説明

高インダクタンス電線

【課題】
電力を供給するための電線自体から高いインダクタンスを得ることができ、昇圧、高圧回路においてコイルを必要とせず、回路の小型化や省スペース化を図ることができる高インダクタンス電線を提供すること。
【解決手段】
電流を供給する薄い帯状の導体30を、大径の磁性コア20の外周に対してスパイラル状に該導体30が重ならないように巻きつけた高インダクタンス電線10により、電力輸送機能とインダクタの機能を同時に提供することにより、電気自動車等の昇圧回路においてコイル配置スペースを無くしまたは縮小することを可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高いインダクタンスを得ることができる高インダクタンス電線に関する。
【背景技術】
【0002】
電気回路や電子回路において、基本的で重要な要素の一つとして、インダクタが存在する。従来、インダクタは透磁率の高い材料に銅線を多重巻にして生成するのが一般的であり、その構造からある程度の大きさを必要とする。その中でも、本発明は電圧を変化させる昇圧/降圧用のインダクタ、特に、低い電圧から高い電圧に変換する昇圧回路(昇圧コンバータ)などに用いることができるインダクタに関するものである。しかし、本発明の高インダクタンス電線の用途はこれらに限定されるものではなく、昇圧、降圧、またはその他のインダクタンスを必要とする種々の要素に代替可能であり、以下に示す用途は例示である。
【0003】
例えばモータの駆動力によって走行するハイブリッド自動車、電気自動車等のようなモータ駆動車両は、電池電圧を昇圧し、昇圧した電圧をモータ駆動回路に出力する昇圧コンバータを備えている。
【0004】
昇圧コンバータは、昇圧インダクタ、昇圧インダクタに流れる電流をスイッチングする
スイッチング回路等を備えており、昇圧インダクタは電流のスイッチングにより誘導起電力を発生する。昇圧コンバータは、入力電圧に誘導起電力を加えた昇圧電圧をモータ駆動回路に出力する。これによって、昇圧コンバータは、電池電圧より大きい電圧をモータ駆動回路に出力することができる。
【0005】
これらの昇圧コンバータに用いられる昇圧インダクタは、車両のエンジンコンパートメントに配置されることが多い。昇圧インダクタは、コアと、コアに巻き付けられる昇圧コイルとを備える。コアの体積が大きい場合、エンジンコンパートメントの容積を大きくする必要が生じ、車室を狭くせざるを得ない場合がある。そのため、車両搭載用の昇圧コンバータに用いられる昇圧インダクタのコアの総体積を低減するためのマルチコアフェーズコンバータ(特許文献1)が提案されている。また、従来のインダクタは薄型化が困難であることから薄型で加工性の良い高インダクタンスを得るためのインダクタが提案されている(特許文献2)。また、特許文献3は、電源と昇圧コンバータとを接続するパワーケーブルであって、パワーケーブルの芯となる磁性コアと、磁性コアに螺旋状に巻き付いた導電線を備えて、昇圧コンバータの中に含まれるリアクトルを小型化することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−252539号公報
【特許文献2】特開平8−45743号公報
【特許文献3】特開2007−103196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1及び特許文献2はいずれも、高インダクタンスを得るためのインダクタとしてコアとコイルを必要としているため、一定の厚み(高さ)と大きな体積を占有するものとなっており、これらが昇圧回路の小型を阻害する要因となっていた。また、特許文献3は、磁性コアに導電線を螺旋状に巻きつけてリアクトルとしての機能を得ることができると記載されている。しかし、特許文献3にはパワーケーブルの芯となる磁性コア及び螺旋状に巻きつける導電線の大きさや形状については何ら説明されておらず、図12に細い磁性コアの周りを該磁性コアとほぼ同じ径の導電線が螺旋状に巻かれている図が示されているだけである。このように磁性体と同じ径の導体を単純に磁性体に螺旋状に巻き付けても、大きなインダクタンスを得ることはできず、実質的な省スペース化に寄与することは難しかった。
【0008】
本願発明は、このような従来技術の問題点に鑑みてなされたもので、インダクタンスを必要とする場合に、従来のようなインダクタ固有の形状のコアやコイルを必要とせず、電力を供給するための電線自体により高いインダクタンスを得ることができ、昇圧回路等の小型化や省スペース化を図ることができる高インダクタンス電線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の第1の態様に係る高インダクタンス電線は、磁性材料を含む大径の磁性コアと、電力を供給する導体部とその害表面を覆う電気絶縁層を備える導体とを備え、前記導体を、前記磁性コアの外周に前記導体が重ならないようにスパイラル状に巻きつけたことを特徴とする。
【0010】
本発明の第2の態様に係る高インダクタンス電線は、前記磁性コアが線状の磁性素線の束で構成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明の第3の態様に係る高インダクタンス電線は、前記磁性コアが樹脂と磁性粉の混練材からなることを特徴とする。
【0012】
本発明の第4の態様に係る高インダクタンス電線は、前記導体が帯状の導体からなることを特徴とする。
【0013】
本発明の第5の態様に係る高インダクタンス電線は、 前記導体が、断面が円形の線材からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電力を供給するための導体を、磁性コアの表面に該電体が重ならないようスパイラル状に巻きつけた構成の電線とすることにより、電力の供給を主目的とする電線から、電力供給機能に加えて高いインダクタンスを得ることができる。これにより、、例えば電気自動車のように低電圧のバッテリー電圧から高い駆動電圧を得るために狭い空間で昇圧しなければならないなどの制約がある場合等に、昇圧回路に電力を供給する電線の長さを利用して高いインダクタンスを得ることができるので、昇圧回路に大きな体積のインダクタを設ける必要がなく、昇圧回路自体を軽量化することが可能となる。さらに、昇圧する際に発生するスイッチングノイズ等の雑音を低減することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)本発明に係る高インダクタンス電線の外観を示す斜視図であり、(b)は、導体が磁性コア表面にスパイラル状に巻き付けられる構造を説明するための一部分解斜視図、(c)は、導体と磁性コアの一部断面を示す断面斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る高インダクタンス電線を示す図であり、(a)は一部の断面を拡大して示す一部拡大図、(b)及び(c)はそれぞれ、縦断面図と、軸線に沿った断面の一部を示す横断面図、(d)は磁性コアを構成する磁性素線の一部を示す部分拡大図である。
【図3】磁性コアとして無垢の一体的の磁心を使用した場合と、積層磁心、線条磁心、圧粉磁心をもちいた場合の、鉄損についてのデータを示す表である。
【図4】鉄の初磁化曲線を示すグラフである。
【図5】(a)は、本願発明の他の実施形態を示す高インダクタンス電線の軸方向に垂直に切断した状態の縦断面図と、軸方向の断面の一部を示す横断面図である。(b)は、本願発明のさらに他の実施形態を示す高インダクタンス電線の軸方向に垂直に切断した状態の縦断面図と、軸方向の断面の一部を示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、説明を分かり易くするために、電気自動車の例を用いて説明する。
例えば電気自動車等においては、インバータ前段の昇圧回路に使われているインダクタは、自動車の貴重な空間を占有している。またインダクタを使用することにより局所的に発熱するという問題もある。そこで、電池(バッテリー)とインバータを接続する電源ケーブルにインダクタンス成分を持たせることができれば、電線によりインダクタを代替することが可能となり、電線空間のみでインダクタ機能も提供できるので、空間の節約になる。また、バッテリーからインバータまでの距離は、比較的長いので放熱効率も比較的高く、特別の冷却装置も必要としない。
【0017】
以下図面を参照して、本発明の各種実施形態を説明する。
本願発明は、電気絶縁層で被覆されている電力を供給するための導体を、太い磁性コアの外周に該導体が互いに重ならないようにスパイラル状に巻きつけることにより、高いインダクタンスを得ることのできる高インダクタンス電線を提供するものである。
【0018】
図1は、本発明に係る高インダクタンス電線の概念及び基本構成を説明する図である。図1(a)は、全体概観を示す側面図、(b)は、導体が磁性コアにスパイラル状に巻かれている構造を説明する一部分解斜視図、(c)は断面構造の一部を示す断面斜視図である。図2は、本発明に係る高インダクタンス電線の一実施形態を示す図である。図2(a)は、高インダクタンス電線の各部を説明するための部分拡大図であり、(b)及び(c)はそれぞれ、縦断面図と、軸線に沿った断面の一部を示す横断面図、(d)は磁性コアを構成する磁性素線の一部を示す部分拡大図である。
【0019】
図1に示す実施形態では、図1(a)、(b)、(c)に示すように、電流を流して電力を供給する帯状の導体30が、太い磁性コア20の外表面を覆うように、スパイラル状に巻かれている。導体30は電流を流す導電部31の外表面が電気絶縁材料からなる絶縁層32で覆われており、かつ導体30が相互に重なり合うことのないように磁性コア20にスパイラル状に巻かれている。
【0020】
このように、導体30を絶縁層で覆うのは、図1(c)に電流方向と磁界の方向を示すように、電流の流れる方向を磁性コア20の磁束に対してできるだけ直交(90度)する方向に規制するためである。
【0021】
この構成によるインダクタンスLは、次の式(1)で得ることができる。

μは磁性コアの透磁率、μ0は真空中の透磁率、lは電線の長さ、Nは巻き数である。
【0022】
電気自動車等では、車種によって異なるが、一般的には電源ケーブルとして高インダクタンス電線を用いる場合には、電線の長さが2.5m程度の長さであり、電線直径が20mm前後である。従って、電気自動車では、図1(a)に示す長さl=2.5m程度とし、磁性コアの直径a=20mm、伝導体を含む全体の高インダクタンス電線全体の直径を20.6mm程度とし、この範囲内で、所望のインダクタンスを得ることができることが望ましい。高インダクタンス電線により、所望のインダクタンスを100%得ることが望ましいが、100%のインダクタンスを得ることができなくでも、不足分のインダクタンスを小さなインダクタで補充することにより、全体を縮小軽量化することが可能となる。
【0023】
また、導体表面を流れる電流の変化を、できるだけインダクタンス増に結び付けるために、導体は薄くすることが好ましく、図1(b)では厚さ0.3mmで、幅w=51mmの帯状(リボン状)の導体をスパイラル状に巻きつけた例を示している。磁性コア20の径aと導体30の厚みは、10:1以上の比率であることが望ましい。
【0024】
高インダクタンス電線の磁性コアの材料としては、透磁率が高く加工や可撓性に富んだもの、例えば、純鉄、軟鉄線、珪素銅、パーマロイ、センダスト等を使用できる。特に軟鉄線は線状化が容易であり、加工がしやすく可撓性を有する点で利用し易い材料である。
導体の材料としては、銅またはアルミ等の通常使用される材料を用いることができる。
【0025】
図3に、磁性コアとして無垢の一体的の磁心を使用した場合と、積層磁心、線条磁心、圧粉磁心をもちいた場合の、鉄損についてのデータを示す。μは透磁率を示し、νはレイリー定数、Wは渦電流損係数、nは残留損係数、及び、hはヒステリシス損係数をあらわす。この表からわかるように、磁心を線条にすることにより、渦電流を抑制することが可能となるので、磁性コアを線条化することにより、鉄損を低下することができる。
【0026】
図4は、鉄の初磁化曲線を示す。図4からわかるように、鉄系の磁心コアを使用する場合には、鉄を磁気飽和させないH<500[A/m−1]の磁界強度で使用することが好ましい。
この場合、中心磁界強度 H=nIであるから、H<500[A/m−1]の場合、1m当たりの巻き数は、n<[11回/m] となる。
【0027】
図2は、図1に示す本発明の第1の実施形態の構成を拡大して示している。図2(a)に示す通り、導体30は帯状の導体部31の外表面が電気絶縁層32で覆われており、磁性コア20として線条の磁性素線21の束により構成する例を示している。このように、磁性素線を複数の線条の構成とすることにより、鉄損を低下させることが可能である。図2(d)に示すように各磁性素線21は、磁性体22の該表面を電気絶縁被膜23で覆われていることが好ましい。各磁性素線の直径は例えば100ミクロン程度とすることができる。
なお、図2(d)においては、磁性素線21の断面形状が円形の例を示しているが、断面は円形に限らず、例えば正方形、正五角形、正六角形等やその他の多角形としても良い。
【0028】
図5(a)は、本願発明の高インダクタンス電線の他の実施形態を示す断面図である。左側に示す断面図は、高インダクタンス電線の長さ方向に対して垂直に切断した状態を示しており、右側に示す断面図は軸方向に沿った断面の一部を示している。この実施形態では、導体33は、図1、及び図2の導体30と同じ帯状の導体を用いている。導体部34とその外表面を覆う絶縁層35を備えている。
磁性コア25は、磁性材料を粉末化して固めたものまたは粉末化した磁性材料と樹脂を混ぜた混練材を固めたものである。このように磁性材料を粉末化することにより、図4に示すように、透磁率の周波数依存性を減らすことが可能となる。
【0029】
図5(b)は、本願発明の本願発明に係る高インダクタンス電線のさらに他の実施形態を示す断面図であり、左側に電線の軸方向に対して垂直に切断した状態の断面図を示し、右側に軸方向に沿った断面の一部を示す断面図である。
この実施形態においては、磁性コア27は、図2に示す実施形態と同じように絶縁層を有する磁性素線の束により構成されているでは同じであるが、磁性コア20の該表面をスパイラル状に巻回する導体36の断面が円形となっている点が図2の実施形態と異なっている。このように導体35の断面を円形にすることにより、巻き数Nを増加させることが可能となる。
【0030】
なお、高インダクタンス電線を自由に配線するためには、磁性層は可撓性を有することが好ましい。しかし、可撓性がなくとも直線または所望の形状に加工した高インダクタンス電線とすることも可能であり、可撓性は必須の要件ではない。
【符号の説明】
【0031】
10・・・・・高インダクタンス電線
12 ・・・・導体30の境界線
20・・・・・磁性コア
21、27 ・・磁性素線
22 ・・・・磁性体、
23、35 ・電気絶縁被覆
25・・・・・磁性粉コアまたは混練材コア 30,33,37・・導体
31,34,37・・導体部
32,35,37・・電気絶縁層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性材料を含む大径の磁性コアと、電力を供給する導体部とその外表面を覆う電気絶縁層を備える導体とを備え、
前記導体を、前記磁性コアの外周に前記導体が重ならないようにスパイラル状に巻きつけたことを特徴とする高インダクタンス電線。
【請求項2】
前記磁性コアは線状の磁性素線の束で構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の高インダクタンス電線。
【請求項3】
前記磁性コアが樹脂と磁性粉の混練材からなることを特徴とする請求項1に記載の高インダクタンス電線。
【請求項4】
前記導体は帯状の導体からなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の高インダクタンス電線。
【請求項5】
前記導体は、断面が円形の線材からなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の高インダクタンス電線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−216402(P2012−216402A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80505(P2011−80505)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391045897)古河AS株式会社 (571)
【Fターム(参考)】