説明

高レベル放射性廃棄物を線源とする放射線誘起触媒反応による水素製造法

【課題】
水素製造に必要とされる電力やメイテンナンスを極力少なくする。
【解決手段】
廃棄物として利用されていない高レベル放射性廃棄物から回収したCs-137、Sr-90等を放射線源として発生するガンマ線、ベータ線を用いて、酸化物を触媒として水溶液から水素イオンを還元して水素ガスを発生させる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
原子力発電所で燃料として使用したいわゆる使用済み核燃料中には、核分裂反応で多種類の核分裂生成物が生成する。使用済み核燃料から燃え残りのウランと、ウランの中性子捕獲反応で生成したプルトニウムを回収して新たな燃料として再利用するために、いわゆる使用済み燃料再処理によってウラン、プルトニウムを核分裂生成物から分離する。ここで再処理工程からは、大部分の核分裂生成物を含んだ極めて放射性の高い廃液が発生するが、これを高レベル放射性廃棄物と呼んでいる。
【0002】
本発明は、原子炉放射線源として高レベル放射性廃棄物から回収したCs-137、Sr-90等から発生するガンマ線、ベータ線を用いて、耐強酸性に優れた酸化物粉体ないしは固体を含む硫酸溶液に放射線照射をすることより誘起する還元反応を利用して、水溶液ないしは酸性溶液から水素を発生させる方法に関するものであり、高レベル放射性廃棄物の有効利用に役立つものである。
【0003】
さらに詳しくは、本発明は、耐強酸性に優れた酸化物粉体ないしは固体が放射線のエネルギーを吸収して励起電子や二次電子を生成し、化学反応を促進させるエネルギーに有効に変換する放射線誘起触媒機能を果たすことにより、水溶液ないしは酸性溶液中の水素イオンを高効率で還元し水素ガスを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0004】
現行の燃料サイクルでは、この高レベル放射性廃棄物はガラス固化した後、深い地下に建設予定の処分場に保管管理する。100万kW原子力発電所から、年間約30トンの使用済核燃料が出され、これから約15立方メートルの高レベル放射性廃液を生じ、ガラス固化すると110リットルキャニスターで約30本の固化体となる。高レベル放射性廃棄物中には、セシウム-137、ストロンチウム-90などの強力なガンマ線、ベータ線を発生する核種や、パラジウム、ロジウム、ルテニウムなどの貴金属などの有用核種が含まれており、これらを回収して有効利用とする研究が進められてきたが、具体的な利用についてはまだ進んでいない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
廃棄物として利用されていない高レベル放射性廃棄物から回収したCs-137、Sr-90等を放射線源として発生するガンマ線、ベータ線を用いて、酸化物を触媒として水溶液から水素イオンを還元して水素ガスを発生させ、水素発生効率の良い方法を見いだし、水素製造に必要とされる電力やメイテンナンスを極力少なくすることが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、硫酸溶液に酸化物粉体ないしは固体を混ぜて、酸化物が放射線のエネルギーを吸収し化学反応エネルギーに変換することで生成した還元種により水素イオンの還元反応を促進する放射線誘起触媒法で、水素を高効率で製造する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
ここでの還元種とは、酸化物の価電子帯から伝導帯に励起された電子、固体内に大量に生成する二次電子が硫酸溶液中に放出し生成する水和電子を主とするラジカルである。
また、ここで用いる酸化物は耐強酸性が要求されるため、石英、アルミナ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化セシウム若しくは酸化クロム等、又はその混合物若しくは固溶体を用いる。これらの耐強酸性の酸化物のバンドギャプは一般に4eV以上であり(例えば石英、アルミナではそれぞれ8eV、9eV)、従来の光触媒法では光のエネルギーにより電子を励起することは不可能である。本発明では、ガンマ線やベータ線を石英やアルミナに照射するため励起電子や二次電子を発生し還元種を生成することが可能である。
【実施例】
【0008】
本放射線触媒法では、水素ガスを1分子生成するのは2電子が必要である。高レベル放射性廃棄物を含むガラス固化体の表面の吸収線量率は図1にあるように、10kG/hである。図2で示すように実験で求められたCo-60γ線照射での1電子によるCe(IVイオン)の還元収率は20 μmol/Jであるから、放射線触媒表面でのH2ガス発生率を10μmol/Jと仮定すると、図3あるように、1kgの水から約0.01 mol/hの水素ガスが製造できる。したがって、ガラス固化体1本で(照射面180x100 cm2)約2 mol/hの水素製造が可能である。2万本のガラス固化体では、4万モル/hの水素ガス生成率となり、30MWthのHTTRでIS法で予定されている1000 m3/hに匹敵する水素が製造可能と見積もれる。
【0009】
[発明の効果]
本法の水素製造の特徴は、次のとおりである。
1)本方法で利用する放射線源は、使用済み核燃料の再処理で取り出される放射性物質やその際に発生する高レベル廃液のガラス固化体からのガンマ線や放射性同位元素からのアルファ線、ベータ線であり、一般には利用されていない放射性廃棄物の資源化が可能となる。
【0010】
2)本方法では、化学的に安定で再利用可な耐強酸性に優れた酸化物を用いることにより水溶液、酸性溶液から放射線誘起触媒反応による効率的に水素ガスを製造できる。
3) 耐強酸性酸化物であり石英、アルミナは安価である上に、高温及び化学的に安定であり、本水素製造プロセスにおける性質の変化は無く、回収可能であり、半永久的に使用可能であり、経済性に優れている。
【0011】
4)水素製造反応プロセスが簡単であり、不用な副産物を作らない。また室温で進むため、高濃度硫酸溶液を使用しても反応容器に与える影響は小さく、ガラス容器が使用可能であり、本水素製造装置は安価に作製可能である。
【0012】
5)熱源を含む動力源を必要とせず、可動部もなく放置したまま反応が進むため、反応装置は簡単でありメインテナスフリーが実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】放射線源としてのガラス固化体の保管・貯蔵の現状を示す図である(固化体表面の吸収線量率は10KGy/hである)。
【図2】固体成分によるCe(IV)イオンの還元収量を示す図である。
【図3】本発明の放射線触媒法により2万本のガラス固体から発生する水素量の試算例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高レベル放射性廃棄物を線源とする放射線誘起触媒反応により水素を製造する方法。
【請求項2】
高レベル放射性廃棄物の線源が、使用済み核燃料の再処理により発生する高レベル廃液のガラス固化体から出るガンマ線、ベータ線である請求項1記載の方法。
【請求項3】
放射線誘起触媒反応において、放射線照射により酸化物固体内で励起された電子あるいは固体から放出された電子によって酸化物表面及び表面近傍の溶液内での化学反応が促進される請求項1記載の方法。
【請求項4】
酸化物が、単独の酸化物、複数の酸化物の混合物、又は単独の酸化物若しくは複数の酸化物の固溶体である請求項3記載の方法。
【請求項5】
化学的に安定で再利用可な耐強酸性に優れた酸化物を用いることにより、水溶液又は酸性溶液から放射線誘起触媒反応による水素ガスを製造する請求項1記載の方法。











【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−248821(P2006−248821A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−65139(P2005−65139)
【出願日】平成17年3月9日(2005.3.9)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)