説明

高プロトン伝導性複合粒子、高プロトン伝導性複合粒子凝集体、およびその製造方法

【課題】100〜500℃にて保水力を有してプロトン伝導性能に優れる、固体電解質物質として有用な物質を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明の複合粒子は、酸化物粒子塊の表面に、吸湿性化合物から成る層を連続的に形成して成ることを特徴とする。本発明の複合粒子凝集体は、前記本発明の複合粒子が凝集して成ることを特徴とする。本発明の前記複合粒子または複合粒子凝集体の製造方法は、アルコールとアンモニアの水溶液の混合液に、アルコールと前記金属または半金属のアルコキシドの混合液を添加して攪拌するステップ1と、ステップ1で得られた混合液に水を添加して攪拌するステップ2と、ステップ2で得られた混合液に、前記化合物のアルコキシドを添加して攪拌するステップ3と、ステップ3で得られた混合液から前記アルコールを除去し、乾燥するステップ4と、から成ることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気化学分野に関するものであり、特に、燃料電池、イオンセンサー等を含む発電デバイスの製造業で電解質としての利用が期待されるものである。しかし、本発明はかかる分野に限定されず、100〜500℃で高いプロトン伝導能力を有する固体電解質を必要とするあらゆる産業分野に利用できる。
【背景技術】
【0002】
地球環境問題が深刻化する近年、次世代のエネルギー源として、水素と酸素の化学反応により化学エネルギーを電気エネルギーに直接変換する燃料電池が注目されている。そして、その発電効率を高めるために電解質や電荷担体において種々の改良がなされており、電解質や電荷担体の種類により、現在、固体酸化物型燃料電池(SOFC)や高分子型燃料電池(PEFC)等、様々なタイプの燃料電池が存在する。特に近年は、自動車用動力源、家庭用小型電源や携帯機器用電源として、作動温度が60〜80℃のPEFC型燃料電池が注目されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、かかる燃料電池は、Pt触媒のCO被毒や分極、熱の回収が困難である等の問題がある。かかる問題は燃料電池の作動温度を200〜500℃の中温領域にすることができれば解決できるが、現在固体電解質として多く使用されている「ナフィオン」等の有機系材料は、中温領域での作動には適さない。一方、P2O5が電解質のプロトン伝導度を高める効果に注目して、P2O5を用いた無機材料に基づく固体電解質に係る先行技術がいくつか存在するが、いずれも、中温領域では、界面の水の蒸発によるプロトン伝導性の低下や縮み劣化等の問題を有し、また、乾燥を防ぐべく吸水させた場合にはP2O5の潮解性に基づく膨潤による成形性低下等の問題を抱える。
【0004】
そこで本発明者等は、本発明をなすに際し、ゾル-ゲル法により作製した多孔質リン酸系ガラス(5P2O5-95SiO2)が室温で2.0×10-2S/cmという高いプロトン伝導度を示すことを確認し、P2O5とSiO2とから成る固体電解質物質について鋭意検討をなした。本発明者等は、前記5P2O5-95SiO2における高いプロトン伝導性は、P原子と結合した高い電子密度の酸素原子の存在により、5P2O5-95SiO2の界面に分極した水酸基が存在し、この水酸基と水が強い水素結合を形成して更なる水酸基とプロトンを生じ、5P2O5-95SiO2の界面の水酸基と水を介してプロトンが移動することに基づくものであると推定している。
【特許文献1】特開平11−203936号
【特許文献2】特開2000−272932号
【特許文献3】特開平8−249923号
【特許文献4】特開2002−313371号
【特許文献5】特開2001−143723号
【特許文献6】特開平8−119612号
【特許文献7】特開2002−80214号
【課題を解決するための手段】
【0005】
即ち、本発明者等は、前記5P2O5-95SiO2のプロトン伝導性は5P2O5-95SiO2の界面の状態と、当該界面における水の存在が大きく影響すると考え、P2O5とSiO2から成る固体電解質物質について、物質の構造的側面からさらなる研究を進め、100〜500℃の温度領域で優れたプロトン伝導性を有する複合粒子、かかる温度領域で、べとつきのない実質的に乾燥しているのと同様の状態の粉体物であるにも拘らず保水力を保持して縮みによる劣化を伴わず、高いプロトン伝導性を保持する複合粒子凝集体、かかる複合粒子凝集体から成る高プロトン伝導性の成形体、およびかかる複合粒子および複合粒子凝集体の製造方法を開発した。
【0006】
本発明は、Si、TiおよびZrから成る群から選択される金属または半金属の酸化物の粒子が凝集して成る酸化物粒子塊の表面に、P2O5およびB2O3から成る群から選択される吸湿性化合物から成る層を連続的に形成した、従来にない構造を有する複合粒子に関するものである。かかる構造により、おそらくは、酸化物粒子塊の位相界面においてプロトンが効率的に移動する効果、かかる複合粒子から成る物質において高いプロトン伝導性が得られる。
【0007】
本発明は、また、前記酸化物粒子塊の内部の当該金属または半金属の酸化物の粒子間の空隙の少なくとも一部、および当該酸化物粒子塊の表面の空隙の少なくとも一部を前記吸湿性化合物で充填し、かつ複合粒子表面に多孔を設けた構造をさらに特徴とする、前記複合粒子に関するものである。かかる構造により、本発明の複合粒子は、当該金属または半金属の酸化物の酸化物粒子塊の内部および表面に担持された吸湿性化合物に多量の水を吸収させることが可能となり、また、下記に説明する本発明の複合粒子凝集体において保水力が高まる効果がある。
【0008】
本発明は、また、前記本発明の複合粒子が凝集して成る構造を特徴とする、複合粒子凝集体に関するものである。かかる構造により、複数の前記複合粒子間の空隙に水が担持され、しかも、かかる空隙に担持された水は複合粒子に包囲されて100〜500℃もの中〜高温条件下でも蒸発しにくい状態となるため、かかる温度下での当該複合粒子凝集体のプロトン伝導性能が保持される効果が得られる他、前記酸化物粒子塊の内部または表面の吸湿性化合物が、周囲を前記酸化物粒子または前記酸化物粒子塊に囲まれた状態にあるため、当該吸湿性化合物が外部に露出せず、当該吸湿性化合物が水を吸収して膨潤した状態でも、当該複合粒子凝集体は実質的に乾燥しているのと同様の状態を保持できる効果がある。なお、複合粒子が、前記酸化物粒子塊の内部の当該金属または半金属の酸化物の粒子間の空隙の少なくとも一部、および当該酸化物粒子塊の表面の空隙の少なくとも一部を前記吸湿性化合物で充填し、かつ複合粒子表面に多孔を設けた構造を有する場合は、当該複合粒子の表面形状に基づき、かかる効果はいっそう高まる。
【0009】
本発明においては、また、前記酸化物粒子塊の表面に前記吸湿性化合物から成る層を連続的に形成した構造にも特徴があり、かかる構造により、おそらくは前記吸湿性化合物と酸化物粒子塊の界面をスムーズにプロトンが移動できるようになるため、当該複合粒子から成る物質において高いプロトン伝導度が達成される効果がある。
【0010】
特許請求の範囲および明細書の記載中、「半金属」とは、例えばグラファイト、ホウ素、ケイ素、ヒ素等の、金属と非金属の中間の性質を持つ物質を意味する。「酸化物粒子塊の内部の金属または半金属の酸化物の粒子の間の空隙」は、酸化物粒子塊を構成する個々の当該酸化物の粒子の間に存在するあらゆる隙間を意味する。また、「酸化物粒子塊の表面の空隙」は、酸化物粒子塊の表面における、当該酸化物の粒子間に形成されたあらゆる隙間部分を意味する。また、「酸化物粒子塊の表面に吸湿性化合物から成る層を連続的に形成する」は、酸化物粒子塊を、吸湿性化合物から成る層が一層として全体的に被覆している状態のみならず、酸化物粒子塊の表面の複数の箇所に部分的に形成された複数の当該層の少なくとも一部が連結している状態をも含む。また、「複合粒子凝集体以外の添加物を実質的に含有しない」とは、複合粒子凝集体以外の添加物(他の添加物)を全く含有しないか、含有するとしても成型体100重量%に対して他の添加物が、例えば0.001〜1重量%といった測定誤差の範囲内の割合でしか含有されていない状態を意味する。
【0011】
本発明の粒子凝集体を構成する金属または半金属の酸化物は、その粒子が、少なくとも100〜500℃の温度範囲で、下記に詳述する前記吸湿性化合物を表面に安定に保持でき、かつ、少なくともこの温度範囲で、前記吸湿性化合物および水との接触下に化学的・物理的に安定なものであり、好ましくは絶縁性のものである。例えば、SiO2、TiO2またはZrO2が好ましい。本発明の金属または半金属の酸化物の粒子は、本発明の複合粒子および複合粒子凝集体のプロトン伝導力を増す観点から、ある程度の水を含有していることが好ましく、かかる粒子は、例えばゾル−ゲル法により作製できるが、この方法に限定されるものではない。本発明における前記金属または半金属の酸化物の粒子は、平均粒子径が5〜200nmのものが好ましく、10〜150nmのものがより好ましく、60〜90nmのものがいっそう好ましい。本発明において、前記金属または半金属の酸化物の粒子は、複数の当該粒子がランダムに、ないし規則的に凝集して、本発明の複合粒子の核となる塊を構成する。
【0012】
本発明における前記吸湿性化合物は、少なくとも100〜500℃の温度範囲で、前記金属または半金属の酸化物の粒子の表面に安定に担持されるものであり、また、化合物表面に付着した水の分極を促す観点から、電子を引きつけやすい性質(電子吸引性)を持つことが好ましい。かかる化合物の例としては、例えばP2O5やB2O3が挙げられ、P2O5を特に好適に使用できるが、B2O3についても効果が確認されている。本発明の複合粒子および複合粒子凝集体において、かかる吸湿性化合物は、ある程度の水を保持した状態にあることが好ましく、かかる状態の吸湿性化合物は、例えばゾル−ゲル法で作製できる。
【0013】
本発明における複合粒子は、表面に多孔を有することが好ましい。かかる孔は、本発明における複合粒子の表面に設けられたあらゆる凹み構造であってよく、例えば、本発明の実施例で得られる複合粒子(図2Bのa)における孔(図2Bのb)のような、複合粒子の表面の形成された溝様の凹部であってもよい。
【0014】
本発明の複合粒子凝集体は、本発明の複合粒子が多数凝集することにより、複数の前記複合粒子に包囲されて成る洞穴状の空洞部を内部に形成する。複合粒子凝集体の水保持能力やプロトン伝導力の向上の観点から、当該空洞部は、平均径が7〜60nmで、総容積が0.1〜2.0cm3/gであることが好ましく、平均径が40〜50nmで、総容積が0.1〜0.5cm3/gであることがより好ましい。
【0015】
本発明の複合粒子および複合粒子凝集体は、前記金属または半金属の酸化物と前記吸湿性化合物とを1:10〜4:1、好ましくは3:17〜7:3のモル比で含むものである。特に本発明の複合粒子凝集体がP2O5とSiO2から成るものである場合、当該複合粒子および複合粒子凝集体におけるPとSiの組成比は、各々モル比にて、1:5〜8:1、好ましくは1:3〜5:1、より好ましくは1:2〜5:1である。
本発明の複合粒子凝集体は、以下に説明する本発明の方法により好適に作製し得るが、この方法に限定されるものではない。
【0016】
本発明の複合粒子凝集体は、好ましくは100〜300MPaの圧力、より好ましくは140〜260MPaの圧力を用いて圧縮処理して、固形に成形できる。かかる成形体は、100〜500℃の温度範囲で、10-3.5〜10-2S/cmという高いプロトン伝導性を有し、かつ、べとつかない実質的に乾燥しているのと同様の固形の状態を保持し、しかも縮みによる劣化を伴わない。前記圧縮処理は、前記本発明の複合粒子凝集体以外の添加物を実質的に含有させることなくなし得、適当な固形の成形体を得ることができ、しかも、焼成処理が不要である。ただし、適宜、他の添加物を含ませることは可能である。
【0017】
本発明は、また、ゾル−ゲル法に基づく本発明の複合粒子または複合粒子凝集体の作製方法であって、5.0〜10mol/lのアルコールと0.1〜2.0mol/lのアンモニアの水溶液の混合液に、5.0〜10mol/lのアルコールと0.2〜0.5mol/lの前記金属または半金属のアルコキシドの混合液を添加して、所定の時間攪拌するステップ(1)と、ステップ(1)で得られた混合液に、1〜5mol/lの水を添加して、所定の時間攪拌するステップ(2)と、ステップ(2)で得られた混合液に、0.1〜2mol/lの前記化合物のアルコキシドを添加して、所定の時間攪拌するステップ(3)と、ステップ(3)で得られた混合液から、前記アルコールを除去し、乾燥するステップ(4)と、から成る方法に関するものである。
【0018】
前記本発明の方法によれば、おそらくは、ステップ(1)およびステップ(2)で形成された金属または半金属の酸化物の粒子が凝集して成る酸化物粒子塊の表面や内部で露出した状態にある当該酸化物の粒子の表面に、ステップ(3)で、吸湿性化合物が、当該金属酸化物または半金属酸化物と結合を形成しながら沈着し、ステップ(3)の経過と共に、当該吸湿性化合物の上から前記吸湿性化合物から成る粒子が、下の当該化合物と結合を形成しながら沈着していき、前記酸化物粒子塊の内部の当該酸化物粒子間の空隙の少なくとも一部や当該酸化物粒子塊の表面の空隙の少なくとも一部を充填した状態で、前記吸湿性化合物から成る層が、前記酸化物粒子塊の周囲に形成されて本発明の複合粒子となり、これが凝集して、本発明の複合粒子凝集体が形成される。
【0019】
前記本発明の複合粒子または複合粒子凝集体の製造方法のステップ(1)で使用するアルコールは、エタノール、メタノールおよびプロパノール等の一価アルコールから選択され、エタノールまたはメタノールが好ましく、その濃度は10〜20mol/lが好ましく、12〜15mol/lがより好ましい。
ステップ(1)で使用するアンモニアの水溶液は、当該アンモニアの濃度が0.1〜2.0mol/lのものが好ましく、0.15〜1.5mol/lのものがより好ましく、当該アンモニアの濃度を変更することで、ステップ(1)で作製される金属または半金属の酸化物の粒子の径を変更できる。例えば、半金属の酸化物の粒子としてSiO2粒子を作製する場合、ステップ(1)において、次の段落に説明する半金属のアルコキシド0.1〜0.5mol/lに対して、0.15〜1.5mol/lのアンモニアの水溶液を用いた場合、12〜130nm平均粒子径のSiO2粒子が得られる。
【0020】
ステップ(1)で使用する金属または半金属のアルコキシドは、加水分解されて当該金属または半金属の酸化物の粒子となる。当該半金属がSiの場合は、例えば例えばオルトケイ酸テトラエチルやオルトケイ酸テトラメチルが好ましく、その濃度は0.1〜0.5mol/lが好ましく、0.2〜0.4mol/lがより好ましい。ステップ(1)における攪拌時間は、30〜60時間、好ましくは40〜50時間である。
前記本発明の方法のステップ(2)で添加される水の量は、好ましくは本発明の方法におけるアルコキシドの加水分解反応が完了する量であり、例えば、1〜10mol/l、好ましくは1〜5mol/lである。またステップ(2)における攪拌時間は、30〜60時間、好ましくは40〜50時間である。
【0021】
前記本発明の方法のステップ(3)で添加されるアルコキシドは、加水分解されて当該吸湿性化合物の粒子となる。例えばリン酸トリメチルやリン酸トリメチルであり、その濃度は0.1〜2mol/が好ましく、0.25〜1.75mol/lがより好ましい。ステップ(3)における攪拌時間は、30〜60時間、好ましくは40〜50時間である。このアルコキシドの濃度を変更することにより、前記金属または半金属の酸化物の粒子径との兼ね合いで、本発明の前記酸化物粒子塊における吸湿性化合物の充填・被覆の程度、ひいては本発明の複合粒子凝集体における複合粒子間の空隙のサイズを調節できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の複合粒子は、優れたプロトン伝導性を有する。本発明の複合粒子凝集体は、100〜500℃の中温領域で、優れた保水力を有して高いプロトン伝導能力を保持し、しかも、吸湿性化合物として特に潮解性の高いP2O5を含む場合でも、べとつきがなくさらさらの実質的に乾燥しているのと同様の状態を保つ。また、本発明の複合粒子凝集体を圧縮処理して成る成形体は、実質的に本発明の複合粒子凝集体のみから成り得、高いプロトン伝導性を確保でき、しかも作製が簡便である。本発明の複合粒子または複合粒子凝集体の製造方法は、当該複合粒子における吸湿性化合物の充填・被覆の程度や、本発明の複合粒子凝集体における複合粒子間空隙のサイズを適宜調節しつつ、簡便かつ確実に、本発明の複合粒子や複合粒子凝集体を作製できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、本発明の粒子凝集体の具体例と、その優れた特性を説明する。
[実施例1]
SiO2粒子とP2O5から成る本発明の複合粒子凝集体を、SiO2の平均粒子径および凝集体中に含有されるPとSiの割合を変えて複数種、以下の方法で作製した。
500mlの三角フラスコに、エタノールと28wt%のアンモニア水溶液を添加し、十分に混合した。他方で、500mlの三角フラスコにエタノールとオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)を添加し、十分に混合した。後者の混合液を前者の混合液に一時に添加し、マグネチックスターラーで攪拌した。48時間攪拌後、蒸留水を添加し、さらに48時間攪拌し、シリカ微粒子のゾルを得た。このゾルにリン酸トリメチルを添加し、48時間攪拌して、反応を完了させた後、エタノールをエバポレータ(RE200、ヤマト科学製)で除去し、さらに恒温乾燥機で150℃で24時間乾燥させ、粉体試料を得た。各試料について、SiO2粒子の形成のために添加した各材料成分のモル等量および形成されたSiO2粒子の平均粒子径を表1に、SiO2粒子に対してP2O5を複合化させるために添加したTEOSのモル等量を表2に示す。以下の実施例において、SiO2-P2O5凝集体サンプルは、表1におけるSiO2のNo.と表2における英字表記との組み合わせで示す。例えば、サンプル1A〜1Fは、表1のNo.1のSiO2が凝集した粒子塊に対してP2O5を、P:Siの比率が各々表2のA〜Fに示す値となるように複合化させたタイプの複合粒子サンプルを意味し、サンプル2A〜2Fは、表1のNo.2のSiO2が凝集した粒子塊に対してP2O5を、P:Siの比率が各々表2のA〜Fに示す値となるように複合化させたタイプの複合粒子サンプルを意味し、サンプル3A〜3F以下も、同様である。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
[実施例2]
実施例1で作製したサンプル1A〜5A、および1B〜4Bについて、電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM、S-4300、日立製作所製)を用いて、その形状を観察した。サンプル4A、5A、3Bおよび4Bについての撮影画像を図1および図2に示す。対照として、No.4のSiO2粒子について撮影した画像を図3に示す。
特に、サンプル4 Bにおいて、対照サンプルのSEM画像(図3)と比較して、複数の粒子が凝集して成る粒状物(図2Bのa)が凝集していること、個々の粒状物の表面は球形に隆起しており、隆起と隆起の間には、粒子間の溝が充填された状態の凹部(孔)(図2Bのb)が形成されていること、および、サンプル内において、複数の粒状物に包囲されて成る空洞(図2Bのc)が形成されていることが顕著である。
【0027】
[実施例3]
実施例1で作製したサンプル4Bについて、X線光電子分光分析(XPS)およびX線散乱強度解析(XRD)を、各々X線光電子分光装置(Axis-165、島津製作所製)およびX線散乱強度解析装置(X-ray Diffraction、理学製)を用いて行った。測定条件は、次のとおりである。
XPS:Al-Kα線およびMg-Kα線を使用、管電流30mA、管電圧8kV。
XRD:管電流200mA、管電圧40kV、発散スリット1°、散乱スリット1°、受光スリット0.30mm、スキャンスピード0.6°/s、ステップ幅0.02°/s、および操作範囲10〜90°。
【0028】
得られた各データに基づき、図2Bに示す粒子凝集体は、凝集したSiO2粒子の表面を、P2O5から成る層が被覆して成る複合粒子(図2Bのa)が複数、凝集して成るものであった。層の内部では、SiO2粒子の表面にP2O5が、Si-O-P結合を形成して結合しており、さらにその上にP2O5が、P-O-P結合を形成して積み重なっており、また、複合粒子の表面の隆起の間や複合粒子内部のSiO2粒子間を充填する物質は、P2O5から構成されていた。サンプル4 Bはアモルファスであった。
【0029】
[実施例4]
各々0.1gの実施例1で作製したサンプル1A〜5A、サンプル1B〜4Bおよびサンプル1C、1D、1Eおよび1Fをセルに量りとり、前処理装置(0.61LB、島津製作所製)によりセル内の雰囲気を200℃、真空雰囲気(0.1Pa以下)にし、24時間保持した。このセルを自動比表面積・細孔分布測定装置(TriStar 3000、島津製作所製)にセットし、ガス吸着法(BET法・BJH法)による、内部の複合粒子間に形成された空洞部(図2Bのc)の平均径および総容積の測定を行った。結果を、複合粒子凝集体を構成するSiO2粒子の平均粒子径との関係で図4に、および複合粒子凝集体に含まれるPとSiの組成比(P/Si比)との関係で図5に示す。
【0030】
[実施例5]
各々0.15gの実施例1で作製したサンプル1A〜5 A、サンプル1 B〜5 B、サンプル1C、サンプル1D、サンプル1Eおよびサンプル1Fの各粉体試料に、錠剤成形機(KBr錠剤成形機、島津製作所製)を用いて148〜296MPaの圧力をかけてペレットを作製した。こうして作製した各ペレット(構成粉体試料と対応させて、各々ペレット1A〜5A、ペレット1B〜5Bと呼ぶ)の両面に銀ペーストを塗布して電極とし、この電極を銅線でLCR測定器(3233-50 LCRハイテスタ、日置電機株式会社製)に接続し、2端子法により測定を行った。相対湿度95%、30℃に保った恒温恒湿器にペレットを入れて放置し、ペレットに水分を飽和させた状態で1.0Vの交流電圧を印加し、周波数1Hz〜100kHzまで変化させて、その際の周波数からインピーダンス、インピーダンスの位相角を測定した。得られた測定値からレジスタンスとリアクタンスを算出し、Cole-Cole plotを作成して得られた円弧の半径(R/2)と、測定サンプルの断面積S(厚みlおよび直径から算出)とから、次式に基づきプロトン伝導度σを算出した。
式:σ=l/[R・S]
結果を、表3に示す。
【0031】
【表3】

【0032】
いずれのペレットもべとつかず、実質的に乾燥しているのと同様の状態を維持し、縮みを生じなかった。
ペレット1〜5Aおよびペレット1〜4Bの間では、4Bを除いて、SiO2の粒子径が小さくなるほど、伝導度が上がっているが、これは一つの理由として、SiO2の粒子径が小さくなるほど、空洞部の径が小さくなることから(図4A)、小さな空洞部の中に水が凝集した状態で密に保持されることによるものと考えられる。ペレット1〜5Aおよびペレット1〜4Bの間で、ペレット4Bでプロトン伝導度が極めて高かったのは、図2Bからサンプル4Bにおいて特徴的な、複合粒子の表面の溝が厚く充填されて、複合粒子におけるP2O5から成る層が連結した構造に基づくものと考えられる。
【0033】
[実施例6]
実施例1で作製したサンプル1A、サンプル1B、サンプル1C、サンプル1D、サンプル1Eおよびサンプル1Fの各粉体試料について、X線光電子分光装置(Axis-165、島津製作所製)を用いてXPSによる表面元素分析を行い、SiO2粒子の単位Si当たりに存在するPの個数(以下、KP/Si)を測定した。測定条件は実施例3と同様である。結果を表4に示す。
【0034】
【表4】


ペレット中のPとSiの組成比は、KP/Siと正の相関関係にあることが明らかである。
【0035】
次に、表3および表4のデータに基づき、SiO2粒子の単位Si当たりに存在するPの個数に対するペレットのプロトン伝導度(σ)を算出した。結果を図6に示す。
図6より、少なくとも0.2<KP/Si<0.5、より厳密には0.27<KP/Si<0.40の範囲で、急激にペレットのプロトン伝導度が上昇した。
【0036】
[実施例7]
実施例1で作製したサンプル1Fの粉体試料について、恒温恒湿器の温度を30〜500℃の範囲で変化させて、所定の温度下でのプロトン伝導度を測定した。結果を図7に示す。
図7より、温度の上昇と共にプロトン伝導度が上昇することが分かる。
【0037】
[実施例8]
図8に、本発明の複合粒子凝集体を用いた固体電解質型燃料電池セルの一例を示す。図8に示す燃料電池セルEは、実施例5と同様の方法で実施例1で作製したサンプルから作製した、固体電解質層としてのペレットPの一方の面に酸化剤電極dを、他方の面に燃料電極eを加熱圧着して一体化して成る発電部fと、耐熱合金性のセパレータgとから成る積層構造hが複数組み合わさって成る燃料電池である。酸化剤電極dおよび燃料電極eとしては、空隙率80%のカーボンペーパーに白金合金をコーティングしたものを用いる。セパレータgには、酸化剤電極dに接する酸化剤流路iと、燃料電極eに接する燃料ガス流路jが設けられており、発電部fの外側に、燃料電池Eを積層方向に貫通するように形成された分岐管kおよびlを介して、酸化剤電極dに酸素ガスを、燃料電池eに水素から成る燃料ガスを供給できるようになっている。酸化剤電極dおよび燃料電極eには各々電極端子(図示せず)が設けられており、各電極端子は、酸化剤電極dにおける電極端子と燃料電極eにおける電極端子を連結できる外部回路(図示せず)を装着して、適宜、発電部fで発生した電子を外部へ取り出せるようになっている。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1は、電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM、S-4300、日立製作所製)によるサンプルの撮影画像を示す。図1Aは、サンプル4Aの撮影画像を、図1Bは、サンプル5Aの撮影画像を示す。
【図2】図2は、図1に関して使用したものと同じ電界放出形走査電子顕微鏡による別のサンプルの撮影画像を示す。図2Aは、サンプル3Bの撮影画像を、図2Bは、サンプル4Bの撮影画像を示す。
【図3】図3は、図1および図2に関して使用したものと同じ電界放出形走査電子顕微鏡による対照サンプルの撮影画像を示す。
【図4】図4は、本発明の複合粒子凝集体における空洞部の平均径および総容積の、酸化物粒子の平均粒子径との関係を示すグラフを示す。
【図5】図5は、本発明の複合粒子凝集体における空洞部の平均径および総容積の、当該複合粒子凝集体に含まれるPとSiの組成比との関係を示すグラフを示す。
【図6】図6は、本発明の複合粒子凝集体のプロトン伝導度の、当該複合粒子凝集体におけるKP/Siとの関係を示すグラフを示す。
【図7】図7は、本発明の複合粒子凝集体のプロトン伝導度の、温度との関係を示すグラフを示す。
【図8】図8は、本発明の複合粒子凝集体を用いた固体電解質型燃料電池セルの一例を示す。
【符号の説明】
【0039】
a 複合粒子
b 孔
c 空洞部
d 酸化剤電極
e 燃料電極
f 発電部
g セパレータ
h 積層構造
i 酸化剤流路
j 燃料ガス流路
k、l 分岐管
E 燃料電池セル
P ペレット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si、TiおよびZrから成る群から選択される金属または半金属の酸化物の粒子が凝集して成る酸化物粒子塊の表面に、P2O5およびB2O3から成る群から選択される吸湿性化合物から成る層を連続的に形成して成ることを特徴とする、高プロトン伝導性複合粒子。
【請求項2】
前記酸化物粒子塊の内部の当該金属または半金属の酸化物の粒子間の空隙の少なくとも一部、および当該酸化物粒子塊の表面の空隙の少なくとも一部を前記吸湿性化合物で充填したこと、および多孔性のものであること、を特徴とする請求項1に記載の高プロトン伝導性複合粒子。
【請求項3】
前記金属または半金属の酸化物の粒子が10〜150nmの平均粒子径のものであることを特徴とする、請求項1または2に記載の複合粒子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合粒子が凝集して成ることを特徴とする、高プロトン伝導性複合粒子凝集体。
【請求項5】
前記複合粒子凝集体の内部に形成される、複数の当該複合粒子に包囲されて成る空洞部の平均径が7〜60nmであり、総容積が0.1〜2.0cm3/gであることをさらに特徴とする、請求項4に記載の高プロトン伝導性複合粒子凝集体。
【請求項6】
前記半金属の酸化物がSiO2であり、前記吸湿性化合物がP2O5である場合に、含有されるPとSiの比率が、モル比にて、1:5〜8:1であることをさらに特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合粒子または請求項4または5に記載の高プロトン伝導性複合粒子凝集体。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか1項に記載の複合粒子凝集体を圧縮して成る成形体であること、および前記複合粒子凝集体以外の添加物を実質的に含まないことを特徴とする、高プロトン伝導性成形体。
【請求項8】
請求項4〜6のいずれか1項に記載の高プロトン伝導性複合粒子凝集体から成る固体電解質層と、前記固体電解質層の一方の面に形成された酸化剤電極と、前記固体電解質層の他方の面に形成された燃料電極と、前記酸化剤電極に接する酸化剤流路と、前記燃料電極に接する燃料ガス流路と、から成る固体電解質型燃料電池セル。
【請求項9】
5.0〜10mol/lのアルコールと0.1〜2.0mol/lのアンモニアの水溶液の混合液に、5.0〜10mol/lのアルコールと0.2〜0.5mol/lの前記金属または半金属のアルコキシドの混合液を添加して、所定の時間攪拌するステップ(1)と、
前記ステップ(1)で得られた混合液に、1〜5mol/lの水を添加して、所定の時間攪拌するステップ(2)と、
前記ステップ(2)で得られた混合液に、0.1〜2mol/lの前記化合物のアルコキシドを添加して、所定の時間攪拌するステップ(3)と、
前記ステップ(3)で得られた混合液から、前記アルコールを除去し、乾燥するステップ(4)と、
から成ることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合粒子または請求項4〜6のいずれか1項に記載の複合粒子凝集体の製造方法。
【請求項10】
前記アルコールが、一価アルコールから選択されるものであり、前記半金属のアルコキシドがオルトケイ酸テトラエチルまたはオルトケイ酸テトラメチルであり、前記化合物のアルコキシドがリン酸トリメチルまたはリン酸トリメチルであることをさらに特徴とする、請求項9に記載の複合粒子または複合粒子凝集体の製造方法。

【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−273285(P2007−273285A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−98212(P2006−98212)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年10月18日 粉体工学会主催の「2005年度秋期研究発表会」において文書をもって発表
【出願人】(503027931)学校法人同志社 (346)
【Fターム(参考)】