説明

高分子アクチュエータ素子およびその駆動方法

【課題】常温常圧の開放系(大気中)であっても長期間駆動することができる耐久性に優れ、弾性率及び屈曲量または変位量が非常に大きい高分子アクチュエータ素子を提供する。さらには、前記高分子アクチュエータ素子の駆動方法を提供する。
【解決手段】金属電極と、高分子電解質を含む電解質とを含む高分子アクチュエータ素子であって、前記金属電極が対を形成することができるように形成され、前記金属電極が前記電解質と接し、かつ、前記金属電極が前記高分子電解質の表面及び/又は内部に形成されたものであり、前記電解質中に、金コロイド、及び、常温常圧下で液状の分子中に少なくとも1つ以上のヒドロキシル基を有する分子量が400以下の低分子量有機化合物を含有し、前記金コロイドの平均粒子径が、10〜100nmで表面プラズモン吸収を示し、前記電解質が、前記低分子量有機化合物により膨潤した状態であることを特徴とする高分子アクチュエータ素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子アクチュエータ素子およびその駆動方法に関する。より詳細には、本発明は、イオン交換樹脂を含む電解質と接するように形成された対の金属電極に電圧を印加することにより変位ないし変形させることによりアクチュエータ素子として機能する高分子アクチュエータ素子およびその駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の高分子アクチュエータ素子としては、イオン交換樹脂成形品と前記イオン交換樹脂成形品の表面に相互に絶縁状態で形成された金属電極とを備え、前記イオン交換樹脂成形品の含水状態において、前記金属電極間に電位差を設けて、イオン交換樹脂成形品に変位ないし変形を生じさせることによりアクチュエータ素子として機能する高分子アクチュエータ素子が提供されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
これらの高分子アクチュエータ素子は軽量であってかつ柔軟であることから、カテーテル等の医療用デバイスの導入部等として好適に用いることが期待されている。また、前記高分子アクチュエータ素子は軽量でかつ構成が簡単であることから、種々の駆動装置や押圧装置としての応用が期待される。
【0004】
前記高分子アクチュエータ素子は、ナトリウムイオンや4級アンモニウムイオンなどのイオンを含む水溶液中では、一対の金属電極に電圧を印加することにより大きな変位ないし変形を長期間維持することも可能である。しかし、水溶液中から前記高分子アクチュエータ素子を取り出し空気中に前記高分子アクチュエータ素子を設置した状態では、電解質媒体としての水が経時で蒸発してしまうため、経時的に電荷のキャリアであるイオンの移動を生じなくなってしまう。このように、水や水溶液を電解質媒体として用いている前記高分子アクチュエータ素子では、被覆無しで空気に曝した状態、初期の駆動(変位量)を1時間も維持することができないことが判明した。
【0005】
一方、前記高分子アクチュエータ素子は、屈曲ないし変位をするために各種機器における駆動装置に用いることが期待されている。しかしながら、上述のように前記高分子アクチュエータ素子では初期の変位量(駆動性能)を1時間も維持することができないために、水溶液中以外での環境下での駆動は実質的にいまだ困難である。このため、前記高分子アクチュエータ素子を各種機器の駆動装置に用いる場合においては、いまだ用途に制限がある。
【0006】
また、前記高分子アクチュエータ素子として、可撓性を有する高分子で被覆して素子からの水の蒸発を防止した場合であっても、前記高分子アクチュエータ素子の駆動などにより被覆層にひびやワレなどが生じると、水が前記高分子アクチュエータ素子から経時で蒸発してしまう。そのため、前記高分子アクチュエータ素子は、被覆層を設けない場合には常温常圧の開放系では20分程度しか初期の駆動性能を維持することができず、被覆層を設けた場合であっても反復駆動させることなどにより被覆層のひびやワレの発生により数時間程度で初期の駆動性能から大きく低下してしまうことが判明した。このため、前記高分子アクチュエータ素子を被覆した場合であっても、駆動に際しては被覆樹脂のひびやワレが無いことを確認しながら駆動させなければならず、特に長期間用いる用途には特に大きな問題となる。さらには、従来の水媒体系の高分子アクチュエータ素子では水の凝固点以下での使用が困難となる問題もあった。
【0007】
【特許文献1】特許第2961125号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、常温常圧の開放系(大気中)であっても長期間駆動することができる耐久性に優れ、弾性率及び屈曲量または変位量が非常に大きい高分子アクチュエータ素子を提供することを目的とする。また、本発明の目的は、前記高分子アクチュエータ素子の駆動方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため、高分子アクチュエータ素子の構成について鋭意検討した結果、下記の高分子アクチュエータ素子を用いることにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の高分子アクチュエータ素子は、金属電極と、高分子電解質を含む電解質とを含む高分子アクチュエータ素子であって、前記金属電極が対を形成することができるように形成され、前記金属電極が前記電解質と接し、かつ、前記金属電極が前記高分子電解質の表面及び/又は内部に形成されたものであり、前記電解質中に、金コロイド、及び、常温常圧下で液状の分子中に少なくとも1つ以上のヒドロキシル基を有する分子量が400以下の低分子量有機化合物を含有し、前記金コロイドの平均粒子径が、10〜100nmであり、前記電解質が、前記低分子量有機化合物により膨潤した状態であることを特徴とする。
【0011】
本発明の高分子アクチュエータ素子は、前記金コロイドの可視光吸収波長が、400〜800nmであることが好ましい。
【0012】
本発明の高分子アクチュエータ素子は、前記高分子電解質がイオン交換樹脂であることが好ましい。
【0013】
本発明の高分子アクチュエータ素子は、前記金属電極が無電解メッキ法によって形成されたものであることが好ましい。
【0014】
本発明の高分子アクチュエータ素子は、前記高分子電解質の表面及び/又は内部における前記金属電極の形状が、フラクタル状、半島状、島状、ツララ状、ポリープ状、珊瑚状に首状の狭さく部を備えた形状、樹木形状、茸形状、綿状、帯状、及び不定形の少なくとも1種の形状であることが好ましい。
【0015】
本発明の高分子アクチュエータ素子は、前記低分子量有機化合物が、グリセリン、シュークロース、ペンタエリスリトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンカーボネート、ブチルカルビトールおよびそれらの類縁化合物からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0016】
さらに、本発明の高分子アクチュエータ素子は、前記電解質中にイオン性液体を含有していてもよい。
【0017】
本発明の高分子アクチュエータ素子においては、前記イオン性液体が、テトラアルキルアンモニウムイオン、ジアルキルイミダゾリウムイオン、トリアルキルイミダゾリウムイオン、ピラゾリウムイオン、ピロリウムイオン、ピロリニウムイオン、ピロリジニウムイオン、およびピペリジニウムイオンからなる群より選択される少なくとも一種のカチオンと、PF、BF、AlCl、ClO、および下記式(I)で示されるスルホニウムイミドアニオンからなる群より選択される少なくとも一種のアニオンとの組合せからなる塩を含むことが好ましい。
(C(2n+1)SO)(C(2m+1)SO)N (I)
[前記式(I)において、nおよびmは任意の整数である。]
【0018】
本発明の高分子アクチュエータ素子は、前記電解質が、前記イオン交換樹脂及び低分子量有機化合物含む高分子ゲル電解質であることが好ましく、更にイオン性液体を含んでいてもよい。
【0019】
本発明の高分子アクチュエータ素子は、可撓性を有する樹脂で被覆されていることが好ましい。
【0020】
本発明の高分子アクチュエータ素子の駆動方法は、前記のいずれかに記載の高分子アクチュエータ素子の駆動方法に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0022】
本発明の高分子アクチュエータ素子は、金属電極と、高分子電解質を含む電解質とを含む高分子アクチュエータ素子であって、
前記金属電極が対を形成することができるように形成され、前記金属電極が前記電解質と接し、かつ、前記金属電極が前記高分子電解質の表面及び/又は内部に形成されたものであり、前記電解質中に、金コロイド、及び、常温常圧下で液状の分子中に少なくとも1つ以上のヒドロキシル基を有する分子量が400以下の低分子量有機化合物を含有し、前記金コロイドの平均粒子径が、10〜100nmであり、前記電解質が、前記低分子量有機化合物により膨潤した状態であることを特徴とする。
【0023】
常温常圧下で液状の低分子量有機化合物を使用することにより、常温常圧の開放系(大気中)であっても、長期間駆動することができる耐久性に優れ、弾性率及び屈曲量または変位量が非常に大きい高分子アクチュエータ素子を得ることが出来る。また、ヒドロキシル基を有する低分子量有機化合物であるため、低分子量有機化合物のヒドロキシル基間における水素結合や、その他の電解質中のヒドロキシル基やカルボキシル基、アミノ基等と水素結合を形成することが出来るため、高温高湿下であっても、液体の揮発が防止でき、保存安定性にも優れている。
【0024】
前記低分子量有機化合物は、常温常圧下で液状の分子中に少なくとも1つ以上のヒドロキシル基を有する分子量が400以下のものであれば、特に限定されるものではないが、好ましくは分子量が70〜380、より好ましくは分子量が80〜350以下のものを用いることが好ましい。また、前記低分子量有機化合物は、溶媒としての機能も有することが好ましい。前記低分子量有機化合物としては、電荷のキャリアとなるイオンを含む塩の溶媒となることができる低分子量有機化合物、または電荷のキャリアとなることができる低分子量有機化合物であればよい。
【0025】
前記低分子量有機化合物として、グリセリン、シュークロース、ペンタエリスリトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンカーボネート、ブチルカルビトール、低分子量ポリオール類およびそれらの類縁化合物からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましく、より好ましくは、グリセリングリセリンカーボネート、ブチルカルビトール、ポリエチレングリコールおよびそれらの類縁化合物からなる群より選択される少なくとも一種である。なお、前記低分子量有機化合物は、単独で用いてもよいし、また2種以上を混合して使用してもよい。前記低分子量有機化合物を使用することにより高温高湿下であっても、液体の揮発が防止でき、保存安定性にも優れている。
【0026】
前記低分子量有機化合物の配合量としては、溶媒全体を100重量部とした場合、0.01〜100重量部であることが好ましく、0.05〜50重量部であることがより好ましく、0.1〜30重量部であることがさらに好ましい。0.01重量部未満であると十分な耐久性が得られず、100重量部を超えると前記低分子量有機化合物がブリードする場合があり、好ましくない。
【0027】
また、本発明においては、前記電解質中に金コロイドを含有するが、前記金コロイドの平均粒子径は、表面プラズモン共鳴を引き起こす10〜100nmであることが好ましい。なお、金微粒子(金コロイドを含む)の表面プラズモン共鳴(吸収)による発色は、金微粒子(金コロイドを含む)を取り囲む媒体の屈折率に依存することが知られている。また、金微粒子(金コロイドを含む)の分散状態の変化によって、表面プラズモン吸収由来の吸収極大波長がシフトし、色調が変化することが知られている。
【0028】
更に、前記金コロイドを包含する前記アクチュエータの可視光吸収波長は、400〜800nmであることが好ましく、より好ましくは、450〜700nmである。前記範囲内は青〜赤色波長領域に該当し、金コロイドが前記電解質中に密集して、析出した状態にあり表面プラズモン共鳴を起こす場合に、前記電解質からなる高分子アクチュエータ素子の断面は、赤色〜青紫色に呈色する。この場合、理由は明らかではないが、金コロイド及びその凝集体の物性が関与してマトリクスである電解質自体の弾性率や変位量などが向上することが確認されているため、前記範囲内に含まれることが好ましい。
【0029】
本発明の高分子アクチュエータ素子の電解質に含まれるイオン交換樹脂は、特に限定されるものではなく、公知のイオン交換樹脂を用いることができる。たとえば、前記イオン交換樹脂として陽イオン交換樹脂を用いる場合には、ポリエチレン、ポリスチレン、フッ素樹脂などにスルホン酸基、カルボキシル基などの親水性官能基を導入したものを用いることができる。このような樹脂としては.たとえばパーフルオロスルホン酸樹脂(商品名「Nafion」、DuPont社製)、パーフルオロカルボン酸樹脂(商品名「フレミオン」、旭硝子社製)、ACIPLEX(旭化成工業社製)、NEOSEPTA(トクヤマ社製)などを用いることができる。これらのイオン交換樹脂は単独で使用してもよく、また2種以上を併せて使用してもよい。
【0030】
また、前記イオン交換樹脂の厚み(膨潤時)は、通常0.01〜10mmで用いられるが、0.02〜5mmであることが好ましく、0.05〜1mmであることがより好ましく、更に好ましくは0.1〜0.4mmである。前記イオン交換樹脂の厚みが10mm以上となると電極間の距離が広がりすぎてしまう場合があり好ましくなく、0.01mm未満であると、電気的短絡が起こりやすく、また取り扱いが困難となり好ましくない。
【0031】
本発明においては、前記電解質中にさらにイオン性液体を含むことができる。
【0032】
前記イオン性液体は、常温溶融塩とも呼ばれるものであり、室温(25℃程度)での蒸気圧がほとんどない。そのため、前記電解質が前記低分子量有機化合物(およびイオン性液体)で膨潤した状態である本発明の高分子アクチュエータ素子は、1年以上の長期間でも初期とほぼ同等の屈曲または変位をすることができる。
【0033】
また、前記イオン性液体は、特に限定されないで用いることができる。なかでも、前記イオン性液体が、テトラアルキルアンモニウムイオン、ジアルキルイミダゾリウムイオン、トリアルキルイミダゾリウムイオンなどのイミダゾリウムイオン、ピラゾリウムイオン、ピロリウムイオン、ピロリニウムイオン、ピロリジニウムイオン、およびピペリジニウムイオンからなる群より少なくとも一種選ばれたカチオンと、PF、BF、AlCl、ClO、および下記式(I)で示されるスルホニウムイミドアニオンからなる群より少なくとも一種選ばれたアニオンとの組合せからなる塩を含むことが好ましい。これらのイオン性液体は単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
(C(2n+1)SO)(C(2m+1)SO)N (I)
[前記式(I)において、nおよびmは任意の整数である。]
【0034】
前記テトラアルキルアンモニウムイオンとしては、たとえば、トリメチルプロピルアンモニウム、トリメチルヘキシルアンモニウム、テトラペンチルアンモニウムなどをあげることができる。
【0035】
前記イミダゾリウムカチオンとしては、たとえば、ジアルキルイミダゾリウムイオンおよび/またはトリアルキルイミダゾリウムイオンなどをあげることができる。より具体的には、前記イミダゾリウムカチオンとしては、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−プロピル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−へキシル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1,3−ジメチルイミダゾリウムイオン、1−メチル−3−エチルイミダゾリウムイオン、1,2,3−トリメチルイミダゾリウムイオン、1,2−ジメチル−3−エチルイミダゾリウムイオン、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオンなどをあげることができる。
【0036】
前記アルキルピリジニウムイオンとしては、たとえば、N−メチルピリジニウムイオン、N−エチルピリジニウムイオン、N−プロピルピリジニウムイオン、N−ブチルピリジニウムイオン、1−エチル−2−メチルピリジニウムイオン、1−ブチル−4−メチルピリジニウムイオン、1−ブチル−2,4−ジメチルビリジニウムイオンなどをあげることができる。
【0037】
前記ピロリウムカチオンとしては、たとえば、1,1−ジメチルピロリウムイオン、1−エチル−1−メチルピロリウムイオン、1−メチル−1−プロピルピロリウムイオン、1−ブチル−1−メチルピロリウムイオンなどをあげることができる。
【0038】
前記ピラゾリウムカチオンとしては、たとえば、1,2−ジメチルピラゾリウムイオン、1−エチル−2−メチルピラゾリウムイオン、1−プロピル−2−メチルピラゾリウムイオン、1−ブチル−2−メチルピラゾリウムイオンなどをあげることができる。
【0039】
前記ピロリニウムカチオンとしては、たとえば、1,2−ジメチルピロリニウムイオン、1−エチル−2−メチルピロリニウムイオン、1−プロピル−2−メチルピロリニウムイオン、1−ブチル−2−メチルピロリニウムイオンなどをあげることができる。
【0040】
前記ピロリジニウムカチオンとしては、たとえば、1,1−ジメチルピロリジニウムイオン、1−エチル−1−メチルピロリジニウムイオン、1−メチル−1−プロピルピロリジニウムイオン、1−ブチル−1−メチルピロリジニウムイオンなどをあげることができる。
【0041】
前記ピベリジニウムカチオンとしては、たとえば、1,1−ジメチルピペリジニウムイオン、1−エチル−1−メチルピペリジニウムイオン、1−メチル−1−プロピルピペリジニウムイオン、1−ブチル−1−メチルピペリジニウムイオンなどをあげることができる。
【0042】
前記イオン性液体は、本発明に適するものであれば、前記アニオンと前記カチオンとの組み合わせに、特に限定されるものではないが、たとえば、1−メチル−3−エチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホイミド(EMITFSI)、1−メチル−3−イミダゾリウムテトラフルオロボレート(EMIBF)、1−メチル−3−イミダゾリウムヘキサフルオロリン酸(EMIPF)、トリメチルプロピルアンモニウムトリフルオロメタンスルホイミド、1−へキシル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−へキシル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸、1−へキシル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホイミドなどを用いることができる。
【0043】
本発明の高分子アクチュエータ素子において、前記電解質が、前記イオン交換樹脂、低分子量有機化合物、更にイオン性液体を含むことにより、前記電解質に含まれるイオン交換樹脂が、前記低分子量有機化合物およびイオン性液体で膨潤した状態となった高分子ゲル電解質とすることができる。前記電解質を用いることにより、大気圧下(常温常圧下もしくは0℃以下)で1年以上の長期間放置した場合であっても、本発明における高分子アクチュエータ素子は、駆動することができる。さらに、前記低分子量有機化合物および前記イオン性液体を含む高分子ゲル電解質は可撓性があり、高濃度の電解質を保持することが可能であることから、アクチュエータ素子およびキャパシタの電解質として好適である。
【0044】
前記イオン交換樹脂、低分子量有機化合物、更にはイオン性液体を含む電解質は、その製造方法は特に限定されるものではないが、たとえば、前記低分子量有機化合物100重量部に対して、イオン性液体を3〜100重量部含む混合溶液に、イオン交換樹脂を浸漬し、室温にて、寸法もしくは重量の変化がなくなるまで放置することにより、容易に得ることができる。
【0045】
また、前記電解質はイオン交換樹脂を前記低分子量有機化合物または前記低分子量有機化合物含有溶液中に浸漬することや、前記溶液をさらに加熱して浸漬することなどにより得ることができる。たとえば、前記高分子アクチュエータ素子がイオン交換樹脂に無電解メッキを施すことにより、金属電極が形成された素子である場合には、前記イオン交換樹脂を前記低分子量有機化合物または前記低分子量有機化合物含有溶液中に直接浸漬する手法や溶媒置換する手法などにより、イオン交換樹脂が前記低分子量有機化合物により、膨潤した状態の高分子アクチュエータ素子を得ることができる。
【0046】
一方、本発明の高分子アクチュエータ素子は、金属電極と、高分子電解質を含む電解質とを含み、前記金属電極が対を形成することができるように形成され、前記金属電極が電解質と接し、かつ前記金属電極が前記高分子電解質の表面及び内部に形成された高分子アクチュエータ素子であり、前記金属電極を複数備えた構造を有している。
【0047】
また、前記アクチュエータ素子は、イオン交換樹脂層を挟んで両側に電極層を1つずつ備えても良く、両側もしくは片側に電極層を複数備えていてもよい。前記アクチュエータ素子の具体的な構造としては、たとえば、一対の電極層がイオン交換樹脂層を挟んで電極対を形成したアクチュエータ素子を用いることもできるし、管状のイオン交換樹脂の外側面および/または内側面の表面上に複数の金属電極を備えていてもよい。
【0048】
上述の電極層がイオン交換樹脂を挟んで電極対を形成した高分子アクチュエータ素子としては、公知の方法により、製造することができる。たとえば、膜状、板状、もしくは管状の形状を有するイオン交換樹脂有体物に無電解メッキをすることによって、イオン交換樹脂表面またはイオン交換樹脂表面から内側の範囲に金属層を形成させ、前記金属層金属を電極層として用いることで、前記高分子アクチュエータ素子である金属−イオン交換樹脂接合体を得ることもできる。
【0049】
前記無電解メッキ法としては、たとえば、イオン交換樹脂を水中に浸漬して膨潤させた状態で、イオン交換樹脂に白金錯体や金錯体等の金属錯体を吸着させる吸着工程を行う。次いで吸着された金属錯体を還元剤により還元させ金属を析出させる還元工程を行い、さらに前記還元工程後に必要に応じて還元剤を洗浄除去する洗浄工程を行ってもよい。
【0050】
上述の無電解メッキ法では、電極である金属層を通電や屈曲ないし変位に充分な厚さとするために、吸着工程、還元工程および洗浄工程を1サイクルとして繰り返し行うことができる。このようにして得られた高分子アクチュエータ素子は、イオン交換樹脂の内部方向に電極層が成長して電極が形成され、イオン交換樹脂と電極層との界面において、電極層の断面がフラクタル状等の構造を形成しているので、前記電極層と前記イオン交換樹脂層との界面で大きな電気二重層を持つことができる。さらに、前記電極層がイオン交換樹脂層の内部方向にフラクタル状等の構造を形成していることによりアンカー効果が働くため、前記イオン交換樹脂接合体は繰り返し曲げることに対する耐久性を有する。
【0051】
また、本発明においては、高分子アクチュエータ素子の厚さ方向(電圧の印加がかかる方向)の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した場合、略並行に存在し、対向して存在する各金属電極の形状、つまり、前記無電解メッキ法によって前記高分子電解質の内部における前記電極の形状が、フラクタル状、半島状、島状、ツララ形状、ポリープ形状、珊瑚状に首状の狭さく部を備えた形状、樹木形状、茸形状、綿(わた、繊維)状、帯状、及び不定形の少なくともいずれかの形状であることが好ましい。なお、高分子アクチュエータ素子製造中により生じる外側の金属電極とつながっておらず、金属電極を形成しない粒子状の金属部が存在していてもよい。
【0052】
また、上述の無電解メッキの吸着工程に用いられる金属錯体溶液は、還元により形成される金属層が電極層として機能することができる金属の錯体を含むものであれば、特に限定されない。
【0053】
前記金属錯体としては、イオン化傾向の小さい金属が電気化学的に安定であることから、金錯体、白金錯体、パラジウム錯体、ロジウム錯体、またはルテニウム錯体等の金属錯体を使用することが好ましい。また、析出した金属が電極として使用されるため、通電性が良好で電気化学的な安定性に富んだ貴金属からなる金属錯体が好ましく、さらに電気分解が比較的起こりにくい金からなる金錯体がより好ましい。
【0054】
また、前記金属錯体溶液に用いられる溶媒は特に限定されるものではないが、金属塩(金属錯体)の溶解が容易であって、かつ、取り扱いが容易であることから、前記溶媒として水を主成分とすることが好ましい。より具体的には、前記金属錯体溶液としては、金属錯体水溶液であることが好ましく、特に金錯体水溶液または白金錯体水溶液であることがより好ましく、金錯体水溶液がさらに好ましい。
【0055】
上述の無電解メッキの還元工程に用いられる還元剤としては、イオン交換樹脂に吸着される金属錯体溶液に使用される金属錯体の種類に応じて、その種類を適宜選択して使用することができる。前記還元剤としては、たとえば、亜硫酸ナトリウム、ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウム、亜リン酸、次亜リン酸ナトリウム等を用いることができる。これらの還元剤は単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
【0056】
また、前記還元剤は析出させる金属種によって、適宜選択することもできる。還元により析出させる金属がニッケルまたはコバルトの場合には、還元剤として、たとえば、ホスフィン酸ナトリウム、ジメチルアミノボラン、ヒドラジン、テトラヒドロホウ酸カリウムなどを用いることができる。還元により析出させる金属がパラジウムの場合には、還元剤として、たとえば、ホスフィン酸ナトリウム、ホスホン酸ナトリウム、テトラヒドロホウ酸カリウムなどを用いることができる。還元により析出させる金属が銅の場合には、還元剤として、たとえば、ホルマリン、ホスホン酸ナトリウム、テトラヒドロホウ酸カリウムなどを用いることができる。還元により析出させる金属が銀または金の場合には、還元剤として、たとえば、ジメチルアミノボラン、テトラヒドロホウ酸カリウムなどを用いることができる。還元により析出させる金属が白金の場合には、還元剤として、たとえば、ヒドラジン、テトラヒドロホウ酸ナトリウムなどを用いることができる。還元により析出させる金属が錫の場合には、還元剤として、たとえば、三塩化チタンを用いることができる。さらに、還元剤は、前記の種類に限られるものではなく、白金黒などの触媒と共に用いられる水素、HgS、HIやIなどの非金属の酸またはイオン、Na(HPO)やNaなどの低級酸素酸塩、COやSOなどの低級酸化物、Li、Na、Cu、Mg、Zn、Fe、Fe(II)、Sn(II)、Ti(III)、Cr(II)などのイオン化傾向の大きい金属またはそれらのアマルガムおよび低原子価金属塩、AlH〔(CHCHCHや水素化リチウムアルミニウムなどの水素化物、ジイミド、ギ酸、アルデヒド、糖類およびL−アスコルビン酸などを適宜用いることもできる。
【0057】
前記還元剤は、上述のように還元される金属種に応じて適宜選択することもできるが、さらにはメッキの成長速度、析出した金属の粒子サイズ、フラクタル構造の金属電極とイオン交換樹脂の接触面積、電極構造ならびにメッキ後の樹脂の可撓性を調製するために、適宜還元剤の種類を選択して用いることができる。また、還元工程における還元浴を好ましいpHとするために、前記還元剤の種類を適宜選択してもよい。
【0058】
また、前記還元剤溶液の濃度は、金属錯体の還元により析出させる金属量を得ることができるのに十分な量の還元剤を含んでいれば特に限定されるものではないが、通常の無電解メッキにより電極を形成する場合に用いられる金属塩溶液と同等の濃度を用いることも可能である。また、還元剤溶液中にはイオン交換樹脂の良溶媒を含むことができる。さらには、金属錯体を還元する際に、必要に応じて酸またはアルカリを添加してもよい。
【0059】
本発明の高分子アクチュエータ素子は、対を形成することができるように形成された金属電極と接する電解質の内部に溶媒や塩を含むものである。前記高分子アクチュエータ素子が屈曲ないし変位をすることができるように、前記高分子アクチュエータ素子は柔軟性が有ることが好ましい。本発明においては、前記柔軟性を得るために、前記イオン交換樹脂が常温常圧で液状の低分子量有機化合物(及びイオン性液体)により、膨潤した状態であることが必要である。
【0060】
前記膨潤の程度(膨潤度)については、特に限定されるものではない。なお、前記低分子量有機化合物は電解質中に含まれるが、電極層が多孔性の電極である場合には、前記溶媒の一部が塩とともに、前記金属電極層に含まれてもよい。
【0061】
また、前記アクチュエータ素子の膨潤時の厚みは、通常0.01〜10mmで用いられるが、0.05〜5mmであることがより好ましく、0.1〜1mmであることがさらに好ましい。前記アクチュエータ素子の厚みが10mm以上となると著しく性能が低下してしまう場合があり好ましくない。
【0062】
前記低分子量有機化合物含有溶液としては、前記低分子量有機化合物を有機溶媒または水等と適宜混合したものがあげられる。前記低分子量有機化合物と混合する溶媒は特に限定されないが、常温常圧下で経時的に揮発しにくい溶媒が好ましい。また、たとえば、水等の常温常圧下で経時的に揮発しやすい溶媒を混合溶媒として用いた場合であっても、前記水等の溶媒が揮発後も前記低分子量有機化合物が電解質中の溶媒として残存して、電解質媒体として機能しうることから、常温常圧の開放系に長時間放置しても、その後の初期の屈曲量または変位量とほぼ同等を示すことができると推測される。
【0063】
また、前記低分子量有機化合物含有溶液を用いる場合には、前記溶液中において前記低分子量有機化合物が0.1〜99重量%であることが好ましく、3〜98重量%含まれることがより好ましく、10〜95重量%含まれることがさらに好ましい。
【0064】
さらに、前記溶媒を置換する手法としては、たとえば、あらかじめ膨潤用溶媒でイオン交換樹脂を膨潤させ、次いで前記低分子量有機化合物または前記低分子量有機化合物含有溶液を置換させる手法があり、前記方法により本発明の電解質を得ることができる。また、前記膨潤用溶媒として用いた前記低分子量有機化合物含有溶液を素子内に残存させそのまま使用してもよい。この手法は前記低分子量有機化合物または前記低分子量有機化合物含有溶液の液中においても前記イオン交換樹脂が膨潤しない場合などに用いることが好ましい。なお、前記膨潤用溶媒は、イオン交換樹脂を膨潤させることが可能であり、次いで前記低分子量有機化合物または前記低分子量有機化合物含有溶液と置換が可能な溶媒であれば特に限定されない。また、本発明においては、上述の膨潤には無限膨潤を含まない。
【0065】
前記電解質の内部に含まれる塩は、前記低分子量有機化合物に溶解できるものであれば特に限定されるものではない。前記電解質がカチオンと対イオンを形成する場合には、1〜3価のカチオンの塩を用いることができ、なかでも、Na、K、Li等の1価のカチオンを用いることが大きな屈曲もしくは変位をすることができるため好ましい。また、特に前記カチオンの塩を用いる場合、イオン半径の大きなアルキルアンモニウムイオンを用いることが、より大きな屈曲もしくは変位を可能としうるため、より好ましい。
【0066】
前記アルキルアンモニウムイオンとしては、CHCH、C、(CH、(C、(CHH、(CH、(CH、(C、(C、(C、H(CH、CH=CHCHHCH、H(CH(CH、CH≡CCH、CHCH(OH)CH、H(CHOH、HCH(CHOH)、(HOCHC(CH、COCHCH、およびその他脂肪族炭化水素を置換基として備えるアンモニウムイオン、ならびに脂環式の環状炭化水素をも有するアンモニウムイオン等をあげることができる。これらのイオンは単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
【0067】
前記塩としては、より具体的には、たとえば、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボラート、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウム酢酸塩、N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドなどをあげることができる。これらの化合物は単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
【0068】
また、前記塩の含有濃度としては、イオン交換樹脂の官能基と等量以上の濃度として含まれていれば特に限定されないが、より十分な屈曲ないし変位を得るためには、0.01〜10mol/lであることが好ましく、0.02〜3.0mol/lであることがより好ましく、0.05〜1.0mol/lであることがさらに好ましい。なお、イオン性液体を用いる場合には、前記塩を用いなくてもよいが、適宜併用してもよい。
【0069】
以下に、高分子アクチュエータ素子の好適な製造方法の一例について説明する。
【0070】
<イオン交換樹脂膜の調製>
膜状のイオン交換樹脂(フッ素樹脂系イオン交換樹脂;パーフルオロカルボン酸樹脂、旭硝子社製、フレミオン、乾燥時の厚み:0.16mm、イオン交換容量:1.4meq/g)を用いて、下記(1)〜(3)の工程にてイオン交換樹脂を挟んで形成された一対の金属電極を備えたイオン交換樹脂膜を調製する。
【0071】
(1)吸着工程:1.0wt%のジクロロフェナントロリン金塩化物水溶液に室温で12時間浸漬し、前記イオン交換樹脂膜にジクロロフェナントロリン金錯体を吸着させる。
【0072】
(2)還元工程:亜硫酸ナトリウムを含む水溶液中で、吸着したジクロロフェナントロリン金錯体を還元し、前記膜状のイオン交換樹脂(高分子電解質)に金電極を形成させ、この時、水溶液の温度を60℃とし、所定量の濃度の亜硫酸ナトリウムを徐々に添加しながら、6時間ジクロロフェナントロリン金錯体の還元処理を行なう。
【0073】
(3)洗浄工程:表面に金電極が形成した膜状のイオン交換樹脂(高分子電解質)を取り出し、70℃の水で1時間洗浄し、イオン交換樹脂膜を調製する。
【0074】
<高分子アクチュエータ素子の作製>
(4)イオン置換:前記無電解めっき処理を施したイオン交換樹脂膜を所定量のテトラエチルアンモニウムクロライドを溶解して含む水溶液に60℃で2時間浸漬した後に風乾する。
【0075】
(5)電解液充填:種類の異なる電解質を溶解して含む充填溶液中に前記めっき処理を施したイオン交換樹脂膜を60℃で3時間浸漬した後に乾燥して、高分子アクチュエータ素子を調製する。
【0076】
以上の製造工程において、工程(4)のテトラエチルアンモニウムイオン置換後の素子断面は未還元のジクロロフェナントロリン金錯体の残存を示す黄橙色を呈しているが、工程(5)の電解液の充填後には濃厚な赤紫色を呈し、金錯体の還元反応が充分に進んで青〜赤色波長領域(400〜800nm)の光を吸収する金コロイドの凝集が析出する。
【0077】
以上のような高分子アクチュエータ素子の製造方法において、素子内部に析出する金コロイドが、濃赤紫色(ワインレッド)を呈するような凝集を生じせしめるような条件を整えることにより、当該アクチュエータとして好ましいものとなる。具体的には、比較的高い弾性率を維持しながら、変位量が大きく、外部に対して好適に仕事を成すことが期待される。
【0078】
また、本発明の高分子アクチュエータ素子は、前記低分子量有機化合物を含むため、樹脂等による被覆なしに長期間駆動することができるが、さらに可撓性を有する樹脂で高分子電解質等が被覆されてもよい。
【0079】
前記可撓性を有する樹脂としては、特に限定されるものではないが、たとえば、ポリウレタン樹脂および/またはシリコーン樹脂をあげることができる。
【0080】
前記ポリウレタン樹脂としては、たとえば、柔軟度が大きく密着性が良好であるため、柔軟性(柔軟度)の高い熱可塑性ポリウレタンが特に好ましい。前記熱可塑性ポリウレタンとしては、商品名「アサフレックス825」(柔軟度200%、旭化成社製)、商品名「ペレセン 2363−80A」(柔軟度550%)、「ペレセン 2363−80AE」(柔軟度650%)、「ペレセン 2363−90A」(柔軟度500%)、「ペレセン 2363−90AE」(柔軟度550%)(以上、ダウ・ケミカル社製)を用いることができる。
【0081】
前記シリコーン樹脂は、たとえば、柔軟度が50%以上である樹脂が、柔軟度が大きいので密着性が良好であり特に好ましい。前記シリコーン樹脂としては、たとえば、「シラシール3FW」、「シラシールDC738RTV」、「DC3145」、および「DC3140」(以上、ダウコーニング社製)などを用いることができる。
【0082】
なお、本発明における柔軟度とは、ASTM D412に準拠して測定された引張破断伸び(Ultimate Elongation%)をいう。
【0083】
本発明における高分子アクチュエータ素子は上述のような構成を有するものである。
【0084】
前記高分子アクチュエータ素子は、その厚みが0.1mm〜1mm程度である場合には、通常0.1〜18Vの電圧を印加することで駆動させることができるが、1〜9Vであることが好ましく、2〜7Vであることがより好ましい。
【0085】
また、前記高分子アクチュエータ素子にたとえば左右に往復する等の連続的な変位運動をさせる場合には、0.01〜100Hz周期で各金属電極に反対電圧が印加されるようにすることが好ましく、0.5〜5Hz周期であることがより好ましい。
【0086】
本発明の高分子アクチュエータ素子は上述のような作用効果を奏するため、変位もしくは屈曲の変位を生じるアクチュエータ素子として、多種多様の実用的用途に容易に用いることができる。特に、前記高分子アクチュエータ素子は長期間の駆動を必要とする用途に好適である。また、前記高分子アクチュエータ素子を、屈曲運動を直線的な運動に変換する装置と組合せることにより、直線的な変位を生じるアクチュエータとすることもできる。直線的な変位もしくは屈曲の変位を生じるアクチュエータは、直線的な駆動力を発生する駆動部、または円弧部からなるトラック型の軌道を移動するための駆動力を発生する駆動部として用いることができる。さらに、前記アクチュエータは、直線的な動作をする押圧部として用いることもできる。具体的に、以下に例示する。
【0087】
本発明の高分子アクチュエータ素子は、たとえば、OA機器、アンテナ、ベッドや椅子等の人を乗せる装置、医療機器、エンジン、光学機器、固定具、サイドトリマ、車両、昇降機械、食品加工装置、清掃装置、測定機器、検査機器、制御機器、工作機械、加工機械、電子機器、電子顕微鏡、電気剃刀、電動歯ブラシ、マニピュレータ、マスト、遊戯装置、アミューズメント機器、乗車用シミュレーション装置、車両乗員の押さえ装置および航空機用付属装備展張装置において、直線的な駆動力を発生する駆動部もしくは円弧部からなるトラック型の軌道を移動するための駆動力を発生する駆動部、直線的な動作もしくは曲線的な動作をする押圧部として好適に用いることができる。
【0088】
また、本発明の高分子アクチュエータ素子は、たとえば、OA機器や測定機器等の前記機器等を含む機械全般に用いられる弁、ブレーキ、またはロック装置等において、直線的な駆動力を発生する駆動部、円弧部からなるトラック型の軌道を移動するための駆動力を発生する駆動部、または直線的な動作をする押圧部などとして用いることができる。
【0089】
さらには、前記の装置、機器、器械等以外として、機械機器類全般において、位置決め装置の駆動部、姿勢制御装置の駆動部、昇降装置の駆動部、搬送装置の駆動部、移動装置の駆動部、量や方向等の調節装置の駆動部、軸等の調整装置の駆動部、誘導装置の駆動部、または押圧装置の押圧部などとして好適に用いることができる。
【0090】
また、本発明の高分子アクチュエータ素子は、回転的な運動をすることができるので、たとえば、切替え装置の駆動部、搬送物等の反転装置の駆動部、ワイヤ一等の巻取り装置の駆動部、牽引装置の駆動部、または首振り等の左右方向への旋回装置の駆動部などとしても用いることができる。
【実施例】
【0091】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例等について説明する。
【0092】
〔実施例1〕
<イオン交換樹脂膜の製造方法>
イオン交換樹脂(フッ素樹脂系イオン交換樹脂;パーフルオロカルボン酸樹脂、旭硝子社製、フレミオン、乾燥時の膜厚:0.16mm、イオン交換容量:1.4meq/g)を用いて、下記(1)〜(3)の工程にてイオン交換樹脂を挟んで形成された一対の金属電極を備えたイオン交換樹脂膜を得た。
【0093】
(1)吸着工程:1.0wt%のジクロロフェナントロリン金塩化物水溶液に室温で12時間浸漬し、前記イオン交換樹脂にジクロロフェナントロリン金錯体を吸着させた。
【0094】
(2)還元工程:亜硫酸ナトリウムを含む水溶液中で、吸着したジクロロフェナントロリン金錯体を還元し、前記イオン交換樹脂(高分子電解質)に金電極を形成させた。この時、水溶液の温度を60℃とし、所定量の濃度の亜硫酸ナトリウム(水1Lあたり20重量%水溶液)を徐々に添加しながら、6時間ジクロロフェナントロリン金錯体の還元処理を行なった。
【0095】
(3)洗浄工程:表面に金電極が形成したイオン交換樹脂(高分子電解質)を取り出し、70℃の水で1時間洗浄して、イオン交換樹脂膜を得た。
【0096】
<高分子アクチュエータ素子の製造方法>
(4)イオン置換:前記無電解めっき処理を施した前記イオン交換樹脂膜をテトラエチルアンモニウムクロライドを溶解して含む水溶液(テトラエチルアンモニウムイオンの塩化物としての水溶液濃度(mol/l)が0.25である)に60℃で3時間浸漬した後に風乾した。
【0097】
(5)電解液充填:グリセリン、グリセロールカーボネート、ブチルカルビトール1/2/2体積比の混合液にイオン性液体であるN,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウムテトラフルオロボレートを、体積比で1/1に溶解した電解液(表1中の「J」)を調製した。
【0098】
上記電解液中に、前記めっき処理を施したイオン交換膜を40℃で1時間浸漬した後に乾燥して、高分子アクチュエータ素子を得た。ここで得られた高分子アクチュエータ素子の素子内部に析出する金コロイドの色は表面プラズモン吸収を示す赤紫色(もしくはワインレッド)を呈しており、この際の金コロイドの平均粒子径は10〜100nmと推定される。なお、無色の場合は、表面プラズモン共鳴が起こりえない金コロイド粒子サイズもしくはその凝集状態と推定される。
【0099】
<弾性率の評価>
作製した高分子アクチュエータ素子を用いて、以下のように弾性率(MPa)の測定を行った。具体的には、資料の幅と厚さを測定しておき、資料の垂直方向に加重を加えて一定重のたわみを与えるのに要した力(N/mm)を測定して弾性率を算出する。
【0100】
<変位距離(変位量)の評価>
実施例及び比較例の対向する表面電極に、それぞれの電極端部にリードを介して電源と接続して、電圧(1Hz、2.0Vの矩形波)を印加し、屈曲した変位量を測定した。なお、変位量は、実施例及び比較例の試料の一端から2mmの位置で固定し、電圧を印加した際の固定位置から6mmの距離での変位量を測定した。結果を表1に示す。
【0101】
<性能指数の評価>
性能評価については、下記式により、算出した。なお、性能指数の評価方法としては、例えば、膨潤後のアクチュエータ素子の膜厚が、0.18±0.1mmの場合には、性能指数が50以上が良好な値である。また、0.27±0.2mmの場合には、性能指数が10以上の場合は、良好である。
(弾性率)×(変位距離)=(性能指数)
【0102】
上記方法にしたがい、作製した高分子アクチュエータ素子の弾性率、変位距離、及び性能指数の測定・評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0103】
【表1】

【0104】
前記表1の結果より、素子断面が赤〜赤紫色に呈色している、つまりは金コロイドの平均粒子径が10〜100nm、もしくは、金コロイドの光吸収スペクトルが400〜800nmである実施例においては、変位量、弾性率、及び、これらから導きだされる性能指数に優れていることが確認できた。一方、素子断面が無色の比較例においては、変位量や弾性率等に劣ることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属電極と、高分子電解質を含む電解質とを含む高分子アクチュエータ素子であって、
前記金属電極が対を形成することができるように形成され、
前記金属電極が前記電解質と接し、かつ、前記金属電極が前記高分子電解質の表面及び/又は内部に形成されたものであり、
前記電解質中に、金コロイド、及び、常温常圧下で液状の分子中に少なくとも1つ以上のヒドロキシル基を有する分子量が400以下の低分子量有機化合物を含有し、
前記金コロイドの平均粒子径が、10〜100nmであり、
前記電解質が、前記低分子量有機化合物により膨潤した状態であることを特徴とする高分子アクチュエータ素子。
【請求項2】
前記金コロイドの可視光吸収波長が、400〜800nmであることを特徴とする請求項1に記載の高分子アクチュエータ素子。
【請求項3】
前記高分子電解質がイオン交換樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載の高分子アクチュエータ素子。
【請求項4】
前記金属電極が無電解メッキ法によって形成されたものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の高分子アクチュエータ素子。
【請求項5】
前記高分子電解質の表面及び/又は内部における前記金属電極の形状が、フラクタル状、半島状、島状、ツララ状、ポリープ状、珊瑚状に首状の狭さく部を備えた形状、樹木形状、茸形状、綿状、帯状、及び不定形の少なくとも1種の形状であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の高分子アクチュエータ素子。
【請求項6】
前記低分子量有機化合物の凝固点または軟化点が0℃以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の高分子アクチュエータ素子。
【請求項7】
前記低分子量有機化合物が、グリセリン、シュークロース、ペンタエリスリトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンカーボネート、ブチルカルビトールおよびそれらの類縁化合物からなる群より選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の高分子アクチュエータ素子。
【請求項8】
さらに、前記電解質中にイオン性液体を含有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の高分子アクチュエータ素子。
【請求項9】
前記イオン性液体が、テトラアルキルアンモニウムイオン、ジアルキルイミダゾリウムイオン、トリアルキルイミダゾリウムイオン、ピラゾリウムイオン、ピロリウムイオン、ピロリニウムイオン、ピロリジニウムイオン、およびピペリジニウムイオンからなる群より選択される少なくとも一種のカチオンと、
PF、BF、AlCl、ClO、および下記式(I)で示されるスルホニウムイミドアニオンからなる群より選択される少なくとも一種のアニオンとの組合せからなる塩を含むことを特徴とする請求項8に記載の高分子アクチュエータ素子。
(C(2n+1)SO)(C(2m+1)SO)N (I)
[前記式(I)において、nおよびmは任意の整数である。]
【請求項10】
可撓性を有する樹脂で被覆されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の高分子アクチュエータ素子。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の高分子アクチュエータ素子の駆動方法。



【公開番号】特開2010−41876(P2010−41876A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−204296(P2008−204296)
【出願日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(302014860)イーメックス株式会社 (49)
【Fターム(参考)】