説明

高分子アクチュエータ素子及びその製造方法

【課題】 特に、従来に比べて耐久性を向上させた高分子アクチュエータ素子及びその製造方法を提供することを目的としている。
【解決手段】 電解質層2と、前記電解質層の厚さ方向の両面に配置される電極層3,4とを有し、前記電解質層及び前記電極層はイオン液体を含むとともに前記電極層はカーボンナノチューブを含み、前記電極層間に電圧を付与すると変形する高分子アクチュエータ素子において、前記電極層3,4には、オリゴマーをグラフト化した前記カーボンナノチューブが含まれていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブとイオン液体とを有する電極層を備えた高分子アクチュエータ素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1には、電解質層にイオン液体とベースポリマーを含み、電極層に、イオン液体とベースポリマーとカーボンナノチューブとを含む高分子アクチュエータ素子が開示されている。
【0003】
高分子アクチュエータ素子の一端を固定した状態で電極層に電圧を印加すると、イオン移動までにより電極間に容積の差が生じて高分子アクチュータ素子が変形する。
【0004】
しかしながら例えば、高分子アクチュエータ素子を駆動させてある変位量に保ったとき、時間経過に伴って徐々に前記変位量が変動する耐久性の低下が問題となった。
【0005】
このように従来の高分子アクチュエータ素子において耐久性が低下するのは、大気中から吸収された水分がカーボンナノチューブの欠陥により電解され、イオン液体劣化を促進させたり、イオン液体自身が電解劣化するためであると考えられる。例えば、カーボンナノチューブの末端部にカーボン欠損部が生じていたり、各種官能基を有することで、電圧印加により大気中より吸収した水分が比較的容易に電解され発生した水素イオンや水酸イオンの触媒的影響や電極間で移動したイオン液体がカーボンナノチューブの欠陥やある種の官能基との間で何らかの相互作用を受けて電気分解が加速されているものと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−68675公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、特に、従来に比べて耐久性を向上させた高分子アクチュエータ素子及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、電解質層と、前記電解質層の厚さ方向の両面に配置される電極層とを有し、前記電解質層及び前記電極層はイオン液体を含むとともに前記電極層はカーボンナノチューブを含み、前記電極層間に電圧を付与すると変形する高分子アクチュエータ素子において、
前記電極層には、オリゴマーをグラフト化した前記カーボンナノチューブが含まれていることを特徴とするものである。これにより、カーボンナノチューブにオリゴマーをグラフト化していない従来に比べて、耐久性を向上させることができる。特に本発明では、高分子アクチュエータ素子を駆動させてある変位量に保ったとき、従来に比べて時間経過に伴う前記変位量の変動を小さくでき、安定したアクチュエータ特性を得ることができる。
【0009】
本発明では、前記オリゴマーの平均分子量が、40〜10000の範囲内であることが好ましい。また、前記オリゴマーの平均分子量が、400〜4000の範囲内であることがより好ましい。高分子アクチュエータ素子の耐久性を効果的に向上させることができるとともに、電極抵抗値の増大を抑制することができる。またキャスト性(成膜性)を向上させることができる。
【0010】
また本発明では、前記オリゴマーは、エチレングリコールオリゴマー、ジメチルシロキサンオリゴマーあるいはエチレンオキサイドオリゴマーにより選択されることが好ましい。
【0011】
また本発明は、電解質層と、前記電解質層の厚さ方向の両面に配置される電極層とを有し、前記電解質層及び前記電極層はイオン液体を含むとともに前記電極層はカーボンナノチューブを含み、前記電極層間に電圧を付与すると変形する高分子アクチュエータ素子の製造方法において、
カーボンナノチューブにオリゴマーをグラフト化する工程、
前記オリゴマーをグラフト化した前記カーボンナノチューブを含む前記電極層を形成する工程、
を有することを特徴とするものである。これにより、耐久性に優れた高分子アクチュエータ素子を製造することが可能になる。
【0012】
本発明では、前記オリゴマーをラジカル重合して前記カーボンナノチューブにグラフト化することが好ましい。また、高分子アゾ重合開始剤からラジカル重合性オリゴマーを生じさせ、前記ラジカル重合性オリゴマーを前記カーボンナノチューブにラジカル重合してグラフト化することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来に比べて、耐久性を向上させることができる。特に本発明では、高分子アクチュエータ素子を駆動させてある変位量に保ったとき、従来に比べて時間経過に伴う前記変位量の変動を小さくでき、安定したアクチュエータ特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態における高分子アクチュエータ素子の部分断面図、
【図2】カーボンナノチューブにオリゴマーをグラフト化する工程の説明図(イメージ図)、
【図3】(a)は、無処理のカーボンナノチューブ(比較例)におけるガスクロマト(GC)−質量(MS)分析による分析結果、(b)は、平均分子量が約4000のエチレングリコールオリゴマーをグラフト化したカーボンナノチューブ(実施例)におけるガスクロマト(GC)−質量(MS)分析による分析結果、
【図4】(a)は、平均分子量が約4000のエチレングリコールオリゴマーをグラフト化したカーボンナノチューブ(実施例1,2)における熱重量(TG)分析による分析結果、(b)は、平均分子量が約400のエチレングリコールオリゴマーをグラフト化したカーボンナノチューブ(実施例3,4)における熱重量(TG)分析による分析結果、
【図5】平均分子量が約4000のエチレングリコールオリゴマーをグラフト化したカーボンナノチューブを用いて形成した電極層を有する高分子アクチュエータ素子(実施例1と2)、平均分子量が約400のエチレングリコールオリゴマーをグラフト化したカーボンナノチューブを用いて形成した電極層を有する高分子アクチュエータ素子(実施例3と4)、及びオリゴマーをグラフト化していない無処理のカーボンナノチューブを用いて形成した電極層を有する高分子アクチュエータ素子(比較例)を夫々、形成し、各高分子アクチュエータ素子をDC駆動させて変形させたときの、経過時間と変位量との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は本実施形態の高分子アクチュエータ素子の部分断面図を示す。図1を用いて高分子アクチュエータ素子の構造を説明する。
【0016】
図1に示すように、本実施形態における高分子アクチュエータ素子1は、電解質層(イオン伝導層)2と、電解質層2の厚さ方向(Z)の両側表面に形成される電極層3,4を備えて構成される。
【0017】
本発明における実施形態の高分子アクチュエータ素子1は、イオン液体とベースポリマーを有する電解質層2と、オリゴマーがグラフト化されたカーボンナノチューブ及びイオン液体を有する電極層3,4とを有して構成される。
【0018】
ベースポリマーとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)系ポリマーや、ポリメチルメタクリレート(PMMA)系ポリマー等を提示できる。このうち、特に、PVdF系ポリマーを用いることが好ましい。
【0019】
イオン液体には、エチルメチルイミダゾリウム テトラフルオロボレート(EMIBF4)や、エチルメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(EMITFSI)等を用いることが可能である。
【0020】
高分子アクチュエータ素子1の基端部5は固定端部であり、高分子アクチュエータ素子1の基端部5は、固定支持部6,6にて固定支持されている。図1に示すように例えば、高分子アクチュエータ素子1は、片持ちで支持されている。そして両面の電極層3,4間に駆動電圧を印加すると、図1の点線に示すように、電解質層2と電極層3,4間のイオン移動などによって電極層3と電極層4の間に容積差が生じ、曲げ応力が発生して、高分子アクチュエータ素子1の自由端部である先端部7を湾曲変形させることができる。イオン移動で電極間に容積の差が生じる原理は一般に一義的ではないとされているが、代表的な原理要因の1つに、陽イオンと陰イオンのイオンサイズの差で容積に差が生じることが知られている。
【0021】
図1に示す固定支持部6は、電極層3,4と電気的に接続する接続部(給電部)であることが好ましい。
【0022】
本実施形態では、電極層3,4に含まれるカーボンナノチューブ(CNT)にはオリゴマーがグラフト化されている。
【0023】
図2にはオリゴマーをカーボンナノチューブにグラフト化する工程イメージが示されている。
【0024】
図2に示すようにまず、高分子アゾ重合開始剤を熱分解し、ラジカル重合性オリゴマーを生成する。高分子アゾ重合開始剤は、高分子セグメントとアゾ基とが繰り返し結合された構造であり、図2では、高分子セグメントとしてエチレングリコール(EG)が選択されている。高分子アゾ重合開始剤としては、和光純薬工業(株)のVPEシリーズやVPSシリーズ等を用いることが可能である。
【0025】
次に、ラジカル重合性オリゴマーをカーボンナノチューブ(CNT)にラジカル重合してグラフト化する。
【0026】
オリゴマーをグラフト化したカーボンナノチューブ、イオン液体及び溶媒を含む導電性インクを例えばキャスト法で所定形状に成形し、溶媒を蒸発させてシート状の電極層3,4を形成する。
【0027】
そして、電解質層2の両面に電極層3,4を重ね合わせ熱圧着等により各層を接合することで図1に示す高分子アクチュエータ素子1を製造することができる。
【0028】
ここで本実施形態における「オリゴマー」は、平均分子量が40〜10000、好ましくは400〜4000の範囲内のモノマー重合体を指す。またエチレングリコールオリゴマーであるとき、重合度は、2〜200、好ましくは10〜100の範囲内であるとよい。
【0029】
またグラフト化率としては、1%〜50%、好ましくは、5%〜35%程度であることが好適である。グラフト化率とは、グラフト前における無処理のカーボンナノチューブを基準にし、グラフト化後の重量増加量を、前記基準の重量に対する比率で示した重量%値である。
【0030】
これにより、高分子アクチュエータ素子の耐久性を効果的に向上させることができるとともに、電極抵抗値の増大を抑制することができる。またキャスト性(製膜性)を向上させることができる。
【0031】
オリゴマーの材質を特に限定するものでないが、オリゴマーは、エチレングリコールオリゴマー、ジメチルシロキサンオリゴマー、あるいはエチレンオキサイドオリゴマーにより選択されることが好ましい。これらはいずれも高分子アゾ重合開始剤の高分子セグメントを構成できる。この中でもエチレングリコールオリゴマーを選択することがより好適である。
【0032】
本実施形態では、高分子アクチュエータ素子1の電極層3,4に含まれるカーボンナノチューブにオリゴマーをグラフト化した点に特徴的部分がある。ラジカル重合性オリゴマーは、カーボンナノチューブが持つ欠陥部と反応しやすいため、効果的にカーボンナノチューブの欠陥を修復できる。これにより、イオン液体の劣化を抑制できると考えられ、従来(オリゴマーをグラフト化していないカーボンナノチューブ使用)に比べて、耐久性を向上させることができる。特に後述の実験に示すように、本実施形態では、高分子アクチュエータ素子1を駆動させてある変位量に保ったとき、時間経過に伴う前記変位量の変動を小さくでき、安定したアクチュエータ特性を得ることができる。
【実施例】
【0033】
(ガスクロマト(GC)−質量(MS)分析)
実験では、無処理のカーボンナノチューブ(比較例)と、平均分子量が約4000のエチレングリコールオリゴマーをグラフト化したカーボンナノチューブ(実施例)を製造して、比較例及び実施例の各カーボンナノチューブに対してガスクロマト(GC)−質量(MS)分析を行った。カーボンナノチューブには、HiPco(Unidym社)SWCNTを用いた。また、エチレングリコールオリゴマーを、グラフト化前、高分子アゾ重合開始剤にて構成し図2に示すようにラジカル重合によりカーボンナノチューブにグラフト化した。高分子アゾ重合開始剤には和光純薬工業株式会社製VPE−0401を用いた。グラフト化は、カーボンナノチューブと高分子アゾ重合開始剤をトルエン溶媒に分散し、アルゴン雰囲気下80℃で6時間ないし24時間反応させて行った。
【0034】
また計測条件としては、昇温レート 10℃/分(40〜280℃)、保持時間 5分、イオン化法 EI、質量範囲(m/z) 30〜500、サンプル量 約0.2mg、熱脱着条件 450℃×10分、INF温度 350℃とした。
【0035】
図3(a)は、比較例の分析結果を示し、図3(b)は、実施例の分析結果を示す。図3(b)に示すように、エチレングリコール(−CH2−CH2−O−)に起因するスペクトルが見られた。
【0036】
(熱重量(TG)分析及び元素分析(ESCA))
次に、無処理のカーボンナノチューブ(比較例)と、平均分子量が約4000のエチレングリコールオリゴマーをグラフト化したカーボンナノチューブ(実施例1,2)と、平均分子量が約400のエチレングリコールオリゴマーをグラフト化したカーボンナノチューブ(実施例3,4)とを夫々製造して、比較例及び実施例1〜4の各カーボンナノチューブに対して熱重量(TG)分析を行った。実施例1と実施例2、及び実施例3と実施例4は、夫々反応時間を変えており、実施例1、3はグラフト化反応時間を6時間とし、実施例2、4はグラフト化反応時間を24時間とした。カーボンナノチューブには、HiPco(Unidym社)SWCNTを用いた。また、エチレングリコールオリゴマーを、グラフト化前、高分子アゾ重合開始剤にて構成し、図2に示すようにラジカル重合によりカーボンナノチューブにグラフト化した。高分子アゾ重合開始剤には平均分子量が4000のエチレングリコールオリゴマーとしてはVPE−0401を使用し、平均分子量が400のエチレングリコールオリゴマーはモノマーから合成したものを用いた。
【0037】
図4(a)は、比較例と、実施例1,2における熱重量(TG)分析結果である。図4(b)は、比較例と、実施例3,4における熱重量(TG)分析結果である。
【0038】
この実験結果を基にグラフト化率を算出した。グラフト化率とは、グラフト前における無処理のカーボンナノチューブを基準にし、グラフト化後の重量増加量を、前記基準の重量に対する比率で示した重量%値である。
その実験結果が以下の表1に示されている。
【0039】
【表1】

【0040】
続いて、上記の実施例1〜4及び比較例の元素分析をX線光電子分光(ESCA)により測定した。その実験結果が以下の表2に示されている。
【0041】
【表2】

【0042】
また表2に示す酸素含有量に基づいて、グラフト化率を算出した。その算出結果が以下の表3に示されている。
【0043】
【表3】

【0044】
熱重量分析により求めた表1のグラフ化率及びESCAによる元素分析の酸素含有量から求めた表3のグラフ化率は、最大でも3%程度のずれがあるだけでほぼ同等になることがわかった。
【0045】
実施例1,2は、平均分子量が約4000のエチレングリコールオリゴマーをグラフト化したものであり、平均分子量が約400のエチレングリコールオリゴマーをグラフト化した実施例3,4に比べて2倍から5、6倍程度にグラフト化率は高くなった。
【0046】
(グラフト化に関する考察)
表1に示したグラフト化率からカーボンナノチューブ(CNT)にエチレングリコールオリゴマーがどのような状態でグラフト化しているかを考察した。
【0047】
まずカーボンナノチューブ(HiPco(Unidym社)SWCNT)の平均直径は1nm、平均長さは500nmとされている。そして平均長さ500nmに占める炭素元素数及び分子量を分子軌道シミュレーションで求めたところ、炭素元素数は68000個、分子量は820000であった。
【0048】
次に平均分子量が4000のエチレングリコールオリゴマー、及び平均分子量が400のエチレングリコールオリゴマーの長さを求めた。まず、エチレングリコール(単量体)の長さをシミュレーションした。そして、平均分子量が4000のエチレングリコールオリゴマー(91量体)、及び平均分子量が400のエチレングリコールオリゴマー(9量体)の長さを求めたところ、前者は23nm、後者は2.3nmであった。
【0049】
以下の表4に、表1に示したグラフト化率、1mg中に占めるカーボンナノチューブ及びエチレングリコールオリゴマーの数、一本のカーボンナノチューブに対するエチレングリコールオリゴマーの数比率、及びカーボンナノチューブに対するエチレングリコールオリゴマーの長さ比率を示す。
【0050】
【表4】

【0051】
表4に示すように、平均分子量が約400のエチレングリコールオリゴマーは、一本のカーボンナノチューブに対して、長さ比率が約0.5%で、約130個、グラフト化されていることがわかった。また、表4に示すように、平均分子量が4000のエチレングリコールオリゴマーは、一本のカーボンナノチューブに対して、長さ比率が約5%で、約30個〜100個程度、グラフト化されていることがわかった。
【0052】
(電極抵抗値の測定及び平均分子量の範囲)
続いて、上記の実施例1〜4及び比較例の各サンプルを用いて電極層を形成した。各カーボンナノチューブ(15mg程度)とイオン液体(EMIBF;40mg程度)及び、溶媒(DMAc)を含む導電性インクをキャスト法にて所定形状に成形し、溶媒を蒸発させてシート状の電極層を得た。
【0053】
キャスト成膜性については、比較例よりも実施例、特に平均分子量が大きい実施例1,2を電極層に適用することでやや改善されることがわかった。
【0054】
【表5】

【0055】
ただし表5に示すように、電極抵抗値は、実施例では、比較例に比べて約2倍〜10倍程度にまで大きくなることがわかった。良好なアクチュエータ特性、応答性を得るには抵抗値は低いほうが好ましいため、エチレングリコールオリゴマーの平均分子量の範囲を規制することが必要となる。電極抵抗値は表5に挙げた結果よりもう少し大きくても実用化が可能であるが、分子量が10000を超えるとグラフト化されたエチレングリコールオリゴマーが長くなってカーボンナノチューブに巻き付きやすくなるため抵抗が急に大きくなる傾向が見られ、平均分子量の上限としては10000、好ましくは4000とした。
【0056】
また、オリゴマーの平均分子量の下限としては、あまり小さすぎるとカーボンナノチューブの欠陥の修復効果が小さく耐久性の向上を十分に図ることができない。本実施例では、オリゴマーの平均分子量の下限を40、好ましくは400とした。
【0057】
(耐久性実験)
次に、図1に示す高分子アクチュエータ素子を製造して、耐久性実験を行った。図5に示す実施例の高分子アクチュエータ素子は、実施例1,2(平均分子量が約4000のエチレングリコールオリゴマーをCNTにグラフト化したもの)のカーボンナノチューブを用いて形成した電極層を有するものと、実施例3,4(平均分子量が約400のエチレングリコールオリゴマーをCNTにグラフト化したもの)のカーボンナノチューブを用いて形成した電極層を有するものの4種類である。
【0058】
また比較例の高分子アクチュエータ素子は、比較例(エチレングリコールオリゴマーをCNTにグラフト化していないもの)による無処理のカーボンナノチューブを用いて形成した電極層を有するものである。
【0059】
実験では、各高分子アクチュエータ素子に対して2.5V印加した状態を、大気中(23℃、45RH%)にて保ち(DC駆動)、経過時間と変位量の変化との関係を測定した。
【0060】
図5の横軸の時間は任意単位であり、時間「1」が駆動の始まりである。このとき、各高分子アクチュエータ素子は基準状態(変位量0)から所定の変位量にまで変形する。DC駆動であるため、時間が経過してもその変位量を保つことが優れた耐久性を備えることになるが、図5に示すように、時間が経過するにつれて比較例の高分子アクチュエータ素子では変位量が大きく変動することがわかった。これに対して平均分子量4000のPEGをグラフト化した場合(実施例1と2)、及び、平均分子量400のPEGをグラフト化した場合(実施例3と4)では高分子アクチュエータ素子ではいずれも変位量の変動を比較例よりも抑えることができるとわかった。特に平均分子量が約4000のオリゴマーをカーボンナノチューブにグラフト化した実施例1と2では、実施例3と4よりも優れた耐久性を得ることができるとわかった。
【0061】
実施例1と2、及び、実施例3と4にて耐久性を改善できたのは、カーボンナノチューブの欠陥をオリゴマーのグラフト化により修復できイオン液体の劣化を抑制できたためであると考えられる。
【符号の説明】
【0062】
1 高分子アクチュエータ素子
2 電解質層
3、4 電極層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質層と、前記電解質層の厚さ方向の両面に配置される電極層とを有し、前記電解質層及び前記電極層はイオン液体を含むとともに前記電極層はカーボンナノチューブを含み、前記電極層間に電圧を付与すると変形する高分子アクチュエータ素子において、
前記電極層には、オリゴマーをグラフト化した前記カーボンナノチューブが含まれていることを特徴とする高分子アクチュエータ素子。
【請求項2】
前記オリゴマーの平均分子量が、40〜10000の範囲内である請求項1記載の高分子アクチュエータ素子。
【請求項3】
前記オリゴマーの平均分子量が、400〜4000の範囲内である請求項2記載の高分子アクチュエータ素子。
【請求項4】
前記オリゴマーは、エチレングリコールオリゴマー、ジメチルシロキサンオリゴマーあるいはエチレンオキサイドオリゴマーにより選択される請求項1ないし3のいずれか1項に記載の高分子アクチュエータ素子。
【請求項5】
電解質層と、前記電解質層の厚さ方向の両面に配置される電極層とを有し、前記電解質層及び前記電極層はイオン液体を含むとともに前記電極層はカーボンナノチューブを含み、前記電極層間に電圧を付与すると変形する高分子アクチュエータ素子の製造方法において、
カーボンナノチューブにオリゴマーをグラフト化する工程、
前記オリゴマーをグラフト化した前記カーボンナノチューブを含む前記電極層を形成する工程、
を有することを特徴とする高分子アクチュエータ素子の製造方法。
【請求項6】
前記オリゴマーをラジカル重合して前記カーボンナノチューブにグラフト化する請求項5記載の高分子アクチュエータ素子の製造方法。
【請求項7】
高分子アゾ重合開始剤からラジカル重合性オリゴマーを生じさせ、前記ラジカル重合性オリゴマーを前記カーボンナノチューブにラジカル重合してグラフト化する請求項6記載の高分子アクチュエータ素子の製造方法。
【請求項8】
前記オリゴマーの平均分子量を、40〜10000の範囲内とする請求項5ないし7のいずれか1項に記載の高分子アクチュエータ素子の製造方法。
【請求項9】
前記オリゴマーの平均分子量を、400〜4000の範囲内とする請求項8記載の高分子アクチュエータ素子の製造方法。
【請求項10】
前記オリゴマーを、エチレングリコールオリゴマー、ジメチルシロキサンオリゴマーあるいはエチレンオキサイドオリゴマーにより選択する請求項5ないし9のいずれか1項に記載の高分子アクチュエータ素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−17340(P2013−17340A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149634(P2011−149634)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【Fターム(参考)】