを作製し、5mm幅の金属箔部分を、180度の剥離角度、50mm/分の条件で剥離し、その荷重を測定した。
プレッシャークッカーテスト(PCT)は121℃ 100%RHで96時間処理した後の接着強度を測定した。
(弾性率)
弾性率の測定はASTM D882に準じて行った。
(線膨張係数)
50〜200℃の線膨張係数の測定は、セイコー電子(株)社製TMA120Cを用いて(サンプルサイズ 幅3mm、長さ10mm)、荷重3gで10℃/minで10℃〜400℃まで一旦昇温させた後、10℃まで冷却し、さらに10℃/minで昇温させて、2回目の昇温時の50℃及び200℃における熱膨張率から平均値として計算した。
(可塑性の判定)
可塑性の判定は、得られたフィルム20×20cmを正方形のSUS製枠(外径20×20cm、内径18×18cm)に固定し、450℃3分間熱処理して判定し、形態を保持しているものを非熱可塑性、シワが入ったり、のびたりしたものを熱可塑性とした。
(参考例1;熱可塑性ポリイミド前駆体の合成)
容量2000mlのガラス製フラスコにDMFを780g、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン(BAPP)を115.6g加え、窒素雰囲気下で攪拌しながら、3,3’4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)を78.7g徐々に添加した。続いて、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(TMEG)を3.8g添加し、氷浴下で30分間撹拌した。2.0gのTMEGを20gのDMFに溶解させた溶液を別途調製し、これを上記反応溶液に、粘度に注意しながら徐々に添加、撹拌を行った。粘度が3000poiseに達したところで添加、撹拌をやめ、ポリアミド酸溶液を得た。
このポリアミド酸溶液を25μmPETフィルム(セラピールHP,東洋メタライジング社製)上に最終厚みが20μmとなるように流延し、120℃で5分間乾燥を行った。乾燥後の自己支持性フィルムをPETから剥離した後、金属製のピン枠に固定し、150℃で5分間、200℃で5分間、250℃で5分間、350℃で5分間乾燥を行い、単層シートを得た。この熱可塑性ポリイミドのガラス転移温度は240℃であった。
【0043】
(実施例1、2)
10℃に冷却したN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)に2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン(BAPP)および4,4’−オキシジアニリン(4,4’ODA)を溶解した。ここに3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)を添加して溶解させた後、ピロメリット酸二無水物(PMDA)を添加して30分攪拌し、プレポリマーを形成した。各モノマーの配合比は表1に示すとおりである。
この溶液にp−フェニレンジアミン(p−PDA)を溶解した後、PMDAを添加し1時間撹拌して溶解させた。さらにこの溶液に別途調製してあったPMDAのDMF溶液(PMDA1.85g/DMF24.6g)を注意深く添加し、粘度が3000ポイズ程度に達したところで添加を止めた。1時間撹拌を行って固形分濃度約19重量%、23℃での回転粘度が3400ポイズのポリアミド酸溶液を得た。
このポリアミック酸溶液100gに、無水酢酸/イソキノリン/DMF(重量比18.90/7.17/18.93)からなる硬化剤を50g添加して0℃以下の温度で攪拌・脱泡し、コンマコーターを用いてアルミ箔上に流延塗布した。この樹脂膜を130℃×100秒で加熱した後アルミ箔から自己支持性のゲル膜を引き剥がして(揮発分含量45重量%)金属枠に固定し、300℃×20秒、450℃×20秒、500℃×20秒で乾燥・イミド化させて厚み18μmのポリイミドフィルムを得た。得られたフィルム特性および接着特性を表1に示す。
【0044】
(比較例1)
10℃に冷却したDMFにp−PDAを溶解した後PMDAを添加して1時間攪拌、溶解した。ここにBAPPを添加・溶解した後PMDAを添加して固形分濃度が約19重量%のポリアミド酸溶液を得た。この溶液を用いて実施例1と同様にして厚み18μmのポリイミドフィルムを得た。得られたフィルム特性および接着特性を表1に示す。
【0045】
(比較例2)
特開2000−119521号公報の実施例1にしたがってフィルムを作成、評価した。
すなわち、500ccのガラス製フラスコに、DMAc150mlを入れた後、p−PDAを溶解させ、続いてBAPP、BPDA及びPMDAを順次添加し、室温で約1時間攪拌した。引き続きジアミン成分に対して0.5モル%の無水フタル酸を添加し更に約1時間攪拌してモル比がp−PDA/BAPP/BPDA/PMDA=70/30/30/70のポリアミド酸濃度20重量%の溶液を得た。この共重合ポリアミド酸溶液60gを、25.4mlのDMAc、7.2mlの無水酢酸及び7.2mlのβ−ピコリンを添加して0℃以下の温度で攪拌・脱泡し、コンマコーターを用いてガラス板上に流延塗布した。このガラス板を150℃に加熱したホットプレート上で約4分間加熱して、自己支持性のゲル膜を形成し、これをガラス板から剥離した。このゲル膜(揮発分含量30重量%)を金属枠に固定し、250℃から330℃に昇温しながら30分間、その後400℃で約5分間加熱し、厚さ約25μmのポリイミドフィルムを得た。得られたフィルム特性および接着特性を表1に示す。
【0046】
(比較例3)
特開2000−119521号公報の実施例2にしたがってフィルムを作成、評価した。
すなわち、500ccのガラス製フラスコに、DMAc150mlを入れた後、p−PDAを溶解させ、続いてPMDAを添加し、室温で約1時間攪拌した。この溶液にBAPPを添加して完全に溶解させた後、さらにBPDAを添加し、室温で約1時間攪拌した。引き続きジアミン成分に対して0.25モル%の無水酢酸を添加し更に約1時間攪拌して、モル比がp−PDA/BAPP/BPDA/PMDA=50/50/50/50のポリアミド酸濃度20重量%の溶液を得た。この溶液を用いて比較例3と同様にして厚さ約25μmのポリイミドフィルムを得た。得られたフィルム特性を表1に示す。
【0047】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
2,2−ビスアミノフェノキシフェニルプロパンおよびパラフェニレンジアミンを必須成分とするジアミン、ピロメリット酸二無水物および3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を必須成分とする酸二無水物成分を原料とする非熱可塑性ポリイミドフィルムであって、平均複屈折率が0.14未満であることを特徴とするポリイミドフィルム。
【請求項2】
弾性率が5〜10GPa、100〜200℃における平均線膨張係数が5〜15ppmとなっていることを特徴とする請求項1記載のポリイミドフィルム
【請求項3】
平均複屈折率が0.13未満であることを特徴とする請求項1または2記載のポリイミドフィルム。
【請求項4】
ジアミン成分としてオキシジアニリンを含むことを特徴とする請求項1〜3記載のポリイミドフィルム。
【請求項5】
ジアミン成分を基準として10〜50mol%の2,2−ビスアミノフェノキシフェニルプロパン、30〜60mol%のパラフェニレンジアミン、10〜30mol%のオキシジアニリンを用いることを特徴とする請求項1〜3記載のポリイミドフィルム。
【請求項6】
オキシジアニリンが4,4’−オキシジアニリンであることを特徴とする請求項3〜4記載のポリイミドフィルム。
【請求項7】
酸二無水物成分を基準として60〜95mol%のピロメリット酸二無水物、5〜40mol%の3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を用いることを特徴とする請求項1〜6記載のポリイミドフィルム。

【公開番号】特開2006−96919(P2006−96919A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−286372(P2004−286372)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】