高分子ナノ構造体を表面に備える基板及びその製造方法
【課題】ブロックコポリマーの相分離構造の形成を迅速かつ簡便に制御することにより、高分子ナノ構造体を備える基板を製造し得る方法の提供。
【解決手段】複数種類のポリマーが結合したブロックコポリマーとカーボンナノチューブとを混合することを特徴とする、ブロックコポリマーの相分離構造の形成方法、複数種類のポリマーが結合したブロックコポリマーの溶液にカーボンナノチューブを混合し、混合溶液を調製する工程と、調製された混合溶液を、基板表面に塗布することにより、ブロックコポリマーの相分離構造を有する層を形成する工程と、前記層のうち、前記ブロックコポリマーを構成する複数種類のポリマーのうちの少なくとも一種類のポリマーからなる相を選択的に除去する工程と、を有することを特徴とする、高分子ナノ構造体を表面に備える基板の製造方法、並びに当該製造方法により製造された高分子ナノ構造体を表面に備える基板。
【解決手段】複数種類のポリマーが結合したブロックコポリマーとカーボンナノチューブとを混合することを特徴とする、ブロックコポリマーの相分離構造の形成方法、複数種類のポリマーが結合したブロックコポリマーの溶液にカーボンナノチューブを混合し、混合溶液を調製する工程と、調製された混合溶液を、基板表面に塗布することにより、ブロックコポリマーの相分離構造を有する層を形成する工程と、前記層のうち、前記ブロックコポリマーを構成する複数種類のポリマーのうちの少なくとも一種類のポリマーからなる相を選択的に除去する工程と、を有することを特徴とする、高分子ナノ構造体を表面に備える基板の製造方法、並びに当該製造方法により製造された高分子ナノ構造体を表面に備える基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブの存在下でブロックコポリマーの相分離構造の形成を行うことにより、基板表面に高分子ナノ構造体が形成された基板を製造する方法、及び当該製造方法を用いて製造された高分子ナノ構造体を表面に備える基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、微細な構造体を作製する技術は、多様な分野への応用が期待されている。なかでも、ナノメートルサイズの構造を有する構造体(ナノ材料)は、光学・電気・磁気特性において、それぞれ対応するバルク金属には見られない特異な特性を示すため、基礎研究及び応用研究の両研究面から大きな注目を集めている。例えば、シリンダー状等の中空の三次元構造を有するナノ材料は、包接化学、電気化学、材料、生医学、センサ、触媒、分離技術等を含む様々な分野で役立つことが期待されている。また、ライン状の微細パターンを作製する技術は、集積回路の作製と高集積化に直結するため、半導体分野等において極めて活発に研究開発が行われている。
【0003】
近年では、異なる2種類以上の互いに相溶性のないポリマーが共有結合によって結び付けられたブロックコポリマーにより形成される相分離構造を利用して、より微細なパターンを形成する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。ブロックコポリマーは、そのブロック比率やポリマー鎖長、外的雰囲気によって、各ブロック部分が自発的に集合した相分離構造を形成することが知られており、このナノ相分離構造の形成を制御することにより、所望の高分子ナノ構造体を基板表面に形成する新しい微細加工技術が検討されている。例えば、ブロックコポリマーを構成する各ポリマーの配合比率(ブロック比)を調整することにより、ナノ構造を形成する相分離の基本構造を変更することができることができる。また、ブロックコポリマーの構成単位となるモノマー分子として適切な組み合わせを選択することにより、相分離構造を制御し、より規則性の高いナノ構造体を作製することもできる。その他、有機溶媒蒸気雰囲気下において加熱アニーリングを行う蒸気法によっても、相分離構造を制御し得る。
【0004】
また、ブロックコポリマーとカーボンナノ材料とを複合・混合させて、ブロックコポリマーの相分離構造内にカーボンナノ材料を偏析させることにより、基板上にカーボンナノチューブによる構造体を形成させる方法も開示されている(例えば、非特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−36491号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Doe、他4名、Journal of the American Chemical Society, 2009年、第131巻、第45号、第16568〜16572ページ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ブロックコポリマーの相分離構造をブロック比により制御する方法では、所望の相分離構造を形成するために、その都度ブロックコポリマーを合成しなければならない。また、蒸気法では、蒸気雰囲気制御が必要であり、さらに蒸気雰囲気下での加熱を要するなど、工程が煩雑である。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、ブロックコポリマーの相分離構造の形成を迅速かつ簡便に制御することにより、高分子ナノ構造体を備える基板を製造し得る方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
すなわち、本発明の第一の態様は、複数種類のポリマーが結合したブロックコポリマーとカーボンナノチューブとを混合することを特徴とする、ブロックコポリマーの相分離構造の形成方法である。
また、本発明の第二の態様は、複数種類のポリマーが結合したブロックコポリマーの溶液にカーボンナノチューブを混合し、混合溶液を調製する工程と、調製された混合溶液を、基板表面に塗布することにより、ブロックコポリマーの相分離構造を有する層を形成する工程と、を有することを特徴とする、相分離構造を有する層を表面に備える基板の製造方法である。
また、本発明の第三の態様は、複数種類のポリマーが結合したブロックコポリマーの溶液にカーボンナノチューブを混合し、混合溶液を調製する工程と、調製された混合溶液を、基板表面に塗布することにより、ブロックコポリマーの相分離構造を有する層を形成する工程と、前記層のうち、前記ブロックコポリマーを構成する複数種類のポリマーのうちの少なくとも一種類のポリマーからなる相を選択的に除去する工程と、を有することを特徴とする、高分子ナノ構造体を表面に備える基板の製造方法である。
さらに、本発明の第四の態様は、前記第三の態様の高分子ナノ構造体を表面に備える基板の製造方法により製造される高分子ナノ構造体を表面に備える基板である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、単にブロックコポリマーとカーボンナノチューブとを混合することにより、相分離構造を形成する方法や、高分子ナノ構造体を備える基板をより簡便かつ迅速に製造し得る方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1における、マルチウォールカーボンナノチューブ/イソプロパノール分散溶液を混合した混合溶液を塗布した場合のシリコン基板の表面の走査型電子顕微鏡像である。
【図2】実施例1における、マルチウォールカーボンナノチューブが分散されていないイソプロパノール溶液を混合した混合溶液を塗布した場合のシリコン基板の表面の走査型電子顕微鏡像である。
【図3】実施例1における、イソプロパノールを混合した混合溶液を塗布した場合のシリコン基板の表面の走査型電子顕微鏡像である。
【図4】実施例2における、マルチウォールカーボンナノチューブ/イソプロパノール分散溶液の3倍希釈分散溶液を用いた場合のシリコン基板の表面の走査型電子顕微鏡像である。
【図5】実施例2における、マルチウォールカーボンナノチューブ/イソプロパノール分散溶液の4倍希釈分散溶液を用いた場合のシリコン基板の表面の走査型電子顕微鏡像である。
【図6】実施例2における、マルチウォールカーボンナノチューブ/イソプロパノール分散溶液の5倍希釈分散溶液を用いた場合のシリコン基板の表面の走査型電子顕微鏡像である。
【図7】実施例2における、マルチウォールカーボンナノチューブ/イソプロパノール分散溶液の6倍希釈分散溶液を用いた場合のシリコン基板の表面の走査型電子顕微鏡像である。
【図8】実施例3における、PS−PMMAブロックコポリマー1のトルエン溶液(25mg/ml)を用いた場合のシリコン基板の表面の走査型電子顕微鏡像である。
【図9】実施例3における、PS−PMMAブロックコポリマー1のトルエン溶液(40mg/ml)を用いた場合のシリコン基板の表面の走査型電子顕微鏡像である。
【図10】実施例4における、PS−PMMAブロックコポリマー2を用いた場合のシリコン基板の表面の走査型電子顕微鏡像である。
【図11】実施例4における、PS−PMMAブロックコポリマー3を用いた場合のシリコン基板の表面の走査型電子顕微鏡像である。
【図12】実施例5における、加熱処理前のシリコン基板の表面の走査型電子顕微鏡像である。
【図13】実施例5における、加熱処理後のシリコン基板の表面の走査型電子顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
≪ブロックコポリマーの相分離構造の形成方法≫
本発明のブロックコポリマーの相分離構造の形成方法(以下、「本発明の相分離形成方法」ということがある。)は、複数種類のポリマーが結合したブロックコポリマーとカーボンナノチューブとを混合することを特徴とする。ブロックコポリマーとカーボンナノチューブを接触させることにより、カーボンナノチューブと接触させず、熱アニーリング等の常法により相構造を形成させた場合とは異なる相構造を形成させることができる。
【0013】
具体的には、適当な溶媒に溶解させたブロックコポリマーの溶液に、カーボンナノチューブを固体又は適当な溶媒に分散させた分散液の状態で添加して混合する。
【0014】
用いるカーボンナノチューブの層数や構造は特に限定されるものではない。例えば、直鎖状であってもよく、折れ曲がり構造を有していてもよく、分岐構造を有していてもよい。また、シングルウォールカーボンナノチューブであってもよく、マルチウォールカーボンナノチューブであってもよい。本発明において用いられるカーボンナノチューブとしては、比較的直径の大きなシングルウォールカーボンナノチューブ又はマルチウォールカーボンナノチューブであることが好ましく、マルチウォールカーボンナノチューブであることがより好ましい。ブロックコポリマーの溶液に添加するカーボンナノチューブの量は、溶液中のブロックコポリマーと接触して相分離を起こさせるために十分な量であればよく、溶液中のブロックコポリマーの濃度等を考慮して適宜決定することができる。
【0015】
<ブロックコポリマー>
ブロックコポリマーは、複数種類のポリマーが結合した高分子である。ブロックコポリマーを構成するポリマーの種類は、2種類であってもよく、3種類以上であってもよい。本発明においては、ブロックコポリマーを構成する複数種類のポリマーは、相分離が起こる組み合わせであれば特に限定されるものではないが、ブロックコポリマーを構成する複数種類のポリマーのうちの少なくとも1種は、カーボンナノチューブと親和性の高いポリマーであることが好ましい。また、ブロックコポリマーを構成する複数種類のポリマーは、互いに非相溶であるポリマー同士の組み合わせであることが好ましい。
【0016】
このようなポリマーとしては、例えば、芳香環を有するモノマーから誘導される構成単位を有するポリマー等が挙げられる。
芳香環を有するモノマーとしては、フェニル基、ビフェニル(biphenyl)基、フルオレニル(fluorenyl)基、ナフチル基、アントリル(anthryl)基、フェナントリル基等の、芳香族炭化水素の環から水素原子を1つ除いた基、及びこれらの基の環を構成する炭素原子の一部が酸素原子、硫黄原子、窒素原子等のヘテロ原子で置換されたヘテロアリール基等を有するモノマーが挙げられる。
【0017】
ブロックコポリマーとしては、例えば、芳香環を有するモノマーから誘導される構成単位を有するポリマーと(メタ)アクリル酸エステルを構成単位とするポリマーとを結合させたブロックコポリマーや、芳香環を有するモノマーから誘導される構成単位を有するポリマーとシロキサン又はその誘導体を構成単位とするポリマーとを結合させたブロックコポリマー等が挙げられる。中でも、スチレン又はその誘導体を構成単位とするポリマーと(メタ)アクリル酸エステルを構成単位とするポリマーとを結合させたブロックコポリマー、スチレン又はその誘導体を構成単位とするポリマーとシロキサン又はその誘導体を構成単位とするポリマーとを結合させたブロックコポリマーであることが好ましい。なお、「(メタ)アクリル酸エステル」とは、α位に水素原子が結合したアクリル酸エステルと、α位にメチル基が結合したメタクリル酸エステルの一方あるいは両方を意味する。
【0018】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸の炭素原子に、アルキル基やヒドロキシアルキル基等の置換基が結合しているものが挙げられる。置換基として用いられるアルキル基としては、炭素原子数1〜10の直鎖状、分岐鎖状、又は環状のアルキル基が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルとしては、具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸アントラセン、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸3,4−エポキシシクロヘキシルメタン、(メタ)アクリル酸プロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0019】
シロキサンの誘導体としては、例えば、ジメチルシロキサン、ジエチルシロキサン、ジフェニルシロキサン、メチルフェニルシロキサン等が挙げられる。
アルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、イソプロピレンオキシド、ブチレンオキシド等が挙げられる。
【0020】
本発明においては、スチレン又はその誘導体を構成単位とするポリマーと(メタ)アクリル酸エステルを構成単位とするポリマーとを結合させたブロックコポリマーを用いることが好ましい。具体的には、スチレン−ポリメチルメタクリレート(PS−PMMA)ブロックコポリマー、スチレン−ポリエチルメタクリレートブロックコポリマー、スチレン−(ポリ−t−ブチルメタクリレート)ブロックコポリマー、スチレン−ポリメタクリル酸ブロックコポリマー、スチレン−ポリメチルアクリレートブロックコポリマー、スチレン−ポリエチルアクリレートブロックコポリマー、スチレン−(ポリ−t−ブチルアクリレート)ブロックコポリマー、スチレン−ポリアクリル酸ブロックコポリマー等が挙げられる。本発明においては、特に、PS−PMMAブロックコポリマーを用いることが好ましい。
【0021】
ブロックコポリマーを構成する各ポリマーの質量平均分子量(Mw)(ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算基準)は、相分離を起こすことが可能な大きさであれば特に限定されるものではないが、5000〜500000が好ましく、10000〜400000がより好ましく、20000〜300000がさらに好ましい。
またブロックコポリマーの分散度(Poly dispersity index:PDI)(Mw/Mn)は1.0〜3.0が好ましく、1.0〜1.5がより好ましく、1.0〜1.2がさらに好ましい。なお、Mnは数平均分子量を示す。
【0022】
ブロックコポリマーを構成する各ポリマーの成分比や質量平均分子量比を適宜調整することにより、得られる相分離構造の各相の形状を調整することができる。本発明においては、カーボンナノチューブと親和性の高いポリマーと、当該ポリマーと相分離を起こし得るポリマーとの2種類が結合されたものであって、両ポリマーの質量平均分子量比が1:0.9〜1:1.1であるブロックコポリマーを用いることが好ましい。ほぼ同様の平均分子量からなるポリマー同士を結合したブロックポリマーを、カーボンナノチューブに接触させることにより、カーボンナノチューブと親和性の高いポリマーからなる相が、他方のポリマーからなる相に含まれ、相分離構造が形成される。この際に形成される相の大きさは、ブロック個ポリマーの平均分子量に依存する。すなわち、ブロックポリマーを構成する各ポリマーの平均分子量が大きいほど、カーボンナノチューブと親和性の高いポリマーからなる球状の相の直径が大きくなる。例えば、分子量が1:0.9〜1:1.1であるPSとPMMAとを結合させたPS−PMMAブロックコポリマーを用いた場合には、PMMAの相中に球状のPSの相が存在する相分離構造が形成される。また、PS−PMMAブロックコポリマーを構成するPSとPMMAの平均分子量を大きくするほど、相分離構造中のPSからなる球状の相の直径が大きくなる。
【0023】
ブロックコポリマーを溶解させる溶媒としては、用いるブロックコポリマーを溶解し、均一な溶液とすることができるものであればよい。例えば、ブロックコポリマーを構成する各ポリマーのいずれとも相溶性の高い有機溶剤を用いることができる。有機溶剤は単独で用いてもよく、2種以上の混合溶剤として用いてもよい。ブロックコポリマーが水溶性の高いポリマーから構成されている場合には、ブロックコポリマーを溶解させる溶媒として水を用いることもできる。また、ブロックコポリマーの溶解性を高めるために、界面活性剤等の各種添加剤を溶媒に添加してもよい。
【0024】
ブロックコポリマーを溶解させる有機溶剤としては、例えば、γ−ブチロラクトン等のラクトン類;
アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチル−n−ペンチルケトン、メチルイソペンチルケトン、2−ヘプタノンなどのケトン類;
エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールなどの多価アルコール類;
エチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノアセテート、又はジプロピレングリコールモノアセテート等のエステル結合を有する化合物、前記多価アルコール類又は前記エステル結合を有する化合物のモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノプロピルエーテル、モノブチルエーテル等のモノアルキルエーテル又はモノフェニルエーテル等のエーテル結合を有する化合物等の多価アルコール類の誘導体[これらの中では、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)が好ましい];
ジオキサンのような環式エーテル類や、乳酸メチル、乳酸エチル(EL)、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチルなどのエステル類;
アニソール、エチルベンジルエーテル、クレジルメチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、フェネトール、ブチルフェニルエーテル、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、ペンチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、トルエン、キシレン、シメン、メシチレン等の芳香族系有機溶剤などを挙げることができる。
例えば、ブロックコポリマーとしてPS−PMMAブロックコポリマーを用いる場合には、トルエン等の芳香族系有機溶剤に溶解させることが好ましい。
【0025】
≪相分離構造を有する層を表面に備える基板の製造方法≫
複数種類のポリマーが結合したブロックコポリマーの溶液にカーボンナノチューブを混合することによって調製された混合溶液を、基板表面に塗布することにより、ブロックコポリマーの相分離構造を有する層を表面に備える基板を製造することができる。
【0026】
<基板>
基板は、ブロックコポリマーの相分離構造を有する層を表面に備える基板の一部を構成するものである。基板は、その表面上にブロックコポリマーを含む溶液を塗布し得るものであれば、その種類は特に限定されない。例えば、シリコン、銅、クロム、鉄、アルミニウム等の金属、ガラス、酸化チタン、シリカ、マイカなどの無機物からなる基板、アクリル板、ポリスチレン、セルロース、セルロースアセテート、フェノール樹脂などの有機化合物からなる基板などが挙げられる。
また、本発明において用いられる基板の大きさや形状は、特に限定されるものではない。基板は必ずしも平滑な表面を有する必要はなく、様々な材質や形状の基板を適宜選択することができる。例えば、曲面を有する基板、表面が凹凸形状の平板、薄片状などの様々な形状のものまで多様に用いることができる。
【0027】
<基板洗浄処理>
ブロックコポリマーを含む溶液を塗布してブロックコポリマーを含む層を形成する前に、基板表面を洗浄してもよい。基板表面を洗浄することにより、後の中性化反応処理が良好に行える場合がある。
洗浄処理としては、従来公知の方法を利用でき、例えば酸素プラズマ処理、オゾン酸化処理、酸アルカリ処理、化学修飾処理等が挙げられる。例えば、基板を硫酸/過酸化水素水溶液等の酸溶液に浸漬させた後、水洗し、乾燥させる。その後、当該基板の表面に、ブロックコポリマーを含む層を形成することができる。
【0028】
<中性化処理>
中性化処理とは、基板表面を、ブロックコポリマーを構成するいずれのポリマーとも親和性を有するように改変する処理をいう。中性化処理を行うことにより、相分離によって特定のポリマーからなる相のみが基板表面に接することを抑制することができる。このため、ブロックコポリマーを含む層を形成する前に、基板表面に、用いるブロックコポリマーの種類に応じた中性化処理を行っておくことが好ましい。
【0029】
具体的には、中性化処理としては、基板表面に、ブロックコポリマーを構成するいずれのポリマーとも親和性を有する下地剤を含む薄膜(中性化膜)を形成する処理等が挙げられる。
このような中性化膜としては、樹脂組成物からなる膜を用いることができる。下地剤として用いられる樹脂組成物は、ブロックコポリマーを構成するポリマーの種類に応じて、薄膜形成に用いられる従来公知の樹脂組成物の中から適宜選択することができる。下地剤として用いられる樹脂組成物は、熱重合性樹脂組成物であってもよく、ポジ型レジスト組成物やネガ型レジスト組成物等の感光性樹脂組成物であってもよい。
その他、中性化膜は非重合性膜であってもよい。例えば、フェネチルトリクロロシラン、オクタデシルトリクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン等のシロキサン系有機単分子膜も、中性化膜として好適に用いることができる。
これらの下地剤からなる中性化膜は、常法により形成することができる。
【0030】
このような下地剤としては、例えば、ブロックコポリマーを構成する各ポリマーの構成単位をいずれも含む樹脂組成物や、ブロックコポリマーを構成する各ポリマーと親和性の高い構成単位をいずれも含む樹脂等が挙げられる。
例えば、PS−PMMAブロックコポリマーを用いる場合には、下地剤として、PSとPMMAの両方を構成単位として含む物樹脂組成物や、芳香環等のPSと親和性が高い部位と、極性の高い官能基等のPMMAと親和性の高い部位の両方を含む化合物又は組成物を用いることが好ましい。
PSとPMMAの両方を構成単位として含む物樹脂組成物としては、例えば、PSとPMMAのランダムコポリマー、PSとPMMAの交互ポリマー(各モノマーが交互に共重合しているもの)等が挙げられる。
【0031】
また、PSと親和性が高い部位とPMMAと親和性の高い部位の両方を含む組成物としては、例えば、モノマーとして、少なくとも、芳香環を有するモノマーと極性の高い置換基を有するモノマーとを重合させて得られる樹脂組成物が挙げられる。芳香環を有するモノマーとしては、前記と同様のものが挙げられる。また、極性の高い置換基を有するモノマーとしては、トリメトキシシリル基、トリクロロシリル基、カルボキシ基、水酸基、シアノ基、アルキル基の水素原子の一部がフッ素原子で置換されたヒドロキシアルキル基等を有するモノマーが挙げられる。
その他、PSと親和性が高い部位とPMMAと親和性の高い部位の両方を含む化合物としては、フェネチルトリクロロシラン等のアリール基と極性の高い置換基の両方を含む化合物や、アルキルシラン化合物等のアルキル基と極性の高い置換基の両方を含む化合物等が挙げられる。
【0032】
<ガイドパターンの形成1>
基板表面は、ブロックコポリマーを含む層を形成する前に、予めパターンが形成されたガイドパターンを有していてもよい。これにより、ガイドパターンの形状・表面特性に応じた相分離構造の配列構造制御が可能となる。例えば、ガイドパターンがない場合にはランダムな指紋状の相分離構造が形成されるブロックコポリマーであっても、基板表面にレジスト膜の溝構造を導入することにより、その溝に沿って配向した相分離構造が得られる。このような原理でガイドパターンを導入してもよい。またガイドパターンの表面が、ブロックコポリマーを構成するいずれかのポリマーと親和性を備えることにより、基板表面に対して垂直方向に配向されたラメラ構造やシリンダー構造からなる相分離構造を形成しやすくすることもできる。
【0033】
基板表面にガイドパターンを備える基板としては、例えば、予め金属のパターンが形成された基板を用いることができる。また、リソグラフィー法やインプリント法により基板表面にパターンを形成したものを用いることもできる。これら中でも、リソグラフィー法を用いたものが好ましい。例えば、基板表面に、ブロックコポリマーを構成するいずれかのポリマーと親和性を有するレジスト組成物からなる膜を形成した後、所定のパターンが形成されたマスクを介して、光、電子線等の放射線にて選択的露光を行い、現像処理を施すことにより、ガイドパターンを形成することができる。なお、基板に中性化処理を行う場合には、中性化処理後に、中性化膜の表面にガイドパターンを形成することが好ましい。
【0034】
具体的には、例えば、基板表面上に、レジスト組成物をスピンナーなどで塗布し、80〜150℃の温度条件下、プレベーク(ポストアプライベーク(PAB))を40〜120秒間、好ましくは60〜90秒間施し、これに例えばArF露光装置などにより、ArFエキシマレーザー光を所望のマスクパターンを介して選択的に露光した後、80〜150℃の温度条件下、PEB(露光後加熱)を40〜120秒間、好ましくは60〜90秒間施す。次いでこれをアルカリ現像液、例えば0.1〜10質量%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)水溶液を用いて現像処理し、好ましくは純水を用いて水リンスを行い、乾燥を行う。また、場合によっては、上記現像処理後にベーク処理(ポストベーク)を行ってもよい。このようにして、マスクパターンに忠実なガイドパターンを形成することができる。
【0035】
ガイドパターンの基板表面(若しくは中性化膜表面)からの高さは、基板表面に形成されるブロックコポリマーを含む層の厚み以上であることが好ましい。ガイドパターンの基板表面(若しくは中性化膜表面)からの高さは、例えば、ガイドパターンを形成するレジスト組成物を塗布して形成されるレジスト膜の膜厚によって適宜調整することができる。
【0036】
ガイドパターンを形成するレジスト組成物は、一般的にレジストパターンの形成に用いられるレジスト組成物やその改変物の中から、ブロックコポリマーを構成するいずれかのポリマーと親和性を有するものを適宜選択して用いることができる。当該レジスト組成物としては、ポジ型レジスト組成物とネガ型レジスト組成物のいずれであってもよいが、ネガ型レジスト組成物であることが好ましい。
【0037】
また、ガイドパターンが形成された基板表面上にブロックコポリマーの溶液が流し込まれた後、相分離を起こすために、熱処理がなされる。このため、ガイドパターンを形成するレジスト組成物としては、耐溶剤性と耐熱性に優れたレジスト膜を形成し得るものであることが好ましい。
【0038】
<ガイドパターンの形成2>
基板表面は、前記のような物理的に凹凸のある構造からなるガイドパターンに代えて、より平面的なガイドパターンを形成してもよい。具体的には、ブロックコポリマーを構成するいずれかのポリマーと親和性を有する領域と、その他の領域とからなるガイドパターンを有していてもよい。
【0039】
平面的なガイドパターンは、例えば、以下のようにして形成することができる。まず、下地剤として、ブロックコポリマーを構成するいずれかのポリマーと親和性を有する感光性レジスト組成物又は電子線により重合あるいは主鎖断裂をおこす組成物を用い、当該下地剤を基板表面に塗布してレジスト膜を形成した後、所定のパターンが形成されたマスクを介して、光、電子線等の放射線にて選択的露光を行い、現像処理を施すことにより、基板表面に、ブロックコポリマーを構成するいずれかのポリマーと親和性を有する薄膜が所定のパターンに配置される。これにより、下地剤から形成された領域と下地剤が除去された領域とが所定のパターンに配された平面的なガイドパターンを形成することができる。
【0040】
このようなガイドパターンを形成する際に用いられる下地剤としては、薄膜形成に用いられる従来公知の感光性樹脂組成物の中から所望の性質を備えるものを適宜選択して用いることができる。
【0041】
<ブロックコポリマーとカーボンナノチューブの混合溶液の調製>
まず、ブロックコポリマーとカーボンナノチューブの混合溶液を調製する。具体的には、適当な溶媒に溶解させたブロックコポリマーの溶液に、カーボンナノチューブを固体又は適当な溶媒に分散させた分散液の状態で添加して混合することにより、混合溶液を調製する。当該工程で用いられるブロックコポリマー、カーボンナノチューブ、及び溶媒等は、本発明の相分離構造形成方法において挙げられたものと同様のものを用いることができる。
【0042】
<ブロックコポリマーの相分離構造を有する層の形成>
次いで、調製された混合溶液を、スピンナー等を用いて基板表面に塗布することにより、ブロックコポリマーの相分離構造を有する層を形成する。当該混合溶液中では、既に相分離が生じているため、当該混合溶液を基板上に塗布等することにより、従来の熱アニーリング等の処理を行わずとも、基板上に相分離構造を有する層を形成することができる。
【0043】
本発明の高分子ナノ構造体含有基板製造方法においては、基板表面に塗布する前に、ブロックコポリマーとカーボンナノチューブとを接触させることによってブロックコポリマーの相分離を起こしておけばよく、相分離後にはブロックコポリマーとカーボンナノチューブとを共存させておかなくてもよい。例えば、基板表面に塗布する前に、調製された混合溶液からカーボンナノチューブを除去した後、残りの溶液を基板表面に塗布してもよい。
【0044】
基板表面に形成されるブロックコポリマーを含む層の厚みは、形成しようとする高分子ナノ構造体の基板表面からの高さ寸法に応じて適宜設定すればよい。
本発明においては、ブロックコポリマーを含む層の厚さは特に限定されないが、高分子ナノ構造体の強度、高分子ナノ構造体が形成された基板の均一性等を考慮すると、5nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがさらに好ましい。
【0045】
≪高分子ナノ構造体を表面に備える基板の製造方法≫
ブロックコポリマーを構成する複数種類のポリマー中の少なくとも1種類のポリマーからなる相が、他の種類のポリマーからなる相よりも、容易に選択的に除去可能な組み合わせとすることにより、高分子ナノ構造体を表面に備える基板を製造することができる。
【0046】
一方のポリマーが他方のポリマーよりも容易に選択的に除去可能なブロックコポリマーとしては、例えば、ポリスチレンと(メタ)アクリル酸エステルを構成単位とするポリマーとを結合させたブロックコポリマー、ポリスチレンとシロキサン又はその誘導体を構成単位とするポリマーとを結合させたブロックコポリマー等が挙げられる。
【0047】
なお、以下において、ブロックコポリマーを構成するポリマーのうち、比較的選択的に除去され難いポリマーをPAポリマー、選択的に除去されやすいポリマーをPBポリマーという。例えば、PS−PMMAブロックコポリマーの相分離構造を有する層に対して酸素プラズマ処理や水素プラズマ処理等を行うことにより、PMMAからなる相が選択的に除去される。この場合、PSがPAポリマーであり、PMMAがPBポリマーである。
【0048】
本発明の高分子ナノ構造体を表面に備える基板の製造方法(以下、「本発明の高分子ナノ構造体含有基板製造方法」ということがある。)は、複数種類のポリマーが結合したブロックコポリマーの溶液にカーボンナノチューブを混合し、混合溶液を調製する工程と、調製された混合溶液を、基板表面に塗布することにより、ブロックコポリマーの相分離構造を有する層を形成する工程と、を有することを特徴とする。
【0049】
本発明の高分子ナノ構造体含有基板製造方法のうち、複数種類のポリマーが結合したブロックコポリマーの溶液にカーボンナノチューブを混合し、混合溶液を調製する工程と、調製された混合溶液を、基板表面に塗布することにより、ブロックコポリマーの相分離構造を有する層を形成する工程とは、前記の相分離構造を有する層を表面に備える基板の製造方法における各工程と同様に行うことができる。
【0050】
<相分離構造中のPBポリマーからなる相の選択除去>
さらに、基板表面上のブロックコポリマーの相分離構造を有する層の表面のうち、露出しているPBポリマーからなる相を選択的に除去する。これにより、PAポリマーからなる相のみが、基板の露出面に残る。すなわち、基板上には、表面がPAポリマーからなる相である高分子ナノ構造体が形成される。
【0051】
このような選択的除去処理は、PAポリマーに対しては影響せず、PBポリマーを分解除去し得る処理であれば、特に限定されるものではなく、樹脂膜の除去に用いられる手法の中から、PAポリマーとPBポリマーの種類に応じて、適宜選択して行うことができる。また、基板表面に予め中性化膜が形成されている場合には、当該中性化膜もPBポリマーからなる相と同様に除去される。このような除去処理としては、例えば、酸素プラズマ処理、オゾン処理、UV照射処理、熱分解処理、及び化学分解処理等が挙げられる。
【0052】
高分子ナノ構造体を形成させた基板は、そのまま使用することもできるが、さらに熱処理を行うことにより、基板上の高分子ナノ構造体の形状を変更することもできる。熱処理の温度は、用いるブロックコポリマーのガラス転移温度以上であり、かつ熱分解温度未満で行うことが好ましい。また、熱処理は、窒素等の反応性の低いガス中で行われることが好ましい。
【0053】
例えば、カーボンナノチューブと親和性の高いポリマーと当該ポリマーと相分離を起こし得るポリマーとの2種類が結合しており、両ポリマーの質量平均分子量比が1:0.9〜1:1.1であるブロックコポリマーを用いる場合、当該ブロックコポリマーとカーボンナノチューブとの混合溶液を基板上に塗布することにより、カーボンナノチューブと親和性の高いポリマーからなる球状の相が、他方のポリマーからなる相に規則的に含まれている相分離構造を有する層が形成される。カーボンナノチューブと親和性の高いポリマーがPAポリマーであり、他方のポリマーがPBポリマーであった場合には、PBポリマーからなる相の選択的除去により、表面上に、カーボンナノチューブと親和性の高いポリマーからなるドット状の高分子ナノ構造体が規則的配置された基板を得ることができる。ドット状の高分子ナノ構造体の直径は、用いるブロックコポリマーの分子量に依存するため、基板上には、大きさがほぼ揃ったドット状の構造体が配置されている。この際、当該混合溶液中のブロックコポリマーの濃度が低い場合には、基板表面上にドット状のナノ構造体が一層に配置された基板が得られるが、当該混合溶液中のブロックコポリマーの濃度が高くなるにつれ、ドット構造が2層以上に積層された多層ドット構造となる。
【0054】
また、カーボンナノチューブと親和性の高いポリマーからなる球状の相が、他方のポリマーからなる相に規則的に含まれている相分離構造を有する層を形成した後の基板に対して、一方のポリマーの選択的除去を行う前に熱処理を行った場合には、
ドット状のナノ構造体ではなく、ライン状の高分子ナノ構造体が配置された基板を得ることができる。
【0055】
≪高分子ナノ構造体含有基板≫
本発明の高分子ナノ構造体を表面に備える基板(本発明の高分子ナノ構造体含有基板)は、本発明の高分子ナノ構造体含有基板製造方法を用いて製造された基板である。
【0056】
基板が有する高分子ナノ構造体、すなわち、基板上に形成された高分子ナノ構造体の形状は、特に限定されるものではなく、例えばドット状、ライン状、シリンダー状、及びその他の3次元構造、ならびにそれらのネットワーク構造や複合構造、繰り返し構造等を採用することができる。
基板が有する高分子ナノ構造体は、1個であってもよく、複数個であってもよい。複数個の場合には、各高分子ナノ構造体の配置は、特に限定されるものではなく、全ての高分子ナノ構造体が並列に配置されていてもよく、放射状に配置されていてもよく、格子状に配置されていてもよく、縞状等のランダムに配置されていてもよい。
【0057】
例えば、ドット状やシリンダー状の高分子ナノ構造体が基板表面上に規則的に林立している高分子ナノ構造体含有基板は、偏光素子や発光デバイス、バイオセンサ等の光学素子として応用し得る。
さらに、高分子ナノ構造体は非常に微細な構造体であるため、基板としてポリビニルアルコールやPMMA等の透明性の高い樹脂フィルムを用いた場合にも、樹脂フィルムの透明性を損なうおそれが小さく、また、樹脂フィルムに過度の剛性を付与せず、加工性や取り扱い性にも優れている。
【実施例】
【0058】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0059】
[実施例1]
PS−PMMAブロックコポリマー1(PSの質量平均分子量:53000、PMMAの質量平均分子量:54000、分散度:1.16)のトルエン溶液(18mg/ml)と、マルチウォールカーボンナノチューブ/イソプロパノール分散溶液(名城ナノカーボン社製、1mg/ml)とを体積比1:1で混合し、混合溶液を調製した。
比較対象として、マルチウォールカーボンナノチューブ/イソプロパノール分散溶液に代えて、マルチウォールカーボンナノチューブが分散していないイソプロパノール溶液(名城ナノカーボン社製)又はイソプロパノールを用いて、PS−PMMAブロックコポリマー1のトルエン溶液と同じ比率で混合した混合溶液をそれぞれ調製した。
また、3枚のシリコン基板を、それぞれ硫酸/過酸化水素水混合液(体積比7:3)に1時間浸漬させた後、当該基板を水洗し、窒素ガスによって風乾した。次いで、各基板を、フェネチルトリクロロシランのトルエン溶液(0.05体積%)に10分間浸漬させた後、トルエンで洗浄し、窒素ガスによって風乾した。
これらの基板に、前記混合溶液をそれぞれスピンコート(回転数:1000rpm、30秒間)し、基板表面上にブロックコポリマーを含む層を形成した。その後、各基板に対して酸素プラズマ処理(10sccm、10W、8秒間)を行ってPMMAからなる相を選択的に除去した。
【0060】
得られた基板の表面を走査型電子顕微鏡で観察した結果を図1〜3に示す。図1は、マルチウォールカーボンナノチューブ/イソプロパノール分散溶液を混合した混合溶液を塗布した基板表面の電子顕微鏡像である。また、図2はマルチウォールカーボンナノチューブが分散していないイソプロパノール溶液を混合した場合の、図3はイソプロパノールを混合した場合の、各基板表面の電子顕微鏡像である。図1に示すように、基板表面全体に、直径およそ37nmのドット状構造体が密に配列した形態が観察された。これに対して、図2及び3に示すように、基板表面への塗布前にPS−PMMAブロックコポリマー1とマルチウォールカーボンナノチューブを接触させなかった場合には、明瞭なドット構造は観察されなかった。
【0061】
[実施例2]
マルチウォールカーボンナノチューブ/イソプロパノール分散溶液(名城ナノカーボン社製、1mg/ml)に代えて、当該分散溶液をイソプロパノールで3〜6倍にそれぞれ希釈した希釈分散溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、シリコン基板表面上にPS−PMMAブロックコポリマー1とマルチウォールカーボンナノチューブの混合溶液を塗布した後、酸素プラズマ処理によってPMMAからなる相を選択的に除去した。
得られた基板の表面を走査型電子顕微鏡で観察した結果を図4〜7に示す。図4は3倍希釈分散溶液を用いた場合の、図5は4倍希釈分散溶液を用いた場合の、図6は5倍希釈分散溶液を用いた場合の、図7は6倍希釈分散溶液を用いた場合の、各基板表面の電子顕微鏡像である。図4に示すように、3倍希釈分散溶液を用いた場合には、実施例1と同様にPSをコアとしたドット状の構造体が表面全体に観察されたが、4〜6倍希釈分散溶液を用いた場合には、図5〜7に示すように、明瞭なドット構造は観察されなかった。
【0062】
[実施例3]
PS−PMMAブロックコポリマー1のトルエン溶液に代えて、PS−PMMAブロックコポリマー2(PSの質量平均分子量:54000、PMMAの質量平均分子量:53000、分散度:1.16)のトルエン溶液(25mg/ml又は40mg/ml)を用いた以外は、実施例1と同様にして、シリコン基板表面上にPS−PMMAブロックコポリマー2とマルチウォールカーボンナノチューブの混合溶液を塗布した後、酸素プラズマ処理によってPMMAからなる相を選択的に除去した。
得られた基板の表面を走査型電子顕微鏡で観察した結果を図8(25mg/mlの場合)及び9(40mg/mlの場合)に示す。この結果、どちらの基板にもPSをコアとしたドット状の構造体が観察された。但し、いずれの基板にも、ドット状構造体が一層に形成されていた実施例1とは異なり、ドットが二層以上に積み重なった多層ドット構造が形成されていた。
【0063】
[実施例4]
PS−PMMAブロックコポリマー1のトルエン溶液に代えて、PS−PMMAブロックコポリマー3(PSの質量平均分子量:37000、PMMAの質量平均分子量:37000、分散度:1.08)のトルエン溶液(18mg/ml)、又はPS−PMMAブロックコポリマー4(PSの質量平均分子量:270000、PMMAの質量平均分子量:289000、分散度:1.18)のトルエン溶液(18mg/ml)を用いた以外は、実施例1と同様にして、シリコン基板表面上にPS−PMMAブロックコポリマーとマルチウォールカーボンナノチューブの混合溶液を塗布した後、酸素プラズマ処理によってPMMAからなる相を選択的に除去した。
得られた基板の表面を走査型電子顕微鏡で観察した結果を図10(A)及び(B)(PS−PMMAブロックコポリマー3の場合)及び11(PS−PMMAブロックコポリマー4の場合)に示す。この結果、どちらの基板にもPSをコアとしたドット状の構造体が表面全体に観察された。但し、形成されたドット状構造体の直径は、PS−PMMAブロックコポリマー3を用いた場合にはおよそ33nmであり、PS−PMMAブロックコポリマー4を用いた場合にはおよそ54nmであった。
【0064】
[実施例5]
PS−PMMAブロックコポリマー1のトルエン溶液(25mg/ml)と、マルチウォールカーボンナノチューブ/イソプロパノール分散溶液(名城ナノカーボン社製、1mg/ml)とを体積比1:1で混合し、混合溶液を調製した。
また、実施例1と同様にして、シリコン基板を、硫酸/過酸化水素水混合液に浸漬させた後、水洗・風乾し、さらにフェネチルトリクロロシランのトルエン溶液に浸漬させた後、水洗・風乾した。
この基板に、前記混合溶液をスピンコート(回転数:1000rpm、30秒間)し、基板表面上にブロックコポリマーを含む層を形成した。次いで、当該基板を窒素気流下200℃、150分間加熱した。その後、当該基板に対して酸素プラズマ処理(10sccm、10W、8秒間)を行ってPMMAからなる相を選択的に除去した。
得られた基板の表面を走査型電子顕微鏡で観察した結果を図12及び13に示す。図12は加熱処理前の基板表面の電子顕微鏡像であり、図13は加熱処理及び酸素プラズマ処理後の基板表面の電子顕微鏡像である。図12に示すように、加熱処理前は実施例1等と同様にドット状の構造体が観察されたが、加熱処理後は、図13に示すようにドット構造は観察されず、基板表面全体にライン状の構造体によって形成される縞模様が観察された。
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブの存在下でブロックコポリマーの相分離構造の形成を行うことにより、基板表面に高分子ナノ構造体が形成された基板を製造する方法、及び当該製造方法を用いて製造された高分子ナノ構造体を表面に備える基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、微細な構造体を作製する技術は、多様な分野への応用が期待されている。なかでも、ナノメートルサイズの構造を有する構造体(ナノ材料)は、光学・電気・磁気特性において、それぞれ対応するバルク金属には見られない特異な特性を示すため、基礎研究及び応用研究の両研究面から大きな注目を集めている。例えば、シリンダー状等の中空の三次元構造を有するナノ材料は、包接化学、電気化学、材料、生医学、センサ、触媒、分離技術等を含む様々な分野で役立つことが期待されている。また、ライン状の微細パターンを作製する技術は、集積回路の作製と高集積化に直結するため、半導体分野等において極めて活発に研究開発が行われている。
【0003】
近年では、異なる2種類以上の互いに相溶性のないポリマーが共有結合によって結び付けられたブロックコポリマーにより形成される相分離構造を利用して、より微細なパターンを形成する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。ブロックコポリマーは、そのブロック比率やポリマー鎖長、外的雰囲気によって、各ブロック部分が自発的に集合した相分離構造を形成することが知られており、このナノ相分離構造の形成を制御することにより、所望の高分子ナノ構造体を基板表面に形成する新しい微細加工技術が検討されている。例えば、ブロックコポリマーを構成する各ポリマーの配合比率(ブロック比)を調整することにより、ナノ構造を形成する相分離の基本構造を変更することができることができる。また、ブロックコポリマーの構成単位となるモノマー分子として適切な組み合わせを選択することにより、相分離構造を制御し、より規則性の高いナノ構造体を作製することもできる。その他、有機溶媒蒸気雰囲気下において加熱アニーリングを行う蒸気法によっても、相分離構造を制御し得る。
【0004】
また、ブロックコポリマーとカーボンナノ材料とを複合・混合させて、ブロックコポリマーの相分離構造内にカーボンナノ材料を偏析させることにより、基板上にカーボンナノチューブによる構造体を形成させる方法も開示されている(例えば、非特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−36491号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Doe、他4名、Journal of the American Chemical Society, 2009年、第131巻、第45号、第16568〜16572ページ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ブロックコポリマーの相分離構造をブロック比により制御する方法では、所望の相分離構造を形成するために、その都度ブロックコポリマーを合成しなければならない。また、蒸気法では、蒸気雰囲気制御が必要であり、さらに蒸気雰囲気下での加熱を要するなど、工程が煩雑である。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、ブロックコポリマーの相分離構造の形成を迅速かつ簡便に制御することにより、高分子ナノ構造体を備える基板を製造し得る方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
すなわち、本発明の第一の態様は、複数種類のポリマーが結合したブロックコポリマーとカーボンナノチューブとを混合することを特徴とする、ブロックコポリマーの相分離構造の形成方法である。
また、本発明の第二の態様は、複数種類のポリマーが結合したブロックコポリマーの溶液にカーボンナノチューブを混合し、混合溶液を調製する工程と、調製された混合溶液を、基板表面に塗布することにより、ブロックコポリマーの相分離構造を有する層を形成する工程と、を有することを特徴とする、相分離構造を有する層を表面に備える基板の製造方法である。
また、本発明の第三の態様は、複数種類のポリマーが結合したブロックコポリマーの溶液にカーボンナノチューブを混合し、混合溶液を調製する工程と、調製された混合溶液を、基板表面に塗布することにより、ブロックコポリマーの相分離構造を有する層を形成する工程と、前記層のうち、前記ブロックコポリマーを構成する複数種類のポリマーのうちの少なくとも一種類のポリマーからなる相を選択的に除去する工程と、を有することを特徴とする、高分子ナノ構造体を表面に備える基板の製造方法である。
さらに、本発明の第四の態様は、前記第三の態様の高分子ナノ構造体を表面に備える基板の製造方法により製造される高分子ナノ構造体を表面に備える基板である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、単にブロックコポリマーとカーボンナノチューブとを混合することにより、相分離構造を形成する方法や、高分子ナノ構造体を備える基板をより簡便かつ迅速に製造し得る方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1における、マルチウォールカーボンナノチューブ/イソプロパノール分散溶液を混合した混合溶液を塗布した場合のシリコン基板の表面の走査型電子顕微鏡像である。
【図2】実施例1における、マルチウォールカーボンナノチューブが分散されていないイソプロパノール溶液を混合した混合溶液を塗布した場合のシリコン基板の表面の走査型電子顕微鏡像である。
【図3】実施例1における、イソプロパノールを混合した混合溶液を塗布した場合のシリコン基板の表面の走査型電子顕微鏡像である。
【図4】実施例2における、マルチウォールカーボンナノチューブ/イソプロパノール分散溶液の3倍希釈分散溶液を用いた場合のシリコン基板の表面の走査型電子顕微鏡像である。
【図5】実施例2における、マルチウォールカーボンナノチューブ/イソプロパノール分散溶液の4倍希釈分散溶液を用いた場合のシリコン基板の表面の走査型電子顕微鏡像である。
【図6】実施例2における、マルチウォールカーボンナノチューブ/イソプロパノール分散溶液の5倍希釈分散溶液を用いた場合のシリコン基板の表面の走査型電子顕微鏡像である。
【図7】実施例2における、マルチウォールカーボンナノチューブ/イソプロパノール分散溶液の6倍希釈分散溶液を用いた場合のシリコン基板の表面の走査型電子顕微鏡像である。
【図8】実施例3における、PS−PMMAブロックコポリマー1のトルエン溶液(25mg/ml)を用いた場合のシリコン基板の表面の走査型電子顕微鏡像である。
【図9】実施例3における、PS−PMMAブロックコポリマー1のトルエン溶液(40mg/ml)を用いた場合のシリコン基板の表面の走査型電子顕微鏡像である。
【図10】実施例4における、PS−PMMAブロックコポリマー2を用いた場合のシリコン基板の表面の走査型電子顕微鏡像である。
【図11】実施例4における、PS−PMMAブロックコポリマー3を用いた場合のシリコン基板の表面の走査型電子顕微鏡像である。
【図12】実施例5における、加熱処理前のシリコン基板の表面の走査型電子顕微鏡像である。
【図13】実施例5における、加熱処理後のシリコン基板の表面の走査型電子顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
≪ブロックコポリマーの相分離構造の形成方法≫
本発明のブロックコポリマーの相分離構造の形成方法(以下、「本発明の相分離形成方法」ということがある。)は、複数種類のポリマーが結合したブロックコポリマーとカーボンナノチューブとを混合することを特徴とする。ブロックコポリマーとカーボンナノチューブを接触させることにより、カーボンナノチューブと接触させず、熱アニーリング等の常法により相構造を形成させた場合とは異なる相構造を形成させることができる。
【0013】
具体的には、適当な溶媒に溶解させたブロックコポリマーの溶液に、カーボンナノチューブを固体又は適当な溶媒に分散させた分散液の状態で添加して混合する。
【0014】
用いるカーボンナノチューブの層数や構造は特に限定されるものではない。例えば、直鎖状であってもよく、折れ曲がり構造を有していてもよく、分岐構造を有していてもよい。また、シングルウォールカーボンナノチューブであってもよく、マルチウォールカーボンナノチューブであってもよい。本発明において用いられるカーボンナノチューブとしては、比較的直径の大きなシングルウォールカーボンナノチューブ又はマルチウォールカーボンナノチューブであることが好ましく、マルチウォールカーボンナノチューブであることがより好ましい。ブロックコポリマーの溶液に添加するカーボンナノチューブの量は、溶液中のブロックコポリマーと接触して相分離を起こさせるために十分な量であればよく、溶液中のブロックコポリマーの濃度等を考慮して適宜決定することができる。
【0015】
<ブロックコポリマー>
ブロックコポリマーは、複数種類のポリマーが結合した高分子である。ブロックコポリマーを構成するポリマーの種類は、2種類であってもよく、3種類以上であってもよい。本発明においては、ブロックコポリマーを構成する複数種類のポリマーは、相分離が起こる組み合わせであれば特に限定されるものではないが、ブロックコポリマーを構成する複数種類のポリマーのうちの少なくとも1種は、カーボンナノチューブと親和性の高いポリマーであることが好ましい。また、ブロックコポリマーを構成する複数種類のポリマーは、互いに非相溶であるポリマー同士の組み合わせであることが好ましい。
【0016】
このようなポリマーとしては、例えば、芳香環を有するモノマーから誘導される構成単位を有するポリマー等が挙げられる。
芳香環を有するモノマーとしては、フェニル基、ビフェニル(biphenyl)基、フルオレニル(fluorenyl)基、ナフチル基、アントリル(anthryl)基、フェナントリル基等の、芳香族炭化水素の環から水素原子を1つ除いた基、及びこれらの基の環を構成する炭素原子の一部が酸素原子、硫黄原子、窒素原子等のヘテロ原子で置換されたヘテロアリール基等を有するモノマーが挙げられる。
【0017】
ブロックコポリマーとしては、例えば、芳香環を有するモノマーから誘導される構成単位を有するポリマーと(メタ)アクリル酸エステルを構成単位とするポリマーとを結合させたブロックコポリマーや、芳香環を有するモノマーから誘導される構成単位を有するポリマーとシロキサン又はその誘導体を構成単位とするポリマーとを結合させたブロックコポリマー等が挙げられる。中でも、スチレン又はその誘導体を構成単位とするポリマーと(メタ)アクリル酸エステルを構成単位とするポリマーとを結合させたブロックコポリマー、スチレン又はその誘導体を構成単位とするポリマーとシロキサン又はその誘導体を構成単位とするポリマーとを結合させたブロックコポリマーであることが好ましい。なお、「(メタ)アクリル酸エステル」とは、α位に水素原子が結合したアクリル酸エステルと、α位にメチル基が結合したメタクリル酸エステルの一方あるいは両方を意味する。
【0018】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸の炭素原子に、アルキル基やヒドロキシアルキル基等の置換基が結合しているものが挙げられる。置換基として用いられるアルキル基としては、炭素原子数1〜10の直鎖状、分岐鎖状、又は環状のアルキル基が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルとしては、具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸アントラセン、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸3,4−エポキシシクロヘキシルメタン、(メタ)アクリル酸プロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0019】
シロキサンの誘導体としては、例えば、ジメチルシロキサン、ジエチルシロキサン、ジフェニルシロキサン、メチルフェニルシロキサン等が挙げられる。
アルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、イソプロピレンオキシド、ブチレンオキシド等が挙げられる。
【0020】
本発明においては、スチレン又はその誘導体を構成単位とするポリマーと(メタ)アクリル酸エステルを構成単位とするポリマーとを結合させたブロックコポリマーを用いることが好ましい。具体的には、スチレン−ポリメチルメタクリレート(PS−PMMA)ブロックコポリマー、スチレン−ポリエチルメタクリレートブロックコポリマー、スチレン−(ポリ−t−ブチルメタクリレート)ブロックコポリマー、スチレン−ポリメタクリル酸ブロックコポリマー、スチレン−ポリメチルアクリレートブロックコポリマー、スチレン−ポリエチルアクリレートブロックコポリマー、スチレン−(ポリ−t−ブチルアクリレート)ブロックコポリマー、スチレン−ポリアクリル酸ブロックコポリマー等が挙げられる。本発明においては、特に、PS−PMMAブロックコポリマーを用いることが好ましい。
【0021】
ブロックコポリマーを構成する各ポリマーの質量平均分子量(Mw)(ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算基準)は、相分離を起こすことが可能な大きさであれば特に限定されるものではないが、5000〜500000が好ましく、10000〜400000がより好ましく、20000〜300000がさらに好ましい。
またブロックコポリマーの分散度(Poly dispersity index:PDI)(Mw/Mn)は1.0〜3.0が好ましく、1.0〜1.5がより好ましく、1.0〜1.2がさらに好ましい。なお、Mnは数平均分子量を示す。
【0022】
ブロックコポリマーを構成する各ポリマーの成分比や質量平均分子量比を適宜調整することにより、得られる相分離構造の各相の形状を調整することができる。本発明においては、カーボンナノチューブと親和性の高いポリマーと、当該ポリマーと相分離を起こし得るポリマーとの2種類が結合されたものであって、両ポリマーの質量平均分子量比が1:0.9〜1:1.1であるブロックコポリマーを用いることが好ましい。ほぼ同様の平均分子量からなるポリマー同士を結合したブロックポリマーを、カーボンナノチューブに接触させることにより、カーボンナノチューブと親和性の高いポリマーからなる相が、他方のポリマーからなる相に含まれ、相分離構造が形成される。この際に形成される相の大きさは、ブロック個ポリマーの平均分子量に依存する。すなわち、ブロックポリマーを構成する各ポリマーの平均分子量が大きいほど、カーボンナノチューブと親和性の高いポリマーからなる球状の相の直径が大きくなる。例えば、分子量が1:0.9〜1:1.1であるPSとPMMAとを結合させたPS−PMMAブロックコポリマーを用いた場合には、PMMAの相中に球状のPSの相が存在する相分離構造が形成される。また、PS−PMMAブロックコポリマーを構成するPSとPMMAの平均分子量を大きくするほど、相分離構造中のPSからなる球状の相の直径が大きくなる。
【0023】
ブロックコポリマーを溶解させる溶媒としては、用いるブロックコポリマーを溶解し、均一な溶液とすることができるものであればよい。例えば、ブロックコポリマーを構成する各ポリマーのいずれとも相溶性の高い有機溶剤を用いることができる。有機溶剤は単独で用いてもよく、2種以上の混合溶剤として用いてもよい。ブロックコポリマーが水溶性の高いポリマーから構成されている場合には、ブロックコポリマーを溶解させる溶媒として水を用いることもできる。また、ブロックコポリマーの溶解性を高めるために、界面活性剤等の各種添加剤を溶媒に添加してもよい。
【0024】
ブロックコポリマーを溶解させる有機溶剤としては、例えば、γ−ブチロラクトン等のラクトン類;
アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチル−n−ペンチルケトン、メチルイソペンチルケトン、2−ヘプタノンなどのケトン類;
エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールなどの多価アルコール類;
エチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノアセテート、又はジプロピレングリコールモノアセテート等のエステル結合を有する化合物、前記多価アルコール類又は前記エステル結合を有する化合物のモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノプロピルエーテル、モノブチルエーテル等のモノアルキルエーテル又はモノフェニルエーテル等のエーテル結合を有する化合物等の多価アルコール類の誘導体[これらの中では、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)が好ましい];
ジオキサンのような環式エーテル類や、乳酸メチル、乳酸エチル(EL)、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチルなどのエステル類;
アニソール、エチルベンジルエーテル、クレジルメチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、フェネトール、ブチルフェニルエーテル、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、ペンチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、トルエン、キシレン、シメン、メシチレン等の芳香族系有機溶剤などを挙げることができる。
例えば、ブロックコポリマーとしてPS−PMMAブロックコポリマーを用いる場合には、トルエン等の芳香族系有機溶剤に溶解させることが好ましい。
【0025】
≪相分離構造を有する層を表面に備える基板の製造方法≫
複数種類のポリマーが結合したブロックコポリマーの溶液にカーボンナノチューブを混合することによって調製された混合溶液を、基板表面に塗布することにより、ブロックコポリマーの相分離構造を有する層を表面に備える基板を製造することができる。
【0026】
<基板>
基板は、ブロックコポリマーの相分離構造を有する層を表面に備える基板の一部を構成するものである。基板は、その表面上にブロックコポリマーを含む溶液を塗布し得るものであれば、その種類は特に限定されない。例えば、シリコン、銅、クロム、鉄、アルミニウム等の金属、ガラス、酸化チタン、シリカ、マイカなどの無機物からなる基板、アクリル板、ポリスチレン、セルロース、セルロースアセテート、フェノール樹脂などの有機化合物からなる基板などが挙げられる。
また、本発明において用いられる基板の大きさや形状は、特に限定されるものではない。基板は必ずしも平滑な表面を有する必要はなく、様々な材質や形状の基板を適宜選択することができる。例えば、曲面を有する基板、表面が凹凸形状の平板、薄片状などの様々な形状のものまで多様に用いることができる。
【0027】
<基板洗浄処理>
ブロックコポリマーを含む溶液を塗布してブロックコポリマーを含む層を形成する前に、基板表面を洗浄してもよい。基板表面を洗浄することにより、後の中性化反応処理が良好に行える場合がある。
洗浄処理としては、従来公知の方法を利用でき、例えば酸素プラズマ処理、オゾン酸化処理、酸アルカリ処理、化学修飾処理等が挙げられる。例えば、基板を硫酸/過酸化水素水溶液等の酸溶液に浸漬させた後、水洗し、乾燥させる。その後、当該基板の表面に、ブロックコポリマーを含む層を形成することができる。
【0028】
<中性化処理>
中性化処理とは、基板表面を、ブロックコポリマーを構成するいずれのポリマーとも親和性を有するように改変する処理をいう。中性化処理を行うことにより、相分離によって特定のポリマーからなる相のみが基板表面に接することを抑制することができる。このため、ブロックコポリマーを含む層を形成する前に、基板表面に、用いるブロックコポリマーの種類に応じた中性化処理を行っておくことが好ましい。
【0029】
具体的には、中性化処理としては、基板表面に、ブロックコポリマーを構成するいずれのポリマーとも親和性を有する下地剤を含む薄膜(中性化膜)を形成する処理等が挙げられる。
このような中性化膜としては、樹脂組成物からなる膜を用いることができる。下地剤として用いられる樹脂組成物は、ブロックコポリマーを構成するポリマーの種類に応じて、薄膜形成に用いられる従来公知の樹脂組成物の中から適宜選択することができる。下地剤として用いられる樹脂組成物は、熱重合性樹脂組成物であってもよく、ポジ型レジスト組成物やネガ型レジスト組成物等の感光性樹脂組成物であってもよい。
その他、中性化膜は非重合性膜であってもよい。例えば、フェネチルトリクロロシラン、オクタデシルトリクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン等のシロキサン系有機単分子膜も、中性化膜として好適に用いることができる。
これらの下地剤からなる中性化膜は、常法により形成することができる。
【0030】
このような下地剤としては、例えば、ブロックコポリマーを構成する各ポリマーの構成単位をいずれも含む樹脂組成物や、ブロックコポリマーを構成する各ポリマーと親和性の高い構成単位をいずれも含む樹脂等が挙げられる。
例えば、PS−PMMAブロックコポリマーを用いる場合には、下地剤として、PSとPMMAの両方を構成単位として含む物樹脂組成物や、芳香環等のPSと親和性が高い部位と、極性の高い官能基等のPMMAと親和性の高い部位の両方を含む化合物又は組成物を用いることが好ましい。
PSとPMMAの両方を構成単位として含む物樹脂組成物としては、例えば、PSとPMMAのランダムコポリマー、PSとPMMAの交互ポリマー(各モノマーが交互に共重合しているもの)等が挙げられる。
【0031】
また、PSと親和性が高い部位とPMMAと親和性の高い部位の両方を含む組成物としては、例えば、モノマーとして、少なくとも、芳香環を有するモノマーと極性の高い置換基を有するモノマーとを重合させて得られる樹脂組成物が挙げられる。芳香環を有するモノマーとしては、前記と同様のものが挙げられる。また、極性の高い置換基を有するモノマーとしては、トリメトキシシリル基、トリクロロシリル基、カルボキシ基、水酸基、シアノ基、アルキル基の水素原子の一部がフッ素原子で置換されたヒドロキシアルキル基等を有するモノマーが挙げられる。
その他、PSと親和性が高い部位とPMMAと親和性の高い部位の両方を含む化合物としては、フェネチルトリクロロシラン等のアリール基と極性の高い置換基の両方を含む化合物や、アルキルシラン化合物等のアルキル基と極性の高い置換基の両方を含む化合物等が挙げられる。
【0032】
<ガイドパターンの形成1>
基板表面は、ブロックコポリマーを含む層を形成する前に、予めパターンが形成されたガイドパターンを有していてもよい。これにより、ガイドパターンの形状・表面特性に応じた相分離構造の配列構造制御が可能となる。例えば、ガイドパターンがない場合にはランダムな指紋状の相分離構造が形成されるブロックコポリマーであっても、基板表面にレジスト膜の溝構造を導入することにより、その溝に沿って配向した相分離構造が得られる。このような原理でガイドパターンを導入してもよい。またガイドパターンの表面が、ブロックコポリマーを構成するいずれかのポリマーと親和性を備えることにより、基板表面に対して垂直方向に配向されたラメラ構造やシリンダー構造からなる相分離構造を形成しやすくすることもできる。
【0033】
基板表面にガイドパターンを備える基板としては、例えば、予め金属のパターンが形成された基板を用いることができる。また、リソグラフィー法やインプリント法により基板表面にパターンを形成したものを用いることもできる。これら中でも、リソグラフィー法を用いたものが好ましい。例えば、基板表面に、ブロックコポリマーを構成するいずれかのポリマーと親和性を有するレジスト組成物からなる膜を形成した後、所定のパターンが形成されたマスクを介して、光、電子線等の放射線にて選択的露光を行い、現像処理を施すことにより、ガイドパターンを形成することができる。なお、基板に中性化処理を行う場合には、中性化処理後に、中性化膜の表面にガイドパターンを形成することが好ましい。
【0034】
具体的には、例えば、基板表面上に、レジスト組成物をスピンナーなどで塗布し、80〜150℃の温度条件下、プレベーク(ポストアプライベーク(PAB))を40〜120秒間、好ましくは60〜90秒間施し、これに例えばArF露光装置などにより、ArFエキシマレーザー光を所望のマスクパターンを介して選択的に露光した後、80〜150℃の温度条件下、PEB(露光後加熱)を40〜120秒間、好ましくは60〜90秒間施す。次いでこれをアルカリ現像液、例えば0.1〜10質量%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)水溶液を用いて現像処理し、好ましくは純水を用いて水リンスを行い、乾燥を行う。また、場合によっては、上記現像処理後にベーク処理(ポストベーク)を行ってもよい。このようにして、マスクパターンに忠実なガイドパターンを形成することができる。
【0035】
ガイドパターンの基板表面(若しくは中性化膜表面)からの高さは、基板表面に形成されるブロックコポリマーを含む層の厚み以上であることが好ましい。ガイドパターンの基板表面(若しくは中性化膜表面)からの高さは、例えば、ガイドパターンを形成するレジスト組成物を塗布して形成されるレジスト膜の膜厚によって適宜調整することができる。
【0036】
ガイドパターンを形成するレジスト組成物は、一般的にレジストパターンの形成に用いられるレジスト組成物やその改変物の中から、ブロックコポリマーを構成するいずれかのポリマーと親和性を有するものを適宜選択して用いることができる。当該レジスト組成物としては、ポジ型レジスト組成物とネガ型レジスト組成物のいずれであってもよいが、ネガ型レジスト組成物であることが好ましい。
【0037】
また、ガイドパターンが形成された基板表面上にブロックコポリマーの溶液が流し込まれた後、相分離を起こすために、熱処理がなされる。このため、ガイドパターンを形成するレジスト組成物としては、耐溶剤性と耐熱性に優れたレジスト膜を形成し得るものであることが好ましい。
【0038】
<ガイドパターンの形成2>
基板表面は、前記のような物理的に凹凸のある構造からなるガイドパターンに代えて、より平面的なガイドパターンを形成してもよい。具体的には、ブロックコポリマーを構成するいずれかのポリマーと親和性を有する領域と、その他の領域とからなるガイドパターンを有していてもよい。
【0039】
平面的なガイドパターンは、例えば、以下のようにして形成することができる。まず、下地剤として、ブロックコポリマーを構成するいずれかのポリマーと親和性を有する感光性レジスト組成物又は電子線により重合あるいは主鎖断裂をおこす組成物を用い、当該下地剤を基板表面に塗布してレジスト膜を形成した後、所定のパターンが形成されたマスクを介して、光、電子線等の放射線にて選択的露光を行い、現像処理を施すことにより、基板表面に、ブロックコポリマーを構成するいずれかのポリマーと親和性を有する薄膜が所定のパターンに配置される。これにより、下地剤から形成された領域と下地剤が除去された領域とが所定のパターンに配された平面的なガイドパターンを形成することができる。
【0040】
このようなガイドパターンを形成する際に用いられる下地剤としては、薄膜形成に用いられる従来公知の感光性樹脂組成物の中から所望の性質を備えるものを適宜選択して用いることができる。
【0041】
<ブロックコポリマーとカーボンナノチューブの混合溶液の調製>
まず、ブロックコポリマーとカーボンナノチューブの混合溶液を調製する。具体的には、適当な溶媒に溶解させたブロックコポリマーの溶液に、カーボンナノチューブを固体又は適当な溶媒に分散させた分散液の状態で添加して混合することにより、混合溶液を調製する。当該工程で用いられるブロックコポリマー、カーボンナノチューブ、及び溶媒等は、本発明の相分離構造形成方法において挙げられたものと同様のものを用いることができる。
【0042】
<ブロックコポリマーの相分離構造を有する層の形成>
次いで、調製された混合溶液を、スピンナー等を用いて基板表面に塗布することにより、ブロックコポリマーの相分離構造を有する層を形成する。当該混合溶液中では、既に相分離が生じているため、当該混合溶液を基板上に塗布等することにより、従来の熱アニーリング等の処理を行わずとも、基板上に相分離構造を有する層を形成することができる。
【0043】
本発明の高分子ナノ構造体含有基板製造方法においては、基板表面に塗布する前に、ブロックコポリマーとカーボンナノチューブとを接触させることによってブロックコポリマーの相分離を起こしておけばよく、相分離後にはブロックコポリマーとカーボンナノチューブとを共存させておかなくてもよい。例えば、基板表面に塗布する前に、調製された混合溶液からカーボンナノチューブを除去した後、残りの溶液を基板表面に塗布してもよい。
【0044】
基板表面に形成されるブロックコポリマーを含む層の厚みは、形成しようとする高分子ナノ構造体の基板表面からの高さ寸法に応じて適宜設定すればよい。
本発明においては、ブロックコポリマーを含む層の厚さは特に限定されないが、高分子ナノ構造体の強度、高分子ナノ構造体が形成された基板の均一性等を考慮すると、5nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがさらに好ましい。
【0045】
≪高分子ナノ構造体を表面に備える基板の製造方法≫
ブロックコポリマーを構成する複数種類のポリマー中の少なくとも1種類のポリマーからなる相が、他の種類のポリマーからなる相よりも、容易に選択的に除去可能な組み合わせとすることにより、高分子ナノ構造体を表面に備える基板を製造することができる。
【0046】
一方のポリマーが他方のポリマーよりも容易に選択的に除去可能なブロックコポリマーとしては、例えば、ポリスチレンと(メタ)アクリル酸エステルを構成単位とするポリマーとを結合させたブロックコポリマー、ポリスチレンとシロキサン又はその誘導体を構成単位とするポリマーとを結合させたブロックコポリマー等が挙げられる。
【0047】
なお、以下において、ブロックコポリマーを構成するポリマーのうち、比較的選択的に除去され難いポリマーをPAポリマー、選択的に除去されやすいポリマーをPBポリマーという。例えば、PS−PMMAブロックコポリマーの相分離構造を有する層に対して酸素プラズマ処理や水素プラズマ処理等を行うことにより、PMMAからなる相が選択的に除去される。この場合、PSがPAポリマーであり、PMMAがPBポリマーである。
【0048】
本発明の高分子ナノ構造体を表面に備える基板の製造方法(以下、「本発明の高分子ナノ構造体含有基板製造方法」ということがある。)は、複数種類のポリマーが結合したブロックコポリマーの溶液にカーボンナノチューブを混合し、混合溶液を調製する工程と、調製された混合溶液を、基板表面に塗布することにより、ブロックコポリマーの相分離構造を有する層を形成する工程と、を有することを特徴とする。
【0049】
本発明の高分子ナノ構造体含有基板製造方法のうち、複数種類のポリマーが結合したブロックコポリマーの溶液にカーボンナノチューブを混合し、混合溶液を調製する工程と、調製された混合溶液を、基板表面に塗布することにより、ブロックコポリマーの相分離構造を有する層を形成する工程とは、前記の相分離構造を有する層を表面に備える基板の製造方法における各工程と同様に行うことができる。
【0050】
<相分離構造中のPBポリマーからなる相の選択除去>
さらに、基板表面上のブロックコポリマーの相分離構造を有する層の表面のうち、露出しているPBポリマーからなる相を選択的に除去する。これにより、PAポリマーからなる相のみが、基板の露出面に残る。すなわち、基板上には、表面がPAポリマーからなる相である高分子ナノ構造体が形成される。
【0051】
このような選択的除去処理は、PAポリマーに対しては影響せず、PBポリマーを分解除去し得る処理であれば、特に限定されるものではなく、樹脂膜の除去に用いられる手法の中から、PAポリマーとPBポリマーの種類に応じて、適宜選択して行うことができる。また、基板表面に予め中性化膜が形成されている場合には、当該中性化膜もPBポリマーからなる相と同様に除去される。このような除去処理としては、例えば、酸素プラズマ処理、オゾン処理、UV照射処理、熱分解処理、及び化学分解処理等が挙げられる。
【0052】
高分子ナノ構造体を形成させた基板は、そのまま使用することもできるが、さらに熱処理を行うことにより、基板上の高分子ナノ構造体の形状を変更することもできる。熱処理の温度は、用いるブロックコポリマーのガラス転移温度以上であり、かつ熱分解温度未満で行うことが好ましい。また、熱処理は、窒素等の反応性の低いガス中で行われることが好ましい。
【0053】
例えば、カーボンナノチューブと親和性の高いポリマーと当該ポリマーと相分離を起こし得るポリマーとの2種類が結合しており、両ポリマーの質量平均分子量比が1:0.9〜1:1.1であるブロックコポリマーを用いる場合、当該ブロックコポリマーとカーボンナノチューブとの混合溶液を基板上に塗布することにより、カーボンナノチューブと親和性の高いポリマーからなる球状の相が、他方のポリマーからなる相に規則的に含まれている相分離構造を有する層が形成される。カーボンナノチューブと親和性の高いポリマーがPAポリマーであり、他方のポリマーがPBポリマーであった場合には、PBポリマーからなる相の選択的除去により、表面上に、カーボンナノチューブと親和性の高いポリマーからなるドット状の高分子ナノ構造体が規則的配置された基板を得ることができる。ドット状の高分子ナノ構造体の直径は、用いるブロックコポリマーの分子量に依存するため、基板上には、大きさがほぼ揃ったドット状の構造体が配置されている。この際、当該混合溶液中のブロックコポリマーの濃度が低い場合には、基板表面上にドット状のナノ構造体が一層に配置された基板が得られるが、当該混合溶液中のブロックコポリマーの濃度が高くなるにつれ、ドット構造が2層以上に積層された多層ドット構造となる。
【0054】
また、カーボンナノチューブと親和性の高いポリマーからなる球状の相が、他方のポリマーからなる相に規則的に含まれている相分離構造を有する層を形成した後の基板に対して、一方のポリマーの選択的除去を行う前に熱処理を行った場合には、
ドット状のナノ構造体ではなく、ライン状の高分子ナノ構造体が配置された基板を得ることができる。
【0055】
≪高分子ナノ構造体含有基板≫
本発明の高分子ナノ構造体を表面に備える基板(本発明の高分子ナノ構造体含有基板)は、本発明の高分子ナノ構造体含有基板製造方法を用いて製造された基板である。
【0056】
基板が有する高分子ナノ構造体、すなわち、基板上に形成された高分子ナノ構造体の形状は、特に限定されるものではなく、例えばドット状、ライン状、シリンダー状、及びその他の3次元構造、ならびにそれらのネットワーク構造や複合構造、繰り返し構造等を採用することができる。
基板が有する高分子ナノ構造体は、1個であってもよく、複数個であってもよい。複数個の場合には、各高分子ナノ構造体の配置は、特に限定されるものではなく、全ての高分子ナノ構造体が並列に配置されていてもよく、放射状に配置されていてもよく、格子状に配置されていてもよく、縞状等のランダムに配置されていてもよい。
【0057】
例えば、ドット状やシリンダー状の高分子ナノ構造体が基板表面上に規則的に林立している高分子ナノ構造体含有基板は、偏光素子や発光デバイス、バイオセンサ等の光学素子として応用し得る。
さらに、高分子ナノ構造体は非常に微細な構造体であるため、基板としてポリビニルアルコールやPMMA等の透明性の高い樹脂フィルムを用いた場合にも、樹脂フィルムの透明性を損なうおそれが小さく、また、樹脂フィルムに過度の剛性を付与せず、加工性や取り扱い性にも優れている。
【実施例】
【0058】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0059】
[実施例1]
PS−PMMAブロックコポリマー1(PSの質量平均分子量:53000、PMMAの質量平均分子量:54000、分散度:1.16)のトルエン溶液(18mg/ml)と、マルチウォールカーボンナノチューブ/イソプロパノール分散溶液(名城ナノカーボン社製、1mg/ml)とを体積比1:1で混合し、混合溶液を調製した。
比較対象として、マルチウォールカーボンナノチューブ/イソプロパノール分散溶液に代えて、マルチウォールカーボンナノチューブが分散していないイソプロパノール溶液(名城ナノカーボン社製)又はイソプロパノールを用いて、PS−PMMAブロックコポリマー1のトルエン溶液と同じ比率で混合した混合溶液をそれぞれ調製した。
また、3枚のシリコン基板を、それぞれ硫酸/過酸化水素水混合液(体積比7:3)に1時間浸漬させた後、当該基板を水洗し、窒素ガスによって風乾した。次いで、各基板を、フェネチルトリクロロシランのトルエン溶液(0.05体積%)に10分間浸漬させた後、トルエンで洗浄し、窒素ガスによって風乾した。
これらの基板に、前記混合溶液をそれぞれスピンコート(回転数:1000rpm、30秒間)し、基板表面上にブロックコポリマーを含む層を形成した。その後、各基板に対して酸素プラズマ処理(10sccm、10W、8秒間)を行ってPMMAからなる相を選択的に除去した。
【0060】
得られた基板の表面を走査型電子顕微鏡で観察した結果を図1〜3に示す。図1は、マルチウォールカーボンナノチューブ/イソプロパノール分散溶液を混合した混合溶液を塗布した基板表面の電子顕微鏡像である。また、図2はマルチウォールカーボンナノチューブが分散していないイソプロパノール溶液を混合した場合の、図3はイソプロパノールを混合した場合の、各基板表面の電子顕微鏡像である。図1に示すように、基板表面全体に、直径およそ37nmのドット状構造体が密に配列した形態が観察された。これに対して、図2及び3に示すように、基板表面への塗布前にPS−PMMAブロックコポリマー1とマルチウォールカーボンナノチューブを接触させなかった場合には、明瞭なドット構造は観察されなかった。
【0061】
[実施例2]
マルチウォールカーボンナノチューブ/イソプロパノール分散溶液(名城ナノカーボン社製、1mg/ml)に代えて、当該分散溶液をイソプロパノールで3〜6倍にそれぞれ希釈した希釈分散溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、シリコン基板表面上にPS−PMMAブロックコポリマー1とマルチウォールカーボンナノチューブの混合溶液を塗布した後、酸素プラズマ処理によってPMMAからなる相を選択的に除去した。
得られた基板の表面を走査型電子顕微鏡で観察した結果を図4〜7に示す。図4は3倍希釈分散溶液を用いた場合の、図5は4倍希釈分散溶液を用いた場合の、図6は5倍希釈分散溶液を用いた場合の、図7は6倍希釈分散溶液を用いた場合の、各基板表面の電子顕微鏡像である。図4に示すように、3倍希釈分散溶液を用いた場合には、実施例1と同様にPSをコアとしたドット状の構造体が表面全体に観察されたが、4〜6倍希釈分散溶液を用いた場合には、図5〜7に示すように、明瞭なドット構造は観察されなかった。
【0062】
[実施例3]
PS−PMMAブロックコポリマー1のトルエン溶液に代えて、PS−PMMAブロックコポリマー2(PSの質量平均分子量:54000、PMMAの質量平均分子量:53000、分散度:1.16)のトルエン溶液(25mg/ml又は40mg/ml)を用いた以外は、実施例1と同様にして、シリコン基板表面上にPS−PMMAブロックコポリマー2とマルチウォールカーボンナノチューブの混合溶液を塗布した後、酸素プラズマ処理によってPMMAからなる相を選択的に除去した。
得られた基板の表面を走査型電子顕微鏡で観察した結果を図8(25mg/mlの場合)及び9(40mg/mlの場合)に示す。この結果、どちらの基板にもPSをコアとしたドット状の構造体が観察された。但し、いずれの基板にも、ドット状構造体が一層に形成されていた実施例1とは異なり、ドットが二層以上に積み重なった多層ドット構造が形成されていた。
【0063】
[実施例4]
PS−PMMAブロックコポリマー1のトルエン溶液に代えて、PS−PMMAブロックコポリマー3(PSの質量平均分子量:37000、PMMAの質量平均分子量:37000、分散度:1.08)のトルエン溶液(18mg/ml)、又はPS−PMMAブロックコポリマー4(PSの質量平均分子量:270000、PMMAの質量平均分子量:289000、分散度:1.18)のトルエン溶液(18mg/ml)を用いた以外は、実施例1と同様にして、シリコン基板表面上にPS−PMMAブロックコポリマーとマルチウォールカーボンナノチューブの混合溶液を塗布した後、酸素プラズマ処理によってPMMAからなる相を選択的に除去した。
得られた基板の表面を走査型電子顕微鏡で観察した結果を図10(A)及び(B)(PS−PMMAブロックコポリマー3の場合)及び11(PS−PMMAブロックコポリマー4の場合)に示す。この結果、どちらの基板にもPSをコアとしたドット状の構造体が表面全体に観察された。但し、形成されたドット状構造体の直径は、PS−PMMAブロックコポリマー3を用いた場合にはおよそ33nmであり、PS−PMMAブロックコポリマー4を用いた場合にはおよそ54nmであった。
【0064】
[実施例5]
PS−PMMAブロックコポリマー1のトルエン溶液(25mg/ml)と、マルチウォールカーボンナノチューブ/イソプロパノール分散溶液(名城ナノカーボン社製、1mg/ml)とを体積比1:1で混合し、混合溶液を調製した。
また、実施例1と同様にして、シリコン基板を、硫酸/過酸化水素水混合液に浸漬させた後、水洗・風乾し、さらにフェネチルトリクロロシランのトルエン溶液に浸漬させた後、水洗・風乾した。
この基板に、前記混合溶液をスピンコート(回転数:1000rpm、30秒間)し、基板表面上にブロックコポリマーを含む層を形成した。次いで、当該基板を窒素気流下200℃、150分間加熱した。その後、当該基板に対して酸素プラズマ処理(10sccm、10W、8秒間)を行ってPMMAからなる相を選択的に除去した。
得られた基板の表面を走査型電子顕微鏡で観察した結果を図12及び13に示す。図12は加熱処理前の基板表面の電子顕微鏡像であり、図13は加熱処理及び酸素プラズマ処理後の基板表面の電子顕微鏡像である。図12に示すように、加熱処理前は実施例1等と同様にドット状の構造体が観察されたが、加熱処理後は、図13に示すようにドット構造は観察されず、基板表面全体にライン状の構造体によって形成される縞模様が観察された。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種類のポリマーが結合したブロックコポリマーとカーボンナノチューブとを混合することを特徴とする、ブロックコポリマーの相分離構造の形成方法。
【請求項2】
複数種類のポリマーが結合したブロックコポリマーの溶液にカーボンナノチューブを混合し、混合溶液を調製する工程と、
調製された混合溶液を、基板表面に塗布することにより、ブロックコポリマーの相分離構造を有する層を形成する工程と、
を有することを特徴とする、相分離構造を有する層を表面に備える基板の製造方法。
【請求項3】
複数種類のポリマーが結合したブロックコポリマーの有機溶剤溶液にカーボンナノチューブを混合し、混合溶液を調製する工程と、
調製された混合溶液を、基板表面に塗布することにより、ブロックコポリマーの相分離構造を有する層を形成する工程と、
前記層のうち、前記ブロックコポリマーを構成する複数種類のポリマーのうちの少なくとも一種類のポリマーからなる相を選択的に除去する工程と、
を有することを特徴とする、高分子ナノ構造体を表面に備える基板の製造方法。
【請求項4】
前記層を加熱処理した後に、前記層中の少なくとも一種類のポリマーからなる相を選択的に除去する請求項3に記載の高分子ナノ構造体を表面に備える基板の製造方法。
【請求項5】
前記ブロックコポリマーが、分子量が1:0.9〜1:1.1であるポリスチレンとポリメチルメタクリレートとからなる請求項3又は4に記載の高分子ナノ構造体を表面に備える基板の製造方法。
【請求項6】
前記混合溶液からカーボンナノチューブを除去した残りの溶液を、基板表面に塗布する請求項3〜5のいずれか一項に記載の高分子ナノ構造体を表面に備える基板の製造方法。
【請求項7】
請求項3〜6のいずれか一項に記載の高分子ナノ構造体を表面に備える基板の製造方法により製造された高分子ナノ構造体を表面に備える基板。
【請求項1】
複数種類のポリマーが結合したブロックコポリマーとカーボンナノチューブとを混合することを特徴とする、ブロックコポリマーの相分離構造の形成方法。
【請求項2】
複数種類のポリマーが結合したブロックコポリマーの溶液にカーボンナノチューブを混合し、混合溶液を調製する工程と、
調製された混合溶液を、基板表面に塗布することにより、ブロックコポリマーの相分離構造を有する層を形成する工程と、
を有することを特徴とする、相分離構造を有する層を表面に備える基板の製造方法。
【請求項3】
複数種類のポリマーが結合したブロックコポリマーの有機溶剤溶液にカーボンナノチューブを混合し、混合溶液を調製する工程と、
調製された混合溶液を、基板表面に塗布することにより、ブロックコポリマーの相分離構造を有する層を形成する工程と、
前記層のうち、前記ブロックコポリマーを構成する複数種類のポリマーのうちの少なくとも一種類のポリマーからなる相を選択的に除去する工程と、
を有することを特徴とする、高分子ナノ構造体を表面に備える基板の製造方法。
【請求項4】
前記層を加熱処理した後に、前記層中の少なくとも一種類のポリマーからなる相を選択的に除去する請求項3に記載の高分子ナノ構造体を表面に備える基板の製造方法。
【請求項5】
前記ブロックコポリマーが、分子量が1:0.9〜1:1.1であるポリスチレンとポリメチルメタクリレートとからなる請求項3又は4に記載の高分子ナノ構造体を表面に備える基板の製造方法。
【請求項6】
前記混合溶液からカーボンナノチューブを除去した残りの溶液を、基板表面に塗布する請求項3〜5のいずれか一項に記載の高分子ナノ構造体を表面に備える基板の製造方法。
【請求項7】
請求項3〜6のいずれか一項に記載の高分子ナノ構造体を表面に備える基板の製造方法により製造された高分子ナノ構造体を表面に備える基板。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
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【図4】
【図5】
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【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−116967(P2012−116967A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268532(P2010−268532)
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【出願人】(000220239)東京応化工業株式会社 (1,407)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【出願人】(000220239)東京応化工業株式会社 (1,407)
【Fターム(参考)】
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