説明

高トリグリセリド血症の予防・治療剤、及びそのスクリーニング方法

【課題】新規作用機序を有する、高トリグリセリド血症の予防・治療剤、及びそのスクリーニング方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、Stra13の発現又は活性を抑制する物質を含有してなる、高トリグリセリド血症の予防・治療剤を提供する。また、本発明は、被検物質がStra13の発現又は活性を抑制するか否かを評価することを含む、高トリグリセリド血症を予防・治療し得る物質のスクリーニング方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高トリグリセリド血症の予防・治療剤、そのスクリーニング方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
高トリグリセリド血症は、血液中にトリグリセリドが多く存在する(150mg/dL以上)タイプの高脂血症である。高トリグリセリド血症は、内臓脂肪型肥満の人に多く、心血管疾患(動脈硬化症等)の発症と関連があると考えられている。
高トリグリセリド血症の病因の多くは、アルコールや糖質の過剰摂取であるため、その治療には、一般には、食事療法が有効である。しかし、食事療法は、食事制限により、自分の好きなものが十分に食べられない等の精神面へのストレスを患者に与えるため、食事療法のみに頼ることなく高トリグリセリド血症を予防・治療し得るような新たな薬剤の開発が求められる。
一方、Stra13(Dec1、Clast5又はSharp2とも呼ばれている)はレチノイン酸で誘導される因子として単離された、bHLH型転写因子(非特許文献1)である。該転写因子についてはHypoxia(低酸素条件)により誘導され、脂肪細胞の分化抑制作用を有するということや(非特許文献2、特許文献1)、レプチンにより誘導される遺伝子の一つであることや(特許文献2)、マウスEC細胞株ATDC5でTGF-β、BMP2もしくはインスリンで発現誘導されること(非特許文献3)が報告されている。
また、本発明者らは、Stra13遺伝子又は該遺伝子がコードするタンパク質(Stra13)の発現を指標とすることにより、肝臓におけるインスリン由来シグナル伝達、すなわちインスリン応答性を検出し得ることを見い出している(特許文献3)。
しかし、Stra13と肝臓における脂肪酸合成や高トリグリセリド血症との関係は全く知られていなかった。
【0003】
【特許文献1】特表2002−507405号公報
【特許文献2】特表2002−525067号公報
【特許文献3】特開2005-6645号公報
【非特許文献1】Genes & Dev., 11, 2052-2065 (1997)
【非特許文献2】Dev. Cell, 2, 331-341 (2002)
【非特許文献3】J. Biol. Chem., 277, 50112-50120 (2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、肝臓において脂肪酸合成系遺伝子の発現制御に関与する転写因子を同定し、該転写因子の発現や機能を調節することにより高トリグリセリド血症を予防・治療し得る薬剤を開発し、又該転写因子の発現や機能を指標とした高トリグリセリド血症の予防・治療剤のスクリーニング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、Stra13に対するshRNAを用いて肝臓特異的にStra13の発現を抑制すると、意外なことに、SREBP1c、SCD1等の脂肪酸合成に関わる遺伝子の発現が低下し、血清トリグリセリド濃度が低下することを見い出した。この結果は、肝臓におけるStra13発現の促進が、インスリン抵抗性や糖代謝を改善又は治療し得るとの報告(特許文献3)とは対照的であった。
上記の知見から、Stra13は、肝臓においてSREBP1c、SCD1等の脂肪酸合成に関わる遺伝子の発現を促進し、血清中のトリグリセリド濃度を上昇させる作用を有していることが明らかとなった。従って、Stra13の発現や機能を阻害する物質は、高トリグリセリド血症の予防・治療剤となり得る。
本発明は上記の知見をもとに完成するに至ったものである。すなわち本発明は、以下に関する。
【0006】
[1]Stra13の発現又は活性を抑制する物質を含有してなる、高トリグリセリド血症の予防・治療剤。
[2]Stra13の発現又は活性を抑制する物質が、以下(i)、(ii)、(iii)のいずれかである、上記[1]記載の剤:
(i)Stra13 アンチセンス核酸、Stra13 リボザイムおよびStra13 siRNAからなる群より選ばれるStra13の発現を抑制する物質;
(ii)ドミナントネガティブ変異体、当該変異体をコードする核酸、Stra13 抗体およびStra13 抗体をコードする核酸からなる群より選ばれるStra13の活性を抑制する物質;あるいは
(iii)(i)、(ii)のいずれかの核酸を発現し得る発現ベクター。
[3]該物質は、肝臓におけるStra13の発現又は活性を抑制する、上記[1]記載の剤。
[4]被検物質がStra13の発現又は活性を抑制するか否かを評価することを含む、高トリグリセリド血症を予防・治療し得る物質のスクリーニング方法。
[5]Stra13の発現又は活性を抑制する物質が、高トリグリセリド血症を予防・治療し得る物質として選択される、上記[4]記載の方法。
[6]下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、上記[4]記載の方法:
(a)被検物質とStra13の発現を測定可能な細胞とを接触させる工程;
(b)被検物質を接触させた細胞におけるStra13の発現量を測定し、該発現量を被検物質を接触させない対照細胞におけるStra13の発現量と比較する工程;
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、Stra13の発現量を抑制する被検物質を選択する工程。
[7]Stra13の発現を測定可能な細胞が肝細胞である、上記[6]記載の方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の剤は、Stra13の発現又は活性の抑制という新規作用機序により血中トリグリセリド濃度の低下が所望される疾患・状態の予防・治療に有用である。本発明のスクリーニング方法は、高トリグリセリド血症を予防・治療し得る物質の開発を可能とするため有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の内容をより具体的に説明するが、本発明はこの記載に限定されるものではない。
【0009】
1.高トリグリセリド血症の予防・治療剤
本発明は、Stra13の発現又は活性を抑制する物質を含有してなる、高トリグリセリド血症の予防・治療剤を提供する。好ましくは、該物質は、肝臓(肝細胞)におけるStra13の発現又は活性を抑制する。より好ましくは、該抑制効果は肝臓(肝細胞)特異的である。
【0010】
本明細書中で使用される場合、「高トリグリセリド血症」とは、血中トリグリセリド濃度が正常値よりも高いタイプの高脂血症をいう。日本動脈硬化学会が定めた診断基準によれば、ヒトにおいては、通常、血中トリグリセリド濃度が150mg/dl以上である場合に、対象が高トリグリセリド血症であると診断され得る。
【0011】
本明細書中で使用される場合、「発現」とは、蛋白質が産生され且つ機能的な状態でその作用部位に局在することをいう。従って、「発現を抑制する物質」は、遺伝子の転写、転写後調節、蛋白質への翻訳、翻訳後修飾、局在化(即ち、核内移行)及び蛋白質フォールディング等の、いかなる段階で作用するものであってもよい。一方、「活性を抑制する物質」とは、細胞内の蛋白質に作用して、当該蛋白質の作用を妨げる物質をいう。
【0012】
本発明において用いられるStra13は、通常、哺乳動物のStra13である。本明細書中で使用される場合、「哺乳動物」としては、例えば、霊長類、実験用動物、家畜、ペット等が挙げられ特に限定されるものではないが、具体的には、ヒト、サル、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ウマ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコなどである。
【0013】
Stra13は、公知の遺伝子であり、そのヌクレオチド配列も公知である。ヒトStra13遺伝子のヌクレオチド配列(cDNA配列)としては、配列番号1で表されるヌクレオチド配列が知られており(GenBank Accession No. NM_003670)、その取得方法についてもBiochem. Biophys. Res. Commun. 236 (2), 294-298 (1997)に記載されるように公知である。そのオルソログとしては、配列番号3で表されるヌクレオチド配列(cDNA配列)を有するマウスStra13遺伝子(Genbank Accession No. NM_011498)や配列番号5で表されるヌクレオチド配列(cDNA配列)を有するラットStra13遺伝子(Genbank Accession No. NM_053328)等が挙げられ、これらの取得方法についてもGenes Dev. 11 (16), 2052-2065 (1997)、Mol. Cell. Neurosci. 10 (3-4), 460-475 (1997)に記載されるように公知である。
【0014】
Stra13の活性としては、肝臓等においてSREBP1c、SCD1等の脂肪酸合成に関わる遺伝子の発現を促進する活性、class B E-box elementsを含むDNAへの結合活性等を挙げることができる。
【0015】
(Stra13の発現を抑制する物質)
Stra13の発現を抑制する物質としては、転写抑制因子、RNAポリメラーゼ阻害剤、RNA分解酵素、蛋白質合成阻害剤、核内移行阻害剤、蛋白質分解酵素、蛋白質変性剤等が例示されるが、細胞内で発現する他の遺伝子・蛋白質に及ぼす悪影響を最小限にするためには、標的分子に特異的に作用し得る物質であることが重要である。
【0016】
このような観点から、Stra13の発現を抑制する物質の好ましい一態様は、Stra13のmRNAもしくは初期転写産物のアンチセンス核酸である。「アンチセンス核酸」とは、標的mRNA(初期転写産物)を発現する細胞の生理的条件下で該標的mRNA(初期転写産物)とハイブリダイズし得る塩基配列からなり、且つハイブリダイズした状態で該標的mRNA(初期転写産物)にコードされるポリペプチドの翻訳を阻害し得る核酸をいう。アンチセンス核酸の種類はDNAであってもRNAであってもよいし、あるいはDNA/RNAキメラであってもよい。また、天然型のアンチセンス核酸は、細胞中に存在する核酸分解酵素によってそのリン酸ジエステル結合が容易に分解されるので、本発明のアンチセンス核酸は、分解酵素に安定なチオリン酸型(リン酸結合のP=OをP=Sに置換)や2’−O−メチル型等の修飾ヌクレオチドを用いて合成もできる。アンチセンス核酸の設計に重要な他の要素として、水溶性及び細胞膜透過性を高めること等が挙げられるが、これらはリポソームやマイクロスフェアを使用するなどの剤形の工夫によっても克服できる。
【0017】
アンチセンス核酸の長さは、Stra13のmRNAもしくは初期転写産物と特異的にハイブリダイズし、且つハイブリダイズした状態でStra13ポリペプチドの翻訳を阻害し得る得る限り特に制限はなく、短いもので約15塩基程度、長いものでmRNA(初期転写産物)の全長配列に相補的な配列を含むような配列であってもよい。ハイブリダイゼーションの特異性を考慮すると、アンチセンス核酸の長さは、例えば約15塩基以上、好ましくは約18塩基以上、より好ましくは約20塩基以上である。また、合成の容易さや抗原性の問題等を考慮すると、アンチセンス核酸の長さは、例えば約200塩基以下、好ましくは約50塩基以下、より好ましくは約30塩基以下である。即ち、アンチセンス核酸としては、例えば約15〜約200塩基、好ましくは約18〜約50塩基、より好ましくは約20〜約30塩基からなるオリゴヌクレオチドが例示される。
【0018】
アンチセンス核酸の標的ヌクレオチド配列は、アンチセンス核酸がハイブリダイズすることにより、Stra13もしくはその機能的断片の翻訳が阻害される配列であれば特に制限はなく、Stra13のmRNA(初期転写産物)の全長配列であっても部分配列(例えば約15塩基以上、好ましくは約18塩基以上、より好ましくは約20塩基以上)であってもよいし、あるいは初期転写産物のイントロン部分であってもよいが、アンチセンス核酸としてオリゴヌクレオチドを使用する場合は、標的配列はStra13のmRNAの5’末端からコード領域のC末端までに位置することが望ましい。
【0019】
アンチセンス核酸のヌクレオチド配列は、通常、標的ヌクレオチド配列の相補配列と、少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%、最も好ましくは95%以上(例えば100%)の相同性を有する。ヌクレオチド配列の相同性は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST等を用い、デフォルト条件にて計算することができる。
【0020】
さらに、アンチセンス核酸は、Stra13のmRNAもしくは初期転写産物とハイブリダイズして翻訳を阻害するだけでなく、二本鎖RNAであるStra13遺伝子と結合して三重鎖(トリプレックス)を形成し、mRNAへの転写を阻害し得るものであってもよい。
【0021】
Stra13の発現を抑制する物質の別の好ましい一態様は、Stra13のmRNAもしくは初期転写産物を、コード領域の内部(初期転写産物の場合はイントロン部分を含む)で特異的に切断し得るリボザイムである。「リボザイム」とは核酸を切断する酵素活性を有するRNAをいうが、最近では当該酵素活性部位の塩基配列を有するオリゴDNAも同様に核酸切断活性を有することが明らかになっているので、本発明では配列特異的な核酸切断活性を有する限りDNAをも包含する概念として用いるものとする。リボザイムとして最も汎用性の高いものとしては、ウイロイドやウイルソイド等の感染性RNAに見られるセルフスプライシングRNAがあり、ハンマーヘッド型やヘアピン型等が知られている。また、リボザイムを、それをコードするRNAを含む発現ベクターの形態で使用する場合には、細胞質への移行を促進するために、tRNAを改変した配列をさらに連結したハイブリッドリボザイムとすることもできる[Nucleic Acids Res., 29(13): 2780-2788 (2001)]。
【0022】
Stra13の発現を抑制する物質のさらに別の一態様は、Stra13のmRNAもしくは初期転写産物のヌクレオチド配列又はその部分配列(好ましくはコード領域内)(初期転写産物の場合はイントロン部分を含む)に相同なヌクレオチド配列を含む二本鎖オリゴRNA、いわゆるsiRNAである。短い二本鎖RNAを細胞内に導入するとそのRNAに相補的なmRNAが分解される、いわゆるRNA干渉(RNAi)と呼ばれる現象は、以前から線虫、昆虫、植物等で知られていたが、最近、この現象が動物細胞でも起こることが確認されたことから[Nature, 411(6836): 494-498 (2001)]、リボザイムの代替技術として注目されている。siRNAとしては、後述の通り自ら合成したものを使用できるが、市販のものを用いてもよい。
【0023】
siRNAは、代表的には、標的遺伝子のmRNAもしくは初期転写産物のヌクレオチド配列又はその部分配列(以下、標的ヌクレオチド配列)と相同な配列を有するRNAとその相補鎖からなる二本鎖オリゴRNAである。また、ヘアピンループ部分を介して、標的ヌクレオチド配列に相同な配列(第1の配列)と、その相補配列(第2の配列)とが連結された一本鎖RNAであって、ヘアピンループ型の構造をとることにより、第1の配列が第2の配列と2本鎖構造を形成するRNA(small hairpin RNA: shRNA)もsiRNAの好ましい態様の1つである。
【0024】
siRNAに含まれる、標的ヌクレオチド配列と相同な部分の長さは、通常、約18塩基以上、例えば約20塩基前後(代表的には約21〜23塩基長)の長さであるが、RNA干渉を引き起こすことが出来る限り、特に限定されない。siRNAが23塩基よりも長い場合には、該siRNAは細胞内で分解されて、約20塩基前後のsiRNAを生じるので、理論的には標的ヌクレオチド配列と相同な部分の長さの上限は、標的遺伝子のmRNAもしくは初期転写産物のヌクレオチド配列の全長である。しかし、合成の容易さや抗原性の問題等を考慮すると、該相同部分の長さは、例えば約200塩基以下、好ましくは約50塩基以下、より好ましくは約30塩基以下である。即ち、該相同部分の長さは、例えば約18塩基以上、好ましくは約18〜約200塩基、より好ましくは約20〜約50塩基、更に好ましくは約20〜約30塩基である。
【0025】
また、siRNAの全長も、通常、約18塩基以上、例えば約20塩基前後(代表的には約21〜23塩基長)の長さであるが、RNA干渉を引き起こすことが出来る限り、特に限定されず、理論的にはsiRNAの長さの上限はない。しかし、合成の容易さや抗原性の問題等を考慮すると、siRNAの長さは、例えば約200塩基以下、好ましくは約50塩基以下、より好ましくは約30塩基以下である。即ち、siRNAの長さは、例えば約18塩基以上、好ましくは約18〜約200塩基、より好ましくは約20〜約50塩基、更に好ましくは約20〜約30塩基である。なお、shRNAの核酸の長さは、二本鎖構造をとった場合の二本鎖部分の長さとして示すものとする。
【0026】
標的ヌクレオチド配列と、siRNAに含まれるそれに相同な配列との関係については、100%一致することが好ましい。しかし、siRNAの中央から外れた位置についての塩基の変異(少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%、最も好ましくは95%以上の相同性の範囲内であり得る)については、完全にRNA干渉による切断活性がなくなるのではなく、部分的な活性が残存し得る。他方、siRNAの中央部の塩基の変異は影響が大きく、RNA干渉によるmRNAの切断活性が極度に低下し得る。
【0027】
siRNAは、5’又は3’末端に5塩基以下、好ましくは2塩基からなる、塩基対を形成しない、付加的な塩基を有していてもよい。該付加的塩基は、DNAでもRNAでもよいが、DNAを用いるとsiRNAの安定性を向上させることができる。このような付加的塩基の配列としては、例えばug-3’、uu-3’、tg-3’、tt-3’、ggg-3’、guuu-3’、gttt-3’、ttttt-3’、uuuuu-3’などの配列が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0028】
shRNAのヘアピンループのループ部分の長さは、RNA干渉を引き起こすことが出来る限り、特に限定されないが、通常、5〜25塩基程度である。該ループ部分のヌクレオチド配列は、ループを形成することができ、且つ、shRNAがRNA干渉を引き起こすことができる限り、特に限定されない。
【0029】
アンチセンスオリゴヌクレオチド及びリボザイムは、Stra13のcDNA配列もしくはゲノミックDNA配列に基づいてmRNAもしくは初期転写産物の標的配列を決定し、市販のDNA/RNA自動合成機(アプライド・バイオシステムズ社、ベックマン社等)を用いて、これに相補的な配列を合成することにより調製できる。siRNAは、センス鎖及びアンチセンス鎖をDNA/RNA自動合成機でそれぞれ合成し、適当なアニーリング緩衝液中、約90〜約95℃で約1分程度変性させた後、約30〜約70℃で約1〜約8時間アニーリングさせることにより調製できる。また、相補的なオリゴヌクレオチド鎖を交互にオーバーラップするように合成して、これらをアニーリングさせた後リガーゼでライゲーションすることにより、より長い二本鎖ポリヌクレオチドを調製できる。
【0030】
Stra13の発現を抑制する物質が、アンチセンス核酸、siRNA等の核酸分子(以下、必要に応じて有効核酸分子ともいう)である場合、本発明の予防・治療剤は、該有効核酸分子を発現し得る(コードする)発現ベクターを有効成分とすることもできる。当該発現ベクターにおいては、通常、上記の核酸分子をコードするオリゴヌクレオチドもしくはポリヌクレオチドが、投与対象である哺乳動物の細胞(例えば、肝細胞)内でプロモーター活性を発揮し得るプロモーターに機能的に連結されている。
【0031】
使用されるプロモーターは、投与対象である哺乳動物の細胞内で機能し得るものであれば特に制限はない。プロモーターとしては、polI系プロモーター、polII系プロモーター、polIII系プロモーター等を使用することができる。具体的には、SV40由来初期プロモーター、サイトメガロウイルスLTR等のウイルスプロモーター、β−アクチン遺伝子プロモーター等の哺乳動物の構成蛋白質遺伝子プロモーター、並びにtRNAプロモーター等のRNAプロモーター等が用いられる。
【0032】
有効核酸分子が、リボザイムやsiRNA等のRNAである場合には、プロモーターとしてpolIII系プロモーターを使用することが好ましい。polIII系プロモーターとしては、例えば、U6プロモーター、H1プロモーター、tRNAプロモーター等を挙げることができる。
【0033】
本発明の発現ベクターは、好ましくは有効核酸分子をコードするオリゴ(ポリ)ヌクレオチドの下流に転写終結シグナル、すなわちターミネーター領域を含有する。さらに、形質転換細胞選択のための選択マーカー遺伝子(テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン等の薬剤に対する抵抗性を付与する遺伝子、栄養要求性変異を相補する遺伝子等)をさらに含有することもできる。
【0034】
本発明において発現ベクターに使用されるベクターは特に制限されないが、ヒト等の哺乳動物への投与に好適なベクターとしては、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス等のウイルスベクターが挙げられる。このうち、アデノウイルスは、遺伝子導入効率が極めて高く、非分裂細胞にも導入可能である等の利点を有する。但し、導入遺伝子の宿主染色体への組込みは極めて稀であるので、遺伝子発現は一過性で通常約4週間程度しか持続しない。治療効果の持続性を考慮すれば、比較的遺伝子導入効率が高く、非分裂細胞にも導入可能で、且つ逆位末端繰り返し配列(ITR)を介して染色体に組み込まれ得るアデノ随伴ウイルスの使用もまた好ましい。
【0035】
アンチセンス核酸やsiRNA等の有効核酸分子は本来異物であり、これらの構成的且つ過剰な発現は、当該遺伝子を導入された宿主動物にとって毒性が強く、副作用を引き起こす場合も考えられる。従って、本発明の好ましい態様においては、発現ベクターは、不要な部位での有効核酸分子の過剰発現による悪影響を防ぐために、有効核酸分子を組織(例えば、肝臓)特異的に発現させることができる。実施例において示されるように、肝臓のStra13の発現又は活性を抑制することにより、強力に血中トリグリセリド濃度を抑制することができる。
【0036】
このようなベクターの第一の実施態様としては、投与対象となる動物の肝臓(肝細胞)において特異的に発現する遺伝子由来のプロモーターに機能的に連結した有効核酸分子をコードするオリゴ(ポリ)ヌクレオチドを含むベクターが挙げられる。肝細胞において特異的に発現する遺伝子由来のプロモーターとしては、例えば、アルブミンプロモーター等の肝細胞特異的遺伝子のプロモーターが挙げられる。
【0037】
また、上記ベクターの第二の実施態様としては、投与対象となる動物の肝臓(肝細胞)に特異的に有効核酸分子をコードするオリゴ(ポリ)ヌクレオチドを送達し得るベクターが挙げられる。そのようなベクターとしては、例えば、アデノウイルスベクターを挙げることが出来る。アデノウイルスは、肝臓(肝細胞)へ極めて高い効率で感染するので、アデノウイルスを用いれば、肝臓(肝細胞)におけるStra13の発現を効率的/特異的に抑制することが可能となる。
【0038】
更に、本発明の別の好ましい態様においては、発現ベクターは、不要な時期での有効核酸分子の過剰発現による悪影響を防ぐために、有効核酸分子を時期特異的に発現させることができる。該態様として、外因性の物質によってトランスに発現が制御される誘導プロモーターに機能的に連結した有効核酸分子をコードするオリゴ(ポリ)ヌクレオチドを含むベクターが挙げられる。該ベクターを用いれば、誘導物質を、所望の時期に投与することにより、任意の時期に有効核酸分子の発現を誘導することができる。また、誘導物質の投与を所望の組織(例、肝臓)に局所投与することにより、該組織特異的に有効核酸分子の発現を誘導することも出来る。
【0039】
有効核酸分子を発現し得る発現ベクターを有効成分とする本発明の予防・治療剤の投与は、投与対象の体内に直接ベクターを投与して導入を行うin vivo法で行われる。この場合、ウイルスベクターは、注射剤等の形態で静脈内、動脈内、皮下、皮内、筋肉内、腹腔内等に投与される。ウイルスベクターに対する中和抗体の産生が問題となる場合が、肝臓付近に局所的にベクターを注入すれば(in situ法)、抗体の存在による悪影響を軽減することができる。
【0040】
(Stra13の活性を抑制する物質)
Stra13の活性を抑制する物質としては、上記Stra13の活性を低減させ得る物質である限り特に限定されないが、他の遺伝子・蛋白質に及ぼす悪影響を最小限にするためには、標的分子に特異的に作用し得る物質であることが重要である。Stra13の活性を特異的に抑制する物質としては、Stra13ドミナントネガティブ変異体、これをコードする核酸、当該核酸を含む発現ベクター、低分子有機化合物等が例示される。ここで、発現ベクターは上記と同様である。
【0041】
Stra13のドミナントネガティブ変異体とは、Stra13に対する変異の導入によりその活性が低減したものをいう。Stra13のドミナントネガティブ変異体は、天然のStra13と競合することで間接的にその活性を阻害することができる。Stra13のドミナントネガティブ変異体は、Stra13に変異を導入することによって作製することができる。変異としては、例えば、へリックス−ループ−へリックスドメイン、DNA結合部位等の部位における、活性の低下をもたらすようなアミノ酸の変異(例えば、1以上のアミノ酸の欠失、置換、付加)が挙げられる。アミノ酸変異は、PCRや公知のキットを用いる自体公知の方法により導入できる。
【0042】
Stra13の活性を抑制する物質の他の好ましい態様は、Stra13を特異的に認識する抗体(Stra13抗体)である。Stra13抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれであってもよく、周知の免疫学的手法により作製できる。また、Stra13抗体は、抗体のフラグメント(例えば、Fab、F(ab’)2)、組換え抗体(例えば、単鎖抗体)であってもよい。さらに、Stra13抗体をコードする核酸及び当該核酸を含む発現ベクターもまた、Stra13の活性を抑制する物質として好ましい。ここで、発現ベクターは上記と同様である。
【0043】
本発明の予防・治療剤は、上記のようなStra13の発現又は活性を抑制する物質に加え、任意の担体、例えば医薬上許容される担体を含むことができる。
【0044】
医薬上許容される担体としては、例えば、ショ糖、デンプン等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル等の滑剤、クエン酸、メントール等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリド等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水等の希釈剤、ベースワックス等が挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0045】
経口投与に好適な製剤としては、液剤、カプセル剤、サッシェ剤、錠剤、懸濁液剤、乳剤等を挙げることができる。
【0046】
非経口的な投与(例えば、皮下注射、筋肉注射、局所注入、腹腔内投与など)に好適な製剤としては、水性および非水性の等張な無菌の注射液剤があり、これには抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤等が含まれていてもよい。また、水性および非水性の無菌の懸濁液剤が挙げられ、これには懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤等が含まれていてもよい。当該製剤は、アンプルやバイアルのように単位投与量あるいは複数回投与量ずつ容器に封入することができる。また、有効成分および医薬上許容される担体を凍結乾燥し、使用直前に適当な無菌のビヒクルに溶解または懸濁すればよい状態で保存することもできる。
【0047】
本発明の製剤の投与量は、有効成分の活性や種類、病気の重篤度、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なり一概に云えないが、通常、成人1日あたり有効成分量として約0.001〜約500mg/kgである。
【0048】
本発明の予防・治療剤は、好ましくは、その有効成分であるStra13の発現又は活性を抑制する物質が肝臓(肝細胞)に送達されるように、哺乳動物に対して投与される。
【0049】
本発明の予防・治療剤は、血中トリグリセリド濃度の低下が所望される疾患・状態、例えば、高トリグリセリド血症、高脂血症、肥満・肥満症、メタボリックシンドローム等の予防・治療に有用である。
【0050】
2.高トリグリセリド血症を予防・治療し得る物質のスクリーニング方法
本発明はまた、被検物質がStra13の発現又は活性を抑制するか否かを評価することを含む、高トリグリセリド血症を予防・治療し得る物質のスクリーニング方法、並びに当該方法により得られうる物質を提供する。本発明のスクリーニング方法においては、Stra13の発現又は活性を抑制する物質が、高トリグリセリド血症を予防・治療し得る物質として選択される。
【0051】
本発明のスクリーニング方法に供される被検物質は、いかなる公知化合物及び新規化合物であってもよく、例えば、核酸、糖質、脂質、蛋白質、ペプチド、有機低分子化合物、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、ランダムペプチドライブラリー、あるいは微生物、動植物、海洋生物等由来の天然成分等が挙げられる。
【0052】
被検物質がStra13の発現を抑制するか否かを評価するスクリーニング方法は、例えば、以下の工程(a)、(b)及び(c)を含む:
(a)被検物質を、Stra13の発現を測定可能な細胞に接触させる工程;
(b)被検物質を接触させた細胞におけるStra13の発現量を測定し、該発現量を被検物質を接触させない対照細胞におけるStra13の発現量と比較する工程;
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、Stra13の発現量を抑制する被検物質を選択する工程。
【0053】
「発現を測定可能な細胞」とは、測定対象のmRNA又は蛋白質の発現レベルを直接的又は間接的に評価可能な細胞をいう。測定対象のmRNA又は蛋白質の発現レベルを直接的に評価可能な細胞としては、測定対象を天然で発現可能な細胞が挙げられ、一方、測定対象のmRNA又は蛋白質の発現レベルを間接的に評価可能な細胞としては、測定対象の転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞が挙げられる。
【0054】
測定対象、例えばStra13を天然で発現可能な細胞は、Stra13 mRNAを潜在的に発現するものである限り特に限定されず、当該細胞として、初代培養細胞、当該初代培養細胞から誘導された細胞株などを用いることができる。Stra13を天然で発現可能な細胞としては、例えば肝細胞等を挙げることが出来る。
【0055】
測定対象、例えばStra13の転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞は、Stra13の転写調節領域(例えば、転写開始点から上流約2kbpの塩基配列からなるDNA)、当該領域に機能可能に連結されたレポーター遺伝子(例えばGFP遺伝子)を含む細胞である。Stra13に対する生理的な転写調節因子を発現し、Stra13の発現調節の評価により適切であると考えられることから、測定対象の細胞としては肝細胞が好ましい。
【0056】
被検物質とStra13の発現を測定可能な細胞との接触は、培養培地中で行われる。培養培地は、Stra13の発現を測定可能な細胞に応じて適宜選択されるが、例えば、約5〜20%のウシ胎仔血清を含む最少必須培地(MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)などである。培養条件も同様に適宜決定されるが、例えば、培地のpHは約6〜約8であり、培養温度は通常約30〜約40℃であり、培養時間は約12〜約72時間である。
【0057】
Stra13を発現可能な細胞を用いた場合、発現量の測定は、mRNA又は蛋白質を対象として行なわれる。mRNAの発現量は、例えば、細胞からtotal RNAを調製し、RT-PCR、ノザンブロッティング等により測定される。蛋白質の発現量は、例えば、細胞から抽出液を調製し、免疫学的手法により測定することができる。免疫学的手法としては、放射性同位元素免疫測定法(RIA法)、ELISA法(Methods in Enzymol. 70: 419-439 (1980))、蛍光抗体法などを用いることができる。また、レポーター遺伝子を含む細胞が用いられた場合、発現量は、レポーター遺伝子のシグナル強度に基づき測定される。
【0058】
発現量の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれ得る。なお、被検物質を接触させない対照細胞におけるStra13の発現量は、被検物質を接触させた細胞におけるStra13の発現量の測定に対し、事前に測定した発現量であっても、同時に測定した発現量であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した発現量であることが好ましい。
【0059】
被検物質がStra13の活性を抑制するか否かを評価するスクリーニング方法は、例えば、以下の工程(a)、(b)及び(c)を含む:
(a)被検物質を、Stra13の活性を測定可能な細胞に接触させる工程;
(b)被検物質を接触させた細胞における該Stra13活性を測定し、該活性を被検物質を接触させない対照細胞における該Stra13活性と比較する工程;
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、該Stra13活性を抑制する被検物質を選択する工程。
【0060】
Stra13の活性としては、測定又は評価が可能なものである限り特に限定されないが、例えば、肝臓(肝細胞)等においてSREBP1c、SCD1等の脂肪酸合成に関わる遺伝子の発現を促進する活性、class B E-box elementsを含むDNAへの結合活性などが評価され得る。Stra13の活性としては、好ましくは、SCD1発現促進活性が挙げられる。
【0061】
ここで、Stra13活性として、脂肪酸合成に関わる遺伝子発現を促進する活性を評価する場合、「Stra13活性を測定可能な細胞」とは、細胞内のStra13発現により促進された脂肪酸合成に関わる遺伝子発現レベルを評価可能な細胞をいう。該細胞としては、Stra13を発現しており、且つそれにより誘導された脂肪酸合成に関わる遺伝子(SREBP1c、SCD1等)を発現している細胞(例えば、肝細胞)が挙げられる。該細胞においては、上記Stra13活性を脂肪酸合成に関わる遺伝子の発現量として間接的に測定することができる。
【0062】
被検物質とStra13の活性を測定可能な細胞との接触は、培養培地中で行われる。培養条件は、被検物質がStra13の発現を抑制するか否かを評価するスクリーニング方法におけるものと同様である。
【0063】
Stra13活性の測定は、脂肪酸合成に関わる遺伝子のmRNA又は蛋白質を対象として行なわれる。mRNA及び蛋白質の発現量の測定方法は、被検物質がStra13の発現を抑制するか否かを評価するスクリーニング方法におけるものと同様である。
【0064】
Stra13活性の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれ得る。なお、被検物質を接触させない場合におけるStra13活性は、被検物質を接触させた場合におけるStra13活性の測定に対し、事前に測定した活性であっても、同時に測定した活性であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した活性であることが好ましい。
【0065】
そして、比較の結果得られた、Stra13の発現又は活性を抑制する物質が、高トリグリセリド血症を予防・治療し得る物質として選択される。
【0066】
本発明のスクリーニング方法で得られる化合物は、血中トリグリセリド濃度の低下が所望される疾患・状態、例えば高トリグリセリド血症、高脂血症、肥満・肥満症、メタボリックシンドローム等、なかでも高トリグリセリド血症の予防・治療剤の有効成分として有用である。
【0067】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記実施例等に何ら制約されるものではない。
【実施例】
【0068】
実施例1:shStra13アデノウイルスベクターの構築
GTGAAAGCATTGACAAATC(配列番号7)を標的配列とするStra13に対するshRNAをコードするDNAを合成した。該DNAのヌクレオチド配列は、
gtttGTGGAAGTATTGATAAATAACGTGTGCTGTCCGTTATTTGTCAATGCTTTCACTTTTT(配列番号8)
であり、該配列は15塩基からなるループ配列を含む。
上記合成したマウスStra13遺伝子shRNAをコードするDNA断片をマウスU6 promoter下流に接続した断片をコスミドベクターpAxCAwt(タカラバイオ社)のSwaI部位に挿入し、pAxCAwt-shSTRA13を得た。λパッケージングキットGigapackXL(Stratagene社)を用いて、得られたpAxCAwt-shSTRA13のインビトロパッケージングを行いλファージを得て、該λファージを大腸菌DH5αに感染させた。感染させた大腸菌を、50ml 50μg/mlアンピシリン含有LB培地で培養し、Qiagen plasmid midi kit (Qiagen社)によりコスミドDNAを大量調製した。
293細胞(タカラバイオ社)を10% FCS添加D-MEM培地(日水製薬)中で37℃、5%二酸化炭素下で培養した。前述のようにして調製されたpAxCAwt-shSTRA13 8μgと制限酵素処理済みDNA-TPC(タカラバイオ社)5μlとを混合し、当該混合物を用いてリン酸カルシウム法により293細胞へのコトランスフェクションを行った。当該細胞をそのまま18時間培養後、培地を10%FCS添加D-MEM培地(日水製薬)と交換し、さらに12時間培養した。培養終了後、細胞をディッシュから剥がし、回収された細胞懸濁液と293細胞を混ぜてさらに10% FCS添加D-MEM培地(日水製薬)にて培養を続けた。293細胞が完全に死滅した時点で、培養液をドライアイスにて急凍した。細胞を超音波破砕に付した後、破砕液を5000rpm 5分間遠心し、得られた上清を1次組換えアデノウイルス液(pAxCAwt-shmSTRA13)として保存した。
293細胞(タカラバイオ社)に前述方法で調製された1次組換えウイルス液を10μl加え、これに5% FCS添加D-MEM培地(日水製薬)を加えた後、当該混合物を37℃、5%二酸化炭素下で1時間培養した。さらに当該混合物に5% FCS添加D-MEM培地(タカラバイオ社)を加えた後、これを37℃、5%二酸化炭素下で培養した。3日間培養後、ウイルス感染させた293細胞(タカラバイオ社)の培養液を回収し、これをドライアイスにて急凍した。細胞を超音波破砕に付した後、破砕液を5000rpm 5分間遠心し、得られた上清を2次組換えアデノウイルス液として保存した。一方、前記操作により同時に得られた沈殿(細胞)も回収し、ドライアイスにて急凍した。回収された細胞に10xTNE(500mM トリス−塩酸(pH=7.5)、1M NaCl、100mM EDTA)40μl、proteinaseK(20mg/ml) 4μl及び滅菌蒸留水356μlを加え、当該混合液をVoltexでよく懸濁した。得られた懸濁物に、10% SDS 4μlを加え、これを50℃で1時間保温した。フェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール(ニッポンジーン社)処理後、エタノール沈殿を行い、得られたDNAペレットを風乾させ、20μg/ml RNaseA(ニッポンジーン社)を含む滅菌蒸留水50μlに溶解することにより、組換えアデノウイルスDNA溶液を得た。得られた組換えアデノウイルスDNA溶液をEcoRI 5U(タカラバイオ社)にて切断し、目的の断片(約1 Kbp)を確認した。続いて、この組換えアデノウイルスDNAを用いて前記操作を繰り返すことにより、組換えウイルスを継代培養し、高力価組換えウイルスを作製し、以下の実験に用いた。ウイルスの力価は既存の方法(特開平7-298877)により測定した。
【0069】
実施例2:KKAyマウスにおける肝臓特異的Stra13発現抑制の効果
8-9週齢雄性KKAyマウスの尾静脈より、Stra13に対するshRNAをコードするアデノウイルスベクター(shStra13) もしくはU6プロモーターのみをコードするアデノウイルスベクター(Cont)を、マウス体重30g当たり9×109 pfuの用量で投与した。マウス1匹当たり0.2mlのウイルス懸濁液を注入した。ウイルス投与後4日目に、随時摂食状態における肝臓のStra13の蛋白量、肝臓の各種遺伝子発現量及び血清トリグリセリド濃度を測定した。有意差検定はStudent t-testにて行った。
その結果、肝臓におけるStra13の発現抑制によって、SREBP1c、SCD1などの脂肪酸合成に関わる遺伝子の発現が有意に低下し(図1A,B)、血清トリグリセリド濃度が有意に低下した(図1C)。
【0070】
実施例3:C57/BL6マウスにおける肝臓特異的Stra13発現抑制の効果
8-9週齢雄性C57/BL6マウスの尾静脈より、Stra13に対するshRNAをコードするアデノウイルスベクター(shStra13) もしくはU6プロモーターのみをコードするアデノウイルスベクター(Cont) を、マウス体重30g当たり9×109 pfuの用量で投与した。マウス1匹当たり0.2mlのウイルス懸濁液を注入した。ウイルス投与後4日目に、随時摂食状態における肝臓のStra13の蛋白量、肝臓の各種遺伝子発現量及び血清トリグリセリド濃度を測定した。有意差検定はStudent t-testにて行った。
その結果、肝臓におけるStra13の発現抑制によって、脂肪酸合成に関わるSCD1遺伝子の発現が有意に低下し(図2A,B)、血清トリグリセリド濃度が有意に低下した(図2C)。SREBP1cの発現には影響が無かった。
【0071】
実施例4:db/dbマウスにおける肝臓特異的Stra13発現抑制の効果
8-9週齢雄性db/dbマウスの尾静脈より、Stra13に対するshRNAをコードするアデノウイルスベクター(shStra13) もしくはU6プロモーターのみをコードするアデノウイルスベクター(Cont)を、マウス体重30g当たり9×109 pfuの用量で投与した。マウス1匹当たり0.2mlのウイルス懸濁液を注入した。ウイルス投与後4日目に、随時摂食状態における肝臓のStra13の蛋白量、肝臓の各種遺伝子発現量及び血清トリグリセリド濃度を測定した。有意差検定はStudent t-testにて行った。
その結果、肝臓におけるStra13の発現抑制によって、血清トリグリセリド濃度が有意に低下した(図3C)。 SREBP1c, SCD1などの脂肪酸合成に関わる遺伝子の発現は低下傾向を示した(図3B)。
以上の結果より、
(1)Stra13は、肝臓においてSREBP1c、SCD1等の脂肪酸合成に関わる遺伝子の発現を促進し、血清中のトリグリセリド濃度を上昇させる作用を有していること、及び
(2)Stra13に対するshRNA等を用いて、Stra13の発現や活性を抑制することにより、高トリグリセリド血症を予防・治療し得ること
が示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の剤は、Stra13の発現の抑制という新規作用機序により血中トリグリセリド濃度の低下が所望される疾患・状態の予防・治療に有用である。本発明のスクリーニング方法は、高トリグリセリド血症を予防・治療し得る物質の開発を可能とするため有用である。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】KKAyマウスにおける肝臓特異的Stra13発現抑制の、肝臓のStra13の蛋白量(A)、肝臓の各種遺伝子発現量(B)及び血清トリグリセリド濃度(C)に対する効果を示す。B,C) shStra13, n=15; Cont, n=9。各値はmean±semで表示する。** P<0.01。
【図2】C57/BL6マウスにおける肝臓特異的Stra13発現抑制の、肝臓のStra13の蛋白量(A)、肝臓の各種遺伝子発現量(B)及び血清トリグリセリド濃度(C)に対する効果を示す。B) shStra13, n=7; Cont, n=6。C) shStra13, n=7; Cont, n=8。各値はmean±semで表示する。** P<0.01, * P<0.05。
【図3】db/dbマウスにおける肝臓特異的Stra13発現抑制の、肝臓のStra13の蛋白量(A)、肝臓の各種遺伝子発現量(B)、血清トリグリセリド濃度(C)に対する効果を示す。B,C) shStra13, n=11; Cont, n=6。各値はmean±semで表示する。** P<0.01。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Stra13の発現又は活性を抑制する物質を含有してなる、高トリグリセリド血症の予防・治療剤。
【請求項2】
Stra13の発現又は活性を抑制する物質が、以下(i)、(ii)、(iii)のいずれかである、請求項1記載の剤:
(i)Stra13 アンチセンス核酸、Stra13 リボザイムおよびStra13 siRNAからなる群より選ばれるStra13の発現を抑制する物質;
(ii)ドミナントネガティブ変異体、当該変異体をコードする核酸、Stra13 抗体およびStra13 抗体をコードする核酸からなる群より選ばれるStra13の活性を抑制する物質;あるいは
(iii)(i)、(ii)のいずれかの核酸を発現し得る発現ベクター。
【請求項3】
該物質は、肝臓におけるStra13の発現又は活性を抑制する、請求項1記載の剤。
【請求項4】
被検物質がStra13の発現又は活性を抑制するか否かを評価することを含む、高トリグリセリド血症を予防・治療し得る物質のスクリーニング方法。
【請求項5】
Stra13の発現又は活性を抑制する物質が、高トリグリセリド血症を予防・治療し得る物質として選択される、請求項4記載の方法。
【請求項6】
下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、請求項4記載の方法:
(a)被検物質とStra13の発現又は活性を測定可能な細胞とを接触させる工程;
(b)被検物質を接触させた細胞におけるStra13の発現量又は活性を測定し、該発現量又は活性を被検物質を接触させない対照細胞におけるStra13の発現量又は活性と比較する工程;
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、Stra13の発現量又は活性を抑制する被検物質を選択する工程。
【請求項7】
Stra13の発現又は活性を測定可能な細胞が肝細胞である、請求項6記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−94766(P2008−94766A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−279298(P2006−279298)
【出願日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【出願人】(000002912)大日本住友製薬株式会社 (332)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】