説明

高ギャバ含有発泡酒の製造方法

【課題】ギャバ含有量の高いトマト果汁や人参汁等の青果物汁を主成分とした麦汁をアルコール発酵させた高ギャバ含有発泡酒の製造方法を提供する。
【解決手段】麦芽を24質量%以上25質量%以下使用した麦汁に対して、ギャバが15mg/100ml以上含有され且つグルタミン酸が20mg/100ml以上含有される青果物汁を100%青果物汁換算で40容量%以上60容量%以下添加し、その麦汁を、温度20℃〜60℃で0.5時間以上放置して、前記麦汁に含まれる前記麦芽由来のギャバ変換酵素で前記青果物汁に含有されるグルタミン酸の一部をギャバに変換した後、酵母によってアルコール発酵させる。これによって、青果物の青臭さが改善され、嗜好的に優れ、高ギャバ含有の発泡酒となり、飲用することで、ギャバのリラックス効果により、爽やかで楽しい酔い心地が期待できる。さらには、ギャバの血圧降下作用、アルコール代謝促進作用が期待できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ギャバ含有量が極めて高い発泡酒の製造方法に関し、特に、ギャバ含有量の高い青果物汁が添加された麦汁をアルコール発酵して製造される高ギャバ含有発泡酒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ギャバ(GABA、すなわちγ―アミノ酪酸)は自然界に広く存在しているアミノ酸の一種で分子式がNHCHCHCOOHである。生体内においては、抑制系の神経伝達物質として知られ、副交換神経の働きを高め、興奮を抑える作用があることが知られている。また、血圧降下作用、精神安定作用、腎、肝機能改善作用、アルコール代謝促進作用などが知られている。しかし、胚芽米や緑茶など植物由来の食品に含まれる量は少なく、薬理作用を発揮するのに必要な量(10mg以上)を通常の食品から摂取するのは困難である。そこで、医薬品として、ギャバの合成品が脳の血流改善作用を基に、脳卒中等の後遺症改善薬として経口投与されている。また、健康食品では、米が発芽するときに、胚芽中でギャバが産出されるので、発芽玄米が良く利用されている。また、最近、グルタミン酸を乳酸菌の作用や米胚芽中の酵素の作用でギャバに変換した、高ギャバ飲食品が開発されている。例えば、グルタミン酸を構成アミノ酸として含む蛋白質またはペプチドを含有する乳類に、グルタミン酸遊離活性を有する乳酸菌またはビフィドバクテリウム属細菌およびグルタミン酸デカルボキシラーゼ生産能を有する乳酸菌を接種して培養することで高ギャバ含有発酵乳飲料が開発されており、該飲料はギャバ10mgの摂取(飲料として1日100mlの摂取)で腸管細動脈の拡大作用により、血圧の降下作用が認められ、特定保健用食品となっている。しかし、ギャバは一部の特定の食品にしか、十分な量が含まれていない。そこで、本発明者は、ギャバが麦芽に多く含まれていること、および麦芽中の酵素により、ギャバの生成量が増えることに着目して、先に特許文献1および特許文献2を出願している。特許文献1は、ギャバが多く含まれている麦芽、発芽玄米を用いてアルコール発酵した高ギャバ含有のアルコール飲料であって、ほろ酔い程度に飲むことにより、高血圧症や血圧低下症の改善、鬱状態などの神経障害の改善などが期待できるものである。また、特許文献2は、麦汁を製造する際に、グルタミン酸類を添加して麦芽中のギャバ含有量を高めるものである。
【0003】
一方、ギャバはトマト果汁や人参汁に多く含まれることが知られている。トマトを用いた酒類で代表的なものに、ウォッカをトマトジュースで割ったブラディマリーがある。これはトマトの旨みを加えることで他の酒類にはないおいしさと爽やかな酔い心地があるが、単にトマトにアルコールを加えたものであって、トマト中のギャバ含量を減少させることなく発酵させたものではない。
【0004】
また、特許文献3のように、成熟したトマトにグルタミン酸を加え、これにグルタミン酸をギャバに変換する酵素(グルタミン酸脱炭酸酵素)のある未熟トマト、カボチャ、人参、大根などの野菜を混合させて、グルタミン酸をギャバに変換してギャバ含量を高めた健康的飲食品が提案されている。
【0005】
また、特許文献4のように、麦汁にホップと青果物(野菜、果物)を混ぜ合わせて、これをアルコール発酵して、青果物の特徴を生かした芳香性を有し、甘味、苦味のバランスのよい発泡酒の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−250512号公報
【特許文献2】特開2004−350570号公報
【特許文献3】特公平7−12296号公報
【特許文献4】特開平10−52253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献3は高ギャバ含有のトマトジュースまたはトマトをベースとする野菜ジュースの飲料を提供するものであり、また、特許文献4は発泡酒に青果物を添加して、炭酸ガスの爽快さ、ホップの苦味に対して、青果物の特有の甘味、芳香性を付与し、全体としてまろやかで飲み口が爽快な発泡酒を提供するものであって、いずれもトマトを麦汁に添加して発酵させて、高ギャバ含量の発泡酒を製造するものではない。
【0008】
一方、特許文献1には、麦芽中の酵素を用いてグルタミン酸をギャバに変換して高ギャバの酒類を製造する際、また、特許文献2には、高ギャバ含有の麦汁を製造する際に、乳製品に植物成分を添加したものとグルタミン酸類の少なくとも1種を含む食品との混合物を乳酸で発酵させた発酵培養物を添加することが開示され、この植物成分には、トマトや人参他が例示されている。しかしながら、これら植物成分は乳酸発酵させて発酵培養物とし、また、使用もギャバの一部として用いるものであって、トマト果汁や人参汁を主成分として、これを麦汁と共にアルコール発酵して、トマト果汁由来のギャバ含量を減少させることなく高ギャバ含量の発泡酒を製造するものではない。また、発泡酒のギャバを富化するための原料としてトマトを使用するものでない。
【0009】
以上、麦汁にトマト果汁や人参汁等の高ギャバ含量の青果物汁を多量に添加し、あるいは、青果物汁由来のギャバと青果物汁に含有されるグルタミン酸を麦芽由来の酵素によりギャバに変換してギャバを富化し、アルコール発酵させた高ギャバ含有の健康性の高い発泡酒は、これまでのところ開発されていない。また、青果物汁中のグルタミン酸等でアルコール発酵における酵母によるギャバの消失を防止することも行われていない。
【0010】
本発明は、以上のような課題に鑑みてなされたものであり、ギャバ含有量の高いトマト果汁や人参汁等の青果物汁を主成分とした麦汁をアルコール発酵させることにより得られる高ギャバ含有発泡酒の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた処、高ギャバ含有のトマト果汁や人参汁等の青果物汁は、麦汁に似た性状を有し、麦汁に対して60容量%程度加えてもアルコール発酵が行われること、また、トマトや人参等の青果物中に含まれるグルタミン酸、アスパラギン酸等といったビール風味の飲料としては味の強すぎるアミノ酸を酵母に消費させることで、味のバランスを整え、発酵を促進できること等を見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0013】
(1) 麦芽を24質量%以上25質量%以下使用した麦汁に対して、ギャバが15mg/100ml以上含有され且つグルタミン酸が20mg/100ml以上含有される青果物汁を100%青果物汁換算で40容量%以上60容量%以下添加し、その麦汁を、温度20℃〜60℃で0.5時間以上放置して、前記麦汁に含まれる前記麦芽由来のギャバ変換酵素で前記青果物汁に含有されるグルタミン酸の一部をギャバに変換した後、酵母によってアルコール発酵させる高ギャバ含有発泡酒の製造方法。
【0014】
(2) 前記麦汁は、可溶性固形分が5質量%/100ml以上である(1)に記載の高ギャバ含有発泡酒の製造方法。
【0015】
(3) 前記青果物汁は、トマト果汁である(1)又は(2)に記載の高ギャバ含有発泡酒の製造方法。
【0016】
(4) 前記トマト果汁は、トマト由来のギャバが40mg/100ml以上含有されるものである(3)に記載の高ギャバ含有発泡酒の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の高ギャバ含量発泡酒は、15mg/100ml以上の高ギャバ含有の青果物汁を主成分として添加された麦汁をアルコール発酵して得られたものであるので、青果物由来のギャバによりギャバの含有量が富化され、ギャバ含量が12mg/100ml以上と高いものとなる。また、青果物中にグルタミン酸類を含有していると、青果物や麦芽由来のギャバが酵母の発酵により減少されることなく、さらには、麦芽由来の酵素によるグルタミン酸のギャバ変換反応によってギャバ含量が富化される等で、より高ギャバ含量の発泡酒となる。このため、本発明の高ギャバ含量発泡酒を飲酒することで、ギャバのリラックス効果により、爽やかで楽しい酔い心地が期待できる。さらには、ギャバの血圧降下作用、アルコール代謝促進作用が期待できる。
【0018】
また、本発明の高ギャバ含有発泡酒が酵母によるアルコール発酵で製造される際には、酵母がアミノ酸を消費するが、青果物汁を添加することで、青果物汁に含有されるグルタミン酸、アスパラギン酸などのアミノ酸が優先的に消費されることになり、ギャバの含量がほとんど減少されることがない。
【0019】
また、ビール風味飲料としては味の強すぎるグルタミン酸、アスパラギン酸等のアミノ酸が酵母によって消費されることで、味のバランスが整えられ、発酵が促進される効果がある。これらによって、トマトや人参等の青果物の青臭さが改善され、嗜好的に優れ、高ギャバ含有の健康面に優れた発泡酒となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0021】
本発明の高ギャバ含有発泡酒は、ギャバが15mg/100ml以上含有する青果物汁を主成分として添加された麦汁に酵母を加えて所定時間アルコール発酵させることによって得られる。得られた発泡酒は、青果物由来のギャバが富化されてギャバが12mg/100ml以上含有する高含量のものである。尚、本発明における100%青果物汁とは、青果物を搾汁して得られた濃縮、あるいは希釈されていない搾汁液のことである。
【0022】
本発明において使用する青果物汁は、ギャバを15mg/100ml以上、好ましくは20mg/100ml以上、より好ましくは30mg/100ml以上含有する青果物汁であって、好ましくはグルタミン酸類を20mg/100ml以上、好ましくは30mg/100ml以上、より好ましくは40mg/100ml以上含有するものであって、例えば、トマト、人参等の青果物汁が挙げられる。100%トマト果汁には、トマト果実の種類や熟度等にもよるが、ギャバを40〜80mg/100ml含有し、グルタミン酸を80〜300mg/100ml含有している。また、100%人参汁の場合には、人参の種類等にもよるが、ギャバを15〜30mg/100ml含有し、グルタミン酸を20〜100mg/100ml含有している。
【0023】
本発明に用いる青果物汁を得る方法として、具体的には、トマト、人参等の青果物を飲用とする際に通常に行われる処理方法(洗浄、選別、剥皮、除芯、破砕、搾汁、濾過、分離、加熱、冷却、均質化等の諸操作を適宜組合せた方法)が挙げられる。この様な方法として、例えば、青果物を洗浄してから熱水中でブランチングした後、剥皮し細断する。これを70℃以上に加熱し、さらに、遠心処理等で搾汁し、次いで殺菌処理を行う等による方法が挙げられる。尚、この青果物汁の製法は、通常行われている方法のごく一例であって、本発明に用いる青果物汁はこれに限定されるものではない。
【0024】
この様にして得られる青果物汁は、搾汁したものをそのまま、或いは、必要に応じて濃縮してもよく、この濃縮液をそのまま、あるいは濃縮液を飲用水等で適当な濃度に希釈して本発明の高ギャバ含有発泡酒の主成分として用いることが可能である。また、上記青果物汁が麦汁に添加されてアルコール発酵に供されるまでに時間がある場合には、これらをポリエチレンバッグ等に充填した後、例えば−20℃程度の冷凍庫にて保管することが可能である。保管後、これらを麦汁に添加して使用する際には適当な方法で解凍して用いればよい。尚、保管、取扱い作業性等の面から濃縮されたものであるのが好ましい。また、青果物汁は、濾過してパルプ質等の不溶性成分を除去したものであってもよい。
【0025】
この青果物汁の添加量は、使用する青果物汁に含有されるギャバ量にもよるが、後述する麦汁に対して100%青果物汁換算で10容量%以上であるのが好ましい。より好ましくは20容量%以上、さらに好ましくは40容量%以上、最も好ましくは40〜60容量%である。10容量%より少ないと、得られた発泡酒に含有されるギャバ量が12mg/100mlより少なくなり、高ギャバ含量とは言えないことになる。
【0026】
本発明に用いる麦汁は、可溶性固形分を質量%/100ml以上有するものであるのが好ましく、大麦等の麦を発芽させた麦芽を25質量%以上使用し、ビール等の酒類の仕込み工程において通常に行われている方法で得られる。この様な方法として、例えば、発芽させた麦芽を破砕機等で粉砕し、これに温水を加えて所定時間浸漬し、次いで、所定温度(通常は40〜60℃)で所定時間(通常は40〜60分)保持して麦芽中に含まれるタンパク質分解酵素を働かせる主にアミノ酸を生成させる。次いで65〜68℃に昇温し、65〜68℃で1〜1.5時間保持し、糖化酵素を働かせて麦芽糖を主成分とする糖類を生成させ、その後、濾過する方法が挙げられる。尚、この麦汁の製法は、通常行われている方法のごく一例であって、本発明に用いる麦汁はこれに限定されるものではない。
【0027】
また、麦汁の原料としては、酒類を製造する場合に使用される麦類が使用でき、特に限定されるものではないが、タンパク質含有量の高い大麦、例えば二条大麦、六条大麦等を用いた麦芽とするのが好ましい。タンパク質含有量の1つの指標であるトータル窒素量は、麦芽では8〜14%であるので、なるべくトータル窒素量の高い麦芽を用いるのが好ましい。また、トータル窒素の高い麦芽のなかでもアミノ酸等の水溶性窒素化合物割合が高い麦芽が好ましい。これによって、麦芽由来のギャバの含量が多くなるので、より高含量な発泡酒が得られることになる。
【0028】
また、麦汁には、例えば、発泡酒の麦芽使用量24%で製造した場合において、ギャバは4mg/100ml程度含まれているが、これをビール酵母でアルコール発酵すると、ギャバの量は1mg/100ml程度までに減少する。これはギャバが酵母の栄養源として消費されるためで、得られた発泡酒はギャバの含量が低いものとなる。しかしながら、酵母はギャバよりもグルタミン酸やアスパラギン酸などのアミノ酸を先に栄養源として消費するという特性があるので、トマトや人参等のグルタミン酸等を含有する青果物汁を麦汁に添加することで、麦汁中のギャバがほとんど消費されないことになる。
【0029】
また、青果物汁が添加された麦汁は、青果物汁や麦汁に含有されるグルタミン酸を麦芽由来のギャバ変換酵素(例えばグルタミン酸脱炭酸酵素)によってギャバに変換してギャバ含量を富化させてもよい。このギャバ量の富化は、青果物汁が添加された麦汁を0.5時間程度以上、より好ましくは1〜1.5時間、そのまま静置するか緩慢な撹拌下に放置することによって行われる。この際、通常は温度20〜60℃でpH4〜7に維持するが、より好ましくは、温度40〜55℃でpH4.5〜6に維持するのがよい。このため必要に応じて、青果物汁や麦汁を予めpH調整し、また温度調整してもよい。
【0030】
本発明に用いるもろみは、55%果糖ブドウ糖液等の液糖と例えば大豆ペプチドのように蛋白質を分解して得られるペプチドとから製造され、可溶性固形分を10質量%/100ml以上有するものであるのが好ましい。尚、蛋白質としては、大豆ペプチド以外にトウモロコシペプチド等が挙げられる。
【0031】
青果物汁が添加された麦汁からの発泡酒の製造は、通常に行われている方法で行われる。すなわち、上記のように、青果物汁が添加された麦汁、あるいは、青果物汁を添加した後にギャバ変換酵素でギャバ含有量を富化させた麦汁にホップを毬花ホップ換算で1〜3Kg/麦汁1Klを数回に分けて添加しながら1〜2時間煮沸し、ホップの香りと苦味をつける。次に、この麦汁を冷却し、通気してからビール酵母を加え、発酵タンク内で8〜9℃を超えないようにして6〜9日間発酵し、その後熟成することにより製造される。尚、このアルコール発酵においては、ビール酵母がアミノ酸類を栄養源として消費するが、ビール酵母は特定のアミノ酸から順次消費する傾向があることがわかっている。すなわち、同じアミノ酸の中ではグルタミン酸類が優先的に消費され、ギャバ(γ−アミノ酪酸)の消費順位が非常に低いことが判っている。このため、トマト果汁や人参汁等のように青果物汁にグルタミン酸を含有する場合には、青果物汁に含有されるグルタミン酸類のアミノ酸が先ず消費されて、ギャバの消費が抑えられので、高ギャバ含有の発泡酒を製造することができることになる。また、麦汁中にグルタミン酸類が比較的多く残った場合でも、酵母により優先的に消費されるので、発泡酒になった場合にその味に影響を与えることが少ない。尚、この麦汁からの発泡酒の製法は、通常行われている方法のごく一例であって、これに限定されるものではない。
【0032】
本発明において使用する青果物汁は、上記のように、ギャバを15mg/100ml以上含有し、また、グルタミン酸類を20mg/100ml以上含有することで、よりギャバ含量が富化された発泡酒を得ることができる。トマト果汁を原料として使用した場合、例えば、60mg/100ml程度のギャバと120mg/100ml程度のグルタミン酸を含有するトマト果汁を麦芽使用量24%で製造した麦汁に対して40容量%添加すると、ギャバ含量は、麦芽由来のギャバにトマト果汁由来のギャバとを合わせた28mg/100ml程度となる。このトマト果汁添加の麦汁をビール酵母で発酵させても、上記のようにビール酵母はトマト果汁中のグルタミン酸等のアミノ酸を優先的に栄養源として消費し、ギャバの減少が抑制され、得られた発泡酒はギャバ含量が26mg/100ml程度となる。このギャバ含量は麦芽100%の麦汁を用いて発酵させて得られた従来のビール(ギャバ含量は8〜11mg/100ml程度)に比べてほぼ3倍程度と高含量である。また、トマト果汁が10容量%の添加であっても、得られた発泡酒はギャバ含量が16mg/100mlとなり、従来のビールよりも高含有のものとなる。
【0033】
このように、麦芽使用量が24%と少ない麦汁であっても、トマト果汁を添加することにより、高含有ギャバ発泡酒を得ることができる。これによって、得られた発泡酒は、麦芽の使用量が少ないので、麦芽に由来するプリン体の量が少ないことになる。このため、麦芽使用量100%のビールに比べてプリン体の量が大幅に減少され、このプリン体に起因する痛風を引き起こし難いという著効も併せ奏される。
【0034】
また、麦汁にトマト果汁を添加した後、麦汁中のギャバ変換酵素(例えばグルタミン酸脱炭酸酵素)により、トマト果汁中のグルタミン酸を脱炭酸反応してギャバに変換し、麦汁中のギャバ含量を富化させてもよい。すなわち、麦汁にトマト果汁を添加した後、40〜55℃の温度で、1〜1.5時間程度保持し、麦汁中のギャバ変換酵素により、トマト果汁中のグルタミン酸を脱炭酸反応してギャバに変換することにより、麦汁中のギャバ含量が40mg/100ml程度、グルタミン酸含量が50mg/100ml程度となる。このギャバ含量富化麦汁をビール酵母で発酵させて得られた発泡酒は、ギャバ含量が33mg/100ml程度と高含有なものとなる。尚、この際に、グルタミン酸および/またはその塩、例えばL−グルタミン酸やL−グルタミン酸ナトリウム塩を添加して、トマト由来のグルタミン酸からのギャバに加え、添加したグルタミン酸類からのギャバで、さらに麦汁中のギャバ含量を富化してもよい。
【0035】
また、人参汁を原料として使用した場合、例えば、20mg/100ml程度のギャバと25mg/100ml程度のグルタミン酸を含有する人参汁を麦芽使用量24%で製造した麦汁に対して50容量%添加すると、麦汁中のギャバ含量は、麦芽由来のギャバに人参汁由来のギャバとを合わせた13mg/100ml程度となる。また、グルタミン酸類の含量は18mg/100mlとなる。この人参汁添加の麦汁をビール酵母で発酵させると、ビール酵母はトマト果汁と同様に人参汁中のグルタミン酸等のアミノ酸を優先的に栄養源として消費し、ギャバの減少が抑制され、ギャバ含量が12mg/ml程度の発泡酒が得られる。このギャバ含量は麦芽100%の麦汁を用いて発酵させて得られた従来のビール(ギャバ含量は〜11mg/100ml程度)よりも高含量である。また、人参汁が10容量%の添加であっても、得られた発泡酒はギャバ含量が5mg/100mlとなり、従来の発泡酒(ギャバ含量は2mg/100ml程度)よりも高含有のものとなる。このように、麦芽使用量が少ない麦汁であっても、人参汁を添加することにより、高含有ギャバ発泡酒を得ることができる。
【0036】
また、人参汁もトマト果汁と同様に、麦汁中のギャバ変換酵素により人参汁に含有されるグルタミン酸をギャバに変換することで、麦汁中のギャバ含量を富化させてもよい。これによって、よりギャバ含量の高い発泡酒を得ることができる。すなわち、麦汁に人参汁を添加した後、40〜55℃の温度で、1〜1.5時間程度保持し、麦汁中のギャバ変換酵素により、人参汁中のグルタミン酸を脱炭酸反応してギャバに変換することにより、麦汁中のギャバ含量が18mg/100ml程度、グルタミン酸含量が13mg/100ml程度となる。このギャバ含量富化麦汁をビール酵母で発酵させて得られた発泡酒は、ギャバ含量が15mg/100ml程度と高含有なものとなる。尚、この際に、上記のトマト果汁と同様に、グルタミン酸および/またはその塩、例えばL−グルタミン酸やL−グルタミン酸ナトリウム塩を添加して、人参由来のグルタミン酸からのギャバに加え、このグルタミン酸類からのギャバで、さらに麦汁中のギャバ含量を富化してもよい。
【0037】
青果物汁が添加されたもろみからの雑酒の製造は、上記の麦汁を用いた高ギャバ含有発泡酒と同様の方法で行われる。すなわち、青果物汁が添加されたもろみにホップを毬花ホップ換算で1〜3Kg/もろみ1Klを数回に分けて添加しながら1〜2時間煮沸し、ホップの香りと苦味をつける。次に、このもろみを冷却し、通気してからビール酵母を加え、発酵タンク内で8〜9℃を超えないようにして6〜9日間発酵し、その後熟成することにより製造される。尚、このアルコール発酵においては、ビール酵母がアミノ酸類を栄養源として消費するが、ビール酵母は特定のアミノ酸から順次消費する傾向があることがわかっている。すなわち、同じアミノ酸の中ではグルタミン酸類が優先的に消費され、ギャバ(γ−アミノ酪酸)の消費順位が非常に低いことが判っている。このため、トマト果汁や人参汁等のように青果物汁にグルタミン酸を含有する場合には、青果物汁に含有されるグルタミン酸類のアミノ酸が先ず消費されて、ギャバの消費が抑えられので、高ギャバ含有の発泡酒を製造することができることになる。尚、このもろみからの雑酒の製法は、通常行われている方法のごく一例であって、これに限定されるものではない。
【0038】
本発明において使用する青果物汁は、上記のように、ギャバを15mg/100ml以上含有し、また、グルタミン酸類を20mg/100ml以上含有することで、よりギャバ含量が富化された雑酒を得ることができる。トマト果汁を原料として使用した場合、例えば、60mg/100ml程度のギャバと120mg/100ml程度のグルタミン酸を含有するトマト果汁をもろみに対して50容量%添加すると、ギャバ含量は、30mg/100ml程度となる。また、グルタミン酸類の含量は60mg/100mlとなる。このトマト果汁添加のもろみをビール酵母で発酵させても、上記のようにビール酵母はトマト果汁中のグルタミン酸等のアミノ酸を優先的に栄養源として消費し、ギャバの減少が抑制され、得られた雑酒はギャバ含量が28mg/100ml程度となる。このギャバ含量は従来のビール(ギャバ含量は7〜11mg/100ml程度)に比べてほぼ3倍程度と高含量である。また、トマト果汁が10容量%の添加であっても、得られた雑酒はギャバ含量が6mg/100mlとなり、従来のビールと同等またはそれ以上高含有のものとなる。
【0039】
また、人参汁を原料として使用した場合、例えば、20mg/100ml程度のギャバと25mg/100ml程度のグルタミン酸を含有する人参汁をもろみに対して50容量%添加すると、もろみ中のギャバ含量は10mg/100ml程度となる。また、グルタミン酸類の含量は12mg/100mlとなる。この人参汁添加のもろみをビール酵母で発酵させると、ビール酵母はトマト果汁と同様に人参汁中のグルタミン酸等のアミノ酸を優先的に栄養源として消費し、ギャバの減少が抑制され、ギャバ含量が10mg/100ml程度の雑酒が得られる。このギャバ含量は従来のビール(ギャバ含量は7〜11mg/100ml程度)と比較して同等以上の含量である。また、人参汁が10容量%の添加であっても、得られた雑酒はギャバ含量が2mg/100mlとなり、従来の雑酒、発泡酒よりも高含有のものとなる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例によってより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
<参考例1>
ビール大麦を発芽させた麦芽使用量24%で製造した可溶性固形分が8%の麦汁にトマト6倍濃縮果汁を麦汁100mlあたり10ml含有させ、可溶性固形分11%のトマト60%の麦汁を調製する。尚、使用したトマト濃縮果汁は、トマト果実を搾汁して得られた100%トマト果汁を6倍濃縮したもので、糖度28Brix程度であって、ギャバ含量は260mg/100mlであり、グルタミン酸類の含量は500mg/100mlである。また、麦汁のギャバ含量は3mg/100mlで、グルタミン酸含量は10mg/100mlであった。また、調製した麦汁中のギャバおよびグルタミン酸の含量を測定の処、ギャバ含量は40mg/100mlであり、グルタミン酸含量は85mg/100mlであった。
【0042】
この調製した麦汁にホップを毬花ホップ換算で0.4mg/100ml加えて、煮沸釜で約1時間煮沸し、その後、8℃に冷却した。次いで、ホップの香りと苦味をつけた上記麦汁に泥状ビール酵母を0.5ml/100ml加えて、常法に従って発泡酒を製造した。
【0043】
得られた発泡酒について、ギャバおよびグルタミン酸の含量を測定の処、ギャバ含量は34mg/100mlであり、グルタミン酸含量は5mg/100mlであった。尚、ギャバおよびグルタミン酸の含量は高速アミノ酸自動分析機により定量した。
【0044】
<比較例1>
ビール大麦を発芽させた麦芽使用量100重量%で製造した可溶性固形分が12%の麦汁にホップを毬花ホップ換算で0.4mg/100ml加えて、煮沸釜で約1時間煮沸し、その後、8℃に冷却した。次いで、ホップの香りと苦味をつけた上記麦汁に泥状ビール酵母を0.5ml/100ml加えて、実施例1と同様に常法に従って発泡酒を製造した。
【0045】
得られた発泡酒について、ギャバおよびグルタミン酸の含量を測定の処、ギャバは10mg/100mlであり、グルタミン酸は5mg/100mlであった。
【0046】
この結果より、参考例1で得られた発泡酒は、ギャバがアルコール発酵によって消費されずに34mg/100mlと高含量であり、比較例1に比べて大幅に富化している。一方、グルタミン酸はアルコール発酵によって大幅に消費されて、含量が5mg/100mlまでに減少していて、比較例1に比べてほとんど変らない値であった。これによって、酵母によってギャバが消費されることなく、高ギャバ含有発泡酒が得られることが確認された。
【0047】
また、得られた発泡酒は、トマト果汁を60容量%使用しているが、トマトの青臭さやトマト果汁の鈍重感がなく、極めてマイルドで嗜好的に優れたものであった。
【0048】
<実施例>
ビール大麦を発芽させた麦芽使用量25%で製造した可溶性固形分が9%の麦汁にトマト4倍濃縮果汁を麦汁100mlあたり10ml含有させ、可溶性固形分11%のトマト40%の麦汁を調製する。尚、この際に使用したトマト濃縮果汁のギャバ含量は280mg/100mlであり、グルタミン酸類の含量は500mg/100mlである。また、麦汁のギャバ含量は5mg/100mlで、グルタミン酸含量は11mg/100mlであった。また、調製した麦汁中のギャバおよびグルタミン酸の含量を測定の処、ギャバ含量は30mg/100mlで、グルタミン酸含量は60mg/100mlであった。
【0049】
この調製した麦汁を約50℃で2時間保持した後、約65℃に昇温し、麦芽中の酵素でトマト果汁中のグルタミン酸をギャバに変換した。その後、75℃まで昇温し、酵素の失活を行った後、濾過し、ホップを毬花ホップ換算で0.4mg/100ml添加して、煮沸釜で約1時間煮沸し、その後、8℃に冷却して麦汁を得た。得られたギャバを増量させた麦汁中のギャバおよびグルタミン酸の含量を測定の処、ギャバは40mg/100mlであり、グルタミン酸は50mg/100mlであった。
【0050】
次いで、ホップの香りと苦味をつけた上記麦汁に泥状ビール酵母を0.5ml/100ml加えて、参考例1と同様に常法に従って発泡酒を製造した。
【0051】
得られた発泡酒について、ギャバおよびグルタミン酸の含量を測定の処、ギャバは33mg/100mlであり、グルタミン酸は3mg/100mlであった。
【0052】
この結果より、実施例で得られた発泡酒は、ギャバがアルコール発酵によって消費されずに33mg/100mlと高含量であり、比較例1に比べて大幅に富化している。一方、グルタミン酸はアルコール発酵によって大幅に消費されて、その含量が3mg/100mlまでに減少していて、比較例1に比べてほとんど変らない値であった。これによって、酵母によってギャバが消費されることなく、高ギャバ含有発泡酒が得られることが確認された。
【0053】
また、トマト果汁を添加した麦汁を加温状態で保持することで、麦汁中のギャバ含量が30mg/100mlから40mg/100mlと富化している結果より、トマト中のグルタミン酸が麦汁中のギャバ変換酵素によってギャバに変換され、ギャバ含量が富化したことが確認された。
【0054】
また、得られた発泡酒は、トマト果汁を40容量%使用しているが、トマトの青臭さやトマト果汁の鈍重感がなく、極めてマイルドで嗜好的に優れたものであった。
【0055】
<参考例2>
ビール大麦を発芽させた麦芽使用量24%で製造した可溶性固形分が8%の麦汁に人参4倍濃縮果汁を麦汁100mlあたり15ml含有させ、可溶性固形分11%の人参60%の麦汁を調製する。尚、使用した人参濃縮果汁は、人参を搾汁して得られた100%人参汁を4倍濃縮したもので、糖度32Brix程度であって、ギャバ含量は100mg/100mlであり、グルタミン酸類の含量は150mg/100mlである。また、麦汁のギャバ含量は3mg/100mlで、グルタミン酸含量は10mg/100mlであった。また、調製した麦汁中のギャバおよびグルタミン酸の含量を測定の処、ギャバ含量は18mg/100mlであり、グルタミン酸含量は32mg/100mlであった。
【0056】
この調製した麦汁にホップを毬花ホップ換算で0.4mg/100ml加えて、煮沸釜で約1時間煮沸し、その後、8℃に冷却した。次いで、ホップの香りと苦味をつけた上記麦汁に泥状ビール酵母を0.5ml/100ml加えて、常法に従って発泡酒を製造した。
【0057】
得られた発泡酒について、ギャバおよびグルタミン酸の含量を測定の処、ギャバ含量は15mg/100mlであり、グルタミン酸含量は3mg/100mlであった。
【0058】
<参考例3>
55%果糖ぶどう糖液糖9%と大豆ペプチド0.1%で製造した可溶性固形分が8%の雑酒用もろみにトマト6倍濃縮果汁をもろみ100mlあたり10ml含有させ、可溶性固形分11%のトマト果汁60%のもろみを調製する。尚、使用したトマト濃縮果汁は、トマトを搾汁して得られた100%トマト果汁を6倍濃縮したもので、糖度28Brix程度であって、ギャバ含量は260mg/100mlであり、グルタミン酸類の含量は500mg/100mlである。また、トマト果汁添加前の雑酒用もろみのギャバ含量は0mg/100mlで、グルタミン酸含量は20mg/100mlであった。また、調製したもろみ中のギャバおよびグルタミン酸の含量を測定の処、ギャバ含量は37mg/100mlであり、グルタミン酸含量は75mg/100mlであった。
【0059】
この調製したもろみにホップを毬花ホップ換算で0.4mg/100ml加えて、煮沸釜で約1時間煮沸し、その後、8℃に冷却した。次いで、ホップの香りと苦味をつけた上記もろみに泥状ビール酵母を0.5ml/100ml加えて、常法に従って雑酒を製造した。
【0060】
得られた雑酒について、ギャバおよびグルタミン酸の含量を測定の処、ギャバ含量は30mg/100mlであり、グルタミン酸含量は5mg/100mlであった。
【0061】
以上、トマト果汁、人参汁を添加した麦汁をアルコール発酵して得られた発泡酒について、実施例を挙げて説明してきたが、上述したように、麦汁は、トマト果汁中に含有されるグルタミン酸等のグルタミン酸を麦芽由来のギャバ変換酵素でギャバに変換する作用を有するので、トマト果汁または人参汁のギャバ含量を富化した高ギャバ含量のトマト果汁や人参汁を製造することも可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
麦芽を24質量%以上25質量%以下使用した麦汁に対して、ギャバが15mg/100ml以上含有され且つグルタミン酸が20mg/100ml以上含有される青果物汁を100%青果物汁換算で40容量%以上60容量%以下添加し、その麦汁を、温度20℃〜60℃で0.5時間以上放置して、前記麦汁に含まれる前記麦芽由来のギャバ変換酵素で前記青果物汁に含有されるグルタミン酸の一部をギャバに変換した後、酵母によってアルコール発酵させる高ギャバ含有発泡酒の製造方法。
【請求項2】
前記麦汁は、可溶性固形分が5質量%/100ml以上である請求項1に記載の高ギャバ含有発泡酒の製造方法。
【請求項3】
前記青果物汁は、トマト果汁である請求項1又は2に記載の高ギャバ含有発泡酒の製造方法。
【請求項4】
前記トマト果汁は、トマト由来のギャバが40mg/100ml以上含有されるものである請求項3に記載の高ギャバ含有発泡酒の製造方法。

【公開番号】特開2011−172601(P2011−172601A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−132960(P2011−132960)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【分割の表示】特願2006−10314(P2006−10314)の分割
【原出願日】平成18年1月18日(2006.1.18)
【出願人】(000000055)アサヒグループホールディングス株式会社 (535)
【Fターム(参考)】