説明

高い透過率を備える防炎性の物品

本発明は、防炎性加工剤を含有する透明な熱可塑性ポリマーの基体(S)と、片面または両面に、シリカ-含有耐引掻き性コーティング(K)と、片面または両面に、所望による高分子電解質(多)層を含む高い透過性の被覆物品に関する。本発明は、そのような被覆物品の製造に加えて、それらの使用、特にフラットディスプレイ装置の製造におけるそれらの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防炎加工剤を含有する透明な熱可塑性ポリマー製の基体(S)、および片面または両面に、シリカ含有の耐引掻き性コーティング(K)ならびに所望による1以上の高分子電解質(多)層(P)を有する被覆物品に関する。本発明は、このような被覆物品の製造に加えて、それらの使用に関し、特に、フラットディスプレイ装置および板ガラス(glazing)の製造、およびそれらから得られるフラットディスプレイ装置および板ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
本願において、表現「ディスプレイ装置」は、いわゆるスクリーン、すなわち、画像を示すための透明な前面プレートと、所望による好ましくは不透明性材料からなる縁取りを含むモニター前面を表わす。多くの場合、今日のディスプレイ装置は、フラットディスプレイユニットである。
【0003】
フラットスクリーンテレビに関する市場は近年大幅に成長している。フラットスクリーン技術における成長は別として、この成長を支える原動力は、特に、革新的なTVデザインにおいて、製造者が相当な注目を向けていることである。革新的なデザインは、TV受像器に関するハウジング材料としてのプラスチックの使用により、とりわけ実現されている。例えば、黒色で高光沢のTV前面縁の増加した取付けが近年観察されている。近年、プラスチックの使用に関して好ましいハウジング部品は、前面縁およびTV背面である。
【0004】
テレビの内部において、とりわけ、TV受像器のスクリーンを介して得られる光りを可能な限り放射することが挑戦されている。この点において、近年、TV受像器内におけるプラスチック部品に関する要求が増大している。
【0005】
フラットスクリーンテレビの市場における目立った成長と時を同じくして、このようなTV受像器に関する安全性の要求も増加している。従って、CLC/TS62441に準拠する、EN60065は、2010年7月から、欧州連合におけるフラットスクリーンテレビは、使用されるハウジング材料の防炎性に関する最低基準を満たさなければならないことを明記する。デザインの点でも高くかつて無い要求を兼ね備えると共に、改良された防炎性に関する要求は、TVハウジングパーツの製造に関する新たなコンセプトが要求されていることを意味する。したがって、透明性、透過率および防炎性などの材料特性を考慮することができると同時に、例えば、これまでは殆どガラス製であるスクリーンにおいて、プラスチックの使用を更に増加させることにより、1つの選択肢として更にデザインを変化させることができる。経済的な製造方法に関して、ディスプレイ装置の縁取りとスクリーンに関して同一の基体層を使用することは、極めて有益である。このことは、使用される材料が、縁取りおよびスクリーンの両方を構築する要求、特に、耐摩耗性、透過率、防炎性および粘度を満たさなければならない。
【0006】
コーティングされていない基体は、幾つかの理由により、ディスプレイ装置、特にフラットディスプレイ装置における使用に対する要求を満足しない。まず、例えば洗浄に関する摩耗値が極めて低く、次に、透過特性、特に550〜750nmの範囲における透過特性が極めて低い。可視領域において約90%の比較的良好な透過特性により一般的に特徴づけられるポリカーボネートシートの場合であっても、減少した透過率は、特に、添加剤、例えば、防炎加工剤、UV吸収剤または着色顔料を含有する製品の場合において、550〜750nmの範囲に生じる。常套の防炎加工剤の添加は、一般に、熱可塑性物質の場合における透明性に悪影響を及ぼし、すなわち、それは透過率を減少させる。したがって、可視スペクトルの全範囲において透過率を増加させる方法が興味深い。
【0007】
最後に、増加した防炎特性は、例えば、電気または電子部門(E/E)における使用に要求されるが、このような特性は、良好な機械的特性が同時に得られる場合、薄い壁厚の種々の常套の熱可塑性ポリマーによっては十分に満足されないだけである。
【0008】
さらに、比較的高いMVR値を有する容易に流動する熱可塑性物質は、生産技術に関する観点から特に興味深い。
【0009】
DE2947823A1およびDE102008020752A1において、ポリカーボネート基体向けの耐引掻き性コーティングが開示されている。防炎加工剤は記載されていない。
【0010】
WO2008/091131A1において、防炎性を有するものとして、水ガラス、SiO、およびシランから成るコーティング組成物が記載されているが、本出願における被覆物品は開示されていない。
【0011】
US2006/0100359およびJP2003-128917は、防炎特性を有するコーティング組成物を開示する。本出願に係る被覆物品は開示しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】独国特許第2947823号A1明細書
【特許文献2】独国特許第102008020752号A1明細書
【特許文献3】国際特許出願公開第2008/091131号A1明細書
【特許文献4】米国特許第2006/0100359号A1明細書
【特許文献5】特開2003-128917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
これまでのところ、先行技術は、1つの基体層を有する物品の場合において、例えば、ディスプレイ装置における縁取りとスクリーンの両方に使用するために、現状のままで要求される性能プロファイルをどのようにして満足できるかについて、あらゆる解決策を提供しない。
【0014】
驚くべきことに、シリカ含有コーティングを施された、防炎性で透明の熱可塑性物質から成る基体、例えば、シート、プレートまたはフィルムは、耐摩耗および耐引掻き性に極めて優れるのみならず、著しく改良された防炎特性と透過特性を示すことが見出されている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
防炎加工剤を含有する透明な熱可塑性ポリマーから成る基体(S)と、片面または両面に、シリカ含有耐引掻き性コーティング(K)と、および所望による1または複数のポリカーボネート層(P)を有する本発明に係る物品は、その結果、製造しやすく可撓性であり、上記問題の解決策を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
表現「片面に」は、一方で、基体の片面(一般的に前面)がシリカ含有耐引掻き性コーティングを有することを意味し、また、一方で、基体の片面と端および基体の側壁がシリカ含有耐引掻き性コーティングを有することを意味する。
【0017】
表現「両面に」は、一方で、基体の両面(表側および裏側、または前および後ろ)がシリカ含有耐引掻き性コーティングで被覆され、および、また、一方で、基体の両面と基体の端と側壁が被覆されることを意味する。
【0018】
本発明は、このような物品の製造に加えて、それらの使用、特に、フラットディスプレイユ装置および板ガラスに関する製造に関し、および、それらから得られるディスプレイ装置および板ガラスに関する。
【0019】
本発明に係る物品は、透明性が高い。本発明の範囲内において、「透明性が高い」は、被覆されたポリマー基体が、可視スペクトル(550〜750nm)の範囲において、少なくとも88%、好ましくは少なくとも90%の透過率を有し、および最も特に好ましくは91%〜96%の透過率を有する。透過率は、ASTM E1348に従い測定される。それは、半球型配列を用いる分光光度法による透過率と色に関する標準的な試験法であり、コーティングを有さない基体の厚さは3mmである。
【0020】
本発明に関連して、用語「シリカ」は、二酸化ケイ素(SiO)に基づく、全体的または部分的に架橋した構造を示す。それは、特に、ゾル-ゲル系と、シリカナノ粒子を含有する組成物を含む。
【0021】
基体(S)は、好ましくは不燃性のおよび/または防炎加工剤を含有する透明な熱可塑性ポリマーから成る、好ましくは、基体層、例えば、シート、プレートまたはフィルムあるいは他の平らな基体である。また、基体は、複数のこのような基層から構成されてもよい。熱可塑性ポリマーは、ポリカーボネート、コポリカーボネート(ポリカーボネート構造単位を含有するコポリマー)、ポリアクリレート、特にポリメチルメタクリレート、シクロオレフィンコポリマー、ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレート、ポリ(スチレン-コ-アクリロニトリル)またはこれらのポリマーの混合物を含有する群からの1種以上のポリマーから好ましく選択される。
【0022】
本発明の範囲内において、「透明な」は、被覆されていないポリマー基体が、可視スペクトル(550〜750nm)の範囲において、少なくとも75%、好ましくは80%、および最も特に好ましくは85%以上の透過率を有することを意味する。透過率は、ASTM E1348に従い測定される。それは、半球型配列を用いる分光光度法による透過率と色に関する標準的な試験法であり、コーティングを有さない基体の厚さは3mmである。
【0023】
透明な熱可塑性ポリマーとして、好ましくはポリカーボネートおよび/またはポリメチルメタクリレート、ならびに2つの熱可塑性物質のうちの少なくとも1種を含有するブレンドが使用される。ポリカーボネートが、特に好ましく使用される。ポリカーボネートは、熱可塑的に加工可能なプラスチック材料として既知である。ポリカーボネートプラスチックは、大部分は、ビスフェノールに基づく芳香族ポリカーボネートである。直鎖または分岐状ポリカーボネートまたは直鎖および分岐状ポリカーボネートの混合物、好ましくは、ビスフェノールAに基づくものが使用できる。本発明による物品において使用される直鎖または分岐状ポリカーボネートおよびコポリカーボネートは、一般的に2000〜200000g/モル、好ましくは3000〜150000g/モル、特に5000〜100000g/モル、最も特に好ましくは8000〜80000g/モル、特に12000〜70000g/モルの平均分子量Mw(重量平均)を有する(ポリカーボネート校正を用いるゲル浸透クロマトグラフィーを用いて測定される)。
【0024】
これに関連して、それらは、より好ましくは16000〜40000g/モルの重量平均Mwを有する平均分子量を有する。
【0025】
使用される熱可塑性ポリマー、特にポリカーボネート、または、使用されるポリカーボネート混合物は、好ましくは10以上のMVR(メルト ボリューム レート)(ISO1133に従い、300℃および1.2kgで測定される)を有し、特に好ましくは、ISO1133に従うMVR≧20(ISO1133に従い、300℃および1.2kgで測定される)、および最も特に好ましくはMVR≧30(ISO1133に従い、300℃および1.2kg)を有する。
【0026】
ポリカーボネートの製造に関する文献は、例えば、「Schnell」著、Chemistry and Physics of Polycarbonates、Polymer Reviews、第9巻、Interscience Publishers、ニューヨーク、ロンドン、シドニー1964年;D.C.PREVORSEK、B.T.Debona および Y.Kesten、Corporate Research Center、Allied Chemical Corporation、モリスタウン、ニュージャージー07960、「Synthesis of Poly(ester Carbonate)Copolymers」、Journal of Polymer Science、Polymer Chemistry Edition、第19巻、第75〜90頁(1980年)、D.Freitag、U.Grigo、P.R.Mueller、N.Nouverte、Bayer AG、「Polycarbonates」、Encyclopedia of Polymer Science and Engineering、第11巻、第2版、1988年、第648〜718頁、および最後にDres.U.Grigo、K.Kircher and P.R−Mueller「Polycarbonate」、 Becker/Braun、Kunststoff−Handbuch、第3/1巻、Polycarbonate、Polyacetale、Polyester、Celluloseester、Carl Hanser Verlag ミュンヘン、ウィーン1992年、117〜299頁を参照し得る。製造は好ましくは、界面法または溶融エステル交換法により好ましくは行われる。
【0027】
ポリカーボネートは、1種以上の防炎添加剤を添加することにより防炎化される。
【0028】
以下に記載される防炎添加剤に加えて、熱可塑性プラスチックは更なる添加剤、例えば、これらの熱可塑性プラスチック向けの常套の添加剤、例えば充填剤、紫外線安定剤、熱安定剤、帯電防止剤および顔料を、常套の量添加で含有できる。離型挙動および流れ挙動は、外部離型剤およびフロー剤(例えば、低分子量カルボン酸エステル、チョーク、石英粉末、ガラス繊維および炭素繊維、顔料およびそれらの組み合わせ)の添加によって、所望により改良できる。ポリカーボネートに対して常套に使用される添加剤は、例えば、WO 99/55772,15〜25頁、EP 1 308 084および“Plastics Additives Handbook”,Hans Zweifel編,第5版,2000年,Hanser Publishers,ミュンヘンの適切な章に記述されている。
【0029】
また、本発明の範囲内における基体(S)は、上記熱可塑性プラスチック製の複数の層を含有できる。
【0030】
熱可塑性の基体は、常套の熱可塑性加工法、例えば、単一成分または多成分射出成型法、押出し、共押出し、またはラミネーション法によって、熱可塑性プラスチックから製造できる。
【0031】
熱可塑性の基体の厚さは、適用される用途に依存する。ディスプレイ装置に関して、厚さは、1〜10mmの範囲、好ましくは1〜5mm、特に好ましくは2〜3mmが常套である。他の用途に置いては、より厚いまたはより薄い基体も使用される。自動車ガラスに関しては、約3mmの基体厚さが好ましく使用される。
【0032】
本発明の範囲内における適当な防炎加工剤は、とりわけ、脂肪族および芳香族スルホン酸のアルカリおよびアルカリ土類塩、スルホンアミドおよびスルホンイミド誘導体、例えば、カリウム ペルフルオロブタンスルホネート、カリウムジフェニルスルホンスルホネート、N−(p−トリルスルホニル)−p−トルエンスルフィミドカリウム塩、N−(N'−ベンジルアミノカルボニル)スルファニルイミドカリウム塩である。
【0033】
本発明に係る成形組成物において所望により使用できる塩は、例えば、ナトリウムまたはカリウムペルフルオロブタンスルフェート、ナトリウムまたはカリウムペルフルオロメタンスルホネート、ナトリウムまたはカリウムペルフルオロオクタンスルフェート、ナトリウムまたはカリウム2,5−ジクロロベンゼンスルフェート、ナトリウムまたはカリウム2,4,5−トリクロロベンゼンスルフェート、ナトリウムまたはカリウムメチルホスホネート、ナトリウムまたはカリウム−(2−フェニル−エチレン)ホスホネート、ナトリウムまたはカリウムペンタクロロベンゾエート、ナトリウムまたはカリウム2,4,6−トリクロロベンゾエート、ナトリウムまたはカリウム2,4−ジクロロベンゾエート、リチウムフェニルホスホネート、ナトリウムまたはカリウムジフェニルスルホンスルホネート、ナトリウムまたはカリウム2−ホルミルベンゼンスルホネート、ナトリウムまたはカリウム−(N−ベンゼンスルホニル)−ベンゼンスルホンアミド、三ナトリウムまたは三カリウムヘキサフルオロアルミネート、二ナトリウムまたは二カリウムヘキサフルオロチタネート、二ナトリウムまたは二カリウムヘキサフルオロシリケート、二ナトリウムまたは二カリウムヘキサフルオロジルコネート、ナトリウムまたはカリウムピロホスフェート、ナトリウムまたはカリウムメタホスフェート、ナトリウムまたはカリウムテトラフルオロボレート、ナトリウムまたはカリウムヘキサフルオロホスフェート、ナトリウムまたはカリウムまたはリチウムホスフェート、N−(p−トリルスルホニル)−p−トルエンスルフィミドカリウム塩、N−(N’−ベンジルアミノカルボニル)スルファニルイミドカリウム塩である。
【0034】
ナトリウムまたはカリウムペルフルオロブタンスルフェート、ナトリウムまたはカリウムペルフルオロメタンスルフェート、ナトリウムまたはカリウムジフェニルスルホン-スルホネート、およびナトリウムまたはカリウム2,4,6−トリクロロベンゾエートおよびN−(p−トリルスルホニル)−p−トルエンスルフィミドカリウム塩、N−(N’−ベンジルアミノカルボニル)スルファニルイミドカリウム塩が好ましい。最も特に好ましくは、カリウムノナ-フルオロ-1-ブタンスルホネート、およびナトリウムまたはカリウムジフェニルスルホンスルホネートである。カリウムノナ-フルオロ-1-ブタンスルホネートは、とりわけ、Bayowet(登録商標)C4(Lanxess、ドイツ、レーフェルクーゼン、CAS番号29420−49−3)、RM64(Miteni、イタリア)または3M(登録商標)Perfluorobutanesulfonyl Fluoride FC−51(3M、米国)として商業的に入手できる。記載された塩の混合物も同様に適当である。
【0035】
これらの有機防炎性塩は、いずれの場合も総組成物量に基づき、0.01wt%〜1.0wt%、好ましくは0.01wt%〜0.8wt%、特に好ましくは0.01wt%〜0.6wt%の量で、成形組成物中で使用される。
【0036】
更なる防炎加工剤として、例えば、モノマーおよびオリゴマーリン酸エステル、ホスホン酸エステル、ホスホネートアミン、ホスホネート、ホスフィネート、ホスファイト、ハイポホスファイト、ホスフィンオキシドおよびホスファゼンから成る群から選択されるリン含有防炎加工剤が適当であり、また、これらの群のうちの1種または複数種から選択される複数の成分を防炎加工剤混合物として使用できる。他の、ここでは特に言及されない、好ましくはハロゲンフリーの、リン化合物もまた、単独で、または他の、好ましくはハロゲンフリーのリン化合物との任意の組み合わせで使用できる。これらは、更に、純粋な無機のリン化合物、例えばリン酸ホウ素水和物を含む。更に、ホスホネートアミンもリン含有防炎加工剤として考慮される。ホスホネートアミンの製造は、例えば、米国特許明細書第5,844,028号に記載されている。ホスファゼンおよびその製造は、例えば、EP−A 728811、およびWO 97/40092に記載されている。シロキサン、リン酸化オルガノシロキサン、シリコーンまたはシロキシシランもまた、防炎加工剤として適用でき、例えば、EP 1342753、DE 10257079AおよびEP 1188792に更に詳細に記載されている。
【0037】
本発明の範囲内において、一般式(4)のリン化合物が好ましい:
【0038】
【化1】

(式中、
〜R20 は、互いに独立して、水素、6個以下の炭素原子を有する直鎖または分岐アルキル基であり、
nは、0.5〜50の平均値であり、および
Bは、それぞれ、C〜C12アルキル、好ましくはメチル、またはハロゲン、好ましくは塩素もしくは臭素であり、
qは、それぞれ、互いに独立して、0、1または2であり、
Xは、単結合、C=O、S、O、SO、C(CH、C〜Cアルキレン、C〜Cアルキリデン、C〜Cシクロアルキリデン、C〜C12アリーレンであって、ヘテロ原子を所望により含有する更なる芳香族環をそれに対して縮合させてもよく、または式(5)もしくは(6)の基を示し、
【0039】
【化2】

【0040】
【化3】

【0041】
式中、Yは、炭素であり、および
21およびR22は、各Yに対して個々に選択でき、互いに独立して、水素またはC〜Cアルキル、好ましくは水素、メチルまたはエチルであり、
mは、4〜7の整数、好ましくは4または5であり、
但し、少なくとも一つの原子YにおけるR21とR22とは同時にアルキルである。
【0042】
R1〜R20が互いに独立して水素またはメチル残基であり、q=0である式(4)のリン化合物が特に好ましい。XがSO、O、S、C=O、C〜Cアルキリデン、C〜CシクロアルキリデンまたはC〜C12アリーレンである化合物が特に好ましい。X=C(CHの化合物が最も特に好ましい。
【0043】
オリゴマー化度nは、記載されたリン含有化合物に関する製造方法から平均値としてもたらされる。一般に、オリゴマー化度nは、10未満である。nが0.5〜5の化合物が好ましく、0.7〜2.5が特に好ましい。n=1の分子の割合が高く、60%〜100%、好ましくは70%〜100%、特に好ましくは79%〜100%の化合物が最も特に好ましい。それらの調製において、上記化合物は、更に、少量のトリフェニルホスフェートを含有してもよい。この物質の量は、多くの場合5wt.%未満であり、トリフェニルホスフェート含有量が、式(4)の化合物に基づき0〜5wt%、特に0〜4wt%、特に好ましくは0.0〜2.5wt%の範囲である化合物が本発明において好ましい。
【0044】
本発明の範囲内において、式(4)のリン化合物は、いずれの場合も総組成物量に基づき、1wt%〜30wt%、好ましくは2wt%〜20wt%、特に好ましくは2wt%〜15wt%の量で使用される。
【0045】
記載されたリン化合物は、既知であり(例えば、EP−A 363608、EP−A 640655参照)、または、既知の方法に類似の方法により調製できる(例えば、Ullmanns Encyclopaedie der technischen Chemie,第18巻,301頁以降 1979年;Houben−Weyl,Methoden der organischen Chemie,第12/1巻,43頁;Beilstein 第6巻,177頁参照)。
【0046】
ビスフェノールAジホスフェートが本発明の範囲内で特に好ましい。ビスフェノールAジホスフェートは、とりわけ、Reofos(登録商標)BAPP(Chemtura、米国インディアナポリス)、NcendX(登録商標)P−30(Albemarle、米国ルイジアナ州バトンルージュ)、Fyroflex(登録商標)BDP(Akzo Nobel、オランダ国アルンハイム)またはCR 741(登録商標)(ダイハチ、大阪、日本)として商業的に入手可能である。
【0047】
また、これらの防炎加工剤の調製は、例えば、US-A2002/0038044に記載されている。
【0048】
本発明の範囲内で使用できる更なるリン酸エステルは、また、トリフェニルホスフェートであって、とりわけ、Reofos(登録商標)TPP(Chemtura)、Fyroflex(登録商標)TPP(Akzo Nobel)またはDisflamoll(登録商標)TP(Lanxess)として供給されるトリフェニルホスフェート、およびレソルシノールジホスフェートである。レソルシノールジホスフェートは、Reofos RDP(Chemtura)またはFyroflex(登録商標)RDP(Akzo Nobel)として市販されている。
【0049】
本発明の範囲内でさらに適当な防炎加工剤は、ハロゲン含有化合物である。これらは、臭素化化合物、例えば臭素化オリゴカーボネート(例えば、Chemtura製のテトラブロモビスフェノールAオリゴカーボネートBC−52(登録商標)、BC−58(登録商標)、BC−52HP(登録商標))、ポリペンタブロモベンジルアクリレート(例えば、Dead Sea Bromine(DSB)製のFR 1025)、テトラブロモビスフェノールAとエポキシドのオリゴマー反応生成物(例えば、DSB製のFR 2300および2400)、または臭素化オリゴスチレンおよびポリスチレン(例えば、Ferro Corporation製のPyro−Chek(登録商標)68PB、Chemtura製のPDBS 80およびFiremaster(登録商標)PBS−64HW)を含む。
【0050】
本発明に関しては、ビスフェノールA、特にテトラブロモビスフェノールAオリゴカーボネートに基づく臭素化オリゴカーボネートが好ましい。
【0051】
本発明の範囲内において、臭素含有化合物は、いずれの場合も全組成物量に基づき、0.1wt%〜30wt%、好ましくは0.1wt%〜20wt%、特に好ましくは0.1wt%〜10wt%、および最も特に好ましくは0.1wt%〜5.0wt%の量で用いられる。
【0052】
これらの熱可塑性物質用の常套の添加剤、例えば充填剤、紫外線安定剤、熱安定剤、帯電防止剤および顔料などを常套の量で、ポリマー基体用の熱可塑性ポリマーに添加できる。所望により、離型性、流動性および/または他の性能については、外部離型剤、フロー剤および/または他の添加剤を添加することにより影響を及ぼすことができる。添加剤として適当な化合物は記載されており、例えば、WO99/5577215〜25頁、EP 1308084および“Plastics Additives Handbook”,Hans Zweifel編,第5版 2000年,Hnaser Publishers,ミュンヘンの適当な章に記載されている。
【0053】
本発明に係る防炎性ポリカーボネートは、例えば、バイエルマテリアルサイエンス(レーフェルクーゼン)からMakrolon(登録商標)6657、Makrolon(登録商標)6555、またはMakrolon(登録商標)6485として商業的に入手できる。
【0054】
シリカ含有耐引掻き性コーティングKは、フラッドコーティング、浸漬、噴霧、ローラーコーティングまたはスピンコーティングなどにより、シリカ-含有耐引掻き性または耐摩耗性ラッカー、例えば、シリカ含有ハイブリッドラッカー、例えばシロキサンラッカー(ゾル-ゲルラッカー)から成る配合物から得られるコーティングである。
【0055】
本発明の範囲内におけるハイブリッドラッカーは、バインダーとしてハイブリッドポリマーを使用するものに基づく。ハイブリッドポリマー(ハイブリッド:ラテン語に由来し、「二元的な起源」を意味する)は、分子レベルにて異なる材料区分の構造単位を結合するポリマー材料である。それらの構造の結果として、ハイブリッドポリマーは、完全に新しい組合せの性能を示すことが出来る。複合材料(界面が定義され、相間の弱い相互作用を有する)とナノ複合材料(ナノスケール充填剤を用いる)とは異なり、ハイブリッドポリマーの構造単位は、分子レベルで相互に結合している。このことは、化学的方法、例えば、ゾル-ゲル法などを用いることによってもたらされ、それを用いることで、無機ネットワークを構築できる。有機的に反応性の前駆物質、例えば有機的に変性された金属アルコキシドの使用により、有機オリゴマー/ポリマー構造を更に生成できる。硬化後に有機/無機ネットワークを形成する、表面変性ナノ粒子を含有するアクリレートラッカーが、ハイブリッドラッカーとして同様に定義される。これらは熱的に硬化でき、およびUV硬化性のハイブリッドラッカーである。
【0056】
本発明の範囲内におけるゾル-ゲルラッカーは、ゾル-ゲル法により調製されるシリカ-含有ラッカーである。ゾル-ゲル法は、ゾルと称される、コロイド分散液から非金属の無機またはハイブリッドポリマー材料の合成に関する方法である。
【0057】
例えば、このようなゾル-ゲルコーティング溶液は、コロイド状の二酸化ケイ素およびオルガノアルコキシシランおよび/またはアルコキシシランまたは一般式RSi(OR')のオルガノアルコキシシランの混合物および/または一般式RSi(OR')のアルコキシシランの水性分散液を加水分解することにより調製できる(ただし、一般式RSi(OR')のオルガノアルコキシシランにおいて、Rは、一価のC〜Cアルキル基、または全体的若しくは部分的にフッ素化されたC〜Cアルキル基、ビニルまたはアリルユニット、アリール基またはC〜Cアルコキシ基を表わす。特に好ましくは、Rは、C〜Cアルキル基、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、tert-ブチル、sec-ブチルまたはn-ブチル基、ビニル、アリル、フェニルまたは置換フェニルユニットである。-OR'は、相互に独立して、C〜Cアルコキシ基、ヒドロキシ基、ホルミルユニットおよびアセチルユニットを含有する群から選択される。幾つかのゾル-ゲルポリシロキサンラッカーも、ハイブリッドラッカーの定義に該当する。
【0058】
コロイド状の二酸化ケイ素は、例えば、Levasil200A(HC Starck)、Nalco 1034A(Nalco Chemical社)、Ludox(登録商標)AS-40またはLudox(登録商標)LS(GRACE Davison)として入手できる。以下の化合物は、オルガノアルコキシシランの例として記載できる:3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリヒドロキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、メチルトリアセトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、フェニルトリアルコキシシラン(例えば、フェニルトリエトキシシランおよびフェニルトリメトキシシラン)およびそれらの混合物。以下の化合物をアルコキシシランの例として記載できる:テトラメトキシシランおよびテトラエトキシシランおよびそれらの混合物。
【0059】
例えば、有機および/または無機酸もしくは塩基を触媒として使用できる。
【0060】
また、1実施態様において、コロイド状の二酸化ケイ素粒子は、アルコキシシランから出発する事前濃縮によりインサイチュで形成できる(この関連で「The Chemistry of Silica」、Ralph K.Iler,John Wiley and Sons,(1979年)、第312〜461頁参照)。
【0061】
ゾル−ゲル溶液の加水分解は、溶媒、好ましくはアルコール溶媒、例えば、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノールまたはそれらの混合物などを添加することにより停止されるか、またはかなり遅くされる。所望により溶媒中に予め溶解されている、1種以上のUV吸収剤は、次いで、ゾル-ゲルコーティング溶液に添加され、それに続いて、数時間または数日/数週間のエージング工程が行われる。
【0062】
更に、更なる添加剤および/または安定剤、例えば、フロー剤、表面添加剤、増粘剤、顔料、着色剤、硬化触媒、IR吸収剤および/または接着促進剤を添加できる。亀裂に対するコーティングの影響を減少させることができる、ヘキサメチル-ジシラザンまたは同等な化合物の使用も可能である(WO2008/109072A参照)。耐引掻き性コーティングは、重合体のオルガノシロキサンを含有しないラッカーまたはゾルゲルラッカーから好ましくは得られる。特に好ましい耐引掻き性コーティングは、上記ゾル−ゲル含有溶液から製造される。熱による、UV安定化、シリカ含有ゾル-ゲルラッカーは、例えば、AS4000(登録商標)およびAS4700(登録商標)の商品名で、Momentive Performance Materials GmbHから入手できる。
【0063】
使用できる熱的に硬化可能なハイブリッドラッカーは、PHC587B(登録商標)またはPHC587C(登録商標)(Momentive Performance Materials GmbH)であり、これに関して、また、EP-A0570165を参照されたい。層厚は、1〜20μm、好ましくは3〜16μm、および特に好ましくは8〜14μmである。
【0064】
また、シリカ-含有耐引掻き性コーティングとして、UV硬化性のシリカナノ粒子含有アクリレートラッカーを使用でき、WO2008/071363AまたはDE-A2804283において開示される。商業的に入手可能な系はUVHC3000(登録商標)(Momentive Performance Materials GmbH)である。
【0065】
耐引掻き性コーティングの層厚は、好ましくは1〜25μmの範囲、特に好ましくは4〜16μmおよび最も特に好ましくは8〜15μmである。
【0066】
本発明による被覆物品はまた、高分子電解質(多)層(P)で被覆できる。高分子電解質層は、複数の個別層(多層)を有することができる。これらは、透過特性を上昇させるのに重要な役割を果たすことができる。調製は、自己組織化原理に従い、例えば、「Current Opinion in Colloid and Interface Science」第8巻(2003年)第86-95頁、に記載されるように行うことができる。多層に使用される各成分は、カチオン性ポリマー、例えばポリアリルアミン塩酸塩(PAH)、ポリジアリルジメチルアンモニウム塩化物(PDADMAC)またはポリエチレンイミンなど、および使用されるアニオン性ポリマーは、例えば、ポリスチレンスルホン酸Na、ポリアクリル酸またはデキストラン硫酸である。「Langmuir」第23巻(2007年)、第8833頁〜第8837頁、またはChem.Mater.第19巻(2007年)、第1427〜1433頁に記載されるように、イオン性の高分子電解質として、帯電ナノ粒子、例えば強い負のゼータ電位を備えるシリカナノ粒子、または、強い正のゼータ電位を備える二酸化チタンを使用できる。特に、ガラスに施されたシリカ含有高分子電解質多層が、例えば90%の透過率から99%以上の透過率の、透過率上昇効果を有することが既知である。上記文献に記載されるように、このような高分子電解質層の厚さは、多層の数に応じて、一般に、約50〜200nmの大きさのオーダーであり、一般に1000nm(1μm)を著しく下回る。
【0067】
記載されるように、高分子電解質(PEL)コーティングは、極めて高い透過率値をもたらすことができるが、このようなPEL表面の耐引掻き性は比較的低い。高分子電解質多層の透過効果は、今のところPEL外層に関してのみ記載されているが、驚くことに、シリカ含有耐引掻き性の外部コーティングを有する防炎性基体を具備する本発明に係る物品にも使用できる。これを受けて、1実施態様において、まず、PEL多層を両面に備える基体を調製し、ついで、それは、片側に(外面に)適当なシリカ含有耐引掻き性コーティングを施されることができる。
【0068】
したがって、本発明に係る物品に関して、特に好ましくは、高分子電解質(多)層−基体−高分子電解質(多)層−耐引掻き性層を具備する構造である。
【0069】
外面における極めて良好な耐引掻き性を有すると共に、このような系はまた、94%よりも大きい高透過率値を示すので、本発明に係る被覆物品、特にディスプレイ装置の製造における使用に特に適している。
【0070】
本発明に係る被覆物品は、増加した透過率および極めて良好な耐摩耗性と組合せて、優れた防炎性能を有する。「レインボー効果」は、10μmより大きい層厚にて観察されない。特に好ましい実施態様において、ポリマー基体に関する材料は、>10(ISO1133に従い、300℃および1.2kgにて測定)の溶融粘度値(メルトボリュームレートMVR、単位cm/10分)を有する、特に好ましくは、MVR>20(ISO1133に従い、300℃および1.2kgにて測定)、および最も特に好ましくはMVR>30(ISO1133に従い、300℃および1.2kgにて測定)を有する防炎性ポリカーボネートから成る。
【0071】
防炎性特性は、例えば、1種以上の下記の防炎性試験により定義できる:
プラスチックの難燃性は、通常、Underwriters Laboratories IncのUL94V法に従い定義される。安全性の基準は、「Test for Flammability of Plastic Materials for Parts in Devices and Appliances”、14頁以降,ノースブルック1998年;b)J.Troitzsch,“International Plastics Flammability Handbook”,346頁以降,Hanser Verlag,ミュンヘン1990年(更なる詳細は3.2以下を参照)に記載されている。それによって、ASTM基準試験片の残炎時間およびドリップ挙動を評価する。
【0072】
防炎加工プラスチック材料が燃焼性評価UL94V−0を得るために、下記詳細な基準を満たさなければならない:1セットの5つのASTM基準試験片(寸法:127×12.7×X、X=試験片の厚さ、例えば3.2mm、3.0mm、1.5mm、1.0mmまたは0.75mm)では、全てのサンプルは、10秒間にわたって2回点火させて規定された裸火を施された後、10秒を超えて燃焼しない。
【0073】
5つのサンプルの10回の点火に対する残炎時間の合計は50秒を超えてはならない。更に、いずれの燃焼材料も落下してはならず、試験片は完全に燃焼してはならず、試験片は30秒よりも長く赤熱し続けてはならない。評価UL94V−1は、個々の残炎時間が30秒を超えないこと、および5つのサンプルの10回の点火に対する残炎時間の合計が250秒を超えないことを要求する。総残光時間は、250秒を超えてはならない。別の基準は、上記基準と同じである。燃焼材料が落下し、UL94V−1の基準を満たす場合、UL94V−2分類の評価が与えられる。
【0074】
試験片の可燃性は、更に、酸素指数(ASTM D 2863−77によるLOI)の決定によって評価される。
【0075】
防炎性の更なる試験は、DIN IEC 695−2−1に従うグローワイヤー試験(glow−wire test)である。この試験において、30秒の残炎時間を超過せず、および試験片が炎ドリップをもたらさない最大温度は、550℃〜960℃の温度にてグローワイヤーを用いて、10個の試験片(例えば寸法60×60×2mmまたは1mmのシートに関して)において測定される。この試験は、電気工学もしくは電子工学の分野において特に有益である。なぜなら、電子製品における構造要素は、それらのすぐ近くの部品を着火しうる故障または過負荷の場合において、このような高温に到達できるからである。グローワイヤー試験において、そのような熱応力がシミュレートされる。
【0076】
特別の形態のグローワイヤー試験、IEC 60695−1−13に従うグローワイヤー着火試験、において、焦点は、試験片の着火挙動にある。この試験において、サンプルは、試験プロセス中に着火してはならない。着火は、5秒を超える炎の出現と定義される。サンプルの燃焼ドリップは許されない。
【0077】
本発明に係る物品は、上記防炎性試験の1種以上を通過し、更に、更なる有利な性能、特に、耐引掻き性および耐摩耗性、透過率/透明性およびレインボー効果に関する有利な特性を有する。
【0078】
被覆物品は、高透明性である。特に、それらは、550nmの波長にて、少なくとも88%、好ましくは89%よりも大きい、最も特に好ましい場合には89.5%よりも大きいか90%よりも高い透過率を示す。また、700nmの波長にて、少なくとも90%、特に91%よりも大きい、および最も特に好ましい場合には91.5%よりも大きいか92%よりも大きい透過率を有する。
【0079】
この透過率と組合せて、また、被覆物品は、良好な耐摩耗性および増加した難燃性値を示す。
【0080】
耐摩耗性に関連して、15%ヘーズよりも小さい値、特に10%よりも小さい、最も特に5%よりも小さいヘーズ値が、摩耗試験(DIN53754)に従い得られる。
【0081】
基準UL94Vに従う難燃性に関して、試験片の少なくとも70%は評定V1またはそれより良好な評定を達成し、好ましくは試験片の80%が評定V1またはより良好な評定を達成し、特に好ましくは試験片の90%が評定V1またはより良好な評定を達成し、最も好ましくは試験片の100%が評定V1またはより良好な評定を達成する。
【0082】
したがって、本発明に係る物品は、ASTM E1348に従い測定された、550nmの波長にて、少なくとも88%、好ましくは89%よりも大きい、および最も特に好ましい場合89.5%よりも大きいか90%よりも大きい透過率を有し、およびASTM E1348に従い測定された、700nmの波長にて、少なくとも90%、特に91%よりも大きい、および最も特に好ましい場合には91.5%よりも大きいか92%よりも大きい透過率を有し;DIN53 754に従い測定された摩耗試験において、15%ヘーズよりも小さい値、特に10%よりも小さい、最も特に5%よりも小さいヘーズ値を示し;および基準UL94Vによる難燃性試験は、70%の確率でV1またはより良好な評定を達成し、特に、80%の確率でV1またはより良好な評定を達成し、特に好ましくは90%の確率でV1またはより良好な評定を達成し、最も特に好ましくは100%の確率でV1またはより良好な評定を達成することにより特徴づけられる。
【0083】
従って、本発明に係る物品は、例えば、フラットディスプレイ装置の経済的な製造において使用でき、このことは、所望により、縁取りおよびスクリーンを単一の射出成型法で製造することができる。更に本発明は、また、多の板ガラス用途、例えば建築板ガラスおよび自動車板ガラスに使用できる。
【実施例】
【0084】
A)基体
例1)防炎性で、容易に流動するポリカーボネートの調製
例1の組成物を調製するために、以下の熱可塑性ポリマーを使用した:
Makrolon(登録商標)2408は、バイエルマテリアルサイエンスAGから商業的に入手可能なビスフェノールA系ポリカーボネートである。Makrolon(登録商標)2408は、EU/FDA品質を有し、UV吸収剤を含有しない。ISO1133に従うメルトボリュームフローレート(MVR)は、300℃および1.2kgの荷重にて19cm/(10分)である。
【0085】
Makrolon(登録商標)LED2245は、バイエルマテリアルサイエンスAGから商業的に入手可能な直鎖状ビスフェノールA系ポリカーボネートである。Makrolon(登録商標)LED2245は、EU/FDA品質を有し、UV吸収剤を含有しない。ISO1133に従うメルトボリュームフローレート(MVR)は、300℃および1.2kgの荷重にて35cm/(10分)である。
【0086】
以下の添加剤を使用した。
「C4」=Bayowet(登録商標)C4は、ランクセスAGから商業的に入手可能なカリウムノナフルオロ-1-ブタンスルホネートである。
【0087】
本発明に係る防炎性の熱可塑性組成物は、a)成分を計量するデバイス、b)25mmの軸径を有する共回転二軸ニーダー(Werner and Pfleiderer製のZSK 25)、c)溶融押出物を形成する穴あきダイ、d)押出物を冷却し強固させる水浴、および製粒機を具備するデバイスで配合される。
【0088】
例1に関する熱可塑性ポリマー組成物を、90wt%のMakrolon(登録商標)LED2245顆粒に対して、99.35wt%の粉状Makrolon(登録商標)2408と0.65wt%の防炎加工剤C4を含有する粉末混合物10wt%を計量添加することにより調製した。
【0089】
以下のプロセスパラメータをこのようにして設定した:
【0090】
【表1】

【0091】
36cm/10分のMVR(300℃/1.2kg)を有する容易に流動するビスフェノールAポリカーボネートが得られた(ISO1133に従い測定した)。
【0092】
基体層の製造
例2)Makrolon(登録商標)6555製のシート
Makrolon(登録商標)6555製のシート(バイエルマテリアルサイエンスAG製のビスフェノールAポリカーボネート、中間粘度:MVR(300℃/1.2kg)10cm/10分、塩素-および臭素を含有しない防炎加工剤を有する)を、以下に記載された粒状物を加工することにより製造した。いずれの場合も、シート様の試験片を測定して100×150×2mmおよび100×150×3mmとした。このことは、18mmの軸径を有するArburg Allrounder270S-500-60を用いて行われる。以下のプロセスパラメータを設定する:
【0093】
【表2】

【0094】
例3)例1)の組成物から成るシート:
例2と同様に、例1における、臭素を含有しない防炎加工剤を有する、36cm/10分のMVR(ISO1133に従う、300℃/1.2kg)を示す、ビスフェノールAポリカーボネートからシートを製造した。
【0095】
【表3】

【0096】
例4)Makrolon(登録商標)6555から成るUL試験ロッド
同じ射出成形機(18mmの軸径を有するArburg Allrounder270S-500-60)を用い。および例2と同一のプロセスパラメータを用いて、種々の厚さのUL試験ロッドを調製した:試験ロッド寸法:127mm×12.7mm×Dmm(D(mm)=3.2/2.6/2.2および2.0)とし、Makrolon(登録商標)6555(ビスフェノールAポリカーボネート、バイエルマテリアルサイエンスAG製、中間粘度:MVR(300℃/1.2kg、ISO1133に従う)10cm/10分、塩素および臭素を含有しない防炎加工剤を有する)を射出成形した。
UL試験ロッドは、UL94燃焼分類に関するASTM標準試験片である。
【0097】
例5)例1の組成物から成るUL試験ロッド
例4と同様に、UL試験ロッドは、例1における、臭素を含有しない防炎加工剤を有し、36cm/10分のMVR(300℃/1.2kg)である、ビスフェノールAポリカーボネートから調製された。
【0098】
B)被覆物品の製造及び試験
a)使用した耐引掻き性ラッカー
PHC587(登録商標)は、Momentive Performance Materials GmbH(ドイツ)から商業的に入手でき、メタノール、n-ブタノールおよびイソプロパノールの混合溶媒中で20±1wt%のシリカ固形分を有する有機成分を含有する、耐水性で耐摩耗性のシリカ含有耐引掻き性ラッカー配合物である。
【0099】
耐引掻き性層は中間プライマー層を用いることなくポリカーボネート基体へ施すことができる。ここで導入され記載される例において、コーティングは、以下に記載されるようなフラッディング法を用いることにより行われた。
コーティング後、温風オーブン中で110℃にて60分間、焼戻しを行う(硬化工程)。
【0100】
KASI-PC Flex(登録商標)は、固形分を有し、KRDコーティングGmbHから商業的に入手でき、およびイソプロピルグリコール/メトキシプロパノール70:30溶媒混合物中で18〜30wt%の固形分を有し、大部分はPHC587(登録商標)と類似する、耐水性で耐摩耗性のシリカ含有耐引掻き性ラッカー配合物である。
【0101】
耐引掻き性ラッカーは、中間プライマー層を用いることなくポリカーボネート基体へ同様に施すことができる。ここで導入され記載される例において、コーティングは、以下に記載されるようなフラッディング法を用いることにより行われた。
コーティング後、温風オーブン中で110℃にて60分間、焼戻しを行う(硬化)。
【0102】
SHP401(登録商標)/AS4000(登録商標)は、Momentive Performance Materials GmbH製の、商業的に入手可能なプライマー配合物/耐引掻き性ラッカー系である。
【0103】
AS4000(登録商標)は、PHC587およびKASI-PC Flexと類似する、シリカ含有耐引掻き性ラッカー配合物であるが、PHCまたはKASIと異なり、あらゆる有機成分を含有しない。PHC587またはKASI-PC Flexと同様に、コーティングの後に130℃での硬化が必要である。
【0104】
SHP401(登録商標)は、AS4000(登録商標)向けのポリメチルメタクリレートに基づく溶媒含有プライマー配合物である。
プライマー配合物でコーティングした後、溶媒を蒸発させてプライマー層を形成させる。
【0105】
UVHC3000(登録商標)は、Momentive Performance Materials GmbH製の、商業的に入手可能な耐引掻き性ラッカー系である。それは、シリカナノ粒子含有の、溶媒系で、UV架橋性の耐引掻き性ラッカー配合物である。
コーティング後に、75℃にて10分間溶媒を蒸発させ、次いで、約10J/cmの放射線量でUV光を用いて架橋が行われる。
【0106】
b)試験方法:
層厚:白色光干渉計(ETA、SPB-T、ETA-Optik GmbH)を用いる。
接着性:接着性は、DIN EN ISO 2490に従うクロスカット試験を用いて測定され、それに続けて、試験片の視覚的評価が行われた。クロスカット値0は、全ての切り口が完全に滑らかであり、クロスカット角は剥離しないことを意味する。クロスカット値5は、全てのクロスカット角が剥離することを意味する。これら2つの極地の間の値は、基準に従い割り当てられる。
【0107】
ヘーズ:ヘーズは、広角光散乱によりASTM D 1003-00に従い定義される。値は、単位%ヘーズ(H)で表わされ、低い値(例えば0.5%H)は、低いヘーズであり高い透明性を表わす。
【0108】
摩耗試験:耐摩耗性(摩耗、DIN 53 754)は、散乱光の増加による摩耗ホイール法を用いることにより測定される。1ホイールあたり500gの重量が施される、CS-10F Calibrase研磨ホイール(タイプIV)を備えるモデル5151Taber研磨機を使用した。ヘーズ値は、特定のサイクル回数、ここでは100または1000サイクルの後に測定され、低い値、例えば0.5%Hは、良好な耐摩耗性を表わす。等級の次数に関して、約2〜3のΔヘーズ1000値(1000摩耗サイクル後のヘーズ値)は、極めて優れた耐摩耗性を表わす。
【0109】
鉛筆硬度:ラッカー表面の硬度は、異なる硬度の鉛筆を用い、ASTM3363に従い行われ、Bは柔らかい、Fは堅い(firm)、およびHは硬い(hard)を表わす。
【0110】
スチールウール試験:この試験は、150gの重量のRakso グレード00のスチールウールを使用し、Byk Gardner製の試験装置「摩耗試験機」により行われた。合計20往復の摩擦が行われ、引っ掻き傷を視覚的に評価する。
【0111】
水中での貯蔵:サンプルを、ASTM870-02に従い、65±2℃の温度にて水中で10日間貯蔵する。毎日、上記の光学試験および機械的試験を行う。
【0112】
煮沸試験:サンプルを沸騰水中に配置し、0.5、1、2、3および4時間後に上記光学試験および機械的試験を行う。例えば、損傷なく4時間の煮沸試験を通過した場合、良好な長期間安定性を予測できる。
【0113】
透過率試験:装置:Perkin Elmer Lamda 900を用い、総透過率を測定する。
【0114】
ニュートン環(レインボーカラー):検出は白色光干渉分光法により行い、55°の角度にて白色光源で基体を照らす。層厚のばらつきに起因して「レインボー効果」が生じる場合、これらの効果はCCDカメラで記録される。
【0115】
燃焼試験:燃焼試験は、公式なUnderwriters Laboratories(UL)試験法に記載されたように、UL94V基準に従い、試験ロッドについて行う。
【0116】
可燃性分類は以下のように定義される:
【0117】
【表4】

【0118】
c)耐引掻き性ラッカーでの基体のコーティング
例6)PHC587(登録商標)を用いる例2のシートの片面コーティング(フラッディング)
90°の角度にてフラッディングすることにより基体を被覆し、フードの下で室温にて30分間空気に曝し、次いで、110℃にて60分間焼き戻した。
基体と比較して、コーティングにより以下の性能の変化がもたらされた:
【0119】
【表5】

【0120】
明らかなように、全ての機械的特性および、驚くべきことに、透過率特性もコーティングにより大きく向上した。
【0121】
例7)PHC587(登録商標)を用いる例2のシートの両面コーティング(浸漬)
104×147×3mmのサイズに切断した基体シートを、約1秒間ラッカー溶液中に浸させ、室温にて約30分間空気に曝し、次いで110℃にて60分間焼き戻した。
浸漬法を用いることにより、機械的特性(摩耗またはΔヘーズ値、スチールウール試験および鉛筆硬度)の観点において、フラッディング法により片面を施されたコーティングと同程度の耐引掻き性層が得られた。両面にコーティングを用いることにより透過率値を更に増加させることができた。
【0122】
【表6】

【0123】
例8)PHC587(登録商標)を用いる例4の試験ロッドの両面コーティング
PHC587(登録商標)耐引掻き性ラッカー溶液中に例4の試験ロッドを浸漬することにより両面のコーティングをおこなった。次いで、試験ロッドを室温にて30分間空気に曝し、次いで、110℃にて60分間焼き戻した。
燃焼に関する挙動を、上記UL基準に従い試験した。以下の表は、単一のロッドに対して炎を施した結果を示す。
【0124】
【表7】

【0125】
燃焼試験の概要:結果は、燃焼に関する例4の基体の挙動が、コーティングにより大幅に改良されたことを示す(例8)
【0126】
全体としての試験の概要:PHC587(登録商標)を用いるコーティングにより、機械的な表面特性(摩耗性、鉛筆硬度)および光学特性(ヘーズおよび透過率)は共に、大幅に改良された。さらに、燃焼に関する挙動における際立った改良についても、もたらされた。
【0127】
例9)KASI-PC Flex(登録商標)を用いる例2のシートの片面コーティング(フラッディング)
90°の角度でのフラッディングにより、例2の基体に対してKASI-PC Flex(登録商標)を施し、これにより表面を被覆した。被覆された基体をフードの下で室温にて45分間乾燥させ、次いで110℃にて120分間焼き戻した。
【0128】
基体と比べて、以下の性能が測定された:
【0129】
【表8】

【0130】
例10)KASI-PC Flex(登録商標)を用いる例2のシートの両面コーティング(浸漬)
104×147×3mmのサイズに切断した基体シート(例2)を、約1秒間ラッカー溶液中に浸させ、室温にて約30分間空気に曝し、次いで110℃にて60分間焼き戻した。
【0131】
浸漬法を用いることにより、機械的特性(摩耗性またはΔヘーズ値、スチールウール試験および鉛筆硬度)の観点において、フラッディング法により片面を施されたコーティング(例9)と同程度の耐引掻き性層が両面に得られた。両面にコーティングを用いることにより透過率値を更に増加させることができた。
【0132】
【表9】

【0133】
例11)浸漬による、KASI-PC Flex(登録商標)を用いる例4の試験ロッドの両面コーティング(浸漬)
ラッカー溶液中に2.6mmの厚さを有する例4のUL試験ロッドを浸漬ことにより、両面へのコーティングをおこなった。次いで、ロッドを室温にて30分間空気に曝し、次いで、130℃にて60分間焼き戻した。
燃焼に関する挙動を、上記UL基準に従い試験した。以下の表は結果を示す。
【0134】
【表10】

【0135】
例12)SHP401(登録商標)/AS4000(登録商標)を用いる例2のシートの片面コーティング(フラッディング)
フラッディングによりプライマーラッカー配合物SHP401(登録商標)で基体の片面を被覆し、次いで、室温にて30分間空気に曝した。
次いで、耐引掻き性ラッカーAS4000(登録商標)を、フラッディングによりプライマー層に施し、基体を室温にて30分間空気に曝し、次いで、130℃にて60分間焼き戻した。
【0136】
基体と比較して、以下の特性が測定された:
【0137】
【表11】

【0138】
例13)SHP401(登録商標)/AS4000(登録商標)を用いる例4の試験ロッドの両面コーティング(浸漬)
ラッカー溶液中に2.2mmの厚さを有する例4の試験ロッドを浸漬ことにより、両面へのコーティングをおこなった。次いで、ロッドを室温にて30分間空気に曝し、次いで、130℃にて60分間焼き戻した。
燃焼に関する挙動を、上記UL基準に従い試験した。以下の表は結果を示す。
【0139】
【表12】

【0140】
例14)UV HC3000(登録商標)を用いる例3のシートの片面コーティング(フラッディング)
例3は、36cm/10分のMVRを有する容易に流動するポリカーボネートから成る基体である。
90°の角度でのフラッディングにより基体は被覆され、フードの下で室温にて10分間空気に曝され、次いで、75℃にて10分間焼き戻された。
次いで、Feランプを用いてCO雰囲気下、UV架橋をおこなった。約10J/cmのUV放射を施した。
【0141】
基体と比べて、コーティングにより以下の性能変化がもたらされた:
【0142】
【表13】

【0143】
例15)UV HC3000(登録商標)を用いる例3の基体シートの両面コーティイング(浸漬)
104×147×3mmのサイズに切断した基体シートを、約1秒間ラッカー溶液中に浸させた。それは、フードの下で室温にて10分間空気に曝され、次いで、75℃にて10分間焼き戻された。次いで、Feランプを用いてCO雰囲気下、UV架橋をおこなった。約10J/cmのUV放射を施した。
【0144】
浸漬法を用いることにより、機械的特性(摩耗性またはΔヘーズ値、スチールウール試験および鉛筆硬度)の観点において、フラッディング法により片面を施されたコーティング(例14)と同程度の耐引掻き性層が両面に得られた。両面にコーティングを用いることにより透過率値を更に増加させることができた。
【0145】
【表14】

【0146】
明らかなように、例14)および15)の両方において、コーティングにより、全ての機械的特性と、驚くべきことに、透過特性も大幅に改良された。
【0147】
例16)UV HC3000(登録商標)耐引掻き性ラッカー中での浸漬による、例1の組成物から成るUL試験ロッドの両面コーティング
UV HC3000(登録商標)耐引掻き性溶液中に例5の試験ロッドを浸漬することにより、試験ロッドの両面にコーティングをおこなった。次いで、例15のように溶媒を蒸発させ、UV架橋をおこなった。
燃焼における挙動を、上記のようなUL試験基準に従い評価した。
【0148】
【表15】

【0149】
燃焼試験の概要:コーティングにより(例16)、燃焼に関する例5の挙動は大幅に改良されたことが結果から分かる。
【0150】
全体としての試験の概要:機械的な表面特性(摩耗、鉛筆硬度)および光学特性(ヘーズおよび透過率)は共に、コーティングにより大幅に改良された。更に、燃焼に関する挙動において、際立った改良ももたらされた。
【0151】
約10μmを超える層厚の範囲において、ラッカー表面の場合にしばしば観察されるレインボー効果は観察されなかった。
【0152】
例17)KASI-PC Flex(登録商標)を用いる例3のシートの片面コーティング(フラッディング)
例3の基体は、36cm/10分のMVRを有する容易に流動するポリカーボネートである。例9と同様にコーティングをおこなった。
基体と比べて、コーティングにより以下の特性変化がもたらされた:
【0153】
【表16】

【0154】
例18)KASI-PC Flex(登録商標)を用いる例3の基体シートの両面コーティング(浸漬)
104×147×3mmのサイズに切断した基体シートを、約1秒間ラッカー溶液中に浸させ、室温にて約30分間空気に曝し、次いで、110℃にて60分間焼き戻した。
【0155】
浸漬法を用いることにより、機械的特性(摩耗またはΔヘーズ値、スチールウール試験および鉛筆硬度)の観点において、フラッディング法により片面を施されたコーティング(例17)と同程度の耐引掻き性層が両面に得られた。両面にコーティングを用いることにより透過率値を更に増加させることができた。
【0156】
【表17】

【0157】
明らかなように、例17)および18)のいずれの場合においても、コーティングにより全ての機械的特性と、驚くべきことに、透過率特性が大幅に改良された。
【0158】
例19)KASI-PC Flex(登録商標)中に浸漬することによる、例5のUL試験ロッドの両面コーティング
KASI-PC Flex(登録商標)耐引掻き性ラッカー溶液中に例5の試験ロッドを浸漬することにより、試験ロッドの両面にコーティングをおこなった。次いで、ロッドを室温にて30分間空気に曝し、次いで、110℃にて60分間焼き戻した。
【0159】
【表18】

【0160】
燃焼試験の概要:コーティングにより、燃焼に関する例5の挙動が大幅に改良されたことが結果より明らかである。
【0161】
全体としての試験の概要:機械的な表面特性(摩耗、鉛筆硬度)および光学特性(ヘーズおよび透過率)は共に、コーティングにより大幅に改良された。更に、燃焼に関する挙動において、際立った改良ももたらされた。
【0162】
約10μmを超える層厚の範囲において、ラッカー表面の場合にしばしば観察されるレインボー効果は観察されなかった。
【0163】
例20:高分子電解質法による例2の基体のコーティング
シートを以下の浸漬法にさらした:
カチオン性の高分子電解質浴中での浸漬
水浴中での浸漬
(アニオン性ナノ粒子を含有する)アニオン性の高分子電解質浴中での浸漬
水浴中での浸漬
【0164】
この浸漬順の後、いわゆる高分子電解質二重層の層が得られる。複数の高分子電解質二重層の層をコーティングすることは、該順序を複数回繰り返すことにより、その結果として得られる。
以下の高分子電解質溶液を使用した:
【0165】
工程a.に関するカチオン性の高分子電解質溶液:pH9.0ホウ酸塩緩衝液中のPDADMAC0.05%
6.25gのポリジアリルジメチルアンモニウムハイドロクロライド(PDADMAC40%水溶液、MW<100000g/モル、アルドリッヒ)を、pH9.0で5リットルのホウ酸塩緩衝液(5リットルの水中に、3.73gのKCl、3.09gのホウ酸、NaOHでpH9.0に調製した)中に溶解させた。
【0166】
工程bに関するアニオン性ナノ粒子溶液:pH9.0ホウ酸塩緩衝液中のLevasil(登録商標)300、0.05%
8.33gのLevasil300(SiO2ナノ粒子、9nm、30%水溶液、HC Starck)を、pH9.0で5リットルのホウ酸塩緩衝液(5リットルの水中に、3.73gのKCl、3.09gのホウ酸、NaOHでpH9.0に調製した)中に溶解させた。
【0167】
例2の基体上にPDADMAC/Levasil300に基づく12層の2重層の製造
a.カチオン性のPDADMAC溶液中での浸漬
150×100mmのサイズを有する例2のシートを、750mlのカチオン性の高分子電解質溶液PDADMACを含有する1リットルのガラスビーカー中で、5分の滞留時間にて浸漬させた。次いで、新しい脱塩水を含有するガラスビーカー中に、シートを3回浸漬させる(各回1分間)。
【0168】
b.アニオン性のシリカナノ粒子溶液中での浸漬
カチオン溶液でコートされた基体を、750mlのアニオン性のナノ粒子溶液Levasil300を含有する1リットルのガラスビーカー中で、5分の滞留時間にて浸漬させた。次いで、新しい脱塩水を含有するガラスビーカー中に、シートを3回浸漬させる(各回1分間)。
【0169】
工程a.およびb.を行った後、PDADMAC/Levasil300コーティングの第1二重層の層が得られた。
【0170】
工程a.およびb.を合計11回繰返し、12層のPDADMAC/Levasil300二重層の層を有する基体が最終的に得られた。次いで、被覆されたシートを、温風乾燥キャビネット中で130℃にて30分間焼き戻した。
【0171】
例21:高分子電解質層と耐引掻き性層の併用コーティング
次いで、例6と同様に耐引掻き性ラッカーPHC587(登録商標)を用いて、フラッディング法により、例20の被覆シートの片面を、コートした。以下の機械的データを有する被覆シートが得られた:
基体と比べて、以下の特性変化がコーティングによりもたらされた:
【0172】
【表19】

【0173】
例22)高分子電解質層と耐引掻き性層を用いるUL試験ロッド(例4)の両面コーティング
例22a)2.6mmの厚さを有する例4からのUL試験ロッドを、まず、合計12層のPDADMAC/Levasil300二重層の層で、例20と同様に被覆した。
【0174】
例22b)次いで、PHC587(登録商標)耐引掻き性ラッカー溶液中で試験ロッドを浸漬させることにより例8と同様に試験ロッドの両面を被覆した。次いで、ロッドを室温にて30分間空気に曝し、その後130℃にて60分間焼き戻した。燃焼時の挙動を、UL基準を用いて試験した。
【0175】
【表20】

【0176】
全体としての試験の概要:機械的な表面特性(摩耗、鉛筆硬度)および光学特性(ヘーズおよび透過率)は共に、高分子電解質層と耐引掻き性層を用いてコーティングを併用することにより、大幅に改良された。更に、燃焼に関する挙動において、際立った改良ももたらされた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)透過率>75%(3mmの層厚および550nm波長にて、ASTM E1348に従い測定した)を有し、および防炎加工剤を含有する熱可塑性プラスチックから成る基体層を含む基体(S)、
b)該基体の片面または両面上の、シリカ含有耐引掻き性コーティング(K)、および
c)片面または両面上の、所望による高分子電解質(多)層(P)、
を含有する被覆物品。
【請求項2】
基体(S)が透過率>80%を有する、請求項1に記載の被覆物品。
【請求項3】
基体(S)が透過率>85%を有する、請求項1に記載の被覆物品。
【請求項4】
基体が、10以上のMVR(ISO1133に従い300℃および1.2kgにて測定した)を有するポリカーボネートまたはポリカーボネート混合物であることを特徴とする、請求項1に記載の被覆物品。
【請求項5】
基体が、20以上のMVRを有するポリカーボネートまたはポリカーボネート混合物であることを特徴とする、請求項4に記載の被覆物品。
【請求項6】
基体が、30以上のMVRを有するポリカーボネートまたはポリカーボネート混合物であることを特徴とする、請求項4に記載の被覆物品。
【請求項7】
防炎加工剤が、脂肪族および芳香族スルホン酸のアルカリおよびアルカリ土類塩、スルホンアミドおよびスルホンイミド誘導体、ならびにリン含有防炎加工剤からなる群の少なくとも1種から選択される、請求項1に記載の被覆物品。
【請求項8】
防炎加工剤が、カリウムノナ-フルオロ-1-ブタンスルホネート、ならびにナトリウムおよびカリウムジフェニルスルホンスルホネートからなる群の少なくとも1種から選択される、請求項1に記載の被覆物品。
【請求項9】
1種以上の高分子電解質層が基体に施されていることを特徴とする、請求項1に記載の被覆物品。
【請求項10】
基体(S)が、シート、プレートまたはフィルムであることを特徴とする、請求項1に記載の被覆物品。
【請求項11】
シリカ含有耐引掻き性コーティングが熱的に硬化可能なハイブリッドラッカーから得られるコーティングである、請求項1に記載の被覆物品。
【請求項12】
被覆物品が、550nmの波長で少なくとも88%のASTM E1348に従い測定された透過率と、700nmの波長で少なくとも90%のASTM E1348に従い測定された透過率と、およびDIN53 754に従い測定された摩耗試験において15%ヘーズよりも少ない値を有し、ならびに基準UL94Vに従う難燃性試験において70%の確率でV1またはより良好な評価をもたらすことを特徴とする、請求項1に記載の被覆物品。
【請求項13】
工程段階(i)基体層の製造、(ii)高分子電解質層を用いる1回又は複数回の所望によるコーティング、および(iii)シリカ含有耐引掻き性コーティングを用いる片面および両面上のコーティングを含む、請求項1に記載の被覆物品の製造方法。
【請求項14】
フラットディスプレイ装置または板ガラス、特に自動車または建築板ガラスの製造における請求項1に記載の被覆物品の使用。
【請求項15】
請求項1に記載の被覆物品を含むフラットディスプレイ装置または板ガラス。

【公表番号】特表2013−517364(P2013−517364A)
【公表日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−549341(P2012−549341)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【国際出願番号】PCT/EP2011/050647
【国際公開番号】WO2011/089138
【国際公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(512137348)バイエル・インテレクチュアル・プロパティ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (91)
【氏名又は名称原語表記】Bayer Intellectual Property GmbH
【Fターム(参考)】