説明

高分子リニアアクチュエータ

【課題】簡単な構成で、小型な高分子リニアアクチュエータを提供すること。
【解決手段】含水状態または含イオン流体状態のイオン交換樹脂に対向電極を形成し、対向電極に電圧を印加することで、イオン交換樹脂120の形状を変形させる高分子リニアアクチュエータ100であって、イオン交換樹脂120の断面形状は、高分子リニアアクチュエータ100が変形する方向に沿う駆動軸A−A’に関して線対称な中空円筒形状であり、イオン交換樹脂120の内壁部及び外壁部にそれぞれ形成された電極を有し、内壁部に形成された内壁電極140と外壁部に形成された外壁電極130、131、132、133との少なくともいずれか一方の電極は、駆動軸A−A’に関して線対称な位置において分割され、内壁部と外壁部の少なくともいずれか一方において、中空円筒形状の周方向に沿った方向に電位の分布を持たせたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子リニアアクチュエータ、特にイオン交換樹脂を用いた高分子リニアアクチュエータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、医療機器、産業用ロボット及びマイクロマシン等の分野において、多種多様な動作原理を応用したアクチュエータが研究開発されている。こうした中で注目されているアクチュエータの一つに、高分子アクチュエータがある。高分子アクチュエータは、含水状態のイオン交換樹脂の表面に電極を形成し、電圧の印加により屈曲変形させる構成を有している。高分子アクチュエータは、柔軟な駆動様態であるため、人工筋肉と呼ばれている。そして、高分子アクチュエータは、今後、様々な分野での応用が期待されている。
【0003】
高分子アクチュエータの変形様態は、その基本動作原理に基づいて、屈曲変形となる。このような、屈曲変形の特性を生かし、高分子アクチュエータを能動カテーテル、または人工臓器として用いる等の提案が数多くなされている。
【0004】
ここで、アクチュエータの適応対象によっては、屈曲変形では不都合を生ずることがある。例えば、アクチュエータが変形することで、可動部材を駆動する方向が1軸方向である、所謂リニアアクチュエータを用いることが望まれることもある。
【0005】
例えば、特許文献1には、高分子アクチュエータの屈曲運動を直動運動に変換する構成が開示されている。特許文献1によると、一対の対向した高分子アクチュエータを、絶縁部材を介して配置している。これにより、リニア駆動する高分子リニアアクチュエータの構成を実現している。
【0006】
【特許文献1】特開2004−314219号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば、マイクロマシン等の分野で用いられるアクチュエータは、サイズが数ミリメートル、駆動量が数百マイクロメートルという仕様が求められる。しかしながら、特許文献1で提案されているアクチュエータは、複雑な構成を有している。このため、特許文献1に開示された構成では、小型のリニアアクチュエータを製造することは困難である。
【0008】
また、特許文献1では、各々対向したアクチュエータは、全く同一の構成とする必要がある。しかしながら、実際は、製造誤差や絶縁部材との接着誤差等により、対向するアクチュエータどうしを全く同一の構成とすることは困難である。対向するアクチュエータどうしが同一の構成ではないとき、アクチュエータ全体は、リニアな駆動、即ち直線運動ではなく、その軌跡が曲線を描く屈曲運動を生じてしまう。このため、特許文献1に開示された構成では、簡便に直線運動を得ることは困難である。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、簡単な構成で、小型な高分子リニアアクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、第1の本発明によれば、含水状態または含イオン流体状態のイオン交換樹脂に対向電極を形成し、対向電極に電圧を印加することで、イオン交換樹脂の形状を変形させる高分子リニアアクチュエータであって、イオン交換樹脂の断面形状は、高分子リニアアクチュエータが変形する方向に沿う駆動軸に関して線対称(軸対称)な中空円筒形状または中空多角柱形状であり、イオン交換樹脂の内壁部及び外壁部にそれぞれ形成された電極を有し、内壁部に形成された電極と外壁部に形成された電極との少なくともいずれか一方の電極は、駆動軸に関して線対称な位置において分割され、内壁部と外壁部の少なくともいずれか一方において、中空円筒形状の周方向または中空多角柱形状の辺に沿った方向に電位の分布を持たせたことを特徴とする高分子リニアアクチュエータを提供できる。
【0011】
また、第2の本発明によれば、含水状態または含イオン流体状態のイオン交換樹脂に対向電極を形成し、対向電極に電圧を印加することで、イオン交換樹脂の形状を変形させる高分子リニアアクチュエータであって、イオン交換樹脂の断面形状は、高分子リニアアクチュエータが変形する方向に沿う駆動軸に関して線対称な中空円筒形状または中空多角柱形状であり、イオン交換樹脂の内壁部及び外壁部にそれぞれ形成された電極を有し、内壁部と外壁部の少なくともいずれか一方において、駆動軸に関して線対称な位置に電極を形成しない非電極形成領域を設けたことを特徴とする高分子リニアアクチュエータを提供できる。
【0012】
また、本発明の好ましい態様によれば、駆動軸上に、高分子リニアアクチュエータと固定部材とを接続する支持点と、高分子リニアアクチュエータと可動部材とを接続する接続点と、を設けたことが望ましい。
【発明の効果】
【0013】
第1の本発明に係る高分子リニアアクチュエータは、含水状態または含イオン流体状態のイオン交換樹脂に対向電極を有している。対向電極に電圧を印加することで、イオン交換樹脂の形状を変形させる。イオン交換樹脂の断面形状は、高分子リニアアクチュエータが変形する方向に沿う駆動軸に関して線対称な中空円筒形状または中空多角柱形状である。イオン交換樹脂の内壁部及び外壁部に、それぞれ形成された電極を有している。また、内壁部に形成された電極と外壁部に形成された電極との少なくともいずれか一方の電極は、駆動軸に関して線対称な位置において分割されている。これにより、内壁部に形成された電極と外壁部に形成された電極との少なくともいずれか一方の電極は、駆動軸に関して線対称な位置に形成される構成となる。そして、内壁部と外壁部の少なくともいずれか一方において、中空円筒形状の周方向または中空多角柱形状の辺に沿った方向に電位の分布を持たせている。このような構成により、内壁部に形成された電極と、外壁部に形成された電極との間に電圧を印加する。電位分布は、中空円筒形状の周方向または中空多角柱形状の辺に沿った方向に生ずる。同時に、電位分布は、駆動軸に関して線対称な位置に生ずる。また、電圧の印加により、イオン交換樹脂内の陽イオンと水分子とが移動する。これにより、外壁側と内壁側との間に膨潤差が発生する。そして、印加電圧の大きさに応じて、駆動軸に関して線対称な位置において、外壁側及び内壁側に伸びまたは縮みを生ずる。従って、高分子リニアアクチュエータは駆動軸に沿って変形する。この結果、簡単な構成で、小型な高分子リニアアクチュエータを提供することができる。
【0014】
また、第2の本発明に係る高分子リニアアクチュエータは、内壁部と外壁部の少なくともいずれか一方において、駆動軸に関して線対称な位置に電極を形成しない非電極形成領域を有している。この構成により、電位分布は、中空円筒形状の周方向または中空多角柱形状の辺に沿った方向に生ずる。同時に、電位分布は、駆動軸に関して線対称な位置に生ずる。同時に、電位分布は、駆動軸に関して線対称な位置に生ずる。また、電圧の印加により、イオン交換樹脂内の陽イオンと水分子とが移動する。これにより、外壁側と内壁側との間に膨潤差が発生する。そして、印加電圧の大きさに応じて、駆動軸に関して線対称な位置において、外壁側及び内壁側に伸びまたは縮みを生ずる。従って、高分子リニアアクチュエータは駆動軸に沿って変形する。この結果、簡単な構成で、小型な高分子リニアアクチュエータを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係る高分子リニアアクチュエータの実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例により、この発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0016】
図1は、本発明の実施例1に係る高分子リニアアクチュエータの斜視構成を示す。図1に示すように、高分子リニアアクチュエータ100は、中空円筒形状に成形された含水状態のイオン交換樹脂120を有している。また、イオン交換樹脂120は、含イオン流体状態の材料で構成することもできる。
【0017】
イオン交換樹脂120の外壁部(中空円筒の外周部)には、外壁電極130、131、132、133が形成されている。外壁部に形成された外壁電極130、131、132、133は、後述する駆動軸A−A’に関して線対称な位置において、4ヶ所の溝150で分割されている。また、イオン交換樹脂120の内壁部(中空円筒の内周部)には、全周囲にわたって内壁電極140が形成されている。
【0018】
図2は、高分子リニアアクチュエータ100を駆動するための電源を接続した状態の斜視構成を示す。高分子リニアアクチュエータ100の外壁電極130、131と内壁電極140との間に、駆動用可変電源162を接続する。駆動用可変電源162は、外壁電極130、131と内壁電極140との間に任意の電圧を印加する。
【0019】
また、高分子リニアアクチュエータ100の外壁電極132、133と内壁電極140との間に、駆動用可変電源163を接続する。駆動用可変電源163は、外壁電極132、133と内壁電極140との間に任意の電圧を印加する。
【0020】
図3は、高分子リニアアクチュエータ100を側面から見た断面形状の構成を示す。図3において、高分子リニアアクチュエータ100の形状が変化する方向、即ち駆動方向を駆動軸A−A’として示す。イオン交換樹脂120の断面形状は、高分子リニアアクチュエータ100が変形する方向に沿う駆動軸A−A’に関して線対称な中空円筒形状である。また、外壁部に形成された外壁電極130、131、132、133は、駆動軸A−A’に関して線対称な位置において、4ヶ所の溝150で分割されている。これにより、外壁電極130、131、132、133は、駆動軸A−A’に関して線対称な位置に形成される構成となる。
【0021】
高分子リニアアクチュエータ100の外周部の図3における下端部分は、固定部材180と支持点160aで支持、固定されている。なお、高分子リニアアクチュエータ100の内周部の図3における下端部分を、固定部材(不図示)と支持点160bで支持、固定する構成でも良い。
【0022】
また、高分子リニアアクチュエータ100の外周部の図3における上端部分は、可動部材190と接続点161aで当接している。高分子リニアアクチュエータ100の内周部の図3における上端部分を、可動部材(不図示)と接続点161bで当接する構成でも良い。可動部材190は、高分子リニアアクチュエータ100が駆動する対象物である。
【0023】
ここで、駆動用可変電源162、163により、内壁電極140と外壁電極130、131、132、133間に電圧を印加する。これにより、イオン交換樹脂120内で陽イオン170が移動する。同時に、陽イオン170の移動に応じて極性分子である水分子も移動する。図3において、水分子の図示は省略する。陽イオン170及び水分子は陰極側に移動する。このため、電圧に応じて外壁部と内壁部に膨潤差が生ずる。この結果、外壁部及び内壁部に伸びまたは縮みが生じる。
【0024】
例えば、駆動用可変電源162により、内壁電極140に対し外壁電極130、131へ正電圧を印加する場合を考える。このとき、駆動用可変電源163は、内壁電極140に対し外壁電極132、133へ負電圧を印加するように構成する。これにより、図3に示すように、外壁電極130及び外壁電極131の近傍領域では、陽イオン170及び水分子は内壁側へ移動する。また、外壁電極132及び外壁電極133の近傍領域では、陽イオン170及び水分子は外壁側へ移動する。このため、図3の矢印で示すように、外壁電極130及び外壁電極131の近傍領域では、中空円筒形状の周方向に沿って、駆動軸A−A’に関して線対称な位置において、内壁部に伸びを生ずる。また、外壁電極132及び外壁電極133の近傍領域では、中空円筒形状の周方向に沿って、駆動軸A−A’に関して線対称な位置において、外壁部に伸びを生ずる。
【0025】
図4は、高分子リニアアクチュエータ100の変形の様子を示す。図4において、電圧印加前(変形前)の状態を破線、電圧印加後(変形後)の状態を実線でそれぞれ示す。高分子リニアアクチュエータ100は、駆動軸A−A’に沿って変形量dだけ伸びる方向に変形する。このように、高分子リニアアクチュエータ100は、駆動軸A−A’に沿った方向に伸縮するリニアアクチュエータとして動作する。ここで、高分子リニアアクチュエータ100は、支持点160aにおいて固定部材180に固定されている。このため、高分子リニアアクチュエータ100は、接続点161aで当接している可動部材190をリニア駆動することができる。
【0026】
これに対して、駆動用可変電源162により、内壁電極140に対し外壁電極130、131へ負電圧を印加する場合を考える。このとき、駆動用可変電源163は、内壁電極140に対し外壁電極132、133へ正電圧を印加するように構成する。これにより、外壁電極130及び外壁電極131の近傍領域では、陽イオン及び水分子は外壁側へ移動する。また、外壁電極132及び外壁電極133の近傍領域では、陽イオン及び水分子は内壁側へ移動する。このため、外壁電極130及び外壁電極131の近傍領域では、中空円筒形状の周方向に沿って、駆動軸A−A’に関して線対称な位置において、外壁部に伸びを生ずる。また、外壁電極132及び外壁電極133の近傍領域では、中空円筒形状の周方向に沿って、駆動軸A−A’に関して線対称な位置において、内壁部に伸びを生ずる。この結果、高分子リニアアクチュエータ100は、駆動軸A−A’に沿って変形量dだけ縮む方向に変形する。
【0027】
また、陽イオン170及び水分子の移動量は、印加電圧に対応している。このため、駆動用可変電源162、163により印加電圧を制御することで、高分子リニアアクチュエータ100の変形量dを制御できる。
【0028】
印加電圧の制御方法としては、例えば、以下の(1)〜(4)のような方法を用いることができる。
(1)一定電圧の電圧値を変化させる定電圧制御方法、
(2)一定電流の電流値を変化させる定電流制御方法、
(3)矩形波のデューティー比を変化させるPWM(Pulse Width Modulation)制御方法、
(4)オフセット値と周期波形とを重畳させ、波高値を変化させるオフセット交流制御。なお、これらの方法に限られず、他の制御方法を用いることもできる。
【0029】
なお、イオン交換樹脂120に含水されている素材は、水に限るものではない。例えば、極性をもつ分子構造であれば、イオン流体等の液体でも良い。
【0030】
また、本発明の理解を深めるために、所望の駆動軸の方向へ変形しないアクチュエータの3つの構成例を図5、図6、図7に基づいて説明する。いずれの構成例も、所望の駆動軸A−A’に沿った方向へはリニアに駆動しない例を示す。図5に示す構成例では、外壁部に形成された外壁電極230、231、232、233は、駆動軸A−A’に関して非対称な位置において分割されている。このため、高分子アクチュエータ200は駆動軸A−A’には沿わずに軸外、即ち軸B−B’に沿った方向に変化してしまう。この結果、高分子アクチュエータ200は、所望の機能を満足しない。また、図6に示す構成例では、外壁電極230、231、232、233は、駆動軸A−A’に関して非対称かつ不等間隔な位置において分割されている。このため、高分子アクチュエータ200は駆動軸A−A’には沿わずに軸外に沿った方向に変化してしまう。この結果、高分子アクチュエータ200は、リニアアクチュエータとしての機能を満足しない。
【0031】
また、図7は、所望の駆動軸A−A’に沿った方向へはリニアに駆動しない他の例を示す。高分子リニアアクチュエータ200の外壁電極230、231、232、233は、駆動軸A−A’に対して、線対称に形成されている。そして、外壁電極230、231、232、233の分割点に対応する溝250が、駆動軸A−A’上の2箇所と、駆動軸A−A’外の2箇所に形成されている。このとき、高分子アクチュエータ200は駆動軸A−A’には沿わずに軸外、即ち軸B−B’に沿った方向に変化してしまう。この結果、高分子アクチュエータ200は、所望の機能を満足しない。
【0032】
(製造方法)
次に、高分子リニアアクチュエータ100の製造方法を説明する。図8は、高分子リニアアクチュエータ100の製造手順を示す図である。図8の(a)において、イオン交換樹脂120を中空の円筒チューブ状に成形する。図8の(b)において、メッキ等の方法によりイオン交換樹脂120の外壁部及び内壁部に外壁電極130及び内壁電極140を形成する。次に、図8の(c)において、レーザー加工やエッチング法を用いて外壁電極130に溝150を形成する。溝150により、外壁電極130は分割される。そして、図8の(d)において、必要な厚さに切断する。これにより、高分子リニアアクチュエータ100を、容易に、大量かつ安価に製造できる。
【0033】
(第1の変形例)
図9は、本実施例の第1の変形例に係る高分子リニアアクチュエータ300を側面から見た断面形状の構成を示す。図9において、高分子リニアアクチュエータ300の形状が変化する方向、即ち駆動方向を駆動軸A−A’として示す。イオン交換樹脂120の断面形状は、駆動軸A−A’に関して線対称な中空円筒形状である。
【0034】
本変形例では、イオン交換樹脂120の外壁部に形成された外壁電極330、331、332、333は、駆動軸A−A’に関して線対称な位置において、4ヶ所の溝350で分割されている。そして、外壁電極332の大きさと、外壁電極333の大きさとが異なっている。また、内壁部には、全周囲にわたって内壁電極340が形成されている。このような構成においても、実施例1と同様の原理により、高分子リニアアクチュエータ300は、駆動軸A−A’に沿った方向に変形する。このため、高分子リニアアクチュエータ300は、駆動軸A−A’に沿った方向に伸縮するリニアアクチュエータとして動作する。
【0035】
(第2の変形例)
図10は、本実施例の第2の変形例に係る高分子リニアアクチュエータ400を側面から見た断面形状の構成を示す。図10において、高分子リニアアクチュエータ400の形状が変化する方向、即ち駆動方向を駆動軸A−A’として示す。イオン交換樹脂120の断面形状は、駆動軸A−A’に関して線対称な中空円筒形状である。
【0036】
本変形例では、イオン交換樹脂120の外壁部には、全周囲にわたって外壁電極430が形成されている。また、内壁部に形成された内壁電極440、441、442、443は、駆動軸A−A’に関して線対称な位置において、4ヶ所の溝450で分割されている。このような構成においても、実施例1と同様の原理により、高分子リニアアクチュエータ400は、駆動軸A−A’に沿った方向に変形する。このため、高分子リニアアクチュエータ400は、駆動軸A−A’に沿った方向に伸縮するリニアアクチュエータとして動作する。
【0037】
(第3の変形例)
図11は、本実施例の第3の変形例に係る高分子リニアアクチュエータ500を側面から見た断面形状の構成を示す。図11において、高分子リニアアクチュエータ500の形状が変化する方向、即ち駆動方向を駆動軸A−A’として示す。イオン交換樹脂120の断面形状は、駆動軸A−A’に関して線対称な中空円筒形状である。
【0038】
本変形例では、イオン交換樹脂120の外壁部に形成された外壁電極530、531、532、533は、駆動軸A−A’に関して線対称な位置において、4ヶ所の溝550で分割されている。また、内壁部に形成された内壁電極540、541、542、543は、駆動軸A−A’に関して線対称な位置において、4ヶ所の溝551で分割されている。このような構成においても、実施例1と同様の原理により、高分子リニアアクチュエータ500は、駆動軸A−A’に沿った方向に変形する。このため、高分子リニアアクチュエータ500は、駆動軸A−A’に沿った方向に伸縮するリニアアクチュエータとして動作する。
【0039】
なお、第3の変形例では、内壁電極540、541及び外壁電極530、531の電極対において、外壁電極530、531に対して正電圧を印加する。また、内壁電極542、543及び外壁電極532、533の電極対において、内壁電極542、543に対して正電圧を印加する。各電極に対する印加電圧をこのように構成すると、高分子リニアアクチュエータ500は、駆動軸A−A’に沿って伸びる方向に変形する。一方、内壁電極540、541及び外壁電極530、531の電極対において、外壁電極530、531を接地し、内壁電極540、541に対して正電圧を印加する。また、内壁電極542、543及び外壁電極532、533の電極対において、内壁電極542、543を接地し、外壁電極532、533に対し正電圧を印加する。各電極に対する印加電圧をこのように構成すると、高分子リニアアクチュエータ500は、駆動軸A−A’に沿って縮む方向に変形する。このように単極性、例えば正の極性の電源のみを用いて高分子リニアアクチュエータ500を駆動軸A−A’に沿って伸縮させることができる。
【0040】
(第4の変形例)
図12は、本実施例の第4の変形例に係る高分子リニアアクチュエータ600を側面から見た断面形状の構成を示す。図12において、高分子リニアアクチュエータ600の形状が変化する方向、即ち駆動方向を駆動軸A−A’として示す。イオン交換樹脂120の断面形状は、駆動軸A−A’に関して線対称な中空多角形形状、例えば中空八角形形状である。
【0041】
本変形例では、イオン交換樹脂120の外壁部に形成された外壁電極630、631、632、633は、駆動軸A−A’に関して線対称な位置において、4ヶ所の溝650で分割されている。また、内壁部には、全周囲にわたって内壁電極640が形成されている。このような構成においても、実施例1と同様の原理により、高分子リニアアクチュエータ600は、駆動軸A−A’に沿った方向に変形する。このため、高分子リニアアクチュエータ600は、駆動軸A−A’に沿った方向に伸縮するリニアアクチュエータとして動作する。
【実施例2】
【0042】
図13は、本発明の実施例2に係る高分子リニアアクチュエータの斜視構成を示す。図13に示すように、高分子リニアアクチュエータ700は、中空円筒形状に成形された含水状態のイオン交換樹脂120を有している。また、イオン交換樹脂120は、含イオン流体状態の材料で構成することもできる。
【0043】
イオン交換樹脂120の外壁部(中空円筒の外周部)には、外壁電極730、731が形成されている。さらに、外壁部には、駆動軸A−A’に関して線対称な位置に、電極を形成していない非電極形成領域780、781が設けられている。また、イオン交換樹脂120の内壁部(中空円筒の内周部)には、全周囲にわたって内壁電極740が形成されている。
【0044】
図14は、高分子リニアアクチュエータ700を駆動するための電源を接続した状態の斜視構成を示す。高分子リニアアクチュエータ700の外壁電極730、731と内壁電極740との間に、駆動用可変電源760を接続する。駆動用可変電源760は、外壁電極730、731と内壁電極740との間に任意の電圧を印加する。
【0045】
図15は、高分子リニアアクチュエータ700を側面から見た断面形状の構成を示す。図15において、高分子リニアアクチュエータ700の形状が変化する方向、即ち駆動方向を駆動軸A−A’として示す。イオン交換樹脂120の断面形状は、高分子リニアアクチュエータ700が変形する方向に沿う駆動軸A−A’に関して線対称な中空円筒形状である。また、非電極形成領域780、781は、外壁部の駆動軸A−A’に関して線対称な位置に形成されている。
【0046】
高分子リニアアクチュエータ700の外周部の図15における下端部分は、固定部材180と支持点160aで支持、固定されている。なお、高分子リニアアクチュエータ700の内周部の図15における下端部分を、固定部材(不図示)と支持点160bで支持、固定する構成でも良い。
【0047】
また、高分子リニアアクチュエータ700の外周部の図15における上端部分は、可動部材190と接続点161aで当接している。高分子リニアアクチュエータ700の内周部の図15における上端部分を、可動部材(不図示)と接続点161bで当接する構成でも良い。可動部材190は、高分子リニアアクチュエータ700が駆動する対象物である。
【0048】
ここで、駆動用可変電源760により、内壁電極740と外壁電極730、731との間に電圧を印加する。これにより、イオン交換樹脂120内で陽イオン170が移動する。同時に、陽イオン170の移動に応じて極性分子である水分子(不図示)も移動する。陽イオン及び水分子は陰極側に移動する。このため、電圧に応じて外壁部と内壁部に膨潤差が生ずる。この結果、外壁部及び内壁部に伸びまたは縮みが生じる。
【0049】
例えば、駆動用可変電源760により、内壁電極740に対し、外壁電極730、731へ正電圧を印加する場合を考える。これにより、図15に示すように、外壁電極730及び外壁電極731の近傍領域では、陽イオン170及び水分子は内壁側へ移動する。また、非電極形成領域780及び非電極形成領域781の近傍領域では、電界の影響が少ないので、陽イオン170及び水分子の移動は殆ど移動しない。この結果、図15中に矢印で示すように外壁電極730及び731の近傍領域では、駆動軸A−A’に関して線対称な位置において内壁側に伸びが生じる。このため、高分子リニアアクチュエータ700は駆動軸A−A’に沿って縮む方向に変形する。
【0050】
図16は、高分子リニアアクチュエータ700の変形の様子を示す。図16において、電圧印加前(変形前)の状態を破線、電圧印加後(変形後)の状態を実線でそれぞれ示す。高分子リニアアクチュエータ700は、駆動軸A−A’に沿って変形量dだけ縮む方向に変形する。また、印加電圧の極性を負電圧とすることで、高分子リニアアクチュエータ700は、伸びる方向に変形する。このように、高分子リニアアクチュエータ700は、駆動軸A−A’に沿った方向に変形するリニアアクチュエータとして動作する。ここで、高分子リニアアクチュエータ700は、支持点160aにおいて固定部材180に固定されている。このため、高分子リニアアクチュエータ700は、接続点161aで当接している可動部材190をリニア駆動することができる。
【0051】
また、駆動用可変電源760により、外壁電極730、731に対し内壁電極740へ負電圧もしくは正電圧を印加しても同様の効果を得ることができる。さらに好ましくは、効率的に高分子リニアアクチュエータ700を変形させるために、内壁部、または外壁部、またはこれら両方に形成された非電極形成領域が、内壁部の総面積、または外壁部の総面積の各々30%〜70%となるように設定することが望ましい。
【0052】
また、陽イオン及び水分子の移動量は、印加電圧に対応している。このため、駆動用可変電源760により印加電圧を制御することで、高分子リニアアクチュエータ700の変形量dを制御できる。
【0053】
印加電圧の制御方法としては、例えば、実施例1で説明したような、定電圧制御方法、定電流制御方法、PWM制御方法、オフセット交流制御等を用いることができる。なお、これらの方法に限られず、他の制御方法を用いることもできる。
【0054】
なお、イオン交換樹脂120に含水されている素材は、水に限るものではない。例えば、極性をもつ分子構造であれば、イオン流体等の液体でも良い。
【0055】
(第1の変形例)
図17は、本実施例の第1の変形例に係る高分子リニアアクチュエータ800を側面から見た断面形状の構成を示す。図17において、高分子リニアアクチュエータ800の形状が変化する方向、即ち駆動方向を駆動軸A−A’として示す。イオン交換樹脂120の断面形状は、駆動軸A−A’に関して線対称な中空円筒形状である。
【0056】
本変形例では、イオン交換樹脂120の外壁部に外壁電極830、831が形成されている。そして、外壁電極830の大きさと、外壁電極831の大きさとは異なっている。また、駆動軸A−A’に関して線対称な外壁部の位置に非電極形成領域880、881が形成されている。そして、内壁部の全周囲にわたって内壁電極840が形成されている。このような構成においても、実施例2と同様の原理により、高分子リニアアクチュエータ800は、駆動軸A−A’に沿った方向に変形する。このため、高分子リニアアクチュエータ800は、駆動軸A−A’に沿った方向に伸縮するリニアアクチュエータとして動作する。
【0057】
(第2の変形例)
図18は、本実施例の第2の変形例に係る高分子リニアアクチュエータ900を側面から見た断面形状の構成を示す。図18において、高分子リニアアクチュエータ900の形状が変化する方向、即ち駆動方向を駆動軸A−A’として示す。イオン交換樹脂120の断面形状は、駆動軸A−A’に関して線対称な中空円筒形状である。
【0058】
本変形例では、イオン交換樹脂120の外壁部の全周囲にわたって外壁電極930が形成されている。また、内壁部には内壁電極940、941が形成されている。さらに、駆動軸A−A’に関して線対称な内壁部の位置に非電極形成領域980、981が形成されている。このような構成においても、実施例2と同様の原理により、高分子リニアアクチュエータ900は、駆動軸A−A’に沿った方向に変形する。このため、高分子リニアアクチュエータ900は、駆動軸A−A’に沿った方向に伸縮するリニアアクチュエータとして動作する。
【0059】
なお、本発明に係る高分子リニアアクチュエータは、上記各実施例で説明した構成に限られるものではなく、これらの構成の組み合わせ、また、同様の効果を有する構成も含まれる。さらに、イオン交換樹脂120の断面形状の一部を他の領域の形状と異ならせて剛性に変化を持たせる構成と組み合わせても良い。これにより、イオンの移動による力と剛性による力とを用いてアクチュエータをリニアに駆動できる。このように、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な応用例をとることができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
以上のように、本発明に係る高分子リニアアクチュエータは、簡単な構成で、小型なリニアアクチュエータに適している。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の実施例1に係る高分子リニアアクチュエータの斜視構成を示す図である。
【図2】実施例1の高分子リニアアクチュエータの斜視構成を示す他の図である。
【図3】実施例1の高分子リニアアクチュエータを側面から見た断面形状を示す図である。
【図4】実施例1の高分子リニアアクチュエータの変形の様子を示す図である。
【図5】所望の駆動軸に沿ってリニアに変化しない高分子リニアアクチュエータを側面から見た断面形状を示す図である。
【図6】所望の駆動軸に沿ってリニアに変化しない高分子リニアアクチュエータを側面から見た断面形状を示す他の図である。
【図7】所望の駆動軸に沿ってリニアに変化しない高分子リニアアクチュエータを側面から見た断面形状を示すさらに他の図である。
【図8】実施例1の高分子リニアアクチュエータの製造方法を示す図である。
【図9】実施例1の第1の変形例の高分子リニアアクチュエータを側面から見た断面形状を示す図である。
【図10】実施例1の第2の変形例の高分子リニアアクチュエータを側面から見た断面形状を示す図である。
【図11】実施例1の第3の変形例の高分子リニアアクチュエータを側面から見た断面形状を示す図である。
【図12】実施例1の第4の変形例の高分子リニアアクチュエータを側面から見た断面形状を示す図である。
【図13】本発明の実施例2に係る高分子リニアアクチュエータの斜視構成を示す図である。
【図14】実施例2の高分子リニアアクチュエータの斜視構成を示す他の図である。
【図15】実施例2の高分子リニアアクチュエータを側面から見た断面形状を示す図である。
【図16】実施例2の高分子リニアアクチュエータの変形の様子を示す図である。
【図17】実施例2の第1の変形例の高分子リニアアクチュエータを側面から見た断面形状を示す図である。
【図18】実施例2の第2の変形例の高分子リニアアクチュエータを側面から見た断面形状を示す図である。
【符号の説明】
【0062】
100 高分子リニアアクチュエータ
120 イオン交換樹脂
130、131 132、133 外部電極
140 内壁電極
150 溝
160a、160b 支持点
161a、161b 接続点
162、163 駆動用可変電源
170 陽イオン
180 固定部材
190 可動部材
200 高分子リニアアクチュエータ
230、231、232、233 外壁電極
240 内壁電極
250 溝
300 高分子リニアアクチュエータ
330、331、332、333 外壁電極
340 内壁電極
350 溝
400 高分子リニアアクチュエータ
430 外壁電極
440、441、442、443 内壁電極
450 溝
500 高分子リニアアクチュエータ
530、531、532、533 外壁電極
540、541、542、543 内壁電極
550、551 溝
600 高分子リニアアクチュエータ
630、631、632、633 外壁電極
640 内壁電極
650 溝
700 高分子リニアアクチュエータ
730、731 外壁電極
740 内壁電極
760 駆動用可変電源
780、781 非電極形成領域
800 高分子リニアアクチュエータ
830、831 外壁電極
840 内壁電極
880、881 非電極形成領域
900 高分子リニアアクチュエータ
930 外壁電極
940、941 内壁電極
980、981 非電極形成領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含水状態または含イオン流体状態のイオン交換樹脂に対向電極を形成し、
前記対向電極に電圧を印加することで、
前記イオン交換樹脂の形状を変形させる高分子リニアアクチュエータであって、
前記イオン交換樹脂の断面形状は、前記高分子リニアアクチュエータが変形する方向に沿う駆動軸に関して線対称な中空円筒形状または中空多角柱形状であり、
前記イオン交換樹脂の内壁部及び外壁部にそれぞれ形成された電極を有し、
前記内壁部に形成された前記電極と前記外壁部に形成された前記電極との少なくともいずれか一方の前記電極は、前記駆動軸に関して線対称な位置において分割され、
前記内壁部と前記外壁部の少なくともいずれか一方において、前記中空円筒形状の周方向または前記中空多角柱形状の辺に沿った方向に電位の分布を持たせたことを特徴とする高分子リニアアクチュエータ。
【請求項2】
含水状態または含イオン流体状態のイオン交換樹脂に対向電極を形成し、
前記対向電極に電圧を印加することで、
前記イオン交換樹脂の形状を変形させる高分子リニアアクチュエータであって、
前記イオン交換樹脂の断面形状は、前記高分子リニアアクチュエータが変形する方向に沿う駆動軸に関して線対称な中空円筒形状または中空多角柱形状であり、
前記イオン交換樹脂の内壁部及び外壁部にそれぞれ形成された電極を有し、
前記内壁部と前記外壁部の少なくともいずれか一方において、前記駆動軸に関して線対称な位置に電極を形成しない非電極形成領域を設けたことを特徴とする高分子リニアアクチュエータ。
【請求項3】
前記駆動軸上に、
前記高分子リニアアクチュエータと固定部材とを接続する支持点と、
前記高分子リニアアクチュエータと可動部材とを接続する接続点と、を設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の高分子リニアアクチュエータ。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate


【公開番号】特開2006−295999(P2006−295999A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−109376(P2005−109376)
【出願日】平成17年4月6日(2005.4.6)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】