説明

高い陰イオン交換能を有する炭酸汚染し難い安定性に優れた層状複水酸化物とその合成方法

【目的】 ハイドロタルサイトやハイドロカルマイト、パイロオーライトなどに代表される層状複水酸化物に関し、その陰イオン交換性と炭酸汚染し難い安定性を高めた合成法およびその合成法による高性能な層状複水酸化物を提案する。
【構成】 高い陰イオン交換能を有し、空気中もしくは水中の二酸化炭素や炭酸イオンによる炭酸汚染が起こり難く、期待される陰イオン吸着能力を長期間に渡り維持でき、安定性に優れている高い陰イオン交換能を有する炭酸汚染し難い安定性に優れた層状複水酸化物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイドロタルサイトやハイドロカルマイト、パイロオーライトなどに代表される層状複水酸化物に関して、その陰イオン交換性と炭酸汚染し難い安定性を高めた合成法およびその合成法による高性能な層状複水酸化物を提案するものである。
【背景技術】
【0002】
層状複水酸化物とは、ハイドロタルサイトやハイドロカルマイト、パイロオーライトなどに代表されるような天然に産する鉱物の総称であり、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、鉄など天然に豊富に存在する元素の水酸化物を主骨格としている。そして、例えば、ハイドロタルサイトは特許文献1、ハイドロカルサイトは特許文献2、パイロオーライトは特許文献3で示されているように、その合成も比較的容易に行うことができる。
【0003】
また、これら層状複水酸化物は、陰イオン交換能を有していることが従来から知られている。そして、この陰イオン交換能によって、有害陰イオン(砒素、六価クロム、弗素、硼素など)を固定化することができれば、廃棄物の安全性向上技術、無害化環境技術において、汚染水の水質改善、有害物質の溶出防止、土壌改良などに寄与できるものと期待されている。
【特許文献1】特公昭50−30039号公報
【特許文献2】特開平4−154648号公報
【特許文献3】特開2001−233619号公報
【特許文献4】特公表平2001−524923号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の層状複水酸化物は合成時に陰イオンとして炭酸イオンを組み込み、安定化させたものや、上記特許文献4のように炭酸イオン以外のさまざまな陰イオンを層間に組み込むことができてもそれは安定性に乏しいものであり、空気中や水中の二酸化炭素の影響を受けるなど、上記の陰イオン交換能が炭酸イオン優位のイオン選択性により阻害されている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明者等は上記問題点に鑑み検討と実験を重ね本発明を完成したものであって、高い陰イオン交換能を有し、二酸化炭素や炭酸イオンが存在する環境でも期待される陰イオン交換能を十分に発揮する層状複水酸化物とその合成方法を提供することに成功したものである。
【0006】
すなわち、上記課題を解決するために、2価の金属陽イオン(M2+)および3価の金属陽イオン(M3+)ならびにn価の陰イオンが存在する酸性溶液とアルカリ金属元素(A+)が存在するアルカリ性水溶液とを反応系が常にpH8以下となるようにA+/M2+のモル比を2.5〜3.0の範囲に調整して一気に混合する、もしくは2価の金属陽イオン(M2+)ならびにn価の陰イオンが存在する酸性水溶液と3価の金属陽イオン(M3+)ならびにアルカリ金属元素(A+)が存在するアルカリ性水溶液とを反応系が常にpH8以下となるようにA+/M2+のモル比を2.5〜3.0の範囲に調整して一気に混合することで、高い陰イオン交換能を有し、二酸化炭素や炭酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、塩化物イオンなどが存在する環境でも期待される陰イオン交換能を発揮する層状複水酸化物が得られることを見出したものであり、より具体的には以下のごとくである。
【0007】
(1) 高い陰イオン交換能を有し、空気中もしくは水中の二酸化炭素や炭酸イオンによる炭酸汚染が起こり難く、期待される陰イオン吸着能力を長期間に渡り維持でき、安定性に優れていることを特徴とする高い陰イオン交換能を有する炭酸汚染し難い安定性に優れた層状複水酸化物。
【0008】
(2) 一般式[M2+1-xM3+x(OH)2][An‐x/n・zH2O](ここで、M2+は2価の金属陽イオン、M3+は3価の金属陽イオン、An-はn価の陰イオン、0<x<1)で表される層状複水酸化物であることを特徴とする前記(1)項に記載の高い陰イオン交換能を有する炭酸汚染し難い安定性に優れた層状複水酸化物。
【0009】
(3) 前記2価の金属陽イオンがマグネシウムイオン、前記3価の金属陽イオンがアルミニウムイオンであることを特徴とする前記(1)項に記載の高い陰イオン交換能を有する炭酸汚染し難い安定性に優れた層状複水酸化物。
【0010】
(4) 前記n価の陰イオンが硝酸イオン、塩酸イオンもしくは硫酸イオンであることを特徴とする前記(1)項〜(3)項の何れか1つに記載の高い陰イオン交換能を有する炭酸汚染し難い安定性に優れた層状複水酸化物。
【0011】
(5) 有害陰イオンを含む廃液などの水溶液に炭酸イオン、硝酸イオン、塩化物イオン、硫酸イオンなどの存在があっても効率的に有害陰イオンを固定することのできることを特徴とする前記(1)項〜(4)項の何れか1つに記載の高い陰イオン交換能を有する炭酸汚染し難い安定性に優れた層状複水酸化物。
【0012】
(6) 結晶子サイズが8〜12nmであることを特徴とする前記(1)項〜(5)項の何れか1つに記載の高い陰イオン交換能を有する炭酸汚染し難い安定性に優れた層状複水酸化物。
【0013】
(7) 2価の金属陽イオン(M2+)ならびに3価の金属陽イオン(M3+)ならびにn価の陰イオンが存在する酸性溶液とアルカリ金属元素(A+)が存在するアルカリ性水溶液とを反応系が常にpH8以下となるようにA+/M2+のモル比を2.5〜3.0の範囲に調整して一気に混合するすることで得られる前記(1)項〜(6)項の何れか1つに記載の高い陰オン交換能を有する炭酸汚染し難い安定性に優れた層状複水酸化物。
【0014】
(8) 2価の金属陽イオン(M2+)ならびn価の陰イオンが存在する酸性水溶液と3価の金属イオン(M3+)ならびにアルカリ金属元素(A+)が存在するアルカリ性水溶液とを反応系が常にpH8以下となるようにA+/M2+のモル比を2.5〜3.0の範囲に調整して一気に混合するすることで得られる前記(1)項〜(6)項の何れか1つに記載の高い陰オン交換能を有する炭酸汚染し難い安定性に優れた層状複水酸化物。
【0015】
(9) 2価の金属陽イオン(M2+)ならびに3価の金属陽イオン(M3+)ならびにn価の陰イオンが存在する酸性溶液とアルカリ金属元素(A+)が存在するアルカリ性水溶液とを反応系が常にpH8以下となるようにA+/M2+のモル比を2.5〜3.0の範囲に調整して一気に混合することで前記(1)項〜(7)項の何れか1つに記載の層状複水酸化物を合成することを特徴とする高い陰イオン交換能を有する炭酸汚染し難い安定性に優れた層状複水酸化物の合成方法。
【0016】
(10) 2価の金属陽イオン(M2+)ならびにn価の陰イオンが存在する酸性水溶液と3価の金属陽イオン(M3+)ならびにアルカリ金属元素(A+)が存在するアルカリ性水溶液とを反応系が常にpH8以下となるようにA+/M2+のモル比を2.5〜3.0の範囲に調整して一気に混合することで前記(1)項〜(6)項又は(8)項の何れか1つに記載の層状複水酸化物を合成することを特徴とする高い陰イオン交換能を有する炭酸汚染し難い安定性に優れた層状複水酸化物の合成方法。
【0017】
(11) 前記2価の金属陽イオンがマグネシウムイオン、前記3価の金属陽イオンがアルミニウムイオンであることを特徴とする前記(9)項又は(10)項に記載の高い陰イオン交換能を有する炭酸汚染し難い安定性に優れた層状複水酸化物の合成方法。
【0018】
(12) 前記n価の陰イオンが硝酸イオン、塩化物イオンもしくは硫酸イオンであることを特徴とする前記(9)項又は(10)項に記載の記載の高い陰イオン交換能を有する炭酸汚染し難い安定性に優れた層状複水酸化物の合成方法。
【発明の効果】
【0019】
空気中もしくは水中の二酸化炭素や炭酸イオンによる炭酸汚染が起こり難く、期待された陰イオン吸着能力を長期間に亘り維持でき、安定性に優れていることで、例えば、除去率80%以上のホウ素吸着能を2ヶ月以上に亘って維持する性能を持った層状複水酸化物を実現することができる。
【0020】
一般式[M2+1-xM3+x(OH)2][An‐x/n・zH2O](ここで、M2+は2価の金属陽イオン、M3+は3価の金属陽イオン、An‐はn価の陰イオン、0<x<1)で表される層状複水酸化物であることで、様々な素材を利用して本発明の層状複水酸化物を取り扱うことが可能となる。
【0021】
前記2価の金属陽イオンがマグネシウムイオン、前記3価の金属陽イオンがアルミニウムイオンであることで、両者を用いて有害な陰イオン吸着能力に優れ長期に亘って安定的に機能する層状複水酸化物を得ることができるようになる。
【0022】
前記n価の陰イオンが硝酸イオン、塩酸イオンもしくは硫酸イオンであることで、これらの各陰イオンを用いて有効に機能する本発明の層状複水酸化物を多様な形式で得ることができるようになる。
【0023】
有害陰イオンを含む廃液などの水溶液に炭酸イオン、硝酸イオン、塩化物イオン、硫酸イオンなどの存在があっても効率的に有害陰イオンを固定することのできることで、従来層状複水酸化物では有効に処理することのできなかった各種廃液などについても適切な無害化処理等を行うことができるようになる。
【0024】
結晶子サイズが8〜12nmとなり、所望の結晶子サイズの高機能層状複水酸化物を得ることが可能となる。
【0025】
2価の金属陽イオン(M2+)ならびに3価の金属陽イオン(M3+)ならびにn価の陰イオンが存在する酸性溶液とアルカリ金属元素(A+)が存在するアルカリ性水溶液とを反応系が常にpH8以下となるようにA+/M2+のモル比を2.5〜3.0の範囲に調整して一気に混合することで上記に記載の層状複水酸化物を合成することにより、中性条件下で反応を進めることができ、それにより優れた陰イオン交換能と長期的安定性を持った層状複水酸化物を得ることができ、これにより所望の発明効果が実現されるようになる。
【0026】
2価の金属陽イオン(M2+)ならびにn価の陰イオンが存在する酸性水溶液と3価の金属陽イオン(M3+)ならびにアルカリ金属元素(A+)が存在するアルカリ性水溶液とを反応系が常にpH8以下となるようにA+/M2+のモル比を2.5〜3.0の範囲に調整して一気に混合することで上記に記載の層状複水酸化物を合成することにより、適切な中性条件下で上記した高機能の層状複水酸化物を得ることができ、これによって想定される発明効果を適切に実現することができる。
【0027】
前記2価の金属陽イオンがマグネシウムイオン、前記3価の金属陽イオンがアルミニウムイオンであることで、両金属イオンを用いた本発明の層状複水酸化物が得られることになる。
【0028】
前記n価の陰イオンが硝酸イオン、塩化物イオンもしくは硫酸イオンであることで、これらの陰イオンを適切に用いて本発明の層状複水酸化物を得られるようになる。
【0029】
上記においては、反応系を常にpH8以下とすることを条件としているが、より好ましい発明効果を実現するためにはpH6〜7となるように調整することが望ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
上記のような本発明の具体的な実施の形態を、本発明独自の層状複水酸化物の合成方法、保存安定性ならびに有害陰イオン吸着性能について添付図面および各実施例の記載を解して説明する。
【実施例】
【0031】
(実施例1)
Na/Mgモル比3.0
2価の金属陽イオンとしてのマグネシウムイオン、3価の金属陽イオンとしてアルミニウムイオンを用いた。マグネシウム源として硝酸マグネシウム六水和物1molと、アルミニウム源として硝酸アルミニウム九水和物0.5molを1Lの水に溶かして酸性溶液を調整した。
【0032】
そして、水酸化ナトリウム3.0molを1Lの水に溶かしてアルカリ性溶液を作成した。この酸性溶液とアルカリ性溶液を一気に混合、攪拌すると、即座にゲル状の沈殿物が生成し、スラリーが得られた。このスラリーを固液分離すると、そのろ液のpHは6.4であり、酸とアルカリの完全な中和が起こって得られたスラリーである。
【0033】
このスラリーをろ過・洗浄、乾燥、粉砕することで層状複水酸化物粉末が得られた。得られた粉末はX線回折装置による分析により、その面間隔が8.94Åであって結晶子サイズが112Åであることを確認した。
図1は、このような合成工程を示したチャート図である。
【0034】
(実施例2)
上記実施例1による合成の層状複水酸化物粉末10gを市販の炭酸水(飲料用)100mlに添加して1時間攪拌し、ろ過、乾燥し、炭酸汚染された層状複水酸化物粉末を得た。
【0035】
得られた粉末は、X線回折装置による分析により、その面間隔が8.16Åであって結晶子サイズが77Åであることを確認した。なお、この実施例は炭酸汚染された場合の影響について検証するために行ったものである。
【0036】
(比較例1)
Na/Mgモル比3.5
2価の金属陽イオンとしてのマグネシウムイオン、3価の金属陽イオンとしてアルミニウムイオンを用いた。マグネシウム源として硝酸マグネシウム六水和物1molと、アルミニウム源として硝酸アルミニウム九水和物0.5molを1Lの水に溶かして酸性溶液を調整した。
【0037】
そして、水酸化ナトリウム3.5molを1Lの水に溶かしてアルカリ性溶液を作成した。
この酸性溶液とアルカリ性溶液を一気に混合、攪拌すると、即座にゲル状の沈殿物が生成し、スラリーが得られた。このスラリーを固液分離すると、そのろ液のpHは13.5でアルカリが過剰に残留している。
【0038】
このスラリーをろ過・洗浄、乾燥、粉砕することで層状複水酸化物粉末が得られた。得られた粉末はX線回折装置による分析により、その面間隔が7.89Åであって結晶子サイズが88Åであることを確認した。
この比較例1における層状複水酸化物を得るための工程をチャート図としたのが図2である。
【0039】
(比較例2)
上記比較例1による合成の層状複水酸化物粉末10gを市販の炭酸水(飲料用)100mlに添加して1時間攪拌し、ろ過、乾燥し、炭酸汚染された層状複水酸化物粉末を得た。得られた粉末は、X線回折装置による分析により、その面間隔が7.79Åであって結晶子サイズが86Åであることを確認した。
【0040】
(分析1)
上記実施例1〜2および比較例1〜2で作成された粉末を用いて、CHNレコーダーによる炭素含有量分析を行った。
この分析結果を下記する表1に示す。
【0041】
下記の表1の分析結果から、実施例1が最も炭素含有量が少なく、実施例2は炭酸に汚染され、炭素含有量が増えていることが理解される。
また、比較例1は実施例1についで炭素含有量が少ないが、比較例2は炭酸にかなり汚染され、実施例2を上回る炭素含有量となっていることが理解される。
【0042】
(試験1)
上記実施例1〜2および比較例1〜2で作成された粉末を用いて、六価クロム、ホウ素、フッ素の吸着効果について試験を行った。
なお、ここでの比較例3としては、有害陰イオン物質の除去、不溶性化、無毒化を目的として市販されているハイドロタルサイト粉末を用いた。
【0043】
試験方法としては、所定の濃度の六価クロム、ホウ素およびフッ素の標準溶液100mlを複数のビーカーに分取し、これに上記実施例1〜4で作成された粉末または比較例の市販品について、それぞれ別々に1g加え、常温でマグネチックスターラーで1時間攪拌した。その後、ろ過し、ろ液中の六価クロム、ホウ素およびフッ素の濃度を分光光度計にて測定した。
この試験結果を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
実施例の粉末すべてにおいて比較例よりも高い吸着効果を示している。また、炭酸による汚染で吸着効果が低くなっているが、実施例1と比較例1とを比べると、実施例1は炭酸による汚染が起こりにくく、例え実施例2のように汚染されても依然として高い吸着効果を示していることが理解される。
【0046】
(対照1)
上記実施例1および比較例1の粉末において、陰イオン吸着能力の径時変化の対照確認をおこなった。その結果を添付する図3に示す。
【0047】
図示から明らかなように、本発明の実施例1は合成から2ヶ月経ってもホウ素吸着能力に変化がないのに対し、比較例1は大幅にその性能が落ちていることが理解される。
【0048】
(実施例3)
Na/Mgモル比3.0
2価の金属陽イオンとしてマグネシウムイオン、3価の金属陽イオンとしてアルミニウムイオンを用いた。マグネシウム源として塩化マグネシウム六水和物1molと、アルミニウム源として塩化アルミニウム六水和物0.5molを1Lの水に溶かして酸性溶液を調整した。
【0049】
そして、水酸化ナトリウム3.0molを1Lの水に溶かしてアルカリ性溶液を作成した。この酸性溶液とアルカリ性溶液を一気に混合、攪拌すると、即座にゲル状の沈殿物が生成し、スラリーが得られた。このスラリーを固液分離すると、そのろ液のpHは6.97であり、酸とアルカリの完全な中和が起こって得られたスラリーである。
【0050】
このスラリーをろ過・洗浄・乾燥・粉砕することで層状複水酸化物粉末が得られた。得られた粉末はX線回折装置による分析により、その面間隔が7.79Åであって結晶子サイズが104Åであることを確認した。
【0051】
(実施例4)
上記実施例3による合成の層状複水酸化物粉末10gを市販の炭酸水(飲料用)100mlに添加して1時間攪拌し、ろ過、乾燥し、炭酸汚染された層状複水酸化物粉末を得た。
【0052】
得られた粉末は、X線回折装置による分析により、その面間隔が7.70Åであって結晶子サイズが104Åであることを確認した。なお、この実施例は炭酸汚染された場合の影響について検証するために行ったものである。
【0053】
(実施例5)
Na/Mgモル比2.5
2価の金属陽イオンとしてのマグネシウムイオン、3価の金属陽イオンとしてアルミニウムイオンを用いた。マグネシウム源として塩化マグネシウム5水和物1molと、アルミニウム源として塩化アンモニウム6水和物0.5molを1Lの水に溶かして酸性溶液を調整した。
【0054】
そして、水酸化ナトリウム2.5molを1Lの水に溶かしてアルカリ性溶液を作成した。この酸性溶液とアルカリ性溶液とを一気に混合、攪拌すると、即座にゲル状の沈殿物が生成し、スラリーが得られた。このスラリーを固液分離すると、そのろ液のpHは6.31であった。
【0055】
このスラリーをろ過・洗浄・乾燥・粉砕することで層状複水酸化物粉末が得られた。得られた粉末はX線回折装置による分析により、その面間隔が7.83Åであって結晶子サイズが95Åであることを確認した。
【0056】
(実施例6)
上記実施例5による合成の層状複水酸化物粉末10gを市販の炭酸水(飲料用)100mlに添加して1時間攪拌し、ろ過、乾燥し、炭酸汚染された層状複水酸化物粉末を得た。
【0057】
得られた粉末は、X線回折装置による分析により、その面間隔が7.72Åであって結晶子サイズが84Åであることを確認した。なお、この実施例は炭酸汚染された場合の影響について検証するために行ったものである。
【0058】
(比較例4)
Na/Mgモル比3.2
2価の金属陽イオンとしてのマグネシウムイオン、3価の金属陽イオンとしてアルミニウムイオンを用いた。マグネシウム源として塩化マグネシウム六水和物1molと、アルミニウム源として塩化アルミニウム六水和物0.5molを1Lの水に溶かして酸性溶液を調整した。
【0059】
そして、水酸化ナトリウム3.2molを1Lの水に溶かしてアルカリ性溶液を作成した。
この酸性溶液とアルカリ性溶液を一気に混合、攪拌すると、即座にゲル状の沈殿物が生成し、スラリーが得られた。このスラリーを固液分離すると、そのろ液のpHは9.07でアルカリが過剰に残留している。
【0060】
このスラリーをろ過・洗浄、乾燥、粉砕することで層状複水酸化物粉末が得られた。得られた粉末はX線回折装置による分析により、その面間隔が7.78Åであって結晶子サイズが108Åであることを確認した。
【0061】
(比較例5)
上記比較例4による合成の層状複水酸化物粉末10gを市販の炭酸水(飲料用)100mlに添加して1時間攪拌し、ろ過、乾燥し、炭酸汚染された層状複水酸化物粉末を得た。
得られた粉末は、X線回折装置による分析により、その面間隔が7.71Åであって結晶子サイズが105Åであることを確認した。
【0062】
(比較例6)
Na/Mgモル比3.3
2価の金属陽イオンとしてのマグネシウムイオン、3価の金属陽イオンとしてアルミニウムイオンを用いた。マグネシウム源として塩化マグネシウム六水和物1molと、アルミニウム源として塩化アルミニウム六水和物0.5molを1Lの水に溶かして酸性溶液を調整した。
【0063】
そして、水酸化ナトリウム3.3molを1Lの水に溶かしてアルカリ性溶液を作成した。
この酸性溶液とアルカリ性溶液を一気に混合、攪拌すると、即座にゲル状の沈殿物が生成し、スラリーが得られた。このスラリーを固液分離すると、そのろ液のpHは11.38でアルカリが過剰に残留している。
【0064】
このスラリーをろ過・洗浄、乾燥、粉砕することで層状複水酸化物粉末が得られた。得られた粉末はX線回折装置による分析により、面間隔が7.79Åであって結晶子サイズが110Åであることを確認した。
【0065】
(比較例7)
上記比較例6による合成の層状複水酸化物粉末10gを市販の炭酸水(飲料用)100mlに添加して1時間攪拌し、ろ過、乾燥し、炭酸汚染された層状複水酸化物粉末を得た。
得られた粉末はX線回折装置による分析により、その面間隔が7.73Åであって結晶子サイズが114Åであることを確認した。
【0066】
(比較例8)
Na/Mgモル比3.5
2価の金属陽イオンとしてのマグネシウムイオン、3価の金属陽イオンとしてのアルミニウムイオンを用いた。マグネシウム源として塩化マグネシウム六水和物1molと、アルミニウム源として塩化アルミニウム六水和物0.5mol.を1Lの水に溶かして酸性溶液を調整した。
【0067】
そして、水酸化ナトリウム3.5molを1Lの水に溶かしてアルカリ水溶液を作成した。この酸性溶液とアルカリ性溶液を一気に混合、攪拌すると、即座にゲル状の沈殿物が生成し、スラリーが得られた。このスラリーを固液分離すると、そのろ液のpHは12.66でアルカリが過剰に残留している。
【0068】
このスラリーをろ過・洗浄、乾燥、粉砕することで層状複水酸化物粉末が得られた。
得られた粉末はX線回折装置による分析により、その面間隔が7.76Åであって結晶子サイズが120Åであることを確認した。
【0069】
(比較例9)
上記比較例8による合成の層状風水酸化物粉末10gを市販の炭酸水(飲料用)100mlに添加して1時間攪拌し、ろ過、乾燥し、炭酸汚染された層状複水酸化物粉末を得た。
得られた粉末はX線回折装置による分析により、その面間隔が7.71Åであって結晶子サイズが122Åであることを確認した。
【0070】
(比較例10)
Na/Mgモル比2.0
2価の金属陽イオンとしてのマグネシウムイオン、3価の金属陽イオンとしてアルミニウムイオンを用いた。マグネシウム源として塩化マグネシウム六水和物1molと、アルミニウム源として塩化アルミニウム六水和物0.5molを1Lの水に溶かして酸性溶液を調整した。
【0071】
そして、水酸化ナトリウム2.0molを1Lの水に溶かしてアルカリ性溶液を作成した。
この酸性溶液とアルカリ性溶液を一気に混合、攪拌すると、即座にゲル状の沈殿物は生成し、スラリーが得られた。このスラリーを固液分離すると、そのろ液のpHは6.62である。
【0072】
このスラリーをろ過、洗浄、乾燥、粉砕することで層状複水酸化物粉末が得られた。
得られた粉末はX線回折装置による分析により、その面間隔が7.82Åであって結晶子サイズが91Åであることを確認した。また、目的物以外にギブサイト(水酸化アルミニウム)が生成していることが確認された。
【0073】
(比較例11)
上記比較例10による合成の層状複水酸化物粉末10gを市販の炭酸水(飲料用)100mlに添加して1時間攪拌し、ろ過、乾燥し、炭酸汚染された層状複水酸化物粉末を得た。
得られた粉末は、X線回折装置による分析により、その面間隔が7.69Åであって結晶子サイズが92Åであることを確認した。
【0074】
(分析1)
上記実施例3〜6および比較例4〜9で作成された粉末を用いて、CHNレコーダーぶよる炭素含有量分析を行った。
この分析結果を下記する表2に示す。
【0075】
下記の表2の分析結果から、実施例3が最も炭素含有量が少なく、実施例4は炭酸汚に汚染され、炭素含有量が増えていることが理解される。
また、実施例5は実施例3に次いで炭素含有量が少なく、実施例6は炭酸に汚染され、炭素含有量が増えていることが理解される。
比較例4〜9は実施例3〜6より炭素含有量が多く、合成時のNa/Mgモル比の増加に伴って炭素含有量が増えていることが理解できる。
【0076】
(試験1)
上記実施例3〜6および比較例4〜9で作成された粉末を用いて、ホウ素、フッ素の吸着効果について試験を行った。
【0077】
試験方法としては、10mmol /Lの濃度のホウ素(108ppm)およびフッ素(190ppm)の標準溶液100mlを複数のビーカーに分取し、こりに上記実施例3〜6および比較例4〜9で作成された粉末について、それぞれ別々に1g加え、常温でマグネチックスターラーで所定の時間攪拌した。その後、ろ過し、ろ液中のホウ素およびフッ素の濃度を分光光度計にて測定した。
この試験結果を表2および図4に示す。
【0078】
【表2】

【0079】
実施例の粉末すべてにおいて比較例よりも高い吸着効果を示している。また、炭酸による汚染で吸着効果が低くなっているが、実施例3および5と比較例とを比べると、実施例は炭酸による汚染が起こりにくく、例え実施例4および6のように汚染されても依然として高い吸着効果を示していることが理解される。
【0080】
(対照2)
上記実施例3および比較例8の粉末において、陰イオン吸着能力の経時変化の対照確認を行った。その結果を添付する図5に示す。
【0081】
図示から安倉かな用に、本発明の実施例3は合成から90日経ってもホウ素吸着能力の低下率13.9%に対し、比較例8は45.1%と大幅に落ちていることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0082】
上記したような本発明によるときは、その優れた陰イオン交換能によって、有害陰イオン(砒素、六価クロム、弗素、硼素など)を効率的に固定化することができ、各種廃棄物の安全性向上技術、無害化環境技術において長期間に亘って安定的に効果を発揮することができる。
【0083】
また、同様に各種の汚染水の水質改善、有害物質の溶出防止、土壌改良などに寄与することが期待でき、多くの分野において応用することが可能である。
【0084】
したがって、本発明の層状複水酸化物とその合成方法は産業上の利用可能性において非常に優れたものであると理解されるべきものである。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】実施例1における合成工程を示したチャート図である。
【図2】比較例1における合成工程を示したチャート図である。
【図3】実施例1と比較例1の粉末について陰イオン吸着能力の径時変化の対照確認をおこなった結果のグラフである。
【図4】Na/Mgモル比と吸着率との関係を示すグラフ図である。
【図5】合成からの経過時間と吸着率との関係を示すグラフ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高いイオン交換能を有し、空気中もしくは水中の二酸化炭素や炭酸イオンによる炭酸汚染が起こり難く、期待される陰イオン吸着能力を長期間に渡り維持でき、安定性に優れていることを特徴とする高い陰イオン交換能を有する炭酸汚染し難い安定性に優れた層状複水酸化物。
【請求項2】
一般式[M2+1-xM3+x(OH)2][An‐x/n・zH2O](ここで、M2+は2価の金属陽イオン、M3+は3価の金属陽イオン、An-はn価の陰イオン、0<x<1)で表される層状複水酸化物であることを特徴とする請求項1に記載の高い陰イオン交換能を有する炭酸汚染し難い安定性に優れた層状複水酸化物。
【請求項3】
前記2価の金属陽イオンがマグネシウムイオン、前記3価の金属陽イオンがアルミニウムイオンであることを特徴とする請求項1に記載の高い陰イオン交換能を有する炭酸汚染し難い安定性に優れた層状複水酸化物。
【請求項4】
前記n価の陰イオンが硝酸イオン、塩酸イオンもしくは硫酸イオンであることを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1つに記載の高い陰イオン交換能を有する炭酸汚染し難い安定性に優れた層状複水酸化物。
【請求項5】
有害陰イオンを含む廃液などの水溶液に炭酸イオン、硝酸イオン、塩化物イオン、硫酸イオンなどの存在があっても効率的に有害陰イオンを固定することのできることを特徴とする請求項1〜請求項4の何れか1つに記載の高い陰イオン交換能を有する炭酸汚染し難い安定性に優れた層状複水酸化物。
【請求項6】
結晶子サイズが8〜12nmであることを特徴とする請求項1〜請求項5の何れか1つに記載の高い陰イオン交換能を有する炭酸汚染し難い安定性に優れた層状複水酸化物。
【請求項7】
2価の金属陽イオン(M2+)ならびに3価の金属陽イオン(M3+)ならびにn価の陰イオンが存在する酸性溶液とアルカリ金属元素(A+)が存在するアルカリ性水溶液とを反応系が常にpH8以下となるようにA+/M2+のモル比を2.5〜3.0の範囲に調整して一気に混合することで得られることを特徴とする請求項1〜請求項6の何れか1つに記載の高い陰イオン交換能を有する炭酸汚染し難い安定性に優れた層状複水酸化物。
【請求項8】
2価の金属陽イオン(M2+)ならびにn価の陰イオンが存在する酸性水溶液と3価の金属陽イオン(M3+)ならびにアルカリ金属元素(A+)が存在するアルカリ性水溶液とを反応系が常にpH8以下となるようにA+/M2+のモル比を2.5〜3.0の範囲に調整して一気に混合することで得られることを特徴とする請求項1〜請求項6の何れか1つに記載の高い陰イオン交換能を有する炭酸汚染し難い安定性に優れた層状複水酸化物。
【請求項9】
2価の金属陽イオン(M2+)ならびに3価の金属陽イオン(M3+)ならびにn価の陰イオンが存在する酸性溶液とアルカリ金属元素(A+)が存在するアルカリ性水溶液とを反応系が常にpH8以下となるようにA+/M2+のモル比を2.5〜3.0の範囲に調整して一気に混合することで請求項1〜請求項7の何れか1つに記載の層状複水酸化物を合成することを特徴とする高い陰イオン交換能を有する炭酸汚染し難い安定性に優れた層状複水酸化物の合成方法。
【請求項10】
2価の金属陽イオン(M2+)ならびにn価の陰イオンが存在する酸性水溶液と3価の金属陽イオン(M3+)ならびにアルカリ金属元素(A+)が存在するアルカリ性水溶液とを反応系が常にpH8以下となるようにA+/M2+のモル比を2.5〜3.0の範囲に調整して一気に混合することで請求項1〜請求項6又は請求項8何れか1つに記載の層状複水酸化物を合成することを特徴とする高い陰イオン交換能を有する炭酸汚染し難い安定性に優れた層状複水酸化物の合成方法。
【請求項11】
前記2価の金属陽イオンがマグネシウムイオン、前記3価の金属陽イオンがアルミニウムイオンであることを特徴とする請求項9又は請求項10に記載の高い陰イオン交換能を有する炭酸汚染し難い安定性に優れた層状複水酸化物の合成方法。
【請求項12】
前記n価の陰イオンが硝酸イオン、塩化物イオンもしくは硫酸イオンであることを特徴とする請求項9又は請求項10に記載の記載の高い陰イオン交換能を有する炭酸汚染し難い安定性に優れた層状複水酸化物の合成方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−334456(P2006−334456A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−158900(P2005−158900)
【出願日】平成17年5月31日(2005.5.31)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【出願人】(000231198)日本国土開発株式会社 (51)
【出願人】(591172526)昭和KDE株式会社 (17)
【Fターム(参考)】