説明

高分子ゲルおよびその製造方法

【課題】 アミド基含有高分子と粘土鉱物とが三次元網目を形成してなる高分子ゲルであって、優れた力学物性と三次元網目の安定性を併せ持つ、高分子ゲルの提供。
【解決手段】 アミド基含有高分子と粘土鉱物からなる高分子ゲルにおいて、アミド基含有高分子と粘土鉱物が三次元網目を形成し、且つアミド基含有高分子と粘土鉱物の結合の少なくとも一部を共有結合及び/またはイオン結合とすることにより、優れた力学物性と三次元網目の安定性を併せ持つ高分子ゲル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高分子ゲルおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子ゲルは素材が多量の溶媒(例:水)を含むことができるため、透明性、柔軟性、溶媒吸収性、特定溶質の吸着性や透過性などに優れており、分析、化学工業、農業、土木、建築、医療分野を始めとする多くの分野で、ソフトマテリアル、吸水材料、吸着剤、選択的分離材、振動吸収材などとして広く用いることが期待されている。しかし、これまでの高分子ゲルは、機能性と力学物性の全てを兼ね備えたものはほとんど無く、特に高分子ゲルの多くは力学的に弱いまたは脆いという欠点を有していた。最も一般的に用いられる高分子ゲルは、高分子鎖間を有機架橋剤を用いて、もしくはγ線や電子線を照射して、架橋したものであり、例えば、高吸水性樹脂として知られるポリアクリル酸ナトリウム架橋体や、N,N’−メチレンビスアクリルアミドにより架橋して得られたポリ(N、N−ジメチルアクリルアミド)のゲルなどが良く知られている。しかし、これらの高分子ゲル(以下、有機架橋高分子ゲルと略す)は極めて低い力学物性しか示さず、いずれも、20〜30%以下の延伸による弱い力で脆性破壊する課題を有していた。
【0003】
これに対して、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)(以下、PNIPAと略す)やポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)(以下、PDMAAと略す)のようなアミド基含有高分子とヘクトライトなどの粘土鉱物をナノメートルレベルで複合化して三次元網目を形成させて得られる高分子ゲルは、優れた機能性(透明性、高膨潤性)と共に、極めて優れた力学物性を示すことが報告されている(例えば、特許文献1参照)。例えば、PDMAAと粘土鉱物からなる高分子ゲルは優れた透明性、高膨潤性と共に、1500%を超える破断伸びや高い破断強度を有する優れた力学物性を示した(例えば、非特許文献1参照。)。またPNIPAと粘土鉱物からなる高分子ゲルは1000%前後の破断伸びを含む優れた力学物性に加えて、温度変化による迅速な膨潤/収縮などの優れた機能性を示した(例えば、非特許文献2、3参照)。従って、アミド基含有高分子と粘土鉱物とが三次元網目を形成してなる高分子ゲルは、優れた力学物性、機能性により数多くの産業分野で有効に用いられることが期待されている。
【0004】
しかし、かかる高分子ゲルは、構成成分であるアミド基含有高分子と粘土鉱物が主に水素結合および/または比較的弱い非共有結合性の相互作用により結合していると推定されている(例えば、非特許文献2,3参照)。その結果、例えば、特定の溶質成分の添加により三次元網目構造が破壊され、高分子ゲルが液状化する可能性があることから、より安定した高分子ゲルであることが求められている。これに対し、前記有機架橋高分子ゲルは、共有結合により高分子鎖間が結ばれているため安定性は高く、溶媒や溶質との接触によって三次元網目構造が破壊されることはないが、多数のランダムな架橋点形成により、前記したように力学的に非常に弱く、脆いものである。
【0005】
【特許文献1】特開2002−053629号公報
【非特許文献1】ハラグチら(K. Haraguchi et.al.),マクロモレキュールズ(Macromolecules), vol.36, No.15, 5732-5741 (2003).
【非特許文献2】ハラグチら(K. Haraguchi et.al.),アドバンスト マテリアルズ(Advanced Materials), vol.14, No.16, 1120-1124 (2002).
【非特許文献3】ハラグチら(K. Haraguchi et.al.),マクロモレキュールズ(Macromolecules), vol.35, No.27, 10162-10171 (2002).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、アミド基含有高分子と粘土鉱物とが三次元網目を形成してなる高分子ゲルであって、優れた力学物性と三次元網目の安定性を併せ持つ、高分子ゲルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究に取り組んだ結果、アミド基含有高分子と粘土鉱物からなる高分子ゲルにおいて、アミド基含有高分子と粘土鉱物が三次元網目を形成し、且つアミド基含有高分子と粘土鉱物の結合の少なくとも一部を共有結合及び/またはイオン結合とすることにより、優れた力学物性と三次元網目の安定性を併せ持つ高分子ゲルが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、アミド基含有高分子と粘土鉱物とが三次元網目を形成してなる高分子ゲルにおいて、該アミド基含有高分子と該粘土鉱物の間の結合の少なくとも一部が共有結合および/またはイオン結合からなる高分子ゲルを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明により得られる高分子ゲルは、アミド基含有高分子と粘土鉱物が三次元網目を形成していることから、力学物性や膨潤性などに優れ、且つ、アミド基含有高分子と粘土鉱物間の結合の少なくとも一部が共有結合及び/またはイオン結合からなることから、三次元網目が溶媒または溶質に対して高い安定性を有した高分子ゲルとなる。本発明による高分子ゲルは、柔軟且つ強靱で繊維状、微粒子状、膜状、又は中空糸状などの形態に成形可能であり、溶質や溶媒に対する安定性が必要とされる多くの分野で広く応用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明で得られる高分子ゲルは、アミド基含有高分子と粘土鉱物とが三次元網目を形成してなる高分子ゲルであり、且つ、アミド基含有高分子と粘土鉱物の結合の少なくとも一部が共有結合及び/またはイオン結合からなるものである。
【0011】
高分子ゲルを形成するアミド基含有高分子は、水に溶解する性質を有するアミド基含有ビニルモノマーを主成分として重合して得られるものであり、得られるアミド基含有高分子が水に溶解または膨潤するものが特に好ましい。
【0012】
アミド基含有高分子を得るための主成分としてのアミド基含有ビニルモノマーの具体例としては、N−アルキルアクリルアミド、N,N−ジアルキルアクリルアミド、N−アルキルメタクリルアミド、N,N−ジアルキルメタクリルアミド、アクリルアミドなどのアミド基含有ビニルモノマーの中から選択される1種又は2種以上のモノマーが挙げられ、粘土鉱物と共有結合またはイオン結合可能な官能基を有する少量のモノマーがこれらと併用して用いられる。
【0013】
更に具体的には、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−シクロプロピルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−シクロプロピルメタクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N−メチル−N−エチルアクリルアミド、N−メチル−N−イソプロピルアクリルアミド、N−メチル−N−n−プロピルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−アクリロイルピロリディン、N−アクリロイルモルフォリン、N−アクリロイルピペリディン、N−アクリロイルメチルホモピペラディン、N−アクリロイルメチルピペラディン、アクリルアミド等が例示される。
【0014】
また上記アミド基含有ビニルモノマーとその他の重合性モノマーの併用も本発明に言う高分子ゲルが形成される限りにおいて可能である。また、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)やポリ(N,N−ジエチルアクリルアミド)などのように相転移を示す臨界温度を有し、外部刺激でゲル体積を変化させるような刺激応答性水溶性ポリマーは特に好ましく用いられる。
【0015】
本発明におけるアミド基含有高分子では、上記の主成分としてのアミド基含有ビニルモノマーを重合して得られる高分子鎖の中に、粘土鉱物と共有結合及び/またはイオン結合を可能とする官能基を含むものであることが必須である。具体的には、粘土鉱物とシロキサン結合を可能とする、Si−OR基(Rは水素または炭素数1〜5のアルキル基)やSi−Cl基、及び/または、粘土鉱物とイオン性結合を可能とする4級アンモニウムイオン(カチオン)基を含むものが好ましい態様として挙げられる。かかる官能基は、本発明における無機成分である層状剥離した粘土鉱物と選択的に反応できる特徴を有する。即ち、層状剥離した粘土鉱物の表面にはシラノール基(SiOH)が存在することから、シロキサン結合(Si−O−Si)を形成して結合することが有効、且つ容易である。更に、層状剥離した粘土鉱物は表面に負の電荷を持っていることから、4級アンモニウムイオン(カチオン)とイオン結合を形成しやすい。該官能基のアミド基含有高分子鎖中への導入方法は、特に限定されないが、例えば、該官能基を含むビニルモノマーを、主成分であるアミド基含有ビニルモノマーに対して混合して重合したり、予め該官能基を含むビニルモノマーを粘土鉱物と反応させた後に、アミド基含有ビニルモノマーと反応させる方法などが用いられる。なお、該官能基を含むビニルモノマーが、同一モノマー内に更にアミド基を含むものであってもよい。該官能基を有するビニルモノマーの具体例としては、メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、O−メタクリルオキシ−N−トリエトキシシリルプロピルウレタン、メタクリルオキシジメチルメトキシシラン、グリシジルメタクリレート、N,N,N−トリメチル−N−(2ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピル)アンモニムクロライドなどが挙げられる。また、該アミド基含有高分子は水と親和性を有する他の官能基(例えば、水酸基、アミノ基、カルボン酸基など)を併せて有する高分子であってもよい。更に、また、上記ビニルモノマーと共に、テトラアルコキシシラン(アルキル鎖数が1〜5)及びその低縮合物、モノメチルトリアルコキシシラン、モノフェニルトリアルコキシシランなどを上記官能基含有ビニルモノマーと併用して用いることはゲルの安定性をより高くするために有効である。
【0016】
主成分であるアミド基含有ビニルモノマー(B)に対し、粘土鉱物と共有結合可能な官能基を有するビニルモノマー(C)または粘土鉱物とイオン結合可能な官能基を有するビニルモノマー(D)は少量含まれていることが好ましい。良好な力学物性と三次元網目の安定性の観点から、モノマー(D)/モノマー(B)またはモノマー(C)/モノマー(B)のモル比が、いずれも1×10−5〜5×10−1であることが好ましく、更に好ましくは1×10−4〜1×10−1、特に好ましくは5×10−4〜5×10−2の範囲である。
【0017】
高分子ゲルを形成する粘土鉱物としては、粘土層表面に荷電を有し、且つ水中で膨潤または層状に解離する水膨潤性粘土鉱物であることが好ましく、より好ましくは単層または複数層の小さい単位に水中で微細に分散するものである。好ましい粘土鉱物の具体例としては、ナトリウムを層間イオンとして含む水膨潤性ヘクトライト、水膨潤性モンモリロナイト、水膨潤性サポナイト、水膨潤性合成雲母などが挙げられる。
【0018】
本発明で得られる高分子ゲルを形成するアミド基含有高分子と粘土鉱物の量は、アミド基含有高分子と粘土鉱物が三次元網目を形成出来れば良く、特に限定されないが、粘土鉱物/アミド基含有高分子化合物の質量比が0.001〜10であることが好ましく、より好ましくは0.05〜5、特に好ましくは0.1〜1である。
【0019】
本発明で得られる高分子ゲルはその三次元網目の中に溶媒を含有することができる。溶媒としては、水または水と混和する有機溶媒またはそれらの混合溶媒などの溶媒が用いられる。好ましくは水または水を主成分とする溶媒である。
【0020】
本発明で得られる高分子ゲルは、アミド基含有高分子と粘土鉱物が三次元網目を形成し、且つ、該アミド基含有高分子と該粘土鉱物の間の結合の少なくとも一部が共有結合及び/またはイオン結合であることが必要不可欠である。ここで、共有結合の種類は必ずしも限定されないが、粘土鉱物の表面または端部が、アミド基含有高分子とシロキサン結合(Si−O−)を介して結合したものは好ましく用いられる。またイオン結合の種類も必ずしも限定されないが、粘土鉱物のアニオンと、アミド基含有高分子に含まれる4級アンモニウムイオン(カチオン)が相互作用したイオン結合は好ましく用いられる。
【0021】
本発明における高分子ゲルを得るための製造方法としては、例えば、アミド基含有ビニルモノマー(B)と、粘土鉱物を共有結合またはイオン結合させる機能のある官能基を有するビニルモノマー(CまたはD)を、粘土鉱物(A)と共に用いることが有効である。例えば、粘土鉱物(A)、モノマー(B)と共に、モノマー(C)及び/またはモノマー(D)を含む水溶液を調製後、モノマー(B)およびモノマー(C)及び/またはモノマー(D)を、粘土鉱物(A)存在下で重合させる方法が挙げられる。好ましくは、まず粘土鉱物(A)とモノマー(C)が反応し、次いで、モノマー(B)が重合するように、添加順序などの実験条件を設定することが有効に用いられる。更に、予め粘土鉱物(A)とモノマー(C)及び/またはモノマー(D)を反応させておいて、それの存在下でモノマー(B)を反応させる方法も用いられる。
【0022】
ここで、重合反応としては、例えば、過酸化物の存在、加熱または紫外線照射など慣用の方法を用いたラジカル重合により行わせることができる。ラジカル重合開始剤および触媒としては、慣用のラジカル重合開始剤および触媒のうちから適宜選択して用いることができる。好ましくは水に分散性を有し、系全体に均一に含まれるものが用いられる。特に好ましくは層状に剥離した粘土鉱物と強い相互作用を有するラジカル重合開始剤である。
【0023】
具体的には、重合開始剤として水溶性の過酸化物、例えばペルオキソ二硫酸カリウムやペルオキソ二硫酸アンモニウム、水溶性のアゾ化合物、例えば、和光純薬工業株式会社製のVA−044、V−50、V−501などが好ましく用いられる。その他、ポリエチレンオキシド鎖を有する水溶性のラジカル開始剤なども用いられる。
【0024】
また触媒としては、3級アミン化合物であるN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンやβ−ジメチルアミノプロピオニトリルなどが好ましく用いられる。重合温度は、用いる水溶性有機高分子、重合触媒および開始剤の種類などに合わせて0℃〜100℃の範囲に設定する。重合時間も触媒、開始剤、重合温度、重合溶液量(厚み)などの重合条件によって異なり、一概に規定できないが、一般に数十秒〜十数時間の間で行う。
【0025】
本発明により得られる高分子ゲルは、アミド基含有高分子と粘土鉱物が三次元網目を形成していることから、力学物性や膨潤性などに優れ、且つ、アミド基含有高分子と粘土鉱物間の結合の少なくとも一部が共有結合及び/またはイオン結合からなることから、三次元網目が溶媒または溶質に対して高い安定性を有した高分子ゲルとなる。
【0026】
具体的には、アミド基含有高分子と粘土鉱物が三次元網目を形成してなる高分子ゲルは、ノニオン界面活性剤の水溶液、ポリオキシエチレン鎖やポリオール鎖を有する水溶性高分子の水溶液、またアミド基含有極性溶媒などに対して不安定であり、一部または全部がこれらの水溶液や溶媒と接触することにより溶解する現象を示す。しかし、本発明における粘土鉱物と高分子鎖間に共有結合及び/またはイオン結合を有する高分子ゲルは、これらの水溶液や溶媒に対して安定で溶解が低く抑えられるか、全く溶解することがない。
【0027】
更に本発明により得られる高分子ゲルは、ネットワークがより強固な結合点からなることより、高分子ゲルの力学的な変形に対する安定性、耐久性も向上する。具体的には、大きな延伸または圧縮変形時における永久歪みや、一定荷重下でのクリープ変形が小さくなったり、消失したりする。
【実施例】
【0028】
次いで本発明を実施例により、より具体的に説明するが、もとより本発明は、以下に示す実施例にのみ限定されるものではない。
【0029】
(実施例1〜3及び比較例1)
粘土鉱物として[Mg5.34Li0.66Si20(OH)]Na+0.66の組成を有する水膨潤性合成ヘクトライト(商標ラポナイトXLG、日本シリカ株式会社製)を用いた。有機モノマーはN−イソプロピルアクリルアミド(NIPA:興人株式会社製)をトルエンとヘキサンの混合溶媒を用いて再結晶し、無色針状結晶に精製してから用いた。
【0030】
重合開始剤は、ペルオキソ二硫酸カリウム(KPS:関東化学株式会社製)をKPS/水=0.20/10(g/g)の割合で脱酸素した純水中に溶解し、水溶液にして使用した。触媒は、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(TEMED:関東化学株式会社製)を使用した。純水は、全て高純度窒素をあらかじめ3時間以上バブリングさせ、含有酸素を除去してから使用した。
【0031】
内部を窒素置換した内径25mm、長さ80mmの平底ガラス容器に、純水18.02gと0.305gのラポナイトXLGとNIPA2.26gとの均一混合溶液を調製した。次いで、実施例1ではメタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン(Methacryloxypropyltrimethoxylilane)をNIPAに対してモル比で0.0005加え、実施例2ではメタクリルオキシプロピルメチルヂメトキシシラン(Methacryloxypropylmethyldimethoxysilane)をNIPAに対してモル比で0.002加え、実施例3ではメタクリルオキシプロピルジメチルメトキシシラン(Methacryloxypropyldimethylmethoxysilane)をNIPAに対してモル比で0.005加え、比較例1では何も加えず、いずれも超音波処理を水中で10分間行った。その後、低温(約1℃)にてKPS水溶液1.0gとTEMED16μlを均一に分散するように加えた。この溶液の一部を底の閉じた内径5.5mm、長さ150mmのガラス管容器3本に酸素に触れないようにして移した後、上部に密栓をし、20℃の恒温水槽中で15時間静置して重合を行った。
【0032】
重合反応後は、ガラス管容器内に弾力性、柔軟性のある均一な円柱状ゲルが生成していた。得られたゲルおよびその乾燥物に対する熱重量分析(セイコー電子工業株式会社製TG−DTA220:室温〜600℃)、フーリエ変換赤外線吸収スペクトル測定(日本分光株式会社製フーリエ変換赤外分光光度計FT/IR−550)、乾燥重量測定により、得られたゲルは実施例1〜3及び比較例1のいずれの場合もモノマー(NIPA)の99.5%以上が重合し、初期反応溶液とほぼ同じ割合の粘土鉱物(ラポナイトXLG)を含む高分子ゲルであることが確認された。広角X線回折(理学機器製:X線回折装置RINTULTIMA)および透過型電子顕微鏡観察(日本電子株式会社製JEM−200CX:加速電圧100KV)により、ゲル内部で粘土鉱物が層状剥離して分子状に分散していることが確認された。また、高分子ゲルの乾燥物を20℃の水に浸漬することにより、水を吸収し乾燥前と同じ形状の弾性のあるゲルに戻ることが確認され、得られた高分子ゲルにおいてポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)とクレイを主成分とする三次元網目構造が形成されていることが確認された。
【0033】
得られた高分子ゲルの力学延伸試験(引っ張り試験装置、島津製作所製:卓上型万能試験機AGS−H)の結果、弾性率、破断伸びがそれぞれ、1.64kPa、800%(実施例1)、2.36kPa、450%(実施例2)、1.42kPa、850%(実施例3)、1.25kPa、1200%(比較例1)であり、いずれも柔らかさと強靱さを有していることが確認された。また、実施例1〜3及び比較例1で得られた高分子ゲルは、共に、特定の温度(Tc)以下では膨潤(透明)し、Tc以上の温度では収縮(白濁)する性質を示した。膨潤・収縮の体積変化から、Tcは約33℃であった。
【0034】
得られた高分子ゲルを直径5.5mm、長さ約1mmの円盤状にきりとり、合計で約1gずつを、超純水中にノニオン界面活性剤(ニューコール520:日本乳化剤(株)製:HLB=19.0)を5質量%(実施例4)溶解した各水溶液100gの中に入れ、20℃恒温水槽中で、ゆっくりと撹拌して保持した。かかるノニオン界面活性剤水溶液中での高分子ゲルの安定性を調べるために、一定時間毎に、ゲルが入らないようにして取得した少量の液をスクリューキャップ付き光学用石英セルに取り、40℃で光透過率(波長600nm)を測定した。ブランクは40℃の超純水を使用した。以上の測定を500時間までの保持時間に関して行った。その結果、実施例1〜3のいずれにおいても、光透過率はほぼ100%のまま500時間まで変化せず、目視での観察も含めて、高分子ゲルがノニオン界面活性剤溶液中で溶解することなく安定して存在していることが確認された。一方、比較例1で得た高分子ゲルでは20℃恒温水槽中での保持時間経過と共に、40℃液温での光透過率が低下していった。このことは、比較例1では、高分子ゲルから構成高分子であるPNIPAが周りの液中に溶け出し、そのため(PNIPAの相転移温度(32℃)以上である40℃では)液が白濁したことを意味しており、高分子ゲルが液中のノニオン界面活性剤の効果により溶解していると結論された。得られた結果を表1にまとめた。
【0035】
【表1】

【0036】
(実施例4〜6及び比較例2)
ノニオン界面活性剤水溶液の代わりにアミド系極性溶媒(ジメチルアセトアミド)を用いる以外は、実施例1〜3及び比較例1と同様にして、高分子ゲルの溶解試験を行った。実施例4では実施例1と、実施例5では実施例2と、実施例6では実施例3と、比較例2では比較例1と同じ高分子ゲルを用いた。その結果、実施例4〜6ではジメチルアセトアミド溶媒中で、固形分重量に対して440%(実施例4)、375%(実施例5)、425%(実施例6)膨潤するのみで溶解は観測されなかった。一方、比較例2では、形状が徐々に失われ溶解するのが観測された。
【0037】
(実施例7)
メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン(Methacryloxypropyltrimethoxylilane)の代わりに、N,N,N−トリメチル−N−(2ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピル)アンモニムクロライドをNIPAに対してモル比で0.01用いること、超音波処理をしないことを除くと、実施例1と同様にして調製し、高分子ゲルを得た。得られた高分子ゲルは弾性率が0.85kPa、破断伸びが700%であり、実施例1と同様にして測定したノニオン界面活性剤水溶液中での溶解は観測されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
柔軟且つ強靱で繊維状、微粒子状、膜状、又は中空糸状などの形態に成形可能であり、生活用品、医薬、医療、農業、土木、工業分野の幅広い範囲の成形材料として有用である。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミド基含有高分子と粘土鉱物とが三次元網目を形成してなる高分子ゲルにおいて、該アミド基含有高分子と該粘土鉱物の間に、共有結合及びイオン結合の少なくとも1つを有することを特徴とする高分子ゲル。
【請求項2】
前記共有結合がシロキサン結合(−Si−O−)である請求項1記載の高分子ゲル。
【請求項3】
前記イオン結合が4級アンモニウムイオンを含む結合である請求項1記載の高分子ゲル。
【請求項4】
粘土鉱物(A)と、
アミド基含有ビニルモノマー(B)と、
Si−OR基(但し、Rは水素または炭素数1〜5のアルキル基を示す。)またはSi−Cl基と、ビニル基を共に有するモノマー(C)と
を出発成分として含み、モノマー(B)とモノマー(C)が重合して高分子を形成すると共に、少なくともモノマー(C)の一部が粘土鉱物(A)と反応してシロキサン結合を形成することを特徴とする請求項1または2記載の高分子ゲルの製造方法。
【請求項5】
粘土鉱物(A)と、
アミド基含有ビニルモノマー(B)と、
4級アンモニウムカチオンとビニル基を共に有するモノマー(D)と
を出発成分として含み、モノマー(B)とモノマー(D)が重合して高分子を形成すると共に、少なくともモノマー(D)の一部が粘土鉱物(A)とイオン結合を形成する請求項1または3記載の高分子ゲルの製造方法。
【請求項6】
アミド基含有ビニルモノマー(B)に対するモノマー(C)またはモノマー(D)のモル比が1×10−5〜5×10−1である請求項4または5記載の高分子ゲルの製造方法。
【請求項7】
粘土鉱物(A)が水膨潤性であり、且つ、アミド基含有ビニルモノマー(B)が水溶性である請求項1〜6のいずれか一つに記載の高分子ゲルまたは高分子ゲルの製造方法。

【公開番号】特開2007−154092(P2007−154092A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−353334(P2005−353334)
【出願日】平成17年12月7日(2005.12.7)
【出願人】(000173751)財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】