説明

高分子アクチュエータ

【課題】 積層体を強固に固定しても変位量および駆動力の低下を抑えることが可能な高分子アクチュエータを提供すること。
【解決手段】 積層体1Aが固定部材30を重ねて基台50との間にネジ止めすることにより、強固に固定されている。リング状の固定部材30に形成された押え部31が、積層体1Aに形成された略三角形状の可撓部22の支持部側を保持固定することにより、自由端を形成する可撓部22の第1辺22aと第2辺22bに寸法差を生じさせる。積層体1Aに電界を与えて、可撓部22に曲げ変形させると、前記の寸法差が可撓部22の頂点Aに捩じれを発生させる。各頂点Aには通常の曲げ応力による駆動力に加えて、捩じれ変形による力の成分が加わるため、可撓部22の変位量および駆動力の低下を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極間に電位差を与えると変形を生じるアクチュエータに係り、特に電界によるイオンの移動に伴い変形を生じる高分子アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、イオン交換樹脂を用いたアクチュエータが記載されている。
同文献の図6に記載のアクチュエータは、輪状からなるアクチュエータ素子の内側に複数の脚部が一体形成されており、リード線を介して脚部に電圧を与えると前記脚部を屈曲させることができるというものである。
【0003】
また特許文献2には、C型形状からなる陽イオン交換樹脂を用いたアクチュエータが記載されている。このアクチュエータでは、電極間に電圧を印加すると、負電極が凸状に、正電極が凹状となるように変形することから、アクチュエータ全体を略円錐形状に変形させることができるというものである。
【0004】
特許文献1に記載されたアクチュエータでは一度に複数の脚部を用いることにより、特許文献2に記載されたアクチュエータでは内周側に駆動力を集中することにより、ともに大きな駆動力を得ることが可能とされている。
【特許文献1】特開平2004−282992号公報
【特許文献2】特開平2005−27444号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載のものでは、脚部と輪状部分とが一体に形成されており、脚部が屈曲すると、支持部を形成する輪状のアクチュエータ素子の内周側が脚部とともに軸中心線と平行を成す上下方向に変形しやすい形状である。しかも、特許文献1にも記載されているように、複数の脚部の変位量に差が生じた場合には、アクチュエータ素子自体がウェーブ状に変形してしまう。
【0006】
このため、このようなアクチュエータを安定的に駆動するためには、支持部(輪状のアクチュエータ素子)を強固に保持固定することが必要であり、このため固定部材の大型化および複雑化を招き、コストが高騰しやすいという問題がある。
【0007】
一方、固定部材により支持部を強く保持固定しすぎると、脚部の動きが拘束されやすくなる、このため、アクチュエータの変位量が小さくなり、または大きな駆動力を発生することができなくなるという問題が生じる。
【0008】
本発明は上記従来の課題を解決するためのものであり、支持部を強固に固定しても変位量および駆動力の低下を抑えることを可能とした高分子アクチュエータを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、電解質層の両面に一対の電極層がそれぞれ積層された積層体からなる高分子アクチュエータにおいて、
前記積層体は、支持部と前記支持部と対向する頂点とを有し、前記支持部の一方の端部から前記頂点に向かって延びる第1辺及び前記支持部の他方の端部から前記頂点に向かって延びる第2辺とにより挟まれた領域が可撓部とされており、
前記第1辺の長さ寸法と前記第2辺の長さ寸法との間に寸法差が設けられていることを特徴とするものである。
【0010】
本発明では、二辺の間の寸法差を形成しておくことにより、可撓部に捩じれを生じさせることができる。捩じれは、可撓部の自由端側ほど大きいため、本来の曲げ変形による駆動力に加えて、捩じれによる駆動力を発生させることができる。その結果、大きな駆動力および変形量を発生させることができる。
【0011】
例えば、前記第1辺と前記第2辺が直線で形成されているものである。あるいは前記第1辺と前記第2辺とが曲率半径の異なる曲線で形成されているものである。前者の場合には、可撓部の全長を短く形成することができるため、駆動力の大きなアクチュエータとすることができる。また後者の場合には、可撓部の全長を長くできるため、変形量の大きなアクチュエータとすることができる。
【0012】
また複数の可撓部が設けられているものとして形成される。
この場合、前記支持部がリング状に形成されており、前記可撓部が前記支持部の内側から前記リングの中心に向かって突出形成されているものである。
【0013】
上記手段では、複数の可撓部の駆動力を集約した状態で取り出すことができ、より大きな駆動力を発生することが可能なアクチュエータとすることができる。
【0014】
また周方向に隣接する可撓部どうしが互いに合同をなす形状で形成されるものが好ましい。
【0015】
上記手段では、個々の可撓部が発生する駆動力を等しくできる。また、隣接する可撓部同士が接触することによる駆動力のロスが生じ難いため、駆動力を効率良く取り出すことができる。
【0016】
また、前記複数の可撓部の数が二つであり、前記二つの可撓部が、前記支持部を共有し前記二つの可撓部のそれぞれの頂点の距離が離れるように配置され、前記積層体全体が略四角形状に形成されているものが好ましい。
【0017】
上記手段では、先端に捩じれ変形させることができ、しかも複数の可撓部を備えたアクチュエータを簡単な構成で形成することができる。
【0018】
上記いずれにおいても、前記頂点を二つ有し、前記可撓部が略台形形状で形成されているものが好ましい。
【0019】
上記手段では、可撓部に大きな捩れを発生させることができるため、充分に大きな変位量および駆動力を発生するアクチュエータを得ることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の高分子アクチュエータでは、支持部を強固に保持固定することができるとともに、このように保持固定しても可撓部の充分に大きな変位量および駆動力を発生することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1はイオン導電型の高分子アクチュエータの基本原理を説明するための断面図であり、(A)は動作前の非駆動状態、(B)は駆動状態を示している。
【0022】
まず、高分子アクチュエータの基本構成について説明する。
図1(A)(B)に示すイオン導電型の高分子アクチュエータ1は、電解質層2と、この電解質層2の一方の面に設けられた第1の電極層3と、電解質層2の他方の面に設けられた第2の電極層4とが重ねられた積層体1Aとして構成されている。
【0023】
電解質層2は、イオン交換が可能な樹脂層であり、陽イオン交換樹脂に電解質である電解液が含浸されたものである。陽イオン交換樹脂は、ポリエチレン、ポリスチレン、フッ素樹脂などにスルホン酸基やカルボキシル基などの親水性官能基が導入されたものである。電解液は、塩を含有する分極性有機溶媒やイオン液体などである。また、電解質層2が、ポリフッ化ビニリデンなどのベースポリマーにイオン液体が混入されてゲル状とされたものであってもよい。
【0024】
第1の電極層3および第2の電極層4は、電解質層2と同じ電解質層に導電性フィラーが含まれているものである。すなわち、第1の電極層3と第2の電極層4は、電解液が含浸されたイオン交換樹脂に、さらにカーボンナノチューブやカーボンナノファイバーなどの導電性フィラーが混入されて構成されている。あるいは陽イオン液体を含んだ前記ゲル状の層の内部に導電性フィラーが混入されているものであってもよい。
【0025】
前記電解質層2となるシート状の樹脂と、導電性フィラーが混入されたシート状の第1の電極層3およびシート状の第2の電極層4とが積層されることで、図1(A)に示す3層構造の積層体1Aを形成することができる。この積層体1Aは、電解質層2と第1の電極層3との境界面、および電解質層2と第2の電極層4との境界面は、強い密着性を有して結合されている。
【0026】
また、第1の電極層3と第2の電極層4を形成する他の方法として、メッキ浴や金属錯体の溶液を使用して、電解質層2を構成する陽イオン交換樹脂の両面に金や銀または銅などの導電性金属を付着させて、第1の電極層3および第2の電極層4を形成してもよい。この場合に、前記導電性金属は、その一部が電解質層2を構成する樹脂内に入り込んだ構造である。
【0027】
図1(B)に示すように、第1の電極層3が陽極側となり、第2の電極層4が陰極側となるように、電解質層2に電界が与えられると、電解質層2内の陽イオンおよび極性分子が陰極側である第2の電極層4へ偏移する。第1の電極層3と第2の電極層4とが、電解質層2と同様にイオン交換可能な層の内部に導電性フィラーが混入されたものである場合には、第1の電極層3と第2の電極層4内で解離した陽イオンおよび極性分子も第2の電極層4側に偏移する。
【0028】
その結果、電解質層2の内部では、第2の電極層4側に偏った位置で体積が膨張しようとする。つまり、第2の電極層4側において膨張応力が発生しこれに基づいて膨張歪みが発生するために、積層体1Aに曲げ応力が発生して、図1(B)に示すように積層体1Aに曲げが発生し、高分子アクチュエータ1として機能する。
【0029】
以下の説明においては、図1(B)に示すように、高分子アクチュエータ1を形成する積層体1AのY2側の一端を固定端1aとし、Y1側の他端を自由端1bとして説明する。
【0030】
なお、変形量ΔHとは、固定端1aを基準として自由端1bをZ方向に曲げ変形させたときに、自由端1bの初期状態におけるZ方向の位置と変形後のZ方向の位置との差を意味する。変形量は固定端1aと自由端1bとの間の距離に比例する。また駆動力とは、高分子アクチュエータ1の自由端1bを持ち上げることができる最大の力、または自由端1bに加えた荷重を大きくしたときに変形量ΔH=0を維持することができる最大荷重(耐荷重量)を意味する。
【0031】
以下には、上記基本構成を備えた高分子アクチュエータについて説明する。
なお、以下に示す高分子アクチュエータは、例えば、キーボード装置や操作パネルなどに設けられるキートップを、必要に応じ突出させる駆動源、あるいは、カメラレンズのフォーカス装置などの駆動源への応用が考案されている。
【0032】
図2は本発明の第1の実施の形態を示す高分子アクチュエータを示し、(A)は高分子アクチュエータの全体の平面図、(B)は高分子アクチュエータの一部を構成する可撓部の平面図、図3は可撓部を拡大して示す側面図であり、(A)は駆動前の初期状態、(B)は高分子アクチュエータの駆動状態を示している。
【0033】
図2に示すように、本発明の高分子アクチュエータ10は、リング状に形成された支持部11と、この支持部11の内縁部に円の中心方向に向けて突出するとともに周方向に周設された複数の可撓部12とを有して構成され、このような高分子アクチュエータ10は上記の基本構成を備えた積層体1Aにより一体に形成されたものである。
【0034】
可撓部12は略三角形状に形成されており、三角形の底辺側が支持部11の内側に設けられ、且つ個々の三角形の頂点Aがリング状の支持部11の中心側に位置するように円周方向に所定の間隔で並べられている。
【0035】
複数の可撓部12はすべて同じ形状(合同)である。支持部11はリング状であるため、リング状の固定部材を用いて固定することができる。すなわち、リング状の支持部11を、同じくリング状の固定部材と基台50との間に設置し、上下方向から挟み込んで強固に保持固定することが可能である。
【0036】
ここで、1つの可撓部12において、頂点Aから支持部11に向かって2方向にそれぞれ延びる2辺と支持部11との2つの交点の一方を第1交差部11a、他方を第2交差部11bとする。さらに、頂点Aから第1交差部11aに延びる一方の辺を第1辺12a、頂点Aから第2交差部11bに延びる他方の辺を第2辺12bとする。なお、頂点Aが自由端1bに相当し、第1交差部11aおよび第2交差部11bが固定端1aに相当している。
【0037】
この可撓部12は、第1辺12aおよび第2辺12bがともに円弧形状で形成されている。第1辺12aの長さ寸法(頂点Aから第1交差部11aまでの距離)L1と第2辺12bの長さ寸法(頂点Aから第2交差部11bまでの距離)L2とを比較すると、長さ寸法L1は長さ寸法L2よりも短い寸法で形成されている(L1<L2)。
【0038】
このように、略三角形状から形成される可撓部12の第1辺12aと第2辺12bとは異なる寸法で形成されている。このため、積層体に電界が与えられて可撓部12に曲げ変形が発生すると、第1辺12aと第2辺12bとの長さ寸法差に起因するねじりモーメントが発生する。すなわち、自由端である頂点AがZ1方向に曲げ変形すると同時に、長い方の長さ寸法L2からなる第2辺12bが短い方の長さ寸法L11よりも大きくZ1方向に曲げ変形しようとするため、可撓部12に捩じれが発生する(図2(B)の矢印参照)。この捩じれは、自由端の先端である頂点Aほど大きい。
【0039】
このため、可撓部12の頂点Aには通常の曲げ応力による駆動力に、捩じれ変形による力の成分が加わる。その結果、この高分子アクチュエータには、従来の片持ち支持だけの可撓部よりも大きな駆動力を発生させることが可能である。
【0040】
しかも捩じれが発生する分だけ、頂点Aの変形量ΔHも増大させることが可能となる(図3(A)(B)参照)。
【0041】
このように、本願発明の高分子アクチュエータ10では、支持部11を強固に保持固定しても可撓部12に発生する駆動力の低下を防止することができるとともに、変位量ΔHを増大させることが可能である。
【0042】
図4は本発明の第2の実施の形態を示す高分子アクチュエータの分解斜視図、図5(A)は図4に示す高分子アクチュエータの平面図、(B)は(A)の断面図、図6は図5の(A)を部分的に拡大して示す平面図である。
【0043】
第2の実施の形態に示す高分子アクチュエータ20も、上記基本構成を備えた積層体1Aにより一体的に形成されている。
【0044】
第2の実施の形態に示すアクチュエータ20は、可撓部22を三角形状に形成した点が上記第1の実施の形態の高分子アクチュエータ10と異なる点であり、以下に説明する。
【0045】
図4に示すように、積層体1Aの全体は円形状に形成されており、その外縁側にリング状からなる支持部21が設けられている。そして、積層体1Aの中心を頂点Aとし、外縁側の支持部11を底辺とする三角形状の可撓部22が複数設けられている。これら複数の可撓部22は、支持部21の内側に周方向に一定の中心角α(図4ないし図6では、α=45度)で配置されている。すなわち、各可撓部22は底辺側が支持部21を介して周方向に連結された状態で一体に形成されているが、頂点A同士はそれぞれ分離している。したがって、個々の可撓部22は外縁側の支持部21が固定端を形成し、中心側の頂点Aは自由端を形成している。
【0046】
なお、周方向に隣接する可撓部22同士の間には三角状の隙間からなる開口スペース23が形成されており、一方の可撓部22の第1辺22aとこれと隣接する他方の可撓部22の第2辺22bとが開口スペース23を介して周方向に対向している。
【0047】
この実施の形態では、一つの可撓部22を形成する第1辺22aと第2辺22bとは同じ長さ寸法Lであり、可撓部22は二等辺三角形で形成されている。
【0048】
前記積層体1Aの両面に形成された第1の電極層3と第2の電極層4との間に電界を与えると、複数の可撓部22はすべて同じ方向に同時に曲げ変形させられる。
【0049】
図5(B)に示すように、高分子アクチュエータ20は、例えば符号30に示すような固定部材と、基台50との間に支持部21が挟まれた状態で保持固定される。
【0050】
固定部材30はリング形状で形成されており、固定部材30の内縁部には中心方向に突出する複数の押え部31が周方向に一定の中心角αで形成されている。各押え部31は、半径方向に対して垂直をなす垂直押え部31aと、半径方向に対して平行をなす平行押え部31bと、積層体1Aに形成された開口スペース23を避けるようにその外側に形成された回避部34とを有し、これらの形状がこの順番で周方向に繰り返されることにより形成されている。
【0051】
積層体1Aの縁部には複数のネジ穴33が一定の間隔で穿設されている。図5(A)に示すように、固定部材30は、積層体1Aの上にXY方向および周方向に位置合わされ、図示しないネジが固定部材30のネジ穴33に挿入されて基台50上に螺着される。これにより、積層体1Aが基台50と固定部材30との間に強固に保持固定されている。
【0052】
固定部材30の押え部31は、積層体1Aの可撓部22の固定端側である支持部21のみを基台50との間で上下方向から拘束する。したがって、可撓部22の頂点A側は拘束力を受けない自由状態にある。
【0053】
ここで、図6に示すように、可撓部22の頂点Aから支持部21に向かって2方向に延びる一方の第1辺22aと支持部21とが交差する点を第1交差部21aとし、同じく頂点Aから支持部21に向かって延びる他方の第2辺22bと支持部21とが交差する点を第2交差部21bとする。
【0054】
押え部31の垂直押え部31aと平行押え部31bとは、可撓部22の第1辺22a上の位置21cにて交差しており、可撓部22の固定部側を基台50との間で保持固定している。頂点Aと位置21cとの長さ寸法をL3とする。押え部31が可撓部22に重なる保持状態では、第2辺22bの長さ寸法Lはそのままである。しかし、第1辺22aの実質的な長さ寸法、すなわち第1辺22aが自由端として機能する長さ寸法は、押え部31が可撓部22に重なる部分の長さ寸法(L−L3)を除いたL3である。
【0055】
このように、押え部31は、支持部21から略三角形状に突出する可撓部22を形成する第1辺22aと第2辺22bとの間に寸法差L−L3を形成する。
【0056】
よって、上記第1の実施の形態と同様に、可撓部22が曲げ変形する際に、可撓部22の頂点A側に前記寸法差L−L3に応じた捩じれを発生させることができる。よって、積層体1Aを基台50と固定部材30との間に強固に固定した場合であっても、各頂点Aには通常の曲げ応力による駆動力に、捩じれ変形による力の成分が加わるため、可撓部22の変位量および駆動力を容易に増大させることが可能である。
【0057】
なお、本実施の形態においては、積層体1Aは一様な構造であるものとしたが、固定部材30により拘束される部分においては第1の電極層3または第2の電極層4のうちいずれかが形成されてない部分があってもかまわない。この場合、積層体1のうち電圧がかかっているにもかかわらず拘束されて動けない部分の面積が小さくなり、電流を有効に活用できる。また、積層体1Aは周方向にいくつかに分割されていても同様の動作が可能であり、可撓部22ごとに分割されて可撓部22の集合体として形成されていてもかまわない。
【0058】
また、高分子アクチュエータは以下に示すような形状であってもよい。
図7Aは第2の実施の形態の変形例を示す高分子アクチュエータの平面図、図7Bは図7Aの積層体を示す平面図、図7Cは図7Aの固定部材を示す平面図である。なお、図7A,図7Cではハッチングを付した部分が固定部材を示している。
【0059】
図7Aないし図7Cに示す高分子アクチュエータは、リング形状からなり、内縁側に複数の押え部31が設けられた固定部材30と、同じくリング形状からなる支持部21の内側に複数の可撓部22が形成された積層体1Aとが設けられ、積層体1Aの外縁である支持部21が固定部材30で固定される点、各可撓部22の先端は互いに分離され自由端として機能しており、与えられた電界に応じて各可撓部22の先端が曲げ変形する点、および固定部材30の押え部31によって可撓部22を形成する第1辺と第2辺との間に実質的な寸法差を設けるようにしている点、において上記第2の実施の形態と同様である。
【0060】
ただし、第3の実施の形態では、可撓部22をスパイラル状に形成した点で上記第2の実施の形態と相違している。このような構成でも、固定部材30を用いて基台上に積層体1Aを強固に固定した場合に、上記同様の捩じれ変形を発生させることができ、可撓部22の変位量および駆動力を増大させることができる。
【0061】
なお、図7A、図7Bに示すように、隣接する可撓部22どうしの間に第1の実施の形態同様に隙間からなる開口スペース23を形成しておくと、変形する際に隣接する可撓部22どうしの接触が防止され、変位量および駆動力のロスを避けることが可能となる点で好ましい。
【0062】
図8は本発明の第3の実施の形態を示す斜視図である。
第2の実施の形態に示す高分子アクチュエータ40も、上記基本構成を備えた積層体1Aにより一体的に形成されている。この高分子アクチュエータ40は、外観が長方形状からなる積層体1Aで形成されている。
【0063】
積層体1Aは、一つの対角線が固定部材の押え部31と基台(図示せず)との間に強固に挟まれた状態で保持固定されており、この部分が固定端を形成している。そして、対角線を共通の底辺としてその両側に2つの三角形が設けられており、これらが可撓部42,42を形成している。なお、可撓部42,42の先端が自由端である。いいかえると、二つの可撓部42、42は押え部31を共有し、自由端(頂点)A、Aが互いに距離が離れるよう背中合わせに配置されている。
【0064】
一方の可撓部42と他方の可撓部42とは対角線に対して線対称に設けられている。第1辺42aおよび第2辺42bは、一方の可撓部42と他方の可撓部42との間でそれぞれ同じ長さ寸法で形成され、全体として長方形状とされている。
【0065】
このため、図8に点線で示すように、積層体1Aの両面に所定の電界を与えると、2つの可撓部42,42を同じ方向に同期して曲げ変形させることができる。このとき、2つの可撓部42,42に発生する変形量および駆動力は同等である。
【0066】
しかも、第1辺42aの長さ寸法と第2辺42bの長さ寸法との間には、積層体1Aの形状である長方形に応じた寸法差が形成されている。このため、上記第1および第2の実施の形態同様に、可撓部42,42が曲げ変形する際に可撓部42,42の寸法差に応じた捩じれを発生させることができる。よって、固定端である対角線を押え部31と基台(図示せず)とで強固に保持固定したとしても、可撓部42,42の変位量および駆動力を容易に増大させることが可能である。
【0067】
なお、第1辺42aと第2辺42bの長さを変え、全体として平行四辺形状としても同様の効果を奏することができる。また、第1辺42aと第2辺42bが異なる曲率半径を持つ曲線となり、全体として4本の曲線からなる4辺形としてもよい。
【0068】
以上のように本願発明の高分子アクチュエータでは、簡単な構成で、支持部を強固に保持固定することができるとともに可撓部の充分に大きな変位量および駆動力を発生することができる。
【0069】
さらに上述した積層体1Aの形状は、以下に示すような台形形状としたものであってもよい。
【0070】
図9は可撓部の他の形状として積層体の一部を示す平面図である。
図9に示す積層体1Aは、仮想の頂点Aから2方向に延びる互いに長さ寸法の異なる第1辺22a,第2辺22bと、上底部22cおよび下底部22dとからなる。ここで、互いに長さが異なる第1辺22aおよび第2辺22bと、上底部22cとがそれぞれ交わる交点2つを頂点A1,A2とする。下底部22dは、リング形状の支持部21の一部で形成されており、全体として略台形形状である。そして、支持部21から中心方向に突出する略台形形状の部分が可撓部22に相当している。可撓部22のうち下底部22dを含む支持部21側の一部は、上記同様に固定部材30に設けられた押え部31により上下方向から挟み込まれて強固に保持固定されている。
【0071】
この実施の形態においては、上底部22cの両端に位置する第1辺22aの長さ寸法Laと第2辺22bの長さ寸法Lbとの間に寸法差(Lb−La)が設けられる。これにより、積層体1Aに電界を与えて動作させたときに、中心側となる可撓部22の上底部22cに寸法差(Lb−La)に起因する捩じれを発生させることができる。
【0072】
このように可撓部22を略台形形状に形成すると、可撓部22の先端である上底部22cに、通常の曲げ変形による駆動力に加えて捩じれ変形による力の成分が加わるようになり、より大きな駆動力を発生させることが可能となる。よって、支持部21を強固に固定しても可撓部22における変位量および駆動力の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】イオン導電型の高分子アクチュエータの基本原理を説明するための断面図であり、(A)は動作前の非駆動状態、(B)は駆動状態、
【図2】本発明の第1の実施の形態を示す高分子アクチュエータを示し、(A)は高分子アクチュエータの全体の平面図、(B)は高分子アクチュエータの一部を構成する可撓部の平面図、
【図3】可撓部を拡大して示す側面図であり、(A)は駆動前の初期状態、(B)は高分子アクチュエータの駆動状態、
【図4】本発明の第2の実施の形態を示す高分子アクチュエータの分解斜視図、
【図5】(A)は図4に示す高分子アクチュエータの平面図、(B)は(A)の断面図、
【図6】図5の(A)を部分的に拡大して示す平面図、
【図7A】第2の実施の形態の変形例を示す高分子アクチュエータの平面図、
【図7B】図7Aの積層体を示す平面図、
【図7C】図7Aの固定部材を示す平面図、
【図8】本発明の第3の実施の形態を示す斜視図、
【図9】可撓部の他の形状として積層体の一部を示す平面図、
【符号の説明】
【0074】
1 高分子アクチュエータ
2 電解質層
3 第1の電極層
4 第2の電極層
1A 積層体
10,20,40 高分子アクチュエータ
11,21 支持部
11a,21a 第1交差部
11b,21b 第2交差部
12,22 可撓部
12a,22a,42a 第1辺
12b,22b,42b 第2辺
30 固定部材
31 押え部
31a 垂直押え部
31b 平行押え部
A 頂点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質層の両面に一対の電極層がそれぞれ積層された積層体からなる高分子アクチュエータにおいて、
前記積層体は、支持部と前記支持部と対向する頂点とを有し、前記支持部の一方の端部から前記頂点に向かって延びる第1辺及び前記支持部の他方の端部から前記頂点に向かって延びる第2辺とにより挟まれた領域が可撓部とされており、
前記第1辺の長さ寸法と前記第2辺の長さ寸法との間に寸法差が設けられていることを特徴とする高分子アクチュエータ。
【請求項2】
前記第1辺と前記第2辺が直線で形成されている請求項1記載の高分子アクチュエータ。
【請求項3】
前記第1辺と前記第2辺とが曲率半径の異なる曲線で形成されている請求項1記載の高分子アクチュエータ。
【請求項4】
複数の可撓部が設けられている請求項1ないし3のいずれかに記載の高分子アクチュエータ。
【請求項5】
前記支持部がリング状に形成されており、前記可撓部が前記支持部の内側から前記リングの中心に向かって突出形成されている請求項4に記載の高分子アクチュエータ。
【請求項6】
周方向に隣接する可撓部どうしが互いに合同をなす形状で形成される請求項5記載の高分子アクチュエータ。
【請求項7】
前記複数の可撓部の数が二つであり、前記二つの可撓部が、前記支持部を共有し前記二つの可撓部のそれぞれの頂点の距離が離れるように配置され、前記積層体全体が略四角形状に形成されている請求項4記載の高分子アクチュエータ。
【請求項8】
前記頂点を二つ有し、前記可撓部が略台形形状で形成されている請求項1ないし7のいずれかに記載の高分子アクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−115016(P2010−115016A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−285576(P2008−285576)
【出願日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)