説明

高倍率浮遊細胞固定インジェクター装置

【課題】インジェクター装置、特に浮遊性細胞に対しDNA等の成分を顕微観察下に注入する高倍率浮遊細胞固定インジェクター装置を提供する。
【解決手段】底面が透明材質で形成された細胞捕捉容器、該容器底面26の上方に、底面26に対し平行に配置された細胞捕捉用透明メッシュ28と、前記容器底面26と透明メッシュ28の間に配置された吸引パイプ30と、を備え、前記メッシュ28上方より注入された浮遊細胞含有溶媒を吸引パイプ30により吸引することで、該メッシュ28上に浮遊細胞を捕捉させ、容器底面26より顕微観察しつつ、容器上方よりインジェクターニードルを捕捉細胞に対し差し入れ、所望成分を注入する高倍率浮遊細胞固定インジェクター装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインジェクター装置、特に浮遊性細胞に対しDNA等の成分を顕微観察下に注入する高倍率浮遊細胞固定インジェクター装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、細胞内に各種成分、たとえば特定のDNAあるいはRNAを注入し、その作用を調べたり、あるいは変異細胞を作成するため、細胞へのインジェクション装置が開発されている。これらは通常、顕微観察下、マニピュレーターを操作し作業を行うが、付着細胞、あるいは組織細胞など、固定された細胞に対してであれば比較的容易にインジェクション可能である。
【0003】
しかしながら、溶媒中に浮遊している、いわゆる浮遊細胞に対して所望成分をインジェクションするには、極めて高度な技術が要求される。
そこで、従来においても浮遊細胞を捕捉し、所望の成分を細胞中に導入するインジェクター装置が開発されている(特許文献1,特許文献2等)。
これらの装置では、CCDカメラ等により細胞位置を確認しているが、奥行きの特定がしにくく、しかも小型の細胞を高倍率で観察しようとすると、対物レンズを細胞に近づけなければならないが、細胞分散液に対物レンズを接触させるわけにはいかず、個々の細胞を確認しつつ所望成分を浮遊細胞内に導入するのはきわめて困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−344036
【特許文献2】特開2006−34174
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記従来技術に鑑みなされたれものであり、その解決すべき課題は簡易な操作で浮遊細胞に対し所望成分を注入することのできる高倍率浮遊細胞固定インジェクター装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために本発明は、浮遊細胞中に所望成分を注入するインジェクター装置であって、
底面が透明材質で形成された細胞捕捉容器と、
該容器底面の上方に、底面に対し平行に配置された細胞捕捉用透明メッシュと、
前記容器底面と透明メッシュの間に配置された吸引パイプと、
を備え、前記メッシュ上方より注入された浮遊細胞含有溶媒を吸引パイプにより吸引することで、該メッシュ上に浮遊細胞を捕捉させ、容器底面より顕微観察しつつ、容器上方よりインジェクターニードルを捕捉細胞に対し差し入れ、所望成分を注入することを特徴とする。
【0007】
また、前記装置において、インジェクターニードルはニードルホルダーに保持されており、該ニードルホルダーは、相互に螺合固定可能な基部と先端部を有し、該基部と先端部の間には、ニードルが挿通される穴をそれぞれ有した第一弾性体、ブッシュ、第二弾性体が直列に配置され、前記基部と先端部の螺合により第一弾性体、第二弾性体が圧縮され第一弾性体、第二弾性体のニードル挿通穴が緊縮しニードルを固定保持することが好適である。
また、前記装置において、インジェクターニードルには送液装置が接続され、該送液装置は、
溶媒を送出する送出シリンダーと、
該送出シリンダーに対して螺合し、回転によりシリンダーに対する相対位置を変更可能な外筒と、
前記外筒に対して固定、取り外し可能であり、送出シリンダー内を往復動可能な送出ピストンと、
を備え、送出ピストンをシリンダー外筒に対して固定し、該外筒をシリンダーに対して回転させることで微量・高圧送液が可能であり、ピストンを外筒よりはずすことで、送出シリンダーに対する挿入位置変更を直接操作可能とすることが好適である。
【発明の効果】
【0008】
以上説明したように本発明にかかる高倍率浮遊細胞固定インジェクター装置は、浮遊細胞を透明メッシュ上に捕捉し、容器底面より捕捉細胞を顕微観察しつつ所望成分の注入を行うので、対物レンズを容器底面に近接させ高倍率で観察しつつ導入操作を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は本発明の一実施形態にかかる高倍率浮遊細胞固定インジェクター装置の概略構成の説明図である。
【図2】図2は図1に示した装置の細胞捕捉容器の詳細説明図である。
【図3】図3は図2に示した容器の作用の説明図である。
【図4】図4はニードルホルダーの詳細説明図である。
【図5】図5は送液装置の詳細説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面に基づき本発明の好適な実施形態について説明する。
図1には本発明にかかる高倍率浮遊細胞固定インジェクター装置10が示されており、倒立顕微鏡のステージ12に細胞捕捉容器14が設置されている。同図に示す容器14は、底面が透明材質で形成されており、その底面より倒立顕微鏡により高倍率観察が可能である。
【0011】
図中、容器14右手よりインジェクターニードル16先端が、容器14内に挿入されている。本実施形態において、ニードル16は加熱ガラス管を引き伸ばして作成した内径0.3μ以下の極細ガラス管であり、その根元部分はニードルホルダー18により保持されている。ニードルホルダー18の後段には握持ポール20、可撓性パイプ22を介して送液装置24が接続される。なお、図示を省略したマニピュレーターで前記握持ポール20を握持し、微細な操作を可能としている。
そして、前記容器14内に注入された浮遊細胞を捕捉し、ニードル16先端より所望の成分を細胞内に注入するのである。
【0012】
図2には本発明において特徴的な細胞捕捉容器14の詳細構造が示されている。
同図に示す容器14は、前述したように底面26が透明材質で形成されており、該容器底面26の上方に、底面に対し平行に配置された細胞捕捉用透明メッシュ28と、前記容器底面26と透明メッシュ28の間に配置された吸引パイプ30および供給パイプ32と、を備える。
すなわち、本実施形態においては、容器14はスライドガラス34中央に設けられた円形開口36と、該スライドガラス開口36底面に貼付されたカバーガラス38により構成される。そして、スライドガラス36底面には、前記吸引パイプ30および供給パイプ32を通す溝が設けられており、カバーガラス38により面一にカバーされる。さらに、容器14内には同じくパイプ導入溝を備えたリング状のメッシュ載置台40が配置され、該載置台40上にメッシュ28が載置される。なお、メッシュ28上にはリング状のメッシュ押さえ42が必要に応じ配置される。
【0013】
図3には細胞捕捉容器14による細胞捕捉作用が示されている。
同図に示すように、容器14へ上方より浮遊細胞含有溶液が注入される。この際、吸引パイプ30よりゆっくりと溶液を吸引することにより、溶液には下降流が生じ、浮遊細胞44はメッシュ28に捕捉される。この捕捉された細胞44へ、容器14下方より顕微観察(対物レンズ46)しつつ、ニードル16を挿入し、所望の成分を細胞内に注入するのである。
この際、カバーガラス38はもとより、メッシュ28も透明であり、かつ細胞含有溶液と略同一の屈折率のものを採用することにより、捕捉細胞を明確に目視可能である。また、必要に応じ、カバーガラス38と対物レンズ46の間は、液浸等の操作を行うことができる。
【0014】
図4は前記ニードルホルダー18の断面図を示している。
同図に示すように、本実施形態にかかるニードルホルダー18は、前記ニードル16と握持ポール20を連結するものであり、オネジ形成された基部50と、メネジ形成された先端部52を有する。そして、基部50後端面には、送液装置24より供給される液をニードル16に供給するための握持ポール20を接続する接続孔54が設けられ、接続孔54を介してニードル16後端部に連結される。また、基部50先端側には凹部56が形成され、該凹部56内にニードル16が挿通される穴をそれぞれ有した第一弾性体58、第一ブッシュ60、第二ブッシュ62、第二弾性体64を直列に配置する。これらの直列体の全長は、凹部56の深さよりも若干長く形成され、基部50と先端部52を螺合する(図4(B))ことにより、第一弾性体58および第二弾性体64が圧縮され、各弾性体58,64が、その挿通穴内のニードル16をしっかりと緊縮保持する。
このように、本実施形態にかかるニードルホルダー18によれば、簡易な構成で、ニードル16を2か所で安定に保持することが可能となり、ニードル16先端部がきわめて細いことにより送液圧が高圧になっても、ニードル16の飛び出しを防止することができる。
【0015】
また、図5は本実施形態にかかる送液装置24が開示されている。
同図に示すように、送液装置24は、溶媒を貯留する貯留シリンダー70と、溶媒を送出する送出シリンダー72を備える。送出シリンダー72には、その外周に外筒74が螺合されており、送出シリンダー72内に配置される送出ピストン76を、シリンダー外筒78に対して固定することにより、外筒74をシリンダー76に対して回転させることで微量送液が可能となる。また、送出ピストン76をシリンダー外筒74より取り外すことで、ピストン76を直接進退させて高速駆動が可能となる。このように、たとえば送出シリンダー72内の空気を抜くときなどには、送出ピストン76を外筒74より取り外し、直接的に往復駆動させることで迅速な操作が可能となり、ニードル16に液を送るときなどには送出ピストン76を外筒74に固定し、外筒74を回転させることで高圧下でも微量かつ正確な送液が可能となる。
【0016】
なお、前記貯留シリンダー70は注射器状にピストン78が挿入されており、該ピストン78を進退させることにより送出シリンダー72への給液が可能である。
また、貯留シリンダー70と送出シリンダー72の間にはコック80及び圧力調整弁82が設けられ、コック80は送出シリンダー72へ液を供給する際に、送出シリンダー72と貯留シリンダー70との連結を行う。また、圧力調整弁82の制御により送出シリンダー72からの送液圧力を調整することができる。

【符号の説明】
【0017】
10 インジェクター装置
14 細胞捕捉容器
16 インジェクターニードル
18 ニードルホルダー
24 送液装置
26 容器底面
28 細胞捕捉用メッシュ
30 吸引パイプ
44 浮遊細胞
50 ニードルホルダー基部
52 ニードルホルダー先端部
58,64 ニードル保持弾性体
60,62 ブッシュ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮遊細胞中に所望成分を注入するインジェクター装置であって、
底面が透明材質で形成された細胞捕捉容器と、
該容器底面の上方に、底面に対し平行に配置された細胞捕捉用透明メッシュと、
前記容器底面と透明メッシュの間に配置された吸引パイプと、
を備え、前記メッシュ上方より注入された浮遊細胞含有溶媒を吸引パイプにより吸引することで、該メッシュ上に浮遊細胞を捕捉させ、容器底面より顕微観察しつつ、容器上方よりインジェクターニードルを捕捉細胞に対し差し入れ、所望成分を注入することを特徴とする高倍率浮遊細胞固定インジェクター装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、インジェクターニードルはニードルホルダーに保持されており、該ニードルホルダーは、相互に螺合固定可能な基部と先端部を有し、該基部と先端部の間には、ニードルが挿通される穴をそれぞれ有した第一弾性体、ブッシュ、第二弾性体が直列に配置され、前記基部と先端部の螺合により第一弾性体、第二弾性体が圧縮され第一弾性体、第二弾性体のニードル挿通穴が緊縮しニードルを固定保持することを特徴とする高倍率浮遊細胞固定インジェクター装置。
【請求項3】
請求項2に記載の装置において、インジェクターニードルには送液装置が接続され、該送液装置は
溶媒を送出する送出シリンダーと、
該送出シリンダーに対して螺合し、回転によりシリンダーに対する相対位置を変更可能な外筒と、
前記外筒に対して固定、取り外し可能であり、送出シリンダー内を往復動可能な送出ピストンと、
を備え、送出ピストンをシリンダー外筒に対して固定し、該外筒をシリンダーに対して回転させることで微量・高圧送液が可能であり、ピストンを外筒よりはずすことで、送出シリンダーに対する挿入位置変更を直接操作可能とすることを特徴とする高倍率浮遊細胞固定インジェクター装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−227076(P2010−227076A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81461(P2009−81461)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(302051083)エレコン科学株式会社 (6)
【Fターム(参考)】