説明

高伸度伸縮性不織布

【課題】 適度な伸縮性を有するとともに、肌触りも優れ通気性を有し、有害成分を含まず皮膚刺激性も少ない、繰り返し伸縮しても伸縮性の低下が抑制された不織布及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 熱収縮率の異なる複数の樹脂が相構造を形成した複合繊維を含む不織布であって、前記複合繊維が、面方向に対して略平行に配向させ、かつ平均曲率半径10〜50μmで厚さ方向において略均一に捲縮させ、前記複合繊維に発現しているコイル捲縮数の平均が15〜50個/mmであり、連続して隣り合うコイル捲縮のピッチの平均が10〜80μmとする。この不織布は、熱収縮率の異なる複数の樹脂が相構造を形成した複合繊維を含む繊維をウェブ化する工程と、繊維ウェブを高温水蒸気で加熱してコイル捲縮する工程とを含み、前記加熱してコイル捲縮する工程で得られる不織布の処理前の繊維ウェブに対しての面積収縮率が80%以上である製造方法によって得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高伸度で伸縮性に優れ、医療やスポーツ分野で使用される包帯や、人体の部位などの固定をするサポーターおよびテープ類、または主にウエストなどの体型を補正するベルト用部材などに適した伸縮性不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、医療・スポーツなどの分野においては、四肢や患部などの適用部位を適度に圧迫、固定、保護する目的で、各種の包帯やサポーターなどのテープ類が用いられている。これらのテープ類に要求される機能としては、伸縮性又は追従性、吸汗性、通気性などに加えて、自着や粘着による固定性が挙げられる。これらの機能のうち、伸縮性や固定性を充足する目的で、一般に、包帯表面にゴム系又はアクリル系のラテックス類などの軟質成分が塗布されているが、これらの軟質成分は、皮膚への刺激や通気性の遮断による蒸れ、さらにはアレルギーを惹き起こす可能性も含んでおり、安全性の観点からは好ましくない。
【0003】
また、マスクやオムツなどの衛生材、帽子、衣服、靴下などにおいて、人体に布帛や紙類などを固定するために、伸縮性に優れるゴムが使用されてきた。しかし、ゴムは、収縮力が強いため、衛生材のように身体のデリケートな部分に直接触れる用途や、長時間装着する用途などにおいては、皮膚に対する違和感や痛みを生じる場合が多い。特に、マスクの耳掛け部材がゴムで構成されている場合、ゴムが直接耳の付け根に当たるため、痛みや違和感を生じ易い。そこで、昨今のマスクでは、使い捨てマスクなどにおいて、不織布の伸長力を利用して耳掛け部材としたマスクが提案されている。
【0004】
本出願人は前記課題を鑑みて、包帯やサポーターなどのテープ類として、伸縮性を有するとともに、手で容易に切断可能な、または粘着剤を用いることなく端部などを重ね合わせることにより容易かつ確実に自着でき、通気性を有し、皮膚刺激性を低減でき、かつ幅方向に容易に切断して簡便に四肢や患部に固定可能な包帯やサポーターなどのテープ類(特許文献1参照)を提案している。
【0005】
しかしながら、この特許文献では、捲縮繊維の平均の曲率半径と繊維湾曲率の検討はなされているが、上記以外の複合繊維の特性が不織布に与える影響については、十分な検討はなされていない。関節部位などに巻いて固定、保護する目的で使用する包帯やサポーターなどのテープ類の場合、特に関節の動きに追従して大きく変形し、再び回復してできるだけもとの形状にもどることが要求されるが、特許文献1には詳細な記載がされていないため、特許文献のテープ類を、例えば2倍程度伸ばされるような部位に使用した場合、使用後にたるみが残ってしまい、再び使用する際に伸縮性が低下してしまって十分な機能を発揮できないという問題があった。
【0006】
さらに本出願人は、適度な伸縮性を有するとともに、肌触りも優れ、繰り返し伸縮しても伸縮性の低下が抑制され、通気性を有し、有害成分を含まず、皮膚刺激性も少なく、伸長時の回復力が大きく、身体に布帛や紙類などをしっかりと固定できる伸縮材(特許文献2参照)を提案している。
【0007】
しかしながら、この特許文献に記載されている伸縮材は、破断伸度が高く適度な伸縮性を有してはいるが、繰り返して使用した際の伸縮性の低下については十分な検討はされているとは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開2008/015972号
【特許文献2】特開2009−097133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、適度な伸縮性を有するとともに、肌触りも優れる不織布及びその製造方法を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、繰り返し伸縮しても、伸縮性の低下が抑制された不織布及びその製造方法を提供することにある。
【0011】
本発明のさらに他の目的は、通気性を有し、有害成分を含まず、皮膚刺激性も少ない不織布及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、潜在的に加熱捲縮性を有する複合繊維を、高温水蒸気で三次元捲縮を発現させて繊維交絡させた不織布が、適度な伸縮性を有するとともに、肌触りにも優れることを見出し本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明の不織布は、熱収縮率の異なる複数の樹脂が相構造を形成した複合繊維を含む不織布であって、前記複合繊維が、面方向に対して略平行に配向され、かつ平均曲率半径10〜50μmで厚さ方向において略均一に捲縮しており、前記複合繊維に発現している捲縮数の平均が15〜50個/mmであり、連続して隣り合うコイル捲縮のピッチの平均が10〜80μmである。前記複合繊維を構成する樹脂の軟化点又は融点は100℃以上であり、かつ複合繊維の表面に露出する樹脂が、非湿熱接着性樹脂であってもよい。前記複合繊維は、ポリアルキレンアリレート系樹脂と変性ポリアルキレンアリレート系樹脂とで構成され、かつ並列型又は偏芯芯鞘型構造であってもよい。本発明の不織布は、複合繊維の割合は50質量%以上であってもよい。不織布の面方向における少なくとも一方向の破断強度および破断伸度が、それぞれ25N/50mm以下、300%以上であり、かつ該方向の100%伸長時の応力が10N/50mm以下、100%伸長後の回復率が90%以上であってもよい。本発明の不織布は、テープ状又は帯状であり、衛生材用不織布(マスク用耳掛部材又は紙オムツ部材用不織布)に適しており、本発明には、前記衛生材用不織布を備えている衛生材も含まれる。また本発明には、前記不織布を備えた包帯やサポーター、腰痛防止ベルト、体型補正具及びオムツも含まれる。
【0014】
本発明には、熱収縮率の異なる複数の樹脂が相構造を形成した複合繊維を含む繊維をウェブ化する工程と、繊維ウェブを高温水蒸気で加熱してコイル捲縮する工程とを含み、前記加熱してコイル捲縮する工程で得られる不織布の処理前の繊維ウェブに対しての面積収縮率が80%以上である前記不織布の製造方法も含まれる。この製造方法は、繊維ウェブの一部の繊維を軽度に絡合する工程を経た後、高温水蒸気で処理してコイル捲縮させる方法であってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の不織布は、複合繊維が厚み方向で均一に捲縮して絡まっており、適度な伸縮性を有するとともに、柔軟で適度なクッション性を有するため、肌触りも優れている。また、曲率半径の小さい捲縮が連続的に多数存在しているため、高伸度で繰り返し伸縮しても、伸縮性の低下が抑制され、耐久性に優れている。また、不織布構造を有するため、通気性に優れている。さらに、バインダー成分を用いることなく、高温水蒸気を用いて機械的に絡合させているため、有害成分を含まず、皮膚刺激性も少ない。従って、本発明の不織布は、衛生材などの身体と接触する用途に適している。
【0016】
なお、本明細書では、衛生材とは、医療や介護などの健康と関連して身体に着用される資材のうち、布帛や紙類(特に紙類)で構成された使い捨ての資材を意味する。具体的には、衛生材には、マスク、手袋、包帯、ガーゼ又は脱脂綿、絆創膏、湿布、サージカルテープ、オムツ、生理用ナプキンなどが含まれる。さらに、本明細書では、布帛と紙類とは厳密に区別されるものではなく、いずれも天然繊維や合成繊維で構成されたシート状物であれば該当し、織布、不織布、普通紙、合成紙などが含まれる。また、布帛又は紙類は、他の構成材料(例えば、プラスチックフィルムや金属箔など)と組み合わせた材料であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明における繊維湾曲率の測定方法を示す模式図である。
【0018】
【図2】図2は、実施例1で得られた不織布表面の電子顕微鏡写真(50倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(不織布)
本発明の不織布は、熱収縮率(又は熱膨張率)の異なる複数の樹脂が相構造を形成した複合繊維を含み、この複合繊維は、主に面方向に配向し、この配向軸に沿ってコイル状に平均曲率半径10〜50μmでコイル捲縮している。この不織布は、詳細は後述するように、前記複合繊維を含むウェブに高温(過熱又は加熱)水蒸気を作用させて、複合繊維に捲縮を発現し、繊維同士を融着することなく(機械的に)絡み合わせることにより得られる。
【0020】
(不織布の材質)
複合繊維は、複数の樹脂の熱収縮率(又は熱膨張率)の違いに起因して、加熱によりコイル捲縮を生じる非対称又は層状(いわゆるバイメタル)構造を有する繊維(潜在捲縮繊維)である。複数の樹脂は、通常、軟化点又は融点が異なる。複数の樹脂は、例えば、ポリオレフィン系樹脂(低密度、中密度又は高密度ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリC2-4オレフィン系樹脂など)、アクリル系樹脂(アクリロニトリル−塩化ビニル共重合体などのアクリロニトリル単位を有するアクリロニトリル系樹脂など)、ポリビニルアセタール系樹脂(ポリビニルアセタール樹脂など)、ポリ塩化ビニル系樹脂(ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体など)、ポリ塩化ビニリデン系樹脂(塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合体、塩化ビニリデン−酢酸ビニル共重合体など)、スチレン系樹脂(耐熱ポリスチレンなど)、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂などのポリC2-4アルキレンアリレート系樹脂など)、ポリアミド系樹脂(ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド610、ポリアミド612などの脂肪族ポリアミド系樹脂、半芳香族ポリアミド系樹脂、ポリフェニレンイソフタルアミド、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド、ポリp−フェニレンテレフタルアミドなどの芳香族ポリアミド系樹脂など)、ポリカーボネート系樹脂(ビスフェノールA型ポリカーボネートなど)、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリウレタン系樹脂、セルロース系樹脂(セルロースエステルなど)などの熱可塑性樹脂から選択してもよい。さらに、これらの各熱可塑性樹脂には、共重合可能な他の単位が含まれていてもよい。
【0021】
これらの樹脂のうち、本発明では、高温水蒸気で加熱処理しても溶融又は軟化して繊維が融着しない点から、軟化点又は融点が100℃以上の非湿熱接着性樹脂(又は耐熱性疎水性樹脂又は非水性樹脂)、例えば、ポリプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂が好ましく、特に、耐熱性や繊維形成性などのバランスに優れる点から、芳香族ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂が好ましい。本発明では、不織布を構成する各繊維を高温水蒸気で処理しても融着させないために、複合繊維の表面に露出する樹脂は非湿熱接着性繊維であるのが好ましい。
【0022】
複合繊維を構成する複数の樹脂は、熱収縮率が異なっていればよく、同系統の樹脂の組み合わせであっても、異種の樹脂の組み合わせであってもよい。
【0023】
本発明では、密着性の点から、同系統の樹脂の組み合わせで構成されているのが好ましい。同系統の樹脂の組み合わせの場合、通常、単独重合体(必須成分)を形成する成分(A)と、変性重合体(共重合体)を形成する成分(B)との組み合わせが用いられる。すなわち、必須成分である単独重合体に対して、例えば、結晶化度や融点又は軟化点などを低下させる共重合性単量体を共重合させて変性することにより、単独重合体よりも結晶化度を低下させるか、非晶性とし、単独重合体よりも融点又は軟化点などを低下させてもよい。このように、結晶性、融点又は軟化点を変化させることにより、熱収縮率に差異を設けてもよい。融点又は軟化点の差は、例えば、5〜150℃、好ましくは40〜130℃、さらに好ましくは60〜130℃程度であってもよい。変性に用いられる共重合性単量体の割合は、全単量体に対して、例えば、1〜50モル%、好ましくは2〜40モル%、さらに好ましくは3〜30モル%(特に5〜20モル%)程度である。単独重合体を形成する成分と、変性重合体を形成する成分との複合比率(質量比)は、繊維の構造に応じて選択できるが、例えば、単独重合体成分(A)/変性重合体成分(B)=90/10〜10/90、好ましくは70/30〜30/70、さらに好ましくは60/40〜40/60程度である。
【0024】
本発明では、潜在捲縮性の複合繊維を製造し易い点から、複合繊維は芳香族ポリエステル系樹脂の組み合わせ、特に、ポリアルキレンアリレート系樹脂(a)と、変性ポリアルキレンアリレート系樹脂(b)との組み合わせであってもよい。ポリアルキレンアリレート系樹脂(a)は、芳香族ジカルボン酸(テレフタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸などの対称型芳香族ジカルボン酸など)とアルカンジオール成分(エチレングリコールやブチレングリコールなどC3-6アルカンジオールなど)との単独重合体であってもよい。具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリC2-4アルキレンテレフタレート系樹脂などが使用され、通常、固有粘度0.6〜0.7程度の一般的なPET繊維に用いられるPETが使用される。
【0025】
一方、変性ポリアルキレンアリレート系樹脂(b)では、必須成分である前記ポリアルキレンアリレート系樹脂(A)の融点又は軟化点、結晶化度を低下させる共重合成分、例えば、非対称型芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸などのジカルボン酸成分や、ポリアルキレンアリレート系樹脂(a)のアルカンジオールよりも鎖長の長いアルカンジオール成分及び/又はエーテル結合含有ジオール成分が使用できる。
これらの共重合成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの成分のうち、ジカルボン酸成分として、非対称型芳香族カルボン酸(イソフタル酸、フタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸など)、脂肪族ジカルボン酸(アジピン酸などのC6-12脂肪族ジカルボン酸)などが汎用され、ジオール成分として、アルカンジオール(1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどC3-6アルカンジオールなど)、ポリオキシアルキレングリコール(ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリオキシC2-4アルキレングリコールなど)などが汎用される。これらのうち、イソフタル酸などの非対称型芳香族ジカルボン酸、ジエチレングリコールなどのポリオキシC2-4アルキレングリコールなどが好ましい。さらに、変性ポリアルキレンアリレート系樹脂(b)は、C2アルキレンアリレート(エチレンテレフタレート、ブチレンテレフタレートなど)をハードセグメントとし、(ポリ)オキシアルキレングリコールなどをソフトセグメントとするエラストマーであってもよい。
【0026】
変性ポリアルキレンアリレート系樹脂(b)において、ジカルボン酸成分として、融点又は軟化点を低下させるためのジカルボン酸成分(例えば、イソフタル酸など)の割合は、ジカルボン酸成分の全量に対して、例えば、1〜50モル%、好ましくは5〜50モル%、さらに好ましくは15〜40モル%程度である。ジオール成分として、融点又は軟化点を低下させるためのジオール成分(例えば、ジエチレングリコールなど)の割合は、ジオール成分の全量に対して、例えば、30モル%以下、好ましくは10モル%以下(例えば、0.1〜10モル%程度)である。融点又は軟化点を低下させるためのジオール成分として、例えばネオペンチル構造を有するものが好ましい。共重合成分の割合が低すぎると、充分なコイル捲縮が発現せず、捲縮発現後の不織布の形態安定性と伸縮性とが低下する。一方、共重合成分の割合が高すぎると、捲縮発現性能は高くなるが、安定に紡糸することが困難となる。
【0027】
変性ポリアルキレンアリレート系樹脂(b)は、必要に応じて、トリメリット酸、ピロメリット酸などの多価カルボン酸成分、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトールなどのポリオール成分などを併用して分岐させてもよい。
【0028】
複合繊維の横断面形状(繊維の長さ方向に垂直な断面形状)は、一般的な中実断面形状である丸型断面や異型断面[偏平状、楕円状、多角形状、3〜14葉状、T字状、H字状、V字状、ドッグボーン(I字状)など]に限定されず、中空断面状などであってもよいが、通常、丸型断面である。
【0029】
複合繊維の横断面構造としては、複数の樹脂に形成された相構造、例えば、芯鞘型、海島型、ブレンド型、並列型(サイドバイサイド型又は多層貼合型)、放射型(放射状貼合型)、中空放射型、ブロック型、ランダム複合型などの構造が挙げられる。これらの横断面構造のうち、加熱により自発捲縮を発現させ易い点から、相部分が隣り合う構造(いわゆるバイメタル構造)や、相構造が非対称である構造、例えば、偏芯芯鞘型、並列型構造が好ましい。
【0030】
なお、複合繊維が偏芯芯鞘型などの芯鞘型構造である場合、表面に位置する鞘部の非湿熱性接着性樹脂と熱収縮差を有し捲縮可能であれば、芯部は湿熱接着性樹脂(例えば、エチレン−ビニルアルコール共重合体やポリビニルアルコールなどのビニルアルコール系重合体など)や、低い融点又は軟化点を有する熱可塑性樹脂(例えば、ポリスチレンや低密度ポリエチレンなど)で構成されていてもよい。
【0031】
複合繊維の平均繊度は、例えば、0.1〜50dtex程度の範囲から選択でき、好ましくは0.5〜10dtex、さらに好ましくは1〜5dtex(特に1.5〜3dtex)程度である。繊度が細すぎると、繊維そのものが製造し難くなることに加え、繊維強度を確保し難い。また、捲縮を発現させる工程において、綺麗なコイル状捲縮を発現させ難くなる。一方、繊度が太すぎると、繊維が剛直となり、十分な捲縮を発現し難くなる。
【0032】
複合繊維の平均繊維長は、例えば、10〜100mm程度の範囲から選択でき、好ましくは20〜80mm、さらに好ましくは25〜75mm(特に40〜60mm)程度である。繊維長が短すぎると、繊維ウェブの形成が難しくなることに加え、コイル捲縮を発現させる工程において、繊維同士の交絡が不十分となり、強度及び伸縮性の確保が困難となる。また、繊維長が長すぎると、均一な目付の繊維ウェブを形成することが難しくなるばかりか、ウェブ形成時点で繊維同士の交絡が多く発現し、捲縮を発現する際にお互いに妨害し合って伸縮性の発現が困難となる。さらに、本発明では、繊維長が前記範囲にあると、不織布表面でコイル捲縮した繊維の一部が不織布表面に適度に露出するため、不織布の自着性(粘着剤などを用いることなく、不織布同士の接触により接合又は交絡して拘束又は掛止可能な特性)を向上できる。
【0033】
この複合繊維は、熱処理を施すことにより、捲縮が発現(顕在化)し、略コイル状(螺旋状又はつるまきバネ状)の立体捲縮を有する繊維となる。
【0034】
加熱前の捲縮数(機械捲縮数)は、例えば、0〜30個/25mm、好ましくは1〜25個/25mm、さらに好ましくは5〜20個/25mm程度である。
【0035】
本発明の不織布は、高温水蒸気でコイル捲縮されているため、面方向に略平行に配向した複合繊維の捲縮が、厚さ方向において略均一に発現するという特徴を有している。具体的には、厚さ方向の断面において、厚さ方向に三等分した各々の領域のうち、中央部(内層)において、1周以上のコイルクリンプを形成している繊維の数が、例えば、5〜50本/5mm(面方向長)・0.2mm(厚み)であり、好ましくは10〜50本/5mm(面方向)・0.2mm(厚み)、さらに好ましくは20〜50本/5mm(面方向)・0.2mm(厚み)である。本発明では、大部分の捲縮繊維の軸が面方向に配向し、厚さ方向においてコイル捲縮数が均一であるため、ゴムやエラストマーを含んでいなくても、高い伸縮性を有するとともに、粘着剤を含んでいなくても、実用的な強度を有している。なお、本明細書において、「厚さ方向に三等分した領域」とは、不織布の厚さ方向に対して直交する方向にスライスして三等分した各領域のことを意味する。
【0036】
さらに、本発明の不織布において、コイル捲縮が厚さ方向において均一であることは、繊維湾曲率が均一であることによっても評価できる。繊維湾曲率とは、捲縮繊維(捲縮した状態の繊維)の両端の距離(L1)に対する繊維長(L2)の比(L2/L1)であり、繊維湾曲率(特に厚さ方向の中央の領域における繊維湾曲率)が、例えば、1.3以上(例えば、1.35〜20.0)、好ましくは2.0〜10.0(例えば、2.1〜9.5)、さらに好ましくは4.0〜8.0(特に4.5〜7.5)程度である。なお、本発明では、後述するように、不織布断面の電子顕微鏡写真に基づいてコイル捲縮した複合繊維の繊維湾曲率を測定するため、前記繊維長(L2)は、三次元的に捲縮した繊維を引き延ばして直線状にした繊維長(実長)ではなく、写真に写った二次元的に捲縮した繊維を引き延ばして直線状にした繊維長(写真上の繊維長)を意味する。すなわち、本発明における繊維長(写真上の繊維長)は、実際の繊維長よりも短く計測される。
【0037】
さらに、本発明では、厚さ方向において略均一に捲縮が発現しているため、繊維湾曲率が厚さ方向で均一である。本発明では、繊維湾曲率の均一性は、厚さ方向の断面において、厚さ方向に三等分した各々の層における繊維湾曲率の比較によって評価できる。すなわち、厚さ方向の断面において、厚さ方向に三等分した各々の領域における繊維湾曲率はいずれも前記範囲にあり、各領域における繊維湾曲率の最大値に対する最小値の割合(繊維湾曲率が最大の領域に対する最小の領域の比率)が、例えば、75%以上(例えば、75〜100%)、好ましくは80〜99%、さらに好ましくは82〜98%(特に85〜97%)程度である。
【0038】
繊維湾曲率及びその均一性の具体的な測定方法としては、不織布の断面を電子顕微鏡写真で撮影し、厚さ方向に三等分した各領域から選択した領域について繊維湾曲率を測定する方法が用いられる。測定する領域は、三等分した表層(表面域)、内層(中央域)、裏層(裏面域)の各層について、長さ方向2mm以上の領域で測定を行う。また、各測定領域の厚さ方向については、各層の中心付近において、それぞれの測定領域が同じ厚み幅を有するように設定する。さらに、各測定領域は、厚さ方向において平行で、かつ各測定領域内において繊維湾曲率を測定可能な捲縮繊維が100本以上(好ましくは300本以上、さらに好ましくは500〜1000本程度)含まれるように設定する。これらの各測定領域を設定した後、領域内の全ての捲縮繊維の繊維湾曲率を測定し、各測定領域ごとに平均値を算出した後、最大の平均値を示す領域と、最小の平均値を示す領域との比較により繊維湾曲率の均一性を算出する。
【0039】
不織布を構成する捲縮繊維は、前述の如く、捲縮発現後において略コイル状の捲縮を有する。この捲縮繊維のコイルで形成される円の平均曲率半径は、10〜50μmであり、より好ましくは20〜40μm、さらに好ましくは25〜35μmである。ここで、平均曲率半径は、捲縮繊維のコイルにより形成される円の平均的大きさを表す指標であり、この値が大きい場合は、形成されたコイルがルーズな形状を有し、コイル形状の変形に対して形状回復しにくいことを意味する。逆に、平均曲率半径が小さすぎるコイル捲縮を発現させた場合は、コイルの形状が変形する際の応力が大きすぎて、破断強度が大きくなり、適度な伸縮性を得ることが難しくなる。
【0040】
コイル状に捲縮した複合繊維において、コイル捲縮の平均ピッチは10〜80μmであり、より好ましくは15〜60μm、さらに好ましくは20〜40μmである。平均ピッチが大きい場合は、繊維1本あたりに発現できるコイル捲縮数が少なくなってしまい、十分な伸縮性能を発揮できなくなってしまう。逆に、平均ピッチが小さすぎる場合は、繊維の見かけ形状が棒状になってしまうため、繊維同士の交絡が十分に行われず、不織布の強度を確保することが困難となる。
【0041】
複合繊維においてコイル状の捲縮は連続的に発現している。複合繊維に発現している平均のコイル捲縮数は15〜50個/mmであり、より好ましくは18〜47個/mm、さらに好ましくは20〜45個/mmである。発現している捲縮の数が大きい場合、複合繊維の見かけ上の繊維長が小さくなってしまい、他の繊維との交絡が十分に行われず、ウェブ強度を確保することが困難となる。逆にコイル捲縮数が小さすぎる場合は、全体に発現しているコイル状の捲縮の数が少ないことになり、十分な伸縮性を発揮できなくなってしまう。
【0042】
不織布(繊維ウェブ)には、前記複合繊維に加えて、他の繊維(非複合繊維)が含まれていてもよい。非複合繊維としては、例えば、前述の非湿熱接着性樹脂又は湿熱接着性樹脂で構成された繊維の他、セルロース系繊維[例えば、天然繊維(木綿、羊毛、絹、麻など)、半合成繊維(トリアセテート繊維などのアセテート繊維など)、再生繊維(レーヨン、ポリノジック、キュプラ、リヨセル(例えば、登録商標名:「テンセル」など)など)など]などが挙げられる。非複合繊維の平均繊度及び平均繊維長は、複合繊維と同様である。これらの非複合繊維は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これら非複合繊維のうち、レーヨンなどの再生繊維、アセテートなどの半合成繊維、ポリプロピレンやポリエチレンなどのポリオレフィン系繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維などが好ましい。特に、混紡性などの点から、複合繊維と同種の繊維であってもよく、例えば、複合繊維がポリエステル系繊維である場合、非複合繊維もポリエステル系繊維であってもよい。
【0043】
複合繊維と非複合繊維との割合(質量比)は、複合繊維/非複合繊維=50/50〜100/0程度の範囲から選択でき、例えば、60/40〜100/0(例えば、60/40〜99.5/0.5)、好ましくは70/30〜100/0(例えば、70/30〜99.5/0.5)、さらに好ましくは80/20〜100/0(例えば、80/20〜99.5/0.5)程度である。非複合繊維を混綿することにより、不織布の強度と伸縮性又は柔軟性とのバランスを調整することができる。但し、複合繊維(潜在捲縮繊維)の割合が少なすぎると、捲縮発現後に複合繊維が伸縮する際、特に伸長後に収縮するときに非複合繊維がその収縮の抵抗となるために、不織布の形状回復が困難となる。
【0044】
不織布(繊維ウェブ)は、さらに、慣用の添加剤、例えば、安定剤(銅化合物などの熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤など)、抗菌剤、消臭剤、香料、着色剤(染顔料など)、充填剤、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、潤滑剤、結晶化速度遅延剤などを含有していてもよい。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの添加剤は、繊維表面に担持されていてもよく、繊維中に含まれていてもよい。
【0045】
(不織布の特性)
本発明の不織布は、不織布を構成する各繊維が実質的に融着することなく、主として複合繊維の捲縮が発現してコイル状に形状変化することにより、各繊維がお互いに絡み合って拘束又は掛止された構造を有している。その外部形状は、通常、板状又はシート状である。さらに、板状不織布の平面形状は、用途に応じて選択できるが、通常、テープ状又は帯状などの矩形シート状、円又は楕円形状などの他、用途に応じて、これらの形状を組み合わせた形状(例えば、矩形シート状又は楕円形状と帯状との組み合わせの形状)などである。
【0046】
本発明の不織布は、不織布を構成する殆ど(大部分)の繊維(コイル捲縮繊維の軸芯方向)が、不織布面(シート面)に対して略平行に配向されているのが望ましい。なお、本願明細書では、「面方向に対し略平行に配向している」とは、例えば、ニードルパンチによる交絡のように、局部的に多数の繊維(コイル捲縮繊維の軸芯方向)が厚さ方向に沿って配向している部分が繰り返し存在しない状態を意味する。
【0047】
本発明の不織布は、面方向(長さ方向)に配向し、かつコイル状に捲縮した複合繊維で構成されており、隣接又は交差する複合繊維は、コイル部で互いに交絡している。また、不織布の厚み方向(又は斜め方向)でも、軽度に複合繊維が交絡している。特に、本発明では、複合繊維ウェブにおいて、コイル状に収縮する過程で複合繊維が交絡し、交絡したコイル部により繊維が拘束されている。そのために、不織布は、厚み方向よりも、交絡するコイル部により面方向(長手方向)に大きく伸長する。さらに、面方向及び長手方向に配向しているため、長手方向に張力を付与すると、交絡したコイル部が伸長し、かつ元のコイル状に戻ろうとするため、面方向及び長手方向において高い伸縮性を有している。さらに、不織布の厚み方向においても、交絡したコイル部によって、厚み方向におけるクッション性及び柔軟性を発現している。
【0048】
また、コイル部は、圧着により容易に交絡するため自着性を有している。さらに、面方向及び長手方向に配向しているため、長手方向に張力を付与すると、交絡したコイル部が伸長し、ついには解けるため、切断も容易である。このように、本発明の不織布は、伸縮性、手切れ性、自着性をバランスよく備えている。
【0049】
一方、不織布を構成する繊維同士が実質的に融着することなく、厚み方向(シート面に対し垂直方向)に配向している繊維が多く存在すると、この繊維もコイル状の捲縮を形成することとなるため、繊維同士が極めて複雑に絡み合うこととなる。その結果、他の繊維を必要以上に拘束又は固定し、さらに繊維を構成するコイルの伸縮を阻害するため、不織布の伸縮性を低減させる。従って、できるだけ繊維をシート面に対して平行に配向させるのが望ましい。
【0050】
このように、本発明の不織布では、コイル状の繊維が面方向に略平行に配向されているため、不織布は面方向に伸縮性を有する。これに対して、厚み方向に伸ばした場合、繊維は容易に解けるため、面方向で見られるような伸縮性(縮み性)を発現しない。なお、このような繊維の配向は、繊維が密であり、配向を目視で観察するのが困難な場合でも、このような伸縮性の観察によって容易に繊維の配向性を確認できる。
【0051】
不織布の密度(嵩密度)は、例えば、0.01〜0.5g/cm3程度の範囲から選択でき、例えば、0.03〜0.3g/cm3、好ましくは0.05〜0.3g/cm3、さらに好ましくは0.06〜0.2g/cm3(特に0.07〜0.15g/cm3)程度である。
【0052】
本発明の不織布は、通気性をさらに向上させる点などから、面方向(又は長手方向)において、1以上の孔部を有していてもよい。複数の孔部を有する場合、孔部は、周期的又は規則的に配列又は配向されていてもよい。孔部が占める面積は、不織布表面の全面積に対して、例えば、50%以下(例えば、1〜50%)、好ましくは3〜40%、さらに好ましくは5〜30%程度である。孔部の面積が大きすぎると、不織布としての伸縮性及び強度を発現しない場合がある。
【0053】
加熱前の不織布(繊維ウェブ)の目付は、例えば、10〜200g/m2、好ましくは20〜100g/m2程度である。繊維ウェブの目付が小さすぎると十分な物性が得られず、一方、大きすぎると均一な捲縮が発現しない場合がある。
【0054】
本発明の不織布(加熱後の不織布)の目付は、例えば、10〜300g/m2程度の範囲から選択でき、好ましくは20〜250g/m2、さらに好ましくは30〜200g/m2程度である。不織布の厚みは、例えば、0.1〜10mm程度の範囲から選択でき、例えば、0.2〜5mm、好ましくは0.3〜3mm、さらに好ましくは0.4〜1.5mm程度である。目付や厚みがこの範囲にあると、不織布の伸縮性と柔軟性又は肌触りやクッション性とのバランスが良くなる。
【0055】
本発明の不織布は、面方向(例えば、帯状の場合、長さ方向及び幅方向の両方向)において、少なくとも一方向の破断強度が25N/50mm以下(例えば、0.1〜25N/50mm)、好ましくは20N/50mm以下(例えば、0.1〜20N/50mm)、さらに好ましくは15N/50mm以下(例えば、0.1〜15N/50mm)程度であり、かつ破断伸度が300%以上(例えば、300〜500%)、好ましくは350%以上(例えば、350〜500%)、さらに好ましくは400%以上(例えば、400〜500%)である。破断強度が大きくなると、頑丈な不織布となるが応力が大きすぎて、例えばマスクの耳掛け部に使用した場合、長時間装着したりすると皮膚に対する違和感や痛みを生じやすくなる。また、破断伸度が小さいと、例えば包帯として関節などに使用した場合に、関節の大きな動きに追従できず、不織布の一部が破れたりもしくは伸びきってしまって、もとの形状に回復することができなくなる。また、本発明の不織布は、引張ったときに低応力でありながら、大きな破断伸度を有しているため、抵抗感や肌の痛みなど感じることなく、関節などの大きな変形にも追従し、かつ優れた伸長後の回復率を有しており、繰り返し使用しても、使い始めの形状を保っているため伸縮性を損なうことなく使用できる。
【0056】
本発明の不織布は、少なくとも一方向において、100%伸長後における回復率(100%伸長回復率)が90%以上(例えば、90〜100%)であり、好ましくは95%以上(例えば、95〜100%)である。伸長回復率が大きいと、前述のように、例えば包帯として使用した場合に、使用箇所の形状に充分に追従できる。すなわち、伸長回復率が小さい場合には、使用箇所が複雑な形状をしていたり、使用中に動いたりした場合、不織布がその動きに追従できず、巻きつけた箇所の固定が弱くなるとともに、十分な伸縮性を発揮できなくなってしまう。
【0057】
また、伸長回復率がこの範囲にあると、伸長に対する追従性が向上し、例えば、使用箇所の形状に充分に追従すると共に、不織布による適度な固定及び締め付けが可能になる。特に、マスクや紙オムツなどの衛生材など、身体に直接触れて密着させて固定する必要がある用途において有用である。特に、紙オムツの伸縮部材では、このような高い伸長回復率を有していると、紙オムツをしっかりと身体に密着でき、尿の漏れを抑制できる。
【0058】
本発明の不織布は、繰り返し使用に対しての耐久性にも優れており、少なくとも一方向において、50%伸長を5回繰り返した後の長さの回復率が90%以上(例えば、90〜100%)であり、好ましくは95%以上(例えば、95〜100%)である。繰り返しの伸長回復率が大きいと、例えば包帯として使用した場合に、前述のように使用箇所の形状に充分に追従でき、包帯を外した後に再び使用する際にも、十分な伸縮性を確保している。すなわち、繰り返しの伸長回復率が小さいと、体の動きによって変形した箇所が元に戻らず、再び使用する際に十分な伸縮性を発揮できない。
【0059】
本発明の不織布は、表面に一部遊離する状態で形成されたコイル状繊維の数が多く存在することにより、これらの不織布が重ねられたとき、お互いの表面繊維同士が交絡することにより固定性が向上する。さらに、対象物(手や指などの身体など)に巻き付けた後に包帯を切断した場合、切断箇所におけるフリーな繊維(切断により露出され、又は端部が形成された遊離繊維)が、重ね合わせる相手方における不織布表面のコイル捲縮繊維に対し、より自由交絡することが可能となるため、特に優れた自着性が発現する。不織布表面に存在するコイル捲縮繊維の本数は、例えば、1cm2当たり7本以上、好ましくは8〜50本、さらに好ましくは9〜45本(特に10〜40本)程度である。
【0060】
本発明の不織布は、面方向と厚み方向との異方性だけでなく、通常、製造工程の流れ方向(MD)と幅方向(CD方向)との間で異方性を有している。すなわち、本発明の不織布は、製造の過程において、コイル状捲縮繊維の軸芯方向が面方向と略平行となるだけでなく、面方向と略平行に配向したコイル状捲縮繊維の軸芯方向は、流れ方向に対しても略平行となる傾向がある。帯状部材として使用する場合は、流れ方向を長さ方向に向けて用いることで、長さ方向に高い伸縮性を有する部材を得ることが可能となる。また、マスクの耳掛部材として使用する場合は、長時間使用しても耳に痛みや違和感が起こらないような応力となる方向を、耳掛部材を引張っる方向に選択して使用することが可能である。このような応力となる目安として、破断強力の範囲は10N/50mm以上25N/50mm以下が好ましい。さらに好ましくは15N/50mm以上20N/50mm以下である。この範囲となる方向であれば、耳掛部材を引張っる方向としてはMD方向でもCD方向でもよく、さらにはMD方向とCD方向の中間にあたる斜め方向でもよい。
【0061】
本発明の不織布は、撥水性を有しているのが好ましい。特に、包帯やサポーターなどの人体と接触する用途に使用した際、患部を覆っている部分に水が付着して患部まで浸透するのを防止できるからである。撥水性の発現は、後述する製造工程の中で、水や水蒸気に繊維が晒されることで、繊維に付着した親水性を有する物質が洗い流され、繊維の表面に樹脂本来の性質が発現することによる。具体的にこの撥水度は、JISL1092スプレー試験において3点以上(好ましくは3〜5点、さらに好ましくは4〜5点)を示すのが好ましい。
【0062】
さらには、この水や水蒸気による洗浄効果により、繊維付着している繊維油剤も洗い流されることにより、本発明の不織布の皮膚刺激性も低減される。
【0063】
不織布の通気度は、フラジール形法による通気度で0.1cm3/cm2・秒以上であり、例えば、1〜500cm3/cm2・秒、好ましくは5〜300cm3/cm2・秒、さらに好ましくは10〜200cm3/cm2・秒程度である。本発明の不織布は、通気度も高いため、マスクやオムツ、包帯などの人体に使用する用途に適している。
【0064】
(不織布の製造方法)
本発明の不織布の製造方法は、前記複合繊維を含む繊維をウェブ化する工程と、複合繊維ウェブを加熱してコイル捲縮する工程とを含む。
【0065】
まず、繊維をウェブ化する工程において、前記複合繊維を含む繊維をウェブ化する。ウェブの形成方法としては、慣用の方法、例えば、スパンボンド法、メルトブロー法などの直接法、メルトブロー繊維やステープル繊維などを用いたカード法、エアレイ法などの乾式法などを利用できる。これらの方法のうち、メルトブロー繊維やステープル繊維を用いたカード法、特にステープル繊維を用いたカード法が汎用される。ステープル繊維を用いて得られたウェブとしては、例えば、ランダムウェブ、セミランダムウェブ、パラレルウェブ、クロスラップウェブなどが挙げられる。
【0066】
次に、得られた繊維ウェブは、加熱して捲縮する工程に供することにより、複合繊維が、面方向に対して略平行に配向され、かつ特定の曲率半径で厚さ方向において略均一に捲縮された不織布が得られるが、本発明では、加熱して捲縮する工程において、得られた繊維ウェブの一部の繊維を適度に捲縮させて交絡させる点などから、予備的に絡合する工程を経るのが好ましい。このような絡合工程において、絡合方法は、機械的に交絡させる方法であってもがよいが、水の噴霧又は噴射(吹き付け)により交絡させる方法が好ましい。水流により繊維を絡合させることにより、加熱工程の捲縮による交絡の密度を高めることができるとともに、ウェブを湿潤状態とし、より均一に水蒸気をウェブ内部に伝搬できる。噴霧又は噴射させる水は、繊維ウェブの一方の面から吹き付けてもよく、両面から吹き付けてもよい。強い交絡を効率的に行う点からは、両面から吹き付けるのが好ましい。
【0067】
すなわち、この工程における水の噴出圧力は、繊維交絡が適度な範囲となるように、例えば、0.1MPa以上(例えば、0.1〜1.5MPa)、好ましくは0.3〜1.2MPa、さらに好ましくは0.4〜1.0MPa(特に0.5〜0.8MPa)程度である。なお、水の温度は、例えば、5〜80℃、好ましくは15〜65℃、例えば、30〜50℃程度である。
【0068】
水を噴霧する方法としては、繊維ウェブの繊維に均一に絡合できる方法であれば特に限定されないが、簡便性などの点から、規則的な噴霧域又は噴霧パターンを有するノズルなどを用いて、スプレーなどにより水を噴射する方法が好ましい。なお、水の噴射による繊維の飛散を抑制するために、予め少量の水で繊維ウェブを濡らしておいてもよい。
【0069】
具体的には、繊維ウェブ形成工程で得られた繊維ウェブは、ベルトコンベアにより次工程へ送られ、次いでコンベアベルト上に載置された状態で、水を吹き付けることができる。コンベアベルトは通水性であってもよく、繊維ウェブの裏側からも通水性のコンベアベルトを通過させて、水をウェブに吹き付けることにより、表面及び両面に水を吹き付けてもよい。
【0070】
水を吹き付けるためのノズルは、所定のオリフィスが幅方向に連続的に並んだプレートやダイスを用い、これを供給される繊維ウェブの幅方向にオリフィスが並ぶように配置すればよい。オリフィス列は一列以上あればよく、複数列が並行した配列であってもよい。また、一列のオリフィス列を有するノズルダイを複数台並列に設置してもよい。
【0071】
プレートにオリフィスを開けたタイプのノズルを使用する場合、プレートの厚みは、0.5〜1.0mm程度であってもよい。オリフィスの径やピッチに関しては、収縮性と機械的特性とを適度にとなるように繊維が交絡できる条件であれば特に制限はないが、オリフィスの直径は、通常、0.01〜2mm、好ましくは0.05〜1.5mm、さらに好ましくは0.1〜1.0mm程度である。オリフィスのピッチは、通常0.1〜2mm、好ましくは0.2〜1.5mm、さらに好ましくは0.3〜1mm程度である。オリフィスの径が小さすぎると、ノズルの加工精度が低くなり、加工が困難になるという設備的な問題点と、目詰まりを起こしやすくなるという運転上の問題点が生じ易い。また、流れる水量が低下するため、繊維ウェブの繊維を移動できない場合がある。逆に、大きすぎると、十分な水圧を得ることが困難となる。一方、ピッチが小さすぎると、ノズル孔が密になりすぎるため、ノズル自体の強度が低下する。また、必然的に孔径を小さくする必要が生じ、水量が確保できなくなる。一方、ピッチが大きすぎると、水流が繊維ウェブに充分に当たらないケースが生じるため、繊維の絡合が不充分となる。
【0072】
使用するベルトコンベアは、基本的には加工に用いる繊維ウェブの形態を乱すことなく運搬できれば特に限定はないが、エンドレスコンベアが好適に用いられる。尚、一般的な単独のベルトコンベアであってもよく、必要に応じてもう1台のベルトコンベアを組み合わせて、両ベルト間に繊維ウェブを挟むようにして運搬してもよい。特に、繊維ウェブの最終的な形態に固定する次の加熱工程においては、一組のベルトを用いて繊維ウェブを挟み込み、繊維ウェブの密度を調整してもよい。このように運搬することにより、繊維ウェブを処理する際に、絡合のための水、高温水蒸気、コンベアの振動などの外力により、運搬してきたウェブの形態が変形するのを抑制できる。一組のベルトを使用する場合、ベルト間の距離は、繊維ウェブの目付及び目的の密度により適宜選択すればよいが、例えば、1〜10mm、好ましくは1〜8mm、さらに好ましくは1〜5mm程度である。
【0073】
コンベアに用いるエンドレスベルトは、ウェブの運搬や高温水蒸気処理の妨げにならなければ、特に限定されないが、ネットであれば、概ね90メッシュより粗いネット(例えば、10〜80メッシュ程度のネット)が好ましい。これ以上のメッシュの細かなネットは、通気性が低く、絡合のための水や、次工程における水蒸気が通過し難くなる。ベルトの材質は、特に限定されないが、加熱工程に用いるベルトの材質は、水蒸気処理に対する耐熱性などの観点より、金属、耐熱処理したポリエステル系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリアリレート系樹脂(全芳香族系ポリエステル系樹脂)、芳香族ポリアミド系樹脂などの耐熱性樹脂などが好ましい。なお、コンベアに用いるベルトは、水流などによる予備的な絡合工程と、高温水蒸気による加熱工程とで同じであってもよいが、各々工程により調整が必要なため、通常、分離した別のコンベアが使用される。
【0074】
最後に、繊維が適度に絡合された繊維ウェブは、ベルトコンベアにより次工程へ送られ、高温水蒸気で加熱して捲縮される。高温水蒸気で処理する方法では、ベルトコンベアにより送られてきた繊維ウェブは、高温又は過熱水蒸気(高圧スチーム)流に晒され、複合繊維(潜在捲縮繊維)にコイル捲縮を発現させて、本発明の不織布が得られる。すなわち、本発明では、この捲縮発現により複合繊維がコイル状に形を変えながら移動し、繊維同士の3次元的交絡が発現する。特に、本発明における繊維ウェブは通気性を有しているため、たとえ一方向からの処理であっても、高温水蒸気が内部にまで浸透し、厚み方向において略均一な捲縮が発現し、均一に繊維同士が交絡する。
【0075】
具体的には、本発明では、水流で絡合処理された繊維ウェブは、ベルトコンベアで高温水蒸気処理に供せられるが、繊維ウェブは高温水蒸気処理と同時に収縮する。従って、供給する繊維ウェブは、高温水蒸気に晒される直前では、目的とする不織布の面積収縮率に応じてオーバーフィードされているのが望ましい。不織布の処理前の繊維ウェブに対しての面積収縮率は80%以上(例えば80〜95%)であることが好ましく、より好ましくは85%以上(例えば85〜95%)である。オーバーフィードの割合は、製品の幅との関係もあるが、目的の不織布の長さに対して、110〜300%、好ましくは120〜250%程度である。150〜400%、好ましくは200〜350%程度である。
【0076】
繊維ウェブに水蒸気を供給するためには、慣用の水蒸気噴射装置が用いられる。この水蒸気噴射装置としては、所望の圧力と量で、ウェブ全幅に亘り概ね均一に水蒸気を吹き付け可能な装置が好ましい。2台のベルトコンベアを組み合わせた場合、一方のコンベア内に水蒸気噴射装置が装着され、通水性のコンベアベルト、又はコンベアの上に載置されたコンベアネットを通してウェブに水蒸気を供給する。他方のコンベアには、サクションボックスを装着してもよい。サクションボックスによって、繊維ウェブを通過した過剰の水蒸気を吸引排出してもよいが、水蒸気を繊維ウェブに対して充分に接着させるとともに、この熱により発現する繊維捲縮をより効率的に発現させるためには、ウェブを出来る限りフリーな状態に保つことが必要であるため、サクションボックスによって吸引排出せずに水蒸気を供給するのが好ましい。また、繊維ウェブの表と裏を一度に水蒸気処理するために、さらに前記水蒸気噴射装置が装着されているコンベアとは反対側のコンベアにおいて、前記水蒸気噴射装置が装着されている部位よりも下流部のコンベア内に別の水蒸気噴射装置を設置してもよい。下流部の水蒸気噴射装置がない場合において、不織布の表と裏を水蒸気処理したい場合は、一度処理した繊維ウェブの表裏を反転させて再度処理装置内を通過させることで代用してもよい。
【0077】
水蒸気噴射装置から噴射される高温水蒸気は、気流であるため、水流絡合処理やニードルパンチ処理とは異なり、被処理体である繊維ウェブ中の繊維を大きく移動させることなく繊維ウェブ内部へ進入する。この繊維ウェブ中への水蒸気流の進入作用によって、水蒸気流が繊維ウェブ内に存在する各繊維の表面を効率的に覆い、均一な熱捲縮を可能にすると考えられる。また、乾熱処理に比べても、繊維ウェブ内部に対して充分に熱を伝導できるため、表面及び厚み方向における捲縮の程度が概ね均一になる。
【0078】
高温水蒸気を噴射するためのノズルも、前記水流絡合のノズルと同様に、所定のオリフィスが幅方向に連続的に並んだプレートやダイスを用い、これを供給される繊維ウェブの幅方向にオリフィスが並ぶように配置すればよい。オリフィス列は一列以上あればよく、複数列が並行した配列であってもよい。また、一列のオリフィス列を有するノズルダイを複数台並列に設置してもよい。
【0079】
プレートにオリフィスを開けたタイプのノズルを使用する場合、プレートの厚みは、0.5〜1.0mm程度であってもよい。オリフィスの径やピッチに関しては、目的とする捲縮発現と、この発現に伴う繊維交絡が効率よく実現できる条件であれば特に制限はないが、オリフィスの直径は、通常、0.05〜2mm、好ましくは0.1〜1mm、さらに好ましくは0.2〜0.5mm程度である。オリフィスのピッチは、通常0.5〜5mm、好ましくは1〜4mm、さらに好ましくは1〜3mm程度である。オリフィスの径が小さすぎると、目詰まりを起こしやすくなるという運転上の問題点が生じ易い。逆に、大きすぎると、十分な水蒸気噴射力を得ることが困難となる。一方、ピッチが小さすぎると、孔径も小さくなるため、高温水蒸気の量が低下する。一方、ピッチが大きすぎると、高温水蒸気が繊維ウェブに充分に当たらないケースが生じるため、強度の確保が困難となる。
【0080】
使用する高温水蒸気についても、目的とする繊維の捲縮発現とこれに伴う適度な繊維交絡が実現できれば特に限定はなく、使用する繊維の材質や形態により設定すればよいが、圧力は、例えば、0.1〜2MPa、好ましくは0.2〜1.5MPa、さらに好ましくは0.3〜1MPa程度である。水蒸気の圧力が高すぎたり、強すぎる場合には、ウェブを形成する繊維が必要以上に動いて地合の乱れを生じたり、繊維が必要以上に交絡する場合がある。また、極端な場合には繊維同士が融着してしまい、目的とする伸縮性の確保が困難となる。また、圧力が弱すぎる場合は、繊維の捲縮発現に必要な熱量を被処理物であるウェブに付与できなくなったり、水蒸気が繊維ウェブを貫通できず、厚み方向における繊維の捲縮の発現が不均一になり易い。また、ノズルからの水蒸気の均一噴出の制御も困難である。
【0081】
高温水蒸気の温度は、例えば、70〜150℃、好ましくは80〜120℃、さらに好ましくは90〜110℃程度である。高温水蒸気の処理速度は、例えば、200m/分以下、好ましくは0.1〜100m/分、さらに好ましくは1〜50m/分程度である。
【0082】
このようにして繊維ウェブ内の複合繊維の捲縮を発現させた後、不織布に水分が残留する場合があるので、必要に応じて不織布を乾燥してもよい。乾燥に関しては、乾燥用加熱体に接触した不織布表面の繊維が、乾燥の熱により接着して伸縮性を低下させないことが必要であり、伸縮性を維持できる限り、慣用の方法を利用できる。例えば、不織布の乾燥に使用されるシリンダー乾燥機やテンターのような大型の乾燥設備を使用してもよいが、残留している水分は微量であり、比較的軽度な乾燥手段により乾燥可能なレベルである場合が多いため、遠赤外線照射、マイクロ波照射、電子線照射などの非接触法や熱風を吹き付けたり、通過させる方法などが好ましい。
【0083】
得られた不織布は、その製造工程において水に濡らされ、高温水蒸気雰囲気下に曝露される。すなわち、本発明の不織布は、不織布自体がいわば洗濯と同様の処理を受けることになるため、紡糸油剤などの繊維への付着物が洗浄される。従って、本発明の不織布は、衛生的で、かつ高い撥水性を示す。
【0084】
このようにして得られた不織布は、通常、板状又はシート状である。シート状不織布は、そのまま伸縮材として利用してもよいが、通常、目的とする伸縮材の形状(例えば、マスクの耳掛部材の形状やマスクの全体形状など)に応じて、切断加工などによって、所望の形状に加工できる。なお、得られた板状又はシート状成形体は、慣用の熱成形、例えば、圧縮成形、圧空成形(押出圧空成形、熱板圧空成形、真空圧空成形など)、自由吹込成形、真空成形、折り曲げ加工、マッチドモールド成形、熱板成形、湿熱プレス成形などで加工してもよい。
【実施例】
【0085】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例における各物性値は、以下の方法により測定した。
【0086】
(1)ポリエチレンテレフタレート樹脂の固有粘度
フェノールとテトラクロロエタンとを等質量で混合した溶媒を用い、ポリエチレンテレフタレート試料を1g/0.1Lの濃度で溶解した溶液について、粘度計を用いて30℃における溶媒及び溶液の流下時間を測定し、下記(式1)から固有粘度[η]を算出した。
式1

【0087】
(2)機械捲縮数
JISL1015「化学繊維ステープル試験方法」(8.12.1)に準じて評価した。
【0088】
(3)平均コイル捲縮数、
不織布から複合繊維を、コイル捲縮を引き伸ばさないよう注意しながら抜き取り、機械
捲縮数の測定と同様に、JISL1015「化学繊維ステープル試験方法」(8.12.1)に準じて評価した。なお、本測定はコイル状の捲縮が発現している繊維のみ測定を行った。
【0089】
(4)平均捲縮ピッチ
平均コイル捲縮数の測定時に、連続して隣り合うコイル間の距離を測定し、n数=100の平均値として示した。
【0090】
(5)平均曲率半径
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、不織布断面を100倍に拡大した写真を撮影した。撮影した不織布断面写真に写っている繊維の中で、1周以上の螺旋(コイル)を形成している繊維について、その螺旋に沿って円を描いたときの円の半径(コイル軸方向から捲縮繊維を観察したときの円の半径)を求め、これを曲率半径とした。なお、繊維が楕円状に螺旋を描いている場合は、楕円の長径と短径との和の1/2を曲率半径とした。ただし、捲縮繊維が充分なコイル捲縮を発現していない場合や、繊維の螺旋形状が斜めから観察されることにより楕円として写っている場合を排除するために、楕円の長径と短径との比が0.8〜1.2の範囲に入る楕円だけを測定対象とした。なお、測定は、任意の断面について撮影したSEM画像について測定し、n数=100の平均値として示した。
【0091】
(6)目付
JISL1913「一般短繊維不織布試験方法」に準じて測定した。
【0092】
(7)厚さ及び密度
JISL1913「一般短繊維不織布試験方法」に準じて厚さを測定し、この値と(6)の方法で測定した目付とから密度を算出した。
【0093】
(8)破断強度及び破断伸度
JISL1913「一般短繊維不織布試験方法」に準じて測定した。なお、破断強度及び破断伸度は不織布の流れ(MD)方向及び幅(CD)方向について測定した。
【0094】
(9)伸長時応力、伸長回復率、繰り返し伸長回復率
JISL1096「一般織物試験方法」に準拠して測定した。ただし、本発明における評価では、伸度50%または100%での応力および回復率とし、繰り返し伸長回復率測定時は、伸度50%とし繰り返し回数を5回とした。また、伸長後待ち時間無しに次の動作に入った。なお、測定は、不織布の流れ(MD)方向および幅(CD)方向について行った。
【0095】
(10)25%回復応力、25%回復/伸長応力比
JISL1096「一般織物試験方法」に準拠して、伸度50%まで不織布を伸長後、直ぐに同じ速度で(同じ速度で負荷を取り除いて)元に戻した。この伸長回復試験における最初の伸長過程において、25%伸長したときの伸長応力を伸び応力(X)とし、50%伸長後の戻り過程において25%伸度まで戻ったときの戻り応力を回復応力(Y)とした。測定結果よりY/Xを算出した。なお、測定は、不織布の流れ(MD)方向および幅(CD)方向について行った。
【0096】
(11)複合繊維の繊維湾曲率及びその均一性
不織布の断面における電子顕微鏡写真(倍率×100倍)を撮影し、撮影された繊維の映し出された部分において、厚さ方向において、表層、内層、裏層の3つの領域に三等分し、各層の中心付近において、長さ方向2mm以上で、かつ測定可能な複合繊維が500本以上含むように測定領域を設定した。これらの領域について、その複合繊維の一方の端部ともう一方の端部との端部間距離(最短距離)を測定し、さらにその複合繊維の繊維長(写真上の繊維長)を測定した。すなわち、複合繊維の端部が不織布表面に露出している場合は、その端部をそのまま端部間距離を測定するための端部とし、端部が不織布内部に埋没している場合は、不織布内部に埋没する境界部分(写真上の端部)を端部間距離を測定するための端部とした。このとき、撮影された複合繊維のうち、100μm以上に亘って連続していることが確認できない繊維像に関しては測定の対象外とした。そして、端部間距離(L1)に対するその複合繊維の繊維長(L2)の比(L2/L1)から、繊維湾曲率を算出した。なお、繊維湾曲率の測定は、厚さ方向に三等分した表層、内層、裏層ごとに平均値を算出した。さらに、各層の最大値と最小値の割合から繊維湾曲率の厚み方向における均一性を算出した。
【0097】
図1に、撮影された複合繊維の測定方法についての模式図を示す。図1(a)は、一方の端部が表面に露出し、他方の端部が不織布内部に埋没した複合繊維を示し、この複合繊維の場合、端部間距離L1は、複合繊維の端部から不織布内部に埋没する境界部分までの距離になる。一方、繊維長L2は、複合繊維の観察できる部分(複合繊維の端部から不織布内部に埋没するまでの部分)の繊維を写真上で二次元的に引き延ばした長さになる。
【0098】
図1(b)は、両端部が不織布内部に埋没した複合繊維を示し、この複合繊維の場合、端部間距離L1は、不織布表面に露出した部分における両端部(写真上の両端部)の距離になる。一方、繊維長L2は、不織布表面に露出している部分の複合繊維を写真上で二次元的に引き延ばした長さになる。
【0099】
(12)通気度
JISL1096に準じ、フラジール形法にて測定した。
【0100】
(13)不織布表面のループ(又はコイル)状繊維の割合
不織布の表面における電子顕微鏡写真(倍率×100倍)を撮影し、撮影された繊維表面の1cm2当たりにおいて、不織布表面に形成された繊維ループ(ループ状に1周以上旋回した繊維)又はコイル形状の繊維の本数を数えた。すなわち、明らかな単繊維で連続したループを形成している繊維のみをループ状繊維として計測した。このような計測を任意の5箇所において行い、その平均を求め、小数点以下を四捨五入してループ状繊維の割合とした。
【0101】
実施例1
潜在捲縮性繊維として、固有粘度0.65のポリエチレンテレフタレート樹脂(A成分)と、イソフタル酸20モル%及びジエチレングリコール5モル%を共重合した変性ポリエチレンテレフタレート樹脂(B成分)とで構成されたサイドバイサイド型複合ステープル繊維((株)クラレ製、「PN−780」、1.7dtex×51mm長、機械捲縮数12個/25mm)を準備した。上記サイドバイサイド型複合ステープル繊維を100質量%用いて、カード法により目付25.7g/m2のカードウェブとした。
【0102】
このカードウェブをコンベアネット上で移動させ、径2mmφ、2mmピッチで千鳥状に孔(円形状)のあいた多孔板ドラムとの間を通過させ、この多孔板ドラムの内部からウェブ及びコンベアネットに向かって、0.8MPaでスプレー状に水流を噴出して、繊維同士が実質的な交絡を生じず、繊維がわずかに動く程度に濡らした。
【0103】
このカードウェブを、30メッシュ、幅500mmの樹脂製エンドレスベルトを装備したベルトコンベアに移送した。このとき、次の水蒸気処理工程での収縮を阻害しないように、ウェブを面積収縮率が85%程度になるようにオーバーフィードさせた。尚、このベルトコンベアのベルトの上部には同じベルトが装備されており、それぞれが同じ速度で同方向に回転し、これら両ベルトの間隔を任意に調整可能なベルトコンベアを使用した。
【0104】
次いで、ベルトコンベアに備えられた水蒸気噴射装置へカードウェブを導入し、この水蒸気噴射装置から0.4MPaの水蒸気をカードウェブに対し垂直に噴出して水蒸気処理を施して、潜在捲縮繊維のコイル状捲縮を発現させるとともに、繊維を交絡させ不織布を得た。この水蒸気噴射装置は、一方のコンベア内に、コンベアベルトを介して水蒸気をウェブに向かって吹き付けるようにノズルが設置され、もう一方のコンベアにサクション装置が設置されていた。しかし、このサクションは稼働させなかった。なお、水蒸気噴射ノズルの孔径は0.3mmであり、このノズルがコンベア幅方向に沿って2mmピッチで1列に並べられた装置を使用した。加工速度は10m/分であり、ノズルとサクション側のコンベアベルトとの距離は10mmとした。
【0105】
得られた不織布は、目付が165.9g/m2であり、この不織布は、ゴム成分を含有していないにも拘わらず、MD方向及びCD方向のいずれにもよく伸縮し、軽く手で伸ばした後、応力を解除するとすぐに元の形に戻った。得られた不織布の評価結果を表1に示す。
【0106】
得られた不織布は、マスクなどの衛生材に好適な伸縮性を有していた。また、高伸度で繰り返し耐久性にも優れており、包帯やサポーターなどにも好適な伸縮性を有していた。
【0107】
実施例2
実施例1で用いたカードウェブを、実施例1と同様に多孔板ドラムとネットとの間を通過させ水流で濡らし、次いで、加工速度は5m/分で水蒸気噴射装置から0.5MPaの水蒸気をカードウェブに対し垂直に噴出して水蒸気処理を施したこと以外は実施例1と同じ方法で不織布を得た。得られた不織布は、目付が186.3g/m2であり、この不織布も、MD及びCD方向によく伸縮し、破断しない程度に手で伸ばした後、応力を解除するとすぐに元の形に戻った。結果を表1に示す。得られた不織布は、マスクなどの衛生材に好適な伸縮性を有していた。また、高伸度で繰り返し耐久性にも優れており、包帯やサポーターなどにも好適な伸縮性を有していた。
【0108】
実施例3
実施例1で用いたカードウェブを、実施例1と同様に多孔板ドラムとネットとの間を通過させ水流で濡らし、次いで、加工速度は15m/分で水蒸気噴射装置から0.3MPa水蒸気をカードウェブに対し垂直に噴出して水蒸気処理を施したこと以外は実施例1と同じ方法で不織布を得た。得られた不織布は、目付が150.4g/m2であり、この不織布も、MD及びCD方向によく伸縮し、破断しない程度に手で伸ばした後、応力を解除するとすぐに元の形に戻った。結果を表1に示す。得られた不織布は、マスクなどの衛生材に好適な伸縮性を有していた。また、高伸度で繰り返し耐久性にも優れており、包帯やサポーターなどにも好適な伸縮性を有していた。
【0109】
実施例4
実施例1で用いたサイドバイサイド型複合ステープル繊維60質量%と、ポリエチレンテレフタレート繊維(1.6dtex×51mm長、機械捲縮数15個/25mm)40質量%とを混綿し、カード法により目付27.3g/m2のカードウェブとした。実施例1と同様に多孔板ドラムとネットとの間を通過させ水流で濡らし、実施例1と同じ方法でカードウェブに対して水蒸気処理を施し、不織布を得た。得られた不織布は、目付が148.1g/m2であり、この不織布も、MD及びCD方向によく伸縮し、破断しない程度に手で伸ばした後、応力を解除するとすぐに元の形に戻った。結果を表1に示す。得られた不織布は、肌触りもよく、マスクなどの衛生材に好適な伸縮性を有していた。また、高伸度で繰り返し耐久性にも優れており、包帯やサポーターなどにも好適な伸縮性を有していた。
【0110】
比較例1
実施例1で用いたカードウェブを、実施例1と同様に多孔板ドラムとネットとの間を通過させ水流で濡らし、次いで水蒸気処理を施した。面積収縮率が70%程度となるようにオーバーフィードさせ、ノズルとサクション側のコンベアベルトとの距離は20mmで水蒸気処理を施したこと以外は実施例1と同じ方法で不織布を得た。得られた不織布は、目付が90.5g/m2であった。この不織布は、MD及びCD方向によく伸縮したが、大きく変形させると破断してしまった。結果を表1に示す。
【0111】
得られた不織布について測定した結果、比較例1で得られた不織布は複合繊維の発現したコイル捲縮の平均曲率半径が大きくピッチも大きく、捲縮数が小さかった。したがって、適度な伸長応力や回復率を有していたが、破断伸度が低く、繰り返し耐久性も不十分であった。
【0112】
比較例2
実施例1で用いたカードウェブを、実施例1と同様に多孔板ドラムとネットとの間を通過させ水流で濡らし、次いで水蒸気噴射装置から0.2MPaの水蒸気を噴出して水蒸気処理を施したこと以外は実施例1と同じ方法で不織布を得た。得られた不織布は、目付が138.2g/m2であった。この不織布は、MD及びCD方向によく伸縮したが、引張った際の応力が大きかった。結果を表1に示す。
【0113】
比較例2で得られた不織布は、破断強力や伸張時応力が大きいため、マスクやオムツなどの衛生材などにおいて、長時間装着すると皮膚に対する違和感や痛みが生じた。特に、マスクの耳掛け部材に使用した場合、耳の付け根に強い痛みや違和感を生じた。
【0114】
比較例3
実施例1で用いたサイドバイサイド型複合ステープル繊維30質量%と、ポリエチレンテレフタレート繊維(1.6dtex×51mm長、機械捲縮数15個/25mm)70質量%とを混綿し、カード法により目付27.3g/m2のカードウェブとした。実施例1と同様に多孔板ドラムとネットとの間を通過させ水流で濡らし、面積収縮率が50%程度になるようにオーバーフィードさせたこと以外は実施例1と同じ方法で不織布を得た。得られた不織布は、目付が55.6g/m2であった。この不織布は、MD及びCD方向の伸縮性が明らかに悪く、破断しない程度に手で伸ばした後、応力を解除しても元の形に戻ることはなかった。結果を表1に示す。得られた不織布は、衛生材などには伸縮性が不十分であった。
【0115】
比較例4
実施例1で用いたカードウェブを、130℃の熱風乾燥機内で熱処理し、捲縮発現させることで不織布を得たが、得られた不織布は、ある程度の伸縮性を有するものの、明らかに戻り応力が低かった。
【0116】
比較例4で得られた不織布は、複合繊維のコイル捲縮の発現が厚さ方向において均一ではなく、伸縮性も不十分であった。破断強度および伸長応力も大きく、伸長回復率も低かった。
【0117】
【表1】

表1の結果から明らかなように、実施例の不織布は、適度な伸縮性を有しており、破断伸度が高く、繰り返し耐久性も良好であり、衛生材などの身体と接触する用途や包帯やサポーターなどのテープ類に適している。これに対して、比較例1および3の不織布は、破断伸度が低く、繰り返し耐久性が不十分であった。比較例2の不織布は破断強度および伸長応力が高く、長時間装着する用途などにおいては、皮膚に対する違和感や痛みを生じやすい。また、比較例4の不織布については、破断強度および伸長応力が高く、伸縮性や繰り返し耐久性も充分でない。
【産業上の利用可能性】
【0118】
このように本発明の不織布は、高伸度で伸縮性に優れており、柔軟で適度なクッション性や、肌触りも優れている。さらに、粘着成分などを用いることなく、皮膚刺激性も少なく、通気性にも優れているため、衛生材などの身体と接触する用途に適している。また、繰り返し伸縮しても、伸縮性の低下が抑制され、耐久性に優れているため、医療やスポーツ分野で使用される包帯やサポーターなどのテープ類や腰痛防止ベルト、体型補正具等に適している。
【0119】
より詳細には、サポータ(体型補正、スポーツ用サポータ、筋力トレーニング用ベルト、ハイストレッチ中綿等)、包帯(外反母趾矯正バンド、圧迫ストッキング、医療用サポータ)、衣類伸縮部材(スポーツブラ、オムツ部材、失禁パンツ)、クリンプによる吸着性部材(キャップ、フィルター、手袋、ハンドルグリップテープ、応急修理用テープ、一体成形型簡易マスク)、吸着性伸縮性の必要な仮止め部材(手錠、足かせ、袖口、ズボン裾綴じシート、顔のリフトアップバンド、仮止めテープ)、或いは、緩衝材(養生シート、果物の個包装シート、カーペットバッキング材、高級酒の包装材、ヘッドレストカバー、枕カバー、新幹線の外周ホロ)等挙げることができる。
【0120】
例えば、本発明の不織布は、紙おむつ等に用いたときに伸縮性を必要とする各部に使用することができ、ウエスト部や太ももの付け根部、あるいは通常のパンツタイプの形状の場合は、パンツ全体を本発明の不織布で作成することもできる。
【0121】
さらには、本発明の不織布とゴム等の弾性糸あるいは伸縮フィルムを複合して用いる事により、ゴム等の弾性糸や伸縮フィルムを単独で用いていた場合に発生していた、過度な締め付け感や、低通気特性による蒸れ感等の着用時の問題も解決され、より適用範囲の広い使用方法が提案可能である。
【0122】
本発明の不織布は内部にクリンプ構造の繊維が存在するため、単体であるいは前記弾性糸や弾性フィルムと複合化させて各種緩衝材として使用することも可能であり、クリンプ構造により発生する自己接着性の特徴を利用して、各種仮止め固定シートとしても好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱収縮率の異なる複数の樹脂が相構造を形成した複合繊維を含む不織布であって、前記複合繊維が、面方向に対して略平行に配向され、かつ平均曲率半径10〜50μmで厚さ方向において略均一に捲縮しており、前記複合繊維に発現しているコイル捲縮数の平均が15〜50個/mmであり、連続して隣り合うコイル捲縮のピッチの平均が10〜80μmである不織布。
【請求項2】
複合繊維を構成する樹脂の軟化点又は融点が100℃以上であり、かつ複合繊維の表面に露出する樹脂が、非湿熱接着性樹脂である請求項1に記載の不織布。
【請求項3】
複合繊維が、ポリアルキレンアリレート系樹脂と変性ポリアルキレンアリレート系樹脂とで構成され、かつ並列型又は偏芯芯鞘型構造である請求項1または2のいずれかに記載の不織布。
【請求項4】
複合繊維の割合が50質量%以上である請求項1〜3のいずれかに記載の不織布。
【請求項5】
面方向における少なくとも一方向の破断強度および破断伸度が、それぞれ25N/50mm以下、300%以上であり、かつ該方向の100%伸長時の応力が10N/50mm以下、100%伸長後の回復率が90%以上である請求項1〜4のいずれかに記載の不織布。
【請求項6】
衛生材用不織布である請求項1〜5のいずれかに記載の不織布。
【請求項7】
衛生材用不織布がマスク用耳掛部材又は紙オムツ部材用不織布である請求項6に記載の不織布。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載の不織布を備えている衛生材。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれかに記載の不織布を備えている包帯。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれかに記載の不織布を備えているサポーター。
【請求項11】
請求項1〜5のいずれかに記載の不織布を備えている腰痛防止ベルト。
【請求項12】
請求項1〜5のいずれかに記載の不織布を備えている体型補正具。
【請求項13】
請求項1〜5のいずれかに記載の不織布を備えているオムツ。
【請求項14】
熱収縮率の異なる複数の樹脂が相構造を形成した複合繊維を含む繊維をウェブ化する工程と、繊維ウェブを高温水蒸気で加熱してコイル捲縮する工程とを含み、前記加熱してコイル捲縮する工程で得られる不織布の処理前の繊維ウェブに対しての面積収縮率が80%以上である請求項1〜5のいずれかに記載の不織布の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−12758(P2012−12758A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123005(P2011−123005)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(307046545)クラレクラフレックス株式会社 (50)
【Fターム(参考)】