説明

高分子ナノ配向結晶体材料の二次成型方法

【課題】本発明は、高分子ナノ配向結晶体材料(NOC材料)の二次成型方法を提供する。
【解決手段】本発明にかかるNOC材料の二次成型方法は、高分子ナノ配向結晶体材料を加熱してモバイル相または高密度絡み合いネットワーク構造を有する融液にする加熱工程;前記加熱工程によってモバイル相または高密度絡み合いネットワーク構造を有する融液になった高分子ナノ配向結晶体材料を成型する成型工程;および前記成型工程後の高分子ナノ配向結晶体材料をオーダー相に相転移するまで冷却する冷却工程;を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子ナノ配向結晶体材料の二次成型方法(成型加工、融着、接合等)に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレン(以下「PE」という)やポリプロピレン(以下「PP」という)やポリスチレン(以下「PS」という)やポリ塩化ビニル(以下「PVC」という)等をはじめとする、いわゆる「汎用プラスチック」は、非常に安価であるだけではなく、成型が容易で、金属およびセラミックスに比べて重さが数分の一と軽量であるゆえに、袋や各種包装、各種容器、シート類等の多様な生活用品材料や自動車、電気などの工業部品や日用品、雑貨用等の材料として、よく利用されている。
【0003】
しかしながら、当該汎用プラスチックは、機械的強度が不十分で耐熱性が低い等の欠点を有している。そのため、自動車等の機械製品や、電気・電子・情報製品をはじめとする各種工業製品に用いられる材料に対して要求される十分な特性を上記汎用プラスチックは有しておらず、その適用範囲が制限されているというのが現状である。例えばPEの場合、軟化温度が通常90℃程度である。また比較的耐熱性が高いとされるPPであっても、通常130℃程度で軟化してしまう。またPPは、ポリカーボネート(以下「PC」という)、ポリエチレンテレフタレート(以下「PET」という)やPSなどに比して透明性が不十分であるので、光学用材料やボトルや透明容器としては使用できないという欠点を有している。
【0004】
一方、PET、PC、フッ素樹脂(テフロン(登録商標)等)やナイロン、ポリメチルペンテン、ポリオキシメチレン、アクリル樹脂等のいわゆる「エンジニアリングプラスチック」は、機械的強度と耐熱性や透明性等に優れており、通常150℃では軟化しない。よって、エンジニアリングプラスチックは、自動車や機械製品および電気製品をはじめとする高性能が要求される各種工業製品用材料や光学用材料として利用されている。しかしエンジニアリングプラスチックは、高価であること、およびモノマーリサイクルが困難または不可能なために環境負荷が大変大きいこと等の重大な欠点をエンジニアリングプラスチックは有している。
【0005】
したがって、汎用プラスチックの機械的強度、耐熱性、および透明性等の材料特性を大幅に改善することによって、当該汎用プラスチックがエンジニアリングプラスチックの代替、さらには金属材料の代替として利用可能となれば、高分子製や金属製の各種工業製品や生活用品のコストを大幅に削減し、軽量化により大幅に省エネルギーし操作性を向上させることが可能になる。例えば、PETは現在、清涼飲料水をはじめとする飲料等のボトルとして利用されているが、かかるPETをPPに置き換えることが可能になれば、大幅にボトルのコストを削減することが可能となる。また、PETはモノマーリサイクルが可能ではあるが容易ではないために、使用済みのPETボトルは裁断された後に、衣料用繊維等やフィルム等の低品質な用途に1、2度再利用された後に廃棄されている。一方、PPはモノマーリサイクルが容易なため、完全なリサクルが実現可能となり、石油などの化石燃料の消費および二酸化炭素(CO2)の発生を抑えることができるというメリットもある。
【0006】
上記のように、汎用プラスチックの機械的強度、耐熱性、および透明性等の特性を向上させてエンジニアリングプラスチックや金属の代替として汎用プラスチックを利用するためには、PPやPEにおける結晶の割合(結晶化度)を著しく高める、より好ましくはPPやPEの非晶質を殆ど含まない結晶だけからなる結晶体を作製することが求められる。特に、PPはPEに比べて機械的強度が高く、また耐熱性も高いという利点を有しているために、非常に期待され、数%という高い年産増加率を維持している重要な高分子である。
【0007】
ここで高分子の結晶性を向上させる方法としては、高分子の融液の冷却速度を低下させる方法が知られている。しかし当該方法では、結晶化度の増加が全く不十分なばかりでなく、製品の生産性が著しく低下したり、結晶粒径が粗大化して機械的強度が低下したりするという欠点がある。またその他の方法としては、高分子の融液を高圧下で冷却して結晶化度を増大させるという方法が提案されている。しかし、当該方法は、高分子の融液を数百気圧以上に加圧する必要があり、理論的には可能であるが、工業規模生産では製造装置の設計が困難な上に、生産コストが高くなってしまう。よって、上記方法の実現は、現実的には困難である。また、高分子の結晶性を向上させるその他の方法としては、核剤を高分子融液に添加する方法が知られている。しかし現行の当該方法では、(a) 核剤が不純物であるので不純物の混入を避けることができない、(b)結晶化度の増加が十分でなく、(c)核剤が樹脂よりも著しく高価なのでコストアップしてしまう等の欠点がある。したがって、汎用プラスチック等の高分子において結晶化度を飛躍的に向上させる方法、および高分子の結晶体を生産する方法は、現在のところ完成されていない。
【0008】
ところで、これまでの多くの研究により、融液中の分子鎖が無秩序な形態(例えば、糸鞠状(ランダムコイル))で存在する高分子の融液(「等方融液」という)を、せん断流動場において結晶化させることによって、流れに沿って配向した直径数μmの細い繊維状の特徴的な結晶形態(shish)と、それに串刺しにされた十nm厚の薄板状結晶と非晶とがサンドイッチ状に積層した形態(kebab)とが、融液中にまばらに生成することが明らかにされている(非特許文献1参照)。上記の状態は、「shish-kebab(シシ−ケバブ = 焼き鳥の”串”と“肉”との意)」と称される。
【0009】
shish-kebab生成初期にはshishのみがまばらに生成する。shishの構造は分子鎖が伸び切って結晶化した「伸びきり鎖結晶(Extended chain crystal:ECC)」であり(非特許文献5参照)、kebabの結晶部分の構造は、分子鎖が薄板状結晶の表面で折りたたんでいる「折りたたみ鎖結晶(Folded chain crystal:FCC)」であると考えられている。shish-kebabの分子論的生成メカニズムは、速度論的研究に基づく研究例が無く、明らかではなかった。折りたたみ鎖結晶は、高分子結晶で最も広く見られる薄板状結晶(ラメラ結晶という)である。また、金型へ射出成型した場合に、表面に”skin”と呼ばれる数百μm厚の薄い結晶性皮膜と、その内部にcoreと呼ばれる折りたたみ鎖結晶と非晶との「積層構造(積層ラメラ構造という)」の集合体とが形成されることは良く知られている(非特許文献6参照)。skinはshish-kebabからなっていると考えられているが、shishはまばらにしか存在していないことが確認されている。skin構造の生成メカニズムは、速度論的研究に基づく研究例が無く解明されていない。
【0010】
本発明者らは、shishの生成メカニズムを初めて速度論的に研究し、融液中の一部の分子鎖が、異物界面において、界面との「トポロジー的相互作用」のために伸長して互いに液晶的に配向秩序を持った融液(「配向融液」または「Oriented melt」という)になるために、shishが融液の一部に生成する、というメカニズムを明らかにした(例えば非特許文献2および3参照)。ここで、「トポロジー的相互作用」とは「ひも状の高分子鎖が絡まり合っているためにお互いに引っ張り合う」効果のことであり、高分子固有の相互作用として公知のことである。本発明者らは、高分子のトポロジー的結晶化メカニズム理論を初めて提唱し、伸びきり鎖結晶と折りたたみ鎖結晶の起源を解明した。この理論は「滑り拡散理論」と呼ばれ、世界的に認められている(非特許文献7参照)。
【0011】
また本発明者らは、低せん断ひずみ速度=0.01〜0.1s-1のせん断流動結晶化において発見した、「渦巻き結晶(spiralite)」の生成メカニズム解明から、せん断結晶化において、固液界面で高分子融液のせん断ひずみ速度が著しく増大するために、伸長ひずみ速度も増大し、分子鎖が伸張されて配向融液が局所的に発生し、核生成および成長速度が著しく加速される、という普遍的メカニズムを提唱した(非特許文献4参照)。
【0012】
本発明者らは、高分子融液にある「臨界」の伸長ひずみ速度(臨界伸長ひずみ速度という)を超える大きな伸長ひずみ速度を与えて高分子融液全体を配向融液にすることができれば、高分子の結晶化が起こり易くなり、結晶化度を高めることができると考えた。そして高分子融液全体を配向融液の状態のままで結晶化することができれば、高分子の大部分の分子鎖が配向した構造を有する結晶体を生産し得ると考えた。またこの場合にはさらに核生成が著しく促進され、核剤を添加せずとも分子鎖間で核生成が無数に起こるため、不純物の混入を回避することができるとともに、結晶サイズをナノメートルオーダーにすることが可能となり、高い透明性を有し、飛躍的に機械的強度と耐熱性が増大した高分子結晶体を得ることができるということを考えた。
【0013】
本発明者らは上記独自の発想をもとに鋭意努力した結果、高分子の融液(「高分子融液」という)を臨界伸長ひずみ速度以上の伸長ひずみ速度で伸長することによって高分子配向融液とし、当該高分子配向融液の状態で冷却して結晶化させることによって、結晶サイズがナノメートルオーダーであり、高分子鎖が高度の配向した高分子ナノ配向結晶体(Nano oriented crystal:NOC)を主成分として含む高分子ナノ配向結晶体材料(NOC材料)を製造することに成功した(例えば、特許文献1および2参照)。なお、特許文献1および2においてはNOC材料のことを「高分子配向結晶体」、または「高分子結晶体」と称する。当該NOC材料は、機械的強度,耐熱性,透明性等の特性が極めて優れている材料であり、従前の工業用材料に置き換わり得る新規な材料として期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際公開第2007/026832号パンフレット(国際公開日:2007年3月8日)
【特許文献2】国際公開第2008/108251号パンフレット(国際公開日:2008年9月12日)
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】A.Keller, M.J.Machin, J.Macromol.Sci., Phys., B1(1), 41-91 (1967)
【非特許文献2】S. Yamazaki, M.Hikosaka et al, Polymer, 46, 2005, 1675-1684.
【非特許文献3】S. Yamazaki, M.Hikosaka et al, Polymer, 46, 2005, 1685-1692.
【非特許文献4】K.Watanabe et al, Macromolecules 39(4), 2006, 1515-1524.
【非特許文献5】B. Wunderlich, T. Arakawa, J. Polym. Sci., 2, 3697-3706(1964)
【非特許文献6】藤山 光美、「ポリプロピレン射出成形物のスキン層の構造」、高分子論文集,32(7), PP411-417(1975)
【非特許文献7】M. Hikosaka, Polymer, 1987, 28, 1257-1264
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明者らが独自に見出した特許文献1および2に記載された発明によれば、高分子配向融液をフィルム状にし、配向状態を保ったまま結晶化を行うことNOCを含むフィルム(つまりフィルム状のNOC材料)を製造したり、高分子配向融液を所定の型に入れ、配向状態を保ったまま結晶化を行うNOCを含む成型品(つまりNOC材料からなる成型品)を製造したりすることは可能となった。換言すれば、特許文献1および2に記載された発明によって、NOC材料からなる一次成形品を製造することが可能となった。
【0017】
NOC材料を工業用材料として広範に且つ利便性をもって利用するためには、NOC材料にプレス成型等を施して別の形状を持った成型品に加工する技術や、NOC材料同士を融着させて接合したりする技術、いわゆる二次成型技術が求められる。またペレット状や粉末状のNOC材料を融着することができれば、ペレット状や粉末状のNOC材料を原料として別の成型加工品を製造することも可能となる。さらにNOC材料断片同士の融着が可能となれば、使用済のNOC材料からなる製品(NOC製品)を裁断し、別のNOC製品の製造に再利用することが可能となる。
【0018】
しかし、NOC材料は耐熱温度が非NOC材料(NOCではない高分子結晶体や高分子の非晶体を含む材料)に比して高くなっているとともに、機械的強度が飛躍的に高くなっているために、非NOC材料に比して二次成型を行うことが困難である。またNOC材料を高温に溶融すると高分子配向融液でなくなってしまうために、NOC材料の二次成型品を得ようとすれば、NOC材料を溶融して得られた高分子融液を臨界伸長ひずみ速度以上の伸長ひずみ速度で再度伸長して高分子配向融液を調製し、配向融液状態を保ったまま結晶化を行わなければならないと考えられていた。それゆえ、NOC材料の二次成型には手間やコストがかかってしまうという問題点があった。
【0019】
そこで本発明は、NOC材料の工業用材料としての利便性をさらに向上させるべく、NOC材料の二次成型技術を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らがNOC材料の温度に対する挙動について検討を行っていたところ、NOC材料を室温から徐々に温度上昇していくと、ある温度において、NOC材料に含まれるNOCはオーダー相(「高秩序度相」ともいう。特にPPのNOCの場合「α相」という。)からモバイル相(「高温結晶相」ともいう。特にPPのNOCの場合「α2’相」という。)へ相転移し、さらに温度を上昇させると最終的に高分子の分子鎖が等方的(isotoropic)になった等方融液(「熱平衡融液(Equilibrium melt)」ともいう。以下「熱平衡融液」という)へと転移することが分かった。さらに上記モバイル相から熱平衡融液へ転移する際に、絡み合いネットワーク構造中の結晶部分(NOC)が融解しているが、絡み合いネットワーク構造は維持されている状態である、「高密度絡み合いネットワーク構造を有する融液(Dense Entanglement Network- melt): DEN融液」という状態を経るということを新たに発見した。そして上記モバイル相またはDEN融液になったNOC材料は、可塑性を有しプレス成型などの二次成型が可能であることを本発明者らは発見した。さらに驚くべきことに、上記モバイル相またはDEN融液から室温程度まで冷却することでオーダー相のNOC材料に再び戻ることが判明した(但し、DEN融液の場合、体積変化が無いように融液を拘束した状態(拘束条件)または高温引張条件下の拘束した状態(拘束条件)で冷却すればNOC材料に戻るが、融液を拘束しないフリーな状態(無拘束条件)で冷却すれば分子鎖の配向状態が緩和した高分子ナノ結晶体(NC:Nano crystal)を含む材料(NC材料)に戻る場合がある。)。すなわち、NOC材料をオーダー相またDEN融液にした状態でプレス成型などの二次成型を行えば、最終的にNOC材料(またはNC材料)の二次成型品が得られるということが分かった。
【0021】
なお、PPのモバイル相(α2’相)の存在については発明者らが明らかにし、既に報告をした(F. Gu et al, Polymer 43, 2002, 1473-1481、およびP.Maitil et.al., Macro molecules, vol.33, No.24, 2000, 9069-9075)。しかし、上記論文はα2’相の存在を示す文献であり、NOC材料をモバイル相(α2’相)にすることによって二次成型を行い得ることは当該論文に開示も示唆もされていない。特に、一旦モバイル相(α2’相)になったNOC材料二次成型した後、これを室温に冷却するだけで再びオーダー相(α相)のNOC材料に戻るなどということは、上記論文には全く記載されていないし、予想することはできない。
【0022】
さらに本発明者らは今回新たにDEN融液の存在を発見した。これは全くの新規知見である。当然ながら、一旦DEN融液になったNOC材料を室温に冷却するだけで再びオーダー相(α相)のNOC材料(NC材料)に戻るなどということは、誰も予想できない。
【0023】
本発明は本発明者らが見出した新規知見により完成された。すなわち本発明にかかるNOC材料の二次成型方法は、NOC材料を加熱してモバイル相またはDEN融液にする加熱工程;
前記加熱工程によってモバイル相またはDEN融液になったNOC材料を成型する成型工程;および、
前記成型工程後のNOC材料をオーダー相に相転移するまで冷却する冷却工程;を含むことを特徴としている。
【0024】
また本発明にかかるNOC材料の二次成型方法において、上記NOC材料は、結晶サイズdが300nm以下であり、結晶内高分子鎖の配向度を示す配向関数fが0.7以上であるNOCからなる物であってもよい。
【0025】
また本発明にかかるNOC材料の二次成型方法において、上記NOC材料は、棒状高次構造を含み、当該棒状高次構造は、NOC粒子が数珠状に連結してなる数珠状体が束となった構造であり得る。
【0026】
また本発明にかかるNOC材料の二次成型方法において、上記高NOC材料は、ポリオレフィンからなるものであってもよい。また上記NOC材料は、ポリプロピレンからなるものであってもよい。
【0027】
また本発明にかかるNOC材料の二次成型方法において、上記成型工程は、複数のNOC材料同士を融着する工程であってもよい。
【0028】
また本発明にかかるNOC材料の二次成型方法において、上記成型工程は、複数のシート状のNOC材料同士を積層し融着する工程であってもよい。
【0029】
また本発明にかかるNOC材料の二次成型方法において、上記成型工程は、NOC材料をプレス成型、延伸成型、圧延成型、絞り加工成型、圧接成型、融着成型、真空成型のいずれかであってもよい。
【0030】
また本発明は、上記本発明にかかるNOC材料の二次成型方法によって得られ、複数のNOC材料同士が融着してなるNOC材料の二次成型品をも包含する。
【0031】
また上記二次成型品は、複数のシート状のNOC材料同士が積層されてなる積層体であってもよい。
【発明の効果】
【0032】
上記のように本発明によれば、NOC材料の二次成型を簡便に行うことが可能となる。それゆえNOC材料の工業用材料としての用途が大幅に拡大するものといえる。NOC材料は、機械的強度(破断強度、剛性および靭性等)、耐熱性、透明性等の特性に優れ、特に金属と同等の機械的強度を備えているため、高分子材料の代替のみならず金属の代替として利用が大いに期待される。NOC材料を金属の代替として利用することができれば、あらゆる製品の軽量化を、機械的強度を落とさずして図ることができる。例えば乗り物用内装や外装材として使用すれば乗り物の重量を数分の一に軽量化でき燃費を大幅に改善できるので、大幅な省エネルギーに貢献できる。
【0033】
さらに本発明によればNOC材料の再利用が可能となるために、石油資源の節約にもつながり環境への負荷も軽減される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】NOC材料に含まれる棒状高次構造の模式図である。
【図2】NOC材料のある温度における相および状態を示す模式図である。
【図3】実施例においてNOC材料の製造に使用した装置の概略図である。
【図4】実施例において用いたNOC材料(厚さ0.25mm)の偏光顕微鏡像である。
【図5】実施例において用いたNOC材料を小角X線散乱法で観察して得た2次元散乱パターンであり、(a)はMDとTDとに垂直な方向(through)からX線を露光した結果を示し、(b)はTDに平行な方向(edge)からX線を露光した結果を示し、(c)はMDに平行な方向(end)からX線を露光した結果を示す。
【図6】実施例で用いたNOC材料についてMDとTDとに垂直な方向(through)からX線を露光して得られた2次元散乱パターンをもとに作成された散乱ベクトル(q)−小角X線散乱強度(I)曲線である。
【図7】実施例で用いたNOC材料を広角X線散乱法で観察して得た2次元散乱パターンであり、(a)はMDとTDとに垂直な方向(through)からX線を露光した結果を示し、(b)はTDに平行な方向(edge)からX線を露光した結果を示し、(c)はMDに平行な方向(end)からX線を露光した結果を示す。
【図8】室温→135℃→室温の操作が行われたサンプルのWAXS法による2次元散乱パターンを示し、(a)は加熱前のサンプル、(b)は加熱後のサンプル、および(c)は拘束条件下で放冷したサンプルの結果をそれぞれ示す。
【図9】室温→135℃→室温の操作が行われたサンプルのSAXS法による2次元散乱パターンをそれぞれ示し、(a)は加熱前のサンプル、(b)は加熱後のサンプル、および(c)は拘束条件下で放冷したサンプルの結果をそれぞれ示す。
【図10】本実施例で使用したNOC材料の各温度に対するひずみ量50%における応力σ(ε=50%)をプロットした図である。
【図11】室温→165℃→室温の操作が行われたサンプルのWAXS法による2次元散乱パターンを示し、(a)は加熱前のサンプル、および(c)は拘束条件下で放冷したサンプルの結果をそれぞれ示す。
【図12】室温→165℃→室温の操作が行われたサンプル(一例)のSAXS法による2次元散乱パターンをそれぞれ示し、(a)は加熱前のサンプル、(b)は加熱後のサンプル、および(c)は拘束条件下で放冷したサンプルの結果をそれぞれ示す。
【図13】サンプルを165℃に加熱した後、二次成型を行って得られた二次成型品の写真である。
【図14】加熱前のサンプル、および165℃に加熱した後、拘束条件下で放冷した後のサンプルの引張強度を測定した結果を示し、(a)は加熱前のサンプル、(b)は放冷後のサンプルの結果をそれぞれに示す。
【図15】室温→175℃→室温の操作が行われたサンプルのWAXS法による2次元散乱パターンを示し、(a)は加熱前のサンプル、(b)は加熱後のサンプル、および(c)は拘束条件下で放冷したサンプルの結果をそれぞれ示す。
【図16】室温→175℃→室温の操作が行われたサンプルのSAXS法による2次元散乱パターンをそれぞれ示し、(a)は加熱前のサンプル、(b)は加熱後のサンプル、および(c)は拘束条件下で放冷したサンプルの結果をそれぞれ示す。
【図17】NOC材料を加熱していった際の動的弾性率を測定した結果を示す図である。
【図18】180℃に加熱されたNOC材料について引張試験を行った結果を示す図である。
【図19】2枚のシート状のNOC材料の端面を金型内でつき合わせ、185℃で加熱して融着させた後、室温へ放冷させて得られたNOC材料の偏光顕微鏡写真(図19(a))、融着部分のSAXS像(図19(b))、およびWAXS像(図19(c))である。
【図20】室温→210℃→室温の操作が行われたサンプルのSAXS法による2次元散乱パターンを示し、(a)は加熱前のサンプル、(b)は加熱後のサンプル、および(c)はフリーな条件下(無拘束条件下)で放冷したサンプルの結果をそれぞれ示す。
【図21】サンプルを180℃に加熱した後、二次成型を行って得られた二次成型品の写真である。
【図22】NOC材料を188℃に加熱し、伸長ひずみ速度419(sec-1)で伸長成形した後、10K/分の降温速度で冷却した時のエンタルピー変化(ΔH)、およびNOC材料を230℃に加熱し、伸長ひずみ速度419(sec-1)で伸長成形した後、10K/分の降温速度で冷却した時のエンタルピー変化(ΔH)を示すチャート図である。実線はNOC材料を188℃に加熱した場合の結果を示し、破線はNOC材料を230℃に加熱した場合の結果を示す。
【図23】種々の伸長ひずみ速度で成形した試料の再結晶化温度(Tc)と静置場の場合のTcとの差(δTc)と、伸長ひずみ速度との関係を示す。ひし形のシンボルは、180〜190℃にNOC材料を加熱した場合の結果を示し、四角のシンボルは190〜200℃にNOC材料を加熱した場合の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の一実施形態について説明すると以下の通りである。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変形を加えた態様で実施できるものである。
【0036】
本発明にかかるNOC材料の二次成型方法(以下「本発明の二次成型方法」という)は、(1)NOC材料を加熱してモバイル相またはDEN融液にする加熱工程;
(2)前記加熱工程によってモバイル相またはDEN融液になったNOC材料を成型する成型工程;および、
(3)前記成型工程後のNOC材料をオーダー相に相転移するまで冷却する冷却工程;を含むことを特徴としている。ここで「NOC材料の二次成型」とは、一旦NOC材料となったNOC成形品に対して、プレス成型などの成型が施されることを意味する。二次成型は、NOC材料を作製する一次成形後に行われる成型加工を意味する。なお、当該技術分野において、一次成形の場合は漢字表記として「成形」を用い、二次成型の場合は「成型」を用いる。
【0037】
またその他、高分子材料の成型に関する技術分野で行われ得る工程(例えばプレス成型、延伸成型、圧延成型、絞り加工成型、圧接成型、融着成型、真空成型等の工程)が、本発明の二次成型方法に含まれていてもよい。
【0038】
以下の説明においては、(1)加熱工程、(2)成型工程、および(3)冷却工程について説明するが本発明はこれに限定されるものではない。
【0039】
<1.加熱工程>
本発明の二次成型方法における加熱工程は、高分子ナノ配向結晶体材料(NOC材料)を加熱してモバイル相またはDEN融液にする工程である。
【0040】
(1−1)NOC材料
ここで「NOC材料」とはNOC(高分子ナノ配向結晶体)を主成分として含む材料のことを意味する。上記「主成分として含む」とはNOCを70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上含むこと意味する。なお、「NOC」はNOC材料を構成する高分子結晶体を意味し、「NOC材料」とは区別される。
【0041】
上記NOC材料は、例えば、特許文献1および2に記載された高分子結晶体が挙げられる。NOC材料は、高分子融液を臨界伸長ひずみ速度以上の伸長ひずみ速度で伸長することによって高分子配向融液とし、当該高分子配向融液の状態で結晶化させることによって製造される。またNOC材料は、機械的強度,耐熱性,透明性等の特性が極めて優れているため、種々の工業用材料として注目されている。特に金属材料の代替としての利用が期待されている。
【0042】
NOC材料を構成する高分子は特に限定されるものではなく、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(以下「PP」という)、ポリスチレン(PS)等のいわゆる汎用プラスチックであっても、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ナイロン、テフロン(登録商標)などのフッ素樹脂、等のいわゆるエンジニアリングプラスチックであってもよい。安価な汎用プラスチックの機械的性質、耐熱性、透明性等の特性を改善することによってエンジニアリングプラスチックの代替として利用することが可能となれば、樹脂製の工業部品等のコストを大幅に削減することができるために、汎用プラスチックをNOC材料とすることが有用であるといえる。特に汎用プラスチックのうちPPが好ましい。PPは他の汎用性プラスチックに比して、相対的に耐熱性が高く、機械的強度が高いという好ましい特性を有しているからである。またPPのうち、アイソタクティックポリプロピレン(以下、適宜「iPP」という)が特に好ましい。アイソタクティックポリプロピレンは、メチル基が同一方向に配列した構造を有しているために結晶性がよく、NOC材料がより得られやすいからである。またiPPでは得られたNOC材料を構成するNOCの結晶サイズが通常のPPに比して微細となり易く、より透明性が高いNOC材料を作製することができる。
【0043】
なお本願明細書ではPPやiPPをNOC材料の代表例として説明するが、NOCの生成原理からNOCおよびNOC材料はPPやiPPのみにおいて作製されるものでない。全ての高分子融液内の分子鎖は、通常糸鞠状で存在している。ここで高分子融液を伸長ひずみ速度以上で伸長することによって高分子の分子鎖が伸長され配向した配向融液となる。かかる配向融液では高分子の分子鎖同士が会合しやすく、均一核生成が起こりやすくなる。これによってNOCが生成される。このことから、NOCおよびNOC材料は、あらゆる高分子から作製され得るといえる。
【0044】
NOC材料は、単一の高分子からなるものであっても、複数種の高分子の混合物からなるものであってもよい。例えば、PP、PE、ポリブテンー1等を適宜組み合わせることも可能である。複数種の高分子を組み合わせることによって、一種類の高分子の物性上の欠点を他の高分子が補うことができる。高分子の混合比率は、目的に応じて適宜設定すればよい。
【0045】
またNOC材料は、その結晶化度が70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上である。「NOC材料の結晶化度」とは、NOC材料に含まれる結晶の割合のことを意味する。NOC材料の結晶化度は、公知の方法によって測定することができる。例えば、質量Mと体積Vを用いた密度法により,結晶化度を決定し得る(L.E.Alexander著,「高分子のX線回折(上)」,化学同人,1973,p.171を参照のこと)。NOC材料の結晶化度χは、次式で求められる。
【0046】
【数1】

【0047】
上式中ρはサンプルの密度を示し、ρaは非晶密度を示し、ρは結晶密度を示す。またρaおよびρは、文献値が利用可能である(Qirk R.P. and Alsamarriaie M.A.A.、Awiley-interscience publication, New York, Polymer Handbook, 1989を参照のこと)。例えばPolymer Handbookによれば、iPPの結晶密度および非晶密度は、それぞれρa=0.855(g/cm3)およびρ=0.936(g/cm3)である。ただし、サンプルの密度ρは、次式で得られる。
(式) ρ=M÷V(g/cm
ここで、Mはサンプルの質量(g)、Vは体積(cm)である。
【0048】
またNOC材料に含まれる結晶のサイズdが300nm以下、好ましくは100nm以下、さらに好ましくは50nm以下、さらに好ましくは30nm以下、さらに好ましくは20nm以下である。上記結晶のサイズdは、例えば公知の小角X線散乱法(SAXS法)、広角X線散乱法(WAXS法)によって測定され得る。
【0049】
X線散乱法は、例えば小角X線散乱法(SAXS法)、広角X線散乱法(WAXS法)により行い得る。X線散乱法を行い得る実験施設は、たとえば(財)高輝度光科学研究センター(JASRI)SPring-8、ビームライン BL40B2 や、高エネルギー加速器研究機構(KEK)のPhoton Factory(PF)、ビームライン BL10C等が挙げられる。また検出に使用されるX線の波長(λ)は、例えばλ=0.072nmまたはλ=0.15nmが挙げられる。検出器としては、イメージングプレート(Imaging Plate)や位置敏感検出器(PSPC)などが利用可能である。
【0050】
またSAXS法における、散乱ベクトル(q)−小角X線散乱強度(I)曲線の1次のピークは、平均サイズdの微結晶がランダムにお互いに詰まっている場合の微結晶間最近接距離(=結晶サイズd)に相当するため(参考文献:A.Guinier著、「X線結晶学の理論と実際」、理学電機(株)、p513、1967)、結晶サイズdはBraggの式から求められる。
Braggの式: d=2π÷q
Hall-Petch’s law (参考文献: ナノマテリアル光学大系,第2巻,ナノ金属, フジ・テクノシステム,2005年,20頁)によれば、結晶の強度は結晶サイズdの平方根の逆数に比例して増大することが知られているため、例えば、結晶サイズdが1μmから10nmになった場合、√100=10倍の強度となる。
【0051】
またNOC材料に含まれる結晶内高分子鎖の配向度を示す配向関数fが0.7以上、好ましくは0.8以上、さらに好ましくは0.9以上である。上記構造の配向関数fは、例えば公知の広角X線散乱法(WAXS法)によって測定され得る。WAXS法による配向関数fの測定は、例えば検出器としてイメージングプレート(Imaging Plate)を利用した場合、X線散乱強度解析ソフトウェア(株式会社リガク製、R−axis display)を用いることによって測定され得る。配向関数fの算出方法については、後述する実施例の説明が参照される。結晶性高分子の場合には、配向関数fが大きいほどMD方向の機械的強度が増大するので、配向関数は高性能材料を得る上で重要である。
【0052】
またNOC材料は、NOC粒子(ナノ配向結晶体粒子)が数珠状に連結してなる数珠状体が束となった棒状高次構造を含む。棒状高次構造をより具体的に説明すべく、棒状高次構造の模式図を図1に示す。図1(a)は、NOC材料の一例として、直径約70nmの棒状高次構造が並んでなるものが示されている。図1(a)における破線は切り口を示す。棒状高次構造は、高さに関して不揃いである。また棒状高次構造の中は、NOC粒子が不揃いの数珠のように連なっており、一連の数珠が約十数個束になっている。図1(b)は棒状高次構造の中を拡大したものである。図1(b)によれば、NOC粒子と高分子鎖が、伸長方向に配向していることがうかがえる。また一本の高分子鎖は往復しながら、複数個のNOC粒子間を貫いている。
【0053】
なおNOC材料に含まれる棒状高次構造の直径φが300nm以下、好ましくは200nm以下、さらに好ましくは100nm以下である。上記棒状高次構造の直径φは、例えば公知の小角X線散乱法(SAXS法)によって測定され得る。SAXS法における、散乱ベクトル(q)−小角X線散漫散乱強度(I)曲線は、各棒状高次構造において、自分自身の散乱による形状因子を与えるので(参考文献: A.Guinier著、「X線結晶学の理論と実際」、理学電機(株)、p555−556、1967)、ギニエプロットで近似曲線を適用することにより、慣性半径Rから直径φが求められる。
ギニエプロットの式: I=Aexp(−Rg2q2/3)、ここで−Rg2q2/3<1
(式)
【0054】
【数2】

【0055】
ただし、ギニエプロットの式におけるAは定数である。
【0056】
なお例えばiPPからなるNOC材料は、JIS K7127の引張試験法に準拠した方法で測定した引張破壊強さが100MPa以上、好ましくは0.21GPa以上で、かつ引張弾性率が3GPa以上、好ましくは4GPa以上である。測定に用いた引張試験機は島津製精密万能試験機(オートグラフAG-1kNIS)であり、標線間距離7〜10mm、狭い平行部の幅1.5〜3.0mm、厚さ0.2〜0.4mmのサイズの試験片を用いる。引張試験の詳細については、後述する実施例の説明が参照される。
【0057】
また引張弾性率(Young's modulus、縦弾性係数)は、弾性範囲で応力に対するひずみの値を決める定数である。
[ひずみ ε ]= [応力 σ ] / [引張弾性率 E ] (フックの法則)
引張弾性率はJIS K7161に記載されている方法に準拠して求める。すなわち、一方向の引っ張りまたは圧縮応力の方向に対するひずみ量の関係から求めることができ、縦軸に応力、横軸にひずみをとった応力ひずみ曲線のフックの法則に従った直線部の傾きに相当する。引張弾性率の算出方法の詳細については、後述する実施例の説明が参照される。なお、引張破壊強さ、引張弾性率の測定は室温25℃で測定された。
【0058】
また例えばiPPからなるNOC材料は、発明者らが考案したヘーズ測定法で測定した厚さ0.3mmの試験片のヘーズ値(厚さ0.3mm)が10%以下(好ましくは5%以下、さらに好ましくは1%以下)である。なお、本明細書において「ヘーズ値(厚さ0.3mm)」は、「厚さ0.3mmの試験片を用いて光学濃度を測定し、下記に示す「光学濃度−ヘーズ校正曲線」を用いて換算したヘーズ」を意味する。ヘーズ測定法は、試験片を透過した透過光の光量を測定することにより実施される。ヘーズ測定法には、例えばハロゲンランプを白色光光源とした光学顕微鏡(オリンパス(株)製BX51N−33P−OC)と、CCDカメラ(QImaging社製 冷却デジタルカメラ QICAM)と、光学濃度を定量できる画像解析ソフトウェア(Media Cybernetics社製、Image−Pro PLUS)とを備える装置が適用可能である。そして、測定光である白色光は直径1mmの円形で試験片に入射させればよい。上記光学濃度は、「光学濃度−ヘーズ校正曲線」を用いることにより、ヘーズに換算され得る。「光学濃度−ヘーズ校正曲線」は、JIS K7105に従って測定された20ヶのポリプロピレンシートのヘーズと、ヘーズ測定法により測定された同ポリプロピレンシートの光学濃度を用いて、ヘーズを光学濃度に対してプロットすることにより作成できる。
【0059】
また例えばiPPからなるNOC材料は、光学顕微鏡を用いた試験片サイズ直読法により測定した耐熱温度は、160℃以上、好ましくは170℃以上、さらに好ましくは175℃以上である。上記試験片サイズ直読法は本発明者らが独自に考案した方法であり、耐熱温度の測定は以下に記載の方法に従って測定し得る。測定に用いた装置はCCDカメラ付光学顕微鏡(オリンパス株式会社製BX51N−33P−OC)とホットステージ(Linkam社製、L-600A)と、画面上のサイズを定量できる画像解析ソフトウェア(Media Cybernetics社製、Image−Pro PLUS)であり、試験片のサイズはたて0.7mm、よこ0.7mm、厚さ0.2〜0.4mmの試験片を用いた。試験片を昇温速度1K/分で加熱し、その時、試験片がたて方向(MD)またはよこ方向(TD)に3%以上収縮、または膨張を開始したときの温度を耐熱温度とした。
【0060】
(1−2)NOC材料の相および状態
既述の通り、本発明者らがNOC材料の温度に対する挙動について検討を行った結果、NOC材料を室温から徐々に温度上昇していくとある温度において、NOC材料に含まれる結晶がオーダー相(α相)からモバイル相(α2’相)へ相転移し、さらに温度を上昇させるとDEN融液へ変化し、さらに温度を上昇させると最終的に高分子鎖が等方的(isotoropic)になった熱平衡融液へと変化することが分かった。
【0061】
図2に、NOC材料の相および状態の変化を模式図的に示す。
【0062】
NOCは室温(T)からオーダー相−モバイル相転移温度(To-m)未満の温度範囲において、オーダー相(PPの場合はα相という)となっている。オーダー相(α相)は高秩序度相であり、α相は機械的強度や耐熱性などの特性がα相よりも優れている構造である。なお、α相は構造が乱れた低秩序度相である(参考文献:M.Hikosaka, Polymer Journal 1973 5 111-127を参照のこと)。オーダー相(α相)のNOCの形態は、図2に示されるように伸長方向(MD方向)に配向したNOC粒子同士が高分子の分子鎖によって強固に絡み合った構造(高密度絡み合いネットワーク構造;Dense Entanglement Network Structure:DEN構造)となっている。
【0063】
NOC材料を加熱していくとオーダー相−モバイル相転移温度(To-m)において、オーダー相(α相)からモバイル相(α2’相)へ相転移する。例えば、iPPのNOC材料を加熱した場合、約157℃でモバイル相(α2’相)に相転移する(参考文献:F. Gu et al, Polymer 43, 2002, 1473-1481)。モバイル相(α2’相)は高温安定な結晶相であり、形態としては前述のNOC材料とほぼ同様の形態である。ただし、モバイル相(α2’相)は、オーダー相(α相)と異なり可塑性を有しており、プレス成型等の二次成型が可能となる。
【0064】
NOC材料をさらに加熱していくと融点(Tm)において、モバイル相(α2’相)からDEN融液へ変化する。例えば、iPPのNOC材料の場合、約170℃でDEN融液に変化する。図2に示されるようDEN融液は、高密度絡み合いネットワーク(DEN)構造中の結晶部分(NOC)が融解しているが、高密度絡み合いネットワーク構造は維持されている状態である。DEN融液の状態は配向融液(Oriented melt)の状態であるといえる。また液晶のような形態であるといえるため、ナノ配向液晶(Nano oriented Liquid crystal:NOLC)ともいえる。DEN融液は配向融液状態であるため、当然可塑性を有しており、プレス成型などの二次成型が可能となる。なお、かかるDEN融液の状態が存在するということは、発明者らによって今回初めて明らかとなった新規知見である。
【0065】
このDEN融液を加熱していくと等方融液転移温度(Tiso)において、DEN融液から熱平衡融液へと変化する。例えば、iPPのNOC材料の場合、約215℃で熱平衡融液(等方融液(Isotropic melt))へと変化する。この状態ではDEN構造が完全に壊れて、高分子の分子鎖は無配向な状態の融液となっている。
【0066】
試料が、オーダー相(α相)、モバイル相(α2’相)、DEN融液、または熱平衡融液のいずれの状態であるかどうかは、例えば公知の広角X線散乱法(WAXS法)や小角X線散乱法(以下、「SAXS法」という)によって判断することができる。判断方法の詳細については、後述する実施例の説明を参照されたい。また各温度(To-m、Tm、Tiso)は、加熱して昇温させた試料について、WAXS法またはSAXS法を実施し、試料の相および状態を確認することによって決定することができる。なお、各温度は、NOC材料を構成する高分子の種類、分子量、結晶化率、配向度、等に応じて決まるため、NOC材料ごとに決定され得る。後述する実施例において使用されたiPPからなるNOC材料の場合、To-mは約157℃、Tmは約170℃、Tisoは約215℃である。
【0067】
本発明者らの検討した結果、NOC材料を加熱してモバイル相(α2’相)またはDEN融液に変化させた状態でプレス成型などの二次成型を行った後、冷却するなどしてTo-m未満の温度に戻せば、再びNOC材料またはNC材料に戻るということが分かった。換言すればNOC材料をTo-m以上、Tiso未満の温度範囲になるように加熱し、当該温度範囲内の試料を二次成型し、その後To-m未満の温度に戻せば、オーダー相(α相)のNOC材料またはNC材料の二次成型品が得られるといえる。なお、DEN融液の場合、体積変化が無いように融液を拘束した状態または引張条件下(好ましくは1MPa以上の引張条件)の拘束した状態で冷却すればNOC材料に戻るが、融液を拘束しないフリーな状態で冷却すれば分子鎖の配向状態が緩和した高分子ナノ結晶体(Nano crystal:NC)を含む材料(NC材料)に戻る場合がある。ただし、NC材料であっても通常の折りたたみ鎖結晶(FCC)に比して、機械的強度,耐熱性,透明性等の特性が極めて優れている材料であり、NOCと同様の用途が期待できる。
【0068】
なお、DEN融液は融液状態であるため、より二次成型を行いやすい。よって、二次成型のしやすさの観点からは、モバイル相よりもDEN融液の状態で二次成型を行うことがより好ましいといえる。特に複数のNOC材料同士を融着させる場合には、融着をより強固に行うことができるという理由から、NOC材料をDEN融液にした後に融着を行うことがより好ましい。換言すればNOC材料をTm以上、Tiso未満の温度範囲になるように加熱して二次成型を行うことがより好ましいといえる。
【0069】
一方、NOC材料は熱平衡融液になった後は、高分子の分子鎖は無配向な状態となっているため、この状態で二次成型を行った後に、Tm未満の温度に戻して結晶化させたとしても、もはやNOCは生成せずに、折りたたみ鎖結晶(Folded chain crystal:FCC)になってしまう。
【0070】
またTo-m未満の温度領域で加熱した状態で二次成型を行う、つまりオーダー相のままのNOC材料に対して二次成型を行おうとしても、可塑性を有しないために二次成型を行うことができない。また必要以上の力をかけて二次成型を行えば、NOC材料の構造の物理的破壊が生じる。
【0071】
本発明の二次成型方法における相転移工程において採用されるNOC材料の加熱手段としては、NOC材料が所望の(To-m以上Tiso未満、より好ましくはTm以上Tiso未満)の温度範囲に加熱することができる手段であれば特に限定されるものではなく、NOC材料の形状、大きさ、二次成型の方法等に応じて、公知の加熱手段が適宜採用され得る。簡単には、NOC材料を加熱炉(電気炉、ガス炉、等)に入れて所望の温度まで加熱する、またはプレートヒーター上で所望の温度まで加熱すればよい。また連続的に相転移工程を実施するのであれば、ベルトコンベアなどの搬送手段上にNOC材料を載置し、ベルトコンベアによって加熱炉内に搬送され、加熱炉内をNOC材料が搬送されつつ所望の温度まで加熱されるという態様であってもよい。
【0072】
<2.成型工程>
成型工程は、上記加熱工程によってモバイル相(α2’相)またはDEN融液になったNOC材料を成型する工程である。成型工程における成型方法としては特に限定されるものではないが、例えば、プレス成型、延伸成型、圧延成型、絞り加工成型、圧接成型、融着成型、真空成型等を施して任意の形状に成型することが挙げられる。より具体的には、モバイル相(α2’相)またはDEN融液になったシート状のNOC材料を、適当な形状を持った型でプレスすれば所望の形状のNOC材料(またはNC材料)からなる二次成型品が得られる。なお本発明の二次成型方法によって最終的に得られた、NOC材料を二次成型して得られた二次成型品を「NOC二次成型品」という。
【0073】
また当該成型工程においては、複数のNOC材料同士を積層し、融着および接合してもよい。より具体的には、シート状またはフィルム状のNOC材料を積層し、融着接合すれば、従来作製することができなかった厚手のNOC二次成型品を最終的に作製することができる。ここで積層するシート状またはフィルム状のNOC材料は、同一のNOC材料であってもよいし、異種のNOC材料(例えばPPのNOCとPEのNOCとの組み合わせなど)であってもよい。さらにNOC材料と非NOC材料との組み合わせであってもよい。異種のNOC材料を組み合わせる、またはNOC材料と非NOC材料とを組み合わることによって、ぞれぞれのNOC材料特有の物性が組み合わされた新規のシート状NOC二次成型品を最終的に作製することができる。
【0074】
したがって、本発明は、本発明の二次成型方法によって得られた複数のNOC材料同士が融着してなるNOC二次成型品をも包含するといえる。当該NOC二次成型品では、複数のNOC材料同士が融着しているために、一次成形品と同等の機械的強度,耐熱性,透明性等の特性を示す。
【0075】
また当該成型工程においては、粉末状や、粒子状のNOC材料を融着させた原料を型に流して成型したり、押し出し成型を行ったりしてもよい。粉末状や粒子状のNOC材料は、袋などの梱包資材に高密度で充填することができ、工業用原料として流通させやすいというメリットがある。そしてこのNOC材料を原料として、高性能なNOC二次成型品を製造することができる。また上記粉末状や、粒子状のNOC材料としては、使用済のNOC材料からなる製品(「NOC製品」)を裁断したものが利用可能である。この場合、NOC材料の再利用を行うことが可能となり、貴重な資源(石油資源等)を節約することが可能となる。
【0076】
なお本成型工程における成型は、1回の成型に限られず、同種の成型を複数回行われてもよいし、異種の成型方法を適宜組み合わせて行われてもよい。これにより、より複雑な形状を有するNOC二次成型品を作製することが可能となる。
【0077】
なお本成型工程は、モバイル相(α2’相)またはDEN融液に一旦なったNOC材料を、特に成型を行うことなく放置するだけの態様も含まれる場合がある。
【0078】
<3.冷却工程>
冷却工程は、上記成型工程後のNOC材料をオーダー相(α相)に相転移するまで冷却する工程である。換言すれば、成型工程後のNOC材料をTo-m未満の温度にする工程である。冷却の方法は特に限定されるものではなく、従来公知の冷却手段を用いて強制的に温度をTo-m未満にしてもよいし、成型工程後のNOC材料を室温等に放置しTo-m未満になるまで放冷してもよい。つまり本冷却工程においては、冷却速度は特に限定されないということである。なお、冷却工程は、気相中で実施されても、液相中で実施されてもよい。
【0079】
冷却工程によって、成型工程を経たモバイル相(α2’相)またはDEN融液となったNOC材料が、再びオーダー相(α相)に相転移し、NOC二次成型品が得られることになる。NOC材料が、α相に再び戻ってNOC二次成型品になったかどうかの確認は、既述のWAXS法、SAXS法によって確認することができる。詳細については後述する実施例を参照されたい。
【0080】
<4.連続式二次成型方法>
本発明の二次成型方法は、バッチ式で行われてもよいが、工業的には連続式で行なわれることが好ましい。本発明の二次成型方法を連続式で実施する場合の一態様としては、以下の態様が挙げられる。
(1)ベルトコンベア上にNOC材料を載置する。
(2)ベルトコンベアによってNOC材料を、加熱工程を実施し得る加熱炉へ搬送する。この時、ベルトコンベアは加熱炉内を通過するように設計されている。ベルトコンベア上のNOC材料は加熱炉内を移動している間に所定の温度(To-m以上Tiso未満、より好ましくはTm以上Tiso未満)の温度範囲に達し、NOC材料がモバイル相(α2’相)またはDEN融液に変化する。
(3)NOC材料のモバイル相(α2’相)またはDEN融液の状態を維持しつつ、加熱炉内に設置された成型手段(プレス成型機等)、または加熱炉外のすぐ下流に設置された成型手段(プレス成成型等)によって、二次成型(成型工程)が実施される。二次成型(成型工程)を実施される間、ベルトコンベアは動作していてもよいし、一旦停止してもよい。
(4)二次成型(成型工程)を経たNOC材料はベルトコンベアによって、加熱炉外へ搬送される(二次成型を加熱炉外で行った場合はそのまま搬送される)。搬送中にベルトコンベア上のNOC材料は、そのまま放冷または適当な冷却手段によって冷却され、To-m未満となる(冷却工程)。冷却工程によって、モバイル相(α2’相)またはDEN融液のNOC材料がオーダー相(α相)へ再び相転移し、NOC二次成型品となる。
(5)冷却工程を経たNOC二次成型品は、そのままベルトコンベアで搬送され、回収手段によって回収される。
【0081】
<5.本発明の二次成型方法の利用>
上記本発明の二次成型方法は、例えば、以下の分野に利用され得る。PPのNOC二次成型品は、自動車用内装材の大部分(90%以上)として利用が可能である。またPPのNOC二次成型品は、高強度および高靱性を活かして金属の代替として自動車、航空機、ロケット、電車、船舶、バイク、および自転車など乗り物の構造部材、内装・外装材、または各種機械器具の部品や構造部材として利用が可能である。またPPのNOC二次成型品は、高剛性かつ軽量を活かしてスピーカーやマイク用振動板として利用が可能である。またPPのNOC二次成型品は、高透明性を活かしてPCの代替としてCDやDVDとして利用が可能である。またPPのNOC二次成型品は、高透明性を活かして液晶やプラズマディスプレイ用マスクなどとして利用が可能である。またPPのNOC二次成型品は、高透明性を活かしてディスポーザブル注射器、点滴用器具、薬品容器などの医療用品の材料として利用が可能である。またPPのNOC二次成型品は、高透明性を活かしてガラスの代替として各種瓶、グラス、家庭用小型水槽から業務用大型水槽として利用が可能である。またPPのNOC二次成型品は、高透明性を活かしてコンタクトレンズ,めがね用レンズ,各種光学レンズの材料として利用が可能である。またPPのNOC二次成型品は、高透明性を活かしてビル用や住宅用ガラスとして利用が可能である。またPPのNOC二次成型品は、高剛性や高靱性や軽量を活かしてスキー靴、スキー板、ボード、ラケット、各種ネット、テント、リュックサックなどの広範なスポーツ用品の材料として利用が可能である。またPPのNOC二次成型品は、高剛性や高靱性や軽量を活かして、針、はさみ、ミシンなどの手芸用品や装飾用品の材料として利用が可能である。またPPのNOC二次成型品は、ショーウインドウやディスプレイ部品などの商業用品の材料として利用が可能である。またPPのNOC二次成型品は、ブランコ,シーソー,ジェットコースターなどの公園、遊園地、テーマパーク用器具または設備の材料として利用が可能である。その他、PPのNOC二次成型品は、電気・電子・情報機器、または時計等精密機器の部品の構造材や箱材;ファイル、フォルダ、筆箱、筆記用具、はさみなどの文房具;包丁、ボール、などの料理用具;食品、お菓子、タバコなどの包装材;食品容器、食器、割り箸、楊枝;家庭用家具、オフィス家具などの家具;ビルや住宅用の建材、内装材、および外装材;道路または橋梁用の材料;玩具用の材料;超強力繊維や糸;漁業用漁具、漁網、つり用具;農業用具、農業用品;レジ袋,ゴミ袋;各種パイプ;園芸用品;および運輸用コンテナ、パレット、箱;等として利用が可能である。
【0082】
他方、PEのPPのNOC二次成型品は、超強力繊維として利用が可能である。また、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素系NOC二次成型品は、高い強誘電や圧電特性を活かして、高精度超音波素子高速スィッチング素子、高能率スピーカー、または高感度マイクロフォンなどの材料として利用が可能である。また、PETのNOC二次成型品は200℃程度の高耐熱性が要求される工業用材料として利用が可能である。
【0083】
以下実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【実施例】
【0084】
<1.NOC材料>
〔NOC材料の作製〕
NOC材料は、ライオンデルバセル・インダストリーズ社製iPP Adstif HA1152(M=34×10,M/M=30、平衡融点T=187℃)またはサンアロマー(株)製iPP サンアロマーPM802A(M=23×10,M/M=7、平衡融点T=187℃)を用いて作製された。なお「M」は重量平均分子量を意味し、「M」は数平均分子量を意味する。あるMにおけるTは「K. Yamada, M. Hikosaka et. al, J.Mac.Sci.Prat B-Physics, B42(3&4), 733 (2003)」で決定したMのTと同じと仮定した。
【0085】
図3に示す連続成形機10において、200℃で溶融した当該iPP融液を、120〜150℃の過冷却融液にし、過冷却融液供給機2のスリットダイからシート状に吐出した。シート状iPP過冷却融液を、140〜150℃に保持した回転可能な一対の挟持ロール3に挟んで、臨界伸長ひずみ速度(HA1152のε=50s−1、PM802Aのε=150s−1)以上の伸長ひずみ速度(300s−1)で圧延伸長し、NOC材料を製造した。上記臨界伸長ひずみ速度εは、発明者らのこれまでの検討により決定した値を採用した。
【0086】
上記で作製されたNOC材料を、適宜切出して物性および構造等を測定した。なお、NOC材料は複数作製されたが、以下にはその一例についてのみ示す。
【0087】
〔NOC材料の偏光顕微鏡観察〕
切出した後のサンプルのたて、およびよこ方向のサイズについては、対物マイクロメーターで校正したスケールを用い、光学式実体顕微鏡(オリンパス株式会社製、SZX10−3141)で測定された。厚みについてはマイクロメーター、または光学式実体顕微鏡(オリンパス株式会社製、SZX10−3141)を用いて測定した。サイズの測定は、室温25℃で行った。なお、サンプルの厚さは0.2〜0.4mmであった。
【0088】
NOC材料のサンプル(厚さ0.25mm)について顕微鏡観察を行った。MDとTDの両方向に垂直な方向(Through)から、偏光顕微システムで直接観察し、形態、高分子鎖の配向の変化を記録および測定した。偏光顕微鏡にはオリンパス(株)製BX51N−33P−OCを用い、CCDカメラにはQImaging社製・冷却デジタルカメラ・QICAMを用い、記録にはパーソナルコンピューターを用いた。またレタデーション変化を定量的に測定するために、鋭敏色倹板を偏光顕微鏡のポラライザーとアナライザー(偏光板)の間に挿入した(参考文献:高分子素材の偏光顕微鏡入門 粟屋 裕、アグネ技術センター、2001年、p.75−103)。偏光顕微鏡による観察は、室温25℃で行った。
【0089】
偏光顕微鏡写真を図4に示す。図4において、粒状の球晶が見られずMD方向に配向した極微細な筋状形態が見られた。また鋭敏色検板を挿入した状態で試料を回転することにより、MD方向の色(すなわちレタデーション)が青→赤紫→黄→赤紫と変化し、明確な消光角(赤紫色)を示した。よって、このレタデーションの変化から、MD方向に高分子鎖が著しく配向していることがわかった。
【0090】
〔NOC材料の結晶化度の測定〕
次にNOC材料のサンプルの結晶化度χを、密度法により測定した。より具体的には、質量(M)と体積(V)を用いた密度法により、サンプルの結晶化度を決定した。測定は、室温25℃で行った。切出したサンプルのサイズは、マイクロメーターと光学式実体顕微鏡(オリンパス株式会社製、SZX10−3141)を用いて測定した。また、切出したサンプルの質量は、デジタル電子天秤(ザルトリウス社製、ME253S)を用いて測定した。測定は、室温25℃で行った。
【0091】
切出したサンプルは、たて3.2mm、よこ4.1mm、厚さ0.26mmで、質量は3.18×10−3gであった。よって、サンプルの密度ρ=0.93(g/cm)であり、前出の結晶化度の式〔数1〕を用いて算出される結晶化度χ=0.93(=93%)であった。
【0092】
〔NOC材料の耐熱性試験〕
NOC材料の耐熱温度を、光学顕微鏡を用いた試験片サイズ直読法により測定した。ホットステージ(Linkam社製,L-600A)上に試験片(たて0.7mm、よこ0.7mm、厚さ0.25mm)を置き、昇温速度1K/分でホットステージ内を昇温した。この時、CCDカメラ付光学顕微鏡(オリンパス(株)製BX51N−33P−OC)で観察と記録を行った。画像解析ソフトウェア(Media Cybernetics社製、Image−Pro PLUS)を用いて、試験片のたて方向(MD)、およびよこ方向(TD)を定量的に計測し、MD方向またはTD方向に3%以上収縮(又は膨張)を開始した時の温度を、耐熱温度Tとして得た。
【0093】
その結果、NOC材料の耐熱温度はT=176℃であり、融点はT=178℃であった。
【0094】
〔NOC材料の構造検討〕
NOC材料を、小角X線散乱法(以下、「SAXS法」という)を用いて観察した。SAXS法は、「高分子X線回折 角戸 正夫 笠井 暢民、丸善株式会社、1968年」や「高分子X線回折 第3.3版 増子 徹、山形大学生協、1995年」の記載に準じて行われた。より具体的には、(財)高輝度光科学研究センター(JASRI)SPring-8、ビームライン BL40B2 において、X線の波長λ=0.15nm、カメラ長1654mmで、検出器にイメージングプレート(Imaging Plate)を用いて、室温25℃で行った。MDとTDに垂直な方向(through)とTDに平行な方向(edge)とMDに平行な方向(end)の3方向について観察した。throughとedgeの試料についてはMD方向をZ軸方向にセットし、endについてはTD方向をZ軸方向にセットし、X線の露出時間は180秒で行った。イメージングプレートを株式会社リガク製の読取装置と読込みソフトウェア(株式会社リガク、raxwish,control)とで読取り、2次元イメージを得た。
【0095】
図5に、2次元イメージを示す。(a)throughと(b)edgeはMD方向に2点像を示し、ナノ配向結晶体が非常に強くMD方向に配向していることがわかった。また、(a)throughは、中心から赤道方向に伸びているストリークを示し、(c)endは、中心から等方的に広がっている無配向の散漫散乱を示した。この事実から、上記で作製したNOC材料は、棒状高次構造を有していることが結論できた(参考文献:A.Guinier著、「X線結晶学の理論と実際」、理学電機(株)、p513、1967)。
【0096】
棒状高次構造の直径φは、図5(c)のendの2次元イメージについて、解析ソフトウェア(株式会社リガク、R−axis,display)を用いて解析した。図6に示す散乱ベクトルの二乗(q)−小角X線散漫散乱強度(I)曲線は、2次元イメージの、試料表面からの全反射を除いた全ての偏角について積分し、バックグラウンド補正をして得た結果である。ギニエプロットの式 I=Aexp(−R/3)で近似曲線を求め、曲線の傾きから慣性半径R=26nmを得て、棒状高次構造の直径φ=2×√(5÷3)×R=70nmを決定した。
【0097】
〔NOC材料のNOC結晶サイズの検討〕
また図5(a)のthroughの2次元イメージについて、解析ソフトウェア(株式会社リガク、R−axis,display)を用いて解析した。図6に示す散乱ベクトル(q)−小角X線散乱強度(I)曲線は、2次元イメージを偏角について全周積分し、バックグラウンド補正をして得た。I曲線の1次のピークに相当するq=q=0.238nm−1であった。よって、NOCのサイズd=2π/q=26nmを得た。
【0098】
〔NOC材料のα分率の測定〕
上記で作製したNOC材料において、throughとedgeとendの3方向から広角X線散乱法(WAXS法)を用いて観察した。WAXS法は、(財)高輝度光科学研究センター(JASRI)SPring-8、ビームライン BL40B2 で、X線の波長(λ)はλ=0.072nm、カメラ長(R)はR=270mmで、検出器にイメージングプレート(Imaging Plate)を用いて、室温25℃で行った。throughとedgeの試料についてはMD方向をZ軸方向にセットし、endについてはTD方向をZ軸方向にセットし、X線の露出時間は60秒で行った。イメージングプレートを株式会社リガク製の読取装置と読込みソフトウェア(株式会社リガク、raxwish,control)とで読取り、2次元イメージを得た。さらに、2次元イメージを解析ソフトウェア(株式会社リガク、R−axis,display)を用いて解析し、α相の体積分率f(α)を測定した。より具体的には、
(式)
【0099】
【数3】

【0100】
for hkl=−2,3,1と−1,6,1
(参考文献:M.Hikosaka, Polymer Journal 1973 5 p.124を参照のこと)を用いてα分率を求めた。ここで、|F|はhkl=−2,3,1と−1,6,1との観測から得た構造因子、|Fα|はα相100%の時のhkl=−2,3,1と−1,6,1との構造因子である。|F|は、バックグラウンドを補正して得た広角X線散乱強度(I)と、
(式) I=|F
の関係にある。
【0101】
図7に、2次元イメージの結果を示す。(a)throughと(b)edgeの2次元イメージにおいて、hkl=−2,3,1と−1,6,1反射が出ていることから、結晶構造がα相であることが分かった。(参考文献:M.Hikosaka, Polymer Journal 1973 5 111-127を参照のこと)。α分率はf(α)=0.8であった。
【0102】
〔NOC材料の配向関数fの測定〕
上記で得たの2次元イメージから、NOC材料の配向関数fを得た。より具体的には、図7(b)edgeについてイメージングプレート読み取りソフトウェア(株式会社リガク、raxwish,control)で得た2次元イメージを、表計算ソフトウェア(WaveMetrics社製、Igor Pro)で解析を行うことにより配向関数fを得た。図7(b)に示すhkl=040反射について、偏角(β)−広角X線散乱強度(I)曲線は、バックグラウンド補正をして得た。より具体的には、
配向関数の式:f=<3cosβ―1>÷2
ただし、
(式)
【0103】
【数4】

【0104】
を用いて、fを算出する。
【0105】
図7(a)throughと(b)edgeについて、分子鎖(c軸)がMD方向に非常に強く配向していることがわかった。また、(c)endは、throughにおけるl=0の赤道面に相当するため、無配向であった。(b)edgeのhkl=040反射から、配向関数はf=0.92を得た。
【0106】
〔NOC材料の機械的特性試験〕
上記で作製したNOC材料について、JIS K7127準拠で引張強度の測定を行った。より具体的には、試験片(標線間距離7mm、狭い平行部の幅1.6mm、厚さ0.25mm)を、精密万能試験機((株)島津製作所製、オートグラフAG-1kNIS)にセットし、引張速度10mm/minで引っ張ることによって引張強度の測定を行った。測定は、室温25℃で行った。
【0107】
また引張弾性率はJIS K7161に記載されている方法に準拠して求めた。測定は、室温25℃で行った。
【0108】
NOC材料の引張強度および引張弾性率を測定した結果、引張強度はσ=0.21GPaであり、引張弾性率はE=4.1GPaであった。
【0109】
〔NOC材料の透明性試験〕
NOC材料において、ヘーズ測定法によりヘーズ(ヘーズ値:厚さ0.3mm)を測定した。ヘーズ測定法は、試験片を透過した透過光の光量を測定することにより実施された。ヘーズ測定法には、光学顕微鏡(オリンパス(株)製BX51N−33P−OC)、光量を定量できるCCDカメラ(QImaging社製 冷却デジタルカメラ QICAM)と、画像解析ソフトウェア(Media Cybernetics社製、Image−Pro PLUS)を備える装置が用いられた。測定光として用いたハロゲンランプを白色光源とした入射光のサイズは、直径1mmの円形であった。
【0110】
その結果、NOC材料のヘーズ(ヘーズ値、厚さ0.3mm)は0.9%であった。
【0111】
<2.NOC材料への再生試験および二次成型試験>
室温(25℃)のNOC材料を、135℃、165℃、180℃、210℃または225℃にそれぞれ加熱した。ちなみに本実施例におけるNOC材料のTo-mは約157℃、Tmは約170℃、Tisoは約215℃であった。よって135℃ではNOC材料はオーダー相(α相)のままであり、165℃ではモバイル相(α2’相)に相転移しており、175℃および210℃ではDEN融液となっており、225℃では熱平衡融液となっている。
【0112】
所定の温度まで加熱した各サンプルを、室温になるまで放冷した。
【0113】
加熱前のサンプル、加熱後のサンプル、および放冷後のサンプルについて、WAXS法およびSAXS法によって解析を行った。WAXS法、およびSAXS法の具体的な実施方法については上述の通りである。
【0114】
図8および9に、室温→135℃→室温の操作が行われたサンプルのWAXS法による2次元散乱パターン、およびSAXS法による2次元散乱パターンをそれぞれ示す。図8および9において(a)は加熱前のサンプル、(b)は加熱後のサンプル、および(c)は加熱後のサンプルを60MPaで引張りながら放冷した後のサンプルの結果をそれぞれ示す。図8および9におけるMDは引張方向を示す(以下、同様の図において同じ)。なお、図8中、矢印で示す散乱はカプトン由来の散乱である。
【0115】
図8および9の(c)に示すサンプルにおいてNOCの塑性破壊が一部みられたが、各サンプルはNOC材料であることを示すパターンが観察された。特に図9のSAXS像における2点像(図9の矢印を参照のこと)はNOC材料であることを示す典型的なパターンである。135℃の加熱ではサンプルがオーダー相のままであるため、室温→135℃→室温の全てのサンプルにおいてNOC材料であることを示すWAXSパターン、SAXSパターンを示した。
【0116】
なお、135℃に加熱後のサンプルは二次成型が行える程度の可塑性を有していなかった。ここでサンプルについて二次成型を行い得るかどうかの判断は、例えばひずみ量50%における応力σ(ε=50%)によって判断することができる。一般にサンプルのひずみ量50%における応力σ(ε=50%)が20MPa以下となっていれば二次成型可能であると判断され得る。図10に本実施例で使用したNOC材料の各温度でのひずみ量50%における応力σ(ε=50%)を測定した結果を示す。図10によれば、オーダー相(α相)においては、ひずみ量50%における応力σ(ε=50%)が20MPaを越えているために二次成型に適さない条件であることが分かる。そして、このオーダー相の状態のまま強引に二次成型を行えば、物理的な破壊が生じることになるといえる(例えば、図9(c)を参照のこと)。一方、モバイル相(α2'相)およびDEN融液の状態のサンプルのひずみ量50%における応力σ(ε=50%)は20MPa以下であるために、二次成型可能であることが分かる。
【0117】
図11および12に、室温→165℃→室温の操作が行われたサンプルのWAXS法による2次元散乱パターン、およびSAXS法による2次元散乱パターンをそれぞれ示す。図11において(a)は加熱前のサンプル、および(c)は加熱後のサンプルを50MPaで引張りながら放冷したサンプルの結果をそれぞれ示す。また図12において(a)は加熱前のサンプル、(b)は加熱後のサンプル、および(c)は加熱後のサンプルを50MPaで引張りながら放冷したサンプルの結果をそれぞれ示す。
【0118】
図11および12から各サンプルはNOC材料であることを示すパターンが観察された(特に図12中、矢印で示す2点像を参照のこと)。図12(b)においては熱膨張の影響により密度ゆらぎが小さくなり散乱強度が減少したが、NOC材料であること示す2点像は観察された。図12(b)に示す散乱パターンから、サンプルがモバイル相(α2'相)に相転移していることが確認された。なお、図11(b)は空白となっているが、これは加熱後のサンプルに関するWAXS像の撮影を単に省略したものである。
【0119】
また、165℃に加熱後のサンプルは二次成型が行える程度の可塑性を有しているものであった(図10を参照のこと)。165℃に加熱後のサンプルについて50MPaの圧力を加えて変形を試みた結果、図13に示すクランク形状を備える成型体(NOC二次成型品)が得られた。
【0120】
また図14に加熱前のサンプルおよび加熱−引張放冷後のサンプルの引張強度を測定した結果を示す。加熱前のサンプルの結果を図14(a)に示し、加熱−引張放冷後のサンプルの結果を図14(b)に示す。図14によれば、引張強度について加熱前のサンプルと、加熱−引張放冷後のサンプルとで変化は無く、本発明の二次成型方法によって得られたNOC二次成型品の引張強度の低下等は見られなかった。
【0121】
これらの結果から、モバイル相(α2'相)の状態のサンプルを二次成型した後、放冷すればNOCの二次成型品が得られることが分かった。
【0122】
図15および16に、室温→180℃→室温の操作が行われたサンプルのWAXS法による2次元散乱パターン、およびSAXS法による2次元散乱パターンをそれぞれ示す。図15および16において(a)は加熱前のサンプル、(b)は加熱後のサンプル、および(c)は加熱後のサンプルを10MPaで引張りながら放冷したのサンプルの結果をそれぞれ示す。なお、図15中、矢印で示す散乱はカプトン由来の散乱である。
【0123】
図15および16から加熱前のサンプル、および放冷後のサンプルについてNOC材料であることを示すパターンが得られた(特に図16(a)、(c)中、矢印で示す2点像を参照のこと)。一方、加熱後のサンプルについては、NOC材料でないことを示すパターンが示された。特に図16(b)において2点像が消失しているためNOCが融解したことが分かる。よって、この結果から、加熱によって一旦NOC材料でなくなったサンプルが、室温に戻ると再びNOC材料となることが示された。なお180℃に加熱後のサンプルは、二次成型が行える程度の可塑性を有しているものであった(図10を参照のこと)。180℃に加熱後のサンプルについて50MPaの圧力を加えて変形を試みた結果、図21に示すクランク形状を備える成型体(NOC二次成型品)が得られた。
【0124】
図17に、NOC材料を加熱していった際の動的弾性率を測定した結果を示す。NOC材料を加熱していくと動的弾性率は低下し、融点(T=175℃)を境に動的弾性率が上昇する温度領域(175〜215℃)がある(図17の丸囲み部を参照のこと)。この温度領域のサンプル(180℃)について引張試験を行った結果、十分な弾性を有することを示した(図18を参照のこと)。融点以上で熱平衡状態の融液(「熱平衡融液」という)となったサンプルでは、液体であるため、弾性を有しておらずそもそも引張試験を行うことができない。しかし、175〜215℃に加熱されたサンプルでは、図18に示すように十分な弾性を示す状態であった。本発明者らは、これら図16、図17および図18に示した結果から、オーダー相やモバイル相に存在する絡み合いネットワーク構造中の結晶部分(NOC)が熱平衡融液へ転移する際に、絡み合いネットワーク構造中の結晶部分(NOC)が融解しているが、絡み合いネットワーク構造は維持されている状態である、「高密度絡み合いネットワーク融液(Dense Entanglement Network- melt): DEN融液」という状態が存在することを新たに見出した。これは、本発明者らが見出した新規知見である。なお、上記215℃(Tisoという)を超えると、熱平衡融液(等方融液(Isotropic melt))へと変化する。熱平衡融液では高密度絡み合いネットワーク構造が完全に壊れて、高分子の分子鎖は無配向な状態の融液となる。
【0125】
2枚のシート状のNOC材料の端面を金型内でつき合わせて185℃で加熱して融着させた後、室温へ放冷させた。この融着したNOC材料の偏光顕微鏡写真、融着部分のSAXS像、およびWAXS像を図19に示す。図19(a)は融着したNOC材料(A片およびB片)の偏光顕微鏡写真であり、2枚のシート状のNOC材料が顕微鏡的に完全に融着したことを示している。図19(a)の点線部が融着部分である。また図19(a)の丸部にX線を照射してSAXSおよびWAXS解析を行った。SAXS像を図19(b)に示し、WAXS像を図19(c)に示した。図19(b)(c)によれば、NOCの存在を示す典型的なパターンを示し、融着したサンプルがNOC材料であることが示された。つまりNOC材料を加熱してDEN融液にした後、融着(二次成型)を行い、放冷することで、融着サンプルがNOC材料へ戻ることが確認された。
【0126】
次に、拘束しないフリーの条件で、室温→210℃→室温の操作が行われたサンプル(一例)のSAXS法による2次元散乱パターンを図20に示す。図20において(a)は加熱前のサンプル、(b)は加熱後のサンプル、および(c)は放冷後のサンプルの結果をそれぞれ示す。
【0127】
NOC材料を拘束しないフリーな条件下でDEN融液にし、室温まで放冷した場合は、配向が乱れた(無配向になった)ナノ結晶体(NC)であることを示す散乱パターンが観察された(図20(c)の矢印部を参照のこと)。なお、NOC材料をフリーな条件下でモバイル相(α2’相)にし、放冷したサンプルはNOC材料になっていた(データは省略する)。よって、NOC材料を拘束しないフリーな条件下でDEN融液にし、室温まで放冷した場合は、NC材料となる場合があることが示された。
【0128】
室温→225℃→室温の操作が行われたサンプルについては、加熱前のサンプルにおいてNOC材料であることを示すパターンが見られ、放冷後のサンプルについては、FCCの存在を示すパターンが見られた(データは省略する)。なお、225℃のサンプルでは、温度が高すぎるためにWAXS法およびSAXS法を実施することができなかった。よって、加熱によって一旦熱平衡融液となったサンプルは、室温に放冷したとしても再びNOC材料に戻らないということが示された。つまり、225℃に加熱後のサンプルは二次成型が行える程度の可塑性を有しているものであったが、放冷後にはFCCになってしまうために本発明が目的とする二次成型が行えないということがわかった。
【0129】
以上の結果より、モバイル相(α2’相)またはDEN融液にしたNOC材料であれば、プレス成型等の二次成型を行うことができ、その後、室温まで冷却すれば再びオーダー相(α相)に相転移し、目的のNOC二次成型品が得られるということが分かった。
【0130】
<3.熱測定によるDEN融液存在の証明>
NOC材料を188℃に加熱し、伸長ひずみ速度419(sec-1)で伸長成形した。このNOC材料を10K/分の降温速度で冷却した時の再結晶化温度(Tc)は125.1℃であった(図22中の実線を参照のこと)。一方、NOC材料を230℃に加熱して同様に伸長成形を行った場合の、Tcは116.1℃であった(図22中の破線を参照のこと)。
【0131】
また188℃に加熱した試料を伸長し再結晶化した場合のTc(125.1℃)は、伸長しないで再結晶化した場合(静置場の場合)のTc(116.1℃)よりも高かった。一方、230℃に加熱した試料を伸長し再結晶化した場合のTc(116.1℃)は、静置場の場合のTcと同等であった。
【0132】
この結果は、215℃以下の試料の場合、エンタルピー緩和時間の長い構造が試料中に保持され、結晶化が加速されるために、再結晶化が高温で起こる。一方、215℃を越える温度の試料ではエンタルピー緩和時間の長い構造は緩和され、結晶化温度は静置場と同じになったと考えられる。よって、この結果はDEN融液の存在を示す証拠といえる。
【0133】
図23に種々の伸長ひずみ速度で成形した試料のTcと静置場の場合のTcとの差(δTc)と、伸長ひずみ速度との関係を示す。図23中ひし形のシンボルは、180〜190℃にNOC材料を加熱した場合の結果を示し、四角のシンボルは190〜200℃にNOC材料を加熱した場合の結果を示す。
【0134】
図23によれば、伸長ひずみ速度の増大と共にδTcが増大することが分かる。また、δTcは加熱温度が低い方が大きいという結果となった。これらの結果から、エンタルピー緩和時間の長い構造の割合(DEN構造)は、伸長ひずみ速度の増大および試料温度の低下と共に増加することが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0135】
以上のように本発明によれば、NOC材料の二次成型を簡便に行うことが可能となる。それゆえ、NOC材料の工業用材料としての用途が大幅に拡大するものといえる。NOC材料は機械的強度、耐熱性、透明性等の特性が優れ、特に金属と同等の機械的強度を備えるため、高分子材料の代替としてのみならず、金属の代替として利用が期待されている。
【0136】
したがって本発明は、高分子製部品を取り扱う種々の産業のみならず金属製部品を取り扱う産業全般において利用が可能である。
【符号の説明】
【0137】
10 連続成形機
1 過冷却融液
2 過冷却融液供給機
3 挟持ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子ナノ配向結晶体材料を加熱してモバイル相、または高密度絡み合いネットワーク構造を有する融液にする加熱工程;
前記加熱工程によってモバイル相、または高密度絡み合いネットワーク構造を有する融液になった高分子ナノ配向結晶体材料を成型する成型工程;および
前記成型工程後の高分子ナノ配向結晶体材料をオーダー相に相転移するまで冷却する冷却工程;を含むことを特徴とする、高分子ナノ配向結晶体材料の二次成型方法。
【請求項2】
上記高分子ナノ配向結晶体材料は、結晶サイズdが300nm以下であり、結晶内高分子鎖の配向度を示す配向関数fが0.7以上である高分子ナノ配向結晶体からなる、請求項1に記載の高分子ナノ配向結晶体材料の二次成型方法。
【請求項3】
上記高分子ナノ配向結晶体材料は、棒状高次構造を含み、
当該棒状高次構造は、ナノ配向結晶体粒子が数珠状に連結してなる数珠状体が束となった構造である、請求項1または2に記載の高分子ナノ配向結晶体材料の二次成型方法。
【請求項4】
上記高分子ナノ配向結晶体材料は、ポリオレフィンからなる、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の高分子ナノ配向結晶体材料の二次成型方法。
【請求項5】
上記高分子ナノ配向結晶体材料は、ポリプロピレンからなる、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の高分子ナノ配向結晶体材料の二次成型方法。
【請求項6】
上記成型工程は、複数の高分子ナノ配向結晶体材料同士を融着する工程である、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の高分子ナノ配向結晶体材料の二次成型方法。
【請求項7】
上記成型工程は、複数のシート状の高分子ナノ配向結晶体材料同士を積層し融着する工程である、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の高分子ナノ配向結晶体材料の二次成型方法。
【請求項8】
上記成型工程は、高分子ナノ配向結晶体材料をプレス成型、延伸成型、圧延成型、絞り加工成型、圧接成型、融着成型、真空成型のいずれかの工程である、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の高分子ナノ配向結晶体材料の二次成型方法。
【請求項9】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載の高分子ナノ配向結晶体材料の二次成型方法によって得られ、
複数の高分子ナノ配向結晶体材料同士が融着してなる二次成型品。
【請求項10】
複数のシート状の高分子ナノ配向結晶体材料同士が積層されてなる積層体である、請求項9に記載の二次成型品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図6】
image rotate

【図10】
image rotate

【図14】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate


【公開番号】特開2012−96526(P2012−96526A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137828(P2011−137828)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度 独立行政法人科学技術振興機構 地域イノベーション創出総合支援事業 重点地域研究開発推進プログラム(育成研究)委託研究「伸び切り鎖ナノ結晶体による超高性能汎用高分子材料の開発」、平成21年度 独立行政法人科学技術振興機構 地域イノベーション創出総合支援事業 重点地域研究開発推進プログラム(研究開発資源活用型)委託研究「“超臨界伸長成形機”開発による超高性能高分子創製と製品化」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【出願人】(597021842)サンアロマー株式会社 (27)
【出願人】(000239138)株式会社エフピコ (98)
【Fターム(参考)】