説明

高分子ゲル組成物、高分子ゲル組成物の製造方法、及び光学素子

【課題】 少なくとも2種類の高分子化合物間の相互作用を利用した刺激応答性の高分子ゲル組成物において、生産性に優れると共に、用途の自由度が高い高分子ゲル組成物、その製造方法を提供すること。前記高分子ゲル組成物を用い、優れた光学特性を有する光学素子を提供すること。
【解決手段】 互いに相互作用して高分子複合体を形成する二種の高分子化合物と液体とを含む高分子ゲル組成物であって、
前記高分子化合物のうち一種は三次元架橋体を形成し、
もう一種は、イオン性官能基を有し、前記液体に溶解すると共に、前記三次元架橋体に内在することを特徴とする高分子ゲル組成物、該高分子ゲル組成物の製造方法、及び前記高分子ゲル組成物を一対の基板間に挟持してなる光学素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部刺激に応答して体積変化を生ずる新規な高分子ゲル組成物、その製造方法、及び高分子ゲル組成物を用いた光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種の外部刺激に応答して、膨潤・収縮現象を示す刺激応答性ゲルに関する報告がなされている。このようなゲルは例えば、ドラッグデリバリーシステムやケミカルアクチュエーター(例えば、人工筋肉やマイクロバルブなど)、物質分離など多岐の分野にわたる応用の可能性を有している。更に、これら刺激応答性高分子ゲルを利用して、光の透過量や散乱性を制御することで調光・発消色を行う光学素子技術が知られている。
【0003】
このような刺激応答性ゲルの中でポリマー鎖間の水素結合やイオン結合などの相互作用を利用したものが知られている。これらは、例えば、ポリアクリル酸とポリアクリルアミドのように溶液中で水素結合を形成して高分子複合体を形成する材料を用いている。ポリアクリル酸とポリアクリルアミドは水中低温時では水素結合により高分子複合体を形成し水中に溶解しないが、高温時には水素結合が切断され水中に溶解する。これら高分子複合体を形成できる高分子化合物を架橋することによって水中に溶解しないようにすれば、水中において低温時にはポリマー鎖が凝集して収縮し、高温時には水素結合が切断され、膨潤し、温度に応答して体積変化を示すゲルを作成することができることが知られている。
【0004】
このようにポリマー鎖間の相互作用を利用したゲルは温度やpH、溶媒組成に応答して体積変化することが知られている。特に、温度応答性に関してはポリマー間の相互作用を利用することによって低温で収縮し、高温で膨潤する特性を付与することができ、この材料を用いたドラッグデリバリーシステムへの応用がいくつか提案されている。例えば、水素結合を利用したものではポリアクリルアミドとポリアクリル酸の相互侵入網目構造(IPN構造)体を利用したものが報告されており、これを用いた薬物封入/放出性コントロールへの応用が検討されている(例えば、特許文献1及び非特許文献1参照。)。
【0005】
しかしながら、2成分の高分子ゲルが複合化されたIPNゲルは、IPN体を形成するために、予め合成した第1の成分を含有した高分子ゲルに第2の成分を添加し、浸透させた後に重合を行う必要がある。更に、粒子状に加工するためには第2の成分の重合により第1成分の粒子間の連結が生じないように微小な容器で反応を行うなどの方法を用いる必要があった。例えば、キャピラリー中で第1の成分を含む高分子ゲルを作成する方法が知られている(例えば、非特許文献2参照。)。
また、第1の成分を含む高分子ゲルを所望の形態に加工した後に第2の成分を含む溶液を浸透させ、第1の成分を含む高分子ゲルが第2の成分によって一体化しないように別個に第2の成分を含む高分子ゲルを重合させるなどの方法が知られている(例えば、非特許文献1参照。)。
更に、第1の成分を含む大きなバルクゲルに第2の成分を形成するモノマーを浸透させてから重合し、それを粉砕する方法も考えられるが、第2の成分を形成するモノマーが第1の成分を含むバルクゲル内部に浸透するには非常に長時間を要し、工業的に用いることは現実的でなかった。
【0006】
このように、IPN体を製造する工程は一般に煩雑になり、特に、粒子状等に加工する必要がある場合には製造コストが非常に高くなり、大量生産には向かないという問題があった。そこで、本発明者らは、互いに相互作用して高分子複合体を形成する少なくとも二種の高分子化合物と、液体とを含有する高分子ゲル組成物であって、前記高分子化合物の一種は三次元架橋体を形成し、他の高分子化合物の少なくとも一種は前記液体と相溶してその少なくとも一部が前記三次元架橋体に含有されることを特徴とする高分子ゲル組成物を考案し、生産性の高い高分子ゲル組成物を提供できることを提案している(例えば、特許文献2参照。)。
この引用文献2に記載の高分子ゲル組成物により生産性の向上に関して一定の成果を得ることができた。しかしながら、更に生産性が高く、また、用途の自由度が高い高分子ゲル組成物が望まれているのが現状である。
【特許文献1】特開平3−79068号公報
【特許文献2】特開2004−285251号公報
【非特許文献1】岡野ら、J.Control.Release,13,577頁,1992.
【非特許文献2】Ilmain et.al.Nature,349,400頁,1991.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、前記従来における問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。
即ち、本発明は、少なくとも2種類の高分子化合物間の相互作用を利用した刺激応答性の高分子ゲル組成物において、生産性に優れると共に、用途の自由度が高い高分子ゲル組成物、その製造方法を提供することを目的とする。
また、前記高分子ゲル組成物を用い、優れた光学特性を有する光学素子を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決する手段として、以下の本発明を見出した。
即ち、本発明は、
<1> 互いに相互作用して高分子複合体を形成する二種の高分子化合物と液体とを含む高分子ゲル組成物であって、
前記高分子化合物のうち一種は三次元架橋体を形成し、
もう一種は、イオン性官能基を有し、前記液体に溶解すると共に、前記三次元架橋体に内在することを特徴とする高分子ゲル組成物である。
【0009】
<2> 前記イオン性官能基の含有量が、該イオン性官能基を有する高分子化合物に対して0.1〜10mol%であることを特徴とする<1>に記載の高分子ゲル組成物である。
【0010】
<3> 前記イオン性官能基が、スルホン酸及びその塩、並びに4級アンモニウム塩からなる群より選択される1種の官能基である<1>又は<2>に記載の高分子ゲル組成物である。
【0011】
<4> 前記三次元架橋体が調光用材料を含有することを特徴とする<1>〜<3>のいずれか一に記載の高分子ゲル組成物である。
【0012】
<5> 前記二種の高分子化合物のうち、一種がポリ(メタ)アクリルアミド誘導体であり、もう一種がポリアクリル酸誘導体であることを特徴とする<1>〜<4>のいずれか一に記載の高分子ゲル組成物である。
【0013】
<6> <1>に記載の高分子ゲル組成物の製造方法であって、
三次元架橋体内部で、該三次元架橋体と相互作用し、かつ、イオン性官能基を有するモノマーを重合して高分子化合物を合成する工程を含むことを特徴とする高分子ゲル組成物の製造方法である。
【0014】
<7> <1>に記載の高分子ゲル組成物の製造方法であって、
三次元架橋体内部に、前記三次元架橋体と相互作用し、イオン性官能基を有する高分子化合物を含浸させる工程を含むことを特徴とする高分子ゲル組成物の製造方法である。
【0015】
<8> 一対の基板と、該一対の基板間に挟持された高分子ゲル組成物と、からなる光学素子であって、
前記高分子ゲル組成物が、互いに相互作用して高分子複合体を形成する二種の高分子化合物と液体とを含み、
前記高分子化合物のうち一種は三次元架橋体を形成し、
もう一種は、イオン性官能基を有し、前記液体に溶解すると共に、一部が前記三次元架橋体に内在することを有することを特徴とする光学素子である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、生産性に優れると共に、用途の自由度が高い高分子ゲル組成物、その製造方法を提供することができる。
また、前記高分子ゲル組成物を用いることで、優れた光学特性を有する光学素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の高分子ゲル組成物及びその製造方法、並びに該高分子ゲル組成物を用いた光学素子について詳細に説明する。
<高分子ゲル組成物>
本発明の高分子ゲル組成物は、互いに相互作用して高分子複合体を形成する二種の高分子化合物と液体とを含む高分子ゲル組成物であって、前記高分子化合物のうち一種は三次元架橋体を形成し、もう一種は、イオン性官能基を有し、前記液体に溶解すると共に、前記三次元架橋体に内在することを特徴とする。
【0018】
以下、本発明における高分子複合体を構成する高分子化合物であって、三次元架橋体を形成するものを、適宜、「(A)三次元架橋体を形成する高分子化合物」と称し、また、イオン性官能基を有し、液体と溶解すると共に、三次元架橋体に内在するものを、適宜、「(B)架橋体内在の液体溶解性高分子化合物」と称して説明する。
ここで、本発明において、「イオン性官能基」とは、高分子ゲル組成物を構成している液体との接触により解離する官能基を指す。そのため、本発明の高分子ゲル組成物における液体の性質(例えば、液体のpH)に対応する官能基を選択することが必要である。例えば、2種の異なる官能基を共存させた状態で、本発明における液体に接触させた際に、一方が選択的に解離して、他方が解離しない場合、解離したの官能基が本発明におけるイオン性官能基となる。なお、ここで、解離しないとは、その化学種の大部分が中性状態を保っていることを示す。
【0019】
本発明の高分子ゲル組成物は、(B)架橋体内在の液体溶解性高分子化合物を用いることで、高分子複合体中にイオン性官能基を導入することができる。
従来、三次元架橋体を形成する高分子化合物がイオン性官能基を有することで、高分子複合体中にイオン性官能基を導入する方法が知られていた。このようなイオン性官能基を有する三次元架橋体は、特に、粒子状に作製する場合に、後述するように、乳化重合、懸濁重合等の手法を用いることが好ましいが、これらの手法には、イオン性官能基を導入するために使用できるモノマーの種類に制限があるという問題があった。また、イオン性官能基を有する三次元架橋体を作製する場合には、そのイオン性官能基の存在により、三次元架橋体内部を洗浄する際に大量の水を要したり、また、三次元架橋体(粒子)の沈降が遅いために洗浄の効率が悪くなるという問題があった。
対して、本発明の高分子ゲル組成物は、(B)架橋体内在の液体溶解性高分子化合物を用いることにより、高分子複合体にイオン性官能基を導入するため、(B)架橋体内在の液体溶解性高分子化合物を製造する際に、上記のような問題は生じない。
このことから、本発明によれば、高分子複合体中にイオン性官能基を導入することが容易であり、その結果、生産性を高めることができる。
【0020】
また、上記のように、高分体複合体中にイオン性官能基が導入されていると、このイオン性官能基は液体に接触することで解離して、イオン性となることから、高分子複合体内部においてイオン濃度が上昇する。そのため、高分子複合体の外側と内部との間にイオン濃度の差ができ、イオン浸透圧の関係で、高分子複合体内部への液体の吸収量が増大する。そのため、高分子複合体を構成する三次元架橋体の液体の吸収量が増大し、結果的に、体積変化量が増大する。
また、高分子複合体中に調光用材料を含有させる場合、三次元架橋体を形成する高分子化合物がイオン性官能基を有すると、その三次元架橋体中での調光用材料が凝集し、光学特性を損なう場合があった。対して、本発明では、三次元架橋体中に調光用材料を含有させた後に、その三次元架橋体の内部に、イオン性官能基を有する高分子化合物を導入することが可能であるため、調光用材料の分散性が損なわれず、安定した光学特性を得ることができる。
このように、本発明の高分子ゲル組成物は、体積変化量が大きく、また、調光用材料の分散性にも優れることから、その用途の自由度を拡めることが可能となる。
【0021】
本発明における高分子複合体を形成する高分子化合物間の相互作用の強度は、後述する温度変化、pH変化、イオン濃度変化などの外部からの刺激によって影響を受ける。その結果、前記高分子複合体を構成する三次元架橋体の体積や光透過性などが変化する。本発明においては、前記高分子複合体は、刺激により可逆的に解離して前記三次元架橋体を形成する高分子化合物が前記液体を吸収・放出することにより体積変化を示す特性を有することが好ましい。高分子化合物間の相互作用の種類としては、互いに高分子複合体を形成できるような相互作用ならば特に限定されないが、好ましくは、水素結合、イオン結合などである。
【0022】
また、本発明では前記体積変化をする点を相転移点と呼ぶことがあるが、相転移点とは熱やpH変化等の何らかの外部刺激の付与により、前記三次元架橋体を形成する高分子化合物が膨潤状態から収縮状態へ、或いは、収縮状態から膨潤状態へと体積変化する際の外部刺激の閾値をいう。例えば、前記三次元架橋体を形成する高分子化合物が、温度変化に応答して体積変化する場合には、前記相転移点とは相転移温度を意味する。
【0023】
〔高分子複合体を形成する高分子化合物の組み合わせ〕
まず、本発明における高分子複合体を形成するための高分子化合物の組み合わせについて説明する。
【0024】
互いに水素結合をして高分子複合体を形成する高分子化合物の組み合わせとしては、水素結合性基を持った高分子で高分子複合体を形成することのできる公知の高分子の組み合わせであれば特に限定されない。
高分子複合体を形成することのできる高分子化合物の組み合わせは、例えば、「高分子錯体−機能と応用 5 高分子集合体 学会出版センター」などにその例が述べられている。
中でも、好ましくは、ポリ(メタ)アクリル酸とポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ(メタ)アクリル酸とポリエチレングリコール、ポリ(メタ)アクリル酸とポリジメチル(メタ)アクリルアミドなどの組み合わせが挙げられる。特に、体積変化特性の観点からポリ(メタ)アクリル酸とポリ(メタ)アクリルアミドの組み合わせが好ましい。
なお、これらの高分子化合物は、ホモポリマーとして用いてもよいが、互いの水素結合を阻害しない範囲で他のモノマーを共重合したポリマーを用いることも好ましい。
なお、上記の括弧を用いた記述は、括弧内の接頭語を含まない化合物及び含む化合物の両方を示しており、例えば(メタ)アクリル酸という記述は、アクリル酸及びメタクリル酸のことを意味するものである。
【0025】
また、互いにイオン結合をして高分子複合体を形成する高分子化合物の組み合わせとしては、ポリカチオン性の高分子化合物とポリアニオン性の高分子化合物との組み合わせならば特に限定されないが、例えば、「高分子錯体−機能と応用 5 高分子集合体 学会出版センター」などにその例が述べられている。
より具体的には、ポリアニオンとしては、ポリ(メタ)アクリル酸塩などのポリカルボン酸塩、ポリスチレンスルホン酸塩やポリ−2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などのポリスルホン酸塩などが挙げられる。
ポリカチオンとしては、ポリアリルアミン塩酸塩、ポリアイオネンなどのポリアンモニウム塩などが挙げられる。
また、分子内にカチオン性基とアニオン性基の両方をもった高分子化合物も用いることができる。そのような高分子化合物としては、例えば、ポリ3−ジメチルメタクリロイルオキシエチルアンモニウムプロパンスルホネートなどを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
また、これらイオン性基を持つ高分子化合物はホモポリマーとして用いてもよいが、互いのイオン結合を阻害しない範囲で他のモノマーを共重合したポリマーを用いることも好ましい。
【0026】
また、本発明において、高分子複合体を形成する高分子化合物に含有される前記相互作用に寄与可能な置換基の組み合わせは、特に限定されるものではないが、前記高分子複合体を形成する高分子化合物の一種が少なくともカルボン酸アミド基を含有し、他の高分子化合物の少なくとも一種が、少なくともカルボキシル基を含有する組み合わせが好ましい。上記置換基を含有する高分子化合物の組み合わせを用いることにより、カルボン酸アミド基とカルボキシル基の間で水素結合を形成し、前記三次元架橋体を形成する高分子化合物が体積変化することが可能となる。
【0027】
〔(B)架橋体内在の液体溶解性高分子化合物〕
本発明における(B)架橋体内在の液体溶解性高分子化合物は、イオン性官能基を有し、液体に溶解すると共に、三次元架橋体に内在することを特徴とする。
【0028】
上記のように、(B)架橋体内在の液体溶解性高分子化合物はイオン性官能基を有することを要する。このようにイオン性置換基を導入することにより、上述のように、刺激による三次元架橋体の体積変化量を増大させることができる。また、形成される高分子複合体(三次元架橋体)に調光用材料を含有させる場合にその分散性に優れる。また、(A)三次元架橋体を形成する高分子化合物がイオン性置換基を有することで高分子複合体中にイオン性置換基を導入するよりも、より容易にイオン性置換基を導入ことができ、生産性の向上に優れるという優れた効果を有する。
【0029】
ここで、導入可能なイオン性官能基としては、例えば、カルボン酸塩、スルホン酸及びその塩、4級アンモニウム塩、りん酸塩などが挙げられる。中でも、スルホン酸及びその塩、4級アンモニウム塩は、中性及び酸性の液体中での解離度が大きく、イオン浸透圧の効果が得やすいため好ましい。
特に、ポリ(メタ)アクリル酸とポリアクリルアミド誘導体とで高分子複合体を形成する場合は、酸性の液体中で使用することが好ましいことが多く、この場合、イオン性官能基は、プロトンが解離してアニオン基となる官能基であるから、その解離度を表すpKaが2以下であることが好ましい。pKaが2以上であると、酸性条件下でプロトンが解離せず、官能基がイオン性官能基として作用しなくなる恐れがある。
【0030】
また、イオン性官能基は高分子化合物に対して0.1〜10mol%の割合で導入することが好ましい。0.1%以上導入するとイオン浸透圧によって三次元架橋体の膨潤時における液体の吸収量を増大させることができ、また、導入量を10mol%以下とすることによってイオン浸透圧が二種の高分子化合物間の相互作用に打ち勝って収縮しなくなるという副作用を抑制することができる。
【0031】
(B)架橋体内在の液体溶解性高分子化合物は、まず、イオン性置換基を有し、かつ、液体に溶解する高分子化合物を合成し、その高分子化合物を三次元架橋体中に内在させることで得られる。この方法として具体的には、三次元架橋体を、イオン性置換基を有し、かつ、液体に溶解する高分子化合物を溶解した溶液中に浸漬して、その高分子化合物を三次元架橋体内部に含浸させる方法が挙げられる。
この方法に使用可能な、イオン性置換基を有し、かつ、液体に溶解する高分子化合物としては、イオン性官能基を有するモノマーと他のモノマーとの共重合体、又は、液体に溶解する機能を有するモノマーを重合して重合体を合成し、その重合体の非イオン性官能基の一部を加水分解反応や付加反応を用いてイオン性官能基へと変換したものが用いられる。
【0032】
また、(B)架橋体内在の液体溶解性高分子化合物を得るための他の方法としては、三次元架橋体と、イオン性置換基を有し、かつ、液体に溶解する高分子化合物の前駆体(モノマー等)と、を混合して、三次元架橋体内部にて前駆体を重合する方法が用いられる。
なお、上記の2つの方法により、(B)架橋体内在の液体溶解性高分子化合物が得られるが、イオン性置換基を有し、かつ、液体に溶解する高分子化合物は、その全てが三次元架橋体に内在されるわけではなく、その一部が、三次元架橋体の外部の液体に溶解していてもよい。
【0033】
上記の(B)架橋体内在の液体溶解性高分子化合物を得るために用いられる、イオン性官能基を有するモノマーとしては、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸およびその塩、[3−(2−メチルプロピオンアミド)プロピル]トリメチルアミンおよびその塩、[2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアミンおよびその塩等が挙げられる。
また、液体に溶解する機能を有するモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリル酸等の(メタ)アクリル酸のアルキルエステル、(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミドのアルキル置換体等が挙げられる。この中でも、(メタ)アクリル酸が好ましい。
なお、本発明の効果を損なわない範囲で他の公知のモノマーを併用してもよい。
【0034】
また、(B)架橋体内在の液体溶解性高分子化合物を得るために用いられる、イオン性置換基を有し、かつ、液体に溶解する高分子化合物としては、上記の液体に溶解する機能を有するモノマーの重合体又は共重合体に加え、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ビニルアルコールを含む共重合体等が挙げられる。この中でも、ポリアクリル酸が好ましい。
【0035】
(B)架橋体内在の液体溶解性高分子化合物の重量平均分子量は、5,000〜5,000,000であることが好ましい。更に好ましくは、100,000〜500,000である。5,000よりも分子量が小さいと、高分子複合体の刺激に対する応答性が悪くなる恐れがあり、5,000,000よりも大きくなると、高分子化合物の溶解性が悪くなり均一な溶液にすることが難しくなること、組成物の粘度が高まり加工性が低下すること、三次元架橋体内部に浸透させる作製法を用いる場合に浸透の速度が遅くなり生産性が悪くなるなどの問題が生じる場合がある。
【0036】
また、(B)架橋体内在の液体溶解性高分子化合物は、前記三次元架橋体が吸収することのできる液体に溶解させて用いるが、そのときの濃度は0.2〜30質量%が好ましく、0.2〜10質量%が更に好ましい。0.2質量%以下では三次元架橋体を形成する高分子化合物と十分な量の高分子複合体を形成することが難しく、30質量%以上になると三次元架橋体を形成する高分子が十分に液体を吸収できなくなり、刺激による体積変化が十分に得られない場合がある。
【0037】
〔(A)三次元架橋体を形成する高分子化合物〕
本発明において、(A)三次元架橋体を形成する高分子化合物は、公知のゲル作製方法を用いて三次元架橋体を製造することが可能である。例えば、モノマーと架橋剤とを混合して重合する方法、マクロモノマーと架橋剤とを反応させる方法、及び、ポリマーに電子線や中性子線等を照射して架橋する方法などを用いることができる。
これらゲル作製方法については、例えば、「ゲルハンドブック」株式会社エヌ・ティー・エスなどに詳述されている。
【0038】
三次元架橋体を形成する際に用いられるモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、メチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等のアクリル酸エステル等を用いることができる。これらの中でも、(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミドが好ましい。また、本発明の効果を損なわない範囲で他の公知のモノマーを併用してもよい。
なお、上記の(メタ)アクリルアミド等の表現はメタアクリルアミドとアクリルアミドの双方を含むものである。
【0039】
三次元架橋体を形成する際に用いられる架橋剤としては、例えば、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、等のジ(メタ)アクリルアミド誘導体、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリル(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリル酸エステル誘導体、ジビニルベンゼン等のジビニル誘導体、ジアリルフタレート等のジアリル誘導体等を用いることができる。これらの中でも、メチレンビス(メタ)アクリルアミドが好ましい。
【0040】
また、本発明においては、刺激による体積変化量を増大させるために、(A)三次元架橋体を形成する高分子化合物はイオン性官能基を有していてもよい。
【0041】
また、(A)三次元架橋体を形成する高分子化合物中には、その特性を損なわない範囲において、紫外線吸収剤、光安定剤等、種々の安定剤を共重合或いは結合させることが好ましい。例えば、ヒンダードアミン系やヒンダードフェノール系の化合物や光安定化機能を持つ化合物などを共重合或いは結合することが好ましく実施できる。
これら安定剤の共重合量或いは結合量は、(A)三次元架橋体を形成する高分子化合物に対して0.01〜5質量%が好ましく、更に、0.01〜2質量%が好ましく、特に、0.05〜1質量%が好ましい。
【0042】
(A)三次元架橋体を形成する高分子化合物により得られた三次元架橋体は、特に限定されるものではないが、刺激応答特性を考慮すると、粒子状の形態として使用することが好ましい。前記粒子状の形態も特に限定されないが、球体、楕円体、多面体、多孔質体、繊維状、星状、針状、中空状などの形態のものを使用することができる。この中でも球体、楕円体、多面体が好ましい。
【0043】
前記三次元架橋体が粒子状である場合は、乾燥状態で平均粒径が0.01μm〜50mmであることが好ましく、更に好ましくは0.1μm〜10mm、特に、1μm〜5mmであることが好ましい。平均粒子径が0.01μm未満となると粒子の凝集等が起こりやすくなり、かつ、使用する場合にその取り扱いが困難となる。一方、50mmを超えると、刺激に対する応答速度が遅くなってしまう問題が生じる場合がある。
【0044】
前記三次元架橋体からなる粒子は、例えば、三次元架橋体を物理的粉砕法等で粒子化する方法、架橋前の高分子化合物を化学的粉砕法等によって粒子化した後に架橋して三次元架橋体を形成して粒子を得る方法、及び、乳化重合法、懸濁重合法及び分散重合法などの粒子化重合法などの一般的な粒子化方法によって製造することができる。また、架橋前の高分子化合物をノズル口金等によって押し出して繊維化し、これを架橋した後に粉砕する方法、或いは、前記繊維を粉砕して粒子化した後に架橋する方法によって三次元架橋体からなる粒子を製造することも可能である。これらの方法は、目的用途に応じて種々適宜選択することができる。
【0045】
〔液体〕
本発明の高分子ゲル組成物では、前記三次元架橋体が、刺激に応答して液体を吸収・放出し、その体積を変化させる特性を有することが好ましい。前記三次元架橋体が吸収・放出するための液体の具体例としては、水や、必要に応じて水と相溶可能な液体、例えば、メタノール、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどの低級アルコール、アセトンやメチルエチルケトンなどのケトン類、THF、1,4−ジオキサン、ジエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテルなどのエーテル類、酢酸エチルなどのエステル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、尿素等が挙げられる。また、ポリビニルアルコール、ポリ(メタ)アクリルアミドやその誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシドやこれら高分子を含む共重合体を用いることも好ましい。これらのうち、前記三次元架橋体を形成する高分子化合物の体積変化特性の観点から、水や、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、エチレングリコールモノエチルエーテルなどの一価アルコール類、又は水と一価アルコール類との混合物が好ましい。
前記液体は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0046】
本発明においては、前記液体に対して、酸性度を調整する目的で酸性化合物や塩基性化合物を添加してもよい。また、必要に応じて相溶性のある各種添加剤、例えば、着色剤、可塑剤、界面活性剤、安定剤、基板、UV吸収剤、酸化防止剤、抗菌剤、防腐剤や基板との密着性を高めるためのカップリング剤、塗工方法にあった粘度にするための粘度調整剤等を適宜、添加、配合することができる。
【0047】
〔刺激〕
本発明の高分子ゲル組成物では、刺激により前記高分子複合体が可逆的に解離して、前記三次元架橋体を形成する高分子化合物が前記液体の吸収・放出により体積変化を示す特性を有することが好ましい。本発明に用いられる刺激の種類としては、高分子複合体の相互作用の強さを変化させるものであれば特に限定されないが、具体的には、熱、pH変化、溶媒の組成変化、化学物質の添加などが挙げられる。この中でも、刺激として熱を用いることにより、例えば、温度変化などの環境変化によって自律的に応答可能な光学素子を作製できるため好ましい。該光学素子は、低コストかつ効果が高いために光学素子として有効である。
【0048】
特に、前記刺激が熱である場合に、前記高分子複合体が体積変化を示す温度(相転移温度)は、高分子複合体を形成する高分子化合物の構造、組成により種々の設計が可能である。
本発明において、好ましい相転移温度は、−5〜80℃であり、中でも、10〜60℃が好ましい。相転移温度を−5〜80℃に設定することにより自然界の温度変化(気温や水温)等に応じて自律的に応答可能な光学素子を作製できるため好ましい。
【0049】
〔調光用材料〕
本発明の高分子ゲル組成物は、アクチュエーター(人工筋肉)・ドラックデリバリーシステム・センサーなど広範な用途に用いることができその用途は特に限定されないが、光学素子としても好ましく用いることができる。光学素子などの光学材料として用いる場合には、前記三次元架橋体は、それ自身でも体積変化にともない光散乱性が変化するという調光性能を示すが、より大きな調光特性や色変化を発現するためは、三次元架橋体が調光用材料を含むことが好ましい。
【0050】
前記調光用材料としては、染料、顔料の色材や光散乱剤などが挙げられる。また、調光用材料は、三次元架橋体の内部及びその表面の少なくとも一方に物理的或いは化学的に固定化されることが好ましい。
【0051】
前記染料の好適な例としては、例えば、黒色のニグロシン系染料や、赤、緑、青、シアン、マゼンタ、イエローなどのカラー染料であるアゾ染料、アントラキノン系染料、インジゴ系染料、フタロシアニン系染料、カルボニウム染料、キノンイミン染料、メチン染料、キノリン染料、ニトロ染料、ベンゾキノン染料、ナフトキノン染料ナフタルイミド、染料、ベリノン染料などが挙げられ、特に光吸収係数が高いものが望ましい。
【0052】
具体的には、例えば、C.I.ダイレクトイエロー1、8、11、12、24、26、27、28、33、39、44、50、58、85、86、87、88、89、98、157、C.I.アシッドイエロー1、3、7、11、17、19、23、25、29、38、44、79、127、144、245、C.I.ベイシックイエロー1、2、11、34、C.I.フードイエロー4、C.I.リアクティブイエロー37、C.I.ソルベントイエロー6、9、17、31、35、100、102、103、105;
C.I.ダイレクトレッド1、2、4、9、11、13、17、20、23、24、28、31、33、37、39、44、46、62、63、75、79、80、81、83、84、89、95、99、113、197、201、218、220、224、225、226、227、228、229、230、231、C.I.アシッドレッド1、6、8、9、13、14、18、26、27、35、37、42、52、82、85、87、89、92、97、106、111、114、115、118、134、158、186、249、254、289、C.I.ベイシックレッド1、2、9、12、14、17、18、37、C.I.フードレッド14、C.I.リアクティブレッド23、180、C.I.ソルベントレッド5、16、17、18、19、22、23、143、145、146、149、150、151、157、158;
【0053】
C.I.ダイレクトブルー1、2、6、15、22、25、41、71、76、78、86、87、90、98、163、165、199、202、C.I.アシッドブルー1、7、9、22、23、25、29、40、41、43、45、78、80、82、92、93、127、249、C.I.ベイシックブルー1、3、5、7、9、22、24、25、26、28、29、C.I.フードブルー2、C.I.ソルベントブルー22、63、78、83〜86、191、194、195、104;
C.I.ダイレクトブラック2、7、19、22、24、32、38、51、56、63、71、74、75、77、108、154、168、171、C.I.アシッドブラック1、2、7、24、26、29、31、44、48、50、52、94、C.I.ベイシックブラック2、8、C.I.フードブラック1、2、C.I.リアクティブブラック31、C.I.フードバイオレット2、C.I.ソルベントバイオレット31、33、37、C.I.ソルベントグリーン24、25、C.I.ソルベントブラウン3、9等が挙げられる。
これらの染料は、単独で使用してもよく、さもなければ所望とする色を得るために混合して使用してもよい。
【0054】
また、染料を三次元架橋体の内部及びその表面に固定するために、不飽和二重結合基などの重合可能な基を有した構造の染料や、三次元架橋体と反応可能ないわゆる反応性染料などが好ましく使用される。
【0055】
三次元架橋体中に含有させる染料の好ましい濃度は、3〜50質量%の範囲であり、特に好ましくは5〜30質量%の範囲である。このように染料濃度は少なくとも三次元架橋体の乾燥或いは収縮状態において飽和吸収濃度以上であることが望ましい。ここで、飽和吸収濃度以上とは、特定の光路長のもとにおける染料濃度と光学濃度(或いは光吸収量)の関係が一次直線の関係から大きく乖離するような高い染料濃度の領域を示す。
【0056】
一方、顔料及び光散乱剤として好適なものとしは、黒色顔料であるブロンズ粉、チタンブラック、各種カーボンブラック(チャネルブラック、ファーネスブラック等)、白色顔料である酸化チタン、シリカなどの金属酸化物、炭酸カルシウムや金属紛などの光散乱剤やカラー顔料である。具体的には、例えば、フタロシアニン系のシアン顔料、ベンジジン系のイエロー顔料、ローダミン系のマゼンタ顔料、或いはこの他にもアントラキノン系、アゾ系、アゾ金属錯体、フタロシアニン系、キナクリドン系、ペリレン系、インジゴ系、イソインドリノン系、キナクリドン系、アリルアミド系などの各種顔料や光散乱材を挙げることができる。
【0057】
より具体的には、例えば、イエロー系顔料としては、縮合アゾ化合物、イソインドリノン化合物、アンスラキノン化合物、アゾ金属錯体、メチン化合物、アリルアミド化合物に代表される化合物が用いられる。より詳細には、C.I.ピグメントイエロー12、13、14、15、17、62、74、83、93、94、95、109、110、111、128、129、147、168等が好適に用いられる。
【0058】
また、マゼンタ系顔料としては、縮合アゾ化合物、ジケトピロロピロール化合物、アンスラキノン、キナクリドン化合物、レーキ顔料、ナフトール化合物、ベンズイミダゾロン化合物、チオインジゴ化合物、ペリレン化合物が用いられる。より詳細には、C.I.ピグメントレッド2、3、5、6、7、23、48;2、48;3、48;4、57;1、81;1、144、146、166、169、177、184、185、202、206、220、221、254が特に好ましい。
【0059】
シアン系顔料としては、銅フタロシアニン化合物及びその誘導体、アンスラキノン化合物、塩基染料レーキ化合物等が利用できる。具体的には、例えば顔料としては、C.I.ピグメントブルー1、7、15、15:1、15:2、15;3、15:4、60、62、66等が特に好適に利用できる。
【0060】
また、使用する顔料や光散乱剤の粒径は、1次粒子の平均粒径で0.001μm〜1μmのものが好ましく、特に0.01μm〜0.5μmのものが好ましい。粒径が0.01μm以下では、三次元架橋体中に含まれる顔料や光散乱剤の流出が起こりやすくなる場合があり、0.5μm以上では発色特性が悪くなる場合がある。
【0061】
上記したような三次元架橋体中に含まれる顔料や光散乱剤の流出は、確実に防止されることが好ましい。そのためには、三次元架橋体の架橋密度を最適化して顔料や光散乱剤を三次元架橋体の網目構造中に物理的に閉じ込めること、三次元架橋体との電気的、イオン的、その他物理的な相互作用が高い顔料や光散乱剤を用いること、表面を化学修飾した顔料や光散乱剤を用いることなどが好ましい。
【0062】
例えば、表面を化学修飾した顔料や光散乱剤としては、表面にビニル基などの不飽和基や不対電子(ラジカル)などの三次元架橋体と化学結合する基を導入したものや、高分子材料をグラフト結合したものなどが挙げられる。
【0063】
このような調光用材料の添加量としては、三次元架橋体の乾燥時又は収縮時に、飽和吸収濃度或いは飽和散乱濃度以上となる量を添加することが好ましい。ここで、飽和吸収(或いは飽和散乱)濃度以上とは、特定の光路長のもとにおける調光用材料濃度と光吸収量の関係が1次直線の関係から大きく外れる領域のことを示す。三次元架橋体に、前記濃度以上となるように調光用材料を添加することによって、三次元架橋体が膨潤・収縮を起こし、その結果光学濃度及び/又は散乱を変化させることができる。
【0064】
飽和吸収濃度或いは飽和散乱濃度以上となる調光用材料の濃度は、一般に3質量%以上であり、中でも、3〜95質量%の範囲を三次元架橋体に添加することが好ましく、より好ましくは5〜80質量%の範囲であり、特に好ましくは10〜50質量%の範囲である。3質量%未満となると、調光用材料を添加した効果が十分に得られず、95質量%を超えると、三次元架橋体の特性が低下してしまう恐れがある。
【0065】
本発明の高分子ゲル組成物を光学素子における調光材料として用いる場合、三次元架橋体(高分子複合体)の体積変化量は、特に限定されないが、体積変化量の大きいほうが光学濃度変化の観点から好ましい。具体的には、膨潤時及び収縮時の体積比が、3以上、中でも5以上が好ましく、特に15以上が好ましい。また、本発明の高分子ゲル組成物における三次元架橋体の体積変化は、可逆的であるものでも不可逆的であるものでもよいが、調光素子、表示素子及びセンサーなどの光学素子並びに装飾品として利用する場合は、可逆的なものであることが好ましい。
【0066】
<光学素子>
本発明の光学素子は、一対の基板と、該一対の基板間に挟持された高分子ゲル組成物と、からなる光学素子であって、前記高分子ゲル組成物が、互いに相互作用して高分子複合体を形成する二種の高分子化合物と液体とを含み、前記高分子化合物のうち一種は三次元架橋体を形成し、もう一種は、イオン性官能基を有し、前記液体に溶解すると共に、一部が前記三次元架橋体に内在することを有することを特徴とする。
つまり、本発明の光学素子は、上述した本発明の高分子ゲル組成物を一対の基板間に挟持された構成を有する。
以下に、本発明の高分子ゲル組成物を用いた本発明の光学素子を、図面を用いて詳細に説明するが、本発明がこれに限定されるものではない。
【0067】
図1は本発明の光学素子の一例を示した模式断面図である。図1に示すように、光学素子10において、三次元架橋体1と液体2とから構成される高分子ゲル組成物3は、平行に配置された一対の基板4aと4bとの間に挟持される。なお、三次元架橋体1の内部には、(B)架橋体内在の液体溶解性高分子化合物が存在し、この高分子化合物と三次元架橋体1とは、互いに相互作用して高分子複合体を形成している。
【0068】
高分子ゲル組成物3の厚み、即ち、一対の基板4a及び4bの間隔は、特に限定されるものではないが、1μm〜3mmの範囲内が好ましく、20μm〜1000μmの範囲内がより好ましい。厚みが、1μmよりも薄くなると厚み方向の光路長が短いために所望の光学濃度が得られないなどの問題が生じる場合があり、3mmよりも厚くなると高分子ゲル組成物3に含まれる三次元架橋体1の応答性が悪くなる場合や、三次元架橋体1が厚み方向に必要以上に積層してしまい、十分な透過率が得られないなどの問題が生じる場合がある。更に、液体と相溶する高分子化合物の一部が連続した架橋構造を有する場合等には、厚みが、1μmよりも薄くなると、機械的な強度が弱くなる問題を生ずることがある。
【0069】
次に、光学素子10中の高分子ゲル組成物3の作用について、図2を用いて説明する。ここで、図2は、高分子ゲル組成物の作用を説明するための図である。既述したように、高分子ゲル組成物3は、溶液2中の三次元架橋体1が、外部刺激によって液体を吸収・放出し、図2(a)に例示するように膨潤し、或いは、図2(b)に例示するように収縮して、体積変化を引き起こすことができる。そして、この際の体積変化に応じて、光の透過性等が、散乱や回折によって変化する。
【0070】
また、三次元架橋体1に、飽和吸収濃度又は飽和散乱濃度以上の調光用材料を含有させた場合は、三次元架橋体1の体積変化に応じて光の吸収効率が変化し、光学濃度を変化させることができる。具体的には、三次元架橋体1の膨潤時(図2(a))には光学濃度が高くなり、収縮時(図2(b))には光学濃度が低くなる。
上記に示したような光学的特性を有する本発明の高分子ゲル組成物は、調光素子、表示素子などの光学素子の材料として利用することができる。
【0071】
次に、一対の基板4a及び4bとして用いることのできる材料について述べる。基板4a、4bとしては、例えば、ガラスなどの透明基板を用いることができるが、可とう性のあるフイルム基板を用いた場合には、可とう性のある光学素子を得ることができる。なお、基板4a、4b上には、保護層、吸脱液体の蒸発防止層など他の構成層が形成させていても構わない。
【0072】
前記基板4a、4bの材料としては、ポリエステル、ポリイミド、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルフォン、セルロース誘導体、シリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリアセタール系樹脂などの高分子のフイルムや板状基板、ガラス基板、金属基板、セラミック基板などの無機基板を使用することができる。
【0073】
なお、基板a及び基板4bの少なくとも一方は光学的に透明であることが必要である。また、光学素子10が、透過型光学素子である場合には、基板4aと基板4bは、いずれも透明であることが好ましい。基板4a、4bの厚みや大きさは、特に限定されないが、光学素子10を用いて作製される表示素子のサイズに合わせて様々なものが利用でき、厚みに関しては、10μmから20mmの範囲内が好ましい。
【0074】
次に、本発明の光学素子の他の一例について説明する。
図3は本発明の光学素子の他の一例を示した模式断面図である。図3に示すように、光学素子20は、図1に示される表示素子10の構成に加え、基板4及び4aの端部を封止する封止部材5を備える。
【0075】
封止部材5の材料としては、実使用条件において、液体2の蒸発を抑制する能力を有し、基板4a及び4bに対する接着性を有し、高分子ゲル組成物3の特性に悪影響を与えないなどの条件を長期間満たすものであれば、いかなるものを用いてもよい。また、複数の封止材料を組み合わせて構成することも可能である。
以下に、封止材料及び封止方法について詳細に説明する。
【0076】
封止部材5としては、光学素子の開口部面積の確保、工程簡略化による加工コスト等を考慮すると、封止材料1層による封止が好ましい。
1層で封止を行うときの封止材料としては、末端に反応基を有するイソブチレンオリゴマーを主体とした熱硬化型弾性シーリング材等を使用することができる。
また、2層で封止するときには、1次封止にはポリイソブチレン系シーラント等が、2次封止には、アクリル樹脂等を使用することができる。
その他、封止材料としては、ガラス、セラミックスなどの無機材料、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、及びこれらの共重合体などのポリエステル、ポリカーボネート、ポリエーテルサルフォン、ポリサルフォン、ポリイミド、ポリアリレートなども適用できる。
なお、封止部材5を構成する封止材料及び封止方法は上記例示に限定されるものではなく、多種多様なものが選択でき、かつ、それらを組み合わせて使用してもよい。中でも、封止部材5としては、特にガスバリア性の高いものが好ましく用いられる。
【0077】
〔刺激付与手段〕
本発明の光学素子は、例えば、気温の変化、太陽光量の変化などの自然エネルギーによって調光や表示を行うことができるが、刺激付与手段を設けることで、能動的に調光することもできる。この場合、刺激付与手段は高分子複合体に実質的に既述したような外部刺激を付与するものであり、通電発熱抵抗体の他に、光付与、電磁波付与、磁場付与などの各種熱付与手段が挙げられる。中でも、特に、通電発熱抵抗体が好ましく適用され、具体的には、Ni−Cr合金などに代表される金属層、硼化タンタル、窒化タンタル、酸化タンタル、やITOなどの金属酸化物層、カーボン層などに代表されるの発熱抵抗体層が通電発熱抵抗体として好ましく用いられる。これらの層(通電発熱抵抗体)に配線し、電流を付与することにより発熱させることができる。
またその他にも、光付与の場合は、レーザー、LED、ELなどの発光素子層を用いること、磁界や電磁波の付与は電磁コイル、電極等を設けることで能動的な調光を実現できる。
【0078】
また、前記した熱刺激付与手段はパターン化、セグメント化させて任意の部位を調光させることも好ましく実施される。また、これらのパターンに対応して特定の特性を有する高分子ゲルを分散させた高分子ゲル組成物を配置することも好ましく実施される。
【0079】
本発明の光学素子は、図1や図3に示した構成のみに限定されるものではなく、図1や図3に示す高分子ゲル組成物3や一対の基板4a及び4b以外の様々な構成を有してもよい。例えば、光学素子の保護を目的とした保護層、防汚染層、反射防止層、紫外線吸収層、帯電防止層、内部液体の蒸発防止層などを必要に応じて設けることができる。
【0080】
以上、本発明の好ましい実施の形態を説明したが、本発明はその要旨の範囲内で、様々な変形や変更が可能である。
【実施例】
【0081】
以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0082】
(三次元架橋体aの合成)
三次元架橋体aを以下のようなプロセスにより合成した。
アクリルアミド6.22g、架橋剤としてのメチレンビスアクリルアミド27.0mg、及び蒸留水25.0gを攪拌混合し、水溶液を調製した。更に、この水溶液に窒素を20分間導入して酸素を除いた後、重合開始剤である過硫酸アンモニウム12.5mgを水0.5mlに溶解したものを添加し、水溶液aを得た。
一方、ソルビトール系界面活性剤(SO−15R、日光ケミカルズ(株)製)9.0gをシクロヘキサン300mlに溶解した溶液を窒素置換された反応容器に加え、反応溶液を水浴に浸して10℃に保った。これに、先に調製した水溶液aを添加し、回転式攪拌装置を用いて1200rpmで20分攪拌して懸濁させ、懸濁液とした。この懸濁液にテトラメチルエチレンジアミン0.5mlを加えて、15℃にて300rpmで攪拌しながら3時間、重合を行った。重合終了後、界面活性剤(花王製、エマルゲンMS−110)0.2質量%を含む水溶液1.5L中に、反応溶液を投入し洗浄した。1晩静置した後、デカンテーションでシクロヘキサンを含む水相を除いた後、大量の蒸留水で3回繰り返し洗浄することで精製し、膨潤時の平均粒子径が約30μmの調光材料を含む三次元架橋体a(アクリルアミドゲル)の球形粒子を得た。
【0083】
(高分子複合体aの形成)
得られた三次元架橋体aの水分散液(固形分濃度約1質量%)47gに対して、アクリル酸3.03g及び2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸88.1mgを加え、攪拌して均一の分散液とした後に窒素を30分間導入して、液体中の酸素を除いた。更に、重合開始剤である2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン2塩酸塩)を25mg添加し、更に窒素を5分間導入した。この三次元架橋体の分散液を60℃に加熱し、15時間重合を行った。反応溶液を2Lの蒸留水中に投入して洗浄し、1晩静置した後に、上澄みをデカンテーションで除き、更に2Lの蒸留水で洗浄して、三次元架橋体の膨潤時の平均粒子径が50μmの高分子複合体aを得た。
なお、アクリル酸及び2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸により得られる(B)架橋体内在の液体溶解性高分子化合物におけるイオン性官能基の含有量は、1mol%であった。
【0084】
(調光用材料を含有する三次元架橋体bの合成)
調光用材料を含有する三次元架橋体bを以下のようなプロセスにより合成した。
アクリルアミド6.22g、架橋剤としてのメチレンビスアクリルアミド27.0mg、及び蒸留水13.9gを攪拌混合したものに、カーボンブラック顔料分散液(大成化工製、TBK−BC3 顔料分15質量%)12.43gを加えて攪拌し、水溶液を調製した。更にこの水溶液に窒素を20分間導入して酸素を除いた後、重合開始剤である過硫酸アンモニウム49.9mgを水0.5mlに溶解したものを添加し、水溶液bを得た。
一方、ソルビトール系界面活性剤(SO−15R、日光ケミカルズ(株)製)9.0gをシクロヘキサン300mlに溶解した溶液を窒素置換された反応容器に加え、反応溶液を水浴に浸して10℃に保った。これに、先に調製した水溶液bを添加し、回転式攪拌装置を用いて1200rpmで20分攪拌して懸濁させ、懸濁液とした。この懸濁液にテトラメチルエチレンジアミン0.5mlを加えて、15℃にて300rpmで攪拌しながら3時間、重合を行った。重合終了後、界面活性剤(花王製 エマルゲンMS−110)0.2質量%を含む水溶液1.5L中に反応溶液を投入し洗浄した。1晩静置した後、デカンテーションでシクロヘキサンを含む水相を除いた後、大量の蒸留水で3回繰り返し洗浄することで精製し、膨潤時の平均粒子径が約30μmである調光用材料を含む三次元架橋体b(アクリルアミドゲル)の球形粒子を得た。
得られた三次元架橋体bの球形粒子を顕微鏡で観察したところ、三次元架橋体内部にカーボンブラック顔料粒子が均一に分散されていることが確認された。
【0085】
(高分子複合体b1の形成)
得られた三次元架橋体bの水分散液(固形分濃度約1質量%)47gに対して、アクリル酸3.03g及び2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸88.1mgを加え、攪拌して均一の分散液とした後に窒素を30分間導入して、液体中の酸素を除いた。更に、重合開始剤である2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン2塩酸塩)を25mg添加し、更に窒素を5分間導入した。この三次元架橋体の分散液を60℃に加熱し、15時間重合を行った。反応溶液を2Lの蒸留水中に投入して洗浄し、1晩静置した後に、上澄みをデカンテーションで除き、更に2Lの蒸留水で洗浄して、三次元架橋体の膨潤時の平均粒子径が50μmの高分子複合体b1を得た。
なお、アクリル酸及び2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸により得られる(B)架橋体内在の液体溶解性高分子化合物におけるイオン性官能基の含有量は、1mol%であった。
【0086】
(高分子複合体b2の形成)
得られた三次元架橋体bの水分散液(固形分濃度約1質量%)47gに対して、アクリル酸3.03g及び2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸176.2mgを加え、攪拌して均一の分散液とした後に窒素を30分間導入して、液体中の酸素を除いた。更に、重合開始剤である2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン2塩酸塩)を25mg添加し、更に窒素を5分間導入した。この三次元架橋体の分散液を60℃に加熱し、15時間重合を行った。反応溶液を2Lの蒸留水中に投入して洗浄し、1晩静置した後に、上澄みをデカンテーションで除き、更に2Lの蒸留水で洗浄して、三次元架橋体の膨潤時の平均粒子径が50μmの高分子複合体b2を得た。
なお、アクリル酸及び2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸により得られる(B)架橋体内在の液体溶解性高分子化合物におけるイオン性官能基の含有量は、2mol%であった。
【0087】
(イオン性官能基を有する三次元架橋体cの合成)
イオン性官能基を有する三次元架橋体cを以下のようなプロセスにより合成した。
アクリルアミド6.15g、架橋剤としてのメチレンビスアクリルアミド27.0mg、イオン性官能基を導入するための成分としての2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸0.870g、1M(mol/l)水酸化ナトリウム水溶液0.88ml、及び蒸留水24.5gを攪拌混合した。更に、この溶液に、窒素を20分間導入して酸素を除いた後、重合開始剤である過硫酸アンモニウム49.9mgを水0.5mlに溶解したものを添加し、水溶液cを得た。
一方、ソルビトール系界面活性剤(SO−15R、日光ケミカルズ(株)製)9.0gをシクロヘキサン300mlに溶解した溶液を窒素置換された反応容器に加え、反応溶液を水浴に浸して10℃に保った。これに、先に調製した水溶液cを添加し、回転式攪拌装置を用いて1200rpmで20分攪拌して懸濁させ、懸濁液とした。この懸濁液にテトラメチルエチレンジアミン0.5mlを加えて、15℃にて300rpmで攪拌しながら3時間、重合を行った。重合終了後、界面活性剤(花王製 エマルゲンMS−110)0.2質量%を含む水溶液5L中に反応溶液を投入し洗浄した。1晩静置した後、デカンテーションでシクロヘキサンを含む水相を除いた後、大量の蒸留水で3回繰り返し洗浄することで精製し、膨潤時の平均粒子径が約50μmのイオン性官能基を有する三次元架橋体c(アクリルアミドゲル)の球形粒子を得た。
得られた三次元架橋体cの球形粒子は、イオン性官能基の影響で洗浄中に大量の水を吸収するため、イオン性官能基を含まない三次元架橋体に比べ、約5倍の水が必要であり、かつ、粒子の沈降が遅いために洗浄の効率が悪かった。
なお、得られた三次元架橋体cにおけるイオン性官能基の含有量は、5mol%であった。
【0088】
(イオン性官能基を有し、調光用材料を含有する三次元架橋体dの合成)
イオン性官能基を有し、調光用材料を含有する三次元架橋体dを以下のようなプロセスにより合成した。
アクリルアミド6.15g、架橋剤としてのメチレンビスアクリルアミド27.0mg、イオン性官能基を導入するための成分としての2−アクリルアミドー2−メチルプロパンスルホン酸181.3mg、1M(mol/l)水酸化ナトリウム水溶液0.88ml、及び蒸留水24.5gを攪拌混合したものに、カーボンブラック顔料分散液(大成化工製、TBK−BC3 顔料分15質量%)13.62gを加えて攪拌し、水溶液を調製した。更にこの水溶液に窒素を20分間導入して酸素を除いた後、重合開始剤である過硫酸アンモニウム49.9mgを水0.5mlに溶解したものを添加し、水溶液dを得た。
一方、ソルビトール系界面活性剤(SO−15R、日光ケミカルズ(株)製)9.0gをシクロヘキサン300mlに溶解した溶液を窒素置換された反応容器に加え、反応溶液を水浴に浸して10℃に保った。これに、先に調製した水溶液dを添加し、回転式攪拌装置を用いて1200rpmで20分攪拌して懸濁させ、懸濁液とした。この懸濁液にテトラメチルエチレンジアミン0.5mlを加えて、15℃にて300rpmで攪拌しながら3時間、重合を行った。重合終了後、界面活性剤(花王製、エマルゲンMS−110)0.2質量%を含む水溶液5L中に反応溶液を投入し洗浄した。1晩静置した後、デカンテーションでシクロヘキサンを含む水相を除いた後、大量の蒸留水で3回繰り返し洗浄することで精製し、膨潤時の平均粒子径が約50μmのイオン性官能基を有し、調光用材料を含有する三次元架橋体d(アクリルアミドゲル)の球形粒子を得た。
得られた三次元架橋体dの球形粒子は、イオン性官能基の影響で洗浄中に大量の水を吸収するため、イオン性官能基を含まない三次元架橋体に比べ、約2倍の水が必要であり、かつ、粒子の沈降が遅いために洗浄の効率が悪かった。また、得られた球形粒子を顕微鏡で観察したところ、カーボンブラック顔料粒子が三次元架橋体内で一部凝集していることが確認された。
なお、得られた三次元架橋体dにおけるイオン性官能基の含有量は、1mol%であった。
【0089】
(イオン性官能基を有し、調光用材料を含有する三次元架橋体eの合成)
イオン性官能基を有し、調光用材料を含有する三次元架橋体eを以下のようなプロセスにより合成した。
アクリルアミド6.06g、架橋剤としてのメチレンビスアクリルアミド27.0mg、イオン性官能基を導入するための成分としての2−アクリルアミドー2−メチルプロパンスルホン酸0.870g、1M(mol/l)水酸化ナトリウム水溶液2.21ml、及び蒸留水11.2gを攪拌混合したものに、カーボンブラック顔料分散液(大成化工製、TBK−BC3 顔料分15質量%)13.62gを加えて攪拌し、水溶液を調製した。更にこの水溶液に窒素を20分間導入して酸素を除いた後、重合開始剤である過硫酸アンモニウム49.9mgを水0.5mlに溶解したものを添加し、水溶液eを得た。
一方、ソルビトール系界面活性剤(SO−15R、日光ケミカルズ(株)製)9.0gをシクロヘキサン300mlに溶解した溶液を窒素置換された反応容器に加え、反応溶液を水浴に浸して10℃に保った。これに、先に調製した水溶液eを添加し、回転式攪拌装置を用いて1200rpmで20分攪拌して懸濁させ、懸濁液とした。この懸濁液にテトラメチルエチレンジアミン0.5mlを加えて、15℃にて300rpmで攪拌しながら3時間、重合を行った。重合終了後、界面活性剤(花王製、エマルゲンMS−110)0.2質量%を含む水溶液1.5L中に反応溶液を投入し洗浄した。1晩静置した後、デカンテーションでシクロヘキサンを含む水相を除いた後、大量の蒸留水で3回繰り返し洗浄することで精製し、膨潤時の平均粒子径が約70μmのイオン性官能基を有し、調光用材料を含有する三次元架橋体e(アクリルアミドゲル)の球形粒子を得た。
得られた三次元架橋体の球形粒子は、イオン性官能基の影響で洗浄中に大量の水を吸収するため、イオン性官能基を含まない三次元架橋体に比べ、約5倍の水が必要であり、かつ、粒子の沈降が遅いために洗浄の効率が悪かった。また、得られた球形粒子を顕微鏡で観察したところ、カーボンブラック顔料粒子が三次元架橋体内で一部凝集していることが確認された。
なお、得られた三次元架橋体eにおけるイオン性官能基の含有量は、5mol%であった。
【0090】
〔実施例1〜3及び比較例1〜6〕
(高分子ゲル組成物の調製)
得られた高分子複合体a、b1、及びb2の粒子、及び三次元架橋体c〜eの粒子の水分散液(固形分濃度約3質量%)1.0gと、ポリアクリル酸溶液(濃度及びポリアクリル酸の重量平気分子量は表1に記載)又はpH調整剤(塩酸を用いて、pHを3前後に調整)を含有する溶液3.0gとを混合して高分子ゲル組成物を調整した。
なお、ポリアクリル酸と三次元架橋体c〜eとを混合する場合、このポリアクリル酸は三次元架橋体c〜eの内部に含浸し、相互作用を形成して高分子複合体を形成する。
調製された高分子ゲル組成物の組成を表1に示す。
ここで、上記の各溶液にはpHを調製する目的でポリアクリル酸のアクリル酸残基に対して3%の水酸化ナトリウムを添加した。
【0091】
【表1】

【0092】
(体積変化量の評価)
上記表1に記載の実施例及び比較例の高分子ゲル組成物を、1穴スライドガラス上にとりホットプレート上で温度変化させながらその体積変化特性を光学顕微鏡で観測した。観測は、高分子ゲル組成物を調整した後1時間経過してから行った。顕微鏡観察により三次元架橋体の半径を測定してその体積を求めた。体積変化量は下記式1で定義される。
【0093】
体積変化量 = (60℃のときの体積)/(10℃のときの体積) (式1)
【0094】
これら測定の結果を表1に示した。
この結果から、実施例の高分子ゲル組成物における三次元架橋体は、外部からの刺激に応じて、比較例の高分子ゲル組成物と同様の体積変化量を有することが分かる。
【0095】
〔実施例4〕
高分子複合体b1を含む分散液(高分子複合体b1の固形分濃度1.5質量%)をガラス基板上(松浪硝子製、白板ガラス50×50×0.9mm)に塗布し、ポリスチレンビーズ(直径110μm、積水化学製)をスペーサとして、もう一枚のガラス基板で挟持した。ガラス基板の周囲を紫外線硬化性の接着剤(日本化薬製 KAYARAD R−381I)で封止して光学素子を作製した。
作製された光学素子の温度変化による透過率を測定したところ、10℃における透過率が70%、60℃における透過率が15%であり、大きな透過率変化を示すことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明の光学素子の一例を示した模式断面図である。
【図2】高分子ゲル組成物の作用を説明するための図である。
【図3】本発明の光学素子の他の一例を示した模式断面図である。
【符号の説明】
【0097】
1 三次元架橋体
2 液体
3 高分子ゲル組成物
4a、4b 基板
5 封止部材
10、20 光学素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに相互作用して高分子複合体を形成する二種の高分子化合物と液体とを含む高分子ゲル組成物であって、
前記高分子化合物のうち一種は三次元架橋体を形成し、
もう一種は、イオン性官能基を有し、前記液体に溶解すると共に、前記三次元架橋体に内在することを特徴とする高分子ゲル組成物。
【請求項2】
前記イオン性官能基の含有量が、該イオン性官能基を有する高分子化合物に対して0.1〜10mol%であることを特徴とする請求項1に記載の高分子ゲル組成物。
【請求項3】
前記イオン性官能基が、スルホン酸及びその塩、並びに4級アンモニウム塩からなる群より選択される1種の官能基である請求項1又は請求項2に記載の高分子ゲル組成物。
【請求項4】
前記三次元架橋体が調光用材料を含有することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の高分子ゲル組成物。
【請求項5】
前記二種の高分子化合物のうち、一種がポリ(メタ)アクリルアミド誘導体であり、もう一種がポリアクリル酸誘導体であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の高分子ゲル組成物。
【請求項6】
請求項1に記載の高分子ゲル組成物の製造方法であって、
三次元架橋体内部で、該三次元架橋体と相互作用し、かつ、イオン性官能基を有するモノマーを重合して高分子化合物を合成する工程を含むことを特徴とする高分子ゲル組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載の高分子ゲル組成物の製造方法であって、
三次元架橋体内部に、前記三次元架橋体と相互作用し、イオン性官能基を有する高分子化合物を含浸させる工程を含むことを特徴とする高分子ゲル組成物の製造方法。
【請求項8】
一対の基板と、該一対の基板間に挟持された高分子ゲル組成物と、からなる光学素子であって、
前記高分子ゲル組成物が、互いに相互作用して高分子複合体を形成する二種の高分子化合物と液体とを含み、
前記高分子化合物のうち一種は三次元架橋体を形成し、
もう一種は、イオン性官能基を有し、前記液体に溶解すると共に、一部が前記三次元架橋体に内在することを有することを特徴とする光学素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−249258(P2006−249258A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−68214(P2005−68214)
【出願日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】