説明

高分子ゲルの接合方法

【目的】簡便にして効果的な高分子ゲルの接合方法を提供すること。
【構成】水溶性有機モノマーから得られる重合体と水膨潤性粘土鉱物とからなる三次元網目を有する有機ポリマー/クレイ複合高分子ゲルを切断した後、切断面同士または切断面と非切断面を貼り合わせ、必要に応じて、加熱、加圧、超音波照射、水溶性高分子の塗布などを行うことにより、貼り合わせた面が強固に接合した高分子ゲルが得られる。本発明を用いると、有機ポリマー/クレイ複合高分子ゲルを加工して任意の形状に成形することができ、複雑形状で且つ力学物性、膨潤性、機能性に優れた高分子ゲルが容易に調製できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子ゲルの接合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高分子ゲルは有機高分子の三次元架橋物が水または有機溶媒を含んで膨潤したものであり、膨潤性やゴム状弾性を有するソフトマテリアルとして、医療・医薬、食品、土木、バイオエンジニアリング、スポーツ関連などの分野で広く用いられている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
かかる高分子ゲル材料を実際に使用するにあたっては、他の金属材料や有機ポリマー材料と同じように、目的に応じて複雑な形状に加工することが必要であり、そのため、高分子ゲル同士を接合できることが強く望まれていた。多くの金属材料や一部の有機ポリマー材料(例:ポリ塩化ビニル)において有効に用いられている接合方法として溶接技術があり、同様な方法により、高分子ゲルを加工することが出来れば極めて有効な成形加工ができると推定された。しかし、これまで高分子ゲルを接合する方法は知られていなかった。
【0004】
また、水溶性有機モノマーの重合体と層状に剥離した水膨潤性粘土鉱物が分子レベルで複合化し、三次元網目を形成している有機ポリマーと水膨潤性粘土鉱物の複合高分子ゲルが知られている(特許文献1)。しかし、特許文献1は高分子ゲルを接合する方法に関しては開示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−53629号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「ゲルハンドブック」p226〜727、長田義仁、梶原莞爾編:エヌ・ティー・エヌ株式会社、1997年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、簡便にして効果的な高分子ゲルの接合方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究に取り組んだ結果、水溶性有機モノマーから得られる重合体と水膨潤性粘土鉱物とからなる三次元網目を有する高分子ゲルを用いること、且つ、その切断した面を用いることにより、高分子ゲルの接合が効果的に行えることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、水溶性のラジカル重合性有機モノマーの重合体(A)と水膨潤性粘土鉱物(B)により形成された三次元網目構造を有する高分子ゲルの接合方法であって、接合しようとする高分子ゲルの双方の面、又はどちらか一方の面に切断面を形成し、該切断面同士又は該切断面と非切断面とを貼り合わせることにより高分子ゲルを接合することを特徴とする高分子ゲルの接合方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明における高分子ゲルの接合方法を用いると、高分子ゲルを加工して任意の形状に成形することができ、高価な金型を作成して使用することなく、複雑な形状で且つ力学物性、膨潤性、機能性に優れた高分子ゲルが容易に調製できる。かかる高分子ゲルは、各種用途へ適用でき、特に医療材料、医療器具材料、再生医療材料、健康保持・スポーツ用具材料、美容材料、分析器具材料、工業材料、農業用材料、建築土木用材料などに有用である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書では、上記の水溶性のラジカル重合性有機モノマーの重合体(A)を以下、水溶性有機モノマー重合体(A)と記載し、水溶性有機モノマー重合体(A)と水膨潤性粘土鉱物(B)とからなる三次元網目を有する高分子ゲルを有機ポリマー/クレイ複合高分子ゲルと記載する。
【0012】
本発明における高分子ゲルの接合方法は、水溶性有機モノマー重合体(A)と水膨潤性粘土鉱物(B)とからなる三次元網目を有する有機ポリマー/クレイ複合高分子ゲルを用い、その切断面を用いて高分子ゲルを接合することを基本とする。
【0013】
本発明において用いる有機ポリマー/クレイ複合高分子ゲルは、特許文献1に記載の方法で得られるものと同等のものである。具体的には、水溶性有機モノマー重合体と層状に剥離した水膨潤性粘土鉱物が分子レベルで複合化し、三次元網目を形成しているものである。但し、水溶性有機ポリマー重合体と水膨潤性粘土鉱物との結合は、主に水素結合、イオン結合、配位結合のいずれかによるものである必要がある。ごく少量の共有結合を含むものは用いることが可能であるが、共有結合の導入量が増すと比較例において示すように急激に高分子ゲルの接合は行えなくなる。
【0014】
本発明における水溶性有機モノマーとしては、水に溶解する性質を有し、水に均一分散可能な水膨潤性粘土鉱物と相互作用を有するものが好ましく、例えば、粘土鉱物と水素結合、イオン結合、配位結合、共有結合等を形成できる官能基を有するものが好ましい。これらの官能基を有する水溶性有機モノマーとしては、具体的には、アミド基、アミノ基、エステル基、水酸基、テトラメチルアンモニウム基、シラノール基、エポキシ基などを有する重合性不飽和基含有水溶性有機モノマーが挙げられ、なかでもアミド基やエステル基を有する重合性不飽和基含有水溶性有機モノマーが好ましい。なお、本発明で言う水には、水単独以外に、水と混和する有機溶媒をとの混合溶媒で水を主成分とするものが含まれる。
【0015】
アミド基を有する重合性不飽和基含有水溶性有機モノマーの具体例としては、N−アルキルアクリルアミド、N,N−ジアルキルアクリルアミド、アクリルアミド等のアクリルアミド類、または、N−アルキルメタクリルアミド、N,N−ジアルキルメタクリルアミド、メタクリルアミド等のメタクリルアミド類が挙げられる。ここでアルキル基としては炭素数が1〜4のものが特に好ましく選択される。またエステル基を有する重合性不飽和基含有水溶性有機モノマーの具体例としては、メトキシエチルアクリレート、エトキシエチルアクリレート、メトキシエチルメタクリレート、エトキシエチルメタクリレートなどがあげられる。
【0016】
かかる水溶性有機モノマー重合体としては、例えば、ポリ(N−メチルアクリルアミド)、ポリ(N−エチルアクリルアミド)、ポリ(N−シクロプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(アクリロイルモルフォリン)、ポリ(メタクリルアミド)、ポリ(N−メチルメタクリルアミド)、ポリ(N−シクロプロピルメタクリルアミド)、ポリ(N−イソプロピルメタクリルアミド)、ポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)、ポリ(N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−メチル−N−エチルアクリルアミド)、ポリ(N−メチル−N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−メチル−N−n−プロピルアクリルアミド)、ポリ(N,N−ジエチルアクリルアミド)、ポリ(N−アクリロイルピロリディン)、ポリ(N−アクリロイルピペリディン)、ポリ(N−アクリロイルメチルホモピペラディン)、ポリ(N−アクリロイルメチルピペラディン)、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(メトキシエチルアクリレート)、ポリ(エトキシエチルアクリレート)、ポリ(メトキシエチルメタクリレート)、ポリ(エトキシエチルメタクリレート)が例示される。この内、ポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)は本発明における接合方法において特に優れた接合効果を示す。また水溶性有機モノマー重合体としては、以上のような単一の重合性不飽和基含有水溶性有機モノマーからの重合体の他、これらから選ばれる複数の異なる重合性不飽和基含有水溶性有機モノマーを重合して得られる共重合体を用いることも有効である。また上記水溶性有機モノマーとそれ以外の有機溶媒可溶性重合性不飽和基含有有機モノマーとの共重合体も、本発明にいう一体化した高分子ゲルが達成出来るものであれば使用することができる。
【0017】
本発明における水溶性有機モノマー重合体(A)は、上記水溶性有機モノマーを重合したものであり、水溶性または水を吸湿する性質を有する親水性(または両親媒性)を有する。さらに、熱、pHや光に応答する等といった機能性や、生体吸収性を含む生体適合性や生分解性などの特性を有しているものは用途に応じてより好ましく用いられる。例えば、水溶液中でのポリマー物性(例えば親水性と疎水性)が下限臨界共溶温度(Lower Critical Solution Temperature:LCST)前後のわずかな温度変化により大きく変化する特性を有する水溶性有機モノマー重合体などであり、具体的にはポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)やポリ(N,N−ジエチルアクリルアミド)などが挙げられる。また生体適合性に優れたものとしては、ポリ(メトキシエチルアクリレート)やポリ(メタクリルアミド)などがあげられる。
【0018】
本発明における有機ポリマー/クレイ複合高分子ゲルに用いる粘土鉱物(B)としては、水に膨潤性を有するものであり、好ましくは水によって層間が膨潤する性質を有するものが用いられる。より好ましくは少なくとも一部が水中で層状に剥離して分散できるものであり、特に好ましくは水中で1ないし10層以内の厚みの層状に剥離して均一分散できる層状粘土鉱物である。例えば、水膨潤性スメクタイトや水膨潤性雲母などが用いられ、より具体的には、ナトリウムを層間イオンとして含む水膨潤性ヘクトライト、水膨潤性モンモリロナイト、水膨潤性サポナイト、水膨潤性合成雲母などが挙げられる。
【0019】
本発明における水溶性有機モノマー重合体(A)に対する水膨潤性粘土鉱物(B)の質量比(B/A)は、0.01〜1.0であることが好ましく、より好ましくは、0.05〜0.7、特に好ましくは、0.1〜0.5である。この範囲であれば十分な高分子ゲルの接合面強度を得ることができる。
【0020】
本発明では、貼り合わせる前の接合対象面に、水溶性有機高分子(C)を塗布しておくことが接合強度を高めるために好ましい。用いる水溶性有機高分子(C)としては、水に溶解または混和することができる有機分子または有機高分子であり、特に水膨潤性粘土鉱物(B)と相互作用できるものが好ましい。具体的には、エーテル基、水酸基、カルボキシル基、アミド基、アミノ基などの親水性官能基を有する水溶性有機高分子であり、例として、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ(ヒドロキシエチルアクリレート)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(N−メチルアクリルアミド)、ポリ(N−エチルアクリルアミド)、ポリ(N−シクロプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(アクリロイルモルフォリン)、ポリ(メタクリルアミド)、ポリ(N−メチルメタクリルアミド)、ポリ(N−シクロプロピルメタクリルアミド)、ポリ(N−イソプロピルメタクリルアミド)、ポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)、ポリ(N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−メチル−N−エチルアクリルアミド)、ポリ(N−メチル−N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−メチル−N−n−プロピルアクリルアミド)、ポリ(N,N−ジエチルアクリルアミド)、ポリ(N−アクリロイルピロリディン)、ポリ(N−アクリロイルピペリディン)、ポリ(N−アクリロイルメチルホモピペラディン)、ポリ(N−アクリロイルメチルピペラディン)、ポリ(アクリルアミド)、ポリアクリル酸、ヒアルロン酸、ポリエチレンイミン、ポリプロピレンイミン、アガロース、アルギン酸、カラギーナン、コラーゲン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、セルロース誘導体、キタンサンガム、ジェランガム、キトサンなどが挙げられる。これらは単独または複数を組み合わせて用いられる。使用に当たっては、これら水溶性有機高分子をあらかじめ水または溶媒に溶解させておき、接合対象面に塗布する方法で用いられる。
【0021】
本発明における接合方法は、水溶性有機モノマー重合体と水膨潤性粘土鉱物とからなる三次元網目を有する有機ポリマー/クレイ複合高分子ゲルを切断し、得られた切断面を用いて、該有機ポリマー/クレイ複合高分子ゲルを接合することにある。具体的には、切断面同士を貼り合わせて接合する場合と、切断面と非切断面を貼り合わせて接合する場合が含まれる。非切断面同士を用いる場合は、貼り合わせても十分な接合が得られない。切断の方法は既知の方法が用いられ特に限定されない。
【0022】
本発明においては、接合する面を貼り合わせた後、加熱、加圧、超音波照射のいずれか一つまたは複数の処理を行うことにより、貼り合わせた面の接合を促進し、強固にすることができる。加熱は20℃から100℃の間が用いられ、適切な温度は、有機ポリマー/クレイ複合高分子ゲルの組成により変化するが、より好ましくは、30℃〜90℃、特に好ましくは、40℃〜80℃である。一般に、高温になるほど短時間での接合促進となる。また、加圧によっても高分子ゲルの接合は促進される。加圧の圧力は、有機ポリマー/クレイ複合高分子ゲルが組成変形しない範囲であれば良く、組成および他の接合条件によって変化し、特に限定されない。一般に、加圧圧力が高いほど、接合効果は高い。更に、超音波照射によっても接合が促進される。照射時間や強度は有機ポリマー/クレイ複合高分子ゲルの組成や他の接合条件によって変化し、既知の装置条件の範囲で選択される。更に、水溶性有機高分子(C)をこれらの処理の前に塗布しておくと更に接合効果を高められる場合がある。
【0023】
有機ポリマー/クレイ複合高分子ゲルの切断面を用いて、それらを貼り合わせるというシンプルな方法で高分子ゲルの接合ができる理由は必ずしも明確ではないが、以下のように推定される。有機ポリマー/クレイ複合高分子ゲルの切断面(表面)では、片末端がクレイに結合し他方が自由なダングリング鎖が数多く形成している。切断面が他の有機ポリマー/クレイ複合高分子ゲル面と張り合わされることにより、これらダングリング鎖の自由な片末端が他方のゲル表面近傍にあるクレイに結合することで貼り合わせ面の結合が生じると考えられる。このことは、有機ポリマー/クレイ複合高分子ゲルにおいては、隣接するクレイ間を結合しているポリマーの鎖長が長いこと(従って、それらが平均として半分に切断されて生じるダングリング鎖も長いこと)、及びポリマー/クレイ間結合が水素結合などの非共有結合であることによる。事実、切断しても(短い架橋点間分子量のため)長いダングリング鎖が生じない化学架橋ゲルでは、比較例1、2に示すように貼り合わせによる接合は生じない。また、有機ポリマー/クレイ複合高分子ゲルでもクレイ/有機ポリマーの比が高い(例:2.0(比較例3))場合は、同様にダングリング鎖が短いため有効な接合強度とならない。なお、切断面同士を貼り合わせる方がダングリング鎖の数が多いため一般により強い接合が可能となり、また、加熱、加圧、超音波照射などの処理は、ダングリング鎖の自由な片末端が相手方のクレイに結合するチャンスを増やすため、接合の促進に有効と推定される。
【実施例】
【0024】
次いで本発明を実施例により、より具体的に説明するが、もとより本発明は、以下に示す実施例にのみ限定されるものではない。
【0025】
(実施例1、2)
水膨潤性粘土鉱物には、[Mg5.34Li0.66Si20(OH)]Na0.66の組成を有する水膨潤性合成ヘクトライト(商標ラポナイトXLG)を、水溶性有機モノマーには、N,N−ジメチルアクリルアミド(DMAA:興人株式会社製)を用いた。DMAAは精製により重合禁止剤を取り除いてから使用した。
【0026】
重合開始剤は、ペルオキソ二硫酸カリウム(KPS:関東化学株式会社製)をKPS/水=0.40/20(g/g)の割合で水溶液にして使用した。触媒は、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(TEMED:和光純薬工業株式会社製)を使用した。
【0027】
20℃の恒温室において、平底ガラス容器に、純水38.04gと1.829gのラポナイトXLGを加え、無色透明の溶液を調製した。これにDMAA3.96gを加えて無色透明溶液を得た。次にKPS水溶液2.0gとTEMED32μlを攪拌しながら加え、この溶液を1cm×1cm×6cmの密閉した容器に移した後、20℃の恒温水槽中で20時間静置して重合を行った。これらの溶液調製から重合までの操作は、全て酸素を遮断した窒素雰囲気下で行った。重合開始から20時間後に、容器内に有機モノマー重合体と層状剥離した粘土鉱物からなる無色透明で均一な有機ポリマー(PDMAA)/クレイ複合高分子ゲルが生成した(クレイ/有機ポリマー=0.46)。得られた有機ポリマー/クレイ複合高分子を厚み0.5cmで2等分し、0.5cm×1cm×6cmの高分子ゲルを二つ得た。該高分子ゲルを(実施例1)では、切断面同士を0.5cmずつ重なるように、(実施例2)では切断面と非切断面が0.5cmずつ重なるように貼り合わせ、いずれの場合も、重なった部分に1cm当たり45gの荷重を加えて10時間密閉容器中で保持した。その結果、いずれも貼り合わせた部分が均一にしっかりと接合しているのが目視で確認された。得られた接合部分が中心にくるようにして、引っ張り試験を引っ張り試験装置(株式会社島津製作所製、卓上型万能試験機AGS−H)を用い、評点間距離=20mm、引っ張り速度=100mm/分にて行った。その結果、実施例1では強度=80kPa、破断伸び=900%が、実施例2では、強度=50kPa、破断伸び=500%が得られた。なお、同様にして合成した切断面接合部を有しない高分子ゲルの引っ張り試験は、強度=100kPa、破断伸び=1050%であった。
【0028】
(実施例3)
水膨潤性粘土鉱物には、[Mg5.34Li0.66Si20(OH)]Na0.66の組成を有する水膨潤性合成ヘクトライト(商標ラポナイトXLG)を、水溶性有機モノマーには、N−イソプロピルアクリルアミド(NIPA:興人株式会社製)を用いた。NIPAは精製により重合禁止剤を取り除いてから使用した。
【0029】
重合開始剤は、ペルオキソ二硫酸カリウム(KPS:関東化学株式会社製)をKPS/水=0.40/20(g/g)の割合で水溶液にして使用した。触媒は、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(TEMED:和光純薬工業株式会社製)を使用した。
【0030】
20℃の恒温室において、平底ガラス容器に、純水38.04gと0.61gのラポナイトXLGを加え、無色透明の溶液を調製した。これにNIPA4.52gを加えて無色透明溶液を得た。次にKPS水溶液2.0gとTEMED32μlを攪拌しながら加え、この溶液をこの溶液を1cm×1cm×6cmの密閉した容器に移した後、20℃の恒温水槽中で20時間静置して重合を行った。これらの溶液調製から重合までの操作は、全て酸素を遮断した窒素雰囲気下で行った。重合開始から20時間後に、容器内に有機モノマー重合体と層状剥離した粘土鉱物からなる無色透明で均一な有機ポリマー(PNIPA)/クレイ複合高分子ゲルが生成した(クレイ/有機ポリマー=0.135)。得られた有機ポリマー/クレイ複合高分子ゲルを厚み0.5cmで2等分し、0.5cm×1cm×6cmの高分子ゲルを二つ得た。該高分子ゲルの切断面同士を0.5cmずつ重なるように貼り合わせ、重なった部分に1cm当たり45gの荷重を加えて10時間密閉容器中で保持した。その結果、貼り合わせた部分が均一にしっかりと接合しているのが目視で確認された。得られた接合部分が中心にくるようにして、実施例1と同様にして引っ張り試験を行った。その結果、強度=30kPa、破断伸び=1100%が得られた。なお、同様にして合成した切断面接合部を有しない高分子ゲルの引っ張り試験は、強度=40kPa、破断伸び=1200%であった。
【0031】
(実施例4,5)
ラポナイトXLGを1.22g用いること(クレイ/有機ポリマー=0.31)以外は実施例1と同様にして合成した有機ポリマー(PDMAA)/クレイ複合高分子ゲルを、二個の1cm×1cm×3cmゲルとなるように、真ん中で切断した。二つに切断されたゲルの切断面が密着するように手で貼り合わせたものを密閉ガラス容器に入れ、(実施例4)では50℃で3時間、(実施例5)では80℃で30分間保持した。その後、ガラス容器から取り出した高分子ゲルは、切断面がどこか目視では解らない位、均一に接合していた。チャック間距離を30mmとする以外は実施例1と同様にして接合面が中心にくるようにして引っ張り試験を行った。その結果、(実施例4)では強度=100kPa、破断伸び=1550%が、(実施例5)では強度=102kPa、破断伸び=1540%が得られた。いずれの場合も、引っ張り試験での破断はチャック部において生じた。なお、同様にして合成した切断面接合部を有しない高分子ゲルの引っ張り試験は、強度=101kPa、破断伸び=1530%であった。
【0032】
(実施例6、7、8)
ラポナイトXLGを3.5g(実施例6)または0.10g(実施例7)または4.5g(実施例8)用いること、およびDMAAを3.96g(実施例6および実施例8)または5.94g(実施例7)用いることを除くと実施例4と同様にして有機ポリマー(PDMAA)/クレイ複合高分子ゲルを得た。クレイ/有機ポリマーは実施例6では0.88、実施例7では0.0168、実施例8では1.29である。実施例4と同様にして、切断面を作成し、貼り合わせて得られた接合面を中心に含む高分子ゲルの引っ張り試験を行った。その結果、いずれの場合も目視で貼り合わせ面が接合しているのが観察された。測定された破断強度は、接合面を有しない同じゲルの35%(実施例6)、98%(実施例7)、11%(実施例8)であった。
【0033】
(実施例9)
加熱ではなく、超音波照射を30分行ったことを除くと実施例4と同様にして切断面を貼り合わせた有機ポリマー/クレイ複合高分子ゲルを得た。実施例4と同様にして行った引っ張り試験において、強度=85kPa、破断伸び=1310%が得られた。
【0034】
(実施例10、11)
貼り合わせる前に、切断面に、ポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)水溶液(濃度:4質量%)を塗布すること(実施例10)、ポリビニルアルコール水溶液(濃度:4質量%)を塗布すること(実施例11)、そして常温で1cm当たり20gの荷重を加えて10時間保持することを除くと、実施例4と同様にして切断面を貼り合わせた有機ポリマー/クレイ複合高分子ゲルを得た。実施例4と同様にして行った引っ張り試験において、実施例10では、強度=85kPa、破断伸び=1210%が、実施例11では強度=60kPa、破断伸び=850%が得られた。
【0035】
(比較例1、2)
クレイの代わりに有機架橋剤(N,N’メチレンビスアクリルアミド)をモノマーに対して1モル%用いる以外は、実施例1と同様にして化学架橋(PDMAA)高分子ゲルを合成した。得られたゲルを比較例1では実施例1と同様にして、比較例2では実施例4と同様にして、切断面を作り、それらを貼り合わせることによって接合を試みた。しかし、いずれでも容易に二つに分離する状態のままで、高分子ゲルの接合は生じなかった。
【0036】
(比較例3)
非切断面同士を貼り合わせること以外は、実施例1と同様な実験を行い、貼り合わせによる接合を試みたが、測定された破断強度は、接合面を有しない同じゲルの1%以下で容易に剥離し、有効な接合は行えなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性のラジカル重合性有機モノマーの重合体(A)と水膨潤性粘土鉱物(B)により形成された三次元網目構造を有する高分子ゲルの接合方法であって、接合しようとする高分子ゲルの双方の面、又はどちらか一方の面に切断面を形成し、該切断面同士又は該切断面と非切断面とを貼り合わせることにより高分子ゲルを接合することを特徴とする高分子ゲルの接合方法。
【請求項2】
前記有機モノマーから得られる重合体(A)に対する水膨潤性粘土鉱物(B)の質量比(B/A)が、0.01〜1である請求項1記載の高分子ゲルの接合方法。
【請求項3】
貼り合わせ面に加熱、加圧及び超音波照射のいずれか一つまたは複数の処理を行うことにより、両者の接合を行なう請求項1又は2記載の高分子ゲルの接合方法。
【請求項4】
前記切断面又は接合しようとする非切断面に、水溶性有機高分子(C)を塗布した後に、接合する請求項1〜3のいずれか一つに記載の高分子ゲルの接合方法。

【公開番号】特開2011−1481(P2011−1481A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−146330(P2009−146330)
【出願日】平成21年6月19日(2009.6.19)
【出願人】(000173751)財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】