説明

高分子ミセル構造体

【課題】 光力学療法用ポルフィリン化合物を、効率よく、目的細胞中に運搬することが可能で、薬剤として使用しやすい、水中で安定な構造体を提供する。
【解決手段】 一般式〔1〕;


(qはデンドリマー外面の荷電原子の数を示し、cは,荷電であって負(−)または正(+)を示し、PMは、一般式〔2〕;


で表わされ、式中のMは、2個の水素原子または金属原子を示し、R1 、R2 、R3 およびR4 は、水素原子もしくは、同一または別個のアリルエーテルデンドロサブユニットを示し、かつR1 、R2 、R3 およびR4 のうちの少くとも一つは前記アリルエーテルデンドロサブユニットであり、前記アリルエーテルデンドロサブユニットは、一般式〔3〕;


で表わされ、nは整数を示す。)で表わされるイオン性ポルフィリンデンドリマーを包含していることを特徴とする高分子ミセル構造体。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この出願の発明は、高分子ミセル構造体に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、光力学療法に使用されるイオン性ポルフィリンデンドリマーを包含している高分子ミセル構造体に関するものである。
【0002】
【従来の技術とその課題】現在、癌や腫瘍の治療に一般的に用いられている多くの化学薬品や放射線による治療法は、目標箇所以外の組織細胞への影響が大きく、痛み、発熱、嘔吐などの副作用を伴うため、患者に多大な苦痛を与える。また、これらの治療法に用いられる薬剤や放射線が周辺細胞を破壊することによる二次腫瘍も大きな問題となっている。
【0003】そこで近年、癌や腫瘍の治療を目的とした副作用の少ない薬剤や、薬剤を標的箇所である癌細胞へ直接運搬することができるドラッグデリバリーシステムに関する研究が盛んに行われている。
【0004】中でも光力学療法 (Photo Dynamic Treatment)は、紫外線、可視光、赤外光などの光に反応する化合物を体内に取り入れ、標的箇所に光を照射することによって標的箇所を治療する方法であるため、光照射を行なわない場合、あるいは光が照射されない箇所においては、化合物が反応せず、標的箇所、つまり癌細胞のみを選択的に破壊する治療法として注目されている。
【0005】光力学療法では、高い腫瘍親和性をもち、収率よく光励起される光反応性化合物が望まれる。このような光力学療法用光反応性化合物としては、ポルフィリン環を有するポルフィリン化合物が例示される。すなわち、ポルフィリン化合物は、光照射により周囲の酸素分子と反応し、光励起させ、酸化力の強い一重項炭素(Singlet Oxygen)に変換することができ、この一重項酸素が、周辺細胞を酸化し、破壊するのである。
【0006】そこで、ポルフィリン環を結合させたオリゴマー状の化合物や、ポルフィリンに糖鎖やDNA、蛋白質などを結合した化合物が提案され、細胞認識能や腫瘍親和性を高くすることが研究されている。しかし、多くのポルフィリン化合物は、光照射を行なわない状態においても毒性が高く、標的箇所以外の細胞をも破壊してしまうという問題があった。さらに、光反応の反応効率や、腫瘍親和性が低いため、大量の化合物を体内に注入することを必要とする点においても、決して好ましいとは言い難かったのが実状である。
【0007】発明者らは、上記の問題に対して、体内での毒性が小さく、周辺細胞を侵さずに、標的箇所である癌細胞のみを破壊することができるイオン性ポルフィリン化合物を光力学療法用化合物として提供している。しかし、実際には、これらの化合物はデンドリマー構造のままでは、血液への溶解性が十分でなく、イオン性ポルフィリン化合物を光力学療法制癌剤として使用するためには、これらの化合物が血液中で効率よく、安定に存在することが可能で、標的箇所まで確実に運搬されることが必要である。
【0008】そこで、この出願の発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、従来技術の問題点を解消し、光力学療法用ポルフィリン化合物を、効率よく、目的細胞中に運搬することが可能で、薬剤として使用しやすい、水中で安定な高分子ミセル構造体を提供することを課題としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】この出願の発明は、従来技術の問題点を解消するものとして、以下の通りの発明を提供する。
【0010】すなわち、まず第1には、この出願の発明は、一般式〔1〕;
【0011】
【化4】


【0012】(qはデンドリマー外面の荷電原子の数を示し、cは,荷電であって負(−)または正(+)を示し、PMは、次の一般式〔2〕;
【0013】
【化5】


【0014】で表わされ、式中のMは、2個の水素原子または金属原子を示し、R1 、R2 、R3 およびR4 は、水素原子もしくは、同一または別異のアリルエーテルデンドロサブユニットを示し、かつR1 、R2 、R3 およびR4 のうちの少くとも一つはアリルエーテルデンドロサブユニットであり、アリルエーテルデンドロサブユニットは、次の一般式〔3〕;
【0015】
【化6】


【0016】で表わされ、式中のRおよびR' は、各々、同一または別異に、水素原子または炭化水素基を示し、前記の荷電cが負(−)の場合、Wは、アニオン基を示し、荷電cが正(+)の場合、Wは、カチオン基を示し、各々のWは、スペーサー分子鎖を介して結合していてもよく、nは整数を示す。)で表わされるイオン性ポルフィリンデンドリマーを包含していることを特徴とする高分子ミセル構造体を提供する。
【0017】そして、この出願の発明は、第2には、アニオン基が、酸アニオン基である前記の高分子ミセル構造体を、第3には、カチオン基が、次式;
+ (CR1 2 3 3(R1 、R2 、およびR3 は、各々、同一または別異に、炭化水素基を示す。)で表わされる高分子ミセル構造体を、第4には、スペーサー分子鎖が、次式;
C(Z)Z′R4 (CR5 6 m(ZおよびZ′は、各々、同一または別異に、O、S、およびNのうちの一種の原子であり、R4 は、Z′がN原子の場合に炭化水素基であり、R5 およびR6は、同一または別異に水素原子または、炭化水素基を示し、mは0または1以上の整数を示す。)で表わされる高分子ミセル構造体を、第5には、nが25以下の整数である高分子ミセル構造体も提供する。
【0018】また、この出願の発明は、第6には、上記のイオン性ポルフィリンデンドリマーと水溶性のポリアミノ酸系ポリマーとの静電結合型高分子ミセルであることを特徴とする高分子ミセル構造体を提供し、第7には、水溶性のポリアミノ酸系ポリマーが、ポリアルキレングリコールとポリアミノ酸とのブロックコポリマーである高分子ミセル構造体を提供し、第8には、より具体的に、アニオン性ポルフィリンデンドリマーと、水溶性ポリエチレングリコール−ポリL−リシンブロックポリマー(〔PEG−PLL(12−31)〕)との静電結合型高分子ミセルであることを特徴とする高分子ミセル構造体を、第9には、カチオン性ポルフィリンデンドリマーとポリエチレングリコール−ポリL−アスパラギン酸ブロックポリマー(〔PEG−P(Asp)(12−28)〕)との静電結合型高分子ミセルである高分子ミセル構造体を提供する。
【0019】さらに、この出願の発明は、第10に、以上のいずれかの高分子ミセル構造体またはこれを含有する物質を有効成分とする光力学療法剤も提供する。
【0020】
【発明の実施の形態】この出願の高分子ミセル構造体は、前記のとおりの一般式〔1〕で表わされるイオン性ポルフィリンデンドリマーを包含しているものであるが、一般式〔2〕におけるMが金属原子を示す、金属ポルフィリンデンドリマーにおいては、その中心金属はどのようなものであってもよい。中心金属の種類によって、励起状態が異なり、酸素の酸化形態も異なることから、Zn、Mg、Fe、Cu、Co、Ni、Mnなど、様々なものが使用できる。生体中において安定なポルフィリン化合物を形成しながら、一重項酸素を生成することが可能な金属であることが好ましく、とくに光励起状態でのエネルギーが高く、一重項酸素の生成に有利なZnが好ましい。
【0021】また、この出願の発明のポルフィリン化合物は、紫外線、可視光、赤外光などどのような波長領域の光によって励起されるものであってもよいが、好ましくは光源の価格が手ごろで扱いやすい紫外光、あるいは可視光の波長領域で光反応性のあるものである。
【0022】一般式〔2〕におけるR1 、R2 、R3 およびR4 のうちの少くとも一つは一般式〔3〕で表わされるアリルエーテルデンドロサブユニットである。このアリルエーテルデンドロサブユニットでは、前記のRおよびR' が炭化水素基の場合は、好ましくはアルキル基であって、さらには炭素数25以下のアルキル基が適当である。また、前記のWがアニオン基の場合には、たとえば酸アニオン基が適当であって、より具体的には、CO2 - 、PO42- 、MPO4 - 、SO42- 、HSO4 - 、SO3 - 等がその例として挙げられる。Wがカチオン基の場合は、アミノ基もしくはアンモニウム基等であってよく、たとえば前記のとおりのN+ (CR1 2 3 3 で表わされるものの場合、R1 、R2 およびR3 は、アルキル基、より具体的には、炭素数25以下、さらには炭素数10以下のものが例示される。
【0023】Wがアニオン基またはカチオン基の、いずれの場合もスペーサー分子鎖を介してベンゼン環に結合しいてもよい。たとえばこのスペーサー分子鎖としては、前記のとおりのC(Z)Z′R4 (CR5 6 m として示されるものがあるが、R4 、R5 およびR6 が炭化水素基の場合、その炭素数は25以下、さらには10以下のものが例示される。この一般式で表わされるスペーサー分子鎖としては、たとえば−CO−O−(CR5 6 m −、−CO−NR4 −(CR5 6 m −等がある。mは0または1〜25の整数であることが適当である。
【0024】たとえば以上のアリルエーテルデンドロサブユニットにおいては、一般式〔3〕の係数nは特に限定されるものではないが、あまり大きすぎると立体障害により合成が困難となるため、一般的には25以下の整数であることが好ましい。
【0025】イオン性ポルフィリンデンドリマーを包含するこの出願の発明の高分子ミセル構造体は、これらデンドリマーと水溶性のイオン性ポリマーとによる静電結合型高分子ミセルとすることができる。
【0026】この出願の発明においては、より具体的に、このような高分子ミセル構造体として、前記のイオン性ポルフィリンデンドリマーとそれとは反対のイオンを含む水溶性ポリアミノ酸系のポリマーとのものが示される。たとえば、アニオン性ポルフィリンデンドリマーと、水溶性のポリエチレングリコール−ポリ−リシンブロックポリマーとのミセル構造体や、カチオン性ポルフィリンデンドリマーと、水溶性のポリエチレングリコール−ポリ−アスパラギン酸ブロックポリマーとのミセル構造体等である。
【0027】この出願の発明の光力学治療用高分子ミセル構造体は、中心にポルフィリンデンドリマーを有し、リポソームや種々のポリマーなどの薬剤運搬システムとミセルを形成することにより、癌や腫瘍などの標的箇所との親和性を高め、光力学療法用イオン性ポルフィリン化合物を制癌剤として使用しやすくできるものである。
【0028】このとき、静電結合させる化合物は、該ポルフィリンデンドリマーの外面の基とイオン結合し、安定なミセルを形成し、ポルフィリンデンドリマーの光反応を阻害しないもの(照射光の波長領域に吸収を持たないもの)で、かつ生体内において毒性を示さないものであればどのようなものであってもよいが、該ポルフィリンデンドリマーの外面の荷電が負(−)のとき、この出願の発明の光力学治療用高分子ミセル構造体は、前記のように、アニオン性のポルフィリンデンドリマーと水溶性ポリエチレングリコール−ポリL−リシンブロックポリマー(〔PEG−PLL(12−31)〕からなるものであることが好ましい。一方、該ポルフィリンデンドリマーの外面の荷電が正(+)のとき、この出願の発明の光力学治療用高分子ミセル構造体は、前記のように、カチオン性のポルフィリンデンドリマーとポリエチレングリコール−ポリ−L−アスパラギン酸ブロックポリマー(〔PEG−P(Asp)(12−28)〕)からなるものであることが好ましい。
【0029】この出願の発明の光力学治療用高分子ミセル構造体において、包含されるイオン性ポルフィリンデンドリマーは、デンドリマー中心から外に向かって合成するDivergent 法(D.A.Tomalia, et.al., Polymer J., 17, 117(1985))やデンドリマー外から中心に向かって合成するConvergent法(C.Hawker, et.al.,J.Chem.Soc.Chem.Commun., 1990, 1010)等の公知の方法により合成できる。より好ましくは、反応の繰り返しにより、デンドリマーを成長させることが可能なDivergent 法である。
【0030】具体的には、この出願の発明のイオン性ポルフィリンデンドリマーでは、イオン性基を含んだベンジルブロマイドに、デンドリマーのモノマーである3,5-ジヒドロキシベンジルアルコールを反応させ、次いでベンジルアルコールの−OH基をブロモ化し、これに3,5-ジヒドロキシベンジルアルコールを反応させる操作を繰り返すことによってデンドリマー部を得ることができる。このデンドリマー部とポルフィリン誘導体を反応させ、金属を導入することにより、イオン性ポルフィリンデンドリマーが得られる。
【0031】さらに、この出願の発明の高分子ミセル構造体において、ポルフィリンデンドリマーとの結合によりミセル構造体を形成する高分子電解質化合物は、前記のものに限定されることなく、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、ポリリシン、ポリアルギニン、ポリヒスチジン等のポリアミノ酸をpH調節によりアニオン性、両性、カチオン性を示すようにした高分子や、ポリリンゴ酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸等のポリアリルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニル硫酸等のアニオン性高分子、またポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリビニルイミダゾール等のカチオン性高分子等が例示される。さらに、これらのイオン性高分子と非イオン性で水溶性のポリマーとのブロック共重合体も有用に使用できる。これらイオン性ブロック共重合体は生体親和性に優れており、高分子電解質としてとくに好ましい。
【0032】以下実施例を示し、この発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する.
【0033】
【実施例】参考例 <ポルフィリンデンドリマーの合成>化学式[4a]にしたがってデンドロンモノマーを合成し、[4b]にしたがってデンドロンを合成した。得られたデンドロンとポルフィリン誘導体をK2 CO3 存在下で反応させ、得られたポルフィリンデンドリマーにZn(OAc)2を反応させてポルフィリン中心にZnを導入した(化学式[5])。さらに、KOH水溶液によりアニオン性デンドロン末端をCOO- としてアニオン性ポルフィリンデンドリマー([32(-)(L3)4PZn] )を得た。
【0034】さらに(CH3 2 NCH2 CH2 NH2 を反応させ、CH3 I、イオン交換を経て末端にCONH(CH2 )N2 (CH3 2 を有するカチオン性ポルフィリンデンドリマー([32(+)(L3)4PZn] )を得た。
【0035】
【化7】


【0036】
【化8】


【0037】実施例1 <アニオン性ポルフィリンデンドリマー[32(-)(L3)4PZn] と水溶液ポリエチレングリコール−ポリL−リシンブロックポリマー[PEG-PLL(12-31)]の静電結合型高分子ミセルの形成>〔PEG-PLL(12-31)(分子量12000g/molのPEGブロックと31リシン単位のポリリシンブロックからなる)を濃度10mMとなるように、NaH3PO3 に溶解した。
【0038】また、一般式〔1〕〔2〕〔3〕においてMが金属の亜鉛(Zn)原子を示し、RおよびR1 が水素原子を、Wがアニオン基(X=CO2 - ) を示し、nが3を示して、次式
【0039】
【化9】


【0040】として表わされ、また、〔32(-)(L3)4PZn 〕として表わされるポルフィリンデンドリマーを濃度10mMとなるように、NaH3 PO4 に溶解し、NaOH(160μl、0.1N)を添加して完全に溶解した。
【0041】得られた溶液は透明で、数日後も保持された。pHは7.29で、〔32(-)(L3) 4 PZn 〕は、単独ではこのpH領域で不溶であった。透明液中では、静電結合による〔32(-)(L3) 4 PZn 〕と[PEG-PLL(12-31)]の高分子ミセル構造体が生成し、その直径を動的光散乱測定より測定したところ、120nmであることが分かった。
【0042】さらに、この[32(-)(L3) 4 PZn] と[PEG-PLL(12-31)]の静電結合型高分子ミセルのりん酸緩衝液(PBS)を50μlの溶媒および50μlの肺癌細胞(LewisLung Carcinoma, 50000 cells/ml)に加え、試験液を調製した。これに波長380〜700nmの光を10分間照射し、37℃で48時間培養した後、MTTアッセイ試験法(Mitochondrion Respiration Test)で肺癌腫細胞の存在率を測定した。
【0043】比較例1実施例1と同様の方法で、静電結合型高分子ミセルの代わりに、アニオン性ポルフィリンデンドリマー〔32(-)(L3) 4 PZn 〕を含む試験液を調製し、細胞活性試験を行なった。
【0044】実施例1および比較例1の細胞活性試験の結果を図1に示した。48時間培養後に、導入した癌腫細胞の存在率が50%になる薬剤の量(Effective Dose: ED50)は、本発明の高分子ミセル構造体では2×10-7であった(実施例1)。また、ミセルを形成しているポルフィリンデンドリマーは、高分子ミセル構造体ではないポルフィリンデンドリマーと比べて、光照射による破滅効果が大幅に上昇することが確認された。
【0045】実施例2 <カチオン性ポルフィリンデンドリマー[32(+)(L3)4PZn] と水溶性ポリエチレングリコールポリL−アスパラルギン酸ブロックポリマー[PEG-P(Asp)(12-28)] との静電結合型高分子ミセルの形成>実施例1の[PEG-PLL(12-31)]の代りに[PEG-P(Asp)(12-28)] (分子量12000g/molブロックと28アスパラギン酸単位のポリアスパラギン酸ブロックからなる)を用い、〔32(-)(L3)4PZn 〕の代わりに、Wがカチオン(Y=N+ (CH3 3 )を示し、スペーサー分子鎖−CO−(CH2 2 −を介して結合しており、nが3を示して、次式
【0046】
【化10】


【0047】として表わされ、また、〔32(+)(L3)4PZn]としても表わされるポルフィリンデンドリマーを用いて同様の条件で両者を混合した。得られた溶液は透明であり、数日後も保持された。pHは6.37であった。さらに透明液中では、〔32(+)(L3)4PZn 〕と〔PEG-P(Asp)(12-28) 〕の静電結合による複合体ミセルが生成し、その直径は、動的光散乱測定より116.5nmであることが明らかとなった。
【0048】さらに、この〔32(+)(L3)4PZn 〕と〔PEG-P(Asp)(12-28) 〕の静電結合による複合体ミセルのりん酸緩衝液(PBS)を50μlの溶媒および50μlの肺癌細胞(Lewis Lung Carcinoma, 50000 cells/ml)に加え、試験液を調製した。これに波長380〜700nmの光を10分間照射し、37℃で48時間培養した後、MTTアッセイ試験法(Mitochondrion Respiration Test)で肺癌腫細胞の存在率を測定した。
【0049】比較例2、3該ミセルの試験液に10分間の光照射を施さない場合についても、同様に試験した(比較例2)。また、実施例2と同様の方法で、静電結合型高分子ミセルの代わりに、カチオン性ポルフィリンデンドリマー〔32(+)(L3) 4 PZn 〕を含む試験液を調製し、細胞活性試験を行なった(比較例3)。
【0050】実施例2および比較例2〜3の細胞活性試験の結果を図2に示した。48時間培養後に、 ED50 は、〔32(+)(L3)4PZn 〕と〔PEG-P(Asp)(12-28) 〕の静電結合による高分子ミセル構造体では1.9×10-7であった(実施例2)。未照射のミセル(比較例2)との比較より、該ポルフィリンデンドリマーの光照射による癌腫破滅効果が大幅に上昇することが確認された。さらに、〔32(+)(L3)4PZn 〕のみの場合(比較例3)との比較より、高分子ミセル構造体を形成することによって未照射下での光力学療法用化合物としての安全性が高まることが明らかになった。
【0051】もちろん、この発明は以上の例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることは言うまでもない。
【0052】
【発明の効果】以上詳しく説明した通り、この出願の発明によって、癌細胞などの標的細胞のみを破壊することのできる、光力学療法用ポルフィリン化合物を含有し、効率よく目的細胞中に運搬することが可能で、薬剤として使用しやすい、水中で安定な光力学療法用高分子ミセル構造体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】この出願の発明の実施例において、静電結合型高分子ミセルおよびアニオン性ポルフィリンデンドリマーをそれぞれ添加した際の光照射時の癌細胞の生存率を示すグラフである。
【図2】この出願の発明の実施例において、静電結合型高分子ミセルを添加した際の光照射時および光未照射時、並びにカチオン性ポルフィリンデンドリマーを添加した際の光未照射時の癌細胞の生存率を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 一般式〔1〕
【化1】


(qはデンドリマー外面の荷電原子の数を示し、cは,荷電であって負(−)または正(+)を示し、PMは、次の一般式〔2〕;
【化2】


で表わされ、式中のMは、2個の水素原子または金属原子を示し、R1 、R2 、R3 およびR4 は、水素原子もしくは、同一または別異のアリルエーテルデンドロサブユニットを示し、かつR1 、R2 、R3 およびR4 のうちの少くとも一つはアリルエーテルデンドロサブユニットであり、アリルエーテルデンドロサブユニットは、次の一般式〔3〕;
【化3】


で表わされ、式中のRおよびR' は、各々、同一または別異に、水素原子または炭化水素基を示し、前記の荷電cが負(−)の場合、Wは、アニオン基を示し、荷電cが正(+)の場合、Wは、カチオン基を示し、各々のWは、スペーサー分子鎖を介して結合していてもよく、nは整数を示す。)で表わされるイオン性ポルフィリンデンドリマーを包含していることを特徴とする高分子ミセル構造体。
【請求項2】 アニオン基が、酸アニオン基である請求項1の高分子ミセル構造体。
【請求項3】 カチオン基が、次式;
+ (CR1 2 3 3(R1 、R2 、およびR3 は、各々、同一または別異に、炭化水素基を示す。)で表わされる請求項1の高分子ミセル構造体。
【請求項4】 スペーサー分子鎖が、次式;
C(Z)Z′R4 (CR5 6 m(ZおよびZ′は、各々、同一または別異に、O、S、およびNのうちの一種の原子であり、R4 は、Z′がN原子の場合に炭化水素基であり、R5 およびR6は、同一または別異に水素原子または炭化水素基を示し、mは0または1以上の整数を示す。)で表わされる請求項1ないし3のいずれかの高分子ミセル構造体。
【請求項5】 nが25以下の整数である請求項1ないし4のいずれかの高分子ミセル構造体。
【請求項6】 イオン性ポルフィリンデンドリマーと水溶性のポリアミノ酸系ポリマーとの静電結合型高分子ミセルであることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかの高分子ミセル構造体。
【請求項7】 水溶性のポリアミノ酸系ポリマーが、ポリアルキレングリコールとポリアミノ酸とのブロックコポリマーである請求項6の高分子ミセル構造体。
【請求項8】 アニオン性ポルフィリンデンドリマーと、水溶性ポリエチレングリコール−ポリL−リシンブロックポリマー(〔PEG−PLL(12−31)〕)との静電結合型高分子ミセルであることを特徴とする請求項7の高分子ミセル構造体。
【請求項9】 カチオン性ポルフィリンデンドリマーとポリエチレングリコール−ポリL−アスパラギン酸ブロックポリマー(〔PEG−P(Asp)(12−28)〕)との静電結合型高分子ミセルであることを特徴とする請求項7の高分子ミセル構造体。
【請求項10】 請求項1ないし9のいずれかの高分子ミセル構造体、もしくはこれを含有する物質を有効成分とすることを特徴とする光力学療法剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2001−206885(P2001−206885A)
【公開日】平成13年7月31日(2001.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−17662(P2000−17662)
【出願日】平成12年1月26日(2000.1.26)
【出願人】(396020800)科学技術振興事業団 (35)
【Fターム(参考)】