説明

高分子ゲル、その製造方法、水浄化処理剤及び水浄化処理方法

【課題】安価な材料から、特別な装置も使用せず、常温・常圧下で簡便に作製するができ、重金属イオンやリン酸イオンなどに対する吸着剤として好ましく用いることのできる新規高分子ゲルおよびその製造方法を提供することである。
【解決手段】水酸基を複数有する高分子物質の水酸基が、分子内に2個以上のボロン酸基を有する化合物のボロン酸基との反応によって、水酸基を複数有する高分子物質が架橋され、且つ前記水酸基を複数有する高分子物質の少なくとも1つの水酸基に、分子内に重金属イオンの捕捉部位を有し、且つ1個のボロン酸基を有する化合物及び/又は分子内にリン酸イオン類の捕捉部位を有し、且つ1個のボロン酸基を有する化合物のボロン酸基が結合されていることを特徴とする高分子ゲル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規高分子ゲル、その製造方法、前記新規高分子ゲルからなる水浄化処理剤及び水浄化処理方法に関し、より詳細には工業廃水や生活排水、河川、湖沼の水に含まれる重金属イオンや富栄養化の原因となるリン酸イオン類を除去するために好ましく用いることができる、重金属イオンやリン酸イオン類などを捕捉する部位を有する高分子ゲル、該高分子ゲルからなる水浄化処理剤、及び該高分子ゲルを用いた水浄化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種金属製品の耐蝕性や耐摩耗性などを改善するため、また製品外観の改善や装飾のために、製品表面にメッキを施すことが広く行われている。メッキ方法のうち、電気メッキや無電解メッキ(化学メッキ)のような湿式メッキでは、メッキ製品を水洗した水洗槽から排出される廃水中に、銅メッキでは銅イオン、ニッケルメッキではニッケルイオン、亜鉛メッキでは亜鉛イオン、錫メッキでは錫イオン、クロムメッキではクロムイオン等のイオン化した重金属が含まれている。このため、廃水はそのままでは外部環境に排出することはできず、排水基準で定められる濃度以下の重金属イオン濃度になるように浄化処理してから排出しなければならない。
【0003】
一方、リン酸イオン、ピロリン酸イオン、フラビンヌクレオチド等のリン酸イオン類を含有する製品、例えば洗剤などは、生活や産業の様々な場面で利用され、生活排水や産業排水とともに排出されている。リン酸イオン類は、下水処理の際除去されているが、十分な除去が行われず、あるいは下水処理されることなく排出された排水が公共用水域に流出し、水域の富栄養化等の問題を引き起こしている。
【0004】
そのため、水質浄化を目的として、排水中あるいは上水、河川、湖沼、ダムなどの水中に含まれる重金属イオンやリン酸イオン類等を効率的に除去するあるいは有価物を回収する観点から、これまでに様々な研究がなされている。
【0005】
例えば、メッキ廃水に含まれる重金属イオンを除去する方法としては、廃水に水酸化ナトリウムと大量の消石灰を投入し、銅イオンなどの重金属イオンを重金属水酸化物とするとともに、消石灰、更には別途添加された凝集剤により沈降速度を促進する方法が広く採られている。また、重金属イオンの除去のため、キレート樹脂(例えば、特許文献1参照)、アニオン基含有親水性高分子物質(たとえば、特許文献2参照)、ゼオライト化土、マグネタイトなどを用いることも知られている。
【0006】
また、生活排水等からリン酸イオン類を除去する方法としては、活性アルミナ、アラム添着活性アルミナ、水酸化アルミ、鹿沼土、酸化チタン、アロフェン、水酸化鉄、酸化鉄、酸化ジルコニウム、水酸化チタン、アパタイト等、各種酸化物、水酸化物などの吸着剤を用い、リン酸イオン類を吸着剤に吸着させる方法が広く知られているが、このような酸化物吸着剤の吸着能を改善するため、吸着剤としてマグネシウムとマンガンを含む酸化物吸着剤を用いること(特許文献3参照)、あるいはこれらとは異なるが、リンを強磁性粒子に吸着させ、リンが吸着した磁性粒子を勾配磁場が付与された分離部で分離する方法(特許文献4参照)等、種々の方法も提案されている。また、吸着剤としては、イオン交換樹脂も知られている。
【0007】
さらに、リン酸イオン類を除去するための方法として、ウレタンフォーム等の立体的網目構造をもつ基材の立体網目構造内にリン酸イオン類吸着力をもつ物質を高分子ゲルによって固定化し、従来の吸着剤を用いる際の問題である通水性を改善する方法も提案されている(特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−57280号公報
【特許文献2】特開2000−317469号公報
【特許文献3】特開2005−28247号公報
【特許文献4】特開2009−136784号公報
【特許文献5】特開平7−39754号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、重金属イオンを水酸化物として消石灰とともに沈降させる方法では、沈降した重金属水酸化物及び消石灰を含む大量のスラッジを産業廃棄物として処理しなければならないため、高い処理コストが必要とされる。また、キレート樹脂などは高価である。
【0010】
一方、リン酸イオン類の吸着剤、特に重金属酸化物は、一般に比重の重い小粒径の粒状物であり、充填塔内に充填して原水を上向流又は下向流で流通させることによってリン酸イオン類を吸着除去している。そのため、通水速度を大きくすると、充填層の損失水頭が過大になるので、通水速度が大きく取れないという問題があり、また、原水中に浮遊物質が存在すると、浮遊物質によって充填層が目詰まりし、リン酸イオン類吸着剤表面を覆ってしまうため、リン酸イオン類除去能力が悪化し易いという欠点がある。
【0011】
一方、上記特許文献5に記載されている方法では、先ず、ウレタンフォーム等の立体的網目構造体を作製し、その後に、前記立体的網目構造体の空隙にリン酸イオン類吸着物質と水溶性有機高分子の混合液を浸透させた後、該水溶性有機高分子をゲル化させることが必要とされ、製造が煩雑であり、製造コストが高くなるという問題があるし、単位体積当たりのリン酸吸着量を高くできないという問題もある。
【0012】
本発明の目的は、上記のごとき問題を有さない、すなわち安価な材料から、特別な装置も使用せず、常温・常圧下で簡便に作製するができ、重金属イオンやリン酸イオンなどに対する吸着剤として好ましく用いることのできる新規高分子ゲルおよびその製造方法を提供することである。
【0013】
また、本発明の他の目的は、上記高分子ゲルからなる水浄化処理剤及びこの水浄化処理剤を用いた水浄化処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記のごとき課題を解決すべく、鋭意研究を行った結果、架橋剤として1,4−フェニレンジボロン酸などの2個以上のボロン酸基を有する化合物を用いて、水酸基を複数有する高分子物質を架橋することにより、立体的網目構造を有するヒドロゲルを作製できること、このとき架橋を常温・常圧下で行うことができることを新たに見出した。また、このとき架橋剤に加え、重金属イオン及び/又はリン酸イオン類等の捕捉部位を有するボロン酸化合物を加えることにより、重金属イオン及び/又はリン酸イオン類の捕捉部位を有するモノボロン酸化合物が結合した立体的網目構造を有する高分子ヒドロゲルを作製できること、この高分子ヒドロゲルにより水中の重金属イオン及び/又はリン酸イオン類を除去することができることを見出し、これら知見に基づいて本発明を完成した。
【0015】
すなわち、本発明は、以下に示す、高分子ゲル、高分子ゲルの製造方法、水浄化処理剤及び水浄化処理方法に関する。
【0016】
(1)水酸基を複数有する高分子物質の水酸基が、分子内に2個以上のボロン酸基を有する化合物のボロン酸基との反応によって、水酸基を複数有する高分子物質が架橋され、且つ前記水酸基を複数有する高分子物質の少なくとも1つの水酸基に、分子内に重金属イオンの捕捉部位を有し、且つ1個のボロン酸基を有する化合物及び/又は分子内にリン酸イオン類の捕捉部位を有し、且つ1個のボロン酸基を有する化合物のボロン酸基が結合されていることを特徴とする高分子ゲル。
【0017】
(2)上記(1)に記載の高分子ゲルにおいて、前記水酸基を有する高分子が、ポリビニルアルコール、グアーガム、ローカストビーンガム、フェヌグリークガムから選択される少なくとも1種であることを特徴とする高分子ゲル。
【0018】
(3)上記(1)又は(2)に記載の高分子ゲルにおいて、分子内に2個以上のボロン酸基を有する化合物が、下記一般式(1)で示される化合物であることを特徴とする高分子ゲル。
【0019】
【化1】

【0020】
(式中、Xは、置換基を有していてもよい、ベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル、フェロセン、又はチオフェン環であり、mは2以上の整数である。)
【0021】
(4)上記(3)に記載の高分子ゲルにおいて、分子内に2個以上のボロン酸基を有する化合物が、1,4−フェニレンジボロン酸、1,3−フェニレンジボロン酸、4,4’−ビフェニルジボロン酸、1,1’−フェロセンジボロン酸、1,3,5−ベンゼントリボロン酸、2,5−チオフェンジボロン酸から選択される少なくとも1種であることを特徴とする高分子ゲル。
【0022】
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の高分子ゲルにおいて、前記分子内に重金属イオンの捕捉部位を有し、且つ1個のボロン酸基を有する化合物及び前記分子内にリン酸イオン類の捕捉部位を有し、且つ1個のボロン酸基を有する化合物が、下記一般式(2)で表される化合物であることを特徴とする高分子ゲル。
【0023】
【化2】

【0024】
(式中、Aは重金属イオン又はリン酸イオン類の捕捉部位を有する基、Yはベンゼン環又はナフタレン環を含む基、nは1以上の整数を表す。)
【0025】
(6)上記(5)に記載の高分子ゲルにおいて、分子内に重金属イオンの捕捉部位を有し、且つ1個のボロン酸基を有する化合物が、下記一般式(3)又は(4)で表される化合物であることを特徴とする高分子ゲル。
【0026】
【化3】

【0027】
(式中、R1及びR2は、水素原子、ピリジニルメチル基、カルボキシメチル基、又はナトリウムイオン、カリウムイオン等の対イオンが存在するカルボキシメチルアニオン性基を表し、R1及びR2の少なくとも一方はピリジニルメチル基、カルボキシメチル基、又はナトリウムイオン、カリウムイオン等の対イオンが存在するカルボキシメチルアニオン性基である。)
【0028】
【化4】

【0029】
(式中、R3、R4、R5及びR6は、水素原子、ピリジニルメチル基、カルボキシメチル基、又はナトリウムイオン、カリウムイオン等の対イオンが存在するカルボキシメチルアニオン性基を表し、R3、R4、R5及びR6の少なくとも1つはピリジニルメチル基、カルボキシメチル基、又はナトリウムイオン、カリウムイオン等の対イオンが存在するカルボキシメチルアニオン性基である。)
【0030】
(7)上記(6)に記載の高分子ゲルにおいて、一般式(3)で表される化合物が、下記に示されるボロン酸化合物の少なくとも1種であることを特徴とする高分子ゲル。
【0031】
【化5】

【0032】
(8)上記(6)に記載の高分子ゲルにおいて、一般式(4)で表される化合物が、下記に示されるボロン酸化合物の少なくとも1種であることを特徴とする高分子ゲル。
【0033】
【化6】

【0034】
(9)上記(5)に記載の高分子ゲルにおいて、分子内にリン酸イオン類の捕捉部位を有し、且つ1個のボロン酸基を有する化合物が、下記一般式(5)又は(6)で表される、硝酸イオン、酢酸イオン、水酸化物イオンなどの対イオンを有する化合物であることを特徴とする高分子ゲル。
【0035】
【化7】

(式中、R1及びR2は、水素原子、ピリジニルメチル基、又はカルボキシメチルアニオン性基を表し、R1及びR2の少なくとも一方はピリジニルメチル基、又はカルボキシメチルアニオン性基である。)
【化8】

(式中、R3、R4、R5及びR6は、水素原子、ピリジニルメチル基、又はカルボキシメチルアニオン性基を表し、R3、R4、R5及びR6の少なくとも1つはピリジニルメチル基、又はカルボキシメチルアニオン性基である。)
【0036】
(10)上記(9)に記載の高分子ゲルにおいて、一般式(5)で表される化合物が、下記に示されるボロン酸化合物であることを特徴とする高分子ゲル。
【0037】
【化9】

【0038】
(11)上記(9)に記載の高分子ゲルにおいて、一般式(6)で表される化合物が、下記に示されるボロン酸化合物であることを特徴とする高分子ゲル。
【化10】

【0039】
(12)水酸基を複数有する高分子物質、分子内に2個以上のボロン酸基を有する化合物、及び、分子内に重金属イオンの捕捉部位を有し、且つ1個のボロン酸基を有する化合物及び/又は分子内にリン酸イオン類の捕捉部位を有し、且つ1個のボロン酸基を有する化合物を溶媒に溶解して反応させることを特徴とする高分子ゲルの製造方法。
【0040】
(13)上記(12)に記載の高分子ゲルの製造方法において、溶媒が有機溶媒であり、得られたゲル化物中の有機溶媒を水で置換することを特徴とする高分子ゲルの製造方法。
【0041】
(14)上記(13)に記載の高分子ゲルの製造方法において、有機溶媒がジメチルスルホキシドであることを特徴とする高分子ゲルの製造方法。
【0042】
(15)上記(1)〜(11)のいずれかに記載の高分子ゲルからなる水浄化処理剤。
【0043】
(16)上記(1)〜(11)のいずれかに記載の高分子ゲルを重金属イオン及び/又はリン酸イオン類含有水と接触させることにより、重金属イオン及び/又はリン酸イオン類を除去することを特徴とする水浄化処理方法。
【発明の効果】
【0044】
本発明によれば、加熱装置等の特別な装置を使用することなく、安価な原材料を用い、これを常温・常圧下で溶媒、例えば水あるいは有機溶媒に溶解するという簡単な操作により、重金属イオン及び/又はリン酸イオン類の捕捉部位を有する、立体的網目構造を有する高分子ゲルを作製することができる。そして、溶媒として水を用いた場合には、直接立体的網目構造を有する高分子ヒドロゲルを形成することができることから、これを用い、高分子ヒドロゲル中の官能部位の種類に応じ、水中の重金属イオンあるいはリン酸イオン類を捕捉することができる。一方、溶媒として有機溶媒を用いた場合、得られた高分子ゲルの有機溶媒を水で置き換えることにより、立体的網目構造を有する高分子ヒドロゲルとすることができ、この高分子ヒドロゲルは、高分子ヒドロゲル中の官能部位の種類に応じ、水中の重金属イオンあるいはリン酸イオン類を捕捉することができる。このため、これら高分子ヒドロゲルは、水浄化のための処理剤(重金属イオンあるいはリン酸イオン類吸着剤)として使用することができる。本発明の水浄化処理剤は、ゲルを形成する材料として同じ材料が用いられ、水浄化処理剤を、重金属イオンあるいはリン酸イオン類のいずれを捕捉するために用いるかにより、それに適した捕捉部位を有するボロン酸化合物を選択すればよいし、重金属イオン及びリン酸イオン類を捕捉したい場合は、それぞれの捕捉部位を有するボロン酸化合物を併用すればよい。したがって、同じゲル基材を用いて幅広い水浄化処理剤を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1は、図面代用写真であり、参考例1で作製された高分子ヒドロゲルを凍結乾燥してキセロゲルとしたものの電界放射型走査電子顕微鏡写真である。
【図2】図2は、図面代用写真であり、実施例1で作製された高分子ヒドロゲルを0.5mg/mL硫酸銅水溶液(2mL)に浸漬した直後の状態を示した写真である。
【図3】図3は、図面代用写真であり、実施例1で作製された高分子ヒドロゲルを0.5mg/mL硫酸銅水溶液(2mL)に浸漬し、5分経過後の状態を示した写真である。
【図4】図4は、図面代用写真であり、実施例2で作製された高分子ヒドロゲルを、7.0×10-5Mリボフラビン−5’−リン酸水溶液(1mL、1.0×10-3M緩衝液、pH=7.4)に浸漬した直後の状態を示した写真である。
【図5】図5は、図面代用写真であり、実施例2で作製された高分子ヒドロゲルを、7.0×10-5Mリボフラビン−5’−リン酸水溶液(1mL、1.0×10-3M緩衝液、pH=7.4)に浸漬し、72時間経過後の状態を示した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明を具体的に説明する。
ところで、本発明者らは、水酸基を複数有する高分子物質及び1,4−フェニレンジボロン酸など、分子内に2個以上のボロン酸基を有する化合物を溶媒中で反応させることにより、水酸基を複数有する高分子物質の水酸基と分子内に2個以上のボロン酸基を有する化合物のボロン酸が反応して架橋が起こり、ゲル化して立体的網目構造を有する高分子ゲルが形成されることを見出した。また、このときボロン酸基を1つ有する機能性基を有する化合物を更に用いることにより、ボロン酸基が高分子物質の水酸基と反応し、これを用いない場合と同様に高分子ゲルが形成され、さらに該高分子ゲルに機能性を付与することができることを見出した。なお、ポリビニルアルコールをフェロセンジボロン酸と架橋することにより、酸化・還元に応答してゾル−ゲル転移を示す高分子ゲルに関する報告はなされている(橋口貴行 他5名、「ジボロン酸とポリビニルアルコールから成る化学刺激応答性ゲルの合成と機能評価」、第5回ホスト・ゲスト化学シンポジウム(2009.5.30〜5.31 宇都宮大学 陽東キャンパス)講演要旨集、第106頁(2009.5.30〜5.31))が、ゲルが立体的網目構造を有すること、及び高分子ゲルに重金属イオンの捕捉部位、リン酸イオン類の捕捉部位などの官能部位を付与できることについての開示はない。
【0047】
また、天然多糖類であるグアーガムを1,4−フェニレンジボロン酸と架橋することにより高分子ヒドロゲルが得られることが報告されている(Michael D.Parris,Bruce A.MacKay, Jerome W. Rathke, Robert J. Klingler and Rex E. Gerald,II.,“Influence of Pressure on Boron Cross−Linked Polymer Gels.”,Macromolecules,2008,41,8181−8186.)。しかし、高分子ゲルに重金属イオンの捕捉部位、リン酸イオン類の捕捉部位などの官能部位を付与できることについての開示はない。
【0048】
以下においては、まず水酸基を複数有する高分子物質と1,4−フェニレンジボロン酸などの分子内に2個以上のボロン酸基を有する化合物とにより高分子ゲルを作成する方法から具体的に説明する。水酸基を複数有する高分子物質と1,4−フェニレンジボロン酸などの分子内に2個以上のボロン酸基を有する化合物とにより高分子ゲルを形成するには、これら化合物を各々溶媒に溶解し、これら溶液を常圧、常温で直接あるいはこれら溶液を別に用意した溶媒中に投入し、攪拌混合すればよい。これにより、高分子物質中の2つの水酸基とボロン酸化合物中の1つのボロン酸基が反応し、ボロン酸化合物には2個以上のボロン酸基があることからボロン酸化合物による高分子物質間の架橋がなされ、ゲル化する。
【0049】
高分子ゲルを形成するために用いられる水酸基を複数有する高分子物質としては、架橋ゲル化に寄与する水酸基を複数有する高分子であれば特に制限はなく、例えば、側鎖に水酸基を有するビニル重合体、多糖類及びその誘導体などが代表的なものとして挙げられる。
【0050】
側鎖に水酸基を有するビニル重合体としては、これらに限定されるものではないが、例えば、ポリビニルアルコール、ポリ(ビニルアルコール−co−エチレン)、ポリ(ビニルブチラール−co−ビニルアルコール−co−酢酸ビニル)、ポリ(塩化ビニル−co−酢酸ビニル−co−ビニルアルコール)等が、また、多糖類及びその誘導体としては、グアーガム、ローカストビーンガム、フェヌグリークガム、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、アラビアガム、トラガントガム、キサンタンガム、寒天、カラヤガム、カラギーナン、ヒドロキシプロピルグアーガムなどが挙げられる。これらの中ではポリビニルアルコール、グアーガム、ローカストビーンガム、フェヌグリークガムが好ましく、価格・入手のし易さから、ポリビニルアルコールがより好ましい。これら高分子物質は、単独で用いられてもよく、2以上の物質が組み合わせて用いられてもよい。
【0051】
本発明に用いることができる高分子の分子量は、特に制限されるものではないが、通常1万〜50万、好ましくは3万〜20万の重量平均分子量を有するものを挙げることができる。重量平均分子量が1万より小さいとゲルが不安定になるおそれがあり、また、50万より大きいと高い粘性溶液のため取り扱いが難しくなるおそれがある。
【0052】
また、分子内に2個以上のボロン酸基を有する化合物(以下、「ボロン酸誘導体」ということもある。)としては、例えば、下記一般式(1)で示される化合物が挙げられる。
【0053】
【化11】

【0054】
(式中、Xは、置換基を有していてもよい、ベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル、フェロセン、又はチオフェン環であり、mは2以上の整数である。)
【0055】
上記一般式(1)で表される分子内に2個以上のボロン酸基を有する化合物としては、例えば、1,4−フェニレンジボロン酸、1,3−フェニレンジボロン酸、4,4’−ビフェニルジボロン酸、1,1’−フェロセンジボロン酸、1,3,5−ベンゼントリボロン酸、2,5−チオフェンジボロン酸等が挙げられる。中でも1,4−フェニレンジボロン酸が好ましい。
【0056】
溶媒は、水、或いは有機溶媒のいずれを用いてもよいが、水を用いて作製したヒドロゲルよりも、有機溶媒を用いてオルガノゲルを作製した後、有機溶媒を水で置換してヒドロゲル化したゲルの方が構造的には安定であることから、オルガノゲルを作製したあとヒドロゲル化したゲルの方が好ましい。有機溶媒としては、水と相溶性の溶媒が好ましく、その中でもジメチルスルホキシド(以後「DMSO」ということもある。)が好ましい。
【0057】
高分子物質の溶媒に対する配合割合は、本発明の効果を損なわない範囲内であれば特に制限されないが、溶媒100重量部当たり、好ましくは0.8〜4重量部、更に好ましくは1〜2重量部である。
【0058】
分子内に2個以上のボロン酸基を有する化合物の溶媒に対する配合割合としては、本発明の効果を損なわない範囲内であれば特に制限されないが、高分子中の水酸基1モルに対して、好ましくは0.6〜0.025モル、更に好ましくは0.45〜0.1モルである。
【0059】
高分子ゲルは、前記水酸基を複数有する高分子物質及び分子内に2個以上のボロン酸基を有する化合物を溶媒中で反応させることにより形成されるが、好ましくは、前記高分子物質及びボロン酸誘導体を各々溶媒に溶解し、これらを直接混ぜ合わせてもよいし、これら溶解溶液を別に用意した溶媒中に入れて反応させてもよい。このとき使用される溶媒は全て同じものであることが好ましいが、互いに相溶性があれば異なるものであってもかまわない。また、反応は、常温、常圧で起こることから、特に温度、圧力を制御する必要はないが、反応が起こる範囲であれば、常温、常圧以外の条件、例えば温度を上げて行ってもかまわない。上記反応を常温、常圧で行う場合、使用する高分子物質及びボロン酸誘導体の種類、使用する溶媒などによって異なるものの、これらを十分均一に混合攪拌した後、数十秒間放置することにより作製することができる。こうして作製された高分子ゲルは、必要に応じ、高分子ゲルが浸漬された溶媒を必要回数取り替えることにより、未反応の高分子物質あるいは未反応のボロン酸誘導体を除去することができる。
【0060】
有機溶媒を用いて作製された高分子オルガノゲルは、水に浸漬することにより高分子ヒドロゲルとされる。この場合、有機溶媒として水と相溶性のあるものが使用される。そして、浸漬した高分子ゲルの水を必要回数取り替えることにより、容易に溶媒を水で置換することができる。
【0061】
これまで、水酸基を複数有する高分子物質と分子内に2個以上のボロン酸基を有する化合物との架橋によるゲル化による高分子ゲル及びその製造方法について説明したが、以下では、重金属イオンの捕捉部位及び/又はリン酸イオン類の捕捉部位を有する本発明の高分子ゲル及びその製造方法について説明する。
【0062】
本発明の高分子ゲルは、上記した水酸基を複数有する高分子物質、分子内に2個以上のボロン酸基を有する化合物に加え、分子内に重金属イオンの捕捉部位を有し、且つ1個のボロン酸基を有する化合物及び/又は分子内にリン酸イオン類の捕捉部位を有し、且つ1個のボロン酸基を有する化合物を用いることを除き、上記と同様の方法で製造することができる。すなわち、水酸基を複数有する高分子物質、分子内に2個以上のボロン酸基を有する化合物は上記と同様のものを用い、これに加え、分子内に重金属イオンの捕捉部位を有し、且つ1個のボロン酸基を有する化合物及び/又は分子内にリン酸イオン類の捕捉部位を有し、且つ1個のボロン酸基を有する化合物を、好ましくは各々溶媒に溶解し、これら溶液を直接混合する、あるいは別に用意した溶媒中に加えて混合することにより製造することができる。そしてヒドロゲルにするためには、ゲル化後、溶媒を水で置換する。
【0063】
上記分子内に重金属イオンの捕捉部位を有し、且つ1個のボロン酸基を有する化合物及び分子内にリン酸イオン類の捕捉部位を有し、且つ1個のボロン酸基を有する化合物としては、例えば、下記一般式(2)で示されるボロン酸化合物が挙げられる。
【0064】
【化12】

【0065】
(式中、Aは重金属イオン又はリン酸イオン類の捕捉部位を有する基、Yは置換基を有していてもよい、ベンゼン環又はナフタレン環を含む基、nは1以上の整数を表す。)
【0066】
重金属イオンの捕捉部位としては、銅イオン、亜鉛イオン、クロムイオンなどの重金属イオンとキレートあるいは塩を形成する基が挙げられ、リン酸イオン類の捕捉部位としては、リン酸イオン類と塩を形成する基あるいはリン酸イオン類と置換するイオンを有する基が挙げられる。また、基Yはベンゼン環であることが好ましい。
【0067】
上記一般式(2)で表される重金属イオンの捕捉部位を有する基を有するボロン酸化合物としては、例えば、下記一般式(3)又は(4)で表される化合物を挙げることができる。
【0068】
【化13】

【0069】
(式中、R1及びR2は、水素原子、ピリジニルメチル基、カルボキシメチル基、又はナトリウムイオン、カリウムイオン等の対イオンが存在するカルボキシメチルアニオン性基を表し、R1及びR2の少なくとも一方はピリジニルメチル基、カルボキシメチル基、又はナトリウムイオン、カリウムイオン等の対イオンが存在するカルボキシメチルアニオン性基である。)
【0070】
1又はR2としてピリジニルメチル基が用いられる場合は、R1及びR2がともにピリジニルメチル基であることが好ましい。
【0071】
【化14】

【0072】
(式中、R3、R4、R5及びR6は、水素原子、ピリジニルメチル基、カルボキシメチル基、又はナトリウムイオン、カリウムイオン等の対イオンが存在するカルボキシメチルアニオン性基を表し、R3、R4、R5及びR6の少なくとも1つはピリジニルメチル基、カルボキシメチル基、又はナトリウムイオン、カリウムイオン等の対イオンが存在するカルボキシメチルアニオン性基である。)
【0073】
式中、R3、R4、R5又はR6としてピリジニルメチル基が用いられる場合は、好ましくはR3及びR4又はR5及びR6がともにピリジニルメチル基であることが好ましい。
【0074】
これら化合物を含んだ高分子ゲルにより、排水中の銅イオン、ニッケルイオン、亜鉛イオン、錫イオン、クロムイオン等は、下記[化15]に示すように、上記一般式(3)の「R1、N、R2」とキレート又は塩を形成することにより吸着される。また、上記一般式(4)で表わされる化合物の場合にも、同様に、排水中の銅イオン、ニッケルイオン、亜鉛イオン、錫イオン、クロムイオン等が、「R3、N、R4」及び「R5、N、R6」とキレート又は塩を形成することにより、吸着される。
【0075】
【化15】

【0076】
上記一般式(3)で表される化合物としては、例えば、下記に示されるような化合物が挙げられる。
【0077】
【化16】

【0078】
また、上記一般式(4)で表される化合物の具体例としては、例えば、下記に示されるような化合物が挙げられる。
【化17】

【0079】
一方、上記一般式(2)で表される、リン酸イオン、ピロリン酸イオン、フラビンヌクレオチド等のリン酸イオン類の捕捉部位を有するボロン酸基を有する化合物としては、例えば、下記一般式(5)又は一般式(6)で表される、硝酸イオン、酢酸イオン、水酸化物イオンなどの対イオンを有する化合物を挙げることができる。リン酸イオン類は、下記一般式(5)又は一般式(6)の、「R1、N、R2、Zn2+」、「R3、N、R4、Zn2+」、「R5、N、R6、Zn2+」の部分と塩を形成する、或いは、硝酸イオン、酢酸イオン、水酸化物イオンなど対イオンとリン酸イオン類が置換されることにより一般式(5)又は一般式(6)の化合物に吸着される。
【0080】
【化18】

【0081】
(式中、R1及びR2は、水素原子、ピリジニルメチル基、又はカルボキシメチルアニオン性基を表し、R1及びR2の少なくとも一方はピリジニルメチル基、又はカルボキシメチルアニオン性基である。)
【0082】
式中、R1又はR2としてピリジニルメチル基が用いられる場合、R1及びR2がともにピリジニルメチル基であることが好ましい。また、硝酸イオン、酢酸イオン、水酸化物イオンなど対イオンが存在するが、その化学種はそれらに限定されない。
【0083】
【化19】

【0084】
(式中、R3、R4、R5及びR6は、水素原子、ピリジニルメチル基、又はカルボキシメチルアニオン性基を表し、R3、R4、R5及びR6の少なくとも1つはピリジニルメチル基、又はカルボキシメチルアニオン性基である。)
【0085】
式中、R3、R4、R5又はR6としてピリジニルメチル基が用いられる場合は、好ましくはR3及びR4又はR5及びR6がともにピリジニルメチル基であることが好ましい。また、硝酸イオン、酢酸イオン、水酸化物イオンなど対イオンが存在するが、その化学種はそれらに限定されない。
【0086】
上記一般式(5)で表される化合物としては、例えば、下記に示されるような化合物が挙げられる。
【化20】

【0087】
また、上記一般式(6)で表される化合物としては、例えば、下記に示されるような化合物が挙げられる。
【化21】

【0088】
上記ボロン酸化合物は、単独で用いられても、2種以上が組み合わせて用いられてもよい。これにより、重金属イオン及び/又はリン酸イオン類の捕捉部位を有する高分子ゲルを作製することができる。
【0089】
重金属イオン及び/又はリン酸イオン類の捕捉部位を有するボロン酸化合物の溶媒に対する配合割合は、本発明の効果を損なわない範囲内であれば特に制限されないが、高分子中の水酸基1モルに対して、好ましくは0.06〜0.00025モル、更に好ましくは0.045〜0.001モルである。
【0090】
なお、重金属イオン及び/又はリン酸イオン類の捕捉部位を有するボロン酸化合物を用いる以外の製造条件は、先に記載したように、水酸基を複数有する高分子物質及び分子内に2個以上のボロン酸基を有する化合物を用いて高分子ゲルを製造する条件と特に異なるものではない。また、溶媒として有機溶媒を用いた場合、得られた高分子ゲルの溶媒は水と置き換えられ、ヒドロゲルとされ、水浄化処理剤として用いられる。
【0091】
上記で製造された重金属イオン及び/又はリン酸イオン類の捕捉部位を有する高分子ヒドロゲルは、適宜の大きさに分割され、処理すべき水中に浸漬されればよい。分割はヒドロゲルの状態で行われてもよいが、オルガノゲルの状態で分割され、オルガノゲルの未反応物の溶媒置換による除去、あるいは有機溶媒と水との置換が行われてもよい。このようにすることにより、未反応物の除去或いは有機溶媒の水との置換を短時間で行うことができる。
【実施例】
【0092】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0093】
(参考例1)高分子ヒドロゲルの作製(1)
0.5Mの1,4−フェニレンジボロン酸DMSO溶液(0.17mL)、0.7125Mのポリビニルアルコール(分子量31,000〜50,000)DMSO溶液(1.00mL)及びDMSO(0.15mL)を混合し、高分子オルガノゲルを作製した。溶液を混合してから6時間後、形成した円柱状の高分子オルガノゲルを四等分して、DMSO(20mL)に浸漬した。12時間おきにDMSOを取り替え、48時間後に溶媒を水(20mL)に交換した。さらに、12時間おきに水を交換し、48時間後に得られたものを高分子ヒドロゲルとした。
【0094】
図1は、参考例1で作製された高分子ヒドロゲルを凍結乾燥してキセロゲルとしたものの電界放射型走査電子顕微鏡写真である。写真から明らかなように、参考例1で作製された高分子ヒドロゲルは非常に細かい立体網目構造を有することが分かる。
【0095】
(参考例2)高分子ヒドロゲルの作製(2)
0.5M水酸化ナトリウム水溶液に溶解した0.25Mの1,4−フェニレンジボロン酸水溶液(0.50mL)及び1.0Mのポリビニルアルコール(分子量31,000〜50,000)水溶液(1.50mL)を混合し、ふり混ぜた後、静置することにより無色透明の高分子ヒドロゲルを得た。
【0096】
(実施例1)銅イオン捕捉用高分子ゲルの作製
1,4−フェニレンジボロン酸とポリビニルアルコール及び銅イオンの捕捉部位を有するボロン酸化合物を用いて高分子ゲルの作製を行った。
【0097】
0.5Mの1,4−フェニルジボロン酸ジメチルスルホキシド(DMSO)溶液(0.17mL)、0.7125Mポリビニルアルコール(分子量31,000〜50,000)DMSO溶液(1.00mL)、下記[化22]で表される0.014Mのボロン酸化合物DMSO溶液(0.20mL)及びDMSO(0.13mL)を混合することで高分子オルガノゲルを作製した。溶液を混合してから6時間後、形成した円柱状の高分子オルガノゲルをDMSO(20mL)に浸漬した。12時間おきにDMSO(20mL)を取り替え、48時間後に溶媒を水(20mL)に交換した。さらに、12時間おきに水を交換し、48時間後に得られたものを高分子ヒドロゲルとした。
【0098】
【化22】

【0099】
図2は、上記で得られた銅イオンの捕捉部位を有するボロン酸化合物を含む高分子ヒドロゲルを、0.5mg/mL硫酸銅水溶液(2mL)に浸漬した直後の状態を示し、図3は、5分経過後の状態を示したものである。浸漬直後は、高分子ヒドロゲルは無色であったが、5分経過後は、高分子ヒドロゲルが青色を呈したことから、水溶液中の銅イオンは高分子ヒドロゲルに捕捉されたことが確認できた。
【0100】
(実施例2)リン酸イオン類捕捉用高分子化ヒドロゲルの作製
1,4−フェニレンジボロン酸とポリビニルアルコール及びリン酸イオン類の捕捉部位を有するボロン酸化合物を用いて高分子ヒドロゲルの作製を行った。
【0101】
0.5Mの1,4−フェニレンジボロン酸DMSO溶液(0.17mL)、0.7125Mのポリビニルアルコール(分子量31,000〜50,000)DMSO溶液(1.00mL)、下記[化23]で示される0.014Mのリン酸イオン類の捕捉部位を有するボロン酸化合物DMSO溶液(0.20mL)及びDMSO(0.13mL)を混合し、高分子オルガノゲルを作製した。溶液を混合してから6時間後、形成した円柱状のオルガノゲルを四等分して、DMSO(20mL)に浸漬した。12時間おきにDMSOを取り替え、48時間後に溶媒を水(20mL)に交換した。さらに、12時間おきに水を交換し、48時間後に得られたものを高分子ヒドロゲルとした。
【0102】
【化23】

【0103】
図4は、上記で得られたリン酸イオン類の捕捉部位を有するボロン酸化合物を含む高分子ヒドロゲルを、7.0×10-5Mリボフラビン−5’−リン酸水溶液(1mL,1.0×10-3M緩衝液,pH=7.4)に浸漬した直後の状態を示し、図5は、72時間経過後の状態を示したものである。浸漬直後は、水溶液全体がリボフラビン−5’−リン酸に起因する黄色を帯びていたが、72時間経過後には、溶液は無色透明になり、高分子ヒドロゲルのみが黄色を呈したことから、水溶液中のリボフラビン−5’−リン酸は高分子ヒドロゲルに捕捉されたことが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基を複数有する高分子物質の水酸基が、分子内に2個以上のボロン酸基を有する化合物のボロン酸基との反応によって、水酸基を複数有する高分子物質が架橋され、且つ前記水酸基を複数有する高分子物質の少なくとも1つの水酸基に、分子内に重金属イオンの捕捉部位を有し、且つ1個のボロン酸基を有する化合物及び/又は分子内にリン酸イオン類の捕捉部位を有し、且つ1個のボロン酸基を有する化合物のボロン酸基が結合されていることを特徴とする高分子ゲル。
【請求項2】
請求項1に記載の高分子ゲルにおいて、前記水酸基を有する高分子が、ポリビニルアルコール、グアーガム、ローカストビーンガム、フェヌグリークガムから選択される少なくとも1種であることを特徴とする高分子ゲル。
【請求項3】
上記請求項1又は2に記載の高分子ゲルにおいて、分子内に2個以上のボロン酸基を有する化合物が、下記一般式(1)で示される化合物であることを特徴とする高分子ゲル。
【化1】

(式中、Xは、置換基を有していてもよい、ベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル、フェロセン、又はチオフェン環であり、mは2以上の整数である。)
【請求項4】
請求項3に記載の高分子ゲルにおいて、分子内に2個以上のボロン酸基を有する化合物が、1,4−フェニレンジボロン酸、1,3−フェニレンジボロン酸、4,4’−ビフェニルジボロン酸、1,1’−フェロセンジボロン酸、1,3,5−ベンゼントリボロン酸、2,5−チオフェンジボロン酸から選択される少なくとも1種であることを特徴とする高分子ゲル。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の高分子ゲルにおいて、前記分子内に重金属イオンの捕捉部位を有し、且つ1個のボロン酸基を有する化合物及び前記分子内にリン酸イオン類の捕捉部位を有し、且つ1個のボロン酸基を有する化合物が、下記一般式(2)で表される化合物であることを特徴とする高分子ゲル。
【化2】

(式中、Aは重金属イオン又はリン酸イオン類の捕捉部位を有する基、Yはベンゼン環又はナフタレン環を含む基、nは1以上の整数を表す。)
【請求項6】
請求項5に記載の高分子ゲルにおいて、分子内に重金属イオンの捕捉部位を有し、且つ1個のボロン酸基を有する化合物が、下記一般式(3)又は(4)で表される化合物であることを特徴とする高分子ゲル。
【化3】

(式中、R1及びR2は、水素原子、ピリジニルメチル基、カルボキシメチル基、又はナトリウムイオン、カリウムイオン等の対イオンが存在するカルボキシメチルアニオン性基を表し、R1及びR2の少なくとも一方はピリジニルメチル基、カルボキシメチル基、又はナトリウムイオン、カリウムイオン等の対イオンが存在するカルボキシメチルアニオン性基である。)

【化4】

(式中、R3、R4、R5及びR6は、水素原子、ピリジニルメチル基、カルボキシメチル基、又はナトリウムイオン、カリウムイオン等の対イオンが存在するカルボキシメチルアニオン性基を表し、R3、R4、R5及びR6の少なくとも1つはピリジニルメチル基、カルボキシメチル基、又はナトリウムイオン、カリウムイオン等の対イオンが存在するカルボキシメチルアニオン性基である。)
【請求項7】
請求項6に記載の高分子ゲルにおいて、一般式(3)で表される化合物が、下記に示されるボロン酸化合物の少なくとも1種であることを特徴とする高分子ゲル。
【化5】

【請求項8】
請求項6に記載の高分子ゲルにおいて、一般式(4)で表される化合物が、下記に示されるボロン酸化合物の少なくとも1種であることを特徴とする高分子ゲル。
【化6】

【請求項9】
請求項5に記載の高分子ゲルにおいて、分子内にリン酸イオン類の捕捉部位を有し、且つ1個のボロン酸基を有する化合物が、下記一般式(5)又は(6)で表される、硝酸イオン、酢酸イオン、水酸化物イオンなどの対イオンを有する化合物であることを特徴とする高分子ゲル。
【化7】

(式中、R1及びR2は、水素原子、ピリジニルメチル基、又はカルボキシメチルアニオン性基を表し、R1及びR2の少なくとも一方はピリジニルメチル基、又はカルボキシメチルアニオン性基である。)

【化8】

(式中、R3、R4、R5及びR6は、水素原子、ピリジニルメチル基、又はカルボキシメチルアニオン性基を表し、R3、R4、R5及びR6の少なくとも1つはピリジニルメチル基、又はカルボキシメチルアニオン性基である。)
【請求項10】
請求項9に記載の高分子ゲルにおいて、一般式(5)で表される化合物が、下記に示されるボロン酸化合物であることを特徴とする高分子ゲル。
【化9】

【請求項11】
請求項9に記載の高分子ゲルにおいて、一般式(6)で表される化合物が、下記に示されるボロン酸化合物であることを特徴とする高分子ゲル。
【化10】

【請求項12】
水酸基を複数有する高分子物質、分子内に2個以上のボロン酸基を有する化合物、及び、分子内に重金属イオンの捕捉部位を有し、且つ1個のボロン酸基を有する化合物及び/又は分子内にリン酸イオン類の捕捉部位を有し、且つ1個のボロン酸基を有する化合物を溶媒に溶解して反応させることを特徴とする高分子ゲルの製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載の高分子ゲルの製造方法において、溶媒が有機溶媒であり、得られたゲル化物中の有機溶媒を水で置換することを特徴とする高分子ゲルの製造方法。
【請求項14】
請求項13に記載の高分子ゲルの製造方法において、有機溶媒がジメチルスルホキシドであることを特徴とする高分子ゲルの製造方法。
【請求項15】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の高分子ゲルからなる水浄化処理剤。
【請求項16】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の高分子ゲルを重金属イオン及び/又はリン酸イオン類含有水と接触させることにより、重金属イオン及び/又はリン酸イオン類を除去することを特徴とする水浄化処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−46596(P2012−46596A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−188375(P2010−188375)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(305027401)公立大学法人首都大学東京 (385)
【Fターム(参考)】