説明

高バイパス比ジェットエンジン

【課題】ファン直径を大きくせず、低圧タービンの段数を増やさず、かつ複雑な減速機を用いることなく、バイパス空気流量を大幅に増加して高バイパス比化を達成できる高バイパス比ジェットエンジンを提供する。
【解決手段】航空機の機体軸2に対してエンジン軸13が斜めに配置されたファン駆動用のコアエンジン12と、コアエンジン12のエンジン軸13の軸方向に間隔を隔てて位置しコアエンジンにより直接回転駆動される複数のファン14と、各ファンにそれぞれ独立に外気3を供給する1又は複数のフロントダクト16と、各ファンで加速された空気4を航空機の後方に噴射する1又は複数のリヤダクト18とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイパス空気流量を増加して高バイパス比化を達成する高バイパス比ジェットエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
圧縮機、燃焼器およびタービンから構成されるコアエンジンの前あるいは後に、大量の空気を吸い込むファンを取付けたジェットエンジンを「ターボファンエンジン」と呼ぶ。
ターボファンエンジンに取りこまれる空気のうち、一部はコアエンジン側に入り燃焼に関与し(コア空気)、コア側に入らなかった残りの空気はファンで加圧された後にバイパス流れとしてそのまま排気ノズルから排出される(バイパス空気)。このバイパス空気流量とコアエンジンに入る空気流量の比をバイパス比(bypass ratio)と呼ぶ。
【0003】
近年、航空機の燃費改善が強く求められており、そのため、航空用エンジンの高バイパス比化(高BPR化)が進められる傾向にある。しかし、通常、航空用エンジンは、機体中心軸に対して平行に設置されるため、高バイパス比化、すなわち、エンジン取り込み空気流量を増大させるには、エンジン前方のファン直径を大きくする必要があった。
【0004】
この場合、ファン直径を大きくすることにより、2つの問題を生じる。
第1の問題点は、エンジンのインストレーション(搭載)の問題である。ファン直径を大きくすると、ファン直径に比例してエンジンの前面投影面積も増大するので、搭載位置が制限されてしまう。例えば、主翼の下にエンジンを搭載した場合、ファンの下端と地面との間隔がその分、短くなり、主翼の位置を高くする等の必要が生じてしまう。
【0005】
第2の問題点は、エンジン自体の重量が増加するという問題である。ファン直径を大きくし、直径の大きいファンを従来エンジンと同等の回転数で回転させると、ファン翼端の周速が早くなるため、ファン動翼に対する相対流入速度が速くなる。そのため、衝撃波の発生や翼面の摩擦損失増加などにより、ファンの空力的な損失が増大し、ファン効率が低下する。
この効率低下を回避するために、ファンを従来エンジンよりもゆっくり回転させると、回転数が低いため、通常の低圧タービンの段数ではファンを駆動させるための必要な出力が十分得られなくなる。
その結果、低圧タービンの段数を増やす必要があり、エンジン重量が増加する問題点があった。
【0006】
なお、上述した高バイパス比エンジンとして、例えば特許文献1が既に提案されている。
【0007】
特許文献1は、小型エンジンでの超高バイパス化を達成して、低燃料消費化を達成することを目的とする。
そのため、この超高バイパス比エンジンは、図1に示すように、エンジンダクト51内に装備されているガスジェネレータ52の軸53の先端に、小歯車54を取り付け、小歯車54の下側に大径のファン55を配置し、ファン55の回転軸56を、エンジンダクト51から張り出させた支持フレーム57に回転自在に支持させ、ファン55の外端に、大直径としたリング状外歯歯車15を一体に取り付け、リング状外歯歯車58を小歯車54に噛合させて、大きな比率の減速機構を構成し、ガスジェネレータ52を高速回転させて、ファン55を低速回転させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−73875号公報、「超高バイパス比エンジン」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した従来の問題点の解決手段として、低圧タービンとファンの回転軸間に同軸の減速機(例えば遊星歯車)を用い、ファン回転数と低圧タービンの回転数を変化させるギアードターボファンエンジンが知られている。
しかし、低圧タービンとファンの回転軸間に使用する減速機は高レベルの技術であり、複雑な機構が必要となるため信頼性が低下し、重量も増加するという問題点がある。
【0010】
また、特許文献1の減速機構(小歯車11とリング状外歯歯車15)の場合、上述した第1の問題点、すなわち、ファン直径に比例してエンジンの前面投影面積が増大し、搭載位置が制限される問題点を解決できなかった。
【0011】
本発明は上述した従来の問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、ファン直径を大きくせず、低圧タービンの段数を増やさず、かつ複雑な減速機を用いることなく、バイパス空気流量を大幅に増加して高バイパス比化を達成できる高バイパス比ジェットエンジンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、航空機に搭載される高バイパス比ジェットエンジンであって、
航空機の機体軸に対してエンジン軸が斜めに配置されたファン駆動用のコアエンジンと、
前記エンジン軸の軸方向に間隔を隔てて位置し前記コアエンジンにより直接回転駆動される複数のファンと、
前記各ファンにそれぞれ独立に外気を供給する1又は複数のフロントダクトと、
前記各ファンで加速された空気を、航空機の後方に噴射する1又は複数のリヤダクトと、を備えたことを特徴とする高バイパス比ジェットエンジンが提供される。
【0013】
本発明の実施形態によれば、前記複数のファンのファン軸は、前記コアエンジンと同一の角度で、航空機の機体軸に対して斜めに配置されており、
前記エンジン軸とファン軸は同軸上に位置し、かつその間を1又は複数の連結シャフトで直結されている。
【0014】
また、前記ファンは、前記コアエンジンの前方及び/又は後方に位置する。
【0015】
また、前記リヤダクトからコアエンジンに空気を供給するエンジンダクトを備える。
【発明の効果】
【0016】
上記本発明の構成によれば、複数のフロントダクトにより、複数のファンにそれぞれ独立に外気を供給し、1又は複数のリヤダクトにより、各ファンで加速された空気を航空機の後方に噴射するので、各ファンのファン直径を大きくせずに、バイパス空気流量を大幅(少なくも2倍以上)に増加させることができる。
【0017】
また、ファン駆動用のコアエンジンのエンジン軸が、航空機の機体軸に対して斜めに配置され、このコアエンジンにより複数のファンが直接回転駆動されるので、低圧タービンの段数を増やさず、かつ複雑な減速機を用いることなく、バイパス空気流量を大幅に増加して高バイパス比化を達成できる。
【0018】
すなわち、本発明では、エンジン自体の機構を複雑化することなしに、複数のファンを用いることで、高バイパス比化を実現する。ファン直径が大きくならないため、エンジンインストレーションの問題を回避することができる。また、LP軸(低圧タービンの回転軸)を従来と同等の周速で回転させることができるので、低圧タービンの段数を増加させる必要がなく、エンジン重量が増加することもない。さらに、ギアードターボファンで使用される減速機(例えば遊星歯車)が不要となるので、減速機による重量増も発生しない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】特許文献1の超高バイパス比エンジンの構成図である。
【図2】本発明による高バイパス比ジェットエンジンの第1実施形態を示す図である。
【図3】図2の高バイパス比ジェットエンジンを搭載した航空機の模式図である。
【図4】図2の高バイパス比ジェットエンジンを搭載した別の航空機の模式図である。
【図5】本発明による高バイパス比ジェットエンジンの実施形態を示す別の図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好ましい実施例を図面を参照して説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0021】
図2は、本発明による高バイパス比ジェットエンジンの第1実施形態を示す図である。この図は、航空機の主翼1の片側を上方から見た図である。
【0022】
この図において、本発明の高バイパス比ジェットエンジン10は、ファン駆動用のコアエンジン12、複数のファン14、複数のフロントダクト16、及び1又は複数のリヤダクト18を備える。
【0023】
ファン駆動用のコアエンジン12は、航空機の機体軸2に対してエンジン軸13が斜め(この例で約45度)に配置されている。コアエンジン12は、圧縮機、燃焼器およびタービンから構成され、圧縮機で空気を圧縮し、圧縮した空気を用いて燃焼器で燃料を燃焼し、その燃焼排ガスでタービンを回転駆動し、燃焼排ガスを後方から噴射するようになっている。
上述したコアエンジン12のエンジン軸13はタービンに連結されており、その前端及び/又は後端から外部にその動力を取りだせるようになっている。
【0024】
複数(この例で3台)のファン14は、コアエンジン12のエンジン軸13の軸方向に間隔を隔てて位置し、コアエンジン12により直接回転駆動される。この例において、3台のファン14は、コアエンジン12の前方のみに位置するが、後述するように、後方のみ、或いは前方及び後方の両方に位置してもよい。
【0025】
本発明において、複数のファンのファン軸15は、コアエンジン12と同一の角度で、航空機の機体軸2に対して斜め(この例で約45度)に配置されている。
また、エンジン軸13とファン軸15は同軸上に位置し、かつその間を1又は複数(この例では3本)の連結シャフト20で直結されている。
なおエンジン軸13及びファン軸15と連結シャフト20との連結は、好ましくはスプライン継手によるが、その他の継手であってもよい。また、連結シャフト20を支持する回転軸受を適宜設けてもよい。
【0026】
本発明において、複数(この例で3つ)のフロントダクト16は、各ファン14にそれぞれ独立に外気3を供給する。
この例において、フロントダクト16の入口16aは、航空機の機体軸2に対して垂直に位置し、前方から外気を導入しやすくなっている。また、フロントダクト16の出口16bは、ファン14と同一の角度で、航空機の機体軸2に対して斜めに位置し、ファン14に外気を導入しやすくなっている。
なお、フロントダクト16の断面形状及び断面面積は、入口16aから出口16bまで同一でも変化してもよい。また、この例において、フロントダクト16は、各フロントダクト入口16aからそれぞれ独立に空気を航空機の前方から取り込んでいる。しかし、本発明はこれに限定されず、フロントダクト16を合流又は分岐させてもよい。
【0027】
本発明において、1又は複数(この例で3つ)のリヤダクト18は、各ファン14で加速された空気4を、航空機の後方に噴射する。
この例において、リヤダクト18は、各ファン14からそれぞれ独立に加速された空気4を、航空機の後方に噴射している。しかし、本発明はこれに限定されず、リヤダクト18を合流又は分岐させてもよい。
【0028】
またこの例において、リヤダクト18の入口18aは、ファン14と同一の角度で、航空機の機体軸2に対して斜めに位置し、ファン14から空気を排出しやすくなっている。また、リヤダクト18の出口18bは、航空機の機体軸2に対して垂直に位置し、航空機1の後方に加速された空気4を噴射しやすくなっている。
なお、リヤダクト18の断面形状及び断面面積は、入口18aから出口18bまで同一でも変化してもよい。また、このリアダクト18の内部に、アフターバーナを設けてもよい。
【0029】
さらに、本発明の高バイパス比ジェットエンジン10は、リヤダクト18からコアエンジン12に空気を供給するエンジンダクト22とコアエンジン12から排気ガス5を後方に噴射する排気ダクト24とを備える。
なお、エンジンダクト22はこの例に限定されず、1又は複数の任意のリヤダクト18から空気を供給してもよく、或いは外気を直接供給してもよい。
この例において、エンジンダクト22の入口と出口は、コアエンジン12と同一の角度で、航空機の機体軸2に対して斜めに位置し、リヤダクト18から空気を導入し後方に排気しやすくなっている。
なお、エンジンダクト22の断面形状及び断面面積は、入口から出口まで同一でも変化してもよい。
【0030】
排気ダクト24の入口は、コアエンジン12と同一の角度で、航空機の機体軸2に対して斜めに位置し、コアエンジン12から排気ガスを排出しやすくなっている。また、排気ダクト24の出口は、航空機の機体軸2に対して垂直に位置し、航空機1の後方に加速された排気ガス5を噴射しやすくなっている。
なお、排気ダクト24の断面形状及び断面面積は、従来のジェットエンジンの排気ノズルと同様であるのがよい。また、この排気ダクト24の内部に、アフターバーナを設けてもよい。
【0031】
図3は、図2の高バイパス比ジェットエンジンを搭載した航空機の模式図である。この図において、航空機は既存の機体であり、その主翼1の下部に本発明の高バイパス比ジェットエンジン10を搭載している。
【0032】
図4は、図2の高バイパス比ジェットエンジンを搭載した別の航空機の模式図である。この図において、航空機は現在開発が進められている機体(Blended Wing Body)であり、その主翼1の内部に本発明の高バイパス比ジェットエンジン10を搭載している。
【0033】
図5は、本発明による高バイパス比ジェットエンジンの実施形態を示す別の図である。
この図において、図5(A)は上述した第1実施形態であり、そのうちファン駆動用のコアエンジン12、複数のファン14、および連結シャフト20のみを示している。
図5(B)と図5(C)は、本発明による第2、第3の実施形態図である。
図5(B)に示すように、ファン14は、コアエンジン12の前方及び後方の両方に位置してもよい。また、図5(C)に示すように、ファン14は、コアエンジン12の後方のみに位置してもよい。
【0034】
上述した本発明の構成によれば、1又は複数のフロントダクト16により、複数のファン14に外気3を供給し、1又は複数のリヤダクト18により、各ファン14で加速された空気4を航空機の後方に噴射するので、各ファンのファン直径を大きくせずに、バイパス空気流量を大幅(少なくも2倍以上)に増加させることができる。
【0035】
また、ファン駆動用のコアエンジン12のエンジン軸13が、航空機の機体軸2に対して斜めに配置され、このコアエンジン12により複数のファン14が直接回転駆動されるので、低圧タービンの段数を増やさず、かつ複雑な減速機を用いることなく、バイパス空気流量を大幅に増加して高バイパス比化を達成できる。
【0036】
すなわち、本発明では、エンジン自体の機構を複雑化することなしに、複数のファンを用いることで、高バイパス比化を実現する。ファン直径が大きくならないため、エンジンインストレーションの問題を回避することができる。また、LP軸(低圧タービンの回転軸)を従来と同等の周速で回転させることができるので、低圧タービンの段数を増加させる必要がなく、エンジン重量が増加することもない。さらに、ギアードターボファンで使用される減速機(例えば遊星歯車)が不要となるので、減速機による重量増も発生しない。
【0037】
また本発明は、ファンが1つでも複数でも、コアエンジンが1つでも複数でも適用可能である。また本発明は、従来の機体にも、将来の機体(例えば、Blended Wing Body)にも適用することが可能である。
【0038】
なお、本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0039】
1 航空機の主翼、2 航空機の機体軸、
3 外気、4 加速された空気、5 排気ガス、
10 高バイパス比ジェットエンジン、
12 コアエンジン、13 エンジン軸、
14 ファン、15 ファン軸、
16 フロントダクト、16a 入口、16b 出口、
18 リヤダクト、18a 入口、18b 出口、
20 連結シャフト、22 エンジンダクト、
24 排気ダクト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機に搭載される高バイパス比ジェットエンジンであって、
航空機の機体軸に対してエンジン軸が斜めに配置されたファン駆動用のコアエンジンと、
前記エンジン軸の軸方向に間隔を隔てて位置し前記コアエンジンにより直接回転駆動される複数のファンと、
前記各ファンにそれぞれ独立に外気を供給する1又は複数のフロントダクトと、
前記各ファンで加速された空気を、航空機の後方に噴射する1又は複数のリヤダクトと、を備えたことを特徴とする高バイパス比ジェットエンジン。
【請求項2】
前記複数のファンのファン軸は、前記コアエンジンと同一の角度で、航空機の機体軸に対して斜めに配置されており、
前記エンジン軸とファン軸は同軸上に位置し、かつその間を1又は複数の連結シャフトで直結されている、ことを特徴とする請求項1に記載の高バイパス比ジェットエンジン。
【請求項3】
前記ファンは、前記コアエンジンの前方及び/又は後方に位置する、ことを特徴とする請求項1に記載の高バイパス比ジェットエンジン。
【請求項4】
前記リヤダクトからコアエンジンに空気を供給するエンジンダクト、を備えたことを特徴とする請求項1に記載の高バイパス比ジェットエンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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