説明

高ニッケル合金の切断装置および切断方法

【課題】高ニッケル合金等の連続鋳造において、鋳造装置の稼動を中断することなく速やかに実施することができる切断装置と切断方法を提供する。
【解決手段】合金をトーチによって切断する装置であって、トーチは、プロパンガスと酸素ガスを吹き込むノズルと、合金の切断方向に対して平行に配置され燃焼助剤の鉄粉およびアルミニウム粉を吹き込むノズル2本と、粉末を格納する粉末タンクと、粉末タンクに対して鉛直下向きに設置した粉末を吹き込むためのエゼクターから構成されるディスペンサーを備え、アルミニウム粉の含有量は、燃焼助剤全粉末量の20〜50mass%であり、トーチによってプロパンガスと酸素ガスを吹き込むとともに燃焼助剤を吹き込んで合金を切断し、鉄粉およびアルミニウム粉を吹き込むノズル2本のうち、切断進行方向前方側のノズルから500g/分以上の供給量で鉄粉およびアルミニウム粉を吹き込むよう構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合金の切断方法に係り、特に、合金の連続鋳造におけるトーチによるパウダー切断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高いニッケル含有量を有する高ニッケル合金は、強度や耐熱性、耐食性等に優れており、様々な分野にて使用されている。高ニッケル合金を始めとする種々のステンレス鋼合金は、製造コストや納期面の有利性から、連続鋳造機にて造塊し、切断することが一般に行われている。
【0003】
連続鋳造されたステンレス鋼合金のスラブを切断するには、トーチを用い、燃料ガスと酸素ガスを吹き込んで燃焼させるとともに鉄粉等の燃焼助剤を吹き込むことによってスラブの所定の箇所を燃焼させて溶断を行う技術(以下、単にトーチカットまたはパウダー切断と略称する場合がある)が知られている(例えば、特許文献1、2、3、4参照)。
【0004】
しかしながら、このパウダー切断を高ニッケル合金に適用した場合、合金中のニッケル含有量の増加に伴って切断が困難になる。この場合、燃焼助剤として熱量の大きいアルミニウム粉を鉄粉と併用しても、後述する実施例において説明するように、ステンレス鋼(例えばSUS304)と比較して5〜10倍もの時間を要する。
【0005】
トーチによる切断が速やかに行えない原因は、切断中にトーチからの熱気流によってスラブの一部が溶解して発生したスラグ・溶融金属の混合物(以下、単に切断ノロと略称する場合がある)を吹き飛ばす能力が低いと、この切断ノロが切断面に残り切断を妨害する点にある。また、スラブのニッケル含有率が高くなる程、切断ノロの粘度が増大し、これを除くことがより困難であった。そのため、従来の設備では、鋳造されたスラブが連続的に供給されてくるために切断が間に合わず、鋳造機の停止後に切断せざるを得ないなど、鋳造中の切断が困難であった。
【0006】
そのため、鋳造の進行と同時に切断を行わず、鋳造機内で全スラブが納まるように溶鋼重量に制限を設けて一定量を鋳造し、鋳造完了後に40〜50分かけて慎重に切断するか、場合によっては数人がかりでランスにて切断していた。ランス切断は重筋作業であり、安全性に問題を有していた。また、スラブ切断面は平滑性に劣り、再切断工程が必要になるという問題点もあった。
【0007】
上記の問題に対して、プロパンガス圧力、予熱酸素圧力、切断酸素圧力、アルミニウム粉の混合比を改良して、高ニッケル合金の連続鋳造スラブの切断を可能にする技術が開発されている(例えば、特許文献5、6参照)。
【0008】
特許文献5では、燃焼助剤としての鉄粉およびアルミニウム粉を吹き込むためのノズルが3本必要であり、設備費が高くなることや、ノズルのメンテナンスに時間を要することなどが問題であった。また、ノズルが3本と多いと設置場所のスペースを確保せねばならず、問題となる場合があった。特許文献6では、切断酸素圧力、プロパンガス圧力、予熱酸素圧力は調節されたものの、150mm厚のスラブを切断する技術のみしか開示されておらず、さらに厚いスラブ、例えば200mm厚などのスラブを切断するのには、時間を要するといった問題も指摘されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭59−199170号公報
【特許文献2】実開昭57−36368号公報
【特許文献3】実開平4−4973号公報
【特許文献4】実開平6−285626号公報
【特許文献5】実開2008−194701号公報
【特許文献6】実開2008−207228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように、高ニッケル合金のスラブ切断技術は、生産性、安全性の両側面から早期開発が望まれていた。本発明は、高ニッケル合金等の合金の連続鋳造において、鋳造装置の稼動を中断することなく速やかに実施することのできる合金の切断装置と切断方法の提供を目的としている。また、切断時間を短縮化することで、省力化、高生産性、切断面の高品質化を実現させることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
即ち、本発明は、上記実情に鑑みて鋭意検討を重ねた結果なされたものであり、連続鋳造した合金をトーチによって切断する合金の切断装置であって、上記トーチは、プロパンガスと酸素ガスを吹き込むためのノズルと、合金の切断方向に対して平行に配置され燃焼助剤としての鉄粉およびアルミニウム粉を吹き込むためのノズル2本と、上記粉末を格納する粉末タンクと、上記粉末タンクに対して鉛直下向きに設置した上記粉末を吹き込むためのエゼクターから構成されるディスペンサーを備え、上記アルミニウム粉の含有量は、燃焼助剤としての全粉末量の20〜50mass%であり、上記トーチによってプロパンガスと酸素ガスを吹き込むとともに燃焼助剤を吹き込んで合金を切断するものであり、上記鉄粉およびアルミニウム粉を吹き込むためのノズル2本のうち、切断進行方向前方側のノズルから500g/分以上の供給量で鉄粉およびアルミニウム粉を吹き込むように構成されたことを特徴とする合金の切断装置である。
【0012】
また、上記鉄粉およびアルミニウム粉を吹き込むためのノズル2本のうち、切断進行方向後方側のノズルから300g/分以上の供給量で鉄粉およびアルミニウム粉を吹き込むように構成されたことを特徴とする合金の切断装置である。
【0013】
また、上記トーチの火口内径の最も狭い部分である首部内径が、3.4〜3.9mmであることを特徴とする合金の切断方法である。
【0014】
さらに、本発明では本発明の切断装置を用いた切断方法も提供する。すなわち、上記の合金の切断装置を用いて連続鋳造した合金をトーチによって切断する方法であって、上記切断装置に切断する方向に対して平行に配置された燃焼助剤としての鉄粉およびアルミニウム粉を吹き込むためのノズル2本のうち、切断進行方向前方側のノズルから500g/分以上の供給量で鉄粉およびアルミニウム粉を吹き込むことを特徴とする合金の切断方法である。
【0015】
また、上記鉄粉およびアルミニウム粉を吹き込むためのノズル2本のうち、切断進行方向後方側のノズルから300g/分以上の供給量で鉄粉およびアルミニウム粉を吹き込むことを特徴とする合金の切断方法である。
【0016】
また、上記トーチの火口内径の最も狭い部分である首部内径が、3.4〜3.9mmであることを特徴とする合金の切断方法である。
【0017】
また、プロパンガス圧力を0.03〜0.06MPaとし、予熱酸素圧力を0.04〜0.14MPaとし、切断酸素圧力を1.0〜3.0MPaとして切断を行うことを特徴とする合金の切断方法である。
【0018】
切断の対象となる上記合金は、ニッケルを35mass%以上含有する合金であり、特に、本切断方法の効果が大きい合金は、ニッケルを50mass%以上含有する合金である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、上記の構成を備えていることにより、トーチによるパウダー切断の際に、切断進行方向前側においては切断部の合金を十分に溶融させる(切断ノロの発生)能力が向上し、かつ、後側においては発生する切断ノロをスラブの反対側へ吹き飛ばす能力が向上しているので、切断ノロを切断面に残存させずに、合金の連続鋳造を行いつつ速やかに切断を行うことができる。さらに、従来のパウダー切断では困難であったニッケル含有率が35mass%以上の合金であっても、これを連続鋳造中に切断することができるという効果を奏する。特に、切断を高速化することで、省力化、高生産性、切断面の高品質化を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本願発明における合金の連続鋳造機を示す模式図である。
【図2】本願発明におけるパウダー切断のメカニズムを示す模式図である。
【図3】(a)は従来の火口、(b)は本願発明の火口を示す模式断面図である。
【図4】本願発明におけるトーチ用吹管を示す模式図である。
【図5】本願発明におけるトーチ用吹管を示す模式図である。
【図6】(a)は従来のディスペンサー、(b)は本願発明のディスペンサーを示す模式断面図である。
【図7】スラブ厚み150mmの場合における、各鋼種の切断時間とスラブ中のNi含有量との関係を示すグラフである。
【図8】スラブ厚み200mmの場合における、各鋼種の切断時間とスラブ中のNi含有量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の好ましい実施形態について図面を用いて以下に説明する。
A.製鋼工程
本発明における製鋼工程のうちCCM(Continuous Casting Machine、連続鋳造機)の模式図を図1に示す。図1に示す鋳造機は、原料が上方から供給されてスラブが下方へ送出される垂直型の鋳造機である。高合金では多くの元素が添加されるため、冷却されて固まるときに大きく曲がると割れが入りやすい傾向があるが、垂直型の装置では偏った無理な力が加わりにくく、高合金に適した装置として利用される。
【0022】
まず、図示しない30tもしくは60tEF(Electric Furnace、電気炉)で、スクラップ、鉄−クロム合金、鉄−ニッケル合金等の原料を溶解する。その後、精錬工程として、AOD(Argon−oxygen decarburization、アルゴン酸素脱炭)、もしくはVOD(Vacuum oxygen decarburization、真空酸素脱炭)で脱炭、脱酸、脱硫を行い、LF(Ladle furnace、取鍋精錬)にて温度調整を行う。
【0023】
最終的に、図1に示すCCMで溶鋼を鋳造し、スラブを製造する。図1において符号10は注入鍋であり、注入鍋10に、上記溶解工程と精錬工程を経た溶鋼20を出鋼する。続いて溶鋼20は、注入鍋10の下流側に設けられたタンディッシュ11を経て、モールド12に供給されて型入れされる。型に注湯された溶鋼20は、下流側に設けられたスプレー冷却帯13を通過することによって凝固させられつつ、ピンチロール14によって引き抜かれて所定の厚さを有するスラブ21が得られる。スラブ21は、所定の位置にてトーチ15によって本発明のパウダー切断が行われる。
【0024】
垂直型のCCMにおいては、機内に納まるスラブの長さに制限が発生し、結果としてスラブ切断に要する時間に制限が出来てしまう。また、切断方向が地軸に対し、垂直になってしまうため、切断中に発生する切断ノロを吹き飛ばす能力が低いと、切断ノロが切断面に残り切断を妨害するという、湾曲型CCMと比べて不利な点を抱えている。
【0025】
B.スラブ切断のメカニズム
トーチ15に示すトーチカットによるスラブの溶断の模式図を図2に示す。図1に示すようにトーチ15は2機設けられており、これらは対称的に動作するため、図2においては、これらのうち片方を模式的に説明する。図2において、紙面表面から裏面へ向かう方向がスラブの引き抜き方向である。すなわち、連続鋳造装置の上流側から下流側を見た際のトーチカット部分におけるスラブの断面図である。向かって右側から左側へトーチが移動しつつスラブを切断しており、符号22は既切断部、符号23は燃焼部、符号24は溶融部、符号25は切断ノロ、符号26は未切断部である。
【0026】
このトーチカットでは、微細な鉄粉またはアルミニウム含有鉄粉を、連続的に酸素ガスに混入し供給している。微細な鉄粉またはアルミニウム含有鉄粉の燃焼により生じた酸化熱により、被切断材(以後、母材と記述する)は発火温度まで加熱され、そこに高純度の酸素を高速で供給すると母材自身の燃焼が起こる。この燃焼部23における粉末および母材の燃焼により発生した反応熱は、金属および酸化物を溶融させる。そして、酸素の気流によりこれら溶融部24(切断ノロ25)がスラブの反対側へ吹き飛ばされ、切断溝(既切断部22)が形成される。このような現象が連続的に生じることで母材が切断される。すなわち、パウダー切断に望まれる特性は以下の5項目となる。
【0027】
1)連続的に母材の燃焼反応を進行させるために、母材の燃焼温度がその融点よりも低いこと。
2)酸化物あるいはスラグが母材より低融点であること。
3)酸化物あるいはスラグの流動性がよく、かつ母材からの剥離性が良いこと。
4)母材成分中に不燃焼物および反応による不純物の生成量が少ないこと。
5)切断酸素の気流が速く、切断反応部における溶融物を十分に排除できること。
【0028】
エリンガム図からも明らかな通り、ニッケルは鉄と比べると貴金属であり、もともと燃焼しにくいことが知られている。そのため、上記1)の母材自身の燃焼に関しては、もともと不利である。さらに、2)〜5)に関しても、その特性を把握すべきと考えた。そこで、高Ni合金であるNW2201について、切断ノロを調査・研究した。調査は、ノロ自体の断面観察、酸化物のX線回折試験を実施した。
【0029】
その結果、NW2201の場合に切断性が劣る理由を、以下のように推察することができる。もともとNiは燃焼しにくいことに加え、切断ノロ中に、母材の融点(約1450℃)と比較して非常に高融点なNiOが、多量に懸濁した状態となる。さらに、温度が低下するにしたがって、この混合溶融物の見掛けの粘度が高くなる。その結果、この混合物が酸素気流で充分に吹き飛ばされずに切断面を覆ってしまう。このように混合物が母材表面を覆うことによって、最終的に、酸素が母材を燃焼させる反応を妨げ、切断を阻害してしまう。また、この混合溶融物が充分に排除されないために、切断溝に残存して再結合されてしまう可能性も考えられる。
【0030】
設備改善
NW2201のスラブ切断に時間を要する原因について調査した結果を、以下にまとめる。
1)Ni自体が燃焼しにくいことに加えて、溶融Niは高温で多量に酸素を溶解可能なため、切断ノロの凝固時に多量のNiOが晶出する。
2)NiOの融点は1950℃と、NW2201の母材の融点1450℃と比較して、非常に高融点である。したがって、このNiOを多量に懸濁した溶融金属は流動性が悪い。
3)母材の燃焼によって生じた酸化物もNiOであり、これが溶融金属に混入することにより、溶融状態にもかかわらず、切断ノロの流動性がさらに悪化する。
【0031】
上記1)〜3)と、上述のパウダー切断のメカニズムを照らし合わせ、高ニッケル合金のトーチカットに多大な時間を要してしまう理由を、以下の通り考えた。
I. 2)、3)の理由で極端に流動性の悪化したノロを排除するには現状の切断酸素気流が十分でない。
II. Iの理由により高融点酸化物(NiO)を多量に含むノロが排除できずに、切断表面を覆ってしまい、酸素と母材との反応を妨げ、切断が阻害される。
III. 切断酸素気流によって飛散・排除できず切断溝に残存した溶融切断ノロにより、再接合されてしまう。
【0032】
以上の問題点を解決するためには、従来の設備では能力不足であった。また、燃焼助剤としての鉄粉およびアルミニウム粉を吹き込むためのノズルは、切断進行方向前方側に1本、切断進行方向後方側に1本の配置が、バランスが良いことを、別途行った計算シミュレーションで明らかにした。すなわち、前方からより多く燃焼助剤を吹き切断に十分な熱量を供給すると同時に、後方から、その熱が逃げないように更に熱量を供給するものである。
【0033】
これに対して、上や下に1本または2本追加しても、前方と後方からの供給ほど効率良く熱を供給できないことも分かった。なおかつ、3本以上ノズルを配置すると、設備費やメンテナンスの頻度が増加することなどの課題から、燃焼助剤としての鉄粉およびアルミニウム粉を吹き込むためのノズルは2本に抑えるべきと判断した。
【0034】
また、前後のノズルから吹き込む燃焼助剤の供給速度については、切断進行方向の前側において切断進行方向後側よりも多く供給すると好ましく、具体的には前側において500g/分以上、特に、前側において500g/分以上かつ後側において300g/分以上が好ましいことが後述の表1から分かった。
【0035】
さらに、前後のノズルから吹き込む燃焼助剤の供給速度の上限については、供給速度を設備上可能な限り大きくしても切断速度に悪影響を及ぼすことは無いが、切断速度の向上効果が飽和し、コスト増の要因となるため、前側において650g/分未満、後側において450g/分未満であることが好ましいことが後述の表1から分かった。よって、より好ましい燃焼助剤供給速度は下記のようになる。
・前方側ノズルのパウダー供給速度:500g/分以上、650g/分未満
・後方側ノズルのパウダー供給速度:300g/分以上、450g/分未満
【0036】
本発明者らは、以上の条件のもと、鋭意、切断能力を向上することを試み、後述の予備実験、実施例によってその効果を明らかにした。
【0037】
本発明で効果を発揮する高ニッケル合金は、後述の予備実験、実施例で例示した合金以外にも数々ある。該して、Ni以外の残部は、主元素としては、Fe、Cr、Mo、Cuの一種または二種以上、場合によっては、Si、Mn、Nb、Ti、Al、W、Coの一種または二種以上を適宜含有しても構わない。その高ニッケル合金の具体的な例としては、NW2201(99mass%Ni)、NW0276(Hastelloy C−276:Ni−15.5mass%Cr−16mass%Mo−5.5mass%Fe−3.8mass%W)、NW4400(Monel400:Ni−31.5 mass%Cu)、NCF601(INCONEL 601: Ni−23mass%Cr−14.4mass%Fe−1.4 mass%Al)、NCF600(INCONEL 600:Ni−15.5mass%Cr−7mass%Fe)、Fe−36%Ni、PC(パーマロイC)、Fe−50.5%Ni等を挙げることができる。
【0038】
[予備実験1]
まずは、第1予備実験として、実機スラブから採取した小型試験片を用いて、実験室における切断実験を実施し、基本的な切断条件を特定することとした。切断条件を以下に示す。
1)切断対象合金:NW2201(Ni>99%)
2)合金形状:
200mm厚×400mm長さ×900mm幅および
150mm厚×400mm長さ×900mm幅(実機で鋳造したスラブから採取)
3)合金の初期温度:室温
4)使用パウダー:Al含有鉄粉(Al含有量:10〜50mass%)
5)パウダーノズル数:2本で固定
6)パウダーノズル口径:φ3.5mm
7)パウダー供給速度:200〜700g/min(700が能力限界)
8)切断酸素圧力:0.5〜3.0MPa(3.0が能力限界)
9)プロパンガス圧力:0.03〜0.06MPaに調節
10)予熱酸素圧力:0.04〜0.14MPaに調節
11)火口構造:高圧酸素供給可能型
【0039】
切断は、2)に示した合金塊を厚みと幅が地面と水平に設置するように置き、幅方向に切断することで行った。すなわち、垂直型連鋳機での切断を模擬したものである。図3に、10)に示す高圧酸素供給可能型の火口(b)を、従来型(a)と比較して示す。従来型は酸素ガスが出口で拡散しやすい構造となっているのに対して、高圧酸素供給可能型火口は酸素ガスの出口で気流が安定して直行しやすい構造になっている。図4に、パウダーノズル5)と10)火口で構成される吹管の模式図を示す。本実験では、切断時間を測定することで切断能力を評価した。この予備切断実験の結果を表1(200mm厚)および表2(150mm厚)に示す。評価は切断速度から行った。
【0040】
表1に示す200mm厚のスラブ試験片では、○は切断速度が150mm/分以上、×は切断速度が150mm/分未満とした。また、この200mm厚スラブの実験から、パウダー供給量を増しても切断速度が変わらず一定値を示す領域が明らかとなった。この場合、過剰供給となりコストが上がるのみであったので、これらは評価を×とした。表2に示す150mm厚のスラブ試験片では、○は切断速度が210mm/分以上、×は切断速度が210mm/分未満とした。上記の表から、本発明の限定範囲を決めるに至った。すなわち、下記に示す範囲である。
・Al含有鉄粉中のアルミニウム粉の含有量は、全粉末量の20〜50mass%
・プロパンガス圧力を0.03〜0.06MPa
・予熱酸素圧力を0.04〜0.14MPa
・切断酸素圧力を1.0〜3.0MPa
・切断進行方向前方側のノズルからAl含有鉄粉500g/分以上の供給量
・切断進行方向後方側のノズルからAl含有鉄粉300g/分以上の供給量
・より好ましくは、前方側ノズルからAl含有鉄粉650g/分未満の供給量
・より好ましくは、後方側ノズルからAl含有鉄粉450g/分未満の供給量
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
[予備実験2]
引き続き、本発明者らは、切断条件を以下の通り設定し、実機において、図3において符号Aで示す火口首部分の最適径を求める実験を実施した。
1)スラブ形状:200mm厚×1050mm幅×鋳込み方向の長さ
2)切断酸素圧力:1.8MPa
3)切断進行方向前方側のノズルからのAl含有鉄粉:550g/分
4)切断進行方向後方側のノズルからのAl含有鉄粉:350g/分
5)Al含有鉄粉中のAl含有量:25%
6)トーチ:高圧酸素供給可能型の火口を配置した新型(図5)
7)ディスペンサー:Al含有鉄粉を格納する粉末タンクと、この粉末タンクに対して鉛直下向きに設置した、粉末を吹き込むためのエゼクターから構成されるタイプ(図6(b))
【0044】
本試験では、切断に要する時間を410秒以下に設定した。火口首部の径と切断時間の関係について、結果を表3に示す。この結果から、直径3.4〜3.9mmが最適と判断した。なお、3.4mm未満および3.9mm超の径では、切断酸素の気流が十分な速度に達しなくて、切断効率が低下するためである。
【0045】
【表3】

【実施例】
【0046】
[実施例1]
以上の通り説明した本発明の効果を、実施例とともに説明する。最初に評価した鋼種は、NW2201、SUS304、Fe−36%Ni、Fe−50%Ni、NCF601およびPCである。いずれも電気炉でNi、Cr、Fe−Cr、スクラップ、必要に応じてMoやAlといった原料を溶解し、AODまたはVODで精錬した。最終的に垂直型連続鋳造機で鋳造してスラブを得た。スラブを鋳造中に、下記の通り切断条件を設定して切断した。
【0047】
1)スラブ形状:150mm厚×1050mm幅×鋳込み方向の長さ
2)切断酸素圧力:1.8MPa
3)切断進行方向前方側のノズルからのAl含有鉄粉:550g/分
4)切断進行方向後方側のノズルからのAl含有鉄粉:350g/分
5)Al含有鉄粉中のAl含有量:25mass%
6)トーチ:高圧酸素供給可能型の火口(首部直径3.8mm)を配置した新型
7)ディスペンサー:Al含有鉄粉を格納する粉末タンクと、この粉末タンクに対して鉛直下向きに設置した、粉末を吹き込むためのエゼクターから構成されるタイプ
8)ディスペンサーから吹管までのホース距離:2.6m
9)プロパン圧力:0.04MPa
10)予熱酸素圧力:0.12MPa
【0048】
改善前に関しては、切断酸素圧力0.85MPa、Al含有鉄粉供給量は300g/分、火口は旧型の場合である。なお、参考例は、切断酸素圧力0.85MPa、Al含有鉄粉供給量は300g/分であるが、本パウダー中のAl含有量が10%であり、さらに、粉末を吹き込むためのエゼクターを、Al含有鉄粉を格納する粉末タンクに対して直角に設置したディスペンサー(図6(a))を用いた、最も初期の例である。(特開2008−207228号公報、表5改善前の条件に相当)
【0049】
結果を、表4および図7に示す。まずNW2201に着目すると、改善前は286秒であったのに対し、218秒と大きく改善されたことがわかる。さらに、他の鋼種でも、15〜30%ほど切断時間が短縮された。最も旧来型の装置であった参考例に示す切断時間と比べると、遥かに改善されたことが明確である。
【0050】
【表4】

【0051】
[実施例2]
続けて、200mm厚スラブの切断時間にて効果を検証した。最初に対象としたのはNW2201である。なお、その他の高Ni合金(NW0276、NW6022、NW4400、NCF600)でも、もちろんのこと効果があり、その切断を実施した例も後述する。いずれも電気炉でNi、Cr、Fe−Cr、スクラップ、必要に応じてCuやWといった原料を溶解し、AODまたはVODで精錬した。最終的に垂直型連続鋳造機で鋳造してスラブを得た。スラブを鋳造中に、下記の通り切断条件を設定して切断した。
【0052】
1)スラブ形状:200mm厚×1050mm幅×鋳込み方向の長さ
2)切断酸素圧力:1.8MPa
3)切断進行方向前方側のノズルからのAl含有鉄粉:550g/分
4)切断進行方向後方側のノズルからのAl含有鉄粉:350g/分
5)Al含有鉄粉中のAl含有量:25mass%
6)トーチ:高圧酸素供給可能型の火口(首部直径3.8mm)を配置した新型
7)ディスペンサー:Al含有鉄粉を格納する粉末タンクと、この粉末タンクに対して鉛直下向きに設置した、粉末を吹き込むためのエゼクターから構成されるタイプ
8)ディスペンサーから吹管までのホース距離:2.6m
9)プロパン圧力:0.04MPa
10)予熱酸素圧力:0.12MPa
【0053】
NW2201での切断実験結果を表5に示す。改善前に関しては、切断酸素圧力0.85MPa、Al含有鉄粉供給量は300g/分、火口は旧型の場合である。いずれも、従来の条件で行っていた比較例は570〜610秒を要していたのに対して、発明例では401秒以下であり、鋳込み速度を低下させずとも鋳造を続けることができる410秒以下の目標を満足した。
【0054】
【表5】

【0055】
[実施例3]
NW2201の一例とともに、NW0276、NW6022、NW4400、NCF600の各種鋼種の切断結果を表6および図8に示す。この結果から分かるように、NW2201以外の高Ni合金においても、切断速度を比較例に示した従来との対比で1.2倍以上に速められた。これによって鋳込み速度維持したまま切断可能とし、それまで設けていた重量制限を解除することができた。また、本改造により多連鋳化への対応も可能となった。
【0056】
【表6】

【0057】
更なる効果として、スラブのトーチ切断面が平滑になった。図示は省略するが、従来は若干乱れた端面であるのに対し、改善後は滑らかである。これにより、圧延の前に再切断などの手入れが不要となった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
高ニッケル合金等の連続鋳造において、切断時間を短縮化することで、省力化、高生産性、切断面の高品質化を実現させることができ、有望である。
【符号の説明】
【0059】
C 連続鋳造機
10 注入鍋
11 タンディッシュ
12 モールド
13 スプレー冷却帯
14 ピンチロール
15 トーチ
20 溶鋼
21 スラブ
22 既切断部
23 燃焼部
24 溶融部
25 切断ノロ
26 未切断部
30 吹管
31 火口
32 吹管ホルダー
33a ノズルホルダー(前)
33b ノズルホルダー(後)
34a パウダーノズル(前)
34b パウダーノズル(後)
35〜40 パイプ
50 タンク
51 エゼクター
52 ホース
53 加圧ガス
54 移送ガス
55 抵抗板
56 ローター回転用モーター
57 パウダー供給量調整部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造した合金をトーチによって切断する合金の切断装置であって、
上記トーチは、プロパンガスと酸素ガスを吹き込むためのノズルと、合金の切断方向に対して平行に配置され燃焼助剤としての鉄粉およびアルミニウム粉を吹き込むためのノズル2本と、上記粉末を格納する粉末タンクと、上記粉末タンクに対して鉛直下向きに設置した上記粉末を吹き込むためのエゼクターから構成されるディスペンサーを備え、
上記アルミニウム粉の含有量は、燃焼助剤としての全粉末量の20〜50mass%であり、
上記トーチによってプロパンガスと酸素ガスを吹き込むとともに燃焼助剤を吹き込んで合金を切断するものであり、
上記鉄粉およびアルミニウム粉を吹き込むためのノズル2本のうち、切断進行方向前方側のノズルから500g/分以上の供給量で鉄粉およびアルミニウム粉を吹き込むように構成されたことを特徴とする合金の切断装置。
【請求項2】
上記鉄粉およびアルミニウム粉を吹き込むためのノズル2本のうち、切断進行方向後方側のノズルから300g/分以上の供給量で鉄粉およびアルミニウム粉を吹き込むように構成されたことを特徴とする請求項1に記載の合金の切断装置。
【請求項3】
上記トーチの火口内径の最も狭い部分である首部内径が、3.4〜3.9mmであることを特徴とする請求項1または2に記載の合金の切断装置。
【請求項4】
請求項1に記載の合金の切断装置を用いて、連続鋳造した合金をトーチによって切断する方法であって、上記切断装置に切断する方向に対して平行に配置された燃焼助剤としての鉄粉およびアルミニウム粉を吹き込むためのノズル2本のうち、切断進行方向前方側のノズルから500g/分以上の供給量で鉄粉およびアルミニウム粉を吹き込むことを特徴とする合金の切断方法。
【請求項5】
上記鉄粉およびアルミニウム粉を吹き込むためのノズル2本のうち、切断進行方向後方側のノズルから300g/分以上の供給量で鉄粉およびアルミニウム粉を吹き込むことを特徴とする請求項4に記載の合金の切断方法。
【請求項6】
上記トーチの火口内径の最も狭い部分である首部内径が、3.4〜3.9mmであることを特徴とする請求項4または5に記載の合金の切断方法。
【請求項7】
プロパンガス圧力を0.03〜0.06MPaとし、予熱酸素圧力を0.04〜0.14MPaとし、切断酸素圧力を1.0〜3.0MPaとして切断を行うことを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の合金の切断方法。
【請求項8】
切断の対象となる上記合金は、ニッケルを35mass%以上含有する合金であることを特徴とする請求項4〜7のいずれかに記載の合金の切断方法。
【請求項9】
切断の対象となる合金は、ニッケルを50mass%以上含有する合金であることを特徴とする請求項4〜8のいずれかに記載の合金の切断方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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