説明

高分子ポリフェノール画分を含有するリパーゼ活性阻害剤、茶エキス、およびその製造方法

【課題】食事由来の脂肪の吸収を抑制し、血中中性脂肪の上昇を抑える飲食品の提供。
【解決手段】ウーロン茶より分取した高分子ポリフェノール画分を、リパーゼ活性阻害有効成分として飲食品に添加する。
【効果】飲食品は安全で、本来の香味が損なわれていないので、日常的に摂取して、高分子ポリフェノール画分のリパーゼ阻害作用により、血中中性脂肪の上昇を抑え、肥満を予防することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウーロン茶等の茶に含まれる高分子ポリフェノール(重合カテキン)が、種々の効能を示す一方、他のタンニンや非重合カテキン等と異なり、渋み、苦味が少ないことに着目してなされたものであり、茶等の重合カテキンを選択的に分画する方法、該方法により得られる重合カテキンが濃縮された茶エキス等の組成物、該方法により得られた画分を含有するリパーゼ活性阻害剤、および該組成物を添加し、香味を損なうことなく、嗜好性の高くて、かつ健康増進を目的とした飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、日本人の生活様式の欧米化に伴い、高脂肪食の摂取が増加の一途をたどっている。平成11年国民栄養調査によると、エネルギー摂取量は年々減少しているにもかかわらず、その脂質エネルギー比は適正比率である25% を超え、中性脂肪値やコレステロール値が高い人の割合は60歳以上で5 〜6 割に認められたとの報告がある(厚生労働省平成11年国民栄養調査結果の概要臨床栄養 2001; 98(5): 577-588 )。
【0003】
肥満は現代社会における最も重大な疾患の1つであるが、その主たる要因は脂肪の過剰摂取である。また、脂肪の過剰摂取は、肥満のみならず、肥満に起因する糖尿病、高脂血症、高血圧、動脈硬化等を発症させることが知られている。この肥満に対する治療薬として、国内では、食欲抑制剤のマジンドールRが唯一承認されているが、口渇、便秘、胃部不快感、悪心・嘔吐等の副作用が報告されている(臨床評価 1985; 13(2): 419-459 、臨床評価 1985; 13(2): 461-515 )。また、海外においては、リパーゼ阻害活性により腸管からの脂肪吸収の抑制作用を持つゼニカルRが肥満改善薬として市販されているが、やはり脂肪便、排便数の増加、軟便、下痢、腹痛等の副作用が報告され、必ずしも安全とは言いがたい(The Lancet 1998; 352: 67-172 )。
【0004】
肥満を予防するためには、食事制限により摂取カロリーを減らすことが有効な手段ではあるものの、しっかりとした栄養指導を受けなければならず、日常生活においての実行は困難である場合が多い。そこで、食事由来の脂肪が体内に吸収されることを安全かつ健康的に抑制することは、肥満及びそれに関連する疾患の治療あるいは健康増進の目的で、現実的で有用な方策であると考えられる。
【0005】
このような背景のもと、安全でかつヒトに対する有効性が証明されている特定保健用食品の開発が注目されている。今までに食後の血清中性脂肪値の上昇を抑える食品素材としては、膵リパーゼ阻害により脂肪吸収を抑制するグロビン蛋白分解物(J. Nutr. 1988; 128: 56-60, 、日本臨床・食糧学会誌 1999; 52(2): 71-77 、健康・栄養食品研究 2002; 5(3): 131-144)、トリアシルグリセロールとは異なる消化吸収特性を持つジアシルグリセロール(J. Am. Coll. Nutr. 2000; 19(6): 789-796 、Clin. Chim. Acta. 2001; 11(2): 109-117)、魚油より精製されたエイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)などが特定保健用食品として発売されている。
【0006】
一方、ウーロン茶の脂質改善効果を示した報告には、市販ウーロン茶を1 日1330mlずつ6 週間飲用させ、血中中性脂肪値の有意な低下が認められたとの報告(日本栄養・食糧学会誌 1991; 44(4): 251-259)や、単純性肥満症の男女102 名を対象に、ウーロン茶(2g×4/日)を6 週間連続経口摂取させた結果、67%の被験者に1kg 以上の体重減少が認められ、さらに、血中中性脂肪値が高値を示した被験者においてウーロン茶摂取後に有意な改善効果が認められたとの報告(日本臨床栄養学会雑誌 1998; 20(1): 83-90)がある。このようにウーロン茶の大量飲用では効果が認められているものの、日常生活のなかで続けていくことは難しい。また、単純に濃縮したウーロン茶を提供したとしても、苦味・渋味が強く、カフェイン量も増えることより、現実的な方策ではない。
【0007】
ところで、ウーロン茶等に含まれる高分子ポリフェノール(重合カテキン)は、種々の効能を示す一方、他のタンニンや非重合カテキン等とは異なり、渋み、苦味が少ない。従って、ウーロン茶等が含むカテキン類のうち、非重合カテキンと重合カテキンとを分離する効率的な方法の確立が望まれている。
【0008】
これまでに、種々の樹脂により、茶の種々の成分が分離されることが知られていた。例えば活性炭処理で、除タンニン、除カフェインが可能であることは知られていた。しかし、活性炭または吸着系の樹脂等の吸着剤により、重合カテキンと非重合カテキンとを選択的に分離する有効な方法は知られていなかった。
【非特許文献1】厚生労働省平成11年国民栄養調査結果の概要臨床栄養 2001; 98(5): 577-588
【非特許文献2】臨床評価 1985; 13(2): 419-459
【非特許文献3】臨床評価 1985; 13(2): 461-515
【非特許文献4】The Lancet 1998; 352: 67-172
【非特許文献5】J. Nutr. 1988; 128: 56-60, 1988
【非特許文献6】日本臨床・食糧学会誌 1999; 52(2): 71-77
【非特許文献7】健康・栄養食品研究 2002; 5(3): 131-144
【非特許文献8】J. Am. Coll. Nutr. 2000; 19(6): 789-796
【非特許文献9】Clin. Chim. Acta. 2001; 11(2): 109-117
【非特許文献10】日本栄養・食糧学会誌 1991; 44(4): 251-259
【非特許文献11】日本臨床栄養学会雑誌 1998; 20(1): 83-90
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、食事由来の脂肪の吸収を抑制し、血中中性脂肪の上昇を抑え、および/または肥満を防止する飲食品、並びにリパーゼ活性阻害剤を提供する。
【0010】
本発明は、非重合カテキンと重合カテキンの混合物、例えばウーロン茶、から両者を効率的に分離する方法を提供する。
【0011】
本発明は、重合カテキンと非重合カテキンとを含有する水性の液を、50℃以上の温度で吸着剤と接触させることにより、非重合カテキンを選択的に除去することで、元の水性液に比べて重合カテキンの非重合カテキンに対する比率が高まった水性液を得る方法、および該方法で得られた水性液またはその濃縮物もしくは乾燥物からなる組成物を提供する。
【0012】
本発明はまた、非重合カテキンに対する重合カテキンの比率が、通常のウーロン茶(抽出液)より高まったウーロン茶エキスを提供する。
【0013】
本発明はさらに、上記組成物または茶エキスを含有するリパーゼ阻害剤および飲食品用添加剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
定義
本明細書において、重合カテキンの用語は茶類に含まれる高分子ポリフェノールと同じ意味に使用され、茶カテキンが二量体以上に重合したものをいい、非重合カテキンに対する用語である。茶カテキンとは、茶類に含まれるカテキンの総称であるが、茶類に含まれるカテキンであるかぎり、他の原料由来または合成由来のカテキン類も、本明細書の茶カテキンの定義に含まれる。
【0015】
非重合カテキンとは、単量体の茶カテキンをいう。ウーロン茶の場合に含まれている主な非重合カテキンは、カテキン、ガロカテキン、カテキンガレート(CG)、ガロカテキンガレート(GCG)、エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート(ECG)およびエピガロカテキンガレート(EGCG)の8種類である。
【0016】
本明細書において、高分子ポリフェノール画分とは、ウーロン茶などの重合カテキン及び非重合カテキンを混合して含む材料からの水性抽出液中の重合カテキンを選択的に濃縮し、重合カテキンの非重合カテキンに対する比率をウーロン茶抽出液(水性抽出液)の場合に比べて高めた、ウーロン茶の抽出物をいう。
【0017】
本明細書において、吸着カテキンとは、本発明の方法(例えば実施例2における温度60℃の方法)を実施したとき吸着剤に吸着される茶カテキンを意味し、その大部分は非重合カテキンである。吸着剤には若干の重合カテキンも吸着されるであろうことは当業者にとって明らかである。非吸着カテキンとは、当該吸着剤に吸着されない茶カテキンを意味し、その大部分は重合カテキンである。非吸着カテキンには若干の非重合カテキンも含まれることは当業者にとって明らかである。
(1)リパーゼ活性阻害剤の発明
本発明者らは、ウーロン茶中の脂肪吸収に必須なリパーゼ、特に膵リパーゼを阻害する成分は、ウーロン茶を活性炭等の吸着剤カラムに供して、非吸着画分として回収されるカフェイン、非重合カテキン類を含まないもしくは僅かしか含まないウーロン茶ポリフェノール画分中に存在することを見いだした。本発明は、この発見に基づくものであり、脂肪の吸収を抑制し血中中性脂肪の上昇を抑え、および/または肥満を防止するための有効成分として、ウーロン茶より分取した高分子ポリフェノール画分からなるリパーゼ活性阻害剤および該高分子ポリフェノール画分を含有する飲食品である。
【0018】
本発明で使用する、ウーロン茶より分取した高分子ポリフェノール画分は、非重合カテキンに対して重合カテキン(高分子ポリフェノール)が、好ましくは少なくとも4倍の量で含まれる。高分子ポリフェノール画分の取得方法は、本発明の一部であり後に詳述する。
【0019】
本発明のリパーゼ阻害活性成分は、非重合カテキン類を含まないもしくは僅かしか含まないため、苦味・渋味は余り感じられず、カフェインも含まないので、飲食品に任意の量で添加しても香味が損なわれず、多量に摂取してもカフェインの過剰摂取にはならない。さらに、本発明のリパーゼ阻害活性成分は、ウーロン茶由来であり、安全性が高い。そのため、本発明の飲食品は、連日または日常的に摂取して、目指す効果を持続的に発揮させることが可能である。従って、飲食品に対する高分子ポリフェノール画分の添加量に、実質的な上限・下限は存在しない。しかしリパーゼ阻害活性効果を得るために、一回の摂取分(例えば約250ml)あたり、重合カテキンが67mg以上摂取できるよう飲食品に添加するとよい。この場合、添加後の飲食品に含まれる重合カテキン量の測定は、実施例1に示した高速液体クロマトグラフィ法、すなわち、分取した重合カテキンを標準物質として逆相系カラムでグラジエント溶出することによって測定することができる。
【0020】
リパーゼ阻害活性成分としてウーロン茶の高分子ポリフェノール画分を添加する飲食品の例として、飲料には、液状強壮剤、健康飲料、栄養補給飲料、スポーツドリンク等があげられる。食品としては、健康食品、栄養補給食品等があげられる。
【0021】
また、リパーゼ活性阻害剤として、ウーロン茶より分取した高分子ポリフェノール画分は、ウーロン茶の水性抽出液を、活性炭および吸着樹脂から選択される吸着剤と接触させることにより非重合カテキンを選択的に除去することで、非重合カテキンに対する重合カテキンの比率を高めた液状画分またはこれを濃縮もしくは乾燥させたものである。
(2)茶由来の高分子ポリフェノール画分の製造方法の発明
本発明者らは、非重合カテキンと重合カテキンの分離方法について鋭意検討を重ねた結果、吸着剤を使用しその際の温度を50℃以上に管理することにより、重合カテキンのみを選択的に濃縮して、高分子ポリフェノール画分(重合カテキンの非重合カテキンに対する比率が高まった組成物、茶エキス)を得る方法を見出した。
【0022】
従って本発明の方法は、重合カテキンと非重合カテキンとを含有する水性の液を、活性炭および吸着樹脂から選択される吸着剤と、50℃以上の液温で接触させることにより非重合カテキンを選択的に除去することで、元の水性液に比べて重合カテキンの非重合カテキンに対する比率が高まった水性液を高分子ポリフェノール画分として得ることからなる。
温度
温度を、50℃以上に設定することは、本発明において重合カテキンだけを選択的に吸着剤に吸着させて除去するために必須の条件であり、それ以下の温度、例えば室温では重合カテキンと非重合カテキンとを選択的に分離することができない。温度に特別の上限はなく、沸騰温度まで任意の温度で実施できる。所望により、圧力下に100℃を超える温度を用いることも可能である。
原料
重合カテキンと非重合カテキンとを含有する水性の液に特に限定はないが、本発明の方法は、典型的には植物抽出液、例えば茶、特にウーロン茶の抽出液中から、重合カテキンを非重合カテキンと効率的に分離するために有用である。以下の説明はウーロン茶の例により行うがこれに限定されるものではない。
前処理
重合カテキンと非重合カテキンを含む原料、例えばウーロン茶の葉を必要に応じて細切し、水により適宜抽出する。この抽出の際の水の温度は特に限定されるものではないが、短時間で抽出することで抽出効率を向上させるためには、好ましくは50〜99℃、さらに好ましくは80〜99℃である。抽出液は、微アルカリ性にするため、重曹を添加して用いてもよい。重曹は無添加ないし飽和状態までの任意の濃度で添加してよい。例えば温水1Lあたり1.0 〜2.0 gの重曹を添加してよく、またはpH8.0 〜8.5 、好ましくは約8.2 となる量の重曹添加してもよい。重曹の代わりに、安全性の高い他の弱塩基性物質を用いることもできる。抽出後、固形分を除去するために、静置、遠心分離および/または濾過を行ってもよく、さらにビタミンC(VC)を添加してもよい。
【0023】
吸着剤に接触させるウーロン茶抽出液の濃度は、Brix 2.0〜6.0、好ましくはBrix約3.7である。
吸着剤
分離に用いる吸着剤としては、活性炭および吸着樹脂から選択される吸着剤を用いる。また、吸着剤はカラム方式で使用すると都合がよく、カラム処理を行うための吸着剤の粒径の選択も重要な要因となる。カラムを使用する際の圧力損失を少なくするためには、粒径は大きい方がよいが、分離を効率よく行うために吸着剤の吸着表面積を確保するために粒径は小さい方が好ましい。使用する吸着剤に応じて、最適の粒径を選択することは、当業者が日常的な技術範囲内で行うことができる。粒状の活性炭の場合には、実施例で示した、32メッシュ〜60メッシュの大きさのものが特に好ましい。
【0024】
粒状活性炭の代わりに合成吸着樹脂、例えばポリスチレンを原材料とするものを用いてもよい。この場合も細孔径が重要な要因となり、効果的な分離のためには適正な樹脂の選定が必要である。市販されているものでは、三菱化学のセパビーズ SP825 (平均細孔径57.4Å)、SP850 (平均細孔径38.1Å)などを好適に用いることができる。
吸着剤の使用量
本発明の方法を効率的に行うためには、吸着剤の使用量は多いほうが望ましい。すなわち、カラム方式で行う場合、カラムに流して分離するウーロン茶抽出液の量はより少ないほど有効であるが、カラムの5倍容量(5CV)ないし10倍容量(10CV)が好ましい。ウーロン茶抽出液の量に対して吸着剤を一定量以上用いるという要件は、吸着処理の温度を50℃以上に保持することと相まって、本発明にとって重要である。
【0025】
すなわち、重合カテキンも非重合カテキンも吸着剤には十分に吸着されないと考えられていたが、本発明によれば、吸着処理の温度を50℃以上に保ち、且つ吸着剤を十分量用いることにより、非重合カテキンを選択的に吸着剤に十分に吸着させうることが判明したのである。
吸着剤との接触時間
ウーロン茶抽出液(水性抽出液)と吸着剤との接触時間は、非重合カテキンが吸着剤に吸着されるために十分な時間であるかぎり特に限定されない。カラムを用いて吸着を行う場合、目安としてSV=1〜6、好ましくはSV=約3の流速で行うことができる。
後処理
吸着剤と分離したウーロン茶抽出物(高分子ポリフェノール画分、組成物、茶エキス)は、高分子ポリフェノール(重合カテキン)を豊富に含む飲料として直接使用してもよく、飲食品もしくは医薬品の材料として使用してもよい。必要により、加熱法、減圧法、凍結乾燥法等により濃縮物もしくは乾燥物として使用してもよい。
(3)製造方法由来の高分子ポリフェノール画分
本発明は、上記本発明の方法により得られる、重合カテキンの非重合カテキンに対する比率が高まった高分子ポリフェノール画分を含む、水性、湿潤または乾燥状態の組成物に関する。本発明の組成物は、茶エキス、好ましくはウーロン茶エキスである。組成物(茶エキス)中において、好ましくは、重合カテキンの非重合カテキンに対する比率は、少なくとも4倍である。
【0026】
重合カテキンと非重合カテキンの割合は、後述する実施例1の方法で測定して確認することができる。
【発明の効果】
【0027】
市販のウーロン茶では、食後の中性脂肪の上昇を抑える効果は弱く、単純に濃度を濃くしたものでは、苦味・渋味の増加及びカフェインの増量により、飲料としては適さない。本発明では、ウーロン茶に含まれる重合カテキンを多く含む高分子ポリフェノール画分を単離して飲食品に添加することにより、飲食品としての香味を損なうことなく、中性脂肪の上昇を抑える効果が期待でき、肥満の予防につながる。食事性脂肪の吸収を抑えるためには、食事とともに摂取することが望ましく、茶から得られた有効成分を強化した飲料は意義が大きい。
【0028】
また、本発明により、これまで困難とされていた、重合カテキンと非重合カテキンとの選択的分離が、容易な操作で可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】ウーロン茶抽出液を、60℃で分離した時の成分の挙動の例を示すグラフである。
【図2】ウーロン茶ポリフェノール画分添加水(2E)の摂取群における、脂肪負荷後の血中中性脂肪値の変化量(ΔTG) の経時変化を、水を摂取した場合と比較して図2-1 にグラフで示し、図2-2 には図2-1 のグラフの直線下面積(AUC) を示す。
【図3】ポリフェノール強化ウーロン茶(OT+E)の摂取群における、脂肪負荷後の血中中性脂肪値の変化量(ΔTG) の経時変化を、水を摂取した場合と比較して図3-1にグラフで示し、図3-2 には図3-1 のグラフの直線下面積(AUC) を示す。
【図4】ウーロン茶(OT)およびポリフェノール強化ウーロン茶(OT+0.5E)の各摂取群における、脂肪負荷後の血中中性脂肪値の変化量(ΔTG) の経時変化を、水を摂取した場合と比較して図4-1 にグラフで示し、図4-2 には図4-1 のグラフの直線下面積(AUC) を示す。
【図5】ポリフェノール強化ウーロン茶の脂肪排泄促進作用を示す。
【実施例1】
【0030】
茶葉の抽出
(1) 90℃の温水1Lに、重曹1.67gを溶解した場合(pH 8.22) と、重曹を加えない場合(pH 6.79) でウーロン茶の固形分抽出の効率を比較した。各々の温水1Lに、ウーロン茶葉100 gを加え、90℃に保ちながら緩やかに20分間攪拌して抽出を行った。
【0031】
抽出液のBrix濃度およびpHを測定したところ、重曹なしの場合は Brix3.76 、pH 5.06 あり、重曹ありの場合は Brix4.27 、pH 6.15 であった。重曹を用いることで、見た目にも明らかに濃い抽出液が得られ、この固形分の抽出の向上は、Brixの値からも確認された。
【0032】
(2) 90℃の温水1Lに、重曹1.67gを入れて溶解し、ウーロン茶葉100 gを加えた。90℃に保ちながら緩やかに5 分間攪拌して抽出を行った。抽出後、140メッシュの篩で茶葉と抽出液を分離し、抽出液は更に遠心分離を行って細かい固形分を除去した。分離液にVCを1.59g添加して溶解し、Brix3.7 のウーロン茶抽出液を得た。
【0033】
(3)重合カテキン、非重合カテキンの測定方法としては、Develosil C30 UG-3(3mmφ x 15cm、野村化学株式会社)のカラムを用い、移動相:A:0.1%HCOOH/H2O、B:90%CH3CN、0.1% HCOOH/H2O、0.2ml/min、グラジエント:B10%→70%(15min)、B70%iso(10min)、検出は、A280nmで実施した。
【0034】
標準物質としては、ウーロン茶抽出液より分取用ODSカラムを用いて繰り返し分取した重合カテキン画分を用いた。
【0035】
抽出液の成分を表1に示す。
【0036】
【表1】

【実施例2】
【0037】
分離
市販の粒状活性炭(例えばクラレ社製GW-H32/60 )50mlを脱気した後にカラムに詰めた。これに実施例1 で得たウーロン茶抽出液をSV=3の流速で流して、成分の分離を行った。この時、抽出液およびカラムの温度を20、40、50、60℃に設定し、それぞれ5CV ほど分離した分離液の分析値を、表2に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
このように、温度を高くして分離するほど、非重合カテキンをより選択的に分離除去できることが見出された。
【0040】
60℃で分離した時の成分の挙動の例を図1に示す。
【実施例3】
【0041】
パイロット製造
0.15%重曹液(95℃)で600kgのウーロン茶葉をカラム法で抽出し、抽出液約6000Kgを得た。液温を60〜65℃に保ち、400kgの粒状活性炭(クラレ社製GW-H32/60 )に通し、非重合カテキン、カフェインを選択的に除去した。この通過液を減圧下で濃縮し、Brix10以上の茶エキス約900kgを調製した。
【0042】
得られた茶エキス中の重合カテキン(OTPP)は14648ppm、これに対して、吸着カテキン(EGCG+GCG+ECG+CG)は366ppmであった。
【実施例4】
【0043】
リパーゼ阻害活性
実施例1の抽出液と、実施例3で得られた重合カテキンを選択的に濃縮(非重合カテキンを選択的に除去)した茶エキスについて、脂肪吸収に関わることが知られているリパーゼに対して、その阻害作用を比較した。
リパーゼ活性の測定
リパーゼ活性の測定は、基質に蛍光性の4−メチルウンベリフェロンのオレイン酸エステル(4-UMO )を使用し、反応によって生成した4−メチルウンベリフェロンの蛍光を測定することにより実施した。
【0044】
測定にあたり、緩衝液は、150 mM NaCl、1.36mM CaCl2を含む 13 mM Tris-HCl (pH 8.0)を用いた。基質である4-UMO (Sigma 社製)は0.1MのDMSO溶液として調製したものを上記緩衝液で1000倍希釈したものを、また、リパーゼはブタ膵リパーゼ(Sigma 社製)を同様に上記緩衝液を用い400U/ml 溶液として調製したものを酵素測定に供した。
【0045】
酵素反応は、25℃条件下において、96穴マイクロプレートに50μlの4-UMO 緩衝液溶液、25μl の蒸留水(あるいは試料水溶液)を添加し混合した後に、25μlのリパーゼ緩衝液溶液を添加することにより開始させた。30分間反応を行った後に、100 μlの0.1Mクエン酸緩衝液(pH 4.2)を添加して反応を停止させ、反応によって生成した4−メチルウンベリフェロンの蛍光(励起波長355nm 、蛍光波長460nm )を蛍光プレートリーダー(Labsystems社製 Fluoroskan Asent CF)を用い測定した。
【0046】
被験試料の阻害活性は、対照(蒸留水)の活性に対して50%阻害を与える試料量IC50(μg/ml )として求めた。
【0047】
結果を表3にまとめる。
【0048】
【表3】

【実施例5】
【0049】
味の評価
実施例1の抽出液と、実施例3で得られた茶エキスを、それぞれBrix0.5 になるように蒸留水で調整した飲料に関して、11人のパネルに対して味の官能試験を行った。結果を表4にまとめる。
【0050】
【表4】

【0051】
以上の結果より、茶エキスは、効能を確保しつつ、苦渋さが抑えられたものであることが確認された。
【実施例6】
【0052】
リパーゼ阻害作用を指標とした配合比の検討
調製例で製造した高分子ポリフェノール画分のリパーゼ活性の測定は、基質に蛍光性の4−メチルウンベリフェロンのオレイン酸エステル(4-UMO)を使用し、反応によって生成した4−メチルウンベリフェロンの蛍光を測定することにより実施した。
【0053】
測定にあたり、緩衝液は、150 mM NaCl 、1.36mM CaCl2を含む 13 mM Tris-HCl (pH 8.0)を用いた。基質である4-UMO (Sigma 社製)は0.1MのDMSO溶液として調製したものを上記緩衝液で1000倍希釈したものを、また、リパーゼはブタ膵リパーゼ(Sigma 社製)を同様に上記緩衝液を用い400U/ml 溶液として調製したものを酵素測定に供した。
【0054】
酵素反応は、25℃条件下において、96穴マイクロプレートに50μlの4-UMO 緩衝液溶液、25μl の蒸留水(あるいは試料水溶液)を添加し混合した後に、25μlのリパーゼ緩衝液溶液を添加することにより開始させた。30分間反応を行った後に、100 μlの0.1Mクエン酸緩衝液(pH 4.2)を添加して反応を停止させ、反応によって生成した4−メチルウンベリフェロンの蛍光(励起波長355nm 、蛍光波長460nm)を蛍光プレートリーダー(Labsystems社製 Fluoroskan Asent CF)を用い測定した。
【0055】
被験試料の阻害活性は、対照(蒸留水)の活性に対して50% 阻害を与える試料量 IC50 (μg/ml)として求めた。また、IC50値の逆数をμg あたりの相対活性値(unit)として算出し、試料溶液中のリパーゼ阻害活性強度を比較した。
【0056】
飲料としては、ウーロン茶(OT;Brix0.275)を基準とし、この2倍の濃度のものを2OT(Brix0.55)、ウーロン茶(OT;Brix0.275)に実施例3で得られた茶エキス(E)を添加し、Brix0.55になるように添加したものを、OT+E、その半分の濃度の茶エキスを添加したものをOT+0.5Eとした。ここで、ウーロン茶とは、ウーロン茶葉を熱水抽出したものを示す。
【0057】
【表5】

【実施例7】
【0058】
味の評価(飲料)
ポリフェノール強化ウーロン茶(OT+EおよびOT+0.5E)と通常の2倍の濃さとなるウーロン茶(2OT)のそれぞれについて、24人のパネルに対して味の官能試験を行った。結果を下表に示す。
【0059】
【表6】

【0060】
以上の結果より、ウーロン茶(OT)と茶エキス(E)との配合比(固形分としての重量比)が、少なくとも1:1〜2:1の範囲であれば、効能を確保しつつも、苦渋さが抑えられた飲料の調製が可能であることが判明した。
【実施例8】
【0061】
飲料のヒト効能評価試験(食後の中性脂肪低減効果の検証)
健康成人男女を対象とし、クロスオーバー試験を実施した。各試験とも7 日間を1サイクル、そのうち6 日間をウォッシュアウト期間とし、7 日目に脂肪負荷試験を行った。試験1 ではウーロン茶ポリフェノール画分添加水(2E)、試験2 ではポリフェノール強化ウーロン茶(OT+E)、試験3 ではウーロン茶(OT)とポリフェノール強化ウーロン茶(OT+0.5E )について実施した。各245ml の用量で供した。脂肪負荷食は、アイスクリーム(2個) と卵ロールケーキ(1.5 個)とし、脂肪摂取量が40g となるようにした。負荷食摂取後0、1 、3 、4 、6 時間後に上腕静脈より採血し、脂肪負荷後の血中中性脂肪値の変化量(ΔTG) の経時変化およびその直線下面積(AUC) への影響を比較し、2E, OT+0.5E, OT+Eの飲料に脂肪負荷後の血中中性脂肪値の上昇抑制効果を確認した。この結果より、重合カテキンが360mg/L(OT+0.5E)以上に強化された場合に効果が認められることが判明した。
【0062】
結果を図2〜4に示す。
【実施例9】
【0063】
飲料のヒト効能評価試験(脂肪排泄促進効果の検証)
健康成人男女12人を対象とし、クロスオーバー試験を実施した。試験飲料は、ポリフェノール強化ウーロン茶(OT+0.7E)、対照飲料としては、カラメルで着色し香料を添加した水を用いた。各試験とも試験飲料10 日間サンプルを継続摂取させ、最後の3日分の便中排泄総脂肪量を比較した。なお、ウォッシュアウト期間は7 日間とした。その結果、ポリフェノール強化ウーロン茶に有意な脂肪排泄促進作用が確認された。
【0064】
結果を図5に示す。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の組成物または茶エキスは、非重合カテキンが除去されているので、苦味・渋味が非重合カテキンの除去前に比べて顕著に低減している。さらに、吸着剤処理によりカフェインも十分に除去されている。そのため、ウーロン茶や緑茶等の茶(茶の抽出物)に添加して、その味を改善するために使用できる。
【0066】
さらに、本発明によれば、本発明の、リパーゼ活性阻害剤、組成物または茶エキスは、顕著なリパーゼ阻害活性を有することが判明した。そのため、ウーロン茶であってもよい飲食品に添加して、食事由来の脂肪の吸収を抑制し、血中中性脂肪の上昇を抑制し、および/または肥満を防止するための添加剤として使用できる。本発明の組成物または茶エキスは、天然由来の物質であるから、安全性も大きく、長期間にわたり、定期的に(例えば、数日おき、毎日もしくは食事毎に)摂取してその効果を発揮させることが可能である。
【0067】
さらに、本発明は、本発明の組成物または茶エキスをリパーゼ阻害の有効成分として含有する、食事由来の脂肪の吸収を抑制し、血中中性脂肪の上昇を抑制し、および/または肥満を防止するための医薬品にも関する。医薬品は好ましくは経口投与に適する剤形、例えば、そのまま服用しても水に溶解して飲んでもよい、粉末剤、散剤もしくは顆粒剤、あるいは錠剤、丸剤、ピル、カプセル剤、トローチ、キャンデー、もしくはチョコレートの形状とすることができる。医薬品中の本発明の組成物または茶エキスの量は、例えば、一回摂取あたり重合カテキンとして67〜5000mgである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
茶から抽出された重合カテキンおよび非重合カテキンを含む抽出物であって、重合カテキンを非重合カテキンよりも多く含有する抽出物。
【請求項2】
重合カテキンの含量が非重合カテキンの少なくとも4倍である、請求項1の抽出物。
【請求項3】
茶がウーロン茶である、請求項1または2の抽出物。
【請求項4】
茶の水性抽出液を吸着剤と接触させることにより得られる、重合カテキンを非重合カテキンよりも多く含む水性液状画分、またはそれを濃縮もしくは乾燥させた形態の抽出物。
【請求項5】
水性液状画分が茶の水性抽出液を50℃以上の液温で吸着剤と接触させることによって得られるものである、請求項4の抽出物。
【請求項6】
重合カテキンの含量が非重合カテキンの少なくとも4倍である、請求項4または5の抽出物。
【請求項7】
茶がウーロン茶である、請求項4〜6のいずれか一項の抽出物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項の抽出物を有効成分とするリパーゼ活性阻害剤。
【請求項9】
食事由来の脂肪の吸収を抑制し、血中中性脂肪の上昇を抑制するために使用する、請求項8のリパーゼ活性阻害剤。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか1項の抽出物を含む飲食品用添加剤。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれか1項の抽出物を含む飲食品。
【請求項12】
健康食品または健康飲料である、請求項11の飲食品。
【請求項13】
茶飲料である、請求項11の飲食品。
【請求項14】
茶抽出物と請求項10の添加剤とが混和されてなる飲料。
【請求項15】
飲料がウーロン茶である、請求項14の飲料。
【請求項16】
重合カテキンを268mg/L以上の濃度で含む飲料。
【請求項17】
重合カテキンを268〜3600mg/Lの濃度で含む、請求項16の飲料。
【請求項18】
非重合カテキンを重合カテキン濃度の4分の1より少ない濃度で含む、請求項16または17の飲料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−97085(P2012−97085A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253704(P2011−253704)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【分割の表示】特願2005−518046(P2005−518046)の分割
【原出願日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(309007911)サントリーホールディングス株式会社 (307)
【Fターム(参考)】