説明

高い衝撃強度を維持し且つ高い流動性を得るための加水分解感受性を有する熱可塑性組成物

【課題】耐衝撃性改良剤を含む熱可塑性組成物が高い衝撃強度を維持したまま、高い流動性を得るようにした、乳化重合プロセスで作られ且つpH値を制御および調整する特殊な方法で回収する多段操作で作られるコア-シェル構造を有するポリマー耐衝撃改良剤を提供する。
【解決手段】(a)乳化重合でコア−シェルコポリマーを合成し、(b)水溶性緩衝液から成る水溶性電解質溶液を添加してコア−シェル・ポリマーをpH4〜8で凝集させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐衝撃性改良剤の製造方法と、耐衝撃性が改良された成形用熱可塑性組成物に関するものであり、特に、耐衝撃性改良剤の製造、回収方法と、その熱可塑性組成物での使用とに関するものである。
本発明は特に、耐衝撃性改良剤を含む熱可塑性組成物が高い衝撃強度を維持したまま、高い流動性を得るようにした、乳化重合プロセスで作られ且つpH値を制御および調整する特殊な方法で回収する多段操作で作られるコア-シェル構造を有するポリマー耐衝撃改良剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性組成、特に芳香族ポリカーボネートは、電気、エンジニアリングおよび自動車用途等の広い分野で利用されている。特に、香族ポリカーボネートはその比較的に高い強度、高い耐衝撃性によって電気およびエンジニアリングの用途で使用されている。しかし、高分子量のポリカーボネートは一般に溶融流動性が悪いため,その用途は限定される。特に、高分子量芳香族ポリカーボネートのメルトフローインデックスが低い。従って、そうした芳香族ポリカーボネートから残留応力レベルが小さい複雑な成形部品や成形物を作るのは難しい。
【0003】
また、耐衝撃性改良剤は熱可塑性ポリマーにネガティブな影響を与えないことが重要である。ネガティブな影響の例は、時間または温度またはこれら両方を関数とする色の安定性、熱的安定性、耐衝撃性改良剤を含む熱可塑性ポリマーの加水分解安定性である。
【0004】
これらの全ての影響はコア−シェルの構造、特に耐衝撃性改良剤粉末合成時の不純物と処理に使用した化合物に起因する。一般に、耐衝撃性改良剤に特殊な精製段階はなく、液体と固体の分離だけである。従って、耐衝撃性改良剤中にはいずれにせよ多くの化合物(不純物、副産物)が含まれている。これらの化合物は熱可塑性原料に大きな影響を与えてはならず、例えば光学特性および/または機械特性および/または流動特性が時間および/または温度および/または湿度の関数で劣化してはならない。
【0005】
さらに重要なことは、耐衝撃性改良剤を最も簡単な方法で反応媒体から分離でき、できるだけ少ない資源を使用して分離できることである。この資源には使用する機器、エネルギおよび化合物が含まれる。
【0006】
芳香族ポリカーボネートの流動性の低さを克服するためにポリカーボネートに他のポリマー樹脂を混合することが行われている。例えば、ポリカーボネートの溶融流動を上げるために、芳香族ポリカーボネートとアクリロニトリル‐ブタジエン‐スチレン共重合樹脂(ABS)の混合物が使用されている。しかし、芳香族ポリカーボネートとABSとの混合物の欠点はビカット(Vicat)軟化点温度が下がることと、約0℃以上の温度で芳香族ポリカーボネート単独と比較して衝撃抵抗性が低下することである。
【0007】
特許文献1(国際特許第WO2008/149156号公報)には、芳香族ポリカーボネートと、ポリアクリロニトリルを含むグラフトコ行目と、非架橋のアクリルポリマーとを含む溶融加工用、例えば射出用組成物が記載されている。
【0008】
特許文献2(欧州特許第EP0668318号公報)には、安定化した衝撃緩衝剤と、変性された熱可塑性プラスチックが記載されている。衝撃緩衝剤は立体障害フェノールと任意成分のpH6〜11のpH緩衝剤で安定化したMBSコア−シェルグラフトポリマーである。一つの実施例では水酸化ナトリウムとリン酸とを用いた緩衝剤でpHを7.5〜8.0にする。このMBSポリマーは噴霧乾燥で回収される。
【0009】
特許文献3(国際特許第WO2009/118114号公報)には、色、加水分解性および溶融安定性に優れた衝撃変成ポリカーボネート組成物が記載されている。ゴムのコアはポリブタジエンがベースである。緩衝剤、酸ま塩基化合物、例えばNaOH、KOHで耐衝撃改良さ一般にのpH値を2〜11にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際特許第WO2008/149156号公報
【特許文献2】欧州特許第EP0668318号公報
【特許文献3】国際特許第WO2009/118114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の一つの目的は、衝撃変性した熱可塑性ポリマー、特に芳香族ポリカーボネートまたは芳香族ポリカーボネートと他のポリマーとの混合物、特に、芳香族ポリカーボネートと他のポリマーとの熱可塑性ブレンドの加工に関連する上記の課題を解決することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、優れた耐衝撃性を有する熱可塑性ポリマーの全ての特性をバランスさせ、ポリマー組成物の粘性を低下させ、高温度での変色が無く、耐衝撃性改良剤の製造中の不純物または副精製物の影響を受けない耐衝撃性改良剤を含む衝撃変成した熱可塑性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、驚くことに、熱可塑性樹脂中の生成物の性能に対しては沈殿凝集段階でのpH値が重要であるということを発見した。これは最終生産物が所定pHを有するだけでは十分でなく、回収段階でも予定のpHにしなければならないことを意味する。さらに、熱可塑性樹脂中での生成物の性能にとってはpHを制御するのに用いる化学種の種類(酸性か塩基性か)も重要である。
【0014】
さらに驚くことに、緩衝液の形をした水溶性電解質溶液を用いて凝集するコア−シェルの回収方法が可能であるということも発見した。
【0015】
全く予想しなかったが、本発明方法で回収した得られる耐衝撃改良剤のコア-シェルコポリマーを使用することで、エージング条件下で所望のメルトフロー指数(Melt Flow Rate)を有する熱可塑性組成物を許容可能な耐衝撃性と黄変性でえることができるということを発見した。
【0016】
本発明の第1の観点から、本発明は下記工程から成る耐衝撃性改良剤の製造方法に関するものである:
(a) 乳化重合でコア−シェルコポリマーを合成し、
(b) 水溶性緩衝液から成る水溶性電解質溶液を添加してコア−シェル・ポリマーをpH4〜8で凝集させる。
【0017】
本発明の第2の観点から、本発明は下記工程から成る耐衝撃性改良剤の製造方法に関するものである:
(a) 乳化重合でコア−シェルコポリマーを合成し、
(b) 水溶性緩衝液を添加してコア−シェル・ポリマーをpH4〜8で凝集させる。ここで、水溶性電解質溶液は水溶性電解質溶液から成る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】コア−シェルから成るコア−シェル粒子の図。
【図2a】一つのコアと3つのシェルから成るコア−シェル粒子。傾斜シェルはシェル1またはシェル2にすることができる。
【図2b】一つのコアと、3層コア2と、シェル1と、シェル2とから成るコア−シェル粒子。傾斜シェルはコア1とシェル2である。
【図3】一つのコアと、2つのシェルから成るコア−シェル粒子。傾斜シェルはシェル1である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
「緩衝液」という用語は弱酸および塩基とその共役塩基との混合物または弱塩基とその共役酸との混合物またはその混合系を意味する。
「弱酸」「弱塩基」という用語は水溶液中で部分的に解離した酸または塩基を意味する。

「ゴム」という用語はガラス転移点以上でのポリマーの熱力学状態を示す。
「アルキル(メタ)アクリレート」という用語はアクリル酸アルキルおよびアルキルメタクリレートを表す。
「コポリマー」という用語は少なくとも2つの異なるモノマーから成るポリマーを表す。
【0020】
「多段ポリマー」とは組成が異なる少なくとも2つの段階をシーケンシャルに有する多段エマルション重合プロセスであられるポリマーを表す。この多段エマルション重合プロセスでは最初の重合段階で最初のポリマーを重合し、第2の重合段階で第2のポリマーを重合する、すなわち、第1の乳化ポリマーの存在下で第2ポリマーを重合するのが好ましい。
「コア−シェル・ポリマー」という用語は[図1]〜[図3]に示すような構造を有するポリマーを示すのに使用する。しかし、これらの例に限定されるものではない。
「粒径」という用語は粒子を球面とみなしたときの容積平均直径を意味し、レーザー・スペクトロメトリを使用した光拡散によって測定する。
「粉末」という用語は容積平均直径が1μm以上のポリマー粒子を示すのに使用する。
「部」という用語はここでは重量部を意味する。特に断らない限り「全重量部」は必ずしも100に足す必要はない。
「中性pH」という用語は、ここではpH 6.0〜7.5を表すのち使用する。
【0021】
製造方法について述べると、本発明のコア-シェル耐衝撃性改良剤はブタジエンベースのコア・ポリマーと、一種以上のシェル・ポリマーとを有するエマルション・グラフト共ポリマーである。このグラフト共ポリマーはブタジエン-ベースのゴム・ポリマーを含むラテックス粒子の存在下で、少なくとも芳香族ビニル、アルキルメタクリレートまたはアクリル酸アルキルを含むモノマーまたはモノマー混合物をグラフト重合することで得られる。
【0022】
グラフト共ポリマーを製造するのに有用な重合開始剤にはペルオキソ硫酸塩、例えば過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムおよび過硫酸ナトリウム、有機過酸化物、例えばtert-ブチル・ヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、過酸化ベンゾイル、ラウロイル・パーオキサイド、p-メンタン・ヒドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼン・ヒドロペルオキシド、アゾ化合物、例えばアゾビスイソブチロニトリルおよびアゾビスイソバレロニトリル、またはレドックス開始剤が含まれるが、これらに限定されるものではない。しかし、パーオキサイド化合物、例えば上記のものと、還元剤、特にアルカリ金属サルファイト、アルカリ金属ビサルファイト、ナトリウムホルムアルデヒド・スルホキシレート(NaHSO2HCHO)、アスコルビン酸、グルコースとを組み合わせたレドックス型の触媒系、特に、水溶性の過硫酸カリウム/メタ亜硫酸ナトリウムまたはジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド/ナトリウム・ホルムアルデヒド・スルホキシレートまたは硫酸第一鉄/デキストロース/ピロリン酸ナトリウムのような触媒系を使用するのが好ましい。
【0023】
乳化剤としてはアニオン、ノニオンまたはカチオンの公知の任意の面活性を使用することができる。特に、乳化剤はアニオン乳化剤、例えば脂肪酸ナトリウムまたはカリウム塩、特にラウリン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、パルミン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、脂肪アルコールの硫酸エステルのナトリウムまたはカリウム混合物、特にドデシル硫酸ナトリウム、コハク酸ナトリウムまたはカリウム、アルキルアリールスルホン酸ナトリウムまたはカリウム、特に、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、脂肪酸モノグリセリドモノスルホネートのナトリウムまたはカリウム塩、さらには、非イオン性界面活性剤、例えば、エチレンオキシド、アルキルフェノールまたは脂肪族アルコール、アルキルフェノールの反応生成物から選択できる。必要に応じて、これら界面活性剤の混合物を使用することもできる。
【0024】
コア−シェルコポリマーはゴムのコアと、少なくとも一つの熱可塑性のシェルとを有する微粉末の形をしており、一般に1μm以下の粒径、好ましくは50nm〜500nm、より好ましくは100nm〜400nm、さらに好ましくは150nm〜350nm、有利には170nm〜350nmの粒径を有する。
【0025】
コア−シェル粒子は複数のシェルを有するのが好ましい。熱可塑性のマトリックスと接触する少なくとも外側のシェルのガラス遷移温度(Tg)は25℃以上、好ましくは50℃以上である。
【0026】
コア-シェルの耐衝撃性改良剤は乳化重合で製造される。それに適した方法は例えばコアとシェルを2つのシーケンシャルな乳化重合段階で製造される二段重合法である。より多くのシェルがある場合にはさらに他の乳化重合段階を続ける。
【0027】
コア−シェルの重量比は特に制限されないが、10/90〜90/10の間が好ましく、好ましくは40/60〜90/10、さらに好ましくは60/40〜90/10、最も有利には70/30〜85/15の間である。
【0028】
本発明のコアはゴムのポリマーである。このゴムのコアのガラス遷移温度(Tg)は0℃以下、好ましくは−10℃以下、有利には−20℃以下、さらに有利には−25℃以下である。
【0029】
ゴムのコアのガラス遷移温度は−120℃〜−10℃の間が好ましく、特に−90℃〜−40℃の間、より好ましくは−80℃〜−50℃の間であるのが好ましい。
【0030】
ゴムのコアのポリマーの例としてはイソプレンのホモポリマーまたはブタジエンのホモポリマー、イソプレン−ブタジエンコポリマー、イソプレンと98重量%以下のビニルモノマーとのコポリマー、ブタジエンと98重量%以下のビニルモノマーとのコポリマーが挙げられる。ビニルモノマーはスチレン、アルキルスチレン、アクリロニトリル、アルキル(メタ)アクリレートまたはブタジエンまたはイソプレンにすることができる。好ましい実施例のコアはブタジエンのホモポリマーである。
【0031】
コア−シェル・コポリマーのコアは完全または部分的に架橋できる。必要なことはコアの製造時に少なくとも二官能性モノマーを加えることだけであり、そのモノマーはポリオールのポリ(メタ)アクリ酸エステル、例えばブタンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリメタアクリレートの中から選択できる。他の多官能性モノマーの例はジビニールベンゼン、トリビニルベンゼン、トリアリルシアヌレーである。重合中にコモノマーとして不飽和カルボン酸、無水不飽和カルボン酸および不飽和エポキシドのような官能性不飽和モノマーを導入するか、グラフトによってコアを架橋することができる。例としては無水マレイン酸、(メタ)アクリル酸およびメタクリル酸グリシジルを挙げることができる。また、モノマー、例えばジエンモノマーの固有の反応性を用いて架橋することもできる。
【0032】
また、コアをコア層で被覆することもできる。これはコアが0℃以下、好ましくは−10℃以下、有利には−20℃ 以下、より有利には−25℃以下のガラス遷移温度(Tg)を有するポリマー組成物のコア層を有することを意味する。
【0033】
直径が50nmであるコア−シェル粒子のゴムのコアは種々の方法:グローアウト(grow-out)法、シードグローアウト(seed grow-out)法および凝集(agglomation)法で製造できる。微粉末を避け、粒径分布の狭い均一粒子を製造するにはグローアウト(grow-out)法が好ましい。コアポリマーの形成には連鎖移動剤も有効である。有用な連鎖移動剤はter-ドデシルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタンおよび連鎖移動剤の混合物であるが、これらに限定されるものではない。連鎖移動剤はコア・モノマーの全含有量に対して0〜2重量%のレベルで使用される。好ましい実施例ではコアポリマーを形成する際に0.1〜1%の連鎖移動剤を使用する。
【0034】
本発明のシェルはスチレンのホモポリマー、アルキルスチレンのホモポリマーまたはメチルメタクリレートのホモポリマーか、これらのモノマーの少なくともの一つを70重量%以上含む少なくとも一つコモノマーとのコポリマーである。コモノマーは他のアルキル(メタ)アクリレート、酢酸ビニールおよびアクリロニトリルから選択される。重合中にコモノマーとして不飽和カルボン酸、無水不飽和カルボン酸および不飽和エポキシドのような官能性不飽和モノマーを導入するか、グラフトしてシェルを官能化することもできる。例としては無水マレイン酸、(メタ)アクリル酸、メタクリル酸グリシジル、ヒドロキシエチルメタクリラートおよびアルキル(メタ)アクリルアミドが挙げられる。例としてポリスチレンのシェルを有するコア−シェル・コポリマー、PMMAのシェルを有するコア-シェルコポリマーが挙げられる。マレイミドを共重合するか、第一アミンでPMMAを化学的に修飾してイミド官能基を含むシェルにすることもできる。イミド官能基のモル濃度はシェル全体に対して30〜60%にするのが有利である。
【0035】
また、2つのシェルを有するコア−シェルコポリマー、例えば一方をポリスチレンにし、他方(外側)をPMMAにすることもできる。コポリマーとその製造方法の例は下記特許文献に記載されている:
【特許文献9】米国特許第US 4 180 494号明細書
【特許文献10】米国特許第US 3 808 180号明細書
【特許文献11】米国特許第US 4 096 202号明細書
【特許文献12】米国特許第US 4 260 693号明細書
【特許文献13】米国特許第US 3 287 443号明細書
【特許文献14】米国特許第US 3 657 391号明細書
【特許文献15】米国特許第US 4 299 928号明細書
【特許文献16】米国特許第US 3 985 704号明細書
【特許文献17】米国特許第US 5 773 320号明細書
【0036】
シェルはシェルの製造中に少なくとも一つの多官能性モノマーを加えることによって架橋できる。
【0037】
一般に、ワーキングアップ(working up)または回収(エマルションからコア-シェル・ポリマーを単離することを意味する)は噴霧乾燥、沈殿、凝集また分散水の分離で実施される。
【0038】
本発明では、ワーキングアップは凝集と分散水の分離とによって実施される。凝集沈殿は水溶性緩衝剤を含む電解液の添加で行われる。
【0039】
本発明の緩衝液はpHが4〜8の間、好ましくは5〜7.5の間、有利には6〜7.5の間、最も好ましくは6〜7の間の緩衝液である。
【0040】
凝集および沈澱したポリマーと水との分離は従来法、例えば篩分け、濾過、デカンテーションまたは遠心分離またはこれらの組合せによって行うことができる。分散水の分離後、湿ったグラフトポリマーが得られる。その残差含水率は通常60重量%以下である。
【0041】
回収での凝集段階前のコア-シェル・コポリマー粒子のラテックス粒子のpHは4〜7.5の間、好ましくは6〜7の間にある。凝集段階(b)のpHは6〜7の間にあるのが好ましい。段階(b)のpH値は水溶性緩衝液の添加により調整され、それと同時に沈澱する。
【0042】
緩衝液は、弱酸とその共役塩基の混合物または弱塩基とその共役酸の混合物または混合系である。
【0043】
緩衝液は弱酸とその共役塩基または弱塩基とその共役酸との混合物から成る水溶液である。
【0044】
緩衝液の例としては血漿中に存在するpHを7.35〜7.45の間に維持する炭酸(H2CO3)と重炭酸塩(HCO3-)の緩衝液、クエン酸とクエン酸ナトリウム、ジナトリウムとリン酸ナトリウム、ジカリウムとリン酸カリウム、クエン酸とリン酸二ナトリウムとをベースにした緩衝液がある。本発明ではリン酸緩衝液を用いるのが好ましく、特にpH値を6〜7の間に保つことができるリン酸緩衝液を用いるのが好ましい。
凝集は緩衝液を加えるだけで実行し、他の電解液を追加して加えないのが好ましい。
【0045】
凝集は5℃〜100℃の温度、好ましくは10℃〜100℃、特に15℃〜100℃、有利には20℃〜90℃の温度で実行する。凝集に使う合成から来るラテックス粒子の固形分は15〜60重量%、好ましくは25〜50重量%の間である。
【0046】
電解液の水溶液は25℃での水に対する溶解度定数を考慮して、化学種の溶解性を保証するのに十分な少量の塩濃度を含む。
【0047】
凝集および沈澱したポリマーと水との分離は従来法、例えば篩分け、濾過、デカンテーションまたは遠心分離またはこれらの組合せによって行うことができる。分散水の分離後、湿ったグラフトポリマーが得られる。その残差含水率は通常75重量%以下である。
【0048】
本発明方法では、補助物質、例えば乳化剤、ラジカル形成剤の分解物、緩衝剤は一部しか分離されないので、補助物質のかなりの部分(ほぼ100%)がグラフトポリマー(最終産物すなわち湿ったグラフトポリマー)中に残る。
【0049】
これ以上の精製段階は無いので、水から分離しなかった全ての副産物と不純物はコア−シェル・ポリマー粉末中に残る。
【0050】
本発明の更に別の態様は、少なくとも一種の熱可塑性ポリマーと、上記方法で得られたコア-シェル・コポリマー・耐衝撃性改良剤粒子とから成る衝撃変成された熱可塑性組成物にある。
【0051】
熱可塑性ポリマーは本発明の熱可塑性組成物の一部で、特に制限されないが、下記の中から選択できる:ポリ(ビニルクロライド)(PVC)、ポリエステル、例えばポリ(エチレン・テレフタレート)(PET)またはポリ(ブチレンテレフタレート)(PBT)またはポリ乳酸(PLA)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレン、ポリ(メチルメタクリレート)、(メタ)アクリル酸コポリマー、熱可塑性ポリ(メチルメタクリレート-co エチルアクリレート)、ポリ(アルキレン−テレフタレート)、ポリビニリデンフルオライド、ポリ(ビニリデンクロライド)、ポリオキシメチレン(POM)、半結晶ポリアミド、アモルファスポリアミド、半結晶コポリアミド、アモルファス・コポリアミド、ポリエーテルアミド、ポリエステルアミド、スチレンとアクリロニトリルのコポリマー(SAN)およびこれらの混合物。本発明の好ましい実施例では、熱可塑性樹脂組成物はポリカーボネート(PC)および/またはポリエステル(PETまたはPBT)またはPCまたはポリエステルのアロイから成る。アロイは例えばPC/ABS(ポリ(アクリロニトリル-co- ブタジエン-co- スチレン、PC/ポリエステルまたはPC/PLAが挙げられる。
【0052】
組成物の成分に関して、本発明のコア−シェル・ポリマーと熱可塑性ポリマーとの間の比率は0.5/99.5〜20/80の間、好ましくは2/98〜15/75の間にある。
【0053】
方法
乳化重合の終わりの初期耐衝撃性改良剤の粒径は毛細管流体力学分画(CHDF)で実行される。重量平均粉末粒径、粒径分布および微粉末の比は300mmレンズを有するマルヴァーンマスターサイザー(Malvern Mastersizer)Sを使用して0,5-880μmの範囲で測定する。
D(v、0.5)はサンプルの50%がその粒径より小さく、サンプルの50%がその粒径より大きい粒径すなわち50%累積容積での等価容積直径を言う。このサイズはメディアン径ともよばれ、粒子に寸法独立濃度とみなした粒子濃度でマスメディアン直径に関連する。
D(v、0.1)はサンプルの10%がそれより小さい粒径である粒径すなわち10%累積容積での等価容積を言う。
D(v、0.9)はサンプルの90%がそのサイズより少ない粒径である。
D[4,3]は容積平均直径である。
【0054】
スパン(Span)は粒径分布の幅を表す。このパラメータが小さいほど粒径分布はより小さい。規格9276-1「粒度分析のパート1:グラフ表示」および規格9276-2「粒度分析結果の表示、パート2:平均値粒径/直径の計算と粒径分布からのモーメント」を使用。
【0055】
最終粉末のpHを得る手順
乾燥した5gの粉末を20mLの脱イオン水に分散させ、45℃で10分間の撹拌する。得られたスラリーをWattmanフィルタ紙で濾過し、濾過水のpHを室温で測定する。このpH値は予め標準緩衝液で較正したpHメータ(Eutech Instrument pH 200シリーズ)に接続したガラス・プローブ(Fisher Scientific)を使用して得た。
【0056】
衝撃変成組成物の製造
各耐衝撃性改良剤粉末をSABICからの熱可塑性樹脂ポリカーボネートLexan ML5221と混合した(5重量%、押出機Clextral(ダブル直径25mm、長さ700mm)を用い、押出機全体の帯域に応じて100℃〜320℃の温度を使用)。
熱可塑性組成物の衝撃強度はISO規格180-2000で測定した。テストサンプルはタイプ1Aである。
【0057】
以下の実施例では、ポリマー組成物のメルトフローインデックス(MVI)はISO規格1333-2005で、2.16kgの荷重下で、300℃で測定した。サンプルは調製した。
MVIの変化は300℃で製造サンプルを25分後に6分後のものと比較した変化の百分比である。ポリマー組成物が劣化すると、25分後のMVI値は6分後の値より大きくなる。
【0058】
変色はパラメータb*を測定して観測される。b*値はサンプルの主たる黄変度を特徴づけるのに用いる。b*値では青色および黄色を測定する。黄色への変色はポジのb*値を有し、青色への変色はネガティブのb*値を有する。b*値は色彩計を使用して測定する(特にASTM規格 E 308)。
【0059】
初期の色がゼロに近い場合、本発明の耐衝撃性改良剤を含む熱可塑性組成物は許容範囲内であるとみなされる。b*は4以上であってはならない。色の変化を時間の関数で異なる条件下に観測する。サンプルを120℃に保ち且つサンプルを90℃かつ95%湿分値に維持する。
【実施例】
【0060】
商用製品として下記製品をテストした:「Paraloid(登録商標)EXL2691A」はローム(ROHM HAAS)社から市販のMBS耐衝撃性改良剤である。
【0061】
実施例1(本発明)([図2b]のラテックス粒子)
最初の段階(コア1およびコア2のの重合)
20リットルの高圧反応装置に初期投入物として116.5部の脱イオン水と、0.1部のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムエマルジョンと、20部の1,3-ブタジエンと、0.1部のt-ドデシルメルカプタンと、0.1部のp-メンタン・ヒドロペルオキシドとを入れ、溶液を攪拌下に43℃まで加熱し、その温度でレドックス-ベースの触媒(4.5部の水、0.3部のテトラピロホスフェートと、0.004部の硫酸第一鉄と、0.3部のデキストロース)を加えて重合を有効に開始した。それから溶液をさらに56℃まで加熱し、3時間この温度を保持した。
【0062】
重合開始から3時間後に、第2のモノマー材料(71部のBD、0.2部のt-ドデシルメルカプタン)と、追加の乳化剤と、リダクタント(30.4部の脱イオン水と、0.9部のドデシルベンゼンスルホン酸の乳化剤ソーダ塩と、0.5部のデキストロース)と、追加の開始剤(0.8部のp-メンタンヒドロペルオキシド)とを8時間かけて連続的に加えた。第2のモノマーの添加完了後、追加の5時間かけて残りの開始剤、乳化剤およびリダクタントを連続的に加えた。重合開始から13時間後に、溶液を68℃まで加熱し、追加の開始剤(0.09部のp-メンタンヒドロペルオキシド)と、スチレン(0.9部)とを追加の3時間かけて連続的に加え、反応させた。重合開始から少なくとも20時間経過後にブタジエンコア1-BD/ST傾斜コア2ラテックス粒子(R2)を得た。得られたポリブタジエンゴムラテックス粒子(R2)は40.3重量%の固形物を含み、約180nmの平均値粒径を有する。
【0063】
第2段階(シェル1とシェル2の重合)
3.9リットルの反応装置に80.75部(固形物基準)のポリブタジエンゴムラテックス粒子R2と、1.3部の脱イオン水と、0.004部のホルムアルデヒド・スルホキシ酸ナトリウムとを入れた。溶液を攪拌したに窒素パージし、55℃に加熱した。溶液が62℃に達した時に60分かけて7.1部のスチレンと、0.09部のジビニールベンゼンと、0.03部のt-ブチル・ヒドロペルオキシドとを連続的に加えた。その後、温度を40分間かけて75℃に上げる。バッチで、1.4部の脱イオン水と、0.003部のホルムアルデヒド・スルホキシ酸ナトリウムとの混合物を加え、それから10.5部のメチルメタクリレートと、0.13部のジビニールベンゼンと、0.04部のt-ブチル・ヒドロペルオキシド開始剤とを30分以上かけて連続的に加える。この添加の30分後に0.1部のt-ブチル・ヒドロペルオキシドを反応装置に一度に加え、60分間維持する。この60分の保持時間後、安定化エマルションを上記グラフト共重合ポリマーラテックス粒子に加えた。安定化エマルションは5.4部(グラフト共重合ポリマーの質量ベース)の脱イオン水と、0.1部のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムと、0.1部のチオジプロピオン酸ジラウリルと、0.24部のトリエチレングリコール−ビス[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)−プロピオネート]とを混合して調製した。得られたコア−シェル・ラテックス粒子(E2)は約190nmの平均値粒径を有する。
【0064】
凝集前のpHを調整するための緩衝液
2リットルの較正済みフラスコに57.3gのNa2HPO4 (ジナトリウム水素ホスフェート)と、54.9gのKH2PO4 (カリウム二水素ホスフェート)を入れ、全体を脱塩水で2リットルにした。測定されたpHは6.8(0.066mol/l)である。
【0065】
凝集の実施例
撹拌機を備えた3Lのジャケット付き容器に、500 gの実施1のコア−シェル粒子のラテックス粒子を連続的に入れ、pH=6.8での緩衝液を入れて、14.1%の固形分にする。凝集は迅速に起こる。30℃の温度に上げ、30℃の温度で15分間、撹拌した後、80℃まで上げ、さらに30分間この温度を維持する。その後、40℃まで冷却する。測定したpHは6.8である。スラリーをブフナー紙濾過器で濾過し、粉末を回収した。粉末は換気式乾燥器に入、50℃で48時間完全乾燥した後に回収した。
【0066】
【表1】

【0067】
サンプルを120℃でエージングした。
【0068】
【表2】

【0069】
上記実施例から分かるように、本発明の方法を用いることで120℃でエージングした後でも経時的にb*値を低く維持したまま衝撃変成したPCを得ることができる。
【0070】
【表3】

【0071】
本発明の方法を用いると、室温および特に低温で優れた耐衝撃抵抗性を有する変成されたPCをえることができる。
【0072】
【表4】

【0073】
上記実施例から、本発明を用いることで、比較例に比べて高い流動性を有する、優れた耐衝撃抵抗性を有する変成されたPCを得ることができる。
【0074】
添付の[図1]〜[図3]はコア-シェル構造の例である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程から成る耐衝撃性改良剤の製造方法:
(a) 乳化重合でコア−シェルコポリマーを合成し、
(b) 水溶性緩衝液から成る水溶性電解質溶液を添加してコア−シェル・ポリマーをpH4〜8で凝集させる。
【請求項2】
水溶性電解質溶液が水溶性緩衝液から成る請求項1に記載の方法。
【請求項3】
凝集段階(b)のpHを4〜7.5、好ましくは6〜7の間にする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
緩衝液が水溶性リン酸塩緩衝液である請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
段階(a)と段階(b)との間に追加の段階(ab)を有し、段階(a)の合成後のコア-シェル・ポリマー・エマルションのpHを調整する請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
段階(b)の後に追加の段階(c)を有し、この段階(c)で凝集段階後のコア−シェル・ポリマーのpH値をpH 6〜7.5の間に調整する請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
(A) 熱可塑性ポリマーと(B)コア-シェルの衝撃緩衝剤とから成る熱可塑性ポリマー組成物において、上記コア-シェル衝撃緩衝剤が製造1〜6のいずれか一項に記載の方法で作られたものであることを特徴とする熱可塑性ポリマー組成物。
【請求項8】
熱可塑性ポリマーがポリ(ビニルクロライド)(PVC)、ポリエステル、例えばポリ(エチレン・テレフタレート)(PET)またはポリ(ブチレン・テレフタレート)(PBT)またはポリ乳酸(PLA)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレン、ポリ(メチルメタアクリレート)、(メタ)アクリルコポリマー、熱可塑性ポリ(メチルメタメタアクリレート -co- エチルアクリレート)、ポリ(アルキレンテトラフタレート)、ポリビニリデンフルオライド、ポリ(ビニリデンクロライドル)、ポリオキシメチレン(POM)、半結晶ポリアミド、アモルファス・ポリアミド、半結晶コポリアミド、アモルファス・コポリアミド、ポリエーテルアミド、ポリエステルアミド、スチレンとアクリロニトリルのコポリマー(SAN)またはこれらの混合物の中から選択される請求項7に記載の熱可塑性ポリマー組成物。
【請求項9】
熱可塑性ポリマーをポリカーボネート(PC)および/またはポリエステル(PETまたはPBT)またはPCまたはポリエステルのアロイの中から選択する請求項7または8に記載の熱可塑性ポリマー組成物。
【請求項10】
熱可塑性ポリマーをPC/ABS(ポリ(アクリロニトリル−co−ブタジエン−co−シチレン)、PC/ポリエステル、PC/PLAの中から選択する請求項7〜9のいずれか一項に記載の熱可塑性ポリマー組成物。
【請求項11】
ポリマーのコアのガラス遷移温度が0℃以下、好ましくは-10℃以下、好ましくは-90℃〜-40℃である請求項7〜10のいずれか一項に記載の熱可塑性ポリマー組成物。
【請求項12】
ポリマーのコアがポリブタジエンから成る請求項7〜11のいずれか一項に記載の熱可塑性ポリマー組成物。

【図1】
image rotate

【図2a】
image rotate

【図2b】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−126904(P2012−126904A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−274861(P2011−274861)
【出願日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【出願人】(505005522)アルケマ フランス (335)
【Fターム(参考)】