説明

高分子アクチュエータ

【課題】 簡単な構成で、変位量および駆動力の大きな高分子アクチュエータを提供すること。
【解決手段】 第1の高分子シート20と第2の高分子シート30とが拘束部材15a,15bに並設されている。一方の第1の高分子シートを仮想中心線Oa−Oaに対して左右対称となる形状で形成し、他方の第2の高分子シート30を仮想中心線Ob−Obに対して左右非対称となる形状で形成する。両高分子シート20,30に所定の電界を与えると、一方の左右対称の第1の高分子シート20の自由端22はZ1方向に曲げ変形する。他方の左右非対称の第2の高分子シート30の自由端32は、Z1方向への曲げ変形と捩れ変形とが同時に発生し、自由端32が第1の高分子シート20の湾曲面の外側に回り込んで第1の高分子シート20の外面をZ1方向に支持する。これにより、高分子アクチュエータ1の変位量および駆動力を大きくすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極間に電位差を与えると変形を生じるアクチュエータに係り、特に電界によるイオンの移動に伴い変形を生じる高分子アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高分子アクチュエータの1つとして、イオン交換樹脂層と、このイオン交換樹脂層を挟んで、両側に相互に絶縁状態で形成された金属電極層とを備えたイオン伝導アクチュエータが知られている(例えば、下記特許文献1)。この高分子アクチュエータは、対向する金属電極層の間に電位差をかけて、イオンあるいは極性分子を一方の面側に局在化させることによりイオン交換樹脂層に湾曲及び変形を生じさせることで、アクチュエータとして機能させるというものである。
【特許文献1】特開平11−235064号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この手のアクチュエータを短冊状のシート形状で用いる場合、シートが細長ければ変位量は大きく、発生荷重(駆動力)は小さい。これとは逆に幅を広く長さを短くすると、発生荷重は大きくなるが、変位量が小さくなる。
【0004】
したがって、必要な変位量と発生荷重に合わせて、厚み、縦横寸法比を設計することになるが、変位量、発生荷重を共に大きくすることは難しかった。
【0005】
本発明は上記従来の課題を解決するためのものであり、簡単な構成で大きな変位量および発生荷重を得ることが可能な高分子アクチュエータを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、電解質層及び前記電解質層の両面にそれぞれ設けられた一対の電極層とを有し、前記一対の電極間に与えられた電界に応じて主として前記電極層に対して直交する第1の方向に湾曲変形する可撓部が二以上併設された高分子アクチュエータにおいて、
各可撓部の前記電極間に各可撓部が同じ第1の方向に湾曲する電界を与えたときに、少なくとも一の可撓部が、捩れを含む湾曲変形により、隣接する他の可撓部の湾曲面の外側をなす面と当接可能な位置に回りこみ、該他の可撓部が前記一の可撓部によって支持されることを特徴とするものである。
【0007】
本発明では、一方の可撓部が変形したときに、並設された他方の可撓部を下側から支持するという簡単な構成により、大きな変位量および駆動力を得ることができる。
【0008】
上記においては、前記一対の可撓部が、前記一方の可撓部と前記他方の可撓部との間で非対称の形状で形成されているものである。
【0009】
または、前記一の可撓部に形成された前記一対の電極層の形状が、左右非対称で形成されているものである。
【0010】
あるいは、前記一の可撓部の両面に形成された前記一対の電極層の導電性が、電極層の内部で場所ごとに異なるものである。
【0011】
上記構成では、一の可撓部に捩れ変形を積極的に発生させることができ、他方の可撓部側により大きく変位して回りこむことから、より大きな力で支持することが可能となる。
【0012】
また複数の前記可撓部が階段状に隣接配置されており、下段側に位置する一の可撓部が、それよりも上段側に隣接して配置された他の可撓部を支持することが、前記下段側から上段側にかけて順次行われているものとすることができる。
【0013】
上記手段では、上段側の可撓部をこれに隣接配置された下段側の可撓部が順次支持することができるため、上段側の可撓部が発生荷重の低い細長い形状からなる可撓部であっても各可撓部が発生する発生荷重が合成されてより大きな発生荷重(駆動力)を発生させることが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の高分子アクチュエータでは、簡単な構成で、大きな変位量および駆動力を発生させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は本発明におけるイオン導電型の高分子アクチュエータの基本原理を説明するための側面図である。
【0016】
図1に示すイオン導電型の高分子アクチュエータ1は、電解質層2と、この電解質層2の一方の面に設けられた第1の電極層3と、電解質層2の他方の面に設けられた第2の電極層4とを重ねた積層型の高分子シート1Aとして形成されている。
【0017】
電解質層2は、イオン交換が可能な樹脂層であり、イオン交換樹脂に電解質である電解液が含浸されたものである。イオン交換樹脂は、ポリエチレン、ポリスチレン、フッ素樹脂などにスルホン酸基やカルボキシル基などの親水性官能基が導入されたものである。電解液は、塩を含有する分極性有機溶媒やイオン液体などである。また、電解質層2が、ポリフッ化ビニリデンなどのベースポリマーにイオン液体が混入されてゲル状とされたものであってもよい。
【0018】
第1の電極層3および第2の電極層4は、電解質層2と同じ電解質層に導電性フィラーが含まれているものである。すなわち、第1の電極層3と第2の電極層4は、電解液が含浸されたイオン交換樹脂に、さらにカーボンナノチューブやカーボンナノファイバーなどの導電性フィラーが混入されて構成されている。あるいはイオン液体を含んだ前記ゲル状の層の内部に導電性フィラーが混入されているものであってもよい。
【0019】
電解質層2に混入する導電性フィラーの割合を変えることにより、第1の電極層3および第2の電極層4の導電率を調整することが可能とされている。
【0020】
前記電解質層2となるシート状の樹脂と、導電性フィラーが混入されたシート状の第1の電極層3およびシート状の第2の電極層4とが積層されることで、図1に示す3層構造の高分子シート1Aを形成することができる。この高分子シート1Aは、電解質層2と第1の電極層3との境界面、および電解質層2と第2の電極層4との境界面が強い密着性を有する構造となっている。
【0021】
また、第1の電極層3と第2の電極層4を形成する他の方法として、メッキ浴や金属錯体の溶液を使用して、電解質層2を構成するイオン交換樹脂の両面に金や銀または銅などの導電性金属を付着させて、第1の電極層3および第2の電極層4を形成してもよい。この場合に、前記導電性金属は、その一部が電解質層2を構成する樹脂内に入り込んだ構造である。この場合にも、付着させる導電性金属の比率を変えることにより、第1の電極層3および第2の電極層4の導電率を調整することが可能である。
【0022】
高分子アクチュエータ1は、高分子シート1Aの一方の端部である固定端1aが上下方向から拘束部材5a,5bによって挟持されることにより固定されている。
【0023】
図1に示すように、第1の電極層3が陽極側となり、第2の電極層4が陰極側となるように、電解質層2に電界が与えられると、電解質層2内のイオンおよび極性分子が陰極側である第2の電極層4へ偏移する。第1の電極層3と第2の電極層4とが、電解質層2と同様にイオン交換可能な層の内部に導電性フィラーが混入されたものである場合には、第1の電極層3と第2の電極層4内で解離したイオンおよび極性分子も第2の電極層4側に偏移する。
【0024】
その結果、電解質層2の内部では、第2の電極層4側に偏った位置で体積が膨張しようとする。つまり、第2の電極層4側において膨張応力が発生しこれに基づいて膨張歪みが発生するために、高分子シート1Aに曲げ応力が発生して、図1の実線に示すように、高分子シート1Aに曲げ変形が発生し、高分子アクチュエータ1として機能する。
【0025】
なお、以下の説明において変位量ΔHとは、固定端1aを基準として自由端1cをZ方向に曲げ変形させたときに、自由端1cの破線で示す初期状態におけるZ方向の位置と、実線で示す変形後のZ方向の位置との差を意味する。変位量ΔHは固定端1aと自由端1cとの間の距離に比例する。また発生荷重(駆動力)とは、高分子アクチュエータ1の自由端1cを持ち上げることができる最大の力、または自由端1cに加えた荷重を大きくしたときに変位量ΔH=0を維持することができる最大荷重(耐荷重量)を意味する。
【0026】
また高分子シート1Aが曲げ変形するときに、高分子シート1Aは主として第1の電極層3と直交する第1の方向α1(図1の矢印方向)に曲げ変形する。このとき、第1の方向となる曲げの曲率中心が位置する側の湾曲面を高分子シート1Aの内面と規定し、これとは逆側の湾曲面を外面(外側をなす面)と規定する。なお、図1では、第1の電極層3の表面が高分子シート1Aの内面に該当し、第2の電極層4の表面が高分子シート1Aの外面(外側をなす面)に該当している。ただし、電界を逆方向に与えることにより、高分子シート1Aの曲げ変形する第1の方向が、第2の電極層4と直交するα2(α1方向と逆方向)となる場合には、第1の電極層3の表面が高分子シート1Aの外面(外側をなす面)に該当し、第2の電極層4の表面が高分子シート1Aの内面に該当することになる。
【0027】
図2は本発明の第1の実施の形態として高分子アクチュエータを示す斜視図、図3は高分子アクチュエータを図2のY2方向に見た場合を示す正面図であり、(A)は非駆動状態、(B)は駆動状態、また図4は高分子アクチュエータを図2のX1方向に見た場合を示す側面図であり、(A)は非駆動状態、(B)は駆動状態である。
【0028】
図2ないし図4に示すように、第1の実施の形態に示す高分子アクチュエータ10は、互いに独立して動作する二枚の高分子シートから形成されている。すなわち、高分子アクチュエータ10は、帯状からなる第1の高分子シート(第1の可撓部)20と、三角形状からなる第2の高分子シート(第2の可撓部)30の二枚の高分子シートから構成される。
【0029】
第1の高分子シート(第1の可撓部)20と第2の高分子シート(第2の可撓部)30の構造は、上記基本原理と同様であり、その外観の形状が異なるだけである。すなわち、第1の高分子シート20と第2の高分子シート30は、ともに電解質層2の両面に一対の電極層を形成する第1の電極層3および第2の電極層4がそれぞれ設けられた構成である。
【0030】
第1の高分子シート20と第2の高分子シート30とは、ともに長手方向をY方向に向けるとともに、幅(X)方向に所定の隙間を空けて並設されている。そして、第1の高分子シート20の固定端21と第2の高分子シート30の固定端31とが、拘束部材15a,15bによって板厚方向(Z方向)から挟持されることにより、同一平面上に片持支持の状態で固定されている。第1の高分子シート20および第2の高分子シート30の他方の端部(先端)は、ともにZ1−Z2方向に自在に曲げ変形可能な自由端22,32を構成している。
【0031】
一方の第1の高分子シート20は、固定端21と自由端22の間が一定の幅寸法からなる帯状の部材として形成されており、Y軸に平行で且つその中心を通る仮想中心線Oa−Oaに対して左右対称の形状である。
【0032】
他方の第2の高分子シート30は、固定端31側の幅寸法が最も幅広く、自由端32側が最も幅の狭い三角形状の部材として形成されている。第2の高分子シート30は、Y軸に平行で且つその中心を通る仮想中心線Ob−Obに対して左右非対称をなす形状である。特に、第2の高分子シート30の長手方向に平行に沿う一辺、すなわち図示X2側の第1の高分子シート20寄りの一方の一辺33の長さ寸法は、第2の高分子シート30の図示X1側の他方の一辺である斜辺34の長さ寸法よりも短い構成である。このように、他方の第2の高分子シート30は左右の辺に寸法差を有して形成されている。
【0033】
上記構成からなる高分子アクチュエータの動作について説明する。
第1の高分子シート20と第2の高分子シート30をそれぞれ構成する第1の電極層3と第2の電極層4との間に所定の電圧を印加すると、第1の高分子シート20と第2の高分子シート30の電解質層2,2にそれぞれ電界が発生する。
【0034】
すると、図2に実線で示すように、第1の高分子シート20および第2の高分子シート30に第1の方向α1への曲げ変形が発生し、自由端22および自由端32が図示Z1方向に持ち上がるように変形させられる。
【0035】
このとき、一方の第1の高分子シート20は左右対称形状であるため、自由端22は左右方向(X方向)への振れが少ない状態でZ1方向に沿ってほぼ真上に持ち上げられる。
【0036】
これに対し、他方の第2の高分子シート30の形状は左右非対称であり、図示X2側の一方の一辺33の長さ寸法は他方の一辺である斜辺34よりも短い。このため、斜辺34側の抵抗値は、長さ寸法の短い図示X2側の一辺33側の抵抗値よりも大きく、これにより電界質層2に与えられる電界の大きさは、過渡的に図示X2側の一辺33よりも斜辺34の方が大きくなる。このため、過渡的に見た場合に、電界質層2に分布するイオンの密度は均一ではなく、斜辺34側よりも図示X2側の一辺33側に多くのイオンが分布する。その結果、電解質層2の内部では、斜辺34側よりも図示X2側の一辺33側に偏った位置での体積の膨張が大きくなる。つまり、発生する膨張応力は斜辺34側よりも図示X2側の一辺33側の方が大きく、第2の高分子シート30にはこれに基づく膨張歪みが発生し、長手方向の伸び量は図示X2側の一辺33側よりも斜辺34側が大きくなる。よって、過渡的に、第2の高分子シート30を形成する左右の二辺の伸び量に差が発生し、この伸び量の差に基づく捩れが第2の高分子シート30全体に発生する。
【0037】
この捩れ変形により、図3(B)および図4(B)に示すように、第2の高分子シート30の自由端32が、隣接する第1の高分子シート20の湾曲面の外側をなす面(外面)と当接可能な位置に回り込んで、第1の高分子シート20の外面に当接し、さらに、第1の高分子シート20を図示上方(Z1方向)に持ち上げる。よって、第1の高分子シート20には、第1の高分子シート20自身の駆動力F1と、第2の高分子シート30による駆動力F2とが同時に第1の方向α1に作用することにより、高分子アクチュエータ10全体として大きな駆動力(F1+F2)を発生させることができる。
【0038】
ここで、一般に、高分子シートはその形状が幅寸法Wに比較して全長Lが長い帯状の場合(W<<L)には駆動力は小さいが変位量ΔHは大きく、逆に幅寸法Wに比較して全長が短い(W>>L)場合には変位量ΔHは小さいが大きな駆動力を発生させるという特徴を有する。本実施の形態では、少なくとも第1の高分子シート20の形状は細長い帯状(W<<L)であるため、大きな変位量ΔHを確保することが可能である。
【0039】
そして、第1の実施の形態に示す高分子アクチュエータ10では、このように大きな変位量ΔHを発生させるとともに、第2の高分子シート30が第1の高分子シート20を持ち上げるため、全体として大きな駆動力を発生させることができる。
【0040】
上記のように、第2の高分子シート30に捩れ変形を発生させるためには、電界質層2内におけるイオンの分布を制御すればよく、そのために上記のような第2の高分子シート30の形状を仮想中心線に対して左右非対称とする以外の方法であってもよい。
【0041】
例えば、第2の高分子シート30を形成する第1の電極層3および第2の電極層4の導電率を、それぞれの電極層の内部で場所ごとに異ならせることで実現することが可能である。これにより、第2の高分子シート30自体が、たとえ仮想中心線に対して左右対称形状であっても、左右非対称形状(三角形状)の場合と同様の捩れ変形を生じさせることが可能となる。
【0042】
ただし、第2の高分子シート30が仮想中心線に対して左右非対称の形状であり、さらに加えて導電率をそれぞれの電極層の内部で場所ごとに異なるようにすると、さらに捩れ変位量を大きくすることが可能となるため、より大きな駆動力を発生させることができるようになる。
【0043】
なお、導電率の分布調整は、上述したように、第1の電極層3および第2の電極層4を形成する電解質層に混入する導電性フィラーの割合を変えることにより、あるいは付着させる導電性金属の比率を変えることにより行うことができる。
【0044】
さらに電解質層2の形状を仮想中心線に対して左右対称とし、その両面に形成する第1の電極層3と第2の電極層4の形状のみが左右非対称となるように形成してもよい。また仮想中心線に対して左右非対称とするには、電解質層2の一部に電極層を形成しない領域を設けるようにして行うものであってもよい。
【0045】
図5は本発明の第2の実施の形態を示す高分子アクチュエータの平面図である。
図5に示す高分子アクチュエータ50は、一枚の高分子シート1Aによって形成されている。高分子シート1Aの構造は、上記基本原理と同様である。ただし、第2の実施の形態では、高分子シート1Aに一本の切れ目50aがシートの途中まで形成されており、この切れ目50aにより、第1の可撓部51と第2の可撓部52とに分離されている。
【0046】
一方の第1の可撓部51は一方の仮想中心線Oa−Oaに対して左右対称形状に含まれる細長い帯状として形成され、他方の第2の可撓部52は他方の仮想中心線Ob−Obに対して左右非対称に含まれる略三角形状の形状として形成されている。
【0047】
このため、上記同様に第1の電極層3と第2の電極層4との間に電界を与えると、略三角形状からなる第2の可撓部52に上記同様の捩れ変形が発生し、第1の可撓部51の湾曲面の外側に回り込んで第1の可撓部51の外面に当接してこれを支持することが可能である。よって、上記同様に大きな変位量ΔHおよび大きな駆動力を発生する高分子アクチュエータ50とすることができる。
【0048】
このように、第1の可撓部と第2の可撓部は同じ一枚の高分子シートで形成することもできし、上記第1の実施に形態に示すように二枚の別々の高分子シートで形成することもできる。
【0049】
図6は本発明の第3の実施の形態を示す高分子アクチュエータの平面図である。
第3の実施の形態に示す高分子アクチュエータ60は、一方の仮想中心線Oa−Oaに対して左右非対称形状からなる第1の高分子シート(第1の可撓部)61と、他方の仮想中心線Ob−Obに対して左右非対称形状からなる第2の高分子シート(第2の可撓部)62とにより形成される。
【0050】
第1の高分子シート(第1の可撓部)61および第2の高分子シート(第2の可撓部)62が曲げ変形する方向は同じ第1の方向、すなわち紙面の表側から裏側に向かう方向、またはその逆方向である。また第1の高分子シート(第1の可撓部)61および第2の高分子シート(第2の可撓部)62が捩れ変形する方向は互いに接近する方向である。このため、一方の第1の高分子シート61と他方の第2の高分子シート62とは交差しやすくなっている。よって、一方の第1の高分子シート61と他方の第2の高分子シートのうちの一方が他方の下に潜り込んで確実に支持することが可能となっている。
【0051】
このように、本発明の高分子アクチュエータでは、仮想中心線に対して左右対称の高分子シート(第1の可撓部)と左右非対称の高分子シート(第2の可撓部)との組み合わせて形成することができるし、仮想中心線に対して左右非対称を成す二枚の高分子シート(可撓部)を組み合わせることにより形成することもできる。
【0052】
次に、図7は本発明の第4の実施の形態を示す高分子アクチュエータの平面図である。図7に示すように、可撓部の数は2つに限られるものではなく、複数の可撓部を有する構成であってもよい。
【0053】
図7に実線で示す高分子アクチュエータ70では、帯状ないしは爪状からなる複数(図7では4枚)の高分子シート(可撓部)71,72,73,74を湾曲形状の一対の拘束部材75に板厚方向から挟持され、階段状に隣接配置された状態で固定されている。高分子アクチュエータ70は、右端のO−O線上に位置する最上段の高分子シート71が最もY1方向に突出するように形成され、高分子シート71の下段側に隣接して配置された高分子シート72が2番目に突出しており、高分子シート72の下段側に隣接して配置された高分子シート73が3番目に突出している。そして、左端の最下段に設けられた高分子シート74の突出量が最も小さい。各高分子シート(可撓部)71,72,73,74の構造は上記基本原理と同様である。なお、拘束部材75の湾曲形状には、波状、円弧形状、楕円形状などが含まれる。
【0054】
この実施の形態では、最も突出量の大きい最上段の高分子シート71の左右両辺の長さは同じである。すなわち、最も突出量の大きい高分子シート71は仮想中心線に対して左右対称となる形状で形成されている。
【0055】
これに対し、その下段側に隣接配置される高分子シート72は、高分子シート71寄りのX1側の内辺が短く、逆側(X2側)である外辺が長くなるように形成されており、左右両辺(内辺と外辺)の長さの間には寸法差ΔL1が設けられている。同様に、高分子シート72の下段側に隣接配置される高分子シート73には寸法差ΔL2設けられ、さらに高分子シート73の下段側に隣接配置された最下段の高分子シート74には寸法差ΔL3が設けられている。そして、これらの寸法差の関係は、ΔL1<ΔL2<ΔL3であり、寸法差ΔLは最上段に位置する高分子シート71から最下段の高分子シート74に向かうほどに大きい。つまり、最も突出量の大きい最上段の高分子シート71以外の高分子シート72,73,74は、それぞれの仮想中心線に対して左右非対称となる形状で形成されている。
【0056】
各高分子シート(可撓部)71,72,73,74を形成するそれぞれの第1の電極層3と第2の電極層4との間に電位差に基づく電界を与えると、各高分子シート(可撓部)71,72,73,74はすべて同じ第1の方向(紙面の表側から裏側に向かう方向、またはその逆方向)に曲げ変形が発生する。同時に、高分子シート(可撓部)72,73,74には寸法差ΔL1,ΔL2,ΔL3に応じた捩れ変形が発生する。この場合の捩れ変形の量は、最も大きな寸法差ΔL3を有する高分子シート74が最も大きく、次に寸法差ΔL2を有する高分子シート73が大きく、寸法差ΔL1を有する高分子シート73が最も小さい。
【0057】
このため、高分子シート72の自由端が最上段の高分子シート71の湾曲面の外側に回り込んで高分子シート71を支持し、その下段側に位置する高分子シート73の自由端がその上段側に位置する高分子シート72の湾曲面の外側に回り込んで高分子シート72を支持し、さらにその下段側に位置する高分子シート74の自由端がその上段側に位置する高分子シート73の湾曲面の外側に回り込んで高分子シート73を支持する。すなわち、最下段に位置する高分子シート74の自由端がこれに隣接する上段側の高分子シート73を、この高分子シート73の自由端がこれに隣接する上段側の高分子シート72を、さらに高分子シート72の自由端がこれに隣接する上段側央の高分子シート71をそれぞれこの順番で支持することができる。
【0058】
よって、最も突出量の大きい最上段の高分子シート71には、下段側に位置する高分子シート72,73,74の駆動力が作用するため、高分子シート71に大きな駆動力を発生させることができる。さらには、各高分子シート72,73,74には捩れ変形が加わるため、高分子シート71の変位量を大きくすることができる。
【0059】
なお、電位差に基づく電界を、各高分子シート(可撓部)71,72,73,74に同時に与えると、上記の順番通りに重ならない場合も考えられる。このような場合には、変形する順番が高分子シート71、高分子シート72、高分子シート73、高分子シート74となるように、各高分子シート(可撓部)に電界を発生させる時間に差(時間差)を設けるようにすると良い。すなわち、最初に最上段の高分子シート71に電界を与え、次にその下段の高分子シート72に電界を与え、さらにその下段の高分子シート73に電界を与え、最後に最下段の高分子シート74に電界を与えるようにする。これにより、確実に、各高分子シート(可撓部)71,72,73,74が順番通りに重なるようになり、隣接する一の高分子シート(可撓部)が他の高分子シート(可撓部)を支持することが可能となる。
【0060】
なお、図7に点線で示すように、中心線O−Oに対して線対象となるように高分子シート(可撓部)72’,73’および74’を形成すると、これらが発生する駆動力を、最も突出量の大きい最上段の高分子シート71に作用させることが可能となるため、さらに大きな駆動力を発生させること、および高分子シート71の変位量を大きくすることができる。
【0061】
なお、図6および図7に示す実施の形態では、各可撓部を別々の高分子シートを用いて構成した場合について説明したが、本発明はこれに限られるものではなく、図5に示す第2の実施の形態同様に一枚のシートから構成したものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明におけるイオン導電型の高分子アクチュエータの基本原理を説明するための側面図、
【図2】本発明の第1の実施の形態として高分子アクチュエータを示す斜視図、
【図3】高分子アクチュエータの正面図であり、(A)は非駆動状態、(B)は駆動状態、
【図4】高分子アクチュエータの側面図であり、(A)は非駆動状態、(B)は駆動状態、
【図5】本発明の第2の実施の形態を示す高分子アクチュエータの平面図、
【図6】本発明の第3の実施の形態を示す高分子アクチュエータの平面図、
【図7】本発明の第4の実施の形態を示す高分子アクチュエータの平面図、
【符号の説明】
【0063】
1 高分子アクチュエータ
1A 高分子シート
1a 固定端
1c 自由端
2 電解質層
3 第1の電極層
4 第2の電極層
5a,5b 拘束部材
20 第1の高分子シート(第1の可撓部)
30 第2の高分子シート(第2の可撓部)
21,31 固定端
22,32 自由端
33 X2側の一辺
34 斜辺
50 高分子アクチュエータ
50a 切れ目
51 第1の可撓部
52 第2の可撓部
60 高分子アクチュエータ
61 第1の高分子シート(第1の可撓部)
62 第2の高分子シート(第2の可撓部)
70 高分子アクチュエータ
71,72,73,74 高分子シート(可撓部)
75 拘束部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質層及び前記電解質層の両面にそれぞれ設けられた一対の電極層とを有し、前記一対の電極間に与えられた電界に応じて主として前記電極層に対して直交する第1の方向に湾曲変形する可撓部が二以上併設された高分子アクチュエータにおいて、
各可撓部の前記電極層間に各可撓部が同じ第1の方向に湾曲する電界を与えたときに、少なくとも一の可撓部が、捩れを含む湾曲変形により、隣接する他の可撓部の湾曲面の外側をなす面と当接可能な位置に回りこみ、該他の可撓部が前記一の可撓部によって支持されることを特徴とする高分子アクチュエータ。
【請求項2】
前記一の可撓部は平面視左右非対称の形状である、請求項1記載の高分子アクチュエータ。
【請求項3】
前記一の可撓部に形成された前記一対の電極層の形状が、左右非対称で形成されている請求項1または2に記載の高分子アクチュエータ。
【請求項4】
前記一の可撓部の両面に形成された前記一対の電極層の導電性が、電極層の内部で場所ごとに異なるものである請求項1ないし3のいずれか1項に記載の高分子アクチュエータ。
【請求項5】
複数の前記可撓部が階段状に隣接配置されており、下段側に位置する一の可撓部が、それよりも上段側に隣接して配置された他の可撓部を支持することが、前記下段側から上段側にかけて順次行われている請求項1ないし4のいずれか1項に記載の高分子アクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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