説明

高い耐熱性を有する水酸化マグネシウム系難燃剤、難燃性樹脂組成物および成型体

【解決手段】水酸化マグネシウムまたは酸化マグネシウムの水懸濁液に、水酸化リチウムまたは水酸化ナトリウムを、水酸化マグネシウム換算の固形分100mass%に対して100〜500mass%添加して湿式粉砕し、180〜230℃で水熱処理し、得られた水酸化マグネシウムを硬化油、脂肪酸エステル、シランカップリング剤、脂肪酸アマイドなどの表面処理剤で処理する。
【効果】[101]/[001]ピーク強度比が0.9以上、BET比表面積が1〜4m2/g、平均粒子径が2〜5μmの性状を有する水酸化マグネシウム粒子を特定の表面処理剤で処理することによって高い耐熱性を有する水酸化マグネシウム系難燃剤を提供できる。また、ポリオレフィン系の樹脂に配合することにより、高耐熱性の樹脂組成物および成型体を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の性状を有する水酸化マグネシウム粒子を特定の表面処理剤で処理することによって高い耐熱性を有する難燃剤に関する。さらに樹脂に配合した場合、優れた耐熱劣化性および難燃性を発現する成形品に関する。特に耐熱性が要求される自動車用電線、成型部品において好適に適用できる。
【0002】
本発明は難燃性絶縁電線およびケーブル等に使用される水酸化マグネシウム難燃剤と、その製造方法、及び難燃性樹脂組成物に関するものである。さらに詳しくは、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂に該水酸化マグネシウム難燃剤を配合した場合に優れた耐熱劣化性および難燃性を提供するものである。
【背景技術】
【0003】
これまで合成樹脂の難燃化に対してハロゲン系の難燃剤やリン系の難燃剤が種々検討されてきた。しかし、ハロゲン系の難燃剤やリン系の難燃剤は作業性の問題やダイオキシンなどの環境問題がある。そこで、作業性や環境問題のない金属水酸化物難燃剤が求められている。
【0004】
金属水酸化物としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムなどがあるが、水酸化アルミニウムの分解温度が約200℃、水酸化マグネシウムの分解温度が約300℃、水酸化カルシウムが約450℃である。分解温度との関係で難燃剤として水酸化マグネシウムが良好な難燃剤とされている。
【0005】
高性能で高機能化の要求に対する電線、ケーブル、自動車用ワイヤーハーネス等の電子機器被覆については高レベルの耐熱性及び難燃性を満足する水酸化マグネシウム難燃剤が要求されるようになってきた。
【0006】
これまで、水酸化マグネシウム難燃剤の耐熱性を向上させる方法が提案されている。
平均2次粒子径と比表面積と不純物として遷移金属等を規定したものが多数ある。
特許文献1では、平均2次粒子径が2μm以下で、BET法による比表面積が20m2/g以下で、鉄化合物およびマンガン化合物の含有量が合計で、金属に換算して0.02質量%以下である、水酸化マグネシウム難燃剤。さらに、コバルト化合物、クロム化合物、銅化合物、バナジウム化合物、およびニッケル化合物が耐熱性に悪影響があると記載している。特許文献2では、平均2次粒子径が0.4〜4μmで、BET法による比表面積が1〜15m2/g、鉄化合物およびマンガン化合物の合計含有量が金属(Fe+Mn)に換算して、200ppm以下、水溶性のナトリウム塩の含有量が、ナトリウム金属換算で500ppm以下の水酸化マグネシウム難燃剤。さらに、コバルト化合物、クロム化合物、銅化合物、バナジウム化合物、およびニッケル化合物が耐熱性に悪影響があると記載している。特許文献3では、平均2次粒子径が3μm以下でBET法比表面積が20m2/g以下でFe化合物およびMn化合物の含有量の合計量が金属に換算して0.02質量%以下の水酸化マグネシウム難燃剤。さらに、コバルト化合物、クロム化合物、銅化合物、バナジウム化合物、およびニッケル化合物が耐熱性に悪影響があると記載している。特許文献4では、平均2次粒子径が10μm以下でBET法比表面積が20m2/g以下でFe化合物およびMn化合物の含有量の合計量が金属に換算して0.02質量%以下で水溶性アルカリ金属化合物の含有量の合計がアルカリ金属に換算して0.05質量%以下を満足する水酸化マグネシウム難燃剤。さらに、コバルト化合物、クロム化合物、銅化合物、バナジウム化合物、およびニッケル化合物が耐熱性に悪影響があると記載している。特許文献5では、平均2次粒子径が2μm以下で、BET法による比表面積が1〜10m2/gで、鉄化合物、マンガン化合物、コバルト化合物、クロム化合物、銅化合物、バナジウム化合物およびニッケル化合物の合計含有量が、金属に換算して0.01質量%以下である、水酸化マグネシウム難燃剤。
【特許文献1】特開平9−2277845号
【特許文献2】特開平11−181305号
【特許文献3】特開平2001−210151号
【特許文献4】特開2001−312925号
【特許文献5】特開2004−2884号
【0007】
また、水酸化マグネシウムに遷移金属等を固溶させた複合金属水酸化物が樹脂組成物の難燃性と機械的強度の向上に寄与しており、特許文献6〜9に記載されている。
特許文献6では、カルシウム、マンガン、鉄、コバルト、銅、亜鉛との固溶体で、BET比表面積1〜10m2/gで平均2次粒子径が0.5〜2.0μmの複合金属水酸化物を樹脂に配合することによって難燃性と機械的強度の改善を記載している。
特許文献7では、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅および亜鉛との固溶体である複合金属水酸化物を樹脂に配合することによって難燃性と機械的強度の改善を記載している。特許文献8では、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅および亜鉛との固溶体である複合金属水酸化物と炭素微粉末を樹脂に配合することによって難燃性と機械的強度の改善を記載している。
特許文献9では、亜鉛または亜鉛とニッケルの固溶体である複合金属水酸化物を樹脂に配合することによって高い難燃性と優れた機械的強度が得られると記載されている。
【特許文献6】特開平7−11147
【特許文献7】特開平8−73665号
【特許文献8】特開平8−199008号
【特許文献9】特開平9−100121号
【0008】
以上のように、平均2次粒子径、BET比表面積、遷移金属等の含有量を限定した 水酸化マグネシウムを樹脂に配合することで樹脂組成物の難燃性と耐熱性を確保している。また、マグネシウムに遷移金属等を固溶させた複合金属水酸化物を樹脂に配合することで樹脂組成物の難燃性と機械的強度を確保している方法がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂に配合したときに高い耐熱性と難燃性を兼ね備えたノンハロゲンタイプの難燃剤である水酸化マグネシウム系難燃剤を提供することを目的とする。特に耐熱性が要求される自動車用電線、成型部品において対応できる水酸化マグネシウム系難燃剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、X線回折での[101]/[001]ピーク強度比が0.9以上、特に0.9以上で1.1以下で、BET比表面積が1〜4m2/g、かつ平均粒子径が2〜5μmの水酸化マグネシウム粒子に、硬化油、脂肪酸エステル、シランカップリング剤、脂肪酸アマイド及び高級アルコール及びそれらの誘導体で表面処理した水酸化マグネシウム系難燃剤にある。
【0011】
前記水酸化マグネシウム粒子は、水酸化マグネシウムまたは酸化マグネシウムの水懸濁液に、水酸化リチウムもしくは水酸化ナトリウムを、水酸化マグネシウム換算の固形分100mass%に対して100mass%以上、好ましくは100〜700mass%、特に好ましくは100〜500mass%添加して湿式粉砕し、180〜230℃で水熱処理し、さら0.5〜5mass%の前記処理剤で表面処理されて得られたものである。
【0012】
水酸化マグネシウムの[101]/[001]ピーク強度比が0.9未満の場合、BET比表面積が4m2/gを超えた場合、平均粒子径が2μm未満の場合は、水酸化マグネシウム粒子に凝集が発生し、均一な表面処理が難しい。均一な表面処理ができないと部分的に処理されていない水酸化マグネシウムが樹脂の熱劣化を促進する。更に無処理の場合は、樹脂の熱劣化は顕著に現われる。水酸化マグネシウム系難燃剤を樹脂に配合した時の熱劣化については、水酸化マグネシウム本来の特性に由来するものと思われる。
【0013】
また、水酸化マグネシウムのBET比表面積が1m2/g未満の場合や平均粒子径が5μmを超えた場合は、室温状態での樹脂組成物の引張強度が低下する傾向があり、更には満足な難燃性が得られない。
【0014】
水酸化マグネシウムへの上記表面処理剤の最適な処理量としては、0.5〜5mass%であり、最適量で処理された時に耐熱性が極めて向上する。処理量が0.5mass%未満の場合は、部分的に処理されていない水酸化マグネシウムが存在し、樹脂の熱劣化を促進させる。また、処理量が5mass%を超える場合は、樹脂に配合した時に過剰の処理剤が溶出(ブリードアウト)するために樹脂組成物の特性に悪影響を及ぼす。また、該処理剤は1種類または2種類以上を組み合わせて行うことも可能である。
【0015】
前記表面処理剤としては、硬化油、脂肪酸エステル、シランカップリング剤、脂肪酸アマイド、高級アルコール及びそれらの誘導体がある。処理方法としては、前記からなる群から選ばれた少なくとも1種あるいは2種以上の処理剤で処理する。
【0016】
硬化油としては、牛脂硬化油、ヒマシ硬化油である。
【0017】
脂肪酸エステルとしては、ラウリン酸メチル、ミスチリン酸メチル、パルミチン酸メチル、ステアリン酸メチル、オレイン酸メチル、エルカ酸メチル、ベヘニン酸メチル、ラウリン酸ブチル、ステアリン酸ブチル、ミスチリン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸オクチル、ヤシ脂肪酸オクチルエステル、ステアリン酸オクチル、特殊牛脂脂肪酸オクチルエステル、ラウリン酸ラウリル、長ステアリン酸ステアリル、長鎖脂肪酸高級アルコールエステル、ベヘニン酸べへニル、ミスチリン酸セチル等のモノエステルが挙げられ、また例えば、ネオペンチルポリオール長鎖脂肪酸エステル、ネオペンチルポリオール長鎖脂肪酸エステルの部分エステル化物、ネオペンチルポリオール脂肪酸エステル、ネオペンチルポリオール中鎖脂肪酸エステル、ネオペンチルポリオールC9鎖脂肪酸エステル、ジペンタエリスリトール長鎖脂肪酸エステル、コンプレックス中鎖脂肪酸エステル等の特殊脂肪酸エステルが挙げられる。また例えば、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ソルビタンジステアレート、ポリオキシエチレン(6)ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレン(6)ソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタントリステアレート、ポリオキシエチレン(6)ソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレン(30)ソルビトールテトラオレエート、ポリオキシエチレン(40)ソルビトールテトラオレエート、ポリオキシエチレン(60)ソルビトールテトラオレエート、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリエチレングリコールモノオレエート、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールジステアレート、エチレングリコールジステアレート、プロピレングリコールモノステアレート、ポリオキシエチレンビスフェノールAラウリン酸エステル、ペンタエリスリトールモノオレエート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ステアリン酸モノグリセライド、パルミチン酸・ステアリン酸モノグリセライド、オレイン酸モノグリセライド、ステアリン酸モノ・ジグリセライド、ステアリン酸・オレイン酸モノ・ジグリセライド、オレイン酸モノ・ジグリセライド、2-エチルヘキサン酸トリグリセライド、ベヘニン酸モノグリセライド、カプリル酸モノ・ジグリセライド、カプリル酸トリグリセライド、脂肪酸(C8、C10、C12)トリグリセライド、脂肪酸(C8、C10)トリグリセライド等の多価アルコールの脂肪酸エステルおよびその誘導体が挙げられる。
【0018】
シランカップリング剤としては、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジビニルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ジビニルジエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(βメトキシエトキシ)シラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、β-(3、4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、等が挙げられる。
【0019】
脂肪酸アマイドとしては、ステアリン酸アマイド、オレイン酸アマイド、パルミチン酸アマイド、リノール酸アマイド、ラウリン酸アマイド、カプリル酸アマイド、ベヘニン酸アマイド、モンタン酸アマイド等が挙げられる。
【0020】
高級アルコールとしては、オクチルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、ミスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール等が挙げられる。
【0021】
本発明の樹脂組成物および成型体に適した樹脂としては、以下のものがある。ポリプロピレンホモポリマー、エチレンプロピレン共重合体の様なポリプロピレン系樹脂、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、EVA(エチレンビニルアセテート樹脂)、EEA(エチレンエチルアクリレート樹脂)、EMA(エチレンアクリル酸メチル共重合樹脂)、EAA(エチレンアクリル酸共重合樹脂)、超高分子量ポリエチレンの様なポリエチレン系樹脂、およびポリブテン、ポリ4−メチルペンテン−1等のC〜Cのオレフィン(α−エチレン)の重合体もしくは共重合体である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、特定の性状を有する水酸化マグネシウム粒子を特定の表面処理剤で処理することによって高い耐熱性を有する水酸化マグネシウム系難燃剤を提供できる。
また、ポリオレフィン系の樹脂に配合することにより、高耐熱性の樹脂組成物および成型体を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に本発明を実施するための最適実施例を示す。
【実施例】
【0024】
実施例1
BET比表面積が30m2/g、平均粒子径が5.3μmの水酸化マグネシウム5kgが含まれる懸濁液に、NaOHを20kg添加して(水酸化マグネシウム固形分に対して400mass%)、75Lの液量に調整した。これに直径3mmのジルコニアボールを50kg投入して、攪拌下に回転数200rpmで1時間湿式粉砕した。その後、懸濁液よりジルコニアボールを取り除いて、100L容量ニッケル製オートクレーブ内に流し込み、攪拌下で200℃、10時間の水熱処理を行った。水熱処理後のスラリーを真空ろ過後、固形分に対し20倍以上の容積の水で充分洗浄後、乾燥、粉砕して粉末を得た。得られた粉末3kgと、牛脂硬化油90gを(水酸化マグネシウム換算固形分に対し3mass%)、内容積10Lのジャケット式ヘンシェルミキサー内に投入し、約100℃まで加温し、30分間攪拌して表面処理を行い、サンプル粉末を得た。
【0025】
実施例2
表面処理をステアリン酸アマイド3mass%とした以外は、実施例1と同様にして、サンプル粉末を得た。
【0026】
実施例3
BET比表面積が40m2/g、平均粒子径が3.2μmの酸化マグネシウム3.5kgと、LiOH・H2Oを7.5kg添加して(水酸化マグネシウム固形分に対して150mass%)、水を加えて75L液量に調整した。これに直径3mmのジルコニアボールを50kg投入して、攪拌下に回転数200rpmで1時間湿式粉砕した。その後、懸濁液よりジルコニアボールを取り除いて、100L容量ニッケル製オートクレーブ内に流し込み、攪拌下で200℃、10時間の水熱水和反応を行った。水熱水和反応後のスラリーを真空ろ過後、固形分に対し20倍容以上の水で充分洗浄後、乾燥、粉砕して粉末を得た。得られた粉末3kgと、ステアリン酸モノグリセライド24gを(水酸化マグネシウム換算固形分に対し0.8mass%)、内容積10Lのジャケット式ヘンシェルミキサー内に投入し、約100℃まで加温し、30分間攪拌して表面処理を行い、サンプル粉末を得た。
【0027】
比較例1
NaOHを40kg添加(水酸化マグネシウム固形分に対して800mass%)にした以外は、実施例1と同様にして、サンプル粉末を得た。
【0028】
比較例2
攪拌下にて15.3mass%濃度のMgCl2・6H2O水溶液に、25mass%濃度のNaOH水溶液をMg2+モル数:OHモル数の比が1:1.8となるように添加して水を加え、75Lに調整したサスペンジョンを100L容量のニッケル製オートクレーブ内に流し込み、攪拌下で140℃、10時間の水熱処理を行った。この後は実施例1と同様にしてサンプル粉末を得た。
【0029】
比較例3
表面処理をしなかった以外は、実施例1と同様にして、サンプル粉末を得た。
【0030】
サンプル粉末のBET比表面積は、試料粉末を窒素吸着法によって測定し、粒度分布は、試料粉末をエタノールに懸濁させ、超音波で3分間分散処理した後に、レーザー回折法により測定した。また、X線回折における[101]/[001]ピーク強度比は、理学電気株式会社製X線回折装置(CuのKα線、40kV、50mA)を用い、[101]のピーク強度(2θ=38.0°)及び[001]のピーク強度(2θ=18.6°)を測定して求めた。実施例および比較例の結果を表1に示す。
【0031】
【表1】


表1より、実施例1〜3の本発明の手法によりBET比表面積、平均粒子径、[101]/[001]ピーク強度比の規定を全て満足する水酸化マグネシウム系難燃剤が得られている。
【0032】
樹脂組成物の評価
ポリオレフィン樹脂の一例としてポリプロピレン樹脂(日本ポリプロピレン株式会社ノバテックBC-6D)を用い、試験体試料を調製して評価を行った。各試験体試料はポリプロピレン樹脂100質量部に対して実施例1〜3および比較例1〜3で調製した水酸化マグネシウムサンプル粉末122質量部をラボプラストミルにより180℃で5分間混練した後、シュレッダーでカットしてコンパウンドを作成した。このコンパウンドを射出成型機(日本製鋼所株式会社製J-50E2)にて、温度230℃で水平燃焼用試験体(厚み1/8インチ、幅1/2インチ、長さ3インチ)及び引張用試験体(1号形ダンベル)を作成した。
【0033】
水平燃焼の測定は、UL1581に準じて行った。
【0034】
引張強度の測定は、JIS K7113に準じ、試験速度200mm/minで行った。
【0035】
耐熱試験は試験体を150℃に保持したギヤオーブン中で96時間放置させた時の、放置前と放置後の引張強度の残率にて行った。また、96時間放置後の試験体重量損失率も測定した。引張強度の残率と重量損失率以下の示す式により算出した。
引張強度の残率(%)=(放置前の引張強度−放置後引張強度)/(放置前の引張強度)×100
重量損失率(%)=(放置前の試験体重量−放置後の試験体重量)/(放置前の試験体重量)×100
結果を表2に示す。
【0036】
【表2】


表2より、本発明で規定した項目である(1)BET比表面積、(2)平均粒子径、(3)[101]/[001]ピーク強度比を全て満足する水酸化マグネシウム系難燃剤は樹脂に配合した場合、難燃性や、室温での引張強度は良好で、さらに150℃で96時間放置した後の引張強度の残率も100%で変わりなく高い耐熱性を示している。また、重量損失がない事からも安定なことがわかる。
一方、本発明の範囲外である水酸化マグネシウム系難燃剤を樹脂に配合した比較例については所望の特性は得れていない。
比較例1は耐熱性については良好であるものの、難燃性や、室温での引張強度の低下が著しい。おそらく、平均粒子径が大きい事が要因と思われる。また、比較例2は室温での引張強度は良好であるが耐熱性の劣化が著しい。おそらく、BET比表面積が大きい事が要因と思われる。さらに比較例3については(1)BET比表面積、(2)平均粒子径、(3)[101]/[001]ピーク強度比の項目は本発明の範囲内であるが、表面処理をしていないために著しい耐熱性の劣化を示した。
【0037】
実施例ではポリオレフィン樹脂の代表例としてポリプロピレン樹脂での評価結果を示したが、他の樹脂であるポリエチレン、EVA(エチレンビニルアセテート樹脂)、EEA(エチレンエチルアクリレート樹脂)、EMA(エチレンアクリル酸メチル共重合樹脂)、EAA(エチレンアクリル酸共重合樹脂)でも同様な耐熱性を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線回折における[101]/[001]ピーク強度比が0.9以上、BET比表面積が1〜4m2/g、平均粒子径が2〜5μmの合成水酸化マグネシウム粒子に、硬化油、脂肪酸エステル、シランカップリング剤、脂肪酸アマイドとその誘導体、高級アルコール及びその誘導体からなる群から選ばれた少なくとも1種あるいは2種以上を0.5〜5mass%になるように乾式法で表面処理した水酸化マグネシウム系難燃剤。
【請求項2】
ポリオレフィン系樹脂100質量部に対し、請求項1記載の水酸化マグネシウム系難燃剤を5〜500質量部配合した、難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
ポリオレフィン系樹脂100質量部に対し、請求項1記載の水酸化マグネシウム系難燃剤を5〜500質量部配合した、難燃性樹脂組成物の成型体。

























【公開番号】特開2007−16152(P2007−16152A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−199837(P2005−199837)
【出願日】平成17年7月8日(2005.7.8)
【出願人】(390036722)神島化学工業株式会社 (54)
【Fターム(参考)】