説明

高分子ナノワイヤとその製造方法。

【課題】
本発明は、このような実情に鑑み、従来には得られない長尺な高分子ナノワイヤを提供することを目的とする。
【解決手段】
発明1の高分子ナノワイヤは、直径の1×10以上の長さを有し、その間に分枝部分や交差部分などのない一次元ワイヤであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直鎖高分子からなる高分子ナノワイヤとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロスピニング法などを用いた長いナノワイヤ(ファイバ)の作製方法が報告されている(特許文献1)。この方法を用いてコレクタ電極を基板に配置し、その電極間に配向させる技術(特許文献2)があるが、基本的に繊維布を作製するためのものであり、孤立ナノワイヤを一本一本表面に配置するものではない。
このようにエレクトロスピング法は一本一本のワイヤ(ファイバ)の調製とアレイ化を同時に行える方法ではない。またこれら方法は特別な機械装置を必要とする。
マイクロコンタト・プリンティング法と伸張DNAを用いるDNAナノワイヤの転写印刷法により報告されている(特許文献3)。
しかしながらこの方法は用いる使用するDNA以上の長さを持ったナノワイヤを作る技術ではない。
【0003】
また、天然または非天然の直鎖高分子はナノワイヤまたはそれを作成するための鋳型となるが、そのものの多くはサブマイクロメートルの長さにとどまる。したがってこれら分子の機能を利用したセンサまたは電子デバイスとして使用する場合、これらを繋ぐ電極間ギャップは必然的にサブマイクロメートル以下にしなければならない。しかしながら従来のリソグラフィ技術では100nm以下の分解能での電極パターン作成は困難である。
【特許文献1】特開2006−312794
【特許文献2】特開2006−283241
【特許文献3】特開2004−268192
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような実情に鑑み、従来には得られない長尺な高分子ナノワイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明1の高分子ナノワイヤは、直径の1×10以上の長さを有し、その間に分枝部分や交差部分などのない一次元ワイヤであることを特徴とする。
【0006】
発明2は、発明1の高分子ナノワイヤにおいて、前記直鎖高分子は、機能性材料により修飾されていることを特徴とする。
【0007】
発明3は、発明1又は2の高分子ナノワイヤの製造方法であって、基板上に直鎖高分子を分散した溶液を滴状に位置させ、その自己組織力により、前記直鎖高分子を一次元集合させて、その長さ方向に相互に連続してなるナノワイヤを、相互に平行整列させて形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
以上説明したように本発明は個々の直鎖高分子を一次元集合させ、本来の分子鎖長以上に伸長できるため、線幅数から数十nmで長さ数百μmの高度に整列したナノワイヤ群を簡単に作成できる。
従来の光リソグラフィでは困難であった100nm以下の線幅パターンの作成ができる。
また、作製されたナノワイヤ群は別基板(転写先基板)への転写が可能であり、直接ナノワイヤ群の作製が困難な基板または球面上へのこれらナノワイヤ群のパターンも作成可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
直鎖高分子としてDNAに限定されないが、ポリペプチド、リボ核酸(RNA)、アミロース、アクチンフィラメント、糖鎖などがあげられる。また生理活性を持つ分子(ポリペプチドなど)、導電性を持つ分子(例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、カーボンナノチューブなど)、光学活性を持つ分子(ポリ−L−リジンなど)などの特定の機能をもつ分子を用いてもよい。
直鎖高分子は別種の分子で修飾されていてもよい。別種の分子としては特に限定されないが、DNAを修飾する分子としてYOYO−1、アクリジンオレンジ、ビオチン、DNA結合タンパク質、金属コロイド、半導体コロイドなどがあげられる。また別種分子としては、生理活性を持つ分子(例えば、アミロース、アミノペクチンなど)、導電性を持つ分子(ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、カーボンナノチューブなど)、光学活性を持つ分子(ポリ−L−リジンなど)などの特定の機能を持つ分子を用いてもよい。
このような修飾の可能性を表1に例示する。
【表1】

【0010】
並行整列した状態での分子の固定は分子の種類に応じて行う。例えば、固定する分子がDNAの場合、DNAを保護するための緩衝役(水溶液)中に懸濁し、この懸濁液とエタノールの混合液を基板上に滴下し拡げればよい。基板上に拡がった混合液中に含まれるDNAは混合液中のエタノールの蒸発に伴い、気液界面移動が生じ基板表面上に伸張された状態で固定される。またこの時いく本かのDNAは一つに束ねられ、数百μmの長さとなる。溶液中のDNA濃度は0.1から100ng/μLであるが、下限値未満では長いナノワイヤができない。上限値を越えるとワイヤの並行整列が起こらない。
4.5ng/μL程度が適当である。滴下する混合液の量はDNA懸濁液1に対して4倍体積以上のエタノールを含むが、DNA懸濁液は1μLとエタノール4μLで合わせて5μL程度が適当である。またエタノール以外の溶媒(例えば、テトラヒドロフラン、アセトン、イソプロパノール)を使用してもよい。DNA以外の分子についても、上記に準じた方法により基板上に固定することができる。
上記のような各種の直鎖高分子及びその表面修飾分子においても、濃度を調整することでDNAと同様な現象が予想できる。
【0011】
同一基板上への固定は複数回繰り返すことができる。これにより、同一基板上に固定されるDNAの密度の制御が可能である。また別の直鎖高分子を上記方法で固定することで異なる直鎖高分子を段階的に固定することが可能である。
基板表面に固定されたDNAは別基板に転写させることができる。転写元基板および転写先基板は特に限定されないが、一方の基板は分子固定面を密着させるために必要な表面の柔軟性を有し、かつ化学反応性が低い基板が適当である。例えば転写基板としてポリジメチルシロキサンまたはポリジメチルシランを基材としたシリコーンゴムを用いた場合には、転写先基板としてガラス、シリコンウェハを用いる。
このようか関係を表2に例示する。
【表2】

【実施例1】
【0012】
ポリジメチルシロキサン(PDMS)シートを適当な大きさにカット(例えば2mm×8mm程度)し、これを転写元基板とした。この基板をスライドガラスに固定し、λファージDNA溶液(濃度4.5ng/μL)1μLとエタノール溶液5μLの混合溶液を滴下し、スライドガラスごと傾け放置した。このとき溶液中の溶媒が蒸発することで気液界面の移動が生じて溶液中のDNAは一次元集合し、移動方向に対して並行に基板表面に固定された(図1および2)。
【0013】
次に転写先基板としてカバーガラス(24mm×36mm、厚さ0.17mm)上に、転写面を対向させて転写元基板を静かに置いた。転写先基板としてはカバーガラスの他に雲母、シリコンウェハーも使用できる。このとき空気が転写元基板と転写先基板との間に残らないよう、両者が密着するように置いた。1/12時間静置した後、転写元基板をカバーガラスから静かにはがして、整列固定された一次元集合DNAの転写が完了した。
顕微鏡を用いて転写前と転写後のサンプルを観察し、表面に固定されているワイヤの形状は同じであった。
上記カバーガラスの対向方向を一次元集合した方向に対して角度を変えて同様の操作を再度行うことで、交差した状態で整列配置した一次元集合DNAのパターンを得ることができることを蛍光顕微鏡および暗視野光学顕微鏡観察により確認した(図3)。
【0014】
本技術は幅数nmから数十nmで長さが数百μm以上の1次元ナノワイヤ群を作成する手段を提供する。ナノワイヤの材料としてDNA、RNA、ペプチドそして糖鎖などの直線状生体高分子を使用する。これら生体高分子の水溶液と水よりも沸点の低い溶媒(エタノール、THFなど)を混合し、ポリジメチルシロキサン(PDMS)のシートに置き自然蒸発させる。溶媒の蒸発により発生する界面移動と生体高分子同士の集合により長さ数百μmのナノワイヤがPDMSシート状に形成される。また作成される多数のナノワイヤは界面移動の方向に整列する。
進歩した点は用いる直鎖高分子が比較的短くても(例えば数μm)本技術により1次元集合されより長いナノワイヤが形成されることである。それ自体自己組織能を有していなくても、1次元集合が可能である。この結果ナノワイヤへの電極の設置または電極間へのナノワイヤ群の配置が容易にある。またナノワイヤ形成時に金属ナノ粒子や機能性低分子物質を混ぜておけば、形成されるナノワイヤ上に沿ってそれら物質を固定させることもできる。
斬新な点はナノワイヤ作成の工程を同一PDMS基板表面で繰り返すことが可能であり、これにより基盤表面上のナノワイヤの密度を段階的に増やすことができる。またPDMS上に形成されたナノワイヤ群は他の基板表面(ガラス、シリコンウェハなど)に転写可能であり、これによりナノワイヤ群の整列パターンを再構築可能である。また一連の操作は特別な機械装置の使用を伴わない。
【実施例2】
【0015】
また転写先基板にあらかじめ電極パターンを作製し、電極間を橋渡しするように固定分子を転写することもできる。
実施例1の段落0012に示した処理を行った後、シリコンウェハまたはガラス基板表面にあらかじめ作製された電極パターン上に実施例1の段落0013で行った転写処理を行うことで、電極間を橋渡しするように固定分子を転写することもできる。
【実施例3】
【0016】
転写元基板としを転写先基板と密着させることにより、転写先の表面と強い相互作用を有するもののみ移行する。このことは直鎖高分子の表面または転写先基板表面を化学修飾することで達成される。正(または負)電荷を持った直鎖高分子と電荷を持たない直鎖高分子が転写元基板に固定されている場合、転写先基板を負(または正)電荷を持ったカルボキシシラン(またはアミノシラン)で表面を修飾することで、正(または負)の電荷をもった直鎖高分子のみ転写先基板に移行する。したがってこの事を利用すれば、混在する別種の直鎖高分子のうちの特定分子のみを転写させることができる。
【実施例4】
【0017】
転写元基板を複数用意し、これらを順次転写基板に密着させ、直鎖高分子を転写しても良い。これにより、より複雑なナノワイヤパターンを作製できる。
実施例1の段落0012に示す処理により作製した転写元基板を複数枚用意し、実施例1の段落0013で示す転写処理を同一転写先基板上に行う。この際転写元基板を様々な向きにし(転写先基板に対して転写元基板を45度そして90度傾ける)転写先基板に順次転写することで、より複雑なナノワイヤパターンを作製できる。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明は、直鎖高分子を一次元集合させ、より長いナノワイヤのアレイ群を作製する技術に関するものである。この方法は従来のリソグラフィによる加工技術を用いることなく、ナノスケールの細線パターンを作成でき、また電極間配置が困難な短い直鎖高分子も一次元集合により、より長いナノワイヤへと成長させることが可能である。この方法により作製されたナノワイヤ・パターン基板は、高感度なバイオセンサや微細電子回路への応用が考えられる。また細胞接着生体分子から構成されるナノワイヤ・パターンは細胞の分化や伸展をパターンに沿って制御する細胞チップとしての応用が考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】溶媒蒸発によるDNAナノファイバーの作製とそのアレイ化方法を示す模式図
【図2】作製されたDNAナノアレイの蛍光顕微鏡写真
【図3】金ナノ粒子が結合したDNAナノワイヤを交差させて配置したカバーガラス表面の暗視野光学顕微鏡写真

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直鎖高分子からなる高分子ナノワイヤであって、直径の1×10以上の長さを有し、その間に分枝部分や交差部分などのない一次元ワイヤであることを特徴とする高分子ナノワイヤ。
【請求項2】
請求項1に記載の高分子ナノワイヤにおいて、前記直鎖高分子は、機能性材料により修飾されていることを特徴とする高分子ナノワイヤ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の高分子ナノワイヤの製造方法であって、基板上に直鎖高分子を溶媒中に分散した溶液を位置させ、次にその溶媒を蒸発させて気液界面移動を生じさせて、前記直鎖高分子を一次元集合させ、その長さ方向に相互に連続してなるナノワイヤを相互に平行整列させて形成することを特徴とする高分子ナノワイヤの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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